IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャンハイ インスティテュート オブ マテリア メディカ、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズの特許一覧 ▶ ランチョウ インスティテュート オブ ケミカル フィジックス,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシズの特許一覧

特表2024-522236イソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用
<>
  • 特表-イソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用 図1
  • 特表-イソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用 図2
  • 特表-イソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用 図3
  • 特表-イソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用 図4
  • 特表-イソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用 図5
  • 特表-イソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】イソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/14 20060101AFI20240604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 11/16 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 36/758 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C07D471/14 102
C07D471/14 CSP
A61P43/00 111
A61P9/00
A61P9/06
A61P3/10
A61P25/04
A61P25/24
A61P11/16
A61K36/758
A61K31/519
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577908
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 CN2022098816
(87)【国際公開番号】W WO2022262742
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】202110666488.1
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520442748
【氏名又は名称】シャンハイ インスティテュート オブ マテリア メディカ、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(71)【出願人】
【識別番号】523472342
【氏名又は名称】ランチョウ インスティテュート オブ ケミカル フィジックス,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ザオビン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジュンリ
(72)【発明者】
【氏名】メン,シャンフア
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユエミン
(72)【発明者】
【氏名】チャイ,ティアン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,イン
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086CB09
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA12
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZC35
4C086ZC41
4C088AB62
4C088BA10
4C088BA33
4C088CA08
4C088MA02
4C088NA14
4C088ZA08
4C088ZA36
4C088ZA59
4C088ZC35
4C088ZC41
(57)【要約】
本発明は、下記構造式で示される化合物から選ばれるイソキノアルカロイド化合物及びその製造方法及び応用を提供している。本発明は、このイソキノリンアルカロイド化合物が神経系、心血管系、膵臓中のIカリウム電流とバックグラウンドカリウム電流の阻害剤であることを初めて実証した。特に、Kv2.1チャンネルとTRSKチャンネルの阻害剤は、脳卒中、不整脈、心房細動、糖尿病、疼痛、呼吸抑制、抑うつなどの疾患の治療に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式で示される化合物から選ばれるイソキノリンのアルカロイド化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のイソキノリンアルカロイド化合物の製造方法であって、
(1)乾燥山椒を粉砕し、溶媒で浸出し、抽出液を濃縮して山椒濃縮抽出物を得る工程と;
(2)山椒濃縮抽出物を水に溶解し、石油エーテル、酢酸エチル、n-ブタノールでそれぞれ抽出し、石油エーテル相、酢酸エチル相、n-ブタノール相、水相を得る工程と;
(3)酢酸エチル相を、200~300メッシュのシリカゲルカラムに石油エーテル-アセトン混合液を溶離液として用いて勾配溶離し、石油エーテル:アセトン体積比がそれぞれ50:1、30:1、20:1、10:1、8:1、5:1、2:1、1:1で、順次に6つの留分のFr.1~Fr:6を得て、そのうち、Fr.4を逆相シリカゲルC18カラムに水-メタノール混合液を溶離液として勾配溶離を行い、水:メタノールの体積比が1:1、1:2、1:4の順で8つの留分Fr.4-1~Fr.4-8を得て;留分Fr.4-6をMegres C18カラムに水-メタノール混合液を溶離液として溶離し、そのうち体積分率90%のメタノール/水で溶離して化合物HJ-68を得て;体積分率80%のメタノール/水で溶離してそれぞれHJ-69とHJ-70を得る工程と、
を含む、製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法であって、
工程(1)において、前記溶媒が、水、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタンから選択される1種または2種以上の混合溶媒であり、好ましくは、体積分率70%のエタノール水溶液、エタノール、体積分率70%のメタノール水溶液、メタノール、アセトン、ジクロロメタン、またはこれらの組み合わせから選ばれるものであり、
工程(1)において、浸出が室温浸漬または加熱還流抽出であり、好ましくは、浸出が1回以上行い、さらに好ましくは、溶媒で室温に3回浸漬抽出し、毎回5~7日間で行い、または加熱還流抽出を3回行い、毎回1~2時間で行う、
製造方法。
【請求項4】
工程(3)において、化合物HJ-68の液相分離条件として、メタノール/水=90/10(v/v)が移動相で、流速が4mL/minであり;カラムの型番がMegres C18カラムで、カラムの長さ×直径が250mm×20mmである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(3)において、化合物HJ-69の液相分離条件として、メタノール/水=80/20(v/v)が移動相で、流速が4mL/minであり;カラムの型番がMegres C18カラムで、カラムの長さ×直径が250mm×20mmである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(3)において、化合物HJ-70の液相分離条件として、メタノール/水=80/20(v/v)が移動相で、流速が4mL/minであり;カラムの型番がMegres C18カラムで、カラムの長さ×直径が250mm×20mmである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
遅延整流カリウム電流(I)、特にKv2.1チャンネルの拮抗薬の製造における請求項1に記載のイソキノリン化合物の使用。
【請求項8】
K2P二孔カリウムチャンネル、特にTRSKチャンネルの拮抗薬の製造における請求項1に記載のイソキノリン化合物の使用。
【請求項9】
脳卒中、不整脈、糖尿病、疼痛、心房細動、呼吸抑制および/または抑うつ疾患の治療薬の製造における請求項1に記載のイソキノリンアルカロイド化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の有効成分の分離分野と医薬保健分野に属し、詳しくは、山椒の有効成分とその分離と使用に関し、特にイソキノリンアルカロイド化合物とその製造方法と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカロイドは、山椒属植物の主要な活性物質であり、鎮痛、抗炎症活性を有し、独特のピリピリ感をもたらす特徴成分と考えられている。これらのアルカロイドは、その母核によって、キノリン誘導体系、イソキノリン誘導体系、ベンゾフェナントリジン誘導体系、キノロン誘導体系の4種類に分類され、そのうちイソキノリンアルカロイドは、その有意な薬理活性によって特徴的な成分となる。
【0003】
電圧制御カリウムイオンチャンネル(Voltage-gated potassium channels,Kv)は、現在、12のサブファミリーである、Kv1.x~Kv12.x、約80のファミリーメンバーを発見した。このうち、Kv5、Kv6、Kv8、Kv9サブファミリーのメンバーは単独で機能的な通路を形成することができず、サイレントサブユニト(Silent Kv subunits,KvS)と呼ばれる。KvSチャンネルは、Kv2.1チャンネルと機能的なヘテロマーチャンネルを形成し、Kv2.1チャンネルの電流幅、活性化と不活性化電圧、動力学的特徴などを調節することができる。現在の研究によると、Kv2.1チャンネルは、背根神経節(Dorsal ganglion neuron、DRG)、三叉神経節(Trigeminal ganglion neuron、TRG)、膵島、海馬、心血管系などの初代組織と細胞中の遅延整流カリウム電流(Delayed inward rectifier potassium currents,I))を介する主要な分子基礎である考えられ、例えば培養した小径DRGニューロンでは、Kv2.1とKv2.1/KvSチャンネルが約60%を占めている。一方、Kv1.xとKv3.xは、約40%を占めている(Bocksteins, E.et al.Am J Physiol Cell Physiol.296(6): C1271-8, 2009)。
【0004】
カリウム電流とその主要な分子基礎であるKv2.1チャンネルは、人体の正常な生理機能と疾病状態において重要な機能を発揮する。中枢Zn2+で誘導される脳卒中後の神経死亡促進経路の中で、ニューロン膜表面のKv2.1の過発現はK+外排出を引き起こし、ニューロンの死亡を悪化させ、Kv2.1の抑制が神経保護と脳卒中治療の効果を発揮できる(Int J Mol Sci. 21(17):6107, 2020)。循環器系では、I電流が心筋の活動電位の再分極を媒介し、心拍数と血圧の調節に関与する(Madeja, M. et al. J Biol Chem. 285(44): 33898-905, 2010)。膵島では、上昇した血糖値は、膵島β細胞膜電位の脱分極を刺激し、活性化されたKv2.1チャンネルの過分極膜電位は神経興奮性を低下させ、インスリンの分泌を減少させる。Kv2.1を抑制することで膵島β細胞の活動電位の時間と幅を増加させ、さらにインスリン分泌を増加させ、血糖値を下げることができる(Jacobson, D. A. et al. Cell Metab. 6(3):229-35, 2007)。IB4陰性の小径DRGニューロンは主にI電流であり、この電流は安静膜電位を過分極し、後過分極電位(After hyperpolarization potential, AHP)の幅と時間を増大させ、放電閾値を上昇させ、動作電位時間を延長する(Vydyanathan, A. et al. J Neurophysiol. 93(6): 3401-9, 2005)。海馬ニューロンと三叉神経節ニューロンの連続刺激放電中では、Kv2.1の神経興奮に対する調節作用は刺激スケジュールに依存し、Kv2.1チャンネルを抑制して前半の発行頻度を高め、後半の発行頻度を抑制する(Liu PW et al. J Neurosci. 34(14): 4991-5002, 2014)。したがって、Kv2.1またはI電流を抑制することは、カプサイシン誘導のような神経興奮性脱感作効果を誘発し、鎮痛効果を発揮する(Arora, V. et al. Pharmacol Ther. 220:107743, 2021)。これらに基づいて、I電流またはKv2.1チャンネルを抑制することにより、脳卒中、不整脉、糖尿病、疼痛などの疾患を緩和または治療することができる。
【0005】
二穴カリウムチャンネル(two-pore domain potassium channels、K2P)は、背景カリウムイオンのリーク電流を介し、細胞の安静膜電位の維持に重要な役割を果たし、調経動作電位の形成と放出を行う。現在、哺乳動物には15個のK2Pチャンネルがクローン化され、TWI、TREK、TASK、TALK、THI、TRESKという6つのサブファミリーに分けられている。山椒から分離したα-ヒドロキシサンショオールは、それぞれ二孔カリウムチャンネルDRGとTRGニューロン中のTRSK(KCNK18)とTASK1/TASK3(KCNK3/KCNK9)チャンネルを抑制し、小径と大径のニューロンの発行を促進し、しびれ感を生じる(Bautista DM, et al. Nat Neurosci. 11(7): 772-9, 2008)。また、TRSKとTASK1/TASK3チャンネルの拮抗薬は、心房細動、呼吸抑制と抑うつを治療する作用があると考えられる(Mathie, A. et al., Annu Rev Pharmacol Toxicol. 61: 401-420, 2021)。
【0006】
山椒からはイソキノリン誘導体などを含む多くの活性成分が分離されているが、これらの活性成分の作用機序は一般的には不明である。この分野では、構造が斬新で、メカニズムがはっきりしており、応用疾患タイプが具体的な活性分子も必要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、初めて山椒から抽出した3つの文献に報告されていないイソキノアルカロイド化合物を発見し、公開した。深く研究した結果、このイソキノリンアルカロイド化合物は、神経系、心血管系、膵臓中のIカリウム電流の阻害剤であり、特にKv2.1チャンネルの阻害剤であることが初めて実証された。また、このイソキノリンアルカロイド化合物は、TRSKカリウムチャネルに対しても抑制作用があり、すでに報告されているα-ヒドロキシサンショオールよりも活性が強い。このことから、本発明は典型的な炎症性疼痛動物モデルを用いて、このイソキノリン誘導体は鎮痛の体内活性を有することを実証した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、イソキノリンのアルカロイド化合物を提供することである。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、上記イソキノリンアルカロイド化合物の製造方法を提供することである。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、上記イソキノリンアルカロイド化合物の用途を提供することである。
【0011】
一態様では、本発明は、下記構造式で示される化合物から選ばれるイソキノリンアルカロイド化合物を提供している。
【化1】
【0012】
別の態様では、本発明は、上記イソキノリンアルカロイド化合物の製造方法であって、
【0013】
(1)乾燥山椒を粉砕し、溶媒で浸出し、抽出液を濃縮して山椒濃縮抽出物を得る工程と;
【0014】
(2)山椒濃縮抽出物を水に溶解し、石油エーテル、酢酸エチル、n-ブタノールでそれぞれ抽出し、石油エーテル相、酢酸エチル相、n-ブタノール相、水相を得る工程と;
【0015】
(3)酢酸エチル相を、200~300メッシュのシリカゲルカラムに石油エーテル-アセトン混合液を溶離液として用いて勾配溶離し、石油エーテル:アセトン体積比がそれぞれ50:1、30:1、20:1、10:1、8:1、5:1、2:1、1:1で、順次に6つの留分のFr.1~Fr:6を得て、そのうち、Fr.4を逆相シリカゲルC18カラムに水-メタノール混合液を溶離液として勾配溶離を行い、水:メタノールの体積比が1:1、1:2、1:4の順で8つの留分Fr.4-1~Fr.4-8を得て;留分Fr.4-6をMegres C18カラムに水-メタノール混合液を溶離液として溶離し、そのうち体積分率90%のメタノール/水で溶離して化合物HJ-68を得て;体積分率80%のメタノール/水で溶離してそれぞれHJ-69とHJ-70を得る工程と、
を含む、製造方法を提供している。
【0016】
上記工程(3)において、例えば、6つの留分Fr.1~Fr.6は、溶離液を500mLビーカーで受け取り、一連の溶離液を順次得て、ビーカーあたり500mL溶液を蒸発させ、蒸発後サンプルボトルに移し;酢酸エチル相の溶離が終了すると、薄層クロマトグラフィでプレートをスポットし、同じ成分のサンプルを同じ留分に合併することにより、順次に前記6つの留分Fr.1~Fr.6を得ることにより製造される。しかしながら、本発明はこれらに限定しない。
【0017】
上記工程(3)において、例えば、8つの留分Fr.4-1~Fr.4-8は、溶離液を50mLの目盛り付き試験管で受け取り、一連の溶離液を順次得て、試験管あたり50mLの溶液を蒸発させ、蒸発後サンプルボトルに移し;溶離が終了すると、逆相高速薄層クロマトグラフィープレートでプレートをスポットし、同じ成分のサンプルを同じ留分に合併することにより、順次に前記8つの留分Fr.4-1~Fr.4-8を得ることにより製造される。しかしながら、本発明はこれらに限定しない。
【0018】
山椒から分離して得られた3つの化合物HJ-68、HJ-69、HJ-70はすべてイソキノアルカロイドであり、その構造式は以下の通りである。
【化2】
【0019】
本発明の製造方法の工程(1)において、前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタンから選択される1種または2種以上の混合溶媒であってもよく、そして、その実例は、アルコール類を含むがこれに限定されるものではなく、例えば、70%エタノール水溶液、エタノール、70%メタノール水溶液、メタノール、アセトン、ジクロロメタン、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
本発明の製造方法の工程(1)において、浸出は室温浸漬でも加熱還流抽出でもよい。浸出は1回以上行うことができる。溶媒で室温に3回浸漬抽出し、毎回5~7日間行い、または加熱還流抽出を3回行い、毎回1~2時間で行うことが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法の工程(3)において、好ましくは、化合物HJ-68の液相分離条件として、メタノール/水=90/10(v/v)が移動相で、流速が4mL/minであり;カラムの型番がMegres C18カラムで、カラムの長さ×直径が250mm×20mmである。
【0022】
本発明の製造方法の工程(3)において、好ましくは、化合物HJ-69の液相分離条件として、メタノール/水=80/20(v/v)が移動相で、流速が4mL/minであり;カラムの型番がMegres C18カラムで、カラムの長さ×直径が250mm×20mmである。
【0023】
本発明の製造方法の工程(3)において、好ましくは、化合物HJ-70の液相分離条件として、メタノール/水=80/20(v/v)が移動相で、流速が4mL/minであり;カラムの型番がMegres C18カラムで、カラムの長さ×直径が250mm×20mmである。
【0024】
本発明は、上記イソキノリンアルカロイド化合物がDRGニューロンの遅延整流カリウム電流(I)を選択的に抑制し、DRGニューロンのナトリウム電流、瞬時外向カリウム電流)I)に有意な作用がないことを初めて明らかにした。
【0025】
本発明は、さらに、上記イソキノリンアルカロイド化合物がI電流の主要な分子基礎であるKv2.1カリウムチャネルの拮抗薬として、I電流と同等の阻害活性を有することを実証した。
【0026】
従って、さらに別の態様では、本発明は、遅延整流カリウム電流(I)、特にKv2.1チャンネルの拮抗薬の製造における上記イソキノリン化合物の使用を提供する。
【0027】
具体的には、本発明は、I電流、特にKv2.1チャンネルの拮抗薬とする上記イソキノアルカロイド化合物の使用を提供しているので、上記イソキノアルカロイド化合物は、例えば、脳卒中、不整脈、糖尿病、痛みなどの疾患、特に痛みを緩和または治療するための薬物として有用である。
【0028】
また、本発明では、K2P二孔カリウムチャネル、特にTRSKチャネルの拮抗薬として、上記イソキノアルカロイド化合物が初めて開示されており、本発明により、上記イソキノアルカロイド化合物のK2Pチャネルに対する阻害活性は、報告されているα-ヒドロキシサンショオールよりも強いことが確認された。
【0029】
従って、さらに別の態様では、本発明は、K2P二孔カリウムチャンネル、特にTRSKチャンネルの拮抗薬の製造における上記イソキノリン化合物の使用を提供している。
【0030】
具体的には、本発明は、K2P二孔カリウムチャンネル、特にTRSKチャンネルの拮抗薬とする上記イソキノアルカロイド化合物の使用を提供しているので、上記イソキノアルカロイド化合物は、例えば、心房細動、呼吸抑制および/または抑うつなどの疾患を緩和または治療するための薬物として有用である。
【0031】
したがって、また別の態様では、本発明は、脳卒中、不整脈、糖尿病、疼痛、心房細動、呼吸抑制および/または抑うつ疾患の治療薬の製造における上記イソキノリン化合物の使用を提供している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】HJ-70が海馬ニューロンの自発放電とDRG誘発放電の頻度に対する影響を示す。ここで、Aは10uM HJ-70が海馬ニューロンの自発放電頻度に対する影響である。Bは10uM HJ-70が海馬ニューロンの自発放電頻度に対する効果統計図である。Cは10uM HJ-70がDRGニューロンの誘発放電頻度に対する影響である。Dは10uM HJ-70によるDRGニューロン誘発放電頻度に対する効果統計図である。***P≦0.001。
【0033】
図2】HJ-70がDRGニューロン上のカリウムイオンチャンネル電流に対する影響を示す。ここで、Aは対照外液がDRGニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する影響である。Bは3uM HJ-70がDRGニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する影響である。Cは10uM HJ-70がDRGニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する影響である。DはDRGニューロンのカリウムイオンチャンネルに薬効を溶離させた結果図である。Eは3uM HJ-70によるDRGニューロンのカリウムイオンチャンネル抑制の統計図である。Fは10uM HJ-70によるDRGニューロンのカリウムイオンチャンネルを抑制する統計図である。GはDRGニューロンのカリウムイオンチャンネルに薬効を溶離させた結果の統計図である。**はP≦0.01を表し、***はP≦0.001を表す。
【0034】
図3】HJ-70が海馬ニューロン上のカリウムイオンチャンネル電流に対する影響を示す。ここで、Aは1uM HJ-70が海馬ニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する影響である。Bは3uM HJ-70が海馬ニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する影響である。Cは10uM HJ-70が海馬ニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する影響である。Dは陽性薬である5mM TEAが海馬ニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する影響である。Eは1uM HJ-70が海馬ニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する効果統計図である。Fは3uM HJ-70が海馬ニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する効果統計図である。Gは10uM HJ-70が海馬ニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する効果統計図である。Hは陽性薬である5mM TEAが海馬ニューロン中のカリウムイオンチャンネルに対する効果統計図である。nsは統計学的差異がないことを表し、**はP≦0.01を表し、***はP≦0.001を表す。
【0035】
図4】-90mVで膜電位クランプしてHJ-70が海馬ニューロン上のナトリウムイオンチャンネル電流に対する影響を示す。ここで、Aは10uM HJ-70が海馬ニューロン中のナトリウムイオンチャンネルに対する影響である。Bは10uM HJ-70が海馬ニューロン中のナトリウムイオンチャンネル抑制に対する効果統計図である。***はP≦0.001を示す。
【0036】
図5】HJ-70がCHO細胞の瞬時発現電圧ゲート制御カリウムイオンチャンネルに対する影響を示す。ここで、Aは10uM HJ-70がKv2.1イオンチャンネルに対する電流影響図である。Bは10uM HJ-70がKv2.1イオンチャンネルに対する効果統計図である。Cは10uM HJ-70がTRSKイオンチャンネルに対する電流影響図である。Dは10uM HJ-70がTRSKイオンチャンネルに対する効果統計図である。***はP≦0.001を示す。
【0037】
図6】HJ-70がホルマリン誘導による炎症性疼痛行動依存性低下に対する影響を示す図である。ここで、Aは100mg/kg HJ-70のホルマリンの疼痛行動に対する緩和作用である。Bは50mg/kg HJ-70のホルマリンモデルの疼痛行動に対する緩和作用である。Cは30mg/kg HJ-70のホルマリンモデルの疼痛行動に対する緩和作用である。DはHJ-70によるホルマリンモデル第一相(0-10min)炎症性疼痛舐め足時間と疼痛行動学スコアの統計図である。EはHJ-70によるホルマリンモデル第二相(10-60min)炎症性疼痛舐め足時間と疼痛行動学スコアの統計図である。はP≦0.05を表し、**はP≦0.01を表し、***はP≦0.001を表す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の本質と効果を実施例に基づいてさらに説明するが、この実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0039】
実施例
【0040】
以下の実施例で使用する実験方法は、特に断りのない限り、通常の方法である。
【0041】
下記の実施例で使用する材料、試薬などは、特に断りのない限り、商業的なルートから入手することができる。
【0042】
抽出サンプル:山椒。
【0043】
浸出、抽出溶媒及び精製化合物を分離する溶媒:エタノール、水、石油エーテル、酢酸エチル、n-ブタノール。
【0044】
機器:抽出タンク(自作)、東京理化20Lロータリーエバポレーター(東京理化、日本)、R-210ロータリーエバポレーター(BUCHI社、スイス)、最大流速10mLの分析高速液体クロマトグラフ(江蘇漢邦科技有限会社)、Bruker Avance III-400核磁気共鳴装置(Bruker社、ドイツ)、Bruker microTOF-Q II高分解能質量分析装置(Bruker社、ドイツ)、IFS120HR 670 FT-IR赤外分光装置(Bruker社、ドイツ)、Lambda 35紫外可視分光光度計(Perkin Elmer社、米国)。
【0045】
実施例1:山椒の活性成分の抽出方法
【0046】
1.1 乾燥山椒を粉砕し、その質量の10倍量の70%エタノールで室温に3回浸漬抽出し、毎回5-7日間で、抽出液を合併してアルコールの味がしないまで濃縮し、山椒濃縮抽出物を得た。
【0047】
山椒濃縮抽出物を水に溶解し、石油エーテル、酢酸エチル、n-ブタノールでそれぞれ抽出し、石油エーテル相、酢酸エチル相、n-ブタノール相、水相を得た。
【0048】
酢酸エチル相を、200~300メッシュのシリカゲルカラムに石油エーテル-アセトン混合液を溶離液として用いて勾配溶離し(混合液中の石油エーテル:アセトン体積比がそれぞれ50:1、30:1、20:1、10:1、8:1、5:1、2:1、1:1)、溶離液を500mLビーカーで受け取り、ビーカーあたり500mL溶液を蒸発させ、蒸発後サンプルボトルに移した。酢酸エチル相の溶離が終了した後、薄層クロマトグラフィでプレートをスポットし、同じ成分のサンプルを同じ留分に合併することにより、合計6つの留分Fr.1~Fr.6を得た。
【0049】
そのうち、Fr.4を逆相シリカゲルC18カラムに水-メタノール混合液を溶離液として勾配溶離を行い、水:メタノールの体積比がそれぞれ1:1、1:2、1:4であり、最後にメタノールでカラムを流し、溶離液を50mLの目盛り付き試験管で受け取り、試験管あたり50mLの溶液を蒸発させ、蒸発後サンプルボトルに移した。溶離が終了した後、逆相高速薄層クロマトグラフィープレートでプレートをスポットし、同じ成分のサンプルを同じ留分に合併することにより、合計8つの留分Fr.4-1~Fr.4-8を得た。
【0050】
留分Fr.4-6は最大流速10mL/minの分析液相、型番はMegres C18の10mm×250mmカラム、移動相流速4mL/minで分離し、化合物HJ-68(移動相は体積分率90%のメタノール/水、ピークアウト時間5.4min);HJ-69(移動相は体積分率80%のメタノール/水で、ピークアウト時間は10.1min);HJ-70(移動相は体積分率80%のメタノール/水で、ピークアウト時間は12.0min)を得た。
【0051】
化合物N-13-イソブチルルテカルピン(HJ-68)の実験データは以下の通りである。黄色針状結晶;赤外スペクトルIR(フィルム)νmax 2926, 255 2858, 1728, 1669, 1637, 1587, 1465, 1292, 1130 cm-1;紫外スペクトルUV(CHOH) λmax (log ε) 216 (3.06), 234 (2.99), 329 (2.99), 345 (3.05), 362 (2.95) nm;プロトン磁気共鳴Hと炭素磁気共鳴13C NMRが、表1に示し;高分解能質量分析HRESIMS m/z 344.1764 [M + H] (C2222Oに対する計算値, 344.1757)。
【0052】
化合物N-13-メチルプロピルエーテルルテカルピン(HJ-69)の実験データは以下の通りである。黄色針状結晶;赤外スペクトルIR(フィルム)νmax 2924, 2872, 1662, 1585, 1534, 1465, 1332, 1203, 1114 cm-1;紫外スペクトルUV(CHOH) λmax (log ε) 215 (3.34), 235 (3.28), 328 (3.28), 344 (3.44), 362 (3.24) nm;プロトン磁気共鳴Hと炭素磁気共鳴13C NMRが、表1に示し;高分解能質量分析HRESIMS m/z 382.1530 [M + Na] (C2221Naに対する計算値, 382.1526)。
【0053】
化合物N-13-n-プロパノールルテカルピン(HJ-70)の実験データは以下の通りである。黄色針状結晶;赤外スペクトルIR(フィルム)νmax 3430, 2925, 2857, 1729, 1665, 1586, 1466, 1291, 1048 cm-1;紫外スペクトルUV(CHOH) λmax (log ε) 216 (3.33), 235 (3.26), 329 (3.24), 344 (3.29), 361 (3.18) nm;プロトン磁気共鳴Hと炭素磁気共鳴13C NMRが、表1に示し;高分解能質量分析HRESIMS m/z 346.1542 [M + H] (C2120に対する計算値, 346.1550)。

【表1】
【0054】
実施例2:HJ-70が背根神経節の動作電位及びカリウムイオンに対する影響
【0055】
2.1 背根神経節の分離と培養:4-6週齢のC57BL/6マウス(上海スレイク実験動物有限責任会社)を採取し、背根神経節ニューロン細胞の急性分離を行った。まず、首を切断して処刑し、表面の皮膚を75%アルコールで消毒処理し、首の皮膚切開口から臀部まで切り、首から腰までの脊柱を切り、余分な筋肉と血塊を取り除き、予冷されたリン酸塩緩衝液PBS(Hyclone社)に入れ、脊柱を正中線に沿って縦に切り、眼科ピンセットで真ん中の白い脊髄と血塊を取り除き、椎間孔を露出させ、その中の背根神経結節を微細ピンセットで取り出し、その中、腰の大きな結節に対して繊維連結を剥離した。その後、神経節を顕微解剖で切り取って、コラゲナーゼ1ml(1mg/mL)とトリプシン(0.25mg/mL)(Sigma-Aldrich社)の混合液に加入して15min消化を行い、その後、胎牛血清10%を含むDMEM/F12培地(Gibco社)を加えて消化停止及び希釈を行い、、繰り返し細胞を吹き飛ばし、70uMの細胞フィルターで大組織塊を濾し、残りの液体をあらかじめポリリシン(Sigma-Aldrich社)でコーティングされたガラス板に接種し、5%CO、37℃インキュベーターで培養した。
【0056】
2.2 背根ニューロンの動作電位とカリウム電流の記録:デジタル・アナログ変換器Digidata 1440A Axon CNSとパッチクランプ増幅器axonpatch700b(Molecular Devices社)で全細胞パッチクランプ記録を行い、Sutter-P1000電極製造装置(Sutter社)により手動パッチクランプ実験で使用した硼珪酸ガラス電極を製造し、電極用輸液抵抗は3MΩ程度で、灌流速度は約2mL/minであった。動作電位記録案は、細胞を0pAにクランプし、注射強度を200pA、時間500msの電流刺激で動作電位誘発放電記録を行った。ニューロンのカリウム電流電気生理実験記録:細胞を-50mVの電圧にクランプし、-110mV、600msに超分極した後、直接40mVに脱分極して全細胞のカリウム電流(ITotal)を記録し;先に-50mVまで脱分極し、50msを維持し、次に40mVまで脱分極すると、遅延整流カリウム電流(I)を記録した。10uM HJ-70の灌流投与で薬効を検出し、陽性対照として5mM TEAを投与した。
【表2】
【表3】
【0057】
2.3 海馬ニューロンの急性分離:予めプロテァーゼ(type XXIII、Sigma)9mgを取り、牛血清アルブミン(BSA、上海生工)及びトリプシン阻害剤(Sigma-Aldrich社)のそれぞれを各5mg取り、分解液でそれぞれ3mg/mLと5mg/mLの酵素と終止液を調製し、32 ℃の水浴中で酸素を通した。SDラットの1-7日間新生マウス2匹(上海スレイク実験動物有限責任会社)を取り、断頭後、皮質、頭蓋骨を切断し、完全な脳を取り出し、脳の中心線で二つに分け、海馬は大脳側頭葉に位置し、側頭葉皮質をかき分け、海馬回を露出させ、剥離を行った。その後、海馬組織を分解液で少し湿らせ、ブレードで横に薄くスライスし、スライスを消化液に移して8min消化した後、消化液を捨てて、終止液を入れて酸素を通し1-2時間放置した。海馬の形をとった3-4個の切片を分解液に入れて吹きさらして懸濁液にし、少し大きな組織を沈殿させ、懸濁液を調製した皿に滴下し、数分間静置した後、細胞外液で分解液の半分を交換し、速やかな投与によりニューロン上のカリウム、ナトリウムチャンネルのパッチクランプ実験を行った。
【0058】
2.4 海馬ニューロンの初代培養:PBSで同じ濃度の酵素と終止液を調製し、90% DMEM/F12+10% FBSの培地、ニューロン培養液(2%B-27+1%ペニシリンとストレプトマイシンの混合液+0.5mM 1%GlutaMAXのNeurobasal-A)、酵素と終止液(いずれもGibco社から購入)を予め加熱した。20 ug/mLのポリリシンで予め24ウェルプレートにカバーガラスをコーティングした。すべての操作はバイオセーフティキャビネットで行われた。SDラットの1-3日間新生マウス3匹を取り、上記の方法で海馬を取り出し、これを顕微解剖カッターで切断し、酵素に入れて8min消化し、2-3minごとに軽く振って消化を均一にした後、酵素液を吸い出し、終止液を加えて終止し、懸濁液になるまで優しく吹きかけ、70uMフィルターで濾過し、濾液を1100rpm、5minで遠心分離した。上澄み液を捨て、培地5mLを加えて再懸濁し、細胞計数器で計数し、その終濃度を10個/mLに調整した。二酸化炭素インキュベーターに入れて培養し、6時間後にニューロン培養液で全液交換を行い、その後3日間ごとに培地を半分交換した。培養14後、灌流投与によりニューロンの自発放電の電気生理記録を行った。
【表4】
【表5】
【0059】
2.5 実験結果の分析:Clampfit 10.2でデータを処理し、それをExcel表にインポートして統計を行い、その後GraphPad Prim5ソフトウェアでデータを整理し、有意な差異分析を行った。瞬時外向きカリウム電流は、全細胞カリウム電流から遅延整流カリウム電流を差し引いて得られた。すべての電気生理実験データは、平均値±標準誤差(mean±S.E.M.)で表され、データに対する有意な差異の比較はペアt検定(Student’s paired)を採用し、P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001で両グループ間に有意性があり、統計学的意義があることを表した。
【0060】
その結果、10uM HJ-70は培養した海馬ニューロンの自発放電を有意に抑制できることが分かった(図1AとB)。また、10uM HJ-70は背根ニューロン(DRG)の動作電位が放電を誘発する頻度を有意に抑制することができた(図CとD)。そのため、HJ-70は中枢と末梢ニューロンの興奮性を抑制することができる。
【0061】
ナトリウム電流とカリウム電流はニューロンの放電を介する典型的な分子基礎であり、HJ-70がニューロンの電気的興奮性を抑制することを考慮して、発明者はさらにHJ-70がDRGと海馬ニューロン中のカリウム電流とナトリウム電流に対する影響を検出した。図2Bと2Cに示すように、HJ-70はDRG中のI電流を用量依存的に抑制することができたが、I電流に有意な影響はなかった。注目すべくのは、HJ-70によるI電流の抑制作用が完全に溶離することができ、HJ-70によるI電流の可逆的抑制を示した。HJ-70による末梢神経系のDRGニューロン活性抑制も可逆的であり、用量依存的に海馬ニューロンI電流を抑制し、I電流には影響しなかった(図3)。
【0062】
さらにHJ-70が海馬ニューロン中のナトリウム電流に対する影響を検出したところ、10uMのHJ-70は海馬ニューロン中のナトリウム電流には影響がなく(図3A)、1uMのナトリウムチャンネル選択性阻害剤はナトリウム電流を完全に抑制できることがわかった(図3B)。
【0063】
上記をまとめて、HJ-70用量依存性はニューロン中のI電流を抑制し、Iカリウム電流とナトリウム電流に影響を与えず、海馬ニューロンとDRGニューロンの電気的興奮性を低下させた。
【0064】
実施例3:HJ-70のKv2.1とTRSKチャンネルの電流への抑制
【0065】
3.1 細胞電気生理実験:まず、TRSKプラスミド(ジョンズ・ホプキンス大学利民教授恵贈)とKv2.1プラスミド(ジョンズ・ホプキンス大学利民教授恵贈)をそれぞれ緑色蛍光タンパク質EGFPプラスミド(上海薬物研究所李佳研究員恵贈)と9:1の割合でCHO-K1細胞(ATCC社)に共同でトランスフェクションし、蛍光顕微鏡下で緑色蛍光のある細胞を選んで実験を行い、細胞を-70mVにクランプし、まず-130mVに超分極し、20mVまでのramp脱分極刺激を与え、100msを維持した後、0mVに超分極してカリウムチャンネル電流を記録した。10uM HJ-70を灌流投与し、その薬効を検出した。
【0066】
3.2 実験結果の分析:現在の研究により、Kv2.1チャンネルはI電流を介する主要な分子基礎であることが明らかになった(詳しくは背景紹介部分を参照)。HJ-70の用量依存性によるI電流の抑制に鑑み、発明者はKv2.1電流への影響をさらに検出した。図5A図5Bに示すように、10uM HJ-70はKv2.1チャンネルを介した電流を完全に抑制し、この結果はニューロン内の活性と一致した。また、山椒中のもう一つの有効成分であるα-ヒドロキシサンショオールはニューロン中のTRESKとTASK1/TASK3チャンネルを抑制し、半数有効用量は約50uMである。そこで、HJ-70がTRESKチャネルに対する影響を評価したところ、10uMのHJ-70はTRSKチャネル電流をほぼ完全に抑制していることが分かり(図5CとD)、これにより、HJ-70はα-ヒドロキシサンショオールよりもTRESKに対する阻害活性が強いことが示唆された。以上の結果から、HJ-70はKv2.1とTRESKカリウムチャンネルの阻害剤であることが分かった。
【0067】
実施例4:HJ-70のホルムアルデヒドによる炎症性疼痛に対する顕著な緩和
【0068】
4.1 疼痛モデル実験:10%ホルムアルデヒド溶液を10倍に希釈して1%ホルムアルデヒド溶液を調製し、5% DMSO、5% Tween-80及び90%生理食塩水(0.9%NaCl溶液)で100mg/kg、30mg/kgのHJ-70化合物を調製した。実験前30minはマウス1匹につき0.2mL/10gの投与量で投与を行い、その後、微量注入針の足底から20μLの1%ホルムアルデヒド溶液を注射することでホルマリンモデルを作成し、それぞれ60min以内に後爪舐め、後爪振り、爪の持ち上げ回数と、爪舐め、長時間持ち上げた爪の時間を記録した。爪舐めが3点、爪振りが2点、爪上げが1点とし、疼痛行動学的スコアと時間を集計してHJ-70鎮痛活性を判断した。
【0069】
4.2 実験結果の分析:電気生理データ処理と同じようにデータの整理と統計を行い、その後、GraphPad Prism5ソフトウェアで一要素分散(One-Way ANOVA)で分析したところ、*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001は両グループ間に有意差があり、統計学的意義があることを示した
【0070】
発明者は、Iカリウム電流とバックグラウンドカリウム電流、特に脳卒中、不整脈、糖尿病、疼痛、心房細動、呼吸抑制および/または抑うつ疾患におけるKv2.1とTRESKチャンネルの重要な役割(詳しくは背景紹介部分を参照)を考慮し、HJ-70の疼痛に対する作用を評価した。ホルマリン誘導マウス疼痛モデルは典型的な炎症性疼痛動物モデルであり、鎮痛薬の発見と研究に広く用いられている。体外実験の結果と一致して、発明者はHJ-70を腹腔内投与することで、用量依存的にマウスの足底にホルマリン注射で誘導される疼痛行動反応を緩和することを発見した(図5D、E)。この結果は、HJ-70が明確な体内活性を有することを示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】