(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-13
(54)【発明の名称】液滴吐出装置のための方法、装置、およびコントローラー
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
B41J2/015 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572154
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 GB2021051381
(87)【国際公開番号】W WO2022254171
(87)【国際公開日】2022-12-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521442590
【氏名又は名称】ザール テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】マスッチ マリオ
(72)【発明者】
【氏名】コックス アンドリュー
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG14
2C057AG45
2C057AM22
2C057AR08
(57)【要約】
液滴吐出装置のための駆動波形を提供するための方法が提供され、方法は、公称最大振幅Vmax(公称)を有し、および公称液滴速度vel(公称)を達成するための液滴吐出パルスを含み、ならびに液滴吐出パルスの前に公称非吐出パルスをさらに含む、公称駆動波形を受信する工程であって、非吐出パルスは液滴吐出パルスから第一の遅延d1だけ離間している、受信する工程と、目標液滴速度vel(目標)および/または液滴吐出パルスの目標最大振幅Vmax(目標)を受信する工程と、vel(目標)およびVmax(目標)のうちの少なくとも一つを達成するために、受信したvel(目標)および/またはVmax(目標)に基づいて、一つまたは複数の波形パラメーターを調整して、調整された駆動波形を提供する工程と、調整された駆動波形を出力する工程と、を含む。また液滴吐出装置を動作させるための方法が提供され、液滴吐出装置は、液滴吐出装置のアクチュエーター素子であって、アクチュエーター素子が部分的に圧力チャンバーとの境界を形成し、圧力チャンバーがノズルと流体連通し、アクチュエーター素子が液滴をノズルから吐出させるために変形するように配置される、アクチュエーター素子を備え、方法は、調整された駆動波形をアクチュエーター素子に提供することを含み、調整された駆動波形が、液滴吐出パルスと、液滴吐出パルスの前に配置される非吐出パルスとを含み、第一の遅延および/または非吐出パルスの持続時間は、非吐出パルスが液滴を吐出させる圧力より低いプライミング圧力をチャンバー内に生じさせ、液滴吐出パルスが、液滴吐出パルスがチャンバー内のプライミング圧力を液滴吐出圧力までさらに増加させた後、液滴を吐出させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出装置のための駆動波形を提供するための方法であって、前記方法は、
公称最大振幅Vmax(公称)を有し、および公称液滴速度vel(公称)を達成するための液滴吐出パルスを含み、ならびに前記液滴吐出パルスの前に公称非吐出パルスをさらに含む、公称駆動波形を受信する工程であって、前記非吐出パルスが前記液滴吐出パルスから第一の遅延d1だけ離間している、受信する工程と、
目標液滴速度vel(目標)および/または前記液滴吐出パルスの目標最大振幅Vmax(目標)を受信する工程と、
vel(目標)およびVmax(目標)のうちの少なくとも一つを達成するために、前記受信したvel(目標)および/またはVmax(目標)に基づいて、一つまたは複数の波形パラメーターを調整して、調整された駆動波形を提供する工程と、
前記調整された駆動波形を出力する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記調整された駆動波形が、前記液滴吐出パルスのVmax(公称)よりも低い前記液滴吐出パルスの調整された最大振幅で、vel(目標)を達成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一つまたは複数の波形パラメーターが、前記第一の遅延、前記非吐出パルスの持続時間、前記非吐出パルスの最大振幅、前記液滴吐出パルスの持続時間および前記液滴吐出パルスの最大振幅を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記液滴吐出パルスは、第一の液滴吐出パルスおよび第二の液滴吐出パルスを含み、前記第二の液滴吐出パルスが、第二の遅延の後で、前記第一の液滴吐出パルスに続き、前記第二の液滴吐出パルスが前記第一の液滴吐出パルスに対して反転している、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記非吐出パルスが、前記第二の液滴吐出パルスに対して反転されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記非吐出パルスが、前記第一の液滴吐出パルスに対して反転されている、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記波形パラメーターが、前記第二の遅延および前記第二の液滴吐出パルスの前記持続時間を含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記調整された駆動波形が、調整された第一の遅延を含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記調整された駆動波形が、調整された第一の遅延と、Vmax(公称)よりも低い前記第二の液滴吐出パルスの調整された最大振幅とを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記調整された駆動波形が、前記第二の液滴吐出パルスの前記持続時間と類似する前記非吐出パルスの調整された持続時間を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記調整された駆動波形の前記非吐出パルスの前記振幅が、前記調整された駆動波形の前記液滴吐出パルスの前記最大振幅よりも低い、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記調整された駆動波形の前記非吐出パルスが、前記液滴吐出パルス、または前記調整された駆動波形の前記第二の液滴吐出パルスと同じ極性の非吐出パルスであり、前記調整された駆動波形の前記第一の遅延が、前記液滴吐出パルスまたは前記調整された駆動波形の前記第一の液滴吐出パルスの前記持続時間の50%未満である、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記第一の遅延が実質的にゼロである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記調整された駆動波形について、前記非吐出パルスが、前記液滴吐出パルスまたは前記第二の液滴吐出パルスに対して反転され、前記非吐出パルスの前記調整された持続時間d1が、前記液滴吐出パルスまたは第一の液滴吐出パルスの前記持続時間の1~1.5倍の範囲である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記公称駆動波形が、前記液滴吐出パルスの後、または前記第二の液滴吐出パルスの後に配置される第二の非吐出パルスをさらに含み、前記第二の非吐出パルスが、前記液滴吐出パルスまたは前記第二の液滴吐出パルスから第三の遅延d3だけ離間し、前記第三の遅延d3が波形パラメーターであり、かつ残留圧力変動を低減するように調整される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記調整された駆動波形の前記非吐出パルスならびに前記第一および第二の液滴吐出パルスが、基準電圧に対して正のパルスおよび負のパルスのうちの一つまたは複数を形成し、前記波形パラメーターが、前記非吐出パルス、前記第一の液滴吐出パルス、および前記第二の液滴吐出パルスの面積のうちの一つまたは複数を含む、請求項4に記載の、または請求項4に従属する場合、請求項5~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
有効面積は、前記波形の全ての正のパルスの面積の合計と全ての負のパルスの面積の合計との間の結果として生じる差であり、それにより、前記公称駆動波形の前記非吐出パルスならびに前記第一および第二の液滴吐出パルスが、公称有効面積Anet(公称)を表し、前記調整された駆動波形の前記非吐出パルスならびに前記第一および第二の液滴吐出パルスが、調整された有効面積Anet(調整された)を表し、前記波形パラメーターは、Anet(調整された)<Anet(公称)となるように調整される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
液滴吐出装置を動作させるための方法であって、前記液滴吐出装置が、前記液滴吐出装置のアクチュエーター素子であって、前記アクチュエーター素子が部分的に圧力チャンバーとの境界を形成し、前記圧力チャンバーがノズルと流体連通し、前記アクチュエーター素子が液滴を前記ノズルから吐出させるために変形するように配置される、アクチュエーター素子を備え、前記方法が、調整された駆動波形を前記アクチュエーター素子に提供することを含み、前記調整された駆動波形が、液滴吐出パルスと、前記液滴吐出パルスの前に配置される非吐出パルスと、を含み、前記第一の遅延および/または前記非吐出パルスの前記持続時間が、前記非吐出パルスが前記液滴を吐出させる圧力より低いプライミング圧力を前記チャンバー内に生じさせ、前記液滴吐出パルスが、前記液滴吐出パルスが前記チャンバー内の前記プライミング圧力を液滴吐出圧力までさらに増加させた後、前記液滴を吐出させる、方法。
【請求項19】
前記液滴吐出パルスが、第一および第二の液滴吐出パルスを含み、前記第二の液滴吐出パルスが前記第一の液滴吐出パルスから反転され、前記第二の液滴吐出パルスが、前記第一の液滴吐出パルスに続いて、前記チャンバー内の前記プライミング圧力を液滴吐出圧力までさらに増加させることによって、前記液滴を吐出させる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記非吐出パルスの前記持続時間が、前記第二の液滴吐出パルスの前記持続時間と実質的に同じである、請求項18または
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第一の遅延が、前記非吐出パルスの前記持続時間と比較して短い、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記非吐出パルスが、前記液滴吐出パルスに対して、または前記第二の液滴吐出パルスに対して反転される、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記液滴吐出装置が吐出のための流体を含み、前記流体が10mPasを超える粘度を有する、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されるコンピュータープログラム。
【請求項25】
液滴吐出装置用のコントローラーであって、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されている、コントローラー。
【請求項26】
請求項1~23のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されるコントローラーを備える、液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出の分野に関し、特に、液滴吐出装置の動作方法、そのコントローラー、およびその方法を実行する液滴吐出装置に関する。より詳細には、液滴吐出装置およびその動作方法は、液滴吐出装置を改善された効率で動作させるための改善された駆動波形を提供する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置は、圧電作動要素によってそれぞれ部分的に境界が形成され、かつ作動要素の変形時にそこから液滴を吐出するノズルと流体連通している、流体チャンバーの配列を備える液滴吐出ヘッドを備える。液滴吐出ヘッドの設計は、様々な形態をとることができ、例えば、作動要素が、各チャンバーとの境界を形成する対向する圧電側壁の形態であり、チャンバーが、圧電材料のシートの溝によって形成されてもよく、またはそれが、例えばチャンバーのルーフ、いわゆるルーフ形態のアクチュエーターヘッドを形成してもよい。
【0003】
様々な代替流体が、液滴吐出ヘッドによって吐出されることができる。例えば、液滴吐出ヘッドは、(液滴吐出ヘッドはインクジェットプリントヘッド、またはより具体的にはドロップオンデマンドインクジェットプリントヘッドであってもよい)インクジェット印刷用途の場合と同様に、受容媒体、例えば紙またはカード、セラミックタイルまたは成形物品(例えば、缶、ボトル等)に向かって移動する流体の小滴を吐出して、画像を形成することができる。
【0004】
流体の小滴を使用して、構造体を構築でき、例えば、電気的に活性な流体を受容媒体、例えば回路基板の上に堆積させて、電気デバイスの試作を可能にし、または生物学的もしくは化学的物質を含む溶液の液滴を受容媒体、例えばマイクロアレイ上に堆積させることができる。液滴吐出ヘッドは、受容媒体を使用しない用途で使用されることができる。例えば、温室ミストシステムの湿度を制御するために、液滴吐出ヘッドによって微細な蒸気およびミストを生成することができる。このような別の流体に好適な液滴吐出ヘッドは、問題の特定の流体を処理するためにいくつかの改造がなされ、概ね構造がプリントヘッドと類似している可能性がある。このような液滴吐出ヘッドでは、吐出される液滴のパターンは、ヘッドに提供される制御データによって異なる。
【0005】
圧電アクチュエーター素子の一つの構成は、長手方向の流体チャンバーを形成するために平行な溝が切り込まれた圧電材料の連続シートから形成されるアクチュエーター素子を使用する。「サイドシューター」液滴吐出ヘッドを備える一つのこのような公知の構成の流体チャンバーの配列を
図1の概略断面図に示す。複数の流体チャンバー110(例えば、110_1、110_2、…)は、x方向に沿って左から右に延在する配列内に並んで配置される。流体チャンバー110の各々は、後述するように、流体チャンバー110内に収容された流体が吐出されるノズル172を備える。流体チャンバー110の各々は、配列方向xに垂直な(紙面内への、yに沿った)チャンバーの長さ方向に細長い。配列内の隣接する流体チャンバー110は、チャンバー壁130によって分離されており、チャンバー壁130は、圧電材料、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、またはそれらに電位差を印加すると変形可能な同様の材料で形成されることができる。流体チャンバー110の各々の一方の長手方向側は、ノズルプレート170によって(少なくとも部分的に)境界を定められ、ノズルプレート170は、各チャンバー110にノズル172を提供する。
【0006】
流体チャンバー110の各々の他方の対向する長手方向側は、例えば、実質的に平坦な平面状であることができる基材180によって(少なくとも部分的に)境界が形成される。いくつかの構成では、基材180は、壁130の各々の一部または全部と一体であってもよい。各流体チャンバーは内部が電極でコーティングされており、その結果、各壁130には第一の電極、例えば101_1が流体チャンバー、例えば流体チャンバー110_1によって片側に設けられ、および第二の電極、例えば101_2が、隣接する流体チャンバー、例えば流体チャンバー110_2によって設けられている。壁130の二つの電極は、壁130に駆動波形を印加できるように構成されている。電極は、ノズルプレート170を壁130に取り付ける前に、流体チャンバー内の導電性材料の連続層を、例えば電気めっきによって、基材180の表面の上および流体チャンバーの表面の上にも堆積させることによって形成されることができる。
【0007】
各壁130は、第一の部分131および第二の部分132を備え、これらの部分のそれぞれの圧電材料は(矢印で示すように)互いに反対方向に分極されている。第一の部分131および第二の部分132のそれぞれの分極方向は、アレイ方向およびチャンバーの長手方向に垂直である。第一の部分131および第二の部分132は、流体チャンバーを形成する溝が切断される前に互いに結合される、反対方向に分極された材料の二枚の結合シートから形成されることができる。このような第一および第二の部分は、第一および第二の電極に駆動波形を印加することによって壁130の両端に電位差が印加される場合、壁に「V字形」変形をもたらし、これにより、
図1の破線で示すように、第一の部分131と第二の部分132はせん断モードで反対方向に変形する。
【0008】
図1において、流体チャンバー110_2との境界を形成する壁に印加される駆動波形は、壁を流体チャンバーから外向きに変形させ、それは流体チャンバー110_2内に流体を引き込む効果を有する。流体チャンバー110_2との境界を形成する壁130の両端に印加される電界の方向が反転すると、壁は内側に変形する。内側への変形によって生じる圧力の大きさがあるレベルを超えると、流体チャンバー110_2のノズル172から流体の小滴が吐出されることができる。
【0009】
壁130は、それが境界を形成する二つの流体チャンバー110のうちの一つから交互に内向きにもしくは外向きに変形するように一連の電位差によって対処されることができ、またはそれは変形しないままであってもよい。これらの種類の液滴吐出ヘッドの駆動方式、例えば、液滴吐出ヘッドをプリントヘッドとして使用する場合の3サイクル駆動方式がよく知られている。この駆動方式により、ノズルA、B、Cの三つのグループが媒体上の同じピクセルラインに液滴を連続的に堆積させる。各流体チャンバー110に単一の連続電極が設けられているため、一部の用途では、隣接する二つの流体チャンバーからの吐出を防止しながら、確実に流体チャンバー110から信頼性の高い吐出をするために、この3サイクル方式が必要となる場合がある。
【0010】
上記のように、液滴の吐出は、選択された流体チャンバー110の壁の各電極のそれぞれに印加される駆動信号から形成される駆動波形の印加によって引き起こされる。液滴吐出ヘッドを駆動するのに使用される駆動波形は、液滴吐出ヘッドの構造に応じて任意の形とすることができる。例えば、駆動波形は、台形、矩形、方形、三角形、または正弦波の波形であってもよい。さらに、液滴吐出ヘッドを駆動するために使用される駆動波形の最大電圧および最小電圧は、ヘッドの構造および/または駆動回路の電圧容量もしくは構成に依存することができる。
【0011】
一実施例では、隣接する流体チャンバーの電極が静止している状態で、駆動波形が、チャンバーの二つの壁を最初に選択された流体チャンバー110から外に、そしてその中に一斉に移動させ、いわゆる引き込みおよび解放機構によって液滴を吐出させる。流体チャンバーの中へおよびそれから外へのこの動きは、複数のパルスモード、例えば、様々な数のサブ液滴から形成される液滴を吐出するバイナリまたはグレースケールの動作モードで繰り返されることができ、サブ液滴の数は駆動波形の繰り返しの数によって決定される。
【0012】
駆動波形は通常、インクで満たされた流体チャンバーの音響挙動を考慮して設計され、特に重要なパラメーターはL/cであり、Lは流体チャンバーの音響長さ、cは流体チャンバー内の音速である。したがって、負のパルスを印加し、続いて正のパルスを印加することが有利であることが知られている。ここで、「負」および「正」は、液滴吐出パルスのグランドに対する電圧レベルではなく、チャンバー壁に印加される電界の方向を示すことができる。他の設計の液滴吐出ヘッドについても同様のことが考慮される。
【0013】
駆動波形が負から正に切り替わると、それにより対向するチャンバー壁の両方がチャンバーの外からチャンバーの中に変形し、チャンバーの圧力が増加して液滴が吐出される。正のパルスおよび負のパルスの持続時間、ならびにそれぞれの振幅および位置が慎重に選択されていない場合、液滴吐出後のチャンバー内の圧力変動と液滴吐出後の圧力変動のピーク振幅は、共通の供給マニホールドの流体連結によって隣接するチャンバーに影響を与えるほど十分に高い可能性があり、その結果、正のパルスが隣接するチャンバーから偶発的に液滴を吐出させる原因となる。
【0014】
図2は、第一の負の液滴吐出パルス44と、それに続く0Vの基準電圧付近の等しい振幅の第二の正の液滴吐出パルス46とを含む従来の基本駆動波形40を示し、負のパルス44と正のパルス46のパルス持続時間の比は1:2であり、すなわち、正のパルス46は負のパルス44の持続時間の二倍である。第一の液滴吐出パルス44の後に第二の液滴吐出パルス46を印加することによって、壁の両端に印加される電界の方向が変化する。正の液滴吐出パルスの後に負の液滴吐出パルスが続く場合にも、電界の方向が変化することが理解されるであろう。反対の符号の二つのパルスを組み合わせると、液滴が吐出される。例えば、第一の液滴吐出パルス44は、一般的に、流体をチャンバー内に引き込むためにチャンバーの壁を外側に変形させる目的を有することができ、第二の液滴吐出パルス46は、一般的に、チャンバー110の壁を内側に変形させる目的を有することができる。第一のパルス44が基準電圧に戻り(および壁が中立状態に向かう)と、チャンバー110内の圧力は増加し、電圧が第二の液滴吐出パルス46の最大電圧に向かって変化するにつれて、液滴がノズル172から吐出されるまでさらに上昇する。
【0015】
駆動波形40では、電極に印加される絶対電圧信号ではなく、二つの電極間に挟まれた壁から見た相対電圧が示され、したがって、駆動波形の相対最小電圧は-20V、相対最大電圧は+20Vとなる。このような相対電圧は、よく知られているように、チャンバー壁の両端に異なる絶対電圧を印加することによって達成されることができる。壁の両端の電圧の符号の変化は、
図2および以下の図において、基準電圧に対する「相対電圧」V
Rとして示される場合があり、以下において基準電圧は0Vである。しかし、電極の駆動回路によっては、
図2に示すように、同じ方法で壁を変形させて等価な相対電圧V
Rを生成しても、基準電圧の値と絶対(ピーク振幅)値は異なる場合がある。
図2では、波形40の印加によって生じるチャンバー圧力が、駆動波形40上に破線で重ねられる。駆動波形が印加された後もチャンバー圧力が持続していることが分かる。このような圧力変動は、共通のマニホールドを通って隣接するチャンバーに伝播する可能性がある。それらの振幅によって、場合によっては、このような変動が、隣接するチャンバーからの偶発的な液滴の吐出を引き起こすほど隣接するチャンバーの圧力に大きな影響を与える可能性がある。これらの変動は、液滴吐出パルスの後に印加されるキャンセルパルスによって管理され、次の駆動波形をできるだけ早く印加できるようにすることができる。これにより、信頼できる液滴の吐出を伴うより高い周波数の動作が可能になる。
【0016】
同時に、一定の時間枠にわたる消費電力が増加し、例えば駆動回路によってより多くの熱が発生する。したがって、液滴吐出ヘッドにおけるエネルギー消費および発熱を低減するために、改善された駆動波形、ならびにこのような波形を生成および印加するための方法およびコントローラーが必要とされている。
【発明の概要】
【0017】
本発明の態様を添付の独立請求項に記載し、本発明の特定の実施形態を添付の従属請求項に記載する。
【0018】
以下の開示は、本発明の第一の態様に従って、液滴吐出装置に駆動波形を提供する方法を説明するものであり、方法は、
(a)公称最大振幅Vmax(公称)を有し、および公称液滴速度vel(公称)を達成するための液滴吐出パルスを含み、ならびに液滴吐出パルスの前に公称非吐出パルスをさらに含む、公称駆動波形を受信する工程であって、非吐出パルスが液滴吐出パルスから第一の遅延d1だけ離間している、受信する工程と、
(b)目標液滴速度vel(目標)および/または液滴吐出パルスの目標最大振幅Vmax(目標)を受信する工程と、
(c)受信したvel(目標)および/またはVmax(目標)に基づいて、一つまたは複数の波形パラメーターを調整して、vel(目標)およびVmax(目標)のうちの少なくとも一つを達成するように調整された駆動波形を提供する工程と、
(d)調整された駆動波形を出力する工程と、を含む。
【0019】
本発明の第二の態様によれば、液滴吐出装置を動作させるための方法が提供され、液滴吐出装置が、液滴吐出装置のアクチュエーター素子であって、アクチュエーター素子が部分的に圧力チャンバーとの境界を形成し、圧力チャンバーがノズルと流体連通し、アクチュエーター素子が液滴をノズルから吐出させるために変形するように配置される、アクチュエーター素子を備え、方法は、調整された駆動波形をアクチュエーター素子に提供することを含み、調整された駆動波形が、液滴吐出パルスと液滴吐出パルスの前に配置される非吐出パルスとを含み、第一の遅延および/または非吐出パルスの持続時間は、プライミング圧力をチャンバー内に生じさせ、プライミング圧力は非吐出パルスが液滴を吐出させる圧力より低く、液滴吐出パルスが、液滴吐出パルスがチャンバー内のプライミング圧力を液滴吐出圧力までさらに増加させた後、液滴を吐出させる。
【0020】
いくつかの実施形態では、液滴吐出装置は吐出のための流体を含み、流体は10mPasを超える粘度を有する。
【0021】
さらに、上記の方法を実行するように構成されるコンピュータープログラムが提供される。
【0022】
さらに、液滴吐出装置用のコントローラーが設けられ、コントローラーは上記の方法を実施するように構成される。
【0023】
さらに、上記の方法を実施するように構成されるコントローラーを備える液滴吐出装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
ここで、図面を参照する。
【0025】
【
図1】
図1は、公知の液滴吐出ヘッドの概略断面図である。
【
図3】
図3は、調整された駆動波形を生成する方法の工程を例示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明による液滴吐出装置のブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明による液滴吐出装置およびコントローラーのブロック図である。
【
図6A】
図6Aは、正のプレパルスと第一および第二の液滴吐出パルスとを備え、本発明に従って調整される公称駆動波形を例示する。
【
図7A】
図7Aは、負のプレパルスと第一および第二の液滴吐出パルスとを備え、本発明に従って調整される公称駆動波形を例示する。
【
図7D】
図7Dは、一つの波形パラメーターを変更した場合の、
図2の基本駆動波形と比較した最大チャンバー圧力の変化率のプロットである。
【
図9A】
図9Aは、低周波数におけるプレパルス駆動波形およびチャンバー圧力を示す。
【
図9B】
図9Bは、
図9Aよりも高い周波数でのプレパルス駆動波形およびチャンバー圧力を示す。
【
図9C】
図9Cは、
図9Bよりも高い周波数でのプレパルス駆動波形およびチャンバー圧力を示す。
【
図10A】
図10Aは、
図6Bの変形例による正のプレパルスおよび負のポストパルスを備える調整された駆動波形である。
【
図10B】
図10Bは、
図7Bの変形例による負のプレパルスおよび正のポストパルスを備える調整された駆動波形である。
【
図10C】
図10Cは、
図7Bの別の変形例による負のプレパルスおよび負のポストパルスを備える調整された駆動波形である。
【
図11】
図11は、二つの波形パラメーターを変更した場合の、
図2の基本駆動波形と比較した最大チャンバー圧力の変化率のプロットである。
【0026】
図面中、全体を通して、類似の要素は、同様の参照符号で示される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示の方法および方法を実行するコントローラーは、上述の問題に対処し、液滴吐出ヘッドのより効率的な動作が可能であり、液滴吐出装置における消費電力および発熱を低減するのに好適な調整された駆動波形を提供し、ここでこれらを、
図3~
図8Cを参照しながら、いくつかの実施形態およびその変形例に関して説明する。以下では、作動要素は、圧電材料と、駆動波形の一部を形成する好適なそれぞれの駆動信号によって処理されると圧電材料全体に電界を印加し、圧電材料が変形して液滴を吐出する一対の電極と、を備える。
【0028】
概ね、本明細書では「調整された」駆動波形と呼ばれる改善された駆動波形を、液滴吐出装置内の回路によって、かつ二つの全体的な動作、つまり一つは調整された駆動波形を生成する動作、一つは調整された駆動波形を液滴吐出装置の作動要素に印加する動作に分ける方法に従って、発生させおよび各作動要素に印加することができる。したがって、調整された駆動波形を生成するために、液滴吐出装置に駆動波形をもたらす方法が提供され、この方法は以下の工程、
-公称最大振幅Vmax(公称)を有し、および公称液滴速度vel(公称)を達成する液滴吐出パルスを含み、ならびに液滴吐出パルスの前に公称非吐出パルスをさらに含む、公称駆動波形を受信する工程であって、非吐出パルス液滴は液滴吐出パルスから第一の遅延d1だけ離間している、受信する工程と、
- 目標液滴速度vel(目標)および/または液滴吐出パルスの目標最大振幅Vmax(目標)のうちの一つを受信する工程と、
- 受信したvel(目標)および/またはVmax(目標)に基づいて一つまたは複数の波形パラメーターを調整して、vel(目標)およびVmax(目標)のうちの少なくとも一つを達成するように調整された駆動波形を提供する工程と、
- 調整された駆動波形を出力する工程と、を含む。
【0029】
これらの工程は、
図3のフローチャートに例示され、
図6Aおよび6Bを参照してさらに説明される。フローチャートのブロックは、コンピュータープログラムによって、または液滴吐出装置の外部もしくは内部のいずれかに好適なプログラムを備えるコントローラーによって実行されることができる。
【0030】
ブロック410で、公称駆動波形50がコントローラーによって受信され、これは、例えば
図6Aに例示するような開始点波形であってもよい(これについては以下でより詳細に説明する)。公称駆動波形50は、公称液滴吐出パルス(ここでは、
図2に示すものと同様の、第一および第二の液滴吐出パルス54、56として例示されるが、代わりとして単一の液滴吐出パルスを使用することもできる)と、液滴吐出パルスの前に配置される公称非吐出パルス52とを備える。液滴吐出パルスの前に配置されるこのような非吐出パルスを、本明細書では「プレパルス」と呼ぶ場合がある。プレパルス52を設けることにより、単に調整工程中にそのようなプレパルスを波形に追加できるようにする波形パラメーターの提供によって行うことができる。すなわち、プレパルスが公称駆動波形の基準電圧とは異なる振幅を有することは厳密には必要ではない。公称駆動波形50は、作動要素の動作をより効率化し、液滴吐出装置の消費電力および発熱を低減するために調整される波形である。これは、液滴吐出パルスまたは駆動波形の目標液滴速度vel(目標)または目標最大振幅Vmax(目標)のうちの少なくとも一つを得るように公称駆動波形を調整することによって達成されることができる。
【0031】
したがって、ブロック420で、吐出される液滴の目標速度vel(目標)が得られ、および/または液滴吐出パルスもしくは駆動波形のうちの一方もしくは両方の目標最大振幅Vmax(目標)がコントローラーに提供される。
【0032】
ブロック430で、コントローラーは、吐出される液滴の目標速度vel(目標)と、液滴吐出パルスまたは駆動波形のうちの一方または両方の目標最大振幅Vmax(目標)と、のうちの少なくとも一方を達成する調整された駆動波形60に到達するように、駆動波形の一つまたは複数のパラメーターを調整するアルゴリズムを実行する。調整された駆動波形60は、
図2に示す基本駆動波形40を改善したものであり、プレパルスを持たない。ここで「改善」とは、結果として得られる液滴速度および波形または液滴吐出パルス振幅のうちの少なくとも一つの目標値に向かっている、または達成することを意味する。
【0033】
本発明の実施形態では、液滴吐出パルスの前に少なくとも一つの非吐出パルス(本明細書ではプレパルスと呼ぶ)が印加される。非吐出パルスは液滴の吐出を引き起こさない。本明細書で言及されるプレパルスは、吐出される液滴の液滴速度に影響を与えるように調整される。そしてこれを使用して、駆動回路による消費電力および発熱を低減するために、液滴吐出パルスまたは駆動波形の振幅を小さくすることができる。駆動波形において液滴吐出パルスの前にプレパルスを設け、駆動波形の一つまたは複数の波形パラメーターを好適に調整することにより、調整された駆動波形は、液滴吐出パルスのVmax(公称)よりも低い液滴吐出パルスの調整された最大振幅でvel(目標)を達成することができる。
【0034】
工程440で、コントローラーは、調整された駆動波形60を出力する。必要に応じて、コントローラーは、ブロック460で、調整された駆動波形60を液滴吐出装置に提供し、そしてブロック480で、調整された駆動波形60を液滴吐出装置のアクチュエーター要素に印加することができる。あるいは、コントローラーは、調整された駆動波形60を液滴吐出装置内またはそれに関連する駆動回路に提供し、そしてそれは、その駆動波形60を装置の作動要素に提供することができる。言い換えれば、工程460および480のうちの一方または両方は、コントローラーとは異なる回路によって実行されてもよい。
【0035】
調整された駆動波形60を提供することができるコントローラーの位置が、液滴吐出装置1に関して、ブロック図によって
図4および
図5に例示されている。
図4では、コントローラー500は、液滴吐出装置1に搭載され、プログラムを実行して調整された駆動波形60を生成することができる。コントローラー500は、調整された駆動波形60を液滴吐出ヘッド100の作動要素140_1、140_2、140_3、…に提供する。データ42は、コントローラー500が、調整された駆動波形60を作動要素140に提供するのに基づく画像データを含むことができる。
図5では、コントローラー500は、液滴吐出装置1の外部に位置し、装置1の外部で調整された駆動波形60を生成する。コントローラーは、調整された駆動波形60を駆動回路またはオンボードコントローラー300に提供し、そして、回路またはコントローラー300は、画像データに基づいて、液滴吐出ヘッド100の作動要素140_1、140_2、140_3、・・・に提供する。例えば、データ42は、コントローラー500が回路またはオンボードコントローラー300に提供する画像データを含んでもよい。コントローラー500は、液滴吐出装置1と通信し、液滴吐出装置1の様々な構成要素の機能を制御し、液滴吐出を制御するように構成される。
【0036】
駆動回路300は、改善された駆動波形60を生成するように構成されてもよく、またはコントローラー500から改善された駆動波形60を受信するように構成されてもよい。駆動回路300は、別個の回路基材、例えばドライバー基材の形態で液滴吐出ヘッド100の外部にあってもよく、または駆動回路は液滴吐出ヘッド100に備えられていてもよい。
【0037】
したがって、調整された駆動波形60は、液滴吐出ヘッド100の外部で、または液滴吐出ヘッド100内で、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)内、もしくは液滴吐出ヘッド100内に配置される制御回路内で生成されてもよい。
【0038】
調整された駆動波形60を入力するために調整されている一つまたは複数の波形パラメーターは、第一の遅延d1、非吐出パルスの持続時間、非吐出パルスの最大振幅、一つまたは複数の液滴吐出パルスの持続時間および液滴吐出パルスの最大振幅等を含んでもよい。
【0039】
このような波形パラメーターのいくつかについて、正のプレパルスを示す
図6A~
図6Cに、負のプレパルスを示す
図7A~
図7Dに例示する駆動波形および圧力曲線を参照して説明する。
【0040】
駆動波形60およびチャンバー圧力を例示するこれらの図および以降の図では、駆動波形は実線で示され、チャンバー圧力は破線で重ねられており、両方とも圧力チャンバーの寸法例に基づいてモデル化することによって得られる。実際の値は特定の圧力チャンバーの設計によって異なることが予想されるが、結果では同様の傾向が予想される可能性がある。
【0041】
以下、液滴吐出パルスの前に印加される非吐出パルスは「プレパルス」と呼ばれ、液滴吐出パルスの後に印加される非吐出パルスは「ポストパルス」と呼ばれる。波形のパルスは、基準電圧に対する極性の観点から、正および負のパルスとして示され、前述したように基準電圧が0Vである場合とそうでない場合があり、パルスはまた、パルスの極性を参照して交互に反転しているとも呼ばれる。
【0042】
正のプレパルスを印加する第一の実施形態では、
図6Bおよび6Cは、例えば
図6Aに示される公称駆動波形であってもよい公称駆動波形を調整した駆動波形60を示すが、他の任意の開始点も可能である。例えば、目的は、プレパルス、例えば
図2の基本駆動波形40を持たない波形から生じる液滴速度よりも速い液滴速度vel(目標)を提供することであってもよい。第二の液滴吐出パルス66の立ち上がりエッジまたはその近くのチャンバー圧力の上昇、およびその結果として生じるチャンバー圧力のピーク高さは、結果として生じる液滴速度の指標として使用されることができる。
図6Aの公称駆動波形50は、第一の液滴吐出パルス54の持続時間と同様の持続時間d1を有するプレパルス52を提供する。結果として生じるチャンバー圧力は、
図2の基本駆動波形40よりも低い最大値に達する。したがって、この波形では液滴速度の向上は期待できない。
図6Bおよび6Cでは、プレパルス62および第一および第二の液滴吐出パルス64、66のパルス持続時間は、プレパルス52および第一および第二の液滴吐出パルス54、56と比較して同じままでありながら、遅延d1が調整される。
【0043】
本発明者らは、好適に短縮された遅延d1を選択することによって、正のプレパルス62による圧力の増加を使用して駆動波形の最大駆動電圧を低減し、より低い最大駆動電圧で目標速度を達成できることを見出した。これは
図6Bに例示されており、プレパルスの遅延d1は公称駆動波形50のプレパルスの遅延d1より短く、
図6Cではプレパルスの遅延d1はゼロである。結果として生じる両方の圧力曲線は、第二の液滴吐出パルス66の印加による最大チャンバー圧力の増加を示しており、
図6Bのより短いd1の最大チャンバー圧力は、
図6Aのものより大幅に増加しており、
図6Cのものに匹敵する。
図6Bに示す実施例では、プレパルス62を第一の液滴非吐出パルス64に近づけるが、依然として非ゼロ遅延d1を有することは、チャンバー圧力の大幅な増加につながることが見出された。したがって、遅延d1を波形パラメーターとして選択することによって、vel(目標)を達成できる調整された駆動波形60が得られることが分かる。この実施形態では、他の全ての波形パラメーターを一定に保ち、第一の液滴吐出パルスの持続時間のごく一部である遅延d1により、液滴速度が大幅に増加する可能性がある。
【0044】
正のプレパルス(すなわち、第二の液滴吐出パルス66と同じ極性のプレパルス)の場合、遅延d1は、第一の液滴吐出パルス64の持続時間の最大60%、好ましくは最大50%、より好ましくは最大45%の持続時間を有する場合がある。
図6Bの実施例では、遅延d1は第一の液滴吐出パルス64の持続時間の約40%であり、
図2の基本駆動波形40と比較してチャンバー圧力を約15%増加をさせるが、
図6Cの実施例では、遅延d1はゼロであり、基本駆動波形40と比較してチャンバー圧力を約8%増加させる。したがって、いくつかの好ましい駆動波形60では、遅延d1は実質的にゼロであってもよい。
【0045】
一部の用途では、最大駆動電圧を下げることが目的の場合、チャンバー圧力の増加と駆動電圧の低下との釣り合いを取って、液滴吐出ヘッドの消費電力を低減し、駆動回路によって発生する熱を低減することができる。
【0046】
第二の実施形態によれば、負のプレパルスが調整された駆動波形60に提供されることができる。これについては、
図7A~
図7Cに例示する。公称駆動波形は、例えば、第一および第二の液滴吐出パルス54、56が示され、
図2の基本駆動波形40と同様の、
図7Aに示す公称駆動波形50であってもよい。さらに、負のプレパルス52が、第一の負の液滴吐出パルス54から遅延d1だけ離間されている。公称駆動波形50の遅延d1は短く、第一の負の液滴吐出パルス54の持続時間の数分の一程度であり、プレパルス52の持続時間と同様である。公称駆動波形50の実施例では、遅延d1およびプレパルス持続時間はそれぞれ、第一の液滴吐出パルス54の持続時間の約20%である。第二の液滴吐出パルス56の印加後に得られる最大圧力は、基本駆動波形40の最大圧力よりも低い。したがって、この波形では液滴速度の向上は期待できない。
図7Bおよび7Cでは、プレパルス62および第一および第二の液滴吐出パルス64、66のパルス持続時間は、プレパルス52および第一および第二の液滴吐出パルス54、56と比較して同じままでありながら、遅延d1が調整される。
【0047】
図7Bでは、遅延d1は第一の液滴吐出パルス64の持続時間と同じであり、調整された駆動波形60により最大圧力が改善される。
図7Aの短い遅延d1と比較して長い遅延d1により、液滴吐出パルスが印加される前にチャンバー圧力が発生することが可能になり、液滴速度を向上させる。最大チャンバー圧力は、基本駆動波形40のそれと比較して5.6%増加する。
図7Cは、遅延d1が第一の液滴吐出パルス64の持続時間の約2.6倍に延長されると、最大圧力が基本駆動波形40と比較して約5.6%減少することを示している。
【0048】
図7A~7Cに示す結果を含むモデルからの結果を
図7Dにプロットし、これは、
図2の基本駆動波形40から生じる最大圧力に対する最大チャンバー圧力の変化率であるΔP(最大)に対してプレパルスの遅延d1をプロットしたものである。このプロットでは、遅延d1は第一の液滴吐出パルス64の持続時間に対して正規化されており、第一の液滴吐出パルス64の持続時間は一つの「周期」に等しい。
図7Dのプロットは、液滴吐出時の最大圧力が得られる、約1から1.5周期の範囲の最適な遅延d1が存在することを示唆している。正のプレパルスで見出されたように、遅延d1を波形パラメーターとして選択することによって、波形のパルスの最大振幅の減少と必要に応じて釣り合いを取ることができる増加した液滴速度vel(目標)を達成することができる調整された駆動波形60を得ることができる。
【0049】
比較のために、二つの波形パラメーターを組み合わせて調整することを説明するために、プレパルス持続時間は、プレパルス遅延d1の範囲に対して最適化されることができる。
図2の基本駆動波形40の最大圧力と比較した最大チャンバー圧力の結果として生じる変化率が
図11にプロットされている。
図7Dに関しては、遅延d1およびプレパルス62の持続時間は、第一の液滴吐出パルス64の持続時間に対して正規化された。このプロットは、モデル化された結果に基づいて、プレパルス持続時間も調整するとほぼ40%の圧力増加が得られる可能性があることを示唆している。モデリングに基づく値を表1にプロットする。例えば、0.6~1.1周期の範囲のプレパルス遅延d1の場合、プレパルスの持続時間を1.5周期から0.5周期になるように調整すると、最大チャンバー圧力について25%以上の改善が得られる可能性がある。
【0050】
したがって、調整される波形パラメーターは、改善された液滴速度に到達するために、少なくともプレパルス遅延d1およびプレパルス持続時間を含むことができる。非吐出パルス62が負の非吐出パルス(すなわち、負のプレパルス)である場合、第一の液滴吐出パルス64の0.4~1.3持続時間の遅延d1、および第一の液滴吐出パルス64の1.9持続時間以下のプレパルス持続時間は、チャンバー圧力を高め、したがって液滴速度を高めることができる。好適な組み合わせは、負のプレパルスを持たない基本駆動波形40と比較して、最大圧力の最大37%圧力増加させることができる。
【表1】
【0051】
好ましい組み合わせは、第一の液滴吐出パルス64の0.6から1.1の持続時間の範囲の遅延d1と、第一の液滴吐出パルス64の1.5から0.5の持続時間の範囲のプレパルス持続時間とを含んでもよい。好適な組み合わせは、負のプレパルスを持たない基本駆動波形40と比較して、最大圧力の25%~37%圧力増加をさせることができる。第一の液滴吐出パルス64の0.8~0.9の持続時間の範囲の遅延d1と、第一の液滴吐出パルス64の1.1~0.9の持続時間のプレパルス持続時間とを含む好適な組み合わせは、少なくとも37%の圧力増加をさせることができる。
【0052】
別の波形パラメーターは、駆動波形の全てのパルスの形状およびサイズを定義するパラメーター、例えばプレパルス持続時間、プレパルス振幅および/または形状、ならびに第一および第二の液滴吐出パルスの持続時間、形状および/または振幅を含む。さらに、第一および第二の液滴吐出パルスは、遅延d2だけ離間することができ、それは
図6A~
図7Cでは最小であるように示されている。
【0053】
プレパルス62は、第二の液滴吐出パルス66と逆の極性、または、同じ極性を有してもよい。負のプレパルス62と負の液滴吐出パルス64との間の非吐出遅延d1を調整することによって、液滴速度を調整することができる。さらに、第二の液滴吐出パルス66の持続時間、および第一の液滴吐出パルス64と第二の液滴吐出パルス66との間の中間遅延d2を制御することによって、必要な液滴速度を達成できることが分かった。
【0054】
図6A~
図7Dの実施形態およびその変形例に関して例示したように、調整された駆動波形60は、調整された第一の遅延d1を含むことができる。調整された駆動波形60のいくつかの変形例は、調整された第一の遅延d1と、公称駆動波形50の最大振幅Vmax(公称)よりも低い第二の液滴吐出パルス66の調整された最大振幅とを含んでもよい。
【0055】
非吐出パルスが負のプレパルスである場合、すなわち、液滴吐出パルスまたは第二の液滴吐出パルス66に対して反転されている場合、遅延d1は、液滴吐出パルスの、または第一の液滴吐出パルス64の持続時間の1~1.5倍の範囲であってもよい。非吐出パルスが正のプレパルスである場合、すなわち、液滴吐出パルスまたは第二の液滴吐出パルス66と同じ極性である場合、第一の遅延は、液滴吐出パルス、または第一の液滴吐出パルス66の持続時間の50%未満であってもよい。いくつかの変形例では、正のプレパルスの第一の遅延d1は、実質的にゼロであってもよい。
【0056】
非吐出パルス(正または負のプレパルス62)の振幅は、液滴吐出パルス64、66の最大振幅より低くてもよい。
【0057】
一部の用途では、印刷に高粘度流体を使用する。低粘度の範囲、例えば4~10mPasでは、周波数応答は、印加される駆動波形に対して平坦であり、一貫した液滴速度および液滴体積を提供することが分かっている。しかし、流体の粘度が増加すると、つまり10mPasを超えると、低周波数では周波数応答の振動が減衰されて安定または一定の液滴速度と液滴体積を生じさせることができ、高周波数では周波数応答が変化され、液滴速度と液滴体積に振動を生じさせることができる。具体的には、閾値粘度を超えると、液滴形成プロセスの遷移が観察され、高周波で液滴速度および液滴体積が急激に上昇し、液滴速度および液滴体積が不安定または振動する可能性がある。さらに、流体の粘度がさらに増加する、つまり10mPasを超えると、この工程変化の閾値はより低い周波数に移動する可能性があり、その結果、液滴速度および液滴体積が一定となる周波数の範囲が狭いかまったくなくなる可能性がある。
【0058】
高粘度の流体を高周波で噴射すると、液滴が切れる前に、伸びた糸によって液滴がノズルに付着したままになることが観察される。本明細書で使用する場合、用語「高粘度」は、10mPasを超える粘度を指すことは言うまでもない。しかし、周波数が増加すると、より多くの流体が伸びた糸に、したがって液滴に変わり、その結果、液滴が分離される場合、液滴速度および液滴体積が変化する。したがって、より広い周波数範囲にわたってきれいで大きな、かつ速い液滴を吐出するためには、液滴の切れを制御し、そして液滴の吐出を制御する必要がある。
【0059】
本発明者らは、液滴吐出パルスの前に一つまたは複数の非吐出パルス(すなわち、一つまたは複数のプレパルス)を追加すると、液滴がノズルに付着している間により多くの流体を液滴に送り込むために糸を利用し、高周波での液滴吐出をより適切にかつ一貫して制御することができることを見出した。したがって、高粘度流体の場合、このような非吐出パルスは、高周波での液滴の液滴速度および液滴体積を改善することができる。さらに、このような非吐出パルスにより、アクチュエーターがより広い流体粘度の範囲にわたって動作し、高周波で大きな、速い、かつきれいな液滴を効率的に吐出することを可能にする。さらに、液滴吐出パルスの前に一つまたは複数の非吐出パルスを設けることにより、比較的低い電圧でより速い液滴速度を達成することも可能となることができる。
【0060】
一例として、粘度16.4mPasの流体の周波数応答は、
図8Aから8Fに示すように、様々な駆動波形を印加して観察される。
図8Aは標準的な駆動波形70を示し、
図8Dは非吐出パルス、すなわち負のプレパルス82および液滴吐出パルス84を備える駆動波形80を示す。平均液滴速度の
図8Bおよび平均液滴体積対周波数の
図8Cのプロットに示すように、標準駆動波形70に対する応答は高周波数で大幅に減衰され、その結果、振動により液滴速度および液滴体積の応答曲線にばらつきが生じる。
【0061】
平均液滴速度の
図8Eおよび平均液滴体積対周波数の
図8Fのプロットに示すように、液滴吐出パルス84の前に一つまたは複数の非吐出パルス82を追加すると、応答が強化されて、速い、大きな、かつきれいな液滴が効率的に吐出されるより広い周波数ウィンドウが見られるような、低周波数応答から高周波数応答への段階的変化が観察される。さらに、注目すべき周波数範囲にわたって、高い液滴速度、高い液滴体積、および平坦な周波数応答を有するサテライトのない吐出が観察される。したがって、液滴吐出パルス84の前の一つまたは複数の非吐出パルス82は、高周波での吐出性能を高める。さらに、一つまたは複数のプレパルス82を追加することにより、目標液滴速度に必要な電圧を低減することができる。例えば、11~12m/sの液滴速度を達成するには、プレパルス駆動波形を使用する場合、必要な電圧は約22Vであるが、プレパルスなしの標準駆動波形を使用する場合、必要な電圧は約28Vである。したがって、目標液滴速度については、液滴吐出パルスの前に一つまたは複数の非吐出パルスを追加することによって電圧の低減を達成することができる。
【0062】
図9A-9Cは、異なる周波数および対応するチャンバー圧力での、プレパルス駆動波形90の効果を示す。
図9Aは、低周波数におけるプレパルス駆動波形90およびチャンバー圧力を示す。駆動波形90は、プレパルス92および液滴吐出パルス94を含む。高粘度では、液滴の分離時間は長くなり、糸は、チャネル応答における第二の正のローブであるローブ2(202a)の発生に匹敵する期間持続する。高粘度の場合、この第二の正のローブであるローブ2(202a)は、液滴が切れる前に液滴の形成および改善に寄与することができる。したがって、
図9Aにおいて、強調または斜線領域「領域(a)」は、プレパルス駆動波形90の後の、第一の正のローブであるローブ1(201a)および第二の正のローブであるローブ2(202a)が占める面積であり、液滴体積の尺度を表す。この場合、糸がノズルにまだ取り付いている移行点を超えると、「領域(a)」のようにプレパルスを使用して液滴速度および液滴体積を高めることができ、特に、駆動波形後の第二の正のローブであるローブ2(202a)は、液滴速度および液滴体積に寄与し、かつ増加させる。
【0063】
図9Bでは、周波数は
図9Aの周波数よりも高い。強調表示された領域は、「領域(b)」(201b)として示されている。
図9Bに示すように、一つの液滴に対するプレパルス92は、先行する液滴に対するキャンセルパルスとして機能することができる。さらに9Aに見られる第二の正のローブであるローブ2は減衰されて、ここでは観察されないため、液滴速度および液滴体積は
図9Aと比較して減少する。
【0064】
図9Cは、
図9Bよりも高い周波数でのプレパルス駆動波形90およびチャンバー圧力を示す。強調表示された領域は「領域(c)」であり、ここでは第二の正のローブであるローブ2(202c)の強め合う干渉が見られる。
図9Cに示すように、一つの液滴に対するプレパルス92は、先行する液滴に対する補強ポストパルス(すなわち、液滴吐出パルス後の非吐出パルス)として機能する。したがって、「領域(c)」で観察される第一および第二の正のローブ(201c、202c)は、液滴速度および液滴体積の改善に役立つ。
【0065】
したがって、上記の
図9A~9Cから、比較的高い周波数では、プレパルス92(すなわち、液滴吐出パルス94の前の非吐出パルス)が、先行する液滴に対するキャンセルパルスとして機能するため、より低い周波数の液滴に対する液滴速度と液滴体積の増加の一部を打ち消すことが分かる。周波数がさらに増加する場合、プレパルスは、液滴速度および液滴体積を増加させるための補強ポストパルス(つまり、液滴吐出パルス後の非吐出パルス)として機能する。したがって、液滴吐出パルスの前に一つまたは複数の非吐出パルスを使用することにより、高粘度流体を作動させて、液滴速度を高めた大きな、速い、かつきれいな液滴を吐出させる。
【0066】
さらに、駆動波形の周波数に加えて、駆動波形の全てのパルスの形状およびサイズを定義するパラメーター等の他の波形パラメーター、例えば、プレパルス持続時間、プレパルス振幅および/または形状、プレパルスと液滴吐出パルスとの間の遅延、ならびに液滴吐出パルスの持続時間、形状、および/または振幅は、目標液滴速度および/または目標液滴体積を達成するために調整されてもよい。
【0067】
図8A~
図8Fがシングルパルス台形波形70/80を示し、
図9A~
図9Cが液滴吐出パルス94としてシングルパルス方形波形を示している場合であっても、本発明はこれらの波形に限定されないことに留意されたい。液滴吐出パルスは任意の形状をとることができ、または
図6A~6C、7A~7Dのいずれかに示されるパルスと同じ形状をとることができる。
【0068】
典型的には、チャンバー圧力を高めるために配置されるプレパルスも、液滴吐出パルスの印加後に、より大きく、より長く持続する残留圧力変動をもたらす可能性があることが分かった。一方、ポストパルス68を設けることは、液滴吐出パルス66の立ち下がりの後に、液滴吐出から生じるこのような圧力変動を低減するために使用されることができる。
【0069】
次に、残留圧力変動を低減または防止することができる、
図6A~
図7Cの駆動波形のいくつかの変形例について説明する。
図10Aに関しては、
図6Bのものと同様の正のプレパルスを含む駆動波形が示されている。プレパルス62は、第一の液滴吐出パルス64の持続時間の一部(約10%)である遅延d1と共に配置される。プレパルス62は、第一の液滴吐出パルス64の持続時間の約27%の持続時間を有する。
図6Bの調整された駆動波形60と比較すると、第二の液滴吐出パルス66から遅延d3だけ離間している負のポストパルス68が提供される。この変形例では、プレパルス遅延d1および中間遅延d2は、第二の液滴吐出パルス66が印加された後に最大チャンバー圧力を増加させるように調整される。これはまた、より長い持続時間のより大きな残留圧力変動をもたらし、そしてこれは、
図10Aのポストパルス68を好適に配置することにより、液滴吐出ピークに続く第二の残留圧力ピークと弱め合って干渉することによって打ち消される。ポストパルス68は第二の残留圧力ピークを基準にして時間調整されているため、遅延d3はポストパルス68の持続時間と比較して比較的長い。この調整された駆動波形60の変形例は、
図10Cを参照して説明するものと比較して持続時間が長く、ポストパルスが第一の残留圧力ピークと干渉する可能性がある。したがって、正のプレパルス62を印加してチャンバー圧力を高めることができ、一方、負のポストパルス68を印加して残留圧力変動を打ち消すことができる。
【0070】
(負のプレパルスを有する)
図7Bの調整された駆動波形60の変形例が
図10Bに示されており、調整された駆動波形60は、第一および第二の液滴吐出パルス64、66、負のプレパルス62、および正のポストパルス68を含む。ポストパルス68は第二の液滴吐出パルス66と同じ極性を有するが、プレパルス62は第二の液滴吐出パルス66とは逆の極性を有する。
【0071】
(負のプレパルスを示し、ポストパルスを示さない)
図7Bと比較すると、液滴吐出時の正の圧力ピークに続く第一の負の圧力ピークをキャンセルするために正のポストパルス68が設けられる。これは、第二の液滴吐出パルス66をプレパルス62と同様の持続時間に短縮することによって達成され、これにより液滴吐出後できるだけ早くポストパルスを印加することが可能になる。結果として、
図10Bの調整された駆動波形60は、第二の液滴吐出パルス66の短縮されたパルス持続時間に対して遅延d1の長い持続時間を相殺することができ、波形を同様の総持続時間に維持することができる。
【0072】
したがって、同じ方法を使用して、第二の液滴吐出パルス66をプレパルス62の持続時間と同様の持続時間に短縮し、正の比較的長いポストパルス68を第一の残留圧力ピークに印加することによって、
図10Aの調整された駆動波形60を短縮することができる。
【0073】
したがって、プレパルス62の持続時間およびプレパルス62と第一の液滴吐出パルス64との間の遅延d1を好適に調整することを使用して、液滴速度を高め、目標液滴速度を達成するために必要な最大電圧の低減を可能にすることができ、一方、第二の液滴吐出パルス66の持続時間、ポストパルス68の持続時間、および第二の液滴吐出パルス66とポストパルス68との間のポストパルス遅延d3は、調整された駆動波形60の終わりにおける残留圧力振動を低減するために調整される。
【0074】
図7Bの調整された駆動波形60の別の変形例が
図10Cに例示されており、調整された駆動波形60は、第一および第二の液滴吐出パルス64、66、ならびに二つの負の液滴非吐出パルスである、プレパルス62およびポストパルス68を含む。液滴非吐出パルス62、68は、第二の液滴吐出パルス66とは逆の極性を有する。
【0075】
図7Bおよび10Bと同様に、長い遅延d1により、チャンバー圧力が発生し、液滴速度を高めることができ、正の吐出ピーク後の第一の(負の)残留圧力ピークを打ち消す代わりに、負のポストパルス68が印加され、液滴吐出時の正の圧力ピークに続く第二の(正の)残留圧力ピークを打ち消す。
【0076】
プレパルス持続時間およびプレパルス62と第一の液滴吐出パルス64との間の遅延d1を好適に調整すると、液滴速度を高め、それによって目標液滴速度を達成するために必要な最大電圧の低減を可能にすることができる。第二の液滴吐出パルス66とポストパルス68との間の遅延d3の持続時間は、調整された駆動波形60の終わりにおける残留圧力の振動を低減するために調整されることができる。
【0077】
図10A~
図10Cに記載の調整された駆動波形60の変形例は、様々な調整された駆動波形60の一部を形成しており、例示のみを目的としている。第一の液滴吐出パルス64と第二の液滴吐出パルス66との間の遅延d2を調整することにより、本発明による調整された駆動波形60をさらに強化できることに留意されたい。
【0078】
したがって、実施形態の変形例では、公称駆動波形50および調整された駆動波形60は、液滴吐出パルスの後、または第二の液滴吐出パルス66の後に第二の非吐出パルスを含んでもよく、第二の非吐出パルスは、液滴吐出パルスまたは第二の液滴吐出パルス66から第三の遅延d3だけ離間し、波形パラメーターは、第三の遅延d3、第二の液滴非吐出パルスの持続時間、および第二の非吐出パルスの振幅のうちの一つまたは複数を含む。調整された駆動波形60は、液滴吐出パルスの後に、または第二の液滴吐出パルス66の後に第二の非吐出パルス68を含んでもよく、第二の非吐出パルス68は、液滴吐出パルスまたは第二の液滴吐出パルス66から第三の遅延d3だけ離間しており、少なくともd3は残留圧力変動を低減するように調整される。
【0079】
したがって、調整された駆動波形60は、調整された駆動波形60の連続するパルス間、すなわち、調整された駆動波形60の一つまたは複数の正のパルスおよび一つまたは複数の負のパルスのうちの連続するパルス間に、一つまたは複数の遅延をさらに含むことができる。この方法のいくつかの変形例では、一つまたは複数の正パルスおよび一つまたは複数の負パルスのうちの連続するパルス間の遅延d1、d2、d3は、駆動波形に起因する残留圧力変動が低減されるように調整されることができる。言い換えれば、各連続するパルスの発生は、正、負、または前のパルスと比較して同じ符号であるかどうかに関係なく、制御する必要がある可能性がある。これは、パルスの遅延が、必要なパルス持続時間と前後のパルスのパルス電圧とに基づいて決定されることを意味する。したがって、一つまたは複数の正パルスおよび一つまたは複数の負パルスのうちの連続するパルス間の一つまたは複数の遅延は、駆動波形を作動要素に提供することによって生じる残留圧力変動が低減されるように制御されることができる。
【0080】
図6A~
図7Cの調整された駆動波形のいくつかの変形例では、上記の方法は、残留圧力変動を防ぐために、プレパルス遅延d1と、一つまたは複数の液滴吐出パルス64、66間の中間遅延d2と、のうちの一つまたは複数を調整する工程を含んでもよい。
図10A~10Cの調整された駆動波形60のいくつかの変形例では、上記の方法は、残留圧力変動を防ぐために、ポストパルス遅延d3を調整する工程を追加または代わりに含んでもよい。
【0081】
必要に応じて、公称駆動波形50が二つ以上のプレパルス52を含む場合、上記の方法は、連続するプレパルス62間(二つのプレパルス間、またはプレパルス62と液滴吐出パルスの間)の一つまたは複数の遅延d1を調整する工程、および一つまたは複数の遅延d1に基づいて、目標液滴速度vel(目標)を達成するために必要な液滴吐出パルスの最大振幅を減少させる工程を含んでもよい。
【0082】
必要に応じて、公称駆動波形50は、駆動波形の最後の(例えば第二の)液滴吐出パルスの後に印加される二つ以上のポストパルスを含み、上記の方法は、流体チャンバー110内の残留圧力変動を低減または防止するために、パルス62、64、66、68のそれぞれの連続するパルス間(二つのポストパルスの間、またはポストパルス68と最後の液滴吐出パルス66の間のいずれか)の一つまたは複数の遅延d1、d3を調整する工程を含んでもよい。
【0083】
別の波形パラメーターは、有効面積を調整できるように、各パルスの面積(例えば持続時間および振幅)ならびに/または形状であってもよい。波形パラメーターは、例えば、第一の非吐出パルス62、第二の非吐出パルス68、第一の液滴吐出パルス64、および第二の液滴吐出パルス66の面積のうちの一つまたは複数を含んでもよい。別のパルスが公称駆動波形50に提供される変形例では、各パルスの面積が波形パラメーターに含まれてもよい。
【0084】
駆動波形の全ての非吐出パルスおよび全ての液滴吐出パルスは、基準電圧に対して一つまたは複数の正のパルスと一つまたは複数の負パルスを形成し、有効面積は、全ての正のパルスの面積の合計と全ての負のパルスの面積との間の結果として生じる差であり、公称駆動波形40の一つまたは複数の非吐出パルスおよび一つまたは複数の液滴吐出パルスが公称有効面積Anet(公称)を表し、調整された駆動波形60の一つまたは複数の非吐出パルスおよび一つまたは複数の液滴吐出パルスが調整された有効面積Anet(調整された)を表し、Anet(調整された)<Anet(公称)である。基準電圧は、パルスの極性が変化する電圧レベルであり、図では0Vとして示されている。他の変形例では、基準電圧は異なる電圧であってもよい。
【0085】
調整された駆動波形60は、
図3のブロック460および480に示されるように、調整された駆動波形60を一つまたは複数の作動要素140に印加するように構成される液滴吐出装置1に提供される。したがって、本発明による調整された駆動波形60を使用して液滴吐出装置1を動作させるための方法が提供される。液滴吐出装置1はアクチュエーター素子140を備え、アクチュエーター素子140は圧力チャンバーと部分的に境界を形成し、圧力チャンバーはノズル172と流体連通しており、アクチュエーター素子は液滴をノズルから吐出させるために変形するように配置される。方法は、
- 調整された駆動波形をアクチュエーター素子140に入力する工程を含み、調整された駆動波形は、液滴吐出パルス64、66と、液滴吐出パルスの前に配置される非吐出パルス62とを含み、
- 第一の遅延d1および/または非吐出パルス62の持続時間は、非吐出パルス62が圧力チャンバー内にプライミング圧力を生じさせ、かつ液滴吐出パルスが液滴吐出パルスの後に液滴を吐出させ、さらにチャンバー内のプライミング圧力を液滴吐出圧力までさらに増加させる。プライミング圧力とは、液滴が吐出されない圧力である。
【0086】
液滴吐出パルスが第一の液滴吐出パルス64と第二の液滴吐出パルス66とを含む調整された駆動波形60の変形例では、第二の液滴吐出パルス66は、第一の液滴吐出パルス64に対して反転されており、第二の液滴吐出パルスは、第一の液滴吐出パルス64に続き、チャンバー内のプライミング圧力を液滴吐出圧力までさらに増加させることによって液滴を吐出させる。
【0087】
調整された駆動波形60のいくつかの変形例では、第一の遅延d1は、非吐出プレパルス62の持続時間より短くてもよい。必要に応じて、またはその代わりに、非吐出プレパルス62の持続時間は、第二の液滴吐出パルスの持続時間と実質的に同じであってもよい。調整された駆動波形60のいくつかの変形例では、非吐出プレパルス62および/または非吐出ポストパルス68は、液滴吐出パルスに対して、または第二の液滴吐出パルス66に対して反転されてもよい。
【0088】
調整された駆動波形60を提供する上記の方法は、上記の実施形態およびその変形例に関して説明した様々な方法を実行するように構成されるコンピュータープログラムによって実行されることができる。プログラムは、コンピュータープログラムを実行するように構成されるコントローラー500、300によって提供されることができる
【0089】
さらに、コントローラー300を備える液滴吐出装置1が設けられ、コントローラー300は、調整された駆動波形60をアクチュエーター素子140に提供する工程を実行するように構成され、調整された駆動波形60は、液滴吐出パルスと液滴吐出パルスの前に配置される非吐出パルス62とを含み、第一の遅延d1および/または非吐出パルス62の持続時間は、非吐出パルス62がチャンバー内にプライミング圧力を生じさせ、そして液滴吐出パルスがチャンバー内のプライミング圧力を液滴吐出圧力までさらに増加させた後、液滴吐出パルスが液滴を吐出させる。コントローラー300は、駆動回路の形態を取ってもよく、または駆動回路を備えてもよい。
【0090】
総論
最小相対電圧が-20Vであり、最大相対電圧が+20Vである負のパルスおよび正のパルスの形態の第一および第二の液滴吐出パルス64、66を含む調整された駆動波形60は、説明のみを目的として図に例示されていることが理解されるであろう。調整された駆動波形60は、示されるパルスの形状もしくは電圧、ならびに/またはパルスの数および極性に決して限定されない。液滴吐出パルスは、任意の形状、例えば、台形、方形、三角形、鋸歯、または正弦波の形状を取ってもよい。さらに、液滴吐出パルスは、正パルスのみ、負パルスのみ、または正パルスおよび負パルスの任意の組み合わせのうちの一つまたは複数を含んでもよい。
【0091】
図6Aおよび
図6B、ならびに後続の図に示される液滴吐出パルスは、第一および第二の液滴吐出パルス64、66を含む。第一および第二の液滴吐出パルスの組み合わせは、二つのパルス間の遅延d2の調整を必要とする場合がある。したがって、中間遅延d2は別の波形パラメーターであってもよい。調整された駆動波形60は、圧力変動を低減するために、液滴吐出パルス間の中間遅延d2を調整することによって、または追加の非吐出パルスを印加することによってさらに修正されてもよい。
【0092】
総駆動波形持続時間をプレパルスの印加前と同じに維持するために、チャンバーの壁を内側に変形させるパルスの持続時間を、この場合は第二の(ここでは正の)液滴吐出パルス66を中間遅延d2と共に調整することができる。しかしながら、正パルス66のパルス持続時間を調整するには限界がある。正のパルス66のパルス持続時間は、様々な要因、例えば流体チャンバーの形状や吐出に使用される流体に依存する可能性がある。例えば、伸長方向に沿って(yに沿って)流体チャンバーの長さを短縮する場合、(正の)第二パルス66の持続時間を短縮する必要があり、したがって中間遅延d2を短縮する必要がある可能性がある。一方、伸長方向に沿って(yに沿って)増加した長さを有する流体チャンバーの場合、正パルス66の持続時間を増加する必要がある可能性があり、中間遅延d2を増加する必要がある可能性がある。さらに、第二の液滴吐出パルス66のパルス持続時間はまた、第一の液滴吐出パルス64のパルス持続時間にも依存する可能性がある。例えば、負の液滴吐出パルス64のパルス持続時間が正の液滴吐出パルス64のパルス持続時間よりも長い場合、吐出挙動が低下する可能性がある。負のパルス64の持続時間を固定し、中間遅延d2と組み合わせて第二の液滴吐出パルス66のパルス持続時間を調整することが望ましい場合がある。これにより、第二の液滴吐出パルス66の立ち下がり後のチャンバー圧力の減衰の改善につながる可能性がある。
【0093】
液滴吐出パルスは、第一の液滴吐出パルス64および第二の液滴吐出パルス66を含んでもよく、第二の液滴吐出パルス66は、第二の遅延d2の後で、第一の液滴吐出パルス64に続き、第二の液滴吐出パルス66は第一の液滴吐出パルス64に対して反転している。非吐出パルス62は第二の液滴吐出パルス66に対して反転されていてもよい。あるいは、非吐出パルス62が第一の液滴吐出パルス64に対して反転されていてもよい。液滴吐出パルスが第一および第二の液滴吐出パルス64、66を含むいくつかの変形例では、第一および第二の液滴吐出パルスの間に中間遅延d2を設けることができる。したがって、波形パラメーターは、さらに第一および第二の液滴吐出パルス64、66間に第二の中間遅延d2を、必要に応じてさらに第二の液滴吐出パルスの持続時間を含んでもよい。
【0094】
プレパルス62と液滴吐出パルスとの間の遅延d1は、調整された駆動波形60内のプレパルス62の極性および/または位置に依存することができる。必要に応じて、プレパルス62は、二つ以上の非吐出パルス、例えば第一のプレパルスおよび第二のプレパルスを含んでもよい。プレパルス62の持続時間は、液滴吐出パルスにおける第一および第二のパルス64、66のそれぞれの持続時間より短くてもよい。しかし、これは必須ではなく、代わりに、プレパルス62の持続時間は、液滴吐出パルスの少なくとも一つのパルス64、66の持続時間より長くてもよい。
【0095】
上の図は、周波数の関数として、したがって媒体速度の関数として一定の液滴速度を達成することができる調整された駆動波形60を例示している。駆動波形60のパルスは調整または制御されることができ、駆動波形60の立ち下がりの後にチャンバー圧力が低下し、流体チャンバー110内の残留圧力変動が減少し、同じチャンバーからの後続の液滴に、または隣接するチャンバーに及ぼすいかなる悪影響も回避される。調整された駆動波形60のこのような改善は、液滴吐出装置の高周波動作にとって有益である可能性がある。しかし、本発明は高周波動作にもパルス遅延の調整にも限定されないことに留意されたい。例えば、低周波動作の場合、残留圧力変動を高周波動作と同じ程度には減少させる必要がない場合がある。
【0096】
さらに、実施形態は、「バルク」壁共有液滴吐出ヘッドの作動要素に関して説明されているが、それらは他の液滴吐出ヘッド構成、例えば薄膜MEMSまたはバルクルーフモードアクチュエーターにも同様に適用可能である。さらに、公称および調整された駆動波形は、第一および第二の液滴吐出パルスを有することに限定されない。いくつかの変形例では、液滴を吐出するために一つだけの液滴吐出パルスを印加することができる。代替波形および液滴吐出ヘッド構成に適合するように実施形態およびその変形例を修正することは、日常的な実験を行う当業者の能力の範囲内である。
【0097】
説明を容易にするために、図は、同じ振幅の一つまたは複数のパルスを有する調整された駆動波形を示していることが理解されるであろう。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、任意のパルスの任意の振幅を想定することができる。また、液滴吐出パルスおよび液滴非吐出パルスは、絶対振幅が同じであってもよく、または絶対振幅が異なってもよい。パルスの振幅は、駆動回路によって支持される電圧に依存する場合がある。上記の図では、基準電圧はゼロボルトに等しくなる。あるいは、異なる値の基準電圧を用いた駆動波形も想定される。さらに、本明細書で説明される実施形態の別の変形例のパルスは、異なる極性である必要はなく、いくつかの例では、パルスは全て同じ極性を有する場合がある。さらに、単に説明を目的として、パルスは同じ振幅を有する方形パルスとして示されているが、これは必須ではなく、代わりに、一つまたは複数のパルスが他のパルスと比較して異なる形状および/または振幅を有する場合がある。
【0098】
上記の実施形態および上記のその変形例は、特定の用途要件について本発明による改善された駆動波形60を達成するために、単独でまたは組み合わせて使用されることができる
【国際調査報告】