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特表2024-522309絶縁ゲートを有する半導体素子、絶縁ゲートを有する半導体素子の製造方法、および絶縁ゲートを有する半導体素子を含むパワーモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-14
(54)【発明の名称】絶縁ゲートを有する半導体素子、絶縁ゲートを有する半導体素子の製造方法、および絶縁ゲートを有する半導体素子を含むパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240607BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240607BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240607BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L29/78 655B
H01L29/78 658F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558473
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 EP2022056160
(87)【国際公開番号】W WO2022200060
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21164635.1
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サルバトーレ,ジョバンニ
(72)【発明者】
【氏名】デ-ミキエリス,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ビターレ,ボルフガング・アマデウス
(57)【要約】
本開示は、絶縁ゲートを有する半導体素子、特にパワー半導体素子に関し、上記絶縁ゲートを有する上記半導体素子は、ゲートコンタクト(9)を備え、ゲートコンタクト(9)は、トレンチゲート構造(11,33)として形成され、上記半導体素子はさらに、半導体本体(2,31)を備え、半導体本体(2,31)上にゲートコンタクト(9)が配置され、ゲートコンタクト(9)は、非線形誘電体層(10,34)に少なくとも部分的に埋め込まれる。本開示はさらに、絶縁ゲートを有する半導体素子、特にパワー半導体素子の製造方法、および、絶縁ゲートを有する少なくとも1つのパワー半導体素子、特にパワー半導体素子を含むパワーモジュールに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ゲートを有するパワー半導体素子であって、
ゲートコンタクト(9)を備え、前記ゲートコンタクト(9)は、トレンチゲート構造(11,33)として形成され、前記パワー半導体素子はさらに、
半導体本体(2,31)を備え、前記半導体本体(2,31)上に前記ゲートコンタクト(9)が配置され、
前記ゲートコンタクト(9)は、線形ではない電荷-電圧依存性を示す非線形誘電体層(10,34)に少なくとも部分的に埋め込まれ、
前記ゲートコンタクト(9)は、前記ゲートコンタクト(9)を少なくとも部分的に取り囲む前記非線形誘電体層(10,34)によって前記半導体本体(2,31)から電気的に絶縁され、
前記非線形誘電体層(10,34)は、前記非線形誘電体層(10,34)を強誘電性にするために、少なくとも1つのさらなる材料でドープされた材料を含む、絶縁ゲートを有するパワー半導体素子。
【請求項2】
前記非線形誘電体層(10,34)において、単位体積当たりの電気双極子モーメントは、電場への非線形依存性を有する、請求項1に記載の絶縁ゲートを有するパワー半導体素子。
【請求項3】
前記トレンチゲート構造(11,33)は、側面側壁(12,40)を有し、前記側面側壁(12,40)に沿って前記ゲートコンタクト(9)は前記半導体本体(2,31)に貫入し、前記トレンチゲート構造(11,33)はさらに、前記半導体本体(2,31)内の前記トレンチゲート構造(11,33)の端部に位置する底部壁(13,39)を有し、
前記非線形誘電体層(10,34)は、前記底部壁(13,39)の領域よりも前記側面側壁(12,40)の領域においてより高い容量結合特性を有する、請求項1または2のいずれか1項に記載の絶縁ゲートを有するパワー半導体素子。
【請求項4】
前記非線形誘電体層(10,34)は、二酸化ジルコニウム(ZrO)および/またはシリコン(Si)でドープされた二酸化ハフニウム(HfO)を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁ゲートを有するパワー半導体素子。
【請求項5】
前記非線形誘電体層(10,34)のキュリー温度は、前記パワー半導体素子の動作温度よりも低い、請求項1から4のいずれか1項に記載の絶縁ゲートを有するパワー半導体素子。
【請求項6】
前記非線形誘電体層(10,34)の厚みは、1ナノメートルから100ナノメートルの間である、請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁ゲートを有するパワー半導体素子。
【請求項7】
前記パワー半導体素子は、シリコントレンチ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)(1,30,81)、炭化ケイ素トレンチIGBT、または炭化ケイ素トレンチ金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)である、請求項1から6のいずれか1項に記載の絶縁ゲートを有するパワー半導体素子。
【請求項8】
絶縁ゲートを有するパワー半導体素子の製造方法であって、
前記半導体素子のための半導体ウェーハを提供するステップ(70)と、
材料を強誘電性にするために前記材料を少なくとも1つのさらなる材料でドープすることによって、線形ではない電荷-電圧依存性を示す非線形誘電体層(10,34)をドープされた前記材料で形成するステップ(71)と、
前記半導体ウェーハ上にゲートコンタクト(9)を配置するステップ(72)とを備え、前記ゲートコンタクト(9)は、トレンチゲート構造(11,33)として形成され、前記ゲートコンタクト(9)は、前記非線形誘電体層(10,34)に少なくとも部分的に埋め込まれ、前記非線形誘電体層(10,34)によって前記半導体本体(2,31)から電気的に絶縁される、絶縁ゲートを有するパワー半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記ドープするステップ(71)において、材料を強誘電性にするために、線形誘電性挙動を有する前記材料が前記少なくとも1つのさらなる材料でドープされる、請求項8に記載の絶縁ゲートを有するパワー半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記ドープするステップ(71)において、二酸化ハフニウム(HfO)は、二酸化ジルコニウム(ZrO)および/またはシリコン(Si)でドープされ、前記非線形誘電体層(10,34)は、前記ドープされたHfOで形成される、請求項9に記載の絶縁ゲートを有するパワー半導体素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか1項に記載の絶縁ゲートを有する少なくとも1つのパワー半導体素子を備えるパワーモジュール(80)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゲートコンタクトと半導体本体とを備えた、絶縁ゲートを有する半導体素子、特にパワー半導体素子に関する。本開示はさらに、そのような絶縁ゲートを有する半導体素子の製造方法、およびそのような絶縁ゲートを有する半導体素子を含むパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated-Gate Bipolar Transistor)、金属絶縁半導体電界効果トランジスタ(MISFET:Metal-Insulating-Semiconductor Field-Effect Transistor)、または金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などの半導体素子が当該技術分野において周知である。IGBT、MISFETまたはMOSFETは、開発されたときに高効率と高速スイッチングとを兼ね備えるようになった、主に電子スイッチとして使用される三端子パワー半導体素子である。しかしながら、時が経つにつれて、そのようなMOSFETまたはIGBTの特性は、多くのスイッチングサイクルの後に、例えば経年変化および/または電気的摩耗の影響を受ける可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、先行技術は、その点に関して改良の余地を与える。したがって、例えばより高い耐久性を有するように絶縁ゲートを有する半導体素子を改良することが好都合であろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以下でさらに説明するように、本開示の実施形態は、全体的にまたは部分的に、当該技術分野における上記の欠点に対処する。これらは、上記の問題を解決または軽減する、添付の独立請求項に係る、改良された絶縁ゲートを有する半導体素子、改良された絶縁ゲートを有する半導体素子の製造方法、およびそのような絶縁ゲートを有する半導体素子を含むパワーモジュールを提供することによって少なくとも部分的に対処される。
【0005】
第1の局面によれば、絶縁ゲートを有する半導体素子、特にパワー半導体素子は、ゲートコンタクトを備える。上記ゲートコンタクトは、トレンチゲート構造として形成される。上記半導体素子はさらに、半導体本体を備え、上記半導体本体上に上記ゲートコンタクトが配置される。上記ゲートコンタクトは、非線形誘電体層に少なくとも部分的に埋め込まれる。
【0006】
少なくとも1つの実施形態において、上記非線形誘電体層は、線形ではない電荷-電圧依存性を示す。
【0007】
少なくとも1つの実施形態において、上記ゲートコンタクトは、上記ゲートコンタクトを少なくとも部分的に取り囲む上記非線形誘電体層によって上記半導体本体から電気的に絶縁される。
【0008】
本明細書に開示されている半導体素子の利点は、そのような半導体素子の半導体本体におけるアバランシェ発生の臨界条件が満たされることを引き起こし得るゲート絶縁層へのホットキャリア注入のリスクを低減または回避できる、というものである。そのようなアバランシェ発生は、例えば高電圧降下(dV/dt)条件および大電流によって特徴付けられるターンオフスイッチング事象中に従来の絶縁ゲートを有する半導体素子において起こる可能性がある。
【0009】
上記のホットキャリア注入は、従来の半導体素子のゲート絶縁層における酸化物劣化の影響をもたらす可能性がある。反復的なスイッチングサイクルの後、ホットキャリア注入は、素子自体のスイッチング特性に影響を及ぼし得る。
【0010】
第1の局面に係る半導体素子は、半導体素子における非線形誘電体を使用して、ゲート構造に沿った電圧勾配と組み合わせてそのようなゲート絶縁層のキャパシタンス-電圧誘電性挙動を活用することができる。それによって、そのような半導体素子の信頼性を向上させる。
【0011】
加えて、さらなる利点は、そのようなトレンチゲート構造のトレンチ形成に関連する問題も緩和または軽減することができ、狭ピッチ素子についてトレンチ間の電場のより効果的な空乏化および分布を実現することができる、というものである。
【0012】
半導体素子は、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、金属絶縁半導体電界効果トランジスタ(MISFET)、または金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)であり得る。そのようなゲートコンタクトを有するIGBTは、トレンチIGBTとしても知られている。そのようなゲートコンタクトを有するMOSFETは、トレンチMOSFETとしても知られている。そのようなトレンチゲート構造は、側面側壁を有し、この側面側壁に沿ってゲートコンタクトは半導体本体に貫入し、そのようなトレンチゲート構造はさらに、半導体本体内のトレンチゲート構造の端部に位置する底部壁を有する。底部壁は、側壁に対して実質的にまたは完全に垂直であり得る。側壁および底部壁に沿って非線形誘電体層が配置され得て、非線形誘電体層は、半導体本体からゲートコンタクトを少なくとも部分的に絶縁し、ゲートコンタクトを少なくとも部分的に取り囲む。
【0013】
ゲートコンタクトが配置される半導体本体は、半導体素子のp層およびn層を含む。それらの層は、例えば従来の半導体素子または開発予定の任意の種類の将来的な半導体素子に従って配置され得る。
【0014】
ゲートコンタクトが非線形誘電体層に少なくとも部分的に埋め込まれることは、少なくとも一部分において非線形誘電体層がゲートコンタクトを被覆することを意味する。ゲートコンタクトと非線形誘電体層とは、隣接していてもよく、共通の面を共有してもよい。非線形誘電体層は、ゲートコンタクトが半導体本体と直接接触しないようにトレンチ構造全体に沿って配置され得る。そのため、ゲートコンタクトは、非線形誘電体層によって半導体本体から分離され得る。
【0015】
非線形誘電体層において、単位体積当たりの電気双極子モーメントは、半導体素子内の電場への非線形依存性を有し得る。言い換えれば、非線形誘電体層は、線形ではない電荷-電圧依存性を示す。
【0016】
絶縁ゲートを有する半導体素子は、例えばシリコントレンチIGBTなどのシリコンベースの半導体素子であり得る。しかし、絶縁ゲートを有する半導体素子は、例えばSiCトレンチMOSFETまたはSiC IGBTなどの炭化ケイ素(SiC)半導体素子であってもよい。
【0017】
少なくとも1つの実施形態によれば、非線形誘電体層は、トレンチゲート構造の底部壁の領域よりも側面側壁の領域においてより高い容量結合特性を有し得る。本明細書において、側面側壁の領域は、側壁に隣接して位置する非線形誘電体層の部分を含み、底部壁の領域は、底部壁に隣接して位置する非線形誘電体層の部分を含む。
【0018】
非線形誘電体層が底部壁の領域よりも側壁の領域においてより高い容量結合特性を有するように設計された半導体素子は、非線形誘電体層の特性が半導体素子で使用されるという利点を有する。
【0019】
半導体本体において、半導体素子のスイッチング中に、トレンチゲート構造の側壁の少なくとも一方の側に隣接してチャネル領域が作成される。本明細書に記載されている非線形誘電体層は、トレンチゲート構造の底部壁の領域よりも、半導体本体におけるこのチャネル領域に隣接する側壁の領域において、より高い容量結合を提供する。
【0020】
一般に、半導体素子のスイッチング中に、トレンチゲート構造の底部壁の領域よりも側壁の領域において、それぞれにより低い電圧降下が発生する。これは、より高い電圧降下が発生する底部壁の領域におけるホットキャリア注入のリスクを軽減する。言い換えれば、そのような実施形態に係る半導体素子は、底部壁の領域において動的な電荷キャリアアバランシェに対する自己限定的なロバスト性を有するが、同時に、チャネル領域に隣接して位置する側壁の領域においてより高い容量結合特性を有する。したがって、側壁の領域での静電制御に必要なゲートキャパシタンスは、絶縁層を都合よく処理できない程度または絶縁層が許容できない漏れ電流にさらされ得る程度まで絶縁層の厚みを減少させることなく、十分に提供されることができる。
【0021】
非線形誘電体のそれらの特性を向上させるために、半導体素子およびゲート誘電体材料の設計は、それに応じて適合され得る。例えば、ゲート誘電体材料の組成、動作温度、非線形誘電体層の厚みなどが調整され得る。
【0022】
少なくとも1つの実施形態によれば、ゲートコンタクトが少なくとも部分的に埋め込まれる非線形誘電体層は、少なくとも1つのさらなる材料でドープされた材料を含む。
【0023】
それによって、非線形誘電体の特性は、強誘電性挙動を示すように調整され得る。
非線形誘電体層のそのようなドープされた材料は、誘電体層としてのそのような材料が、半導体素子でのゲート誘電体としての使用時に他の強誘電性材料の熱力学的不適合によって引き起こされる問題を克服することができるという点において有利である。
【0024】
少なくとも1つの実施形態によれば、非線形誘電体層のキュリー温度は、半導体素子の動作温度よりも低い。
【0025】
この文脈において、非線形誘電体層のキュリー温度は、強誘電性と常誘電性との間の相転移が非線形誘電体層において発生する温度である。より低い温度で強誘電特性を有する材料は、その特定のキュリー温度を超えると常誘電特性を有する。
【0026】
この場合、動作温度は、半導体素子の意図された使用中の動作温度を指し、この意図された使用は、たとえば半導体素子が使用されることが意図される特定の電子デバイス、周囲温度などの環境での上記半導体素子の使用を表す。さらに、この文脈における意図された使用は、深刻な損傷を受けることなく意図された使用にとって実質的に通常である環境(例えば、スイッチングの程度)での上記半導体素子の使用に関連する。
【0027】
非線形誘電体層のキュリー温度が半導体素子の動作温度よりも低いことの利点は、そのような動作において非線形誘電体層が常誘電特性を有するというものである。常誘電特性により、誘導分極(P)と外部電場(E)との間の依存性は、強誘電性材料のP-E依存性のヒステリシス挙動を持たない。非線形誘電体層が常誘電性挙動を有する(すなわち、ヒステリシスP-E依存性を持たない)動作温度を使用することは、例えば長期信頼性問題をもたらし得る経時的な閾値電圧ドリフトに起因する強誘電性材料における分極の時間依存性から生じる障害、または半導体素子のスイッチング中に生じる障害を低減または克服することができるという利点を有する。
【0028】
第2の局面によれば、絶縁ゲートを有する半導体素子の製造方法は、
上記半導体素子のための半導体ウェーハを提供するステップと、
上記半導体ウェーハ上にゲートコンタクトを配置するステップとを備え、上記ゲートコンタクトは、トレンチゲート構造として形成され、上記ゲートコンタクトは、非線形誘電体層に少なくとも部分的に埋め込まれる。
【0029】
少なくとも1つの実施形態によれば、上記方法は、特に、強誘電性にするために材料を少なくとも1つのさらなる材料でドープすることによって、線形ではない電荷-電圧依存性を示す非線形誘電体層を上記ドープされた材料で形成するステップを備える。
【0030】
少なくとも1つの実施形態によれば、上記ゲートコンタクトは、上記非線形誘電体層によって上記半導体本体から電気的に絶縁される。
【0031】
第1の局面に関して開示および記載された実施形態および利点は、第2の局面にも等しく適用される。
【0032】
第2の局面に係る方法の利点は、上記の利点を有する半導体素子を効率的かつ簡単明瞭な方法で形成できるというものである。上記の方法によれば、トレンチの側壁の領域においてより高い容量結合を有するとともにトレンチの底部壁の領域において動的なアバランシェに対する自己限定的なロバスト性を有する酸化物絶縁層、すなわち非線形誘電体層を1回の処理ステップで形成することができる。
【0033】
第3の局面によれば、パワーモジュールは、第1の局面に係る絶縁ゲートを有する少なくとも1つのパワー半導体素子を含む。
【0034】
第1および第2の局面の実施形態および利点は、第3の局面にも等しく適用され、逆もまた同様である。
【0035】
上記の局面のいずれかにおける半導体素子は、例えば、例えばシリコントレンチIGBTもしくは炭化ケイ素トレンチIGBTなどの絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、または、炭化ケイ素トレンチ金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)であり得る。
【0036】
さらなる実施形態および利点は、添付の図面およびその説明において開示されている。図面では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタに関して本開示が詳細に説明されている。しかしながら、この例は、本開示の範囲を限定するものではない。開示されている特徴は、その他の種類の半導体素子にも等しく適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本開示の一実施形態に係る、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の一部の概略断面図である。
図2】線形誘電体および非線形誘電体のキャパシタンス-電圧曲線の図である。
図3】強誘電性材料および常誘電性材料の外部電場への誘電率依存性の図である。
図4】スイッチング事象中の従来のIGBTの特性を示す図である。
図5】スイッチング事象中の本開示の一実施形態に係るIGBTの特性を示す図である。
図6】さまざまな材料の分極および誘電率、ならびに印加電場へのそれらの依存性を示す図である。
図7】本開示の一実施形態に係る、IGBTの製造方法のフローチャートを示す図である。
図8】本開示の一実施形態に係る、複数のIGBTを有するパワーモジュールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、本開示の一実施形態に係る、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の一部の概略断面図である。IGBT1は、さまざまな層を有する半導体本体2を含む。下から上に、半導体本体2は、コレクタ層3を含み、コレクタ層3の上に任意のバッファ層4を含み、バッファ層4の上にドリフト層5を含む。ドリフト層5は、コレクタ層3およびバッファ層4の各々よりも大幅に厚い。本明細書に示されている実施形態では、ドリフト層5は、例えばバッファ層4の5~10倍厚い。ドリフト層5の上には、ドリフト層5の表面の一部のみに沿って延在するp-ウェル6が配置されている。p-ウェル6の上にはn-ソース領域14が配置されている。
【0039】
半導体本体2の下端では、コレクタ層3の下にコレクタコンタクト7が配置されている。半導体本体2の上端には、エミッタコンタクト8が配置されている。エミッタコンタクト8は、p-ウェル6と部分的に接触している。
【0040】
ドリフト層5とエミッタコンタクト8との間にはゲートコンタクト9が配置されている。ゲートコンタクト9は、非線形誘電体層10に埋め込まれている。非線形誘電体層10は、ゲートコンタクト9がエミッタコンタクト8およびドリフト層5のような任意のドープ層から空間的に離間されて電気的に絶縁されるようにゲートコンタクト9を取り囲んでいる。非線形誘電体層10はさらに、非線形誘電体層10に隣接して配置されたpウェル6からゲートコンタクト9を空間的に離間する。それによって、非線形誘電体層10は、ゲートコンタクト9を半導体本体2およびエミッタコンタクト8から電気的に絶縁する。
【0041】
ゲートコンタクト9は、トレンチゲート構造11として形成されている。これは、ゲートコンタクト9が、この実施形態ではドリフト層5の主要延長面に平行に延在する第1の部分を有することを意味する。さらに、ゲートコンタクト9は、ゲートコンタクト9が配置される半導体本体2を貫通する第2の部分を有する。図1に示される実施形態では、ゲートコンタクト9の第1の部分および第2の部分は互いに垂直である。そのようなIGBT1は、トレンチIGBTとも呼ばれる。
【0042】
トレンチゲート構造11は、側面側壁12を有し、この側面側壁12に沿ってトレンチゲート構造11は半導体本体2に入り込み、トレンチゲート構造11はさらに、半導体本体2内のトレンチゲート構造11の端部に位置する底部壁13を有する。この実施形態では、底部壁13は側面側壁12に垂直である。この場合の底部壁13は、半導体本体2の主要延長エリアに平行であり、この場合の側面側壁12は、半導体本体2の主要延長エリアに垂直である。IGBT1のスイッチング中に、半導体本体2において、エミッタコンタクト8に面する側面側壁12の側にチャネル領域が作成される。代替的にまたは追加的に、トレンチゲート構造11のもう一方の側にもエミッタコンタクトがあってもよく、この場合、スイッチング中に、半導体本体2において、トレンチゲート構造11のもう一方の側に代替的または追加的なチャネル領域が作成されるであろう。トレンチゲート構造11の側壁12全体および底部壁13に沿って非線形誘電体層10が配置されることによって、ゲートコンタクト9が半導体本体2から絶縁される。
【0043】
この場合、非線形誘電体層10は、非線形の誘電特性を有する材料で作られる。この材料における単位体積当たりの電気双極子モーメントは、IGBT1に存在する電場への非線形依存性を有する。そのような挙動は、例えば図2の右側の図の曲線に示されている。この図には、非線形誘電体のキャパシタンス-電圧曲線が示されている。材料のキャパシタンスは、外部電場によって変化する。それと比較して、図2の左側の図は、直線である電荷-電圧(Q-V)曲線を示す線形誘電体材料の静電容量特性を示している。この曲線の傾きは、材料のキャパシタンスを示す。
【0044】
そのようなS字型の非線形誘電性挙動は、強誘電性材料および常誘電性材料に典型的であり、それらの誘電率依存性は、図3の図に示されている。左側の図は、強誘電性非線形誘電体材料の外部電場への誘電依存性を示しており、図3の右側の図は、常誘電性非線形誘電体材料の外部電場への誘電依存性を示している。
【0045】
図3の両方の曲線に見られるように、誘電率は電場とともに変化する。この挙動は、図1におけるIGBT1の非線形誘電体層10にとって有利である。なぜなら、より高い電場が発生するトレンチゲート構造11の領域、すなわちより高い電圧降下を有する領域において、より低い容量結合が実現されるからである。これは、図1のIGBT1などのIGBTのスイッチング中のホットキャリア注入のリスクを低減または回避することができる。非線形誘電体層10を用いてIGBT1におけるホットキャリア注入のリスクを低減または回避することによって、IGBT1の耐久性が向上する。なぜなら、それによって、反復的なスイッチングサイクルの後に発生し得る従来の絶縁層の酸化物劣化の影響が減少するからである。そのような劣化の影響は、IGBTのスイッチング特性に影響を及ぼし得るため、それらを回避することによって耐久性が向上する。
【0046】
スイッチング事象中の従来のIGBTのいくつかの特性が図4に示されている。図4の左側の図は、従来のIGBT素子の、通常のスイッチング条件下でのターンオフ波形の一例を示している。第1の曲線100は、そのようなターンオフスイッチング中のコレクタ-エミッタ電圧の経時的な電圧を示しており、第2の曲線200は、第1の曲線100のコレクタ-エミッタ電圧の高電圧降下(dV/dt)によって引き起こされる、そのようなターンオフスイッチング中の経時的なキャリアアバランシェ発生を示している。上記の図に見られるように、この場合には相当なアバランシェ発生が起こった。
【0047】
アバランシェ発生の領域は、図4の右側の図に描かれており、図4の右側の図は、従来のIGBT20の一部を示す。上記の図4の右側の図には、従来のIGBT20の半導体本体21、パッシベーション層22、トレンチゲート構造23および絶縁層24が示されている。
【0048】
さらに、アバランシェ発生(すなわち、図4の左側の図の第2の曲線200)のピーク210中の半導体本体21における衝突電離は、図4のこの右側の図に描かれている。ここに見られるように、最も高い衝突電離を有する第1の領域25、高い衝突電離を有する第2の領域26、平均的な衝突電離を有する第3の領域27があり、半導体本体21における残りの領域28は、低い衝突電離を有する。この衝突電離の領域的描写は、説明を容易にするために明らかに簡略化されている。この図から学ぶことができるのは、最も高い衝突電離、すなわちアバランシェ発生は、トレンチゲート構造23の底部壁29の領域において起こるということである。
【0049】
図5は、ターンオフスイッチング中の本開示の一実施形態に係るIGBT30の特性を示す図である。図5の左側の図は、図4の従来のIGBT20との比較を容易にするために、IGBT30の一部を示している。図5に係るIGBT30も、半導体本体31、パッシベーション層32、トレンチゲート構造33、およびこの場合IGBT30の非線形誘電体層34を示している。ここに示されている配置は、図1に示されるIGBT1の配置とはわずかに異なっているが、本開示に関するそれらの特徴は、取り替えがきくものであり得る。
【0050】
図5の左側の図は、IGBT30における静電電位の分布を示している。第1の領域35では最も低い静電電位が発生し、第2の領域36では低い静電電位が発生し、第3の領域37では平均的な静電電位が発生し、残りの領域38では高い静電電位が発生する。ここに見られるように、トレンチゲート構造33の底部壁39の領域において、高い静電電位、すなわち高い電圧降下が発生する。側面側壁40の領域の一部において、最も低い静電電位、すなわち最も低い電圧降下が発生する。
【0051】
非線形誘電体層34における電圧電位への誘電依存性を示す図5の右側の図からさらに分かるように、トレンチゲート構造33に沿った電場を介した誘電率調整の結果として、最も低い電圧降下を有するエリアにおいてより高い容量結合が発生し、高い電圧降下を有するエリアにおいてより小さな結合が発生する。
【0052】
これは、高電圧降下が発生する底部壁39の領域におけるホットキャリア注入のリスクを軽減する。言い換えれば、そのような実施形態に係るIGBT30は、底部壁39の領域において動的な電荷キャリアアバランシェに対する自己限定的なロバスト性を有するが、同時に、最も低い電圧降下を有する側面側壁40の領域においてより高い容量結合特性を有する。
【0053】
非線形誘電体層10,34のそれらの特性を向上させるために、IGBTおよびゲート誘電体材料の設計は、それに応じて適合され得る。例えば、ゲート誘電体材料の組成、動作温度、非線形誘電体層の厚みなどが調整され得る。
【0054】
非線形誘電体層10,34の厚みは、例えば1から500ナノメートルの間であり得る。ゲートキャパシタンスに関するスケーリング規則にとっては、より薄い誘電体層が有利であろう。より厚い誘電体層は、製造が容易および/または安価であり得て、ゲート-エミッタ漏れに関連する損失を減少させることができる。
【0055】
ゲートコンタクト9が少なくとも部分的に埋め込まれる非線形誘電体層10,34の材料として、実質的に線形の誘電性挙動を有する第1の材料が使用され得て、この第1の材料は、強誘電性にするために少なくとも1つの第2の材料でドープされる。例えば、完成した素子(例えば、IGBT1,30)は、ベースまたはバルク材料としての第1の材料と、そこに含有される不純物としての第2の材料とを含む層を含み得る。
【0056】
その一例は図6に示されている。図6は、二酸化ハフニウム(HfO)-二酸化ジルコニウム(ZrO)系の薄膜における、印加電場における分極ヒステリシスループおよび印加電場に依存する誘電率を示す図である。HfOは、実質的に線形の誘電性挙動を有する。HfOをZrOでドープすることによって、強誘電性挙動が実現される。代替的に、HfOは、シリコン(Si)でドープされてもよい。そのような材料は、半導体素子でのゲート誘電体としての使用時に他の強誘電性材料の熱力学的不適合によって引き起こされる問題を克服する。
【0057】
非線形誘電体層10,34のさらなる改良は、半導体素子の動作温度よりも低いキュリー温度を有する非線形誘電体層10を有するようにIGBT1,30を設計することによって実現することができる。例えば、動作温度は、定格電圧、電流または温度定格のうちの1つ以上の範囲内などの予め規定された動作条件の範囲内のIGBT1,30の動作温度であってもよい。
【0058】
非線形誘電体層10,34のキュリー温度において、強誘電性と常誘電性との間の相転移が発生する。より低い温度で強誘電特性を有する材料は、上記のキュリー温度を超えると常誘電特性を有する。
【0059】
そのような動作において、非線形誘電体層は常誘電特性を有する。常誘電特性により、誘導分極(P)と外部電場(E)との間の依存性は、強誘電性材料のP-E依存性のヒステリシス挙動を持たない。非線形誘電体層が常誘電性挙動を有する(すなわち、ヒステリシスP-E依存性を持たない)動作温度を使用することは、強誘電性材料における分極の時間依存性から生じる障害をIGBTのスイッチング中に克服または低減することができるという利点を有する。材料のキュリー温度は、材料の組成を変更することによって特定の範囲内で調整することができる。バッファ酸化物層の追加もそのようなパラメータに影響を及ぼし得る。
【0060】
図7は、本開示の一実施形態に係る、IGBTの製造方法のフローチャートを示す図である。第1のステップ70において、IGBTのための半導体ウェーハが提供される。第2のステップ71において、線形誘電性挙動を有する材料が少なくとも1つのさらなる材料でドープされ、上記ドープされた材料で非線形誘電体層が形成される。第3のステップ72において、半導体ウェーハ上にゲートコンタクトが配置され、ゲートコンタクトは、トレンチゲート構造として形成され、非線形誘電体層に少なくとも部分的に埋め込まれる。半導体ウェーハは、第1のステップ70の直後、または、第2のステップ71もしくは第3のステップ72のいずれかの後に、公知の処理ステップに従って処理されて、IGBTのための半導体本体が受け取られ得る。上記の方法によって、例えば図1または図5に係るIGBT1またはIGBT30を製造することができる。
【0061】
図8は、本開示の一実施形態に係る、複数のIGBT81を有するパワーモジュール80を示す図である。IGBT81は、例えば図1に関して開示および記載されたようなものである。当然のことながら、そのようなパワーモジュール80は、本明細書において図示またはさらに説明されていないがそのようなパワーモジュール80の公知のさらなる素子に対応し得る、例えばパワー半導体ダイオードなどのさらなる素子を含んでいてもよい。パワーモジュール80は、0.5キロボルト以上の電圧で使用されるように設計され得る。
【0062】
本明細書に示されているIGBT1,30,81は、例示である。ゲートコンタクト9を半導体本体2,31から少なくとも部分的に絶縁する非線形誘電体層10,34は、その他の種類のIGBTまたは他のトランジスタにも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1,30,81 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)
2,21,31 半導体本体
3 コレクタ層
4 バッファ層
5 ドリフト層
6 p-ウェル
7 コレクタコンタクト
8 エミッタコンタクト
9 ゲートコンタクト
10,34 非線形誘電体層
11,23,33 トレンチゲート構造
12,40 側壁
13,29,39 底部壁
14 n-ソース領域
20 従来のIGBT
22,32 パッシベーション層
24 絶縁層
25,35 第1の領域
26,36 第2の領域
27,37 第3の領域
28,38 残りの領域
70~72 ステップ
80 パワーモジュール
100 第1の曲線
200 第2の曲線
210 第2の曲線のピーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】