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特表2024-522313非木材原料を処理するためのプロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-14
(54)【発明の名称】非木材原料を処理するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   D21C 9/02 20060101AFI20240607BHJP
   D21H 11/12 20060101ALI20240607BHJP
   D21H 11/04 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
D21C9/02
D21H11/12
D21H11/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023568431
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 SG2022050268
(87)【国際公開番号】W WO2022235212
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】10202104539U
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523416508
【氏名又は名称】アジア・パシフィック・リソーシズ・インターナショナル・ホールディングス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ギンティン,エデュワード
(72)【発明者】
【氏名】アンテス,ルディニ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,イン・イン
(72)【発明者】
【氏名】パンディタ,スリャ・ダルマ
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA05
4L055BA03
4L055EA20
4L055EA24
4L055EA32
(57)【要約】
非木材原料を、特に空果房(EFB)5原料を前処理する方法、及びこれらの方法を用いて得られるパルプが記載される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非木材原料を前処理する方法であって、
(a)前記非木材原料を洗浄すること;
(b)洗浄された前記非木材原料を酸溶液と接触させること;及び
(c)洗浄された前記非木材原料をアルカリ溶液と接触させること
を含み、前記方法が工程(b)と工程(c)との間に付加的な洗浄工程(d)を含む、前記方法。
【請求項2】
工程(b)が工程(c)の前に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)において、前記非木材原料が、水及び/または水蒸気を使用して洗浄される、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)において、洗浄された前記非木材原料が、80~100℃の範囲の温度の前記酸溶液と30~60分間の継続期間にわたって接触する、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項5】
工程(d)において、前記非木材原料が、水及び/または水蒸気を使用して洗浄される、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)において、洗浄された前記非木材原料が、80~100℃の範囲の温度の前記アルカリ溶液と30~60分間の継続期間にわたって接触する、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項7】
(f)工程(a)~(d)の後に得られた生成物を洗浄すること
をさらに含む、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項8】
非木材原料から溶解パルプ(DP)を製造する方法であって、
(i)請求項1~7のいずれか1項に記載の方法を用いて前記非木材原料を前処理すること;及び
(ii)前処理された前記非木材原料を蒸煮してDPを製造すること
を含む、前記方法。
【請求項9】
非木材原料からクラフトパルプ(KP)を製造する方法であって、
(i)請求項1~7のいずれか1項に記載の方法を用いて前記非木材原料を前処理すること;及び
(ii)前処理された前記非木材原料を蒸煮してKPを製造すること
を含む、前記方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法によって得ることができる溶解パルプ。
【請求項11】
請求項9に記載の方法によって得ることができるクラフトパルプ。
【請求項12】
約80ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材原料由来の溶解パルプ。
【請求項13】
約10ppm以下のFe含有量を有する、請求項10または請求項12に記載の溶解パルプ。
【請求項14】
約75ppm以下のCa含有量を有する、請求項10、12または13のいずれか1項に記載の溶解パルプ。
【請求項15】
約0.12%以下の灰分含有量を有する、請求項10または請求項12~14のいずれか1項に記載の溶解パルプ。
【請求項16】
約600ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材原料由来のクラフトパルプ。
【請求項17】
約0.35重量%以下の灰分含有量を有する、請求項11または請求項16に記載のクラフトパルプ。
【請求項18】
セルロース繊維の製造における請求項10または請求項12~15に記載の溶解パルプ(DP)の使用。
【請求項19】
紙の製造における請求項11または請求項16~17に記載のクラフトパルプ(KP)の使用。
【請求項20】
前記非木材原料が非木材空果房(EFB)である、
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法、請求項10もしくは請求項12~15のいずれか1項に記載の溶解パルプ、請求項11、16もしくは17のいずれか1項に記載のクラフトパルプ、または請求項18もしくは請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非木材原料、特に、パーム油の抽出後に形成された廃棄物である空果房(EFB)原料を、前処理する方法であって、前処理された非木材原料が、後に印刷筆記用紙、ティッシュペーパー、板紙及び流行服などの産業における用途のための紙または織物材料グレードパルプの製造に使用するためのものである、当該方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
地球規模での紙パルプ産業用の木材原料の不足と相まって、環境持続可能性がますます重要視されていることは、代替となる非木材原料供給源を探すことに焦点が移り変わったことを意味している。繊維の製造において再生可能原材料の使用に向かう流れがある繊維産業についても、同じことが言える。
【0003】
木材原料に対する興味深い代替物を提供する非木材原料の例としては、アブラヤシ空果房(EFB)繊維、竹、ケナフ、コムギ/イネ藁、ココナツコイル及びバガスが挙げられる。
【0004】
アブラヤシ(elaeis guineensus)は、典型的には東南アジア諸国、例えば、インドネシア、マレーシア及びタイに生育しているが、植物油、具体的にはパーム油の重要な供給源である。パーム油を抽出する間に様々なバイオマスが生成する。生成する最も豊富なバイオマスの1つは、果房から果実及び堅果が取り外される、油抽出プロセスの最初の工程によって生成する、空果房(EFB)繊維である。EFB発生量は年々増加しており、2015年だけでもインドネシア単独で3千万トンよりも多く生成した。これは、それ自体で環境問題を呈する。なぜなら、しばしばこの廃物は、単純に腐るまま放置され、齧歯動物を引き寄せるからである。
【0005】
EFBは、パルプ用原材料としてそれを興味深いものにする複数の特性を有する-それは、高いセルロース繊維含有量、及び低いリグニン含有量を有し、それは広葉樹繊維と類似しており、高品質の紙及び再生セルロースを提供するために使用できる。EFBを原材料として使用し、次いでこれを、化学パルプを生成するために蒸煮に供し、そうして、そこから紙及び再生セルロース、例えば、ビスコース、モダール、リヨセル及び他の人工セルロース(MMC)繊維を生成することが可能になる、プロセスが知られている。
【0006】
EFB及び他の非木材は製紙産業及び繊維産業の両方において木材の有望な代替物であるが、これらの原料に関して生じる問題は、加工、及び/または最終製品の品質のいずれかに関する問題を引き起こす不純物が存在することである。これは、EFB及び他の非木材を原料として使用する場合に蒸解プロセスが、これらの不純物を除去するための前処理工程を含むように適合している必要があることを意味する。特に問題となる不純物としては、(脂肪酸の形態の)油、シリカ、灰分、及び他のノンプロセスエレメント(NPE)含有量が挙げられる。油、灰分残渣及びNPEを効果的に除去するためのプロセスを開発することは可能であったが、シリカの除去は困難であることが分かっている。
【0007】
非木材原料全般に関して困難であるとはいえ、EFB原料からのシリカの除去は著しく困難である。EFBの研究により、それが、繊維中に埋め込まれたシリカ塊からなる特定の構造を有していることが明らかになったが(図1参照)、EFBの強度及び剛性に寄与しているのはこれらのシリカ塊であると考えられる(Law et al.,(2007)Bioresources 2(3),351-362も参照のこと)。しかしながら、上述されるようにパルプ工場におけるシリカの存在は、複数の理由、具体的には、回収に関する問題、乏しい製品品質、及び加工中のシリカ堆積の結果としての機械への損傷ゆえに、望ましくない。そのため、EFB原料を前処理してシリカを除去する方法が研究されている。現在までのところ、前処理方法は、物理的、化学的及び生物学的処理、例えば、水による洗浄、酸による処理、超音波処理、真菌/酵素処理、及びアルカリによる処理を含むものであった(Agusta et al.,(2018)Journal of Japan Tappo 6,641-49、Tye et al.(2013)Procedia Environmental Sciences 20,328-335、Farah et al.,2014,BioResource 9(1),938-951、Nik et al.,(208),MCRJ Special Issue 4(2),117-128、Zawati et al.,(2015)Wood Research 60(1),157-166、Harsono et al.,(2015),Journal of Wood Science 62,55-73、Rusdan(2002)Oil Palm Bulletin 44,19-24)、Rusdan et al.,(2018)Journal of Tropical Forest Science 19(3),121-126、Bahrin et al.,(2012)Biorescources 7(2),1784-1801、及びIsroi et al.,Molecules 17(12),14995-15002を参照のこと)。
【0008】
いかなる前処理プロセスに関しても、不純物、この例ではシリカ塊の除去と、前処理プロセスによってEFB原料に生じる損傷とを調和させる必要がある。これらの前処理のほとんどは、バイオエタノール製造か、フルフラールの製造か、化学パルプの製造かのいずれかのために糖を製造することの文脈で記述がなされている。対照的に、本発明は主として、シリカの存在によってのみならず、前の加工工程の間に受けた任意の繊維損傷によっても著しく影響を受けやすい繊維産業用の人工セルロース繊維(再生セルロース)、例えばビスコースを製造するための、プロセスに関する。このように、既知のプロセスがその企図された最終用途のために十分なシリカを除去し得るとはいえ、残存するシリカのレベルは依然として、再生セルロース繊維の繊維産業で許容可能となるには高すぎる。
【0009】
したがって、最終的に繊維製造に使用されることになる非木材原料のための、非木材原料を損傷することなく高レベルのシリカを除去する前処理プロセスが必要とされていることは、明らかである。
【発明の概要】
【0010】
この背景に対抗して本発明者らは、原料のセルロース性成分に著しい損傷を生じさせるのを回避しながら、非木材原料からシリカ塊を除去するのに有効な、前処理プロセスを同定した。
【0011】
より詳しくは、本発明は、非木材原料を前処理する方法であって、
(a)非木材原料を洗浄すること;
(b)洗浄された非木材原料を酸溶液と接触させること;及び
(c)洗浄された非木材原料をアルカリ溶液と接触させること
を含み、当該方法が工程(b)と工程(c)との間に付加的な洗浄工程(d)を含む、当該方法を提供する。
【0012】
好都合なことに、本発明者らは、工程(a)、(b)、(c)及び(d)を行うことによってこの前処理プロセスが、シリカをほとんど含有しない原料をもたらしつつ、その構造的一体性を保持し、かつ原料のセルロース性成分に対する損傷を最小限に抑えることを見出した。詳しくは、本発明者らは、驚くべきことに、望ましくない構造的損傷を回避するのに十分に温和な条件の下で各々行われるものである一連の工程を組み合わせることによって、問題となるシリカ塊を原料の繊維から効果的に除去することが可能であることを見出した。このことは、これらのシリカ塊を除去するには極端な及び/または厳しい条件が必要であるという、産業における以前の理解を考えれば、特に驚くべきことである。
【0013】
さらには、本発明の前処理方法は、既存の木粉/破砕チップ製造所、オルガノソルブ及びソーダまたはクラフトパルプ工場に簡単に組み込まれることができる。それは、統合型パルプ工場、すなわち、原料から最終製品までの全部のプロセスが実施される工場で用いる上で特に好都合である。なぜなら、プロセスの後期段階からの反応物質を、前処理方法、特に工程(b)に再利用できるからである。これは効率を改善し、廃物を最小限に抑える。
【0014】
本発明はさらに、約80ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材原料由来、特に非木材空果房(EFB)原料由来の溶解パルプ(DP)を提供する。好都合なことに、DP中に存在するシリカのレベルが低いことは、後にそれを繊維産業用の再生セルロース繊維に加工して高品質の製品を製造できることを意味する。特に、シリカがDP中になおも存在している場合には、セルロース溶解に関する問題が生じるであろうし、後にDPから繊維を引き出すために使用される紡糸口金が詰まるであろう。
【0015】
本発明は、約600ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材原料由来、特に非木材空果房(EFB)原料由来のクラフトパルプ(KP)をさらに提供する。好都合なことに、KP中に存在するシリカのレベルが低いことは、後にそれを、使用される蒸解機を損傷することなく紙製品に加工できることを意味する。特に、シリカがKP中になおも存在している場合、それは、機械を損傷する可能性があるだけでなく最終製品に穴が空くことを招くこともある蒸解機におけるその堆積(つまり、砂堆積物)を招くことがある。本明細書に記載の方法によって製造されたKPは、これらの問題に悩まされない。
【0016】
本発明者らは、本発明の方法に従って前処理された原料から得られたDP及びKPが、従来の木材原料を使用して得られたDP及びKPと等価な、またはそれよりも良好な品質を有することを見出した。また、それは同程度の収率で得られ得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の前処理方法は、様々な非木材原料と共に用いられ得る。これに関して、「非木材原料」という用語は、本明細書において、植物系ではあるが木材供給源に由来していない任意の原料を表すために使用される。好適な非木材原料の例としては、アブラヤシ空果房(EFB)、竹、バガス、ケナフ、ココナツコイル、及びコムギ/イネ藁が挙げられる。好ましくは、非木材原料は、EFB原料、または竹原料である。最も好ましくは、木材原料はEFB原料である。
【0018】
「ノンプロセスエレメント(NPE)」という用語は、本明細書において、シリカ及び灰分以外の、望ましくない無機不純物、例えば、鉄及びカルシウムを含めた金属を指して使用される。
【0019】
本発明の前処理プロセスの第1工程は、非木材原料を洗浄する工程(a)である。この洗浄工程は、非木材原料から残存油を除去する目的のために最初に含まれる。洗浄は、水及び/または水蒸気のいずれかを使用して行われ得る。好ましくは、洗浄工程(a)は、80℃~100℃の範囲の温度で実施される。洗浄工程(a)において水をこの温度範囲の下端で使用する場合には水と水蒸気との混合物が存在する一方、温度範囲の上端では水蒸気が存在することは、認識されよう。本発明の方法の工程(a)の間、非木材原料を、好ましくは穏やかな機械的撹拌によって、機械的に撹拌することが好ましい。非木材原料をスクリュー型コンベアの中に通すことによって成し遂げられ得るような、ほんの少しの程度の撹拌を、非木材原料に対して行うことが好ましい。当業者であればスクリュー型コンベアを熟知しているであろうが、このスクリュー型コンベアの一例を図11に示す。
【0020】
本発明の方法の工程(a)の前に、非木材原料は、産業において標準であるプロセス工程、例えばシュレッダー処理に供されていてもよい。非木材原料がシュレッダー処理される場合、結果として得られる繊維は約5mm~約100mmの範囲の長さを有することが好ましい。
【0021】
最初の洗浄工程(a)の後、洗浄された非木材原料を、方法の工程(b)において酸溶液と接触させる。非木材原料を酸と接触させることで、任意の残存金属不純物の含有量が低減される。特にそれは、原料からの鉄及びカルシウム残渣を除去する上で有効である。さらには、理論に拘泥することは望まないが、この酸処理工程は、供給原料からシリカを除去するプロセスにおいても極めて重要であると考えられる。先に記載したように、非木材原料、特にEFB原料は、繊維の表面にシリカ塊が埋め込まれた構造を有する。繊維を酸と接触させることによって繊維が収縮し、今度はそれによって、シリカ塊を排除するプロセスが始まる。
【0022】
酸溶液は、酸及び水を含む。酸溶液を形成するために任意の酸を使用してよい。好ましくは、使用される酸は、硫酸、塩酸、二酸化塩素の水溶液、及びそれらの混合物からなる群から選択される。後述されることになるが、パルプ工場は、典型的には漂白工程を含む。本発明の前処理方法の利点は、前処理方法の工程(b)で使用する酸が、前処理方法の工程(b)にそのまま再利用されている漂白工程で使用された酸によって提供され得、この結果として、効率が改善され得、廃物及びコストの発生が最小限に抑えられ得ることである。
【0023】
工程(b)の酸溶液の中には酸が約0.2~5.0%の範囲の濃度で含まれている。このことは、酸溶液が、シリカ不純物の除去を容易にするように非木材原料の繊維を収縮させるのに十分に濃縮されているが、原料、特に原料中のセルロースに対する望ましくない損傷を最小限に抑えるのに十分に希薄であることを、保証する。
【0024】
好ましくは、工程(b)をpH1~3の範囲で行う。
【0025】
工程(b)は、概して、約80℃~約100℃の範囲の温度で行われる。工程(b)を、上昇した温度で実施することが好ましい。なぜなら、それによって工程(b)の進行する速度が増加し、プロセスの効率も向上するからである。
【0026】
工程(a)からの非木材原料が、先に記載されるような上昇した温度で洗浄されている場合、同様に工程(b)も上昇した温度(すなわち、約80~約100°の範囲の温度)で実施することによって、洗浄された非木材原料を冷却する工程を工程(b)の前に含める必要性が回避されるので、全体的なプロセスの効率が改善される。
【0027】
工程(b)は、繊維の収縮をもたらすのに十分な時間にわたって行われる。好ましくは、工程(b)は、約30~約60分間の範囲の継続期間を有する。工程(b)が進行した程度は、除去されるべき不純物、特に、灰分残渣、NPE及びシリカの含有量を測定することによって計測監視され得る。工程(b)の最後には、典型的に、シリカ含有量が少量減少しているであろう一方で、灰分残渣及びNPEはほぼ完全に除去されているであろう。当業者であれば、好適な品質測定について熟知しているであろう。
【0028】
本発明の方法の工程(c)では、洗浄された非木材原料をアルカリ溶液と接触させる。原料をアルカリ溶液と接触させることは、シリカ不純物を除去することにさらに役立つ。より具体的には、原料をアルカリ溶液と接触させることによって、原料からのシリカの除去に寄与する繊維の膨張がもたらされる。
【0029】
工程(c)は工程(a)の後に行われるが、工程(b)の前または後のいずれにおいて実施されてもよい。本発明による1つの方法では、工程(c)を工程(b)の前に実施する。本発明による代替となる方法では、工程(c)を工程(b)の後に実施する。好ましくは、工程(c)を工程(b)の後に実施する。これは好都合なことである。なぜなら、より詳しくは後述されることになるが、前処理の後に非木材原料を蒸煮してパルプを形成するからである。好ましい蒸煮工程はアルカリ性条件下で実施され、このため、前処理方法がアルカリ工程で終了する場合、それは既に蒸煮工程に適したpHにあり、それゆえ、付加的な中和工程の必要性が回避される。
【0030】
それは工程(b)と工程(c)との組合せであるが、これは非木材原料をそれぞれ収縮及び膨張させるものであり、これがシリカ不純物の効果的な除去につながる。
【0031】
工程(c)で使用されるアルカリ溶液は、アルカリ及び水を含む。アルカリ溶液を形成するために任意のアルカリを使用してよいが、好ましくは、アルカリは水酸化ナトリウムである。水酸化ナトリウムが好ましいのは、上述されるように、前処理の直後にそれが後の上記蒸煮工程でも使用されるからである。工程(c)で同じアルカリを使用することによって、全体的なプロセス効率が改善される。
【0032】
工程(c)のアルカリ溶液の中にはアルカリが約0.2~約5.0%の範囲の濃度で含まれている。このことは、アルカリ溶液が、シリカ不純物の除去を容易にするように非木材原料の繊維を膨張させるのに十分に濃縮されているが、原料、特に原料中のセルロースに対する望ましくない損傷を最小限に抑えるのに十分に希薄であることを、保証する。
【0033】
好ましくは、工程(c)をpH12~14の範囲で行う。
【0034】
工程(c)は、概して、約80℃~約100℃の範囲の温度で行われる。工程(c)を、上昇した温度で実施することが好ましい。なぜなら、それによって工程(b)の進行する速度が増加し、プロセスの効率も向上するからである。
【0035】
工程(a)からの非木材原料が、先に記載されるような上昇した温度で洗浄されている場合、同様に工程(c)も上昇した温度(すなわち、約80~約100°の範囲の温度)で実施することによって、洗浄された非木材原料を冷却する工程を工程(c)の前に含める必要性が回避されるので、全体的なプロセスの効率が改善される。
【0036】
工程(c)は、繊維の膨張をもたらすのに十分な時間にわたって行われる。好ましくは、工程(c)は、約30~約60分間の範囲の継続期間を有する。工程(c)が進行した程度は、供給原料中に残存するシリカの含有量を測定することによって計測監視され得る。工程(c)の最後には、典型的に、シリカ含有量が著しく減少しているであろう。当業者であれば、好適な品質測定について熟知しているであろう。
【0037】
本発明の前処理方法は、工程(b)及び(c)を実施する順序にかかわらず、さらなる洗浄工程である工程(d)を工程(b)と工程(c)との間に含む。この洗浄工程は、実施されたより早い工程の結果として非木材繊維から排除された金属及びシリカ(典型的には、微細シリカ)不純物を除去するという主目的のために含められる。工程(d)の洗浄は、水及び/または水蒸気のいずれかを使用して行われ得る。好ましくは、洗浄工程(d)を80℃~100℃の範囲の温度で実施する。洗浄工程(d)において水をこの温度範囲の下端で使用する場合には水と水蒸気との混合物が存在する一方、温度範囲の上端では水蒸気が存在することは、認識されよう。本発明の方法の工程(a)の間、非木材原料を、好ましくは穏やかな機械的撹拌によって、機械的に撹拌することが好ましい。非木材原料をスクリュー型コンベアの中に通すことによって成し遂げられ得るような、ほんの少しの程度の撹拌を、非木材原料に対して行うことが好ましい。当業者であればスクリュー型コンベアを熟知しているであろうが、このスクリュー型コンベアの一例を図11に示す。
【0038】
本発明の方法は、工程(b)または工程(c)のどちらか最後に実施された方の後に、さらなる洗浄工程(e)を含むことがある。存在している場合の、この付加的な洗浄工程は、シリカ不純物を除去する主目的のために含められる。洗浄工程(e)は、水及び/または水蒸気のいずれかを使用して行われ得る。好ましくは、洗浄工程(e)を80℃~100℃の範囲の温度で実施する。洗浄工程(e)において水をこの温度範囲の下端で使用する場合には水と水蒸気との混合物が存在する一方、温度範囲の上端では水蒸気が存在することは、認識されよう。本発明の方法の工程(a)の間、非木材原料を、好ましくは穏やかな機械的撹拌によって、機械的に撹拌することが好ましい。非木材原料をスクリュー型コンベアの中に通すことによって成し遂げられ得るような、ほんの少しの程度の撹拌を、非木材原料に対して行うことが好ましい。当業者であればスクリュー型コンベアを熟知しているであろうが、このスクリュー型コンベアの一例を図11に示す。
【0039】
本発明の前処理方法に供された時点で非木材原料は、パルプを形成するためのさらなる加工に適しており、今度はこのパルプが、その後、紙のための原材料として、あるいは再生セルロース、例えば、ビスコース、モダール、リヨセルまたは他のMMC繊維を製造する際の原材料として役立ち得る。
【0040】
本発明の方法は、当業者が熟知しているであろう標準的なパルプ工場でみられる標準的な装置を使用して行われ得る。特に、本発明の前処理方法は統合型パルプ工場において有用であるため、材料、例えば漂白工程で使用された酸を本発明の前処理方法に再利用することができる。
【0041】
さらなる加工の前に、非木材原料をベールに成形してもよい。あるいは、さらなる加工の前に、非木材原料をペレット化してもよい。
【0042】
当業者であれば、前処理された非木材原料をパルプに変換するための好適な方法を熟知しているであろう。特に、原料を蒸煮するために用いられる2つの一般的な方法、具体的には、硫酸塩(クラフト)プロセス及び前加水分解(PH)クラフトプロセスが存在する。
【0043】
クラフトプロセスでは、前処理された非木材原料を、水、水酸化ナトリウム及び亜硫酸ナトリウムを含む「白液」として知られる高温の混合物と混合する。収率を改善するために加速剤としてアントラキノンを含ませることがある。このプロセスの間、原料中に存在するリグニンが分解され、アルカリ中に溶解する。残存する固形パルプは、「褐色紙料」として知られるが、さらなる加工工程に供せられる準備ができた状態で回収され得る。リグニン画分と炭水化物の小画分と硫酸ナトリウムと炭酸ナトリウムと他の無機塩とを含有する混合液体(「黒液」)は除去されることができ、その後、焼却されて、蒸煮プロセスに戻って供給されるエネルギーを提供することができる。
【0044】
クラフトプロセスで得られる「褐色パルプ」は、典型的には、高い輝度を有するパルプをもたらすべく漂白される。用いられ得る複数の異なる漂白プロセスが存在し、当業者であればこれらを熟知しているであろう。好適な漂白プロセスの一例は、褐色パルプを、モノ過硫酸(これは硫酸と過酸化水素とを混合することによって生成し得る)、二酸化塩素、過酸化水素及び二酸化塩素と順次接触させる無塩素(ECF)漂白である。好適な漂白プロセスのもう1つの例は、褐色パルプをオゾン及び過酸化水素による漂白に供する完全無塩素(TCF)漂白である。詳しくは、TCFは典型的に、どちらもキレート剤による処理を含んでいる4つまたは5つの異なる段階、ならびにいくつかの漂白段階、例えば、酸素による漂白、過酸化水素添加によるアルカリ抽出、過酢酸漂白、及び/または酸素を伴うもしくは伴わない過酸化水素漂白を含む。TCF漂白は、塩素を全く使用せず、それゆえ、塩素を含有する副生成物が全く生成しない、という利点を有する。本発明の方法によって得られる前処理された非木材原料の品質は、漂白工程で必要とされるエネルギーがより少ないことを意味する。
【0045】
本発明の前処理方法の利点は、そのような漂白工程で使用される酸を前処理方法の工程(b)に戻して再利用でき、それゆえに、全体的なプロセスに必要とされる酸の量が減り、廃物が減ることである。
【0046】
PHクラフトプロセスでは、非木材原料をまず、ヘミセルロース及びいくらかのリグニンを除去する水性自動加水分解プロセスに供する。その後、それをアルカリ性条件下で蒸煮(クラフト蒸煮)して、リグニンの大部分、及び残存するヘミセルロースの小画分を除去する。最終の多段階漂白工程(例えば、ECF漂白またはTCF漂白)を実施して最終パルプの輝度を向上させる。PHクラフトプロセスにおける収率を改善するための加速剤としてアントラキノンを含ませることがある。
【0047】
好ましくは、本発明の方法から得られた前処理された非木材原料を、PHクラフトプロセスを用いて蒸煮する。
【0048】
両方の蒸煮方法において、得られるパルプの品質は、いくつかのパラメータ、具体的には、H因子、P因子、カッパ数、及び有効アルカリ%を変化させることによって制御され得る。詳しくは、これらのパラメータを制御することによって、得られたパルプが溶解パルプ(DP)になるのかそれともクラフトパルプ(KP)になるのかを制御することが可能である。
【0049】
溶解パルプ(DP)は、高レベルの輝度、均一な分子量分布及び開放孔構造を有する高グレードな純粋なセルロースパルプであり、このことがそれを反応性の高いものにしている。DPは、典型的には、再生セルロースの製造に使用される。
【0050】
クラフトパルプ(KP)は、セルロース及びヘミセルロースを両方とも含有するパルプである。KPは、典型的には、紙の製造に使用される。
【0051】
当業者であれば認識するであろうが、これらのパラメータは標準的な定義を有する。H因子は、脱リグニン化の速度の速度論的モデルであり、温度及び時間の両方に依存する。P因子は、時間、及び水性媒体中での温度に依存する。カッパ数は、プロセスの完全性についての尺度であり、パルプ中に残存するリグニンの量の表示を与える;それは、パルプが消費することになる標準過マンガン酸カリウム溶液の量として測定される。有効アルカリ%は、SCAN-N-30に提示されている手順に従って白液の試料を強酸で滴定することによって測定される、反応物中に存在する炭酸塩以外のアルカリ構成要素の総濃度である。
【0052】
DP及びKPを得る上で好適なパラメータ範囲の例を以下の表1に示す。
【表1】
【0053】
非木材原料を供せられた本発明の前処理方法の結果として、本発明は、非常に低い不純物含有量を有するDP及びKPを提供する。
【0054】
驚くべきことに、非木材原料を蒸煮の前に本発明の方法に従って処理した場合、必要とされる蒸煮時間がより短くなることも、見出された。このことは、蒸煮プロセスに必要とされるエネルギーがより少ないことを意味する。さらには、本発明の方法に従って処理された非木材原料は、必要とする漂白がより少ないことが見出された。さらには、図10で分かるように、本発明の方法に従って処理された非木材原料の後の漂白において、必要とされる漂白用化学物質は著しく減少しており、特に、非木材原料がEFB原料である場合、化学物質の消費量はほぼ半分である。
【0055】
特に、本発明の前処理方法を用いて得られたDP及びKPは、以下の表2に示される規格を満たす。
【表2】
【0056】
本発明の方法を用いて得られたDPの低いシリカ含有量は、非木材原料からシリカを除去する試みの中で直面していた従前の問題を考えれば、特に驚くべきことである。これは、非木材原料がEFB原料である場合に特に言えることである。
【0057】
これに関して、本発明は、約80ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材原料由来の溶解パルプを提供する。
【0058】
シリカ含有量は、規格Tappi T211-om-07に提示されている方法に従って決定され得る。
【0059】
あるいは、またはさらに、非木材原料由来の溶解パルプは約10ppm以下のFe含有量を有する。
【0060】
鉄(Fe)含有量は、規格Tappi T618-cm-01に提示されている方法に従って決定され得る。
【0061】
あるいは、またはさらに、非木材原料由来の溶解パルプは約75ppm以下のCa含有量を有する。
【0062】
カルシウム含有量は、規格Tappi T618-cm-01に提示されている方法に従って決定され得る。
【0063】
DP中のFe及び/またはCa不純物の存在は、セルロースを溶解させる後続工程に影響を及ぼして最終的に、そのような工程に使用される化学物質の量を増やす必要性を招くため、望ましくない。
【0064】
あるいは、またはさらに、非木材原料由来の溶解パルプは、約0.12重量%以下の灰分含有量を有する。
【0065】
灰分含有量は、規格Tappi T322-om-07に提示されている方法に従って決定され得る。
【0066】
本発明はさらに、約600ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材原料由来のクラフトパルプを提供する。
【0067】
あるいは、またはさらに、非木材原料由来のクラフトパルプは、約0.35%以下の灰分含有量を有する。
【0068】
特に、本発明は、約80ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材空果房(EFB)由来の溶解パルプを提供する。
【0069】
あるいは、またはさらに、非木材EFB由来の溶解パルプは、約10ppm以下のFe含有量を有する。
【0070】
あるいは、またはさらに、非木材EFB由来の溶解パルプは、約75ppm以下のCa含有量を有する。
【0071】
あるいは、またはさらに、非木材EFB由来の溶解パルプは、約0.12%以下の灰分含有量を有する。
【0072】
本発明はさらに、約600ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材空果房(EFB)由来のクラフトパルプを提供する。
【0073】
あるいは、またはさらに、非木材空果房(EFB)由来のクラフトパルプは、約0.35%以下の灰分含有量を有する。
【0074】
本発明のDPは、高い輝度を有する。輝度は、規格Tappi T525-om-06に提示されている方法によって測定した場合の、規定条件下でパルプから反射される入射光の量の尺度である。本発明のDPは、好ましくは、約90%以上の輝度(ISO)を有する。
【0075】
本発明のKPは、高い輝度を有する。輝度は、規格Tappi T525-om-06に提示されている方法によって測定した場合の、規定条件下でパルプから反射される入射光の量の尺度である。本発明のKPは、好ましくは、約90%以上の輝度(ISO)を有する。
【0076】
本発明の方法によって得られた溶解パルプは、さらに加工されて再生セルロースをもたらし得る。「再生セルロース」という用語は、本明細書において、非木材原料からの天然セルロースを可溶性セルロース誘導体に変換し、その後、典型的には繊維かフィルムかのいずれかを形成する再生を行うことによって製造される、材料の部類を表すために使用される。当業者であれば、溶解パルプを加工して再生セルロースを形成するための技術を熟知しているであろう。このさらなる加工において最初の工程は、典型的には、溶解パルプをセルロースドープに変換することである。最終生成物がビスコース織物材料繊維である場合、次の工程においてセルロースドープをCS及び水酸化ナトリウムの存在下で硫化に供するのが典型的である。最終生成物がリヨセル織物材料繊維である場合、セルロースドープをN-メチルモルホリンN-オキシド(NMMO)反応に供するのが典型的である。いずれの場合においても、後続工程の生成物は紡糸口金から押し出され得、再生されて所望の人工繊維、例えばビスコース及び/またはリヨセル織物材料繊維を形成し得る。他の人工セルロース(MMC)繊維を製造することも可能である。織物産業においてそれは魅力的な選択肢である。なぜならそれは、例えば綿と比較して、著しく少ない水を使用して製造されることができ、結果として得られる材料は通気性が高いからである。
【0077】
本発明の方法によって得られたクラフトパルプは、さらに加工されて紙製品をもたらし得る。当業者であれば、パルプから紙製品を形成するための技術を熟知しているであろう。詳しくは、プロセスは、パルプを水中に懸濁させ、その後、機械で平坦化し、乾燥させ、切断してシート及びロールを形成することを伴うのが典型的である。
【0078】
これより、請求項の範囲を限定することを何ら意図していない以下の図及び実施例を参照して、本発明についてさらに詳しく説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1図1は、EFB繊維中のシリカ塊の位置の図である。
図2図2は、本発明の前処理方法を例示するブロック図である。
図3(a)】図3(a)は、先行技術と対比して本発明の方法による前処理の前及び後の非木材EFB原料のシリカ含有量を示す。
図3(b)】図3(b)は、先行技術と対比して本発明の方法による前処理の前及び後の非木材竹原料のシリカ含有量を示す。
図4(a)】図4(a)は、先行技術と対比して本発明の方法による前処理の前及び後の非木材EFB原料の灰分含有量を示す。
図4(b)】図4(b)は、先行技術と対比して本発明の方法による前処理の前及び後の非木材竹原料の灰分含有量を示す。
図5図5は、本発明の前処理方法の前及び後の非木材EFB原料及び非木材竹原料のシリカ含有量を示す。
図6図6は、本発明の方法によって製造された非木材EFB KPの画像である。
図7図7は、本発明の方法によって製造された非木材EFB DPの画像である。
図8図8は、本発明の前処理方法を含む、紙製品を製造するためのプロセスを例示するブロック図である。
図9(a)】図9(a)は、本発明の前処理を含む、ビスコースを製造するためのプロセスを例示するブロック図である。
図9(b)】図9(b)は、本発明の前処理を含む、リヨセルを製造するためのプロセスを例示するブロック図である。
図10図10は、広葉樹、具体的には、acacia crassicarpa(ACRA)、Eucalyptus pellita(EPEL)、Eucalyptus hybrid(EHYB)と対比して本発明の方法に従って処理されたEFB原料に対して実施されたECF漂白プロセスの間の二酸化塩素(ClO)の消費量を示す。
図11図11は、本発明の方法において非木材原料をある段階から別の段階へと移動させるために使用され得るスクリュー型コンベアを示す。
図12図12は、実施例3において原料を標準的な木材原料から混合EFB/木材原料に変更した日時を示す。
図13図13は、実施例3に記載される試験の間に原料を木材チップから混合EFB/木材チップに変更した工場の生産性(H因子)を示す。
図14図14は、実施例3に記載される工場において漂白中に消費された酸素充填量を示す。
図15図15は、実施例3に記載される工場において漂白中に消費されたアルカリ充填量を示す。
図16図16は、実施例3に記載される混合原料から得られた晒クラフトパルプのシリカ含有量を示す。
図17図17は、実施例3に記載される混合原料から得られた晒クラフトパルプの汚点/計数を示す。
【実施例
【0080】
実施例1-非木材EFB原料
仁、パーム種子及び泥を含まないように加工されたおよそ100kgの非木材EFBを、Asian Agri(RGEパーム油事業)から入手し、シュレッダー及び洗浄機に通して、5~100mmの範囲の繊維長を有するEFB原料を得た。
【0081】
非木材EFBのシリカ及び灰分残渣含有量をTappi T618-cm-01に従って測定した。結果を図3(a)及び図4(a)に示す。
【0082】
次いで、ドラム洗浄機内で非木材EFB原料を、80~100℃の範囲の温度の水と水蒸気との混合物を使用して洗浄した。EFB原料を、(少しの程度の機械的撹拌をもたらす)スクリューコンベアによって次の処理工程へと移動させた。洗浄工程を、30~60分間の継続期間にわたって行った。洗浄されたEFB原料をその後、80~100℃の範囲の温度の、pH1~3の範囲を有する十分な浴比(7~10)の酸溶液が入った容器に通した。30~60分後、酸の入った容器からEFB原料を取り出し、80~100℃の範囲の温度の水と水蒸気との混合物を使用してそれを洗浄するドラム洗浄機に通した。30~60分後、洗浄され酸処理されたEFB原料を、80~100℃の範囲の温度の、pH12~14の範囲を有する十分な浴比(7~10)のアルカリ溶液が入った容器に通した。30~60分後、アルカリの入った容器からEFBを取り出し、80~100℃の範囲の温度の水と水蒸気との混合物を使用してそれを洗浄するドラム洗浄機に通した。前処理されたEFB原料を、(少しの程度の機械的撹拌をもたらす)スクリューコンベアによって次の工程へと移動させた。
【0083】
前処理されたEFB原料のシリカ及び灰分残渣含有量をTappi T618-cm-01に従って測定したが、これを図3(a)及び図4(b)に示す。
【0084】
前処理されたEFB原料を、その後、DP及びKPの両方について前加水分解クラフト(P因子1000~1300)/クラフトの下で蒸煮した。有効アルカリを15~20%の範囲の量で使用し、H因子は約100~300の範囲であった(表1参照)。表2に提示される、化学パルプ(DP及びKP)のための目標規格が実現された。
【0085】
実施例2-非木材竹原料
およそ5kgの非木材竹皮を細断し、サイズ7~13mmのメッシュ篩に通して、標準的な粒径の竹チップを形成した。
【0086】
非木材竹のシリカ及び灰分残渣含有量をTappi T618-cm-01に従って測定した。結果を図3(b)及び図4(b)に示す。
【0087】
次いで、ドラム洗浄機内で非木材竹原料を、80~100℃の範囲の温度の水と水蒸気との混合物を使用して洗浄した。竹原料をコンベアベルトによって次の処理工程へと移動させた。洗浄工程を、30~60分間の継続期間にわたって行った。洗浄された竹原料をその後、80~100℃の範囲の温度の、pH1~3の範囲を有する十分な浴比(4~7)の酸溶液が入った容器に通した。30~60分後、酸の入った容器から竹原料を取り出し、80~100℃の範囲の温度の水と水蒸気との混合物を使用してそれを洗浄するドラム洗浄機に通した。30~60分後、洗浄され酸処理された竹原料を、80~100℃の範囲の温度の、pH12~14の範囲を有する十分な浴比(4~7)のアルカリ溶液が入った容器に通した。30~60分後、アルカリの入った容器から竹原料を取り出し、80~100℃の範囲の温度の水と水蒸気との混合物を使用してそれを洗浄するドラム洗浄機に通した。前処理された竹原料をコンベアベルトによって次の工程へと移動させた。
【0088】
前処理された竹原料のシリカ及び灰分残渣含有量をTappi T618-cm-01に従って測定したが、これを図3(b)及び図4(b)に示す。
【0089】
前処理された竹原料を、その後、DP及びKPの両方について前加水分解クラフト(P因子500~800)/クラフトの下で蒸煮した。有効アルカリを15~20%の範囲の量で使用し、H因子は約500~700の範囲であった。先の表2に提示される、化学パルプ(DP及びKP)のための目標規格が実現された。
【0090】
実施例3-EFB原料工場試験
1日あたり35トンの原料を加工する稼働中の工場において、標準的な木材原料を、5~10重量%のEFB原料を含む混合木材原料で置き換えた。以下にまとめて示されるように、様々な生産品を計測監視した。混合EFB原料を供せられたプロセスは、本発明の前処理方法を含んでいた。
【0091】
図12は、5~10重量%のEFB原料を含むように原料を変更した時点を示す。給送物を混合EFB原料に変更した場合に、同じレベルのアルカリ充填量及びカッパ数で(より低いH因子によって立証される)より高い蒸煮生産性が認められたことは、図13から明らかである。図14及び図15を参照して、漂白工程における化学物質の消費量が低減されたことも明らかである-酸素及びアルカリ充填量は両方とも低減され、ClOの総充填量も低減された(純粋な木材原料では47.3kgであるのに対して、混合EFB/木材原料では46.2kg)。
【0092】
化学物質消費量及び所要エネルギーの両方におけるこれらの低減に加えて、好都合なことに、最終晒パルプの品質が維持されたことが見出された。詳しくは、得られたパルプは以下の特性を有していた:
【表3】
【0093】
実施例3に記載される工場試験での最終製品は、紙製品であった。原料を純粋な木材からEFBと木材との混合物に変更し、プロセスが本発明の前処理方法を含んでいた場合、驚くべきことに、最終紙製品が優れた特性、具体的には、70Nm/gの引張強度及び1.39cm/gの嵩密度を有していたことが見出された。当該紙はまた、排水性及び操業性の両方における高い性能も実証した。
【0094】
全体として、木材原料を混合EFB/木材原料で置き換えること、及び本発明の前処理方法を含ませることにおいては、エネルギー消費量をおよそ10%低減しながら、必要とされる優れた特性を有する製品を製造することが可能であった。
【0095】
例示的な実施形態
本発明は、以下の番号の付いた例示的な実施形態を参照することによってさらに記述される。
【0096】
1.非木材原料を前処理する方法であって、
(a)前記非木材原料を洗浄すること;
(b)洗浄された前記非木材原料を酸溶液と接触させること;及び
(c)洗浄された前記非木材原料をアルカリ溶液と接触させること
を含み、前記方法が工程(b)と工程(c)との間に付加的な洗浄工程(d)を含む、前記方法。
【0097】
2.工程(b)が工程(c)の前に実施される、実施形態1に記載の方法。
【0098】
3.工程(c)が工程(b)の前に実施される、実施形態1に記載の方法。
【0099】
4.工程(a)において、前記非木材原料が、水及び/または水蒸気を使用して洗浄される、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0100】
5.工程(a)が80~100℃の範囲の温度で実施される、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0101】
6.工程(a)において、前記非木材原料がスクリュー型コンベアに通される、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0102】
7.工程(b)において、洗浄された前記非木材原料が、80~100℃の範囲の温度の前記酸溶液と30~60分間の継続期間にわたって接触する、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0103】
8.工程(b)において、pHが1~3の範囲にある、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0104】
9.工程(b)において、前記酸溶液が、硫酸、塩酸、二酸化塩素の水溶液、及びそれらの混合物からなる群から選択される酸を含む、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0105】
10.工程(b)において、前記酸溶液が酸を約0.2~約5%の濃度で含む、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0106】
11.工程(b)において、前記酸溶液が、溶解パルプ(DP)及び/またはクラフトパルプ(KP)を漂白している工程から再利用された酸溶液を含む、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
【0107】
12.工程(b)において、前記酸溶液が、再利用された酸を約0.2~約5%の濃度で含む、実施形態11に記載の方法。
【0108】
13.工程(d)において、前記非木材原料が、水及び/または水蒸気を使用して洗浄される、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0109】
14.工程(d)が80~100℃の範囲の温度で実施される、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0110】
15.工程(d)において、前記非木材原料がスクリュー型コンベアに通される、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0111】
16.工程(c)において、洗浄された前記非木材原料が、80~100℃の範囲の温度の前記アルカリ溶液と30~60分間の継続期間にわたって接触する、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0112】
17.工程(c)において、pHが12~14の範囲にある、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0113】
18.工程(c)において、前記アルカリ溶液が水酸化ナトリウムを含む、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0114】
19.工程(c)において、前記アルカリ溶液が水酸化ナトリウムを約0.2~約5%の濃度で含む、実施形態18に記載の方法。
【0115】
20.(e)工程(a)~(d)の後に得られた生成物を洗浄すること
をさらに含む、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0116】
21.工程(e)において、前記生成物が水及び/または水蒸気で洗浄される、実施形態20に記載の方法。
【0117】
22.工程(e)が80~100℃の範囲の温度で実施される、実施形態20または実施形態21に記載の方法。
【0118】
23.工程(e)において、前記非木材原料がスクリュー型コンベアに通される、実施形態20~22のいずれか1項に記載の方法。
【0119】
24.前記非木材原料が非木材空果房(EFB)である、任意の先行実施形態に記載の方法。
【0120】
25.非木材原料から溶解パルプ(DP)を製造する方法であって、
(i)実施形態1~24のいずれか1項に記載の方法を用いて前記非木材原料を前処理すること;及び
(ii)前処理された前記非木材原料を蒸煮してDPを製造すること
を含む、前記方法。
【0121】
26.非木材原料からクラフトパルプ(KP)を製造する方法であって、
(i)実施形態1~24のいずれか1項に記載の方法を用いて前記非木材原料を前処理すること;及び
(ii)前処理された前記非木材原料を蒸煮してKPを製造すること
を含む、前記方法。
【0122】
27.前記非木材原料が非木材空果房(EFB)である、実施形態25または実施形態26に記載の方法。
【0123】
28.工程(ii)で得られた前記DPを漂白するさらなる工程を含む、実施形態25または実施形態27に記載の方法。
【0124】
29.工程(ii)で得られた前記KPを漂白するさらなる工程を含む、実施形態26または実施形態27に記載の方法。
【0125】
30.前記漂白工程が無塩素(ECF)漂白工程である、実施形態28または実施形態29に記載の方法。
【0126】
31.前記漂白工程が、
(iii)前記DPをモノ過硫酸、二酸化塩素、過酸化水素及び二酸化塩素で順次処理すること
を含む、実施形態30に記載の方法。
【0127】
32.前記漂白工程が完全無塩素(TCF)漂白工程である、実施形態28または実施形態29に記載の方法。
【0128】
33.前記漂白工程からの酸が前記前処理工程(i)の工程(b)に再利用される、実施形態28~32のいずれか1項に記載の方法。
【0129】
34.前記KPが紙製品に変換される、実施形態26、27または29~33に記載の方法。
【0130】
35.前記DPが再生セルロースに変換される、実施形態25、27、28または30~33に記載の方法。
【0131】
36.前記再生セルロースが、ビスコース繊維、モダール繊維、リヨセル及びMCC繊維からなる群から選択される、実施形態35に記載の方法。
【0132】
37.実施形態25、27、28または30~33のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる溶解パルプ。
【0133】
38.実施形態26、27または29~33のいずれか1項に記載の方法によって得ることができるクラフトパルプ。
【0134】
39.約80ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材原料由来の溶解パルプ。
【0135】
40.約10ppm以下のFe含有量を有する、実施形態37または実施形態39に記載の溶解パルプ。
【0136】
41.約75ppm以下のCa含有量を有する、実施形態37、39または40のいずれか1項に記載の溶解パルプ。
【0137】
42.約0.12%以下の灰分含有量を有する、実施形態37または実施形態39~41のいずれか1項に記載の溶解パルプ。
【0138】
43.非木材EFBに由来する、実施形態37または実施形態39~42のいずれか1項に記載の溶解パルプ。
【0139】
44.約600ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材原料由来のクラフトパルプ。
【0140】
45.約0.35%以下の灰分含有量を有する、実施形態38または実施形態44に記載のクラフトパルプ。
【0141】
46.非木材EFBに由来する、実施形態38、44または45のいずれか1項に記載のクラフトパルプ。
【0142】
47.セルロース繊維の製造における、実施形態37または実施形態39~43に記載の溶解パルプ(DP)の使用。
【0143】
48.紙の製造における、実施形態38または実施形態44~46に記載のクラフトパルプ(KP)の使用。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2023-03-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非木材空果房(EFB)原料を前処理する方法であって、
(a)前記非木材空果房(EFB)原料を洗浄すること;
(b)洗浄された前記非木材空果房(EFB)原料を80~100℃の範囲の温度で30~60分間の継続期間にわたって酸溶液と接触させること;及び
(c)洗浄された前記非木材原料を80~100℃の範囲の温度で30~60分間の継続期間にわたってアルカリ溶液と接触させること
を含み、
前記方法が工程(b)と工程(c)との間に付加的な洗浄工程(d)を含み、
工程(b)が工程(c)の前に実施され、
前記前処理する方法が、パルプを形成するためのさらなる加工に適した非木材原料をもたらす、前記方法。
【請求項2】
工程(a)において、前記非木材空果房(EFB)原料が、水及び/または水蒸気を使用して洗浄される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(d)において、前記非木材空果房(EFB)原料が、水及び/または水蒸気を使用して洗浄される、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項4】
(e)工程(a)~(d)の後に得られた生成物を洗浄すること
をさらに含む、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の前記酸溶液の中に酸が約0.2~5.0%の範囲の濃度で含まれている、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)の前記アルカリ溶液の中にアルカリが約0.2~約5.0%の範囲の濃度で含まれている、任意の先行請求項に記載の方法。
【請求項7】
非木材空果房(EFB)原料から溶解パルプ(DP)を製造する方法であって、
(i)請求項1~6のいずれか1項に記載の方法を用いて前記非木材空果房(EFB)原料を前処理すること;及び
(ii)前処理された前記非木材空果房(EFB)原料を蒸煮してDPを製造すること
を含む、前記方法。
【請求項8】
非木材空果房(EFB)原料からクラフトパルプ(KP)を製造する方法であって、
(i)請求項1~6のいずれか1項に記載の方法を用いて前記非木材空果房(EFB)原料を前処理すること;及び
(ii)前処理された前記非木材空果房(EFB)原料を蒸煮してKPを製造すること
を含む、前記方法。
【請求項9】
約80ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材空果房(EFB)原料由来の溶解パルプ。
【請求項10】
約10ppm以下のFe含有量を有する、請求項9に記載の溶解パルプ。
【請求項11】
約75ppm以下のCa含有量を有する、請求項9または10のいずれか1項に記載の溶解パルプ。
【請求項12】
約0.12%以下の灰分含有量を有する、請求項9~10のいずれか1項に記載の溶解パルプ。
【請求項13】
約600ppm未満のシリカ含有量を有する、非木材空果房(EFB)原料由来のクラフトパルプ。
【請求項14】
約0.35重量%以下の灰分含有量を有する、請求項13に記載のクラフトパルプ。
【請求項15】
セルロース繊維の製造における請求項9~12に記載の溶解パルプ(DP)の使用。
【請求項16】
紙の製造における請求項13または請求項14に記載のクラフトパルプ(KP)の使用。
【国際調査報告】