(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ネオジム鉄ホウ素磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240611BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240611BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240611BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240611BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240611BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240611BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240611BHJP
C22C 30/02 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 130
H01F1/057 170
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
B22F1/052
B22F3/24 B
C22C38/00 303D
C22C30/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022572632
(86)(22)【出願日】2021-09-02
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 CN2021116296
(87)【国際公開番号】W WO2022257285
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】202110651274.7
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522459432
【氏名又は名称】ガンジョウ ディーエムイージーシー レア アース マグネット カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GANZHOU DMEGC RARE EARTH MAGNET CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ロングイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リー,チャオ
(72)【発明者】
【氏名】シエ,バオシアン
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA11
4K018FA08
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB06
5E040HB11
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN18
5E062CD04
5E062CE04
5E062CF01
5E062CG02
5E062CG05
(57)【要約】
本発明は、ネオジム鉄ホウ素磁石及びその製造方法を提供する。該製造方法は、合金Aと合金Bとを混合した後に、製粉処理を行い、混合粉末を得るステップS1と、混合粉末をプレス成形し、プレス製品を得るステップS2と、プレス製品に順に焼結処理及び焼き戻し処理を行い、ネオジム鉄ホウ素磁石を得るステップS3と、を含む。本発明は、特定成分及び含有量の合金Aと合金Bを原料として、製粉、成形、焼結及び焼き戻しの複数のステップで処理した後に、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。Dy、Tbを添加せずに、本発明のネオジム鉄ホウ素磁石は、保磁力の向上がより大きく、残留磁気及び磁気性能の安定性も良い。また、該製造方法は、操作プロセスが簡単であり、量産により有利である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法であって、
合金Aと合金Bとを混合した後に、製粉処理を行い、混合粉末を得るステップS1と、
前記混合粉末をプレス成形し、プレス製品を得るステップS2と、
前記プレス製品に順に焼結処理及び焼き戻し処理を行い、前記ネオジム鉄ホウ素磁石を得るステップS3と、を含み、
重量百分率で、前記合金Aの原料成分は、28wt%~35wt%のRe、64wt%~71.2wt%のT及び0.8wt%~1.0wt%のBを含み、Reは、La、Ce、Pr及びNdのうちの1種又は複数種であり、Tは、Fe、Co、Al、Si、Cu、Nb、Zr及びGaのうちの1種又は複数種であり、
重量百分率で、前記合金Bの原料成分は、40wt%~60wt%のRe、39.2wt%~59.5wt%のT及び0.5wt%~0.8wt%のBを含み、Reは、La、Ce、Pr及びNdのうちの1種又は複数種であり、Tは、Fe及びGaを含み、また、Tは、Co、Cu、Nb及びZrのうちの1種又は複数種をさらに含む、ネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法。
【請求項2】
前記合金Bの使用量は、前記合金Aの重量の1%~10%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記合金Bの原料成分は、40wt%~60wt%のRe、0wt%~2wt%のCo、3wt%~10wt%のCu、3wt%~10wt%のGa、0wt%~0.5wt%のNb及び/又はZr、0.5wt%~0.8wt%のB及び残部のFeを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記合金Aの原料成分は、30wt%~32wt%のNd、1.0wt%~2.0wt%のCo、0.05wt%~0.1wt%のCu、0.3wt%~0.8wt%のAl、0.1wt%~0.15wt%のGa、0.12wt%~0.15wt%のZr、0.9wt%~0.92wt%のB、及び残部のFeを含み、前記合金Bの原料成分は、40wt%~50wt%のNd、1.0wt%~1.5wt%のCo、5wt%~8wt%のCu、0.1wt%~0.4wt%のAl、5wt%~8wt%のGa、0.2wt%~0.3wt%のNb、0.65wt%~0.75wt%のB、及び残部のFeを含み、
好ましくは、
前記合金Aの原料成分は、32wt%のNd、1.5wt%のCo、0.1wt%のCu、0.8wt%のAl、0.1wt%のGa、0.15wt%のZr、0.9wt%のB、及び残部のFeを含み、前記合金Bの原料成分は、50wt%のNd、1.0wt%のCo、6wt%のCu、0.4wt%のAl、6wt%のGa、0.3wt%のNb、0.75wt%のB、及び残部のFeを含み、又は、
前記合金Aの原料成分は、31.5wt%のNd、1.5wt%のCo、0.1wt%のCu、0.6wt%のAl、0.1wt%のGa、0.15wt%のZr、0.9wt%のB、及び残部のFeを含み、前記合金Bの原料成分は、45wt%のNd、1.0wt%のCo、5wt%のCu、0.1wt%のAl、5wt%のGa、0.3wt%のNb、0.7wt%のB、及び残部のFeを含む、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合粉末の平均粒度は、2.8μm~3.0μmである、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記焼結処理の過程において、処理の温度が1000℃~1100℃であり、処理の時間が5h~10hである、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼き戻し処理は、順に行われる1段焼き戻し処理及び2段焼き戻し処理を含み、好ましくは、前記1段焼き戻し処理の過程において、処理の温度が880℃~920℃であり、処理の時間が2h~4hであり、好ましくは、前記2段焼き戻し処理の過程において、処理の温度が450℃~550℃であり、処理の時間が4h~6hである、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記製粉処理の前に、前記製造方法は、前記合金Aと前記合金Bとを混合し、順に水素解砕処理及び脱水素化処理を行うステップをさらに含み、好ましくは、前記脱水素化処理の過程において、処理の温度が450℃~500℃であり、処理の時間が5h~10hであり、好ましくは、前記混合粉末中の水素含有量が600ppm~1200ppmであり、酸素含有量が1000ppm~1500ppmである、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記プレス成形の過程において、前記混合粉末を、磁場強度が1.4T以上の配向磁場においてプレス成形する、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法で製造される、ネオジム鉄ホウ素磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジム鉄ホウ素分野に関し、具体的には、ネオジム鉄ホウ素磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料の技術指標の中で、磁気エネルギー積が最も重要である。磁気エネルギー積は、単位体積の磁石によって生成される外部磁場のエネルギーの大きさを表すものである。磁気エネルギー積が高いということは、モーターにおいてより小さな磁石でより大きい動力を出力できるということである。
【0003】
焼結ネオジム鉄ホウ素磁石は、今の世界で総合的な磁気性能の最も強い永久磁気材料であり、従来の永久磁石材料を超える優れた特性と価格性能比により、エネルギー、交通、機械、医療、コンピュータ、家電などの分野に広く応用されており、国民経済の中で重要な役割を果たしている。
【0004】
ネオジム鉄ホウ素は、重要な希土類の永久磁気材料であり、高い磁気エネルギー積、高い保磁力、軽量、低コストなどの特性を持っており、これまでの価格性能比が最も高い磁石で、「磁気王様」と呼ばれている。ネオジム鉄ホウ素の出現により、磁気デバイスが高効率化、小型化、軽量化の方向に発展していく。
【0005】
現在、工業生産において、焼結NdFeB磁石の保磁力を高める主な方法は2つある。第1は、重希土類Dy/Tbなどの重希土類を、直接溶錬することにより母合金に添加し、次に従来プロセスを用いて磁石を製造することであるが、Dy/Tbを直接添加して、主相Nd2Fe14B中のNdを置換した後に、生成された新しい相(Nd,Dy)2Fe14Bと(Nd,Dy)2Fe14Bの異方性が主相より大きく、従って、焼結磁石の保磁力を顕著に向上させることができる。
【0006】
第2は、粒界拡散プロセスであり、粒界拡散プロセスを用いて製造された磁石サンプルは、磁石の厚さに制限される。例えば、特許公告番号が201810154877.4の「高性能焼結ネオジム鉄ホウ素磁石及びその製造方法」、特許公告番号が201210419107.0の「焼結ネオジム鉄ホウ素磁石及びその製造方法」は、いずれも、重希土類なしの高性能のネオジム鉄ホウ素磁石の生産方法に関していない。
【0007】
Dy、Tbの含有量は、高性能の焼結ネオジム鉄ホウ素材料のコストを決定する肝心なところであるが、近年、重希土類の価格が上昇しており、どのようにDy、Tbを少な目に加えたり、加えなかったりすることで、ネオジム鉄ホウ素磁石の保磁力を向上させるかが研究の重点となる。
【0008】
Effects of post-sinter annealing on microstructure and magnetic properties of Nd-Fe-B sintered magnets with Nd-Ga intergranular addition [J]. Chinese Physical Society, 2021。この学術論文では、合金中の各成分の含有量(特にNd及びGaの含有量)と水素解砕処理の温度を調節することにより、形成された焼結磁石の保磁力をある程度向上させることが開示されている。しかし、この文献では、Re2T14B主相を優先的かつ主に形成し、Re6Fe13Ga相を副次的に形成し、かつRe6Fe13Ga相を形成する条件が厳しく、大量生産に不利である。
【0009】
また、上記の方法により形成された焼結磁石は、保磁力の向上が小さく、残留磁気及び磁気性能の安定性が悪い。
【0010】
これに基づいて、製造過程がより簡単で、大量生産により有利で、保磁力の向上がより大きく、残留磁気性能と磁気エネルギーの安定性も良いネオジム鉄ホウ素磁石を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術では、Dy、Tbを少なく又は加えないことに基づいて、ネオジム鉄ホウ素磁石の保磁力を向上させる場合には、大量生産に不利であり、形成された焼結磁石の保磁力の向上が小さく、残留磁気及び磁気性能の安定性が悪いという問題を解決するよう、ネオジム鉄ホウ素磁石及びその製造方法を提供することを主要目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を実現するために、本発明の一側面によれば、ネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法が提供される。製造方法は、合金Aと合金Bとを混合した後に、製粉処理を行い、混合粉末を得るステップS1と、混合粉末をプレス成形し、プレス製品を得るステップS2と、プレス製品に順に焼結処理及び焼き戻し処理を行い、ネオジム鉄ホウ素磁石を得るステップS3と、を含み、重量百分率で、合金Aの原料成分は、28~35wt%のRe、64~71.2wt%のT及び0.8~1.0wt%のBを含み、Reは、La、Ce、Pr又はNdのうちの1種又は複数種であり、Tは、Fe、Co、Al、Si、Cu、Nb、Zr及びGaのうちの1種又は複数種であり、重量百分率で、合金Bの原料成分は、40~60wt%のRe、39.2~59.5wt%のT及び0.5~0.8wt%のBを含み、Reは、La、Ce、Pr又はNdのうちの1種又は複数種であり、Tは、Fe及びGaを含み、また、Tは、Co、Cu、Nb又はZrのうちの1種又は複数種をさらに含む。
【0013】
さらに、合金Bの使用量は、合金Aの重量の1~10%である。
【0014】
さらに、合金Bの原料成分は、40~60wt%のRe、0~2wt%のCo、3~10wt%のCu、3~10wt%のGa、0~0.5wt%のNb及び/又はZr、0.5~0.8wt%のB及び残部のFeを含む。
【0015】
さらに、合金Aの原料成分は、30~32wt%のNd、1.0~2.0wt%のCo、0.05~0.1wt%のCu、0.3~0.8wt%のAl、0.1~0.15wt%のGa、0.12~0.15wt%のZr、0.9~0.92wt%のB、及び残部のFeを含み、合金Bの原料成分は、40~50wt%のNd、1.0~1.5wt%のCo、5~8wt%のCu、0.1~0.4wt%のAl、5~8wt%のGa、0.2~0.3wt%のNb、0.65~0.75wt%のB、及び残部のFeを含む。
【0016】
好ましくは、合金Aの原料成分は、32wt%のNd、1.5wt%のCo、0.1wt%のCu、0.8wt%のAl、0.1wt%のGa、0.15wt%のZr、0.9wt%のB、及び残部のFeを含み、合金Bの原料成分は、50wt%のNd、1.0wt%のCo、6wt%のCu、0.4wt%のAl、6wt%のGa、0.3wt%のNb、0.75wt%のB、及び残部のFeを含み、又は、合金Aの原料成分は、31.5wt%のNd、1.5wt%のCo、0.1wt%のCu、0.6wt%のAl、0.1wt%のGa、0.15wt%のZr、0.9wt%のB、及び残部のFeを含み、合金Bの原料成分は、45wt%のNd、1.0wt%のCo、5wt%のCu、0.1wt%のAl、5wt%のGa、0.3wt%のNb、0.7wt%のB、及び残部のFeを含む。
【0017】
さらに、混合粉末の平均粒度は、2.8~3.0μmである。
【0018】
さらに、焼結処理過程において、処理の温度が1000~1100℃であり、処理の時間が5~10hである。
【0019】
さらに、焼き戻し処理は、順に行われる1段焼き戻し処理及び2段焼き戻し処理を含み、好ましくは、1段焼き戻し処理過程において、処理の温度が880~920℃であり、処理の時間が2~4hであり、好ましくは、2段焼き戻し処理過程において、処理の温度が450~550℃であり、処理の時間が4~6hである。
【0020】
さらに、製粉処理の前に、製造方法は、合金Aと合金Bとを混合し、順に水素解砕処理及び脱水素化処理を行うステップをさらに含み、好ましくは、脱水素化処理過程において、処理の温度が450~500℃であり、処理の時間が5~10hである、好ましくは、混合粉末中の水素含有量が600~1200ppmであり、酸素含有量が1000~1500ppmである。
【0021】
さらに、プレス成形過程において、磁場強度が1.4T以上の配向磁場において混合粉末をプレス成形する。
【0022】
上記目的を実現するために、本発明の一側面によれば、ネオジム鉄ホウ素磁石が提供される。ネオジム鉄ホウ素磁石は、上記のネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法で製造される。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、特定成分及び含有量の合金Aと合金Bを原材料として、製粉、成形、焼結及び焼き戻しの複数のステップで処理した後に、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。磁石中のRe6Fe13GaをRe2T14B主相の粒界表面の間により均一かつ安定的にドーピングすることで、遮断層を形成する。従って、Dy、Tbを添加せずに、本発明のネオジム鉄ホウ素磁石は、保磁力の向上がより大きく、かつ残留磁気及び磁気性能の安定性も良い。また、該製造方法は、操作プロセスが簡単であり、量産により有利である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本出願の一部を構成する添付の図面は、本発明に対するさらなる理解を提供するためのものである。本発明の例示的な実施例及び説明は、本発明を説明するためのものであり、本発明に対する不適切な限定を構成するものではない。
【
図1】本発明のネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本出願の実施例及び実施例の特徴は、矛盾しない限り、互いに組み合わせることができることに留意されたい。本発明は、実施例と併せて以下に詳細に説明される。
【0026】
背景技術部分に説明される通り、従来技術では、Dy、Tbを少なく又は加えないことに基づいて、ネオジム鉄ホウ素磁石の保磁力を向上させる場合には、大量生産に不利であり、かつ形成された焼結磁石の保磁力の向上が小さく、残留磁気及び磁気性能の安定性が悪いという問題がある。
【0027】
この問題を解決するために、本発明は、ネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法を提供し、
図1に示すように、該製造方法は、合金Aと合金Bとを混合した後に、製粉処理を行い、混合粉末を得るステップS1と、混合粉末をプレス成形し、プレス製品を得るステップS2と、プレス製品に順に焼結処理及び焼き戻し処理を行い、ネオジム鉄ホウ素磁石を得るステップS3と、を含む。
【0028】
重量百分率で、合金Aの原料成分は、28~35wt%のRe、64~71.2wt%のT及び0.8~1.0wt%のBを含み、Reは、La、Ce、Pr又はNdのうちの1種又は複数種であり、Tは、Fe、Co、Al、Si、Cu、Nb、Zr及びGaのうちの1種又は複数種であり、重量百分率で、合金Bの原料成分は、40~60wt%のRe、39.2~59.5wt%のT及び0.5~0.8wt%のBを含み、Reは、La、Ce、Pr又はNdのうちの1種又は複数種であり、Tは、Fe及びGaを含み、また、Tは、Co、Cu、Nb又はZrのうちの1種又は複数種をさらに含む。
【0029】
本発明は、上記特定の成分及び含有量の合金Aと合金Bを原材料として、製粉、成形、焼結及び焼き戻しの複数のステップで処理した後に、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。磁石中のRe6Fe13GaをRe2T14B主相の粒界表面の間により均一かつ安定的にドーピングすることで、遮断層を形成する。従って、Dy、Tbを添加せずに、本発明のネオジム鉄ホウ素磁石は、保磁力の向上がより大きく、残留磁気及び磁気性能の安定性も良い。また、該製造方法は、操作プロセスが簡単であり、量産により有利である。
【0030】
なお、上記合金Aと合金Bは、その原料で通常の溶錬により製造されるものであり、具体的な製錬プロセスは、本分野での公知のものであり、例えば、樹脂移送成形プロセス(RTM)、真空急速凝固炉の溶錬プロセスである。
【0031】
Re6Fe13Ga相のドーピング均一性と安定性をさらに高めるために、合金Bの使用量は、合金Aの重量の1~10%であることが好ましい。この範囲では、ネオジム鉄ホウ素磁石は、保磁力の向上がより大きく、より良い磁気性能の安定性を有する。また、該製造方法は、操作プロセスが簡単であり、量産により有利である。
【0032】
磁石の保磁力をさらに向上させるために、好ましくは、合金Bの原料成分は、40~60wt%のRe、0~2wt%のCo、3~10wt%のCu、3~10wt%のGa、0~0.5wt%のNb及び/又はZr、0.5~0.8wt%のB及び残部のFeを含む。
【0033】
1つの好適な実施案では、合金A中の各成分の含有量は、30~32wt%のNd、1.0~2.0wt%のCo、0.05~0.1wt%のCu、0.3~0.8wt%のAl、0.1~0.15wt%のGa、0.12~0.15wt%のZr、0.9~0.92wt%のB、及び残部のFeであり、合金B中の各成分の含有量は、40~50wt%のNd、1.0~1.5wt%のCo、5~8wt%のCu、0.1~0.4wt%のAl、5~8wt%のGa、0.2~0.3wt%のNb、0.65~0.75wt%のB、及び残部のFeである。これに基づいて、磁石の保磁力がより大幅に向上され、また、その残留磁気及び磁気性能の安定性も良い。
【0034】
磁石の保磁力、残留磁気及び磁気性能の安定性をさらに向上させるために、より好ましくは、合金A中の各成分の含有量は、32wt%のNd、1.5wt%のCo、0.1wt%のCu、0.8wt%のAl、0.1wt%のGa、0.15wt%のZr、0.9wt%のB、及び残部のFeであり、合金B中の各成分の含有量は、50wt%のNd、1.0wt%のCo、6wt%のCu、0.4wt%のAl、6wt%のGa、0.3wt%のNb、0.75wt%のB、及び残部のFeであり、又は、合金A中の各成分の含有量は、31.5wt%のNd、1.5wt%のCo、0.1wt%のCu、0.6wt%のAl、0.1wt%のGa、0.15wt%のZr、0.9wt%のB、及び残部のFeであり、合金B中の各成分の含有量は、45wt%のNd、1.0wt%のCo、5wt%のCu、0.1wt%のAl、5wt%のGa、0.3wt%のNb、0.7wt%のB、及び残部のFeである。
【0035】
好ましくは、混合粉末の平均粒度は、2.8~3.0μmであり、正規分布において、50%の粉末粒度が3.5μm未満である。このように、合金Aと合金Bの混合均一性がより良く、かつ後続の成形効率をさらに向上でき、従って磁石の磁気性能の安定性をより良くする。
【0036】
ネオジム鉄ホウ素磁石の磁気性能の安定性をさらに向上させるために、焼結処理過程において、処理の温度が1000~1100℃であり、処理の時間が5~10hである。
【0037】
Re6Fe13Ga相のドーピング安定性と均一性をさらに両立させるために、好ましくは、焼き戻し処理は、順に行われる1段焼き戻し処理及び2段焼き戻し処理を含む。好ましくは、1段焼き戻し処理過程において、処理の温度が880~920℃であり、処理の時間が2~4hである。好ましくは、2段焼き戻し処理過程において、処理の温度が450~550℃であり、処理の時間が4~6hである。
【0038】
好ましくは、製粉処理の前に、製造方法は、合金Aと合金Bとを混合し、順に水素解砕処理及び脱水素化処理を行うステップをさらに含む。好ましくは、脱水素化処理過程において、処理の温度が450~500℃であり、処理の時間が5~10hである。好ましくは、混合粉末の水素解砕処理により、合金Aと合金Bの混合物をまず前破砕処理することにより、後続の製粉効率をさらに向上させることができる。水素解砕後に、上記脱水素化処理操作によって、混合粉末中の水素含有量が600~1200ppmとなり、酸素含有量が1000~1500ppmとなるように制御することができる。
【0039】
好ましくは、プレス成形過程において、磁場強度が1.4T以上の配向磁場において混合粉末をプレス成形する。このように、型押しで製造される製品がよりコンパクトになり、製品中の合金Aと合金Bとを均一に混合し、従って、後続焼結及び焼き戻し処理後、磁石の固有保磁力の向上がより大きく、残留磁気がより優れ、最大磁気エネルギー積がより優れ、磁石の磁気性能がより安定する。
【0040】
本発明は、さらに、上記のネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法で製造されるネオジム鉄ホウ素磁石を提供する。
【0041】
前の諸原因に基づいて、本発明のネオジム鉄ホウ素磁石は、いかなるジスプロシウム/テルビウムも加えずに、その保磁力が大幅に向上し、また、残留磁気及び磁気性能の安定性がより良く、量産にもより有利である。
【0042】
以下、具体的な実施例と併せて、本出願についてさらに詳細に説明するが、これらの実施例は、本出願が保護する範囲を限定するものとは解釈できない。
【0043】
性能テスト:
(1)残留磁気性能(Br)テスト:永久磁石非破壊測定器NIM-10000を用いる。
(2)固有保磁力(Hcj)テスト:永久磁石非破壊測定器NIM-10000を用いる。
(3)最大磁気エネルギー積(BHmax)テスト:永久磁石非破壊測定器NIM-10000を用いる。
【0044】
実施例1
重量含有量で、31.5wt%の(Nd,Pr)、1.5wt%のCo、0.1wt%のCu、0.6wt%のAl、0.1wt%のGa、0.15wt%のZr、0.90wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて合金A鋳片を製造する。重量含有量で、45wt%の(Nd,Pr)、1.0wt%のCo、5wt%のCu、0.1wt%のAl、5wt%のGa、0.3wt%のNb、0.70wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて真空急速凝固炉の溶錬プロセスで合金B鋳片を製造する。合金A及び合金B中のNdとPrとの重量比率は、いずれも2:8である。
【0045】
合金Aと合金Bとを混合した(合金Bの使用量が合金Aの重量の5%である)後に、順に水素解砕処理、脱水素化処理及び製粉処理を行い、混合粉末を得る。水素解砕・脱水素化処理の温度が480℃で、脱水素化処理の時間が6hで、脱水素化後に、粉末中の水素含有量が980ppmで、酸素含有量が1100ppmである。水素解砕後の粉末をジェットミルにより製粉処理し、混合粉末の粒度が正規分布を満たし、その平均粒度が2.8μmであり、正規分布において50%の粉末粒度が3.25μm未満である。
【0046】
混合粉末を1.4T以上の配向磁場において60×35×40(mm)のブロック状のブランクにプレス成形し、ブランクを高真空焼結炉内に入れ、1070℃で7時間焼結し、順次900℃で3時間1段焼き戻し、510℃で5時間2段焼き戻し、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表1に示す。
【0047】
【0048】
実施例2
実施例1との相違点は、合金Bの使用量が合金A重量の12%であることのみである。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表2に示す。
【0049】
【0050】
実施例3
重量含有量で、30wt%の(Nd,Pr)、1.0wt%のCo、0.05wt%のCu、0.3wt%のAl、0.1wt%のGa、0.12wt%のZr、0.92wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて合金A鋳片を製造する。重量含有量で、40wt%の(Nd,Pr)、1.0wt%のCo、8wt%のCu、0.1wt%のAl、8wt%のGa、0.2wt%のNb、0.65wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて真空急速凝固炉で溶錬して合金B鋳片を製造する。合金A及び合金B中のNdとPrとの重量比率は、いずれも2:8である。
【0051】
合金Aと合金Bとを混合した(合金Bの使用量が合金Aの重量の6%である)後に、順に水素解砕処理、脱水素化処理及び製粉処理を行い、混合粉末を得る。水素解砕・脱水素化処理の温度が470℃で、脱水素化処理の時間が6hで、脱水素化後に、粉末中の水素含有量が1020ppmで、酸素含有量が1060ppmである。水素解砕後の粉末をジェットミルにより製粉処理し、混合粉末の粒度が正規分布を満たし、その平均粒度が2.95μmであり、正規分布において50%の粉末粒度が3.42μm未満である。
【0052】
混合粉末を1.4T以上の配向磁場において70×50×35(mm)のブロック状のブランクにプレス成形し、ブランクを高真空焼結炉内に入れ、1060℃で7時間焼結し、順次900℃で3時間1段焼き戻し、510℃で5時間2段焼き戻し、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表3に示す。
【0053】
【0054】
実施例4
実施例3との相違点は、合金Bの使用量が合金Aの重量の11%であることのみである。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表4に示す。
【0055】
【0056】
実施例5
重量含有量で、32wt%の(Nd,Pr)、1.5wt%のCo、0.1wt%のCu、0.8wt%のAl、0.1wt%のGa、0.15wt%のZr、0.90wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて真空急速凝固炉で溶錬して合金A鋳片を製造する。重量含有量で、50wt%の(Nd,Pr)、1.0wt%のCo、6wt%のCu、0.4wt%のAl、6wt%のGa、0.3wt%のNb、0.75wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて真空急速凝固炉で溶錬して合金B鋳片を製造する。合金A及び合金B中のNdとPrとの重量比率は、いずれも2:8である。
【0057】
合金Aと合金Bとを混合した(合金Bの使用量が合金Aの重量の8%である)後に、順に水素解砕処理、脱水素化処理及び製粉処理を行い、混合粉末を得る。水素解砕・脱水素化処理の温度が490℃で、脱水素化処理の時間が6hで、脱水素化後に、粉末中の水素含有量が980ppmで、酸素含有量が1050ppmである。水素解砕後の粉末をジェットミルにより製粉処理し、混合粉末の粒度が正規分布を満たし、その平均粒度が2.87μmであり、正規分布において50%の粉末粒度が3.28μm未満である。
【0058】
混合粉末を1.4T以上の配向磁場において70×50×35(mm)のブロック状のブランクにプレス成形し、ブランクを高真空焼結炉内に入れ、1080℃で7時間焼結し、順次900℃で3時間1段焼き戻し、510℃で5時間2段焼き戻し、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表5に示す。
【0059】
【0060】
実施例6
実施例5との相違点は、合金Bの使用量が合金Aの重量の13%であることのみである。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表6に示す。
【0061】
【0062】
比較例1
実施例1との相違点は、各原料を共同に合金に製造してから、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造することである。具体的には、
重量含有量で、32.14wt%の(Nd,Pr)、1.48wt%のCo、0.33wt%のCu、0.58wt%のAl、0.24wt%のGa、0.16wt%のZr、0.89wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて真空急速凝固炉で溶錬して合金Cを製造し、合金Cに水素解砕処理、脱水素化処理及び製粉処理を行い、粉末を得る。水素解砕・脱水素化処理の温度が480℃で、脱水素化処理の時間が6hで、脱水素化後に、粉末中の水素含有量が980ppmで、酸素含有量が1100ppmである。水素解砕後の粉末をジェットミルにより製粉処理し、混合粉末の粒度が正規分布を満たし、その平均粒度が2.8μmであり、正規分布において50%の粉末粒度が3.25μm未満である。合金A及び合金B中のNdとPrとの重量比率は、いずれも2:8である。
【0063】
粉末を1.4T以上の配向磁場において60×35×40(mm)のブロック状のブランクにプレス成形し、ブランクを高真空焼結炉内に入れ、1070℃で7時間焼結し、順次900℃で3時間1段焼き戻し、510℃で5時間2段焼き戻し、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表7に示す。
【0064】
比較例2
実施例3との相違点は、各原料を共同に合金に製造してから、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造することである。具体的には、
重量含有量で、30.57wt%の(Nd,Pr)、1.0wt%のCo、0.5wt%のCu、0.29wt%のAl、0.55wt%のGa、0.11wt%のZr、0.90wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて真空急速凝固炉で溶錬して合金D鋳片を製造し、合金Dを水素解砕して取り出し、脱水素化処理及び製粉処理し、粉末を得る。水素解砕・脱水素化処理の温度が470℃で、脱水素化処理の時間が6hで、脱水素化後に、粉末中の水素含有量が1020ppmで、酸素含有量が1060ppmである。
【0065】
水素解砕後の粉末をジェットミルにより製粉処理し、混合粉末の粒度が正規分布を満たし、その平均粒度が2.95μmであり、正規分布において50%の粉末粒度が3.42μm未満である。合金A及び合金B中のNdとPrとの重量比率は、いずれも2:8である。
【0066】
粉末を1.4T以上の配向磁場において70×50×35(mm)のブロック状のブランクにプレス成形し、ブランクを高真空焼結炉内に入れ、1060℃で7時間焼結し、順次900℃で3時間1段焼き戻し、510℃で5時間2段焼き戻し、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表7に示す。
【0067】
比較例3
実施例5との相違点は、各原料を共同に合金に製造してから、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造することである。具体的には、
重量含有量で、33.33wt%の(Nd,Pr)、1.46wt%のCo、0.54wt%のCu、0.77wt%のAl、0.54wt%のGa、0.14wt%のZr、0.02wt%のNb、0.89wt%のB、及び残部のFeの処方に応じて真空急速凝固炉で溶錬して合金E鋳片を製造し、合金Eを水素解砕して取り出し、脱水素化処理及び製粉処理を行い、粉末を得る。水素解砕・脱水素化処理の温度が490℃で、脱水素化処理の時間が6hで、脱水素化後に、粉末中の水素含有量が980ppmで、酸素含有量が1050ppmである。
【0068】
水素解砕後の粉末をジェットミルにより製粉処理し、混合粉末の粒度が正規分布を満たし、その平均粒度が2.87μmであり、正規分布において50%の粉末粒度が3.28μm未満である。合金A及び合金B中のNdとPrとの重量比率は、いずれも2:8である。
【0069】
粉末を1.4T以上の配向磁場において70×50×35(mm)のブロック状のブランクにプレス成形し、ブランクを高真空焼結炉内に入れ、1080℃で7時間焼結し、順次900℃で3時間1段焼き戻し、510℃で5時間2段焼き戻し、ネオジム鉄ホウ素磁石を製造する。Ф10×10(mm)の標準サンプルをテストし、テスト結果を以下の表7に示す。
【0070】
【0071】
以上は、本発明の好適な実施例にすぎず、本発明を限定するためのものではない。当業者にとって、本発明に対して様々な変更及び変化を行うことができる。本発明の精神及び原則の範囲内で行われたいかなる修正、同等交換や改善なども、本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【国際調査報告】