(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-18
(54)【発明の名称】耐低温高強度ボールねじ用球状化焼鈍鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240611BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240611BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240611BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240611BHJP
C21C 5/52 20060101ALI20240611BHJP
C21C 5/30 20060101ALI20240611BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20240611BHJP
B22D 11/115 20060101ALI20240611BHJP
B22D 11/128 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 301Y
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D9/00 D
C21C5/52
C21C5/30 Z
B22D11/00 A
B22D11/115 D
B22D11/128 350A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554288
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 CN2022120821
(87)【国際公開番号】W WO2023061185
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】202111186104.2
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517018813
【氏名又は名称】江陰興澄特種鋼鉄有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGYIN XING CHENG SPECIAL STEEL WORKS CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】297,Binjiang Road Jiangyin,Jiangsu 214429 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲じゃ▼蛟▲龍▼
(72)【発明者】
【氏名】白云
(72)【発明者】
【氏名】樊▲啓▼航
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼小林
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼▲謙▼
(72)【発明者】
【氏名】邵淑▲艶▼
(72)【発明者】
【氏名】李芸
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼魁
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼▲澤▼雷
(72)【発明者】
【氏名】李茜
(72)【発明者】
【氏名】高磊
(72)【発明者】
【氏名】孟羽
(72)【発明者】
【氏名】廖▲書▼全
(72)【発明者】
【氏名】芦莎
【テーマコード(参考)】
4E004
4K014
4K032
4K042
4K070
【Fターム(参考)】
4E004MB12
4E004NB02
4E004NC04
4K014CB01
4K014CB05
4K032AA01
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4K032AA12
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4K032AA26
4K032AA27
4K032AA28
4K032AA29
4K032AA32
4K032AA35
4K032BA02
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC03
4K032CC04
4K032CF02
4K032CF03
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA03
4K042BA05
4K042BA14
4K042CA03
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4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA12
4K042DA03
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD04
4K070AC02
4K070AC05
4K070AC11
4K070BD08
(57)【要約】
本発明は耐低温高強度ボールねじ用球状化焼鈍鋼に関し、上記の鋼材の化学成分は、質量百分率で計算すると、C:0.40~0.70%、Si:1.20~1.80%、Mn:1.00~1.60%、Cr:0.80~1.20%、S:≦0.025%、P≦0.025%、Ni:0.10~0.60%、Cu:0.30~0.80%、Mo:0.10~0.40%、Al≦0.05%、Ca≦0.0010%、Ti≦0.003%、O≦0.0010%、As≦0.04%、Sn≦0.03%、Sb≦0.005%、Pb≦0.002%であり、残部Fe及び不可避的不純物である。鋼材の微細組織中のセメンタイトは、直径が0.1~0.5μm、好適には0.3~0.5μmの球状化状態で存在しており、球状化率は95%以上に達し、残りの組織はフェライトである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐低温高強度ボールねじ用球状化焼鈍鋼において、前記鋼材の化学成分は、質量百分率で計算すると、C:0.40~0.70%、Si:1.20~1.80%、Mn:1.00~1.60%、Cr:0.80~1.20%、S:≦0.025%、P≦0.025%、Ni:0.10~0.60%、Cu:0.30~0.80%、Mo:0.10~0.40%、Al≦0.05%、Ca≦0.0010%、Ti≦0.003%、O≦0.0010%、As≦0.04%、Sn≦0.03%、Sb≦0.005%、Pb≦0.002%、残部Fe及び不可避的不純物であることを特徴とする、耐低温高強度ボールねじ用球状化焼鈍鋼。
【請求項2】
調質処理を経た鋼材は、降伏強さ≧1380MPa、引張強さ≧1500MPa、延伸率≧9%、-40℃シャルピー衝撃値AKU
2≧27Jであり、JIS-G-0561法を用いて検査した一端焼入性がJ9mm硬度≧58HRCを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の耐低温高強度ボールねじ用球状化焼鈍鋼。
【請求項3】
前記鋼材の微細組織中のセメンタイトは直径0.1~0.5μm、好適には0.3~0.5μmの球状化状態で存在し、球状化率は95%以上に達しており、残りの組織がフェライトであることを特徴とする、請求項1に記載の耐低温高強度ボールねじ用球状化焼鈍鋼。
【請求項4】
請求項1に記載の耐低温高強度ボールねじ用球状化焼鈍鋼の製造方法において、前記製造方法が、
電気炉または転炉で製錬原料の一次製錬、精錬、真空脱気をこの順に行って溶鋼を得た後、溶鋼を連続鋳造し、鋼材完成品の化学成分と一致する、390×510mm以上の仕様の連続鋳造角型ビレットを連続鋳造するステップ1と、
連続鋳造ビレットを徐冷ピットに入れて徐冷し、徐冷時間は48時間を下回らず、その後、連続鋳造ビレットを中性または弱酸性雰囲気の加熱炉内に送って加熱した後、200mm×200mm~300mm×300mmの中間ビレットに圧延するステップ2と、
中間ビレットを再加熱して目標仕様に圧延するステップ3と、
その後、圧延を完了した製品に対して球状化焼鈍を行うステップ4と、
球状化焼鈍後の製品を矯正し、探傷して合格製品を得るステップ5と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
ステップ1において、良質な溶鉄、スクラップ鋼及び原料補助材料を選択し、良質な脱酸素剤及び耐火材料を選択し、電気炉または転炉での一次製錬過程において、製錬終点のC含有量を0.05~0.25%に制御し、終点のP含有量を≦0.025%とし、連続鋳造過程では凝固過程における鋳込に対して電磁撹拌及び軽圧を実施し、連続鋳造の過熱度を15~35℃とすることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ2において、連続鋳造ビレットに対する加熱温度を1000~1250℃、加熱時間を5時間より長くし、圧延時の圧延開始温度を1000℃~1200℃に設定し、仕上げ圧延温度を≧800℃、圧延率を5より大きくし、圧延で得られる中間ビレットをピットで徐冷し、中間ビレットがピットに入っている時の温度を≧500℃、徐冷時間を≧48時間とすることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
ステップ3において、中間ビレットの加熱方法が、予熱帯温度を650~900℃に制御し、加熱帯温度を1000~1250℃に制御し、均熱帯温度を1000~1250℃に制御し、総加熱時間を2時間以上とし、中間ビレット圧延の圧延開始温度を1000℃~1200℃に制御し、仕上げ圧延温度を800℃以上に制御し、圧延完了後に製品をスタック冷却することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
ステップ4において、球状化焼鈍工程が、まず製品を805±10℃で7時間以上保温し、その後、水噴霧冷却によって製品を745℃±10℃まで冷却し、かつこの温度下で5時間以上保温し、次に製品を炉で690±10℃まで冷却し、かつこの温度下で4.5時間以上保温し、最後に製品を炉で500±10℃まで冷却して出炉するというものであることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金鋼棒の技術分野に関し、特に耐低温高強度ボールねじの加工に応用される鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械設備において、ボールねじは動力及び変位伝達に不可欠な伝動部品であり、使用環境の違いにより、一部の極端な環境で使用されるボールねじは、従来のねじの高精度、高耐摩耗性を備えるだけでなく、地球の両極地帯の暴風や高波、厳寒などの劣悪な環境下で高い強靭性を保持するといった使用要求を満たす必要もある。
【0003】
従来のボールねじに使われているのは、GCr15銘柄などの高炭素クロム軸受鋼であり、このような材料は、焼入+焼戻の後、鋼球との接触剛性の使用要求しか満たすことができず、低温環境での靭性については極限環境での使用要求を満たすことができず、しかも高炭素軸受鋼の熱処理変形は制御しにくいため、このような材料の軸方向伸縮性が、最終的にボールねじの研磨精度が基準に達しない主な要因となっている。また、この種の鋼は炭素含有量が比較的高いため、焼入後の研磨加工性がかなり悪く、研磨割れなどの加工品質問題の発生率が高い。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、新しい耐低温高強度ボールねじ用鋼及びその生産方法を提示しており、加工されたボールねじ製品は、極端な低温条件下でも表面に超高硬度、強度及び耐摩耗性を有すると同時に、極めて高い低温靭性を有し、かつ加工及び使用過程での寸法安定性もよく、最終的なねじ使用過程における作業の精密さを保証している。
【0005】
上記の目的を実現するために、本願のボールねじ用鋼の力学性能は以下のレベルまたは要求に達している。
【0006】
鋼材中の非金属介在物の要求は表1の通りである。
【0007】
【0008】
鋼材の調質処理(例えば880℃油焼入+450℃水冷)後の機械性能は表2の通り。
【0009】
【0010】
鋼材硬度:JIS G 0561法を採用して一端焼入性を検査したところ、J9mm硬度≧58HRC(表面から距離9mmの深さでの硬度≧58HRC)であった。
【0011】
本発明で上記の性能を実現するための具体的な技術手法は次の通りである。
【0012】
本発明の耐低温高強度ボールねじ用球状化焼鈍鋼の化学成分は、質量百分率で計算すると、C:0.40~0.70%、Si:1.20~1.80%、Mn:1.00~1.60%、Cr:0.80~1.20%、S:≦0.025%、P≦0.025%、Ni:0.10~0.60%、Cu:0.30~0.80%、Mo:0.10~0.40%、Al≦0.05%、Ca≦0.0010%、Ti≦0.003%、O≦0.0010%、As≦0.04%、Sn≦0.03%、Sb≦0.005%、Pb≦0.002%であり、残部Fe及び不可避的不純物である。
【0013】
上記の化学成分の設定根拠は以下の通りである。
【0014】
1)C含有量の確定
Cは耐摩耗性を保証するために必要な元素であり、鋼中の炭素は、マルテンサイト変態能を増加させることにより硬度と強度を高め、それにより耐摩耗性を向上させている。しかし、C含有量が0.77%を超えると、割れ感度が著しく増加し、低温靭性が低下する。本発明では、その含有量を0.40~0.70%に制御している。
【0015】
2)Si含有量の確定
Siは製鋼過程における脱酸素剤であり、かつ固溶強化形式で鋼の硬度、強度、弾性限界及び降伏比を向上させる。Siはフェライト中でのCの拡散速度を低下させ、焼戻時に析出する炭化物を凝集しにくくして、鋼材の焼戻軟化能に対する抵抗性を向上させる。また、Siは摩擦発熱時の酸化作用を減少させ、鋼の冷間変形硬化率を高めることで、材料の耐摩耗性を向上させる。しかし、Si含有量が高すぎると、低温靭性が低下する。本発明では、Si含有量を1.20~1.80%に制御している。
【0016】
3)Mn含有量の確定
Mnは、製鋼過程における脱酸素元素として、鋼の強化にとって有効な元素であり、固溶強化作用を果たすことで、鋼中のC含有量の低下により引き起こされる強度損失を補っている。また、Mnは鋼の焼入性を高め、鋼の熱加工性能を改善することもできる。MnはS(硫黄)の影響を除去することができる。Mnは、鋼鉄の製錬においてSとともに高融点のMnSを形成することができ、それによりSの悪影響を弱め、取り除くことができる。Mn含有量が1.60%を上回ると、鋼の靭性が著しく低下する。本発明では、Mn含有量を1.00~1.60%に制御している。
【0017】
4)Cr含有量の確定
Crは炭化物形成元素であり、鋼の焼入性、耐摩耗性及び耐食性を向上させることができる。鋼中のCrは、一部が鉄と置換して合金セメンタイトを形成し、鋼材の焼戻安定性を向上させ、一部がフェライト中に溶け込んで固溶強化を生じさせ、フェライトの強度及び硬度を向上させる。しかしCr含有量が多すぎると、鋼中の炭素と結合して大きな塊の炭化物を形成しやすくなり、この大きな塊の炭化物が鋼材の接触疲労寿命を低下させる。以上を分析し、本発明ではCr含有量の範囲を0.80~1.20%としている。
【0018】
5)Al含有量の確定
Alは製錬過程における脱酸素剤であり、溶鋼中の溶存酸素を低減させるだけでなく、AlとNによって分散した細かい窒化アルミニウム介在物を形成して結晶粒を微細化することができる。しかし、Al含有量が0.05%を超えると、溶鋼の流動性が大幅に低下し、鋳込の難度が上がる。本発明では、Al含有量の範囲を≦0.05%としている。
【0019】
6)Ni含有量の確定
Niは鋼中では固溶状態で存在しており、本発明の組成系では、Niは積層欠陥エネルギーを低下させ、鋼の低温衝撃性能を顕著に向上させることができるが、Niが多すぎると鋼中の残留オーステナイト含有量が高くなりすぎて、強度を低下させ、しかもコストが増える。本発明では、Ni含有量の範囲を0.10~0.60%としている。
【0020】
7)Cu含有量の確定
Cu元素は焼戻時に微細な析出物を形成して鋼の強度を向上させることができ、それと同時に、Cuは極限環境における鋼材の耐腐蝕能力を向上させることにも役立つ。しかし、Cuが多すぎると粒界が弱くなり、亀裂(クラック)が生じる。本発明では、Cu含有量の範囲を0.30~0.80%としている。
【0021】
8)Mo含有量の確定
Moは鋼の結晶粒を微細化し、焼入性及び高温性能を高めることができ、高温時に十分な強度及び耐クリープ能力を保持する。また、合金鋼の焼戻しによる脆性を抑制することもできる。しかし、モリブデン合金は貴重合金に属するので、コストを抑制して所望の効果を得るために、本発明では、Mo含有量の範囲を0.10~0.40%としている。
【0022】
9)Ca含有量の確定
Ca含有量は鋼中の点状酸化物の量及び寸法を増加させるが、点状酸化物は硬度が高く、塑性が悪いため、鋼が変形する際にそれが変形せず、境界面部分に隙間ができやすく、鋼の性能を悪くしてしまう。それと同時に、製錬コストの制御とも結び付いている。本発明では、Ca含有量の範囲を≦0.001%としている。
【0023】
10)Ti含有量の確定
Tiは、窒化チタン、炭窒化チタン介在物の形式で鋼中に残留することにより鋼材に悪影響を与える。この種の介在物は、硬く、角張っているので、材料の疲労寿命に深刻な影響を与え、特に純度が非常に高く、他の酸化物の介在量が少ない場合に、チタン含有介在物によるダメージが特に顕著になる。それと同時に、製錬コストの制御とも結び付いている。本発明では、Ti含有量の範囲を≦0.003%としている。
【0024】
11)O含有量の確定
酸素含有量は酸化物介在物総量を表しており、酸化物脆性介在物は完成品の耐用年数を制限し、影響を与える。数多くの試験から、酸素含有量の減少は、鋼材の純度の向上、特に鋼中酸化物脆性介在物の含有量の減少に著しく有利であることがわかっている。それと同時に、製錬コストの制御とも結び付いている。本発明では、酸素含有量の範囲を≦0.0010%としている。
【0025】
12)P、S含有量の確定
Pは鋼中で深刻な凝固時の偏析を引き起こし、Pがフェライトに溶けると結晶粒を歪め、粗大化させ、かつ冷間脆性を増加させる。それと同時に、製錬コストの制御とも結び付いている。本発明では、P含有量の範囲を≦0.025%としている。Sは鋼に熱脆性を発生させ、鋼の延性と靭性を低下させる。それと同時に、製錬コストの制御とも結び付いている。本発明では、S含有量の範囲を≦0.025%としている。
【0026】
13)As、Sn、Sb、Pb含有量の確定
As、Sn、Sb、Pbなどの微量元素はいずれも低融点非鉄金属に属しており、鋼材中に存在すると、部品表面に軟点が発生し、硬度にむらが生じるので、鋼中の有害元素と見なされている。それと同時に、製錬コストの制御とも結び付いている。本発明では、これらの元素含有量の範囲を、As≦0.04%、Sn≦0.03%、Sb≦0.005%、Pb≦0.002%としている。
【0027】
上記のボールねじ用鋼の製造プロセスは、電気炉または転炉-炉外精錬-真空脱気-連続鋳造-連続圧延-剪断または鋸切断-スタック冷却-球状化焼鈍-仕上げ-ピックアンドプレース、入庫である。
【0028】
主な生産工程の特徴は以下の通り。
【0029】
1、良質な溶鉄、スクラップ鋼及び原料補助材料を採用して、溶鋼中の有害元素含有量を減らす。精錬過程の脱酸素を強化し、鋼中の残留アルミニウム量を保証し、溶鋼中の良好な動力学条件を利用して集中的な早期脱酸素及び真空脱気処理を行い、非金属介在物を十分に浮上させ、溶鋼中の気体元素含有量を制御する。真空脱気後にアルゴンの弱い吹込みを持続的に行い、溶鋼中の介在物をさらに浮上させる。連続鋳造過程では、溶鋼の酸化を防止し、保護しなければならない。
【0030】
2、連続鋳造過程では、電磁撹拌と軽圧下を組み合わせ、かつ低過熱度での鋳込を採用して、連続鋳造ビレットの成分偏析を有効に改善し、低下させており、特に、凝固末端電磁撹拌及び軽圧下などの先進設備を増設した場合は、ビレットの凝固組織の緻密度が上がり、ビレットの中心の粗さや縮孔が有効に制御され、二次樹枝状晶枝間隔が明らかに改善され、中心等軸晶率は明らかに向上し、結晶粒は微細化され、それによりビレットの品質が顕著に改善されて、成分偏析が低下する。
【0031】
3、本発明の製品は、製錬原料を一次製錬、精錬、真空脱気の順に通過させて目標成分の溶鋼を獲得し、その後、連続鋳造工程を採用して溶鋼を390mm×510mm以上の仕様の連続鋳造角型ビレットに鋳造したものである。連続鋳造ビレットはピットで徐冷し、割れを防止する。徐冷時間は48時間を下回らず、その後、連続鋳造ビレットを中性または弱酸性雰囲気の加熱炉内に送って加熱する。加熱温度は1000~1250℃とし、加熱時間は5時間を上回る。その後、200mm×200mm~300mm×300mmの中間ビレットに圧延する。圧延温度範囲は1000℃~1200℃とし、仕上げ圧延温度は≧800℃、圧延率は5より大きく、中間ビレットはピットで徐冷し、ピット温度は≧500℃、徐冷時間は48時間を下回らないものとする。
【0032】
次に、中間ビレットを再加熱してさらに圧延を進め、中間ビレットを目標仕様に圧延する。具体的な加熱工程は次の通りである。予熱帯の温度は650~900℃、加熱帯の温度は1000~1250℃、均熱帯の温度は1000~1250℃であり、ビレットが十分均一に加熱されることを保証するために、総加熱時間は2時間以上としなければならない。圧延の開始温度は1000℃~1200℃、仕上げ圧延温度は≧800℃であり、圧延の完了後はスタック冷却する。
【0033】
ボールねじを製作する際の鋼材の寸法精度の安定性を保証するために、上記の鋼材に対して球状化焼鈍処理を行う必要があるので、以下の球状化焼鈍工程を使用する。
【0034】
(1)805±10℃の温度で7時間保温し、ミクロ組織をフェライトとオーステナイトの二相領域に保持させる。この時、セメンタイトの一部がオーステナイトに溶解して二次セメンタイトを形成する。マトリックスはフェライトと二次セメンタイトであり、該ミクロ組織は後続の核形成に用いることのできるセメンタイト粒子を有し、フェライトと二次セメンタイトの2種類の組織が動的平衡に達し、共存する。
【0035】
(2)水噴霧冷却。軸受鋼GCr15のような過共析鋼とは異なり、本発明の製品は亜共析鋼に属しているので、水噴霧冷却を採用して球状化過冷の駆動力を強化する必要がある。
【0036】
(3)さらに2段階の等温球状化プロセスを行う。第1段階では745±10℃の温度領域で5時間保温し、第2段階では690±10℃の温度領域で4.5時間保温して、ステップ(1)に記載の二次セメンタイトを球状形態で十分に析出させる。2段階の等温球状化方式では、球の大きさや球状化率を制御するものであり、球状化後のセメンタイトの直径を(0.1μm~0.5μm)、好適には(0.3μm~0.5μm)に制御している。
【0037】
等温球状化温度が高すぎると、球のサイズが大きくなりすぎ、等温球状化温度が低すぎると、球状化率が低くなりすぎて、ボールねじの後続の熱処理加工過程での寸法安定性に影響する。
【0038】
球状化焼鈍後の製品は、矯正、探傷を経て最終製品となる。
【0039】
従来技術と比較すると、本発明の長所は以下の点にある。
【0040】
1)従来のGCr15軸受鋼とは異なり、化学成分が最適化されているので、鋼材の焼入性、降伏強さ及び焼戻軟化抵抗が著しく向上しており、かつ亀裂が発生しにくくなっている。
【0041】
2)従来のGCr15軸受鋼の球状化セメンタイトは比較的粗大で、直径は1~3μmであり、比較すると、本発明製品の球状化セメンタイトのサイズはより小さく、直径は(0.1μm~0.5μm)であり、球状化率は95%以上に達しており、残りの組織はフェライトである。構造ひずみエネルギーが小さく、ねじ製品を加工する過程での熱処理変形が小さく、寸法精度が高いので、ボールねじの精度使用要求を満たすことができる。
【0042】
3)従来のGCr15軸受鋼は低温脆性が非常に大きく、-40℃でのシャルピー衝撃値AKU2<10Jであり、それと比較すると、本発明製品は、より高い降伏強さ(≧1380MPa)と引張強さ(≧1500MPa)を有するだけでなく、より優れた低温靭性も有している。-40℃でのシャルピー衝撃値はAKU2≧27Jである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1における球状化焼鈍の組織図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例2における球状化焼鈍の組織図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例3における球状化焼鈍の組織図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例における球状化焼鈍工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、実施例と結び付けて、本発明に対するさらに詳細な説明を行う。
【0045】
実施例1~3は、本発明のボールねじ用鋼の化学成分と製造方法をそれぞれ列挙し、かつ市販のGCr15軸受鋼と比較したものである。
【0046】
各実施例の化学成分(wt%)は表2、3の通り
【0047】
【0048】
【0049】
各実施例の鋼材の介在物は表4の通り
【0050】
【0051】
各実施例の機械性能(880℃油焼入+450℃水冷)の比較は表5の通り
【0052】
【0053】
各実施例の鋼材の一端焼入性データは表6の通り
【0054】
【0055】
各実施例の鋼材のミクロ組織は
図1~3の通りであり、従来のGCr15軸受鋼の粗大な球状化セメンタイトとは異なり、本発明の鋼材の納品状態でのセメンタイトは均一でより細かい(一般的には0.1~0.5μm)球状化状態で存在しており、球状化率は95%以上に達し、残りの組織はフェライトである。構造ひずみエネルギーが小さく、ねじ製品を加工する過程での熱処理変形が小さく、寸法精度が高いので、ボールねじの精度使用要求を満たすことができる。
【0056】
各実施例のボールねじ用鋼の製造プロセスは、電気炉または転炉-炉外精錬-VDまたはRH真空脱気-連続鋳造-連続鋳造ビレットからの中間ビレットへの成形-中間ビレットを加熱して材料に圧延-球状化焼鈍-仕上げ-ピックアンドプレース、入庫である。
【0057】
具体的な製錬の際には、良質な溶鉄、スクラップ鋼及び原料補助材料を選択し、良質な脱酸素剤及び耐火材料を選択する。電気炉/転炉の生産過程では、3つの実施例の出鋼終点のCはそれぞれ0.05~0.25%に制御されており、終点のPは≦0.025%であることが必要であり、連続鋳造過熱度は15~35℃の間に制御されている。
【0058】
各実施例の連続鋳造ビレットによるビレット圧延工程は表7の通りである。
【0059】
【0060】
中間ビレットを加熱炉内に送って目標の丸棒に圧延する具体的な圧延工程は次の通りである。予熱帯の温度を650~900℃に制御し、加熱帯の温度を1000~1250℃に制御し、均熱帯の温度を1100~1200℃に制御するよう設定し、ビレットが十分均一に熱を受けることを保証するために、総加熱時間は2時間以上とする。圧延開始温度を900℃~1100℃に制御し、仕上げ圧延温度を800℃以上に制御し、圧延完了後は徐冷を行って鋼中のAlN粒子を細かく、均一に、十分に析出させることによって、結晶粒を微細化し、かつ鋼材に混晶が発生することを防止し、圧延完了後はスタック冷却する。圧延した完成品の棒材に球状化焼鈍処理を行う。その工程は上記の3段式球状化工程図の通りである。球状化焼鈍後の棒材製品は、さらに探傷処理を行い、最後にピックアンドプレースして入庫する。
【0061】
表2、3、4、5、6から、本発明の上記各実施例における耐低温高強度ボールねじ用鋼は、従来のGCr15軸受鋼と比較して、酸素、チタン及び非金属介在物などの有害元素の制御レベルが明らかに良好であることがわかる。特に機械性能面では、同様の調質工程で処理した後の本発明の降伏強さ、引張強さ、低温衝撃及び焼戻軟化抵抗は、従来のGCr15軸受鋼より明らかに優れており、降伏強さは400MPa近く向上し、引張強さは300MPa向上し、低温衝撃性能は30J近く向上し、硬度は10HRC近く向上している。焼入性も従来のGCr15軸受鋼より明らかに優れている。
【0062】
以上のように、本発明の好適な実施例について詳細に述べてきたが、当業者にとって、本発明は様々な修正及び変化が可能であることをはっきりと理解しておかなければならない。本発明の主旨及び原則内で行われる変更、同等の置換、改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるものとする。
【国際調査報告】