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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-18
(54)【発明の名称】波長変換部材および発光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240611BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240611BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240611BHJP
   C09K 11/02 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
C09K11/08
C09K11/02 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569957
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 KR2022006559
(87)【国際公開番号】W WO2022240091
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2021-0060656
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517108310
【氏名又は名称】デジュ・エレクトロニック・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DAEJOO ELECTRONIC MATERIALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ・ジョンギュ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,スンウブ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジェオン
(72)【発明者】
【氏名】イム,ジュンギュ
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA07
2H148AA09
2H148AA19
4H001CA02
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA39
5F142AA62
5F142DA02
5F142DA14
5F142DA55
5F142DA63
5F142DA73
(57)【要約】
本発明は、波長変換部材およびその製造方法に関し、波長変換部材は、ガラスマトリックスと、ガラスマトリックス中に分散された蛍光体粉末および球状シリカフィラー粉末とを含んで成り、球状シリカフィラー粉末は特定の範囲内のD50およびSPAN値を有する。波長変換部材は、蛍光強度が高く、光透過率、光束、および変換光束のような光学特性に優れており、高出力の励起光照射時の経時的な光度低下を抑制できるため、発光デバイスに有効に利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスマトリックスと、前記ガラスマトリックス中に分散された蛍光体粉末および球状シリカフィラー粉末とを含んで成り、
レーザー回折により測定される粒度分布における累積体積(%)の10%、50%、および90%を示す粒径をそれぞれD10、D50、およびD90とする場合、前記球状シリカフィラー粉末のD50は1.0~15.0μmであり、下記式1:
【数1】
のSPAN値は1.0~5.0である、波長変換部材。
【請求項2】
前記球状シリカフィラー粉末は1.5~15のD90/D10を有する、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記球状シリカフィラー粉末が1.0~6.5m/gの比表面積(Brunauer-Emmett-Teller;BET)を有する、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記ガラスマトリックスと前記球状シリカフィラー粉末との間の屈折率の差は0.01~0.52である、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記ガラスマトリックスが1.44~1.89の屈折率および550~850℃の軟化温度(T)を有する、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記蛍光体粉末が3~30μmの平均粒径(D50)を有する、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項7】
前記球状シリカフィラー粉末の含有率が、前記ガラスマトリックス、前記球状シリカフィラー粉末および前記蛍光体粉末の総重量に基づいて0.5~50重量%である、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項8】
前記蛍光体粉末および前記球状シリカフィラー粉末の重量比が1:0.1~1:5である、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項9】
前記ガラスマトリックスが2~15μmの平均粒径(D50)を有するガラス粉末に由来し、
前記ガラス粉末が前記ガラス粉末の総モルに基づき、以下の組成:
2~10モル%のP
30~50モル%のZnO、
10~25モル%のSiO、および
15~25モル%のB
を有する、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項10】
前記ガラス粉末が以下の成分:
1~10モル%のAl
0.1~7モル%のSnO
1~5モル%のBaO、
0.1~5モル%のSrO、
1~5モル%のCaO、
1~5モル%のLiO、
1~7モル%のNaOおよび
1~5モル%のK
から選択される少なくとも1種をさらに含んで成る、請求項9に記載の波長変換部材。
【請求項11】
請求項1に記載の波長変換部材を製造する方法であって、
ガラス粉末と、蛍光体粉末と、球状シリカフィラー粉末とを含んで成る、波長変換部材用組成物を得る第1ステップと、
前記波長変換部材用組成物を基材に塗布して波長変換部材用グリーンシートを得る第2ステップと、
前記波長変換部材用グリーンシートを焼成する第3ステップと
を含んで成る、波長変換部材の製造方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の波長変換部材と、前記波長変換部材に励起光を照射する光源とを備える、発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、波長変換部材およびそれを備えた発光デバイスに関する。より具体的には、特定範囲の粒度分布を有する球状シリカフィラー粉末を含む波長変換部材およびそれを含む発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
近年、低電力、軽量、光量制御の容易さなどの観点から、次世代発光デバイスとして、例えば、発光ダイオード(LED)のような励起光源を用いた発光デバイスへの注目が高まっている。
【0003】
このような発光装置は、一般に、青色LEDと、青色LEDから発せられる青色光を吸収し、黄色光、緑色光、または赤色光を経て白色光を生成する波長変換部材とを備える。波長変換部材は、有機または無機のマトリックス中に蛍光体粉末が分散された構造を有するのが一般的である。
【0004】
具体的には、樹脂マトリックス中に蛍光体粉末を分散させた波長変換部材が用いられている。しかしながら、上記波長変換部材では、励起光源および照射光からの熱により樹脂が劣化したり、発光デバイスの輝度が低下したりするという問題があった。
【0005】
一方、特開2003-258308号公報および特許第4895541号公報には、ガラスマトリックス(またはガラス母材)中に蛍光体粉末を分散させた波長変換部材の作製方法が開示されている。しかしながら、ガラスマトリックスを用いた場合、波長変換部材作製時の高い焼結温度により一部の蛍光体が劣化し、光学特性の低下や変色を引き起こす可能性があり、蛍光体の使用制限により演色性の高い波長変換部材の実現が困難であるという問題があった。
【0006】
また、このような波長変換部材では、LEDの励起光が波長変換部材の内部で十分に散乱されない場合がある。このような場合、発光デバイスから発せられる光が不均一となり、蛍光強度が低下するという問題があった。
【0007】
この問題を解決するために、蛍光体粉末の含有量を増やす方法が検討されている。しかしながら、この場合、波長変換部材内部で散乱する光の量は増加できるものの、色ずれが大きくなり、良好な色を得るには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-258308号公報
【特許文献2】特許第4895541号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の開示
技術的課題
本発明は、従来技術の上記問題を解決するために考え出されたものである。本発明が解決しようとする技術的課題は、蛍光強度が高く、光学特性に優れた波長変換部材を提供することにある。特に、高出力の励起光を照射した場合の経時的な発光強度の低下を抑制することができるものおよびその製造方法である。
【0010】
また、本発明が解決しようとする他の技術的課題は、上記波長変換部材を備えた発光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題の解決手段
発明の効果
本発明の波長変換部材は、蛍光強度が高く、例えば、光透過率、光束、および変換光束のような光学特性に優れ、高出力の励起光を照射した際の経時的な発光強度の低下を抑制することができる。したがって、発光デバイスに有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面の簡単な説明
以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
図1図1は、本発明の一実施形態に係る波長変換部材の平面図を模式的に示す。
図2図2は、本発明の一実施形態による球状シリカフィラー粉末の長軸径および短軸径の測定方法を示す図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る波長変換部材の製造方法を示すプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態
本発明は以下に開示される内容に限定されるものではない。その他、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変形することができる。
【0014】
本明細書において、部品が要素を「含んで成る(または含む)」という場合、別段の指示がない限り、その部品は他の要素も同様に含み得ることが理解されるべきである。
【0015】
本明細書では、特に指定がない限り、単数形の表現は文脈に応じて単数形または複数形をカバーするものと解釈される。
【0016】
さらに、本明細書で使用される成分の量、反応条件などに関連するすべての数値および表現は、別段の指示がない限り、用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。
【0017】
なお、本明細書において、層または膜のような一部が他の要素「上」に形成されると記載する場合には、ある要素が他の要素「上」に直接形成されることだけでなく、他の要素がそれらの間に介在していることもカバーする。
【0018】
また、図面における各構成の寸法は説明のために誇張されている場合があり、実際の寸法を意味するものではない。さらに、明細書全体を通じて同じ参照番号は同じ要素を指す。
【0019】
[波長変換部材]
本発明の第1実施形態に係る波長変換部材は、ガラスマトリックスと、ガラスマトリックス中に分散された蛍光体粉末および球状シリカフィラー粉末とを含んで成り、
レーザー回折により測定される粒度分布における累積体積(%)の10%、50%、および90%を示す粒径(または粒子径)をそれぞれD10、D50、およびD90とする場合、球状シリカフィラー粉末のD50は1.0~15.0μmであり、下記式1:
【数1】

のSPAN値は1.0~5.0である。
【0020】
本発明の実施形態に係る波長変換部材は、ガラスマトリックスと、ガラスマトリックス中に分散されている蛍光体粉末および球状シリカフィラー粉末とを含んで成る。特に、球状シリカフィラー粉末は、D50およびSPAN値が特定の範囲にあるため、高い蛍光強度および優れた光学特性を有する。特に、高出力の励起光を照射した場合の経時的な発光強度の低下を抑制することができる。
【0021】
また、球状シリカフィラー粉末は、融点が1400℃以上と高いため、波長変換部材作製時の焼成温度に対する耐熱性が化学的に安定であり、蛍光体に吸着しやすい。これにより、波長変換部材の作製において、焼成時に生じる波長変換部材の収縮を抑制することができ、波長変換部材内での蛍光体粒子の均一分散を良好に維持することができる。
【0022】
以下、波長変換部材の各構成要素について詳細に説明する。
【0023】
ガラスマトリックス
本発明の一実施形態に係る波長変換部材は、ガラスマトリックスを含む。ガラスマトリックスは、ガラス粉末を原料として成形および焼結して得られる波長変換部材の母材(base material)であってもよい。このようなガラスマトリックス中には、蛍光体粉末および球状シリカフィラー粉末が分散して含まれていてもよい。
【0024】
具体的には、ガラスマトリックスは、ガラス粉末、蛍光体粉末および球状シリカフィラー粉末を含む波長変換部材用組成物を基板上にシート状に塗布し、その組成物を焼成することにより得られる。また、ガラスマトリックスは、蛍光体粉末、球状シリカフィラー粉末、ガラス粉末を型に入れて圧縮成形し、例えば450~950℃で焼結することにより得ることができる。
【0025】
ガラスマトリックスは、蛍光体粉末および球状シリカフィラー粉末をガラスマトリックス中に均一に分散した状態に安定に維持するための媒体として機能することができる。
【0026】
図1を参照すると、本発明の一実施形態に係る波長変換部材(100)では、ガラスマトリックス(110)中に蛍光体粉末(120)および球状シリカフィラー粉末(130)とが均一に分散されている。
【0027】
また、ガラスマトリックスを形成する原料としてガラス粉末の組成によって、ガラス粉末と蛍光体粉末との間の反応性が異なる場合があるため、使用される蛍光体粉末に適したガラス粉末の組成を選択することが重要である。例えば、波長変換部材の作製において焼結温度を高くすると、ガラスマトリックスと蛍光体とが反応して、波長変換部材の量子変換収率が低下するおそれがある。したがって、これを防ぐにはガラス粉末の組成が重要である。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、ガラスマトリックスは、P、ZnO、SiO、およびBを主成分として含むことが好ましい。
【0029】
具体的には、ガラスマトリックスは、特定の組成を有するガラス粉末から得ることができる。
【0030】
ガラス粉末は、ガラス粉末の総モル数に基づいて、2~10モル%のP、30~50モル%のZnO、10~25モル%のSiO、および15~25モル%のBを含んでもよい。
【0031】
ガラス粉末が上記組成を有するため、蛍光体粉末の含有量が多くてもガラス粉末を十分に焼結させることができ、波長変換部材を長期間使用した場合でも光の輝度の低下を抑制することができる。また、波長変換部材は、湿潤環境下においても優れた耐水性を有するため、優れた光吸収を実現することができる。
【0032】
具体的には、Pはガラス骨格を形成し、耐水性を高める成分である。Pの含有量は、ガラス粉末の総モル数に基づき2~10モル%、好ましくは2~6モル%であってもよい。
【0033】
の含有量が上記範囲未満であると、ガラス化が困難となる場合がある。上記範囲を超えると、軟化点(Ts)が高くなり、耐候性が低下する場合がある。
【0034】
ZnOは融解温度を下げることで溶解性(または融解性;solubility)を向上させる成分である。ZnOの含有量は、ガラス粉末の総モル数に基づき30~50モル%、好ましくは30~40モル%であってもよい。
【0035】
ZnOの含有量が上記範囲未満であると、融解性を向上させる効果が小さくなる場合がある。上記範囲を超えると、耐候性が低下したり、透過率が低下して発光強度が低下したりする場合がある。
【0036】
SiOはガラス骨格を形成する成分である。SiOの含有量は10~25モル%、好ましくは15~25モル%であってもよい。
【0037】
SiOの含有量が上記範囲未満であると、耐候性および機械的強度が低下する場合がある。上記範囲を超えると、波長変換部材作製時の高温での焼成により蛍光体粉末が劣化する場合がある。
【0038】
はガラス骨格を形成する成分である。融解温度を下げることができるため、溶融性(meltability)が向上し、光の拡散を高めることができる。Bの含有量は、ガラス粉末の総モル数に基づいて15~25モル%、好ましくは15~20モル%であってもよい。
【0039】
の含有量が上記範囲未満であると、上記効果が得られにくい場合がある。上記範囲を超えると、化学的耐久性が低下する場合がある。
【0040】
また、本発明の一実施形態によれば、ガラス粉末は、1~10モル%のAl、0.1~7モル%のSnO、1~5モル%のSnO、1~5モル%のBaO、0.1~5モル%のSrO、1~5モル%のCaO、1~5モル%のLiO、1~7モル%のNaO、および1~5モル%のKOからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよい。
【0041】
Alは化学的耐久性を高める成分である。Alの含有量は、ガラス粉末の総モル数に基づいて1~10モル%、好ましくは2~6モル%であってもよい。
【0042】
Alの含有量が上記範囲未満であると、化学的耐久性を向上させる効果が小さくなる場合がある。Alの含有量が上記範囲を超えると、ガラスの溶融性が低下する傾向にある。
【0043】
SnOは、ガラス転移温度、降伏点、および軟化点(Ts)のような熱に関する物性温度(熱物性温度)を下げることができる成分である。SnOの含有量は、ガラス粉末の総モル数に基づいて0.1~7モル%、より好ましくは0.2~6モル%であってもよい。
【0044】
SnOの含有量が上記範囲未満であると、熱物理温度を低下させる効果が小さくなる場合がある。SnOの含有量が上記範囲を超えると、ガラス溶融時にSnに起因する失透物質(特に4価の錫物質)がガラス中に析出し、透過率が低下する傾向がある。その結果、発光効率の高い波長変換部材を得ることが困難となり、また、溶融分離によるガラス化が困難となる場合がある。
【0045】
BaOは、溶融温度を低下させ、溶融性を向上させる成分である。また、ガラスの相分離を促進し、蛍光体粉末との反応を抑制する効果もある。
【0046】
BaOの含有量は1~5モル%、好ましくは1~4モル%であってもよい。BaOの含有量が上記範囲未満であると、溶解性を向上させる効果が小さくなる場合がある。BaOの含有量が上記範囲を超えると、化学的耐久性が低下するとともに、ガラスの相分離(または分相;phase separation)傾向が大きくなりすぎて、わずかな熱処理温度の変化でも分相状態が大きく変化する場合がある。このため、多数の波長変換部材間で光の拡散に偏り(アンバランス)が生じる場合がある。
【0047】
SrOは、融解温度を下げ、溶融性を向上させる成分である。また、ガラスの相分離を促進し、蛍光体粉末との反応を抑制する効果もある。
【0048】
SrOの含有量は0.1~5モル%、好ましくは0.1~4モル%であってもよい。SrOの含有量が上記範囲未満であると、溶融性の向上効果が小さくなる場合がある。SrOの含有量が上記範囲を超えると、化学的耐久性が低下し、ガラスの分相傾向が大きくなりすぎて、わずかな熱処理温度の変化でも分相状態が大きく変化する場合がある。このため、多数の波長変換部材間で光の拡散にばらつきが生じやすい。
【0049】
CaOは、融解温度を低下させ、溶融性を向上させる成分である。また、ガラスの相分離を促進し、蛍光体粉末との反応を抑制する効果もある。
【0050】
CaOの含有量は1~5モル%、好ましくは1~4モル%であってもよい。CaOの含有量が上記範囲未満であると、溶解性を向上させる効果が小さくなる場合がある。CaOの含有量が上記範囲を超えると、化学的耐久性が低下し、ガラスの相分離傾向が大きくなりすぎて、わずかな熱処理温度の変化でも相分離状態が大きく変化する場合がある。このため、多数の波長変換部材間で光の拡散にばらつきが生じやすい。
【0051】
LiOは軟化点を下げる成分である。LiOの含有量は、ガラス粉末の総モル数に基づいて1~5モル%であることが好ましく、2~5モル%であることがより好ましい。
【0052】
LiOの含有量が上記範囲未満であると、上記効果が小さくなる場合がある。LiOの含有量が上記範囲を超えると、化学的耐久性が低下したり、ガラスの分相傾向が大きくなりすぎて光散乱損失が増大したりする場合がある。また、発光ダイオード(LED)またはレーザーダイオード(LD)からの光照射により、耐候性が低下したり、経時的に発光強度が低下したりするという問題が生じる場合がある。
【0053】
NaOは軟化点を下げる成分である。NaOの含有量は、ガラス粉末の総モル数に基づいて1~7モル%であることが好ましく、2~6モル%であることがより好ましい。
【0054】
NaOの含有量が上記範囲未満であると、上記効果が小さくなる場合がある。NaOの含有量が上記範囲を超えると、化学的耐久性が低下したり、ガラスの分相傾向が大きくなりすぎて光散乱損失が増大したりする場合がある。また、LEDまたはLDからの光照射により、耐候性が低下したり、経時的に発光強度が低下したりするという問題が生じる場合がある。
【0055】
Oは軟化点を下げる成分である。KOの含有量は、ガラス粉末の総モル数に基づいて1~5モル%であることが好ましく、2~5モル%であることがより好ましい。
【0056】
Oの含有量が上記範囲未満であると、上記効果が小さくなる場合がある。KOの含有量が上記範囲を超えると、化学的耐久性が低下したり、ガラスの分相傾向が大きくなりすぎて光散乱損失が増大したりする場合がある。また、LEDまたはLDからの光照射により、耐候性が低下したり、経時的に発光強度が低下したりするという問題が生じる場合がある。
【0057】
具体的には、ガラス粉末は、ガラス粉末の総モル数に基づいて、0.1~7モル%、例えば0.2~6モル%のSnOと、1~10モル%、例えば2~6モル%のAlとをさらに含んでもよい。
【0058】
ガラス粉末は、ガラス粉末の総モル数に基づいて、1~5モル%のBaO、0.1~5モル%のSrO、および1~5モル%のCaOをさらに含んでもよい。
【0059】
ガラス粉末は、ガラス粉末の総モル数に基づいて、1~5モル%のKO、1~5モル%のNaO、および1~5モル%のLiOをさらに含んでもよい。
【0060】
あるいは、ガラス粉末は、アルカリ金属酸化物として、NaOおよびKO、NaOおよびLiO、またはLiOおよびKOをさらに含んでもよい。ガラス粉末が上記各成分を上記組み合わせで含む場合、これらの成分の合計含有量は2~15モル%、好ましくは3~10モル%の範囲で適宜調整することが望ましい。
【0061】
ガラス粉末の平均粒径(D50)は2~15μm、好ましくは5~15μmであってもよい。
【0062】
ガラス粉末の平均粒径(D50)が上記範囲未満であると、焼成時に発生する気泡の量が多くなり、波長変換部材中に気泡が残存する場合がある。波長変換部材の気孔率は、5%以下、3%以下、特に1%以下であることが好ましい。気孔率が上記範囲を超えると、光学特性が低下する場合がある。また、波長変換部材中に気泡が多く含まれると、光散乱が過剰となり、散乱損失により蛍光強度が低下する場合がある。
【0063】
また、波長変換部材の内部に水分が浸入しやすくなり、それにより化学的耐久性が低下するおそれがある。ガラス粉末の平均粒径(D50)が上記範囲を超えると、波長変換部材中に蛍光体粉末を均一に分散させることが困難となる場合がある。その結果、波長変換部材の蛍光強度が低下したり、色度ずれが生じたりする場合がある。
【0064】
ガラスマトリックスの屈折率は1.44~1.89であってもよい。具体的には、ガラスマトリックスの屈折率は、1.57~1.85であることが好ましく、1.60~1.84であることがより好ましい。
【0065】
一方、ガラスマトリックスの軟化点(Ts)は550~850℃であってもよい。
【0066】
具体的には、ガラスマトリックスの軟化点(Ts)は、550~630℃であることが好ましく、550~600℃であることがより好ましい。
【0067】
ガラスマトリックスの軟化点(Ts)が低すぎると、波長変換部材の機械的強度および化学的耐久性が低下する場合がある。また、ガラスマトリックス自体の熱抵抗が低いため、蛍光体から発生する熱をガラスマトリックスが吸収して溶融して形状が変化する軟化変形が生じる場合がある。一方、ガラスマトリックスの軟化点(Ts)が高すぎると、焼結時に蛍光体粉末が劣化して、波長変換部材の発光強度が低下する場合がある。また、ガラスマトリックスの軟化点(Ts)は、波長変換部材の化学的安定性および機械的強度を高める観点から、550℃以上であることが好ましい。このようなガラスの例としては、ホウケイ酸系ガラス、P-ZnO-SiO-B系ガラスが挙げられる。
【0068】
蛍光体粉末
本発明の一実施形態によれば、蛍光体粉末はガラスマトリックス中に均一に分散され得る。蛍光体粉末がガラスマトリックス中に均一に分散させる場合、耐熱性に優れた波長変換部材を提供することができる。
【0069】
蛍光体粉末は、紫外または可視の励起光が入射した場合に励起光の波長よりも長波長の蛍光を発する蛍光体粉末を含んでもよい。例えば、可視の励起光が入射し、励起光の補色の蛍光を発する蛍光体粉末を使用する場合、透過した励起光および蛍光体粉末の蛍光が混合されて白色光が生成される。したがって、白色LEDを容易に製造することができる。具体的には、可視励起光が430~490nmの主波長を有し、蛍光体粉末の蛍光が530~590nmの主波長を有する場合、白色光を提供するのに有利となり得る。
【0070】
蛍光体粉末の平均粒径(D50)は3~30μm、好ましくは3~30μmであってもよい。蛍光体粉末の平均粒径(D50)が上記範囲未満であると、蛍光体粉末同士が凝集しやすくなり、発光強度が低下する場合がある。蛍光体粉末の平均粒径(D50)が上記範囲を超えると、波長変換部材の効率が低下したり、色ずれが大きくなったりするため好ましくない。
【0071】
蛍光体粉末の種類は特に限定されない。例えば、窒化物蛍光体粉末、酸窒化物蛍光体粉末、(例えば、YAG蛍光体粉末のようなガーネット系蛍光体粉末を含む)酸化物蛍光体粉末、硫化物蛍光体粉末、酸硫化物蛍光体粉末、(例えば、フッ化物、塩化物のような)ハロゲン化物蛍光体粉末、アルミ酸塩化物蛍光体が挙げられる。上記蛍光体粉末のうち、窒化物蛍光体粉末、酸窒化物蛍光体粉末および酸化物蛍光体粉末は、耐熱性が高く、焼成時に劣化しにくく、白色LEDデバイス用の波長変換部材に用いられる蛍光体粉末として特に適している。
【0072】
また、蛍光体粉末は、量子変換効率を高める観点から、酸化物蛍光体粉末または塩化アルミン酸蛍光体粉末であることが好ましい。
【0073】
前記酸化物蛍光体またはアルミン酸塩化物蛍光体は、イットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG)系、ルテチウム-アルミニウム-ガーネット(LuAG)系、窒化物系、硫化物系およびケイ酸塩系の材料からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光体粉末を含んでもよい。
【0074】
蛍光体粉末は、可視波長範囲、例えば、380nm~780nmの発光波長範囲を有する蛍光体粉末であってもよい。
【0075】
具体的には、蛍光体粉末は、青色、緑色、赤色、および黄色の発光粒子から選択される少なくとも1つを含んでもよい。ここで、青色、緑色、赤色、および黄色の発光粒子とは、それぞれ青色、緑色、赤色、および黄色の蛍光を発する粒子をいう。
【0076】
青色発光粒子は、440nm~480nmの発光波長範囲を有する蛍光体粉末を含んでもよい。緑色発光粒子は、500nm~540nmの発光波長範囲を有する蛍光体粉末を含んでもよい。黄色発光粒子は、540nmより大きく595nmまでの発光波長範囲を有する蛍光体粉末を含んでもよい。赤色発光粒子は、660nm~700nmの発光波長範囲を有する蛍光体粉末を含んでもよい。
【0077】
具体的には、波長300nm~440nmの紫外~近紫外線の励起光を照射する場合、青色発光粒子は、(Sr,Ba)MgAl1017:Eu2+、(Sr,Ba)MgSi:Eu2+であってもよい。
【0078】
波長300nm~440nmの紫外~近紫外線の励起光を照射する場合、緑色発光粒子はSrAl:Eu2+;SrBaSiO:Eu2+;(Y,Lu)(Al,Gd)12:Ce3+;SrSiON:Eu2+;BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+;BaMgSiEu2+;BaSiO:Eu2+;BaLiSi:Eu2+;BaAl:Eu2+であってもよい。波長440nm~480nmの青色励起光を照射すると、緑色発光粒子はSrAl:Eu2+;SrBaSiO:Eu2+;(Y,Lu)(Al,Gd)12:Ce3+;SrSiON:Eu2+;β-SiAlON:Eu2+であってもよい。
【0079】
波長300nm~440nmの紫外~近紫外線の励起光を照射する場合、黄色発光粒子はLaSi11:Ce3+であってもよい。波長440nm~480nmの青色励起光を照射すると、黄色発光粒子は、(Y,Lu)(Al,Gd)12:Ce3+;SrSiO:Eu2+であってもよい。
【0080】
波長300nm~440nmの紫外~近紫外線の励起光を照射する場合、赤色発光粒子はCaGa:Mn2+、;MgSrSi:Eu2+,Mn2+;CaMgSi:Eu2+,Mn2+であってもよい。波長440nm~480nmの青色励起光を照射する場合、赤色発光粒子はCaAlSiN:Eu2+;CaSiN:Eu2+;(Ca,Sr)Si:Eu2+;α-SiAlON:Eu2+であってもよい。
【0081】
本発明の一実施形態によれば、励起光および発光波長に応じて多様な蛍光体粉末を混合して使用してもよい。例えば、紫外領域の励起光を照射して白色光を生成する場合には、青色、緑色、黄色、または赤色の発光粒子を含む蛍光体粉末を使用してもよい。
【0082】
蛍光体粉末の屈折率は1.5~2.4であってもよい。
【0083】
また、本発明の波長変換部材において、ガラスマトリックスと蛍光体粉末との間の屈折率の差は、例えば0.05未満、好ましくは0.03未満であってもよい。ガラスマトリックスと蛍光体粉末との間の屈折率の差が小さい場合、適切な散乱および光拡散が達成され、本発明において所望の効果を得るためにより有利であると考えられる。
【0084】
本発明の一実施形態によれば、波長変換部材中の蛍光体粉末の含有量は、ガラスマトリックス、球状シリカフィラー粉末、および蛍光体粉末の総重量に基づいて蛍光体全体の5~50重量%、好ましくは10~40重量%、より好ましくは10~30重量%であってもよい。
【0085】
蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、発光量が不足し、所望の白色光が得られにくくなる。蛍光体粉末の含有量が多すぎると、焼結が困難となり、また、蛍光体粉末全体に励起光が十分に照射されず、蛍光強度が低下するおそれがある。また、波長変換部材の内部に空孔が形成されやすく、緻密な構造が得られにくい。
【0086】
球状シリカフィラー粉末
本発明の一実施形態によれば、波長変換部材は球状シリカフィラー粉末を含んで成る。
【0087】
球状シリカフィラー粉末を含む波長変換部材では、ガラスマトリックスおよび球状シリカフィラー粉末の両方がガラス製であり、したがって、不均一な層またはそれらの間の界面でのボイドの発生を最小限に抑えることができる。
【0088】
球状シリカフィラー粉末はガラスマトリックス中に均一に分散され得る。球状シリカフィラー粉末をガラスマトリックス中に均一に分散させると、耐熱性が向上し、蛍光強度の低下および色度ずれの発生を最小限に抑えることができる。
【0089】
本発明の波長変換部材は、球状シリカフィラー粉末を含有し、特定範囲の粒度分布、すなわち1.0~15.0μmのD50、1.0~5.0のSPAN値を有することを特徴とする。
【0090】
具体的には、球状シリカフィラー粉末のD50は1.0~15.0μm、好ましくは1.2~13.2μm、より好ましくは2.0~6.0μmであってもよい。球状シリカフィラー粉末のD50が上記範囲未満であると、球状シリカフィラー粉末が凝集して波長変換部材の光透過率が低下するおそれがある。一方、球状シリカフィラー粉末のD50が上記範囲を超えると、波長変換部材内での球状シリカフィラー粉末の分布が不均一となり、波長変換部材の蛍光強度が低下したり、色度偏差が大きくなったりする場合がある。また、波長変換部材は焼成時に収縮するおそれがある。一方、球状シリカフィラー粉末のD50が上記範囲を満たすと、球状シリカフィラー粒子間、または球状シリカフィラー粉末と蛍光体粉末との距離が短くなり、熱を効果的に外部に放散することができる。
【0091】
球状シリカフィラー粉末のSPAN値は1.0~5.0、好ましくは1.0~4.5、より好ましくは1.0~3.0であってもよい。
【0092】
SPAN値は、球状シリカフィラー粉末の粒度分布を表す指標である。具体的には、SPAN値は、球状シリカ粉末中の主として微粒子として存在するシリカ粉末と、やや大きな粒子として存在するシリカ粉末との粒径および量の割合を示す指標である。
【0093】
SPAN値が上記範囲を満たすことにより、波長変換部材の蛍光強度の低下または色度のアンバランスを好適に抑制する。
【0094】
PAN値が上記範囲未満であると、波長変換部材を作製する際に球状シリカフィラー粉末が再凝集して大きな凝集体を形成しやすくなる。このような場合には、有効範囲を超えて光が透過できないレベルの散乱が多く発生する可能性があるため、好ましくない。一方、球状シリカフィラー粉末のSPAN値が上記範囲を超えると、粗大なシリカフィラー粉末に対する微粒シリカフィラー粉末の比率が相対的に大きくなり、ペースト化が困難となる。
【0095】
SPAN値が上記範囲を満たすと、左右対称な粒度分布が獲得され得るか、または粗い側の底辺が短く、細かい側の底辺が長い、左右対称ではない粒度分布が獲得され得る。
【0096】
本発明において、球状シリカフィラー粉末の粒径は、マイクロトレアック社製S3500装置を用いて測定した。分析値のD10、D50、およびD90は、レーザー光回折法による粒度分布測定において、累積体積濃度(%)が10%である場合の粒径(D10)、累積体積濃度(%)が50%である場合の粒径(D50)、および累積体積濃度(%)が90%である場合の粒径(D90)をそれぞれ示す。SPAN値は、上記の式1を使用して計算できる。
【0097】
さらに、球状シリカフィラー粉末のD90/D10(DSPAN)は、1.5~15、好ましくは1.5~13、より好ましくは1.5~10であってもよい。
【0098】
D90/D10(DSPAN)値は、球状シリカフィラー粉末の粒径に対する粒度分布の比を表す指標である。具体的には、D90/D10(DSPAN)値は、球状シリカ粉末中の主として微粒子として存在するシリカ粉末と、やや大きな粒子として存在するシリカ粉末との粒径および量の割合を示す指標である。
【0099】
D90/D10(DSPAN)の値が上記範囲の上限を満たすと、球状シリカフィラー粉末の粒度分布曲線がシャープな形状を示すようになる。球状シリカフィラー粉末のD90/D10(DSPAN)値が上記範囲を満たすと、焼結時における波長変換部材の収縮を抑制することができ、波長変換部材における蛍光体粒子の均一分散を好適に維持することができる。
【0100】
球状シリカフィラー粉末の比表面積(ブルナウアー・エメット・テラー(Brunauer-Emmett-Teller);BET)は、1.0~6.5m/g、好ましくは2.0~5.0m/g、より好ましくは2.0~4.0m/gであってもよい。
【0101】
球状シリカフィラー粉末の比表面積が上記範囲未満であると、シリカフィラー粉末の凝集体が増加し、波長変換部材の光透過率が低下するおそれがある。一方、球状シリカフィラー粉末の比表面積が上記範囲を超えると、波長変換部材中における球状シリカフィラー粉末の分散性が悪化し、波長変換部材の蛍光強度が低下したり、または色度偏差が大きくなったりする場合がある。
【0102】
比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定することができる。例えば、一般に用いられている比表面積測定装置(MOUNTECH社製Macsorb HM(モデル1210)、またはMicrotrac BEL社製Belsorp-mini II等)を用いることができる。
【0103】
球状シリカフィラー粉末は、その形状が球状であるため、光散乱(励起光の散乱)が大きくなり、それ故、均一で高い蛍光強度の光を照射できる波長変換部材を得るのに有利である。
【0104】
一方、球状シリカフィラー粉末の平均真球度は2.0以下、好ましくは1.5以下であることが好ましい。
【0105】
本発明において「真球度」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子の「長軸径(Lmax)/短軸径(Lmin)」をいう。
【0106】
図2を参照すると、長軸径(Lmax)とは、球状シリカフィラー粉末(130)の輪郭上の任意の2点を直線で結んだときの最も長い直線の長さ(Lmax)を指すことができる。短軸径(Lmin)とは、球状シリカフィラー粉末の輪郭上の任意の2点を直線で結んだときの最も短い直線の長さ(Lmin)を指すことができる。
【0107】
本発明の一実施形態によれば、球状シリカフィラー粉末は、比較的小さい粒径を有する粒子を一定数含んでもよい。この場合、球状シリカフィラー粉末が完全な球形でない場合には、粒子間の隙間に比較的粒径の小さなシリカフィラー粉末が入り込んで隙間を埋める可能性がある。以上を考慮すると、球状シリカフィラー粉末の平均真球度は1.1~1.5であることが好ましい。
【0108】
一方、球状シリカフィラー粉末の屈折率は1.44~1.47であってもよい。
【0109】
また、ガラスマトリックスと球状シリカフィラー粉末との屈折率の差は、0.01~0.52、好ましくは0.12~0.50、より好ましくは0.33~0.40であってもよい。
【0110】
ガラスマトリックスと球状シリカフィラー粉末との屈折率の差が大きすぎると、ガラスマトリックスと球状シリカフィラー粉末との界面での光反射率が増大し、光散乱が過剰となり光効率が低下する場合がある。波長変換部材内の蛍光体粉末に励起光が照射されにくくなり、蛍光強度が低下する場合がある。ガラスマトリックスと球状シリカフィラー粉末との屈折率の差が小さすぎると、十分な光散乱が得られず、それにより光度が低下し、本発明の所期の効果が得られにくい場合がある。
【0111】
一方、球状シリカフィラー粉末の軟化点(Ts)は、ガラスマトリックスの軟化点(Ts)より500℃以上高いことが好ましい。この場合、波長変換部材の作製時にシリカ粉末が軟化して流動し、光拡散性が低下することを防ぐことができる。具体的には、球状シリカフィラー粉末の軟化点(Ts)は1400~1700℃、好ましくは1400~1600℃である。
【0112】
球状シリカフィラー粉末の含有量は、ガラスマトリックス、球状シリカフィラー粉末、および蛍光体粉末の合計重量に基づいて0.5~50重量%であってもよい。具体的には、球状シリカフィラー粉末の含有量は、ガラスマトリックス、球状シリカフィラー粉末、蛍光体粉末の合計重量に基づいて0.5~30重量%が好ましく、1~20重量%がより好ましい。球状シリカフィラー粉末の含有量が上記範囲未満であると、フィラーの効果が十分に発揮されない。球状シリカフィラー粉末の含有量が上記範囲を超えると、光散乱が過剰となり、損失が増大し、光効率が低下する場合がある。
【0113】
さらに、蛍光体粉末とガラスマトリックスとの間の屈折率の差が比較的大きい場合、光散乱が発生しやすくなり、そのため、球状シリカフィラー粉末を添加してもフィラーの効果が得られにくい場合がある。
【0114】
したがって、シリカ粉末の含有量は、蛍光体粉末とガラスマトリックスとの間の屈折率の差を考慮して適切に決定することが望ましい。
【0115】
本発明の一実施形態によれば、ガラスマトリックスを形成するガラス粉末および球状シリカフィラー粉末の含有量は、蛍光体粉末の含有量に応じて変化し得る。
【0116】
具体的には、ガラス粉末および球状シリカフィラー粉末の混合物の含有量(X)と蛍光体粉末(Y)との重量比(X:Y)が60~95:5~40、好ましくは70~95:5~30であればよい。ガラス粉末および球状シリカフィラー粉末の混合物(X)が上記範囲未満であると、焼成性が悪くなり、波長変換部材の透過率が低下し、所望の白色光が得られない。
【0117】
ガラス粉末と球状シリカフィラー粉末との混合物の含有量(X)と蛍光体粉末(Y)との重量比(X:Y)が上記範囲を満たしていれば、光源からの光透過率と蛍光体粉末の変換量とをバランスよく制御することができ、波長変換部材の作製時に波長変換部材の寸法収縮を抑えることができるため、光変換色度の斑点の発生を最小限に抑えることができる。
【0118】
本発明の一実施形態によれば、蛍光体粉末と球状シリカフィラー粉末との重量比は1:0.1~5であってもよい。
【0119】
波長変換部材の特徴
本発明の一実施形態に係る波長変換部材の厚さは100~800μm、好ましくは150~500μmであってもよい。波長変換部材の厚みが上記範囲の下限値以上であると、取り扱いが便利であり、波長変換部材を所望の大きさに切断する際に割れが発生することを防止できる。また、波長変換部材の厚みが上記範囲の上限値以下であれば、波長変換部材を通過する光束量を高く保つことができる。波長変換部材の厚みが上記範囲を超えて厚すぎると、蛍光体の発光効率が低下する場合がある。
【0120】
波長変換部材の光透過率は70~95%であってもよい。具体的には、波長変換部材の光透過率は72~92%、または72.2~85%であってもよい。
【0121】
波長変換部材の光束(Φv)は66~80 lmであってもよい。具体的には、波長変換部材の光束(Φv)は、73~80 lmまたは74~80 lmであってもよい。
【0122】
波長変換部材の変換光束は、98%~105%であってもよい。具体的には、波長変換部材の変換光束が98%~103%、または100%~103%であってもよい。
【0123】
光束および換算光束は、積分球測定装置(J&C Tech.製、LMS-200)を用い、445nmの励起光源を用いて色度分布により測定することができる。
【0124】
また、波長変換部材は、JIS K7105に準拠して測定した平行光(直線)透過率が20%以下、好ましくは10%以下であることが好ましい。平行光線透過率が大きすぎると、光の伝播が大きくなりすぎ、蛍光強度の低下および色ずれが生じる場合がある。
【0125】
また、波長変換部材は、JIS K7105に準拠して測定したヘイズが70%以上、好ましくは75%以上であってもよい。
【0126】
[波長変換部材の調製プロセス]
本発明は、波長変換部材の製造方法を提供する。
【0127】
図3を参照すると、本発明の一実施形態に係る波長変換部材の製造方法は、ガラス粉末、蛍光体粉末、および球状シリカフィラー粉末を含む波長変換部材用組成物を得る第1ステップ(S110)と、波長変換部材用組成物を基板上に塗布して波長変換部材用グリーンシートを得る第2ステップ(S120)と、波長変換部材用グリーンシートを焼成する第3ステップ(S130)とを含んで成り得る。
【0128】
具体的には、第1ステップ(S110)は、ガラス粉末、蛍光体粉末、および球状シリカフィラー粉末を含む波長変換部材用組成物を得ることを含んで成る。
【0129】
具体的には、ガラスマトリックスを形成することができるガラス粉末と、蛍光体粉末と、球状シリカフィラー粉末とを含む組成物を調製され得る。ガラス粉末、蛍光体粉末、球状シリカフィラー粉末の種類および含有量は、前述したとおりである。
【0130】
本発明の一実施形態によれば、波長変換部材用組成物における各成分の含有量は、焼成後の波長変換部材に含まれる各成分の含有量と同一とみなすことができる。
【0131】
また、波長変換部材用組成物は、バインダー樹脂および溶剤をさらに含んでもよい。
【0132】
バインダー樹脂は、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルアルコール(PVA)、およびポリ酢酸ビニル(PVAc)からなる群より選択される少なくとも1種を含んで成ってもよい。具体的には、バインダー樹脂は、ポリビニルブチラール(PVB)またはポリビニルアルコール(PVA)を含んで成ってもよい。
【0133】
バインダー樹脂の重量平均分子量は、1,000~70,000g/モルであってもよい。具体的には、バインダー樹脂の重量平均分子量は、20,000~60,000g/モルであってもよい。
【0134】
溶媒は、グリーンシートを迅速に製造するために低沸点を有していてもよい。具体的には、溶媒の沸点は、30~150℃であってもよい。より具体的には、溶媒の沸点は60~130℃であってもよい。
【0135】
また、溶媒は、トルエン、エタノール、ブタノール、アセトン、およびメタノールからなる群より選択される少なくとも1種を含んで成ってもよい。具体的には、溶媒は、トルエン、エタノール、およびブタノールからなる群より選択される少なくとも1種を含んで成ってもよい。例えば、溶媒は、トルエン、エタノール、およびブタノールを含んで成ってもよい。
【0136】
溶剤の含有量は、組成物の特性および乾燥条件に応じて適宜選択すればよい。具体的には、溶媒は、波長変換部材用組成物の総重量に基づいて30~50重量%含まれていてもよい。
【0137】
また、波長変換部材用組成物は、可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤は、DOP(フタル酸ジオクチル)、DOA(アジピン酸ジオクチル)、およびTCP(リン酸トリクレシル)からなる群より選択される少なくとも1種を含んで成ってもよい。具体的には、可塑剤は、DOP(フタル酸ジオクチル)またはDOA(アジピン酸ジオクチル)を含んで成ってもよい。
【0138】
また、可塑剤は、バインダー樹脂100重量部に基づいて10~200重量部の量で含まれてもよい。具体的には、可塑剤は、結着樹脂100重量部に基づいて30~90重量部の量で含まれてもよい。
【0139】
波長変換部材用組成物は、溶媒とバインダー樹脂とを混合し、気泡を除去してバインダー溶液を得た後、このバインダー溶液、ガラス粉末、蛍光体粉末、球状シリカフィラー粉末、および可塑剤を混合することによって調製され得る。本発明においては、低沸点を有する溶剤を使用することにより、波長変換部材用組成物を調製する際に、バインダー樹脂と溶剤とを室温で混合することができる。
【0140】
第2ステップ(S120)は、波長変換部材用組成物を基板上に塗布して波長変換部材用グリーンシートを得ることを含んで成る。
【0141】
具体的には、第1ステップで得られた波長変換部材用組成物を基板上に塗布する。ここで、塗布は、テープキャスティング法またはドクターブレードなどを用いて行ってもよい。
【0142】
基材としては、ポリエステル系基材、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のような樹脂フィルムであってもよい。
【0143】
本発明の一実施形態によれば、波長変換部材用グリーンシートは、1枚であってもよいし、キャスティングしてそれらを圧縮して作製した波長変換部材用グリーンシートを複数枚積層したものであってもよい。この場合、波長変換部材用グリーンシートの積層数は特に限定されない。例えば、圧縮時の波長変換部材用グリーンシートの厚みが50~1500μmとなるように積層してもよい。
【0144】
圧縮は1~100MPaの圧力で行ってもよい。具体的には、圧縮は2~50MPaの圧力で行ってもよい。
【0145】
第3ステップ(S130)は、波長変換部材用グリーンシートを焼成することを含んで成る。
【0146】
焼成温度は、ガラスマトリックスの軟化点±100℃の範囲内、特にガラスマトリックスの軟化点±50℃の範囲内であることが好ましい。焼成温度が低すぎると、各層の融着が困難になったり、ガラス粉末の焼成が不十分になったり、または波長変換部材の機械的強度が低下したりする場合がある。一方、焼成温度が高すぎると、波長変換部材の発光強度が低下する場合がある。
【0147】
焼成は450~950℃で10分~72時間行ってもよい。具体的には、焼成は600~800℃で10分~52時間行ってもよい。
【0148】
なお、上記の各製造プロセスにおいて、焼成前、すなわち、波長変換部材用グリーンシートを圧縮した後、焼成する前に、有機物を除去するための脱脂することを行ってもよい。また、波長変換部材用グリーンシートが複数枚含まれる場合には、積層する際に各層の密着性を高めるために、各層を適宜加熱、加圧してもよい。
【0149】
また、作製プロセスは、必要に応じて、焼結後に、研削、研磨、および再プレスのような加工ステップをさらに含んで成ってもよい。
【0150】
発光デバイス
本発明の一態様は、上記波長変換部材と、波長変換部材に励起光を照射する光源とを備える発光デバイスを提供する。
【0151】
具体的には、波長変換部材は、蛍光体粉末に励起光を照射する光源とともに、発光デバイスとして使用されてもよい。光源としては、発光ダイオード(LED)およびレーザーダイオード(LD)のような半導体発光デバイスを用いることができる。複数の半導体発光素子が使用されてもよい。
【0152】
発光デバイスは、波長変換部材が半導体発光デバイスに直接接触するように配置されてもよい。例えば、半導体発光デバイスと波長変換部材とが順次に積層された構造を有していてもよい。あるいは、半導体発光デバイスが波長変換部材に囲まれるように配置されてもよいし、または波長変換部材が半導体発光デバイスに囲まれるように配置されてもよい。
【0153】
また、半導体発光デバイスと波長変換部材とは互いに離間していてもよい。
【0154】
本発明の形態
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明を説明するために提供されるものであり、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【0155】
調製例1:ガラス粉末の調製
下記表1に示す組成となるように各成分を混合し、1200℃で溶融してガラスを作製した。作製したガラスを粉砕して、平均粒径5.9μmのガラス粉末を作製した。
【0156】
【表1】
【0157】
実施例1:波長変換部材の調製
1-1.波長変換部材の組成物の調製
下記表2に示すように、調製例1のガラス粉末80重量%、YAG系蛍光体粉末(平均粒径(D50):25μm、メーカー:大州電子マテリアルズ、製品名: DLP-Y62-25)10重量%、球状シリカフィラー粉末(DENKA/FB-7SDX)10重量%が、割合85:15のバインダー溶液および可塑剤とともに混合し、波長変換部材用組成物を調製した。
【0158】
ここで、バインダー溶液は、27gのポリビニルブチラール(PVB、重量平均分子量:50,000g/モル)を81gの溶媒(トルエンとブタノールの体積比3:2の混合物)に加えて調製し、室温で1時間溶解させ、可塑剤はフタル酸エステル系可塑剤であった。
【0159】
1-2.波長変換部材を形成するためのグリーンシートの調製
上記ステップ1-1で調製した波長変換部材用組成物をテープキャスティング法によりPETフィルム上に塗布し、シート成型して厚さ50μmの波長変換部材用グリーンシートを得た。上記グリーンシートを21枚積層し、14MPaの圧力でプレスして波長変換部材用グリーンシートを得た。
【0160】
1-3.波長変換部材用グリーンシートの焼成
上記ステップ1-2で作製した波長変換部材用グリーンシートを600℃で12時間焼成して波長変換部材を得た。
【0161】
実施例2~7
実施例1のステップ1-1において、粒度分布の異なる球状シリカフィラー粉末を使用し、ガラス粉末、球状シリカフィラー粉末、および蛍光体粉末の含有量を以下の表2に示すように調整した以外は、実施例1と同様にして波長変換部材を作製した。
【0162】
比較例1
実施例1のステップ1-1において、球状シリカフィラー粉末を使用せず、以下の表2に示すように、ガラス粉末の含有量を90重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして波長変換部材を作製した。
【0163】
比較例2
以下の表2に示すように、実施例1のステップ1-1において、球状シリカフィラー粉末の代わりに角柱状シリカフィラー粉末(アモテック、abp-05)を用いた以外は、実施例1と同様にして波長変換部材を作製した。
【0164】
比較例3
以下の表2に示すように、実施例1のステップ1-1において、球状シリカフィラー粉末の代わりに粒度分布の異なる球状ヒュームドシリカフィラー粉末(エボニック社製、アエロジルR-202)を用いた以外は実施例1と同様にして波長変換部材を作製した。
【0165】
比較例4~5
以下の表2に示すように、実施例1のステップ1-1において、SPAN値が1.4、および5.4の球状シリカフィラー粉末をそれぞれ使用し、粒度分布が異なるものを使用した以外は、実施例1と同様にして波長変換部材を作製した。
【0166】
試験例
実施例および比較例で用いた各成分、または実施例および比較例で作製した各波長変換部材の物性を以下の手段で評価した。結果を表2および表3に示す。
【0167】
(1)軟化点(Ts)
軟化点(軟化温度)は、熱分析装置(SDT:Q600、TA Instruments社、米国)を用い、室温から1000℃まで10℃/分の昇温速度で測定した。
【0168】
(2)屈折率
屈折率は、Professional Gemstone Refractometers(KruessモデルER601 LED、ドイツ)を使用して測定された。測定にあたっては、試料を厚さ1mm(1T)に加工し、試料の測定位置に屈折溶液を測定部位に密着するように一定量塗布した。
【0169】
(3)粒径
粒径はマイクロトレアック社製S3500装置を用いて測定した。分析値のD10、D50、およびD90は、レーザー光回折法による粒度分布測定において、累積体積濃度(%)が10%である場合の粒径(D10)、累積体積濃度(%)が50%である場合の粒径(D50)、および累積体積濃度(%)が90%である場合の粒径(D90)をそれぞれ示す。
【0170】
(4)BET
実施例および比較例で使用したシリカフィラー粉末の比表面積は、マウンテック社製マックソーブHM(モデル1210)を用い、窒素およびヘリウムの混合ガス(N:30体積%およびHe:70体積%)流下、BET一点法により測定した。
【0171】
(5)光透過率(%)
基準波長550nmの光の透過率は、PerkinElmer社製紫外/可視分光光度計(Lambda35、米国)を用いて測定した。サンプルが存在しない場合の光透過率は100%である。
【0172】
(6)色度分布(Cx、Cy、光束(Φv、ルーメン(lm))、および換算光束(%)
色度分布は、積分球測定装置(J&C Tech.製、LMS-200)において、445nmの励起光源上に波長変換部材を配置して測定した。
【0173】
【表2】
【0174】
【表3】
【0175】
上記表3から分かるように、ガラスマトリックス中に分散された蛍光体粉末と球状シリカフィラー粉末とを含む実施例1~7の波長変換部材では、球状シリカフィラー粉末のD50は1.23~13.2であり、SPAN値が1.1~4.5であり、光透過率、光束、および換算光束のような光学特性が総合的に優れていた。
【0176】
具体的には、実施例1~7の波長変換部材は、光透過率が72.3~72.7%であり、光束が73.6~78.6 lmであり、変換光束が100.3~102.2%といずれも優れていた。
【0177】
これに対し、シリカフィラー粉末を含まない比較例1の波長変換部材、角柱状シリカフィラー粉末を含む比較例2の波長変換部材、ならびに球状シリカフィラー粉末のD50値およびSPAN値のいずれかが本発明の範囲外である比較例3~5の波長変換部材は、実施例1~7の波長変換部材と比較して、光透過率、光束、および変換光束のような光学特性が全て劣っていた。
【符号の説明】
【0178】
[図面の符号]
100 :波長変換部材
110 :ガラスマトリックス
120 :蛍光体粉末
130 :球状シリカフィラー粉末
max :長軸径
min :短軸径
図1
図2
図3
【国際調査報告】