(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ポリアミド(PA)ポリマーを含むフィラメント及び付加製造のためのその使用
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20240611BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20240611BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20240611BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20240611BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20240611BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240611BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240611BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20240611BHJP
【FI】
D01F6/60 351D
C08L77/06
C08G69/26
C08K7/06
B29C64/314
B33Y70/00
B33Y10/00
B29C64/118
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570061
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2022062516
(87)【国際公開番号】W WO2022238344
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジェオル, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン, アーサー レネ アンリ
(72)【発明者】
【氏名】ボセネック, ヴェロニク
【テーマコード(参考)】
4F213
4J001
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4F213AA29
4F213AB05
4F213AB11
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4F213WL62
4J001DA01
4J001DB01
4J001DC13
4J001EB09
4J001EB10
4J001EC16
4J001EE16D
4J001FA01
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4J001JA01
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4L035DD20
4L035FF01
4L035HH01
4L035HH10
(57)【要約】
本発明は、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位を示すポリアミド(PA)を含むフィラメントから、三次元(3D)物品、部品、又は複合材料を製造する方法、並びにこのようなフィラメントに関する。本発明はまた、そのような方法から得られる3D物品、部品、又は複合材料、並びに石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、航空宇宙、医療用及び消費者向け商品における、物品、部品、又は複合材料の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状又は実質的に円筒形状を有し、直径が0.5~5.0mmであり、式(I):
【化1】
(式中、
・nは12~20の整数であり、
・前記PA中の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の総モル数を基準として、前記4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の少なくとも30モル%がトランス/トランス配置である)
による繰り返し単位(R
PA)を含む少なくとも1種のポリアミド(PA)を少なくとも50.0重量%(フィラメントの総重量基準)含むフィラメント。
【請求項2】
円筒形状を有し、直径が0.5~5.0mm±0.15mmに含まれ、式(I):
【化2】
(式中、
・nは12~20の間で変化し、
・前記PA中の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の総モル数を基準として、前記4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の少なくとも30モル%がトランス/トランス配置である)
による繰り返し単位(R
PA)を含むポリアミド(PA)ポリマーを少なくとも50.0重量%(フィラメントの総重量基準)含む、三次元(3D)物品、部品、又は複合材料を製造するためのフィラメント。
【請求項3】
nが13~19又は14~16である、請求項1又は2に記載のフィラメント。
【請求項4】
0.8~4mm、又は0.8~4mm±0.15mmの直径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項5】
トランス/トランス配置の前記4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の割合が少なくとも40.0モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項6】
トランス/トランス配置の前記4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の割合が少なくとも50.0モル%である、請求項1~5のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項7】
トランス/トランス配置の前記4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の割合が最大で70.0モル%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項8】
トランス/トランス配置の前記4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の割合が30.0~50.0モル%である(この後者の値は除外される)、請求項1~6のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項9】
前記ポリアミド(PA)中の繰り返し単位(R
PA)の割合が:
- 少なくとも10.0モル%;又は
- 少なくとも50.0モル%;又は
- 少なくとも60.0モル%、又は
- 少なくとも75.0モル%、又は
- 少なくとも80.0モル%、又は
- 少なくとも90.0モル%、又は
- 少なくとも95.0モル%、又は
- 少なくとも98.0モル%
であり、この割合が、前記ポリアミド(PA)中の繰り返し単位の総数基準である、請求項1~8のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項10】
前記ポリアミド(PA)の前記繰り返し単位が、前記繰り返し単位(R
PA)からなるか、又は前記繰り返し単位(R
PA)から本質的になる、請求項1~9のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項11】
前記ポリアミド(PA)が、繰り返し単位(R
PA)とは異なる繰り返し単位を2.0モル%未満含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項12】
前記ポリアミド(PA)が、前記繰り返し単位(R
PA)を含み、式(IV)及び/又は式(V):
【化3】
(式中、
R
1は、1つ以上のヘテロ原子を任意選択的に含み且つハロゲン、ヒドロキシ(-OH)、スルホ(-SO
3M)(MはH、Na、K、Li、Ag、Zn、Mg又はCaである)、C
1~C
6アルコキシ、C
1~C
6アルキルチオ、C
1~C
6アシル、ホルミル、シアノ、C
6~C
15アリールオキシ及びC
6~C
15アリールからなる群から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されたC
1~C
15アルキル及びC
6~C
30アリールからなる群から選択され;
R
2は、1つ以上のヘテロ原子を任意選択的に含み且つハロゲン、ヒドロキシ(-OH)、スルホ(-SO
3M)(MはH、Na、K、Li、Ag、Zn、Mg又はCaである)、C
1~C
6アルコキシ、C
1~C
6アルキルチオ、C
1~C
6アシル、ホルミル、シアノ、C
6~C
15アリールオキシ及びC
6~C
15アリールからなる群から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されたC
1~C
20アルキル及びC
6~C
30アリールからなる群から選択され;
R
3は、1つ以上のヘテロ原子を任意選択的に含み且つハロゲン、ヒドロキシ(-OH)、スルホ(-SO
3M)(MはH、Na、K、Li、Ag、Zn、Mg又はCaである)、C
1~C
6アルコキシ、C
1~C
6アルキルチオ、C
1~C
6アシル、ホルミル、シアノ、C
6~C
15アリールオキシ及びC
6~C
15アリールからなる群から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換された直鎖又は分岐C
2~C
14アルキルからなる群から選択される)
による繰り返し単位(R*
PA)も含む、請求項1~9又は請求項11のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項13】
R
1が、C
1~C
15アルキル及びC
6~C
30アリールからなる群から選択され;R
2が、C
1~C
20アルキル及びC
6~C
30アリールからなる群から選択され;R
3が、直鎖又は分岐のC
1~C
14アルキルである、請求項12に記載のフィラメント。
【請求項14】
前記ポリアミド(PA)の前記繰り返し単位が、前記繰り返し単位(R
PA)及び(R*
PA)から本質的になる、又はこれらからなる、請求項12又は13に記載のフィラメント。
【請求項15】
前記ポリアミド(PA)中の前記繰り返し単位(R*
PA)の割合が1.0モル%~25.0モル%、好ましくは5.0モル%~20.0モル%であり、この割合が前記ポリアミド(PA)中の繰り返し単位の総数基準である、請求項12~14のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項16】
前記ポリアミド(PA)が、20℃/分の加熱及び冷却速度を用いて、ISO11357に準拠して示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定されるときに、最大で240℃の融点(Tm)を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項17】
Tmが最大230℃である、請求項16に記載のフィラメント。
【請求項18】
前記ポリアミド(PA)が、20℃/分の加熱及び冷却速度を用いて、ISO11357に準拠して示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定されるときに、180℃よりも高い、好ましくは少なくとも190℃、より好ましくは少なくとも200℃、さらに好ましくは少なくとも220℃の融点(Tm)を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項19】
前記ポリアミド(PA)が、20℃/分の加熱及び冷却速度を用いて、ISO11357に準拠して示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定されるときに、少なくとも90℃、好ましくは少なくとも100℃、さらに好ましくは少なくとも110℃のガラス転移温度(Tg)を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項20】
前記ポリアミド(PA)が、20℃/分の加熱及び冷却速度を用いて、ISO11357に準拠して示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定されるときに、最大で170℃のガラス転移温度(Tg)を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項21】
前記ポリアミド(PA)が、4.0重量%未満、好ましくは3.5重量%未満、好ましくは3.0重量%未満、好ましくは2.5重量%未満の、23℃の水への浸漬による飽和時の吸水率を有する、請求項1~20のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項22】
前記ポリアミド(PA)が、5,000g/モル~40,000g/モル、又は7,000g/モル~35,000g/モル、又は9,000g/モル~30,000g/モルの範囲の数平均分子量M
nを有する、請求項1~21のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項23】
前記フィラメントのポリマー成分(P)の割合が、
- 少なくとも50.0重量%;又は
- 少なくとも60.0重量%;又は
- 少なくとも75.0重量%;又は
- 少なくとも80.0重量%;又は
- 少なくとも85.0重量%;又は
- 少なくとも90.0重量%であり、
この割合が前記フィラメントの総重量基準である、請求項1~22のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項24】
前記フィラメントの前記ポリマー成分(P)が少なくとも70.0重量%のPA又は複数のPAを含み、この割合が前記フィラメント中の前記ポリマー成分(P)の総重量基準である、請求項1~23のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項25】
前記ポリアミド(PA)が前記フィラメントの唯一のポリマー成分(P)を形成する、請求項1~24のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項26】
2種以上のポリアミド(PA)を含み、前記ポリアミド(PA)が一緒にブレンドされている、請求項1~25のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項27】
前記フィラメントが1種のポリアミド(PA)のみを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項28】
前記フィラメントが、ポリアミド(PA)以外のポリアミドを含まない、請求項1~27のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項29】
前記フィラメントが、フィラー;着色剤;染料;顔料;潤滑剤;可塑剤;難燃剤;造核剤;熱安定剤;光安定剤;酸化防止剤;加工助剤;融着剤;及び電磁波吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤(A)を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項30】
フィラー、着色剤、染料、顔料、難燃剤、及び酸化防止剤からなる群から選択される、前記ポリアミド(PA)とブレンドされた1種以上の添加剤(A)を含む、請求項1~29のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項31】
添加剤(A)としての炭素繊維をさらに含む、請求項1~30のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項32】
前記炭素繊維が連続炭素繊維又はチョップド炭素繊維である、請求項31に記載のフィラメント。
【請求項33】
前記フィラメント中の炭素繊維の割合が、前記%が前記フィラメントの総重量を基準として5.0~30.0重量%、より具体的には10.0~25.0重量%である、請求項31又は32に記載のフィラメント。
【請求項34】
前記添加剤(A)が前記ポリアミド(PA)とブレンドされる、請求項29~33のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項35】
前記添加剤(A)の合計割合が0.01重量%~50.0重量%であり、前記%が前記フィラメントの総重量に対して表される、請求項29~34のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項36】
炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、連続又はチョップド又は粉砕ガラス繊維、黒鉛、カーボンブラック、連続又はチョップド又は粉砕炭素繊維、カーボンナノファイバー、グラフェン、酸化グラフェン、フラーレン、タルク、ウォラストナイト、マイカ、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、カオリン、炭化ケイ素、タングステン酸ジルコニウム、窒化ホウ素、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるフィラーを、前記フィラメントの総重量を基準として0.01重量%から50重量%未満さらに含む、請求項1~28のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項37】
前記ポリアミド(PA)と、請求項29~36のいずれか一項に記載の任意選択的な少なくとも1種の添加剤(A)とを含むか、又はそれからなるか、又はそれらから本質的になり、前記PAの割合が70.0~100.0重量%であり、前記%が前記フィラメントの総重量基準である、請求項1~28のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項38】
前記添加剤(A)の割合が0~30.0重量%、より具体的には5.0~25.0重量%である、請求項37に記載のフィラメント。
【請求項39】
請求項1~38のいずれか一項に記載のフィラメントを押し出すことを含む、三次元(3D)物体を製造するための付加製造(AM)方法。
【請求項40】
3Dプリンタに関連して、以下の工程:
- 前記フィラメントを、吐出先端部で終わる通し穴と、前記通し穴内で前記フィラメントを溶融するための円周ヒータとを有する吐出ヘッド部材に供給する工程、
- 押出前に前記フィラメントを加熱する工程、
- 前記フィラメントを、ピストンで、例えば前記通し穴内でピストンとして機能する未溶融フィラメントで圧縮する工程、
- 前記吐出先端部及び受入れプラットフォームのX及びY方向の相対移動を確保する一方、前記受入れプラットフォーム上に前記フィラメントを吐出して、断面形状を形成する工程、及び/又は
- 前記吐出先端部及び前記受入れプラットフォームのZ方向の相対移動を確保する一方、前記受入れプラットフォーム上に前記フィラメントを吐出して、高さ方向に3D物体又は部品を形成する工程
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項39に記載のAM方法。
【請求項41】
支持材料を使用して支持構造を製造する工程をさらに含む、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
請求項1~38のいずれか一項に記載のフィラメントから付加製造(AM)によって得られる三次元(3D)物品、部品、又は複合材料であって、前記AM方法が好ましくは溶融フィラメント製造(FFF)である、三次元(3D)物品、部品、又は複合材料。
【請求項43】
付加製造、好ましくはFFFを使用して三次元(3D)物体を製造するための、請求項1~38のいずれか一項に記載のフィラメントの使用。
【請求項44】
石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、航空宇宙、医療用及び消費者向け商品における、請求項43に記載の物品、部品、又は複合材料の使用。
【請求項45】
三次元(3D)物品、部品、又は複合材料の製造に適したフィラメントを製造するための、請求項1~22のいずれか一項に記載のポリアミド(PA)の使用。
【請求項46】
三次元(3D)物品、部品、又は複合材料の製造に適したフィラメントを製造するための、式(I):
【化4】
(式中、
・nは12~20の間で変化し、
・PA中の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の総モル数を基準として、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の少なくとも30モル%がトランス/トランス配置である)
による繰り返し単位(R
PA)を含むポリアミド(PA)ポリマーの使用であって、前記フィラメントが、円筒形状及び0.5~5mm±0.15mmの直径を有する、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年5月11日出願の欧州特許出願第21305610.4号の優先権を主張するものであり、その内容は、あらゆる目的のため参照により本明細書に完全に援用される。本出願とこのPCT出願との間に用語又は表現の明確さに影響を与える何らかの矛盾がある場合には、本出願のみが参照されるものとする。
【0002】
本発明は、三次元(3D)物品を製造するためのフィラメントに関する。このフィラメントは、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位を示すポリアミド(PA)を含み、またそのようなフィラメントから三次元(3D)物品、部品、又は複合材料を製造する方法に関する。本発明はまた、そのような方法から得られる3D物品、部品、又は複合材料、並びに石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、航空宇宙、医療用及び消費者向け商品における物品、部品、又は複合材料の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
家庭用品からモーター部品に至るまで多くの物体は、単一の材料の塊から製造されるか、又はそれらは材料のより大きなブロックから粉砕又は削り出される。物体を製造する別のアプローチは、材料の層を堆積し、次いでその上に別の層を付加し、続いて別の層を付加し、以降同様にしていくことである。この付加プロセスにより、より一般的には3D印刷として知られる付加製造(AM)という名前が生まれた。モーター部品から歯科インプラントに至るまで、市場に出回っている特別に設計された3D印刷製品の範囲は現在かなりの量である。それらは特にプラスチックを使用して製造することができる。付加製造は、確立された慣行を崩し、遠方の工場での大量生産に関する従来の仮定を覆すことが見込まれる。エンドユーザーに近い、少量の、又はさらには単一の物品の現地製造が実行可能になるであろう。
【0004】
押出ベースのAMシステムにおいて、3D部品は、部品材料のストリップを押し出して隣接させることによって層ごとの形式で3D部品のデジタル表現から印刷される。部品材料は、システムの印刷ヘッドにより運ばれる押出先端部を介して押し出され、圧盤上のx-y面に一連の道として堆積される。押し出された部品材料は、前に堆積された部品材料に融合し、温度の降下時に固化する。そのとき、基材に対する印刷ヘッドの位置は、(x-y面に垂直の)z軸に沿って増分され、次いで、このプロセスは、デジタル表現に類似する3D部品を形成するために繰り返される。フィラメントから出発する押出ベースのAMシステムの一例は、溶融フィラメント製造(FFF)と呼ばれ、これは熱溶解積層法(FDM)としても知られる。
【0005】
フィラメントの形態のポリマー部品材料を使用する公知の押出ベースのAM方法に関連する基本的な制限の1つは、許容可能な特性、特に熱的特性及び機械的特性を備えた物品、部品、又は複合材料を印刷するために適切な一連の特性を示すポリマー材料が特定されていないことに基づいている。
【0006】
押出ベースの3D印刷による物品の製造のために、特定のポリアミドが使用されている。例えば、ポリアミド12(PA12)及びポリアミド6(PA6)を挙げることができる。これらのポリアミドは有利には、280℃より低い溶融温度(Tm)を有し、したがって溶融体でのそれらの合成及び加工のためのずっと広い温度領域を有し、それは先ず、合成及び加工においてより柔軟性を提供するが、劣化のために着色の低下した印刷部品ももたらす。しかしながら、これらのポリアミドは、例えば50℃より低い低ガラス転移温度(Tg)を有し、この温度を超えると弾性率や強度などのそれらの機械的特性が大きく低下するため、高温耐性を必要とする用途において使用される物品の製造には適切ではない。例えば、PA12のTgは40℃であり、PA6のTgは50℃である。特にPA6については、周囲環境にさらされると非常に多くの水分を吸収するため、Tgが劇的に低下し、PA6を用いて製造された部品は室温より高い温度にさらされると弾性率が低下する。加えて、これらのポリアミドは使用前に乾燥工程を必要とする。
【0007】
したがって、高温耐性(例えば、自動車の内装及び外装のような用途で従来に遭遇する最大100℃の温度における弾性率及び強度)を必要とする物品を製造するために3D印刷で使用することができ、且つ環境に存在する湿度によって大幅に変化しないような、市販のポリアミドよりも高いTgを有するポリアミドポリマーが必要とされている。また、市販のポリアミドほど湿気を吸収しないポリアミド粉末も必要とされている。そのようなポリアミド樹脂は、ほとんどの標準的なプリンタとの互換性を維持するために、有利には低い溶融温度(Tm)を維持する必要もある。これらのポリアミド樹脂は、有利には、製造中の物品を支持するために印刷プロセス中に使用され得る支持材料と適合する熱的特性も示す必要がある。
【0008】
本発明のポリアミドは、特定の脂環式ジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、及び少なくとも1種の長鎖脂肪族ジカルボン酸の縮合をベースとしている。モノマーのこの組み合わせに由来するポリアミドは高いTg温度を示し、同時に低いTmを維持し、これにより、それらは高温耐性を必要とする用途において3D印刷されて使用されるのに適していることを本出願人は確かに確認した。Prince et al.,Macromolecules 4(3):347-350,1971において説明されているように、このような脂環式ジアミンは、3つの異なった幾何学配置、すなわちトランス/トランス、シス/シス及びシス/トランスにおいて存在する。つまり、出願人は、このようなモノマーが上記の有利な熱的特性(高いTg、低いTm)を有するポリアミドを調製する基本であることを理解するだけでなく、トランス/トランス異性体の特定のモル比だけが前記改良された熱的特性を実際にもたらすことができることも理解している。
【0009】
米国特許第5,360,891号明細書(Huels)は、出発成分としてI.直鎖脂肪族ジカルボン酸;II.a)35~60モル%のトランス,トランス-ビス(4-アミノシクロヘキシル)-メタン;及びII.b)65~40モル%の他の脂肪族、脂環式、芳香族脂肪族又は芳香族ジアミンの反応生成物を含む無色且つ透明な、非晶質の加工可能なポリアミドに関する。
【0010】
米国特許出願公開第2015/0099847号明細書(Evonik)は、その一方が共重合単位としてビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)及び8~18個のC原子を有する直鎖ジカルボン酸を有するポリアミドである2つのポリアミドのブレンドを含む、組成物に関する。
【0011】
米国特許第8,399,557号明細書(Arkema)は、2つのタイプの単位:(A1)少なくとも1つの脂環式単位を含むアミド単位と(A2)可撓性エーテル単位とを含むコポリマー1~99重量%を含む透明なブレンド又は合金に関し、ここで、脂環式ジアミンは、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM)、パラ-アミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、イソホロンジアミン(IPD)、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン(BACM)、2,2-ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン(BMACP)又は2,6-ビス(アミノメチル)ノルボルナン(BAMN)から選択することができる。
【0012】
国際公開第2019/170463号パンフレットには、シェル材料の層で被覆されたコア材料を含むフィラメントが開示されている。
【0013】
英国特許第1150860号明細書には、ポリアミド製の繊維が開示されている。
【0014】
米国特許第3,591,565号明細書には、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)と、組成物の1.0~10重量%の、塩化リチウム、臭化リチウム、及びヨウ化リチウムからなる群の要素とから本質的になる組成物の空隙のないモノフィラメントが開示されている。
【0015】
米国特許第3,691,749号明細書には、ビス-4-アミノシクロヘキシル)メタン(少なくとも45パーセントのトランス/トランス異性体)とドデカン二酸とから誘導されたPACM.12ポリアミドから構成された仮撚り加工用のマルチフィラメント供給糸が開示されている。
【0016】
米国特許第3,393,210号明細書(Dupont,1968)には、以下の繰り返し単位を示す繊維形成ポリカーボンアミド(コポリカーボンアミドを含む)が記載されている:
【化1】
【0017】
これらの特許文献には、押出ベースの3D印刷を使用して3D物体を製造するためのそのようなポリアミドの使用について記載されていない。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、請求項1~38のいずれか一項に記載のフィラメントに関する。このフィラメントは、ポリアミド(PA)を含むポリマー成分(P)に基づいており、ポリマー成分(P)を含む。
【0019】
本発明は、請求項39~41のいずれか一項で定義される方法、請求項42で定義される物体、及び請求項43~46のいずれか一項で定義される使用に関する。
【0020】
全てのこれらの主題についてのより詳細な事項及び正確な事項が以降で示される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本出願では、
- いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本開示の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能であり、
- 要素又は構成要素が、列挙された要素又は構成要素のリストに含まれ、且つ/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に企図される関連する実施形態では、要素又は構成要素は、個別の列挙された要素若しくは構成要素の任意の1つでもあり得るか、又は明示的に列挙された要素若しくは構成要素の任意の2つ以上からなる群からも選択され得、要素又は構成要素のリストに列挙されたいかなる要素又は構成要素も、このようなリストから省略され得ることが理解されるべきであり、
- 端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び同等物を含む。
【0022】
「ポリマー」又は「コポリマー」という表現は、本明細書では、同じ繰り返し単位を実質的に100モル%含むホモポリマー、及び同じ繰り返し単位を少なくとも10モル%、例えば少なくとも約20モル%、少なくとも約30モル%、少なくとも約40モル%、少なくとも約50モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約65モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約75モル%、少なくとも約80モル%、少なくとも約85モル%、少なくとも約90モル%、少なくとも約95モル%、又は少なくとも約98モル%含むコポリマーを表すために使用される。
【0023】
「部品材料」という表現は、本明細書では、3D物体又は3D物体の部品を形成することを意図される、材料、特にポリマー状化合物のブレンドを意味する。部品材料(M)は、本発明によれば、3D物体又は3D物体の一部の製造のための原料として使用されるフィラメントの形態である。
【0024】
「フィラメント」という表現は、本発明によれば、本明細書に記載のPAポリマーを少なくとも含有する材料又は材料のブレンドから形成された糸状の物体又は繊維又はストランドを意味する。
【0025】
本発明のフィラメントについて
本明細書では、特に請求項1又は請求項2に開示されるような、式(I):
【化2】
(式中:
・nは12~20の間で変化し、
・PA中の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の総モル数を基準として、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の少なくとも30モル%、好ましくは少なくとも40モル%、より好ましくは少なくとも50モル%が、トランス/トランス配置である)
による繰り返し単位(R
PA)を含むポリアミド(PA)ポリマーを少なくとも50重量%(フィラメントの総重量基準)含有するフィラメントが開示される。
【0026】
フィラメントは、少なくとも50重量%のポリマー成分(P)(すなわち少なくとも本明細書に記載のPA)を含み、それらはさらに追加の成分、例えばフィラーなどの添加剤(A)を含み得る。
【0027】
フィラメント中のポリアミド(PA)の割合は、少なくとも50.0重量%、より具体的には少なくとも70.0重量%、より具体的には少なくとも80.0重量%であってよく、この割合はフィラメントの総重量基準である。
【0028】
本発明のフィラメントは、0.5~5.0mmの直径の円筒形状又は実質的に円筒形状を有する。フィラメントは、0.5~5mm±0.15mmに含まれる直径の円筒形状又は実質的に円筒形状も有し得る。直径は0.8~4.0mm、又は1.0mm~3.5mmであってよい。
【0029】
直径の精度は、通常+/-200ミクロン、例えば+/-100ミクロン、又は+/-50ミクロンである。
【0030】
特定のFFF 3Dプリンタに供給するためにdを選択することができる。FFFプロセスで広く使用される直径の例は、1.75mm又は2.85mmの直径dを有する。
【0031】
好ましくは、フィラメントは完全なフィラメントである。「完全な」という用語は、中空の形状と比較して使用され、中空ではないフィラメントを指す。
【0032】
好ましい実施形態によれば、フィラメントは、別のポリマー組成物とのコア/シェル形状を示さない。「コア/シェル形状」は、外側シェルによって半径方向に囲まれた細長いコアを有するフィラメントを指す。コアとシェルは、通常、2種の異なるポリマー組成物、又は同じ組成であるが異なる物理化学的特性を有する2種のポリマーから製造される。
【0033】
好ましくは、フィラメントは円形断面を有する。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、AMシステムを用いて3D物体を製造するための方法は、フィラメントの押出からなる工程を含む。この工程は、例えばフィラメントのストリップ又は層を印刷する又は堆積させるときに生じ得る。押出ベースのAMシステムを用いて3D物体を製造する方法は、溶融フィラメント製造技術(FFF)又は溶融堆積モデリング(FDM)としても知られている。本発明の方法は、本明細書に記載のフィラメントを含浸させた連続繊維(例えば連続炭素繊維束)を含む方法であってもよい。
【0035】
フィラメントは、少なくとも1種のポリマー成分(P)、すなわち少なくとも1種のPAを含む。フィラメントのポリマー成分(P)は、実際には、本明細書に記載の1種以上のPAを含み得る。フィラメントは、本明細書に記載のPAポリマーとは異なる少なくとも1種の追加のポリマー材料、すなわち少なくとも1種のポリマー又はコポリマーも含み得る。この追加のポリマー材料は、例えば、ポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマー、例えばポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)ポリマーのホモポリマー、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)ポリマー、例えばポリ(ビフェニルエーテルスルホン)(PPSU)ポリマー又はポリスルホン(PSU)ポリマー、及びポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー、例えばポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ポリマーからなる群から選択されることができる。また、この追加のポリマー材料は、本明細書に記載のPAと異なるポリアミド(PA*)、例えばPA6、PA66、PA11、又はPA12であってもよい。
【0036】
フィラメントは、少なくとも50.0重量%、又は少なくとも55重量%のポリマー成分(P)を含むことができ、この割合はフィラメントの総重量基準である。この割合は、少なくとも58重量%、又は少なくとも60重量%、又は少なくとも65重量%、又は少なくとも70重量%、又は少なくとも75重量%、又は少なくとも80重量%、又は少なくとも85重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%、又は少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%であってよい。
【0037】
ポリマー成分(P)は、少なくとも70重量%の本明細書に記載のPA又は複数のPAを含むことができ、この割合はフィラメント中のポリマー成分(P)の総重量基準である。この割合は、少なくとも75重量%、又は少なくとも78重量%、又は少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%、又は少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%であってよい。
【0038】
フィラメントは、有利には、唯一のポリマー成分(P)として本明細書に記載のポリアミド(PA)を含む。
【0039】
言い換えると、フィラメントは、有利には、50重量%~100重量%(例えば70重量%~100重量%、又は80重量%~100重量%)の本明細書に記載のPAと、任意選択的なポリマーの性質を持たない追加の成分、例えばフィラーとを含むか、又はこれらから本質的になる。
【0040】
フィラメントは少なくとも1種のポリアミド(PA)を含む。一実施形態によれば、フィラメントは2種以上のポリアミド(PA)を含み得る。この場合、ポリアミド(PA)は一緒にブレンドされる。別の実施形態によれば、フィラメントは1種のポリアミド(PA)のみを含む。
【0041】
好ましくは、フィラメント(及びポリマー成分(P))は、ポリアミド(PA)以外のポリアミドを含まない。言い換えると、フィラメント(及びポリマー成分(P))は、本明細書に記載のPA、例えばPA6、PA66、PA11、又はPA12とは異なるポリアミド(PA*)を含まない。
【0042】
ポリアミド(PA)について
本明細書に記載のポリアミド(PA)は、式(I):
【化3】
(式中:
・nは12~20の間で変化し、
・PA中の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の総モル数を基準として、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の少なくとも30モル%が、トランス/トランス配置である)
による繰り返し単位(R
PA)を含む。
【0043】
「nが12~20の間で変化する」という表現は、nが範囲内の任意の値をとることができ、12又は20に等しくてもよいことを意味する。言い換えると、本開示では、範囲の端点は特許請求の範囲に含まれる。
【0044】
nは、13~19、又は14~16であってよい。
【0045】
nは、特許請求の範囲内の任意の整数値をとることができる。実施例の1つに開示されているように、nは、例えば整数であってよい。nは、より具体的には14であってよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のPAは、ポリアミド(PA)中の繰り返し単位の総数を基準として、少なくとも10モル%の(RPA)繰り返し単位、例えば少なくとも20モル%、少なくとも約30モル%、少なくとも約40モル%、少なくとも約50モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約65モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約75モル%、少なくとも約80モル%、少なくとも約85モル%、少なくとも約90モル%、少なくとも約95モル%、又は少なくとも約98モル%の(RPA)繰り返し単位を含む。
【0047】
ポリアミド(PA)において、PA中の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位(繰り返し単位(RPA)中に存在)の総モル数を基準として、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の少なくとも30.0モル%がトランス/トランス配置である。
【0048】
この割合は、好ましくは少なくとも40.0モル%、より好ましくは少なくとも50.0モル%である。この割合は、70.0モル%未満、好ましくは60.0モル%未満、さらに好ましくは55.0モル%未満であってよい。
【0049】
トランス/トランス配置の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の割合は、30.0モル%~50.0モル%であってよい(この後者の値は除外される)。
【0050】
トランス/トランス配置の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位のこの割合により、付加製造(3D印刷)によく適したポリマーを得ることが可能になる。実際、ポリアミドは疎水性であり(下の吸水率を参照)、印刷時の良好な処理を保証する興味深い熱特性(高いガラス転移温度及び低い融点)を有している。このポリアミドは、有利には、PA12(Tg<50℃)及びPA6(Tg<60℃、親水性)などのほとんどの市販ポリアミドと異なる。このPAは、有利には、以下で定義するように、高いガラス転移温度の維持に寄与する適切な吸水も示す。
【0051】
4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位は、式(II):
【化4】
のPACMモノマーの使用により生じる。トランス/トランス配置の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン部位の割合は、縮合混合物中のトランス/トランス配置を有するモノマー(II)の割合によって得られる。いくつかの実施形態では、式(II)のPACMモノマーは、反応に関与するPACMの総モル数を基準として、重縮合反応に関与するモノマーの少なくとも40モル%、例えば少なくとも42モル%、少なくとも44モル%、少なくとも46モル%、少なくとも48モル%、又は少なくとも50モル%がトランス/トランス配置にあるようなものである。いくつかの実施形態では、式(II)のPACMモノマーは、反応に関与するPACMの総モル数を基準として、重縮合反応に関与するモノマーの最大70モル%、例えば最大65モル%、最大62モル%、最大60モル%、最大58モル%、又は最大56モル%がトランス/トランス配置にあるようなものである。いくつかの実施形態では、重縮合反応に関与する式(II)のPACMモノマーの全てがトランス/トランス配置にある。いくつかの別の実施形態では、重縮合反応に関与する式(II)のPACMモノマーの全てがトランス/トランス配置であり、式(II)のPACMは、ポリアミド(PA)を調製するために使用される唯一のジアミンである。
【0052】
ホモポリアミド
一実施形態によれば、ポリアミド(PA)はホモポリアミドである。ポリアミド(PA)の繰り返し単位は、繰り返し単位(R
PA)からなるか、又は繰り返し単位(R
PA)から本質的になる。そのようなポリアミドは、式(II):
【化5】
の4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)であって、反応混合物中のPACMの総モル数を基準として少なくとも30.0モル%のPACMがトランス/トランス配置にある4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)と、式(III):
【化6】
(nは上で開示した通りである)の二酸と、任意選択的な水とを含有する縮合混合物の存在下で重縮合によって調製することができる。
【0053】
式(III)の二酸は、例えばテトラデカン二酸[HOOC-(CH2)12-COOH]、ペンタデカン二酸[HOOC-(CH2)13-COOH]、ヘキサデカン二酸[HOOC-(CH2)14-COOH]、ヘプタデカン二酸[HOOC-(CH2)15-COOH]、オクタデカン二酸[HOOC-(CH2)16-COOH]、及びノナデカン二酸[HOOC-(CH2)17-COOH]からなる群から選択することができる。式(III)の二酸は、好ましくは、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、及びオクタデカン二酸からなる群から選択される。
【0054】
ポリアミド(PA)は、例えば、少なくとも10モル%、例えば少なくとも約15モル%、少なくとも約20モル%、少なくとも約25モル%、少なくとも約30モル%、少なくとも約35モル%、少なくとも約40モル%、少なくとも約45モル%、少なくとも約50モル%、少なくとも約55モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約65モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約75モル%、少なくとも約80モル%、少なくとも約85モル%、少なくとも約90モル%、少なくとも約95モル%、又は少なくとも約98モル%の、例えば上記のPACMに由来する繰り返し単位(RPA)、及び少なくとも1種のジカルボン酸HOOC-(CH2)n-COOH(式中、nは12~20の間で変化し、両端を含む)を含む。
【0055】
一実施形態によれば、ポリアミド(PA)は繰り返し単位(RPA)から本質的になる。この実施形態では、「から本質的になる」という表現は、ポリアミドが繰り返し単位(RPA)とは異なる繰り返し単位を2モル%未満、例えば繰り返し単位(RPA)とは異なる繰り返し単位を1モル%未満、0.5モル%未満、又はさらに0.1モル%未満含むことを意味する。
【0056】
縮合混合物は、好ましくは、触媒、例えば亜リン酸塩などの少なくともリン原子を含む触媒も含有する。典型的には、触媒は次亜リン酸ナトリウムである。
【0057】
縮合混合物中の水の割合は、通常40重量%未満、好ましくは30重量%未満、より好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満である。好ましくは、縮合混合物は添加される水を含まない。
【0058】
縮合混合物は、高温、好ましくは少なくともTm+10℃の温度まで加熱されなければならない(Tmはポリアミドの溶融温度である)。この温度は少なくとも250℃、又はさらには少なくとも270℃であってよい。
【0059】
重縮合は、有利には、溶融状態で、特に溶媒の不存在下で行われる。
【0060】
重縮合は、有利には、撹拌反応器、押出機、又はニーダなどの十分に撹拌された槽内で行われる。重縮合は、好ましくは撹拌反応器中で行われる。槽は、反応の揮発性生成物を除去する手段を備えていることも有利である。反応混合物の粘度は時間の経過とともに増加するため、スターラーは、重合の開始時及び重縮合の変換がほぼ完了したときに反応混合物を十分に撹拌するように調整される。
【0061】
実験項で使用される条件に従うことができ、必要に応じてホモポリアミドの調製のために調整することができる。
【0062】
コポリアミド
別の実施形態によれば、ポリアミド(PA)は、上に開示された繰り返し単位(R
PA)を含み、式(IV)及び/又は式(V):
【化7】
(式中:
R
1は、1つ以上のヘテロ原子(例えばO、N又はS)を任意選択的に含み且つハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、ヒドロキシ(-OH)、スルホ(-SO
3M)(例えば、式中、MはH、Na、K、Li、Ag、Zn、Mg又はCaである)、C
1~C
6アルコキシ、C
1~C
6アルキルチオ、C
1~C
6アシル、ホルミル、シアノ、C
6~C
15アリールオキシ及びC
6~C
15アリールからなる群から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されたC
1~C
15アルキル及びC
6~C
30アリールからなる群から選択され;
R
2は、1つ以上のヘテロ原子(例えばO、N又はS)を任意選択的に含み且つハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、ヒドロキシ(-OH)、スルホ(-SO
3M)(例えば、式中、MはH、Na、K、Li、Ag、Zn、Mg又はCaである)、C
1~C
6アルコキシ、C
1~C
6アルキルチオ、C
1~C
6アシル、ホルミル、シアノ、C
6~C
15アリールオキシ及びC
6~C
15アリールからなる群から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されたC
1~C
20アルキル及びC
6~C
30アリールからなる群から選択され;
R
3は、1つ以上のヘテロ原子(例えばO、N及びS)を任意選択的に含み且つハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素)、ヒドロキシ(-OH)、スルホ(-SO
3M)(例えば、式中、MはH、Na、K、Li、Ag、Zn、Mg又はCaである)、C
1~C
6アルコキシ、C
1~C
6アルキルチオ、C
1~C
6アシル、ホルミル、シアノ、C
6~C
15アリールオキシ及びC
6~C
15アリールからなる群から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換された直鎖又は分岐C
1~C
14アルキルからなる群から選択される)
による繰り返し単位(R*
PA)も含む。
【0063】
より具体的には、R1は、C1~C15アルキル及びC6~C30アリールからなる群から選択され;R2は、C1~C20アルキル及びC6~C30アリールからなる群から選択され;R3は、直鎖又は分岐のC1~C14アルキルである。
【0064】
ポリアミド(PA)は、繰り返し単位(RPA)を含み、少なくとも1種のアミノカルボン酸及び/又は少なくとも1種のラクタムに由来する繰り返し単位(R*PA)も含むコポリアミドであってよい。
【0065】
一実施形態によれば、コポリアミドの繰り返し単位は、繰り返し単位(RPA)及び(R*PA)から本質的になるか、又はこれらからなる。
【0066】
コポリアミド中の繰り返し単位(R*PA)の割合は、1.0モル%~25.0モル%であってよく、この割合は、ポリアミド(PA)中の繰り返し単位の総数基準である。この割合は、好ましくは5.0モル%~20.0モル%である。
【0067】
一実施形態によれば、PAは繰り返し単位(RPA)を含むと共に、PAポリマーにおける繰り返し単位(RPA)+(R*PA)の総モル数を基準として、10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル%未満、さらにより好ましくは1モル%未満の、繰り返し単位(RPA)とは異なる他の繰り返し単位(R*PA)を含む。
【0068】
コポリアミドは重縮合によっても調製される。そのような場合、上で開示された縮合混合物は、
- 少なくとも1種のジカルボン酸及び少なくとも1種のジアミン、並びに/又は
- 少なくとも1種のアミノカルボン酸、並びに/又は
- 少なくとも1種のラクタム
からなる群から選択される少なくとも1種の成分をさらに含む。
【0069】
ジカルボン酸成分は、少なくとも2つの酸性部位-COOHを含む多様な脂肪族成分又は芳香族成分の中で選択することができる。ジアミンは、少なくとも2つのアミン部位-NH2を含む多様な脂肪族成分又は芳香族成分の中で選択することもできる。
【0070】
ジカルボン酸は、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビ安息香酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、5-スルホフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0071】
ジアミンは、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,8-ジアミノオクトアン(diaminooctoane)、1,10-ジアミンデカン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、H2N-(CH2)3-O-(CH2)2-O(CH2)3-NH2、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン(MACM)、イソホロンジアミン(IPDA)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0072】
ラクタムは、カプロラクタム、ラウロラクタム及びそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0073】
アミノカルボン酸は、3~15個の炭素原子、例えば4~13個の炭素原子を有し得る。アミノカルボン酸は、1,11-アミノウンデカン酸、4-アミノメチルシクロヘキサン酸、及びそれらの混合物の群から選択することができる。
【0074】
ホモポリアミドの調製について上に開示した全ての調製条件(水の存在、触媒、温度、槽の種類など)は、コポリアミドについても依然として有効である。
【0075】
ポリアミド(PA)の特性
ポリアミド(PA)は、有利には半結晶性である。
【0076】
ポリアミド(PA)は、好ましくは少なくとも5.0J/g又は少なくとも10.0J/gの融解熱を示す。融解熱は、ISO11357に準拠して20℃/分の加熱速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定される。
【0077】
ポリアミド(PA)は、180℃よりも高い融点(Tm)を示し得る。Tmは、好ましくは少なくとも190℃、より好ましくは少なくとも200℃、又は少なくとも220℃であってよい。
【0078】
Tmは、最大240℃、好ましくは最大230℃であってよい。
【0079】
Tmは、180℃~240℃、好ましくは180℃~230℃であってよい。Tmは190℃~230℃であってよい。
【0080】
Tmは、ISO11357に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定される。実験項で示される条件に従ってTmを決定することができる。
【0081】
好ましくは、PAは、ISO11357に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定されるときに、少なくとも90℃の、好ましくは少なくとも100℃の、より好ましくは少なくとも110℃のガラス転移温度(Tg)を有する。Tgは、好ましくは少なくとも120℃である。
【0082】
PAは、最大170℃、好ましくは最大160℃のガラス転移温度(Tg)を有し得る。
【0083】
ポリアミド(PA)は、90℃よりも高いガラス温度(Tg)も示し得る。Tgは、好ましくは少なくとも130℃であってよい。Tgは、120℃~160℃、好ましくは100℃の間、さらに好ましくは少なくとも110℃であってよい。
【0084】
Tgは、最大170℃、好ましくは最大160℃であってよい。
【0085】
ガラス温度は、ISO11357に準拠して20℃/分の加熱及び冷却速度を用いる示差走査熱量計(DSC)での2回目の加熱走査で決定される。実験項で示される条件に従ってTgを決定することができる。
【0086】
ポリアミド(PA)は、5,000g/モル~40,000g/モル、例えば7,000g/モル~35,000g/モル又は9,000~30,000g/モルの範囲の数平均分子量Mnを有し得る。末端基の濃度は、アミン末端基の濃度及び酸末端基の濃度を測定する公知の方法によってより正確に決定することができる。末端基は、PAポリマーの数平均分子量(Mn)を評価するために使用される、PAポリマー鎖の末端にある部位である。プロセス中のエンドキャッピング剤の考えられる使用に応じて、PAは、例えば、モノマー及び/又はエンドキャッピング剤に由来する末端基を有し得る。PAは、ジアミンと二酸との間の重縮合反応によって調製されるため、末端基は一般的にアミン基と酸基とを含む。しかしながら、エンドキャッピング剤(安息香酸又は酢酸など)が使用される場合、残りのアミン基は、ベンズアミド又はアセトアミド末端基に少なくとも部分的に変換され得る。
【0087】
アミン及び酸末端基の濃度は、電位差滴定法によって決定することができる。しかしながら、末端基の濃度を決定するために任意の適切な方法を使用することができる。例えば、NMR、特に1H NMRも、特にエンドキャッピング剤中の濃度を定量するために便利に使用することができる。
【0088】
ポリアミド(PA)は、好ましくは4.0重量%未満、好ましくは3.5重量%未満、好ましくは3.0重量%未満、好ましくは2.5重量%未満の、23℃の水への浸漬による飽和時の吸水率を有する。この特性は、3D印刷によって製造された3D物体を湿気にさらした後の性能の安定性に重要である。
【0089】
23℃における吸水率は、(i)ISO527に従って成形された乾燥状態(0.2重量%未満の含水率)の試験片を準備し、(ii)一定重量に到達するまで試験片を23℃の脱イオン水に浸漬し、(iii)以下の式:
【数1】
(式中、W
beforeは、元の乾燥状態で成形された試験片の重量であり、W
afterは、吸水後の成形された試験片の重量である)を用いて吸水率を計算することによって有利に決定することができる。
【0090】
本発明のフィラメントは、上述した少なくとも1種のPAポリマーを含む1種のポリマー成分(P)を含む。本発明のフィラメントは、1種以上のポリマーから本質的に構成され得る。例えば、これは本明細書に記載の1種のPAポリマーから本質的に構成されていてもよく、或いは追加の成分、例えばフィラーなどの1種以上の添加剤(A)も含んでいてもよい。本発明のフィラメントが追加の成分を含む場合、それらは本明細書に記載のポリマー成分に添加又はブレンドすることができる。フィラメントは、本明細書に記載のPAポリマーを含浸させた連続繊維の束(カーボン、ガラス)であってもよい。
【0091】
添加剤
フィラメントは、通常ポリアミド(PA)とブレンドされるか、又はポリアミド(PA)の中に配合される、例えば以下からなる群から選択される1種以上の添加剤(A)もさらに含み得る:
- フィラー(連続又はチョップド炭素繊維、連続又はチョップドガラス繊維、粉砕炭素繊維、粉砕ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラス微小球、ウォラストナイト、シリカビーズ、タルク、炭酸カルシウムなど);
- 着色剤、染料、顔料;
- 潤滑剤;
- 可塑剤;
- 難燃剤(ハロゲン難燃剤及びハロゲンフリー難燃剤など);
- 造核剤:
- 熱安定剤;
- 光安定剤;
- 酸化防止剤;
- 加工助剤;
- 融着剤;及び
- 電磁波吸収剤。
【0092】
フィラメントは、ポリアミド(PA)とブレンドされる、以下からなる群から選択される1種以上の添加剤(A)もさらに含み得る:
- フィラー;
- 着色剤、染料、顔料;
- 難燃剤;及び
- 酸化防止剤。
【0093】
一実施形態によれば、フィラメントは、ポリアミド(PA)とブレンドされた、又はポリアミド(PA)の中に配合された少なくとも1種のフィラーを含む。フィラーは、より具体的には、連続又チョップド炭素繊維、連続又はチョップドガラス繊維、粉砕炭素繊維、粉砕ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラス微小球、ウォラストナイト、シリカビーズ、タルク、炭酸カルシウム、バイオベース繊維、ポリマー繊維、及びそれらの組み合わせからなる群の中で選択され得る。ポリマー繊維は、例えばアラミド繊維、ロックウール繊維、天然繊維(例えば亜麻、麻、セルロース、又はナノセルロース)、及びそれらの2つ以上の任意の組み合わせである。フィラーは、より具体的には炭素繊維であり、特に連続炭素繊維、チョップド炭素繊維、及び粉砕炭素繊維からなる群の中で選択される。
【0094】
フィラメントは、添加剤(A)として炭素繊維をさらに含み得る。炭素繊維は連続炭素繊維であっても又はチョップド炭素繊維であってもよい。炭素繊維の割合は、5.0~30.0重量%、より具体的には10.0~25.0重量%であってよく、%はフィラメントの総重量基準である。
【0095】
添加剤(A)として使用され得る難燃剤は、ハロゲン系難燃剤であっても、又はリン系難燃剤などのハロゲンフリーの難燃剤であってもよい。リン系難燃剤は、金属アルキルホスフィン酸塩からなる群の中で選択することができる。金属アルキルホスフィン酸塩の例は、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、例えばClariantからの商品名Exolit(登録商標)として知られているものである。優れたレベルの難燃性を担保しつつ高品質の3D物体を得ることを可能にするリン系難燃剤の別の例を以下で開示する:
【化8】
【0096】
添加剤(A)として使用され得る熱安定剤は、より具体的には、一価又は二価の銅、芳香族二級アミンに基づく安定剤、立体障害のあるフェノールに基づく安定剤、ホスファイト、ホスホナイト、金属塩、金属酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群の中で選択することができる。
【0097】
これらの任意選択的な添加剤(A)の具体的な例は、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ又は硫化亜鉛、ガラス繊維、及び炭素繊維である。
【0098】
フィラメント又は部品材料は、フィラメントの総重量に対して0.01重量%~50.0重量%未満の少なくとも1種の添加剤(A)を含み得る。例えば、フィラメント中の添加剤の量は、フィラメントの総重量に対して、0.1重量%~30.0重量%、0.5重量%~20.0重量%、又は1.0重量%~15.0重量%、又は2.0重量%~10.0重量%の範囲であってよい。
【0099】
特定の一実施形態によれば、フィラメントは、
- 少なくとも50重量%~100重量%のポリマー成分(P)、好ましくは少なくとも70重量%~100重量%の本明細書に記載のPAと、
- 任意選択的な少なくとも1種の添加剤(A)、例えば0.01重量%~50重量%未満の範囲の量の、フィラー(連続又はチョップド炭素繊維、連続又はチョップドガラス繊維、粉砕炭素繊維、粉砕ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラス微小球、ウォラストナイト、シリカビーズ、タルク、炭酸カルシウムなど)、着色剤、染料、顔料、潤滑剤、可塑剤、難燃剤(ハロゲン難燃剤及びハロゲンフリー難燃剤など)、造核剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、加工助剤、融着剤、及び電磁波吸収剤からなる群から選択される添加剤と、
を含むか、それらからなるか、又はこれらから本質的になり、%はフィラメントの総重量基準である。
【0100】
添加剤(A)の割合は、0~30.0重量%、より具体的には5.0~25.0重量%であってよい。
【0101】
本発明のフィラメントの製造方法
フィラメントは、最初にコンパウンドを製造して部品材料をペレット形態にし、次いでペレットを押し出してフィラメントを製造する2段階プロセスから製造することができる。或いは、本発明のフィラメントは、コンパウンド及びフィラメントが一段階プロセスで製造される一体化されたプロセスから製造することができる。
【0102】
フィラメントは、溶融混合プロセスを含むがそれには限定されない方法によって部品材料から製造することができる。溶融混合プロセスは、典型的には、熱可塑性ポリマーの最も高い溶融温度及びガラス転移温度よりも高温にポリマー成分を加熱し、これにより熱可塑性ポリマーの溶融物を形成することによって実施される。いくつかの実施形態において、処理温度は、約240~450℃、好ましくは約250~440℃、約260~430℃の範囲である。
【0103】
フィラメントの製造プロセスは、溶融混合装置で実施することができ、このため、溶融混合によりポリマー組成物を調製する技術分野における当業者に公知の任意の溶融混合装置を使用することができる。好適な溶融混合装置は、例えば、ニーダ、バンバリー(Banbury)ミキサー、一軸押出機、及び二軸押出機である。好ましくは、所望の成分を全て押出機に、押出機の供給口又は溶融物のいずれかに投与するための手段を備えた押出機が使用される。フィラメントの製造プロセスにおいて、部品材料の成分は溶融混合装置に供給され、その装置内で溶融混合される。成分は、乾燥ブレンドとしても知られる粉末混合物又は顆粒ミキサーとして同時に供給され得るか又は別々に供給され得る。
【0104】
溶融混合中に成分を組み合わせる順序は、特に限定されない。一実施形態では、成分は、単一バッチで混合することができるため、成分のそれぞれの所望の量を一緒に添加し、続いて混合する。他の実施形態では、第1のサブセットの成分を最初に一緒に混合することができ、1つ以上の残りの成分をさらなる混合のために混合物に添加することができる。明確にするために、各成分の総所望量が単一量として混合される必要はない。例えば、成分の1つ以上において、一部の量を最初に添加し、混合し、続いて残りの一部又はすべてを添加して混合することができる。
【0105】
フィラメントを製造する方法は、例えば、ダイを使用する押出工程も含む。この目的のために、任意の標準的な押出技術を使用することができる。例えば物品が円筒形状のフィラメントである場合は、環状のオリフィスを有するダイ等のダイを用いて物品を成形することができる。
【0106】
いくつかの実施形態では、フィラメントは、ポリマー成分をその溶融温度よりも上に加熱し、部品材料の成分を溶融混合することによって行われる溶融混合プロセスによって得られる。
【0107】
本方法は、必要であれば、様々な条件下での溶融混合又は押出のいくつかの連続工程を含み得る。
【0108】
プロセス自体、又は関連する場合、プロセスの各工程は、溶融混合物を冷却することを含む工程をさらに含んでもよい。
【0109】
フィラメントの製造は、実験項で示される条件で行うことができる。
【0110】
3D物品、部品、又は複合材料を製造するためのAM方法
本明細書において開示されるフィラメント(「フィラメント材料」)は、AM 3D印刷において使用することができる。したがって、本発明は、これらのフィラメントから3D物体(すなわち物品、部品、又は複合材料)を製造する方法にも関する。3D物体は、押出ベースの付加製造システム(例えばFFF又はFDM)などの付加製造(AM)システムを使用して製造することができる。
【0111】
そのような製造方法によって得ることができる3D物体又は物品は、様々な最終用途において使用することができる。特に、埋込式デバイス、医療デバイス、歯科補綴物、宇宙産業におけるブラケット及び複雑な形状部品、並びに高温耐性が必要とされる自動車産業におけるボンネット下部品を挙げることができる。
【0112】
本発明は、上述したフィラメントを押し出すことを含む、三次元(3D)物品、部品、又は複合材料を製造するためのAM方法に関する。
【0113】
本発明のAM方法は、好ましくは、熱溶解積層法(FDM)としても知られる溶融フィラメント製造(FFF)法である。本発明のAM方法は、好ましくは連続炭素繊維フィラーフィラメントのための方法であってもよい。
【0114】
FFF/FDM 3Dプリンタは、例えば、Apiumから、Robozeから、Hyrelから、又はStratasys,Inc.から(商品名Fortus(登録商標))市販されている。
【0115】
いくつかの実施形態では、方法は、3Dプリンタに関連して、以下の工程のうちの少なくとも1つをさらに含む:
- フィラメントを、吐出先端部で終わる通し穴と、通し穴内でフィラメントを溶融するための円周ヒータとを有する吐出ヘッド部材に供給する工程;
- 押出前にフィラメントを少なくとも250℃の温度に加熱する工程;
- フィラメントを、ピストンで、例えば通し穴内でピストンとして機能する未溶融フィラメントで圧縮する工程;
- 吐出先端部及び受入れプラットフォームのX及びY方向の相対移動を確保する一方、受入れプラットフォーム上にフィラメントを吐出して、断面形状を形成する工程;並びに/又は
- 吐出先端部及び受入れプラットフォームのZ方向の相対移動を確保する一方、受入れプラットフォーム上にフィラメントを吐出して、高さ方向に3D物体又は部品を形成する工程。
【0116】
3D物体/物品/部品/複合材料は、基材、例えば水平基材及び/又は平面基材の上に構築することができる。基材は、全ての方向、例えば水平方向又は垂直方向に移動可能であり得る。3D印刷プロセス中、ポリマー材料の連続層をポリマー材料の前の層の最上部上に堆積させるために、基材を、例えば下げることができる。
【0117】
いくつかの実施形態では、3D物体/物品/部品/複合材料を製造するためのAM方法は、支持材料を使用して支持構造を製造することである工程をさらに含む。このような実施形態によれば、3D物体は、支持構造体上に構築され、支持構造体及び3D物体は、両方とも同じAM方法を用いて製造される。支持構造体は、複数の状況において有用であり得る。例えば、とりわけこの3D物体が平面でない場合、造形された3D物体のゆがみを回避するために、支持構造体は、印刷された又は印刷中の3D物体に十分な支持を提供するのに有用であり得る。これは、印刷された又は印刷中の3D物体を維持するために使用される温度がポリマー成分、例えばポリアミドの再凝固温度よりも低い場合に特に当てはまる。
【0118】
様々な従来のポリマー成分を、離脱する又は可溶性の支持材料として使用することができる。PA6又はPA12フィラメントと組み合わせて使用される任意の支持材料を、本発明のフィラメントと組み合わせて使用することができる。可溶性支持材料の非網羅的なリストとしては、ポリビニルアルコール及びポリグリコール酸が挙げられる。支持材料はまた、湿気への暴露時に十分に膨潤又は変形するために、110℃よりも低い温度で吸水挙動又は水への溶解性を有し得る。
【0119】
本発明の一実施形態によれば、三次元(3D)物体を製造するためのAM方法は、さらに、
- 部品材料のフィラメントを押し出す工程の前に、支持材料から支持構造の層を印刷すること、例えば支持材料のフィラメントを押し出す工程、及び
- 3D印刷後、3D物体から支持構造の少なくとも一部を除去する工程、
を含む。
【0120】
さらに、3Dプリンタは、フィラメントを所定の特定の温度に維持するためのチャンバーを含み得る。
【0121】
厳密に必要なわけではないが、3D物体/物品/部品/複合材料に対して、製造後に熱処理(アニーリング又は焼き戻しとも呼ばれる)を行うこともできる。この場合、3D物体/物品/部品は、80℃~180℃、好ましくは100℃~160℃の範囲の温度に設定されたオーブンに、約30分~24時間、好ましくは1時間~8時間の範囲の時間入れることができる。
【0122】
3D物品、部品、又は複合材料、及び用途
本発明は、本発明のAM方法から得られる、本明細書に記載のPAを含む3D物品、部品、又は複合材料、並びに石油及びガス用途、自動車用途、電気及び電子用途、航空宇宙、医療用及び消費者向け商品における前記物品、部品、又は複合材料の使用にも関する。
【0123】
自動車用途に関しては、前記物品は、受け皿(例えば油受け)、パネル(例えば、クォーターパネル、トランク、フードを含むがそれらに限定されない、外装体パネル;並びに、ドアパネル及びダッシュパネルを含むがそれらに限定されない、内装体パネル)、サイドパネル、ミラー、バンパー、バー(例えば、トーションバー及びスウェイバー)、ロッド、サスペンション構成部品(例えば、サスペンションロッド、板ばね、サスペンションアーム)、並びにターボチャージャー構成部品(例えばハウジング、ボリュート、圧縮機ホイール及びインペラー)、パイプ(例えば燃料、冷却剤、空気、ブレーキ液を運ぶための)であることができる。石油及びガスの用途に関しては、前記物品は、ダウンホール掘削管、金属保護ライナー及びコーティング、化学薬品注入管、海底アンビリカル及び油圧制御ラインなどの、採掘構成部品であることができる。前記物品は、携帯用電子装置構成部品であることもできる。
【0124】
一実施形態によれば、本発明の付加製造プロセスから得られる複合材料は、連続繊維強化熱可塑性複合材料である。繊維は、炭素、ガラス、又はアラミド繊維などの有機繊維から構成され得る。
【0125】
本発明は、付加製造、好ましくはFFF又はFDMを使用して3D物体を製造するための、本明細書に記載のフィラメントの使用にも関する。
【0126】
本発明は、さらに、三次元物体の製造に使用するフィラメントの製造のための、上述したPAの使用に関する。
【0127】
実験の項
原材料
PACM:名称Dicykan(登録商標)としてBASFから市販されている4,4’-メチレン-ビス-シクロヘキシルアミン、45~50モル%のトランス/トランス異性体、
PACM*:名称Vestamin(登録商標)PACMとしてEvonikから市販されている4,4’-メチレン-ビス-シクロヘキシルアミン、17~24モル%のトランス/トランス異性体、
C14二酸:Cathay Biotech Incから市販されているテトラデカン二酸、
C15二酸:Cathay Biotech Inc.から市販されているペンタデカン二酸
C16二酸:Cathay Biotech Inc.から市販されているヘキサデカン二酸、
C18二酸:Elevanceから市販されているオクタデカン二酸、
PA12:Evonikから市販
PA6:Domo Chemicalsから市販。
【0128】
製造実施例
PACMとC14、C15、C16、又はC18酸のいずれかとの溶融重縮合から4種のポリアミドを合成した。
【0129】
PACM.16の調製
95.5g(0.45モル)のPACM、128.4g(0.44モル)のC16二酸、及び4.16gの次亜リン酸ナトリウム一水塩の水溶液(5重量%、2mmol)を機械攪拌機を備えたステンレス鋼反応器内に導入した。反応器を窒素でパージし、反応器内の温度を275℃まで徐々に上昇させた。反応は大気圧で進行した。縮合水並びに触媒溶液からの水を蒸留除去した。反応混合物を275℃に30分間維持した。次に、得られたポリマーをストランドとして放出し、ペレット化した。
【0130】
PACM.14、PACM.15、PACM.18の調製
PACM.16で使用した手順を、適切な二酸を用いたこれらのポリアミドの調製に適用した。
【0131】
PACM*.16(比較例)の合成:
PACM.16の場合と同じ手順をこのポリアミドの調製のために用いたが、ただし、17~24モル%のトランス/トランス異性体濃度を有するPACMを使用した(PACM*と呼ばれる)。
【0132】
ポリマー成分の特性評価
末端基分析によるMnの決定
ポリアミドの末端基、アミン末端基(-NH2)及びカルボン酸末端基(-COOH)は、電位差滴定法により求められ、単位mmol/kgで表される。次に、数平均分子量Mnが式(1)によって求められ、単位g/モルで表される。末端基の濃度及び計算されたそれぞれの数平均分子量(Mn)をそれぞれ下記の表1及び2に示す。
【0133】
【0134】
DSC
DSC分析は、ISO11357に準拠してDSC 8000(Perkin Elmer)で行い、データは、2回の加熱と1回の冷却の手法によって収集した。用いられたプロトコルは下記である:20.00℃/分で30.00℃から300.00℃までの1回目の加熱サイクル;5分間等温;20.00℃/分で300.00℃から30.00℃までの1回目の冷却サイクル;20.00℃/分で30.00℃から300.00℃までの2回目の加熱サイクル。溶融温度(Tm)は1回目と2回目の加熱サイクルの間に記録され、溶融結晶化温度(Tc)は冷却サイクル中に記録され、ガラス転移温度(Tg)は2回目の加熱サイクル中に記録される。
【0135】
吸水率
ポリアミド試験片をその乾燥状態(0.2重量%未満の含水率)でISO527に従って成形し、次に、一定重量に達するまで、23℃の脱イオン水に浸漬した。吸水率は、式:
【数2】
に従って計算され、式中、W
beforeは、元の乾燥状態で成形された試験片の重量であり、W
afterは、吸水後の成形された試験片の重量である。
【0136】
結果
【0137】
【0138】
表2に示されているように、PACM*.16ポリマーは融点も結晶化点も持たない。120℃を超える温度では機械的完全性を持たないため、これは3D印刷用のフィラメント製造には望ましくない非晶質である。
【0139】
本発明の全てのポリアミドは、有利なことに、4%未満の吸水率を示す。
【0140】
フィラメントの製造及び特性評価
フィラメント製造のための供給原料は、ニートポリマー(PA)ペレット、又はPAとチョップド炭素繊維(20重量%)とから製造されたコンパウンドのいずれかから構成された。0.75インチ(1.905cm)の32L/D汎用シングルスクリューと、加熱キャピラリーダイアタッチメントと、長さ1.5インチのランドを備えた直径3/32インチのノズルと、下流のカスタム設計フィラメント搬送装置とを備えたBrabender(登録商標)Intelli-Torque Plasti-Corder(登録商標)トルクレオメーター押出機を使用して、各組成物の直径1.75mmのフィラメントを製造した。他の下流機器には、共にESI-Extrusion Services製のベルトプーラーとデュアルステーションコイラーとが含まれていた。DataPro 1000データコントローラーを備えたBeta LaserMike(登録商標)5012を使用してフィラメント寸法をモニターした。溶融ストランドを空気で冷却した。Brabender(登録商標)ゾーンの設定温度は、バレルゾーンでは240~280℃、ダイでは245℃の溶融温度のすぐ上であった。Brabender(登録商標)の速度は25~60rpm、プーラーの速度は20~70フィート/分(6.093~21.336メートル/分)の範囲であった。
【0141】
3D印刷
上記フィラメントは、Roboze Inc.,(Houston,Texas,USA、又はBara,Italy)から市販されているArgo500押出ベース付加製造システムで印刷した。ナイロンビルドシートを印刷物体の基材として使用した。印刷の実行中、押出機の温度は300~360℃に設定し、加熱チャンバーは材料のTgとほぼ同じ120~130℃に設定した。モデル材料には0.6mmのRoboze Argo Tip3-HSAチップを使用し、層の厚さは0.1~0.3mmであった。加熱されたチャンバー内で材料を層ごとの形式で一連のロードとして押し出し、構造を印刷した。ASTMタイプI、IV、又はVの引張棒を、100%インフィル、45°/-45°の交互ラスター、又は0°/90°の交互ラスターのいずれかを使用して、各処方について印刷し、印刷後、物体を加熱チャンバー及びビルドシートから速やかに取り出した。
【0142】
本発明のPAフィラメントが良好な印刷能力を有することが観察された。
【0143】
これらの部品は、高い引張弾性率も示す。例えば、PACM14と20重量%のチョップド炭素繊維とから構成されるフィラメントで印刷されたASTMタイプI引張棒は、ASTM D638に従って0.2インチ/分の速度で試験した場合、5.0GPaの引張弾性率を示す。
【国際調査報告】