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特表2024-522372有効薬剤の組合せの局所送達のための安定性が向上した脂質結晶性組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-18
(54)【発明の名称】有効薬剤の組合せの局所送達のための安定性が向上した脂質結晶性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/11 20060101AFI20240611BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 31/437 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240611BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240611BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A61K31/11
A61K31/12
A61K31/437
A61K47/14
A61K47/38
A61K47/12
A61K47/10
A61P17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575882
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 US2022033056
(87)【国際公開番号】W WO2022261466
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】63/209,676
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BRIJ
(71)【出願人】
【識別番号】520072280
【氏名又は名称】アンク、ライフ、サイエンシズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ANKH LIFE SCIENCES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジーン、エイチ.ザイド
(72)【発明者】
【氏名】オーケ、リチャード、リンダル
(72)【発明者】
【氏名】アネット、スサンネ、ニルソン
(72)【発明者】
【氏名】キャメロン、イー.ウエスト
(72)【発明者】
【氏名】ステファン、プロニウク
(72)【発明者】
【氏名】ロバート、プレストン、ムーア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA16
4C076AA24
4C076DD30
4C076DD34
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD39
4C076DD43
4C076DD45
4C076DD46
4C076DD47
4C076EE23
4C076EE31
4C076EE37
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA21
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA34
4C086MA55
4C086NA10
4C086ZA89
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB09
4C206CB14
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA33
4C206MA41
4C206MA42
4C206MA43
4C206MA48
4C206MA54
4C206MA75
4C206NA10
4C206ZA89
(57)【要約】
局所適用用の自己支持性脂質結晶性製剤中で安定化されたイソバニリン成分、ハルミン成分およびクルクミン成分からなる群から選択される少なくとも2つの有効薬剤を含む複数の有効成分治療製剤が記載される。この製剤は、保存中は有効薬剤を安定な形態に維持し、皮膚に適用すると体温で融解し、脂質結晶が融解して液晶構造になり、それによって有効薬剤を皮膚または組織の適用領域に放出して治療効果を発揮する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効薬剤の安定性および送達を向上させるための局所用製剤であって、水性担体中の結晶性モノグリセリドの分散液と、イソバニリン成分、ハルミン成分、およびクルクミン成分からなる群から選択される少なくとも2つの有効薬剤とを含み、前記少なくとも2つの有効薬剤は、前記結晶性モノグリセリドの分散液中で安定化されている、局所用製剤。
【請求項2】
前記少なくとも2つの有効薬剤、好ましくは、3つの前記有効薬剤と、前記結晶性モノグリセリドの分散液から本質的になる、請求項1に記載の局所用製剤。
【請求項3】
前記結晶性モノグリセリドの分散液が、炭素鎖の長さが10~16炭素であるアシルモノグリセリドの結晶性混合物を含む、請求項1または2に記載の局所用製剤。
【請求項4】
前記結晶性モノグリセリドの分散液が、前記少なくとも2つの有効薬剤が分布している自己支持性マトリックスを形成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項5】
前記モノグリセリド結晶の融点が32~38℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項6】
前記モノグリセリドがモノラウリン酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール、およびそれらの混合物から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項7】
前記モノラウリン酸グリセロールおよびモノミリスチン酸グリセロールの重量比が1:10~10:1である、請求項6に記載の局所用製剤。
【請求項8】
約3~約35重量%の前記結晶性モノグリセリドを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項9】
クリーム、溶液、懸濁液、エマルション、スプレー、ローション、フォーム、スティック、膏薬、または軟膏の形態である、請求項1~8のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項10】
緩衝剤、酸、界面活性剤、増粘剤、保湿剤、および皮膚軟化剤からなる群から選択される1以上の成分をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項11】
セルロース、ポリソルベート、ステアリン酸ポリオキシエチレン、クエン酸、乳酸、グリセロール、プロピレングリコール、およびヒアルロン酸からなる群から選択される1以上の成分をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項12】
有効薬剤の総重量を100重量%として、前記クルクミンが約5~40重量%のレベルで存在し、前記ハルミンが約7~50重量%のレベルで存在し、および前記イソバニリンが約25~85重量%のレベルで存在する、請求項1~11のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項13】
前記クルクミン、ハルミン、およびイソバニリンがそれぞれ、クルクミン、ハルミン、およびイソバニリン、およびそれらの混合物のエステル、金属錯体、および薬学上許容される塩からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項14】
前記クルクミンが
【化1】
である、請求項1~13のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項15】
前記ハルミンが
【化2】
である、請求項1~14のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項16】
前記イソバニリンが
【化3】
である、請求項1~15のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項17】
前記有効薬剤が周囲条件下での保存の6か月後に治療上有効な活性レベルを維持する、請求項1~16のいずれか一項に記載の局所用製剤。
【請求項18】
皮膚病態、皮膚科学的病態、または上皮関連病態を処置する方法であって、それを必要とする対象の身体部分の表面に請求項1~17のいずれか一項に記載の局所用製剤を局所的に適用することを含む、方法。
【請求項19】
前記局所用製剤が前記身体部分に所望の厚さで適用され、前記有効薬剤が前記身体部分の皮膚を透過し、前記皮膚病態、皮膚科学的病態、または上皮関連病態を処置する上で相乗的治療効果を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記局所用製剤を毎時間、毎日、毎週、隔週、毎月、または必要に応じて再適用することをさらに含む、請求項18または19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照によりその全体が本明細書の一部とされる、2021年6月11日に出願された「治療薬の送達のための局所用製剤(TOPICAL FORMULATIONS FOR DELIVERY OF THERAPEUTIC AGENTS,)」という名称の米国仮特許出願第63/209,676号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、局所送達用薬剤の治療活性を維持しつつ有効薬剤の安定性を向上させた組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ビンカアルカロイド、パクリタキセル、およびエトポシドを含む多くの現代の薬物の創出には、生薬の使用とそれに続く、それに含まれる有効成分の分析が重要であった。しかしながら、植物およびハーブに由来する有効成分の安定性は、依然として課題となっている。有効成分の組合せを局所用組成物(例えば、軟膏、クリームなど)に製剤化することは、そのような成分が分解することなく、ある期間の保存安定性を必要とし、特に難しい。対照的に、保存安定性を有する製剤は達成できても、その代償として治療効力および/または皮膚透過効力は低下する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、広義には、安定化された局所用製剤、具体的には、脂質結晶とそこに分散された有効薬剤を含む水性クリームに関する。本明細書で使用する場合、「局所的」とは、皮膚または皮膚科学的皮膚病態、上皮関連病態、および/または美容目的の適用、ならびに半粘膜(例えば、唇)および/または粘膜への適用が意図された製剤を包含する。したがって、製剤および治療方法の使用は、薄膜形成を可能にする所望の厚さで、処置される身体部分の表面(例えば、皮膚表面)に製剤を局所的に適用し(例えば、散布または噴霧による)、そして所望の美容学的または皮膚科学的効果を得るために(例えば、有効薬剤の皮膚透過のために)十分な期間、製剤をその部分と接触させておくことを含む。これは、注射、静脈内注入、経口投与などの有効成分の全身投与とは対照的である。
【0005】
有効薬剤は、1以上のクルクミン成分、ハルミン成分、およびイソバニリン成分、ならびにそれらの部分組合せを含む。好ましくは、有効薬剤は、クルクミン成分、ハルミン成分、およびイソバニリン成分のうち少なくとも2つの各量を含む。好ましい局所用製剤は、これらの3つの成分を全て含むが、それらの部分組合せ、すなわち、クルクミン成分とハルミン成分、クルクミン成分とイソバニリン成分、およびハルミン成分とイソバニリン成分を含む局所用製剤も有用である。特に好ましい実施形態では、組成物の有効成分(すなわち、有意な治療効果を有するもの)は、3成分組成物の場合には、クルクミン、ハルミン、およびイソバニリン成分から本質的になり、2成分組成物の場合には、3成分のうち2成分から本質的になる。好ましくは、少なくとも1つのクルクミン成分はクルクミンを含み、少なくとも1つのハルミン成分はハルミンを含み、少なくとも1つのイソバニリン成分はイソバニリンまたはバニリンを含む。
【0006】
これら3つの薬剤のうち1つ以上を含有する製剤を安定化させるいくつかの試みがなされているが、成功には至っていない。特にクルクミノイドの安定化は難しい。また、薬物の皮膚透過を促進する試みも数多くなされてきたが、成功には至っていない。一般に、ほとんどの化合物は固体状態ではより安定であるか、安定化しやすいが、皮膚透過には有効化合物が溶液である必要である。したがって、これらの有効薬剤が安定化され、皮膚透過性も維持する局所用製剤はこれまで達成されていない。
【0007】
本発明の結晶性脂質製剤では、3つの有効薬剤全てが化学的および物理的に安定な製剤に組み合わされている。これは、周囲温度では固体の結晶であり、皮膚温度では流動性結晶であるクリーム製剤を使用することにより達成された。この製剤は、結晶形の少なくとも1つの脂肪酸モノグリセリド、好ましくはC12およびC14モノグリセリド、より好ましくはヒマワリ油の蒸留モノグリセリドとしてのGRASを含み、これは製造中に固体資質結晶に変換される。したがって、製剤は、皮膚温度で結晶化し融解する水溶液中の固体脂質の結晶の懸濁液を含む。製剤は、敏感な化合物を安定化させ、疎水性の有効化合物を脂質中に封入することができる。化学物質が固体形態である場合、化学的安定性は高いが、これは、有効薬剤の安定性を低下させる反応には、溶解状態の有効薬剤が必要であり、そうでなければ反応が起こらないためである。もう一つの側面として、分解反応における反応物または他の関与物質の輸送、拡散がある。これらの化合物の拡散が最小限に維持できれば、分解速度は低く維持される。
【0008】
この結晶性脂質製剤は、イン・ビトロ(in vitro)およびイン・ビボ(in vivo)のモデル実験において、安定と有効物質の送達の両方が実証されている。製造方法も本明細書に記載されている。一般に、これらの方法は、バッファーで水溶液を形成し、これを少なくとも70℃に加熱し、次いで結晶形の少なくとも1つの脂肪酸モノグリセリドを添加して混合物を形成することを含む。モノグリセリドと水の混合物は、約70℃でマルチラメラ小胞を形成する。この温度はモノグリセリドを融解させるのに適している。次に、有効薬剤を添加し、組成物を周囲条件下で冷却し、冷却速度を制御して脂質結晶を形成させる。50℃以下で、流動性のラメラ結晶が形成される。いくつかの実施形態では、有効薬剤は、組成物を部分的に冷却した後、結晶が形成される前(例えば、約35~45℃)に添加することができる。ほとんどの用途において、溶液は結晶性モノグリセリドを融解させるために約70℃まで加熱すればよいことが分かっている。30~35℃で、約60Åの脂質層と20Åの水層を含む流動性結晶が固化する。この大きな負電荷を帯びた表面は、反応の中間体を付着させることによって酸化還元反応を遅らせる可能性がある。製造中にモノグリセリドに提示された脂質表面は、モノグリセリドの二重層で覆われ、表面から水を排除し、有効薬剤を封入する。
【0009】
冷却は、所望の大きさの結晶が得られるように、所望により行うことができる。好ましくは、冷却は、結晶化が始まるまで、毎分約0.5~5℃の一定速度で行われ、これは通常約30~39℃である。所望のレベルまで結晶化が完了したら、分散液をさらに室温(約25+/-2℃)まで冷却することができる。得られた組成物は、一般的なエマルションまたは分散液と比較して、有効薬剤の安定化が著しく向上している。さらに、この組成物は、周囲条件下で少なくとも6か月間、好ましくは周囲条件下(標準室温/湿度、RTH、例えば、約25+/-2℃、相対湿度40~65%)で密封容器に少なくとも24か月間保存した後でも、治療上有効な濃度の有効薬剤を維持することができる。したがって、本組成物は、有効薬剤を含む局所用医薬剤として使用するための要件を満たすか、またはそれを超え得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、GZ17-6.02組合せと比較した単剤APIの有効性を示すグラフである。
図2図2は、GZ17-6.02組合せと比較したイソバニリンとイソバニリンの二剤有効性を示すグラフである。
図3図3は、GZ17-6.02組合せと比較したハルミンとハルミンの二剤有効性を示すグラフである。
図4図4は、GZ17-6.02組合せと比較したクルクミンとクルクミンの二剤有効性を示すグラフである。
図5図5は、APIおよびGZ17-6.02の用量応答を示すグラフである。
図6図6は、GZ17-6.02および5FUのイン・ビトロ有効性比較を示すグラフである。
図7図7は、ゲル、エマルション、およびクリーム製剤の写真を示す。
図8図8は、100umのモノグリセリドクリームのSEM画像を示す。
図9図9は、種々の製剤中の(A)クルクミン、(B)イソバニリン、および(C)ハルミンの検出可能なレベルを経時的に示す安定性アッセイのグラフである。
図10図10は、種々の製剤中の(A)クルクミン、(B)イソバニリン、および(C)ハルミンの分解産物を経時的に示す安定性アッセイのグラフである。
図11図11は、3つの検討製剤からブタ皮膚に透過したイソバニリンの累積量(μg/cm2)を示すグラフである。平均4~5反復を示し、誤差としてSDを使用する。
図12図12は、3つの検討製剤からブタ皮膚膜へのイソバニリンの流束(μg/cm2/h)を示すグラフである。平均4~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図13図13は、塗布したイソバニリンが3つの検討製剤からブタ皮膚膜に透過した累積パーセンテージ(%)を示すグラフである。平均4~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図14図14は、皮膚膜に蓄積したイソバニリンの量(μg/g)を示すグラフである。平均3~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図15図15は、3つの検討製剤からブタ皮膚に透過したハルミンの累積量(μg/cm2)を示すグラフである。平均4~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図16図16は、3つの検討製剤からブタ皮膚膜へのハルミンの流束(μg/cm2/h)を示すグラフである。平均4~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図17図17は、塗布したハルミンが3つの検討製剤からブタ皮膚膜に透過した累積パーセンテージ(%)を示すグラフである。平均4~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図18図18は、皮膚膜に蓄積したハルミンの量(μg/g)を示すグラフである。平均4~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図19図19は、皮膚膜に蓄積したハルミンの量を示すグラフである。平均3~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図20図20は、皮膚膜に蓄積したクルクミンの量(μg/g)を示すグラフである。平均3~5反復を示す、誤差としてSDを使用する。
図21図21は、6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームおよび3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後に透過したイソバニリンの累積量(μg/cm2)を示すグラフである。標準偏差をエラーバーとして示す。
図22図22は、6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームおよび3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後に透過した、イソバニリンの塗布用量の累積パーセンテージ(%)を示すグラフである。標準偏差をエラーバーとして示す。
図23図23は、3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームおよび6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後の表皮のイソバニリン量を示すグラフである。平均値をエラーバーとしての標準偏差とともに示す。
図24図24は、3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームおよび6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後の表皮のハルミン量を示すグラフである。平均値をエラーバーとしての標準偏差とともに示す。
図25図25は、3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームおよび6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後の表皮のクルクミン量を示すグラフである。平均値をエラーバーとしての標準偏差とともに示す。
図26図26は、3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームおよび6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後の真皮のイソバニリン量を示すグラフである。平均値をエラーバーとしての標準偏差とともに示す。
図27図27は、3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームおよび6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後の真皮のハルミン量を示すグラフである。平均値をエラーバーとしての標準偏差とともに示す。
図28図28は、3%GZ17-6.02モノグリセリドクリーム(青いバー)および6%GZ17-6.02モノグリセリドクリーム(赤いバー)の塗布後の真皮のクルクミン量を示すグラフである。平均値をエラーバーとしての標準偏差とともに示す。
図29図29は、(A)~(B)個々の製剤、組合せ、および3成分製剤を試験した製剤の細胞死、および(C)各試験組成物の遺伝毒性を示すAK試験からのグラフを示す。
図30図30は、化合物による様々な経路の上方/下方調節の遺伝子セット変異解析(GSVA)からの3つのグラフを示す。
図31図31は、対象と比較した場合の、モノグリセリド製剤(GZ21T)を用いるプロテオミクス分析による特定のタンパク質マーカーの増強または阻害のヒートマップである。
【発明の具体的説明】
【0011】
より詳細には、本明細書では、本発明の製剤技術で同時に封入できる、水溶性に制限のある2種類以上の有効化合物を安定化させる能力を示す新規製剤が記載される。このことは、不安定で、そうでなければ以前は「不和合性の」化合物を同じ製剤に含めることができることを意味する。本発明の範囲を限定するものではないが、特に有用な有効薬剤の組合せは、イソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの3つの化合物である。
【0012】
アルム(A.)パレスチヌムは(Arum (A.) palaestinum)は、アオイ科の植物で、胃の不調から癌までの障害の治療における伝統医学の基礎となっている。イソバニリンを含むA.パレスチヌム抽出物を他の植物抽出物と組み合わせて研究した。さらなる研究では、A.パレスチヌムで同定されたイソバニリン、ペガナム・ハルマラ(Peganum harmala)で同定されたハルミンおよびウコン(Curcuma longa)で同定されたクルクミンという3つの成分の間で、明らか前臨床的相乗効果を示す3成分混合物が同定された。これらの成分のさらなる前臨床評価では、3成分のうち1つでも欠けると抗癌作用が減弱することが示された。
【0013】
GZ17-6.02と命名されたこの3成分の合成混合物が、組織学的に確認された進行固形癌またはリンパ腫を有する患者に対する経口投与治療薬として、さらなる開発のために調製された。GZ17-6.02原薬中の有効成分イソバニリン、ハルミン、およびクルクミンの割合は、それぞれ77重量%、13重量%および10重量%である。前臨床試験では、GZ17-6.02はイン・ビトロで様々なヒト固形腫瘍、多発性骨髄腫およびリンパ腫細胞株に対して相乗的な抗増殖活性を示し、同所性または皮下無胸腺マウスモデルを用いてヒト膵臓癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)および結腸直腸腺癌において有効性を示した。
【0014】
さらなる前臨床試験およびエビデンスは、GZ17-6.02が局所用製剤として適用した場合に皮膚疾患を治療できる可能性を示した。初期の前臨床研究は、光線性角化症(AK)、基底細胞癌、および菌状息肉症を含む様々な形態の皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)を治療するための局所用製剤の探求に至った。しかしながら、GZ17-6.02の局所製剤としての製剤化は、これらの強力な成分の安定性と治療活性が保存中に大きな影響を受けるために依然として捉えどころがなかった。局所用脂質結晶性クリームを開発するために新規製剤戦略が用いられ、これは新規クリーム製剤中に可溶化されたイソバニリン、ハルミンおよびクルクミンを同じ化学量論比の重量で用いて具現化された。この治療法は、これらの皮膚疾患でしばしば変異している様々なシグナル伝達経路に効果を示す前臨床データによって裏付けられている。
【0015】
クルクミン-ハルミン-イソバニリン組成物
GZ17-6.02薬に関する米国特許第10,092,550号には、クルクミン、ハルミン、およびイソバニリンを含有する様々な成分、ならびにその使用が記載され、したがって、‘550は、参照によりその全体が本明細書の一部とされる。これらの組成物は一般に、各量のクルクミン、ハルミン、およびイソバニリンを含み、脂質結晶性基剤を用いて製剤するために、必ずではないが一般に、粉末形態である。
【0016】
クルクミン(ジフェルロイルメタン、1,7-ビス(4-ヒドロキシ3-メトキシフェニル)-1,6-ヘプタジエンe-3,5-ジオン)は、対称型ジアリールヘプタノイドである。これは、クルクミン、デメトキシクルクミン、およびビス-デメトキシクルクミンを含有するクルクミノイド植物抽出物の一部として存在する。
【0017】
【表1】
【0018】
それは、溶液中では、対称型ジエノン(ジケト)とケト-エノール互変異性体の平衡混合物として存在し、ケト-エノール型は分子内水素結合により著しく優勢である。
【化1】
【0019】
クルクミンは、対称型β-ジケトン基(本明細書で使用する場合、「β-ジケトン」は、両方の互変異性形、すなわち、ジケト型とエノール型を包含する)を有する不飽和7炭素リンカーにより分離された2つのアリール環を含む。クルクミンのアリール環は、パラ位にヒドロキシル基を含み、メタ位にメトキシ基を含む。
【0020】
ハルミン(7-メトキシ-1-メチル-9H-ピリド[3,4-b]インドール、別名1-メチル-7-メトキシ-β-カルボリン)は、β-カルボリン系化合物に属すメトキシメチルピリドインドールである。
【0021】
【表2】
【0022】
イソバニリン(CAS#621-59-0)は、フェノールアルデヒドバニリン異性体であり、分子式C8H8O3を有する。本発明において有用なバニリン化合物は、フェニルアルデヒドであり、このような化合物の一系列は、構造
【化2】
を有し,式中、R1は、OH、H、C1-C4アルコキシ基、F、Cl、Br、I、N、およびNO2からなる群から選択され、R2およびR3は、H、OH、およびC1-C4アルコキシ基からなる群から独立に選択され、このアルデヒド基とR1、R2、およびR3はフェニル環のいずれの位置にあってもよいと理解される。
【0023】
ある特定のバニリン化合物は、バニリン、イソバニリン、オルトバニリンであり、以下の例示的バニリン化合物が含まれる。
【化3-1】
【化3-2】
【化3-3】
【化3-4】
【化3-5】
【0024】
よって、本明細書で使用する場合、「クルクミン」、「ハルミン」、および「イソバニリン」はそれぞれ、上記で特定される化合物ならびにそれらの異性体、互変異性体、誘導体、溶媒和物、分解産物、代謝産物、エステル、金属錯体(例えば、Cu、Fe、Zn、Pt、V)、プロドラッグ、および薬学上許容される塩を指す。本明細書で使用する場合、誘導体は、親化合物から、ある原子を別の原子または原子団で置換することにより生じると推察できる、または実際に合成できる化合物である。同様に、組成物の成分に関して薬学上許容される塩は、薬学的に許容される塩、例えば、一般に安全で、非毒性で、生物学的にも他の点でも望ましくないものではなく、ヒトの薬学的使用に許容され、所望の程度の薬理活性を有する医薬組成物を調製するのに有用な塩を意味する。このような薬学上許容される塩としては、有機酸または無機酸を用いて形成される酸付加塩、および塩基付加塩を含み得る。
【0025】
1以上の実施形態において、個々の成分は、天然または合成由来であり、少なくとも約90重量%、最も好ましくは少なくとも約98重量%の純度を有するべきである。
【0026】
3成分有効薬剤において、イソバニリンは、通常、重量基準で優勢な成分であり、ハルミンおよびクルクミンは、重量基準でより少ない量で存在する。一般に、イソバニリンは、やはり重量基準で、ハルミンおよびクルクミンのそれぞれよりも少なくとも約3倍(より好ましくは少なくとも約5倍)のレベルで存在するべきである。成分の添加量は、約0.1~25.0:0.1~5:0.1~5(イソバニリン:ハルミン:クルクミン)、より好ましくは約10:1.7:0.85の重量比を示すべきである。3成分の量に関しては、イソバニリンは約25~85重量%のレベルであり、ハルミンは約7~50重量%のレベルであり、クルクミンは約5~40重量%のレベルであり、全て3成分の総重量を100重量%とする。
【0027】
成分に関して「薬学上許容される塩」とは、薬学的に許容される成分の塩、すなわち、一般に安全で、非毒性で、生物学的にもその他の点でも望ましくないものではなく、ヒトの薬学的使用に許容され、所望の程度の薬理活性を有する医薬組成物を調製するのに有用な塩を意味する。このような薬学上許容される塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、または1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2,2,2]オクト-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノおよびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、第3級ブチル酢酸、トリメチル酢酸などを伴って形成される酸付加塩が含まれる。薬学上許容される塩には、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応し得る場合に形成され得る塩基付加塩も含まれる。許容される無機塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化カルシウムが含まれる。許容される有機塩基としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどが含まれる。本発明の塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、塩が全体として薬学上許容される限り、重要ではないと認識されるべきである。薬学上許容される塩ならびにそれらの調製法および使用のさらなる例は、Handbook of Pharmaceutical Salts Properties, and Use, P. H. Stahl & C. G. Wermuth編, ISBN 978-3-90639-058-1 (2008)に示されている。
【0028】
GZ17-6.02
本発明による1つの3成分有効薬剤の組合せは、「GZ17-6.02」と呼ばれ、場合によっては「6.02」と呼ばれる。この組合せは、77重量%の純度98%の固体合成イソバニリン、13重量%の純度99%の固体合成ハルミン、ならびに99.76重量%クルクミノイド、すなわち、71.38%クルクミン、15.68%デメトキシクルクミン、および12.70%ビスデメトキシクルクミンを含有する10重量%の市販固体クルクミン製品を含む。これらの固体を一緒に十分に混合して調製物を完成させる。よって、3成分有効薬剤の組合せは、およそ77:13:10(イソバニリン:ハルミン:クルクミン)の比率で、通常高度に精製されたクルクミン、ハルミン、およびイソバニリン成分の個々の量からなる。このような各成分は、1以上のイソバニリン、ハルミン、および/またはクルクミン化合物から構成され得る。一般に、イソバニリン成分は重量基準で組成物中の優勢成分であり、ハルミンおよびクルクミン成分は重量基準でより少ない量で存在することが好ましい。なおさらに、イソバニリン成分は、ハルミンおよびクルクミン成分のそれぞれの少なくとも3倍(より好ましくは、少なくとも5倍)のレベルで存在してよい。3成分の量に関して、イソバニリン成分は約25~85重量%のレベルで存在するべきであり、ハルミン成分は約7~50重量%のレベルで存在するべきであり、クルクミン成分は約5~40重量%のレベルで存在するべきであり、全て3成分の総重量を100重量%とする。局所用製剤のための組成物中の総有効薬剤含量(例えば、2または3成分の組合せ)は、約0.1%~25%、好ましくは約0.5%~20%、より好ましくは約1%~15%、より好ましくは約1.5%~10%、より好ましくは約3%~9%(w/w)の範囲であり得る。
【0029】
単一の最も好ましいGZ17-6.02有効薬剤の組合せ、および実施例で試験したものは、相対量の固体合成イソバニリン(771mg、純度98重量%)、合成ハルミン(130.3mg、純度99重量%)、およびウコンの処理によって誘導された市販クルクミン製品(98.7mg、99.76重量%のクルクミノイド、すなわち71.38重量%のクルクミン、15.68重量%のデメトキシクルクミン、および12.70重量%のビスデメトキシクルクミンを含む)を、基剤中に771:130.3:98.7(イソバニリン:ハルミン:クルクミン製品)の重量比で分散させることによって作製された。より好ましい実施形態では、クルクミンの濃度がさらに高く(純度98.7重量%、好ましくは約99重量%、好ましくは少なくとも99.9重量%で実質的に精製されたクルクミン)、評価できる量のデメトキシクルクミンまたはビスデメトキシクルクミンを含有しない、さらに精製されたクルクミンが使用される。
【0030】
各有効医薬成分とGZ17-6.02有効薬剤の組合せの有効性を比較すると、明らかな相乗効果がある。イソバニリン、ハルミン、およびクルクミンの個々の有効性と、GZ17-6.02製剤に見られる3つの有効医薬成分の組合せ(エタノール中)を比較したデータでは、有効性の実質的な向上が示された。下図は、卵巣癌細胞株において、GZ17-6.02内に見られる各有効医薬成分とGZ17-6.02の組合せ自体の癌致死率を比較したものである。GZ17-6.02は12ug/mlの濃度で試験し、各有効医薬成分は12ug/mlのGZ17-6.02濃度のそれぞれの対応する濃度で試験した。図1に示すこの結果は、3つの有効医薬成分の相乗効果と、各有効医薬成分を含める必要性を示している。
【0031】
図2~4に示すさらなるデータは、3つの有効医薬成分の様々な二剤の組合せは、個々の成分と比較して依然として有効であるが、GZ17-6.02に見られる3つの有効医薬成分の組合せほど有効ではないことを示している。卵巣癌細胞株では、GZ17-6.02は様々な二剤の組合せよりも優れている。
【0032】
この相乗効果は、イソバニリン、ハルミン、およびクルクミンの個々の量とGZ17-6.02製剤内に見られる各有効医薬成分の量を比較すると、IC50濃度を達成するのに必要な各有効医薬成分の量が減少していることから観察される光線性角化症細胞株HaCaTでも実証されている。このデータは、各有効医薬成分のIC50濃度が個々の評価と比較して製剤の一部として減少していることから、望まれる最大限の治療効果を得るためには複数の有効医薬成分が必要であるという前提を裏付けている。
【0033】
【表3】
【0034】
さらなる内部試験でも、GZ17-6.02の光線性角化症細胞株へ作用する能力が証明された。前臨床イン・ビトロモデルにおいて、GZ17-6.02は、光線性角化症細胞株HaCaTにおいて5.07ug/mlのIC50を有することが認められた。EGF刺激HaCaT細胞を、GZ17-6.02、またはハルミン、クルクミン、およびイソバニリンの各量で処理した。この濃度のGZ17-6.02には、イソバニリン28.26uM、ハルミン3.11uM、クルクミン1.38uMが含まれていた。GZ17-6.02、クルクミン、およびハルミンの平均IC50値は、それぞれ5.07ug/mL、0.7736ug/mL、および2.548ug/mLであった。組合せ製剤の一部である場合のクルクミンおよびハルミンの平均IC50値(GZ17-6.02のICから導出)は、それぞれ1.38uMおよび3.11uMであった。図5に示すように、クルクミンとハルミンの両方の平均IC50値とGZ17-6.02のIC50値から導出したものを比較すると、各化合物のICは、6.02組合せ製剤の一部である場合、有意に低かったことを示す。
【0035】
興味深いことに、図6に示すように、5-フルオロウラシル(5FU)のIC50は4.80uMであると見られるのに対し、ジクロフェナクのIC50は、同じ実験法で601.7uMであると見られた。光線性角化症では、複数の細胞増殖および生存シグナル伝達経路がGZ17-6.02によって影響を受ける。GZ17-6.02によって引き起こされたDNA損傷はオートファジーを誘導し、細胞死とそれに続くアポトーシス、増殖、生存、およびその他の細胞シグナル伝達経路の変化をもたらす。これらの経路が影響を受ける機序を調べるために、GZ17-6.02をイン・ビトロで光線性角化症細胞株HT297.Tに投与し、様々な経路内のるシグナル伝達の変化を投与6時間後に測定し、投与24時間後に細胞死を測定した。オートファジーの増加はアポトーシスの刺激ならびに生存および増殖タンパク質の発現の低下をもたらすことが観察された。これらのプロセスは、ビヒクル対照(VEH)、代謝拮抗剤5-フルオロウラシル(5FU)と比較した場合、光線性角化症細胞の細胞死の割合を増加させた。試験したGZ17-6.02固定比率の量は、2uM濃度のクルクミン(37.23uMのイソバニリン、4.51uMのハルミン、2uMのクルクミン)に基づいている。5-フルオロウラシルは50uMの濃度で試験した。
【0036】
作用機序
GZ17-6.02は、複数の収束した機序により、光線性角化症細胞を死滅させる能力を示した。イン・ビトロの研究では、これらの機序には、AMP依存性タンパク質キナーゼ(AMPK)/哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)シグナル伝達カスケードの阻害による細胞生存シグナル伝達の低下、上皮成長因子受容体(EGFR)シグナル伝達、およびさらなるカノニカルなシグナル伝達経路に対する様々な作用などのプロセスが含まれることが示されている。
【0037】
GZ17-6.02によって引き起こされたDNA損傷は、DNA損傷応答の構成要素であり、細胞内の反応性酸素種レベルの増加に対する応答でもある毛細血管拡張性運動失調症変異(Ataxia-telangiectasia mutated)(ATM)を活性化する。ATMの下流で、GZ17-6.02はAMPKを活性化する。活性化されたAMPKは、次にmTOR複合体1(mTORC1)とmTOR複合体2(mTORC2)を不活性化する。mTORC1は細胞増殖を促進する広範な細胞プロセスを制御し、mTORC2は様々なタンパク質キナーゼの活性化を介して細胞増殖を促進する。mTORC1とmTORC2の不活性化は、細胞増殖の低下をもたらし、オートファゴソームの形成に至るカスケードを活性化し、その後、オートファジーフラックス(オートファジー)に至る。
【0038】
上皮成長因子受容体(EGFR)はチロシンキナーゼであり、その機能は正常な皮膚発達と恒常性に必要である。EGFRシグナル伝達の調節不全は、細胞の過剰増殖と分化の欠損をもたらし、創傷治癒障害、乾癬様病変の発生、毛包の構造的・機能的欠損、腫瘍形成につながる。GZ17-6.02は、光線性角化症細胞株HT297.TにおいてEGFRシグナル伝達を低下させた。この効果は、ERBB受容体ファミリー全体(ERBB 1~4)で見られ、GZ17-6.02の公表データおよび未発表データと一致している。未発表の前臨床試験において、GZ17-6.02は、結腸直腸癌および黒色腫細胞株におけるEGFRの作用を低下させた。
【0039】
GZ17-6.02はまた、小胞体ストレス応答を引き起こし、真核生物の翻訳開始因子(Eukaryotic translation initiation factor)2A(eIF2a)のリン酸化を増加させ、タンパク質翻訳総体を約95%低下させるが、オートファゴソーム形成に必須のタンパク質ベクリン1およびATG5レベルを含む、残りの約5%のタンパク質レベルを上方調節する。GZ17-6.02はまた、デスレセプターCD95のタンパク質レベルも増加させた。オートファジーの増加は、デスレセプターCD95によるシグナル伝達と同様に、細胞死誘導に部分的に関与していた。
【0040】
安定性向上製剤
ここでは、有効薬剤の安定性および送達を向上させた製剤が企図される。この製剤は水性であり、少なくとも1つの脂肪酸モノグリセリドを含む。結晶性モノグリセリドは、組成物の所望の粘度に応じて、約10~約35重量%、好ましくは約15~約30重量%、より好ましくは約18~約28重量%の量で添加することができる。好ましくは、結晶性モノグリセリドは、鎖長C8~C16の脂肪酸のモノグリセリドである。最も好ましいモノグリセリドは、炭素鎖の長さが8~16の飽和モノグリセリドであり、より好ましいモノグリセリドは、炭素鎖の長さが炭素原子10~14個、いっそうより好ましくは炭素原子12~14個である。結晶性モノグリセリドの好ましい例としては、モノラウリン酸グリセロール(C12)、モノミリスチングリセロール(C14)、およびそれらの混合物である。C12とC14の量およびその比率は、最終製品の所望の粘度によって異なり得る。例えば、C12:C14の重量比は、約1:10~1:2、好ましくは1:4~1:2と可変であり、約1:3が特に好ましい。例えば、クリームに比べてローションでは0.5%といった低いものなど、製剤が異なればより低量のモノグリセリドも使用可能であることが認識されるであろう。
【0041】
本発明のクリーム製剤は、溶媒または分散媒、有利には水を含み得る。水は組成物の残部を構成し得る。組成物はまた、pHおよび稠度調節成分も含み得る。
【0042】
他の薬学上許容される成分を組成物に添加してもよい。限定されるものではないが、リン酸、クエン酸、乳酸、水酸化ナトリウムなどの緩衝剤、pHおよび稠度調節化合物が導入可能である。製剤は一般に、pH3.5~6、好ましくは、約4~約5.5、いっそうより好ましくは約4~約5に調整される。
【0043】
ピロリン酸塩、および限定されるものではないが、EDTAおよびホスホン酸類などのセスキ剤といった付加的安定剤を組成物に配合することも可能である。テクスチャーおよび化粧品の感触を改善する目的で、高HLBの非イオン性界面活性剤など、水の分離に対する物理的安定剤、およびセルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、またはポリアクリル酸誘導体などの増粘剤も、その特性を改善するために組成物に添加してもよい。グリセロールおよびプロピレングリコールなどの従来の皮膚科学的薬剤を、化粧品特性を高めるために添加してもよい。EDTA、スパン20、ポリソルベート80、ステアリン酸ポリオキシエチレン(100)など、界面活性剤および補助溶媒などの表面改質化合物を、例えば、結晶の分散または表面電荷の改質のために添加してもよい。有用な酸の非限定的な例は、クエン酸および乳酸である。このような界面活性剤の非限定的な例としては、脂肪酸と極性性質のアルコールまたは糖類とのエステルがある。特に、典型的には主に水性である分散媒体の組成は、水と混和性の極性溶媒を導入することによって変更することができる。このような溶媒の非限定的な例としては、グリセロール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、乳酸およびクエン酸がある。他の非限定的な例としては、尿素、糖類、および酸などの極性化合物の水溶液、ならびに乳酸およびクエン酸のエステルがある。
【0044】
脂質結晶性製剤の例示的成分および範囲を下表に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
有効成分はクリーム中に分散され、モノグリセリド(モノミリスチン酸グリセロールおよびモノラウリン酸グリセロール)は、好ましくは、有効成分が分散および/または封入された三次元マトリックスまたは結晶ネットワークとしての脂質結晶を形成し、したがって安定化される。好ましくは、脂質結晶はβプライム型であり、これはより高い融点を有する結晶形のより安定な多形である。したがって、モノグリセリドクリームは、好ましくは、ある程度自立した(すなわち、容器のような支持体なしでもその形状を保持できる)結晶構造を有し、周囲条件で保存安定があるが、皮膚温度で溶融し、脂質結晶構造中に予め分散され、脂質結晶構造により安定化された安定な有効成分を放出する。水性基剤を有するモノグリセリドクリームは、直接塗布することもできるが、軟膏、ペースト、ローション、ゲル、半固形スティックなどを得るために、安定化したクリームを多くの適合する担体ビヒクルに分散させるなど、他の形態で製剤化することもできる。
【0048】
1以上の実施形態では、クリームは、図7に示すように、オレンジ色で光沢のある外観である。特定の実施形態では、製剤は、3%(w/w)の有効薬剤化合物GZ17-6.02を含む(から本質的になる、またはさらには、からなる)、すなわち、約2.3%のイソバニリン成分、約0.39%のハルミン成分、および約0.3%のクルクミン成分を含む(から本質的になる、またはさらには、からなる)局所(皮膚)用クリームである。特定の実施形態では、製剤は、26%(w/w)の有効薬剤化合物GZ17-6.0を含む(から本質的になる、またはさらには、からなる)、すなわち、約4.6%のイソバニリン成分、約0.78%のハルミン成分、および約0.60%のクルクミン成分を含む(から本質的になる、またはさらには、からなる)局所(皮膚)用クリームである。特定の実施形態では、製剤は、9%(w/w)の有効薬剤化合物GZ17-6.02を含む(から本質的になる、またはさらには、からなる)、すなわち、約6.93%のイソバニリン成分、約1.17%のハルミン成分、および約0.9%のクルクミン成分を含む(から本質的になる、またはさらには、からなる)局所(皮膚)用クリームである。1以上の実施形態において、ハルミン成分とクルクミン成分の相対量は入れ替えてもよい。すなわち、3%製剤は、約0.3%のハルミン成分および約0.39%のクルクミン成分を含んでもよく、6%製剤は、約0.6%のハルミン成分および約0.78%のクルクミン成分を含んでもよく、9%製剤は、約0.9%のハルミン成分および約1.17%のクルクミン成分を含んでもよい。したがって、好ましい製剤中のイソバニリン成分、ハルミン成分およびクルクミン成分の相対量は、3つの有効薬剤の総重量を100%w/wとして、約77%w/wのイソバニリン成分(+/-5%)、約13%w/wのハルミン成分(+/-5%)および約10%w/wのクルクミン成分(+/-5%)である。本明細書では、イソバニリン成分が依然として優勢な有効薬剤(>50%w/w)であり、ハルミン成分およびクルクミン成分が残部を構成するという条件で、代替製剤が企図される。
【0049】
本発明本の製剤では、3つの有効薬剤の全てが化学的および物理的に安定な製剤に組み合わされている。これは、周囲温度では固体または半固体(すなわち、自立型)マトリックスで、皮膚温度で流体および/または流動性結晶を生じるモノグリセリドの結晶を含むクリーム製剤を使用することにより達成された。このクリーム製剤はさらに、周囲温度(約25℃+/-2℃)では半固体であり、皮膚/体温(約30~37℃+/-2℃)では流体である。この製剤は、製造中に固体結晶に変換されるアシルモノグリセリドを含む。化学物質が固体形態である場合、化学的安定性は高いが、これは、有効薬剤の安定性が低い原因となる反応には、溶解状態の有効薬剤が必要であり、そうでなければ反応が起こらないためである。もう一つの側面として、分解反応における反応物または他の関与物質の輸送、拡散がある。これらの化合物の拡散が最小限に維持できれば、分解速度は低く維持される。
【0050】
本発明の製剤は、三次元的に連続した繰り返し構造によって定義される結晶性脂質を用いて製造されるが、この繰り返しの性質は全ての方向で同じでなくてもよい。結晶は水と脂質の二重層を含み、一方向に水と脂質の層、二方向に脂質結晶の繰り返し構造を形成することがある。結晶化度を検出する方法として、電子顕微鏡によるものがある。例えば、脂質ラメラ結晶の定義は、2次元には同じ繰り返しセルを持つが、3次元には異なるセルを持つ3次元的連続性を持つ固体結晶であり、これは広角X線によって確立することができる。組成物中のモノグリセリドの結晶化度は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定することができる。固体液晶への転移は発熱性であり、エネルギーの放出をもたらす。これは走査熱量計で測定することができる。複数のモノグリセリドを使用する理由は、これらのモノグリセリドが相互に溶解し、生成する結晶が単一のモノグリセリドから生成する場合よりもエネルギーの低い混合物を形成するからである。
【0051】
(固体)脂質結晶の使用にはいくつかの利点が伴う。一般に結晶状態は最もエネルギーが低い状態であるため、保存中に構造が変化することはほとんどない。結晶化、沈殿または合体によって経時的に変化するエマルションおよび液晶とは対照的に、固形脂質の結晶構造は、医薬品の観点からは3~4年、経時的変化はない。安定な成分と構造は、医薬品の開発において大きな利点であると考えられる。
【0052】
本発明のもう一つの重要な実施形態は、皮膚に塗布した際に体温で融解するクリームの能力である。脂質結晶が融解すると、液晶構造が形成される。その後、クリームの内容物、有効薬剤、pH調整剤などが組織に放出され、製品はその治療効果を発揮することができる。このようなクリームは、好ましくは25~37℃、より好ましくは30~37℃、最も好ましくは32~37℃の温度で融解するべきである。
【0053】
典型的な、非限定的手順では、固体脂質結晶は、水中の脂質を70~75℃に加熱して溶融させ、その後結晶化温度まで徐冷し、ラメラ結晶を固化させることで製造される。モノグリセリドは35~32℃で結晶化し、反応は発熱性であるために熱が発生する。有効薬剤は、加熱前、加熱中または加熱後、さらには冷却後に添加することができる。しかしながら、有効化合物の安定性は、70℃を超える加熱に曝されると影響を受ける可能性があることに留意すべきである。次に、冷却した水中結晶分散液は、必要に応じて希釈し、充填前に他の薬剤と混合することができる。このような薬剤の非限定的な例としては、pH調整剤、溶媒、増粘剤、保湿剤、皮膚軟化剤、化学的・物理的安定剤、および保存剤がある。粘度および化粧品の感触を変える目的で、皮膚軟化剤、保湿剤および増粘化合物を製剤に添加することができる。これは当業者が決定できる。
【0054】
結晶性モノグリセリド製剤は、標準的なクリーム、ローション、懸濁液、エマルション、または溶液製剤と組み合わせることができ、その製剤中の結晶性脂質の総量は当業者ならば推定することができる。この製剤に適した1または複数の医学的または獣医学的有効成分は、イソバニリン、ハルミン、クルクミンまたはその誘導体である。
【0055】
いくつかの実施形態では、製剤中の有効薬剤の好ましい量は、製剤適合性とのバランスを考慮した薬理学的論拠および治療効力に基づく。液体活性剤に対する固体有効薬剤、担体製剤中の有効薬剤の溶解度、疎水性/親水性などを含む、異なる特性を有する2つ以上の有効薬剤を含む組成物を製剤化するのは困難である。有効薬剤はまた、凝集または塊状化したり、担体から分解または沈殿したりすることもある。これらの問題は、使用される2つまたは3つの有効薬剤の特定の組合せ、ならびに使用される特定の界面活性剤および他の添加剤によって様々であり得ることが認識されるであろう。有利なことに、革新的な結晶性モノグリセリド製剤は、異なる特性を有するイソバニリン、ハルミン、およびクルクミンの固有の必要性に対処し、これらを局所適用のための相乗的な組合せとして一緒に製剤化し、送達することを可能にする。
【0056】
安定性を表現する一つの方法は、3つの有効薬剤がその溶解度と極性特性によって、製剤中で異なる状態にあるということである。特定の理論に縛られることを望むものではないが、クルクミンは脂質結晶内に封入されており、そのために水との接触がなく、この化合物の化学的安定性を高めていると考えられている。イソバニリンは主に水相に固体粒子として懸濁しているが、脂質相と水性相の両方に存在すると考えられている。イソバニリンの水への溶解度にはpH依存性があることが認められ、水と水性相におけるイソバニリンの固体状態が本製剤の安定性を説明し得る。ハルミンは水相に部分的に溶解するが、なお安定である。モノグリセリドのβプリム結晶は、フリーラジカル(過酸化物の自動酸化)を媒介とする反応が先に減少しており、このことも安定性を説明し得る。3つの異なる溶解性を有する3つの異なる有効薬剤を単一の製剤中で安定化させた製剤は、これらの有効薬剤の相乗作用的組合せの製剤化と局所総体における重要な進歩であることが認識されるであろう。
【0057】
本発明の組合せ製品を用いて哺乳動物対象に投与される用量レベルは、対象の年齢、対象の身体状態、治療される病態の種類(例えば、特定の癌)、および病態の重症度などの因子によってかなり変動する。適切な用量レベルの決定は、当業者により容易に行うことができる。本発明の組合せ製品は、皮膚癌および光線性角化症などの関連の病態を含む種々の皮膚病態、ならびに安定化された形態での有効薬剤の相乗作用的組合せの皮膚送達または局所送達が有益である病態に罹患している哺乳動物対象の治療に特に有用である。1以上の実施形態において、クルクミンは約5~40重量%のレベルで存在し、ハルミンは約7~50重量%のレベルで存在し、イソバニリンは約25~85重量%のレベルで存在し、前述の全ては3つの有効薬剤(例えば、クルクミン、ハルミン、およびイソバニリン)の総重量を100重量%としたものである。1以上の実施形態において、組成物中のイソバニリン:ハルミン:クルクミンの重量比は、約0.1~25:0.1~5:0.1~5である。好ましくは、組成物中のイソバニリン:ハルミン:クルクミンの重量比は、約77:13:10(±5)である。量に関しては、イソバニリンは約25~85重量%のレベルであり、ハルミンは約7~50重量%のレベルで存在し、クルクミンは約5~40重量%のレベルであり、全てイソバニリン、ハルミン、およびクルクミンの総重量を100重量%としたものである。さらに、特定の実施形態において、イソバニリンは、ハルミンおよびクルクミンのそれぞれの少なくとも約3倍のレベルで存在する。これらの組成物は、併用する場合、相乗効果および/または補助効果をもたらす。
【0058】
製剤は、1以上の付加的有効成分または不活性な薬学上許容される成分を含み得る。本明細書で使用する場合、用語「薬学上許容される」とは、過度の毒性、刺激、またはアレルギー反応を伴わずに対象に投与することができ、望ましくない生物学的効果を引き起こさず、またはそれが含まれる組成物の他の成分のいずれとも有害な様式で相互作用しないという点で、生物学的または他の点で望ましくないものではないことを意味する。
【0059】
本明細書における製剤は、医療用および/または獣医用として有用である。製剤は、局所経路または腔内経路を介して投与することができる。本明細書に記載の治療および予防方法は、ヒトならびに、限定されないが、イヌ、ネコ、および他のペットまたは飼育動物(例えば、動物園動物、研究対象)、ならびに齧歯類、霊長類、ウマ、ウシ、ブタなどを含む任意の適切な動物に適用可能であることが認識されるであろう。これらの方法は、臨床研究および/または試験にも適用可能である。
【0060】
1以上の実施形態において、製剤は、それを必要とする対象(例えば、哺乳動物)に投与することができる。対象は、有効成分によって治療または改善され得る状態に罹患しているか、罹患している疑いがあるか、または曝露もしくは発症のリスクがある可能性がある。1以上の実施形態において、対象における病態を治療または改善するために、治療上有効な量の製剤が対象に投与される。
【0061】
別の実施態様では、これらの方法は、治療上または予防上有効な量の上記製剤を、それを必要とする対象に投与することを含む(から本質的になる、またはさらにはからなる)。このような個体は、症候性であっても無症候性であってもよい。したがって、製剤の「治療的」使用は、臨床症状および/または病態の影響の重症度を軽減すること、および/または病態/症状/影響の持続期間を短縮することなどにより、対象の既存の病態に有益な変化をもたらすことを意図した工程を指す。同様に、「予防的」使用は、対象が曝される可能性のある将来の病態の影響を抑制または改善することを意図した工程を指す。場合によっては、製剤は、病態による観察可能な罹患の発症を予防し得る(すなわち、ほぼ100%の予防)。他の場合では、化合物は、病態による罹患の程度を部分的に予防および/または軽減する(すなわち、病態の症状および/もしくは影響の重症度を軽減する、ならびに/または病態/症状/影響の持続期間を短縮する)だけであってもよい。いずれの場合も、製剤はやはり病態「予防」すると考えられる。
【0062】
局所吸収
表皮への蓄積は、光線性角化症におけるケラチノサイトへの薬物作用が望まれる部位であるために重要である。重要なことに、前臨床モデルにおいて3つの有効薬剤成分は全て表皮および真皮を透過する能力を示した。イソバニリン、ハルミン、およびクルクミンは、局所適用後(フロースルー拡散セル、PermeGear Inc、ヘラータウン、PA、USAlから入手したインラインセル)、表皮に、程度は低いが真皮にも蓄積する。
【0063】
【表6】
【0064】
これらのデータは、IC50の有効性データと合わせて分析すると、生物学的効果を果たすのに十分な量の各有効医薬品成分が適切な組織に吸収されるという根拠となる。
【0065】
全身吸収
これまでのところ、第1相臨床試験(NCT03775525)において、GZ17-6.02の経口製剤を服用している患者には、全身曝露に基づく毒性はほとんど認められていない。これは全身1日総用量750mgに基づくものである。提案されるGZ17-6.02の局所用製剤は6%のクリームである。慎重を期すため、薬物の透過および吸収を100%と仮定すると、毎日1~2グラム(誇張された用量)のクリームを塗布した場合、腫瘍学的試験における全身曝露量は8%(60mg)~16%(120mg)となる。前臨床試験において、3つの有効医薬成分はいずれも、最小限の全身経皮吸収であることが実証されている。24時間暴露後、皮膚膜の透過が見られたのはイソバニリン208μg/cm、ハルミン4μg/cmであり、クルクミンは認められなかった。このイン・ビトロ試験によれば、全身への吸収は非常に小さい。通常、臨床では25cmの面積が処置される。示されているイン・ビトロ試験によれば、イソバニリンは5.2mg(25cm 208μg/cm)、ハルミンは0.1mg(25cm 4μg/cm)の全身吸収をもたらすことになるが、これは750mgの用量を投与した従前の経口試験よりかなり低い。
【0066】
【表7】
【0067】
本発明者らの経験では、局所適用によって達成可能な用量よりもはるかに高い全身経口用量でも、プロトコールにより制御された第1相臨床試験の一部ではあるが観察されたヒト対象で安全であり、十分に忍容されることが示された。これまでのところ、観察された有害作用は全て用量依存的で一過性のものと思われる。これらの有害作用は局所用量の何倍もの用量レベルで観察された。
【0068】
ここで報告されたデータおよび基礎にある作用機序に基づき、安定化製剤の3成分極小用クリームは、限定されるものではないが、前覚醒腫瘍病態;光線性角化症;悪性病態:リンパ腫(特に菌状息肉症、および限定されるものではないが、B細胞リンパ腫およびT細胞リンパ腫を含む他の原発性皮膚リンパ腫);基底細胞癌、扁平上皮癌および上皮内扁平上皮癌、悪性黒子および上皮内黒色腫、黒色腫、メルケル細胞癌;限定されるものではないが、急性痘瘡状苔癬状粃糠疹、慢性苔癬状粃糠疹、皮膚リンパ球過形成、好酸球増多を伴う血管リンパ球過形成(これらの多くはスペクトラム上に存在し、皮膚リンパ腫と連続性があると考えられているが、診断時には悪性ではない)を含む他のリンパ増殖性状態:遺伝性疾患:結節性硬化症、1型および2型神経線維腫症;限定されるものではないが、脂漏性角化症、神経線維腫、血管角化腫、血管線維腫/線維性丘疹、脂腺腫、脂腺性過形成、メラノサイト性母斑、およびその他の良性付属器皮膚腫瘍を含む良性腫瘍;代謝性疾患:黒色表皮腫;炎症性疾患:乾癬、アトピー性皮膚炎、扁平苔癬、脂漏性皮膚炎、線条苔癬、アレルギー性接触皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、間擦疹、うっ滞性皮膚炎;感染症:ウイルス性:疣贅(尋常性疣贅および尖圭コンジローマを含むあらゆるタイプ)、単純ヘルペス1および2、伝染性軟属腫;細菌性:黄色ブドウ球菌、連鎖球菌感染症;真菌および酵母:白癬(表在性皮膚糸状菌感染症)、カンジダ;原虫性および寄生虫性:リーシュマニア症;好中球性疾患:壊疽性膿皮症;疱疹状皮膚炎;その他の皮膚疾患:感染性および非感染性毛包炎;そう痒症、結節性痒疹、痒疹;および自己免疫性水疱症:水疱性類天疱瘡、類天疱瘡を含む様々な病態を治療するために使用することができる。
【0069】
上記の製剤は、経口、直腸、鼻腔、眼科、皮膚(例えば、皮膚パッチ)など、局所適用に便利な任意の方法で対象に投与または適用することができる。本発明の剤形は、液体、ゲル、懸濁液、溶液、エマルション、ローション、クリーム、膏薬、軟膏、またはスプレーの形態であってよい。さらに、治療上有効な量の本発明の製剤は、他の有効薬剤と併用投与することができ、この場合、2つの製品は実質的に同時または任意の逐次的方法で投与される。
【0070】
前述のように、上記の製剤の対象への投与レベルは、患者の年齢、患者の身体状態、疾患の重症度などの要因によってかなり変動する。一般に製剤は、使用する製剤中の有効薬剤濃度、病態の程度、患者の体重によって、1日あたり1~5回、患部に適用する。当業者であれば、治療上有効な量の有効化合物を治療領域に送達するための適切な投与レジメンを決定することができる。データに記載されているように、必要ではないが、高レベルの有効薬剤は、毒性の徴候はなく、十分な忍容性がある。さらに、合剤の相乗作用的性質により、組合せ製剤は、個々の成分と比較して有利なIC50値をなお達成しながら、低減量の有効薬剤の使用を可能にする。
【0071】
本発明の様々な実施形態のさらなる利点は、本明細書の開示および以下の実施例を検討すれば、当業者には明らかになる。本明細書に記載される様々な実施形態は、本明細書で別段の指示がない限り、必ずしも相互に排他的ではないことが認識されるであろう。例えば、一実施形態で記載または描写される特徴は、他の実施形態にも含まれる可能性があるが、必ずしも含まれるわけではない。したがって、本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態の様々な組合せおよび/または統合を包含する。
【0072】
本明細書で使用する場合、「および/または」という語句は、2つ以上の項目のリストで使用される場合、列挙された項目のいずれか1つを単独で使用可能であること、または列挙された項目の2つ以上の任意の組合せが使用可能であることを意味する。例えば、組成物が成分A、B、および/またはCを含むかまたは除外すると記載されている場合、その組成物はAのみ、Bのみ、Cのみ、AとBの組合せ、AとCの組合せ、BとCの組合せ、またはA、B、およびCの組合せを含むかまたは除外することができる。
【0073】
本説明ではまた、本発明の様々な実施形態に関連する特定のパラメーターを定量化するために数値範囲を使用する。数値範囲が示される場合、そのような範囲は、範囲の下限値のみを列挙する請求項の限定ならびに範囲の上限値のみを列挙する請求項の限定を文字通り裏付けるものとして解釈されるべきであると理解されたい。例えば、開示された約10~約100の数値範囲は、「約10を超える」(上限なし)ことを記載する請求項および「約100未満」(下限なし)を記載する請求項の文字通りの裏付けを提供する。
【実施例
【0074】
以下の実施例は本発明による方法を示す。しかしながら、これらの実施例は例として示されるものであり、その中のいかなるものも本発明の全範囲を限定するものとして解釈されるべきではないと理解されたい。
【0075】
実施例
イソバニリン、ハルミン、およびクルクミンを含有するゲルの製造
【0076】
【表8】
【0077】
イソバニリン、ハルミンおよびクルクミンを除く全ての成分を、ビーカーで絶えず撹拌しながら70℃に加熱することによって溶解させた。次に、イソバニリン、ハルミンおよびクルクミンを加熱混合物に添加し、溶解するまで混合した。この混合物を撹拌しながら室温まで冷却した。
【0078】
実施例
イソバニリン、ハルミン、およびクルクミンを含有するエマルションの製造
第1のエマルション組成物を、以下の成分および製造方法を用いて調製した。
【0079】
【表9】
【0080】
極性相(A)の調製:PEG4000を除く全ての成分を容器に加えた。成分を撹拌および混合して溶解させ、均一な溶液とした。この混合物を撹拌しながら約75℃に加熱した。この温かい混合物にPEG4000を加え、溶解させた。
【0081】
脂質相(B)の調製:全ての成分を容器に加えた。成分を撹拌および混合して溶解させ、均一な溶液とした。この溶液を撹拌中に約75℃に加熱した。
【0082】
エマルションo/pの調製:75℃で強く撹拌しながら脂質相に極性相をゆっくり加えた。均一なエマルションが形成するまで、混合物を75℃で強くホモジナイズした。エマルションを軽く撹拌しながら室温に冷却した。
【0083】
第2のエマルション組成物では、異なる脂質相成分を用いたこと以外はこれと同じ方法を使用した。異なる量(合計49~52%PEG)とポリエチレングリコール(PEG)の種類を試した。常にPEG400を使用するが、適切な粘度を得るために、PEG6000、PEG10000およびPEG35000などの高分子PEGと組み合わせた。
【0084】
【表10】
実施例
【0085】
イソバニリン、ハルミンおよびクルクミンを含有するモノグリセリドクリームの製造
この実施例では、新規なモノグリセリドクリームを調製した。これらの組成物は、中に有効薬剤が安定化された懸濁モノグリセリド結晶のクリームとして特徴付けることができる。比較写真を図7に示す。
【0086】
【表11】
【0087】
モノグリセリドクリームを調製するために、クエン酸を水に溶解させ、この溶液を75℃に加熱した。次に、脂質を加え、混合物を75℃で約15分間撹拌した。製剤を加熱から外し、撹拌しながら40~50℃に放冷した。次に、イソバニリン、クルクミンおよびハルミンを加え、混合物を絶えず撹拌しながら放冷した。特に、製造を容易にするために、この冷却工程は、好ましいが省略することができ、最初に混合物を冷却せずに(例えば、75℃で)有効成分を添加することができる。
【0088】
製剤は30~35℃で結晶化し、脂質の発熱結晶化により温度の上昇が認められた。発熱の上昇を認めたところで、製剤を周囲温度まで冷却した。
【0089】
【表12】
【0090】
モノグリセリドクリームを調製するために、クエン酸を水に溶解させ、溶液を75℃に加熱した。次に、HPMCおよび界面活性剤(ステアリン酸ポリオキシエチレン(100)およびポリソルベート80)を脂質とともに加えた。この混合物を75℃で約15分間撹拌した。製剤を加熱から外し、撹拌しながら60℃に放冷した。次に、イソバニリン、クルクミンおよびハルミンを加え、この混合物を絶えず撹拌しながら放冷した。特に、製造を容易にするために、この冷却工程は、好ましいが省略することができ、最初に混合物を冷却せずに(例えば、75℃で)有効成分を添加することができる。
【0091】
製剤は30~35℃で結晶化し、脂質の発熱結晶化により温度の上昇が認められた。発熱の上昇を認めたところで、製剤を周囲温度まで冷却した。
【0092】
【表13】
【0093】
SEM画像はSEMで作成し、6%(w/w)GZ17-6.02モノグリセリドクリームの表面を示す。有効成分の結晶性物質だけでなく、脂質構造のシートも観察できた。代表的な画像を図8に示す。大きな粒状の粒子はイソバニリンで、針状の構造はおそらくハルミンまたはクルクミンである。
【0094】
実施例
安定性試験
種々の組成物の安定性を試験した。ゲルおよびエマルション組成物は2~8℃、25±2℃または40±2℃で保存し、クリーム組成物は2~8℃、25±2℃または30±2℃で保存し、数か月の期間にわたって有効成分の完全性を確認した。最初の組成物はpH4.1~4.5であり、オレンジまたはアプリコットの外観である。図9および10は、25±2℃で最大15か月保存したGZ21T製剤の安定性および分解試験の結果のグラフを示す。
【0095】
実施例
モノグリセリドクリームのイン・ビトロ透過試験
この製品は、6%G17-6.02を含有する皮膚用クリームであり、オレンジ色の光沢のある外観である(下表の組成物を参照)。薬剤化合物G17-6.02は、77%イソバニリン、13%ハルミンおよび10%クルクミンの相対的割合で有効成分を含む。この製剤を、光から製剤を保護し、蒸発を防ぐためにアルミニウムチューブに充填した。
【0096】
【表14】
【0097】
現在の製剤は、製剤を安定化させる結晶性脂質(モノラウリン酸グリセリルおよびモノミリスチン酸グリセリル)をベースにしている。脂質は皮膚上で融解し、それにより有効成分を効率的に送達することができる。特定の理論に縛られることを望むものではないが、クルクミンは脂質結晶に包埋されていると考えられているのに対し、イソバニリンとハルミンは両方とも部分的に水に可溶であり、脂質相と水相の両方に存在すると考えられている。
【0098】
比較のため、ある研究では、GZ17-6.02水溶液(脂質結晶性製剤ではない)における有効成分の溶解度が最初に分析された。pHは0.5%(w/w)クエン酸を用いて4.3に調整する。
【0099】
【表15】
【0100】
実施例
ブタ皮膚によるAPIの粒径を低減したGZ17-6.02モノグリセリドクリームのイン・ビトロ透過試験(IVPT)
この例では、未処理粒子と粉砕粒子を含む6%GZ17-6.02MGクリームのイン・ビトロ透過(ブタ皮膚)を比較した(未粉砕GZ17-6.02、粉砕GZ17-6.02、ならびに粉砕イソバニリン+未粉砕ハルミンおよびクルクミン)。透過に違いは見られなかった。具体的には、レセプター中に見られる量(表20)または真皮中に見られる量(表21)に関して、評価した製剤間に有意差は検出できなかった。イソバニリンについては、6~8時間後に流速値の減少を伴った枯渇が見られたが、ハルミンとクルクミンについては、枯渇は検出できなかった。
【0101】
イソバニリン粒子に処理が行われない場合、粒子は非常に大きくなるが、クルクミンは有意に小さな粒子からなる。製剤製造前にイソバニリンおよび/またはGZ17-6.02を粉砕する可能性が研究されている。
【0102】
結果
結果を下表および図11~20に示す。
【0103】
【表16】
【0104】
【表17】
【0105】
材料および方法
この実験では3つの製剤を使用した。粉砕イソバニリン粒子を含む6%GZ17-6.02モノグリセリドクリーム(ISM21007)1つ、粉砕GZ17-6.02粒子を含む6%GZ17-6.02モノグリセリドクリーム(ISM21008)1つ、および未処理GZ17-6.02を含むモノグリセリドクリーム(ISM21009)1つであった。製剤の概要を下表に示す。
【0106】
【表18】
【0107】
レセプターの溶液
2%(w/w)Brijを含むPBSバッファーをレセプター溶液として使用した。PBSバッファー溶液の配合を下表に示す。
【0108】
【表19】
【0109】
イン・ビトロ試験
使用される装置はBronaugh拡散セルである。実験のパラメーターを下表に示す。分析は、さらなる校正標準溶液を用い、RP-HPLCアッセイに従って行った。セルを取り外すと、セル11および12内の膜の下に黄色が見られた。発生した漏出はセルの洗浄中に発生した可能性が高く、レセプター溶液に影響は見られなかった。したがって、レセプター溶液については、全てのセルからの結果を報告する。組織中に見られた量については、セル11と12を含む場合と含まない場合の両方の値を報告する。
【0110】
【表20】
【0111】
【表21】
【0112】
【表22】
【0113】
実験後の処理
イン・ビトロ実験が終了した後、以下の手順に従い、各膜を洗浄し、取り外し、調製した。
1.膜を0.5mlのPBSバッファーで6回洗浄し、洗浄画分チューブのPBSを回収する。
2.セルを取り外し、PBSモイスチャートップで膜を温和に洗浄する。洗浄画分チューブ内のトップを回収する。
3.膜を剥がすことにより、真皮から角質層を温和に分離し、試験管に回収する。
4.10mmのパンチでセルフランジ(曝されていない皮膚)を切り取り、試験管に回収する。
5.メスで真皮を薄片とし、材料を試験管に1.5ml回収する。
【0114】
分析
レセプター溶液ならびに表皮および真皮からの抽出液の分析をRP-HPLCにより行った。
【0115】
レセプター溶液
レセプター溶液はそれ以上処理せずに分析した。
【0116】
組織抽出
組織サンプルは以下の手順に従って処理した。
1.膜からのイソバニリン、ハルミンおよびクルクミン抽出液に1.4mlのメタノール/水(90/10 v/v)を加える。
2.サンプルをボルテックスで撹拌し、冷水(2~8℃ 槽に氷を加える)中で30分間音波処理を施す。
3.次に、サンプルを14000rpmで遠心分離し、分析用のHPLCバイアルに移すべきである。
【0117】
結果および考察
イソバニリンの透過
レセプター溶液中の量
図および表に示すように、イン・ビトロ実験ではかなり多量のイソバニリンが皮膚膜を透過する。イソバニリンの透過は、2~8時間の時間の平方根に対する累積透過量に直線領域を示す。その後、線形領域からの逸脱が見られる場合があるが、これは6時間後に見られる流束の減少によって説明される。線形状態からの逸脱は、塗布用量の約1.5%が皮膚膜を透過した6~8時間後に起こり、おそらく製剤からの枯渇によって引き起こされるものである。通常、塗布量の約30~50%が膜を透過した後に枯渇が見られる。ここで見られる急速な枯渇は、添加されたイソバニリンのごく一部のみが溶解し、溶解したイソバニリンのみが透過に利用できると推測することができるので妥当である。さらに、無限用量が塗布され、皮膚膜に最も近い部分のみが皮膚に利用可能であると考えるのが妥当である。
【0118】
粉砕イソバニリンおよびGZ17-6.02を含む製剤と比較して、未処理イソバニリン(ISM21007)を含む製剤からの透過がわずかに低いことが見て取れる。しかしながら、誤差として与えられる標準偏差は非常に大きく、製剤間に有意な差は見られなかった。
【0119】
【表23】
【0120】
【表24】
【0121】
【表25】
【0122】
組織中の量
表皮と真皮に蓄積されるイソバニリンの量を図および表に示す。見て取れるように、真皮と比較して表皮には多量のイソバニリンが見られる。しかしながら、膜は十分に洗浄したものの製剤の残留物が全て除去されることを保証できないことに留意しなければならない。より多く処理された製剤(粉砕イソバニリンを含むISM21008および粉砕GZ17-6.02を含むISM21009)では、反復間の偏差が大きく、大きな標準偏差となっているが、組織内での蓄積がやや増加する傾向が見て取れる。
【0123】
【表26】
【0124】
ハルミンの透過
レセプター溶液中の量
皮膚膜を透過したハルミンの量は図および表に見て取れる。8時間後、定常状態の流束に達したと思われ、流束は8時間~24時間の間にあまり変化しない。透過した利用可能なハルミンの割合が低い(24時間後0.2%)ことと一致して、製剤からの枯渇は見られなかった(ハルミンは製剤中に完全に溶解していると考えられる)。
【0125】
3つの製剤間で皮膚膜を透過するハルミンの量に差は見られなかった。
【0126】
【表27】
【0127】
【表28】
【0128】
【表29】
【0129】
組織中の量
真皮および表皮に蓄積されるハルミンの量を表および図に示す。各製剤内の反復間の変動が大きく、製剤間の差は見られなかった。イソバニリンの場合と同様に、真皮に比べて表皮により多量のハルミンが見られる。しかしながら、膜は十分に洗浄したものの製剤の残留物が全て除去されることを保証できないことに留意しなければならない。
【0130】
【表30】
【0131】
クルクミンの透過
レセプター溶液中の量
レセプター溶液中ではクルクミンの量は検出できず、したがって、表に示されるように、全てのセルで、全ての画分で、レセプター溶液中のクルクミンの量は検出限界(0.05μg/ml、流束0.13μg/cm/時に相当)=(0.4μg/ml1.7ml/時/0.64cm)を下回っていた。
【0132】
【表31】
【0133】
【表32】
【0134】
【表33】
【0135】
組織中の量
表および図に示すように、組織抽出物中には少量のクルクミンが検出された。反復間に大きな変動があり、製剤間の差を判断することが困難であるため、製剤間の差は検出できなかった。
【0136】
【表34】
【0137】
結論
GZ17-6.02分子の粒径の違いにより透過が異なるかどうかを評価するために、ブタ皮膚膜を用いたイン・ビトロ透過試験を行った。レセプター中に見られる量または真皮に見られる量に関して、評価した製剤間に有意差は検出できなかった。イソバニリンについては、6~8時間後に流速値の減少を伴った枯渇が見られたが、ハルミンとクルクミンについては、枯渇は検出できなかった。
【0138】
【表35】
【0139】
【表36】
【0140】
実施例
有限用量3%および6%GZ17-6.02MG製剤を用いたIVPT実験
本研究の目的は、ブタの皮膚に3%および6%のGZ17-6.02モノグリセリドクリームを有限用量の塗布でイン・ビトロ透過試験(IVPT)を実施することであった。この実験では、3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームと6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの2つの製剤を評価した。
【0141】
製剤中のGZ17-6.02の濃度が増加すると、真皮と表皮の両方においてイソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの濃度が増加することが判明した。製剤中の濃度が増加すると、皮膚組織へのイソバニリンとハルミンの透過も増加する。皮膚膜を透過するクルクミンの量は見出されなかった。
【0142】
無限用量の塗布による従前の実験と相関して、塗布量のうち皮膚膜を透過するイソバニリンおよびハルミンのパーセンテージが、塗布された製剤用量とよく相関することが判明した。興味深いことに、真皮中のイソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの絶対量は一定であると思われ、製剤用量が変更されても変化せず、すなわち、塗布用量のうち真皮中に見られるパーセンテージは用量の増加とともに低下する。
【0143】
全ての実験で、0.1%Brijを含むPBSをレセプター溶液として使用した。レセプター溶液の配合を表1に示す。実験前に、レセプター溶液を脱気する。
【0144】
【表37】
【0145】
1.1.1 イソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの溶解度
イソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの溶解度は、0.1%Brijを含むPBS中で決定した。溶媒に過剰量のGZ17-6.02を加え、これを1時間撹拌し、32℃で24時間インキュベートした。その後、サンプルを遠心分離または濾液し、HPLC法DM.216.03[4]またはDM.217.01[5]により溶解度を測定した。1サンプルを調製し、2反復の注入を分析した。
【0146】
1.2 皮膚膜
ブタ内耳から皮膚切開した皮膚膜を膜として使用した。全ての膜は無作為化した。
【0147】
1.3装置
Bronaugh拡散セル装置をイン・ビトロ実験に使用した。この装置は、オリフィス径9mmの14のインラインセルフォームPermeGearからなる。
【0148】
1.4 IVPT実験
第1の実験の設定を表2に示し、塗布スキームを表3に示す。
【0149】
【表38】
【0150】
【表39】
【0151】
1.4.1 皮膚からの物質の抽出
イン・ビトロ実験が終了した後、以下の手順に従い、各膜を洗浄し、取り外し、調製した。
1.膜を0.5mlのPBSバッファーで6回洗浄し、洗浄画分チューブのPBSを回収する。
2.セルを取り外し、PBSモイスチャートップで膜を温和に洗浄する。洗浄画分チューブ内のトップを回収する。
3.膜を剥がすことにより、真皮から角質層を温和に分離し、試験管に回収する。
4.10mmのパンチでセルフランジ(曝されていない皮膚)を切り取り、試験管に回収する。
5.メスで真皮を薄片とし、材料を試験管に1.5ml回収する。
6.1.4mlのメタノール/水(90:10)をサンプルに加える。
7.サンプルをボルテックスで撹拌し、冷水(2~8℃ 槽に氷を加える)中で30分間音波処理を施す。
8.次に、サンプルを14000rpmで遠心分離し、分析用のHPLCバイアルに移すべきである。
【0152】
1.4.2 分析
レセプターサンプルと皮膚抽出液の両方のハルミン、クルクミン、およびイソバニリンの分析は、LC-MSにより行った。分析は、Quattro Micro三連四重極式質量分析計(Waters、オルトリナム、チェシャー州、UK)での逆相LC-MSMSにより、エレクトロスプレーモードモニタリング陽イオン(ESI+)で行った。キャピラリー電圧は3.0kV、イオン源の温度は130℃、脱溶媒和温度は250℃であった。衝突誘起解離は、衝突ガスとしてアルゴンを使用し、衝突セルの圧力は3×10-3ミリバールで実施した。定量化のために、多重反応モニタリング(MRM)を行った:クルクミン(369→177)、d6-クルクミン(375→180)、ハルミン(213→198)、d-ハルミン(216→198)、およびイソバニリン(153→93)。モニタリングイオンは個々に最適化した。
【0153】
MS装置をLCポンプ(Shimadzu LC10ADVP、島津製作所、京都、日本)に接続した。勾配溶出は、6分で85/15/0.05から40/60/0.05 水/アセトニトリル/ギ酸で実施した。CTC-palオートサンプラー(CTC Analytics AG、ツヴィンゲン、スイス)を用い、5/95(%v/v)アセトニトリル/水溶液の焦点液14μlを含む20μlのループ容量に6μlの部分充填ループ注入を行った。流量は0.2ml/分、LCカラムは Ascentis Express C18、5cm×2.2mm、2.7μm(Supelco、PA、US)であった。ハルミンとクルクミンの定量限界は1ng/mLであり、イソバニリンの定量限界は 25ng/mLであった。分析はRP-HPLC-UVでも行った。
【0154】
2 結果および考察
2.1 レセプター溶液の溶解度
イソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの溶解度を、0.1%Brijを含むPBS中で決定した。溶解度試験の結果を表4に示す。前のIVPT実験で得られたレセプター溶液中の最大濃度は、18μg/mLイソバニリン、0.13μg/mlハルミンおよび0μg/mLクルクミンであった。したがって、溶解度は予想濃度よりも10倍以上高く、実験中は浸漬状態が維持される必要があると判断された。
【0155】
【表40】
【0156】
2.2 LC-MSMS分析とHPLC-UV分析の比較
LC-MSMS分析とHPLC-UV分析の間の結果はよく一致していた。しかしながら、ほとんどのサンプルでは、濃度はHPLC-UV法の定量限界を下回っていた。2つの分析方法で同様の結果が得られたが、LC-MSMSで得られた完全なデータセットは1つだけあったので、LC-MSMS分析で得られた濃度を使用して結果を計算した。
【0157】
2.3 皮膚組織への透過
イソバニリンは皮膚組織に透過することが判明したが、24時間後に塗布量の約2%しか皮膚に透過していなかった(図21および図22参照)。ハルミンの少量の透過も見られた。しかしながら、透過はちょうど定量限界(QL)の境界にあり、多くの反復実験では透過量は定量限界を下回った。したがって、大部分の反復実験で量限界を下回る濃度であったという事実を考慮すると誤解を招く可能性があるため、ハルミンについては、グラフを示していない。ハルミンの定量限界は1ng/mlであり、2.7ng/cm/時(1ng/mL1.7mL/時/0.64cm)に相当する。いずれのレセプター溶液サンプルでも、クルクミンの浸透は検出できなかった。クルクミンの定量限界は1ng/mLであり、したがって、2.7ng/cm/時未満のクルクミン(1ng/mL1.7mL/時/0.64cm)しか皮膚膜に透過しない。
【0158】
2つの反復実験(セル7およびセル13)では、他の全ての反復実験とは対照的に、かなり大量のイソバニリンとハルミンの両方が最初の画分に透過することが判明し(表5、表6、表7および表8参照、ここでは、値の報告に欧州形式の小数点カンマが使用されている)。したがって、これらの膜は外れ値とみなされる可能性があることが明らかであり、結果の計算には使用しなかった。
【0159】
【表41】
【0160】
【表42】
【0161】
【表43】
【0162】
【表44】
【0163】
2.4 表皮中の量
3つのGZ17-6.02物質は全て、3%および6%の両方のGZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後に表皮中に見られた(図23図24図25、表9および表10参照)。3%GZ17-6.02に比べ、6%GZ17-6.02を含有する製剤の塗布後により高濃度のイソバニリン、ハルミンおよびクルクミンが表皮中に見られた。
【0164】
【表45】
【0165】
【表46】
【0166】
2.5 真皮中の量
3つのGZ17-6.02物質は全て、3%および6%の両方のGZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布後に真皮中に見られた(図26図27図28、表11、および表12参照)。3%GZ17-6.02に比べ、6%GZ17-6.02を含有する製剤の塗布後により高濃度のイソバニリン、ハルミンおよびクルクミンが真皮中に見られた。
【0167】
【表47】
【0168】
【表48】
【0169】
2.6 従前の試験との比較
本試験では、今後の臨床研究で計画されているものと同じ用量を使用するために、有限用量(10mg/cm)を塗布した。従前は、物質を確実に検出できるようにするために、はるかに多くの用量(230mg/cm)を塗布していた。
【0170】
2.6.1 透過量の相関
本次件および従前の実験で組織に透過したイソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの累積量を表13および図14に示す。見て取れるように、透過累積量(μg/g)は、塗布した製剤の用量が増えると有意に増加する。塗布用量のうち組織に透過したパーセンテージ(%)は同じであると思われる。
【0171】
【表49】
【0172】
【表50】
【0173】
2.6.2 真皮中の量の相関
真皮に蓄積されるイソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの量は、塗布用量の影響を受けないと思われ、10mg/cmまたは230mg/cmの塗布後に、ほぼ同量の物質が真皮中に見られる。絶対量の間には小さな差が存在するが、これは2つの別の実験で異なるブタ個体からの皮膚サンプルが使用されたということによるものである可能性がある。しかしながらやはり、その差は、製剤の塗布量間の極めて大きな差とは相関しない。
【0174】
【表51】
【0175】
【表52】
【0176】
3 結論
3%GZ17-6.02モノグリセリドクリームと6%GZ17-6.02モノグリセリドクリームの塗布の違いを調べるために、イン・ビトロ透過試験(IVPT)を行った。有限用量を塗布して、イン・ビボ状況との相関を得た。製剤中のGZ17-6.02の濃度が増加すると、真皮と表皮の両方でイソバニリン、ハルミン、およびクルクミンの濃度が増加することが判明した。製剤中の濃度が増加すると、皮膚組織へのイソバニリンおよびハルミンの透過も増加する。皮膚膜に透過するクルクミンの量は見出されなかった。
【0177】
無限用量を塗布した従前の実験と相関して、塗布量のうち皮膚膜に透過するイソバニリンおよびハルミンのパーセンテージが、塗布された製剤用量とよく相関することが判明した。興味深いことに、真皮中のイソバニリン、ハルミンおよびクルクミンの絶対量は一定であると思われ、製剤用量が変更されても変化せず、すなわち、塗布用量のうち真皮中に見られるパーセンテージは用量の増加とともに低下する。
【0178】
実施例
日光角化症(AK)は前癌性の表皮内病変であり、治療の選択肢は限られている。ここで、本発明者らは、クルクミン、ハルミン、およびイソバニリンで構成される新規抗腫瘍モノグリセリド製剤であるGZ21TのAK治療における有効性を検討する。
【0179】
同じ固定化学量論比のクルクミン(10%)、ハルミン(13%)、およびイソバニリン(77%)で構成される経口製剤(GZ17-6.02)および局所用製剤(GZ21T)を開発した。3つの有効成分を合わせると、個々の薬剤として、またはペアで組み合わせた場合のいずれの構成要素よりも効果的にAK細胞を死滅させた。3つの有効成分は、個々の薬剤として、またはペアで組み合わせた場合、その構成要素のいずれよりも大きなレベルのDNA損傷を引き起こした。単剤として、GZ17-6.02/GZ21Tは、単離された成分と比較して、PKR様小胞体キナーゼ、AMP依存性タンパク質キナーゼおよびULK1の活性化を著しく促進し、mTORC1、AKTおよびYAPの活性を著しく低下させた。オートファジー調節タンパク質ULK1、ベクリン1またはATG5をノックダウンすると、GZ17-6.02/GZ21T単独の致死率が著しく低下した。活性化されたmTOR変異体の発現により、オートファゴソームの形成とオートファジーフラックスが抑制され、腫瘍の細胞死滅が低下した。オートファジーとデスレセプターシグナル伝達の両方を遮断すると、薬物誘発性のAK細胞死が無効となった。
【0180】
このアッセイにより、クルクミン、ハルミン、およびイソバニリンの単独およびペアの両方と比較して、GZ17-6.02/GZ21Tで処理した細胞における細胞死の割合が有意に高いことが明らかになった(図29A)。最後に、AK細胞においてDNA切断と架橋を誘導するGZ17-6.02/GZ21Tの能力を評価するためにコメットアッセイを実施した。この分析により、GZ17-6.02/GZ21Tは、単一の薬剤としてまたはペアとして、その個々の成分よりもDNA損傷を引き起こすのにより有効であることが明らかになった(図29C)。
【0181】
材料および方法:Cell Titer Gloアッセイを使用して、EGFにより刺激されたHaCaT細胞のGZ21Tに対する感受性を決定した。アネキシンVアッセイを用いて、HaCaT細胞に対するGZ21Tのアポトーシス促進効果を評価し、その機序をウェスタンブロットにより明らかにされた。雌のSKH-1マウスに、UVB放射線(500J/m2)に週5回、10週間曝すことによってAK病変を誘発した。続いて、マウスを週5日、0.25グラムの局所用GZ21Tまたは対照クリームで処置した。試験のエンドポイントでは、対照マウスおよびGZ21T処置マウスから病変サンプルを採取し、RNAシークエンシングおよび逆相プロテインアレイ(RPPA)を行った。遺伝子セット濃縮分析(GSEA)は、GZ21T処置によって変化した上位の経路を特定するための参照としてKEGGデータベースを使用して実施した。遺伝子セット変異解析(GSVA)を使用して、従前にAKの病因に関連づけられていた経路に対するGZ21Tの影響を評価した。KEGGデータベースを参照として、Enrichrを使用し、GZ21T処理後に発現の低下を示したタンパク質についての濃縮分析も行った。
【0182】
パイロットテストでは、モノグリセリド、クエン酸pH調整剤、および水を含む三剤有効薬剤を使用して製剤を調製した。
【0183】
【表53】
【0184】
最後の試験で、以下の製剤を用いてGZ21T局所用製剤を調製した。
【0185】
【表54】
【0186】
結果:GZ21Tは、5.07±0.78μg/mlのIC50±SEM値でEGF刺激HaCaT細胞の増殖を阻害した。GZ21T濃度が増加するにつれて、初期(p=0.041)および後期アポトーシス(p=0.029)におけるHaCaT細胞のパーセンテージの増加が見られ、これはPARP切断によって部分的に媒介された。40日間の処置の後、GZ21Tを受けたマウスは、病変数(p=0.028)および腫瘍が占める表面積(p=0.026)に有意な減少を示した。遺伝子セット濃縮分析(GSEA)は、GZ21TがAK病変におけるDNA複製、細胞周期、および酸化的リン酸化などの細胞周期の進行と代謝に関連する経路を下方調節することを示した。遺伝子セット変異解析(GSVA)では、MAPKシグナル伝達(p=0.026)、Wntシグナル伝達(p=0.044)、およびインスリンシグナル伝達(p=0.021)の下方調節が明らかになった(図30)。RPPAは、GZ21T処置がRaf(p=0.003)、グルタミナーゼ(p=0.004)、およびPDL1(p=0.033)などの重要なタンパク質を抑制することを示した。プロテオミクスデータの濃縮分析では、GZ21T処置マウスにおける中心炭素代謝、ErbBシグナル伝達、細胞周期、およびインスリンシグナル伝達の下方調節が示された(図31)。
【0187】
結論:GZ21Tは、細胞周期の進行、MAPKシグナル伝達、Wntシグナル伝達、およびインスリンシグナル伝達に関連する標的の抑制を介してAKの増殖および進行を阻害し、AK治療の新規な治療選択肢として有望である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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【国際調査報告】