(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-18
(54)【発明の名称】トリアゾール含有ポリマーおよびその使用法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/04 20060101AFI20240611BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240611BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240611BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20240611BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240611BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20240611BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20240611BHJP
【FI】
C08B37/04 ZNA
A61K47/60
A61K47/54
A61L29/08 100
A61L31/10
A61K9/50
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577183
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 US2022033416
(87)【国際公開番号】W WO2022266086
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】510166102
【氏名又は名称】ウィリアム マーシュ ライス ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】WILLIAM MARSH RICE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】6100 Main Street,Houston,TX 77005, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】チャン デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ソン ピン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイセ オミッド
(72)【発明者】
【氏名】パークハイデ シアバシュ
(72)【発明者】
【氏名】ムケルジー スディプ
(72)【発明者】
【氏名】ルオッコ マリア イザベル
(72)【発明者】
【氏名】キム ボラム
(72)【発明者】
【氏名】ドゥアフェルト マイケル デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】チェン ユシュアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C081
4C090
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065CA44
4C076AA61
4C076DD60
4C076EE23
4C076EE36H
4C076FF67
4C081AC08
4C081AC09
4C081CD042
4C081DC03
4C090AA09
4C090BA73
4C090BB77
4C090BB98
4C090DA24
(57)【要約】
本明細書において開示するのは、式:A-L-R1(I)の化合物であって、これらの変数を本明細書に定義する、化合物、ならびに該化合物を含む医療デバイスである。本開示は、本明細書に開示する化合物または医療デバイスを含む薬学的組成物もまた提供する。さらに、本開示は、本明細書に開示する化合物、医療デバイス、または薬学的組成物を用いての処置法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
A-L-R
1(I)
の化合物、またはその薬学的に許容される塩であって:
式中:
Aはポリマーであり;
Lは以下の式:
NR
aX
1(CH
2CH
2O)
o
のリンカーであり:
式中:
R
aは水素、アルキル
(C≦6)、もしくは置換アルキル
(C≦6)であり;
oは2、3、4、もしくは5であり;かつ
X
1はアルカンジイル
(C≦8)もしくは置換アルカンジイル
(C≦8)であるか;
または以下の式:
NR
b(CH
2)
pX
2
のリンカーであり:
式中:
R
bは水素、アルキル
(C≦6)、もしくは置換アルキル
(C≦6)であり;
pは1、2、もしくは3であり;かつ
X
2はアレーンジイル
(C≦12)もしくは置換アレーンジイル
(C≦12)であり;
R
1はシクロアルキル
(C≦12);ハロアリール
(C≦12);S含有ヘテロアリール
(C≦12);置換S含有ヘテロアリール
(C≦12);アルキル
(C≦6)、ハロアルキル
(C≦6)、アルケニル
(C≦6)、もしくはアルキニル
(C≦6)置換アリール
(C≦12);アラルキル
(C≦12);置換アラルキル
(C≦12);ヘテロシクロアルキル
(C≦12);置換ヘテロシクロアルキル
(C≦12);2-ピリジニル;3-アミノフェニル;4-アルコキシ
(C≦6)置換アリール
(C≦12);または以下の式:
X
3OR
2
の基であり:
式中:
X
3はアルカンジイル
(C≦8)もしくは置換アルカンジイル
(C≦8)であり;
R
2はアリール
(C≦12)もしくは置換アリール
(C≦12)である、
化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
下記:
A-L-R
1(I)
とさらに定義され、
式中:
Aはポリマーであり;
Lは以下の式:
NR
aX
1(CH
2CH
2O)
m
のリンカーであり:
式中:
R
aは水素、アルキル
(C≦6)、もしくは置換アルキル
(C≦6)であり;
mは2、3、4、もしくは5であり;かつ
X
1はアルカンジイル
(C≦8)もしくは置換アルカンジイル
(C≦8)であり;
R
1はシクロアルキル
(C≦12);ハロアリール
(C≦12);S含有ヘテロアリール
(C≦12);置換S含有ヘテロアリール
(C≦12);アルキル
(C≦6)、ハロアルキル
(C≦6)、アルケニル
(C≦6)、もしくはアルキニエ
(C≦6)置換アリール
(C≦12);3-アミノフェニル;4-アルコキシ
(C≦6)置換アリール
(C≦12);または以下の式:
X
3OR
2
の基であり:
式中:
X
3はアルカンジイル
(C≦8)もしくは置換アルカンジイル
(C≦8)であり;
R
2はアリール
(C≦12)もしくは置換アリール
(C≦12)である、
請求項1記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
下記:
A-L-R
1(I)
とさらに定義され、
式中:
Aはポリマーであり;
Lは以下の式:
NR
aX
1(CH
2CH
2O)
m
のリンカーであり:
式中:
R
aは水素、アルキル
(C≦6)、もしくは置換アルキル
(C≦6)であり;
mは2、3、4、もしくは5であり;かつ
X
1はアルカンジイル
(C≦8)もしくは置換アルカンジイル
(C≦8)であるか;
または以下の式:
NR
b(CH
2)
nX
2
のリンカーであり:
式中:
R
bは水素、アルキル
(C≦6)、もしくは置換アルキル
(C≦6)であり;
nは1、2、もしくは3であり;かつ
X
2はアレーンジイル
(C≦12)もしくは置換アレーンジイル
(C≦12)であり;
R
1はハロアリール
(C≦12);アラルキル
(C≦12);置換アラルキル
(C≦12);ヘテロシクロアルキル
(C≦12);置換ヘテロシクロアルキル
(C≦12);2-ピリジニル;3-アミノフェニルである、
請求項1記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
前記ポリマーが1つまたは複数の糖反復単位を含む、請求項1または請求項2のいずれか一項記載の化合物。
【請求項5】
前記反復単位が以下の式:
を有し、
式中:
R
3またはR
4はそれぞれ独立して水素またはヒドロキシであり;
R
5はヒドロキシ、アルコキシ
(C≦8)、置換アルコキシ
(C≦8)、または前記リンカーへの共有結合であり;かつ
mは約50,000ダルトン~約500,000ダルトンの分子量を有する反復単位の数である、
請求項4記載の化合物。
【請求項6】
前記ポリマーが以下の式:
の反復単位を含み、
式中:
R
3、R
3'、R
4、またはR
4'はそれぞれ独立して水素またはヒドロキシであり;
R
5はヒドロキシ、アルコキシ
(C≦8)、置換アルコキシ
(C≦8)、または前記リンカーへの共有結合であり;
R
5'は前記リンカーへの共有結合であり;かつ
mおよびnは約50,000ダルトン~約500,000ダルトンの分子量を有する反復単位の数になる、
請求項5記載の化合物。
【請求項7】
前記ポリマーがアクリレートポリマーである、請求項1~3のいずれか一項記載の化合物。
【請求項8】
前記ポリマーがメタクリレートポリマーである、請求項7記載の化合物。
【請求項9】
oが2または3である、請求項1、2、および4~8のいずれか一項記載の化合物。
【請求項10】
oが2である、請求項9記載の化合物。
【請求項11】
oが3である、請求項9記載の化合物。
【請求項12】
R
aが水素である、請求項1~11のいずれか一項記載の化合物。
【請求項13】
X
1がアルカンジイル
(C≦6)である、請求項1~12のいずれか一項記載の化合物。
【請求項14】
X
1が-CH
2CH
2-である、請求項13記載の化合物。
【請求項15】
R
bが水素である、請求項1および3~6のいずれか一項記載の化合物。
【請求項16】
pが1または2である、請求項1、3~6、および15のいずれか一項記載の化合物。
【請求項17】
pが1である、請求項16記載の化合物。
【請求項18】
X
2がアレーンジイル
(C≦12)である、請求項13、3~6、および15~17のいずれか一項記載の化合物。
【請求項19】
X
2がベンゼンジイルである、請求項18記載の化合物。
【請求項20】
R
1がハロアリール
(C≦12)である、請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項21】
R
1がクロロフェニル、ブロモフェニル、またはフルオロフェニルである、請求項20記載の化合物。
【請求項22】
R
1が2-ブロモフェニル、4-クロロフェニル、2-フルオロフェニル、または4-フルオロフェニルである、請求項21記載の化合物。
【請求項23】
R
1が3-アミノフェニルである、請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項24】
R
1がS含有ヘテロアリール
(C≦12)または置換S含有ヘテロアリール
(C≦12)である、請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項25】
R
1がS含有ヘテロアリール
(C≦12)である、請求項24記載の化合物。
【請求項26】
R
1が2-チオフェニルまたは3-チオフェニルである、請求項25記載の化合物。
【請求項27】
R
1がシクロアルキル
(C≦12)である、請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項28】
R
1がシクロプロピルである、請求項27記載の化合物。
【請求項29】
R
1がアルキル
(C≦6)、ハロアルキル
(C≦6)、アルケニル
(C≦6)、またはアルキニエ
(C≦6)置換アリール
(C≦12)である、請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項30】
R
1がアルキル
(C≦6)置換アリール
(C≦12)である、請求項29記載の化合物。
【請求項31】
R
1が3-メチルフェニルまたは4-メチルフェニルである、請求項30記載の化合物。
【請求項32】
R
1がハロアルキル
(C≦6)置換アリール
(C≦12)である、請求項29記載の化合物。
【請求項33】
R
1が4-トリフルオロメチルフェニルである、請求項32記載の化合物。
【請求項34】
R
1がアルキニエ
(C≦6)置換アリール
(C≦12)である、請求項29記載の化合物。
【請求項35】
R
1が3-エチン-フェニルである、請求項34記載の化合物。
【請求項36】
R
1が以下の式:
X
3OR
2
の基であり、
式中:
X
3はアルカンジイル
(C≦8)または置換アルカンジイル
(C≦8)であり;
R
2はアリール
(C≦12)または置換アリール
(C≦12)である、
請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項37】
X
3がアルカンジイル
(C≦8)である、請求項36記載の化合物。
【請求項38】
X
3が-CH
2-である、請求項37記載の化合物。
【請求項39】
R
2が置換アリール
(C≦12)である、請求項36~38のいずれか一項記載の化合物。
【請求項40】
R
2が4-アミノフェニルである、請求項39記載の化合物。
【請求項41】
R
1が4-アルコキシ
(C≦6)置換アリール
(C≦12)である、請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項42】
R
1が4-エトキシフェニルである、請求項41記載の化合物。
【請求項43】
R
1がヘテロシクロアルキル
(C≦12)または置換ヘテロシクロアルキル
(C≦12)である、請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項44】
R
1がヘテロシクロアルキル
(C≦12)である、請求項43記載の化合物。
【請求項45】
R
1がチオモルホリン-ジオキシドである、請求項44記載の化合物。
【請求項46】
R
1がアラルキル
(C≦12)または置換アラルキル
(C≦12)である、請求項1~19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項47】
R
1がアラルキル
(C≦12)である、請求項46記載の化合物。
【請求項48】
R
1が2-フェニルエチルである、請求項47記載の化合物。
【請求項49】
前記化合物が下記:
とさらに定義され、
式中:
mおよびnは約50,000ダルトン~約500,000ダルトンの分子量を有する反復単位の数になる、
請求項1~48のいずれか一項記載の化合物。
【請求項50】
試料中の線維化を検出する方法であって、請求項1~49のいずれか一項記載の1つまたは複数のポリマーに該試料を曝露する段階および反応性を測定する段階を含む、方法。
【請求項51】
請求項1~49のいずれか一項記載の化合物でコーティングされている、医療デバイス。
【請求項52】
移植可能デバイス、心臓ペースメーカー、カテーテル、針注入カテーテル、血栓フィルター、血管移植片、バルーン、ステント移植片、胆道ステント、腸ステント、気管支ステント、食道ステント、尿管ステント、動脈瘤充填コイルもしくは他のコイルデバイス、外科的修復メッシュ、乳房インプラント、シリコーンインプラント、PDMS、経心筋血行再建デバイス、経皮的心筋血行再建デバイス、プロテーゼ、臓器、血管、大動脈、心臓弁、チューブ、臓器置換部分、インプラント、繊維、中空繊維、膜、テキスタイル、預血、血液容器、タイタープレート、吸着媒質、透析器、接続部品、センサー、弁、内視鏡、フィルター、ポンプチャンバー、あるいは血液適合性を有することが意図される別の医療デバイス、または癌、糖尿病、虚血、抗菌、血友病、脳卒中、血液障害、もしくはヒト改変細胞を含むサイトカイン療法で使用される別の医療デバイスである、請求項51記載の医療デバイス。
【請求項53】
カプセル、移植可能ポリマーブロック、3Dプリントブロック、3Dプリントゲル、またはポリマーカプセル化デバイスである、請求項52記載の医療デバイス。
【請求項54】
ポリマーカプセル化デバイスが、球形、正方形、麺形、針形、長方形、および円筒形から選択される形状をさらに含む、請求項53記載の医療デバイス。
【請求項55】
移植可能カプセルがマイクロカプセルである、請求項53記載の医療デバイス。
【請求項56】
カテーテルである、請求項52記載の医療デバイス。
【請求項57】
コーティングなしの医療デバイスよりも線維化が少なくなる、請求項51~56のいずれか一項記載の医療デバイス。
【請求項58】
コーティングなしの医療デバイスと比較して免疫保護性である、請求項57記載の医療デバイス。
【請求項59】
免疫保護性が、より低い異物反応をもたらす、請求項58記載の医療デバイス。
【請求項60】
(A)請求項1~58のいずれか一項記載の化合物または医療デバイス;および
(B)賦形剤
を含む、薬学的組成物。
【請求項61】
生物学的材料をさらに含む、請求項60記載の薬学的組成物。
【請求項62】
前記生物学的材料が前記化合物または医療デバイスにカプセル化される、請求項61記載の薬学的組成物。
【請求項63】
前記生物学的材料が細胞である、請求項62記載の薬学的組成物。
【請求項64】
前記細胞が、異種組織からの細胞、死体からの細胞、幹細胞、幹細胞由来の細胞、細胞株からの細胞、初代細胞、再プログラム化細胞、再プログラム化幹細胞、再プログラム化幹細胞由来の細胞、遺伝子操作細胞、またはそれらの組み合わせである、請求項63記載の薬学的組成物。
【請求項65】
前記細胞がヒト細胞である、請求項63記載の薬学的組成物。
【請求項66】
前記細胞がインスリン産生細胞である、請求項63記載の薬学的組成物。
【請求項67】
前記細胞が膵島細胞である、請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項68】
前記化合物が架橋されている、請求項60~67のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項69】
前記架橋化合物が共有結合で架橋されている、請求項68記載の薬学的組成物。
【請求項70】
疾患または障害を処置または予防する方法であって、それを必要としている患者に請求項1~69のいずれか一項記載の化合物、医療デバイス、または薬学的組成物を投与する段階を含む、方法。
【請求項71】
より低い異物反応をもたらす、請求項70記載の方法。
【請求項72】
より少ない線維化をもたらす、請求項70または請求項71記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月14日提出の米国特許仮出願第63/210,377号に対する優先権の恩典を主張し、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府により資金提供を受けた研究に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所より授与された助成金番号R01DK120459の下、政府の支援を受けて行った。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
I. 発明の分野
本発明は一般には生物学、化学および医学の分野に関する。より具体的には、線維症に関連するものなどの疾患および障害の処置および予防のための化合物、組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
II. 関連技術の説明
糖尿病、血友病、ムコ多糖症および多くの他の疾患は、インスリンもしくはモノクローナル抗体などのタンパク質薬物、または最近現れた細胞療法によって管理または抑制することができる。しかし、タンパク質薬物は経口投与ができず、静脈内注射(IV)しなければならない。タンパク質薬物は速やかに分解されて、治療効果を制限し、体内の治療レベルを維持するためには定期的なIV注射が必要となる。定期的なIV注射の負担は患者の生活の質を大きく制限し、高い医療費につながる。
【0005】
ヒト体内に移植された細胞は、原則としては「生きている工場」としてはたらき、絶えずタンパク質薬物を生産することができる。しかし、患者の免疫系はこれらの外来の移植細胞を破壊し、したがって長期的な細胞療法を可能にするには、非免疫原性材料内に細胞をカプセル化する何らかのメカニズムが必要である。細胞をカプセル化するための生体材料は異物反応、すなわち線維化を誘発するため、細胞療法の分野は長い間制限されてきた。この線維化は移植片を包んで、カプセル化された細胞への酸素および栄養の移動を制限し、細胞死を引き起こす。したがって、宿主免疫の認識を防ぎ、線維化を遅らせることができる、十分に生体適合性の移植デバイスまたは免疫保護コーティングを開発することが、医学において緊急に必要とされている。
【0006】
以前の研究は、共有結合で修飾されたトリアゾール含有アルギネート類縁体のライブラリーをスクリーニングして、げっ歯類ならびに非ヒト霊長類モデルにおける線維化を予防するのに有効なリード生体材料を同定するための、ハイスループットハイドロゲルライブラリーの使用を示した(Vegas et al., 2016)。合計774のコンビナトリアルに合成された化学物質のスクリーニングは、類似の分子構造を有する3つのリードトリアゾール含有抗線維化小分子化合物の同定につながった(Vegas et al., 2016)。このようなアルギネートカプセル化材料のインビボ評価のために、各マウスで8つの異なる皮下移植部位が用いられた。しかし、新規生体材料のハイスループットスクリーニングは、生きている対象(マウス/非ヒト霊長類:NHP)の厳密な使用を含み、これは時間と費用を大幅に増加させ、多数のげっ歯類/非ヒト霊長類を傷つけることを強調することが重要である。しかし、試験する試料の数は非常に少なく、生きている実験対象の数を減らすのに役立つ、1匹のげっ歯類/NHPで多数の免疫保護生体材料をスクリーニングする一貫したハイスループットスクリーニング法は開発されていない。したがって、免疫保護生体材料を同定するための、さらなるトリアゾール化合物ならびにハイスループットスクリーニング法が必要とされている。
【0007】
本発明の開発は、Cancer Prevention and Research Institute of Texas Grant No. RR160047から一部資金提供を受けた。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、抗線維化特性を有するトリアゾール含有化合物、薬学的組成物、それらの製造法、およびそれらの使用法を提供する。
【0009】
1つの局面において、以下の式:
A-L-R1(I)
の化合物、またはその薬学的に許容される塩であって:
式中:
Aはポリマーであり;
Lは以下の式:
NRaX1(CH2CH2O)o
のリンカーであり:
式中:
Raは水素、アルキル(C≦6)、もしくは置換アルキル(C≦6)であり;
oは2、3、4、もしくは5であり;かつ
X1はアルカンジイル(C≦8)もしくは置換アルカンジイル(C≦8)であるか;
または以下の式:
NRb(CH2)pX2
のリンカーであり:
式中:
Rbは水素、アルキル(C≦6)、もしくは置換アルキル(C≦6)であり;
pは1、2、もしくは3であり;かつ
X2はアレーンジイル(C≦12)もしくは置換アレーンジイル(C≦12)であり;
R1はシクロアルキル(C≦12);ハロアリール(C≦12);S含有ヘテロアリール(C≦12);置換S含有ヘテロアリール(C≦12);アルキル(C≦6)、ハロアルキル(C≦6)、アルケニル(C≦6)、もしくはアルキニル(C≦6)置換アリール(C≦12);アラルキル(C≦12);置換アラルキル(C≦12);ヘテロシクロアルキル(C≦12);置換ヘテロシクロアルキル(C≦12);2-ピリジニル;3-アミノフェニル;4-アルコキシ(C≦6)置換アリール(C≦12);または以下の式:
X3OR2
の基であり:
式中:
X3はアルカンジイル(C≦8)もしくは置換アルカンジイル(C≦8)であり;
R2はアリール(C≦12)もしくは置換アリール(C≦12)である、
化合物、またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0010】
いくつかの態様において、前記化合物は下記、またはその薬学的に許容される塩とさらに定義される:
A-L-R1(I)
式中:
Aはポリマーであり;
Lは以下の式:
NRaX1(CH2CH2O)m
のリンカーであり:
式中:
Raは水素、アルキル(C≦6)、もしくは置換アルキル(C≦6)であり;
mは2、3、4、もしくは5であり;かつ
X1はアルカンジイル(C≦8)もしくは置換アルカンジイル(C≦8)であり;
R1はシクロアルキル(C≦12);ハロアリール(C≦12);S含有ヘテロアリール(C≦12);置換S含有ヘテロアリール(C≦12);アルキル(C≦6)、ハロアルキル(C≦6)、アルケニル(C≦6)、もしくはアルキニエ(C≦6)置換アリール(C≦12);3-アミノフェニル;4-アルコキシ(C≦6)置換アリール(C≦12);または以下の式:
X3OR2
の基であり:
式中:
X3はアルカンジイル(C≦8)もしくは置換アルカンジイル(C≦8)であり;
R2はアリール(C≦12)もしくは置換アリール(C≦12)である。
【0011】
いくつかの態様において、前記化合物は下記、またはその薬学的に許容される塩とさらに定義される:
A-L-R1(I)
式中:
Aはポリマーであり;
Lは以下の式:
NRaX1(CH2CH2O)m
のリンカーであり:
式中:
Raは水素、アルキル(C≦6)、もしくは置換アルキル(C≦6)であり;
mは2、3、4、もしくは5であり;かつ
X1はアルカンジイル(C≦8)もしくは置換アルカンジイル(C≦8)であるか;
または以下の式:
NRb(CH2)nX2
のリンカーであり:
式中:
Rbは水素、アルキル(C≦6)、もしくは置換アルキル(C≦6)であり;
nは1、2、もしくは3であり;かつ
X2はアレーンジイル(C≦12)もしくは置換アレーンジイル(C≦12)であり;
R1はハロアリール(C≦12);アラルキル(C≦12);置換アラルキル(C≦12);ヘテロシクロアルキル(C≦12);置換ヘテロシクロアルキル(C≦12);2-ピリジニル;3-アミノフェニルである。
【0012】
いくつかの態様において、前記ポリマーは1つまたは複数の糖反復単位を含み、例えば該反復単位は以下の式:
を有し、
式中:
R
3またはR
4はそれぞれ独立して水素またはヒドロキシであり;
R
5はヒドロキシ、アルコキシ
(C≦8)、置換アルコキシ
(C≦8)、またはリンカーへの共有結合であり;かつ
mは約50,000ダルトン~約500,000ダルトンの分子量を有する反復単位の数である。
【0013】
いくつかの態様において、前記ポリマーは以下の式:
の反復単位を含み、
式中:
R
3、R
3'、R
4、またはR
4'はそれぞれ独立して水素またはヒドロキシであり;
R
5はヒドロキシ、アルコキシ
(C≦8)、置換アルコキシ
(C≦8)、または前記リンカーへの共有結合であり;
R
5'は前記リンカーへの共有結合であり;かつ
mおよびnは約50,000ダルトン~約500,000ダルトンの分子量を有する反復単位の数になる。
【0014】
いくつかの態様において、前記ポリマーは、メタクリレートポリマーなどのアクリレートポリマーである。いくつかの態様において、oは2または3である。いくつかの態様において、oは2である。他の態様において、oは3である。いくつかの態様において、Raは水素である。いくつかの態様において、X1は-CH2CH2-などのアルカンジイル(C≦6)である。いくつかの態様において、Rbは水素である。いくつかの態様において、pは1または2である。いくつかの態様において、pは1である。いくつかの態様において、X2はベンゼンジイルなどのアレーンジイル(C≦12)である。
【0015】
いくつかの態様において、R1はクロロフェニル、ブロモフェニル、またはフルオロフェニルなどのハロアリール(C≦12)である。いくつかの態様において、R1は2-ブロモフェニル、4-クロロフェニル、2-フルオロフェニル、または4-フルオロフェニルである。他の態様において、R1は3-アミノフェニルである。他の態様において、R1はS含有ヘテロアリール(C≦12)または置換S含有ヘテロアリール(C≦12)である。いくつかの態様において、R1は2-チオフェニルまたは3-チオフェニルなどのS含有ヘテロアリール(C≦12)である。他の態様において、R1はシクロプロピルなどのシクロアルキル(C≦12)である。他の態様において、R1はアルキル(C≦6)、ハロアルキル(C≦6)、アルケニル(C≦6)、またはアルキニエ(C≦6)置換アリール(C≦12)である。いくつかの態様において、R1は3-メチルフェニルまたは4-メチルフェニルなどのアルキル(C≦6)置換アリール(C≦12)である。他の態様において、R1は4-トリフルオロメチルフェニルなどのハロアルキル(C≦6)置換アリール(C≦12)である。他の態様において、R1は3-エチン-フェニルなどのアルキニエ(C≦6)置換アリール(C≦12)である。いくつかの態様において、R1は以下の式:
X3OR2
の基であり、
式中:
X3はアルカンジイル(C≦8)または置換アルカンジイル(C≦8)であり;
R2はアリール(C≦12)または置換アリール(C≦12)である。
【0016】
いくつかの態様において、X
3は-CH
2-などのアルカンジイル
(C≦8)である。いくつかの態様において、R
2は4-アミノフェニルなどの置換アリール
(C≦12)である。他の態様において、R
1は4-エトキシフェニルなどの4-アルコキシ
(C≦6)置換アリール
(C≦12)である。他の態様において、R
1はヘテロシクロアルキル
(C≦12)または置換ヘテロシクロアルキル
(C≦12)である。いくつかの態様において、R
1はチオモルホリン-ジオキシドなどのヘテロシクロアルキル
(C≦12)である。他の態様において、R
1はアラルキル
(C≦12)または置換アラルキル
(C≦12)である。いくつかの態様において、R
1は2-フェニルエチルなどのアラルキル
(C≦12)である。いくつかの態様において、前記化合物は下記:
とさらに定義され、
式中
mおよびnは約50,000ダルトン~約500,000ダルトンの分子量を有する反復単位の数になる。
【0017】
さらにもう1つの局面において、本開示は、試料中の線維化を検出する方法であって、本明細書に記載の1つまたは複数のポリマーに該試料を曝露する段階および反応性を測定する段階を含む、方法を提供する。
【0018】
もう1つの局面において、本開示は、本明細書に記載の化合物でコーティングされている、医療デバイスを提供する。いくつかの態様において、医療デバイスは、移植可能デバイス、心臓ペースメーカー、カテーテル、針注入カテーテル、血栓フィルター、血管移植片、バルーン、ステント移植片、胆道ステント、腸ステント、気管支ステント、食道ステント、尿管ステント、動脈瘤充填コイルもしくは他のコイルデバイス、外科的修復メッシュ、乳房インプラント、シリコーンインプラント、PDMS、経心筋血行再建デバイス、経皮的心筋血行再建デバイス、プロテーゼ、臓器、血管、大動脈、心臓弁、チューブ、臓器置換部分、インプラント、繊維、中空繊維、膜、織物、預血、血液容器、タイタープレート、吸着媒質、透析器、接続部品、センサー、弁、内視鏡、フィルター、ポンプチャンバー、あるいは血液適合性を有することが意図される別の医療デバイス、または癌、糖尿病、虚血、抗菌、血友病、脳卒中、血液障害、もしくはヒト改変細胞を含むサイトカイン療法で使用される別の医療デバイスである。
【0019】
いくつかの態様において、医療デバイスは、カプセル、移植可能ポリマーブロック、3Dプリントブロック、3Dプリントゲル、またはポリマーカプセル化デバイスである。いくつかの態様において、ポリマーカプセル化デバイスは、球形、正方形、麺形、針形、長方形、および円筒形から選択される形状をさらに含む。いくつかの態様において、移植可能カプセルはマイクロカプセルである。いくつかの態様において、医療デバイスはカテーテルである。いくつかの態様において、医療デバイスは、コーティングなしの医療デバイスよりも線維化が少なくなる。いくつかの態様において、医療デバイスは、コーティングなしの医療デバイスと比較して免疫保護性である。いくつかの態様において、免疫保護性は、より低い異物反応をもたらす。
【0020】
さらにもう1つの局面において、本開示は、
(A)本明細書に記載の化合物または医療デバイス;および
(B)賦形剤
を含む、薬学的組成物を提供する。
【0021】
いくつかの態様において、薬学的組成物は生物学的材料をさらに含む。いくつかの態様において、生物学的材料は、前記化合物または医療デバイスにカプセル化される。いくつかの態様において、生物学的材料は細胞である。いくつかの態様において、細胞は、異種組織からの細胞、死体からの細胞、幹細胞、幹細胞由来の細胞、細胞株からの細胞、初代細胞、再プログラム化細胞、再プログラム化幹細胞、再プログラム化幹細胞由来の細胞、遺伝子操作細胞、またはそれらの組み合わせである。いくつかの態様において、細胞はヒト細胞である。いくつかの態様において、細胞はインスリン産生細胞である。いくつかの態様において、細胞は膵島細胞である。いくつかの態様において、化合物は架橋されている。いくつかの態様において、架橋化合物は共有結合で架橋されている。
【0022】
さらにもう1つの局面において、本開示は、疾患または障害の処置法または予防法であって、それを必要としている患者に本明細書に記載の化合物、医療デバイス、または薬学的組成物を投与する段階を含む方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、より低い異物反応をもたらす。いくつかの態様において、方法はより少ない線維化をもたらす。
【0023】
本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内での様々な変更および改変は、当業者には詳細な説明から明らかになるため、この詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の具体的な態様を示す一方で、例示のために示すにすぎないことが理解されべきである。単に特定の化合物が1つの特定の一般式に帰属されるからといって、別の一般式にも帰属され得ないわけではないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の一定の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提示する具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて参照することにより、よりよく理解され得る。
【
図1】
図1は、新しいアルギネート類縁体の合成を概説する一般的な模式図を示す。使用した具体的なリンカーおよびアルキンを表2に示す。スキームの左側は、マウスおよびNHPモデルにおいて線維化を防止する、以前のトリアゾール含有リードアルギネートの2つ(B1-A21およびZ1-A34)である。中央に示す一連のアルキンクラスと組み合わせた、リード親水性リンカー(アジドPEG-アミン)および疎水性リンカー(ヨードベンジルアミン)を変えることにより、合計211の新しいアルギネート類縁体を合成した。
【
図2】
図2A~2Dは、材料スクリーニングのための細胞バーコーディング戦略を示す。(
図2A)全体概略図:20の異なるHUVECドナーを対応する材料でカプセル化し、抗線維化特性および生体適合性を評価するためにマウスに4週間移植した。(
図2B)20の独特のHUVECをNGSにより配列決定して、それらの特定のSNPを同定し、これらをインビボで異なるカプセル化材料にタグ付けし、同定するためのバーコードとして使用することができる。(20の)独特のHUVECを次世代シークエンシング(NGS)により配列決定して、それらの個々の一塩基多型(SNP)を同定し、これらをインビボで異なるカプセル化材料にタグ付けし、同定するためのバーコードとして使用することができる。(
図2C、2D)すべてのドナー(H1~H20)をNGSによってデコンボリューションし得ることを証明するために、20の異なるHUVECドナーをカプセル化している20の異なるカプセルの混合物をNSGマウスに4週間移植した。(
図2C)移植前および移植後の明視野像および暗視野像:カプセルは最小限の細胞沈着で回収され、移植前のカプセルと同様に線維化がないことを示していた。カプセル化された細胞は移植4週間後も生存している(生細胞:緑、死細胞:赤)。スケールバー、2mm。(
図2D)1匹のマウスからのカプセルをNGSで解析し、200のうち195のカプセルの同定に成功した。ドナー全体で、同定されたカプセルの割合はドナー1からドナー20まで均等に分布している。
【
図3】
図3A~3Eは、ゲル化検定の結果および材料の特徴づけを示す。(
図3A)ローダミンBの捕捉を用いたアルギネート類縁体のゲル化検定。(
図3B)アルギネート類縁体を用いたカプセル形成の代表的画像。スケールバー、2mm。(
図3C)純度、溶解性、およびゲル形成能力を含む初期特徴づけ試験後、149のアルギネートポリマーをスクリーニング試験に使用した。(
図3D)アルギネート骨格へのリンカーの結合を確認するアルギネートリンカーの元素分析の表。(
図3E)修飾を確認するアルギネート類縁体のトリアゾールピークを示す代表的NMR画像。
【
図4】
図4A~4Cは、移植前カプセルによるDNA抽出法の最適化を示す。最適化した方法を、移植後のカプセルによるqPCRおよびNGS同定などのさらなる分析に使用した。(
図4A)カプセルの溶解条件によるDNA含量の比較;EDTA溶解段階の有無および新鮮状態と凍結状態。(
図4B)DNA溶出条件によるDNA含量の比較;溶出量および溶出温度。(
図4C)カプセルあたりの細胞数によるDNA含量/収率の比較。
【
図5】
図5Aおよび5Bは、NGSライブラリー調製ワークフローの最適化を示す。ライブラリー調製は、SNP座位を増幅する際のマルチプレックスPCR段階、各試料にポジションバーコードを付加するバーコードPCR段階、およびライゲーションベースのシークエンスアダプター補正手順を含む。(
図5A)最適化前、ライブラリーのオンターゲット率は<10%で、プライマーダイマーおよび非特異的PCR産物が読み取りデータの大部分を占めていた。(
図5B)最適化後、オンターゲット率は、出発原料中の低いDNA投入量(<1ng)にもかかわらず、>80%まで増加した。
【
図6】
図6は、NGSシークエンシングデータから材料の同一性/組成を決定するための生物情報学パイプラインを示す。Fastq NGSデータを行および列バーコードによってデマルチプレックスして、同じDNA投入量から増幅した配列を再編成した。次いで、各アンプリコン配列について、grep関数を適用して優性アレルおよび変異アレルを検索し、各SNP座位の変異アレル頻度(VAF)を算出した。カプセル化された細胞が1つのドナーのみを含んでいた場合、VAFプロファイルを20の事前にスクリーニングしたHUVECドナーのプロファイルと比較した。最も高い一致率を示したドナーを、カプセル化ドナー細胞として同定した。1つまたは2つのドナーをカプセル化細胞として使用した場合、すべての可能なドナー組成の対数尤度を算出した。対数尤度が全体として最も高い組成を、細胞組成として決定した(対数尤度解析の品質管理:1)少なくとも25/30のSNP座位が>50のシークエンスカバレッジを有した;および2)全体の対数尤度>-200、および3)良さ測定値>10で、良さは、最も可能性の高い対と2番目に可能性の高いドナー対との間の対数尤度の差と定義する)。同定したドナー細胞または細胞組成に対応する材料は、細胞をカプセル化する材料である。
【
図7】
図7A~7Fは、独特の細胞バーコーディングを用いてコンビナトリアルに合成した化学修飾アルギネートのハイスループットスクリーニングが、免疫適格マウスにおいて線維化が低減した新しいハイドロゲルの同定を容易にすることを示す。(
図7A)免疫調節生体材料のライブラリー;合計211の新規アルギネート類縁体を合成した。(
図7B)スクリーニングのスループットを高めるために、異なる材料の混合物を同じ移植部位に移植した。NGS検定を用いて、カプセル化されたHUVECのSNP遺伝子型をデマルチプレックスすることにより材料の同一性を決定した。200のアルギネートカプセル(直径約1.5mm、10カプセル/材料)の典型的な移植により、材料ごとに統計的解析を可能にするのに十分な独立したカプセルを用いて、20の異なる移植材料を同時に評価することができる。(
図7C)ラウンドの1つからの代表的結果。移植4週間後、カプセルを摘出した。移植前カプセルと同様の、線維化の少ない透明なカプセル(下段)を、さらなる解析のために分離した。スケールバー、10mm。(
図7D)全アルギネート類縁体の材料スクリーニングをまとめたヒートマップ。(
図7E)149の新しい材料をスクリーニングし、対応するリード材料をNGS検定により同定した。エラーバーは二項分布からの95%信頼区間を表す。Z1-A34(以前の陽性材料、バーで表示)の平均レベルを点線で表示した。Z1-A34を超える上位材料を濃いバーで示した。(
図7F)上位3つのリードアルギネート類縁体の代表的構造(
図7Eのオレンジ色のバー)。
【
図8】
図8A~8Hは、デュアルドナーバーコーディングを用いた、NHPモデルにおける材料スクリーニングのスケールアップを示す。(
図8A)2つのHUVECドナーを1:2の比率で混合し、様々な材料にカプセル化した。(
図8B)1:2の比率で混合した20のHUVECドナーで、20×20=400の異なるSNPプロファイルを作製した。(
図8C)100のドナー対を対応する材料でカプセル化し、NHPのIP腔に4週間移植した。材料当たり30カプセルを使用し、合計3000カプセルを移植した。(
図8D)移植前のカプセルの代表的画像。(
図8E)4週間後、IP腔内の浮動性カプセルをすべて回収し、材料同定に用いた(明るい矢印:線維化組織凝集を伴うカプセル、灰色の矢印:浮動性カプセル)。(
図8F)ドナー対同定の要約。合計503の選択したカプセルのうち、466(92.6%)を高い信頼性で同定し、32(6.36%)を低い信頼性で同定し、かつ5つ(0.99%)のカプセルは同定に失敗した。(
図8G)分析したカプセルの信頼水準の分布。良さは、最も可能性の高い対と2番目に可能性の高いドナー対との間の対数尤度の差であり、したがって、高い良さは誤同定の可能性が低いことを示す。右上角のカプセルは信頼度がより高く、対数尤度が-200未満または良さが10未満のものは「信頼度が低い」と考えられる。(
図8H)同定した上位4リードの化学構造。
【
図9】
図9A~9Dは、より大きいライブラリースクリーニングのためのバーコーディング能力拡大のための、2つのHUVECドナーのバーコーディングの最適化を示す。(
図9A)対応するドナー対を含む3つの異なる材料の混合物をインビトロで試験した。良さは、選んだ最も可能性の高い対と2番目に可能性の高い対との間の対数尤度の差であり、これは選んだ組み合わせがいかに優れているかの尺度である。(
図9B~9D)代表的なヒートマップは、異なる混合比(b、1:2、c、1:3、d、1:4)の各20×20のドナーの組み合わせの対数尤度をプロットしている。それぞれの小さい四角の濃さは尤度を表す。
【
図10】
図10A~10Fは、C57BL/6Jマウスにおけるデュアルドナーバーコーディング同定を示す。(
図10A)3つの異なる材料を試験した;UP-VLVG(対照)、B1-A51(陰性材料の1つ)、およびZ1-A34(陽性材料の1つ)。(
図10B)混合デュアルドナーを含む3つの材料スクリーニングの概略ワークフロー。(
図10Cおよび
図10D)移植2週間後、各マウス(M1~M3)からカプセルを回収し、線維化レベルに応じて3つの群に分けた。(
図10E)同定したドナー対の代表的なヒートマップ結果。(
図10F)39の試料が、1:2の比率でH16:H14によりコードされるZ1-A34(陽性対照材料)にマッピングされ;4つが、1:2の比率でH6:H8によりコードされるUP-VLVGにマッピングされ;B1-A51にマッピングされた試料は0であった。400のドナーSNPプロファイルから、全体で43/45の試料がマッピングされた。ドナー対に対応する各試料の割合をプロットし、Z1-A34が最も高い値を示して、最良の免疫保護性を示した。
【
図11】
図11A~11Cは、リードハイドロゲルがC57BL/6Jマウスの腹腔内で低い線維化を示すことを示す。(
図11A)移植前および2週間後にIP腔から回収した摘出マイクロカプセル(300~400μmのサイズ)の代表的暗視野画像。スケールバー、2mm。(
図11B)摘出マイクロカプセルの代表的共焦点画像;カプセルをCD68(明)、DAPI(灰色)、およびα-SMA(暗)マーカーで染色した。(
図11C)異なる材料におけるRNA発現を比較するためのRT-qPCR分析。線維化マーカー(α-SMAおよびCol1a1)の発現をSLG20(対照)に対して正規化した。統計解析にはボンフェローニ補正を加えた二元配置分散分析を用いた(****P<0.0001、SLG20対照対その他)。
【
図12】
図12は、リード材料(Z4-A10)による糖尿病逆転試験の結果を示す。ヒト膵島を含むカプセルを、4,000、8,000、および16,000IEQ/アルギネート量(mL)の最終細胞密度で作製した。各カプセルの最終IEQ値はそれぞれ10、20、40IEQ/カプセルであった。各群で、マウス1匹あたり合計2,000IEQを含む、500μL、250μL、および125μLのカプセルをIP腔に移植した。
【
図13】
図13A~13Hは、異種ヒト膵島をカプセル化しているリードハイドロゲルが、免疫適格C57BL/6Jマウスにおいて糖尿病逆転を示すことを示す。(
図13A)移植前カプセルの代表的画像。それぞれ10IEQ/カプセル、20IEQ/カプセル、および40IEQ/カプセルの密度でヒト膵島を含むZ4-A10カプセル。SLG20カプセルを対照材料として用いた。ジチゾン染色はカプセルマトリックス内の生存膵島を示す。カプセル化後、膵島は良好な生存度を示した(生:明、死:暗)。(
図13B)Z4-A10群およびSLG20群(4,000IEQ/mL密度)の血糖値を、マウスを安楽死させるまでモニターした(****P<0.0001(SLG20対Z4-A10))。(
図13C)糖尿病マウスにおけるZ4-A10カプセル(4,000IEQ/mL)移植群と、糖尿病マウスおよび非糖尿病マウスにおける非移植群によるIVGTT試験(ns;有意性なし、****P<0.0001(すべての比較))。(
図13D、
図13E)摘出したZ4-A10およびSLG20カプセル(4,000IEQ/mL)の代表的な暗視野(
図13D)、およびジチゾン染色(赤、
図13E)画像。(
図13F)移植後80日のヒトc-ペプチド測定値(SLG20対Z4-A10)。(
図13G、
図13H)高い膵島密度群での血糖モニタリング:Z4-A10カプセル(
図13G)およびSLG20カプセル(
図13H)。エラーバーは平均±semを示し;ボンフェローニ多重比較補正を加えた二元配置分散分析。
【
図14】
図14A~14Eは、C57BL/6マウスの皮下腔において免疫保護を提供するために、リード免疫保護小分子をカテーテルチューブのコーティングに使用したことを示す。(
図14A)非修飾基、またはMet-Z1-A3もしくはMet-B2-A17でコーティングした基の化学構造。(
図14B)小分子特異的原子の重量%を示す、非修飾、Met-Z1A3、およびMet-B2-A17修飾カテーテルのXPSデータは、コーティングの成功を示している。(
図14C)主要ピーク(CN-、Br-)の全イオン強度による正規化強度(a.u.)の領域を示す、非修飾、Met-Z1A3、およびMet-B2-A17修飾カテーテルのToF-SIMSデータは、コーティングの成功を示している。(
図14D)非修飾およびコーティングカテーテルについて測定した線維化カプセルの代表的な組織像。コーティングカテーテルの組織-カテーテル界面における細胞の、薄く、低密度の紫色のバンドは、免疫反応がより穏やかであることを示す。(
図14E)非修飾およびコーティングカテーテルの線維化カプセルの厚さの定量。統計解析にはボンフェローニ補正を加えた一元配置分散分析を用いた(****P<0.0001、***P<0.002)。
【
図15】
図15A~15Eは、リード分子でコーティングしたカテーテルの材料特徴づけおよび評価を示す。(
図15A、
図15B)Tof-SIMSで分析した2つの主ピーク(
図15A、CN-および
図15B、Br-)の合計強度をプロットし、非修飾カテーテルと比較した。(
図15C)非修飾カテーテルおよびコーティングカテーテルの代表的なSEM画像。(
図15D)測定した沈着線維化カプセル組織の例。ImageJを使用して、カテーテルに隣接する組織の紫色のバンドにより組織沈着を測定した。(
図15E)各群の摘出カテーテルの代表的なH&E染色切片。スケールバー、2mm。
【発明を実施するための形態】
【0025】
例示的態様の説明
本明細書において開示するのは、抗線維化特性を有する新しい化合物および組成物、それらの製造法、ならびに疾患の処置および/または予防のためを含むそれらの使用法である。これらの化合物は、化合物をアルギネート骨格に連結する1つまたは複数のトリアゾール基を含むアルギネート誘導体(修飾アルギネート化合物と記載)である。これらの化合物は、当分野において公知の他のアルギネートと比較して、インビボまたはインビトロ検定における改善された適合性または活性などの、1つまたは複数の改善された特性を有する。
【0026】
本発明は、(1)抗線維化特性を有し、かつ(2)カプセル化された細胞の生存度を維持する、小分子および小分子-ポリマー結合体を記載する。これらの材料の化学構造は、およそ700の材料の初期スクリーニングによって同定された抗線維化小分子に基づく(Vegas et al., 2016)。これまでの研究から、免疫調節特性を有する同定されたトリアゾール化合物は、本明細書に記載のスクリーニングの実施なしには免疫調節性能を予測し得なかった、特別な構造空間を占めるらしいことが示唆される。インビボ性能の改善に関連するトリアゾール含有修飾は、全体として、これらのトリアゾール修飾周辺の構造類縁体が、異物反応を緩和しかつ免疫応答を調節し得る生体材料を設計するための、汎用性の高い化学空間であり得ることを示唆している。
【0027】
I. 本発明の化合物
本発明の化合物(「修飾アルギネート化合物」「本開示の化合物」または「本明細書に開示する化合物」とも呼ぶ)は、例えば、上記、発明の概要の項、および以下の特許請求の範囲に示す。これらは、実施例の項で概説する合成法を用いて作製することができる。これらの方法は、当業者によって適用される有機化学の原理および技術を用いて、さらに改変および最適化することができる。このような原理および技術は、例えば、Smith, March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure, (2013)に教示されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。加えて、合成法は、当業者によって適用されるプロセス化学の原理および技術を用いて、バッチ式または連続式のいずれかで、調製、パイロットまたは大規模生産のためにさらに改変および最適化してもよい。このような原理および技術は、例えば、Anderson, Practical Process Research & Development - A Guide for Organic Chemists (2012)に教示されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0028】
(表1)本明細書に記載の修飾アルギネート化合物の例
【0029】
本発明の化合物はすべて、いくつかの態様において、本明細書またはそれ以外で議論する1つまたは複数の疾患または障害の予防および処置に使用し得る。いくつかの態様において、中間体、代謝産物、および/またはプロドラッグとして本明細書に特徴づけ、または例示する化合物の1つまたは複数も、それにもかかわらず、1つまたは複数の疾患または障害の予防および処置に有用であり得る。したがって、明確に反対の記載がない限り、本発明の化合物はすべて、薬学的活性成分(API)としての使用が企図される「活性化合物」および「治療用化合物」とみなされる。ヒトまたは獣医学的使用に対する実際の適切性は、典型的には、臨床試験プロトコルおよび食品医薬品局(FDA)によって管理されるものなどの規制手順の組み合わせを用いて決定される。米国では、FDAはヒトおよび獣医学用の薬物、ワクチンおよび他の生物学的製剤、ならびに医療デバイスの安全性、有効性、品質、および安心を保証することにより、公衆衛生を保護する責任がある。
【0030】
いくつかの態様において、本発明の化合物は、本明細書に記載の適応症またはそれ以外で使用するためであるか否かにかかわらず、先行技術において公知の化合物よりも、有効であり、毒性が低く、作用時間が長く、強力であり、副作用が少なく、容易に吸収され、代謝的に安定であり、親油性であり、親水性であり、かつ/または良好な薬物動態プロファイル(例えば、高い経口バイオアベイラビリティおよび/または低いクリアランス)を有し、かつ/または他の有用な薬理学的、物理的、もしくは化学的特性を有し得るとの利点を有する。
【0031】
本発明の化合物は、1つまたは複数の不斉置換された炭素、硫黄、またはリン原子を含んでいてもよく、光学活性体またはラセミ体で単離されてもよい。したがって、特定の立体化学または異性体型が具体的に示されない限り、化学式のすべてのキラル型、ジアステレオマー型、ラセミ型、エピマー型、およびすべての幾何異性体型が意図される。化合物は、ラセミ体およびラセミ混合物、単一のエナンチオマー、ジアステレオマー混合物および個々のジアステレオマーとして存在し得る。いくつかの態様において、単一のジアステレオマーを得る。本発明の化合物のキラル中心は、S配置またはR配置を有し得る。いくつかの態様において、本発明の化合物は、規定された立体化学的配向を有する複数の原子を含み得る。
【0032】
本発明の化合物を表すために使用される化学式は、典型的には、可能性のあるいくつかの異なる互変異性体の1つを示すにすぎない。例えば、多くの種類のケトン基は、対応するエノール基と平衡で存在することが公知である。同様に、多くの種類のイミン基は、エナミン基と平衡で存在する。所与の化合物についてどの互変異性体が描かれているかにかかわらず、また、どの互変異性体が最も多いかにかかわらず、所与の化学式のすべての互変異性体が意図される。
【0033】
加えて、本発明の化合物を構成する原子は、そのような原子のすべての同位体形態を含むことが意図される。本明細書において用いられる同位体には、同じ原子番号を有するが、異なる質量数を有する原子が含まれる。一般的な例として、限定されないが、水素の同位体にはトリチウムおよび重水素が含まれ、炭素の同位体には13Cおよび14Cが含まれる。
【0034】
いくつかの態様において、本発明の化合物はプロドラッグとして機能するか、またはプロドラッグとして機能するように誘導体化することができる。プロドラッグは、薬剤の多くの望ましい性質(例えば、溶解性、バイオアベイラビリティ、製造など)を増強することが公知であるため、本発明のいくつかの方法において用いられる化合物は、望まれる場合、プロドラッグ形態で送達してもよい。したがって、本発明は、本発明の化合物のプロドラッグならびにプロドラッグの送達法を企図する。本発明で用いられる化合物のプロドラッグは、日常的操作またはインビボのいずれかで、修飾が切断されて親化合物になるような様式で、化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製してもよい。したがって、プロドラッグには、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、またはカルボキシ基が、プロドラッグが患者に投与されると開裂してそれぞれヒドロキシ、アミノ、またはカルボン酸を形成する任意の基に結合している、本明細書に記載の化合物が含まれる。
【0035】
いくつかの態様において、本発明の化合物は、塩または非塩形態で存在する。塩形態に関して、いくつかの態様において、本明細書において提供する化合物の任意の塩形態の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、塩が全体として薬理学的に許容される限り、重要ではない。薬学的に許容される塩およびそれらの調製法および使用法の追加の例は、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, and Use (2002)に示されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0036】
多くの有機化合物は、その中でそれらが反応する溶媒、またはそこからそれらが沈殿もしくは結晶化する溶媒と複合体を形成し得ることが理解されよう。これらの複合体は「溶媒和物」として公知である。溶媒が水の場合、複合体は「水和物」として公知である。また、多くの有機化合物は、結晶および非晶質形態を含む複数の固体形態で存在し得ることも理解されよう。その任意の溶媒和物を含む、本明細書において提供する化合物のすべての固体形態は、本発明の範囲内である。
【0037】
II. 化合物の使用法
本明細書に記載の修飾アルギネートは、食品、薬剤、化粧品、農業、印刷、および繊維産業における様々な適用に使用し得る。アルギネートは、食品産業において、増粘剤、ゲル化剤、安定化剤、増ちょう剤、懸濁化剤、および乳化剤として広く使用される。または、これらの修飾アルギネートは、治療剤、予防剤、および/または診断剤の送達を制御するためのマトリックスとして使用することができる。さらに、これらの修飾アルギネートは、賦形剤として薬学的組成物に組み込むことができ、ここで粘稠剤、懸濁剤、乳化剤、結合剤、および崩壊剤として作用することができる。修飾アルギネートはまた、歯科印象材、創傷被覆材の成分、および印刷剤などの他の適用に使用してもよい。当業者であれば、本明細書において開示する修飾アルギネートは、任意の現在使用されるアルギネートまたは修飾アルギネートを現在使用し得る任意の適用において使用し得ることを認識するであろう。本明細書に記載の修飾アルギネートは、市販のアルギネートと比較して、改善された生体適合性および物理的特性(例えば、抗線維化性)が好まれる適用において使用し得ることが特に企図される。
【0038】
i. 細胞のカプセル化
歴史的に、アルギネートと、したがって本明細書に記載の修飾アルギネートは、水中、室温で、二価のカチオンでイオン架橋されて、ハイドロゲルマトリックスを形成し得る。例えば、米国特許第4,352,883号を参照されたい。この方法では、カプセル化する生物学的材料を含む水溶液を水溶性ポリマーの溶液に懸濁し、懸濁液を液滴に形成し、これを多価カチオンと接触させることにより分離したカプセルを形成し、次いでカプセルの表面をポリアミノ酸で架橋して、カプセル化された材料の周囲に半透膜を形成する。
【0039】
荷電側鎖基を有する水溶性ポリマーを、反対の電荷の多価イオン、すなわちポリマーが酸性側鎖基を有する場合は多価カチオン、またはポリマーが塩基性側鎖基を有する場合は多価アニオンのいずれかを含む水溶液と反応させることによって架橋する。酸性側鎖基を有するポリマーを架橋してハイドロゲルを形成するためのカチオンは、銅、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、およびスズなどの二価および三価のカチオンであるが、アルキルアンモニウム塩、例えば、
などの二、三または四官能性有機カチオンも使用することができる。これらのカチオンの塩の水溶液をポリマーに添加して、柔らかく、高度に膨潤したハイドロゲルおよび膜を形成する。カチオンの濃度が高いほど、または価数が高いほど、ポリマーの架橋度は高くなる。0.005Mという低濃度からポリマーを架橋することが示されている。より高い濃度は塩の溶解性によって制限される。
【0040】
塩基性側鎖を含むポリマーを架橋してハイドロゲルを形成するためのアニオンは、低分子量ジカルボン酸、例えばテレフタル酸、硫酸イオン、および炭酸イオンなどの二価および三価のアニオンである。これらのアニオンの塩の水溶液をポリマーに添加して、カチオンに関して記載したとおり、柔らかく、高度に膨潤したハイドロゲルおよび膜を形成する。
【0041】
ポリマーハイドロゲルを複合し、それによって安定化させて半透性表面膜とするために、様々なポリカチオンを使用することができる。使用し得る材料の例には、ポリエチレンイミンおよびポリリジンなどの、分子量3,000から100,000の間の、アミンまたはイミン基などの塩基性反応性基を有するポリマーが含まれる。これらは市販されている。1つのポリカチオンはポリ(L-リジン)であり;合成ポリアミンの例は:ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルアミン)、およびポリ(アリルアミン)である。多糖類のキトサンなどの天然ポリカチオンもある。
【0042】
ポリマーハイドロゲル上の塩基性表面基との反応によって半透膜を形成するのに使用し得るポリアニオンには、アクリル酸、メタクリル酸、および他のアクリル酸誘導体のポリマーおよびコポリマー、スルホン化ポリスチレンなどのペンダントSO3H基を有するポリマー、ならびにカルボン酸基を有するポリスチレンが含まれる。
【0043】
1つの態様において、細胞を修飾アルギネートポリマー中にカプセル化する。1つの態様において、修飾アルギネートカプセルを、カプセル化剤(例えば、Inotech(登録商標)カプセル化剤)を用いて、懸濁した細胞を含む修飾アルギネートの溶液から作製する。いくつかの態様において、修飾アルギネートを、Ca2+、Ba2+またはSr2+などの多価カチオンでイオン架橋する。いくつかの態様において、修飾アルギネートを、BaCl2を用いて架橋する。いくつかの態様において、カプセルを、形成後にさらに精製する。いくつかの態様において、カプセルを、例えば、HEPES溶液、クレブス液、および/またはRPMI-1640培地で洗浄する。
【0044】
細胞を、ドナーから、ドナーからの細胞の細胞培養から、または確立された細胞培養株から直接得ることができる。いくつかの態様において、細胞をドナーから直接得て、洗浄し、ポリマー材料と組み合わせて直接移植する。細胞を、組織培養の当業者には公知の技術を用いて培養する。いくつかの態様において、細胞は自己、すなわち細胞を移植する個体由来であるが、同種または異種であってもよい。
【0045】
細胞の接着および生存度を、走査型電子顕微鏡、組織学、および放射性同位体による定量的評価を用いて評価することができる。移植した細胞の機能を、前述の技術および機能検定の組み合わせを用いて判定することができる。例えば、肝細胞の場合、インビボ肝機能試験を、受容者の総胆管にカニューレを挿入して実施することができる。次いで、胆汁を少しずつ採取することができる。胆汁色素を、高圧液体クロマトグラフィーで非誘導体化テトラピロールを探すか、またはP-グルクロニダーゼで処理した、もしくは処理していないジアゾ化アゾジピロールエチルアントラニレートと反応させてアゾジピロールに変換した後、薄層クロマトグラフィーで分析することができる。抱合胆汁色素をアルカリメタノール分解した後、薄層クロマトグラフィーで二抱合ビリルビンおよび一抱合ビリルビンを測定することもできる。一般に、機能している移植肝細胞の数が増えるにつれて、抱合ビリルビンのレベルも上昇する。血液試料に対して、アルブミン産生などの単純な肝機能試験も行うことができる。移植後の細胞機能の程度を判定する必要に応じて、当業者には公知の技術を用いて、類似の臓器機能試験を行うことができる。例えば、糖尿病を治すためにインスリンの適切な分泌によるグルコース調節を達成するために、膵臓の膵島細胞を、肝細胞を移植するために特に使用される方法と同様の様式で送達することができる。他の内分泌組織を移植することもできる。ポリマー足場上の細胞量を定量するために、標識グルコースを用いる試験ならびにタンパク質検定を用いる試験を実施することができる。次いで、これらの細胞量の試験を、細胞機能試験と関連付けて、適切な細胞量を決定することができる。軟骨細胞の場合、機能とは周囲の接着組織に適切な構造的支持を提供することと定義される。
【0046】
この技術を、遺伝子改変細胞を含む複数の細胞型を三次元足場内に提供して、多数の細胞を効率的に移植し、新しい組織または組織等価物を作製する目的で移植片生着を促進するために用いることができる。また、宿主免疫系を排除することにより、新しい組織または組織等価物が成長している間の細胞移植片の免疫保護にも使用することができる。
【0047】
本明細書に記載のとおりに移植し得る細胞の例には、軟骨細胞および軟骨を形成する他の細胞、骨芽細胞および骨を形成する他の細胞、筋肉細胞、線維芽細胞、ならびに臓器細胞が含まれる。本明細書において用いられる「臓器細胞」には、肝細胞、膵島細胞、腸由来の細胞、腎臓由来の細胞、ならびに主に材料を合成および分泌する、または代謝するよう作用する他の細胞が含まれる。特定の細胞型は膵島細胞である。
【0048】
ポリマーマトリックスを、細胞移植および生着を促進するために液性因子と組み合わせることができる。例えば、ポリマーマトリックスを、血管新生因子、抗生物質、抗炎症剤、成長因子、分化を誘導する化合物、および細胞培養の当業者には公知の他の因子と組み合わせることができる。
【0049】
例えば、液性因子は、移植のためのインプラントを形成する前に、細胞-アルギネート懸濁液と徐放性形態で混合することができる。または、単離した細胞懸濁液と組み合わせる前に、ハイドロゲルを液性因子またはシグナル認識配列と結合するように修飾することもできる。
【0050】
本明細書に記載の技術を、異なる組織構造を達成するために、多くの異なる細胞型の送達に用いることができる。1つの態様において、細胞をハイドロゲル溶液と混合し、ハイドロゲルが硬化する前に、細胞を移植することが望まれる部位に直接注入する。しかし、マトリックスを成形し、特定の適用に合うように、体の1つまたは複数の異なる部位に移植してもよい。この適用は、特定の構造設計が望まれる場合、または細胞を移植する領域に、細胞の成長および増殖を促進するための特定の構造もしくは支持体がない場合に特に適切である。
【0051】
細胞を移植する1つまたは複数の部位は、必要な細胞数と同様に、個々の必要性に基づいて決定される。臓器機能を有する細胞、例えば、肝細胞または膵島細胞の場合、混合物を腸間膜、皮下組織、後腹膜、腹膜前腔、および筋肉内腔に注入することができる。軟骨形成のために、細胞を軟骨形成が望まれる部位に注入する。また、注入した溶液を成形するために外部から型を適用することもできる。加えて、重合速度を制御することにより、粘土を成形するように、細胞-ハイドロゲル注入インプラントを成形することも可能である。または、混合物を型に注入し、ハイドロゲルを硬化させ、次いで材料を移植することもできる。
【0052】
ii. コーティング製品および表面
医療製品を、開示する修飾アルギネートポリマーで様々な技術を用いてコーティングすることができ、その例には噴霧、液浸、および刷毛塗りが含まれる。ポリマーコーティングは、典型的には、ポリマーを適切な有機溶媒に溶解し、噴霧、刷毛塗り、液浸、塗装、または他の類似の技術によって塗布することにより、コーティングする表面に適用する。コーティング剤は表面に沈着し、非共有結合的な相互作用を介して表面と結合する。その結果得られるコーティング製品および表面は、特に企図され、開示する。
【0053】
いくつかの態様において、表面を適切な溶液または懸濁液で前処理して、表面の特性を改変し、それによって改変された表面とコーティングとの間の非共有結合的相互作用を強化してもよい。
【0054】
ポリマー溶液を、適切な温度で十分な時間、表面に適用して、表面にコーティングを形成し、ここでコーティングは抗線維化表面を形成するのに有効である。典型的な温度には室温が含まれるが、より高い温度を用いてもよい。典型的な時間には、5分以下、30分以下、60分以下、および120分以下が含まれる。いくつかの態様において、溶液を120分以上適用して、所望の抗線維化活性を有するコーティングを形成することができる。しかし、より短い時間を用いてもよい。抗線維化活性は、本明細書において開示する方法または当技術分野において公知の方法のいずれかで測定することができる。抗線維化活性は、本明細書に記載のとおりに判定される異物反応であり得る。
【0055】
本明細書に記載の修飾アルギネート化合物を、製品、デバイス、および表面と共有結合的または非共有結合的に結合させることができる。本明細書に記載の修飾アルギネート化合物が製品、デバイス、または表面と共有結合しているそれらの態様の場合、ポリマーは、例えば、求核基などの反応官能基で製品、デバイス、または表面を官能基化し、求核基を求電子基などのポリマー上の反応官能基と反応させることにより、製品、デバイス、または表面に連結することができる。または、ポリマーを求核基で官能基化し、これを製品、デバイス、または表面上の求電子基と反応させることもできる。
【0056】
特定の態様において、本明細書に記載の修飾アルギネート化合物は、製品、デバイス、または表面と非共有結合的に結合する。ポリマーを、噴霧、湿潤、浸漬、液浸、塗装、接着もしくは付着によって、またはそれ以外に本明細書に記載の修飾アルギネート化合物を製品、デバイス、もしくは表面に提供することによって、製品、デバイス、または表面に適用することができる。1つの態様において、ポリマーを、噴霧、塗装、または液浸もしくは浸漬によって適用する。例えば、ポリマー塗料を、本明細書に記載の修飾アルギネート化合物を適切な溶媒(一般に水性)に溶解し、任意にポリマーが完全に溶解するように溶液を超音波処理することによって調製することができる。コーティングする製品、装置、または表面をポリマー溶液に適切な時間、例えば5秒間浸漬し、続いて空気乾燥などの乾燥を行うことができる。この手順を、十分な被覆を達成するのに必要な回数だけ繰り返すことができる。コーティングの厚さは、一般には約1nm~約1cm、好ましくは約10nm~1mm、より好ましくは約100nm~約100ミクロンである。
【0057】
コーティングを、製品、装置、もしくは表面を製造する時点で、または製品、装置、もしくは表面の製造後に適用することができる。いくつかの態様において、製品、装置、または表面の使用直前に、コーティングを製品、装置、または表面に適用する。
【0058】
これは術中コーティングと呼ぶ。本明細書において用いられる「直前」とは、移植または使用の1、2、5、10、15、20、30、45、60、75、90、120、150、180分またはそれ以上以内を意味する。いくつかの態様において、製品、装置、または表面を、移植または使用の20、15、10、または5分以内に、病院、例えば手術室でコーティングする。使用直前にコーティングすることで、製品、装置、もしくは表面の貯蔵および/または輸送中のコーティングの損傷、および/またはコーティングが過酷な環境条件(例えば、高温、湿度、紫外光への曝露など)にさらされての経時的なコーティングの有効性の低下などの、製造時にコーティングした製品、装置、および表面の制限を克服し得る。
【0059】
コーティングした医療製品を、コーティングされていない医療製品またはコーティングが異なる医療製品の公知の用途および目的に使用することができる。
【0060】
a. 医療製品
コーティングに有用な医療製品には、少なくとも部分的には患者の体内への移植のために使用される、任意の種類の医療デバイスが含まれる。例には、インプラント、移植可能な医療製品、移植可能なデバイス、カテーテルおよび他のチューブ(泌尿器および胆管チューブ、気管内チューブ、創傷廃液チューブ、針注入カテーテル、末梢挿入中心静脈カテーテル、透析カテーテル、長期トンネル型中心静脈カテーテル末梢静脈カテーテル、短期中心静脈カテーテル、動脈カテーテル、肺カテーテル、スワン・ガンツカテーテル、尿道カテーテル、腹腔カテーテルを含む)、血管カテーテルポート、血栓フィルター、尿路デバイス(長期尿路デバイス、組織結合性尿路デバイス、人工尿路括約筋、尿路拡張器を含む)、シャント(心室または動静脈シャント、ステント移植片、胆道ステント、腸ステント、気管支ステント、食道ステント、尿道ステント、および水頭症シャントを含む)、バルーン、ペースメーカー、埋め込み型除細動器、整形外科製品(ピン、プレート、ネジ、およびインプラントを含む)、移植片(臓器、血管移植片、血管、大動脈、心臓弁、および臓器置換部分を含む)、プロテーゼ(乳房インプラント、陰茎プロテーゼ、血管移植プロテーゼ、心臓弁、人工関節、人工喉頭、耳科インプラント、人工心臓、人工血管、および人工腎臓を含む)、動脈瘤充填コイルおよび他のコイルデバイス、経心筋血行再建デバイス、経皮的心筋血行再建デバイス、チューブ、繊維、中空繊維、膜、血液容器、タイタープレート、吸着媒質、透析器、接続部品、センサー、弁、内視鏡、フィルター、ポンプチャンバー、メス、針、はさみ(および侵襲的な外科手順、治療手順、または診断手順に使用する他のデバイス)、ならびに抗線維化特性を有することを意図した他の医療製品およびデバイスが含まれるが、それらに限定されるわけではない。「医療製品」なる表現は広義であり、特に血液と短時間(例えば、内視鏡)または永久的に(例えば、ステント)接触する製品を指す。
【0061】
有用な医療製品は、バルーンカテーテルおよび血管内プロテーゼ、特にステントである。通常の設計のステントは、金属製支柱で構成された線条細工の支持構造を有する。この支持構造は、最初は体内への挿入のために拡張されていない状態で提供し、次いで適用部位で拡張状態に広げる。ステントはバルーンに圧着する前または後にコーティングすることができる。非常に多様な適用のための多様な医療内部プロテーゼまたは医療製品またはインプラントが公知である。これらを、例えば、血管、中空臓器、および管系(血管内インプラント)を支持するため、組織インプラントおよび組織移植片を取り付け、一時的に付着させるため、ならびにピン、プレート、またはネジなどの整形外科目的のために使用する。
【0062】
本明細書に記載の修飾アルギネート化合物を、様々な異なる基材および表面に適用、吸収、または連結することができる。適切な材料の例には、金属、金属材料、セラミック、ポリマー、繊維、ケイ素などの不活性材料、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0063】
適切なポリマー材料には、スチレンおよび置換スチレン、エチレン、プロピレン、ポリ(ウレタン)、アクリレートおよびメタクリレート、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリエーテル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、そのコポリマー、およびそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0064】
基材は、フィルム、粒子(ナノ粒子、マイクロ粒子、またはミリメートル径のビーズ)、繊維(創傷被覆材、包帯、ガーゼ、テープ、パッド、スポンジ、例えば織布および不織布のスポンジ、ならびに歯科または眼科手術用に特に設計されたもの)、センサー、ペースメーカーリード、カテーテル、ステント、コンタクトレンズ、骨インプラント(人工股関節、ピン、リベット、プレート、骨セメントなど)、または組織再生もしくは細胞培養デバイス、または体内で、もしくは体に接触して使用する他の医療デバイスの形態であり得、またはその一部を形成し得る。
【0065】
修飾アルギネート化合物コーティングでコーティングしたインプラントを本明細書に記載する。「インプラント」とは、生きている組織ではない、ヒトなどの哺乳動物の体内に配置することを意図した任意の物体である。インプラントは医療製品の一形態である。インプラントには、その生きている組織を死滅させるように加工した天然由来の物体が含まれる。一例として、骨移植片を、その生きている細胞は除去するが、その形状は維持して、宿主から骨を内植するための鋳型として役立つように加工することができる。もう1つの例として、天然のサンゴを加工してハイドロキシアパタイト製剤を得ることができ、これは一定の整形外科および歯科治療のために身体に適用することができる。インプラントはまた、人工的な構成要素を含む物品でもある。「インプラント」なる用語は、整形外科適用、歯科適用、耳鼻咽喉科(「ENT」)適用、および心血管適用を含む、ヒトの体内または哺乳動物の体内への配置を意図した医療デバイスの全領域に適用することができる。
【0066】
いくつかの態様において、本明細書において用いられる「インプラント」は、移植用デバイスまたは移植用デバイスの表面および修飾アルギネート化合物コーティングを含む巨視的組成物を指す。これらの態様において、「インプラント」なる用語は、ナノ粒子および/またはマイクロ粒子を包含しない。本明細書において用いられる「巨視的」とは、一般に、肉眼で見ることができるデバイス、インプラント、または組成物を指す。
【0067】
生体適合性コーティングを使用し得る、移植可能な医療デバイスおよび医療デバイスならびに機械的構造物の例には、ステント、導管、足場、心臓弁リング、心血管弁、ペースメーカー、人工股関節デバイス、移植センサーデバイス、食道ステント、心臓インプラント、心臓弁用の生体適合性ライニング、透析装置および心肺バイパスシステム用の酸素供給チューブが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0068】
一般に、ステントは、血管または管路などの体の管腔に挿入して、局所的な流れの狭窄を防止または相殺する、典型的には管状の形のデバイスである。ステントの目的は、いくつかの場合には、体液の管路を機械的に支持して開くことである。ステントは、臓器および四肢への血流の減少を緩和して、酸素を含む血液の十分な送達を維持するために使用することが多い。ステントの最も一般的な使用は冠動脈であるが、例えば、中枢および末梢動脈および静脈、胆管、食道、結腸、気管、太い気管支、尿管、および尿道などの、他の体の管路にも広く使用されている。しばしば、管腔内に挿入されるステントは、挿入後に拡張可能であるか、または自己拡張型である。例えば、金属ステントはバルーンカテーテルを用いて閉塞動脈に配置し、拡張して血流を回復させる。例えば、ステンレススチールワイヤーメッシュステントは、Boston Scientific, Natick, Massから市販されている。
【0069】
いくつかの態様において、インプラントは整形外科用インプラントである。「整形外科用インプラント」は、骨に置き換わる、もしくは骨に固定を提供する、関節の接合面を置き換える、プロテーゼのためのアバットメントを提供する、またはそれらの組み合わせ、あるいは骨に置き換わる、もしくは骨に固定を提供する、関節の接合面を置き換える、プロテーゼのためのアバットメントを提供する、およびそれらの組み合わせを補助するインプラントとして定義される。
【0070】
整形外科用インプラントは、骨に置き換わる、もしくは骨に固定を提供する、関節の接合面を置き換える、プロテーゼのためのアバットメントを提供する、またはそれらの組み合わせ、あるいは骨に置き換わる、もしくは骨に固定を提供する、関節の接合面を置き換える、歯科適用を含むプロテーゼのためのアバットメントを提供する、およびそれらの組み合わせを補助するために使用することができる。
【0071】
適切な整形外科用インプラントには、ワイヤー、キルシュナー鋼線、骨プレート、ネジ、ピン、タック、ロッド、釘、ナット、ボルト、ワッシャー、スパイク、ボタン、ワイヤー、骨折プレート、再建およびスタビライザーデバイス、体内および体外プロテーゼ(関節型および非関節型)、骨内経皮プロテーゼ、スペーサー、メッシュ、インプラントアバットメント、アンカー、バーブ、クランプ、縫合糸、椎体間固定デバイス、任意の形状のチューブ、足場、およびそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0072】
他の態様において、インプラントは耳鼻咽喉科(「ENT」)インプラントである。例示的なENTインプラントには、耳管、気管内チューブ、換気チューブ、蝸牛インプラント、および骨固定聴覚デバイスが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0073】
他の態様において、インプラントは心血管インプラントである。例示的な心血管インプラントは、心臓弁または異物形成法による血管壁支持体(alloplastic vessel wall support)、完全人工心臓インプラント、心室補助デバイス、血管グラフト、ステント、ペースメーカーおよび神経リードなどの電気信号伝達デバイス、除細動器リードなどである。
【0074】
インプラントは様々な材料から調製することができる。いくつかの態様において、材料は生体適合性である。いくつかの態様において、材料は生体適合性かつ非生分解性である。例示的な材料には、金属材料、金属酸化物、分解性および非分解性ポリマー材料を含むポリマー材料、セラミック、磁器、ガラス、同種、異種骨または骨基質;遺伝子操作骨;ならびにそれらの組み合わせが含まれる。
【0075】
適切な金属材料には、チタンをベースとする金属および合金(例えば、ニチノール、ニッケルチタン合金、熱記憶合金材料)、ステンレス鋼、タンタル、パラジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ニッケル-クロム、またはコバルト-クロムおよびコバルト-クロム-ニッケル合金、例えば、ELGILOY(登録商標)およびPHYNOX(登録商標)を含む一定のコバルト合金が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0076】
有用な例には、ステンレス鋼グレード316(SS 316 L)(Fe、<0.3%のC、16~18.5%のCr、10~14%のNi、2~3%のMo、<2%のMn、<1%のSi、<0.45%のP、および<0.03%のSからなる)、タンタル、クロムモリブデン合金、ニッケル-チタン合金(例えば、ニチノール)、コバルトクロム合金(例えば、MP35N、ASTM材料表示:35Co-35Ni-20Cr-10Mo)が含まれる。現在ステントに使用されている典型的な金属には、SS 316 L鋼およびMP35Nが含まれる。''Comparing and Optimizing Co-Cr Tubing for Stent Applications,'' Poncin, P, Millet, C., Chevy, J, and Profit, J. L., Materials & Processes for Medical Devices Conference, August 2004, ASM Internationalも参照されたい。
【0077】
適切なセラミック材料には、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化イリジウム、酸化クロム、酸化アルミニウム、および酸化ジルコニウムなどの遷移元素の酸化物、炭化物、または窒化物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。シリカなどのケイ素ベースの材料を使用してもよい。
【0078】
適切なポリマー材料には、ポリスチレンおよび置換ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセチレン、ポリスチレン、TEFLON(登録商標)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリオレフィンコポリマー、ポリ(ウレタン)、ポリアクリレートおよびポリメタクリレート、ポリアクリルアミドおよびポリメタクリルアミド、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリエーテル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリフルオロカーボン、PEEK(登録商標)、Teflon(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、シリコーン、エポキシ樹脂、Kevlar(登録商標)、Dacron(登録商標)(エチレングリコールおよびテレフタル酸から得られる縮合ポリマー)、ナイロン、ポリアルケン、フェノール樹脂、天然および合成エラストマー、接着剤およびシーリング剤、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、多糖類および天然ラテックスなどのバイオポリマー、コラーゲン、セルロースポリマー(例えば、アルキルセルロースなど)、多糖類、ポリ(グリコール酸)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、ポリジオキサノン(PDA)、またはラセミポリ(乳酸)、ポリカーボネート、(例えば、ポリアミド(ナイロン);フッ素プラスチック、炭素繊維、およびそのブレンドまたはコポリマーが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0079】
ポリマーは、表面と共有結合的または非共有結合的に結合し得るが、特定の態様において、ポリマーは表面と非共有結合的に結合する。ポリマーは、噴霧、湿潤、浸漬、ディップコーティング(例えば、術中ディップコーティング)などの液浸、塗装、またはそれ以外にインプラントの表面に疎水性、ポリカチオン性ポリマーを適用することが含まれるが、それらに限定されるわけではない、当技術分野における様々な技術によって適用することができる。
【0080】
医療環境での使用に適合させた製品の表面は、オートクレーブ、殺生物剤曝露、照射、またはエチレンオキシド曝露のようなガス処理技術を用いた滅菌が可能である。医療環境で見られる表面には、使い捨てまたは繰り返し使用するために関わらず、様々な器具およびデバイスの内側や外側の側面が含まれる。
【0081】
b. ハイドロゲル
医療製品はハイドロゲルから作製するか、またはハイドロゲルを使用することもできる。本明細書に記載の修飾アルギネート化合物は、この目的および他の目的のためにハイドロゲルを形成し得る。他のハイドロゲルで作製された製品も、開示する修飾アルギネートポリマーでコーティングすることができる。したがって、本明細書に記載の修飾アルギネート化合物を、製品もしくは表面上のコーティングとして使用してもよく、または製品自体として使用することもできる。ハイドロゲルは、大量の水または生体液を吸収することができる、三次元の親水性ポリマーネットワークである(Peppas et al., Eur. J. Pharm. Biopharm. 2000, 50, 27-46)。これらのネットワークはホモポリマーまたはコポリマーからなり、化学的架橋または物理的架橋、例えば、絡み合いまたは結晶子の存在のために不溶性である。ハイドロゲルは、側鎖基の性質に基づいて中性またはイオン性に分類することができる。加えて、非晶質、半結晶性、水素結合構造、超分子構造およびハイドロコロイド凝集体であり得る(Peppas, N. A. Hydrogels. In: Biomaterials science: an introduction to materials in medicine;Ratner, B. D., Hoffman, A. S., Schoen, F. J., Lemons, J. E., Eds; Academic Press, 1996, pp. 60-64;Peppas et al., Eur. J. Pharm. Biopharm. 2000, 50, 27-46)。ハイドロゲルは、合成または天然モノマーまたはポリマーから調製することができる。ハイドロゲルは、本明細書に記載の修飾アルギネート化合物を含み得る。
【0082】
ハイドロゲルは、中でも、ポリ(アクリル酸)およびその誘導体[例えば、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)]、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)およびそのコポリマー、ならびにポリ(ビニルアルコール)(PVA)などの合成ポリマーから調製することができる(Bell and Peppas, Adv. Polym. Sci. 122:125-175 (1995);Peppas et al., Eur. J. Pharm. Biopharm. 50:27-46 (200);Lee and Mooney, Chem. Rev. 101:1869-1879 (2001))。合成ポリマーから調製したハイドロゲルは一般に、生理的条件下で非分解性である。ハイドロゲルは、多糖類、タンパク質、およびペプチドを含むが、それらに限定されるわけではない、天然ポリマーから調製することもできる。本明細書に記載の修飾アルギネート化合物は一例である。これらのネットワークは一般に、生理的条件下で化学的または酵素的手段によって分解される。
【0083】
いくつかの態様において、ハイドロゲルは関連するインビトロおよびインビボ条件下で非分解性である。安定なハイドロゲルコーティングは、中心静脈カテーテルコーティング、心臓弁、ペースメーカーおよびステントコーティングを含む、一定の適用に必要である。他の場合には、ハイドロゲルの分解は、例えば、組織工学的作成物における優先的なアプローチであり得る。
【0084】
いくつかの態様において、ハイドロゲルをデキストランによって形成することができる。デキストランは細菌製多糖類であり、数パーセントのα-1,2、α-1,3、またはα-1,4連結側鎖を有するα-1,6連結D-グルコピラノース残基から本質的になる。デキストランは、その生体適合性、低毒性、比較的低コスト、および単純な修飾により、生物医学的適用のために広く用いられている。この多糖類は血漿増量剤、末梢血流促進剤および抗血栓溶解剤として50年以上にわたって臨床的に使用されてきた(Mehvar, R. J. Control. Release 2000, 69, 1-25)。さらに、デキストランは、主に循環中の治療剤の寿命を延ばすために、薬物およびタンパク質の送達用の高分子担体として使用されてきた。デキストランは、化学的または酵素的手段のいずれかを用いることによりビニル基で修飾して、ゲルを調製することができる(Ferreira et al. Biomaterials 2002, 23, 3957-3967)。
【0085】
デキストランベースのハイドロゲルは、血管内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞の接着を防止し(Massia, S. P.; Stark, J. J. Biomed. Mater. Res. 2001, 56, 390-399. Ferreira et al. 2004, J. Biomed. Mater. Res. 68A, 584-596)、デキストラン表面は、タンパク質の吸着を防止する(Osterberg et al., J. Biomed. Mat. Res. 1995, 29, 741-747)。
【0086】
本明細書に記載のとおり、本明細書に記載の修飾アルギネート化合物を、細胞をカプセル化するために使用することができる。いくつかの態様において、カプセル化した細胞をマクロデバイスに作製することができる。例えば、いくつかの態様において、修飾アルギネートハイドロゲルにカプセル化した細胞を、平面などの表面上にコーティングすることができる。いくつかの態様において、細胞を含むカプセルを、生体適合性接着剤を用いて対象の組織に接着させることができる。他の態様において、細胞を含むカプセルを、移植に適した医療デバイス上にコーティングすることができる。
【0087】
iii. 疾患または障害の処置
または、カプセル化した細胞を、疾患または障害を処置するために、それを必要としている患者に移植することができる。いくつかの態様において、カプセル化した細胞を同じ種の遺伝的に同一ではないメンバーから得る。代わりの態様において、カプセル化細胞を患者とは異なる種から得る。いくつかの態様において、ホルモンまたはタンパク質分泌細胞をカプセル化し、疾患または障害を処置するために患者に移植する。
【0088】
いくつかの態様において、疾患または障害は、患者における機能不全のホルモンまたはタンパク質分泌細胞によって引き起こされるか、またはそれらに関与する。いくつかの態様において、疾患または障害は糖尿病である。本明細書に記載の修飾アルギネート化合物でコーティングした医療製品、デバイス、および表面を、疾患または障害を処置するために、それを必要とする患者に移植または埋め込むことができる。開示するカプセル、製品、デバイス、および表面は、投与または移植後、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、1年、2年、またはそれ以上の期間、実質的に線維化の影響がないか、または低い異物反応を示し続けることができる。
【0089】
開示するカプセル、製品、デバイス、および表面は、単独で、または任意の適切な薬物もしくは他の療法と組み合わせて、投与または移植することができる。このような薬物および療法はまた、カプセル、製品、デバイス、および表面が患者において存在する間、別々に投与(すなわち、並行して使用)することもできる。開示するカプセル、製品、デバイス、および表面は、線維化ならびにカプセル、製品、デバイス、および表面に対する免疫反応を低減させるが、カプセル、製品、デバイス、および表面と一緒の、またはこれらと並行した、抗炎症薬および免疫系抑制薬の使用は排除されない。しかし、1つの態様において、開示するカプセル、製品、デバイス、および表面を、抗炎症薬および免疫系抑制薬を使用せずに使用する。いくつかの態様において、線維化は、使用する任意の抗炎症薬または免疫系抑制薬の使用、濃度、効果、またはそれらの組み合わせが有効レベル未満に低下した後も低減したままである。例えば、線維化は、使用する任意の抗炎症薬または免疫系抑制薬の使用、濃度、効果、またはそれらの組み合わせが有効レベル未満に低下した後、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、1年、2年、またはそれ以上の間、減少したままであり得る。
【0090】
III. 併用療法
単剤療法としての使用に加えて、本発明の化合物は、1つまたは複数の他の療法と組み合わせて使用することもできる。効果的な併用療法は、両方の薬剤を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤、または一方の組成物は本発明の化合物を含み、他方は第2の薬剤を含む、同時に投与する2つの異なる組成物もしくは製剤で達成してもよい。または、療法を、数分から数ヶ月の範囲の間隔で、他の薬剤処置の前または後に行ってもよい。
【0091】
このような併用療法の非限定例には、本発明の1つまたは複数の化合物と、別の抗炎症剤、化学療法剤、放射線療法、抗うつ剤、抗精神病剤、抗けいれん剤、気分安定剤、抗感染剤、降圧剤、コレステロール低下剤もしくは他の血中脂質調節剤、体重減少促進剤、抗血栓剤、心筋梗塞もしくは脳卒中などの心血管イベントの処置もしくは予防剤、抗糖尿病剤、移植拒絶反応もしくは移植片対宿主病を軽減する薬剤、抗関節炎剤、鎮痛剤、抗喘息剤もしくは呼吸器疾患の他の処置、または皮膚障害の処置もしくは予防剤との併用が含まれる。
【0092】
IV. 定義
以下の定義は、参照により本明細書に組み入れられる任意の参照文献における任意の矛盾する定義に取って代わる。しかし、一定の用語が定義されているという事実は、定義されていない任意の用語が不確定であることを示すと考えるべきではない。むしろ、使用する全ての用語は、当業者がその範囲を理解し、本発明を実施することができるような用語で本発明を記載すると考えられる。
【0093】
化学基の文脈で使用される場合、「水素」は-Hを意味し;「ヒドロキシ」は-OHを意味し;「オキソ」は=Oを意味し;「カルボニル」は-C(=O)-を意味し;「カルボキシ」は-C(=O)OH(-COOHまたは-CO2Hとも書く)を意味し;「ハロ」は独立して-F、-Cl、-Brまたは-Iを意味し;「アミノ」は-NH2を意味し;「ヒドロキシアミノ」は-NHOHを意味し;「ニトロ」は-NO2を意味し;イミノは=NHを意味し;「シアノ」は-CNを意味し;「イソシアニル」は-N=C=Oを意味し;「アジド」は-N3を意味し;一価の文脈において「ホスフェート」は-OP(O)(OH)2またはその脱プロトン化形態を意味し;二価の文脈において「ホスフェート」は-OP(O)(OH)O-またはその脱プロトン化形態を意味し;「メルカプト」は-SHを意味し;かつ「チオ」は=Sを意味し;「チオカルボニル」は-C(=S)-を意味し;「スルホニル」は-S(O)2-を意味し;かつ「スルフィニル」は-S(O)-を意味する。
【0094】
化学式の文脈において、記号「-」は一重結合を意味し、「=」は二重結合を意味し、かつ「≡」は三重結合を意味する。記号「----」は任意の結合を表し、存在する場合は一重または二重のいずれかである。記号
は一重結合または二重結合を表す。したがって、式
は、例えば、
を包含する。そのような環原子はどれも、複数の二重結合の一部を形成しないことが理解される。さらに、共有結合記号「-」は、1つまたは2つの立体原子を連結する場合、いかなる好ましい立体化学も示さないことに留意されたい。代わりに、これはすべての立体異性体ならびにその混合物を包含する。記号
は、結合(例えば、メチルの
)を横切って垂直に描かれる場合、基の結合点を示す。読者が結合点を明確に識別するのを助けるために、結合点は典型的には大きな基に対してのみこの様式で識別されることに留意されたい。記号
は、くさびの太い端に結合した基が「ページの外」にある一重結合を意味する。記号
は、くさびの太い端に結合した基が「ページの中」にある一重結合を意味する。記号
は、二重結合の周りの幾何学(例えば、EまたはZのいずれか)が定義されていない一重結合を意味する。したがって、両方の選択肢ならびにそれらの組み合わせが意図される。本出願において示す構造の原子上の任意の定義されていない原子価は、その原子に結合している水素原子を暗に表す。炭素原子上の太い点は、その炭素に結合している水素が紙の平面から外に向いていることを示す。
【0095】
変数が環系上の「浮遊基(floating group)」、例えば、式:
中の基「R」として描かれている場合、その変数は、安定な構造が形成される限り、描かれた、暗示された、または明確に定義された水素を含む、任意の環原子に結合した任意の水素原子に置き換わり得る。変数が縮合環系上の「浮遊基」、例えば、式:
中の基「R」として描かれている場合、その変数は、特に記載がないかぎり、縮合環のいずれかの任意の環原子に結合した任意の水素に置き換わり得る。置換可能な水素には、安定な構造が形成される限り、描かれた水素(例えば、上式の窒素に結合した水素)、暗示された水素(例えば、示されていないが、存在すると理解される、上式の水素)、明確に定義された水素、およびその存在が環原子の同一性に依存する任意の水素(例えば、Xが-CH-に等しい場合、基Xに結合した水素)が含まれる。描かれている例において、Rは、縮合環系の5員環または6員環のいずれに存在してもよい。上式中、括弧で囲まれたRのすぐ後の添え字「y」は、数値変数を表す。特に記載がないかぎり、この変数は、0、1、2、または2より大きい任意の整数であり得、環または環系の置換可能な水素原子の最大数によってのみ制限される。
【0096】
化学基および化合物クラスについて、基またはクラス内の炭素原子の数は以下のとおりに示される:「Cn」または「C=n」は、基/クラス内の炭素原子の正確な数(n)を定義する。「C≦n」は、基/クラス中に存在し得る炭素原子の最大数(n)を定義し、最小数は当該の基/クラスに対して可能な限り小さい。例えば、基「アルキル(C≦8)」、「アルカンジイル(C≦8)」、「ヘテロアリール(C≦8)」および「アシル(C≦8)」中の炭素原子の最小数は1であり、基「アルケニル(C≦8)」、「アルキニル(C≦8)」および「ヘテロシクロアルキル(C≦8)」中の炭素原子の最小数は2であり、基「シクロアルキル(C≦8)」中の炭素原子の最小数は3であり、かつ基「アリール(C≦8)」および「アレーンジイル(C≦8)」中の炭素原子の最小数は6である。「Cn-n'」は、基中の炭素原子の最小数(n)と最大数(n')の両方を定義する。したがって、「アルキル(C2-10)」は、2~10個の炭素原子を有するアルキル基を示す。これらの炭素数指示子は、それが修飾する化学基またはクラスの前または後にあってもよく、意味のいかなる変更を示すことなく、括弧で囲まれていてもいなくてもよい。したがって、「C1-4-アルキル」、「C1-4-アルキル」、「アルキル(C1-4)」、および「アルキル(C≦4)」なる用語はすべて同義である。以下に記載する場合を除き、基または化合物が指定された炭素原子数に該当するかどうかを決定するために、すべての炭素原子を数える。例えば、ジヘキシルアミノ基はジアルキルアミノ(C12)基の例であるが、ジアルキルアミノ(C6)基の例ではない。同様に、フェニルエチルはアラルキル(C=8)基の例である。本明細書において定義する化学基または化合物クラスのいずれかが「置換」なる用語で修飾される場合、水素原子に置き換わる部分のいかなる炭素原子もカウントされない。したがって、合計7個の炭素原子を有するメトキシヘキシルは、置換アルキル(C1-6)の例である。特に記載がないかぎり、炭素原子の制限がない請求項に記載の任意の化学基または化合物クラスは、炭素原子の制限が12以下である。
【0097】
「飽和」なる用語は、化合物または化学基を修飾するために使用する場合、以下に記す場合を除き、化合物または化学基が炭素-炭素二重結合および炭素-炭素三重結合を有しないことを意味する。この用語を原子を修飾するために使用する場合、それは原子がいかなる二重結合または三重結合の一部でもないことを意味する。飽和基の置換型の場合、1つまたは複数の炭素酸素二重結合または炭素窒素二重結合が存在してもよい。このような結合が存在する場合、ケト-エノール互変異性またはイミン/エナミン互変異性の一部として生じ得る炭素-炭素二重結合は排除されない。物質の溶液を修飾するために「飽和」なる用語を使用する場合、その溶液中にその物質がこれ以上溶解し得ないことを意味する。
【0098】
「脂肪族」なる用語は、そのように修飾された化合物または化学基が、非環式または環式であるが、非芳香族の化合物または基であることを意味する。脂肪族化合物/基では、炭素原子は直鎖、分枝鎖、または非芳香環(脂環式)で連結することができる。脂肪族化合物/基は、炭素-炭素一重結合で連結した飽和(アルカン/アルキル)、あるいは1つもしくは複数の炭素-炭素二重結合を有する(アルケン/アルケニル)、または1つもしくは複数の炭素-炭素三重結合を有する(アルキン/アルキニル)不飽和であり得る。
【0099】
「芳香族」なる用語は、そのように修飾された化合物または化学基が、完全共役環状π系で4n+2個の電子を有する原子の平面不飽和環を有することを意味する。芳香族化合物または化学基は、単一の共鳴構造として描かれ得るが;1つの共鳴構造の描写は、任意の他の共鳴構造も指すと考えられる。例えば:
は
を指すとも考えられる。芳香族化合物は、完全共役環状π系における電子の非局在性を表すために、円を用いて描いてもよく、その2つの非限定例を以下に示す。
【0100】
「アルキル」なる用語は、結合点としての炭素原子と、直鎖または分枝鎖非環式構造を有し、炭素および水素以外の原子を有しない、一価飽和脂肪族基を指す。基-CH3(Me)、-CH2CH3(Et)、-CH2CH2CH3(n-Prまたはプロピル)、-CH(CH3)2(i-Pr、iPrまたはイソプロピル)、-CH2CH2CH2CH3(n-Bu)、-CH(CH3)CH2CH3(sec-ブチル)、-CH2CH(CH3)2(イソブチル)、-C(CH3)3(tert-ブチル、t-ブチル、t-BuまたはtBu)、および-CH2C(CH3)3(ネオペンチル)はアルキル基の非限定例である。「アルカンジイル」なる用語は、結合点としての1つまたは2つの飽和炭素原子と、直鎖または分枝鎖非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有せず、炭素および水素以外の原子を有しない、二価飽和脂肪族基を指す。基-CH2-(メチレン)、-CH2CH2-、-CH2C(CH3)2CH2-および-CH2CH2CH2-はアルカンジイル基の非限定例である。「アルキリデン」なる用語は、RおよびR'が独立して水素またはアルキルである、二価の基=CRR'を指す。アルキリデン基の非限定例には:=CH2、=CH(CH2CH3)、および=C(CH3)2が含まれる。「アルカン」は、Rが上記で定義されているアルキルである、式H-Rを有する化合物のクラスを指す。
【0101】
「シクロアルキル」なる用語は、結合点としての炭素原子を有し、該炭素原子は1つまたは複数の非芳香環構造の一部を形成し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有せず、炭素および水素以外の原子を有しない、一価飽和脂肪族基を指す。非限定例には:-CH(CH
2)
2(シクロプロピル)、シクロブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシル(Cy)が含まれる。本明細書において用いられる場合、この用語は、非芳香環構造の炭素原子に結合した1つまたは複数のアルキル基(炭素数の制限が許容する)の存在を排除しない。「シクロアルカンジイル」なる用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有せず、炭素および水素以外の原子を有しない、二価飽和脂肪族基を指す。基
はシクロアルカンジイル基の非限定例である。「シクロアルカン」は、Rが上記で定義されているシクロアルキルである、式H-Rを有する化合物のクラスを指す。
【0102】
「アルケニル」なる用語は、結合点としての炭素原子、直鎖または分枝鎖非環式構造と、少なくとも1つの非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有せず、炭素および水素以外の原子を有しない、一価不飽和脂肪族基を指す。非限定例には:-CH=CH2(ビニル)、-CH=CHCH3、-CH=CHCH2CH3、-CH2CH=CH2(アリル)、-CH2CH=CHCH3、および-CH=CHCH=CH2が含まれる。「アルケンジイル」なる用語は、結合点としての2個の炭素原子、直鎖または分枝鎖非環式構造と、少なくとも1つの非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有せず、炭素および水素以外の原子を有しない、二価不飽和脂肪族基を指す。基-CH=CH-、-CH=C(CH3)CH2-、-CH=CHCH2-、および-CH2CH=CHCH2-はアルケンジイル基の非限定例である。アルケンジイル基は脂肪族であるが、両端で接続されると、この基が芳香族構造の一部を形成することが排除されないことに留意されたい。「アルケン」および「オレフィン」なる用語は同義であり、Rが上記で定義されているアルケニルである、式H-Rを有する化合物のクラスを指す。同様に、「末端アルケン」および「α-オレフィン」なる用語は同義であり、その結合が分子の末端のビニル基の一部である、炭素-炭素二重結合を1つだけ有するアルケンを指す。
【0103】
「アルキニル」なる用語は、結合点としての炭素原子、直鎖または分枝鎖非環式構造と、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有し、炭素および水素以外の原子を有しない、一価不飽和脂肪族基を指す。本明細書において用いられる場合、アルキニルなる用語は、1つまたは複数の非芳香族炭素-炭素二重結合の存在を排除しない。基-C≡CH、-C≡CCH3、および-CH2C≡CCH3はアルキニル基の非限定例である。「アルキン」は、Rがアルキニルである、式H-Rを有する化合物のクラスを指す。
【0104】
「アリール」なる用語は、結合点としての芳香族炭素原子を有し、該炭素原子はそれぞれすべて炭素の6個の環原子を有する1つまたは複数の芳香環構造の一部を形成し、基は炭素および水素以外の原子で構成されない、不飽和芳香族基を指す。複数の環が存在する場合、環は縮合環または非縮合環であってもよい。非縮合環は共有結合で連結される。本明細書において用いられる場合、アリールなる用語は、第1の芳香環または存在する任意の追加の芳香環に結合した1つまたは複数のアルキル基(炭素数の制限が許容する)の存在を排除しない。アリール基の非限定例には、フェニル(Ph)、メチルフェニル、(ジメチル)フェニル、-C
6H
4CH
2CH
3(エチルフェニル)、ナフチル、およびビフェニルから誘導される一価の基(例えば、4-フェニルフェニル)が含まれる。「アレーンジイル」なる用語は、結合点としての2個の芳香族炭素原子を有し、該炭素原子はそれぞれすべて炭素の6個の環原子を有する1つまたは複数の6員芳香環構造の一部を形成し、二価の基は炭素および水素以外の原子で構成されない、二価芳香族基を指す。本明細書において用いられる場合、アレーンジイルなる用語は、第1の芳香環または存在する任意の追加の芳香環に結合した1つまたは複数のアルキル基(炭素数の制限が許容する)の存在を排除しない。複数の環が存在する場合、環は縮合環または非縮合環であってもよい。非縮合環は共有結合で連結される。アレーンジイル基の非限定例には:
が含まれる。
【0105】
「アレーン」は、Rが上記で定義されているアリールである、式H-Rを有する化合物のクラスを指す。ベンゼンおよびトルエンはアレーンの非限定例である。
【0106】
「アラルキル」なる用語は、一価の基-アルカンジイル-アリールを指し、ここでアルカンジイルおよびアリールなる用語は、それぞれ上記の定義と一致する様式で使用される。非限定例は:フェニルメチル(ベンジル、Bn)および2-フェニル-エチルである。
【0107】
「ヘテロアリール」なる用語は、結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有し、該炭素原子または窒素原子はそれぞれ3~8個の環原子を有する1つまたは複数の芳香環構造の一部を形成し、芳香環構造の環原子の少なくとも1つは窒素、酸素または硫黄であり、ヘテロアリール基は炭素、水素、芳香族窒素、芳香族酸素および芳香族硫黄以外の原子で構成されない、一価芳香族基を指す。複数の環が存在する場合、環は縮合環であるが、ヘテロアリールなる用語は、1つまたは複数の環原子に結合した1つまたは複数のアルキルまたはアリール基(炭素数の制限が許容する)の存在を排除しない。ヘテロアリール基の非限定例には、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、フラニル、イミダゾリル(Im)、インドリル、インダゾリル、イソオキサゾリル、メチルピリジニル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、フェニルピリジニル、ピリジニル(ピリジル)、ピロリル、ピリミジニル、ピラジニル、キノリル、キナゾリル、キノキサリニル、トリアジニル、テトラゾリル、チアゾリル、チエニル、およびトリアゾリルが含まれる。「N-ヘテロアリール」なる用語は、結合点としての窒素原子を有するヘテロアリール基を指す。「ヘテロアレーン」は、Rがヘテロアリールである、式H-Rを有する化合物のクラスを指す。ピリジンおよびキノリンはヘテロアレーンの非限定例である。「ヘテロアレーンジイル」なる用語は、2つの結合点としての2個の芳香族炭素原子、2個の芳香族窒素原子、または1個の芳香族炭素原子および1個の芳香族窒素原子を有し、該原子はそれぞれ3~8個の環原子を有する1つまたは複数の芳香環構造の一部を形成し、芳香環構造の環原子の少なくとも1つは窒素、酸素または硫黄であり、二価の基は炭素、水素、芳香族窒素、芳香族酸素および芳香族硫黄以外の原子で構成されない、二価芳香族基を指す。複数の環が存在する場合、環は縮合環であるが、ヘテロアレーンジイルなる用語は、1つまたは複数の環原子に結合した1つまたは複数のアルキルまたはアリール基(炭素数の制限が許容する)の存在を排除しない。ヘテロアレーンジイル基の非限定例には:
が含まれる。
【0108】
「ヘテロアラルキル」なる用語は、一価の基-アルカンジイル-ヘテロアリールを指し、ここでアルカンジイルおよびヘテロアリールなる用語は、それぞれ上記の定義と一致する様式で使用される。非限定例は:ピリジルメチルおよび2-キノリニル-エチルである。
【0109】
「ヘテロシクロアルキル」なる用語は、結合点としての炭素原子または窒素原子を有し、該炭素原子または窒素原子はそれぞれ3~8個の環原子を有する1つまたは複数の非芳香環構造の一部を形成し、非芳香環構造の環原子の少なくとも1つは窒素、酸素または硫黄であり、ヘテロシクロアルキル基は炭素、水素、窒素、酸素および硫黄以外の原子で構成されない、一価非芳香族基を指す。複数の環が存在する場合、環は縮合環である。本明細書において用いられる場合、この用語は、1つまたは複数の環原子に結合した1つまたは複数のアルキル基(炭素数の制限が許容する)の存在を排除しない。また、この用語は、得られる基が非芳香族のままであることを条件として、環または環系における1つまたは複数の二重結合の存在を排除しない。ヘテロシクロアルキル基の非限定例には、アジリジニル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフラニル、テトラヒドロピラニル、ピラニル、オキシラニル、およびオキセタニルが含まれる。「N-ヘテロシクロアルキル」なる用語は、結合点としての窒素原子を有するヘテロシクロアルキル基を指す。N-ヘテロシクロアルキル基の非限定例には、N-ピロリジニルおよび
が含まれる。
【0110】
「アシル」なる用語は、Rが上記で定義されている水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである、基-C(O)Rを指す。基、-CHO、-C(O)CH3(アセチル、Ac)、-C(O)CH2CH3、-C(O)CH(CH3)2、-C(O)CH(CH2)2、-C(O)C6H5、および-C(O)C6H4CH3は、アシル基の非限定例である。「チオアシル」は、基-C(O)Rの酸素原子が硫黄原子で置き換えられていることを除いて、類似の様式で定義され、-C(S)Rである。「アルデヒド」なる用語は、-CHO基に結合した、上記の定義のアルキル基に相当する。
【0111】
「アルコキシ」なる用語は、Rが上記で定義されているアルキルである、基-ORを指す。非限定例には:-OCH3(メトキシ)、-OCH2CH3(エトキシ)、-OCH2CH2CH3、-OCH(CH3)2(イソプロポキシ)、または-OC(CH3)3(tert-ブトキシ)が含まれる。「シクロアルコキシ」、「アルケニルオキシ」、「アルキニルオキシ」、「アリールオキシ」、「アラルコキシ」、「ヘテロアリールオキシ」、「ヘテロシクロアルコキシ」、および「アシルオキシ」なる用語は、「置換」なる修飾語なしで使用される場合、Rがそれぞれシクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、およびアシルである、-ORとして定義される基を指す。「アルキルチオ」および「アシルチオ」なる用語は、Rがそれぞれアルキルおよびアシルである、基-SRを指す。「アルコール」なる用語は、水素原子の少なくとも1つがヒドロキシ基で置き換えられている、上記の定義のアルカンに相当する。「エーテル」なる用語は、水素原子の少なくとも1つがアルコキシ基で置き換えられている、上記の定義のアルカンに相当する。
【0112】
「アルキルアミノ」なる用語は、Rが上記で定義されているアルキルである、基-NHRを指す。非限定例には:-NHCH3および-NHCH2CH3が含まれる。「ジアルキルアミノ」なる用語は、RおよびR'が同じまたは異なるアルキル基であり得る、基-NRR'を指す。ジアルキルアミノ基の非限定例には:-N(CH3)2および-N(CH3)(CH2CH3)が含まれる。「アミド」(アシルアミノ)なる用語は、「置換」なる修飾語なしで使用される場合、Rが上記で定義されているアシルである、基-NHRを指す。アミド基の非限定例は、-NHC(O)CH3である。
【0113】
化学基が「置換」なる修飾語と共に使用される場合、基の1つまたは複数の水素原子は、それぞれの場合に独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH2、-NO2、-CO2H、-CO2CH3、-CO2CH2CH3、-CN、-SH、-OCH3、-OCH2CH3、-C(O)CH3、-NHCH3、-NHCH2CH3、-N(CH3)2、-C(O)NH2、-C(O)NHCH3、-C(O)N(CH3)2、-OC(O)CH3、-NHC(O)CH3、-S(O)2OH、または-S(O)2NH2で置き換えられている。例えば、以下の基は置換アルキル基の非限定例である:-CH2OH、-CH2Cl、-CF3、-CH2CN、-CH2C(O)OH、-CH2C(O)OCH3、-CH2C(O)NH2、-CH2C(O)CH3、-CH2OCH3、-CH2OC(O)CH3、-CH2NH2、-CH2N(CH3)2、および-CH2CH2Cl。「ヒドロキシアルキル」なる用語は、炭素、水素および酸素以外の他の原子は存在しないような、1つまたは複数の水素原子がヒドロキシ(すなわち-OH)基で置き換えられている置換アルキルのサブセットである。基-CH2OH、-CH2CH2OH、-CH(OH)CHOH、-CH2CH(OH)CH3、および-CH(OH)CH2OHはヒドロキシアルキル基の非限定例である。「モノヒドロキシアルキル」なる用語は、炭素、水素および1個の酸素以外の他の原子は存在しないような、1個の水素原子がヒドロキシ(すなわち-OH)基で置き換えられている置換アルキルのサブセットである。基-CH2OH、-CH2CH2OH、および-CH2CH(OH)CH3はモノヒドロキシアルキル基の非限定例である。「フルオロアルキル」なる用語は、炭素、水素およびフッ素以外の他の原子は存在しないような、1つまたは複数の水素原子がフルオロで置き換えられている置換アルキルのサブセットである。基-CH2F、-CHF2および-CF3はフルオロアルキル基の非限定例である。「モノフルオロアルキル」なる用語は、炭素、水素および1個のフッ素以外の他の原子は存在しないような、1個の水素原子がフルオロで置き換えられている置換アルキルのサブセットである。基-CH2F、-CH2CH2F、および-CH2CH(F)CH3はモノフルオロアルキル基の非限定例である。「アミノアルキル」なる用語は、炭素、水素および窒素以外の他の原子は存在しないような、1つまたは複数の水素原子がアミノ(すなわち-NH2)基で置き換えられている置換アルキルのサブセットである。基-CH2NH2、-CH(NH2)CH3、-CH2CH2NH2、-CH2CH(NH2)CH3および-CH(NH2)CH2NH2はアミノアルキル基の非限定例である。「モノアミノアルキル」なる用語は、炭素、水素および1個の窒素以外の他の原子は存在しないような、1個の水素原子がアミノ(すなわち-NH2)基で置き換えられている置換アルキルのサブセットである。基-CH2NH2、-CH2CH2NH2、および-CH2CH(NH2)CH3はモノアミノアルキル基の非限定例である。置換アラルキルの非限定例は:(3-クロロフェニル)-メチル、および2-クロロ-2-フェニル-エタ-1-イルである。基、-C(O)CH2CF3、-CO2H(カルボキシル)、-CO2CH3(メチルカルボキシル)、-CO2CH2CH3、-C(O)NH2(カルバモイル)、および-CON(CH3)2は置換アシル基の非限定例である。基-NHC(O)OCH3および-NHC(O)NHCH3は置換アミド基の非限定例である。
【0114】
特許請求の範囲および/または明細書において、「含む」なる用語とともに使用される「a」または「an」なる語の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つ以上」の意味とも一致する。
【0115】
本出願を通じて、「約」なる用語は、値が、デバイス、もしくは値を決定するために使用される方法の誤差の固有の変動、または試験対象もしくは患者の間に存在する変動を含むことを示すために使用される。
【0116】
「活性成分」(AI)または薬学的活性成分(API)(活性化合物、活性物質、活性剤、薬剤、作用物質、生物学的活性分子、または治療化合物とも呼ぶ)は、生物学的に活性な薬剤の成分である。
【0117】
「含む(comprise)」、「有する」および「含む(include)」なる用語はオープンエンドの連結動詞である。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」、「含む(including)」などの、これらの動詞の1つまたは複数の任意の形または時制もオープンエンドである。例えば、1つまたは複数の段階を「含む(comprises)」、「有する」または「含む(includes)」任意の方法は、それらの1つまたは複数の段階のみを有することに限定されず、挙げていない他の段階も含む。
【0118】
本明細書および/または特許請求の範囲で用いられる「有効な」なる用語は、所望の、期待される、または意図される結果を達成するのに十分であることを意味する。「有効量」、「治療的有効量」または「薬学的有効量」とは、化合物による患者または対象の処置の文脈で使用される場合、患者または対象に投与したときに、以下に定義する疾患の処置または予防を行うのに十分な化合物の量を意味する。
【0119】
「賦形剤」は、薬物、薬学的組成物、製剤、または薬物送達系の活性成分とともに製剤される薬学的に許容される物質である。賦形剤は、例えば、組成物を安定化するため、組成物を嵩上げするため(したがって、この目的で使用される場合、しばしば「増量剤」、「充填剤」、または「希釈剤」と呼ぶ)、または薬物吸収を促進する、粘性を低下させる、もしくは溶解性を増強するなどの、最終剤形中の活性成分に治療的増強を付与するために使用し得る。賦形剤には、薬学的に許容される型の付着防止剤、結合剤、コーティング剤、着色剤、崩壊剤、香料、滑剤、滑沢剤、保存剤、吸着剤、甘味剤、および媒体が含まれる。活性成分を運ぶ媒質として役立つ主な賦形剤は、通常は媒体と呼ぶ。賦形剤は、例えば、予想される貯蔵期間中の変性または凝集の防止などの、インビトロ安定性の補助に加えて、粉末の流動性または非付着性の促進などによる、活性物質の取り扱いを補助するために製造工程で使用することもある。賦形剤の適切性は、典型的には、投与経路、剤形、活性成分、ならびに他の因子に応じて変動する。
【0120】
化合物に対する修飾語として使用される場合、「水和物」なる用語は、化合物の固体形態などにおいて、各化合物分子に付随する水分子が1つ未満(例えば、半水和物)、1つ(例えば、一水和物)、または1つ超(例えば、二水和物)であることを意味する。
【0121】
本明細書において用いられる「IC50」なる用語は、得られる最大反応の50%である阻害用量を指す。この定量的指標は、所与の生物学的、生化学的または化学的プロセス(またはプロセスの構成要素、すなわち酵素、細胞、細胞受容体または微生物)を半分阻害するのに、特定の薬物または他の物質(阻害剤)がどれだけ必要かを示す。
【0122】
第一の化合物の「異性体」は、各分子が第一の化合物と同じ構成原子を含むが、三次元におけるそれらの原子の配置が異なる別の化合物である。
【0123】
本明細書において用いられる「患者」または「対象」なる用語は、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、またはそのトランスジェニック種などの、生きている哺乳類生物を指す。一定の態様において、患者または対象は霊長類である。ヒト患者の非限定例は、成人、若年、乳児および胎児である。
【0124】
本明細書において一般に用いられる「薬学的に許容される」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または妥当な損益比に見合った他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび動物の組織、臓器、および/または体液と接触させて使用するのに適した化合物、材料、組成物、および/または剤形を指す。
【0125】
「薬学的に許容される塩」は、上記の定義のとおり、薬学的に許容され、所望の薬理学的活性を有する、本明細書において開示する化合物の塩を意味する。このような塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;または1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4'-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノおよびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、第三級ブチル酢酸、トリメチル酢酸などの有機酸と形成される酸付加塩が含まれる。薬学的に許容される塩には、存在する酸性プロトンが無機または有機塩基と反応し得る場合に形成され得る、塩基付加塩も含まれる。許容される無機塩基には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化カルシウムが含まれる。許容される有機塩基には、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどが含まれる。本発明の任意の塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、塩が全体として薬理学的に許容される限り、重要ではないことが理解されるべきである。薬学的に許容される塩ならびにそれらの調製法および使用法の追加の例は、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, and Use (P. H. Stahl & C. G. Wermuth eds., Verlag Helvetica Chimica Acta, 2002)に記載されている。
【0126】
「薬学的に許容される担体」、「薬物担体」、または単に「担体」は、化学作用物質の運搬、送達および/または輸送に関与する、活性成分薬剤とともに製剤する薬学的に許容される物質である。薬物担体は、例えば、薬物のバイオアベイラビリティを調節し、薬物の代謝を減少させ、および/または薬物の毒性を減少させるための制御放出技術を含む、薬物の送達および有効性を改善するために使用し得る。いくつかの薬物担体は、特定の標的部位への薬物送達の有効性を高め得る。担体の例には:リポソーム、マイクロスフェア(例えば、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体で作られた)、アルブミンマイクロスフェア、合成ポリマー、ナノファイバー、タンパク質-DNA複合体、タンパク質結合体、赤血球、ビロソーム、およびデンドリマーが含まれる。
【0127】
「薬学的薬物」(薬剤、薬学的調製物、薬学的組成物、薬学的製剤、薬学的製品、薬用製品、薬剤、薬物療法、薬品、または単に薬物、薬剤、または調製物とも呼ぶ)は、疾患の診断、治癒、処置、または予防に使用する組成物であり、薬学的活性成分(API)(上記で定義)を含み、任意に賦形剤(上記で定義)とも呼ぶ1つまたは複数の不活性成分を含む。
【0128】
「予防」または「予防すること」には、以下が含まれる:(1)疾患のリスクおよび/または素因を有するかもしれないが、まだ疾患の病態または症状のいずれかまたはすべてを経験または提示していない、対象または患者において疾患の発症を阻害すること、および/または(2)疾患のリスクおよび/または素因を有するかもしれないが、まだ疾患の病態または症状のいずれかまたはすべてを経験または提示していない、対象または患者において疾患の病態または症状の発症を遅らせること。
【0129】
「プロドラッグ」は、インビボで代謝的に本発明の薬学的活性成分に変換可能な化合物を意味する。プロドラッグ自体は、そのプロドラッグ形態で活性を有していても、有していなくてもよい。例えば、ヒドロキシ基を含む化合物は、インビボで加水分解によりヒドロキシ化合物に変換されるエステルとして投与してもよい。インビボでヒドロキシ化合物に変換されうる適切なエステルの非限定例には、酢酸エステル、クエン酸エステル、乳酸エステル、リン酸エステル、酒石酸エステル、マロン酸エステル、シュウ酸エステル、サリチル酸エステル、プロピオン酸エステル、コハク酸エステル、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、メチレン-ビス-β-ヒドロキシナフトエ酸エステル、ゲンチジン酸エステル、イセチオン酸エステル、ジ-p-トルオイル酒石酸エステル、メタンスルホン酸エステル、エタンスルホン酸エステル、ベンゼンスルホン酸エステル、p-トルエンスルホン酸エステル、シクロヘキシルスルファミン酸エステル、クイナ酸エステル、およびアミノ酸のエステルが含まれる。同様に、アミン基を含む化合物は、インビボで加水分解によりアミン化合物に変換されるアミドとして投与してもよい。
【0130】
「立体異性体」または「光学異性体」は、同じ原子が同じ他の原子に結合しているが、それらの原子の三次元における配置が異なる、所与の化合物の異性体である。「エナンチオマー」は、左手と右手のように互いに鏡像である、所与の化合物の立体異性体である。「ジアステレオマー」は、エナンチオマーではない、所与の化合物の立体異性体である。キラル分子は立体中心または立体異性中心とも呼ぶキラル中心を含み、これは、任意の2つの基が入れ替わると立体異性体になるような基を有する分子内の任意の点であり、必ずしも原子である必要はない。有機化合物において、キラル中心は典型的には、炭素、リンまたは硫黄原子であるが、有機および無機化合物において、他の原子が立体中心となることも可能である。分子は複数の立体中心を有することができ、多くの立体異性体を与える。立体異性が四面体の立体中心(例えば、四面体炭素)に起因する化合物において、仮説上可能な立体異性体の総数は2nを超えず、ここでnは四面体立体中心の数である。対称性を有する分子は、可能な最大数より少ない立体異性体を有することが多い。エナンチオマーの50:50の混合物はラセミ混合物と呼ぶ。または、エナンチオマーの混合物は、1つのエナンチオマーが50%より多い量で存在するように、エナンチオマー豊富化することができる。典型的には、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーは、当技術分野において公知の技術を用いて分割または分離することができる。立体化学が定義されていない任意の立体中心またはキラリティの軸について、その立体中心またはキラリティの軸は、そのR型、S型、またはラセミおよび非ラセミ混合物を含む、R型およびS型の混合物として存在し得ることが企図される。本明細書において用いられる、「他の立体異性体を実質的に含まない」なる語句は、組成物が≦15%、より好ましくは≦10%、さらにより好ましくは≦5%、または最も好ましくは≦1%の別の立体異性体を含むことを意味する。
【0131】
「処置」または「処置すること」には、(1)疾患の病態または症状を経験または提示している対象または患者において疾患を阻害すること(例えば、病態および/または症状のさらなる進展を阻止すること)、(2)疾患の病態または症状を経験または提示している対象または患者において疾患を改善すること(例えば、病態および/または症状を逆転させること)、および/または(3)疾患の病態または症状を経験または提示している対象または患者において疾患またはその症状の測定可能な任意の減少をもたらすことが含まれる。
【0132】
「単位用量」なる用語は、1回の投与で治療上有効な用量の活性成分を患者に提供するのに十分な様式で製剤が調製されるような、化合物または組成物の製剤を指す。使用し得るそのような単位用量製剤には、単一の錠剤、カプセル剤、もしくは他の経口製剤、または注射可能な液体もしくは他の注射可能な製剤を含む単一のバイアルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0133】
上記の定義は、参照により本明細書に組み入れられる任意の参照文献における任意の矛盾する定義に取って代わる。しかし、一定の用語が定義されているという事実は、定義されていない任意の用語が不確定であることを示すと考えるべきではない。むしろ、使用する全ての用語は、当業者がその範囲を理解し、本発明を実施することができるような用語で本発明を記載すると考えられる。
【実施例】
【0134】
V. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。以下の実施例において開示する技術は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者によって発見された技術を表し、したがってその実施のための好ましい様式を構成すると考え得ることを、当業者は理解すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示する特定の態様において多くの変更を加えることができ、なお本発明の精神および範囲から逸脱することなく、同様または類似の結果が得られることを理解すべきである。
【0135】
実施例1:実験手順および特徴づけデータ
A. アルギネート誘導体に基づく新規生体材料生成ライブラリー
ハイドロゲルのコンビナトリアルライブラリーを、遺伝子バーコーディング技術を用いて、C57BL/6マウスを用いた前臨床線維症モデルにおいて認知を低下させる材料を同定するために開発した。抗線維化特性を支配する物理化学的パラメーターは現時点では十分に理解されていないが、ポリマーアルギネート骨格に潜在する官能基および特性を共有結合的に修飾するいくつかの逆化学反応を利用して、アルギネートに基づくハイドロゲルのライブラリーを生成するために、コンビナトリアル生体材料スクリーニングアプローチを開発した。この合成化学スキームは、立体特異的な一連の多様な化学構造の迅速な製造を可能にし、反応はアルギネート化合物の修飾に適合する。低分子量である、グルロン酸含量の高い超高純度VLVGアルギネート(Nova Matrix inc.)を出発原料として用い、様々なアミン、アルコール、アジド、およびアルキンによる6872メンバーのアルギネート類縁体ライブラリーの合成が提唱される。初期段階では、トリアゾール環を全体的に維持することにより、合計211のアルギネート類縁体を合成した。211の独特のアルギネート類縁体ポリマーのうち、報告された親水性リード(Z1-A34)に類似した3つの親水性PEGベースのリンカーと51の新しいアルキンとのコンビナトリアル合成から約150の類縁体を生成し、疎水性リード(B1-A21)に類似した2つの疎水性リンカーから61のトリアゾール含有類縁体を生成した(
図1、表2)。共有結合したトリアゾール含有アルギネート類縁体を、元素分析および核磁気共鳴分光法(NMR)を用いて特徴づけた(
図3D、3E)。合成、純度、溶解性、およびゲル形成能(ゲル化検定)の確認後、149のアルギネート類縁体をインビボスクリーニング目的で選択した(
図3)。元素分析により、最適化された反応条件を用いて、アルギネートの最大20~30%を修飾して、材料特性の大幅な調節が可能であることが示された。
【0136】
ハイスループットの生体材料バーコーディングおよび分析を用いて、単一の移植部位で複数の生体材料を試験するために、線維症を進行させるC57BL/6モデルげっ歯類へのヒト細胞の異種移植を利用する、新規ハイスループットインビボスクリーニング法を、両方のげっ歯類モデルで開発した。これらの方法は、各生体材料をバーコード細胞で標識することを含む。20の異なる独特のHUVECを用いてバーコーディング技術を開発し、これを、次世代シークエンシング(NGS)を用いて、マウスおよびNHPモデルで免疫保護化学修飾トリアゾールを含有するハイドロゲル生体材料の大規模ライブラリーをインビボスクリーニングするために使用した。
図2A参照。
【0137】
(表2)使用したリンカーおよびアルキンと表記の表。
【0138】
【0139】
(表4)合成したアルギネート類縁体およびインビボ(マウスおよびNHP)スクリーニングの表
【0140】
B. 材料と方法
試薬。すべての化学物質は米国、Sigma Aldrichから入手し(特に記載がないかぎり)、それ以上精製せずに使用した。本試験で使用したアルギネートを表5に記載する。
【0141】
【0142】
ハイスループット修飾アルギネート類縁体合成。高分解能構造-機能相関を生成するために、鎖延長および示差的置換などのさらなる構造変化を組み込む、211の次世代類縁体(重要なトリアゾール環を含む)のライブラリーを合成した。
【0143】
アルギネートの合成および特徴づけのための包括的戦略。1当量のUPVLVGアルギネートおよび1当量のアミンリンカー(表2の5つの異なるアミンリンカー)を、0.5当量の4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドのカップリング剤存在下で用いてアミドカップリング反応を行い、5つの異なるアミンリンカー結合アルギネートポリマーを得た。これらのリンカー修飾アルギネート誘導体を、10~12kDaの透析膜を用いた3日間の透析(食塩水および水中)と、続く凍結乾燥により精製した。これらの5つの分子を、NMRおよび元素分析によって、その純度および出発アルギネートの修飾%について特徴づけた。次の段階で、1当量のアルキン(45:アルキン)を適切に修飾したアルギネートと銅触媒クリック反応によって結合した。合計211のトリアゾール含有アルギネート誘導体を合成から得た。211の異なるアルギネートすべてを透析と、続く凍結乾燥により精製し、NMRにより化学的に特徴づけた。
【0144】
小分子調製のための最適化された合成。
Z2-A19アミン:3-エチニルチオフェン(1当量、4g、36.98mmol)を、420mLの5:1メタノール:水(350mLのメタノールおよび70mLの水)(5:1メタノール:水)を含む1L丸底フラスコに加え、続いてトリス((1-ベンジル-4-トリアゾリル)メチル)アミン(0.25当量、2.932g、5.52mmol)を加え、15分間撹拌した。続いてトリエチルアミン(0.25当量、0.77mL、5.52mmol)およびヨウ化銅(0.1当量、422mg、2.22mmol)を加えた。反応フラスコをアルゴンでパージしながら15分かけて0℃まで冷却した後、11-アジド-ペグ-2-アミン(1当量、5.86mL、36.98mmol)を加えた。反応物を室温で5分間撹拌した後、55℃で終夜撹拌した。反応混合物をセライト(登録商標)を通してろ過し、ロタバップを用いて溶媒を除去した。次いで粗反応物を、120gのISCOシリカカラム上、ジクロロメタン:ウルトラ(3%NH4OHを含むDCM中22%MeOH)混合物0%~40%での液体クロマトグラフィーにより精製した。
【0145】
Z1-A3アミン:1-ブロモ-2-エチニルベンゼン(1当量、2g、11mmol)を、180mLの5:1メタノール:水(150mLのメタノールおよび30mLの水)(5:1メタノール:水)を含む250mL丸底フラスコに加え、続いて24mLの5:1メタノール:水(20mLメタノールおよび4mL水)に溶解したトリス((1-ベンジル-4-トリアゾリル)メチル)アミン(0.25当量、1.466g、2.76mmol)を滴加し、15分間撹拌した。続いてトリエチルアミン(0.25当量、0.385mL、2.76mmol)およびヨウ化銅(0.1当量、211mg、1.11mmol)を加えた。反応フラスコをアルゴンでパージしながら15分かけて0℃まで冷却した後、11-アジド-ペグ-3-アミン(1当量、2.193mL、11.05mmol)を加えた。反応物を室温で5分間撹拌した後、55℃で終夜撹拌した。反応混合物をセライト(登録商標)を通してろ過し、ロタバップを用いて溶媒を除去した。次いで粗反応物を、120gのISCOシリカカラム上、ジクロロメタン:ウルトラ(3%NH4OHを含むDCM中22%MeOH)混合物0%~40%での液体クロマトグラフィーにより精製した。
【0146】
Z4-A10アミンの合成:1,3-ジエチルベンゼン(1当量、4g、32mmol)を、450mLの5:1メタノール:水(375mLのメタノールおよび75mLの水)を含む1000mL丸底フラスコに加え、続いて30mLの5:1メタノール:水(25mLのメタノールおよび5mLの水)に溶解したトリス((1-ベンジル-4-トリアゾリル)メチル)アミン(0.25当量、2.932g、5.52mmol)を滴加し、15分間撹拌した。続いてトリエチルアミン(0.25当量、0.77mL、5.52mmol)およびヨウ化銅(0.1当量、422mg、2.22mmol)を加えた。反応フラスコをアルゴンでパージしながら15分かけて0℃まで冷却した後、11-アジド-ペグ-4-アミン(1当量、6.92mL、32mmol)を加えた。反応物を室温で5分間撹拌した後、55℃で終夜撹拌した。反応混合物をセライト(登録商標)を通してろ過し、ロタバップを用いて溶媒を除去した。次いで粗反応物を、120gのISCOシリカカラム上、ジクロロメタン:ウルトラ(3%NH4OHを含むDCM中22%MeOH)混合物0%~40%での液体クロマトグラフィーにより精製した。
【0147】
B2-A17アミンの合成:3-ヨードベンジルアミド(1当量、4g、14.8mmol)を、24mLのメタノールを含む50mL丸底フラスコに加え、続いてトリエチルアミン(2.4当量、3.6g、35.62mmol)、アジ化ナトリウム(2当量、1.93g、29.68mmol)、水(6mL)、ヨウ化銅(0.15当量、423.89mg、2.22mmol)、アスコルビン酸ナトリウム(0.1当量、293.95、0.1当量、2.97mmol)、1.83mlトランス-N-N'-ジメチルシクロヘキセン-1,2-ジアミン(0.2当量、422.12mg、2.97mmol)を順次加えた。混合物を排気し、アルゴンで3回フラッシュし、(4-(4-(ピリジン-2-イル)-1H-1,2,3-トリアゾル-1-イル)フェニル)メタナミン(1当量、3.72g、14.8mmol)を加えた。反応物を室温で5分間撹拌した後、55℃で終夜撹拌した。反応混合物をセライト(登録商標)を通してろ過し、ロタバップを用いて溶媒を除去した。次いで粗反応物を、120gのISCOシリカカラム上、ジクロロメタン:ウルトラ(3%NH4OHを含むDCM中22%MeOH)混合物0%~40%での液体クロマトグラフィーにより精製した。
【0148】
B1-A51アミンの合成:(4-ヨードフェニル)メタナミン(1当量、2g、15.13mmol)をメタノール90mLに加えた。トリエチルアミン(2.4当量、3.67g、36.3mmol)およびアジ化ナトリウム(2当量、1.97g、30.3mmol)を反応フラスコに加えた。40mLの超純水を、前に加えたものがすべて溶解した後にフラスコに加えた。アスコルビン酸ナトリウム(0.1当量、300mg、1.5mmol)およびヨウ化銅(0.15当量、432mg、2.27mmol)をフラスコに加えた。混合物を通してアルゴンを15分間バブリングすることによりフラスコをアルゴンでパージした。トランス-N,N'-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジアミン(0.2当量、430mg、3.03mmol)および1-エチニル-2-メトキシベンゼン(1当量、2g、15.13mmol)をフラスコに加えた。反応物を室温で5分間撹拌した後、アルゴン雰囲気下、55℃で終夜撹拌した。反応混合物をセライト(登録商標)を通してろ過し、ロタバップを用いて溶媒を除去した。次いで粗反応物を、120gのISCOシリカカラム上、ジクロロメタン:ウルトラ(3%NH4OHを含むDCM中22%MeOH)混合物0%~40%での液体クロマトグラフィーにより精製した。
【0149】
Z1-A34アミンの合成:4-プロパルギルチオモルホリン1,1-ジオキシド(1当量)を250mL丸底フラスコに加え、メタノール:水混合物(5:1)に溶解した。その結果、トリス[(1-ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾル-4-イル)メチルアミン(0.25当量)、トリエチルアミン(0.25当量)、およびヨウ化銅(0.1当量)を加えた。反応混合物をアルゴンで15分間パージし、0℃まで冷却した後、11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミン(1当量、6.30g、28.86mmol)を加えた。反応混合物を室温で15分間撹拌し、その後55℃に終夜加熱した。反応物を室温まで冷却し、セライト(登録商標)を通してろ過して、いかなる不溶物も除去した。ろ液をシリカで減圧下ロタバップを用いて乾燥した。次いで粗反応物を、120gのISCOシリカカラム上、ジクロロメタン:ウルトラ(3%NH4OHを含むDCM中22%MeOH)混合物0%~40%での液体クロマトグラフィーにより精製し、さらにESI質量分析およびNMR質量分析で特徴づけた。
【0150】
アルギネート反応:1.5gのVLVG(1当量)を45mlの水に溶解した。次いで、7.65mmolのZ2-A19、Z1-A3(1当量)アミンを22.5mlのアセトニトリルに溶解し、混合物に加えた。それに続いて、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(0.75当量)の水溶液を混合物に滴加した。反応物を55℃で終夜撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、固体を水に溶解した。溶液をシアノ官能基化シリカのパッドを通してろ過し、減圧下で水を除去して溶液を濃縮した。次いで、脱イオン水中で10,000MWCO膜に対して3日間透析した。水を減圧下で除去し、凍結乾燥して、官能基化アルギネートを得た。
【0151】
メタクリロイルZ1A3(Met-Z1A3)の合成:2-(2-(2-(2-(4-(2-ブロモフェニル)-1H-1,2,3-トリアゾル-1-イル)エトキシ)エトキシ)エトキシ)エタン-1-アミン(1当量、1.4g、3.51mmol)を50mL丸底フラスコに加え、アルゴンで3回パージした(各10分間)。無水ジクロロメタン25mLを加え、続いてトリエチルアミン(1.5当量、734μL、5.265mmol)および塩化メタクリロイル(1.5当量、509.6μL、5.265mmol)をアルゴン雰囲気下で滴加した。反応物を5~6時間撹拌した後、40gのISCOシリカカラム上、ジクロロメタン:ウルトラ(3%NH4OHを含むDCM中22%MeOH)混合物0%~40%を用いて精製し、約1gの無色固体(Met-Z1A3)を得た。この化合物を、質量および純度を確認するために、質量分析およびNMRで特徴づけた。
【0152】
メタクリロイルB2-A17(Met-B2-A17)の合成:(3-(4-(プリジン-2-イル)-1H-1,2,3-トリアゾル-1-イル)フェニル)メタナミン)(1.2g、4.78mmol、B2-A17)を50mL丸底フラスコに加え、アルゴンで3回パージした(各10分間)。25mLの無水ジクロロメタン(30mL)を加え、続いてトリエチルアミン(1.5当量、7.17mmol、999.6μL)および塩化メタクリロイル(1.5当量、7.17mmol、693.99μL)をアルゴン雰囲気下で滴加した。反応物を5~6時間撹拌した後、40gのISCOシリカカラム上、ヘキサン/酢酸エチル(1:0~0:1)を用いて精製し、約1gの無色固体(Met-B2-A17)を得た。この化合物を、質量および純度を確認するために、質量分析およびNMRで特徴付けた。
【0153】
小分子によるアルギネートの官能基化:
Z4-A10アミンによるアルギネートの官能基化:1.5gのUP-VLVG(1当量)を45mLの水に溶解した。次いで、7.65mmolのZ4-A10(1当量)アミンを22.5mLのアセトニトリルに溶解し、混合物に加えた。それに続いて、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(0.75当量)の水溶液を混合物に滴加した。反応物を55℃で終夜撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、固体を水に溶解した。溶液をシアノ官能基化シリカのパッドを通してろ過した。次いで、溶液を、脱イオン水中で10,000MWCOの前処理した透析チューブに対して3日間透析した。透析した溶液を-80℃で凍結し、乾燥するまで凍結乾燥した。
【0154】
B1-A51アミンによるアルギネートの官能基化:1.5gのUP-VLVG(1当量)を45mLの水に溶解した。次いで、7.65mmolのB1-A51(1当量)アミンを22.5mLのアセトニトリルに溶解し、混合物に加えた。それに続いて、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(0.75当量)の水溶液を混合物に滴加した。反応物を55℃で終夜撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、固体を水に溶解した。溶液をシアノ官能基化シリカのパッドを通してろ過した。次いで、溶液を、脱イオン水中で10,000MWCOの前処理した透析チューブに対して3日間透析した。透析した溶液を-80℃で凍結し、乾燥するまで凍結乾燥した。
【0155】
Z1-A34アミンによるアルギネートの官能基化:2g(1当量)のUP-VLVG(BP-1903-04;Novamatrix)を水(75mL)に溶解した。次いで、Z1-A34小分子(3.99g、10.20mmol、1当量)をボルテックス下で水に溶解した。Z1-A34水溶液のpHをHClを用いて7.4に調節した。次いで、Z1-A34水溶液をUP-VLVG溶液に撹拌しながらゆっくり加える。次いで、(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチル-モルホリニウムクロリド)(DMTMM、0.5当量)の溶液を、UP-VLVGおよびZ1-A34の混合物に滴加した。反応物を55℃に加熱し、終夜撹拌した。溶液をシアノ官能基化シリカのパッドを通してろ過した。次いで、溶液を、食塩水(2日間)およびミリQ水(3日間)を用いて、ビーカー内で10,000MWCOの前処理した透析チューブに対して透析した。透析した溶液を-80℃で凍結し、乾燥するまで凍結乾燥した。
【0156】
ゲル化検定。211のアルギネート類縁体を、バリウム存在下で効率的に架橋してハイドロゲルを形成する能力について、フルオロフォア保持検定で試験した。0.9%食塩水中の修飾アルギネートポリマーの1%(w/v)溶液100μlを96穴プレートに分注した。DMSO中のローダミンBの1%(w/v)溶液1μlを各ウェルに加え、続いて1M塩化バリウム溶液50μlを加え、次いでオービタルシェーカーで10分間インキュベートした。ウェルを脱イオン水で3回洗浄し、続いて蛍光を測定した(ex:540nm/em:580nm)。以前合成したUPVLVGアルギネートを陽性対照として、脱イオン水を陰性対照として使用した。
【0157】
表面プラズマ洗浄を用いたMet-Z1-A3/Met-B2-A17によるカテーテルのコーティング。バリウム含浸シリコーンゴムカテーテル(Codman(登録商標) HOLTER(登録商標) Atrial Distal catheter, Ref# 821670)カテーテルを外科用ブレードで同じ長さに切断した。化学修飾を行うため、カテーテルを1分間隔で3回、曝露の間に全面をカバーするように回転させ、600~700mbarの圧で高周波RFを用いてプラズマ処理し(Expanded Plasma Cleaner, Harrick Plasma, P/N PDC-001)、直ちに5%DMSO/トルエン中のMet-Z1-A3/Met-B2-A17の0.02M溶液に加えた。反応は2時間撹拌下に維持し、インプラントはメタノール中で3回、エタノール中で3回、無菌グレードの水で3回と、最後に再び無菌グレードのエタノールで十分に洗浄した。最後に、インプラントを終夜真空乾燥した。
【0158】
コーティングカテーテルおよび非修飾カテーテルの走査型電子顕微鏡検査
非修飾カテーテル試料をSEMピンマウントにテープで固定し、エアガンで軽く処理して微粒子を除去し、Denton Desk V Sputter system(Rice SEA)を用いてAuスパッタリングを行った。これを各コーティングカテーテル群に対して繰り返した。スパッタリングを行ったカテーテルを、JEOL 6500F走査型電子顕微鏡を用いて撮像した。
【0159】
非修飾カテーテルおよびコーティングカテーテルのXPS
X線光電子分光法(XPS)は、単一エネルギーX線を試料に照射し、材料の表面から光電子を放出させて、任意の材料の表面(6nm範囲内)で元素組成を定量的に測定する表面感応型分光法である。非コーティング、Met-Z1-A3コーティング、Met-B2-A17コーティングインプラントの元素組成を、PHI Quantera XPSで分析した。分析には、1100eV、200μmスポットサイズ、50W 15kVイオンガン中和の検査技術を用いた。
【0160】
非修飾カテーテルおよびコーティングカテーテルのToF-SIMS
正負の高質量分解能スペクトルを、Rice UniversityのShared Equipment AuthorityでTOF.SIMS5装置(ION-TOF GmbH、Muenster, Germany)およびインサイチューScanning Probe Microscope(NanoScan, Switzerland)を組み合わせた、ToF-SIMS NCS装置を用いて実施した。バンチした30keVのBi3
+イオン(測定電流0.2pA)を一次プローブとして用い、250×250μm2の視野を128×2128ピクセルのラスターで、1.1012イオン/cm2のスタティック限界を考慮して表面を傷つけないように分析した。分析中はエレクトロンフラッドガンによる電荷補償を行い、表面電位を用いて電荷効果の調節を行った。サイクル時間は100μsに固定した(m/z=0~1102a.m.uの質量範囲に対応)。
【0161】
リード分子でコーティングしたカテーテルの材料特徴づけおよび評価。
XPSの結果から、小分子でコーティングしたカテーテルでは、コーティングしていないカテーテルよりも窒素含量が高いことが判明し、窒素含有小分子のカテーテルへの効果的な接着が示唆された(
図14B)。さらに、臭素含有Z1-A3コーティングカテーテルにおけるBr
-含量の増加は、カテーテル表面への小分子の接着を支持するものである。XPSの結果は、Tof-SIMSの結果によってさらに支持され、コーティングしていないものに比べて小分子でコーティングしたカテーテルではCN
-含量が高く、臭素含有Z1-A3でコーティングしたカテーテルではBr
-含量が高いことが示された(
図14C、
図15A、
図15B)。加えて、Met-Z1-A3およびMet-B2-A17カテーテルは、SEM画像から観察された非修飾カテーテルよりも滑らかに見え(
図15C)、おそらくはコーティング処理中に顕微鏡的隆起が除去されたことによる。
【0162】
細胞培養および増殖。20の異なるドナー(表3)からのヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC, CC-2517, LONZA, MD, USA)をVascuLife(登録商標) VEGF培地完全キット(LL-0003, Lifeline Cell Technology, CA, USA)中で培養した。HUVECは増殖のために継代培養し、37℃、5%CO2雰囲気の加湿インキュベーター内で維持した。培地は毎週3回交換した。
【0163】
20のドナーのSNPプロファイル
マルチプレックスPCR反応および次世代シークエンシング(NGS)により、HUVECドナーを独特に同定するために、30プレックスの一塩基多型(SNP)パネルを設計した。SNP座位は1000 Genomesデータベースからダウンロードし、ゲノム配列はNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイトから取得した。SNPは、マイナーアレルの集団アレル頻度が10%および90%になるように選択し、その座位は染色体1~22に均等に分布していた。
【0164】
ゲノムDNA(gDNA)は、DNeasyキット(Qiagen、カタログ#69054)を用いて、HUVECの20の異なるドナーから抽出した。各ドナーについて、100ngのgDNAを、各プライマー濃度50nMおよびPhusion Hot Start Flex 2X Master Mix(NEB、カタログ#M0536L)を含むPCR反応ミックス50μLに加えた。PCR反応条件は、98℃で30秒間の活性化と、98℃で30秒間の変性、63℃で2分間のアニーリング、および72℃で1分間の伸長の20サイクルを含み、72℃で5分間インキュベートして反応を完了した(98℃:30秒-(98℃:10秒-63℃:2分-72℃:1分)×20-72℃:5分-4℃:保持に短縮)。PCR産物をMonarch PCR & DNA Cleanup Kit(5μg)(NEB、カタログ#T1030S)を用いて精製した。次いで、精製したPCR産物を、NEBNext Ultra II DNA Library Prep Kit for Illumina(NEB、カタログ#E7645S)を製造者のプロトコルに従って用い、Illumina Miseqプラットフォーム上でNGS用に調製した。ライブラリーの定量および品質管理はAgilent 2100 Bioanalyzerで行った。次いで、20の異なるHUVECドナーのSNPプロファイルを確立するために、約5000倍の深さでディープシークエンシングを行った。
【0165】
修飾アルギネート内のHUVECカプセル化。
マウス用のカプセル作製。各ラウンドのスクリーニングでは、20の異なる材料を試験し、合計149の材料をC57BL/6Jマウスでスクリーニングした。したがって、ラウンドごとに、20の異なるHUVECドナーを用いて、各材料に対応する細胞バーコードを作製した。修飾アルギネートをまず0.8%食塩水に3~5%w/vで溶解し、次いで3%w/vのSLG100(同様に0.8%食塩水に溶解)と、70%修飾アルギネートと30%SLG100との体積比で、混合した。アルギネート溶液を0.2μmのフィルターでろ過して滅菌した。カプセル化の直前に、培養したHUVECを250Gで5分間遠心分離し、Caを含まないクレブス緩衝液(4.7mM KCl、25mM HEPES、1.2mM KH2PO4、1.2mM MgSO4・7H2O、135mM NaCl)で洗浄した。洗浄後、細胞を再度遠心分離し、上清をすべて吸引した。次いで、細胞ペレットを、0.5mlのアルギネート溶液あたり5×106個の細胞密度でアルギネート溶液に再懸濁した(約40,000細胞/カプセル)。各HUVECドナーを、対応する修飾アルギネート溶液でカプセル化した。アルギネートカプセルを、エレクトロスプレーマシン(Pump 11 Pico Plus, Harvard Apparatus, MA, USA)を用いて作製した。18Gの鈍針をアルギネート溶液を含む1mlのルアーロックシリンジに取り付け、これを150mlの架橋溶液浴(20mM BaCl2、250mM D-マンニトール、25mM HEPESおよび0.01v/v%tween20)上で垂直方向のシリンジポンプに固定した。電圧発生器を針先に取り付け、架橋浴に接地した。シリンジポンプの設定は、高さ15~20cmで流速5ml/hrであった。電圧を5.5~7kVの間に調節することにより、カプセルあたりの細胞密度を一定に維持した。カプセルが架橋浴中で形成された後、回収し、次いでHEPES緩衝液(25mM HEPES(Gibco, Life Technologies, California, USA)、1.2mM MgCl2×6H2O、4.7mM KCl、132mM NaCl)で3回洗浄し、培地で3回洗浄し、37℃のインキュベーターで終夜培養して移植した。各材料10カプセルを2mlのチューブに分注して混合し、この混合物200カプセルを移植に使用した。マウスの腹腔内に移植する直前に、カプセルを0.9%食塩水でさらに2回洗浄した。すべての材料を明視野顕微鏡で観察し、均一な細胞密度およびカプセルのサイズを確認した。
【0166】
マイクロカプセルの移植のために、マウススクリーニングから同定された上位10のリード材料および2つの対照(SLG20およびZ1-A34)を使用した。修飾アルギネートを0.8%食塩水に3~5%w/vで溶解し、3%w/vSLG100と70:30の比率で混合した。SLG20を0.8食塩水に1.4%w/vで溶解した。調合したアルギネート溶液を用いて300~500μmサイズのカプセルを作製した。カプセル化手順は、流速200μL/minで、マイクロカプセルのために30Gの針を使用したこと以外は、1.5mmサイズのカプセルと同じであった。洗浄後、400μLのマイクロカプセルを分注し、マウスのIP腔に2週間移植した。
【0167】
NHPインプラントのためのカプセルの作製:2つの異なるHUVECドナーを特定の比率で混合することにより、生体材料を標識するために、20の異なるドナーから400の異なるドナーの組み合わせを作製することができる。混合ドナー同定の実現可能性を確認するために、異なる比率(1:2、1:3、および1:4)を試験し、NGSにより検出可能な比率を決定した。3つの細胞株を用いて、合計9つの組み合わせを作製した(
図9A)。正しい比率をそれぞれの試験管に分注した後、SLG20を用いて9つの異なる比率のカプセルを作製し、続いて前の項に記載のカプセル化プロトコールを行った。20の単一HUVECドナーを含む、合計400の細胞バーコードの組み合わせを生成することができ、400のうち100の細胞バーコードをNHP試験に使用した。合計100の細胞バーコードを作製し、これらのHUVECの混合物をそれぞれ100の異なる材料でカプセル化した。前の項に記載のもの(マウス試験)と同じカプセル化法に従い、カプセルあたりの細胞密度は60,000細胞/カプセルに固定し、これはドナー1の20,000個およびドナー2の40,000個を含んでいた。各材料あたり30カプセルを1つのT225フラスコ内に混合し、これらの混合カプセルをIP移植用に調製した。所望の数のカプセルをフラスコに分注した後、これらの試料をNHPに移植するために終夜輸送した。
【0168】
ドナーのバーコーディングおよび同定の最適化
20のドナーから2つの異なるドナーを組み合わせることにより、前述のとおり合計400のドナー対を作製した。まず、混合ドナーの実行可能性を試験するために、2つのドナーの混合比をインビトロで最適化した。3つの異なる混合比(1:2、1:3、1:4)の3つのドナーの組み合わせ(H15&H16、H16&H17、H15&H17)をこの試験のために用い、続いて、合計9つの異なる条件を試験した(
図9A)。各群から1つのカプセルを混合し、9つのカプセルのドナー対を分析した(試料no.1~9)。3つの異なる混合比を、より高い同定信頼度(良さレベル)で最適な条件を見出すために試験した。対数尤度分析を適用して、ドナー同一性をデコンボリューションした。全ての試料を、一致するドナー対でうまく同定した。良さレベルは、2つの混合細胞の細胞密度が互いに離れるほど低下した。ドナー1:ドナー2の混合比を、さらなる実験の最適条件として1:2に設定した(
図9B-9D)。
【0169】
次に、インビトロで最適化した条件で、3つの異なる材料による同定可能性をマウスで試験した。2つのドナー対を1:2の比率でカプセル化する3つの材料(Z1-A34:FBRを軽減する陽性対照、PVLVG:非修飾対照、およびB1-A51:線維化を軽減できない陰性対照)を調製した。3つの材料の混合物(各マウスに20カプセル/材料)を、マウス(M1-M3)のIP腔に2週間移植した(
図10Aおよび
図10B)。カプセルを回収した後(
図10C)、線維化レベルに基づいて3つの群に分けた(
図10D)。合計45のカプセルをドナー同定のために選択し、対応する材料を決定した(
図10Eおよび
図10F)。400のドナーの組み合わせのうち、43/45(95.6%)のドナー対をうまく同定し、この混合ドナーバーコーディング戦略を、より大きな動物モデルで数百の材料をスクリーニングするために適用し得ることが示唆された。このコホートの結果は、以前に報告されたZ1-A34(免疫保護材料)が、UP-VLVG(非修飾アルギネート)に続いて、低線維化カプセルの数が最も多いことを示した。このデュアルバーコーディング戦略で数百の材料をスクリーニングする能力は、FBRを軽減する材料を同定するためのスクリーニングのハイスループットの可能性を指数関数的に拡大するであろう。
【0170】
リード材料によるヒト膵島カプセル化:ヒト膵島(Prodo Labs社製)をさらなる使用のためにPIM(S)培地(Prodo Labs)で培養した。培養した膵島を1200rpmで3分間遠心分離し、Caを含まないクレブス緩衝液で洗浄した。次いで、膵島を再度遠心分離した。次いで、膵島ペレットをZ4-A10の5%溶液(3%SLG100と70:30の比率で混合)に5,000膵島/1mLアルギネート溶液の膵島密度で再懸濁した。カプセルをBaCl
2溶液中で架橋し、サイズを1.5mmに調節した。架橋後、カプセルをHEPESで3回洗浄し、培地で2回再洗浄した。膵島は様々なサイズ(50~400μm)を有するため、カプセル化した膵島の総数を再計数し、膵島当量(IEQ)に変換した(
図12)。各カプセルの平均IEQは約10IEQ/カプセル(1×)であった。高密度カプセル(2×および4×密度)を作製するために、同じIEQを維持しながら、アルギネートの量をそれぞれ0.5mLおよび0.25mLに減らした。最後に、Z4-A10修飾アルギネートにより、約20IEQ/カプセル(2×)および約40IEQ/カプセル(4×)を作製した。対照材料としてSLG20を用い、続いて同じカプセル化法および膵島密度で行った。
【0171】
DNA抽出の最適化(インビトロ):1つのカプセルから抽出されるgDNAの量を増やすために、DNesayキット(Qiagen、カタログ#69054)を用いて異なるパラメーターを最適化した。新鮮なカプセルおよび急速凍結カプセルを、溶解条件の有無で比較した。10mM HEPES溶液中の50mM EDTAをカプセル溶解のために適用し、次いで250Gで5分間遠心分離した。ペレット化した細胞のみを続くDNA抽出工程に使用した。溶解していないカプセルも、比較としてホモジナイズ後に使用した。次に、異なる溶出温度設定(RT対56℃)に対して収率を試験した。最後に、インビボ試験に最適な細胞密度を決定するために、1カプセルあたりの異なる細胞数(5,000、10,000、20,000、40,000、および80,000細胞/カプセル)を比較した。
【0172】
単一カプセルからのDNA抽出およびNGS同定の最適化
個々のハイドロゲルカプセルは異なるHUVECからの独特の遺伝子型を含むため、各カプセルからgDNAを抽出することは、各材料のバーコードを同定するために必須の最初の段階である。
【0173】
細胞は架橋ハイドロゲルマトリックス内に存在し、これはハイドロゲルから細胞を分離するのを困難にする。細胞分離およびgDNA抽出段階を、溶解組成、細胞密度、および抽出温度を比較することにより、gDNA含量を増加させるように最適化した(
図4)。移植前のHUVECカプセルを用いて、異なる条件でのDNA抽出効率を比較した。まず、各カプセルをEDTA溶液で溶解した。一つのカプセルからDNAを抽出する前にカプセルをEDTAで溶解すると、DNA抽出効率が約5倍改善された(
図4A)。また、急速凍結カプセルは新鮮な試料と同様のDNA含量を示し、摘出したカプセルを急速凍結段階の後に将来の使用のために貯蔵し得ることが確認された。また、抽出DNA量を増やすために、異なる溶出条件を比較した(
図4B)。試料を56℃であらかじめ温めた溶出緩衝液で溶出すると、DNA含量が増加した。加えて、溶出量が増加すると、全DNA量も増加した。しかし、溶出量を増やすとDNA濃度は低下し、100μlの溶出緩衝液をさらなる分析の最適量として選択した。最後に、異なる細胞密度条件を比較することにより、カプセルあたりの細胞数を調節した(
図4C)。カプセルあたりの細胞密度が高まると、抽出DNA含量は上昇した。しかし、全DNA収量は減少し、したがって約20,000細胞/カプセルをカプセル化のための最小細胞密度と設定した。最適化条件を、摘出カプセルからgDNAを抽出するのに適用し、これらの抽出gDNA試料をNGS法の最適化に使用した。
【0174】
インビトロおよびインビボで摘出したカプセルから、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅と、続くSNP遺伝子型判定のためのNGSのために、高品質で十分なヒトDNA含量を有するDNA抽出に成功した。さらに、NGSライブラリー調製を、低いDNA投入量でもオンターゲット率を高めるように最適化した(
図5)。最後に、バイオインフォマティックパイプラインは、材料/ドナー同定のためのNGS解析プロセスのハイスループット戦略を示す(
図6)。
【0175】
NGSライブラリー調製ワークフローの最適化:カプセルから抽出されたDNAは低濃度であり、NGSライブラリー構築のための投入量は典型的には1ng未満であるため、PCR反応は、特にマルチプレックスPCRではプライマーダイマーになる傾向が高かった。ここで、プライマーダイマーを減らすためにライブラリー調製ワークフローを最適化した。最初のPCRは、5'-オーバーハング配列を含むマルチプレックスプライマーでSNPを増幅した。最初のPCRのプライマー濃度、PCRサイクル、およびアニーリング時間を、マルチプレックスPCRから生じ得るプライマーダイマーを減らすために調節した。オンプレート精製後、2回目のPCRは、ハミングバーコード配列およびSNPプライマーの5'-オーバーハング領域にアニールする配列を含む行特異的および列特異的プライマーで増幅することにより、ポジションバーコードを修正した。2回目のPCRの増幅サイクルも調節した。
【0176】
埋め込み/移植手術。
C57BL/6Jマウスにおける混合カプセルのIP移植:すべてのマウス実験はRice University's Institution Animal Care and Use Committee (IACUC)により承認された。免疫適格雄C57BL/6Jマウスをまず秤量し、ヒーティングパッド上で酸素中1~4%イソフルランで麻酔した。ブプレノルフィンを体重に基づいて皮下投与した(0.5mg/kg用量)。腹部を剃毛し、ベタジンおよびイソプロパノール洗浄を用いてそれぞれ3回ずつ消毒した。鋭利な刃で皮膚の0.5~10cmの正中切開を行った。次いで、腹膜壁を鉗子でつかみ、白線に沿って5mmの切開を行った。次いで、0.5ml量のカプセルを腹腔内に埋め込んだ。腹筋を吸収性縫合糸で閉鎖した。皮膚を縫合糸で閉鎖した。
【0177】
C57BL/6マウスにおけるカテーテル試料の皮下移植:非修飾およびコーティングカテーテルをn=6のC57BL/6マウス(Charles River Labs)の皮下腔に埋め込んだ。具体的には、各マウスの背部に1つの切開部位を作り、各カテーテル移植用に別の皮下ポケットを作った。切開部は縫合して閉鎖し、Rice Animal Resource Facilityの基準に従ってマウスをモニターし、世話をした。
【0178】
STZ誘導糖尿病C57BL/6Jマウスにおけるヒト膵島カプセルのIP移植と血糖モニタリング:インスリン依存性糖尿病マウスを作製するために、健常C57BL/6Jマウスをストレプトゾトシン(STZ)で処置した。連続5日間、7.5mg/ml濃度のSTZ溶液(50mg/kgのSTZ)をIP腔内に注射した。1時間の絶食後、全マウスの血糖(BG)値および体重を測定した。2日間連続でBG値が350mg/dLを超えたマウスのみを糖尿病とみなし、膵島移植に用いた。1×群では、ヒト膵島を含むカプセル200個を糖尿病マウスに移植した(マウス1匹あたり約2,000IEQ)。さらに、約20IEQ/カプセルのカプセルを100個および約40IEQ/カプセルのカプセルを50個、2×群および4×群に移植し、マウス1匹あたりのIEQ数は同じに維持した(マウス1匹あたり約2,000IEQ)。Z4-A10およびSLG20カプセルを含む膵島の移植後、BG値を週3回モニターした。BG値が250mg/dL未満のマウスを正常血糖とみなした。モニタリングはすべてのマウスが高血糖状態に戻るまで続け、その時点で安楽死させ、カプセルを回収した。マウスはインビボ糖負荷試験の前に4時間絶食させた。各マウスに1.5g/kgの食塩水中30%滅菌グルコース溶液を尾静脈注射によりボーラス投与した。グルコース注射後2時間、15分ごとに血糖値を測定した。
【0179】
NHPのIP腔内への腹腔鏡下でのカプセル移植:手術予定日に、NHP(雄モーリシャスカニクイザル)を鎮静し、麻酔した(承認された動物プロトコルによる)。前腹部を剃毛し、剣状突起から恥骨まで下処理した。小さい(2cm)臍上切開を行い、5~12mmのトロカールを挿入した。10~14mmHgの圧のCO2により気腹を形成した。加温食塩水で加温後、カメラをトロカールから腹腔内に挿入した。腹腔鏡下で、別の2つの小切開(1~2cm)を作り(左右の側腹部)、5~12mmのトロカールを腹腔内に挿入した。シリコンチューブでシリンジに接続した2mLの滅菌ピペットをトロカールから腹腔に挿入した。カプセルを、肝周囲、胃後部、脾周囲、左およびコロンフレクシウム(colonflexium)、網、および小腸後方に均等に分布させた。次いで、3つの小切開を、筋肉にはバイクリル3-0、および皮膚(皮下)には4-0バイクリルを用いて層状に閉鎖縫合した。動物の回復を手術室スタッフ、獣医学スタッフ、および技師が見守った。本試験における非ヒト霊長類の世話および使用を含む動物プロトコルは、開始前にUniversity of Illinois-Chicago (UIC) Institutional Animal Care and Use Committee (IACUC)によって検討され、承認された。すべての動物手順はGuidelines for Care and Use of Laboratory Animals of UICに従って実施した。
【0180】
材料の回収。
IP腔からのカプセル回収:移植の特定の期間に、各ラウンドから5匹のマウスをCO2投与下で安楽死させ、続いて頚椎脱臼させた。次いで、腹部の皮膚および腹膜壁に沿って鉗子およびハサミを用いて切開した。次いで、Ca+クレブス緩衝液を用いて、腹部からすべての材料カプセルを洗浄し、ペトリ皿に回収した。すべてのカプセルを洗浄したこと、または手作業で回収したことを確認した後、50mlのコニカルチューブに移した。クレブス緩衝液で数回洗浄した後、混合した摘出カプセルをさらなる撮像および選択のために処理した。
【0181】
腹腔鏡技術によるNHPのIP腔からのカプセル回収:NHPを鎮静し、麻酔した(承認されたプロトコルによる)。前腹部を剃毛し、剣状突起から恥骨まで下処理した。2cmの臍上切開を行い、5~12mmのトロカールを挿入した。10~14mmHgの圧のCO2により気腹を形成した。加温食塩水で加温後、カメラをトロカールから腹腔内に挿入した。腹腔鏡下で、別の切開(1~2cm)を作り(左右の側腹部)、5~12mmのトロカールを腹腔内に挿入した。マイクロカプセルの分布を記録するために、腹腔鏡画像とビデオを撮影した。網嚢から漏出した可能性のある骨盤腔内に存在し得るいかなる遊離カプセルも腹腔鏡下で洗浄するために、20~30ccの食塩水を使用した。本試験における非ヒト霊長類の世話および使用を含む動物プロトコルは、開始前にUniversity of Illinois-Chicago (UIC) Institutional Animal Care and Use Committee (IACUC)によって検討され、承認された。すべての動物手順はGuidelines for Care and Use of Laboratory Animals of UICに従って実施した。
【0182】
カテーテル摘出物の処理、固定、および組織学的検査:カテーテルおよび接着組織を一緒に注意深く取り出すことにより、カテーテルを4週間で摘出した。皮下カテーテル摘出物は皮膚に強力に接着し、筋肉に軽く付着した薄い膜で覆われていた(
図15)。カテーテル周囲の組織をカテーテルから約3mmで切断し、皮膚が接着したカテーテルをマウスから取り出した。摘出物を10%ホルマリン(Sigma)で4日間固定した後、PBSに移した。さらなる処理、切片化、および組織学的検査はBaylor Pathology and Histology Coreによって行われた。具体的には、試料をパラフィン包埋し、カテーテルの断面軸に沿って切断し、H&E染色した。
【0183】
摘出材料カプセルの撮像および選択:位相コントラスト画像法のために、カプセルをクレブス緩衝液を用いて穏やかに洗浄し、35mmペトリ皿に移し、Leica顕微鏡を用いて明視野および暗視野撮像を行った。カプセル表面の線維性過形成のレベルに基づいて、カプセルを3つの異なる群(L:低線維化群、M:中線維化群、H:高線維化群)に手動で分けた。選択した、線維化の少ない透明なカプセル(L群)は、急速凍結してDNA抽出に使用し、それ以外のカプセルは液体N2で急速凍結して-80℃でさらなる使用のために貯蔵した。
【0184】
生/死細胞染色:生/死検定で染色した細胞の蛍光撮像を行って、移植前または移植後いずれかのカプセルからのカプセル化したHUVECの生存度を調べた。各材料のカプセル5個をDPBSで洗浄し、完全培地中で2μMカルセインAMおよび4μM EthD-1で染色した。カプセルを30分間インキュベートし、蛍光フィルター付きEVOS顕微鏡を用いて撮像した。生細胞はGFPフィルターで緑色に、死細胞はTexas-Redフィルターで赤色に撮像された。(摘出カプセル-NSGマウス)NSGマウスから摘出したカプセルの場合、カプセルをCa+クレブス緩衝液で3回洗浄し、次いで染色液中でインキュベートした。各マウスからのカプセルを35mmペトリ皿に移し、DPBSで2回洗浄した。倍率2×で撮像し、得られた画像をつなぎ合わせてペトリ皿全体を観察した。
【0185】
ジチゾン染色:摘出した膵島カプセルをジチゾン(DTZ)で染色した。5mgのDTZを1mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、十分に混合し、5分間インキュベートした。4mLのDPBSを混合溶液に加え、0.22μmのフィルターでろ過した。膵島カプセルを35mmペトリ皿に入れ、PBSで3回洗浄した。次いで、カプセルをDTZ溶液中で5分間インキュベートし、DPBSで3回洗浄して、バックグラウンドの染色を除去した。染色したカプセルをLeica顕微鏡で撮像した。
【0186】
回収したマイクロカプセルからのタンパク質抽出およびコラーゲン含量の定量:マイクロカプセル表面に沈着した細胞/組織を、タンパク質抽出のためにRIPA緩衝液(カタログ#89901, Thermo Scientific, PA, USA)を用いて溶解した。簡単に言うと、カプセルからの細胞溶解には、マイクロカプセル100μlと、Halt(商標) Protease Inhibitor Cocktail(カタログ#78430, Thermo Scientific, PA, USA)を含む溶解緩衝液200μlとの比率を用いた。溶解物を12000rpm、4℃で20分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。ペレットを同量の溶解緩衝液で洗浄し、次いで12000rpm、4℃で20分間遠心分離した。上清を前のものと合わせ、抽出したタンパク質を将来の使用のために-80℃で貯蔵した。溶解物中のタンパク質濃度を、BCA検定(Pierce BCA Protein Assay Kit, カタログ#23225, Thermo Scientific, PA, USA)を用いて定量した。20μg量のタンパク質を含む各試料からの溶解物を水で100μLまで希釈し、37%塩酸と1:1の比率で混合し、次いで120℃で3時間加水分解した。得られた溶液を用いて、ヒドロキシプロリン検定キット(カタログ#MAK008, Sigma-Aldrich, MO, USA)を製造者の指示に従って用い、回収したマイクロカプセルのコラーゲン含量を測定した。560nmの吸光度を測定し、ヒドロキシプロリン標準のブランクの値をすべての測定値から差し引いた。ヒドロキシプロリン含量は、ヒドロキシプロリン標準曲線から決定した。
【0187】
共焦点撮像のための免疫蛍光染色:免疫蛍光染色のために、回収したマイクロカプセルをクレブス緩衝液で洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中、4℃で終夜固定した。試料をPBSで3回洗浄し、細胞を1%Triton X-100により室温で15分間透過処理した。PBSで洗浄後、試料をブロッキングのために1%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液中、室温で1時間インキュベートし、次いで抗体カクテル(1%BSA中の希釈率1:200のAlexa Fluor 488抗マウスCD68抗体(カタログ#137012, BioLegend, CA, USA)、1:200のAnti-mouse α-Smooth Muscle-Cy3(カタログ#C6198, Sigma-Aldrich, MO, USA)、および2滴/mlのDAPI(NucBlue Fixed Cell ReadyProbes Reagent, カタログ#R37606, Invitrogen, CA, USA)を含む染色液と共に室温で1時間インキュベートした。0.1%tween20溶液で洗浄後、試料をPBSで2回洗浄し、撮像のためにガラス底24穴プレート内の50%グリセロール溶液に移した。免疫蛍光撮像のためにNikon A1-Rsi共焦点顕微鏡を用いた。
【0188】
回収したカテーテルの組織学的処理(H&Eおよびマッソントリクローム染色)およびカテーテル上の組織過形成の組織学的評価:カテーテル摘出物の染色切片をLeica M165C光学顕微鏡で撮像した。カテーテル上の組織過形成の程度を判定するために、ImageJソフトウェアを用いてカテーテルと皮膚層との間の紫色の組織の暗色帯を測定した。この方法は、皮下インプラントに直接隣接する組織帯がH&Eで暗紫色に染色され、トリクロームで青色に染色されることを示す、Xieらの知見に基づいている(Xie et al., 2018)。トリクロームで青く染まるということは、この組織帯がコラーゲンに富んでいることを意味し、したがってこの組織が線維性過形成を示していることを示唆している。この相関ゆえに、暗紫色の組織を測定し、異なるコーティングを施したカテーテルに対する相対免疫応答を評価するために使用した。
【0189】
具体的には、カテーテル切片の画像を回転させて、隣接する皮膚組織を下向きにした。各画像について、組織の暗紫色帯を、皮膚組織に沿って等間隔に3回測定し、1カ所を恣意的に測定しないように平均化した。画像に焼き付けたスケールバーの長さを測定することで、ImageJのピクセル測定値をミリメートルに変換した。いくつかの切片は、カテーテルに対してより垂直に走る、大きい、薄紫色の組織帯を有することに留意されたい。これらは切開による瘢痕組織の一部であるため、測定中は特に回避した。
【0190】
摘出カプセルからのDNA抽出およびRT-qPCR。単一カプセルからのDNA抽出のために、本試験のために最適化した方法を適用した。摘出前または摘出後のカプセルからのカプセル化細胞を50mM EDTA中で15分間溶解し、5000rpmで10分間遠心分離した。上清を吸引し、細胞ペレットを200μlのPBSに懸濁した。DNeasyキット(Qiagen, カタログ番号69504)を製造者の指示に従い、わずかに変更して、最適化条件として用い、カプセル1個から全gDNAを単離した。簡単に言うと、細胞懸濁液をプロテイナーゼKおよびRNアーゼAによりRTで5分間溶解し、溶解緩衝液とともに56℃で20分間インキュベートした。エタノール添加後、上清をカラムに移し、洗浄緩衝液で2回洗浄した。DNAを56℃で加熱した溶出緩衝液で回収し、さらなる使用のために-20℃で貯蔵した。回収したマイクロカプセル(300~400μmサイズ)100μlから全RNAを抽出した。急速凍結したカプセルを氷上で解凍し、ホモジナイズし、RNeasy Mini Kit(Qiagen, カタログ番号74104)を製造者の指示通りに用いて処理した。抽出したRNAを、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems、カタログ番号4368814)を用いて、RT-qPCR用のcDNAに変換した。3μLのgDNA/cDNAを10μLの反応量でSYBR Green(PowerUp SYBR Green Master Mix; Applied Biosystems, カタログ番号A25741)と共に用いてリアルタイムqPCRを行い、PCR産物を定量した。PCRは以下の条件で行った:95℃で10秒間、48℃で20秒間、72℃で30秒間(40サイクル)、72℃で5分間、65℃で5秒間、および95℃での最終サイクル。すべての反応を三つ組みで行った。データを2-ΔΔCT法で解析し、マウスb-アクチン(ActB)およびSLG20(対照)に対して正規化した後、相対RNAレベルを比較した。本試験で使用したプライマーを表6に示す。
【0191】
【0192】
低線維化の免疫調節アルギネート類縁体を同定するためのNGS解析。
NGSライブラリー調製。個々のカプセル中のDNA含量を、試料の品質管理手順としてqPCRを用いて半定量的に評価し、Ct値は抽出したDNA含量に負の相関を示した。増幅可能なDNA含量を有する試料は、標的アンプリコンを増幅しバーコード化するために、2つのPCR段階を経る。96穴PCRプレートの個々のウェル中の各カプセルのDNAにより、最初のPCRを、遺伝子型プロファイルがHUVECドナーを独特に同定する30の非病原性SNPを標的とする、30プレックスプライマーを用いて、行った(表7)。30プレックスのプライマーはすべて5'-オーバーハング配列を含み、標的アンプリコンに対する汎用結合ドメインを組み込んだ。反応混合物は、各50nMの濃度の30プレックスSNPプライマーおよび1XのPhusion Hot Start Flex 2X Master Mixで構成された。反応条件は、98℃で30秒間の活性化、ならびに98℃で30秒間の変性、63℃で5分間のアニーリング、および72℃で1分間の伸長を7サイクルで、72℃で5分間インキュベートして反応を終了した(98℃:30秒-(98℃:10秒-63℃:5分-72℃:1分)×7-72℃:5分-4℃:保持に短縮)。AMPure XP磁気ビーズ(Beckman Coulter, カタログ番号A63881)を1.2倍の容量比で最初のPCR産物に加える。懸濁液を室温で5分間インキュベートし、次いで磁気スタンドに置き、上清を分離して捨てた。残った磁気ビーズを80%エタノールで2回洗浄し、DNA内容物を水に溶出した。2回目のPCRでは、オーバーハングハミング符号配列を有するプライマーを用いて、カプセル試料を独特にバーコード化した。合計12のバーコード化列特異的フォワードプライマーおよび8つのバーコード化行特異的リバースプライマーを互いに少なくとも3の距離を有するように設計し、12×8=96のカプセルのバーコーディングを可能にした。反応条件は、98℃:30秒-(98℃:10秒-63℃:1分-72℃:1分)×20-72℃:5分-4℃:保持)で、プライマー濃度は400nM、Phusion Hot Start Flex 2X Master Mixは1Xであった。行と列のバーコードは96穴プレート上の試料の位置を独特に決定し、したがってバーコード化アンプリコンをすべてのウェルからプールし、96の異なるカプセル試料からのSNP情報を含む単一のライブラリーを形成することができた(表8)。生成物を、前述のとおり、1.0×の容量比でAMPure XP磁気ビーズを用いて精製した。
【0193】
Illuminaシークエンスアダプターをライゲーションベースの方法で修正し、ライブラリーインデックスを、NEBNext Ultra II DNA Library Prep Kit for Illumina (NEB, カタログ番号E7645S)を製造者の指示に従って用いて、PCRにより付加した。ライブラリーの定量および品質管理はAgilent 2100 Bioanalyzerで行った。
【0194】
【0195】
【0196】
単一ドナー試料の解析。カプセル化材料を、同時カプセル化したHUVECドナー細胞によってバーコーディングし、したがってシークエンシングデータ解析によってHUVECドナーの同一性を決定することで、材料情報を明らかにすることができた。NGSのfastqデータを、同じDNA投入量から増幅された配列を再編成するために、行と列のバーコードによってデマルチプレックスした。標的アンプリコンに対する配列アライメントをbowtie2で行った。次いで、各アンプリコン配列について、grep関数を適用して優性アレルおよび変異アレルを検索し、各SNP座位の変異アレル頻度(VAF)を算出した。マウスに移植したカプセルは1つのHUVECドナーのみを含むため、分析物試料との一致率が最も高いHUVECドナーをバーコーディング細胞として同定した。
【0197】
デュアルドナー試料の解析:対数尤度を用いて、1つまたは2つのHUVECドナーをカプセル化した摘出試料を解析した。具体的には、ドナー細胞のすべての可能な組成についてSNP VAFプロファイルを計算した。式(1)のVAF
i,j,kは、ドナーiとドナーjを1:Rの比率で混合した場合のk番目のSNPの予想VAFを表す。ここで、20の異なるHUVECドナーのすべての可能な組み合わせは、20×20=400の異なる組成を有した。可能な各組成について、各SNPの観察したVAFは、観察値が組成のVAFにどれだけ近いか、または遠いかに応じて、確率、p(i.j,k)をガウス分布から計算した。各組成の全体対数尤度、Log(L
i,j)は、すべてのSNPの対数尤度を合計して得られ、全体対数尤度が最も高い組成をバーコーディング細胞組成として決定する。
【0198】
統計解析。材料スクリーニングの統計解析は、カスタマイズしたMATLABスクリプトを使用した。良好材料の回収率は生物学的複製(マウス数N=5)の間の平均値であった。また、各材料について二項分布から95%信頼区間のエラーバーを算出した。エラーバーが重複しない任意の2つの材料を、統計的に有意(p<0.05)と同定した。他のグラフの統計解析には、Bonferroni多重比較補正による一元配置または二元配置分散分析を用いた(****P<0.0001、***P<0.002)。
【0199】
C. 結果および考察
NGSスクリーニングおよび免疫無防備状態マウスにおけるスクリーニングの材料開発、方法開発。細胞バーコーディングを用いてインビボで免疫保護ハイドロゲルの大規模なライブラリーをスクリーニングするために、細胞カプセル化材料のインビボスクリーニングに続いて細胞カプセル化材料を同定するための一連の連続的方法であって、以下の段階を含む、方法を開発した:(a)1人または複数の対象に由来する複数のバーコード細胞を調製する段階であって、バーコード細胞の各組成は、各細胞カプセル化材料の遺伝子バーコードとして機能する複数のSNPの独特のプロファイルを含む、段階; (b)様々なカプセル化材料およびバーコード細胞を用いてカプセルを作製する段階;(c)試験対象にカプセルをインビボで移植する段階;(d)設定期間後にカプセルを摘出する段階;および(d)摘出した各カプセルのバーコード細胞における複数のSNPの塩基配列を決定する段階であって、それにより各カプセルの細胞カプセル化材料を同定する、段階(
図2A)。先に発表された報告は、774のコンビナトリカル合成したハイドロゲルライブラリーの開発、および類似の分子構造を有する3つのリードトリアゾール含有抗線維化共有結合修飾アルギネート類縁体の同定を示した(1)。注意深い構造解析により、リード類縁体間の共通性はトリアゾール(2個の炭素原子および3個の窒素原子を有する複素環式5員環)の存在にあることが示された。これは、トリアゾール含有分子が、マクロファージを含むこれらの生体材料表面の免疫細胞集団を調節して、それらの活性化を阻害し、線維化プロセスを妨害し得ることを示唆している。本原稿において、トリアゾール表面修飾によって、合計211の新しいアルギネート類縁体(カプセル化材料)を合成した(
図1)。トリアゾール類縁体をすべてで共通に維持することにより、共有結合した小分子官能基でアルギネート系ハイドロゲルのライブラリーを生成するための、コンビナトリアル生体材料アプローチを開発した。低分子量(MW)、高グルロン酸(G)含量の超高純度アルギネートUPVLVG(>60%G、約25kDa MW、NovaMatrix)を出発材料として用いた。3つの親水性PEG系リンカー(
図1、表2)を用いて、150の独特のポリマーを作製した。2つの疎水性リンカーを用いて、すべてトリアゾールを含む別の61の独特のポリマーを生成した(
図1、表2)。さらに、元素分析、核磁気共鳴分光法(NMR)、およびゲル化検定を用いて、共有結合物を特徴づけた(それぞれ
図3D、3E、および3A)。純度、溶解性およびゲル形成能を含む初期特徴づけ試験後、約149のアルギネート類縁体をインビボスクリーニング用に選択した(表3)。さらに、細胞を含む、または含まない、新しく形成したカプセルの様々なインビトロでの特徴づけを、1)ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の蛍光ベースの撮像を用いた生死検定、ならびに2)すべてのカプセルの均質な形状およびサイズを検証するための明視野および暗視野顕微鏡を用いて行った。HUVECの20の独特のドナーは、次世代シークエンシング(NGS)により配列決定され、それらの個々の一塩基多型(SNP)を同定するための独特のバーコーディングが確立されており、これを異なるカプセル化材料にタグ付けし、同定するためのバーコードとして用いた。インビトロおよびインビボで摘出したカプセルからDNA抽出をうまく行い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅と、続くヒトSNP同定のためのNGS用に高品質で十分なヒトDNAを得た。HUVEC細胞のディープシークエンシングにより、選択した30の非病原性SNPの遺伝子プロファイルが明らかになった。各SNP座位は、野生型(WT)アレルのホモ接合型、ヘテロ接合型、または変異アレルのホモ接合型の3つの遺伝子型のうちの1つを有し得た。30のSNPの遺伝子型は全体として、HUVEC細胞同定をあいまいに表現し得る独特の遺伝子プロファイルを形成した(
図2B)。
図2Cは、スクリーニングからの代表的な画像である(移植前および移植後)。したがって、それぞれの異なるハイドロゲル材料に単一のドナーHUVECをカプセル化することで、材料の同一性は、移植後の配列決定によって読み取ることができる細胞バーコードによって独特にタグ付けされる。単一カプセルからのgDNA抽出法を最適化し(
図4)、配列決定のためのDNA投入量を増大させた。さらに、NGSライブラリー調製および材料同定のためのワークフローを確立した(
図5および
図6)。
【0200】
すべてのドナー(H1~H20、表3)をNGSによりデコンボリューションし得ることを示すために、20の独特のHUVECをカプセル化した20の異なるハイドロゲルカプセル(211の新規ハイドロゲル類縁体のライブラリーから作製)の混合物をNSG(NOD SCIDガンマ)マウスの腹腔内(IP)に4週間移植した。NSGマウスは、正常な自然免疫機能を誘導するための成熟T細胞、B細胞、およびナチュラルキラー細胞を欠いている。免疫不全マウスにおけるスクリーニングにより、発明者らは移植した材料に対する宿主の免疫応答が最小限の状態で、この細胞バーコーディング戦略を評価することができる。回収後のカプセルの撮像は、最小限の細胞沈着を示し、線維化がなく、カプセル化した細胞の生存度が高いことを示した(
図2C)。1匹のマウスからのカプセルをNGS技術で解析し、200のカプセルのうち195(約96.5%)が、それらの独特の細胞バーコーディングに基づいてうまく同定された(
図2D)。同定されたパーセンテージはドナー間で均等に分布していた。これらの結果は、異なるHUVECドナーおよびNGS遺伝子型判定を用いた細胞バーコーディングが、材料の特性を変えることなく生体材料の同一性を判定するための適切な戦略として活用し得ることを示している。
【0201】
免疫適格マウスにおける材料スクリーニング。免疫応答のレベルを測定するために、これらの新しく合成したアルギネート類縁体を、新規ハイスループットインビボスクリーニング法を用いて評価した(
図7A)。20の異なるHUVECドナーの独特の一塩基多型(SNP)遺伝子型を使用して、各材料をバーコード化した。20の異なる材料の混合物(各材料につき10カプセル)を、各ラウンドの各マウスの腹腔内(IP)に移植した。この方法を用いて合計約150の新規材料をスクリーニングした。マウスへのインビボ移植の28日後、カプセルをIP腔から回収し、後処理を行って材料のドナー対を同定した(
図7B)。低線維化反応を示すカプセルは、理論に縛られることなく、材料が免疫保護特性を有することを示唆している。これらの摘出カプセルは20の異なる材料の混合物であったため、カプセル化したHUVECドナーは、対応する材料を見いだすためにハイスループット法を用いて同定すべきである。すべての摘出カプセルを、顕微鏡下での表面線維化レベルに基づき3つの群(L:低、M:中、H:高線維化カプセル)に分類した。低線維化(L)群のカプセルは、線維化沈着が少なく、表面が透明であった。これに対し、高線維化(H)群は、カプセル表面上の線維化組織の沈着が多く、その結果、カプセル間の線維性過形成による凝集体が形成された。2群間のカプセルは中程度の線維化群(M)と割り付けた。L群のカプセルだけを、NGS検定を用いた材料同定のために選択した(
図7C)。
【0202】
材料スクリーニングのスループットを高めるために、1回に96の抽出DNA試料のバッチを処理するようにワークフローを設計した。96穴PCRプレートでSNPアンプリコンを増幅した後、プレート上の各試料を、プレート上のそれらの位置を表すハミング符号を含むフォワードおよびリバースプライマーの独特の組み合わせによって位置バーコード化する。これにより、バーコード化アンプリコンを試料情報を失うことなくプールし、次いでプールしたライブラリーをイルミナプラットフォームでライゲーションベースの方法で配列決定のために処理することが可能となる。マウスにおけるインビボスクリーニングのために、このようなライブラリーの2つは、1匹の動物から摘出したカプセルをスクリーニングすることができ、推定シークエンシングスペースは約1150万リード(2000カバレッジ/プレックス×30プレックス×96試料/ライブラリーに基づく)、またはNextSeqフローセルの容量の2.9%であった。
【0203】
同定したすべてのカプセルをプロットし(
図7E)、抗炎症特性を有するヒット材料を見いだした。低線維化カプセルのパーセンテージは、材料の抗線維化性能を表していた(
図7E、表3)。各ラウンドで、材料ごとに10個のカプセルを移植し、したがってグラフを低線維化カプセルのパーセンテージ(移植カプセル数との比較)としてプロットした。その結果、合計15のアルギネート類縁体(
図7Eの青およびオレンジ色の棒グラフ)(
図7Eの緑色の棒グラフで示した1つの公知の材料、Z1-A34を含む)が50%を超える低線維化カプセルを示すことが判明し、これは移植した10のカプセルから平均5個のカプセルが透明であることを意味する。また、アルキンとリンカーの異なる組み合わせの線維化結果を可視化するために、スクリーニング結果をヒートマップとしてプロットした(
図7D)。これらの結果から、アルキンのいくつか(A3、A17、A19、A30、A43)が、異なるリンカーで低い線維化レベルを示したことが明らかである。これらのアルキンは、それぞれフェニル臭素、ピリジン、チオフェン、エトキシ、およびシクロプロピル官能基を含む(表2)。これらのアルキンのいくつかの類似点には、分枝構造の欠如および長い炭素鎖が含まれ、これらのアルキンを比較的コンパクトにしている。加えて、これらのアルキンはすべて炭素環構造を含み、そのほとんどが炭素環内またはその周辺に電気陰性原子(O、N、S、Br)を有する。
【0204】
図7Fは、FBRまたは線維化が最も低い、同定した上位3つのリードアルギネート類縁体(Z4-A10、Z2-A19、およびZ1-A3)(
図7Eのオレンジ色の棒)の化学構造を示す。3つの新しい類縁体はすべて骨格にトリアゾール部分を含み、線維化を妨げるトリアゾールの役割をさらに支持している。興味深いことに、3つのリード材料はすべて、トリアゾールへのブロモベンゼン(Z1-A3)、チオフェン(Z2-A19)およびエチニルベンゼン(Z4-A10)の官能基に加えて、アルギネートと結合した親水性ペグリンカーを有する(
図7F)。注目すべきことに、上位15のリードのうち、2つの疎水性類縁体のみが同定され(B2-A17およびB1-A34)、そのうちの1つは後にカテーテルコーティング適用に使用した。
【0205】
デュアルドナー細胞バーコーディングはハイスループットの可能性を広げる。この新規バーコーディング戦略を、より大きいバッチの抗線維化生体材料をスクリーニングするよう変換するために、デュアルドナーバーコーディング戦略を利用し、その実行可能性をNHPモデルで試験した。マウス1匹にはわずか20の異なる材料を移植した。これに対し、NHPモデルでは、移植可能なスペースの容量が大きいため、材料のバッチサイズを100に増やすことができ、その結果、スループットは5倍に増加した。単一ドナーのカプセル化では、そのスループットは利用可能な独特のドナーの数によって制限される。ここで、新しい細胞ドナーを購入および検証することなく、スクリーニングのスループットを増大させるために、デュアルドナーバーコーディング戦略を用いた新しい方法を考案した。2つの異なるHUVECを1:2の比率で混合することにより(
図8A)、わずか20のHUVECドナーで400の独特のバーコーディング組成の順列を作製し(
図8B)、これは既存のドナーのバーコーディング容量を大幅に拡大した。この比率により、コンボリューションした変異アレル頻度(VAF)は7つの可能性(0、1/6、1/3、1/2、2/3、5/6、および1)を含む。したがって、ドナー同定戦略を、個々のドナーとの直接比較から対数尤度分析に変更する(
図6)。すべての可能な組み合わせの尤度をガウス分布から評価し、混合ドナーの同一性を決定した。2つのドナーの混合比を最適化し(
図9)、小さいコホートスクリーニング(3つの材料の比較)を、デュアルドナーバーコーディング戦略の実行可能性を確認するために実施した(
図10)。
【0206】
400の新規デュアルバーコードの開発後、2つの異なるHUVECの独特の組み合わせ(1:2の比率)でカプセル化した100の独特のトリアゾール含有アルギネート類縁体(211の新しく合成した類縁体ライブラリー(
図1に表す)からランダムに選択)のセットを、NHPのIP腔に4週間移植した(材料あたり30カプセル)(
図5C)。移植前のカプセルの代表的な画像は、1.5 mmのカプセルの均質な分布を示した(
図8D)。移植前カプセルの生/死染色から、NHPへの移植前に細胞が生存可能であったことが確認される(
図8D)。4週間後、IP腔の浮動性カプセルをすべて回収し、NGS検定を用いての材料同定に用いた(白矢印:組織凝集カプセル、黄色矢印:浮動性カプセル、
図8E)。3000の移植カプセルから、合計503の浮動性カプセルを回収し、NGS分析に使用した結果、サンプリングしたカプセルの約92.6%を高い信頼性でうまく同定した(
図8F)。残りの7.4%のカプセルは、シークエンシング深度が不十分(N=5、失敗)か、またはバーコードのマッチング尤度が低い(N=32、信頼度が低い)ため、確信を持って同定できなかった。信頼空間におけるカプセルの分布を
図8Gにプロットした。この試験は、デュアルバーコーディング戦略を用いたNHPモデルにおける100の新材料のインビボスクリーニング適用性および実現可能性をうまく実証した。NHPのうち最小の線維化を示した100から4つのリードハイドロゲルを同定した(Z1-A2、Z4-A11、Z1-A27、およびZ2-A27、
図8H)。これら4つのハイドロゲルはすべて親水性リンカーを含む。興味深いことに、NHPスクリーニングからのこれら4つのリードは、マウス試験では上位15のリードとして同定されず、したがって本試験ではさらなる適用には使用しなかった。
【0207】
マウス試験でスクリーニングした新しいリード材料は、異物反応を緩和し、免疫応答から保護するための様々なコーティング適用に使用することができる。
化学的に修飾したアルギネートは、個々の設定で免疫適格マウスにおけるFBRを低減させる。スクリーニングに用いた材料はすべて、ハイスループットアッセイのために混合条件下で試験した。したがって、スクリーニングした上位リード材料が個々の設定で免疫保護特性を有するかどうかを確認することが望まれた。カプセルのサイズが小さいと短期間で免疫応答を誘発し得るため、300~400μmサイズのマイクロカプセルを2週間の移植について試験した。この試験には、上位10のリード材料、以前に報告された1つの陽性対照ハイドロゲル(Z1-A34)、および1つの陰性対照ハイドロゲル(SLG20)を使用した。マウスのIP腔への移植2週間後、暗視野画像は、対照よりもリード材料の線維化沈着が少ないことを示した(
図11A)。SLG20対照は、Z4-A10およびZ1-A3を含む選択したリード材料とは対照的に、免疫応答がより上昇し、ほとんどのマイクロカプセルが線維化組織内に凝集した。表面の線維化レベルを、マクロファージおよび線維芽細胞マーカーを含むカプセルの撮像とRT-qPCR分析によって決定した(
図11B~11C)6,50。免疫蛍光撮像(
図11B)から、Z4-A10およびZ1-A3は、SLG20対照と比較して、マクロファージ(CD68、緑)および筋線維芽細胞(α-SMA、赤)マーカーの強度が最も低く、低い線維化レベルが示された。線維化マーカー(α-SMAおよびCol1a1)の逆転写PCR分析により、リード材料は、SLG20と比較して、両マーカーの発現が大幅に低いことが判明し、線維化が低く、カプセル表面のコラーゲン沈着が減少していることが示された(
図11C)。Z4-A10およびZ1-A3は、すべての上位リードの中で、FBRの防止において最も有望であると思われ、したがって糖尿病げっ歯類における異種ヒト膵島の送達(Z4-A10)および医療グレードのカテーテルのコーティング(Z1-A3)を含む、さらなる適用が考慮された。これらの結果から、個々の設定でスクリーニングしたリード材料の抗線維化効果が確認され、様々な免疫調節適用の機会が提供された。
【0208】
免疫適格動物モデルにおいてリードハイドロゲルは異種ヒト膵島を用いて長期糖血症を回復させる
本発明の抗線維化アルギネート(Z4-A10、スキーム5および6)ハイドロゲルを用いて、異種ヒト膵島をカプセル化した。これらの製剤は高度に多孔性で抗線維化性のハイドロゲル外膜を提供して、インビボで長期間の栄養拡散、高い膵島生存度、および低線維化を可能にする。マウスでのハイスループットスクリーニングは、高密度の細胞負荷、1カプセルあたり約30,000のHUVECを用いて、密集してカプセル化された異種細胞を拒絶反応から保護し得る材料を同定するための選択圧を高めた。本明細書に記載の糖尿病補正試験のために、STZ誘導C57BL/6Jマウスにおいて、膵島の長期間の生存および保護を可能にするリード製剤の有効性を評価するために、カプセルあたりの同様の細胞密度(1カプセルあたり15K~60K細胞)を維持した。
【0209】
ヒト膵島の3つの異なる密度(アルギネート4K IEQ/mL、アルギネート8K IEQ/mL、アルギネート16K IEQ/mL、
図12)のカプセルを、ハイスループットスクリーニングで同定したリードトリアゾール含有アルギネートであるZ4-A10アルギネートを用いて調製した(
図7E~7F)。対照のSLG20カプセルは、4K IEQ/mLおよび16K IEQ/mLの膵島細胞密度で調製した。カプセル群(Z4-A10および対照SLG20)の移植前のジチゾン染色および生/死撮像により、膵島の生存性が示された(
図13A)。4K IEQ/mLの密度のZ4-A10カプセルは、長期間の正常血糖の回復を示し、データ記録の80日まで血糖補正を維持し、空腹状態の平均血糖(BG)値は250未満で、健常マウスのBG値と考えられた(
図13B)。しかし、同じ用量(IEQ密度4K/mL)の対照SLG20アルギネートでは、血糖補正を4週間より長く維持することができなかった。75日目の4時間の絶食後に静脈内ブドウ糖負荷試験(IVGTT)を行い、カプセル化膵島細胞は健常C57BL/6Jマウスと同等の比率まで正常血糖を回復した(
図13C)。さらに、回収後のカプセル画像(暗視野)では、SLG20と比較して、Z4-A10カプセルの表面上の線維性過形成は最小であった(
図13D)。ジチゾン染色もまた、移植80日後の長期膵島生存性を支持した(
図13E)。インスリン産生の代替バイオマーカーであるヒトc-ペプチドの濃度を、移植後80日のマウス血液から分離した血清から測定した。SLG20と比較してZ4-A10群ではより高いc-ペプチド分泌レベルが観察され、理論に縛られることなく、長期生存率の改善が示唆された(
図13F)。
【0210】
高密度カプセル化群において、16K IEQ/mL濃度のZ4-A10カプセルは、50日を超える長期血糖コントロール機能を維持することができた(
図13G)。これに対して、対照SLG20群は移植10日以下の間血糖コントロールを維持し得なかった(
図13H)。これらの結果は、ここでも理論に束縛されることなく、Z4-A10はカプセル化された膵島を異物反応から保護する能力が増強され、移植片のより長い生存性および機能を維持することを示唆している。
【0211】
リード抗線維化材料はカテーテルをコーティングする際に低い線維化を示す。新たに開発した小分子の線維化防止効果を、他の医療デバイスの文脈で試験するために、医療グレードのシリコーンカテーテルをプラズマ処理し、メタクリロル修飾Z1-A3(1つの新しい親水性リード)およびB2-A17(1つの新しい疎水性リード)でコーティングした(
図14A、スキーム7~10)。シリコーンカテーテルは本来疎水性である。したがって、親水性/疎水性が線維化の軽減に影響するかどうかを調べるために、1つの上位疎水性リード(B2-A17)および1つの親水性リード(Z1-A3)を選択した。XPSおよびToF-SIMSを用いて、非修飾およびコーティングカテーテルの表面化学を分析し、カテーテルのコーティング成功を確認した(
図14B~14C、
図14A~14C)。
【0212】
線維症を進行させるC57BL/6Jマウスモデルにおいて、非コーティングおよび小分子コーティングカテーテルでの線維化反応を調べるために、これらのカテーテルをマウスの皮下に4週間移植した。4週間後に摘出したカテーテルの組織学的検査および画像法により、小分子コーティングカテーテル(Met-Z1-A3およびMet-B2-A17)と比較して、非修飾カテーテル摘出物はカテーテルと皮膚組織との間に厚い濃紫色の組織沈着(これはコラーゲンが多く、線維性過形成23を示す)をもたらしたことが判明した(
図14D~14E、
図15D~15E)。その結果、理論に縛られることなく、小分子コーティングカテーテルは非修飾カテーテルよりもFBRを防止し得ることが示された。また、疎水性リード(Met-B2-A17)を疎水性シリコーンカテーテル23のコーティングに用いた場合、親水性リードの1つ(Met-Z1-A3)よりも線維性沈着の防止に優れていたことも注目に値する。
【0213】
上位20の性能良好なアルギネート類縁体のNMRデータ。
【0214】
スキーム1. B1-A51アミンの合成の略図。
質量分析およびNMRデータ:
【0215】
スキーム2. B1-A51によるアルギネートの修飾の略図。
NMRデータ:
元素分析:C:34.75%、H:8.55%、N:3.56%。
【0216】
スキーム3. Z1-A34アミンの合成の略図。
質量分析およびNMRデータ:
【0217】
スキーム4. Z1-A34によるアルギネートの修飾の略図。
NMRデータ:
元素分析:C:35.67%、H:4.34%、N:5.08%、O:33.50%。
【0218】
スキーム5. Z4-A10アミンの合成の略図。
質量分析およびNMRデータ:
【0219】
スキーム6. Z4-A10によるアルギネートの修飾の略図。
NMR:
元素分析:C:40.45%、H:5.60%、N:6.22%。
【0220】
スキーム7. Z1-A3アミンの合成の略図。
質量分析およびNMRデータ:
【0221】
スキーム8. Met-Z1-A3の合成の略図。
質量分析およびNMRデータ:
【0222】
スキーム9. B2-A17アミンの合成の略図。
質量分析およびNMRデータ:
【0223】
スキーム10:Met-B2-A27の合成の略図。
質量分析およびNMRデータ:
【0224】
【0225】
本明細書において開示し、特許請求する化合物、製剤、および方法はすべて、本開示に照らして過度の実験を行うことなく作製および実施することができる。本発明の化合物、製剤、および方法を好ましい態様に関して記載してきたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、化合物、製剤、および方法、ならびに本明細書に記載の方法の段階または段階の順序に変動を適用し得ることは当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的および生理学的に関連する一定の作用物質を、本明細書に記載の作用物質に置き換えても、同じまたは類似の結果が得られることは明らかであろう。当業者には明らかなこのような類似の代替物および改変はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
【0226】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に示すものを補足する例示的な手順または他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】