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特表2024-522412グラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法
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  • 特表-グラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】グラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 11/06 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
C09J11/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574279
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2022098064
(87)【国際公開番号】W WO2023216354
(87)【国際公開日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】202210520375.5
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522468548
【氏名又は名称】▲寧▼波柔▲タン▼▲電▼子科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】NINGBO SOFTCARBON ELECTRONIC TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】189 GUANGMING ROAD, ZHENHAI DISTRICT, NINGBO, ZHEJIANG 315201, CHINA
(71)【出願人】
【識別番号】510173476
【氏名又は名称】中国科学院▲寧▼波材料技▲術▼▲与▼工程研究所
【氏名又は名称原語表記】NINGBO INSTITUTE OF MATERIALS TECHNOLOGY & ENGINEERING,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.519 Zhuangshi Avenue,Zhenhai District,Ningbo,Zhejiang,315201 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 方君
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲ジャオ▼霞
(72)【発明者】
【氏名】汪 ▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 黎
(72)【発明者】
【氏名】▲魯▼ 淑芬
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 兆平
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040HB02
4J040HB03
4J040HB05
4J040HB07
4J040HB09
4J040HB12
4J040HB13
4J040HB14
4J040HB18
4J040HB19
4J040HB30
4J040HB36
4J040JA02
4J040JB11
4J040KA23
4J040LA11
4J040MA01
4J040MA02
4J040MA04
4J040MA05
4J040MA10
4J040MB09
4J040PA27
(57)【要約】
本発明は、5~95重量部の揮発性有機溶剤A及び95~5重量部の揮発性有機溶剤Bを含むグラフェンフィルムの転移用の接着剤を提供する。本発明では、遷移基板を使用しないので、コストが大幅に減少し、低コストの転移が実現される。また、接着剤が完全に揮発することが可能であるため、転移後のグラフェンに残留物がなく、グラフェンが純粋で汚染されるおそれがなく、転移後に高品質のグラフェンフィルムを得ることができ、また高品質の多層転移を実現し、多層グラフェンの品質を確保することもできる。その一方、グラフェンを任意の異なる目的基板に転移することができる。また、本発明で提供される転移方法では、操作が簡単で、制御性に優れ、再現性が高く、単枚の転移だけでなく、ロールツーロールの大面積の転移も図ることができ、転移後のグラフェンの高品質を維持することもでき、特に大規模な製造及び生産の普及及び応用に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機溶剤A 5~95重量部と、
揮発性有機溶剤B 95~5重量部と、
を含むグラフェンフィルムの転移用の接着剤であって、
前記揮発性有機溶剤Aが、ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、及び脂環式炭化水素系溶剤のうちの一種又は複数種を含み、
揮発性有機溶剤Bが、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、フェノール、及び石油エーテルのうちの一種又は複数種を含む、ことを特徴とする接着剤。
【請求項2】
前記揮発性溶剤が、水に溶けない及び/又はわずかに水に溶ける有機溶剤を含み、
前記グラフェンが、グラフェン層又はグラフェンフィルムを含み、
前記転移が、グラフェンフィルムを成長基板から目的基板に転移することであり、
前記転移の過程において、前記接着剤がグラフェンフィルムと目的基板との間に位置する、ことを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記成長基板が、金属基板を含み、
前記成長の方式が、化学蒸着法を含み、
前記転移の過程において、グラフェンフィルムと、接着剤と、目的基板とを圧合する工程を含み、
前記のグラフェンフィルムと目的基板との間に位置する接着剤が、具体的には有機溶剤液状フィルムである、ことを特徴とする請求項2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記金属基板が、銅箔、ニッケル箔、及び銅ニッケル合金のうちの一種又は複数種を含み、
前記目的基板が、プラスチック基板、一般的なガラス基板、石英基板、シリコンウェーハ基板、及び金属基板のうちの一種又は複数種を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項5】
前記ハロゲン化炭化水素系溶剤が、トリクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、及びペンタクロロエタンのうちの一種又は複数種を含み、
前記芳香族炭化水素系溶剤が、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンのうちの一種又は複数種を含み、
前記脂肪族炭化水素系溶剤が、ペンタン、及び/又はヘキサンを含み、
前記脂環式炭化水素系溶剤が、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサンのうちの一種又は複数種を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項6】
前記アルコール系溶剤が、オクタノール、及び/又はヘキサノールを含み、
前記エステル系溶剤が、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジメチル、及び酢酸ブチルのうちの一種又は複数種を含み、
前記エーテル系溶剤が、ジエチルエーテル、n-プロピルエーテル、及びアニソールのうちの一種又は複数種を含み、
前記ケトン系溶剤が、メチルイソブチルケトン、プロピオフェノン、及びメチルエチルケトンのうちの一種又は複数種を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項7】
前記揮発性溶剤の沸点が、50~250℃であり、
前記揮発性溶剤が、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、ペンタクロロエタン、トルエン、ペンタン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、メチルイソブチルケトン、フェノール、及び石油エーテルのうちの一種又は複数種を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項8】
1)金属基板上にグラフェンを成長させて金属基板/グラフェンの構造の材料を得る工程と、
2)揮発性有機溶剤の接着剤を上記の工程で得られた金属基板/グラフェンの構造の材料におけるグラフェンの面と目的基板との間に設置し、圧合した後、金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造の材料を得る工程と、
3)上記の工程の金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造の材料をエッチング液に置き、金属基板をエッチングして除去した後、グラフェン/液膜/目的基板の構造を得る工程と、
4)エッチング中、エッチング液から取り出す過程中、及びエッチング液から取り出した後のうちの1つまたは複数の段階において、上記の工程で得られたグラフェン/液膜/目的基板の構造から、液膜を揮発させた後、グラフェン/目的基板の構造の材料を得る工程と、を含み、
前記揮発性有機溶剤の接着剤が、請求項1~7のいずれか1項に記載のグラフェンフィルムの転移用の接着剤を含む、ことを特徴とするグラフェンフィルムの転移方法。
【請求項9】
前記設置の方式が、金属基板/グラフェンの構造の材料におけるグラフェンの面と目的基板とを揮発性溶剤接着剤に置くことを含み、
前記圧合の方式が、ロールプレス圧合及び/又はフラットプレス圧合を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の転移方法。
【請求項10】
前記圧合の圧力が0.01~1MPaであり、
前記ロールプレス圧合の圧合速度が0.1~2m/minであり、
前記圧合の時間が1~5sである、ことを特徴とする請求項9に記載の転移方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2022年05月13日に中国特許庁に出願され、出願番号202210520375.5、発明の名称「グラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法」である中国特許出願の優先権を主張し、その全内容を援用により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、グラフェンフィルムの転移の技術分野に属し、グラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、大面積のグラフェンは主にCVD法により金属基板(例えば、銅箔、ニッケル箔など)上に成長しており、どのようにグラフェンを金属基板上から任意の基板上に転移させるのが、グラフェンフィルムが広く利用されるかどうかの鍵である。従来のプロセスには、転移方法として次のように大きく分類される:
【0004】
1つ目は、遷移基板法を使用することである。遷移基板には、主に熱放出テープ(thermal release tape)、PMMA、シリカゲルなどが含まれる。具体的なプロセスとしては、遷移基板とグラフェン面付き金属基板とを合着して遷移基板/グラフェン/金属基板の構造を形成し、対応する方法により金属基板を除去し(この方法には化学エッチング法、電気化学的バブリング法などが含まれる)、残りの遷移基板/グラフェンの構造を目的基板と合着して遷移基板/グラフェン構造/目的基板を形成し、最後に、主に熱放出法、有機溶剤溶解法、他の物理方法などを含む、対応する方法により遷移基板を除去することである。
【0005】
2つ目は、接着剤法を使用することである。接着剤を使用して目的基板とグラフェン付き金属基板とを合着して目的基板/接着剤/グラフェン/金属基板の構造を形成する。対応する方法により金属基板を除去し(この方法には化学エッチング法、電気化学的バブリング法などが含まれる)、目的基板/接着剤/グラフェンを得ることができる。
【0006】
しかし、既存の転移方法にはまだ次の問題がある:
【0007】
第一:高いコストがかかる。遷移基板の使用には、例えば、高価の熱放出テープの導入で、遷移基板のコストが必然的に増加する。また、シリカゲルフィルムなどの他のタイプの遷移基板の導入で、コストも増加する。
【0008】
第二:操作が困難で、大面積の転移、特にロールツーロール転移には適していない。例えば、PMMAを使用する過程中には、操作に非常に注意を払う必要があり、大面積の転移に破損しやすい。
【0009】
第三:グラフェンの完全性を確保できないことがある。遷移基板を使用すると、グラフェンが往復転移される過程中で破損が発生しやすく、グラフェン転移の過程中でグラフェンが破損しないことを確保することができない。平易に言えば、転移工程が多ければ多いほど、破損しやすくなる。
【0010】
第四:転移後のグラフェンの清浄度を維持できないことがある。具体的には、遷移基板を完全に除去できないことが示されている。
【0011】
第五:従来の接着剤の使用は、光透過率などの物理的特性に悪影響を与える。グラフェンを基板上に転移すると、基板とグラフェンとの間に接着剤の薄層が残り、それにより、グラフェンフィルム製品の光透過率、電気伝導率に影響を与える恐れがあり、このグラフェン製品の使用範囲が大幅に制限されてしまう。
【0012】
第六:従来の接着剤を使用する場合、多層転移を行うことはできない。多層転移グラフェンで従来の接着剤を使用すると、2層のグラフェンの間に接着剤の薄層が残る恐れがあり、多層グラフェンを転移する意味が失われる。
【0013】
そこで、どのようにしてより適切なグラフェンフィルムの転移法を見つけて、既存のグラフェンフィルムの転移に存在する上記の問題を解决するのが、多くの前向きな最前線の研究者が解決すべく緊急な問題の一つとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記事情に鑑みて、本発明が解决しようとする技術的課題は、グラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法を提供することである。この特定の組成を有する接着剤をグラフェンの転移の過程に用いれば、グラフェンを任意の目的基板に低コストで非破壊的に転移することが可能になり、ロールツーロール成長プロセスに合わせて大規模な製造及び生産を図ることができ、また、グラフェンを複数回転移するによりグラフェンのシート抵抗を低減するという目的を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、揮発性有機溶剤A 5~95重量部と、揮発性有機溶剤B 95~5重量部とを含み、
前記揮発性有機溶剤Aが、ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、及び脂環式炭化水素系溶剤のうちの一種又は複数種を含み、
前記揮発性有機溶剤Bが、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、フェノール、及び石油エーテルのうちの一種又は複数種を含むグラフェンフィルムの転移用の接着剤を提供する。
【0016】
好ましくは、前記揮発性溶剤は、水に溶けない及び/又はわずかに水に溶ける有機溶剤を含み、
前記グラフェンは、グラフェン層又はグラフェンフィルムを含み、
前記転移は、具体的には、グラフェンフィルムを成長基板から目的基板に転移することであり、
前記転移の過程においては、前記接着剤がグラフェンフィルムと目的基板との間に位置する。
【0017】
好ましくは、前記成長基板は、金属基板を含み、
前記成長の方式は、化学蒸着法を含み、
前記転移の過程では、グラフェンフィルムと、接着剤と、目的基板とを圧合する工程を含み、
前記のグラフェンフィルムと目的基板との間に位置する接着剤は、具体的には有機溶剤液状フィルムである。
【0018】
好ましくは、前記金属基板は、銅箔、ニッケル箔、及び銅ニッケル合金のうちの一種又は複数種を含み、
前記目的基板は、プラスチック基板、一般的なガラス基板、石英基板、シリコンウェーハ基板、及び金属基板のうちの一種又は複数種を含む。
【0019】
好ましくは、前記ハロゲン化炭化水素系溶剤は、トリクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、及びペンタクロロエタンのうちの一種又は複数種を含み、
前記芳香族炭化水素系溶剤は、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンのうちの一種又は複数種を含み、
前記脂肪族炭化水素系溶剤は、ペンタン、及び/又はヘキサンを含み、
前記脂環式炭化水素系溶剤は、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサンのうちの一種又は複数種を含む。
【0020】
好ましくは、前記アルコール系溶剤は、オクタノール、及び/又はヘキサノールを含み、
前記エステル系溶剤は、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジメチル、及び酢酸ブチルのうちの一種又は複数種を含み、
前記エーテル系溶剤は、ジエチルエーテル、n-プロピルエーテル、及びアニソールのうちの一種又は複数種を含み、
前記ケトン系溶剤は、メチルイソブチルケトン、プロピオフェノン、及びメチルエチルケトンのうちの一種又は複数種を含む。
【0021】
好ましくは、前記揮発性溶剤の沸点は50~250℃であり、
前記揮発性溶剤は、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、ペンタクロロエタン、トルエン、ペンタン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、メチルイソブチルケトン、フェノール、及び石油エーテルのうちの一種又は複数種を含む。
【0022】
さらに、本発明は、
1)金属基板上にグラフェンを成長させて金属基板/グラフェンの構造の材料を得る工程と、
2)揮発性有機溶剤の接着剤を上記の工程で得られた金属基板/グラフェンの構造の材料におけるグラフェンの面と目的基板との間に設置し、圧合した後、金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造の材料を得る工程と、
3)上記の工程の金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造の材料をエッチング液に置き、金属基板をエッチングして除去した後、グラフェン/液膜/目的基板の構造を得る工程と、
4)上記の工程で得られたグラフェン/液膜/目的基板の構造から、エッチング中、エッチング液から取り出す過程中、及びエッチング液から取り出した後のうちの1つまたは複数の段階において、液膜を揮発させた後、グラフェン/目的基板の構造の材料を得る工程と、を含み、
前記揮発性有機溶剤の接着剤が、上記の技術案のいずれか1項に記載のグラフェンフィルムの転移用の接着剤を含むグラフェンフィルムの転移方法を提供する。
【0023】
好ましくは、前記設置の方式は、金属基板/グラフェンの構造の材料におけるグラフェンの面と目的基板とを揮発性溶剤接着剤に置くことを含み、
前記圧合の方式は、ロールプレス圧合及び/又はフラットプレス圧合を含む。
【0024】
好ましくは、前記圧合の圧力は0.01~1MPaであり、
前記ロールプレス圧合の圧合速度は0.1~2m/minであり、
前記圧合の時間は1~5sである。
【0025】
本発明は、5~95重量部の揮発性有機溶剤A及び95~5重量部の揮発性有機溶剤Bを含むグラフェンフィルムの転移用の接着剤であって、前記揮発性有機溶剤Aが、ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、及び脂環式炭化水素系溶剤のうちの一種又は複数種を含み、前記揮発性有機溶剤Bが、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、フェノール、及び石油エーテルのうちの一種又は複数種を含む接着剤を提供する。従来技術と比較して、本発明で提供される特定の組成を有する二成分接着剤は、接着剤として水性溶液に溶けない又はわずかに溶ける揮発性溶剤を利用したものである。この接着剤は、金属基板/グラフェンと目的基板との間に一層の液膜(以下の表現でこの接着剤を液膜と呼ぶ)を形成するという役割を果たす。毛細管力により、液膜は、金属基板/グラフェンと目的基板とを接着し、金属基板/グラフェンと目的基板がエッチング中に離れないことを確保することができる。金属基板がエッチング液でエッチングされると、この液膜は転移完了後に揮発するが、分子間力の存在により、グラフェンを目的基板に付着させることができる。本発明では、このような特定の水性溶液に溶けない又はわずかに溶ける組み合わせを採用することにより、金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造は水性エッチング液において液膜が溶液に溶解して金属基板/グラフェンが目的基板から分離してしまうことを生じないことが確保される。また、接着剤が揮発性を有し、金属基板がエッチングされた後、接着剤の揮発性のため、グラフェンが分子間力により目的基板にしっかりと付着する一方、グラフェンと目的基板との間に残留物がないことも確保され、グラフェンの高い光透過性を最大限に示させる。
【0026】
本発明で提供される水性溶液に溶けない又はわずかに溶ける二成分の有機溶剤を接着剤として使用すれば、液膜がエッチング液に溶解して金属基板/グラフェンが目的基板から分離するおそれがなく、グラフェンフィルムの完全性が確保される。また、接着剤が揮発性を有するため、金属基板が完全にエッチングされた後、接着剤が完全に揮発することが可能であり、グラフェンが分子間力により目的基板にしっかりと付着する一方、グラフェンと目的基板との間に残留物がないことも確保され、グラフェンの高い光透過性を最大限に示させる。このグラフェン転移方法によれば、グラフェンを任意の目的基板へ低コストで非破壊的に転移することができ、また、ロールツーロール成長プロセスを配合することにより、大規模な製造及び生産を図ることができ、また、グラフェンを複数回転移することでグラフェンのシート抵抗を低減させるという目的を達成することができる。
【0027】
本発明では、遷移基板を使用しないので、コストが大幅に減少し、低コストの転移が実現される。また、接着剤が完全に揮発することが可能であるため、転移後のグラフェンに残留物がなく、グラフェンが純粋で汚染されるおそれがなく、転移後に、高い光透過率、破損なし、低いシート抵抗などの高品質の特性を有する高品質のグラフェンフィルムを得ることができ、また高品質の多層転移を実現し、多層グラフェンの品質を確保することもできる。その一方、分子間力だけによって脱落しないことが可能になるので、グラフェンをプラスチック基板、一般的なガラス基板、石英基板、シリコンウェーハ基板、貴金属基板などの任意の異なる目的基板に転移することができる。また、本発明で提供される転移方法では、操作が簡単で、制御性に優れ、再現性が高く、単枚の転移だけでなく、ロールツーロールの大面積の転移も図ることができ、転移後のグラフェンの高品質を維持することもでき、特に大規模な製造及び生産の普及及び応用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明で提供されるグラフェンフィルム転移の過程のフロー概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明をさらに理解するために、以下に実施例を参照して本発明の好ましい実施形態について説明するが、こられの説明は、本発明の特許請求の範囲を限定するのではなく、本発明の特徴及び利点をさらに説明するために用いられたものだけであることを理解されたい。
【0030】
本発明のすべての原料は、その供給源が特に限定されず、市場で購入されたもの、又は当業者に周知の通常の方法で製造されたものであればよい。
【0031】
本発明のすべての原料は、その純度が特に限定されない。本発明では、好ましくは、分析純度又はグラフェン転移の分野で使用されている試薬の通常の純度を採用する。
【0032】
本発明は、揮発性有機溶剤A 5~95重量部と、揮発性有機溶剤B 95~5重量部とを含むグラフェンフィルムの転移用の接着剤であって、
前記揮発性有機溶剤Aが、ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、及び脂環式炭化水素系溶剤のうちの一種又は複数種を含み、
前記揮発性有機溶剤Bが、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、フェノール、及び石油エーテルのうちの一種又は複数種を含む接着剤を提供する。
【0033】
本発明においては、このグラフェンフィルムの転移用の接着剤が提供される。また、本発明は、揮発性有機溶剤の組み合わせがグラフェンフィルムの転移中において接着剤として用いられるという応用を提供する。ここで、前記揮発性有機溶剤の組み合わせは、5~95重量部の揮発性有機溶剤A及び95~5重量部の揮発性有機溶剤Bを含む。具体的には、前記接着剤は、二成分接着剤であることが好ましい。
【0034】
本発明においては、揮発性有機溶剤Aの添加量は、5~95重量部であり、25~75重量部であることが好ましく、45~55重量部であることがより好ましい。
【0035】
本発明においては、揮発性有機溶剤Bの添加量は、95~5重量部であり、75~25重量部であることが好ましく、55~45重量部であることがより好ましい。
【0036】
本発明においては、前記揮発性有機溶剤Aは、ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、及び脂環式炭化水素系溶剤のうちの一種又は複数種を含み、ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤又は脂環式炭化水素系溶剤であることが好ましい。
【0037】
本発明においては、前記揮発性有機溶剤Bは、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、フェノール、及び石油エーテルのうちの一種又は複数種を含み、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、フェノール又は石油エーテルであることが好ましい。
【0038】
本発明においては、前記揮発性溶剤は、水に溶けない及び/又はわずかに水に溶ける有機溶剤を含むことが好ましく、水に溶けない又はわずかに水に溶ける有機溶剤であることがより好ましい。
【0039】
本発明においては、前記グラフェンは、グラフェン層又はグラフェンフィルムを含むことが好ましい。
【0040】
本発明においては、前記転移は、具体的には、グラフェンフィルムを成長基板から目的基板に転移させることであることが好ましい。
【0041】
本発明においては、前記転移の過程では、前記接着剤は、グラフェンフィルムと目的基板との間に位置することが好ましい。
【0042】
本発明においては、前記成長基板は、金属基板を含むことが好ましい。
【0043】
本発明においては、前記成長の方式は、化学蒸着法を含むことが好ましい。
【0044】
本発明においては、前記転移の過程では、グラフェンフィルムと、接着剤と、目的基板とを圧合する工程を含むことが好ましい。
【0045】
本発明においては、前記のグラフェンフィルムと目的基板との間に位置する接着剤は、具体的には有機溶剤液状フィルムであることが好ましい。
【0046】
本発明においては、前記金属基板は、銅箔、ニッケル箔、及び銅ニッケル合金のうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、銅箔、ニッケル箔又は銅ニッケル合金であることがより好ましい。
【0047】
本発明においては、前記目的基板は、プラスチック基板、一般的なガラス基板、石英基板、シリコンウェーハ基板、及び金属基板のうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、プラスチック基板、一般的なガラス基板、石英基板、シリコンウェーハ基板又は金属基板であることがより好ましい。
【0048】
本発明においては、前記ハロゲン化炭化水素系溶剤は、トリクロロメタン、トリクロロエタン、-テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、及びペンタクロロエタンのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、トリクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、又はペンタクロロエタンであることがより好ましい。
【0049】
本発明においては、前記芳香族炭化水素系溶剤は、ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレン又はエチルベンゼンであることがより好ましい。
【0050】
本発明においては、前記脂肪族炭化水素系溶剤は、ペンタン、及び/又はヘキサンを含むことが好ましく、ペンタン又はヘキサンであることがより好ましい。
【0051】
本発明においては、前記脂環式炭化水素系溶剤は、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサンのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、シクロヘキサン、シクロヘキサノン又はメチルシクロヘキサンであることがより好ましい。
【0052】
本発明においては、前記アルコール系溶剤は、オクタノール、及び/又はヘキサノールを含むことが好ましく、オクタノール又はヘキサノールであることがより好ましい。
【0053】
本発明においては、前記エステル系溶剤は、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジメチル、及び酢酸ブチルのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジメチル又は酢酸ブチルであることがより好ましい。
【0054】
本発明においては、前記エーテル系溶剤は、ジエチルエーテル、n-プロピルエーテル、及びアニソールのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、ジエチルエーテル、n-プロピルエーテル又はアニソールであることがより好ましい。
【0055】
本発明においては、前記ケトン系溶剤は、メチルイソブチルケトン、プロピオフェノン、及びメチルエチルケトンのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、メチルイソブチルケトン、プロピオフェノン、又はメチルエチルケトンであることがより好ましい。
【0056】
本発明においては、前記揮発性溶剤の沸点は、50~250℃であることが好ましく、90~210℃であることがより好ましく、130~180℃であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明においては、前記揮発性溶剤は、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、ペンタクロロエタン、トルエン、ペンタン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、メチルイソブチルケトン、フェノール、及び石油エーテルのうちの一種又は複数種を含むことが好ましく、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、ペンタクロロエタン、トルエン、ペンタン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、メチルイソブチルケトン、フェノール、又は石油エーテルであることがより好ましい。
【0058】
本発明は、
1)金属基板上にグラフェンを成長させて金属基板/グラフェンの構造の材料を得る工程と、
2)揮発性有機溶剤の接着剤を上記の工程で得られた金属基板/グラフェンの構造の材料におけるグラフェンの面と目的基板との間に設置し、圧合した後、金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造の材料を得る工程と、
3)上記の工程の金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造の材料をエッチング液に置き、金属基板をエッチングして除去した後、グラフェン/液膜/目的基板の構造を得る工程と、
4)上記の工程で得られたグラフェン/液膜/目的基板の構造から、エッチング中、エッチング液から取り出す過程中、及びエッチング液から取り出した後のうちの1つまたは複数の段階において、液膜を揮発させた後、グラフェン/目的基板の構造の材料を得る工程と、を含み、
前記揮発性有機溶剤の接着剤が、上記の技術案のいずれか1項に記載のグラフェンフィルムの転移用の接着剤を含む、グラフェンフィルムの転移方法を提供する。
【0059】
本発明では、まず、金属基板上にグラフェンを成長させて金属基板/グラフェンの構造の材料を得る。
【0060】
本発明では、さらに、揮発性有機溶剤の接着剤を上記の工程で得られた金属基板/グラフェンの構造の材料におけるグラフェンの面と目的基板との間に設置し、圧合した後、金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造の材料を得る。
【0061】
前記揮発性有機溶剤の接着剤は、上記の技術案中のいずれか1項に記載のグラフェンフィルムの転移用の接着剤を含む。
【0062】
本発明においては、前記設置の方式は、金属基板/グラフェンの構造の材料におけるグラフェンの面と目的基板とを揮発性溶剤接着剤中に配置することを含むことが好ましい。
【0063】
本発明においては、前記圧合の方式は、ロールプレス圧合及び/又はフラットプレス圧合を含むことが好ましく、ロールプレス圧合又はフラットプレス圧合であることがより好ましい。
【0064】
本発明においては、前記圧合の圧力は、0.01~1MPaであることが好ましく、0.05~0.8MPaであることがより好ましく、0.1~0.6MPaであることがさらに好ましく、0.3~0.4MPaであることが特に好ましい。
【0065】
本発明においては、前記ロールプレス圧合の圧合速度は、0.1~2m/minであることが好ましく、0.5~1.6m/minであることがより好ましく、0.9~1.2m/minであることがさらに好ましい。
【0066】
本発明においては、前記圧合の時間は、1~5sであることが好ましく、1.5~4.5sであることがより好ましく、2~4sであることがさらに好ましく、2.5~3.5sであることが特に好ましい。
【0067】
本発明では、次に、上記の工程の金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造の材料をエッチング液に置き、金属基板をエッチングして除去した後、グラフェン/液膜/目的基板の構造を得る。
【0068】
本発明では、最後に、上記の工程で得られたグラフェン/液膜/目的基板の構造から、エッチング中、エッチング液から取り出す過程中、及びエッチング液から取り出した後のうちの1つまたは複数の段階において、液膜を揮発させた後、グラフェン/目的基板の構造の材料を得る。
【0069】
本発明では、全体的な転移工程を完成化及び細分化し、転移中のグラフェンフィルムの特性及び構造の安定をよく確保し、転移の過程の操作性及び高効率性を向上させる。上記のグラフェンフィルムの転移方法は、具体的に以下の工程でよい。
【0070】
工程(1):化学蒸着法により対応する金属基板上にグラフェンを成長させて金属基板/グラフェン構造を得る。
【0071】
工程(2):上記の接着剤を用いて金属基板/グラフェンにおけるグラフェンの面と目的基板とをロールプレス圧合又はフラットプレス圧合により合着し、金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造を形成する。
【0072】
工程(3):金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造をエッチング液に置き、金属基板を除去した後、グラフェン/液膜/目的基板の構造を得る。
【0073】
工程(4):エッチング及びエッチング液から取り出す過程においては、液膜が急速に揮発し、グラフェン/目的基板の構造を得、それを洗浄して乾かすことにより、清潔なグラフェン/目的基板の構造が得られる。
【0074】
具体的には、金属基板は、表面にグラフェンが成長している金属で、銅箔、ニッケル箔、銅ニッケル合金などでよい。
【0075】
具体的には、目的基板としては、プラスチック基板、一般的なガラス基板、石英基板、シリコンウェーハ基板、金属基板などがある。
【0076】
具体的には、接着剤(液膜)としては、ロールプレス圧合又はフラット圧合後に金属基板/グラフェンと目的基板との間に分布する一層の薄い有機溶剤液状フィルムである。この有機溶剤の沸点は50~250℃であり、室温での飽和蒸気圧は133.32Paを超える。
【0077】
本発明に係る揮発性有機溶剤Aとしては、ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤又は脂環式炭化水素系溶剤がある。
【0078】
具体的には、ハロゲン化炭化水素系としては、例えばトリクロロメタンCHCl、トリクロロエタンCCl、テトラクロロエタンCCl、テトラクロロエチレンCCl、ペンタクロロエタンCHClなどがある。
【0079】
具体的には、芳香族炭化水素系としては、例えばベンゼンC、トルエンC、キシレンC10、エチルベンゼンC10などがある。
【0080】
具体的には、脂肪族炭化水素系としては、例えばペンタンC12、ヘキサンC14などがある。
【0081】
具体的には、脂環式炭化水素系としては、例えばシクロヘキサンC12、シクロヘキサノンC10O、メチルシクロヘキサンC14などがある。
【0082】
本発明に記載されている揮発性有機溶剤Bとしては、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、フェノール又は石油エーテルがある。
【0083】
具体的には、アルコール系としては、例えばオクタノールC18O、ヘキサノールC14Oなどがある。
【0084】
具体的には、エステル系としては、例えば酢酸エチルC、酢酸メチルC、炭酸ジメチルC、酢酸ブチルC12などがある。
【0085】
具体的には、エーテル系としては、例えばジエチルエーテルC10O、n-プロピルエーテルC14O、アニソールCOなどがある。
【0086】
具体的には、ケトン系としては、例えばメチルイソブチルケトンC12O、プロピオフェノンC10O、メチルエチルケトンCOなどがある。
【0087】
具体的には、その他には、例えばフェノールCO、石油エーテルなどがある。
【0088】
より具体的には、前記揮発性有機溶剤Aは、テトラクロロエタンCCl、テトラクロロエチレンCCl、ペンタクロロエタンCHCl、トルエンC、又はペンタンC12であってもよい。前記揮発性有機溶剤Bは、酢酸エチルC、炭酸ジメチルC、メチルイソブチルケトンC12O、フェノールCO、石油エーテルであってもよい。
【0089】
図1を参照する。図1は、本発明で提供されるグラフェンフィルム転移の過程のフロー概略図である。ここで、1-金属基板、2-グラフェン、3-液膜、4-目的基板である。
【0090】
本発明の上記内容では、グラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法が提供される。本発明で提供される特定の組成を有する二成分接着剤は、接着剤として水性溶液に溶けない又はわずかに溶ける揮発性溶剤を利用したものである。この接着剤は、金属基板/グラフェンと目的基板との間に一層の液膜を形成するという役割を果たす。毛細管力により、液膜は、金属基板/グラフェンと目的基板とを接着し、金属基板/グラフェンと目的基板がエッチング中に離れないことを確保することができる。金属基板がエッチング液でエッチングされると、この液膜は転移完了後に揮発するが、分子間力の存在により、グラフェンを目的基板に付着させることができる。本発明では、このような特定の水性溶液に溶けない又はわずかに溶ける組み合わせを採用することにより、金属基板/グラフェン/液膜/目的基板の構造は水性エッチング液において液膜が溶液に溶解して金属基板/グラフェンが目的基板から分離してしまうことを生じないことが確保される。また、接着剤が揮発性を有し、金属基板がエッチングされた後、接着剤の揮発性のため、グラフェンが分子間力により目的基板にしっかりと付着する一方、グラフェンと目的基板との間に残留物がないことも確保され、グラフェンの高い光透過性を最大限に示させる。
【0091】
本発明で提供される水性溶液に溶けない又はわずかに溶ける二成分の有機溶剤を接着剤として使用すれば、液膜がエッチング液に溶解して金属基板/グラフェンが目的基板から分離するおそれがなく、グラフェンフィルムの完全性が確保される。また、接着剤が揮発性を有するため、金属基板が完全にエッチングされた後、接着剤が完全に揮発することが可能であり、グラフェンが分子間力により目的基板にしっかりと付着する一方、グラフェンと目的基板との間に残留物がないことも確保され、グラフェンの高い光透過性を最大限に示させる。このグラフェン転移方法によれば、グラフェンを任意の目的基板へ低コストで非破壊的に転移することができ、また、ロールツーロール成長プロセスを配合することにより、大規模な製造及び生産を図ることができ、また、グラフェンを複数回転移することでグラフェンのシート抵抗を低減させるという目的を達成することができる。
【0092】
本発明では、遷移基板を使用しないので、コストが大幅に減少し、低コストの転移が実現される。また、接着剤が完全に揮発することが可能であるため、転移後のグラフェンに残留物がなく、グラフェンが純粋で汚染されるおそれがなく、転移後に、高い光透過率、破損なし、低いシート抵抗などの高品質の特性を有する高品質のグラフェンフィルムを得ることができ、また高品質の多層転移を実現し、多層グラフェンの品質を確保することもできる。その一方、分子間力だけによって脱落しないことが可能になるので、グラフェンをプラスチック基板、一般的なガラス基板、石英基板、シリコンウェーハ基板、貴金属基板などの任意の異なる目的基板に転移することができる。また、本発明で提供される転移方法では、操作が簡単で、制御性に優れ、再現性が高く、単枚の転移だけでなく、ロールツーロールの大面積の転移も図ることができ、転移後のグラフェンの高品質を維持することもでき、特に大規模な製造及び生産の普及及び応用に適している。
【0093】
本発明をさらに説明するためには、以下に実施例を参照しながら本発明で提供されるグラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法について詳細に説明するが、これらの実施例が本発明の技術案を前提として実施され、記載された詳細な実施形態及び具体的な操作過程が本発明の特許請求の範囲を限定するのではなく、本発明の特徴及び利点をさらに説明するために用いられるものだけであり、本発明の保護範囲も以下の実施例に限定されないことを理解されたい。
【実施例
【0094】
実施例1
【0095】
1.化学蒸着法によりニッケル箔表面にグラフェンを成長させてニッケル箔/グラフェン構造を得た。
【0096】
2.フェノールCO、およびフェノールCOとシクロヘキサンC12が7:3の質量比として混合した溶液をそれぞれ接着剤として用い、ニッケル箔/グラフェンにおけるグラフェンの面とシリコンウェーハを積層機で圧合し、ニッケル箔/グラフェン/液膜/シリコンウェーハの構造を形成した。
【0097】
3.ニッケル箔/グラフェン/液膜/シリコンウェーハをエッチング液に置いてニッケル箔を除去し、液膜がエッチング完了後に急速に揮発し、グラフェン/シリコンウェーハの構造を得、最後にそれを洗浄して乾かし、清潔なグラフェン/シリコンウェーハを得た。
【0098】
ここで、フェノールCOを接着剤とした場合、転移後のグラフェンのシート抵抗が220Ω/□であった。フェノールCOとシクロヘキサンC12を接着剤とした場合、転移後のグラフェンのシート抵抗が200Ω/□であった。
【0099】
実施例2
【0100】
1.化学蒸着法により銅箔表面にグラフェンを成長させて銅箔/グラフェンの構造を得た。
【0101】
2.テトラクロロエタンCClと酢酸エチルCが9:1の質量比として混合した溶液を接着剤として用い、銅箔/グラフェンにおけるグラフェンの面とPETを積層機で圧合し、銅箔/グラフェン/液膜/PETの構造を形成した。
【0102】
3.銅箔/グラフェン/液膜/PETをエッチング液に置いて銅箔を除去し、液膜がエッチング完成後に急速に揮発し、グラフェン/PETの構造を得、最後にそれを洗浄して乾かし、清潔なグラフェン/PETを得た。グラフェンのシート抵抗が180Ω/□であった。
【0103】
4.清潔なグラフェン/PETを目的基板として上記の工程を繰り返し、多層グラフェン/PETを得た。二層グラフェンのシート抵抗が100Ω/□であり、三層グラフェンのシート抵抗が70Ω/□であった。
【0104】
実施例3
【0105】
1.化学蒸着法によりロールツーロールのグラフェン成長設備を使用して銅箔表面にグラフェンを成長させて巻き取られた銅箔/グラフェンの構造を得た。
【0106】
2.ロールツーロールの転移設備を使用し、巻き取られた銅箔/グラフェンにおけるグラフェンの面とPETを、ペンタクロロエタンCHClとメチルイソブチルケトンC12Oが8:2の質量比として混合した溶液を接着剤として使用して、連続的にロールツーロール合着してから、順次にエッチングタンクと洗浄タンクに入れて、巻き取られた清潔なグラフェン/PETを得た。グラフェンのシート抵抗が190Ω/□であった。
【0107】
比較例1
【0108】
1.化学蒸着法により銅箔表面にグラフェンを成長させて銅箔/グラフェンの構造を得た。
【0109】
2.光硬化性接着剤を用いて銅箔/グラフェンにおけるグラフェンの面とPETを積層機で圧合し、UV光硬化機で光硬化性接着剤を硬化させ、銅箔/グラフェン/光硬化性接着剤/PETの構造を形成した。
【0110】
3.銅箔/グラフェン/光硬化性接着剤/PETをエッチング液に置き、銅箔を除去した後にグラフェン/光硬化性接着剤/PETを得た。
【0111】
4.グラフェン/光硬化性接着剤/PETをエッチング液から取り出し、洗浄して乾かすと清潔なグラフェン/光硬化性接着剤/PETを得た。グラフェンのシート抵抗が210Ω/□であった。
【0112】
表1を参照する。表1には、本発明の実施例及び比較例で提供されるグラフェンフィルムの転移後の性能データの比較を示す。
【0113】
【表1】
【0114】
以上、本発明で提供されるグラフェンフィルムの転移用の接着剤、及びグラフェンフィルムの転移方法について詳細に説明した。本明細書では具体例を用いて本発明の原理及び実施形態について述べたが、上記実施例の説明は、最良の態様、本発明の方法及びその要旨を理解するために使用されるものであり、それにより、当業者が、任意の装置又はシステムの製造や使用、及び任意の組み合わせた方法を含む本発明を実践することも可能にする。なお、当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、本発明に対していくつかの改良や修飾を行う可能性もあり、これらの改良及び修飾も本発明の特許請求の範囲内に含まれることに留意されたい。本発明の特許保護の範囲は請求項によって限定されるが、当業者が想到し得る他の実施例も含む。これらの他の実施例が請求項の文字表現と異なるものではない構造要素を有する場合、又はそれらが請求項の文字表現と実質的な相違のない同等の構造要素を含む場合、それらの他の実施例も請求項の範囲内に含まれるべきである。
図1
【国際調査報告】