(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞をエストラジオール分泌細胞に分化誘導する誘導剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20240614BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240614BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/0775
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537987
(86)(22)【出願日】2023-01-04
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2023070348
(87)【国際公開番号】W WO2023226441
(87)【国際公開日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】202210579694.3
(32)【優先日】2022-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520514780
【氏名又は名称】青島瑞思徳生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】陳梦梦
(72)【発明者】
【氏名】張炳強
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065BA30
4B065BB02
4B065BB04
4B065BB06
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4B065BD27
4B065BD29
4B065BD32
4B065BD39
4B065BD41
4B065BD50
4B065CA02
4B065CA05
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、生物医学の分野に属し、間葉系幹細胞をエストラジオール分泌細胞に分化誘導する誘導剤に関する。間葉系幹細胞をエストラジオール分泌細胞に分化誘導する誘導剤は、ヒト間葉系幹細胞無血清培地を基質とし、骨形成タンパク質4 20~60mg/L、骨形成タンパク質7 20~60mg/L、レチノイン酸 2~8mg/L、レスベラトロール 2~8mg/L、イカリイン 2~8mg/L、ベンズアミド 2~8ug/L、塩化白金酸六水和物 2~8ug/L、エタノールアミン 2~8ug/L、エリスロポエチン 2~10ug/L、血管内皮細胞増殖因子 2~10ug/Lからなる。本発明の間葉系幹細胞をエストラジオール分泌細胞に分化誘導する誘導剤は、誘導効率が高い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト間葉系幹細胞無血清培地を基質とし、骨形成タンパク質4 20~60mg/L、骨形成タンパク質7 20~60mg/L、レチノイン酸 2~8mg/L、レスベラトロール 2~8mg/L、イカリイン 2~8mg/L、ベンズアミド 2~8ug/L、塩化白金酸六水和物 2~8ug/L、エタノールアミン 2~8ug/L、エリスロポエチン 2~10ug/L、血管内皮細胞増殖因子 2~10ug/Lからなる、ことを特徴とする間葉系幹細胞をエストラジオール分泌細胞に分化誘導する誘導剤。
【請求項2】
ヒト間葉系幹細胞無血清培地を基質とし、骨形成タンパク質4 50mg/L、骨形成タンパク質7 50mg/L、レチノイン酸 8mg/L、レスベラトロール 6mg/L、イカリイン 6mg/L、ベンズアミド 4ug/L、塩化白金酸六水和物 6ug/L、エタノールアミン 4ug/L、エリスロポエチン 5ug/L、血管内皮細胞増殖因子 5ug/Lからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞をエストラジオール分泌細胞に分化誘導する誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に属し、間葉系幹細胞をエストラジオール分泌細胞に分化誘導する誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンは、女性の生涯においていかなるホルモンでも取って代わることができないほど大きな作用を発揮し、女性の第二次性徴の発達や維持を主導し、女性の体内環境の安定性を調整し、女性のライフサイクルを制御し、女性の周期的な月経、女性の生殖能力、女性らしい丸みのある体形などは、すべてエストロゲンの作用と関係がある。体内に生理的に存在するエストロゲンは主に、卵巣、卵胞、黄体及び胎盤から生成されるエストラジオール(E2)、エストロン及びエストリオールの3種類があり、エストロゲンが不足すると、女性の多くの器官の機能低下を引き起こす恐れがある。
【0003】
早発卵巣不全(POF)とは、卵巣機能が低下して40歳未満で月経がなくなる状態を指す。症状としては、原発性又は続発性の無月経による血中性腺刺激ホルモン濃度の上昇やエストロゲン濃度の低下、また、ほてり、多汗症、顔面紅潮、性欲低下などの異なる程度の一連の低エストロゲン症状を伴うことである。現在、POF女性に対して、エストロゲン濃度低下による様々な合併症を改善するために、ホルモン補充療法を用いるのが一般的であり、POF患者に外因性ステロイドホルモンを投与して人工周期を作ることにより、子宮内膜が正常に戻り、妊娠に有利に働く。しかし、長期にわたるホルモン補充療法は、適切な投与量を達成することができず、副作用や潜在的なリスクが存在する可能性があり、卵巣機能の回復効率が低いため、この問題を解決する別の方法を探すことが急務となっている。
【0004】
生殖細胞(PCGs)は、多細胞生物の体内で子孫を残すことができる細胞の総称であり、始原生殖細胞から最終分化した生殖細胞まで含み、精子及び卵細胞を含む。胚胎の発育後期において、生殖細胞は分裂増殖せず、小部分の卵原細胞だけは成長し、一次卵母細胞に分化し、一連の過程を経て原始卵胞を形成した後、前胞状卵胞を経て胞状卵胞になり、最後に成熟卵胞を形成する。女性が生まれてから、卵母細胞は継続的に減少し、卵母細胞の数が所定数まで減少すると、閉経が起こり、さらに、閉経によってエストロゲン濃度の減少も伴い、エストロゲンの低下により、心血管、脳血管、内分泌、骨、神経系などの多くの疾患を引き起こす可能性が高くなる。
【0005】
幹細胞を機能的な卵母細胞に分化する過程では、新しく生成された卵胞が同時に発育するため、性ホルモン(エストロゲン、アンドロゲンなど)の合成が必然的に行われ、そして、性ホルモンが卵母細胞に作用し、卵母細胞の発育を促進する。莢膜細胞からアンドロゲンが産生されるため、アンドロゲンは、顆粒膜細胞に転送されてエストロゲンに転換され、患者自身の視床下部-下垂体前葉-標的腺軸の調節によって、フィードバック機構及びネガティブフィードバック機構により生体の生理活動に必要なホルモンを補充し、これにより、ホルモン補充療法による過剰補充又は補充不足を防止することができ、これは、従来の外因性ホルモン補充療法とは異なり、その最大の利点でもある。現在の幹細胞誘導法には、主にin vitro誘導、遺伝子改変、タンパク質導入及び組織微小環境誘導が含まれ、in vitro誘導は、様々な刺激因子の組み合わせを使用して、幹細胞を目的細胞に分化誘導する。各実験室の分化誘導の条件が異なり、分化誘導のメカニズムがまだ明確でなく、分化誘導の効率が低く、誘導過程が複雑で、誘導時間が長く、得られる細胞数が少なく、機能が低い。
【0006】
現在、間葉系幹細胞を用いて胚様体を作製し、卵胞液及び白血病阻止因子(LIF)と共に培養することが多く研究されている。一方、中山大学の松陽洲教授は、胚性幹細胞から生殖細胞を分化誘導する誘導剤としてレチノイン酸(RA)を使用し、前にもRAによる臍帯幹細胞からPCGsへの分化誘導に関する文献を報告した。しかし、RAが幹細胞から生殖細胞を分化誘導するか又は幹細胞からE2などのエストロゲンの分泌を促進することができ、しかも分化率がブランク群と比べて有意差がないと報告された文献は1つだけある。
【0007】
骨形成タンパク質(BMPs)は、卵胞エストロゲンに対する顆粒膜細胞の反応性を高め、E2の産生を促進し、プロゲステロンの生成を抑制することができる、エストロゲンとプロゲステロンの生成を調節する重要な調節因子である。研究により、骨形成タンパク質4(BMP4)と骨形成タンパク質7(BMP7)は、パラクリン作用によりプロゲステロンの分泌を抑制し、E2の分泌を増加させ、その作用機序が原始卵胞から一次卵胞への移行を促進する可能性があることを発見した。Kehkooi KeeやKatsuhikoらは、胚性幹細胞からPGCsを分化誘導する誘導剤としてBMP4、BMP7及びBMP8bを用いることについて、それぞれNatureやScienceなどのジャーナルで類似した論文を発表した。
【0008】
上記をまとめると、本発明は、胚性幹細胞から生殖細胞への分化誘導剤及び間葉系幹細胞から生殖細胞への分化誘導剤を組み合わせて、間葉系幹細胞をE2分泌細胞に分化誘導する高効率な誘導剤を見つけようとする。本発明者らは、文献を参考にし、実験を繰り返した結果、BMP4、BMP7、RAを基に、ベンズアミド、塩化白金酸六水和物及びエタノールアミンと組み合わせることで、間葉系幹細胞からE2分泌細胞への分化誘導効率を大幅に向上させることができ、抗酸化剤であるレスベラトロール、イカリイン、及び成長因子であるエリスロポエチン(EPO)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と組み合わせることで、誘導後に得られるE2分泌細胞の生存率及び増殖能力を大幅に向上させることができることを予想外に発見した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術に存在する上記問題を解決するために、ヒト間葉系幹細胞無血清培地を基質とし、骨形成タンパク質4(BMP4) 20~60mg/L、骨形成タンパク質7(BMP7) 20~60mg/L、レチノイン酸(RA) 2~8mg/L、レスベラトロール 2~8mg/L、イカリイン 2~8mg/L、ベンズアミド 2~8ug/L、塩化白金酸六水和物 2~8ug/L、エタノールアミン 2~8ug/L、エリスロポエチン(EPO) 2~10ug/L、血管内皮細胞増殖因子(VEGF) 2~10ug/Lからなる、間葉系幹細胞をエストラジオール(E2)分泌細胞に分化誘導する誘導剤を提供することを目的とする。本発明の誘導剤は、分化誘導に必要な工程が少なく、時間が短く、誘導効率が高い。
【0010】
上記の目的を実現するために、本発明は、BMP4、BMP7、RA、レスベラトロール、イカリイン、ベンズアミド、塩化白金酸六水和物、エタノールアミン、EPO及びVEGFからなる、間葉系幹細胞をE2分泌細胞に分化誘導する誘導剤という技術的手段を採用する。
【0011】
前記誘導剤の各成分の質量濃度比は、BMP4 20~60mg/L、BMP7 20~60mg/L、RA 2~8mg/L、レスベラトロール 2~8mg/L、イカリイン 2~8mg/L、ベンズアミド 2~8ug/L、塩化白金酸六水和物 2~8ug/L、エタノールアミン 2~8ug/L、EPO 2~10ug/L、VEGF 2~10ug/Lである。
【0012】
好ましくは、前記誘導剤の各成分の質量濃度比は、BMP4 50mg/L、BMP7 50mg/L、RA 8mg/L、レスベラトロール 6mg/L、イカリイン 6mg/L、ベンズアミド 4ug/L、塩化白金酸六水和物 6ug/L、エタノールアミン 4ug/L、EPO 5ug/L、VEGF 5ug/Lである。
【0013】
本発明の間葉系幹細胞をE2分泌細胞に分化誘導する誘導剤は、1、遺伝子導入を必要としないため、遺伝子変異や発がんのリスクがなく、安全性が高い;2、誘導工程が少なく、誘導時間が短い;3、ベンズアミド、塩化白金酸六水和物及びエタノールアミンと組み合わせることで、間葉系幹細胞からE2分泌細胞への分化誘導効率を大幅に向上させることができる;4、抗酸化剤であるレスベラトロール、イカリイン、及び成長因子であるEPO、VEGFと組み合わせることで、誘導後に得られるE2分泌細胞の生存率及び増殖能力を大幅に向上させることができる、という利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施例における実験方法は、特に説明しない限り、いずれも常法である。実験に用いた器具、機器、試薬は、いずれも商業的に入手可能なものである。
【0015】
実施例1
この実施例の間葉系幹細胞をE2分泌細胞に誘導する誘導剤は、BMP4 40mg/L、BMP7 50mg/L、RA 8mg/L、レスベラトロール 2mg/L、イカリイン 6mg/L、ベンズアミド 4ug/L、塩化白金酸六水和物 8ug/L、エタノールアミン 4ug/L、EPO 10ug/L、VEGF 2ug/Lからなる。上記の成分を、質量濃度比でヒト間葉系幹細胞無血清培地(又はDMEM+10%FBS又は市販の他のタイプの間葉系幹細胞培地)に順次加え、よく混合し、濾過滅菌した。
本発明の誘導剤の各成分は、市販されているものであり、ヒト間葉系幹細胞無血清培地(LONZA社、製品番号00190632)、BMP4(Gibco社、製品番号PHC9533)、BMP7(Gibco社、製品番号PHC7204)、RA(Sigma社、製品番号R2625)、レスベラトロール(Sigma社、製品番号R5010-100MG)、イカリイン(上海微晶生物、製品番号489-32-7)、ベンズアミド(Sigma社、製品番号135828)、塩化白金酸六水和物(Sigma社、製品番号206083)、エタノールアミン(Sigma社、製品番号8008490100)、EPO(PeproTech社、製品番号CYT-201)、VEGF(PeproTech社、製品番号96-100-20-2)である。
【0016】
実施例2
この実施例の間葉系幹細胞をE2分泌細胞に誘導する誘導剤は、BMP4 50mg/L、BMP7 20mg/L、RA 2mg/L、レスベラトロール 2mg/L、イカリイン 2mg/L、ベンズアミド 4ug/L、塩化白金酸六水和物 6ug/L、エタノールアミン 4ug/L、EPO 8ug/L、VEGF 8ug/Lからなる。上記の成分を、質量濃度比でヒト間葉系幹細胞無血清培地(又はDMEM+10%FBS又は市販の他のタイプの間葉系幹細胞培地)に順次加え、よく混合し、濾過滅菌した。
【0017】
実施例3
この実施例の間葉系幹細胞をE2分泌細胞に誘導する誘導剤は、BMP4 50mg/L、BMP7 50mg/L、RA 8mg/L、レスベラトロール 6mg/L、イカリイン 6mg/L、ベンズアミド 4ug/L、塩化白金酸六水和物 6ug/L、エタノールアミン 4ug/L、EPO 5ug/L、VEGF 5ug/Lからなる。上記の成分を、質量濃度比でヒト間葉系幹細胞無血清培地(又はDMEM+10%FBS)に順次加え、よく混合し、濾過滅菌した。
【0018】
実施例4
ヒト脂肪間葉系幹細胞を例に、本発明の誘導剤による間葉系幹細胞からE2分泌細胞への分化誘導効果を説明すると、第3世代のヒト脂肪間葉系幹細胞を96ウェルプレートに1×10
4/cm
2で播種し、細胞のコンフルエントが80%近くに達して増殖が活発になったときに分化誘導を行い、誘導条件の分類を表1に示した。
表1 誘導条件の分類
【0019】
誘導過程における細胞の形態変化を注意深く観察し、誘導時間が1~9日後になった時、各群の培養液をそれぞれ採取し、2000r/minで10分間遠心分離した後、上清を-20℃で保存し、その中のE2含有量をそれぞれ測定し、統計的分析を行った。エストラジオールELISAキット(上海帛科生物技術有限公司製)の使用説明書に規定された操作に従い、E2含有量を測定し、結果を表2に示した。
表2 異なる誘導剤の誘導効果の比較
表2の誘導結果から、本発明の誘導剤によるヒト脂肪間葉系幹細胞の誘導効率が最も高く、誘導された細胞からのE2分泌量が最も多いことがわかる。本発明の誘導剤を添加して2日後にE2が持続的に分泌され、分泌量が徐々に増加し、約5~7日目になると、E2の1日当たりの分泌量が最大になり、持続的に分泌することができる。
【国際調査報告】