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特表2024-522475コマ収差をバランス調整するための眼科用レンズ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】コマ収差をバランス調整するための眼科用レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240614BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20240614BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61F2/16
G02C7/04
G02C7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571906
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 IB2022054973
(87)【国際公開番号】W WO2022263955
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/211,344
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ライアン ラットケンハウス
(72)【発明者】
【氏名】シンウク リー
(72)【発明者】
【氏名】サンイェル リー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ロバート カーソン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイウェイ シュイ
【テーマコード(参考)】
2H006
4C097
【Fターム(参考)】
2H006BC03
4C097AA25
4C097BB01
4C097CC01
4C097EE03
4C097EE17
4C097SA01
4C097SA02
(57)【要約】
本開示は、レンズが患者の眼に挿入されたときに患者の眼の光軸に対して偏位又は傾斜している場合に、コマ収差をバランス調整するように、且つレンズが患者の眼に挿入されたときに患者の眼の光軸に対して中心にある場合に、実質的に回折限界の画質を維持するように配置される眼科用レンズを提供する。レンズは、レンズの光軸の周囲に配置された前面と反対側にある後面とを有する光学部品を含み得る。表面の一方(例えば、前面)が半非球面プロファイルを有し得、半非球面プロファイルは、実質的に球面のプロファイルを有しレンズの光軸から第1の境界まで半径方向に延びる内側領域と、非球面プロファイルを有し第1の境界を少なくとも越えて第2の境界まで半径方向に延びる外側領域とを含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科用レンズであって、
前記レンズの光軸の周囲に配置された前面と反対側にある後面とを有する光学部品であって、前記前面及び前記後面の一方が非球面プロファイルを有し、前記前面及び前記後面の他方が半非球面プロファイルを有し、前記半非球面プロファイルが、
実質的に球面のプロファイルを有し、且つ前記レンズの前記光軸から第1の境界まで半径方向に延びる内側領域と、
非球面プロファイルを有し、且つ前記第1の境界を少なくとも越えて第2の境界まで半径方向に延びる外側領域と
を備える、光学部品
を備える、眼科用レンズ。
【請求項2】
前記半非球面プロファイルを有する、前記前面及び前記後面の前記他方が、
前記レンズが患者の眼に挿入されたときに前記患者の眼の光軸に対して偏位している場合に、コマ収差をバランス調整するように、及び
前記レンズが前記患者の眼に挿入されたときに前記患者の眼の前記光軸に対して中心にある場合に、実質的に回折限界の画質を維持するように
配置される、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記第2の境界が、前記第1の境界と前記光学部品の半径方向最外側の縁部との間に形成される、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記第2の境界が、前記光学部品の半径方向最外側の縁部を含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記前面及び前記後面の前記他方の複合表面プロファイルが、式
【数1】
(ただし、0<x<R)によって定義され、式中、
xが、前記光学部品の前記光軸からの半径方向距離を示し、
cが、前記前面及び前記後面の前記他方のベース曲率を示し、
Rが、前記レンズの前記光軸から前記第2の境界までの合計半径方向距離を示し、
が、4次の非球面係数であり、
が、6次の非球面係数であり、
が、8次の非球面係数である、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記a非球面係数が、-9.6550×10-4mmから-3.1286×10-4mmの範囲の値を含む、請求項5に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記a非球面係数が、-1.4229×10-4mmから2.3848×10-4mmの範囲の値を含む、請求項5に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
前記a非球面係数が、-1.9439×10-4mmから2.0641×10-4mmの範囲の値を含む、請求項5に記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
前記内側領域が、0mmから1.5mmの範囲の値を有する半径を含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項10】
前記外側領域が、1.5mmから3.0mmの範囲の値を有する半径を含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項11】
前記レンズが単焦点眼内レンズである、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項12】
前記レンズが、延長された焦点深度を有する単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズとのうちの一方である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項13】
眼科用レンズであって、
前記レンズの光軸の周囲に配置された前面と反対側にある後面とを有する光学部品であって、前記前面及び前記後面の一方が非球面プロファイルを有し、前記前面及び前記後面の他方が半非球面プロファイルを有し、前記半非球面プロファイルが、
実質的に球面のプロファイルを有し、且つ前記レンズの前記光軸から第1の境界まで半径方向に延びる内側領域と、
非球面プロファイルを有し、且つ前記第1の境界を少なくとも越えて第2の境界まで半径方向に延びる外側領域と
を備える、光学部品
を備える、眼科用レンズにおいて、
前記半非球面プロファイルを有する、前記前面及び前記後面の前記他方が、前記レンズが患者の眼に挿入されたときに前記患者の眼の光軸に対して中心にある場合に、実質的に回折限界の画質を維持するように、及び、前記レンズが前記患者の眼に挿入されたときに前記患者の眼の前記光軸に対して偏位している場合に、コマ収差をバランス調整するように配置され、
前記前面及び前記後面の前記他方の複合面プロファイルが、式
【数2】
(ただし、0<x<R)によって定義され、式中、
xが、前記光学部品の前記光軸からの半径方向距離を示し、
cが、前記前面及び前記後面の前記他方のベース曲率を示し、
Rが、前記レンズの前記光軸から前記第2の境界までの合計半径方向距離を示し、
が、4次の非球面係数であり、
が、6次の非球面係数であり、
が、8次の非球面係数である、
眼科用レンズ。
【請求項14】
前記第2の境界が、前記第1の境界と前記光学部品の半径方向最外側の縁部との間に形成される、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項15】
前記第2の境界が、前記光学部品の半径方向最外側の縁部を含む、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項16】
前記a非球面係数が、-9.6550×10-4mmから-3.1286×10-4mmの範囲の値を含む、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項17】
前記a非球面係数が、-1.4229×10-4mmから2.3848×10-4mmの範囲の値を含む、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項18】
前記a非球面係数が、-1.9439×10-4mmから2.0641×10-4mmの範囲の値を含む、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項19】
前記内側領域が、0mmから1.5mmの範囲の値を有する半径を含む、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項20】
前記外側領域が、1.5mmから3.0mmの範囲の値を有する半径を含む、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項21】
前記レンズが単焦点眼内レンズである、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【請求項22】
前記レンズが、延長された焦点深度を有する単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズとのうちの一方である、請求項13に記載の眼科用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月16日出願のJeffrey Ryan Lutkenhaus、Shinwook Lee、Sangyeol Lee、Daniel Robert Carson、及びZaiwei Xuを発明者とする「OPHTHALMIC LENSES FOR BALANCING COMA ABERRATIONS」と題する米国仮特許出願第63/211,344号の優先権の利益を主張するものであり、同仮特許出願の内容全体が、参照により、あたかも本明細書で十分且つ完全に説明されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、眼科用レンズの分野に関し、より詳細には、コマ収差をバランス調整するように配置されたレンズに関する。
【背景技術】
【0003】
眼内レンズ(IOL)などの眼科用レンズは、日常的に、白内障手術において生来の水晶体を置き換えるために患者の眼に埋め込まれている。生来の水晶体の屈折力は、毛様体筋の影響下で変化して、眼から異なる距離にある物体を見るための調節を提供することができる。多くのIOLは、角膜の正の球面収差を打ち消すために非球面を組み込んでいる。しかしながら、非球面IOLは傾斜及び偏位の影響をより受けやすく、その結果、コマ収差が生じ、画質が低下する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、一般に、レンズが患者の眼に挿入されたときに患者の眼の光軸に対して偏位又は傾斜している場合にコマ収差をバランス調整するように、及びレンズが患者の眼の光軸に対して中心にある場合に実質的に回折限界の画質を維持するように配置される眼科用レンズ(IOLなど)を対象とする。
【0005】
本開示によれば、レンズは、レンズの光軸の周囲に配置された前面と反対側にある後面とを有する光学部品を備え得る。前面及び後面の一方が非球面プロファイルを有し得、前面及び後面の他方が半非球面プロファイルを有し得る。半非球面プロファイルは、実質的に球面のプロファイルを有し、且つ光学部品の光軸から第1の境界まで半径方向に延びる内側領域と、非球面プロファイルを有し、且つ第1の境界から又は第1の境界を越えて第2の境界まで半径方向に延びる外側領域とを備え得る。
【0006】
半非球面プロファイルは、次式
【数1】
(ただし、0<x<R)によって定義され得、式中、
xが、光学部品の光軸からの半径方向距離を示し、
cが、表面のベース曲率を示し、
Rが、光学部品の光軸から第2の境界までの合計半径方向距離を示し、
が、4次の非球面係数であり、
が、6次の非球面係数であり、
が、8次の非球面係数である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本開示による、眼科用レンズの例示的な実施形態の平面図を示す。
図1B】本開示による、眼科用レンズの例示的な実施形態の側面図を示す。
図2A】本開示による、例示的な光学部品の光軸からの半径方向距離に対する表面サグ量のプロットを示す。
図2B】本開示による、例示的な光学部品の光軸からの半径方向距離に対する表面サグ量の非球面寄与のプロットを示す。
図3A】本開示による、異なる瞳孔サイズでの例示的な光学部品及び従来の光学部品のスルーフォーカス変調伝達関数(MTF)比較プロットを示し、光学部品は眼の光軸に対して中心にある。
図3B】本開示による、異なる瞳孔サイズでの例示的な光学部品及び従来の光学部品のスルーフォーカスMTF比較プロットを示し、光学部品は眼の光軸に対して偏位している。
図4】本開示による、例示的な光学部品及び従来の光学部品についての様々な瞳孔サイズにおける焦点シフトを示す比較プロットを示す。
図5】本開示による、例示的な光学部品及び従来の光学部品についての様々な偏位程度におけるコマ収差測定値を示す比較グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
当業者には理解されるように、以下に説明される図面は、例示のみを目的としており、本開示の範囲を限定することを意図していない。
【0009】
人間の眼の球面収差は、眼の角膜の正の球面収差と水晶体の負の球面収差とが組み合わさったものである。健康な眼では、角膜の正の球面収差は水晶体の負の球面収差によって相殺され、その結果、全体的な球面収差は小さくなる。しかしながら、眼が老化するにつれて、水晶体の光学特性が変化し、結果として、全体的に正の球面収差が生じ、光学性能が低下する。
【0010】
単焦点IOLは、一般に、角膜の正の球面収差を打ち消すために非球面を利用する。これらの非球面レンズにおける画質は、(球面を有する単焦点IOLと比較して)回折限界の画質に強化され得るが、非球面IOLは傾斜及び偏位の影響をより受けやすい。傾斜及び偏位は、埋め込まれたIOLが眼の光軸に対して正しく整列されていない場合に生じる。この不整合の結果、コマ収差が大きくなり、画質が低下する。コマ収差は、通常、レンズの不完全性又は不整合に起因して生じ、その結果、軸外の点光源が歪んで見え、しばしば彗星の尾(「コマ」)のように見える。非球面を有する従来の単焦点IOLは、コマ収差を完全に補正できない、又はレンズが眼の光軸に対して偏位している場合にコマ収差を最小化するが、レンズが眼の光軸に対して整列している場合には画質が犠牲になるように設計されている。
【0011】
本開示は、一般に、レンズが眼の光軸に対して中心にある場合に、回折限界に近い画質を維持するように、且つレンズが眼の光軸に対して偏位している場合に、コマ収差をバランス調整するように配置される表面プロファイルを有する眼科用レンズ(IOLなど)を対象とする。以下の開示はIOLに関連して説明されているが、本開示の特徴及び要素は、特定のタイプのIOLに限定されるものではなく、単焦点IOL、延長された焦点深度を有する単焦点IOL、多焦点IOL、又は任意の他のタイプのIOLに適用され得ることを理解されたい。加えて、本開示は、コンタクトレンズなどの非IOL眼科用レンズに更に適用され得る。更に、本明細書で使用される場合、「眼内レンズ」(及びその略語IOL)という用語は、眼の内部に埋め込まれて、眼の生来の水晶体を置き換える、又は生来の水晶体が除去されるかに関係なく視力を増強するレンズを説明するために使用される。
【0012】
ここで図1A及び図1Bを参照すると、本開示による眼内レンズ100の例示的な実施形態が示されている。図1Aは、レンズ100の前側の平面図を示し、図1Bは、レンズ100の前側及び後側を示す側面図を示している。レンズ100は、患者の眼の水晶体嚢内にレンズ100を配置して安定させるように一般的に動作可能な複数のハプティック部110を備え得る。レンズ100は、レンズの光軸150の周囲に配置された前面130と後面140とを有する光学部品120を更に備え得る。前面130及び後面140の一方が非球面プロファイルを備え得、前面130及び後面140の他方が半非球面プロファイルを備え得る。図1Aでは、半非球面プロファイルが光学部品120の前面130上に示されている。しかしながら、図1Aに関連して示されて説明される半非球面プロファイルが代替的に光学部品120の後面140上に適用されてもよく、非球面プロファイルが光学部品120の前面130に適用されてもよいことを理解されたい。
【0013】
一実施形態では、また説明の目的で、本開示は、光学部品120の後面140(すなわち、図1Aには示されていない面)に適用される非球面プロファイルと、光学部品120の前面130に適用される半非球面プロファイルとを説明する。
【0014】
引き続き図1Aを参照すると、半非球面プロファイルは、内側領域160と外側領域170とを備え得る。内側領域160は、実質的に球面のプロファイルを備え得、光軸150から第1の境界180まで半径方向に延び得る。外側領域170は、実質的に非球面のプロファイルを備え得、第1の境界180から又は第1の境界180を越えて第2の境界190まで半径方向に延び得る。一実施形態では、第2の境界190は、第1の境界180と光学部品120の半径方向最外側の縁部195との間に形成され得る。別の実施形態では、第2の境界190は、光学部品120の半径方向最外側の縁部195を含むか、又はこれと合同であり得る。
【0015】
図1Aを引き続き参照すると、実質的に球面である内側領域160と実質的に非球面である外側領域170とを有する前面130の半非球面プロファイルは、レンズ100が患者の眼に挿入又は埋め込まれたときに眼の光軸に対して中心にある場合に、回折限界に近い画質を提供するように配置され、レンズ100が挿入又は埋め込まれたときに眼の光軸に対して偏位又は傾斜している場合に、コマ収差をバランス調整し、より高い画質を提供するように配置される。コマ収差を「バランス調整する」とは、トレードオフをいい、例えば、レンズ100が眼の光軸150に対して中心にある場合に画質を実質的に犠牲にせず、レンズ100が偏位又は傾斜している場合にコマ収差を小さくすることによって画質を改善するレンズ100の能力をいう。本開示にしたがって、レンズ100は、以下に詳述するように、様々な瞳孔サイズ(例えば、2mm、3mm、4mm、4.5mmの患者に対して説明された結果を実現するように構成され得る。
【0016】
図1Aに示す光学部品120の前面130の複合半非球面プロファイルは、次式
【数2】
(ただし、0<x<R)によって定義され得、式中、
xが、光学部品120の光軸150からの半径方向距離を示し、
cが、光学部品120の前面130のベース曲率を示し、
Rが、光学部品の光軸150から光学部品120の第2の境界190までの合計半径方向距離を示し、
が、4次の非球面係数であり、
が、6次の非球面係数であり、
が、8次の非球面係数である。
【0017】
式(1)において、a、a、及びaは非球面項であり、非球面係数a、a、及びaは前面130の表面プロファイルの非球面度を決定する。式(1)の非球面項は、レンズ100の偏位又は傾斜によって生じるコマ収差を補正するように設計される高次の項である。具体的には、これらの高次非球面項は、(偏位に起因して網膜から外れた)焦点を網膜に戻すことを可能にするため、コマ収差をバランス調整するのに有効である。式(1)では、低次の非球面項(a項及び/又はa項など)は、ベース曲率の屈折力に対して冗長であり、レンズの回転対称性に悪影響を及ぼし、且つ/又はコマ収差をバランス調整するのに効果がないため、除外される。レンズの光軸150からの半径方向距離(x)が大きくなるにつれて、前面の表面プロファイルは非球面度が大きくなる。同様に、レンズの光軸150からの半径方向距離(x)が小さくなるにつれて、表面プロファイルは非球面度が小さくなる。その結果、(外側領域170よりも比較的小さな半径を有する)内側領域160は、実質的に球面であり得る。
【0018】
引き続き式(1)を参照すると、いくつかの実施形態では、前面130のベース曲率cは、約15mmから約25mmの範囲にあり得、aは、約-9.6550×10-4mm-3から約-3.1286×10-4mm-3の範囲にあり得、aは、約-1.4229×10-4mm-5から約2.3848×10-4mm-5の範囲にあり得、aは、約-1.9439×10-4mm-7から約2.0641×10-4mm-7の範囲にあり得、Rは、約0mmから約3mmの範囲にあり得る。
【0019】
次に図2Aを参照する。図2Aは、図1Aに示され、且つ式(1)により定義される光学部品120の半非球面の前面130の複合表面プロファイルをレンズの光軸250からの半径方向距離に対するサグ量のプロット200としてグラフ化して示している。図2Aのプロットにおいて、半径は光軸250においてゼロである。半径0mmから1.5mmまでで定義される光学部品の内側領域260のサグ量プロファイルは、実質的に球面である。半径1.5mmから3mmまでで定義される光学部品の外側領域270のサグ量プロファイルは、実質的に非球面であり、半径が光学部品の(3mmに示されている)最外側の縁部まで増加するにつれて非球面度が大きくなる。
【0020】
次に図2Bを参照する。図2Bは、図1Aに示され、且つ式(1)により定義される光学部品120の半非球面の前面130の非球面寄与をレンズの光軸250からの半径方向距離に対するサグ量のプロット210としてグラフ化して示している。図2Bに示すように、光学部品の(半径方向距離0mmから1.5mmまでに対応する)内側領域260における非球面サグ量測定値は、0mmにおいて一定のままであり、実質的に非球面度がゼロであること、すなわち、内側領域260において実質的に球面のプロファイルであることを示している。光学部品の(半径方向距離1.5mmから3mmまでに対応する)外側領域270における非球面サグ量測定値は、ゼロから約0.065mmまで徐々に増加し、外側領域270において半径方向距離が増加するにつれて、非球面度も増加することを示している。非球面寄与のサグ量曲線は下方に曲がる。これは、半径が実質的に球面の内側領域(図1Aの要素160を参照)を越えて大きくなるにつれて、表面プロファイルの非球面寄与が増加し、それによって湾曲が球面の中心から離れるように曲がるためである。図2A及び図2Bでは、内側領域260及び外側領域270は、x軸の正側のそれぞれの半径方向測定値によって区切られているが、これらの領域は、x軸の両側に延びる三次元領域であることを理解されたい。
【0021】
次に図3A及び図3Bを参照すると、図3A及び図3Bは、異なる瞳孔サイズ(3mm及び4mm)での、式(1)により定義される半非球面の前面プロファイルを有する例示的なコマ収差耐性単焦点光学部品(図3A及び図3Bでは、「式(1)により定義される3mmの例示的な光学部品」及び「式(1)により定義される4mmの例示的な光学部品」と示す)と、非球面係数a、a、及びaがゼロに等しい、式(1)により定義される前面プロファイルを有する従来の非球面単焦点光学部品(図3A及び図3Bでは、「3mmの従来の光学部品」及び「4mmの従来の光学部品」と示す)とについて計算されたスルーフォーカス変調伝達関数(MTF)比較プロットを示している。図3Aは、光学部品が眼の光軸に対して中心にある場合のMTFプロットを示しており、図3Bは、光学部品が眼の光軸に対して0.5mmだけ偏位している場合のMTFプロットを示している。MTFプロットは、550nmの波長を有する単色入射放射線に基づいて計算されている。表1A及び表1Bは、本発明の実施形態による例示的な光学部品の前面のパラメータを提示している。光学部品が21Dの公称屈折力をもたらすように、光学部品の前面のベース曲率を選択した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
(光学部品が眼の光軸に対して中心にある)図3Aでは、3mmの瞳孔径でのスルーフォーカスMTFプロットは、例示的なコマ収差耐性単焦点光学設計が従来の非球面単焦点光学設計と同一の光学性能を有することを示している。これは、例示的なコマ収差耐性単焦点光学部品と従来の非球面単焦点光学部品との両方の前面が、この領域において実質的に同一且つ球面であるためである。4mmの瞳孔径では、例示的なコマ収差耐性単焦点光学設計のMTFピークは、3mmの瞳孔のMTFピークの位置に対して近視方向(すなわち、マイナス方向、<0.25D)にシフトし、その結果、従来の非球面単焦点光学設計に対して画質が低下する。例示的なコマ収差耐性単焦点光学設計の前面の非球面成分がこのシフトの原因であるが、図3Bに示すように、これらの成分は、眼の光軸から偏位したときに、従来の非球面単焦点設計のようにMTFが低下しないようにするために必要な成分である。
【0025】
(光学部品が眼の光軸に対して0.5mmだけ偏位している)図3Bでは、MTFプロットは、両方の瞳孔サイズとも、遠方視の焦点(0ディオプター)において、例示的なコマ収差耐性単焦点光学設計の光学性能が従来の非球面単焦点光学設計よりも高いことを示している。レンズの偏位のために、焦点に遠視方向のシフト(正の方向、<0.25D)があり、これは、偏位の場合に両方の瞳孔サイズとも両方のレンズ設計に見られる遠方視の焦点における画質の低下に対応する。瞳孔径が3mmの場合、レンズの0.5mmの偏位は従来の非球面単焦点光学設計のMTFを0.26だけ低下させるが、例示的なコマ収差耐性単焦点光学設計のMTFの低下は0.2であり、例示的なコマ収差耐性単焦点光学設計の偏位したMTFをISO11979-2の軸上単焦点3mmMTF仕様である100lp/mmで0.43よりも高くなる。これは、例示的なコマ収差耐性単焦点光学部品の3mmの直径の内側領域の外側にある更なる前方非球面成分が開口部内で照射されることに起因し、従来の非球面単焦点光学設計に比べて画質の低下が小さくなる。
【0026】
4mmの大きな瞳孔径の場合、両方の設計とも、後面の非球面成分がレンズの偏位によって生じる焦点シフトを打ち消すが、例示的なコマ収差耐性単焦点光学部品の前面の更なる非球面成分が画質の低下を補正して、MTFを0.3超に維持することができ、これは、IOLが光軸を中心とする場合に遠方焦点において、いくつかの多焦点IOL設計よりも高い。対照的に、従来の非球面単焦点光学部品のMTFは、眼内レンズが光軸から偏位する場合に、0.2未満に低下する。大きな瞳孔の視力は、特定の瞳孔サイズでは本来は視力に寄与しないレンズの領域が照らされるため、光軸からIOLの偏位によってより影響を受ける。より大きな瞳孔径(4mm)では、外側領域の非球面度が焦点シフトを補正し、従来の非球面設計に比べて光学性能を向上させる。
【0027】
次に図4を参照すると、様々な瞳孔サイズにおける光学部品410、420の焦点シフトを示すプロット400が示されており、光学部品410、420は眼の光軸に対して中心にある。一実施形態によれば、第1の光学部品410は、式(1)によって定義される半非球面の前面と非球面の後面とを備える。第2の光学部品420は、球面の前面と非球面の後面とを有する従来の光学部品を備える。プロット400に示すように、約2.4mm未満の瞳孔径では、第1の光学部品410は焦点シフトを最小にし(-0.005D未満)、それにより小さな瞳孔に対して高い光学性能をもたらす。第2の光学部品420は、かなり大きい焦点シフト(2mmの瞳孔径で最大0.02D)を生じさせ、性能が低いことを示している。このように、本開示の光学部品設計は、小さな瞳孔径(2.4mm未満)の性能を向上させる。
【0028】
次に図5を参照すると、図5は、眼の光軸からの偏位の様々な程度で計算された光学部品510、520のコマ収差測定値のグラフ500を示している。測定値は、式(1)によりプロファイルが定義される半非球面の前面と非球面の後面とを有する第1の光学部品510と、球面の前面と非球面の後面とを有する第2の従来の光学部品設計520とのコマ収差結果を比較する。0mm(偏位なし)から始まり1mの偏位まで段階的に増加する偏位の6つの位置でコマ収差測定を行った。0mmの偏位では、いずれの光学部品設計においても識別可能なコマ収差は検出されなかった。第1の光学部品510は、偏位0.25mmの位置において、0.03μmのコマ収差測定値を示した。偏位の距離が大きくなるにつれて、第1の光学部品のコマ収差測定値は(ほんのわずかにではあるが)増加し、その後、偏位0.7mmにおいて平坦になったように見えた。第2の光学部品520のコマ収差パターンは区別しやすいものであった。第2の光学部品520は、偏位0.25mmにおいて0.08μmのコマ収差測定値を示した。連続する各偏位位置におけるコマ収差測定値は、大幅に増加し続けた(偏位0.4mmにおいて0.13μmのコマ収差、偏位0.5mmにおいて0.17μmのコマ収差、偏位0.7mmにおいて0.23μmのコマ収差、偏位1.0mmにおいて0.33μmのコマ収差)。これらのパターンは、本開示の光学部品が、従来の非球面IOL設計と比較して、レンズの偏位に起因するコマ収差をより効果的に減少させることを示している。
【0029】
使用の際、本明細書で説明される眼内レンズは、本教示にしたがって修正された従来の外科技法を使用して、視覚障害を治療するように、且つ人間の眼に挿入されるように適合される。典型的には、生来の水晶体が最初に除去され、IOLは、水晶体嚢の切開部又は開口部を通して挿入するためにコンパクトなサイズに折り畳まれ得る。挿入後、IOLを操作して、水晶体嚢内の適切な位置に配置することができる。
【0030】
本開示で説明されるレンズを製造するために、様々な技法及び材料を使用することができる。例えば、図1A及び図1Bの光学部品120は、様々な生体適合性ポリマー材料から形成され得る。いくつかの適切な生体適合性材料としては、軟質アクリルポリマー、ヒドロゲル、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、セルロース、アセテートブチラート、又は他の生体適合性材料が挙げられるが、これらに限定されない。例として、一実施形態では、光学部品120は、一般にAcrySof(登録商標)として知られる軟質アクリルポリマー(アクリル酸2-フェニルエチルとメタクリル酸2-フェニルエチルとの架橋コポリマー)で形成され得る。レンズのハプティック部110は、上述したような適切な生体適合性材料で形成され得る。場合によっては、IOLの光学部品120及びハプティック部110を一体ユニットとして製造することができる一方で、他の場合には、別個に形成し、当技術分野で既知の技法を使用して一緒に接合することができる。
【0031】
本明細書において、「又は」は、明示的に別段の指示がない限り、又は文脈上別段の指示がない限り、包括的であって排他的ではない。したがって、本明細書において「A又はB」は、明示的に別段の指示がない限り、又は文脈上別段の指示がない限り、「A、B、又はその両方」を意味する。更に、「及び」は、明示的に別段の指示がない限り、又は文脈上別段の指示がない限り、合接及び離接の両方を意味する。したがって、本明細書において、「A及びB」は、明示的に別段の指示がない限り、又は文脈上別段の指示がない限り、「A及びBが、一緒に又は別々に」を意味する。
【0032】
上記で開示された特徴及び機能並びに他の特徴及び機能、又はそれらの代替の様々なものは、多くの他の異なるシステム又はアプリケーションに所望に組み合わせることができることが理解されよう。本明細書の様々な現在予見できない又は予期しない代替、修正、変形、又は改良が、これに続いて当業者によってなされることがあり、それらの代替形態、変形形態、及び改良形態も、以下の特許請求の範囲に含まれるものとすることも理解されよう。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、上記の実施形態に対して様々な変更を行うことができることを理解されよう。
図1A
図1B
図2A-2B】
図3A-3B】
図4
図5
【国際調査報告】