(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】電池製造施設、電池リサイクル施設又は製鋼プラントの硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流の処理方法
(51)【国際特許分類】
C05D 1/02 20060101AFI20240614BHJP
C01D 5/02 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C05D1/02
C01D5/02 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572708
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 SE2022050503
(87)【国際公開番号】W WO2022250599
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523442183
【氏名又は名称】シニス ファーティライザー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコプ リードバリ
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA02
4H061AA04
4H061BB52
4H061BB54
4H061EE02
4H061GG06
4H061GG19
4H061GG41
(57)【要約】
本発明は、電池製造施設、電池リサイクル施設又は製鋼プラントの硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流から硫酸カリウム含有肥料組成物を製造する方法に関し、電池製造施設、電池リサイクル施設又は製鋼プラントからの残渣プロセス流を提供し;任意選択的に水を提供し;塩化カリウムを提供し;前記任意選択の水、塩化カリウム及び残渣プロセス流を含む反応混合物を提供し、反応させて、硫酸カリウムを得る、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池製造施設、電池リサイクル施設又は製鋼プラントの硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流から硫酸カリウム含有肥料組成物を製造する方法であって、
電池製造施設、電池リサイクル施設又は製鋼プラントからの残渣プロセス流を提供し;
任意選択的に水を提供し;
塩化カリウムを提供し;
前記任意選択の水、塩化カリウム及び残渣プロセス流を含む混合物を提供し、反応させて、硫酸カリウムを得る、
硫酸カリウム含有肥料組成物を製造する方法。
【請求項2】
前記混合物を提供するために、前記塩化カリウム、前記残渣プロセス流、及び任意選択の水を、任意の順序で又は同時に提供及び混合し、好ましくは、前記混合物は、以下によって提供される、請求項1に記載の方法:
・前記塩化カリウム、任意選択の水、及び残渣プロセス流を同時に提供し、混合する;
・前記残渣プロセス流及び任意選択の水を提供し、混合し、次いで、前記塩化カリウムを添加混合する;
・前記残渣プロセス流及び塩化カリウムを提供し、混合し、次いで、任意選択の水を添加混合する;
・前記残渣プロセス流及び任意選択の水を提供し、混合し、前記塩化カリウム及び任意選択の水を提供し、混合し、次いで、前記塩化カリウム及び任意選択の水を前記残渣プロセス流及び任意選択の水と混合する;又は
・前記塩化カリウム及び任意選択の水を提供し、混合し、次いで、前記残渣プロセス流を添加混合する。
【請求項3】
前記残渣プロセス流及び任意選択の水を前記塩化カリウムより前に添加する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
好ましくは前記塩化カリウムの添加前に、酸を前記混合物に添加混合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水と接触させ、その後、前記塩化カリウムと接触させる乾燥物を生成させるために、前記残渣プロセス流が蒸発工程で前処理される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムが、前記水、塩化カリウム及び残渣プロセス流の混合物に添加される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水、前記塩化カリウム及び前記残渣プロセス流の反応によってグラセライトが得られ、前記グラセライトを、取り出し、追加の塩化カリウムに添加混合及び/又は水で浸出して、硫酸カリウムを提供する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
硫酸カリウムを取り出した後の残りの混合物が濃縮され、その後、存在する塩化ナトリウムが取り出される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
取り出された前記塩化ナトリウムが、それを水酸化ナトリウム、水素及び塩素に変換するセルメンブレンプロセスに送られる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
電池製造施設からの前記残渣プロセス流が、リチウム電池製造施設、好ましくは、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、チタン酸リチウム、又はそれらの任意の組み合わせから選択された電池を製造する電池製造施設、好ましくはリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物電池を製造する電池製造施設に由来する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電池リサイクル施設からの前記残渣プロセス流が、リチウム含有電池のための電池リサイクル施設に由来する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
リサイクルされる前記リチウム含有電池が、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、チタン酸リチウム、又はそれらの任意の組み合わせを含む電池から選択されたものであることができ、好ましくはリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物を含む電池から選択されたものであることができる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
製鋼プラントからの前記硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流が、バナジウム回収のためのスラグの処理に由来する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記バナジウム回収が、水酸化ナトリウムの添加によるバナジウム精製を含み、これにより、1つの生成物流として五酸化バナジウムが提供され、別の生成物流として硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流が提供される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
製鋼プラントからの前記硫酸塩含有残渣プロセス流が、バナジウム精製後の硫酸及び/又は硫酸アルミニウムの添加によって得られる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記残渣プロセス流に添加される前記塩化カリウムが、前記塩化カリウム中に存在する不純物を除去するために、水による洗浄及び任意選択的にその後の蒸発を含む前処理工程にかけられる、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
硫酸カリウムを含む肥料を製造するための、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の製造もしくはリサイクル施設又は製鋼プラントからの残渣プロセス流から付加価値製品を提供するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、より持続可能(sustainable)な製品及びプロセスを提供することにますます関心が集まっている。様々な産業が地球の有限な資源をより有効利用することを目指している。
【0003】
気候変動に関する意識の高まりと化石燃料の限られた供給は、現在の大きな関心事である。
【0004】
このような意識と限られた供給により、例えば自動車の運転に使用される代替エネルギー源の需要が高まっている。リチウムイオン技術に基づく電池の需要は急速に増大している。このことは、電池の製造からの排出物や、固体及び液体の残渣が増加することも意味する。そのため、リサイクルや材料の最適化は近年重要な課題となっている。資源の最適化は、ほとんどの国が現在及び将来にわたるリチウムイオン電池の継続的使用に必要であると考えている事項である。
【0005】
多くの産業は、製品やプロセスの持続可能性を向上させ、施設から生じる廃棄物の量を制限することを望んでいる。
【0006】
電池製造業界は、残渣の発生を最低限に抑えることに継続的に取り組んでおり、また、施設の運営コストを削減するためにコバルト、リチウム及びマンガンなどのプロセスに必須の化学物質をリサイクルすることを目指している。電池製造プロセスからの残渣は、水性廃水流、アンモニア、n-メチルピロリドン、電池金属部品のような有害廃棄物である。しかし、残渣流、特に廃水の流れはかなり大量になる可能性があるため、残渣の量を減らし、廃棄物として分類される流れから付加価値のある成分を提供することは、電池製造施設のコスト及び原材料の使用量の観点から全体的な運営を改善し、地球の有限資源の再利用を可能にするために望ましい。また、残渣やプロセスからの排出物、特に水域への排出に関して、電池の製造が許可されるかどうかは、地域や国の規制によって左右される可能性がある。硫酸塩やナトリウムのような好ましくない元素は、製鉄所での製鋼、あるいは電池の生産やリサイクルのような様々な生産プロセスで高レベルで供給される可能性があり、前記好ましくない元素は、廃棄に費用がかかるため、残留プロセス流に悪影響を及ぼし、下水道や廃水処理場に直接送られると、前記下流プロセスに大きな負担をかける。多量の硫酸塩とナトリウムが存在する、あるいは存在する見込みがある場合、今日、電池製造施設や電池リサイクル施設の設立許可が下りない。硫酸ナトリウムは、電池製造業者、電池リサイクル業者、製鋼業者にとって、取り扱いが問題となる副生成物である。生産量を考慮すると、硫酸ナトリウムを取り扱うためのコストは相当なものになる可能性があり、また、化学物質の取り扱いに対処していないために、企業が生産を継続するために必要な許可を得られなかったり、増産や新たな生産施設を建設するための新たな許可を得られなかったりする可能性がある。
【0007】
また、電池リサイクル業界は、残渣の提供を最低限に抑えるために継続的に取り組んでいる。製鋼業も同様である。
【0008】
現在、残渣プロセス流に存在する硫酸ナトリウムは、例えば排水管や下水道を経由して廃水システムに排出されたり、埋立地に埋め立てられたり、残渣流から分離されて低級化学品として販売されたりすることがある。硫酸ナトリウムを含む電池製造施設からの残渣プロセス流は、主にカソード製造の酸化工程から生じる。硫酸ナトリウムを含む製鉄所からの残渣プロセス流は、主にバナジウム回収から生じる。硫酸ナトリウムが廃棄物とみなされていても、その用途が提供されれば、硫酸ナトリウムが大量に存在する可能性があるため、価値ある資産となりうる。電池製造施設、電池リサイクル施設、製鉄所にとって、得られた硫酸ナトリウムの取り扱いは問題である。しかし、もし硫酸ナトリウムが有効利用されれば、プロセス全体にとって価値のある添加物となり得る。
【0009】
電池製造施設における現在の残渣プロセス流の問題点は、そこから可能性のある貴重な化学物質が回収又はリサイクルされないことである。現実には、常に大量の化学物質が埋立地に排出されるか、低級化学物質として廃棄されるか、廃水システムに送られる。同じことは、例えば電気自動車(EV)用バッテリーなどのリサイクル目的でリチウムバッテリーを処理するような、バッテリーリサイクル施設の場合にも当てはまる。これは本発明のもう一つの焦点である。また、製鋼プラントでは、残渣プロセス流に含まれる可能性のある貴重な化学物質が、そこから回収されなかったり、リサイクルされなかったりすることがある。ここでも、現実には、大量の化学物質が埋立地に排出されるか、低品位の化学物質として廃棄されるか、廃水システムに送られる可能性がある。
【0010】
今日、環境的に持続可能なプロセスを得ること、及びプロセスからできるだけ多くの付加価値製品やリサイクル可能な製品を得ることが、できるだけ多くの廃棄物や損失を避けるために重視されている。
【0011】
従って、より効率的なプロセスを得る必要性がある。廃棄物を埋め立てたり、貴重な化学物質を廃水システムに排出したりする必要性を低減するプロセスに対する需要がある。また、電池製造施設、電池リサイクル施設、又は製鉄所からの廃棄物から付加価値のある製品を提供し、電池製造施設全体、電池リサイクル施設全体、又は製鉄所全体の経済性をそれぞれ向上させることも求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明のプロセスにより、付加価値の高い製品が得られると同時に、廃棄物処理に対する環境的に持続可能な解決策が提供される。市場での需要があり、販売することができる付加価値の高い製品を提供することにより、電池製造施設、電池リサイクル施設、又は製鉄所の総合的な経済性が改善され、母なる自然の資源が注意深く使用される。また、このプロセスは、電池製造やリサイクルのための廃棄物処理に関連する要件や法規制を満たす可能性を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本プロセスで使用される電池製造からの残渣プロセス流は、(リチウムイオン)電池製造におけるカソード製造の酸化工程に由来する場合があり、この工程では硫酸ナトリウムが形成される。残渣プロセス流は、カソード製造の酸化工程に由来する廃水であってもよい。電池製造からの残渣プロセス流は、今日では埋立地又は廃水システムに送られるか、あるいは濃縮されて固形残渣となるが、本発明によれば、高価値の肥料であるK2SO4及び副生成物であるNaClを生成させるために塩化カリウムで処理することができ、NaClは、様々な用途、例えば、道路用塩(road salt)として使用することができる。リチウムイオン電池のカソード製造の酸化工程に由来する硫酸ナトリウムを含む残留プロセス流は水性廃水の形態にあるものであってもよい。このような廃水は、本プロセスに進む前に、水分の少なくとも一部の蒸発により濃縮されてもよい。このような廃水は、乾燥した残渣プロセス流を提供するために乾燥されてもよい。
【0014】
電池リサイクルからの残渣プロセス流は、リチウム含有電池の処理に由来するものであってもよい。残渣プロセス流は、リン酸鉄リチウムを含む黒色の塊状材料から得ることができる。
【0015】
製鋼からの残渣プロセス流は、バナジウム回収を伴うスラグ処理に由来するものであってもよい。
【0016】
本発明により、残渣プロセス流(ここに記載したように電池製造、電池リサイクル又は製鋼からのもの)中に存在する大量の化学物質、すなわち硫酸ナトリウムを使用することができ、電池製造残渣プロセス流、電池リサイクル残渣プロセス流又は製鋼プラント残渣プロセス流からの環境への悪影響を排除することができる。本発明により高品位の肥料が得られるので、栄養化学物質を排水溝や下水道に流したり、埋め立てたり、低品位の化学物質として分離したりする代わりに、必要とされる植物に届けることも可能である。
【0017】
本発明は、残渣プロセス流を提供するか、又は残渣プロセス処理システムにおいて硫酸ナトリウムを含む残渣プロセス流、例えば水性残渣プロセス流を処理するか、あるいは、残渣プロセス処理システムにおいて硫酸ナトリウムを含む水性残渣プロセス流を処理する、いかなる電池製造施設、電池リサイクル施設又は製鉄所にも適用でき、実施できる。
【0018】
本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に従う。
【0019】
本発明は、電池製造施設、電池リサイクル施設又は製鋼プラントの残渣プロセス流から硫酸カリウムK2SO4を含有する肥料組成物を製造する方法であって、
電池製造施設、電池リサイクル施設又は製鋼プラントからの残渣プロセス流を提供し;
残渣プロセス流が水を含まないか、又は十分な量の水を含まない場合には、任意選択的に水を提供し;
塩化カリウムを提供し;
前記任意選択の水、塩化カリウム及び残渣プロセス流を含む混合物を提供して反応させて、硫酸カリウムを得る、
肥料組成物を製造する方法に関する。
【0020】
一実施形態によれば、前記混合物を提供するために、塩化カリウム及び残渣プロセス流を、任意の順序で又は同時に提供する。前記混合物を提供するために、塩化カリウム、任意選択の水及び残渣プロセス流を、任意の順序で又は同時に提供し、混合してもよい。前記混合物を提供するために、残渣プロセス流、塩化カリウム及び任意選択の水を、任意の順序で又は同時に提供してもよく、前記成分を、任意の順序で又は同時に接触させて、混合してもよい。前記混合物を提供するために、塩化カリウム、残渣プロセス流及び任意選択の水の混合物を、同時添加又は任意の順序での逐次添加及び混合によって提供することができる。混合物は、最初に、提供された残渣プロセス流と任意選択の水を混合し、その後、塩化カリウムを添加混合することによって得ることができる。あるいは、混合物は、最初に、提供された残渣プロセス流と塩化カリウムとを混合し、その後、任意選択の水を添加混合することによって得ることもできる。あるいは、混合物は、最初に、提供された任意選択の水と塩化カリウムとを混合し、その後、残渣プロセス流を添加混合することによって、得ることもできる。あるいは、混合物は、最初に、供給された残渣プロセス流と任意選択の水とを混合し、その後、追加の任意選択の水と任意選択的に混合された塩化カリウムを添加混合することによって得ることもできる。好ましくは、任意選択の水及び残渣プロセス流は、塩化カリウムより前に添加される。残渣プロセス流及び塩化カリウムの両方は、前記混合物を形成するために、互いに組み合わされ混合される前に、任意選択の水と組み合わされてもよい、すなわち残渣プロセス流、塩化カリウム及び任意選択の水が組み合わされ混合されてもよい。好ましい一実施形態では、残渣プロセス流は、塩化カリウムと接触及び混合される前に任意選択の水と組み合わされ混合されて、前記混合物を形成する。
【0021】
一実施形態によれば、酸が混合物に添加混合される。好ましくは硫酸及び/又は塩酸が使用され、より好ましくは硫酸が使用される。好ましくは、酸は、塩化カリウムの添加前に添加される。このような添加は、混合物のpHを調整するために行ってもよい。
【0022】
一実施形態によれば、残渣プロセス流を塩化カリウムと接触させる。
【0023】
電池製造、電池リサイクル又は製鋼プラントに由来する、硫酸ナトリウムを含む残渣プロセス流は、水を含んでいてもよく、水と混合されてもよく、又は少なくとも部分的に水に溶解していてもよい。残渣プロセス流は溶液であってもよい。乾燥した残渣プロセス流を生成させるために、残渣プロセス流は、蒸発工程で前処理されてもよい。このような前処理された乾燥残渣プロセス流を、次に、水と接触させることができ、その後、塩化カリウムと接触させる。あるいは、このような前処理された乾燥残渣プロセス流を、次に、塩化カリウムと接触させることができ、その後、水と接触させる。あるいは、このような前処理された乾燥残渣プロセス流を、次に、既に水と接触した塩化カリウムと接触させることができる。
【0024】
一実施形態によれば、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムが、水、塩化カリウム及び残渣プロセス流の混合物に添加される。これは、例えば酸が添加された場合に、pHを調整するために行われる。
【0025】
一実施形態によれば、水、塩化カリウム及び残渣プロセス流の反応によってグラセライトが得られ、前記グラセライトを、取り出し、追加の塩化カリウムに添加混合及び/又は水で浸出して、硫酸カリウムを提供する。その後、硫酸カリウムを、更なる使用又は販売のために取り出すことができる。塩化カリウムの添加混合及び水による浸出は、任意の順序で行ってもよいことに留意されたい。しかしながら、好ましい実施形態では、塩化カリウムとの反応が最初に行われ、次に、水による浸出が行われる。
【0026】
一実施形態によれば、硫酸カリウムを取り出した後の残りの混合物は濃縮され、その後、存在する塩化ナトリウムは、例えばさらなる使用のために、取り出される。
【0027】
一実施形態によれば、取り出された塩化ナトリウムは、それを水酸化ナトリウム、水素及び塩素に変換するセルメンブレンプロセス(cell membrane process)に送られる。
【0028】
一実施形態によれば、取り出された塩化ナトリウムは、それを水酸化ナトリウム、水素及び塩素に変換するセルメンブレンプロセスに送られる。
【0029】
一実施形態によれば、電池製造施設からの残渣プロセス流は、リチウム電池製造施設、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、チタン酸リチウム、又はそれらの任意の組み合わせから選択された電池を製造する電池製造施設、好ましくはリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物電池を製造する電池製造施設に由来する。
【0030】
一実施形態によれば、電池リサイクル施設からの残渣プロセス流は、リチウム含有電池のための電池リサイクル施設に由来する。リサイクルされるリチウム含有電池は、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸鉄リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、チタン酸リチウム、又はそれらの任意の組み合わせを含む電池から選択されたものであることができ、好ましくはリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物を含む電池から選択されたものであることができる。
【0031】
一実施形態によれば、製鋼プラントからの硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流は、バナジウム回収のためのスラグの処理に由来する。バナジウム回収は、水酸化ナトリウムの添加によるバナジウム精製を含むことができ、これにより、五酸化バナジウムが1つの生成物流として提供され、硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流が別の生成物流として提供される。製鋼プラントからの硫酸含有残渣プロセス流は、バナジウム精製後の硫酸及び/又は硫酸アルミニウムの添加によって得ることができる。
【0032】
一実施形態によれば、残渣プロセス流に添加される塩化カリウムは、塩化カリウム中に存在する不純物を除去するために、水による洗浄及び任意選択的にその後の蒸発を含む前処理工程にかけられる。
【0033】
本発明は、硫酸カリウムを含む肥料の製造のための本プロセスの使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本発明プロセスの概略的な実施形態を開示する。
【
図2】
図2は、電池製造におけるカソード酸化工程の概略を開示しており、ここで硫酸ナトリウムは本プロセスに送られる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、電池製造、電池リサイクル又は製鋼プラントの残渣プロセス流から有価成分を提供することに関する。本発明により、高価値の肥料であるK2SO4が得られ、さらに、副生成物であるNaClも得られ、これは、様々な用途、例えば、道路用塩に使用することができる。
【0036】
特に、本発明は、リチウムイオン電池の製造又は電池リサイクルからの残渣プロセス流に関連する。電池は、例えばリチウムコバルト酸化物(LiCoO2又はLCO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4又はLMO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCoO2又はNMC)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4又はLFP)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAlO2又はNCA)、チタン酸リチウム(Li2TiO3又はLTO)から選択される。特に、本発明は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCoO2又はNMC)電池製造又は電池リサイクルの残渣プロセス流から有価成分を提供することに関する。
【0037】
上記のように、本プロセスで使用される電池製造からの残渣プロセス流は、(リチウムイオン)電池製造におけるカソード製造の酸化工程に由来するものであることができ、この工程では、硫酸ナトリウムが形成される。残渣プロセス流は、カソード製造の酸化工程からの廃水であってもよい。本工程で使用される残渣プロセス流は、好ましくは、電池製造プロセスにおいてカソード製造工程から得られ、より具体的には、残渣プロセス流はカソード製造の酸化工程から供給される。カソード製造工程では、水酸化ナトリウム及び硫酸が使用される。電池製造設備からの前記残渣プロセス流は、主にナトリウム、硫酸塩、及び微量のいくつかの金属及び元素、ニッケル、コバルト、アンモニア及びリチウムを含む。
図2は、カソード製造工程の概略図を開示している。
【0038】
上記から理解されるように、リチウム含有電池は、本発明による1つの重点分野である。さらに、別の実施形態によれば、電池リサイクル施設からの残渣プロセス流は、リン酸鉄リチウムを含む黒色塊状材料から得られる。さらに、別の実施形態によれば、電池リサイクル施設から残渣プロセス流として提供される前に、好ましくは鉄及び/又はリン酸塩を分離することによって、リチウムの濃度は、リチウム、鉄及びリン酸塩の合計に対して、増加される。
【0039】
本プロセスで使用される、製鋼プラントからの残渣プロセス流は、バナジウム回収を伴うスラグ処理からの硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流であってもよい。この点に関して、一実施形態によれば、硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流は、バナジウム回収のためのスラグの処理に由来すると言及することができる。さらに、さらに別の実施形態によれば、バナジウム回収は、水酸化ナトリウムの添加によるバナジウム精製を含み、これにより、1つの生成物流として五酸化バナジウムが提供され、別の生成物流として硫酸ナトリウム含有残渣プロセス流が提供される。さらに、1つの具体的な実施形態によれば、硫酸塩含有残渣プロセス流は、バナジウム精製後の硫酸及び/又は硫酸アルミニウムの添加により得られる。
【0040】
本プロセスでは、混合物を提供するために、残渣プロセス流、任意選択の水、及び塩化カリウムを、任意の順序で提供し、混合してもよく、あるいは、同時に提供し、混合してもよい。すなわち、混合物を提供するために、残渣プロセス流、任意選択の水、及び塩化カリウムを、任意の順序で又は同時に接触させ、混合してもよい。混合物は、以下によって提供することができる:
・塩化カリウム、任意選択の水、及び残渣プロセス流を同時に提供し、混合する;
・残渣プロセス流及び任意選択の水を提供し、混合し、次いで、塩化カリウムを添加混合する;
・残渣プロセス流及び塩化カリウムを提供し、混合し、次いで、任意選択の水を添加混合する;
・残渣プロセス流及び任意選択の水を提供し、混合し、塩化カリウム及び任意選択の水を提供し、混合し、次いで、塩化カリウム及び任意選択の水を残渣プロセス流及び任意選択の水と混合する;又は
・塩化カリウム及び任意選択の水を提供し、混合し、次いで、残渣プロセス流を添加混合する。
【0041】
電池製造、電池リサイクル又は製鋼プラントに由来する、硫酸ナトリウムを含む残渣プロセス流を、水と混合し、少なくとも部分的に水に溶解させてもよい。好ましくは、残渣プロセス流は溶液である。残渣プロセス流の成分は、好ましくは溶解される。残渣プロセス流の水性混合物は、任意選択的に、酸、好ましくは硫酸で処理されてもよい。酸の任意選択的な使用は、残渣プロセス流の組成に依存し得る。
【0042】
残渣プロセス流は、化学物質含有量が様々であり、以下の不純物を含み得る:
・残渣プロセス流が電池製造施設から提供される場合:Na2SO4、ニッケル、コバルト、アンモニア、リチウム、及びNaOH;
・残渣プロセス流が電池リサイクル施設から提供される場合:Na2SO4、カルシウム、リチウム、アルミニウム、鉄、及びマンガン;又は
・残渣プロセス流が製鋼プラントから提供される場合:Na2SO4、ケイ素、鉄、カリウム、及びカルシウム。
【0043】
任意選択的に、アルカリ性化合物を使用するpH調整の後続工程を、例えば上記の酸が本プロセスで添加された場合に、使用することができる。好ましくは、KOH及び/又はNaOHがアルカリ化合物として使用される。アルカリ性化合物の添加は、pHを上昇させ、K2SO4及びNaClに関して正しい化学量論的関係を達成するために使用することができる。
【0044】
硫酸カリウムを得るために、塩化カリウム(KCl)を残渣プロセス流を構成する水性混合物に添加する。このプロセスで得られる固相は、硫酸カリウムと硫酸ナトリウムからなるグラセライトと呼ばれる塩(K3Na(SO4)2)を含むことがある。一実施形態では、塩化カリウムを最初に添加した後に本プロセスで得られる中間生成物はグラセライトである。
【0045】
得られたグラセライト塩は、処理された残渣プロセス流から除去され、混合物の液体残存部分は、K2SO4を生成させるためにKClでさらに処理することができる。得られたK2SO4は、その後除去されてもよい。
【0046】
中間体グラセライトとK
2SO
4の生成に関する反応を以下に示す。
【化1】
【0047】
代替処理として、得られたグラセライト塩を、処理した残渣プロセス流から除去した後、K2SO4を提供するために水中で浸出してもよい。
【0048】
しかしながら、さらなる実施形態において、本プロセスは、任意の順序で、グラセライトのための上述の両方の処理工程の組み合わせを含んでもよい。次に、得られたグラセライト塩を、最初にKClで処理し、その後、K2SO4を生成させるために水中で浸出してもよいし、順番を逆にしてもよい。
【0049】
本プロセスで使用される塩化カリウムは、残渣プロセス流への添加前に、洗浄及び任意選択的に蒸発を含む前処理工程に供してもよい。水を用いた洗浄による前処理は、存在する副生成物又は不純物の除去を可能にする。市場で提供されている塩化カリウム製品には、例えば塩化ナトリウムなどの副生成物や不純物が含まれていることが多い。塩化カリウムを水洗浄にかけることで、存在する不純物を塩化カリウムから除去することができ、残渣プロセス流に添加する塩化カリウムの品質を向上させることができる。水洗浄を用いた前処理、及び任意選択的にその後の水の蒸発を行うことによって、塩化カリウムの品質は、例えば、塩化ナトリウムを約4wt%含有するものから、塩化ナトリウムを最大でも1wt%含有するものへと改善することができる。本プロセスで使用される塩化カリウムのこのような純度の向上は、硫酸カリウムへの転化が約5~9、例えば約6~8、好ましくは約6~7のpHで行われる場合、転化工程で得られる硫酸カリウムの収率を少なくとも5倍向上させる。
【0050】
K2SO4の分離後に残る処理された残渣プロセス流は、例えば、硫酸ナトリウムを析出させ、硫酸塩をプロセスに戻すことにより硫酸塩の収率を向上させるために、例えば冷却工程により、さらに処理することができる。
【0051】
K2SO4の分離後に残る処理残渣プロセス流は、固相として除去することができる塩化ナトリウム(NaCl)を析出させるために、例えば蒸発により、さらに処理することができる。この塩化ナトリウムは、例えば道路用塩として使用することができる。
【0052】
本発明は、さらに、得られたNaClをNaOH、H2及びCl2に変換するメンブレンセルプロセス(membrane cell process)の使用によって補完することができる。NaOHは価値のある化学物質であり、電池製造プラント、電池リサイクルプラント又は製鋼プラントで、例えば製鋼プラントのバナジウム精製で使用される。他の2つの生成物であるH2とCl2は回収され、H2の場合はエネルギーとして使用されるか、又は第三者に売却され、電池製造の経済性及び利益、又はプロセス全体を改善する。
【0053】
このようにして、製造された肥料よりも付加価値の高い製品が得られ、電池製造プロセス、電池リサイクルプロセス、総製鋼プロセス、又は他のプロセスで再利用するか、又は販売することができる。
【0054】
図1を参照すると、工程1で、残渣プロセス流と水とが添加混合されることが示されている。残渣プロセス流が既に十分な量の水を含んでいる場合、水の添加は任意選択的である。あるいは、残渣プロセス流が既にある程度の量の水を含んでいる場合、わずかな水の添加のみが行われてもよい。一実施形態では、残渣プロセス流及び水を、前処理残渣プロセス流処理システムからの除去物と置き換えるか、又はそれと組み合わせてもよい。任意選択的に、工程1でも、酸、例えば硫酸を添加することができる。
【0055】
混合物を含む残渣プロセス流は、任意選択的に、工程2でKOH及び/又はNaOHと混合されてもよく、そこで混合物のpHが上昇し、溶液は、得られるK2SO4及びNaClに関して正しい化学量論的関係に達することができる例えば工程1で酸が添加されなかった場合には、。アルカリ性化合物は工程2で必要とされないことがある。
【0056】
その後、工程3では、K2SO4を得るために、残渣プロセス流混合物をKClと混合する。このプロセスは、グラセライトと呼ばれる硫酸カリウムと硫酸ナトリウムの混合塩を生じる。次に、このグラセライト塩は除去され、次の工程4に進み、そこで追加のKClと水溶液中で反応させ、次いで、工程5でさらに水中で浸出され、最終製品K2SO4が生成される。工程4と5のいずれかを単独で、又は組み合わせて使用してもよいことに留意されたい。固相のK2SO4は、処理された残渣プロセス流から分離され、リサイクルすることができる。
【0057】
工程3、4及び5の残りの液体は、析出した塩と向流でプロセスの前の工程にリサイクルすることができる。グラセライトが形成される可能性のある工程3では、硫酸塩をさらに析出させるために、この工程からの処理された残渣プロセス流を冷却工程6に送り、硫酸塩は分離されて工程3に再循環される。
【0058】
少量の硫酸ナトリウムとカリウムを含むがナトリウムと塩化物も含む冷却工程6後に残る溶液は、塩濃度を高め、固相としてNaClを析出させ、溶液から塩を分離するために、水を除去する蒸発工程7に送られる。NaClが析出し、溶液から除去される蒸発工程で追い出された水は、システムを閉じるためにプロセスにリサイクルされ、新しい残渣プロセス流を希釈又は溶解するために使用することができる。
【0059】
工程4での硫酸カリウムへのグラセライトの反応をさらに促進するために、KClは洗浄され、不純物を取り除かれて、高純度のKClを生成し、これにより、工程4での収率が最大5倍まで高まる。
【0060】
ほとんど全ての反応は室温かそれよりも少し高い温度で起こるので、本発明によるプロセスは、NaCl沈殿工程7における水の蒸発を除き、それほどエネルギーを必要としない。
【0061】
電池製造施設、電池リサイクル施設、又は製鋼プラント、例えばバナジウム精製などに、生成された副生成物であるNaClからNaOHを提供するために、メンブレンセルプロセスを本プロセスにさらに追加することができる。
【国際調査報告】