(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】量子カスケードレーザを用いた光増幅を含む、試料のスペクトル応答測定のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/35 20140101AFI20240614BHJP
G02F 1/39 20060101ALI20240614BHJP
H01S 3/13 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
G01N21/35
G02F1/39
H01S3/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573143
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 HU2021050030
(87)【国際公開番号】W WO2022248894
(87)【国際公開日】2022-12-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523443984
【氏名又は名称】モレクラリス- ウイレンヨマット クタト ケズポント ノンプロフィット ケーエフティー.
(71)【出願人】
【識別番号】390040420
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ
【氏名又は名称原語表記】Max-Planck-Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
(71)【出願人】
【識別番号】521523383
【氏名又は名称】ルートヴィヒ-マクシミリアン-ウニヴェルズィテート ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワイゲル,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】シージェン,チュー
(72)【発明者】
【氏名】マク,カ ファイ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス,フェレンツ
【テーマコード(参考)】
2G059
2K102
5F172
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB12
2G059EE01
2G059EE09
2G059GG01
2G059GG08
2G059HH01
2G059JJ22
2G059JJ30
2G059KK01
2G059MM01
2K102AA07
2K102BA18
2K102BA21
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2K102BD09
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2K102EB20
2K102EB22
5F172AE03
5F172AF06
5F172AL07
5F172NN17
5F172NR12
5F172NR14
5F172NR24
(57)【要約】
【解決手段】試料(1)、特に生物学的試料のスペクトル応答を測定するように構成された分光測定装置(100)は、一次スペクトルを有する一連のプローブ光パルス(2)を試料(1)に照射するために配置されたfsレーザ光源装置(10)と、変化したスペクトルおよび/または時間構造を有し、プローブ光パルス(2)と試料(1)との相互作用から生じる応答光パルス(2’)を時間的および/またはスペクトル分解して検出するために配置された検出器装置(20)と、少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1...3
N)を含むパルス修正装置(30)とを含み、パルス修正装置(30)は、少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1...3
N)を用いて、プローブ光パルス(2)および応答光パルス(2’)の少なくとも一方の1つまたは複数のスペクトル成分を増幅することによって、プローブ光パルス(2)および応答光パルス(2’)の少なくとも一方を修正するように構成される。さらに、試料(1)、好ましくは生物学的試料のスペクトルおよび/または時間的な応答を測定する方法が記載される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(1)、特に生物学的試料のスペクトル応答を測定するように構成された分光測定装置(100)であって、
- 一次スペクトルを有する一連のプローブ光パルス(2)を前記試料(1)に照射するために配置されたfsレーザ光源装置(10)と、
- 変化したスペクトルおよび/または時間構造を有し、前記プローブ光パルス(2)と前記試料(1)との相互作用から生じる応答光パルス(2’)を時間的および/またはスペクトル分解して検出するために配置された検出器装置(20)と、
- 少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1...3
N)を含むパルス修正装置(30)と
を含み、
前記パルス修正装置(30)は、前記少なくとも1つの量子カスケードレーザ(31...3
N)を用いて、前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方の1つまたは複数のスペクトル成分を増幅することによって、前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方を修正するように構成されることを特徴とする、分光測定装置(100)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1...3
N)は、異なる中心波長(λ
1...λ
N)を有する複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)のアレイを含む、請求項1に記載の分光測定装置。
【請求項3】
a)前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)は、並列構成で配置され、および/または、
b)前記パルス修正装置(30)は、
- 入力されたレーザビームを異なるスペクトル間隔を有する複数のサブビームに空間的に分離するように構成されたスプリッタ装置(31)と、
- 前記サブビームのそれぞれを、前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)の1つにそれぞれ導くように構成された中継装置(32)と、
- 前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)のそれぞれの増幅出力を単一のレーザビーム出力にコリメートするように構成されたコンバイナ装置(33)と
を含む、請求項2に記載の分光測定装置。
【請求項4】
a)前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)は、順次構成で配置され、および/または、
b)前記パルス修正装置(30)は、入力されたレーザビームを前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)のそれぞれに連続した順序で向けるように構成された中継装置(32’)を含む、請求項2に記載の分光測定装置。
【請求項5】
前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)の第1のQCLサブセットは、並列構成で配置され、前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)の第2のQCLサブセットは、順次構成で配置される、請求項2に記載の分光測定装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1)は、少なくとも1ワットの出力パワー、および/または3μmから24μmの範囲の中心波長を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の分光測定装置。
【請求項7】
前記パルス修正装置(30)は、前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方の1つまたは複数のスペクトル成分を時間ゲート増幅することにより、前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方の時間プロファイルを形成するように構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の分光測定装置。
【請求項8】
前記パルス修正装置(30)を制御して、前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方の予め定義されたスペクトルおよび/または時間プロファイルを生成するように構成された制御装置(40)をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の分光測定装置。
【請求項9】
前記fsレーザ光源装置(10)は、
- 前記プローブ光パルス(2)が、超広帯域中赤外パルスを含む、
- 前記プローブ光パルス(2)が、100fs未満、特に50fs未満のパルス幅を有する、
- 前記プローブ光パルス(2)が、10mWより大きい、特に100mWより大きい平均パワーを有する、
- 前記一次スペクトルが、少なくとも1つの周波数オクターブ、特に少なくとも2つの周波数オクターブをカバーする、
- 前記一次スペクトルが、5μmから15μm、特に3μmから30μmの波長範囲をカバーする、および
- 前記一次スペクトルが、連続スペクトルまたは準連続スペクトルである、
という特徴の少なくとも1つを有する前記プローブ光パルス(2)を生成するように適合される、請求項1から8のいずれか一項に記載の分光測定装置。
【請求項10】
プローブ光パルス(2)による励起時に、試料(1)、好ましくは生物学的試料のスペクトル応答および/または時間応答を測定する方法であって、
- fsレーザ光源装置(10)によって生成された前記プローブ光パルス(2)のシーケンスで前記試料(1)を照射するステップであって、前記プローブ光パルス(2)は一次スペクトルを有する、ステップと、
- 検出装置(20)によって応答光パルス(2’)をスペクトル分解および/または時間分解して検出するステップであって、前記応答光パルス(2’)は、前記プローブ光パルス(2)と前記試料(1)との相互作用の結果生じる変化したスペクトルを有する、ステップと、
- 少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1...3
N)を含むパルス修正装置(30)を用いて、前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方を修正するステップであって、前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方の1つまたは複数のスペクトル成分は、前記少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1...3
N)で増幅されることを特徴とする、ステップとを含む、方法。
【請求項11】
前記プローブ光パルス(2)は、前記試料(1)に到達する前に修正され、および/または、前記応答光パルス(2’)は、前記検出装置(20)に到達する前に修正される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1)は、異なる中心波長(λ
1...λ
N)を有する複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)のアレイを含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
a)前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)は、並列構成で配置され、および/または、
b)前記修正するステップは、
- 前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方を、スプリッタ装置(31)によって、異なるスペクトル間隔を有する複数のサブビームに分割すること、
- 前記サブビームのそれぞれを、中継装置(32)によって、前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)のうちの1つにそれぞれ向けること、および
- 前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)のそれぞれの増幅出力を、コンバイナ装置(33)によって単一のレーザビーム出力にコリメートすること
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
a)前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)は、順次構成で配置され、および/または、
b)前記修正するステップは、
- 前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方を、中継装置(32’)によって、前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)のそれぞれに連続した順序で向けること
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)の第1のQCLサブセットは、並列構成で配置され、前記複数の量子カスケードレーザ(3
1...3
N)の第2のQCLサブセットは、順次構成で配置される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの量子カスケードレーザ(3
1...3
N)は、少なくとも1ワットの出力パワー、および/または3μmから24μmの範囲の中心波長を有する、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの関心スペクトル領域、特に前記試料の予想される分子共鳴の周波数を決定するステップをさらに含み、
前記修正するステップは、前記関心スペクトル領域のパワースペクトル密度を増加させることを含む、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記修正するステップは、前記応答光パルス(2’)の時間プロファイルを形成するために、前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方の1つまたは複数の成分を時間ゲート増幅することを含む、請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
- 前記プローブ光パルス(2)および前記応答光パルス(2’)の少なくとも一方の目標スペクトルおよび/または時間プロファイルを定義するステップと、
- 前記定義された目標スペクトルおよび/または時間プロファイルに基づいて、制御装置(40)によって前記パルス修正装置(30)を制御するステップと
をさらに含む、請求項10から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記プローブ光パルス(2)は、
- 前記プローブ光パルス(2)が、超広帯域中赤外パルスを含む、
- 前記プローブ光パルス(2)が、100fs未満、特に50fs未満のパルス幅を有する、
- 前記プローブ光パルス(2)が、10mWより大きい、特に500mWより大きい平均パワーを有する、
- 前記一次スペクトルが、少なくとも1つの周波数オクターブ、特に少なくとも2つの周波数オクターブをカバーする、
- 前記一次スペクトルが、5μmから15μm、特に3μmから30μmの波長範囲をカバーする、および
- 前記一次スペクトルが、連続スペクトルまたは準連続スペクトルである、
という特徴の少なくとも1つを有する、請求項10から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料のスペクトル応答を測定する方法および試料のスペクトル応答を測定するように構成された分光測定装置に関する。特に、本発明は、広帯域中赤外プローブ光を試料に照射し、プローブ光と試料との相互作用から生じるプローブ光のスペクトル含量および/または時間構造の変化を感知することにより、スペクトル応答を測定する方法に関する。さらに、本発明は、特に、試料にプローブ光を照射するための広帯域中赤外光源と、プローブ光と試料との相互作用から生じるプローブ光の変化をスペクトル領域および/または時間領域で検出するための検出器装置とを含む分光測定装置に関する。本発明の用途は、試料、例えば生物学的試料または赤外応答を有する他の試料の、特に試料の(分子)組成および/またはその変化を分析するための、分光法、特に高ダイナミックレンジの電界分解赤外分光法において利用可能である。
【背景技術】
【0002】
本発明に関連する背景技術を説明するために、以下の先行技術文献を参照する。
[1]Lasch,P.&Kneipp,J.、Biomedical Vibrational Spectroscopy(Wiley、2010)
[2]Pupeza、loachimら、「Field-resolved infrared spectroscopy of biological systems」 Nature577、7788、52-59(2020)
[3]Zhang、Jinweiら、「Intra-pulse difference-frequency generation of mid-infrared(2.7-20μm)by random quasi-phase-matching」 Optics Letters44、12、2986-2989(2019)
[4]Wang、Qingら、「Broadband mid-infrared coverage(2-17μm)with few-cycle pulses via cascaded parametric processes」 Optics Letters44、10(2019):2566-2569
[5]Novak、Ondrejら、「Femtosecond 8.5μm source based on intrapulse difference-frequency generation of 2.1μm pulses」 Optics Letters43、6、1335-1338(2018)
[6]Williams,B.、「Terahertz quantum-cascade lasers」 Nature Photonics1、517-525(2007)
[7]Rauter、Patrickら、「Multi - wavelength quantum cascade laser arrays」 Laser&Photonics Reviews9.5、452-477(2015)
[8]Zhu、Huanら、「Terahertz master-oscillator power-amplifier quantum cascade laser with a grating coupler of extremely low reflectivity」 Optics Express26、2、1942-1953(2018)
[9]Zhou、Wenjiaら、「Single-mode, high-power, mid-infrared, quantum cascade laser phased arrays」 Scientific Reports8、1、1-6(2018)
[10]Andriukaitis、Giedriusら、「90GW peak power few-cycle mid-infrared pulses from an optical parametric amplifier」 Optics Letters36、15、2755-2757(2011)
[11]Seidel、Marcusら、「Multi-watt, multi-octave, mid-infrared femtosecond source」 Science advances4、4、eaaq1526(2018)
[12]Jukam、Nathanら、「Terahertz amplifier based on gain switching in a quantum cascade laser」 Nature Photonics3、12(2009):715-719
[13]Bachmann、Dominicら、「Broadband terahertz amplification in a heterogeneous quantum cascade laser」 Optics Express23、3(2015):3117-3125
[14]Oustinov、Dimitriら、「Phase seeding of a terahertz quantum cascade laser」 Nature communications1.1(2010):1-6
[15]Schubert、Olafら、「Rapid-scan acousto-optical delay line with 34kHz scan rate and 15 as precision」 Optics Letters38、15(2013):2907-2910
【0003】
広帯域赤外分光法は、400cm-1~3300cm-1または3μm~25μmのスペクトル範囲における吸収の変化(いわゆる分子指紋吸収)を検出することによって、複雑な試料の分子組成の変化を識別できることが一般的に知られており、バイオメディカルセンシングのための理想的な計測法となっている[1]。
【0004】
最近、フェムト秒中赤外(MIR)レーザパルスに基づく電界分解分光法(FRS)が、現在の最先端のフーリエ変換赤外(FTIR)分光法と比較して、分子検出のための高いダイナミックレンジ、感度、および特異性を達成できることが示された[2]。FRSでは、数光周期の広帯域MIRパルスが試料を励起し、パルス後の分子応答を含む完全な電場が、時間領域の電気光学サンプリング(EOS)測定で直接捕捉される。FRSは成功し、将来的にはマルチオクターブスペクトルをカバーする時代に達する見込みがあるにもかかわらず、まだFRSは特に次のような限界に直面している。
i.MIR駆動パルスの強度とそれに対応するモーレキュラー応答の強度は、非線形MIR生成プロセスの効率の低さによって制限される。例えば、特に位相の安定したパルスを提供するパルス内差周波発生(IPDFG)の場合、効率はわずか0.1%から3%である[3~5]、
ii.現在達成可能な光信号/ノイズ比は、検出エレクトロニクスのダイナミックレンジの限界に達し始める[2]、
iii.MIRの生成は一般に非線形結晶の位相整合に依存しており、これによりターゲットとする波長範囲にわたって不均一なスペクトル密度を持つスペクトルが生成される。
【0005】
FRSまたは他の高ダイナミックレンジ/高感度技術の可能性をよりよく利用するために、限界を克服する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、試料のスペクトル応答を測定するための、例えば試料の分子組成および/または分子組成の変化を測定するための、従来技術の欠点を回避した改良された装置および方法を提供することである。特に、本発明の目的は、高められた感度、改善された信号対雑音比(SNR)、高められた選択性、目標の波長範囲にわたるスペクトル密度の改善された均一性、および/または拡大されたスペクトル範囲、例えば中赤外スペクトル範囲(MIR)をカバーする改善された能力を有する、試料のスペクトル応答を測定するための方法および測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の好ましい実施形態および用途は、従属請求項に定義される。
【0008】
本発明の第1の一般的態様によれば、分光測定装置が提供される。分光測定装置は、試料、例えば、生物学的試料またはIR応答を有する他の試料のスペクトル応答を測定するように構成される。この目的のために、分光測定装置は、フェムト秒(fs)レーザ光源装置(例えば、Ho-YAGレーザ、Yb:YAG薄ディスクレーザ、Ti:Saレーザ、Er:ファイバレーザまたはCr:ZnSレーザを含む)を含み、レーザ光源装置は一次スペクトルを有する一連のプローブ光パルスを試料に照射するために配置される。好ましくは、一次スペクトル、すなわちプローブ光パルスのスペクトル組成は、中赤外領域の連続スペクトルまたは準連続スペクトルである。例えば、一次スペクトルは5μmから15μmの波長範囲をカバーすることができる。さらに、分光測定装置は、変化したスペクトルおよび/または時間構造を有し、プローブ光パルスと試料との相互作用から生じる応答光パルスのスペクトル的および/または時間的に分解された検出のために配置された検出器装置(例えば、FTIR-分光計、好ましくは、EOSによる電界分解検出)を含む。応答光パルスのそれぞれは、プローブ光パルスの1つが試料と相互作用した結果として生じる。言い換えれば、検出器装置は、光-物質相互作用(例えば、試料の振動および/または回転分子状態の励起)に起因してスペクトルおよび/または時間構造が最初のプローブ光パルスのそれとは異なる可能性があり、例えば試料の分子組成を分析するために使用され得る、修正されたプローブ光パルス(すなわち、応答光パルス)のスペクトル構成および/または時間プロファイルを測定するように配置され得る。
【0009】
さらに、本発明によれば、特許請求される分光測定装置は、少なくとも1つの量子カスケードレーザ(QCL)を含むパルス修正装置をさらに含む。このタイプのレーザは、基本的に従来技術で知られており、例えば、最大数ワットの出力パワーで、中赤外(例えば、3μmから24μm以上)の範囲の中心波長付近で発光する(サブバンド間)半導体レーザを指す。有利なことに、QCLの発光特性は、半導体-多層シーケンスで特定の量子井戸構造を作成することによって設計することができ、強力でカスタマイズ可能なオンチップ・レーザの数々を提供することができる[6、7]。
【0010】
本発明によれば、パルス修正装置は、少なくとも1つの量子カスケードレーザでプローブ光パルスおよび/または応答光パルスの1つまたは複数のスペクトル成分を増幅することによって、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスを修正するように構成される。言い換えれば、パルス修正装置は、試料に到達する前に、特に試料と相互作用する前に、プローブ光パルスを修正するように、および/または、検出器装置に入射する前に、応答光パルスを修正するように構成することができる。以下に詳述するように、特許請求される分光測定装置内でQCL技術を使用することにより、有利なことに、プローブ光パルスのパワーを通常の数十ミリワット領域(例えば、[2]を参照)から数ワットレベルまで高めることができ、分子応答が増大し、検出されるシグナル/ノイズがより高くなり、したがって感度がより高くなる。特許請求されたパルス修正装置のさらなる利点は、各プローブ光パルスが試料を最適に励起するように、一次スペクトルを(例えば、典型的な吸収帯を有する特定のスペクトル領域を選択的に増強することによって)形成できることである。代替的に、またはそれに加えて、パルス修正装置は、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスの時間ゲート増幅にも使用することができ、特に、メイン(励起)パルスの後(テール)の分子応答を選択的に増強し、検出器のダイナミックレンジに対する要求を強く低減することができる。
【0011】
本発明者らは、QCLが、他の利用可能な増幅技術と比較して、分光測定に使用できる特に以下のようなさらなる利点を提供することを見出した。QCLにおけるエネルギ変換は、複数の光子を生成するために各電子を再利用できるため、非常に効率的である。電気エネルギを光子に直接変換することと、そのサイズが小さいことから、QCLは、例えば光パラメトリック増幅器(OPA)と比べて到達する増幅ノイズが小さいという利点もある。さらに、MIR OPAのエネルギ変換効率は、MIR出力とNIRポンプレーザ間の光子エネルギ比で定義される量子効率が低いために制限される。そのため、QCLと同様の出力を得るためには、高出力のポンプレーザが必要となる。その上、OPAは複数の光学素子を必要とし、通常、チップ上で増幅を行うQCLよりもはるかに大きなスペースを占有する。
【0012】
本明細書において、「プローブ光パルス」という用語は、一般にfsレーザ光源装置と試料との間の光路における光パルスを指すことがあるが、試料と相互作用する場合には、最終的に「修正プローブ光パルス」であってもよい。同様に、「応答光パルス」という用語は、一般に、試料と検出器装置の間の光路における光パルスを指すことがあるが、検出器装置に入射する際には、最終的に「修正応答光パルス」になり得る。
【0013】
プローブレーザパルスのシーケンスを生成するために、fsレーザ光源装置は、好ましくは、例えば100kHzから10MHz以上、例えば数百MHzの範囲における繰り返し率で、周期的なパルス列を生成するように構成され得るパルスfsレーザ光源装置である。さらに、当業者には明らかなように、本発明は主にプローブ/応答光パルスのシーケンスの文脈で説明されているが、その教示は、数個または単一のプローブ光パルスを採用する文脈でも適用できる。
【0014】
本発明の基本的な利点は、試料に到達する前にプローブ光のスペクトル成分を選択的に増幅するため、および/または、検出器に到達する前に、プローブ光と試料との相互作用から生じる応答光のスペクトル成分を選択的に増幅するために、1つまたは複数の量子カスケードレーザを採用することにある。これにより、例えば、プローブ光のパワーを通常の数十ミリワット領域(例えば[2]参照)から数ワットレベルまで高めることができ、分子応答が増大し、検出されるシグナル/ノイズがより高くなり、感度がより高くなる。さらに、または代替的に、量子カスケードレーザは、例えば、メインパルス後の分子応答のみを選択的に増強することによって、応答光を修正するために使用することもでき、その結果、分子応答の信号レベルは励起パルスと同程度になり、検出器のダイナミックレンジに対する要求が大幅に減少する。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの量子カスケードレーザは、異なる中心波長を有する複数(すなわち、少なくとも2つ、例えば、5つまたは最大10またはそれ以上)の量子カスケードレーザのアレイを含み得る。この文脈において、「中心波長」という用語は、QCLの周波数領域におけるスペクトルの重心に対応するそれぞれの波長とみなすことができる。好ましくは、アレイのQCLの中心波長は中赤外領域に均等に分布している。単一のQCLのスペクトル帯域幅は通常、中心波長の5%程度に制限されるため、複数の量子カスケードレーザを本発明のように使用することにより、有利なことに、超広帯域(例えば、スーパーオクターブ)の中赤外パルスの全スペクトルをおそらくカバーすることが可能になる。
【0016】
その結果、パルス修正装置は、セクションごとのスペクトル増幅に使用することができ、有利には、パルススペクトルの制御された調整(例えば、スペクトルを平坦化し、スペクトルの翼を増強し、および/または予想される分子共鳴の周波数におけるパワースペクトラル密度を増加させる)を可能にする。
【0017】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、アレイの複数の量子カスケードレーザは、並列構成で配置することができる。並列電気回路の文脈と同様に、「並列」という用語は、QCLが光路の2つの共通ノード間に延びる異なる光分岐に配置される構成を指す。有利なことに、これによって異なるスペクトル領域を同時に増幅することが可能になり、中赤外光パルスを修正するための高速かつ低損失のソリューションが提供される。
【0018】
加えて、または代替的に、パルス修正装置は、レーザビーム入力を異なるスペクトル間隔を有する複数のサブビームに空間的に分離するように構成されたスプリッタ装置を含んでいてもよい。さらに、パルス修正装置は、サブビームのそれぞれを複数の量子カスケードレーザの1つにそれぞれ導くように構成された中継装置を含んでいてもよい。換言すれば、中継装置-この文脈では案内装置または偏向装置とも呼ばれ得る-は、スプリッタ装置によって生成されたサブビームのそれぞれをそれぞれのQCLに案内するように構成され得る。好ましくは、それぞれのQCLへのサブビームの位置合わせは、サブビームのスペクトル間隔に基づいて行われる、すなわち、各スペクトル間隔の中央はQLCの中心波長に対応してもよい。さらに、パルス修正装置は、複数の量子カスケードレーザのそれぞれの増幅出力を単一のレーザビーム出力にコリメートするように構成されたコンバイナ装置を含んでいてもよい。これにより、有利なことに、異なるスペクトル領域の同時増幅が可能になり、QCLの通常コンパクトなチップ設計により、パルス修正装置の非常に省スペースな実装が容易になる。
【0019】
本発明の代替的または付加的な態様によれば、複数の量子カスケードレーザは順次構成(またはシリアル構成)で配置することができる。直列電気回路の文脈と同様に、ここでも「直列」という用語は、複数のQCLが単一の光路内で「一列に」接続されている構成を指す場合がある。あるいは、またはそれに加えて、パルス修正装置は、複数の量子カスケードレーザのそれぞれに連続した順序でレーザビーム入力を向けるように構成された中継装置も含み得る。有利なことに、これにより、異なるスペクトル領域の連続的な増幅または修正が可能になる。
【0020】
並列構成と順次構成は組み合わせることができる。したがって、本発明の別の態様によれば、パルス修正装置は、第1のQCLサブセットと第2のQCLサブセットとを含むことができ、複数の量子カスケードレーザの第1のQCLサブセットは並列構成で配置され、複数の量子カスケードレーザの第2のQCLサブセットは順次構成で配置される。言い換えれば、パルス修正装置の一部のQCLは、例えば、それぞれのスペクトル領域を同時に増幅するために並列に配置されてもよく、パルス修正装置の一部のQCLは、例えば、それぞれのスペクトル領域を連続して増幅するために順次に配置されてもよい。第1サブセットと第2サブセットのそれぞれが異なるQCLを含んでもよいし、または第1サブセットと第2サブセットが少なくとも1つのQCLを共有してもよい。これにより、パルス修正装置は、排他的並列構成または順次構成の文脈で前述したそれぞれの装置(スプリッタ装置、中継装置、コンバイナ装置)も含み得る。
【0021】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1つの量子カスケードレーザは、少なくとも1ワットの出力パワーおよび/または3μmと24μmの間の範囲の中心波長を有する。パルス修正装置が複数のQCLのアレイを含む場合、好ましくは、すべてのQCLがそれぞれ少なくとも1ワットの出力パワーおよび/または3μmと24μmの間の範囲の中心波長を有する。有利なことに、これにより光パルスのパワーを通常の数十ミリワット領域(例えば[2]を参照)から数ワットレベルまで高めることができる。パワーを上げると、それに対応して分子応答が強くなり、検出されるシグナル/ノイズがより高くなり、測定の感度がより高くなる。
【0022】
時間領域において光パルスの特定領域を有利に増強するために、本発明の別の態様によれば、パルス修正装置は、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスの1つまたは複数のスペクトル成分を時間ゲート増幅することによって、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスの時間プロファイルを形成するように構成することができる。この文脈では、「時間ゲート」という用語は、所定の時間間隔におけるQCLの制御されたオン/オフスイッチングに基づくプローブ光パルスおよび/または応答光パルスの時間的増幅を指す。このために、例えば、無線周波数(RF)セットアップによって提供される時間ゲートを使用することができる。例示的な実施形態では、RFパルスは、(中赤外)プローブ光パルスを生成するために使用されるfsレーザ光源装置の駆動パルスの一部で高速フォトダイオードを照射することによって生成することができる。その後、QCLがRFパルスによって駆動されながら閾値を超えて動作できるように、RFパルス(任意に遅延させたもの)のパワーを増幅器によって増加させることができ、QCLのオン・スイッチングはプローブ光パルスと同期する。
【0023】
有利なことに、この時間ゲートセットアップにより、例えば、応答光パルスの時間的セクション(好ましくは主励起に続く部分)を増幅することが可能になり、その中で試料の応答が符号化される。「時間的セクションの増幅」の文脈では、典型的なFRS測定における応答光パルスは通常、主にプローブ光パルスに対応するメインパルスと、メインパルスの後流(テール)にある分子応答を含んでいることに留意すべきである。したがって、RFパルスの開始は、増幅がメインパルスの後に開始されるような有利なタイミングで行われる。RFパルスのオンオフを高速に切り替えることで、パルステールの分子応答を選択的に増幅することができる。時間ゲート増幅は各パルス波形に個別に作用するので、この実装はマルチショット取得にも、1回のレーザショットで完全なEOSトレースを測定する検出スキームにも適している。
【0024】
別の方法として、時間ゲートセットアップは、有利なことに、遅延に依存した増幅も可能にし、時間ゲートQCL増幅は、試料相互作用の前または後のどちらかで、全パルス波形に作用する。これにより、増幅のオン/オフスイッチングは、従来のEOS検出のように、マルチパルス走査実験における遅延と同期させることができる。この文脈において、分光測定装置は、プローブ光パルスに対して時間的にタイムゲートを駆動する駆動パルスを遅延させるように構成された遅延装置(例えば、機械的遅延ステージ)を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の別の実施形態によれば、分光測定装置は、制御装置をさらに含んでもよい。制御装置は、パルス修正装置を制御して、パルス修正装置がプローブ光パルスおよび応答光パルスの少なくとも一方の、予め定義された、すなわち予め決定された、スペクトルおよび/または時間プロファイルを生成するように構成されてもよい。言い換えれば、制御装置は、パルス修正装置に、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスのスペクトル形状および/または時間形状を定義された方法で修正させるように構成することができる。有利には、これにより、例えば、予想される分子共鳴の周波数におけるパワースペクトル密度を増加させることにより、試料を最適に励起するように、例えばプローブ光パルスをスペクトル的および/または時間的に形成することが容易になる。
【0026】
本発明の別の有利な態様によれば、fsレーザ光源装置は、以下の特徴の少なくとも1つを有するプローブ光パルスを発生するように適合され得る。プローブ光パルスは、超広帯域中赤外パルスを含んでもよい。プローブ光パルスは、100fs未満、特に50fs未満のパルス持続時間を有してもよい。プローブ光パルスの平均パワーは10mWより大きい、特に100mWより大きくてもよい。プローブ光パルスの一次スペクトルは、少なくとも1つの周波数オクターブ、特に少なくとも2つの周波数オクターブをカバーすることができる。プローブ光パルスの一次スペクトルは、5μmから15μm、特に3μmから30μmの波長範囲をカバーすることができる。プローブ光パルスの一次スペクトルは、連続スペクトルまたは準連続スペクトルであってもよい。
【0027】
本発明の第2の一般的態様によれば、試料(例えば、生物学的試料)のスペクトル応答を測定する方法が提供される。この目的のために、本方法は、fsレーザ光源装置(例えば、Yb-YAGレーザを含む)によって生成された一連のプローブ光パルスを試料に照射するステップを含み、プローブ光パルスは一次スペクトルを有する。好ましくは、一次スペクトルは、中赤外領域の連続スペクトルまたは準連続スペクトルであり、例えば、5μmから15μmの波長範囲をカバーする。さらに、本方法は、検出器装置(例えば、電気光学サンプリング用に構成された検出器装置)によって応答光パルスを分光分解検出するステップを含み、応答光パルスは、プローブ光パルスと試料との相互作用の結果として変化したスペクトルを有する。さらに、本方法は、パルス修正装置を用いてプローブ光パルスおよび/または応答光パルスを修正するステップを含む。これにより、パルス修正装置は、少なくとも1つの量子カスケードレーザを含み、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスの1つまたは複数のスペクトル成分が、少なくとも1つの量子カスケードレーザで増幅される。これにより、有利なことに、プローブ光のパワーは、通常の数十ミリワット領域(例えば、[2]を参照)から数ワットレベルまで増強され、分子応答が増大し、検出されるシグナル/ノイズがより高くなり、したがってより高感度になり得る。
【0028】
好ましくは、本発明の第2の一般的態様またはその実施形態の方法は、本発明の第1の一般的態様またはその実施形態の分光測定装置によって実行される。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、プローブ光パルスは、試料に到達する前に修正される。あるいは、またはそれに加えて、応答光パルスは、検出器に到達する前、および/または検出器に入射する前に修正される。有利なことに、これにより、プローブ光パルスおよび応答光パルスの制御された成形が、測定の異なる部分における特定の要件に依存して可能になる。
【0030】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1つの量子カスケードレーザは、異なる中心波長を持つ複数の量子カスケードレーザのアレイを含み得る。例えば、複数のQCLのアレイは、2~10またはそれ以上のQCLから構成され得る。好ましくは、それぞれのQCLの中心波長(すなわち、各QCLのバンド幅のうち、その「中間」と考えられる波長)は、中赤外領域に均等に分布している。有利なことに、パルス修正装置は、このようなセクション単位のスペクトル増幅を可能にし、これにより、パルススペクトルの制御された調整(例えば、スペクトルを平坦化し、スペクトルウィングを増強し、および/または予想される分子共鳴の周波数におけるパワースペクトル密度を増加させる)を可能にする。
【0031】
本発明の別の態様によれば、複数の量子カスケードレーザを並列構成で配置することができる。有利なことに、これによって異なるスペクトル領域の同時増幅が可能になり、したがって中赤外光パルスを修正するための高速で低損失のソリューションが提供される。代替的に、または追加的に、修正するステップは、以下のステップを含むことができる。スプリッタ装置によってプローブ光パルスおよび/または応答光パルスを異なるスペクトル間隔を有する複数のサブビームに分割するステップ。中継装置によって、サブビームのそれぞれを複数の量子カスケードレーザの1つにそれぞれ向けるステップ。コンバイナ装置によって、複数の量子カスケードレーザのそれぞれの増幅出力を単一のレーザビーム出力にコリメートするステップ。
【0032】
本発明の別の態様によれば、複数の量子カスケードレーザは、順次構成で配置されてもよい。代替的に、またはそれに加えて、修正するステップは、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスを、中継装置によって複数の量子カスケードレーザのそれぞれに連続した順序で向けるステップを含んでもよい。有利なことに、これにより、異なるスペクトル領域の連続的な増幅または修正が可能になる。
【0033】
本発明の別の態様によれば、パルス修正装置は、第1のQCLサブセットと第2のQCLサブセットとを含むことができ、複数のQCLのうち第1のQCLサブセットは並列構成で配置され、複数のQCLのうち第2のQCLサブセットは順次構成で配置される。換言すれば、パルス修正デバイスの一部のQCLは、例えばそれぞれのスペクトル領域を同時に増幅するために並列に配置され、一方でパルス修正デバイスの他のQCLは、例えばそれぞれのスペクトル領域を連続して増幅するために連続に配置されてもよい。これにより、パルス修正装置は、並列構成または順次構成のみの文脈で前述したそれぞれの装置(スプリッタ装置、中継装置、コンバイナ装置)を含むこともできる。
【0034】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1つの量子カスケードレーザは、少なくとも1ワットの出力および/または3μmと24μmとの間の範囲の中心波長を有することができる。パルス修正装置が複数のQCLのアレイを含む場合、好ましくは、すべてのQCLがそれぞれ少なくとも1ワットの出力パワーおよび/または3μmと24μmの間の範囲の中心波長を有する。
【0035】
本発明の別の態様によれば、本方法は、少なくとも1つの関心スペクトル領域(例えば、試料の予想される分子共鳴の周波数)を決定するステップをさらに含むことができる。好ましくは、関心スペクトル領域は、試料の特徴的な振動遷移および/または回転遷移が励起され得るスペクトル範囲をカバーし得る。さらに、修正するステップは、関心スペクトル領域におけるパワースペクトル密度を増加させるステップを含み得る。有利なことに、これにより、試料の予想される成分の分子指紋を選択的にプローブすることができる。
【0036】
本発明の別の態様によれば、修正するステップは、応答光パルスの時間プロファイルを形成するために、応答光パルスの1つまたは複数のスペクトル成分を時間ゲート増幅するステップを含むことができる。前に詳述したように、この技術は、有利なことに、QCLの制御されたオン/オフスイッチングによって、時間領域においてプローブ光パルスおよび/または応答光パルスの特定の領域を時間的に増強することを可能にする。この目的のために、無線周波数(RF)セットアップによって提供される時間ゲートを使用することができ、RFパルス(fsレーザ光源装置の駆動パルスの一部で高速フォトダイオードを照射することによって生成される)は、QCLの時間的動作をトリガーするために使用される。これにより、有利なことに、時間的に延長された応答光パルスの各セクション、好ましくはメイン(励起)パルス後の分子応答を選択的に増強することができ、その結果、励起パルスと同様の分子応答の信号レベルを得ることができ、したがって検出器のダイナミックレンジに対する要求を強く低減することができる。
【0037】
本発明の別の態様によれば、本方法は、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスの目標スペクトルプロファイルおよび/または目標時間プロファイルを定義するステップを含むことができる。例えば、目標スペクトルプロファイルは、特定のスペクトル領域(例えば、吸収帯、予想される分子共鳴など)が増強される光パルスのスペクトルプロファイルであってもよい。さらに、目標時間プロファイルは、例えば、時間領域における光パルスの特定の領域(例えば、パルスのテール)が増強される光パルスの時間プロファイルであってもよい。これにより、「目標」という用語は、それぞれのプロファイルが達成しようとするプロファイルであるように理解されるべきである。さらに、本方法は、定義された目標スペクトルおよび/または時間プロファイルに基づいて、制御装置によってパルス修正装置を制御するステップを含むことができる。言い換えれば、パルス修正装置は、目標スペクトルプロファイルおよび/または目標時間プロファイルに可能な限り対応するように、プローブ光パルスおよび/または応答光パルスのスペクトル形状および/または時間形状を修正するように制御することができる。有利なことに、これにより、特定の測定要件に応じて光パルスのスペクトルプロファイルおよび/または時間プロファイルを制御して成形することができる。
【0038】
本発明の装置または方法の別の態様によれば、試料は、生物学的試料(例えば、ヒトまたは動物生物からの試料、医療試料)であってもよい。特に、試料は、例えば、少なくとも1つの生物学的細胞またはその一部、細胞群または細胞培養物、または生物の組織、例えば血液または他の体液のような液体、任意選択で希釈されたもの、例えば液体ドロップレットの痕跡を含む呼気のようなエアロゾル、例えば生物学的有機体から発散するガスおよび蒸気であってよい。好ましくは、試料は診断目的の生物学的試料である。しかし、この文脈において、本発明は、生物学的試料の調査に限定されるものではなく、むしろ、プローブ光パルスと光-物質相互作用を有する、例えば、技術的プロセスからの物質試料または環境試料のような他の試料で実施できることを強調すべきである。
【0039】
さらに、分光測定装置に関連して本書に開示されたすべての特徴は、本方法に関連して開示され請求可能であることも意図しており、その逆もまた同様である。
【0040】
本発明のさらなる利点および詳細は、添付図面を参照して以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明による分光測定装置の第1の実施形態の特徴を示す図である。
【
図2】本発明による分光測定装置の第2の実施形態の特徴を示す図である。
【
図3】複数の量子カスケードレーザによる中赤外光パルスのスペクトル成分の増幅の説明図である。
【
図4】並列構成に配置された複数の量子カスケードレーザのアレイを有するパルス修正装置の説明図である。
【
図5】順次構成に配置された複数の量子カスケードレーザのアレイを有するパルス修正装置の説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態による試料のスペクトル応答を測定する方法のフロー図である。
【
図7】QCLによる時間ゲート増幅の特徴を示す図である。
【
図8】QCLによる時間ゲート増幅の特徴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の好ましい実施形態の特徴を、分光測定セットアップにおける少なくとも1つのQCLの提供に特に言及して以下に説明する。QCLの詳細、特にその構成と動作は、利用可能なQCL技術からそれ自体既知である限り、記述しない。
【0043】
FRSの詳細のように、従来技術からそれ自体知られている分光測定セットアップの詳細については記載しない。図面において、同一または機能的に等価な要素には同一の参照符号が付されている。
【0044】
図1は、本発明による試料1のスペクトル応答を測定するように構成された分光測定装置100の第1の実施形態を概略的に示している。これにより、分光測定装置100は、一次スペクトルを有する一連のプローブ光パルス2を試料1に照射するために配置されたfsレーザ光源装置10を含む。好ましくは、プローブ光パルス2は、準連続スペクトルを有する超広帯域中赤外パルスである。プローブ光パルス2を生成するために、fsレーザ光源装置10は、例えば、ブロードニングステージとチャープミラーコンプレッサとを組み合わせたYb-YAG-ディスクレーザ共振器のような駆動源11と、差周波発生(DFG)ユニット12とを含むことができる。例えば、駆動源11は、中心波長1030nm、パルス幅250fs、繰り返し周波数28MHzの駆動パルス(図示せず)を生成でき、DFGユニット12に入力する。DFGユニット12は、例えばLiGaS
2ベースの結晶のような光学的に非線形な結晶による入力駆動パルスのパルス内差周波発生を採用するように構成することができ、その結果、先の例示的な数値に基づいて、3μmから30μm(中赤外)の範囲の主要スペクトルを有するプローブ光パルス2が得られる。
【0045】
さらに、分光測定装置100は、プローブ光パルス2と試料1との相互作用により変化したスペクトルを有する応答光パルス2’をスペクトル分解して検出するために配置された検出器装置20を含む。この目的のために、検出器装置20は(標準的な)FTIR分光計であってもよい。しかしながら、好ましくは、より高度な検出器セットアップが使用される。したがって、
図1に例示的に示すように、検出器装置20は、線形電気光学効果(ポッケルス効果とも呼ばれる)を利用することによって、応答光パルス2’の電場を時間領域で電気光学的にサンプリングするように構成することができる。この目的のために、分光測定装置100は、ビームスプリッタ素子51を含むことができ、このビームスプリッタ素子51は、遅延ビーム経路50を介してレーザ光源装置10から放出されたパルスの一部を検出器装置20に導く。
【0046】
例えば、
図1に示されるように、ビームスプリッタ素子51は、DFGユニット12と試料1との間のビーム経路に配置され、初期駆動パルスとDFGユニット12後に生成されるプローブ光パルスとを分離するために近赤外および中赤外において異なる透過率/反射率特性を示すダイクロイックビーム分割ミラーであってもよい。あるいは、ビームスプリッタ素子51は、駆動源11とDFGユニット12との間のビーム経路に配置された半透過ビームスプリッタミラーとして実現することもできる。
【0047】
検出器装置20において応答光パルス2’の波形を電気光学的にサンプリングするために、応答光パルス2’と駆動パルス-以下ではサンプリングパルスと呼ぶ-を空間的に再結合させて、検出器装置20の電気光学結晶21に導くことができる。電気光学結晶21は、光学的に非線形な結晶、例えば、χ2非線形性を有するGaSeとすることができる。これにより、電気光学結晶21を通過するサンプリングパルスの偏光状態は、応答光パルス2’の電界によって変更される。変更された偏光状態を有するサンプリングパルスは、サブパルスを分離する半波長板22または4分の1波長板22およびウォラストンプリズム23を通過し、サンプリングパルスの2つの直交する偏光成分を有する。これら2つのサブパルスおよび異なる偏光成分は、例えばフォトダイオードを含む検出素子24および24’で検出される。好ましくは、検出素子24と24’はバランスされ、すなわち検出素子24と24’の検出信号間の差が応答光パルス2’の電界に比例するように較正される。(短い)サンプリングパルスが(長い)応答光パルス2’の異なる部分と一致するように、2つのパルス間の遅延を、遅延駆動ユニット(図示せず)を介して変化させる反復測定によって、応答光パルス2’の完全な時間形状を回復することができる。時間形状をフーリエ変換する、すなわち検出器信号差をフーリエ変換すると、最後に試料1のスペクトル応答が得られる。
【0048】
FRSの分野でそれ自体知られている上述の構成要素に加えて、特許請求の範囲に記載の分光測定装置100は、少なくとも1つの量子カスケードレーザを含むパルス修正装置30をさらに含む。図示された実施形態において、パルス修正装置30は、少なくとも1つの量子カスケードレーザを用いてプローブ光パルス2の各々の1つまたは複数のスペクトル成分を増幅することによって、試料1に到達する前にプローブ光パルス2を修正するように構成される。この目的のために、修正装置30は、fsレーザ光源装置10と試料1との間のビーム経路に配置される。好ましくは、それによって、修正装置30は、
図3の文脈でより詳しく説明されるように、異なる中心波長λ
1...λ
Nを有する複数(例えば、10個)の量子カスケードレーザ3
1...3
Nのアレイ、すなわち配置を含む。
【0049】
プローブ光パルス2のパワーを増加させることにより、より強い分子応答、より高い検出されるシグナル/ノイズ比、ひいてはより高い感度を有利にもたらすことができることに加え、試料前増幅は、プローブ光パルス2が試料1を最適に励起するように、(例えば、特定のスペクトル領域を選択的に増強することにより)(一次)スペクトルを形成することも可能にする。
【0050】
この文脈において、分光測定装置100は、プローブ光パルス2の予め定義されたスペクトルおよび/または時間プロファイルを生成するようにパルス修正装置30を制御するように構成された制御装置40を含むこともできる。例えば、制御装置40は、複数の量子カスケードレーザ31...3Nのアレイの特定のQCLサブセットをそれぞれ所定の時間活性化するように構成することができる。
【0051】
図2は、本発明による試料1のスペクトル応答を測定するように構成された分光測定装置100の第2の実施形態を概略的に示している。試料1に到達する前にプローブ光パルス2を修正するために特に適合されている
図1の実施形態とは異なり、
図2による分光測定装置100は、検出器装置20に到達する前に応答光パルス2’を修正するために適合されている。したがって、少なくとも1つの量子カスケードレーザを含むパルス修正装置30は、試料1と検出器装置20との間のビーム経路に配置される。
【0052】
有利なことに、
図1および
図2の実施形態は、時間的に延長された応答光パルス2’の少なくとも1つのセクション、好ましくはメイン(励起)パルス後の分子応答が選択的に増強される、時間ゲート増幅測定の実行を可能にする。これにより、このアプローチは、増幅プロセスの超高速スイッチングを提供するQCLのピコ秒緩和ダイナミクスの恩恵を受ける。パルス修正装置30のそれぞれのスイッチングを制御するために、分光測定装置100は、プローブ光パルス2および/または応答光パルス2’の予め定義された時間プロファイルを生成するようにパルス修正装置30を制御するように構成された制御装置40を含むことができる。特に、ポスト試料増幅は、有利には、分子信号を励起パルスと同様のレベルまで上げることを可能にし、それにより検出器のダイナミックレンジに対する要求を強く低減する。時間ゲート増幅の詳細は、
図7と
図8を参照して以下に説明する。
【0053】
図3は、複数の量子カスケードレーザ3
1...3
Nのアレイによる、中赤外光パルス、例えば前述のプローブ光パルス2または応答光パルス2’のスペクトル成分の増幅を概略的に示している。これにより、量子カスケードレーザ3
1...3
Nは、中赤外の異なる中心波長λ
1...λ
N付近で狭波長発光を示す。この文脈において、「中心波長」という表現は、周波数領域における重心と考えることができる。好ましくは、量子カスケードレーザ3
1...3
Nの中心波長λ
1...λ
Nは、中赤外領域において均等に分布している。各QCL3
1...3
Nの出力パワーを個々に変化させることにより、対応するスペクトル領域を異なるように増強することができ、その結果、元の中赤外光パルスのスペクトルプロファイルを制御して修正することが有利に可能となる。
【0054】
周波数(波長)領域での前述の修正に代えて、またはこれに加えて、それぞれの中赤外光パルスは時間領域でも変化させることができる。このために、QCL31...3Nの出力パワーは、例えばそれぞれ所定の期間オン/オフされるなどして、個別に時間的に変化させられる。
【0055】
図3はパルス修正の基本原理を示しているが、以下では2つの具体的なQCLアレイ配置、すなわち並列配置と順次構成について説明する。
【0056】
図4は、並列構成で配置された複数の量子カスケードレーザ3
1...3
Nのアレイを有するパルス修正装置30を概略的に示している。この実施形態では、パルス修正装置30は、好ましくは、レーザビーム入力を異なるスペクトル間隔を有する複数のサブビームに空間的に分離するように構成されたスプリッタ装置31を含む。それにより、スペクトル間隔の数は、好ましくは、量子カスケードレーザ3
1...3
Nの数に対応し、および/または、各スペクトル間隔の中間は、量子カスケードレーザ3
1...3
Nのうちの1つの中心波長λ
1...λ
Nに対応できる。
【0057】
さらに、パルス修正装置30は、サブビームのそれぞれを複数の量子カスケードレーザ31...3Nのうちの1つにそれぞれ向けるように構成された中継装置32(詳細は図示せず)を含んでいてもよい。さらに、パルス修正装置30は、複数の量子カスケードレーザ31...3Nのそれぞれの増幅出力を単一のレーザビーム出力にコリメートするように構成されたコンバイナ装置33を含んでいてもよい。
【0058】
全体として、異なる光サブパスを有する並列構成は、有利なことに、異なるスペクトル領域を同時に増幅することを可能にし、したがって、中赤外光パルスを修正するための高速かつ低損失のソリューションを提供する。
【0059】
図5は、複数の量子カスケードレーザ3
1...3
Nのアレイが順次構成されたパルス修正装置30を概略的に示している。このために、パルス修正装置30は、複数の量子カスケードレーザ3
1...3
Nのそれぞれに連続した順序でレーザビーム入力を向けるように構成された中継装置32’を含むことができる。言い換えれば、複数のカスケードレーザ3
1...3
Nは、単一の光路内で「一列に」接続される。前述したように、量子カスケードレーザ3
1...3
Nは、好ましくは異なる中心波長λ
1...λ
Nを有し、すなわちQCLは異なるスペクトル領域を増幅するように構成される。これにより、レーザビーム入力の異なるスペクトル領域は、連続した順序で次々と増幅される。
【0060】
図6は、本発明の一実施形態による試料1のスペクトル応答を測定する方法のフローチャートを概略的に示している。この方法は以下のステップを含む。ステップS1は、fsレーザ光源装置10によって生成されたプローブ光パルス2を試料1に照射することを含む。次に、ステップS2は、試料1に到達する前にプローブ光パルス2を修正すること、および/または、少なくとも1つの量子カスケードレーザ3
1を含むパルス修正装置30を用いて、(プローブ光パルス2と試料1との相互作用の結果として生じる)応答光パルス2’を修正することを含む。好ましくは、パルス修正装置30は、
図3~
図5の文脈で前述したように、異なる中心波長λ
1...λ
Nを有する複数の量子カスケードレーザ3
1...3
Nのアレイを含む。それにより、修正するステップは、プローブ光パルス2の1つまたは複数のスペクトル成分を増幅すること、および/または、少なくとも1つの量子カスケードレーザ3
1で応答光パルス2’の1つまたは複数のスペクトル成分を増幅することを含むことができる。例えば、プローブ光パルス2が試料1を最適に励起するように、プローブ光パルス2の特定のスペクトル領域を選択的に増強することができる。加えて、または代替的に、応答光パルス2’は、メイン(励起)パルスの後で符号化される分子応答が選択的に増幅されるように、時間領域で時間的に増強されてもよい。ステップS3は、時間領域または周波数領域における検出器装置20(例えば、FTIR分光計、しかし好ましくはEOSによる電界分解検出)による応答光パルス2’のスペクトル分解検出を含む。
【0061】
図1または
図2の実施形態で提供される時間ゲート増幅は、時間ゲート(時間間隔)で達成される増幅を含む。時間ゲートは、
図7および
図8を参照して以下に概説するように、RFパルスによって提供される。このプロセスのために、QCLは、例えば[12]を参照する利得スイッチQCLを含む。
図7および
図8は、複数のQCLのうちの1つのQCLのみを例示的に示している。本発明の好ましい実施形態では、MIR測定におけるコントラストを高めるための時間ゲート増幅の2つの用途を区別することができる。(i)MIR波形の一部分、好ましくは分光測定におけるMIR励起後の時間的試料応答の増幅、および(ii)遅延依存MIR増幅。
【0062】
MIR波形の一部の増幅は
図7に示されており、
図7Aには時間ゲート増幅の概略図が、
図7Bには増幅のゲーティングに使用されるRFパルス、MIR駆動パルス(破線)、および試料から出る応答光パルス2’(実線)の時間的形状が示されている。
【0063】
より詳細には、時間ゲート増幅は、QCL3
1の利得をスイッチオン/オフする時間ゲートとしてRFパルスを生成するための無線周波数(RF)セットアップを含む制御装置40(例えば
図2を参照)を用いて実施することができる。RFパルスは、中赤外(MIR)生成の駆動パルスの一部をフォトダイオード41に照射することによって発生される。したがって、QCL3
1のスイッチオンはMIRプローブおよび応答パルスと同期する。次に、QCL3
1がRFパルスによって駆動されながら閾値を超えて動作できるように、RFパルスのパワーは増幅器42によって増大される。
【0064】
応答光パルスを増幅するこの好ましい実施形態の増幅ダイナミクスを
図7Bに例示的に示す。増幅されるMIR波形の電界Eは、試料を照射するプローブ光パルスに対応するメインパルスと、メインパルスの後における試料の分子応答を含む。RFパルスの開始は、メインパルスの後に増幅が開始されるようなタイミングに設定される。RFパルスのオンオフを高速に切り替えることで、パルステールの分子応答が選択的に増幅される。RFパルスの典型的な立ち上がり時間は、現在1~100ピコ秒の範囲である。RFパルスの立ち上がり時間が46ピコ秒[12]と100ピコ秒[13]の利得スイッチQCLデバイスが報告されている。これらの時間スケールは、例えば気相試料のナノ秒応答よりもはるかに小さいため、この実装により時間ゲート増幅は気相検出に理想的なものとなる。より短い緩和時間を持つ液体試料のEOS測定も、より高速なフォトダイオードと電子増幅器を使えば考えられる。時間ゲート増幅は、各MIR波形に対して個別に直列的に本明細書では作用するため、この実装は、マルチショット取得にも、1回のレーザショットでEOSトレース全体を測定する検出スキームにも適している。
【0065】
マルチパルス走査実験における遅延に依存したMIR増幅は
図8に示されており、
図8Aでは遅延線50(
図1、
図2参照)によって制御されたEOS測定が示されている。黒丸は、試料とMIRプローブ光パルス間の異なる時間遅延の異なる測定を示す。上部のバーは、QCL3
1がスイッチオン/オフされる時間範囲を示す。
図8Bは実験室時間t
LにおけるRFパルスとEOSトレースを示し、
図8Cは試料1の前のQCL増幅の概略セットアップを示し、
図8Dは試料1の後のQCL増幅の概略セットアップを示す(それぞれ
図1と
図2参照)。
【0066】
より詳細には、遅延に依存するMIR増幅は、試料相互作用前のプローブ光パルスまたは試料相互作用後の応答光パルスのいずれかの完全なMIR波形に作用し、従来のEOS検出のように、マルチパルス走査実験における遅延に同期して増幅のオン/オフが切り替わる。EOSの場合、測定は、プローブ光パルスのMIR波形とゲートパルスとの間の遅延を走査し、各遅延でEOS信号を取得することによって実行され、装置応答で畳み込まれたMIR波形を一定の増幅で表すEOS波形を生成する。
【0067】
図8Aに示すように、測定されたEOS波形は、それぞれ少なくとも1つのレーザショットに対応するデータポイントで構成される。検出帯域幅とスキャン速度によっては、各データポイントは複数のレーザショットの時間平均結果であることもある。したがって、各データ取得間の時間スパンは、少なくとも、駆動入力レーザの繰り返し率によって与えられるパルス間の時間間隔と同じか、それ以上となる。そのため、一般的には数ナノ秒よりも長くなり、あるデータ取得ポイントから次のデータ取得ポイントへと、時間ゲート増幅のオンオフを切り替えることができる。
【0068】
QCL増幅をメインパルスの後の遅延時間だけオンにすることで、パルスの後で分子応答の測定信号を選択的に高めることができる。このマルチパルス適用では、QCLは完全なMIR波形を増幅するが(
図8B)、増幅の遅延依存性により、検出器装置20によって測定されるEOS波形における試料応答信号が増加する(
図8B)。この時間ゲーティングの適用は、試料応答の時間スケールによって制限されず、ピコ秒またはそれより短いMIR波形にも適用可能である。
【0069】
図8Cおよび
図8Dは、2つの好ましい実施形態を示し、第1の実施形態(
図8C)では、QCL3
1は、試料1の前にDFGユニット12で受信されたMIRプローブ光パルスを増幅し、試料パルス(ゲートパルス)の遅延に応じてオン/オフされる。増幅効率を高めるために、MIR波形に同期したRFパルスによって増幅を追加的にトリガーすることもできる[14]。遅延走査は、MIRプローブ光パルスに対するゲートパルスの光遅延の変化、例えば光路長(機械的ステージ)の機械的変化、または遅延ライン50の音響光学変調に対応する[15]。
【0070】
他の実施形態(
図8C)では、QCL増幅は試料1の後に行われ、その結果、残留励起プローブレーザパルスと試料応答レーザパルスの両方が増幅され、
図8Cの実施形態と同様に増幅の遅延制御が行われる。
【0071】
上記の説明、図面、および特許請求の範囲に開示された本発明の特徴は、その様々な実施形態における本発明の実現のために、個々にだけでなく、組み合わせまたはサブコンビネーションにおいても重要である。
【国際調査報告】