IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボルボトラックコーポレーションの特許一覧

特表2024-522517車輪スリップバランス駆動に基づくエネルギー効率の良い推進
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】車輪スリップバランス駆動に基づくエネルギー効率の良い推進
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/188 20120101AFI20240614BHJP
   B60W 30/184 20120101ALI20240614BHJP
   B60W 40/12 20120101ALI20240614BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240614BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B60W30/188
B60W30/184
B60W40/12
G08G1/16 A
B60L15/20 S
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023573423
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2021064654
(87)【国際公開番号】W WO2022253411
(87)【国際公開日】2022-12-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】リドストロム,マッツ
【テーマコード(参考)】
3D241
5H125
5H181
【Fターム(参考)】
3D241AA03
3D241AA15
3D241AA21
3D241AB02
3D241AD10
3D241AD46
3D241AD50
3D241AE02
3D241BA49
3D241BA62
3D241BC01
3D241CA08
3D241CA15
3D241CC03
3D241DA04Z
3D241DA13Z
3D241DB02Z
3D241DB27Z
3D241DC33Z
3D241DC46Z
5H125AA03
5H125AB06
5H125AC11
5H125BA05
5H125CA02
5H125EE09
5H125EE51
5H181AA01
5H181AA07
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
(57)【要約】
第1及び第2の電気機械EM装置(EM1、EM2)を含む大型の車両(100)の運動を制御するために構成された車両制御ユニット(130、140)であって、第1のEM装置は、第2のEM装置と比較して異なる効率特性を有し、車両制御ユニット(130、140)は、それぞれのEM制御ユニットに車輪スリップ要求を送信することによって、第1及び第2のEM装置(EM1、EM2)を制御するように構成され、制御ユニット(130、140)は、第1及び第2のEM装置によって共同で生成されるべき所望の総縦方向の力(Fx)を取得するように構成され、制御ユニット(130、140)は、第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力(F1)に対応する所望の第1の車輪スリップ(λ)と、第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力(F2)に対応する所望の第2の車輪スリップ(λ)とを決定するように構成され、第1の縦方向の力(F1)と第2の縦方向の力(F2)との和は、所望の総縦方向の力(Fx)に一致し、制御ユニット(130、140)は、第1及び第2のEM装置(EM1、EM2)のそれぞれの効率特性に基づいて、第2の車輪スリップ(λ)の大きさに対して第1の車輪スリップ(λ)の大きさをバランスさせるように構成されている、車両制御ユニット(130、140)。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の電気機械(EM)装置(EM1、EM2)を含む大型の車両(100)の運動を制御するために構成された車両制御ユニット(130、140)であって、前記第1のEM装置は、前記第2のEM装置と比較して異なる効率特性を有し、
前記車両制御ユニット(130、140)は、それぞれのEM制御ユニットに車輪スリップ要求を送信することによって、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)を制御するように構成され、
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1及び第2のEM装置によって共同で生成されるべき所望の総縦方向の力(Fx)を取得するように構成され、
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力(F1)に対応する所望の第1の車輪スリップ(λ)と、前記第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力(F2)に対応する所望の第2の車輪スリップ(λ)とを決定するように構成され、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との和は、前記所望の総縦方向の力(Fx)と一致し、
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)の前記それぞれの効率特性に基づいて、第2の車輪スリップ(λ)の大きさに対して第1の車輪スリップ(λ)の大きさをバランスさせるように構成されている、車両制御ユニット(130、140)。
【請求項2】
前記第1のEM装置(EM1)は、前記第2のEM装置(EM2)と比較して異なる効率特性を、車両速度(Vx)の関数として有する、請求項1に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項3】
前記第1のEM装置(EM1)は、前記第2のEM装置(EM2)と比較して異なる効率特性を、印加されたトルクまたは車輪力の関数として有する、請求項1または2に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項4】
前記第1のEM装置(EM1)は、前記第2のEM装置(EM2)と比較して、異なるEM設計の1つ以上のEMを含み及び/または異なるギア比を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項5】
前記第1のEM装置(EM1)は、前記大型の車両(100)の第1の車両車軸に関連付けられ、前記第2のEM装置(EM2)は、前記大型の車両(100)の第2の車両車軸に関連付けられる、請求項1から4のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項6】
前記第1のEM装置(EM1)は、低い車両速度側おける効率に対して構成された始動性のEM装置であり、前記第2のEM装置(EM2)は、高い車両速度側における効率に対して構成されたクルーズモードのEM装置である、請求項1から5のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項7】
前記始動性のEM装置は、車両ユニットの後車軸(720、730)にパワー供給するように構成され、前記クルーズモードのEM装置は、車両ユニットの操舵軸(710)にパワー供給するように構成されている、請求項6に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項8】
前記制御ユニット(130、140)は、制御パラメータに関する前記それぞれのEM装置(EM1、EM2)の前記効率特性の相対勾配に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項9】
前記制御ユニットは、前記車両(100)の現在の状態において、前記第1のEM装置(EM1)の前記効率特性の前記勾配が、前記第2のEM装置(EM2)の前記効率特性の前記勾配よりも大きい場合には、前記第1の車輪スリップ(λ)を増加させ、前記車両(100)の前記現在の状態において、前記第1のEM装置(EM1)の前記効率特性の前記勾配が、前記第2のEM装置(EM2)の前記効率特性の前記勾配よりも小さい場合には、前記第1の車輪スリップ(λ)を減少させるように構成されている、請求項8に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項10】
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との間の大小関係と比較して、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)の相対的な電力消費(P1、P2)に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項11】
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1のEM装置(EM1)の前記電力消費と前記第2のEM装置(EM2)の前記電力消費との間の比が、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との間の対応する比よりも小さい場合には、前記第1の車輪スリップ(λ)を増加させ、前記第1のEM装置(EM1)の前記電力消費と前記第2のEM装置(EM2)の前記電力消費との間の前記比が、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との間の前記対応する比よりも大きい場合には、前記第1の車輪スリップ(λ)を減少させるように構成されている、請求項10に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項12】
前記制御ユニット(130、140)は、車両速度によってパラメータ化された所定のバランシング関数に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から11のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項13】
前記制御ユニット(130、140)は、前記総縦方向の力(Fx)によってパラメータ化された所定のバランシング関数に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から12のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項14】
前記送信された車輪スリップ要求は、以下によって与えられる目標の縦方向車輪スリップを含み、
【数1】
ここで、Rは有効車輪半径(メートル)であり、ωは前記車輪の前記角速度であり、vは地上に対する前記車輪の縦方向速度である、請求項1から13のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項15】
前記送信された車輪スリップ要求は、目標の縦方向車輪スリップλを取得するために地上に対する前記車輪の縦方向速度vに関連して前記制御ユニット(130、140)によって決定される、前記車輪の目標の角速度(ω)を含む、請求項1~13のいずれかに記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項16】
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1の車輪スリップ(λ)及び前記第2の車輪スリップ(λ)から生じる推定されるタイヤ摩耗またはタイヤ摩耗率に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から15のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項17】
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1のEM装置(EM1)及び前記第2のEM装置(EM2)に関連付けられる車軸に対するそれぞれの垂直荷重に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から16のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)を含む大型の車両(100、110、120)。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(140)を含む、自己動力式トレーラー(120、130)または自己動力式ドーリー車両ユニット(140)などの被牽引車両ユニットであって、
前記被牽引車両ユニットは第1の車軸及び第2の車軸を含み、前記第1の車軸は前記第1のEM装置(EM1)によって駆動されるように構成され、前記第2の車軸は前記第2のEM装置(EM1)によって駆動されるように構成されている、前記被牽引車両ユニット。
【請求項20】
第1及び第2の電気機械(EM)装置(EM1、EM2)を含む大型の車両(100)の運動を制御するために構成された車両制御ユニット(130、140)において行われる方法であって、
前記第1のEM装置は、前記第2のEM装置と比較して異なる効率特性を有し、
前記車両制御ユニット(130、140)は、それぞれのEM制御ユニットに車輪スリップ要求を送信することによって、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)を制御するように構成され、
前記方法は、
前記第1及び第2のEM装置によって共同で生成されるべき所望の総縦方向の力(Fx)を取得すること(S1)と、
前記第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力(F1)に対応する所望の第1の車輪スリップ(λ)と、前記第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力(F2)に対応する所望の第2の車輪スリップ(λ)とを決定すること(S2)であって、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との和は前記所望の総縦方向の力(Fx)に対応するようにして、決定すること(S2)と、
前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)の前記それぞれの効率特性に基づいて、第2の車輪スリップ(λ)の大きさに対して第1の車輪スリップ(λ)の大きさをバランスさせること(S3)と、を含む、方法。
【請求項21】
プログラムコード手段(1620)を含むコンピュータープログラムであって、前記プログラムコード手段(1620)は、前記プログラムがコンピューター上で実行されたときに請求項20に記載の前記ステップを行うためのものである、コンピュータープログラム。
【請求項22】
コンピュータープログラムを保持するコンピューター可読媒体(1610)であって、前記コンピュータープログラムは、前記プログラム製品がコンピューター上で実行されたときに請求項20に記載の前記ステップを行うためのプログラムコード手段を含む、コンピューター可読媒体(1610)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型の車両の安全でエネルギー効率の良い車両運動管理を確実にするための方法及び制御ユニットに関する。本方法は、複数の車両ユニットを含むトラック及びセミトレーラなどの連結車両との使用に特に好適である。しかし、本発明は、他のタイプの大型の車両、たとえば、建設機械及び鉱業車両にも適用できる。また、本発明は、2つ以上の被駆動車軸を含む電動トレーラー車両ユニット及びドーリー車両ユニットなどの自己動力式の被牽引車両ユニットにも有利に適用できる。
【背景技術】
【0002】
トラック及びセミトレーラ車両などの大型の車両は、重量物を運搬するように設計されている。重量物を積んだ車両は、上り坂の条件でも静止状態から発進し、異なる摩擦係数を有する種々のタイプの路面上で加速し、安定した走行速度を維持し、さらに確実な方法で減速できなくてはならない。同時に、エネルギー効率が、すべての動作シナリオにおいて考えるべき重要な因子である。なぜなら、エネルギー効率は、所与の搬送任務を完了するコストに直接影響するからである。
【0003】
トラクター、電動トレーラー、及び自己動力式ドーリー車両ユニットなどの電動式大型車両ユニットが開発されている。これらの車両ユニットではエネルギー効率が特に重要である。なぜなら、エネルギー効率は、所与のエネルギー貯蔵容量に対する達成可能な車両範囲に重大な影響を及ぼすからである。そのため、多くの労力が、電動車両のためのエネルギー効率の良い駆動装置の設計に費やされてきた。
【0004】
しかし、開発された駆動装置の多くは、高度な計算量(computational complexity)に関連する高度な最適化手法に基づいており、ロバスト性の点から正式に検証することも難しい。これらのアルゴリズムは、たとえば、電動トレーラー及び自己動力式ドーリー車両ユニット内で見られる小さめの制御ユニット上で実行することは実現可能でない場合がある。
【0005】
US2010222953に、所与の車両状態に対して共同の推進システム効率を最大限に利用するために、複数の電気機械/車軸にわたってトルクを分配するための方法が開示されている。共同の推進システム効率は、ここでは、要求トルク、車輪スリップ、及び車両速度の関数として定式化される。
【0006】
これまでになされた労力にもかかわらず、電動車両ユニットの全潜在能力を最大限に利用するための、駆動装置のさらなる改善が求められている。
【0007】
電動式大型車両に関連する他の問題は、耐久制動能力の要件である。すべての大型の車両は、長時間の下り坂走行中も制動トルクを提供できなくてはならない。摩擦ブレーキは、長期間の常時使用の間にブレーキフェードが発生するリスクがあるため、何らかの形式の補助ブレーキシステムによって補完されなければならない。電動式大型車両ユニットは、回生制動のために電気機械を使用し得るが、これが生成する電気エネルギーは貯蔵または散逸しなければならない。これは、エネルギー貯蔵システムがフル充電になり、過剰なエネルギーを散逸するために配置されたブレーキ抵抗器が高温に達した場合に、問題になり得る。
【0008】
したがって、電気機械装置の耐久制動能力も改善する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
本開示の目的は、前述の問題のうちの少なくとも一部を軽減または打開する技術を提供することである。エネルギー効率の良い電気駆動装置のための単純化された制御メカニズムを提供することが特に望まれている。この目的は、少なくとも部分的には、少なくとも第1及び第2の電気機械(EM:Electric Machine)装置を含む大型の車両の運動を制御するように構成された車両制御ユニットによって達成され、第1のEM装置は、第2のEM装置と比較して異なる効率特性を有する。車両制御ユニットは、それぞれのEM制御ユニットに車輪スリップ要求を送信することによって、第1及び第2のEM装置を制御し、第1及び第2のEM装置によって共同で生成されるべき所望の総縦方向の力を取得するように構成されている。制御ユニットは、また、第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力に対応する所望の第1の車輪スリップと、第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力に対応する所望の第2の車輪スリップとを決定するように構成され、第1の縦方向の力と第2の縦方向の力との和は、車両を加速するための推進力または車両を減速するための制動力であり得る所望の総縦方向の力に一致してもよい。制御ユニットは、さらに、第1及び第2のEM装置のそれぞれの効率特性に基づいて、第2の車輪スリップの大きさに対して第1の車輪スリップの大きさをバランス(balance)させるように構成されている。
【0010】
このように、所与の動作シナリオにおいて各電気機械をその最高効率の動作点のより近くで動作させることができるため、全体的な推進効率を増加させることができる。本明細書では、たとえば、US2010222953において提案されるようにトルク要求を変化させる代わりに、駆動車軸の効率特性に基づいて、車両上の異なる駆動車軸に送られるスリップ要求を変化させることを提案する。たとえば、車両が低速度で走行している場合に、より高速用に最適化された他の駆動車軸にスリップ要求を送る場合と比較して、低速用に最適化された車軸により高いスリップ要求値を送る。トルクベースの車輪力制御と比較した利点は、車両制御ユニットがより高い帯域幅においてEMアクチュエータを制御することができるため、異なる駆動車軸制御装置に送られたトルク要求に基づく制御システムと比較して、効率バランスがより正確に維持されることである。また、後でより詳細に説明するように、本明細書で提案する車輪スリップバランシングアルゴリズムは、妥当な計算量によって実施することができ、利点である。この利点は、車輪スリップバランシング技術が、電動トレーラー車両ユニットまたは自己動力式ドーリー車両ユニットなどの、高性能な処理回路が無い車両ユニット上で実施される場合に、特に顕著になる。
【0011】
本明細書で開示した技術は、回生制動にも適用することができ、その代わりに、エネルギー貯蔵がフル容量に近づいていて、ブレーキ抵抗器などのエネルギー散逸装置が危険な高温に達している場合に、長時間の回生制動中の出力パワーを制限するために、低いEM効率が望まれる場合がある。したがって、電気機械のエネルギー効率を最小限にすることによって、制動中の回生エネルギーを制限するための手段も、本明細書で開示した方法によって提供される。言い換えれば、本明細書で説明する技術の適用により、回生制動中のEMの温度上昇を確実で効率的な方法において制御することができる。
【0012】
本明細書で開示した技術は、2つ以上のEM装置にわたって車輪スリップをバランスさせるために適用することができ、EM装置は、任意選択で差動装置を介して駆動される別個の車輪モジュール及び/または駆動車軸を含んでいてもよいことが理解される。
【0013】
態様によれば、第1のEM装置(EM1)は、第2のEM装置(EM2)と比較して異なる効率特性を、車両速度の関数として有する。したがって、EM1に送られる車輪スリップ要求は、車両速度に基づいて、EM2に送られる車輪スリップ要求とバランスされる。たとえば、車両が静止状態から加速しているとき、駆動トルクは、低い車両速度において効率的なEMから、より高い車両速度においてより効率的なものへと徐々にシフトされる。これは、2つ以上のEM装置にわたって車輪スリップをバランスさせるための計算効率の良い方法である。また、EM1は、EM2と比較して異なる効率特性を、印加されたトルクまたは車輪力の関数として有していてもよい。この場合、車輪スリップ要求は、トルクにおける効率の差を考慮してバランスされる。有利なことに、異なるEMは、2次元における効率マップ上で効率特性を変化させ、ここで、第1の次元はトルクを表し、第2の次元は車軸速度または車両速度を表す。
【0014】
態様によれば、EM1は、異なるEM設計の1つ以上のEMを含み、及び/または第2のEM装置EM2と比較して異なるギア比を含む。これは、2つのEMが異なる効率特性を有することを意味する。たとえば、EM1は、低い車両速度側における効率に対して構成された始動性のEM装置であってもよく、EM2は、高い車両速度側における効率に対して構成されたクルーズモードのEM装置であってもよい。また2つのEMを、回生制動に関して異なる効率に関連付けてもよい。回生制動中の効率は、エネルギー貯蔵を補充すべき場合には有利に最大限にされ得るが、エネルギー貯蔵が満杯であるかまたは何らかの他の理由で制動から回生エネルギーを受け入れることができない場合には、回生制動中の全体のEM効率を最小限にすることも望まれ得ることが理解される。したがって、車輪スリップバランシングを、車両上のEM装置の全体の効率を最大限にするために、または全体のEM装置効率を最小限にするために、またはその間のどこかで行ってもよい。
【0015】
いくつかの態様によれば、制御ユニットは、制御パラメータに関するそれぞれのEM装置の効率特性の相対勾配に基づいて、第2の車輪スリップの大きさに対して第1の車輪スリップの大きさをバランスさせるように構成されている。この勾配降下に基づく方法は、低い複雑度で実施することができ、車輪スリップバランスを車両の現在の動作条件に従って自動的に調整する。これは利点である。たとえば、制御ユニットは、車両の現在の状態において、第1のEM装置の効率特性の勾配が第2のEM装置の効率特性の勾配よりも大きい場合には、第1の車輪スリップを増加させてもよく、車両の現在の状態において、第1のEM装置の効率特性の勾配が第2のEM装置の効率特性の勾配よりも小さい場合には、第1の車輪スリップを減少させてもよい。
【0016】
いくつかの他の態様によれば、制御ユニットは、また、第1の縦方向の力と第2の縦方向の力との間の大小関係と比較して、第1及び第2のEM装置の相対的な電力消費に基づいて、第2の車輪スリップの大きさに対して第1の車輪スリップの大きさをバランスさせるように構成してもよい。実際の電力消費をバランスさせることによって、異なるEM装置に対する正確なモデルへの依存が減る。電力消費は、たとえば、所定の効率モデルに依拠することなく、容易に測定することができる。これは、1つ以上のパラメータに基づくモデリング効率のみに依拠する方法と比較して、より確実な制御方法が提供されることを意味する。たとえば、制御ユニットは、第1のEM装置の電力消費と第2のEM装置の電力消費との間の比が第1の縦方向の力と第2の縦方向の力との間の対応する比よりも小さい場合には第1の車輪スリップを増加させ、第1のEM装置の電力消費と第2のEM装置の電力消費との間の比が第1の縦方向の力と第2の縦方向の力との間の対応する比よりも大きい場合には、第1の車輪スリップを減少させるように構成してもよい。
【0017】
態様によれば、制御ユニットは、車両速度によってパラメータ化された所定のバランシング関数に基づいて、第2の車輪スリップの大きさに対して第1の車輪スリップの大きさをバランスさせるように構成されている。これは、本明細書で開示した技術のかなり複雑さが低い実施態様である。車両速度と車輪スリップバランスとの間の所定のマッピングを使用することによって、実際のバランシング動作を行うために必要な処理はほとんどない。したがって、提案した技術のこのバージョンは、より強力な計算能力が無い車両ユニットにおける実施態様に適している。
【0018】
態様によれば、制御ユニットは、総縦方向の力によってパラメータ化された所定のバランシング関数に基づいて、第2の車輪スリップの大きさに対して第1の車輪スリップの大きさをバランスさせるように構成されている。したがって、要求される力に基づいて、それが推進力または制動力であろうとなかろうと、異なる車輪スリップバランスが構成される。特に、車両速度への依存は、マッピング関数が速度及び要求される総車輪力の両方、すなわち2次元関数によってパラメータ化されるように、保持され得る。所定の関数は、有利なことに、事前構成され得るルックアップテーブルとして実現され得る。このわずかに進歩したバージョンは、車両が種々のシナリオで運転されたときに、リアルタイムで関数を適合させる。
【0019】
態様によれば、送信された車輪スリップ要求は、以下によって与えられる目標の縦方向車輪スリップを含む。
【0020】
【数1】
ここで、Rは有効車輪半径(メートル)であり、ωは車輪の角速度であり、vは地上に対する車輪の縦方向速度である。車輪スリップ要求に基づく車輪端部モジュールの直接制御は、より従来のトルクベースの制御と比べて利点をもたらすことが分かっている。これは主に、制御ループがより高い待ち時間に関連付けられることが多い中央制御装置からトルクの要求を受け取ることと比較して、車輪端部モジュールが、目標車輪スリップに対して印加されたトルクを制御するためにより低い待ち時間で動作し得るからである。送信される車輪スリップ要求は、また、目標の縦方向車輪スリップλを取得するために地上に対する車輪の縦方向速度vに関連して制御ユニットによって決定される、車輪の目標の角速度を含んでいてもよい。
【0021】
態様によれば、制御ユニットは、推定された結果として生じたタイヤ摩耗に基づいて、第2の車輪スリップの大きさに対して第1の車輪スリップの大きさをバランスさせるように構成されている。このように、タイヤ摩耗を制御できるので、車両上のタイヤの総寿命を延ばすことができる。たとえば、車両のタイヤが等しく速く磨耗するように、タイヤ摩耗をバランスさせることができる。タイヤ摩耗の適応は、有利なことに、たとえば車輪スリップに基づいて事前構成することができるタイヤ摩耗のモデルに基づいてもよい。
【0022】
態様によれば、制御ユニットは、EM1及びEM2に関連付けられる車軸に対するそれぞれの垂直荷重に基づいて、第2の車輪スリップの大きさに対して第1の車輪スリップの大きさをバランスさせるように構成されている。この動作の結果、牽引力が増加され得る。
【0023】
また、本明細書では、前述した利点に関連付けられる方法、コンピュータープログラム、コンピューター可読媒体、コンピュータープログラム製品、及び車両も開示される。
【0024】
全般的に、特許請求の範囲において使用されるすべての用語は、本明細書において特に明確に規定されない限り、技術分野におけるその通常の意味に従って解釈すべきである。「a/an/the要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなど」へのすべての言及は、特に明確に述べられない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップなどの少なくとも1つの例を指すものとしてオープンに解釈すべきである。本明細書で開示した任意の方法のステップは、特に明確に述べられない限り、開示した正確な順番で行う必要はない。本発明のさらなる特徴及び本発明に伴う利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を検討すれば明らかになる。当業者であれば理解するように、本発明の異なる特徴を組み合わせて、本発明の範囲から逸脱することなく、以下で説明するもの以外の実施形態を作成し得る。
【0025】
添付図面を参照して、例として引用した本発明の実施形態のより詳細な説明が以下に続く。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】貨物輸送用の大型の車両例を概略的に例示する図である。
図2】タイヤモデルの例を示すグラフである。
図3】運動支援装置制御用のシステムを概略的に例示する図である。
図4】異なる電気機械推進装置を例示する図である。
図5】異なる電気機械推進装置を例示する図である。
図6】電気機械効率を例示するグラフである。
図7】潜在的な駆動車軸を有する連結車両ユニット例を示す図である。
図8】潜在的な駆動車軸を有する連結車両ユニット例を示す図である。
図9A】2つの駆動車軸にわたる車輪スリップバランシングを例示するグラフである。
図9B】3つの駆動車軸にわたる車輪スリップバランシングを例示するグラフである。
図10】車輪スリップ制御システム例を概略的に例示する図である。
図11】車輪スリップ制御システム例を概略的に例示する図である。
図12A】他の車両制御システム例を概略的に例示する図である。
図12B】他の車両制御システム例を概略的に例示する図である。
図13】階層化された車両制御システム例を示す図である。
図14】本方法を例示するフローチャートである。
図15】センサユニット及び/または制御ユニットを概略的に例示する図である。
図16】コンピュータープログラム製品例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明を、本発明の特定の態様を示す添付図面を参照して、以下でより十分に説明する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具体化してもよく、本明細書で述べる実施形態及び態様に限定されると解釈してはならない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が完全かつ完璧であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように、一例として提供される。同様の番号は、説明の全体を通して同様の構成要素を指す。
【0028】
本発明は、本明細書で説明し図面に例示する実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、当業者であれば分かるように、添付の特許請求の範囲内で、多くの変更及び修正を施してもよい。
【0029】
図1に大型の車両100を例示する。この特定の例には、トレーラーユニット120を牽引するように構成されたトラクターユニット110が含まれる。トラクター110は、車両100の種々の機能を制御するように構成された車両制御ユニット(VCU:Vehicle Control Unit)130を含む。たとえば、VCUは、車輪スリップ、車両ユニット安定性などの制御を含む車両運動管理(VMM:Vehicle Motion Management)機能を行うように構成してもよい。トレーラーユニット120は、任意選択で、VCU140を含んでいる。これは、トレーラー120上の1つ以上の機能を制御する。VCUまたはVCU(複数)は、たとえば無線リンクを介して、リモートサーバ150に通信可能に接続してもよい。このリモートサーバ150は、ECU(Electronic Control Unit)の種々の構成を行うように、また車載電気機械(EM)の効率特性に関するデータ、車両100に取り付けられたタイヤの製造元及びタイプ、及び他の車両データを提供するなど、種々の形式のデータをECU130に提供するように、構成してもよい。
【0030】
トレーラーユニット120は、1つ以上のEM及び電気エネルギー貯蔵システムを含む自己動力式トレーラーとして構成してもよい。トレーラーVCU140は、これらのEMをメイントラクターVCU130から独立して制御するように構成してもよいし、またはメイントラクターVCU130に対して従動する構成としてもよい。車両100の連結は、当然のことながら、1つ以上のドーリーユニット及び2つ以上のトレーラーユニットなどのさらなる車両ユニットを含んでいてもよい。これらのさらなる車両ユニットも、エネルギー源及びEMを含む自己動力式車両ユニットとして構成してもよい。
【0031】
車両100は、車輪によって支持され、各車輪はタイヤを含む。トラクターユニット110は、前輪160(通常は操舵される)と後輪170(その少なくとも1対は被駆動車輪である)とを有する。全般的に、トラクター110の後輪170は、タグ車軸またはプッシャー車軸上に取り付けてもよい。タグ車軸は、最後方の駆動車軸にパワー供給されない場所であり、フリーローリング車軸またはデッド車軸とも言われる。プッシャー車軸は、最前方の駆動車軸にパワー供給されない場所である。トレーラーユニット120はトレーラー車輪180上に支持される。トレーラー車軸のうちの1つ以上は、被駆動車軸であってもよい。
【0032】
車輪上のタイヤは、車両100の挙動及び能力を決定する際に主要な役割を果たす。うまく設計されたタイヤセットであれば、優れた牽引力及び燃費の両方をもたらすが、不十分に設計されたタイヤセットまたは過度に磨耗したタイヤでは、牽引力及び燃費の両方を低下させる可能性があり、不安定な車両の連結を招くことさえあり、これは当然ながら望ましくない。次に、タイヤのいくつかの重要な特性及び特徴パラメータについて説明する。これらのタイヤパラメータは、タイヤの他の能力及び特性をVCU130、140が決定できるタイヤパラメータとして、または単純に、種々の制御決定を最適化するためにVCU130、140が多かれ少なかれ直接使用できるタイヤ特性として、任意選択でタイヤモデルに含まれる。所与の駆動車軸に取り付けられたタイヤの特性を少なくとも部分的に使用して、関連付けられるEM駆動装置の効率特性を決定してもよい。またタイヤモデルを使用して、所与のタイヤが所与の車輪スリップにおいて動作された場合の摩耗率を決定してもよい。したがって、タイヤモデルを、車両100上の異なる被駆動車軸から要求された車輪スリップをバランスさせる最適化ルーチンへの入力として使用することができる。
【0033】
タイヤは、高速で回転するほど、トレッドゴムを車軸から強制的に遠ざける遠心力が原因で、直径が大きくなる、すなわち、転がり半径が大きくなる傾向がある。この効果は、遠心膨張と言われることが多い。タイヤの直径が大きくなると、タイヤの幅は小さくなる。過度の遠心膨張は、タイヤの挙動に著しく影響を与える場合がある。
【0034】
タイヤのニューマチックトレールは、弾性材料タイヤが硬い表面上を転がり、旋回の場合と同様に横荷重を受けることによって生じるトレール様効果である。タイヤのニューマチックトレールパラメータは、タイヤ横すべりの合成力が、タイヤの接地面の幾何学的中心の後方で生じる場合の距離を記述する。
【0035】
スリップ角または横すべり角(本明細書ではαと示す)は、転がる車輪の実際の進行方向とそれが向いている方向との間の角度(すなわち、車輪の並進速度のベクトル和の角度)である。
【0036】
タイヤの緩和長は、スリップ角が導入されたときとコーナリング力がその定常値に達したときの間の遅延を記述する空気タイヤの特性である。通常、緩和長は、タイヤが定常状態の横方向の力の63%に達するのに必要な転がり距離として定義されるが、他の定義も可能である。
【0037】
垂直剛性(またはバネ定数)は、タイヤの垂直偏向に対する垂直力の比であり、車両の全体的なサスペンション性能に寄与する。全般的に、バネ定数は膨張圧とともに増大する。
【0038】
タイヤの接地面(またはフットプリント)は、路面と接触しているトレッドの領域である。この領域は、摩擦を介してタイヤと道路との間の力を伝達する。接地面の縦横比は、操舵挙動及びコーナリング挙動に影響する。タイヤトレッド及び側壁要素は、フットプリントに出入りするときに変形及び回復を受ける。ゴムはエラストマーであるため、このサイクル中に変形する。ゴムが変形及び回復すると、車両内に周期的な力を与える。これらの変動はまとめて、タイヤユニフォミティと言われる。タイヤユニフォミティは、半径方向の力の変動(RFV:Radial Force Variation)、横方向の力の変動(LFV:lateral force variation)、及び接線方向の力の変動によって特徴付けられる。半径方向の力の変動及び横方向の力の変動は、製造プロセスの最後に力変動機械上で測定される。RFV及びLFVに対する指定限界外のタイヤは、却下される。幾何学的パラメータ(縦振れ、横振れ、及び側壁の膨らみを含む)が、品質検査として製造プロセスの最後にタイヤ工場においてタイヤユニフォミティマシンを使用して測定される。
【0039】
タイヤのコーナリング力または横力は、コーナリング中に車両タイヤによって生成される横方向の(すなわち路面と平行な)力である。
【0040】
転がり抵抗は、路面と接触しているタイヤの変形によって生じる転がりに対する抵抗である。タイヤが転がると、トレッドが接触領域に入って、道路に沿うように平らに変形される。変形を作るために必要なエネルギーは、タイヤ構造の膨張圧、回転速度、及び多くの物理特性、たとえば、バネ力及び剛性に依存する。タイヤ製造業者は、トラックにおける燃費を向上させるために転がり抵抗がより低いタイヤ構造を探すことが多い。転がり抵抗が燃料消費量の高い割合を占める。
【0041】
図2は、所与のタイヤの特性、たとえば、前述の特性及びまた他の特性を記述するために、タイヤ特性のうちの少なくとも一部を組み込むタイヤモデル例200を例示する。タイヤモデルを使用して、所与の車輪に対する縦方向タイヤ力Fxと、その車輪に対する等価な縦方向車輪スリップとの間の関係を規定することができる。縦方向車輪スリップλは、車輪回転速度と対地速度との間の差に関係し、後でより詳細に説明する。車輪回転速度ωは、車輪の回転速度であり、たとえば、毎分回転数(rpm)、またはラジアン/秒(rad/sec)もしくは度/秒(deg/sec)の角速度の単位で与えられる。車輪スリップの関数としての縦方向(転がり方向)及び/または横方向(縦方向に直交する)に生成される車輪力に関する車輪挙動が、「Tyre and vehicle dynamics」,Elsevier Ltd.2012,ISBN978-0-08-097016-5(Hans Pacejka著)に説明されている。たとえば、車輪スリップと縦方向の力との間の関係が説明されている第7章を参照されたい。
【0042】
縦方向車輪スリップλは、SAEJ670(SAE Vehicle Dynamics Standards Committee,2008年1月24日)に従って、以下のように定義してもよい。
【0043】
【数2】
ここで、Rは有効車輪半径(メートル)であり、ωは車輪の角速度であり、vは車輪の縦方向速度(車輪の座標系における)である。したがって、λは-1~1に制限され、車輪が路面に対してどのくらいスリップしているかを定量化する。車輪スリップは、本質的に、車輪と車両との間で測定される速度差である。したがって、本明細書で開示した技術は、任意のタイプの車輪スリップ定義と使用するために適応できる。また車輪スリップ値は、車輪の座標系において表面に対する車輪の速度を考慮した車輪速度値と同等であることも理解される。
【0044】
横方向車輪スリップλを以下のように定義することができる。
【0045】
【数3】
ここでvは車輪の横方向速度(車輪の座標系における)であり、縦方向速度vの方向に直交する方向において測定される。本開示は、主に、前進運動を生じさせる車輪スリップである縦方向車輪スリップに焦点を当てている。
【0046】
車輪(またはタイヤ)が車輪力を生成するためには、スリップが発生する必要がある。スリップ値がより小さい場合、スリップと生成される力との間の関係はほぼ線形であり、比例定数はタイヤのスリップ剛性として示されることが多い。図2を参照して、タイヤ(タイヤ160、170、180のうちのいずれかなど)は、縦方向の力F、横方向の力F、及び垂直力Fを受ける。垂直力Fは、いくつかの重要な車両特性を決定するための鍵である。たとえば、垂直力は、車輪によって達成可能な縦方向タイヤ力Fを、かなりの程度まで決定する。なぜなら、通常はF≦μFだからである。ここで、μは道路摩擦条件に関連付けられた摩擦係数である。所与の横方向スリップに対して最大の利用可能な横方向の力は、「Tyre and vehicle dynamics」,Elsevier Ltd.2012,ISBN978-0-08-097016-5(Hans Pacejka著)に説明されているいわゆる魔法の公式によって説明することができる。
【0047】
図2は、車輪スリップの関数としての達成可能なタイヤ力F、Fの例を示す。縦方向タイヤ力Fは、車輪スリップが小さいところでは、ほぼ直線的に増加する部分210を示し、それに続いて、車輪スリップがより大きいところでは、より非線形挙動を伴う部分220を示す。取得可能な横方向タイヤ力Fは、縦方向車輪スリップが比較的小さいところでも急速に減少する。線形領域210において車両動作を維持することが望ましい。線形領域210では、適用されたブレーキコマンドに応じて取得可能な縦方向の力がより予測しやすく、必要に応じて十分な横方向タイヤ力を生成することができる。この領域での動作を確保するために、たとえば、0.1程度の車輪スリップ限界λLIMを、所与の車輪に課すことができる。車輪スリップがより大きいところ、たとえば0.1を超えるところでは、より非線形の領域220が見られる。本技術は、主に、課された車輪スリップ限界を下回るところにおいて、すなわち、線形領域210において車輪スリップを制御することに焦点を当てている。
【0048】
この種類のタイヤモデルは、実際的な実験、解析的導出、コンピューターシミュレーション、またはそれらの組み合わせによって決定することができる。実際には、タイヤモデルは、タイヤパラメータによってインデックス付けされたルックアップテーブル(LUT)により、または多項式を記述する係数の組などとして、表され得る。係数の組はタイヤパラメータに基づいて選択され、そして、多項式はタイヤ挙動と車両状態との間の関係を記述する。
【0049】
図3は、いくつかの例示的な運動支援装置(MSD:Motion Support Device)により車輪310を制御するための機能300を概略的に例示する。運動支援装置(MSD)は、ここでは、摩擦ブレーキ320(ディスクブレーキまたはドラムブレーキなど)及び電気機械(EM)330を含む。摩擦ブレーキ320及びEM330は、車輪トルク生成デバイスの例である。これは、アクチュエータと言ってもよく、1つ以上の運動支援装置制御ユニット340によって制御することができる。制御は、たとえば、車輪回転速度センサ及び他の車両状態センサ(たとえば、レーダーセンサ、ライダーセンサ、また視覚ベースセンサ、たとえばカメラセンサ及び赤外線検出器)から取得される測定データに基づく。MSD制御ユニット340を、1つ以上のアクチュエータを制御するように構成してもよい。たとえば、MSD制御ユニットを、車軸の両方の車輪用のMSDを制御するように構成することは珍しくない。MSD制御ユニット340は、異なるアクチュエータを制御するために別個の車輪端部モジュール(WEM:Wheel End Module)制御ユニット350、360を含んでいてもよい。たとえば、全地球測位システム、視覚ベースセンサ、車輪回転速度センサ、レーダーセンサ、及び/またはライダーセンサを使用して車両ユニット運動を推定し、この車両ユニット運動を所与の車輪のローカル座標系に変換することで(たとえば、縦方向速度成分及び横方向速度成分に関して)、車輪スリップをリアルタイムで正確に推定することが、車輪基準座標系における車両ユニット運動を、車輪に接続して配置された車輪回転速度センサから取得されたデータと比較することによって可能になる。
【0050】
交通状況管理(TSM:Traffic Situation Management)機能380は、たとえば、1~10秒ほどのタイムホライズンで運転操作を計画する。このタイムフレームは、たとえば、車両100がカーブを通り抜けるのにかかる時間に対応する。TSMによって計画及び実行される車両操舵は、加速度プロファイル及び曲率プロファイルと関連付けることができ、これらは、所与の操舵に対する所望の車両速度及び旋回を記述する。TSMは、安全で確実な方法でTSMからの要求を満たす力配分を行うVMM機能370から、所望の加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを継続的に要求する。所望の加速度プロファイル及び曲率プロファイルは、任意選択で、ハンドル、アクセルペダル、及びブレーキペダルなどの通常の制御入力デバイスを介した大型の車両のヒューマンマシンインターフェースを介した運転者からの入力に基づいて決定してもよいが、本明細書で開示した技術は、自動車両または半自動運転車両に同様に適用できる。加速度プロファイル及び曲率プロファイルを決定するために使用される正確な方法は、本開示の範囲内ではなく、したがって、本明細書ではより詳細には説明しない。
【0051】
VMM機能370は、約0,1~1,5秒ほどのタイムホライズンで動作し、加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを、車両100の異なるMSDによって駆動される車両運動機能を制御するための制御コマンドに継続的に変換する。MSDは、VMMに能力を報告し返し、そして、その能力は、車両制御における制約として使用される。車両の車輪にトルクを伝えることができるVMMとMSDとの間のインターフェース375は従来、車輪スリップを何ら考慮せずにVMMから各MSDへのトルクベースの要求に焦点を当てていた。しかし、このアプローチには重大な性能限界がある。安全を最重視すべきまたは過度のスリップ状況が生じた場合、別個の制御ユニット上で動作される関連する安全機能(牽引制御、アンチロックブレーキなど)は通常、スリップを制御に戻すために、介入してトルクオーバーライドを要求する。このアプローチに関する問題は、アクチュエータの一次制御とアクチュエータのスリップ制御とが、異なる電子制御ユニット(ECU)に割り当てられるため、それらの間の通信に伴う待ち時間によって、スリップ制御性能が著しく制限されることである。また、実際のスリップ制御を実現するために使用される2つのECUにおいて行われる関連するアクチュエータ及びスリップの想定は一致しない可能性があり、この結果、準最適な性能となる可能性がある。
【0052】
代わりに、VMMとMSD制御装置または制御装置(複数)350との間のインターフェース375、360上で車輪速度または車輪スリップベースの要求を使用することによってかなりの利点を実現することができ、それによって、難しいアクチュエータ速度制御ループがMSD制御装置に移される。MSD制御装置は、全般的に、VMM機能のそれと比較してはるかに短いサンプル時間で動作する。このようなアーキテクチャによって、トルクベースの制御インターフェースと比較してはるかに優れた外乱除去を得ることができ、したがって、タイヤ道路接地面において生成される力の予測可能性が改善される。VMMモジュール370は、各車輪または車輪のサブセットに対して決定された必要な車輪力Fxi、Fyiを、同等な車輪速度ωwiまたは車輪スリップλに、図2のタイヤモデルなどのタイヤモデルを使用することによって変換する。そして、これらの車輪速度またはスリップは、それぞれのMSD制御ユニット340に送られる。MSD制御装置は、制約として使用できる能力(CAP)を報告し返す。
【0053】
VMM機能370及び任意選択でMSD制御ユニット340もvについての情報を維持し(車輪の基準フレームにおいて)、一方で、車輪速センサなどを使用してω(車輪の回転速度)を決定することができる。
【0054】
VMMモジュール370は、所定のタイヤモデルをメモリ内に、たとえばルックアップテーブルとして記憶するように構成することができる。逆タイヤモデルが、車輪310の現在の動作条件の関数としてメモリ内に記憶されるように構成されている。これは、逆タイヤモデルの挙動が車両の動作条件に基づいて調整されることを意味し、これは、動作条件を考慮しないものと比較して、より正確なモデルが得られることを意味する。メモリ内に記憶されるモデルは、実験及び試行に基づいて、または解析的導出に基づいて、または2つの組み合わせに基づいて決定することができる。たとえば、制御ユニットは、現在の動作条件に応じて選択される異なるモデルの組にアクセスするように構成することができる。ある逆タイヤモデルは、垂直力が大きい高荷重運転用に調整することができ、他の逆タイヤモデルは、道路摩擦が低いなどの滑りやすい道路状態用に調整することができる。使用すべきモデルの選択は、所定の組の選択ルールに基づくことができる。また、メモリ内に記憶されるモデルは、少なくとも部分的に、動作条件の関数とすることができる。したがって、モデルは、たとえば、垂直力または道路摩擦を入力パラメータとして取得し、それによって車輪310の現在の動作条件に基づいて逆タイヤモデルを取得するように構成してもよい。動作条件の多くの態様は、初期設定の動作条件パラメータによって近似できるが、動作条件の他の態様は、より小さい数のクラスに大まかに分類できることが理解される。したがって、車輪310の現在の動作条件に基づいて逆タイヤモデルを取得することは、多数の異なるモデルを記憶する必要があることも、細かい粒度で動作条件の変動を考慮できる複雑な解析関数を記憶する必要があることも、必ずしも意味しない。むしろ、動作条件に応じて選択される2つまたは3つの異なるモデルがあれば、十分であり得る。たとえば、車両が大量に荷物を積んでいる場合はあるモデルを使用し、そうでない場合は他のモデルを使用する。すべての場合において、タイヤ力と車輪スリップとの間のマッピングは、動作条件に基づいて何らかの方法で変化し、マッピングの精度を向上させる。また逆タイヤモデルは、車両の現在の動作条件に自動的にまたは少なくとも半自動的に適応するように構成された適応モデルとして、少なくとも部分的に実施してもよい。これは、所与の車輪スリップ要求に応答して生成される車輪力に関して所与の車輪の応答を常にモニタリングすること、及び/または車輪スリップ要求に応答する車両100の応答をモニタリングすることによって達成することができる。そして適応モデルを、車輪からの所与の車輪スリップ要求に応答して取得される車輪力をより正確にモデリングするように、調整することができる。
【0055】
図4及び5は、駆動装置400、500のいくつかの例を示す。ここでは、複数のEM装置、EM、EM、EMが、異なる駆動車軸にパワー供給するように構成されている。全般的に、車両ユニットは任意の数の被駆動車軸を含んでいてもよく、被駆動車軸は、図4に示すような操舵軸であってもよいしそうでなくてもよい。被駆動車軸は、図5に示したようなオープン差動装置、または図4に示したような車輪端部モーターを含んでいてもよい。EM装置は、第1、第2、及び第3の縦方向の力F、F、及びFをそれぞれ生成するように構成されており、これらは全体として合計して所望の総縦方向の力Fになる。
【0056】
興味深いことに、図4に示す駆動装置400は、トラクター車両ユニット100または操舵ドーリー車両ユニットに適している。他方で、駆動装置500は、自己動力式トレーラー、トラクター、または操舵軸のないドーリー車両ユニットにおける駆動装置であってもよい。2つの駆動車軸を制御するための制御方法は、提案された方法における妥当な計算量により、自己動力式の被牽引車両ユニットに有利に適用され得る。
【0057】
電気機械は、全般的に、正及び負の印加されたトルクの両方に対して、効率特性に関連付けられる。電動モーター効率は、種々の方法で定義することができる。しかし、EM効率の一般的な定義は、パワー出力(機械的)とパワー入力(電気)との間の比である。機械動力出力は、必要なトルク及び速度(すなわち、モーターに取り付けられた物体を動かすのに必要なパワー)に基づいて計算され、電力入力は、モーターに供給される電圧及び電流に基づいて計算される。機械動力出力は、常に電力入力よりも低い。なぜなら、エネルギーが、変換(電気的から機械的へ)の間に熱及び摩擦などの種々の形態で失われるからである。電動モーターの設計は、多くの場合に、しかし、いつもとは限らないが、効率を改善するためにこれらの損失を最小限にすることを目的としている。
【0058】
図6は、EM効率特性600の例を示す。ここでは、効率が等高線図としてプロットされている。等高線図(しばしば、レベルプロットと言われる)は、3次元表面を2次元平面上に示す方法である。2つの変数をx軸及びy軸上でグラフ化し、第3の変数Zを等高線610、620としてグラフ化している。これらの等高線は、しばしば、zスライスまたは等応答値と言われる。図6では、正のトルク601及び負のトルク602の両方に対する効率、すなわち制動を例示する。効率は、多くの場合、モーター車軸速度(ギア比、車輪径などを介して車両速度に変換される)及び印加されたトルクの関数である。特に、例600にはスイートスポット630がある。ここでは、EMが最大効率として動作しており、この最適な動作点からのわずかなずれも効率の低下になる。逆に、最大効率動作点660を、最大量のエネルギーが制動中に回復される制動に対しても規定することができる。前述したように、この点において制動を行うことが望ましい場合があり、電池は下り坂走行中に充電される。しかし、電池がすでにフル充電である場合、このスイートスポットにおいて動作することは非常に望ましくない場合がある。
【0059】
電動車両の駆動車軸上の異なる2つ以上のEM装置を、異なる効率特性で構成してもよい。これは、すなわち、異なるタイプの電気機械を使用することにより、異なる固定ギア比を使用することにより、及び/または異なるタイプのタイヤを異なる車軸上で使用することにより、達成することができる。前述したUS2010222953では、このような異なるエネルギー効率特性を、車両推進を最適化するためにどのように使用し得るかについて説明している。たとえば、ある車軸を、比較的低い車両速度において最適である効率特性で構成することができ、一方で他の車軸を、より高速において最適である効率で構成することができる。そして、第1の車軸を始動性に対して使用することができ、一方で、他方の車軸を、車両がより高速で走行しているときに使用することができる。ある車軸を、大きなトルクを生成するように構成することができ、一方で、他の車軸はトルクを生成する能力が制限されていてもよい。
【0060】
しかし、US2010222953に記載されている手法とは異なり、本明細書では、その代わりに、車両100上の異なる駆動車軸に送られるスリップ要求を変えることを提案する。したがって、車両が低速度で動作している場合、より高速用に最適化された駆動車軸に送られるスリップ要求と比較して、より高いスリップ要求値が低速用に最適化された車軸に送られる。この利点は、MSD制御装置340が、より高い帯域幅においてアクチュエータを制御することができ、それによって、異なるWEMに送られるトルク要求に基づく制御システムと比較して、効率バランスがより正確に維持されることである。また、後でより詳細に説明するように、本明細書で提案する車輪スリップバランシングアルゴリズムは妥当な計算量で実施することができ、これは利点である。この利点は、電動トレーラー車両ユニットまたは自己動力式ドーリー車両ユニットなどの、高性能な処理回路が無い車両ユニット上で、車輪スリップバランシング技術が実施される場合には、特に顕著になる。
【0061】
電気モーターは、通常、最大効率で動作される。すなわち、たとえば、下り坂走行中に可能な限りエネルギーを回復するために、回生制動中に最大出力パワーが生成される。しかし、ほとんどの電気機械を低減された効率で動作させることを可能にする電気機械に関連付けられる制御の自由が存在することが実現されている。このような準最適なエネルギー効率の電気機械制御の一般的な原理は、たとえば、GB2477229B及びまたUS2017/0282751A1に記載されている。それほどエネルギー効率が良くない動作モードで動作される制動トルクを生成するために使用される電気機械は、最大効率で動作される電気機械と比較して、より多くの熱及びより少ない出力電流を生成する。
【0062】
本開示の態様は、GB2477229B及びUS2017/0282751A1における労力に基づいており、車両制御ユニット130が、回生制動中にEM330から出力される電流を、制動中のEMにおける温度上昇とバランスさせることを可能にする制御メカニズム及び通信インターフェースを提供する。基本的に、制御ユニット130は、提案した技術によって、長時間の下り坂走行中のEMの温度上昇を蓄電システム(ESS)エネルギー吸収能力とバランスさせることができ、それによって、大型の車両100に対する耐久制動能力の改善が得られ、したがって、ブレーキ抵抗などの車両100の電気システムコンポーネントを過剰に寸法設計する必要が少なくなる。好ましい実施態様によれば、制御ユニット130はまた、運転中のEMの電流出力も予測的にバランスさせる。たとえば、ルートには、最初に道路の平坦な区間が含まれ、それに続いて長い下り坂区間があると仮定する。そして、制御ユニットは、ルートの長い下り坂部分の間の十分な耐久制動能力を確実にするために、ルートの平坦な区間上での走行中により多くのパワーを消費するように、エネルギー非効率的な動作モードでEMを構成してもよい。車両の異なる被駆動車軸において車輪スリップ間をバランスできるようにすることで、温度制御が行われ得る。EMが制動の推進に使用されるか否かとは関係なく、要求されるスリップが高いほど、EM内での温度上昇が大きくなる。したがって、いくつかの態様によれば、車両駆動車軸にわたって車輪スリップをバランスさせるときに、EM温度が考慮される。EMにおいて高温になると、要求される車輪スリップの減少が保証される場合があり、その減少を補償するために他の駆動車軸における車輪スリップが増加する。高温EMが冷却されると、要求される車輪スリップは再び増加する場合がある。
【0063】
図7及び8は、本明細書で開示した技術を使用し得るいくつかの大型の車両例700、800を例示している。車軸710、720、730、740、750、760のいずれも、推進及び回生制動用に構成されたEM装置を含んでいてもよい。上記技術は、トラクターユニット110、トレーラーユニット120、130、及び/またはドーリー車両ユニット140において有利に実施し得る。車輪スリップバランシングは、中央VCU130において、または車両ユニットローカルVCU140において行ってもよい。
【0064】
図9A及び9Bは、開示した技術が図7及び8に例示したような車両においてどのように動作し得るかのいくつかの例を示す。図9Aにおける車両は、一定の加速度で加速している。すなわち、車両の縦方向速度Vxが直線的に増加する。最初は、第1のEM装置は、要求される推進トルクを提供するのに十分である。制御ユニット130(または140)は、最も効率的な推進オプションが、第1のEM装置から車輪スリップλを要求することであると判定する。これは、たとえば、トラクター110の後車軸730またはトレーラー120の前車軸740に関連付けることができる。しかし、ほとんどのEM装置と同様に、第1のEM装置の効率は、図6において一点鎖線640によって例示したように、車両速度の増加をサポートするために必要なモーター車軸速度の増加とともに低下する。したがって、制御ユニットは、車両の他の車軸にパワー供給するように構成された第2のEM装置からも車輪スリップλを要求し始める。これらの2つの車輪スリップ値は、最終的に、車両による所望の動作を維持するために、制御ユニットによって所望の関係であると決定された関係において釣り合わされる。図9Bは、車両が、第1、第2、及び第3の被駆動車軸にそれぞれパワー供給するように構成された第1、第2、及び第3のEM装置を含む例を示す。ここで、制御ユニットは、第1の車輪スリップ要求λにおいて車両発進中に、第1のEM装置が単独で最も効率的に動作されていると判定する。そして、制御ユニットは、車輪スリップ要求λにおいて第2のEM装置をブレンドし、その上で、車両推進への第1のEM装置の寄与が段階的に廃止され、最終的に、第3の車輪スリップλが要求される第3のEM装置によって置き換えられる。
【0065】
前述の考察をまとめると、本明細書では、少なくとも第1及び第2のEM装置EM1、EM2を含む大型の車両100の運動を制御するように構成された車両制御ユニット130、140が開示されている。第1のEM装置は、第2のEM装置と比較して異なる効率特性を有している。当然のことながら、2つを超えるEM装置も可能である。EM効率は、たとえば図6に関連して前述しており、推進及び制動中の両方のエネルギー効率に関連し得る。全般的に、EMのEM効率特性は、電気的に蓄積されたエネルギーを、大型の車両を加速するか、または少なくとも、たとえば道路摩擦及び空気抵抗からの損失を打開することによって安定した車両速度を維持する推進力に変換するEMの能力を示す。EM効率特性は、前述したように、たとえば直接及び直交設定点に関して、電気機械の動作点を調整することによって、変更することができてもよい。
【0066】
第1のEM装置EM1は、たとえば、第2のEM装置EM2と比較して異なる効率特性を、車両速度Vの関数として有していてもよい。これは、EM装置の一方は全般的に、低い車両速度においてより効率的であり、一方で、他方のEM装置は、高車両速度側においてより効率的であることを意味する。また第1のEM装置EM1は、第2のEM装置EM2と比較して異なる効率特性を、印加されたトルクまたは生成された車輪力の関数として有していてもよい。通常は、EMのエネルギー効率特性は、図6に例示したように、速度及びトルクの両方の関数である。しかし、速度またはトルクへの依存性を考慮せず、関連パラメータのサブセットのみを考慮することによって単純化が可能であり、その結果、複雑さの実施態様が低減されることに留意されたい。この効率マップは、前述したように、EM装置の直接及び直交の電流設定点に関して動作点を調整することによって、特定のEM実施態様に対して調整してもよい。
【0067】
第1のEM装置EM1は、第1の車両車軸に関連付けることができ、第2のEM装置EM2は、大型の車両100の第2の車両車軸に関連付けることができる。しかし、図8及び9に関連して前述したように、車両の連結は、1つ以上の車両ユニット上に、多数の駆動車軸、さらに別個の車輪端部モーターを含んでいてもよい。したがって、本明細書における教示は、多種多様な異なる車両ユニットタイプ及び組み合わせに適用可能であると解釈すべきである。第1のEM装置EM1は、任意選択で、低い車両速度側における効率に対して構成された始動性のEM装置であり、そして、第2のEM装置EM2は、高い車両速度側における効率に対して構成されたクルーズモードのEM装置とすることができる。好ましくは、始動性のEM装置は、車両ユニットの後車軸720、730にパワー供給するように構成されており、クルーズモードのEM装置は、車両ユニットの操舵軸710にパワー供給するように構成されている。これは主に、操舵軸が、より大きい操舵角において荷重がかからないからであり、これは通常、車両がゆっくりと走行しているときにのみ生じる。
【0068】
異なるエネルギー特性を有するEM装置を実現する1つの方法は、第1のEM装置EM1として、異なるEM設計の1つ以上のEMを含み、及び/または第2のEM装置EM2と比較して異なるギア比を含むものを提供することである。
【0069】
本明細書で開示した車両制御ユニットは、第1及び第2のEM装置EM1、EM2を、それぞれのEM制御ユニットに車輪スリップ要求を送信することによって制御するように構成されている。ここで、車輪速度要求が、地上に対する車両の速度に関連して、すなわち地上に対する車輪の速度に関連して決定される限り、車輪スリップ要求は、任意選択で、車輪速度要求も含むと解釈される。この場合、少なくとも本明細書の目的に対しては、車輪速度及び車輪スリップは等しい。
【0070】
したがって、送信された車輪スリップ要求は、任意選択で、以下によって与えられる目標の縦方向車輪スリップを含むかまたは少なくとも示す。
【0071】
【数4】
ここで、Rは有効車輪半径(メートル)であり、ωは車輪の角速度であり、vは地上に対する車輪の縦方向速度である。他のオプションによれば、送信された車輪スリップ要求は、目標の縦方向車輪スリップλを取得するために地上に対する車輪の縦方向速度vに関連して制御ユニット130、140によって決定される、車輪の目標の角速度ωを含む。
【0072】
制御ユニット130、140は、さらに、第1及び第2のEM装置によって共同で生成されるべきFx所望の総縦方向の力を取得するように構成されている。総縦方向の力は、所望の加速度などの所望の動作を車両によって生成するために決定される。
【0073】
制御ユニット130、140は、第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力F1に対応する所望の第1の車輪スリップλと、第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力F2に対応する所望の第2の車輪スリップλとを決定するように構成されている。第1の縦方向の力F1と第2の縦方向の力F2との和は、所望の総縦方向の力Fxに一致する。これは、少なくとも2つのEM装置が、全体として所望の総縦方向の力になるそれぞれの力を生成するために作動させられることを意味する。なぜなら、制御ユニット130、140は、第1及び第2のEM装置EM1、EM2のそれぞれの効率特性に基づいて、第2の車輪スリップλ2の大きさに対して、第1の車輪スリップλの大きさをバランスさせるからである。これら2つのコンポーネントの縦方向の力は変化する。
【0074】
大きな車輪スリップによって車両推進または制動に寄与する車輪は、著しい車輪スリップを生成しない車輪と比較して、より高いタイヤ摩耗を受ける可能性がある。車両の車輪にわたってタイヤ摩耗をバランスさせるために、車輪スリップのバランシングにおいて、推定されるタイヤ摩耗を考慮することが望ましい場合がある。ここで、タイヤ垂直荷重も、所与の車輪スリップの結果として予測されるタイヤ摩耗に対して重要な役割を果たし得る。ここで、垂直荷重が高いほど、より小さい垂直荷重のもとでスリップしている車輪と比較して、タイヤ摩耗率が高くなることを意味することが多い。たとえば、垂直荷重及び車輪スリップに基づくタイヤ摩耗のモデルを構築して、車輪スリップバランシングアルゴリズムへの入力として使用してもよい。ある車輪が高いタイヤ摩耗を受けるとモデルによって推定される場合、この車輪から要求される車輪スリップを小さくしてもよく、逆もまた同様である。一つの制御方法例は、所与の車輪スリップを超える動作を防止する車輪スリップ限界を単に実装することである。車輪スリップ限界は、タイヤ垂直荷重に基づいて決定することができる。このように、ある車輪バランシング解決策は、たとえば、エネルギー効率の観点など、何らかの他の観点から効率的であるにもかかわらず、容認できないタイヤ摩耗率につながるであろうから、許容できないものとなる。したがって、いくつかの態様によれば、制御ユニットを、現在の車輪スリップから推定される結果として生じたタイヤ摩耗またはタイヤ摩耗率に基づいて、第2の車輪スリップλの大きさに対して第1の車輪スリップλの大きさをバランスさせるように構成してもよい。また、垂直荷重は、車輪間または被駆動車軸間の車輪スリップのバランシングにおいても考慮してよい。したがって、いくつかの態様によれば、制御ユニット130、140は、第1のEM装置EM1及び第2のEM装置EM2に関連付けられる車軸上のそれぞれの垂直荷重に基づいて、第2の車輪スリップλの大きさに対して第1の車輪スリップλの大きさをバランスさせるように構成されている。
【0075】
図10及び11は、この車輪スリップバランシングを実際にどのように実現できるかの例を示す。ここでは、2つのEM装置のみをバランスさせているが、当然のことながら、2つを超えるEM装置も使用できる。MSD連携機能は、生成すべき所望の縦方向の力Freqを受け取る。この要求を満たすために、MSD連携機能は、第1及び第2の車輪スリップ要求λ、λを第1及び第2のEM装置EM1、EM2に割り当てなければならない。車輪スリップ要求は、第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力F1と、第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力F2とに変換され、第1の縦方向の力F1と第2の縦方向の力F2との和は、所望の総縦方向の力Fxに一致する。力と車輪スリップとの間のマッピングは、図2に関連して前述したようなタイヤモデルから決定することができる。通常は、必ずしもそうではないが、「一致する」は、ここでは「等しい」を意味するが、ある程度の差も、少なくとも過渡的な時間の間は、当然のことながら許容可能であり得る。全般的に、第1及び第2の車輪スリップ要求は、第1及び第2のEM装置による共同の取り組みが、高位層からの予想に十分な精度で応える車両挙動を一緒に提供するように決定される。印加されたトルクT1、T2、または2つのEM装置によって生成された推定される縦方向の力F1及びF2が、効率勾配関数にフィードバックされる。効率勾配関数は、現在の車両速度Vx(すなわち、車両が地上をどのくらい速く走行しているか)を示す情報も受け取る。この車両速度Vxは、2つのEM装置に対して等しい車軸速度に変換し得る。なぜなら、ギア比、車輪半径、及び他の車両パラメータが、システムには知られているからである。効率勾配関数は、制御パラメータに対するそれぞれのEM装置EM1、EM2の効率特性の相対勾配に基づいて、2つの車輪スリップ要求間の適切なバランスを決定する。このアプローチは、効率のモデルに基づいている。すなわち、効率ηは、印加されたトルクTまたは生成された縦方向車輪力F、及びモーター車軸速度または車輪速度ωの関数である。すなわち、以下のとおりである。
【0076】
【数5】
このアプローチは、図11においてさらに可視化されている。図11は、効率対車輪スリップl(またはトルクT)のプロットを例示している。図11における曲線は、破線650に沿った図6における等高線図の断面と考えてもよい。第1及び第2のEM装置を含む駆動システムの合同の全体効率は、EM装置のそれぞれの効率と現在のバランス(すなわち、それらの間の分割)との関数である。図11を参照して、次のことが理解される。第1のEM装置のトルク(または車輪力または車輪スリップ)に対する効率勾配、
【数6】
が、第2のEM装置のトルク(または車輪力または車輪スリップ)に対する効率勾配、
【数7】
と比較して、より大きい場合、正の勾配が大きい方のEM装置上により多くの推進力を伝達することによって、全体効率の増加を達成することができる。2つの勾配が同じであるバランシング点では、一方のEM装置による効率の増加が、他方のEM装置による効率の減少によって相殺されるため、どちらの推進力が伝達され得るかは問題ではない。したがって、一方の勾配が他方の勾配よりも正である限り、効率勾配関数は、勾配が大きい方のEM装置上により多くの推進力を伝達し、これは、エネルギー効率の良い動作モードが得られた、勾配が同じとなる状況に達するまで続く。車両速度の変化または車両による必要加速度の変化などの条件が変更した場合、分割は迅速に調整される。
【0077】
別の例によれば、勾配降下法ベースのストラテジを使用して、車輪スリップ間の適切なバランスを見つけることができる。車両運動管理モジュールが、総車輪力Ftotが必要であり、3つの被駆動車軸が、各車輪力の寄与F1、F2,及びF3によってこの合力を生成すべき、すなわちFtot=F+F+Fであると決定すると、仮定する。またEMパワー(消費及び/または回生される)を車輪力に関係づける近似的な関数P(F)、P(F)、及びP(F)が利用でき、総消費または回生パワーはPtot=P(F)+P(F)+P(F)であると仮定する。これらの関数を、事前に構成してもよいし、車両動作中に適応的に決定してもよい。車輪力と車輪スリップとの間の関係が利用できるので、総消費または回生パワーは、車輪スリップに関して、以下のように定式化することもできる。Ptot=P(λ)+P(λ)+P(λ
【0078】
コスト関数として、
J=P(λ)+P(λ)+P(λ
を定式化し、そして、車輪スリップをバランスさせることで最適化(最小化または最大化)することができる。
【0079】
Jの勾配は以下であると仮定する。
【数8】
【0080】
そして、Δλによってi番目の車輪スリップを調整する勾配降下法を、以下のように定式化することができる。Δλ=wg、Δλ=wg。ここで、wはステップ長さであり、第3の車輪スリップλは、次の合力拘束を満たすように調整される。Ftot=F+F+F。当然のことながら、要求される車輪スリップも、車輪力を生成する際にそれぞれのMSD能力を満たさなければならない。
【0081】
まとめると、いくつかの態様によれば、制御ユニット130、140は、制御パラメータに対するそれぞれのEM装置EM1、EM2の効率特性の相対勾配に基づいて、第2の車輪スリップλの大きさに対して第1の車輪スリップλの大きさをバランスさせるように構成されている。たとえば、制御ユニットは、車両100の現在の状態において、第1のEM装置EM1の効率特性の勾配が第2のEM装置EM2の効率特性の勾配よりも大きい場合には、第1の車輪スリップλを増加させ、車両100の現在の状態において、第1のEM装置EM1の効率特性の勾配が第2のEM装置EM2の効率特性の勾配よりも小さい場合には、第1の車輪スリップλを減少させるように構成してもよい。
【0082】
図12Aは、他のEM装置のエネルギー消費量に対するあるEM装置上でのエネルギー消費量が、生成される総推進力に対してEM装置がなす寄与に直接正比例するはずであるという直感に基づく他の制御アプローチを例示する。すなわち、i番目のEM装置によって消費されるエネルギーEi(引き出されたパワーPiの関数である)は、車両上のすべてのEM装置によって生成される総推進力に対するi番目のEM装置によって生成される推進力の比に、以下のように比例するはずである。
【0083】
【数9】
言い換えれば、いくつかの態様によれば、制御ユニット130、140は、第1の縦方向の力F1と第2の縦方向の力F2との間の大小関係と比較して、第1及び第2のEM装置EM1、EM2の相対的な電力消費P1、P2に基づいて、第2の車輪スリップλ2の大きさに対して第1の車輪スリップλの大きさをバランスさせるように構成されている。これは、車輪スリップをバランスさせる特に簡単な方法を表す。図12を参照して、MSD連携機能は、MSD連携器から制御されるEM装置の組によって生成されるべき総縦方向の力の要求を受け取る。MSD連携器は、総縦方向の力要求Freqに共に一致する車輪力に共に変換される第1及び第2の車輪スリップλ、λを決定する。上記分割は、エネルギーバランシング機能によって決定される。エネルギーバランシング機能は、2つのEM装置EM1、EM2による消費パワーをモニタリングし、これらの引き出されたパワーを、割り当てられた第1の縦方向の力F1及び第2の縦方向の力F2と比較した。あるEM装置による寄与が、全体的なエネルギー消費量におけるその配分によって保証されるものよりも少ない場合、各車輪スリップを減少させ、逆もまた同様である。したがって、制御ユニット130、140は、第1のEM装置EM1の電力消費と第2のEM装置EM2の電力消費との間の比が、第1の縦方向の力F1と第2の縦方向の力F2との間の対応する比よりも小さい場合には、第1の車輪スリップλを減少させ、第1のEM装置EM1の電力消費と第2のEM装置EM2の電力消費との間の比が、第1の縦方向の力F1と第2の縦方向の力F2との間の対応する比よりも大きい場合には、第1の車輪スリップλを増加させるように構成される。
【0084】
車輪スリップバランシング機能性は、当然のことながら、1つ以上の動作シナリオパラメータに基づいてインデックス付け可能なルックアップテーブルなどの所定の車輪スリップ分割を使用することによって、さらに単純化してもよい。いくつかのこのような態様によれば、制御ユニット130、140は、車両速度によってパラメータ化された所定のバランシング機能に基づいて、第2の車輪スリップλの大きさに対して第1の車輪スリップλの大きさをバランスさせるように構成される。いくつかの他のこのような態様によれば、制御ユニット130、140は、総縦方向の力Fxによってパラメータ化された所定のバランシング機能に基づいて、第2の車輪スリップλの大きさに対して第1の車輪スリップλの大きさをバランスさせるように構成される。
【0085】
図12Bは、車輪スリップバランシング機能が既存の車両運動管理システムへのアドオンとして実装される制御アプローチ例を示す。ここで、MSD連携ブロックは、総縦方向の力要求Freqを受け取って、異なる推進ユニットによって生成されるべき好適なトルクT/Tまたは車輪スリップλ/λを決定する。エネルギーバランシング機能が、MSD連携ユニットからの要求を、本教示によりバランスされる新しい車輪スリップ要求λ1’/λ2’に変更する。特に、バランシングは、車両が直線で走行するときのみ、すなわち、コーナリング中でないときに行ってもよい。なぜなら、車輪スリップバランシングは、コーナリング中の車両挙動に影響を及ぼし得るからである。最大ヨー運動閾値を使用して、スリップバランシングを行えるとき及び作動させないときを決定してもよい。前述したように、Emsからのパワーフィードバックを使用して、好適な車輪スリップ分割を決定してもよい。図13は、本明細書で開示した技術を使用し得る階層化された制御スタックアーキテクチャ例を示す。前述したTSM機能380は、たとえば、1~10秒ほどのタイムホライズンで運転操作を計画する。TSM機能380は、約0,1~1,5秒ほどのタイムホライズンで動作するVMM機能370と相互作用し、TSM380からの加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを、車両100の異なるMSDにより駆動される車両運動機能を制御するための制御コマンドに継続的に変換する。MSDは、VMMに能力を報告し返し、そしてその能力は、車両制御における制約として使用される。
【0086】
VMM機能370は、車両状態または運動推定1320を行う。すなわち、VMM機能370は、車両の連結における異なるユニットの位置、速度、加速度、ヨー運動、垂直力、及び連結角度を含む車両状態s(多くの場合に、ベクトル変数)を継続的に決定する。これは、車両100上に配置された種々のセンサ1310(多くの場合に、しかし、いつもとは限らないが、MSDと接続している)を使用して、車両状態及び挙動をモニタリングすることによって行う。
【0087】
運動推定1320の結果、すなわち、推定された車両状態sは、大域的力生成モジュール1330に入力される。大域的力生成モジュール1330は、TSM機能380からの運動要求を満たすために生成する必要がある車両ユニットに対する必要な大域的力を決定する。MSD連携機能1340は、たとえば車輪力を割り当て、操舵及びサスペンションなどの他のMSDを連携する。そして、連携されたMSDは共に、車両100の連結による所望の運動を得るために、車両ユニットに対する所望の横方向Fy及び縦方向Fx力、ならびに必要なモーメントMzを提供する。図13に示すように、MSD連携機能1340は、車輪スリップλ、車輪回転速度ω、及び/または操舵角δのうちのいずれかを、異なるMSDに出力してもよい。
【0088】
前述した車輪スリップバランシング技術は、ここでは、MSD連携機能と相互作用するスリップバランス最適化機能1350において実現される。スリップバランス最適化機能は、たとえば、図11または図12に関連して前述した原理に従って動作してもよく、当然のことながら、他の実施態様も可能である。MSD連携機能1340は、所望の車輪スリップバランス、またはスリップバランス最適化モジュールによって少なくとも部分的に決定される車輪スリップ分割を考慮しながら、異なるMSDに力を割り当てる。スリップバランス最適化モジュールからの入力は、MSD連携機能において、最適化手順全体において考慮すべきさらなる制約として、または前提条件として使用してもよい。
【0089】
MSD連携機能1340は、比較的単純な連携機能であってもよく、たとえば、自己動力式トレーラー車両ユニットまたは自己動力式ドーリー車両ユニットによって生成すべき所望の総縦方向の力を、車両ユニットの2つ以上の車軸または連結車両コンビネーションの2つ以上の車軸にわたって分割すべきであることに留意されたい。そして、スリップバランシング機能1350からの入力を、さらなる最適化なしで、そのまま実施してもよく、すなわち、所望の力の合計を、スリップバランス最適化機能1350から取得された分割決定に基づいて、及び所望の縦方向車輪力を等しい車輪スリップ値(または車両対地速度を考慮した後で決定された車輪速度値)に変換するために使用されるタイヤモデルに基づいて、2つ以上の駆動車軸にわたって分割する。
【0090】
注目すべきは、スリップバランス最適化1350が、車両ユニットごとに別個に、または連結車両全体に対して共同で、車輪スリップ分割を決定し得ることである。
【0091】
図14は、前述の考察を要約した方法を例示するフローチャートである。本方法は、第1及び第2の電気機械EM装置EM1、EM2を含む大型の車両100の運動を制御するように構成された車両制御ユニット130、140において行われるように設計されている。第1のEM装置は、第2のEM装置と比較して異なる効率特性を有する。また、前述したように、車両制御ユニット130、140は、第1及び第2のEM装置EM1、EM2を、それぞれのEM制御ユニットに車輪スリップ要求を送信することによって制御するように構成されている。
【0092】
本方法は、第1及び第2のEM装置によって共同で生成されるべき所望の総縦方向の力Fxを取得すること(S1)と、
第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力F1に対応する所望の第1の車輪スリップλと、第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力F2に対応する所望の第2の車輪スリップλとを決定すること(S2)であって、第1の縦方向の力F1と第2の縦方向の力F2との和は所望の総縦方向の力Fxに対応する、決定すること(S2)と、
第1及び第2のEM装置EM1、EM2のそれぞれの効率特性に基づいて、第2の車輪スリップλの大きさに対して第1の車輪スリップλの大きさをバランスさせること(S3)と、を含む。
【0093】
図15は、VUC130、140のうちのいずれかなど、本明細書の説明の実施形態による制御ユニット130、140のコンポーネントを、いくつかの機能ユニットに関して概略的に例示する。この制御ユニット130、140は、連結車両1に含まれていてもよい。処理回路1510が、たとえば記憶媒体1530の形態のコンピュータープログラム製品に記憶されたソフトウェア命令を実行することができる、好適な中央処理ユニットCPU、マルチプロセッサ、マイクロ制御装置、デジタル信号プロセッサDSPなどのうちの1つ以上の任意の組み合わせを使用して、提供される。処理回路1510はさらに、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC、またはフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとして提供してもよい。
【0094】
特に、処理回路1510は、制御ユニット130、140に、図14に関連して説明した方法などの一連の動作またはステップを実行させるように構成されている。たとえば、記憶媒体1530は一連の動作を記憶してもよく、処理回路1510は、記憶媒体1530から一連の動作を取り出して、制御ユニット130、140に一連の動作を実行させるように構成してもよい。一連の動作は、実行可能命令のセットとして提供してもよい。したがって、処理回路1510は、それによって、本明細書で開示した方法を実行するように構成されている。
【0095】
また記憶媒体1530には永続記憶装置が含まれていてもよい。これは、たとえば磁気メモリ、光メモリ、ソリッドステートメモリ、またはさらに遠隔に取り付けられたメモリのうちの任意の単一のものまたは組み合わせとすることができる。
【0096】
制御ユニット130、140はさらに、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインターフェース1520を含んでいてもよい。したがって、インターフェース1520は、アナログ及びデジタルコンポーネントと、好適な数の有線または無線通信用ポートとを含む1つ以上の送信機及び受信機を含んでいてもよい。
【0097】
処理回路1510は、制御ユニット130、140の一般的な動作を制御する。これは、たとえば、データ及び制御信号をインターフェース1520及び記憶媒体1530に送ることと、データ及びレポートをインターフェース1520から受け取ることと、データ及び命令を記憶媒体1530から取り出すことと、により行う。制御ノードの他のコンポーネントならびに関連する機能は、本明細書で提示した考え方を不明瞭にしないように省略する。
【0098】
図16に、コンピュータープログラムを保持するコンピューター可読媒体1610を例示する。コンピュータープログラムは、前記プログラム製品がコンピューター上で実行されたときに、図14に例示した方法を行うためのプログラムコード手段1620を含む。コンピューター可読媒体及びコード手段は全体として、コンピュータープログラム製品1600を構成してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2022-07-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の電気機械(EM)装置(EM1、EM2)を含む大型の車両(100)の運動を制御するために構成された車両制御ユニット(130、140)であって、前記第1のEM装置は、前記第2のEM装置と比較して異なる効率特性を有し、
前記車両制御ユニット(130、140)は、それぞれのEM制御ユニットに車輪スリップ要求を送信することによって、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)を制御するように構成され、
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1及び第2のEM装置によって共同で生成されるべき所望の総縦方向の力(Fx)を取得するように、かつ、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)のそれぞれの効率特性を取得するように構成され、
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力(F1)に対応する所望の第1の車輪スリップ(λ)と、前記第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力(F2)に対応する所望の第2の車輪スリップ(λ)とを決定するように構成され、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との和は、前記所望の総縦方向の力(Fx)と一致し、
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)の前記それぞれの効率特性に基づいて、第2の車輪スリップ(λ)の大きさに対して第1の車輪スリップ(λ)の大きさをバランスさせるように構成されている、車両制御ユニット(130、140)。
【請求項2】
前記第1のEM装置(EM1)は、前記第2のEM装置(EM2)と比較して異なる効率特性を、車両速度(Vx)の関数として有する、請求項1に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項3】
前記第1のEM装置(EM1)は、前記第2のEM装置(EM2)と比較して異なる効率特性を、印加されたトルクまたは車輪力の関数として有する、請求項1または2に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項4】
前記第1のEM装置(EM1)は、前記第2のEM装置(EM2)と比較して、異なるEM設計の1つ以上のEMを含み及び/または異なるギア比を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項5】
前記第1のEM装置(EM1)は、前記大型の車両(100)の第1の車両車軸に関連付けられ、前記第2のEM装置(EM2)は、前記大型の車両(100)の第2の車両車軸に関連付けられる、請求項1から4のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項6】
前記第1のEM装置(EM1)は、低い車両速度側おける効率に対して構成された始動性のEM装置であり、前記第2のEM装置(EM2)は、高い車両速度側における効率に対して構成されたクルーズモードのEM装置である、請求項1から5のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項7】
前記始動性のEM装置は、車両ユニットの後車軸(720、730)にパワー供給するように構成され、前記クルーズモードのEM装置は、車両ユニットの操舵軸(710)にパワー供給するように構成されている、請求項6に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項8】
前記制御ユニット(130、140)は、制御パラメータに関する前記それぞれのEM装置(EM1、EM2)の前記効率特性の相対勾配に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項9】
前記制御ユニットは、前記車両(100)の現在の状態において、前記第1のEM装置(EM1)の前記効率特性の前記勾配が、前記第2のEM装置(EM2)の前記効率特性の前記勾配よりも大きい場合には、前記第1の車輪スリップ(λ)を増加させ、前記車両(100)の前記現在の状態において、前記第1のEM装置(EM1)の前記効率特性の前記勾配が、前記第2のEM装置(EM2)の前記効率特性の前記勾配よりも小さい場合には、前記第1の車輪スリップ(λ)を減少させるように構成されている、請求項8に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項10】
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との間の大小関係と比較して、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)の相対的な電力消費(P1、P2)に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項11】
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1のEM装置(EM1)の前記電力消費と前記第2のEM装置(EM2)の前記電力消費との間の比が、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との間の対応する比よりも小さい場合には、前記第1の車輪スリップ(λ)を増加させ、前記第1のEM装置(EM1)の前記電力消費と前記第2のEM装置(EM2)の前記電力消費との間の前記比が、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との間の前記対応する比よりも大きい場合には、前記第1の車輪スリップ(λ)を減少させるように構成されている、請求項10に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項12】
前記制御ユニット(130、140)は、車両速度によってパラメータ化された所定のバランシング関数に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から11のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項13】
前記制御ユニット(130、140)は、前記総縦方向の力(Fx)によってパラメータ化された所定のバランシング関数に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から12のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項14】
前記送信された車輪スリップ要求は、以下によって与えられる目標の縦方向車輪スリップを含み、
【数1】
ここで、Rは有効車輪半径(メートル)であり、ωは前記車輪の前記角速度であり、vは地上に対する前記車輪の縦方向速度である、請求項1から13のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項15】
前記送信された車輪スリップ要求は、目標の縦方向車輪スリップλを取得するために地上に対する前記車輪の縦方向速度vに関連して前記制御ユニット(130、140)によって決定される、前記車輪の目標の角速度(ω)を含む、請求項1~13のいずれかに記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項16】
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1の車輪スリップ(λ)及び前記第2の車輪スリップ(λ)から生じる推定されるタイヤ摩耗またはタイヤ摩耗率に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から15のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項17】
前記制御ユニット(130、140)は、前記第1のEM装置(EM1)及び前記第2のEM装置(EM2)に関連付けられる車軸に対するそれぞれの垂直荷重に基づいて、前記第2の車輪スリップ(λ)の前記大きさに対して、前記第1の車輪スリップ(λ)の前記大きさをバランスさせるように構成されている、請求項1から16のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(130、140)を含む大型の車両(100、110、120)。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の車両制御ユニット(140)を含む、自己動力式トレーラー(120、130)または自己動力式ドーリー車両ユニット(140)などの被牽引車両ユニットであって、
前記被牽引車両ユニットは第1の車軸及び第2の車軸を含み、前記第1の車軸は前記第1のEM装置(EM1)によって駆動されるように構成され、前記第2の車軸は前記第2のEM装置(EM1)によって駆動されるように構成されている、前記被牽引車両ユニット。
【請求項20】
第1及び第2の電気機械(EM)装置(EM1、EM2)を含む大型の車両(100)の運動を制御するために構成された車両制御ユニット(130、140)において行われる方法であって、
前記第1のEM装置は、前記第2のEM装置と比較して異なる効率特性を有し、
前記車両制御ユニット(130、140)は、それぞれのEM制御ユニットに車輪スリップ要求を送信することによって、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)を制御するように構成され、
前記方法は、
前記第1及び第2のEM装置によって共同で生成されるべき所望の総縦方向の力(Fx)を取得し、前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)のそれぞれの効率特性を取得すること(S1)と、
前記第1のEM装置によって生成される第1の縦方向の力(F1)に対応する所望の第1の車輪スリップ(λ)と、前記第2のEM装置によって生成される第2の縦方向の力(F2)に対応する所望の第2の車輪スリップ(λ)とを決定すること(S2)であって、前記第1の縦方向の力(F1)と前記第2の縦方向の力(F2)との和は前記所望の総縦方向の力(Fx)に対応するようにして、決定すること(S2)と、
前記第1及び前記第2のEM装置(EM1、EM2)の前記それぞれの効率特性に基づいて、第2の車輪スリップ(λ)の大きさに対して第1の車輪スリップ(λ)の大きさをバランスさせること(S3)と、を含む、方法。
【請求項21】
プログラムコード手段(1620)を含むコンピュータープログラムであって、前記プログラムコード手段(1620)は、前記プログラムがコンピューター上で実行されたときに請求項20に記載の前記ステップを行うためのものである、コンピュータープログラム。
【請求項22】
コンピュータープログラムを保持するコンピューター可読媒体(1610)であって、前記コンピュータープログラムは、前記プログラム製品がコンピューター上で実行されたときに請求項20に記載の前記ステップを行うためのプログラムコード手段を含む、コンピューター可読媒体(1610)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
US2010222953に、所与の車両状態に対して共同推進システム効率を最大限に利用するために、複数の電気機械/車軸にわたってトルクを分配するための方法が開示されている。共同推進システム効率は、ここでは、要求トルク、車輪スリップ、及び車両速度の関数として定式化される。
US2016009197にも、電気自動車に対する駆動システムが開示されている。

【国際調査報告】