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特表2024-522529二段階の微粒子に基づく改良型局所的治療剤送達システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】二段階の微粒子に基づく改良型局所的治療剤送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20240614BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240614BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240614BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240614BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240614BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240614BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20240614BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240614BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K47/36
A61P17/00
A61P35/00
A61P29/00
A61P37/02
A61P37/08
A61P17/06
A61K9/14
A61K47/02
A61K45/00
A61K33/24
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/26
A61K31/282
A61K47/32
A61K47/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574218
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 US2022031790
(87)【国際公開番号】W WO2022256417
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/195,469
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522266531
【氏名又は名称】プリボ テクノロジーズ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】マニジェー エヌ.ゴールドバーグ
(72)【発明者】
【氏名】アーロン エム.マンジー
(72)【発明者】
【氏名】エリック アール.ゴールドバーグ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076BB22
4C076BB31
4C076CC27
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD38
4C076DD67
4C076EE09
4C076EE24
4C076EE32
4C076EE37
4C084AA17
4C084NA13
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA12
4C086HA28
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA41
4C086MA57
4C086MA63
4C086NA13
4C086ZA89
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA61
4C206MA77
4C206MA83
4C206NA13
4C206ZA89
4C206ZB26
(57)【要約】
患者の粘膜組織内の部位または皮膚に治療剤を送達するシステムを開示する。このシステムは、一価陽イオンの塩化物塩の水性塩溶液中にキトサンを含む組成物によって形成された多孔質の粘膜接着性凍結乾燥母材を含む。このシステムはさらに、500 nm~2000 nmの平均径を有しかつ治療剤を含む複数のキトサン微粒子を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンを含むポリマー母材および複数の微粒子を含むシステムであって、
前記微粒子はそれぞれ、キトサン、前記ポリマー母材の約10~約18%(重量/重量)の濃度を有する一価陽イオンの塩化物塩、および治療剤を含み、
前記微粒子は、平均径が500 nm~2000 nmである、システム。
【請求項2】
前記ポリマー母材は、多孔質で粘膜接着性の凍結乾燥ポリマー母材である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記キトサンの分子量は、約25 kDa~1000 kDaである、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記キトサンの分子量は、約25 kDa~500 kDaである、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記キトサンの分子量は、約80 kDa~200 kDaである、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記一価陽イオンの塩化物塩は、NaCl、KCl、LiCl、RbCl、CsCl、NH4Cl、またはそれらの組合せである、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項7】
前記一価陽イオンの塩化物塩はNaClである、請求項1または6に記載のシステム。
【請求項8】
前記一価陽イオンの塩化物塩は、NaClでありかつ前記ポリマー母材の約18%(重量/重量)の量で前記ポリマー母材中に存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記治療剤は抗腫瘍剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記治療剤はシスプラチンを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記ポリマー母材はさらに水和促進剤を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記水和促進剤は、エチレングリコール、プロピレングリコール、β-プロピレングリコール、グリセロール、またはそれらの組合せである、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記プロピレングリコールは、約5~約25%(重量/重量)の量で前記ポリマー母材中に存在する、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記プロピレングリコールは、約7.75%(重量/重量)の量で存在する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記ポリマー母材はさらに粒子接着阻害剤を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記粒子接着阻害剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、約0.1~約10%(重量/重量)の量で前記ポリマー母材中に存在する、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、約3.7%(重量/重量)の量で前記ポリマー母材中に存在する、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記ポリマー母材はさらに粒子凝集阻害剤を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記粒子凝集阻害剤は、約0.1~約30%(重量/重量)の量で存在する、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記粒子凝集阻害剤は、単糖、二糖、糖アルコール、塩素化単糖、塩素化二糖、またはそれらの組合せである、請求項19または20に記載のシステム。
【請求項22】
前記粒子凝集阻害剤はスクラロースである、請求項19~21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
前記スクラロースは、約0.1~約30%(重量/重量)の量で前記ポリマー母材中に存在する、請求項19~22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
前記スクラロースは、約22.25%(重量/重量)の量で前記ポリマー母材中に存在する、請求項22または23に記載のシステム。
【請求項25】
前記ポリマー母材はさらに、前記システム中の前記治療剤の総量の約20~約80%の量で遊離量の前記治療剤を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項26】
前記微粒子は、前記ポリマー母材によって直接包囲されかつ前記ポリマー母材と接触するように前記母材内に埋め込まれている、請求項1~25のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項27】
前記微粒子は、約10~約40%(重量/重量)の量で前記ポリマー母材中に存在する、請求項1~26のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項28】
前記白金抗腫瘍剤は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、サトラプラチン、またはそれらの組合せを含む、請求項1~27のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項29】
前記白金抗腫瘍剤はシスプラチンを含む、請求項1~28のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項30】
約1~約50%(重量/重量)のシスプラチンを含む、請求項1~29のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項31】
約22.5%(重量/重量)のシスプラチンを含む、請求項1~30のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項32】
前記微粒子はさらにトリポリリン酸ナトリウムを含む、請求項1~31のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項33】
約0.1~約10%(重量/重量)のトリポリリン酸ナトリウムを含む、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
約3.0重量%のトリポリリン酸ナトリウムを含む、請求項32または33に記載のシステム。
【請求項35】
前記ポリマー母材は、
約20~約30%(重量/重量)の量のキトサン;
約20~約30%(重量/重量)量のシスプラチン;
約10~約18%(重量/重量)の量のNaCl;
約5~約25%(重量/重量)の量のプロピレングリコール;
約0.1~約10%(重量/重量)の量のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);
約0.1~約30%(重量/重量)の量のスクラロース;および
約10~約40%(重量/重量)の量の微粒子を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項36】
前記ポリマー母材は、
約22.5%(重量/重量)の量のキトサン;
約22.5%(重量/重量)の量のシスプラチン;
前記ポリマー母材の約18%(重量/重量)の量のNaCl;
約7.75%(重量/重量)の量のプロピレングリコール;
約3.7%(重量/重量)の量のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);および
約22.25%(重量/重量)の量のスクラロースを含む、請求項1~35のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項37】
前記ポリマー母材は、対向する第1の表面および第2の表面を有し、前記システムはさらに、前記ポリマー母材の前記第1の表面に貼付けられた透水性裏打ち層を含む、請求項1~36のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項38】
前記第2の表面は、ポリアクリラート接着剤、ポリエステル不織布、またはそれらの組合せを含む、請求項1~37のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項39】
治療を必要とする対象に治療剤を投与する方法であって、
請求項1~38のいずれか一項に記載のシステムを、前記システムの少なくとも50%の治療剤が30分未満内に前記システムから放出されるように貼付ける工程を含む、方法。
【請求項40】
前記システムは前記対象の粘膜に貼付けられる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記システムは前記対象の口腔に貼付けられる、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記システムは前記対象の皮膚に貼付けられる、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記システムの少なくとも75%の治療剤が30分未満内に前記システムから放出される、請求項39~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記システムの少なくとも90%の治療剤が30分未満内に前記システムから放出される、請求項39~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記システムの少なくとも90%の治療剤が15分未満内に前記システムから放出される、請求項39~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
請求項1~38のいずれか一項に記載のシステムを調製する方法であって、
水、キトサン、塩化物塩、水和促進剤、粒子接着阻害剤、および粒子凝集阻害剤を含む第1の混合物を形成して母材混合物を調製する工程;
前記母材混合物、第1の白金抗腫瘍剤、および第2の白金抗腫瘍剤を含むキトサン微粒子を含む第2の混合物を形成する工程;
前記第2の混合物から水を除去して乾燥混合物を調製する工程;および
前記乾燥混合物を裏打ち層に貼付けて、それによってシステムを調製する工程を含む、方法。
【請求項47】
水、キトサン、塩化物塩、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびスクラロースを含む前記第1の混合物を形成して前記母材混合物を調製する工程;
前記母材混合物、シスプラチン、ならびにキトサン、シスプラチン、およびトリポリリン酸ナトリウムを含む前記キトサン微粒子を含む前記第2の混合物を形成する工程;
前記第2の混合物から水を除去して前記乾燥混合物を調製する工程;および
前記乾燥混合物を前記裏打ち層に貼付けて、それによって請求項1~38のいずれか一項に記載のシステムを調製する工程を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
請求項1~38のいずれか一項に記載のシステムを調製する方法であって、
水、キトサン、および酢酸を含む第1の混合物を形成する工程;
塩化物塩、治療剤、およびトリポリリン酸ナトリウムを含む第2の混合物を形成する工程;
前記第1の混合物と前記第2の混合物を含む第3の混合物を形成して、それによって微粒子を形成する工程;
水、キトサン、酢酸、水和促進剤、および粒子接着阻害剤を含む第4の混合物を形成する工程;
前記第4の混合物、粒子凝集阻害剤、および前記微粒子を含む第5の混合物を形成して前記ポリマー母材を形成する工程;
前記ポリマー母材から水を除去して乾燥混合物を調製する工程;および
前記乾燥混合物を裏打ち層に貼付けて、それによって請求項1~38のいずれか一項に記載のシステムを調製する工程を含む、方法。
【請求項49】
水、キトサン、および酢酸を含む前記第1の混合物を形成する工程;
塩化ナトリウム、シスプラチン、およびトリポリリン酸ナトリウムを含む前記第2の混合物を形成する工程;
前記第1の混合物と前記第2の混合物を含む前記第3の混合物を形成して、それによって前記微粒子を形成する工程;
水、キトサン、酢酸、プロピレングリコール、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む前記第4の混合物を形成する工程;
前記第4の混合物、スクラロース、および前記微粒子を含む前記第5の混合物を形成して前記ポリマー母材を形成する工程;
前記ポリマー母材から水を除去して前記乾燥混合物を調製する工程;および
前記乾燥混合物を前記裏打ち層に貼付けて、それによって前記システムを調製する工程を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
治療を必要とする対象の皮膚疾患を治療する方法であって、
請求項1~38のいずれか一項に記載のシステムを、前記システムの治療有効量の治療剤が前記システムから放出されて前記対象の皮膚に投与されるように、前記対象の皮膚に貼付けて、それによって前記皮膚疾患を治療する工程を含む、方法。
【請求項51】
少なくとも50%の前記治療剤が30分未満内に前記システムから放出される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記皮膚疾患は、皮膚がん、炎症性皮膚疾患、自己免疫性皮膚疾患、座瘡、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、湿疹、膿痂疹、発疹、乾癬、尋常性乾癬、またはベーチェット病である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記皮膚疾患は、基底細胞がん、扁平上皮がん、または黒色腫である、請求項50~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記皮膚疾患は炎症性皮膚疾患である、請求項50~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記皮膚疾患は自己免疫性皮膚疾患である、請求項50~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
粘膜がんの治療方法であって、
請求項1~38のいずれか一項に記載の前記システムをそれを必要とする対象の前記粘膜がんに貼付けて、それによって前記粘膜がんを治療する工程を含む、方法。
【請求項57】
前記粘膜がんは、口腔がん、肛門がん、または大腸がんである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
請求項36に記載の前記システムを、それを必要とする前記対象の口腔内の腫瘍に貼付ける工程を含む、請求項56に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許の相互参照
本出願は、2021年6月1日に出願された米国仮特許出願第63/195,469号に対する優先権を主張し、その全体が参照により全ての目的のために本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
身体の粘膜に悪影響を及ぼす癌には、公衆衛生上の懸念が高まっている。口腔がんだけでも、世界中で年間640,000人以上、米国では40,000人以上の人々が影響を受けている。その発生率は、癌の原因となる口腔内HPVによる病気の増加により上昇しつつある。治療方法には、手術および静脈内投与される全身化学療法が挙げられ、多くの場合はその組合せが含まれる。手術は、口腔腫瘍を包囲する縁部を特定するのが困難なために、多く場合に効果が得られない。この手術による腫瘍の完全な除去が不可能なことが、口腔がんの高い再発率に関与している。全身化学療法は頻繁に用いられるものの、標的化できずに、患者の全身を有害な化学療法に曝すことになる。この方法は、血流や他の臓器内での曝露のために用量が制限を受ける可能性があり、この全身暴露の安全性を考慮して予防策を講じる必要がある。全身への送達は、身体と反応する毒性薬からの有害な副作用をもたらす場合が多い。これらの副作用には、神経毒性、腎毒性、腎不全、脱毛、吐き気、粘膜炎が挙げられる。
【0003】
さらに口腔がんは、最も衰弱を引き起こす病気の一つである。口腔腫瘍の外科的切除後には、永久的な外観損傷を発生させる可能性がある。手術後の食べる、飲む、適切に話すための患者の能力もまた障害を受ける、あるいは不可能になる可能性がある。これらの理由の一部として、口腔がんは治療するのに最も費用を要する癌と考えられる。
【0004】
感情面での副作用はまた、他の癌および疾患と比較して、口腔がんの特に悲劇的でかつ衰弱を引き起こす影響を物語っている。口腔がん患者での感情的な犠牲は、主に治療に起因する(身体の外観や明確な言語の欠如を含む)身体的変形のために、他の疾患での感情的な犠牲よりも遥かに大きい可能性がある。口腔がんに対する従来からの治療法でのこれらの帰結は、この未達の必要性および患者の苦痛に対処するために代替治療法が不可避的に必要とされる理由を示している。
【0005】
肛門がんは、米国での全ての消化器系の悪性腫瘍の2.5%を占めており、年間に約8,000件の新規の症例が診断されている。一般住民での肛門がんの発生率は、過去30年間に亘って増加している。さらに大腸がん(CRC)は、ありふれたかつ致死性の疾患である。約95,270件の結腸がんおよび39,220件の直腸がんを含み、米国では毎年約134,490件の大腸がんの新規の症例が診断されていると見積られる。この癌は依然、米国では癌による死亡の3番目に多い原因である。約49,190人の米国人が、毎年大腸がんで死亡すると予測される。
【0006】
大腸がんと肛門がんの違いの一つは、それぞれの誘因となる危険因子にある。大腸がんの主な危険因子には、年齢、遺伝、人種、糖尿病、肥満、運動の欠如、喫煙が含まれる。一方、肛門がんの主な原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の有病率の増大にある。
【0007】
これらの癌、すなわち口腔がん、大腸がん、および肛門がんは全て、広範囲にわたる抗腫瘍活性を備える白金含有薬剤であるシスプラチンにより治療できる。この薬剤はアルキル化剤であり、精巣、卵巣、膀胱、および上皮の悪性腫瘍、ならびに食道、肺、および頭頸部の癌などの固形腫瘍の治療に使用される。拡散により標的細胞中に侵入した後に、水が1つ以上の塩素原子で置換されると、それに正電荷を付与して、得られた正帯電した複合体がDNAと反応してDNAの複製を阻害する。但しこのシスプラチンの性質には、加水分解が起こり易いことがある。塩化ナトリウムを添加すると、シスプラチンの化学安定性を改善して、このリスクを軽減できる。シスプラチンを送達して口腔がん、肛門がん、大腸がんを治療する方法には改善が必要である。本発明は、この必要性さらにその他の必要性を満足するものである。
【発明の概要】
【0008】
一実施態様では、本発明は、粘膜組織の一部位にシスプラチンを送達するシステムを提供し、このシステムは、多孔質で粘膜接着性の凍結乾燥した、対向する第1の表面と第2の表面を備えるポリマー母材;および複数の微粒子を含み、前記母材は、一価の陽イオンの塩化物塩の水溶液中でキトサンを含む組成物によって形成され、前記塩化物塩の濃度は、約10重量%~18重量%であり、前記微粒子は、キトサンを含みかつ500 nm~2000 nmの平均径を有し、前記微粒子は、前記母材に直接包囲されるように、かつ前記母材と接触するように前記母材内に埋め込まれ、前記微粒子はシスプラチンを含有する。この実施態様では、(i)前記母材の第1の表面は、粘膜組織の部位に付着するように構成され;(ii)前記母材は、母材の第1の表面が粘膜組織の部位に付着されると、第1の表面を通して前記微粒子を徐放するように構成され;かつ(iii)前記微粒子は、シスプラチンを徐放するように構成されている。
【0009】
別の実施態様では、本発明は、キトサンを含むポリマー母材および複数の微粒子を含むシステムを提供し、これら微粒子はそれぞれ、キトサン、約10~18%(重量/重量)の一価陽イオンの塩化物塩、および治療剤を含み、これら微粒子の平均径は500 nm~2000 nmである。
【0010】
別の実施態様では、一価陽イオンの塩化物塩は、NaCl、KCl、LiCl、RbCl、CsCl、NH4Cl、およびそれらの組合せからなる群から選択される。必要に応じて、一価陽イオンの塩化物塩はNaClである。また必要に応じて、一価陽イオンの塩化物塩の水溶液には、約5重量%~約25重量%の濃度のプロピレングリコールが含まれる。さらに必要に応じて、一価陽イオンの塩化物塩の水溶液は、約0.1重量%~約10重量%の濃度でヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む。さらに別の関連の実施態様では、一価陽イオンの塩化物塩の水溶液は、約0.1重量%~約30重量%の濃度でスクラロースを含む。さらに関連の実施態様では、微粒子は母材中に約10~約40重量%の濃度で存在する。必要に応じて、システムにはさらに、母材に貼付けられる水透過性の裏打ち層が含まれる。
【0011】
別の実施態様では、本発明は、それを必要とする対象に治療剤を投与する方法を提供し、この方法は、システム中の少なくとも50%の治療剤が30分未満内にシステムから放出されるように、本発明のシステムを対象に貼付ける工程を含む。
【0012】
別の実施態様では、本発明は、本発明のシステムを調製する方法を提供し、この方法は、
水、キトサン、塩化物塩、水和促進剤、粒子接着阻害剤、および微粒子凝集阻害剤を含む第1の混合物を形成して、母材混合物を調製する工程;
前記母材混合物、第1の白金抗腫瘍剤、および第2の白金抗腫瘍剤を含むキトサン微粒子を含む第2の混合物を形成する工程;
前記第2の混合物から水を除去して乾燥混合物を調製する工程;および
前記乾燥混合物を裏打ち層に貼付けて、それによりシステムを調製する工程を含む。
【0013】
別の実施態様では、本発明は、本発明のシステムを調製する方法を提供し、この方法は、
水、キトサン、および酢酸を含む第1の混合物を形成する工程;
塩化物塩、治療剤、およびトリポリリン酸ナトリウムを含む第2の混合物を形成する工程;
前記第1の混合物と前記第2の混合物を含む第3の混合物を形成して、それによって微粒子を形成する工程;
水、キトサン、酢酸、水和促進剤、および粒子接着阻害剤を含む第4の混合物を形成する工程;
前記第4の混合物、粒子凝集阻害剤、および前記微粒子を含む第5の混合物を形成して、ポリマー母材を形成する工程;
ポリマー母材から水を除去して乾燥混合物を調製する工程;および
前記乾燥混合物を裏打ち層に貼付けて、それにより本発明のシステムを調製する工程を含む。
【0014】
別の実施態様では、本発明は、それを必要とする対象の皮膚疾患を治療する方法を提供し、この方法は、本発明のシステムを、前記システムの治療有効量の治療剤が前記システムから放出されかつ対象の皮膚に投与されるように対象の皮膚に貼付けて、それによって前記皮膚疾患を治療する工程を含む。
【0015】
別の実施態様では、本発明は粘膜がんを治療する方法を提供し、この方法は、本発明のシステムをそれを必要とする対象の粘膜がんに貼付けて、それによって前記粘膜がんを治療する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
実施態様の前述の特徴は、添付図面と関連付けて以下の詳細な説明を参照することによって理解がより容易になる。
【0017】
図1図1は、シスプラチンを含む溶液中の塩化ナトリウムの存在が、細胞の外側での早期の加水分解を回避することにより、抗癌治療剤としてのシスプラチンの安定性を改善することが、どのように従来技術で知られているのかを示す図である。安定なシスプラチンが細胞膜に入ると、次いで細胞内での加水分解により、上述のようなDNAの損傷や細胞壊死が可能になる。
【0018】
図2図2は、0%、5%、10%、12%、15%、18%、20%、22%、25%、28%、および30%の(印字された)それぞれの量の塩化ナトリウムの濃度で作製されたシスプラチン含有の当て布の写真であり、かつ高い濃度で生じた亀裂を示している。
【0019】
図3図3は、塩化ナトリウムの存在に起因する、シスプラチン含有の当て布の特性の変化を示す図であり、これら変化は得られた当て布の最適化を複雑にする。本発明の一実施態様では、製剤にNaClを添加すると、活性剤であるシスプラチンの化学安定性が改善された。但しこの変化は、乾燥後の当て布の物理的損傷の発生、局所的貼付に不適である当て布の剛性の増大、粒子の陽イオン表面電荷の低下、粘膜接着性および細胞の取込みの低下などのいくつかの課題および予想外の問題を引き起こした。
【0020】
図4図4は、0%~35%で変更するナトリウム濃度で作製された当て布の生体外での溶解特性を示す一組の図である。
【0021】
図5図5は、当て布内の0%および18%の塩化ナトリウムの濃度に基づいて組織に貼付けられた場合の当て布からの薬剤の放出率を示す一組の棒グラフである。放出量は、NaClの添加により無添加よりも多くかつ再現性が高くなった(18%のNaCl:92%の放出率、3.2%の標準偏差対0%のNaCl:65%の放出率、12%の標準偏差)。
【0022】
図6図6は、0%~35%の範囲の当て布内の種々の濃度のNaClについて得られた微粒子の電荷データを示す一組の棒グラフである。存在するNaClの量と電荷の低下の間には直線の傾向がある。
【0023】
図7図7は、18重量%の塩化ナトリウムを含む当て布と塩化ナトリウムを含まない当て布で治療した腫瘍およびリンパ節を比較する生体分布データを示す2種の棒グラフを示す。
【0024】
図8図8Aおよび8Bは、頬粘膜への当て布の貼付を示している。図8Aは、頬粘膜への当て布の貼付を示す写真であり、図8Bは、舌前部の2/3の粘膜病変への当て布の貼付を示す写真である。
【0025】
図9図9は、18%のNaClを含む当て布の使用およびNaClを含まない当て布の使用について、時間の関数として腫瘍体積低下の百分率の2つのプロットを示す。NaClを含む当て布は、含まない当て布よりも迅速な反応および高い縮小率を示した。
【0026】
図10図10は、当て布10が、対向する第1の表面と第2の表面を有する層12、およびそれら表面の一方に隣接する裏打ち層14を含むことを示す。
【0027】
図11図11は、僅か1週間ではあるが患者の治療を示す。これはT4腫瘍患者であった。手順に従って、2枚の当て布をそれぞれの貼付で腫瘍の被覆を試みるように用いた。この治療により、前後の写真に示されるように、腫瘍の体積が50%超縮小した。
【0028】
図12図12A~Cは、週に3回の外来治療中に適切な当て布で中程度の乾癬を治療するナノ技術を用いたヒトのデータを示す。図12Aは未治療の患者を示す。図12Bは、3回の治療後の患者を示す。図12Cは、6回の治療後の患者を示す。
【0029】
図13図13は、本発明のシステムからのカルボプラチン粒子の放出率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
I.概要
本開示は、約18重量%の塩化ナトリウムを含む当て布から送達される治療剤を用いる皮膚疾患および粘膜がんの治療のための当て布について説明する。
【0031】
II.定義
本説明および付随する特許請求の範囲に使用される以下の用語は、文脈で特段の要求がない限り、次の用語は、以下に示される意味を有するものとする。
【0032】
「組」には、少なくとも1つの構成要素が含まれる。
【0033】
「微粒子」は、平均径が少なくとも200 nm~最大2000 nmである粒子の組である。
【0034】
「ナノ粒子」は、平均径が少なくとも1 nm~200 nm未満である粒子の組である。
【0035】
「母材」とは、主に多糖ポリマーで構成されるポリマー母材を指す。母材は多孔質母材であってもよく、その体積の一部は間隙空間である。場合によっては、母材の外面から間隙空間を通過可能であるので、微粒子などの間隙空間に存在する物質は外面へかつ外面から移動できる。
【0036】
「粘膜接着性」とは、人体内の粘膜接着する能力を有すると特徴付けられる材料を指す。
【0037】
「キトサン」とは、平均分子量が約3.8~20 kDaである、β-1,4-d-グルコサミンとN-アセチル-D-グルコサミンの多糖体を指す。「純キトサン」は、キトサンの塩ではないキトサンである。
【0038】
「塩化物塩」とは、塩化物陰イオンを有する有機塩または無機塩を指す。代表的な塩化物塩には、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムが含まれる。
【0039】
「一価陽イオン」とは、1つの共有結合を形成できる原子価を備える正帯電したイオンを指す。例として、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)、アンモニウム、四級アンモニウムなどが挙げられる。
【0040】
「水和促進剤」とは、水分吸収を増大させる添加剤を指し、製造プロセス中に凍結保護剤として作用する。
【0041】
「粒子接着阻害剤」とは、ポリマー母材とそこに埋め込まれた粒子の間の引力を低下させる添加物を指す。結果として、粒子は、接着阻害剤が無い場合よりも高速度で母材を通過できる。
【0042】
本明細書で使用される「多分散性指数」(PDI)または単に「分散」は、混合物中の粒子のサイズの不均一性の尺度を指す。PDIは、ナノ粒子のサイズ分散を測定する。
【0043】
本明細書で使用される「ζ電位」(ZP)は、特定の媒体中で粒子が獲得し、かつゼータサイザーナノ機器で測定できる全体の電荷を指す。
【0044】
「粒子径」は、粒子の表面上の2つの点の間の最長軸の長さである。
【0045】
「生体適合性」とは、その療法の受容者または受益者に顕著に望ましくない局所的または全身的な影響を誘発することはないが、その特定の状況での最も適切な受益細胞応答および組織応答を生成する、かつその療法の臨床的に関連する性能を最適化する医学療法に関してその望ましい機能を実行する生体材料の能力を指す。
【0046】
「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」(HPMC)は、以下の構造で表される非イオン性ポリマーを指す。
【化1】
【0047】
「生分解性」とは、生物の行動によって特に無害な生成物に分解できる材料の特性を指す。
【0048】
本発明の実施態様の文脈での「組織」とは、腹部、骨盤、腹腔内腔、および/またはその他の腹腔内表面などの領域内に存在する臓器、上皮、粘膜、または他の組織を指す。
【0049】
「外科的空洞」とは、組織の外科切除に起因する空洞、開口部、部位、または組織表面を指す。
【0050】
当て布からの放出に関連する「迅速」、「迅速な放出」、または「迅速な送達」とは、約20分以内に当て布の有効担持量の20%~100%の放出を指す。
【0051】
「キロカウント/秒」すなわち「Kcps」は、(数千カウント/秒である)計数率を意味する。例えば閾値を、試料の計数率が100未満である場合に、すなわち試料の濃度が測定には低すぎる場合に、測定を中止するように設定できる。適切なKcpsを備える試料は、測定に許容可能な濃度を有する安定な試料と見做すことができる。
【0052】
「メッシュ」とは、粘膜に貼付けられる場合にメッシュから放出されるように、その内部に組み込まれた要素を含む素子、スポンジ、ウェハーなどの製品を指す。
【0053】
「ポリマー母材と微粒子に基づく治療剤の送達システム」はまた、「薬剤送達素子」または「送達当て布」と呼ばれる場合がある。
【0054】
別段の指定のない限り、用語「重量%」または「%(重量/重量)」は、重量での比率で表されるように、治療剤の送達のためのシステムの成分の量を指す。
【0055】
別段の指定のない限り、ポリマーの「モル質量」は、ポリマー分子の数平均モル質量を意味することを意図する。
【0056】
「粒子凝集阻害剤」とは、母材が凍結された際に母材中に埋め込まれた粒子の凝集の傾向を低下させる添加剤を指す。結果として、凍結が起こる際に、粒子が損傷や破壊を受ける可能性が低くなる。
【0057】
「単糖」とは、より複雑な形態の糖の構築要素を構成する最も単純な糖を指す。代表的な化合物として、ブドウ糖、果糖、およびガラクトースが挙げられる。
【0058】
「二糖」とは、グリコシド結合によって結合された2つの単糖を含む糖化合物を指す。代表性化合物として、ショ糖、乳糖、および麦芽糖が挙げられる。
【0059】
「糖アルコール」とは、糖化合物のアルコールへの還元によって生成される化合物を指す。
【0060】
「塩素化単糖」とは、少なくとも1つの塩素原子によって置換された単糖化合物を指す。
【0061】
「塩素化二糖」とは、少なくとも1つの塩素原子によって置換された二糖化合物を指す。
【0062】
「スクラロース」とは、以下の構造で表される塩素化二糖を指す。
【化2】
【0063】
「母材中に埋め込まれる」とは、1つ以上の粒子が母材により直接包囲され、かつ母材に接触している1つ以上の粒子の状態または構造を指す。
【0064】
「~によって直接包囲され、かつ~に接触している」とは、1つ以上の粒子の最外層の全体が包囲材料と直接的に接触するように、別の物質または材料(例えば母材)で封入されたまたは閉じ込められた1つ以上の粒子の状態または構造を指す。
【0065】
「トリポリリン酸ナトリウム」とは、以下の構造で表される化合物を指す。
【化3】
【0066】
「水透過性の裏張り層」とは、水の通過に透過性のある、あるいは少なくとも実質的に透過性のある材料を指す。
【0067】
「表面」とは、粒子の最外側の部分と見做される粒子上の特定の領域または部位を指す。表面は、粒子がその周囲と相互作用できる反応性部位または反応性種を含む領域または部位を指してもよい。粒子の表面はまた、最外層の下部にある、または最外層によって包囲された1つ以上の層に対する障壁として機能する場合がある。
【0068】
「ポリアクリラート接着剤」とは、ポリアクリラート(アクリルポリマー)から作製された接着材料、例えばモノマーエステル(アクリル酸やメタアクリル酸など)から作製された接着材料を指す。ポリアクリル酸系の接着剤の例は、以下のようなNational Starch社によって製造された製品番号:87-4098、87-2287、87- 4287、87-2516、87-2051、87-2052、87-2054、87-2196、87-9259、87-9261、87-2979、87-2510、87-2353、87-2100、87-2852、 87-2074、87-2258、87-9085、87-9301、および87-5298として特定される(Product Bulletin, 2000, DURO-TAK.RTM.は、National Starch社の接着剤の商標である)。
【0069】
「不織ポリエステル生地」とは、ポリエステルの繊維の寄せ集めから製造された繊維を指す。繊維は、通常は互いに結合されていても結合されていなくてもよく、かつ短繊維または連続繊維であってもよい。
【0070】
「治療する」、「治療すること」、および「治療」とは、症状の軽減;寛解;低減または症状、傷害、病理、または病状を患者にとって許容可能とすること;症状または病状の頻度または期間の低減;あるいは状況によっては症状の発症の予防などの客観的または主観的なパラメータを含む、傷害、病理、病態、または症状(例えば疼痛)の治療または改善での成功のいずれかの兆候を指す。
【0071】
「粘膜組織」とは、関連の粘膜を有する組織を指す。特に粘膜組織には、粘膜および粘膜の根底にある組織も含む。例えば癌性腫瘍が存在する「粘膜組織の部位」は、粘膜だけでなく粘膜の根底にある組織もまた関与する可能性がある。代表的な粘膜組織として、口腔が挙げられる。
【0072】
「粘膜がん」とは、粘膜細胞の癌を指し、口腔がん、鼻咽頭がん、舌がん、胃腸がん、大腸がん、肛門がん、および喉頭がんを含む。
【0073】
「腫瘍」とは、悪性または良性に拘わらず、全ての腫瘍性細胞の成長および増殖、ならびに全ての前癌性および癌性の細胞および組織を指す。本明細書に使用される「新生物」は、悪性または良性に拘わらず、あらゆる形態の調節不全または規制不全の細胞の成長を指し、異常な組織の成長をもたらす。従って、「新生細胞」には、調節不全または規制不全の細胞成長を伴う悪性細胞および良性細胞が含まれる。
【0074】
「治療に有効な量または用量」あるいは「治療に十分な量または用量」あるいは「有効または十分な量または用量」は、それが投与される治療効果を生み出す用量を指す。正確な用量は、治療の目的に依存して、既知の技術を用いる当業者には認識可能である(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms「医薬剤形」(vols. 1-3, 1992);Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding「医薬品調合の化学と技術」(1999);Pickar, Dosage Calculations「投与量の計算」(1999);およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition,「調剤の化学と実際、第20版」2003, Gennaro, Ed., Lippincott, Williams & Wilkinsを参照)。感作細胞での治療有効用量は、非感作細胞での従来からの治療有効用量よりも低くなる場合が多い。
【0075】
「対象」または「患者」は、限定はされないが、霊長類(例えばヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなどを含む哺乳類などの動物を指す。特定の実施態様では、対象はヒトである。
【0076】
「治療剤」とは、皮膚疾患などの疾患や障害を治療するのに有用かつ有効な化合物、ペプチド、抗体、または細胞を指す。
【0077】
「放出する」、「放出された」または「放出すること」とは、本発明の当て布から対象または患者への治療剤の移動を指す。
【0078】
「皮膚病」とは、主に対象の皮膚に現れる病気または疾患を指す。
【0079】
「粘膜がん」とは、限定はされないが、口腔、膣、および直腸などの主に粘膜に出現する癌を指す。
【0080】
III.システム
本発明の素子またはシステムには、治療剤、予防剤、診断剤、または栄養補助剤をその中に分散させたあるいは封入するポリマーからなる薬剤封入粒子が含まれる。必要に応じて、粒子には化学リンカーを含んでもよく、化学リンカーは、標的リガンドおよび/または追加の薬剤を粒子に結合できる。この素子は、これらの粒子ならびに好ましくは透過促進剤を含む。
【0081】
この素子またはシステムは、錠剤、カプセル、液体、シロップ、ゼラチン、または他の経口消耗品を介して、あるいは嚥下が不可能な人には経鼻胃管または栄養補給管を介して経口投与でき、かつ粒子中に封入された薬剤が胃の変動する酸性環境でも安定な状態を維持できる特性を示す。この素子は、胃腸(GI)経路内の上皮細胞に薬剤封入粒子(「担持粒子」、「LPS」とも呼ばれる)を送達できる。これら粒子は、腸粘膜に付着しかつ分解して、封入薬剤を直接に腸上皮内に放出できる。
【0082】
(好ましくは平均径が500~2000 nmである)粒子は、腸の粘膜組織に浸透する。この径は、高担持量および(80%を超える)封入効率を得るのに十分な治療剤、診断剤、または栄養補助剤を移送するのに適切であり、これは規模拡大および商業化に望ましい。
【0083】
治療剤、診断剤、および/または栄養補助剤の封入により、標的リガンドの添加手段および徐放性特性によって、粘膜への制御された浸透が可能となる。さらに全身への浸透の場合には、封入はまた、身体の細網内皮系による取込みを低下させる。より小さな粒子は、表面積対容積の比率が大きく、大きな粒子よりも粒子の溶解速度が速くなる。
【0084】
多くの薬剤では、溶解度因子のために送達量が限られる。粒子の高い表面積対容積の比率は、生体接着性を高める。これらの因子を組み合わせると、薬剤が腸幹細胞(ISC)内に深く浸透することになり、より大きな利益が得られる。
【0085】
標的化には、局所的な送達を達成するために作動する3つの主要な側面が存在する。
1.帯電:この送達システムに含まれる粒子の合成には、正帯電したポリマーを使用してもよい。得られた素子は、腸の負帯電した粘膜に薬剤封入粒子を引き付ける正電荷を示す。
2.活性:活性を分子標的剤を用いて獲得して、腸幹細胞(ISC)にさらに焦点を当てる。
3.PH:本発明の組成物中の粒子を、変動するpH環境中で安定なままにするか、あるいは放出するかを変更できる。この決定は、合成工程中に実施される。胃の高い酸性環境中で薬剤をカプセルのまま保持し、かつ腸のより強い塩基性の環境で放出を促進する粒子を合成することにより、放出を標的化する。これらのパラメータを、より酸性側の環境またはその組合せでの放出を含むように変更してもよい。これらのパラメータをまた、胃と腸の両方で放出できるように変更してもよい。さらに種々の用量および種々の薬剤の組合せもまた可能である。図22Cは、pHが中性水準に近づくにつれて放出される粒子の例を示している。
【0086】
本開示は、当て布中に約18重量%の塩化ナトリウムを用いて安定にした白金抗腫瘍剤を用いる口腔がんの治療のための当て布について説明する。
【0087】
実施態様によっては、本発明は、キトサンを含むポリマー母材および複数の微粒子を含むシステムを提供し、これら微粒子はそれぞれ、キトサン、ポリマー母材の約10~18%(重量/重量)の濃度を有する一価陽イオンの塩化物塩、および治療剤を含み、これら微粒子の平均径は500 nm~2000 nmである。
【0088】
図10に示されるように、当て布10は、対向する第1の表面と第2の表面を有する層12、およびそれら表面の一方に隣接する裏打ち層14を含む。層12には、少なくとも1種の治療剤、およびキトサンを含む組成物を凍結乾燥により生成された多孔質で粘膜接着性のポリマー母材を含む。粒子16を母材内に埋め込む。粒子は、母材に直接包囲され、かつ母材に接触している。粒子は治療剤を含み、治療剤の周りに被膜を有し、この被膜は、粒子からの治療剤を徐放するようにキトサンを含む。治療剤のうちの一定量は、遊離形態の薬剤として母材中に直接埋め込まれてもよく、キトサンで被覆されない場合もある。代表的な例として、治療剤の遊離形態の量は、素子内の治療剤の総量の20~80%を構成する。裏打ち層14は、当て布中に存在する粒子、治療剤、または添加物などの1種以上の担持成分の通過に対して不浸透性であり、あるいは少なくとも実質的に不浸透性である。裏打ち層の材料の例として、ポリアクリラート接着剤および/または透明なアクリル膜を備えるあるいは備えない不織ポリエステル生地が挙げられる。
【0089】
実施態様によっては、当て布は、適切な組織との接触のために一方の側面が露出した状態で形成される。適切な組織と接触すると、1種以上の薬剤を含む粒子をこの側面から放出する。図8に示されるように、粒子(球形)は、当て布の本体内に保持される。当て布の本体は、主にキトサンからなる網状の材料である。実施態様によっては、外側の空間に面する他方の側面を、その反対の側面での当て布から組織/空洞内への1種以上の担持成分の目的の組織からの顕著な喪失を防止するように、フィルム、被膜、または不浸透性膜などの裏打ち層14に隣接させてもよい。この裏打ち層14により、存在する可能性のある液体または他の物質による当て布の汚染を防ぐこともできる。
【0090】
母材
いくつかの生体接着性ポリマーおよび粘膜接着性ポリマーが知られている。実施態様によっては、ポリマーは、粘膜腸組織に結合できるように粘膜粘着性である。実施態様によっては、ポリマーは、多価陽イオン性、生体適合性、かつ生分解性である。実施態様によっては、ポリマーはキトサンである。キトサンは、多価陽イオン性、無毒性、生体適合性、かつ生分解性のポリマーである。キトサンは、その生物接着性および透過性の特性により、粘膜への薬剤送達機構として一般的に使用される。胃腸管(GI)上皮の障壁は、キトサン粒子によって容易に破壊され、粘膜の透過性を高める。
【0091】
調製時のpH、多価陰イオンの含有、電荷比、脱アセチル化の程度、およびキトサンの分子量などの種々の要因が、キトサン粒子の製造に影響を及ぼす。
【0092】
キトサン粒子は、現在までに、低pHに対するキトサンの感受性により、癌治療のための化学療法剤で使用できることが明らかにされてきた。癌組織は酸性なので、キトサン粒子は酸性環境で薬剤をより速く放出する。但しキトサン粒子の従来からの使用とは対照的に、酸性環境での安定性および塩基性条件に曝された際の薬剤の放出を可能とする新規のキトサン粒子合成プロセスが、本明細書に提供される。キトサン粒子からの薬剤の徐放により、安定な量の薬剤が適切な胃腸粘膜組織を貫通して、損失および液体や他の組織への曝露を最小限に抑えることが保証される。
【0093】
システムは、任意の適切なポリマー母材を含んでもよい。実施態様によっては、ポリマー母材は、多孔質で粘膜接着性の凍結乾燥ポリマー母材である。ポリマー母材として有用な代表的なポリマー母材には、限定はされないが、キトサンが含まれる。キトサンは、純粋なキトサンであってもよく、あるいはキトサンの塩であってもよい。実施態様によっては、キトサンは純粋なキトサンである。キトサンは、約25 kDa~約1000 kDa、または約25 kDa~約500 kDa、または約50 kDa~約500 kDa、または約50 kDa~約250 kDa、または約80 kDa~約200 KDaなどの任意の適切な分子量であってもよい。実施態様によっては、キトサンの分子量は約25 kDa~1000 kDaである。実施態様によっては、キトサンの分子量は約25 kDa~500 kDaである。実施態様によっては、キトサンの分子量は約80 kDa~200 kDaである。
【0094】
層12を形成できる母材の材料と粒子の代表的な例は、米国特許出願第2017/0239189号に挙げられ、この特許はキトサン系母材に埋め込まれたキトサン粒子を開示している。キトサンは、2番目に豊富に存在する多糖であるキチンの脱アセチル化誘導体であり、高密度の反応基および広範囲の分子量を有する。キトサンは、主に上皮および粘膜である生体組織と非共有結合を形成する能力により、生体接着性材料として有用であると考えられている。天然ポリマーを用いて形成された生体接着は、滞留時間を延ばすことができるので、担体として特有の特性を有し、それによって担持された薬剤の吸収を向上させる。キトサンは、生物吸着性、生体適合性、生分解性、抗菌性、かつ無毒性のポリマーである。
【0095】
さらにキトサンは、修飾可能な種々の官能基を有する。その特有の物理化学的特性のために、キトサンは、様々な生物医学用途に大きな可能性を有する。キトサンは、その生物接着性ならびに吸収促進剤および浸透促進剤として機能する構築能力のために、送達機構として使用できる。粘膜または上皮内の障壁は、キトサン粒子によって容易に破壊され、粘膜を貫通する透過性が向上する。キトサンは、当て布の有効性と機能性を実現するために理想的な材料であることが判明している。実験として、腫瘍の外科的切除後にキトサン系の当て布が外科的空洞内に貼付けられた。キトサン系の当て布のみによる治療では、本質的に癌細胞の再発や転移を起こさなかった。単なるHPMC、ペクチン、アルギン酸塩で作製された当て布などの他の当て布では、理由は不明であるがこれらと同じ効果は得られなかった。キトサンは血液凝固剤であり、おそらくキトサンの正電荷が血液に曝されると負帯電の赤血球を引き付けかつ保持するので、これにより凝固が引き起こされる。この凝固は、他の未知の要因との組合せにより、血流内および体内の遊離癌細胞の拡散を防ぐ可能性がある。さらにキトサンは、組織内の緊密な細胞接合部を緩和させて組織内の薬剤の透過および通過を増加させる。この効果は、部分的には、細胞のより酸性の特性またはその他の未知の要因のために、癌細胞が当て布に引き付けられることにより、局所的および全身の組織内の癌細胞の拡散を防ぐ可能性がある。複数の当て布材料で実施された透過の検討では、キトサン系の当て布ならびに非キトサン系の当て布では類似の粒子の透過が認められたので、それ自体での付加的な透過が高い効力を引き起こすものではない。
【0096】
最も広範囲に展開されている粒子の製造方法は、イオンチャネル型のゲル化および自己組織化の多価電解質である。有機溶媒および高剪断力の使用を必要としない簡便かつ柔和な調製方法など、これらの方法は多くの利点を提供する。これらの方法は、不安定な薬剤として悪名高いポリマーを含む幅広い範囲の薬剤に適合可能である。一般的に、粒子径および表面電荷などの粒子形成に影響を及ぼすと判明した因子は、キトサンの分子量と脱アセチル化の程度である。粒子を目的に合わせて、種々の環境で安定にできる。
【0097】
イオンチャネル型ゲル化の方法は、キトサン粒子を調製するために一般的に使用されている。この方法は、静電相互作用に基づき、生体のpHではキトサンの一次アミン基はプロトン化されているのでキトサンは正帯電となる。正帯電を用いて、トリポリリン酸ナトリウム(STPP)などの多価陰イオン(安定剤)との架橋を通して溶液中で粒子を形成し、静電相互作用を介して薬剤を効率的に封入し、かつ薬剤含有キトサン粒子の細胞への内在化を促進する。多価陰イオン性の安定剤は、キトサン表面の正帯電したアミン基に対する負の対イオンとして作用することにより、粒子を形成する架橋剤として機能することができる。この静電相互作用は、粒子の構造を支えるイオン結合を形成する。また正の対イオンとしてのナトリウムの存在は、STPPを他のトリポリリン酸(TPP)塩よりも効果的な架橋剤にする可能性がある。
【0098】
この簡便かつ柔和な方法のいくつかの利点として、水溶液の使用、小径粒子の調製、pH値の変動による粒子径の操作、および粒子形成中の薬剤の封入の可能性が挙げられる。低濃度および中濃度でのKClの存在により、キトサン-STPP間のイオン相互作用の膨張と衰弱を強調するような構造変化を、イオン強度の変動によって導入できる。
【0099】
粒子を組織に浸透させて、封入薬剤を送達できる。粒子径は、その粒子が調製された水溶液のpHおよびキトサン対STPPの重量比に依存し、粒子径は薬剤の放出速度に影響を及ぼす。安定剤の量の増大はキトサンの高い架橋度および粒子寸法の低下に繋がるので、合成プロセスでの水溶液中のキトサン対(STPPなどの)安定剤の比などの他のパラメータは、粒子に影響を及ぼす。これによって粒子径を調節できるので、これら粒子が選択される組織に合わせた特定の粒子径の範囲の使用が可能になる。
【0100】

一価陽イオンの塩化物塩は、任意の適切な塩化物塩としてもよい。実施態様によっては、一価陽イオンの塩化物塩は、NaCl、KCl、LiCl、RbCl、CsCl、NH4Cl、またはそれらの組合せである。実施態様によっては、一価陽イオンの塩化物塩はNaClである。
【0101】
塩化物塩は、ポリマー母材中に任意の適切な量で存在してもよい。ポリマー母材中の塩化物塩の代表的な量として、約10~約25%(重量/重量)、または約15~約25%(重量/重量)、または約16~約24%(重量/重量)、または約17~約23%(重量/重量)、または約17~約22%(重量/重量)、または約17~約21%(重量/重量)、または約17~約20%(重量/重量)、または約17~約19%(重量/重量)が挙げられる。ポリマー母材中の塩化物塩の代表的な量として、約15%(重量/重量)、あるいは約16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25%(重量/重量)が挙げられる。実施態様によっては、一価陽イオンの塩化物塩は、NaClであり、かつポリマー母材の約18%(重量/重量)の量でポリマー母材中に存在する。
【0102】
水和促進剤
ポリマー母材には、水和促進剤などの他の様々な成分を含んでもよい。任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、水和促進剤は、送達システムによる水分吸収を増加させると考えられている。この水和作用の増加により、母材からの微粒子の迅速な放出および浸透が可能になる。また水和促進剤は、送達システムの製造工程中に凍結防止剤として機能することにより、均一性および耐久性を改善すると考えられている。繰返しになるが、任意の特定の理論に拘束されることはなく、水和促進剤は、氷の結晶と母材ポリマー分子の間の「スペーサ」として作用して均一な凍結パターンを確実にすると考えられている。得られた構造は、水和促進剤を含まない構造よりも柔軟で均一でかつ耐久性がある。代表的な水和促進剤として、限定はされないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、β-プロピレングリコール、グリセロール、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0103】
実施態様によっては、ポリマー母材はさらに水和促進剤を含む。実施態様によっては、水和促進剤は、エチレングリコール、プロピレングリコール、β-プロピレングリコール、グリセロール、またはそれらの組合せである。実施態様によっては、水和促進剤はプロピレングリコールである。
【0104】
水和促進剤は、ポリマー母材に任意の適切な量で存在してもよい。ポリマー母材中の水和促進剤の代表的な量として、約1~約50%(重量/重量)、または約5~約25%(重量/重量)、または約5~約15%(重量/重量)、あるいは約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または約15%(重量/重量)が挙げられる。実施態様によっては、水和促進剤は、約7.0%(重量/重量)、あるいは7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、または約8.0%(重量/重量)の量で存在してもよい。実施態様によっては、プロピレングリコールは、約5~約25%(重量/重量)の量でポリマー母材中に存在する。実施態様によっては、プロピレングリコールは約7.75%(重量/重量)の量で存在する。
【0105】
粒子接着阻害剤
ポリマー母材には、粒子接着阻害剤など、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの他の種々の成分を含んでもよい。任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、母材および粒子が極性部分またはイオン帯電部分を有するキトサンなどの材料からなる場合には、粒子の移動度が低下すると考えられている。キトサンの例では、ポリマーのアセチル部分とアミン部分の間の相互作用により、粒子が母材に接着しかつそれらの放出を阻害すると考えられている。
【0106】
接着阻害剤を含むと、粒子と母材の接着を軽減できることが判明している。任意の特定の理論に拘束されないが、この接着阻害剤は、粒子のキトサンと母材本体中のキトサンとの間の「スペーサ」として作用し、粒子を放出しかつ薬剤放出特性を改善できると考えられている。実施態様によっては、ポリマー母材はさらに粒子接着阻害剤を含む。実施態様によっては、粒子接着阻害剤はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む。HPMCのモル質量は、約1 kDa~約200,000 kDaであってもよく、その粘度は約10 cps~100,000 cpsの間で変動してもよい。
【0107】
粒子接着阻害剤は、任意の適切な量で存在してもよい。粒子接着阻害剤の代表的な量として、約0.1~約10%(重量/重量)、または約1~約10%(重量/重量)、または約2~約8%(重量/重量)、または約3~約6%(重量/重量)、または約3~約5%(重量/重量)、または約3~約4%(重量/重量)が挙げられる。粒子接着阻害剤の他の代表的な量として、限定はされないが、約1%(重量/重量)、あるいは約2、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、5、6、7、8、9、または約19%(重量/重量)が挙げられる。実施態様によっては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、ポリマー母材中に約0.1~約10%(重量/重量)の量で存在する。実施態様によっては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、ポリマー母材中に約3.7%(重量/重量)の量で存在する。
【0108】
粒子凝集阻害剤
ポリマー母材には、粒子凝集阻害剤などの他の種々の成分を含んでもよい。送達素子を製造するプロセスは、氷の結晶が母材内に形成される凍結工程を含む。このような結晶は、微粒子を互いに拘束して、粒子が損傷または破壊される粒子凝集体を形成する可能性がある。繰返しになるが、任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、凝集阻害剤は、粒子の凝集を防止する結晶微細構造の形成により凍結防止作用を発揮すると考えられている。実施態様によっては、ポリマー母材はさらに粒子凝集阻害剤を含む。
【0109】
粒子凝集阻害剤は、任意の適切な量で存在してもよい。粒子凝集阻害剤の代表的な量として、限定はされないが、約0.1~約50%(重量/重量)、または約1~約30%(重量/重量)、または約10~約30%(重量/重量)、または約20~約30%(重量/重量)、または約20~約25%(重量/重量)、または約21~約23%(重量/重量)が挙げられる。粒子凝集阻害剤はまた、約1、5、10、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または約30%(重量/重量)の量で存在してもよい。実施態様によっては、粒子凝集阻害剤は約0.1~約30%(重量/重量)の量で存在する。実施態様によっては、粒子凝集阻害剤は約20~約25%(重量/重量)の量で存在する。実施態様によっては、粒子凝集阻害剤は約22%(重量/重量)の量で存在する。実施態様によっては、粒子凝集阻害剤は約22.25%(重量/重量)の量で存在する。
【0110】
粒子凝集阻害剤は、限定はされないが、単糖、二糖、糖アルコール、塩素化単糖、塩素化二糖、およびそれらの組合せなどの炭水化物を含んでもよい。実施態様によっては、粒子凝集阻害剤は、単糖類、二糖類、糖アルコール類、塩素化単糖類、塩素化二糖類、またはそれらの組合せである。代表的な単糖類として、特にブドウ糖、果糖、ガラクトースが挙げられる。代表的な二糖類として、ショ糖および乳糖が挙げられる。塩素化単糖類には、少なくとも1つの塩素原子で置換された単糖類が含まれる。塩素化二糖類には、限定はされないが、スクラロースなどの少なくとも1つの塩素原子で置換された二糖類が含まれる。
【0111】
実施態様によっては、粒子凝集阻害剤はスクラロースである。実施態様によっては、スクラロースはポリマー母材中に約0.1~約30%(重量/重量)の量で存在する。実施態様によっては、スクラロースはポリマー母材中に約22.25%(重量/重量)の量で存在する。
【0112】
遊離治療剤
母材が、母材中に直接埋め込まれ粒子中のキトサンで被覆されていない遊離量の治療剤を含む場合に、この素子は、遊離量の治療剤のみあるいはキトサンで被覆された治療剤のみのいずれかを含む同等の母材よりも治療に有効であることが判明している。代表的な実施態様では、遊離量の治療剤は、送達システムの治療剤の総量の20~80%の量で構成される。
【0113】
実施態様によっては、ポリマー母材はさらに、システム中の治療剤の総量の約20~約80%の量で遊離量の治療剤を含む。
【0114】
微粒子
実施態様によっては、改善された純粋なキトサン微粒子を提供する。従来からのキトサン粒子は、高度な脱アセチル化を特徴としかつ帯電部分を有するキトサンの塩、例えば塩化キトサンおよびグルタミン酸キトサンを用いて製造されている。塩ではないことを特徴とし、すなわちそのアミン基がプロトン化されておらず、少なくとも70%の脱アセチル化度を有する材料である純粋なキトサンから粒子が製造される場合には、より良い結果が得られることが分かっている。特にこれらの粒子は、従来の粒子よりも大きな径であることを特徴とする。実施態様によっては、純粋なキトサン粒子の平均径は、約200~約2000 nmの範囲であってもよい。実施態様によっては、平均径は約500~約2000 nmの範囲であり、さらなる実施態様では500~1000 nmの範囲である。
【0115】
実施態様によっては、微粒子は母材内に埋め込まれ、ポリマー母材により直接包囲され、ポリマー母材に接触している。微粒子は、1~75%(重量/重量)、または10~75%(重量/重量)、25~75%(重量/重量)、または35~65%(重量/重量)、または45~65%(重量/重量)、または50~60%(重量/重量)などの任意の適切な量でシステム中に存在してもよい。微粒子は、システムの約1%(重量/重量)、あるいは約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、または約75%(重量/重量)などの任意の適切な量でシステム中に存在してもよい。実施態様によっては、微粒子は約10~約40%(重量/重量)の量でポリマー母材中に存在する。実施態様によっては、微粒子は約45~約65%(重量/重量)の量でポリマー母材中に存在する。実施態様によっては、微粒子は約55%(重量/重量)でポリマー母材中に存在する。
【0116】
治療剤
封入および放出が可能な任意の治療剤、予防剤、診断剤、または栄養補助剤を用いてもよい。代表的な薬剤として、生物製剤、ペプチド、ヌクレオチド、抗感染剤、抗生物質、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、免疫調節剤、ワクチン、およびそれらの組合せが挙げられる。他の薬剤として、ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸などのカルシウム動員剤、およびグルカゴン様ペプチド-2などのペプチドが挙げられる。ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸およびその他のカルシウム動員剤は、ISC増殖および腸上皮再生を促進することが分かっている。グルカゴン様ペプチド-2およびその類似体もまた、ISC増殖および腸上皮再生を促進することが分かっている。ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸とグルカゴン様ペプチド-2の効力は、胃腸管内での適切な標的化および送達の欠如によって妨げられることが分かっている。本明細書に提供される粒子に基づくシステムは、そのような短所を改善する。
【0117】
プラチン抗腫瘍剤
粒子はさらに、任意の適切な抗腫瘍剤を含んでもよい。実施態様によっては、治療剤は抗腫瘍剤を含む。代表的な抗腫瘍剤には、白金抗腫瘍剤、5-フルオロウラシル(5-FU)などが含まれる。実施態様によっては、白金抗腫瘍剤として、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、トリプラチン四硝酸塩、フェナントリプラチン、ピコプラチン、サトラプラチン、またはそれらの組合せが挙げられる。実施態様によっては、治療剤として、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、マロナート白金、オルマプラチン、5-フルオロウラシル、NAADP、アラントイン、インスリン、FITC、またはラパマイシンが挙げられる。実施態様によっては、治療剤はシスプラチンを含む。実施態様によっては、治療剤はカルボプラチンを含む。実施態様によっては、治療剤はアラントインを含む。
【0118】
抗腫瘍剤は、任意の適切な量で存在してもよい。抗腫瘍剤の代表的な量として、限定はされないが、約0.1~約30%(重量/重量)、または約1~約30%(重量/重量)、または約10~約30%(重量/重量)、または約20~約30%(重量/重量)、または約20~約25%(重量/重量)、または約21~約23%(重量/重量)が挙げられる。抗腫瘍剤はまた、約1、5、10、15、20、21、22、22.1、22.2、22.3、22.4、22.5、22.6、22.7、22.8、22.9、23、24、25、26、27、28、29、または約30%(重量/重量)の量で存在してもよい。実施態様によっては、白金抗腫瘍剤は約0.1~約30%(重量/重量)の量で存在する。実施態様によっては、白金抗腫瘍剤は約20~約25%(重量/重量)の量で存在する。実施態様によっては、白金抗腫瘍剤は約22%(重量/重量)の量で存在する。実施態様によっては、白金抗腫瘍剤は約22.5%(重量/重量)の量で存在する。
【0119】
実施態様によっては、システムは約1~約50%(重量/重量)のシスプラチンを含む。実施態様によっては、システムは約22.5%(重量/重量)のシスプラチンを含む。
【0120】
当て布は、実施態様によっては周知の化学療法剤ならびに市販の賦形剤を用い、加えてその製造に関連するコストを最小限に抑え込むことができる。簡易な製造プロセス、比較的安価な総コスト、および簡易な管理方法により、全ての既存の手術治療法を超える改善策として機能し、本発明の広範な取込みおよび活用を促進する。
【0121】
実施態様によっては、当て布には、腹部、骨盤、および/または腹腔内の各領域内の外科的空洞に送達される2つ以上の化学療法剤の組合せが含まれ、それぞれの化学療法剤では、粒子に封入された化学療法剤に対する遊離した化学療法剤が一定の比率で存在する。2つ以上の化学療法剤が含まれるいくつかの実施態様では、1種の化学療法剤は粒子内に封入されてもよく、他の化学療法剤は遊離形態のままであってもよい。例えば、シスプラチンとオキサリプラチンが当て布内に含まれるのに望ましい化学療法剤である場合には、その一方の化学療法剤であるシスプラチンは粒子形態で含まれてもよく、オキサリプラチンは遊離形態で含まれてもよい。
【0122】
2つ以上の化学療法剤が含まれるいくつかの実施態様では、1種の化学療法剤は粒子内に封入され、他の化学療法剤は遊離形態と粒子内の両方に存在する。例えば、シスプラチンとオキサリプラチンが当て布内に含まれるのに望ましい化学療法剤である場合に、その1種の化学療法剤であるシスプラチンは粒子形態で含まれ、オキサリプラチンは遊離形態と粒子内への封入の両方で含まれてもよい。2つ以上の化学療法剤が含まれるさらなる実施態様では、2つ以上の化学療法剤を、両方とも粒子内におよび両方とも遊離形態で含んでもよい。例えば、シスプラチンとオキサリプラチンが当て布内に含まれるのに望ましい化学療法剤である場合に、シスプラチンとオキサリプラチンの両方は、最終の当て布製品内に望ましい比で両方とも粒子内に封入されてもよく、さらに両方とも遊離形態で存在してもよい。
【0123】
実施態様によっては、当て布内に含まれる少なくとも1種の薬剤は抗感染剤であり、その薬剤は、遊離形態で含まれてもよく、粒子内に封入されてもよく、あるいはそれらの組合せで含まれてもよい。実施態様によっては、当て布内に含まれる少なくとも1種の薬剤は、抗菌剤または抗ウイルス剤であり、その薬剤は、遊離形態で含まれてもよく、粒子内に封入されてもよく、あるいはそれらの組合せで含まれてもよい。実施態様によっては、大部分の粒子の径は60 nm~2 μmの範囲である。実施態様によっては、粒子の平均径は100 nm~1000 nmである。実施態様によっては、粒子の平均径は200~500 nmまたは100~400 nmである。
【0124】
トリポリリン酸ナトリウム
任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、トリポリリン酸ナトリウム(STPP)は、キトサン表面の正帯電したアミン基に負の対イオンとして作用して、粒子を形成する架橋剤として機能すると考えられている。この静電相互作用は、粒子の構造を支えるイオン結合を形成する。さらに任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、正の対イオンとしてのナトリウムの存在は、STPPを他のTPP塩よりも効果的な架橋剤にすると考えられている。
【0125】
実施態様によっては、微粒子はさらにトリポリリン酸ナトリウムを含む。トリポリリン酸ナトリウムの代表的な量として、限定はされないが、約0.1~約10%(重量/重量)、または約2~8%(重量/重量)、または約2~約5%(重量/重量)、または約2~約4%(重量/重量)、あるいは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または約10%(重量/重量)が挙げられる。実施態様によっては、システムは、約0.1~約10%(重量/重量)のトリポリリン酸ナトリウムを含む。実施態様によっては、システムは約3.0%(重量/重量)のトリポリリン酸ナトリウムを含む。
【0126】
システム
実施態様によっては、ポリマー母材は、約20~約30%(重量/重量)の量のキトサン;約20~約30%(重量/重量)の量のシスプラチン;約10~約18%(重量/重量)の量のNaCl;約5~約25%(重量/重量)の量のプロピレングリコール;約0.1~約10%(重量/重量)の量のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);約0.1~約30%(重量/重量)の量のスクラロース;および約10~約40%(重量/重量)の量の微粒子を含む。
【0127】
実施態様によっては、ポリマー母材は、約22.5%(重量/重量)の量のキトサン;約22.5%(重量/重量)の量のシスプラチン;ポリマー母材の約18%(重量/重量)の量のNaCl;約7.75%(重量/重量)の量のプロピレングリコール;約3.7%(重量/重量)の量のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);約22.25%(重量/重量)の量のスクラロース;および約55%(重量/重量)の量の微粒子を含む。
【0128】
裏打ち層
システムはまた、裏打ち層を含んでもよい。代表的な裏打ち層として、透水性の裏打ち層が挙げられる。裏打ち層は、第2の表面を貫通する拡散による素子内の担持成分の大幅な損失を防止し、必要に応じて素子を環境から保護する。裏打ち層は、ポリアクリラート接着剤、ポリエステル不織布の裏打ち材、またはそれらの組合せからなる群から選択される材料を含んでもよい。
【0129】
実施態様によっては、ポリマー母材は対向する第1の表面と第2の表面を有し、システムはさらにポリマー母材の第1表面に貼付けられた透水性の裏打ち層を含む。
【0130】
接着層
実施態様によっては、第2の表面は、ポリアクリラート接着剤、ポリエステル不織布、またはそれらの組合せを含む。
【0131】
製造方法
本発明はまた、治療剤を組織に送達するための送達素子を製造する方法を提供し、この方法は、治療剤を含みかつその治療剤の周囲にキトサンを含む被膜を有する複数の粒子を含む第1の混合物を形成する工程;キトサン、水和促進剤、粒子接着阻害剤、粒子凝集阻害剤、またはそれらの組合せを第1の混合物に加えて、第2の混合物を形成する工程;アルコール水溶液を含む浴中で第2の混合物をアルコール水溶液の凍結温度よりも高い最高でも-40℃の温度で凍結させて、凍結層前駆体を形成する工程;凍結層前駆体を乾燥させて、当て布のポリマー母材内に粒子が埋め込まれた多孔質の当て布を形成する工程;および当て布を滅菌する工程を含む。
【0132】
実施態様によっては、多層素子の製造方法およびその方法に従って形成された製剤を提供する。この方法には、治療剤を含むポリマー溶液の凍結および凍結乾燥が含まれる。
【0133】
前駆体混合物をまず形成し、次いで凍結または凍結乾燥に供する。素子は複数の層を特徴としてもよく、それぞれの層に前駆体混合物を個別に形成してもよい。全ての層はそれぞれ、独立して選択された送達される薬剤を含んでもよく、少なくとも1枚の層は、薬剤のうちの少なくとも1種をさらに封入する微粒子を含む。微粒子は、例えば、薬剤の変化が起こらないイオンチャネル型ゲル化法に従って合成されてもよい。微粒子は、平均径が200~2000 nm、500~2000 nm、または500~1000 nmの範囲になるように設計される。浸透促進剤、味覚マスキング要素、および身体構造を形成する薬剤などの薬剤を添加してもよい。これらの薬剤には、とりわけ、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、甘味料、ペパーミント、または他の香料が含まれてもよい。薬剤を含むが微粒子を含まない溶液にはまた、これらの他の薬剤を含んでもよい。
【0134】
準備が完了したら、前駆体混合物を冷凍に供する。素子の層は、まず最高で-40°Cの温度の水性アルコールの凍結槽内で、例えば水性エタノールとドライアイスの槽内で凍結されることが好ましい。この方法により、薬剤内容物のほぼ全てを放出でき、所望の粘膜深さ中に深く浸透できる素子が得られることが判明した。任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、この製品素子は他の冷凍方法と比較してより効率的である。前駆体混合物を、液体窒素、-80°Cの冷凍庫中に配置、または単体のドライアイスにより凍結すると、微粒子の一部が破裂しかつ素子の母材内のポリマーがより硬くなり、薬剤の放出率が低くなり治療効力が損なわれる。浴には、少なくとも90重量%のエタノール水溶液で完全に覆われたドライアイスを含んでもよい。素子の第1の層の(液体状態の)前駆体混合物を、型、例えばシリコーン型に注ぎ込み、エタノールとドライアイスの槽に約2/3~3/4を浸して凍結層を形成する。完全に凍結させるには、30分間放置するのが好ましい。
【0135】
第1の層を凍結した後に、2種の方法のうちの1つによって第2の層を加えてもよい。第1の方法では、第1の層がエタノール/ドライアイス浴に残っている間に、第2の層の前駆体混合物を液体状態で凍結した第1の層の頂面に注ぎ込む。次に得られた凍結した下層と液体の上層を、全体の浸漬比が2/3~3/4になるまでさらに深く浸漬する。第2の層が完全に凍結するように、さらに30分間放置する。2層を超える場合には、その次の層を同じプロセスで加えることができる。
【0136】
第2の方法では、各層を凍結浴内のその個々の型内で別々に同時に凍結する。各層の完全な凍結を確実にするために30分間放置した後に、1種以上の塩の、例えば0.12%の生理食塩水溶液の被膜を、第1の最初の層の表面に刷毛で塗る。被膜の塗布から約1分以内に、第2の層を第1の層に塗布し、約0.25 kgの圧力を加える。これにより結合した固形層が得られる。第2の層を超える場合には、その次の層を同じ方法で塗布できる。
【0137】
所望の層を全て追加した後に、槽内に装填される素子の数に応じて、素子を凍結乾燥槽内で約1~3日間掛けて移動させる。凍結乾燥によって全ての液体が除去された後に、多層素子は使用可能な状態となる。
【0138】
実施態様によっては、多層素子を、同時に複数の薬剤を送達するために用いてもよい。例えば、粘膜炎の治療および疼痛緩和への使用が望まれる場合に、1つの層には鎮痛剤を含んでもよく、また1つの層には粘膜炎の治療剤を含んでもよい。
【0139】
実施態様によっては、多層素子を、長期間に亘る複数の薬剤の送達のために用いてもよい。繰返しになるが粘膜炎を例にとると、多層剤は、遊離形態の鎮痛剤、微粒子内に封入された鎮痛剤、および微粒子内に封入された粘膜炎の治療剤を含んでもよい。最初の遊離形態の層は、即座に疼痛を軽減することができ、それに続く粒子に封入された層は、組織の下部に微粒子を送達でき、その場所でさらに数日掛けて薬剤を放出して長期的な疼痛の軽減と治療を提供できる。
【0140】
当て布が調製されると、当て布の成分または性能を著しく劣化させずに最終製品が外科的用途の無菌要件を満たすことを保証する滅菌プロセスに、当て布を供してもよい。特に、滅菌プロセスが当て布中に含まれる治療剤の構造や効力に重大な影響を及ぼさないように注意する必要がある。コバルト60などの放射性同位体から放出される放射線を用いて微生物を殺傷するγ線照射は、化学療法剤には本質的に影響を及ぼさずに当て布を効率的に滅菌することが分かっている。
【0141】
実施態様によっては、本発明は、本発明のシステムを調製する方法を提供し、この方法は、水、キトサン、塩化物塩、水和促進剤、粒子接着阻害剤、および粒子凝集阻害剤を含む第1の混合物を形成して母材混合物を調製する工程;母材混合物、第1の白金抗腫瘍剤、および第2の白金抗腫瘍剤を含むキトサン微粒子を含む第2の混合物を形成する工程;第2の混合物から水を除去して乾燥混合物を調製する工程;および乾燥混合物を裏打ち層に貼付けて、それによってシステムを調製する工程を含む。
【0142】
実施態様によっては、本発明のシステムを調製する方法は、水、キトサン、塩化物塩、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびスクラロースを含む第1の混合物を形成して母材混合物を調製する工程;母材混合物、シスプラチン、ならびにキトサン、シスプラチン、およびトリポリリン酸ナトリウムを含むキトサン微粒子を含む第2の混合物を形成する工程;第2の混合物から水を除去して乾燥混合物を調製する工程;および乾燥混合物を裏打ち層に貼付けて、それによって本発明のシステムを調製する工程を含む。
【0143】
実施態様によっては、本発明は、本発明のシステムを調製する方法を提供し、この方法は、
水、キトサン、および酢酸を含む第1の混合物を形成する工程;
塩化物塩、治療剤、およびトリポリリン酸ナトリウムを含む第2の混合物を形成する工程;
第1の混合物と第2の混合物を含む第3の混合物を形成し、それによって微粒子を形成する工程;
水、キトサン、酢酸、水和促進剤、および粒子接着阻害剤を含む第4の混合物を形成する工程;
第4の混合物、粒子凝集阻害剤、および微粒子を含む第5の混合物を形成してポリマー母材を形成する工程;
ポリマー母材から水を除去して乾燥混合物を調製する工程;および
乾燥混合物を裏打ち層に貼付けて、それによって本発明のシステムを調製する工程を含む。
【0144】
実施態様によっては、この方法は、
水、キトサン、および酢酸を含む第1の混合物を形成する工程;
塩化ナトリウム、シスプラチン、およびトリポリリン酸ナトリウムを含む第2の混合物を形成する工程;
第1の混合物と第2の混合物を含む第3の混合物を形成して、それによって微粒子を形成する工程;
水、キトサン、酢酸、プロピレングリコール、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む第4の混合物を形成する工程;
第4の混合物、スクラロース、および微粒子を含む第5の混合物を形成してポリマー母材を形成する工程;
ポリマー母材から水を除去して乾燥混合物を調製する工程;および
乾燥混合物を裏打ち層に貼付けて、それによってシステムを調製する工程を含む。
【0145】
IV.薬剤の局所送達
実施態様によっては、上述の改善点のうちの1つ以上を多層薬剤の送達素子に応用できる。多層素子は、一定の期間に亘って同一のまたは複数の薬剤を段階的に送達でき、あるいはそれぞれの層の構造の調節によって複数の薬剤を同時に送達できる。この素子およびこの素子を製造する方法は、粘膜組織に局所的に薬剤を多数の形態で送達するという未達のニーズに対処するために開発されてきた。この構築基盤内の複数の層は、種々の目的に使用できる。
【0146】
従来からの粘膜への薬剤送達は、薬剤の初回の大量瞬時投与と、それに続く経時的な曝露量の着実な低減から構成される。この構築基盤は、その複数の層および少なくとも1枚の層内に微粒子を含有することにより、この傾向を軽減できる。各層の構造を形成する材料は、徐々に分解するように任意に選択でき、かつ同一の薬剤(癌性腫瘍の局所治療用のシスプラチンなど)を複数の層のそれぞれの層に含めるように選択できる。
【0147】
実施態様によっては、この素子は従って、複数の段階により局所的にシスプラチンを放出するように設計でき、副作用、複数回の必要用量、または非経口で投与されるシスプラチンに関連する用量制限の阻害を伴わずに、非常に長期間に亘る治療を提供できる。この素子内に微粒子を含むことにより、持続的な局所投与量を提供する素子の能力をさらに支援できる。この素子内に含まれる微粒子は、貼付けられると直ぐに放出され、粘膜組織に浸透し、素子が貼付けられた下部の組織内に局所的に留まる。次いでこれらの微粒子は経時的に分解して、さらに持続的により長期の投与量で薬剤を提供する。それぞれの層内に種々の薬剤が含まれる場合に、さらなる目的が達成できる。例えば、素子が生じたばかりの開放創の治療に貼付けられる場合には、鎮痛剤および抗感染症剤を1枚の層内にそれぞれ含めてもよい。
【0148】
口腔内に貼付けられる場合に、素子を口内の冒された口腔組織表面に直接配置して、口腔疾患の制御かつ標的化した治療のための薬剤を放出する。遊離形態で含まれる(第1の層中の鎮痛剤などの)薬剤は、根底にある組織に即時に効果を発揮するように設計されていてもよく、微粒子内に封入された(化学療法剤などの)薬剤は、第2の層すなわちそれに続く層内に含まれてもよい。次いで微粒子は第1の薬剤とは独立して作用し、根底にある組織に浸透し、組織への薬剤の持続的かつ長期間に亘る送達を提供できる。この素子は、期間および治療順序パラメータを調節して治療の複数の段階および各期間を提供する機能を発揮して、その他の従来技術の欠点を克服する。
【0149】
実施態様によっては、本発明は、それを必要とする対象に治療剤を投与する方法を提供し、この方法は、システム中の少なくとも50%の治療剤が30分未満内にシステムから放出されるように、本発明のシステムを対象に貼付ける工程を含む。
【0150】
このシステムは、対象の任意の適切な組織に貼付けることができる。代表的な組織として、限定はされないが、皮膚、粘膜、口腔、膣、および直腸が挙げられる。実施態様によっては、システムを対象の粘膜に貼付ける。実施態様によっては、システムを対象の口腔に貼付ける。実施態様によっては、システムを対象の皮膚に貼付ける。
【0151】
治療剤は、任意の適切な速度で対象に投与できる。例えば、システム中の少なくとも50%の治療剤を60分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも75%の治療剤を60分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも90%の治療剤を60分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも50%の治療剤を45分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも50%の治療剤を30分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも50%の治療剤を15分未満内にシステムから放出する。
【0152】
実施態様によっては、システム中の少なくとも75%の治療剤を45分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも75%の治療剤を30分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも75%の治療剤を15分未満内にシステムから放出する。実施態様によっては、システム中の少なくとも75%の治療剤を30分未満内にシステムから放出する。
【0153】
実施態様によっては、システム中の少なくとも90%の治療剤を45分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも90%の治療剤を30分未満内にシステムから放出する、またはシステム中の少なくとも90%の治療剤を15分未満内にシステムから放出する。実施態様によっては、システム中の少なくとも90%の治療剤を30分未満内にシステムから放出する。実施態様によっては、システム中の少なくとも90%の治療剤を15分未満内にシステムから放出する。
【0154】
V.キット
さらに素子および浸透促進剤を含むキットを提供する。浸透促進剤の例は、2(N,N-ジメチルアミノ)プロピオン酸ドデシル、胆汁酸塩、界面活性剤、脂肪酸、グリセリド、ポリアクリル酸誘導体、キレート剤、一酸化窒素供与体、サリチル酸塩、キトサン、zona occludens毒素、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、グリコデオキシコール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、N-ラウリル-b-マルトピラノシド、およびそれらの組合せからなる群から選択される。界面活性剤の例として、オレイン酸、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ラウリルエステル、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0155】
実施態様によっては、少なくとも1つの当て布を、手術によって接近可能となった腹部、骨盤、および/または腹腔内の疾患を治療するためのキットの構成要素として含む。このキットには、当て布を適切に施用するだけでなく、貼付け後の当て布を適切かつ安全に廃棄し、治療領域を洗浄するために必要な材料が含まれてもよい。例えば、FOLFOX(5-FU、ロイコボリン、およびオキサリプラチン)またはCapeOx(カペシタビンおよびオキサリプラチン)による療法が、従来からの結腸がんの治療のための一般的な薬剤として知られている。これらの化学療法剤を、腹部/骨盤内に転移した可能性のある結腸腫瘍を局所的に治療するために安全な方法で利用できる。但し(1)治療中は適切な取扱い手順に従うこと、(2)患者の腹部/骨盤が露出したままになる時間を最小限に抑えるために、当て布の準備および施用の時間を短縮すること、かつ(3)これらの薬剤と、当て布を貼付ける患者および要員の両方との間の接触を最小限に抑えることを確実にするために、広範な予防措置を講じる必要がある。安全を目的としてキットにさらに含めてもよい部品として、当て布を配置するための鉗子またはその他の器具、貼付け後の当て布の残り部分のための使い捨て包装容器、およびその他の安全用部品が挙げられる。
【0156】
素子からの薬剤の放出は、湿気への曝露により部分的に活性化される。従って、貼付け工程中に用いられる素子とともに生理食塩水などの加湿溶液が提供されてもよい。さらに、素子の貼付けに先立ち外部から粘膜に投与される粉末形態または溶液形態の浸透促進剤を含んでもよい。浸透促進剤は、必要に応じて、再調製を要する粉末形態で含まれてもよい。粉末形態は、浸透促進剤の安定性を維持するために含んでもよい。この形態で含まれる場合には、キットには必要に応じて、再調製に用いる滅菌水を含む少なくとも1個のガラス製バイアル(容量は5 mL~20 mL)などの追加の材料を含んでもよい。キットにはさらに、浸透促進剤の再調製に用いる注射器(3 mLのルアーロック注射器など)および吸引針(18G針など)を含んでもよい。
【0157】
さらに素子を(口腔適応症などの)特定の適応症に使用する場合に、窒息または飲込みを防ぐために、製品を安全に適用および除去することを確実とするように注意を払う必要がある。本明細書に開示のキットは、安全な貼付け素子を確実にするのに必要な全ての材料を含むことによりこれらの懸念に対処する。キットの例として、ヒトへの薬剤の曝露または喉への素子の曝露を防ぐように、素子の位置決めまた配置のために用いられる(多用途の金属鉗子あるいは使い捨てプラスチック鉗子のうちのいずれかの)少なくとも一対の鉗子またはその他の類似の器具が挙げられる。
【0158】
また使い捨て包装容器をキット内に含むことで、治療中に使用する材料を隔離して、治療プロセスでの安全な処置および汚染防止を確実にできる。この包装容器には、口腔がんや黒色腫の治療に使用されるような毒性薬剤の投与時に用いられる危険な廃棄容器、あるいは生物災害性の包装容器が挙げられる。さらに残留薬剤の分析などの目的のために使用済み素子を治療後に収集するために、空の閃光放射バイアルを含んでもよい。
【0159】
VI.皮膚疾患の治療法
実施態様によっては、本発明は、それを必要とする対象の皮膚疾患を治療する方法を提供し、この方法は、システム中の治療有効量の治療剤がシステムから放出されかつ対象の皮膚に投与されるように、対象の皮膚に本発明のシステムを貼付けて、それによって皮膚疾患を治療する工程を含む。
【0160】
上述のように、治療剤を任意の適切な速度で本発明のシステムから放出させてもよい。実施態様によっては、少なくとも50%の治療剤を30分未満内にシステムから放出する。
【0161】
本発明の方法を用いて、様々な皮膚疾患または皮膚障害を治療できる。代表的な皮膚疾患として、限定はされないが、皮膚の老化、床ずれを含む皮膚皮疹、褥瘡性潰瘍、炎症性の敏感肌および美観不良肌、紅斑、発疹、皮膚浮腫、乾癬、湿疹、苔癬、固根、膿瘍、蜂巣炎、丹毒、毛嚢炎および膿痂疹などの細菌起因、ウイルス起因、真菌起因、および寄生虫起因の皮膚感染症、シラミ、疥癬、および単純ヘルペス、座瘡、発疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎(Scholzen, T. E.; Luger, T. A. Exp Dermatol. 2004; 13 Suppl 4:22-6を参照)、および神経皮膚炎を含む皮膚炎、放射線障害、日焼け、掻痒症、痒み、蕁麻疹(EP0622361; Frigas, E.; Park, M. Immunol. Allergy Clin. North Am. 2006, 26, 739-51; Luquin, E.; Kaplan, A. P.; Ferrer, M. Clin. Exp. Allergy 2005, 35, 456-60; Kaplan, A. P.; Greaves, M. W. J. Am. Acad. Dermatol. 2005, 53, 373-88; quiz 389-92を参照)、乾癬、真菌症、組織潰瘍形成、表皮水疱症、異常な創傷治癒を含む創傷、火傷(Nwariaku, F. E.; Sikes, P. J.; Lightfoot, E.; Mileski, W. J.; Baxter, C. Burns 1996, 22, 324-7; Neely, A. N.; Imwalle, A. R.; Holder, I. A. Burns 1996, 22, 520-3を参照)、凍傷、毒液起因の皮膚の炎症および浮腫、脱毛症、毛髪鱗屑、魚の目、いぼ、およびひょう疽などの疾患が挙げられる。
【0162】
他の皮膚疾患として、角化性皮膚疾患が挙げられる。代表的な角化性皮膚疾患として、限定はされないが、ダリエー病、ヘイリー・ヘイリー病、赤皮症常染色体劣性層状魚鱗癬、非赤皮症常染色体劣性層状魚鱗癬、常染色体優性層状魚鱗癬、水疱性先天性魚鱗癬様紅皮症、掌蹠角化症、変動性紅斑角皮症、疣状表皮母斑、毛孔性紅斑性粃糠疹、ネザートン症候群、特発性尋常性魚鱗癬、尋常性魚鱗癬、連珠毛、毛孔性角化症、水疱性魚鱗癬様紅皮症、非水疱性先天性魚鱗癬、シェーグレン・ラルソン症候群、変異性紅斑角皮症、レンズ状角化症、変異性エイスロ角化症、ヴォーウィンケルの切断性角化症、ハーレクイン魚鱗癬、およびテイ症候群(国際特許出願PCT/US2009/031101号を参照)が挙げられる。
【0163】
角化性皮膚疾患について、最近になって新たな用語が導入された(Akiyama M. et al., J Dermatol Sci. 2018 May;90(2):105-111, "Autoinflammatory keratinization diseases: An emerging concept encompassing various inflammatory keratinization disorders of the skin"「自己炎症性角化疾患:様々な皮膚の炎症性角化障害疾患を包含する新たな概念」を参照)。
【0164】
実施態様によっては、皮膚疾患は、皮膚がん、炎症性皮膚疾患、自己免疫性皮膚疾患、座瘡、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、湿疹、膿痂疹、発疹、乾癬、尋常性乾癬、またはベーチェット病である。炎症性皮膚疾患として、限定はされないが、座瘡、乾癬、酒さ、湿疹、光線性角化症、魚鱗癬、ボーエン病、角皮腫、硬化性苔癬、化膿性汗腺炎、苔癬状粃糠疹、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、湿疹性皮膚炎、または脂漏性皮膚炎が挙げられてもよい。実施態様によっては、皮膚疾患は、基底細胞がん、扁平上皮がん、または黒色腫である。
【0165】
実施態様によっては、皮膚疾患は炎症性皮膚疾患である。実施態様によっては、炎症性皮膚疾患または障害は、乾癬、アトピー性皮膚炎(AD)、湿疹、光線角化症、魚鱗癬、尋常性天疱瘡、座瘡、グローバー病(一過性の棘溶解性皮膚症)、角皮腫、化膿性汗腺炎、脂漏性角化症、苔癬状粃糠疹、円形脱毛症、基底細胞がん、ボーエン病、先天性骨髄性ポルフィリン症、接触性皮膚炎、ダリエー病、ジストロフィー型表皮水泡症、単純型表皮水泡症、骨髄性プロトポルフィリン症、爪の真菌感染症、単純疱疹、化膿性汗腺炎、魚鱗癬、膿痂疹、ケロイド、毛孔性角化症、扁平苔癬、硬化性苔癬、尋常性天疱瘡、足底疣贅(疣贅)、苔癬性粃糠疹、多形性軽度発疹、壊疽性膿皮症、酒さ、帯状疱疹、扁平上皮がん、スウィート症候群、および白斑症から選択される。実施態様によっては、炎症性皮膚疾患は、微生物感染誘発性皮膚炎、日光皮膚炎、アトピー性皮膚炎、またはアレルギー性接触皮膚炎によって生じる。実施態様によっては、炎症性皮膚疾患または障害は乾癬である。実施態様によっては、炎症性皮膚疾患または障害はアトピー性皮膚炎(AD)である。
【0166】
実施態様によっては、皮膚疾患は自己免疫性皮膚疾患である。実施態様によっては、自己免疫性皮膚疾患は、狼瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、またはベーチェット病である。
【0167】
VII.癌の治療法
口腔がんに限らず口腔粘膜炎はまた重大な疾患であり、それは何らかの理由で全身化学療法が施される場合には、その疾患は口内に発生する可能性があるという事実に一部起因している。実施態様によっては、本開示のキット内の治療素子は、疼痛を治療もしくは軽減する薬剤、あるいは口腔粘膜炎に対処する薬剤を含んでもよい。粘膜炎のための既存の治療法とは異なり、本発明のキットは、薬剤が封入された微粒子をその内部に含有する素子を含む。口腔がんを治療するその効果と同様に、素子から放出された微粒子は粘膜接着性であるので、粘膜炎の部位に局所的に留まる。粒子はナノ寸法であるために、これら粒子は組織に浸透し、現状の他の治療法よりも患部内により深く、薬剤を広範囲に曝露することなく、封入薬剤を放出できる。このキットを介する投与により、粘膜炎を患う領域に薬剤を遥かに効率的に送達することが可能となる。
【0168】
実施態様によっては、さらに記載のキットを用いて、前癌性/前癌状態の口腔病変の治療のための薬剤を送達する。前癌性/前癌状態の病変は、多くの場合に、理想的な治療選択肢が存在しないので、発覚しても治療せずに放置されている。化学療法または手術は初期病変に対しては極端過ぎると考えられる場合があるので、診断は、早期治療ではなく悪性腫瘍の監視と組み合わせることがよくある。前癌性/前癌状態の病変と他の非悪性病変とを区別することもまた困難である。この理由により、生命を脅かす可能性の少ない問題に対しては、多くの場合に、有害な全身化学療法を施用することを望まない。これらの病状に対処するには、本発明のキットを用いて、これらの病変に対してより低用量の化学療法剤または他の薬剤を投与することができる。このような少量の用量で達成される高い効力および大幅に高い安全性のために、治療を遥かに大規模に実施できる見込みがある。これらの理由に基づいて、本発明のキットは、現状の治療法に対する大幅な改良法および実行可能な代替法と見做される。さらにキット内に治療素子を包含することは、治療素子のみが開示されている米国特許出願第2014/0234212号に比較して、上述の安全性および効力の理由に基づき大幅な改良と見做される。
【0169】
実施態様によっては、このキットは、活性剤を封入する微粒子を含む粘膜接着性薬剤送達素子、送達素子内に組み込まれるあるいはキット内に送達素子とともに提供される経口浸透促進剤などの素子の施用および処理を成功させるのに有用な部品、および治療の前後に口を洗浄するのに使用される口腔洗浄剤を含む。
【0170】
実施態様によっては、本発明は粘膜がんを治療する方法を提供し、この方法は、本発明のシステムをそれを必要とする対象の粘膜がんに貼付けて、それによって粘膜がんを治療する工程を含む。実施態様によっては、粘膜がんは口腔がんである。実施態様によっては、本発明のシステムは、それを必要とする対象の口腔内の腫瘍に貼付けられる。
【0171】
VIII.薬剤の胃腸への送達法
実施態様によっては、本開示の粒子に基づく薬剤送達システムが、胃腸の疾患および病状の治療のために開発されている。本明細書に開示の送達素子は、腸粘膜に接着するその能力により部分的には有効である。
【0172】
送達システムを適切に開発するには、まず粘液自体の特性を理解する必要がある。粘液は、外部環境に曝露される組織を保護する粘弾性ゲル層である。粘液は主に、杯状細胞および粘膜下腺によって分泌される、架橋および交絡したムチン繊維で構成されている。ムチンは大きな分子であり、典型的にはサイズが0.5~40 MDaであり、複雑で非常に多様なプロテオグリカン列で被覆されている。粘液のpHは粘膜表面に応じて大きく異なる可能性が有り、強酸性の環境では、ムチン繊維の凝集および粘液の粘弾性の大幅な増大が可能になる。ヒトの胃腸管では、粘液層は胃と結腸で最も厚くなる。胃粘液は広範囲のpHに曝され、同じ粘液断面内では大きなpH勾配が存在し、pHは内腔のpH:1~2から上皮表面のpH:7まで上昇する。
【0173】
従って本明細書には、環境のpHに応答して薬剤の放出を調節することができ、それによって胃腸管内での薬剤の特異的な標的化を可能にする胃腸薬剤送達システムを提供する。本明細書には、胃腸(GI)管のpH環境内でのみ、より具体的には胃腸管内の特定の領域にのみその担持成分を放出する粘膜接着性送達システムの設計を通して、胃腸管への薬剤送達を標的化する取組みについて説明する。胃腸管の内層は粘膜であるため、粘膜への誘引性および粘膜接着性は、この素子での重要な要素となる。
【0174】
胃腸送達のために経口投与される薬剤の場合には、極端なpH値の消化領域を通過して生存していることが必要である。ヒトの胃では、胃液の量は20~100 mLであり、pHは1.5~3.5である。胃液は、塩酸、塩化カリウム、および塩化ナトリウムから構成されている。体液の分泌は、いくつかの段階に亘って起こる。水素イオンと塩化物イオンが分泌されて細管内で混合される。酸分泌腺の内腔は、胃の内腔に到達する胃酸を分泌する。塩化物イオンとナトリウムイオンの分泌により、約-35~-65 mVの負の電位が生成され、これにより細胞質からのカリウムイオンとナトリウムイオンの拡散が可能となる。
【0175】
炭酸脱水酵素は、水と二酸化炭素の間の反応を触媒して炭酸を生成する。これにより、水素イオンと重炭酸イオンへの解離が可能となる。次いで水素イオンが細胞から移動する。ナトリウムイオンは再吸収される。細管内では、水素イオンと塩化物イオンが混合されて、酸分泌腺の内腔中に分泌される。
【0176】
胃酸の産出は三段階に分割される。これら段階のうちの第1は頭相であり、この相では、胃酸産出の約30%が、脳からの信号に従って食物の匂い、味覚、または期待によって刺激される。胃酸の約50%は胃相中で産出され、この相では胃内に食物が存在し、消化された物質からアミノ酸が放出されて産出が刺激される。腸相は酸産出の最終相であり、この相では、粥状物(部分的に消化された食物の半液体)が小腸に入ると残りの20%の酸が産出される。胃腸粘膜を標的とする薬剤を経口送達する場合には、送達システムは、胃内の胃酸を通過しても無傷かつ安定な状態を維持する必要がある。この環境ならびに複数のpH条件で安定性を維持できるシステムの開発により、胃腸粘膜内へ薬剤を送達するための経口投与が可能になる。腸溶性被膜を有する従来の製品とは対照的に、このシステムは、様々なpH水準に耐えるだけでなく、望ましいpH条件で放出可能な粒子の組合せを含むことができる。
【0177】
経口投与される腸溶性カプセルの代替品が胃腸疾患の治療で有効であるためには、そのような代替品は、記載の酸性かつ動的な胃消化プロセス全体を通して安定性を維持する能力を有する必要がある。同様に、多くの胃腸疾患は複数のpH範囲に亘る胃腸管の複数の領域を包含する可能性があるので、種々のpHの変化に耐えて放出できる送達システムの開発が好都合である。有効な代替物はさらに、腸粘膜内層への粘膜接着性によって誘引される能力、かつ接触時またはその後の指定時間に放出される能力を特徴とすべきである。従って本明細書では、局所投与および全身投与ならびに胃腸幹細胞中への送達および/またはそれを越えて全身に送達するための治療的、診断的、および/または予防的な送達素子を提供し、この送達素子は、腸粘膜に誘引/付着されてそれを貫通し、ならびに胃の酸性状態でも安定な状態を保つことができる。本明細書に説明の素子は、胃腸部位内への長期放出または遅延放出、プログラム制御放出、および部位特異的放出を提供できる。
【0178】
多くの場合に、患者がカプセルまたは錠剤を飲み込めないのなら、経口投与は不可能である。このことは、適合性が低い幼児や、疼痛があるまたは経口薬を服用できない高齢者に起こり得ることである。栄養管または経鼻胃管を着用する人達も、これらの場合の例となる。実施態様によっては、本発明は、他の方法では経口薬剤を投与できない患者に薬剤を経口送達する方法を提供する。このことは、一部では、固形の錠剤やカプセルを飲み込めない患者のための経口投与での液体形態およびゼラチン形態の任意の使用、ならびに経鼻投与あるいは経鼻胃管または栄養管を介する摂取によって達成される。従来の投与技術に対比して、この送達システムはこれらの手段により送達を成功させることができる。粒子は、種々の形態で提供されてもよく、特定のニーズに合わせて調整されてもよい。
【0179】
胃腸送達システムはまた、胃腸液に関連する上述の従来からの洗浄の問題とは対照的に、胃腸液の存在または潜在的な存在の下でも有効な治療的、診断的、および/または予防的な送達素子を提供する。さらに、多数のpH範囲に亘って耐えてかつ放出できる1つ以上の粒子組を含むシステムの設計により、腸上皮の1つ以上の特定の領域に治療剤、診断剤、および/または予防剤を投与する経路を提供する。
【0180】
これら目的およびその他の目的のために、本明細書に開示の胃腸送達システムを、胃腸管内で胃腸粘膜への特定の標的送達のための素子として機能させてもよい。実施態様によっては、送達素子は胃腸粘膜組織に接着し、胃の低pHの酸性環境に耐えることができ、かつ1つ以上の薬剤が封入されたpH標的化された粘膜接着性粒子を含む。この素子はまた、胃腸管の粘膜層を貫通する薬剤の浸透を促進するのに十分な浸透促進剤を含んでもよい。
【0181】
この構築基盤の固有特性のうちの1つは、放出および標的化の属性を所望のパラメータに基づいて制御できることにある。粒子を所望のpH水準内で安定に維持し、別の所望のpH水準で放出するように制御してもよい。この能力を利用して、胃、食道、および腸の成分を含む胃腸管の任意の成分を通過しても、pH曝露に関係なく安定に維持できる標的粒子の組合せを形成できる。
【0182】
安定性に加えて、粒子内に封入された薬剤の放出のタイミングを制御してもよい。この特性の目的は、胃腸管内の部位への送達をさらに標的化することである。例えば、通常の消化条件で経口摂取と所望の送達に至る送達との間を干渉する時間が既知である場合に、送達システム内の粒子を、経口接触を送達システムとした後にその時間量で薬剤の担持成分を放出するようにさらに設計してもよい。放出時間を決定し得る式が展開されている。パラメータおよび式を以下に示す。
脱アセチル化度(DA)
分子量(MW)の組合せ、
時間(T)
湿度への曝露量、含水率(WC)
合成段階での溶液のpH(SpH)
粘度(DV)
粒子の凍結法などの合成手法(Kは定数)
式:
**放出度(DR)= a(DA)+ b(MW)+ c (SpH)+ d(T)+ e(WC)+ f(DV)+ k
**亜硝酸ナトリウムを使用すると、キトサンの脱アセチル化度と分子量をさらに調節できることが見出された。
【0183】
pH調節と変更可能な放出のタイミングは、送達システムの効力を高め、それが従来のシステムと比較して如何に革新的であるかを示している。任意の特定の理論に拘束されることはないが、その優れた特性は、キトサンの脱アセチル化度および分子量の過去には未知であった効果の産物であると考えられる。胃腸管の種々のpH水準およびpHと部位との間の関係を利用して、送達を標的化できる。例えば粒子を5.8~6.2の間のpH水準でのみ放出するようにプログラムでき、それによって十二指腸への特異的な標的化が可能となる。
【0184】
複数の部位への標的放出は、送達システム内に個別化された粒子混合物を含むことによって達成できる。これにより、疾患や病状が複数の領域に位置する場合に、あるいは薬剤を部位の領域全体に送達するのが最良である場合に、一連の所望の部位を標的にすることが可能になる。
【実施例
【0185】
実施例1:Goldbergらの米国特許第10,398,655号(「Goldberg」)に従うシステムの調製
微粒子の調製
用いる全ての試薬および化学物質は、賦形剤等級または医薬品等級である。
溶液A:0.1%シスプラチンの0.1%トリポリリン酸(STPP)溶液
溶液B:0.1%キトサン(CL 113)の0.175%酢酸溶液
【0186】
10 mLの溶液Bをガラス製ビーカーに入れ、磁気撹拌装置で600 rpmで撹拌した。合計10 mLの溶液Aを、本明細書では1.5 mL/分の一定流量を提供できる蠕動ポンプあるいは任意の他のポンプの助けを借りて撹拌した溶液B上に滴下により移送したが、その流量を変更して、異なる径、電荷、多分散性、NP収量、および薬剤封入効率の各特性を得るようにする。
【0187】
溶液Aと溶液Bの種々の比率(A:B)として、1:1(上述の場合に同じ)~1.1:0.85の範囲で用いた。溶液Aの半分が移送された時点で、溶液Bの撹拌速度を徐々に650 rpmまで上昇させた。溶液Aの移送完了後に、撹拌速度を700 rpmまで徐々に上昇させ、次いで最終トレハロース濃度が2%となるように二糖トレハロースを徐々に溶液に添加した。添加したトレハロースが全て溶解するまで(あるいは少なくとも10分間)撹拌を続けて溶液を平衡させた。得られた微粒子のZ-平均、多分散指数(PDI)、各ピークの平均径、および微粒子収率(計数率)を測定した。
【0188】
保存のために、最終微粒子溶液を適切な容器に入れ、完全に凍結するまで液体窒素を用いて、ドライアイス中で、あるいは超低温冷凍庫中で凍結して、次いで溶媒が完全に除去されるまで凍結乾燥する。
【0189】
母材の調製
素子を、本明細書に記載のプロセスA~Fを用いてGoldbergの教示に従って作製した。
【0190】
A.水和促進剤として(5~25重量%の濃度の)プロピレングリコール、粒子接着阻害剤として(0.1~10重量%の濃度の)HPMC、および粒子凝集阻害剤として(0.1~30重量%の濃度の)スクラロースとともに、キトサンから水性ポリマー混合物を調製した。
【0191】
B.この混合物に、活性医薬成分である500 nm~2000 nmの平均径を有する10~40重量%の濃度のキトサン被覆シスプラチン微粒子を添加した。
【0192】
C.得られた混合物を室温で最長3時間撹拌した。
【0193】
D.混合物を0~5000 mTorrの条件下で凍結して凍結乾燥した。
【0194】
E.得られた凍結乾燥産物は、ポリマー母材中に埋め込まれたキトサン被覆シスプラチン微粒子を含む母材である。
【0195】
F.次いでこの母材を透水性裏打ち層に貼付けて、所定のサイズに切断して、Goldbergの教示に従った素子(ここでは「当て布」と呼ぶ)を得た。
【0196】
実施例2:改良された素子の調製
実施例1の工程A~Fの手順に従う方法で素子を作製したが、異なる点として工程Aの水性混合物には、本明細書に列記する種々の濃度の塩化ナトリウムをさらに含有した。結果を表1に纏める。殆どの濃度で、当て布の物理特性、臨床投与、および効力について重大な問題が発生した。図2は、0%、5%、10%、12%、15%、18%、20%、22%、25%、28%、および30%の(印付した)それぞれの量の塩化ナトリウム濃度で作製したシスプラチン含有の当て布の写真であり、高濃度で生じる亀裂も示されている。亀裂が全く問題とならない濃度であっても、当て布は硬く、当て布の硬度と剛性により不規則形状の腫瘍に局所的に貼付けることが困難であったので、それら塩化ナトリウムの濃度は依然として高過ぎた。さらに、塩化ナトリウムは母材中に埋め込まれた粒子の構造的な完全性を全体として欠如させて、放出特性は徐放型ではなく即時的な突発型となった。
【0197】
以下の表は、種々の塩化ナトリウム濃度の影響を示す。
【表1】
【0198】
この実施態様では、35%(重量/重量)および18%(重量/重量)の凍結乾燥後の当量濃度は、それぞれ0.9%(重量/体積)および0.12%(重量/体積)の液体濃度に対応する。
【0199】
本明細書に説明する試験の後に、塩が多過ぎると当て布が脆くなり過ぎて使用不可となり、塩が少な過ぎると最適値以下の生体内効力しか示さなかった。図3は、得られた当て布の最適化を複雑にする、塩化ナトリウムの存在に起因するシスプラチン含有当て布の特性の変化を示す図である。好ましい結果として、細胞の死滅能力が向上しかつ生体内での腫瘍縮小が優れると同時に、物理的に柔軟な当て布が得られた。
【0200】
凍結乾燥した当て布中のすなわち10.0重量%(10.0%(重量/重量))~18.0重量%の範囲の塩化ナトリウムは、シスプラチンの化学安定性を維持し、細胞に侵入する前の薬剤の早期の加水分解を防止して、放出特性、表面陽イオン電荷、および物理的完全性などの当て布性能の特徴を保持できた。凍結乾燥した当て布中の塩化ナトリウムの濃度範囲を10.0重量%~18.0重量%とすることにより、全て従来技術が教示するよりも相当に少ない量の塩化ナトリウムを利用しているものの、有効な薬剤を保護しかつシスプラチンの効果を向上させることが可能となった。とはいえ、当業者にとっては、0.9%(重量/体積)ではなく0.12%(重量/体積)の濃度を用いることは、加水分解を防ぐのに必要な最小値より遥かに低いので、意味をなさないであろう。
【表2】
【0201】
放出特性の改善:本発明者らは、ナトリウム濃度の最適範囲では、当て布の施用中に当て布母材からの粒子の放出がさらに促進されることをヒトでの試験で見出した。図4は、ナトリウム濃度を0%~35%で変えて作製された当て布の生体外の溶解特性を示す一組のグラフであり、18%での放出特性は、0%よりも遅くより直線的で滑かであることが分かる。この放出の改善では、当て布の母材からの粒子の増大かつ一貫した放出が当て布間の用量変動を低減するという試験中の臨床的な利点が得られた。
【0202】
図5は、当て布中の塩化ナトリウムの濃度の0重量%および18重量%について、組織に貼付けた際の当て布からの薬剤の放出率を示す一組の棒グラフである。新たに開発された濃度の塩化ナトリウム(18.0重量%)を含む当て布は、塩化ナトリウムを含まない当て布の12%の標準偏差に比較して、(182枚の当て布での)僅か3.2%の標準偏差とともに、優れた用量精度および放出率(塩化ナトリウム不含の65%に対して92%)を引き出した。
【0203】
性能の向上:文献によると、塩化ナトリウムなどの「電荷遮蔽剤」の濃度が高くなると、粒子の(ζ電位としても知られる)表面電荷が減少する(国際標準ISO 13099-1、2012, "Colloidal systems - Methods for Zeta potential determination- Part 1: Electroacoustic and Electrokinetic phenomena"「コロイドシステム-ζ電位測定のための方法-第1編:電気音響現象および電気運動現象」)(Dukhin, A.S.;Goetz, P.J. (2017). Characterization of liquids, nano- and micro- particulates and porous bodies using Ultrasound.「超音波を用いる液体、ナノ粒子およびマイクロ粒子、ならびに多孔質体の特性評価」Elsevier)(Russel, W. B.;Saville, D.A.;Schowalter, W. R. (1989). Colloidal Dispersions.「コロイド分散」Cambridge University Press)。この表面電荷の低下は、理論上は、細胞取込みの低下および粒子の安定性の低下により、当て布の効力の低下に繋がることになる。図6は、0%~35%の範囲の当て布中のNaClの種々の濃度について得られた微粒子の電荷データを示す一組の棒グラフである。図6は、存在するNaCl量と電荷の低下の間に直線性の傾向があることを示す。
【0204】
図7は、18重量%の塩化ナトリウムを含む当て布と塩化ナトリウムを含まない当て布で治療した腫瘍およびリンパ節を比較する体内分布データを示す2つの棒グラフを示す。この図は、塩化ナトリウム濃度の増加に起因する表面電荷の低下にも拘わらず、本出願に記載される範囲で塩化ナトリウムを添加すると、実施例1の製剤に比較して腫瘍およびリンパ節での薬剤の組織保持率が意外にもそれぞれ400%および1000%を超えるまで改善されたことを示している。この改善は、実施例1で参照した製剤に対比して本出願の製剤の臨床試験で示されていた。
【0205】
図8Aは、本発明の一実施態様に従って、当て布の頬粘膜への貼付を示す写真であり、図8Bは、舌前部の2/3の粘膜病変への当て布の貼付を示す写真である。
【0206】
図9は、18%のNaClを含む本発明の実施態様に従う当て布の使用およびNaClを含まない当て布の使用について、時間の関数として腫瘍体積縮小率の2つのプロットを示す。この図は、実施例1の製剤に比較して、本実施態様では腫瘍体積縮小率が大幅に改善されることを示している。
【0207】
実施例3:システムの調製
500 RPMで定常的に撹拌しながら、0.676 gのキトサンを3372 gの精製水中に混合した。6.29 gの酢酸をこの混合物に加えて、キトサンを500 RPMで溶解するまでさらに撹拌させた。1.01 gの塩化ナトリウムを844 gの精製水中に溶解し37℃に加熱した。これに1.26 gのシスプラチンを加えて30分間溶解させた。0.169 gのトリポリリン酸ナトリウムを加えて、500 RPMで溶解するまで5分間混合した。シスプラチン-トリポリリン酸ナトリウム溶液をキトサン溶液に一定流量で加えて、微粒子を形成した。
【0208】
スクラロース溶液を、1.26 gのスクラロースを12.6 gの精製水に加えて、1分間渦流攪拌して調製した。0.633 gのキトサンを、500 RPMで3分間一定に撹拌しながら精製水中で混合した。3.36 gの酢酸を混合物に加えて、キトサンを溶解するまでさらに撹拌した。この溶液に、0.211 gのヒプロメロースおよび422 mLのプロピレングリコールを加えて、完全に溶解するまで撹拌した。次いでこの溶液を、スクラロース溶液とともに微粒子と組み合わせて、完全に混合して医薬品溶液を作製した。
【0209】
医薬品溶液を型内に分注して急速冷凍した。型を凍結乾燥機に移して、水分が全て除去されるまで医薬品を凍結乾燥させた。
【表3】
【表4】
【0210】
実施例4:口唇がんの治療
患者は、進行性ステージ4の口唇SCCと診断され、非常に急速に成長する腫瘍として特定された低分化腫瘍を患っていた。患者を、4回の外来治療を含み1週間に亘って当て布で治療した。この投与には、各外来時に12 mgのシスプラチンを含んだ(10分間で互いに隣接して配置した2枚の当て布を、3回繰返して貼付けた)。患者は1週間で合計48 mgのシスプラチンを投与された。患者は、安全性や腫瘍寸法の縮小など、治療に対して顕著な応答を示した(図11)。
【0211】
実施例5:乾癬の治療
当て布を、シスプラチンに代えてアラントインを用いて、上述と同じ方法で製造した。中等度の乾癬を患う患者を、アラントイン当て布を使用して週に3回治療した。図12を参照のこと。
【0212】
上述の本発明の実施態様は、単なる例示であることを意図しているが、多くの変更および修正が当業者には明白である。このような変更および修正は全て、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内にあることを意図している。上述の発明は、理解を明確にする目的で例示および実施例によってある程度詳細に説明されているが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で特定の変更および修正を実施してもよいことが分かっている。さらに本明細書に提供される参考文献のそれぞれは、各々の参考文献が個別に参照により組み込まれるのと同じ程度に、その全体が参照により組み込まれる。本出願と本明細書に提供される参考文献との間に矛盾が存在する場合には、本出願が優先するものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】