(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】微多孔性膜製造における閉ループ共沸ベース溶媒抽出及び回収法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
C08J9/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574260
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 US2022072875
(87)【国際公開番号】W WO2022266595
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501328762
【氏名又は名称】アムテック リサーチ インターナショナル エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100118094
【氏名又は名称】殿元 基城
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】ウォーターハウス,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ロジャース,コリー エス
(72)【発明者】
【氏名】ホステトラー,エリック ビー
(72)【発明者】
【氏名】ペカラ,リチャード ダブリュー
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AB01
4F074AC02
4F074AG04
4F074AG11
4F074CB34
4F074CB44
4F074CB47
4F074CC02X
4F074CC02Z
4F074DA08
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA49
(57)【要約】
環境に優しい閉ループ製造プロセス(101、102)は、ポリマー-可塑剤混合物の注型成形又は押出成形、それに続いて、無孔性フィルム形成(20)、共沸溶媒を用いた可塑剤の抽出(22)、それによる溶媒含有シート及び可塑剤及び共沸溶媒の混合物の形成、再利用のために可塑剤及び共沸溶媒を分離するための混合物の蒸留(28)、微細孔を形成するための溶媒含有シートからの共沸溶媒の蒸発(30)、並びに製造プロセスで再利用するための活性炭からの共沸溶媒のその後の吸着-脱着(34)又は蒸気凝縮(36)によって生じた溶媒蒸気の捕獲によって、微多孔性膜(32)を製造する。共沸溶媒は少なくとも2成分の混合溶媒であり、その一方は可塑剤を効率的に除去するように設計され、他方の成分は共沸溶媒を不燃性にさせるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料及び可塑剤材料の熱誘導相分離から形成される微多孔性膜を製造する方法であって、前記微多孔性膜が、厚さと、前記厚さ全体にわたって連通する相互接続孔とを有し、前記孔が、可塑剤材料を抽出するための可塑剤抽出溶媒の使用及びその後の可塑剤抽出溶媒の除去によって形成される方法において、改善が、
ポリマー及び可塑剤の混合物を押出成形又は注型成形して、ポリマー-可塑剤無孔性フィルムを形成することと;
前記可塑剤を抽出するように配合された第1の成分と、共沸溶媒に不燃性特性を付与するように配合された第2の成分とを含む共沸溶媒を前記無孔性フィルムに適用し、前記可塑剤の抽出によって、共沸溶媒含有シートと、可塑剤及び共沸溶媒の混合物とが得られることと;
前記可塑剤を前記共沸溶媒から分離して、前記可塑剤及び前記共沸溶媒を再利用のために精製された状態で回収することと;
前記共沸溶媒含有シートに熱を加え、前記共沸溶媒含有シートからの前記共沸溶媒の気化によって共沸溶媒蒸気を発生させ、前記共沸溶媒の気化によって前記微多孔性膜が生成し、生成した前記共沸溶媒蒸気は共沸溶媒流体の回収及び再利用に利用可能であることと
を含む、方法。
【請求項2】
前記共沸溶媒が貯蔵所から供給され、
活性炭への吸着により前記共沸溶媒蒸気を回収することと;
蒸気を使用して、前記吸着した共沸溶媒を前記活性炭から脱着し、前記脱着した共沸溶媒を、無孔性フィルムへの適用に使用するための回収共沸溶媒流体として貯蔵所に送出し、それによって、微多孔性膜の製造において閉ループの共沸ベースの溶媒抽出及び回収システムを形成すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記共沸溶媒が、前記第1成分としてトランス-ジクロロエチレン(t-DCE)を含有し、前記第2成分として1種若しくは複数種のフッ素化合物を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記共沸溶媒が貯蔵所から供給され、
前記共沸溶媒蒸気を回収し、前記共沸溶媒蒸気から気化潜熱を抽出し、前記共沸溶媒を冷却及び凝縮させることと;
前記凝縮された共沸溶媒を、前記無孔性フィルムへの適用に使用するための回収共沸溶媒流体として貯蔵所に送達し、それによって、微多孔性膜の製造において閉ループ共沸ベースの溶媒抽出及び回収システムを形成することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記共沸溶媒が、前記第1成分としてトランス-ジクロロエチレン(t-DCE)を含有し、前記第2成分としてフッ素化合物を含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
向流抽出器によって前記共沸溶媒を前記無孔性フィルムに適用して、前記可塑剤を前記無孔性フィルムから抽出し、可塑剤と共沸溶媒との前記混合物を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
蒸留ユニットが可塑剤と共沸溶媒との前記混合物を受け取り、精製された状態の前記可塑剤及び前記共沸溶媒が再利用に適切になるようにそれらを分離する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
向流抽出器によって前記共沸溶媒を前記無孔性フィルムに適用して、前記可塑剤を前記無孔性フィルムから抽出し、加熱乾燥器が前記向流抽出器から前記共沸溶媒含有無孔性フィルムを受け取り、共沸溶媒液の回収及び再利用のために前記共沸溶媒蒸気を発生させる気化熱を加える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記微多孔性膜を二軸延伸して、その厚み及び多孔率を確立することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
可塑剤材料の熱誘導相分離から形成されたポリマーマトリックスであって、厚さを有し、機械的完全性を提供するためにポリエチレンを含むポリマーマトリックスと;
不燃性共沸溶媒による前記可塑剤材料の抽出とその後の蒸発により、前記ポリマーマトリックスの厚さ全体に連通する相互接続孔と
を含む、自立性微多孔性膜。
【請求項11】
前記不燃性共沸溶媒が25ダイン/cm以下の表面張力を示す、請求項10に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項12】
前記不燃性共沸溶媒が15~25ダイン/cmの表面張力を示す、請求項11に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項13】
前記可塑剤が初期沸点範囲を有し、前記不燃性共沸溶媒が25ダイン/cm以下の表面張力、及び前記可塑剤の前記初期沸点範囲よりも少なくとも100℃低い沸点を示す、請求項10に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項14】
前記ポリエチレンが、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、超高分子量ポリエチレン(VHMWPE)、又は高分子量-高密度ポリエチレン(HMW-HDPE)の1種若しくは複数種を含む、請求項10に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項15】
前記ポリマーマトリックスが無機フィラーをさらに含む、請求項10に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項16】
前記ポリマーマトリックスがシート状であり、エネルギー貯蔵デバイスアセンブリでの使用のために構成されている、請求項10に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項17】
前記ポリマーマトリックスがシート状であり、電池セパレータとしての使用のために構成されている、請求項10に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項18】
前記電池セパレータシートが対向する側面を有し、その表面の一方又は両方がリブパターンによってエンボス加工されている、請求項17に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項19】
前記電池セパレータシートを二軸延伸して、その厚さ及び多孔率が確立される、請求項17に記載の自立性微多孔性膜。
【請求項20】
ポリオレフィン及び可塑剤の注型成形又は押出成形混合物から得られる、注型成形又は押出成形されたポリオレフィンシートと;
前記可塑剤を抽出するために配合された第1の成分と、共沸溶媒に不燃性を付与するために配合された第2の成分とを含む共沸溶媒と
を含む、共沸溶媒含有シート。
【請求項21】
前記ポリオレフィンがポリエチレンを含む、請求項20に記載の共沸溶媒含有シート。
【請求項22】
前記ポリオレフィンが、UHMWPE、VHMWPE、又はHMW-HDPEの1種若しくは複数種を含む、請求項20に記載の共沸溶媒含有シート。
【請求項23】
前記共沸溶媒が、前記第1の成分としてトランス-ジクロロエチレン(t-DCE)を含有し、前記第2の成分として1種若しくは複数種のフッ素化合物を含有する、請求項20に記載の共沸溶媒含有シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年6月14日に出願された米国特許出願第63/210,382号の利益を主張するものであり、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
著作権表示
(著作権)Amtek Research International LLC。本特許文献の開示内容の一部は、著作権保護の対象となる資料を含む。著作権者は、特許商標庁の特許ファイル又は記録に記載されているように、本特許文献又は本特許開示の誰によるファクシミリ複製についても異議を持たないが、それ以外の全ての著作権を留保する。37CFR§1.71(D)。
【0003】
技術分野
本開示は、微多孔性膜の製造に関し、特にシート状の押出成形ポリマー-可塑剤混合物から可塑剤を共沸溶媒によって抽出し、共沸溶媒を蒸発させて膜に微多孔を形成し、その後、共沸溶媒を吸着及び脱着して再利用する、環境に優しい閉ループプロセスに関する。
【背景技術】
【0004】
微多孔性膜は、その中を流体が流れるように設計された構造を有する。流体は液体又は気体のいずれであることも可能であり、一般に、膜の孔径は、所望の流束を達成するために流体の平均自由行程の少なくとも数倍である。微多孔性膜の孔径範囲は一般に10ナノメートルから数ミクロンであり、平均孔径は1マイクロメートル未満である。孔径及びポリマーマトリックスが可視光を散乱するのに十分なサイズであるため、このような膜は一般に不透明である。本明細書で使用される「微多孔性膜」という用語は、「微多孔性フィルム」、「微多孔性シート」及び「微多孔性ウェブ」などの科学文献及び特許文献で使用される他の記載を包含する。
【0005】
微多孔性膜は、濾過、衣服又は医療用ガウン用途の通気性フィルム、電池セパレータ、合成印刷シート、及び外科用ドレッシングなどの多種多様な用途に利用されてきた。場合によっては、微多孔性膜は、付加的な機能性(例えば、耐引裂性、耐酸化性)を付与するために、他の物品(例えば、不織布物品)にラミネートされる。微多孔性膜はまた、製造プロセスの一部として、又は二次的なステップにおいて、機械的又は横方向の延伸を受けることもある。
【0006】
微多孔性膜の製造は、一般に4つのカテゴリーに分類される:
1.キャビテーション(Cavitation)。無孔性ポリマーシートの押出成形と、それに続く延伸によって、多孔性形成を誘導する。紙おむつ用フィルムは、CaCO3充填ポリオレフィン膜から製造されることが多く、その後、延伸してフィラー-ポリマー界面に孔又は空隙を誘導する。アイソタクチックポリプロピレンも無孔性シートに押出成形され、その後、延伸すると、ベータ-からアルファ-への結晶変換の結果として空隙又は多孔性を誘導することができる。このようなフィルムは電池セパレータとして使用されている。
2.犠牲孔形成剤。無機フィラーを高い割合で含む無孔性ポリマーシートを押出成形し、その後これを抽出し、相互連結した多孔性を形成する。例えば、硫酸ナトリウムはポリエチレンと一緒に押し出され、その後水で抽出され乾燥され、電池セパレータを形成する。
3.非溶媒誘導相分離。このアプローチでは、ポリマーを溶媒中に溶解して均一な溶液を形成し、次いで、それをベルト又はプレートに注型成形して、その後ポリマーの非溶媒に浸漬する。例えば、ポリスルホンはジメチルスルホキシド中で容易に溶解し、ガラスプレート上に薄いフィルム状に注型成形することができる。その後、注型成形したフィルムを水浴中に入れると、ポリマーの相分離が生じ、溶媒の蒸発に伴って孔が形成される。このアプローチは、膜の一方の面から他方の面まで異なる孔径が存在することを意味する非対称膜の製造に一般に使用される。
4.熱誘導相分離。このプロセスでは、ポリマーを熱的に安定な可塑剤(例えば、パラフィンオイル)と高温でメルトブレンドし、次いで、ポリマー-可塑剤混合物を無孔性フィルム又は物体に注型成形又は押出成形することによって均一な混合物を形成する。無孔性フィルム又は物体は冷却され、ポリマー及び可塑剤の相分離が誘導される。その後、溶媒抽出及び乾燥によって可塑剤を除去し、微多孔性膜を形成する。溶媒及び可塑剤の分離と再利用を容易にするため、それらの沸点は50℃以上離れている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電池セパレータは、熱誘導相分離プロセスを用いて一般的に製造され、その後、ヘキサン、トリクロロエチレン、塩化メチレン又は他の溶媒を用いて熱的に安定な可塑剤を抽出する。政府規制機関は、このような溶媒に関するリスク評価を継続的に実施しており、環境及び労働者の暴露に関する懸念を有している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ほとんどの液式鉛(Pb)-酸電池(flooded lead(Pb)-acid batteries)には、ポリエチレンセパレータが含まれる。これらの微多孔性セパレータが十分に酸湿潤性となるためには、沈殿シリカなどの無機充填材を大量に必要とするため、「ポリエチレンセパレータ」という用語は誤用である。セパレータ中の沈殿シリカの体積分率及びその分布は一般にその電気的(イオン的)特性を制御し、セパレータ中のポリエチレンの体積分率及び配向は一般にその機械的特性を制御する。市販のポリエチレン製セパレータの多孔率は、一般に50%~65%である。
【0009】
Pb-酸セパレータの場合、熱誘導相分離プロセスを用いて製造されるのが一般的である。最初に、沈殿シリカをポリオレフィン、可塑剤(すなわち、プロセスオイル)、及び様々な副成分と組み合わせてセパレータ混合物を形成し、これをシートダイを通して高温で押出成形し、オイル充填シートを形成する。オイル充填シートを所望の厚さ及び形状までカレンダー処理し、プロセスオイルの大部分は有機溶媒で抽出される。ヘキサン及びトリクロロエチレンは、Pb-酸セパレータ製造において最も一般的に使用される2種の溶媒である。溶媒含有シートを乾燥させ、微多孔性ポリオレフィンセパレータを形成し、特定の電池設計に適切な幅に切断される。
【0010】
ポリエチレンセパレータはロール状態でPb-酸電池製造業者に納入され、ここでセパレータは、電極を挿入して電極パッケージを形成することができるようにセパレータ材料を切断し、その端部を封着することによって「エンベロープ」を形成する機械へと供給される。電極パッケージは、セパレータが正極と負極との間の物理的なスペーサー及び電子絶縁体として機能するように積み重ねられる。その後、組み立てられた電池に硫酸を導入し、電池内のイオン伝導を促進する。
図1Aは、片面にエンボス加工されたリブを有し、
図1Cに示す種類のPb-酸電池アセンブリに設置するように構成された例示的な電池セパレータシートを示す(電池セパレータシートは、代替的に、その両面にエンボス加工されたリブを有していてもよい)。
図1Bは、
図1Aの電池セパレータシートから形成された電池セパレータエンベロープの図であり、ワイヤグリッド電極が部分的に挿入された開放端で示されている。
図1Cは、あるセルから次のセルへ電気を通すために金属ストリップで接続されたセルとして組み立てられた電極パッケージのグループを示す。セパレータは、電極間の物理的なスペーサー及び電子的な絶縁体として機能する。
【0011】
セパレータに含まれるポリオレフィンの主な目的は、(1)高速でセパレータを包囲することができるようにポリマーマトリックスに機械的完全性を与えること、及び(2)電池の組み立て中又は動作中にグリッドワイヤの穿孔を防止することである。したがって、疎水性ポリオレフィンは、好ましくは、高い耐穿孔性を有する微多孔性ウェブを形成するのに十分な分子鎖の絡み合いを提供する分子量を有する。親水性シリカの主な目的は、セパレータウェブの酸湿潤性を高め、それによってセパレータの電気抵抗率を下げることである。シリカがない場合、硫酸は疎水性ウェブを湿潤せず、イオン輸送が起こらないため、電池が作動しなくなる。その結果、セパレータのシリカ成分は、通常、セパレータの約55重量%~約80重量%を占め、すなわち、セパレータは、約2.0:1~約3.5:1のシリカ対ポリエチレンの重量比を有する。
【0012】
Li-イオン電池、一次Li-金属電池、又は充電式Li-金属電池システム用に設計されたセパレータは、一般に、熱誘導相分離プロセスを用いて製造される。この場合、分子量500,000g/モル~1,000万g/モルの様々なグレードのポリエチレンが可塑剤(例えば、パラフィンオイル)と組み合わされ、次いでシートダイ又は環状ダイを通して押出成形され、オイル充填シートが形成される。このオイル充填シートは、その厚さを減少させ、機械方向及び横方向の両方の機械的特性を向上させるために、しばしば二軸配向される。次に、二軸配向されたシートを塩化メチレンの抽出浴に通して可塑剤を除去し、その後溶媒の蒸発に伴って孔が形成される。得られた電池セパレータは、典型的に3μm~25μmの範囲の厚さを有し、35%~65%の間の多孔率を有する。
【0013】
合成印刷用途の微多孔性膜の製造は、Schwarzらによって米国特許第5,196,262号明細書に例示されている。この場合、ポリマーマトリックスは、>10dl/gの固有粘度を有する超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)と、<50g/10分(ASTMD1238-86条件)のメルトフローインデックスを有する低分子量ポリエチレンとのブレンドを構成する。これらのポリマーは、高い割合の微細分割された水不溶性のケイ質充填剤、他の副成分、及び加工用可塑剤と組み合わされて混合物を形成し、この混合物は、その後、シートへと押出成形され、このシートから可塑剤の大部分が溶媒によって抽出される。適切な有機抽出液の例としては、トリクロロエチレン、ペルクロロエチレン、塩化メチレン、ヘキサン、ヘプタン及びトルエンが挙げられる。得られた微多孔性膜は、PPG IndustriesからTeslin(登録商標)の商標で販売されている。
【0014】
トリクロロエチレン、塩化メチレン及びヘキサンなどの有機溶媒に関連する環境圧力及び健康への懸念の高まりを受けて、有毒物質への作業員の曝露を最小限に抑え、抽出溶媒及び可塑剤を閉ループで効率的にリサイクルするプロセスから、顧客の性能要件を満たすことができる微多孔性膜の製造に対する新たな持続可能なアプローチが必要とされている。
【0015】
開示の要約
環境に優しい閉ループ製造プロセスは、ポリマー材料及び可塑剤材料の熱誘導相分離から形成される微多孔性膜を製造する。微多孔性膜は、自立性を示し、厚さを有し、厚さ全体にわたって連通する相互接続孔を有する。「自立性」とは、エネルギー貯蔵デバイスアセンブリに使用するために、シートの形態で巻いたり、解いたりするなどの操作を可能にする十分な機械的特性を有するシートを指す。孔は、可塑剤材料を抽出するための可塑剤抽出溶媒の使用と、その後の可塑剤抽出溶媒の除去によって形成される。
【0016】
微多孔性膜を製造する方法は、ポリマーと可塑剤との混合物を注型成形又は押出成形して、ポリマー-可塑剤無孔性フィルムを形成することを伴う。少なくとも2種の溶媒の混合物から製造され、無孔性フィルムに適用される共沸溶媒は、可塑剤を抽出するように配合された第1の成分と、共沸溶媒に不燃性特性を付与するように配合された第2の成分とを含む。可塑剤を抽出すると、共沸溶媒含有シートと、可塑剤及び共沸溶媒の混合物とが得られる。可塑剤を共沸溶媒から分離すると、可塑剤及び共沸溶媒が精製された状態で回収され、再利用できる。共沸溶媒含有シートに熱を加えることにより、共沸溶媒含有シートから共沸溶媒が気化して共沸溶媒蒸気が発生する。共沸溶媒の気化により微多孔性膜が生成し、生成した共沸溶媒蒸気は共沸溶媒流体の回収及び再利用に利用できる。
【0017】
付加的な態様及び利点は、添付図面を参照して好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】Pb-酸電池アセンブリで使用するように構成された電池セパレータシートの絵画図である。
【
図1B】電池セパレータエンベロープ内に部分的に挿入されたワイヤグリッド電極のアセンブリとして示された電極パッケージの図である。エンベロープは、
図1Aの電池セパレータシートから切断されて形成され、電池セパレータエンベロープ内のワイヤグリッド電極の配置を示すために、その側面の一方が折り畳まれて描かれている。
【
図1C】Pb-酸電池の内部を示す絵画図であって、あるセルから次のセルに電気を通すために金属ストリップで接続されたセルとして組み立てられた電極パッケージを示すために、電池ケースの側部が取り除かれている。
【
図2】ポリマー-可塑剤ブレンドの熱誘導相分離から形成される微多孔性膜の溶媒選択基準を要約したチャートである。
【
図3】微多孔性膜の製造における閉ループ共沸ベースの溶媒抽出及び炭素床回収法を示す図である。
【
図4】微多孔性膜の製造における閉ループ共沸ベースの溶媒抽出及び蒸気凝縮回収法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
熱誘導相分離を使用する微多孔性膜の製造において、溶媒選択の主な考慮事項には、物理的特性、化学的特性、装置適合性、安全性、リサイクル性、コスト、及び所望の製品特性(例えば、孔径分布)を達成する能力が含まれる。溶媒選択基準の概要を
図2に示す。
【0020】
健康及び環境リスクを最小限に抑えながら、全ての選択基準を満たすことができる単一の溶媒、特に不燃性の溶媒を特定する作業は、困難な課題である。欧州連合の化学物質の登録、評価、認可及び制限(European Union Registration,Evaluation,Authorisation and Restriction of Chemicals)(REACH)及び米国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency)(EPA)の規制から、電池セパレータとして使用される微多孔性膜の製造において抽出溶媒としてのトリクロロエチレン及び塩化メチレンを排除するという継続的な圧力が、微多孔性膜を製造するための新しいアプローチを策定することを余儀なくしている。
【0021】
2種以上の溶媒の混合物は、抽出剤としてのトリクロロエチレン及び塩化メチレンを排除するための魅力的なアプローチに思われ得るが、出願人は、理想溶液としてではなく共沸物として挙動する溶媒の重要性を決定した。共沸混合物は蒸留中に液相及び気相の両方で同一組成を示す。これとは対照的に、理想溶液は2種の別々の成分として挙動し、低沸点溶媒がまず可塑剤とともに混合物から除去され、続いて高沸点溶媒が除去される。共沸溶媒の沸点及び表面張力は、微多孔性膜の製造に関連する物理的特性である。適切な共沸溶媒は、プロセスオイルの初期沸点範囲よりも著しく低い沸点(少なくとも100℃)を示すので、混合物を抽出器から除去する際に、プロセスオイル及び共沸溶媒は蒸留によって容易に分離可能であり、プロセスで再利用することができる。溶媒含有シートから共沸液を蒸発させる際、毛細管力及び収縮を最小限に抑え、膜の多孔性をより多く保つために、表面張力が低いことが好ましい。25℃で25ダイン/cm以下の表面張力が望ましく、好ましい範囲は15~25ダイン/cmである。
【0022】
多くの周知の共沸物(例えば、95/5エタノール-水)があるが、良好な可塑剤/プロセスオイル溶解性及び不燃性の組合せを達成することは困難な課題である。最近市販されている、トランス-ジクロロエチレン(t-DCE)と1種若しくは複数種のフッ素化合物を含む共沸物は、t-DCE自体は2℃のみの引火点を有するが、必要な組合せを提供する。このような市販品の例としては、Tergo(登録商標)MCF(Microcare Corporation)、Novec(登録商標)71DE(3M Company)、Vertrel(登録商標)SDG(Chemours Company)、及びSolvex(商標)HD Plus(Banner Chemicals Limited)が挙げられる。
【0023】
共沸物は一定沸点の混合物として説明されることがあるが、閉ループ回収システムで必要とされる活性炭からの共沸物の吸着-脱着はあまり研究されていない。さらに、共沸物の化学的性質に影響を与えることなく、活性炭床から蒸気によって共沸物を繰り返し脱着する能力は、これまで知られていなかった。別の方法として、共沸物を含むt-DCEは、蒸気をアンモニア冷却器/熱交換器システム又は他の蒸気凝縮回収システムに通した後、「氷」として回収することができる。
図3は、微多孔性膜の製造における、閉ループの共沸物ベースの溶媒抽出及び炭素床回収法を示している。
図4は、微多孔性膜の製造における、閉ループの共沸ベースの溶媒抽出及び蒸気凝縮回収法を示している。以下では、
図3及び
図4にそれぞれ概略を示した閉ループ溶媒回収システムの実施形態10
1及び10
2のそれぞれについて、共沸溶媒の抽出、及び再利用のための回収の際に実行されるプロセスステップを説明する。
【0024】
図3及び
図4を参照すると、注型成形又は押出成形されたポリマー-可塑剤混合物20から形成された無孔性可塑剤充填フィルムは向流抽出器22に通される。溶媒貯蔵タンク24から供給され、流体弁26によって流量制御された共沸溶媒は、フィルムの方向とは反対方向に向流抽出器22に流入する。抽出器22は第1の内部ゾーンで可塑剤-共沸溶媒混合物を生成し、この混合物は蒸留ユニット28に輸送され、ここで可塑剤及び共沸溶媒は再利用のために分離される。蒸留ユニット28は、精製された状態の共沸溶媒凝縮物を生成する。精製された共沸溶媒は、溶媒貯蔵タンク24から供給される共沸溶媒と組み合わせて再利用するために、向流抽出器22の第2の内部ゾーンに戻される。溶媒を含むフィルムは向流抽出器22を出て、そして共沸溶媒を蒸発させ、それによって共沸溶媒蒸気を発生させるエアーナイフを備えた熱源である加熱乾燥器30に通される。微多孔性膜32は加熱乾燥器30から出る。
【0025】
溶媒回収システムの実施形態10
1では、加熱乾燥器30の運転によって生成された共沸溶媒蒸気は、
図3に示すように、炭素床システム34を用いた吸着-脱着によって回収される。共沸溶媒蒸気は活性炭上に蒸発し、活性炭は共沸溶媒を吸着する。その後、蒸気を使って活性炭から共沸溶媒を熱脱着し、これは貯蔵タンク24に送られる。
【0026】
溶媒回収システムの実施形態10
2では、加熱乾燥器30の運転によって生成された共沸溶媒蒸気は、
図4に示すように、蒸気凝縮器システム36により回収される。共沸溶媒蒸気は、溶媒蒸気から気化潜熱を抽出するために蒸気凝縮器システム36に入り、それによって共沸溶媒を冷却及び凝縮させる。回収された共沸溶媒は貯蔵タンク24に送られる。
【0027】
図3及び
図4は、流体弁26を通して向流抽出器22に接続された溶媒貯蔵タンク24の出口を示している。この構成は、回収された共沸溶媒が可塑剤充填フィルム上を洗浄し、向流抽出器22を通過するシートからの可塑剤除去を継続する閉ループ溶媒回収システムの実施形態を実施する。
【0028】
場合によっては、共沸溶媒の効率的な回収及び再利用のために、活性炭及び蒸気凝縮器溶媒回収システムを組み合わせて使用することが有利となり得る。蒸気が熱源として利用される場合、共沸溶媒/水液相分離が回収プロセスの必要な部分となり得ることを当業者は理解するであろう。
【0029】
出願人は、驚くべきことに、特定のフッ素化合物を含むt-DCE含有共沸物が、微多孔性膜の製造における次世代溶媒抽出及び回収プロセスの要件を満たすことができることを見出した。以下の実施例1及び2は、それぞれ、Pb-酸電池及びLi-イオン電池での使用に適した微多孔性膜の製造における、ポリマー及び可塑剤材料の押出成形ベースの処理について記載する。
【実施例】
【0030】
実施例1
UHMWPE(Celanese GUR 4150)、沈殿シリカ(PPG WB-2085)、及び副成分(酸化防止剤、潤滑剤、及びカーボンブラック)を水平ミキサー中で組み合わせ、低速撹拌でブレンドして均一混合物を形成した。次に、ホットプロセスオイル(ENTEK 800ナフテンオイル;Calumet Specialty Products)を乾燥成分上に噴霧した。この混合物は約58重量%の油を含有し、次に約215℃の溶融温度で作動する96mm逆回転二軸スクリュー押出機(ENTEK Manufacturing LLC)に供給された。押出機のスロートでインラインで追加のプロセスオイルを添加し、最終的なオイル含量を約65重量%にした。得られた塊をシートダイを通してカレンダーにし、リブパターンで約200μm~300μmの厚さのエンボス加工を施した。2本の冷却ロール上を通過させた後、可塑剤オイルを抽出するためにオイル充填シートを回収した。
【0031】
約160mm×160mmのオイル充填試料を、過剰量のTergo(登録商標)MCF溶媒を含むビーカーに入れ、室温で約5分間抽出した後、循環式オーブンで80℃で10分間乾燥させた。第2のオイル充填試料をトリクロロエチレンに入れ、同一条件で抽出及び乾燥させた。
【0032】
得られたセパレータ特性の比較を以下の表1に示す:
【0033】
【0034】
Tergo(登録商標)MCF溶媒抽出セパレータ及びTCE溶媒抽出セパレータは、同等の電気抵抗率及び規格化耐穿刺性特性を示す。電気(イオン)抵抗の測定は、試料を水中で10分間煮沸し、比重1.28の硫酸に20分間浸漬した後、Palico Model#9100 Measuring Systemを用いて行った。
【0035】
実施例2
ナフテン系プロセスオイル(140kg)をロスミキサーに分注し、そこでプロセスオイルを撹拌し、脱気した。次に、以下を添加し、オイルと混合した:
64kg UHMWPE(分子量約500万g/モル)
32kg VHMWPE(分子量約100万g/モル)
32kg HMW-HDPE(分子量約60万g/モル)
1.2kg ステアリン酸Li
1.2kg 酸化防止剤
【0036】
この混合物を約40℃で、均一な47重量%のポリマースラリーが形成されるまでブレンドした。次に、このポリマースラリーを、直径103mmの共回転二軸スクリュー押出機(ENTEK Manufacturing LLC)に輸送し、約215℃の溶融温度を維持した。2.75mmのギャップを有する直径257mmの環状ダイに供給するメルトポンプに押出物を通した。ダイを通る処理量は230kg/時間であり、押出物を空気で膨張させ、直径約2250mmの二軸配向オイル充填フィルムを作製し、この膨張押出物を次いで20m/分で上部ニップを通過させて気泡を崩壊させ、二重層を形成し、この二重層をその後サイドスリットし、2つの個別層を作成した。その後、個々のオイル充填層(厚さ約40μm)をクランプで固定した金属フレームに保持した。次いで、オイル充填層の約200mm×200mmの領域を、可塑剤オイル抽出用の過剰量のTergo(登録商標)MCF溶媒に、溶媒を撹拌しながら室温で約10分間暴露した。その後、溶媒を含むフィルムを循環空気オーブン中80℃で約5分間乾燥させた。その後、膜をフレームから取り外し、厚さ39.8μm、ガーレー(Gurley)透気度1182秒/100ccであることを確認した。製造工程の同一時点でトリクロロエチレンから抽出及び乾燥した膜についても、同等の値が得られた。多くの場合、可塑剤オイル抽出膜にさらに二軸延伸を行い、Li-イオン電池に使用するための最終的な厚さ及び多孔性を確立する。
【0037】
本発明の基本原理から逸脱することなく、上述の実施形態の細部に多くの変更を加えてもよいことは、当業者には明らかであろう。例えば、製造された微多孔性膜は、Pb-酸及びLi-イオン電池以外のエネルギー貯蔵デバイスに使用することができる。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲を参照してのみ決定されるべきである。
【国際調査報告】