(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】球形材料粒子を合成するための方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240614BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240614BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240614BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574466
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2022065130
(87)【国際公開番号】W WO2022253986
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(71)【出願人】
【識別番号】512082439
【氏名又は名称】アンスティテュ ポリテクニック ドゥ ボルドー
【氏名又は名称原語表記】Institut Polytechnique De Bordeaux
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シリル・エモニエ
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル・プチ
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム・オベール
(72)【発明者】
【氏名】ロランス・クロゲネック
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050HA04
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、連続反応器内で行われる球形材料粒子を合成するための方法に関する。一方の取込み管には、少なくとも1種の遷移金属硫酸塩を含む溶液Aが供給され、他方の取込み管には、水酸化物又は炭酸塩を含む溶液Bが供給される。この方法は、溶液A及びBを流速dA及びdBで反応管に送達する工程と、沈殿した前記前駆体を反応管の出口で回収する工程とを含む。反応管の長さ並びに送達流速dA及びdBは、反応管における滞留時間が10秒以下になるように構成され、反応管におけるpHは7~12であり、反応管における状態は層流状態である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形材料粒子を合成するための方法であって、前記方法は連続反応器内で行われ、前記連続反応器は反応管によって形成されており、前記反応管は2つの取込み管から供給を受け、反応管は長さLを有しており、
2つの取込み管のうち一方に、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)から選択される少なくとも1種の遷移金属硫酸塩を含む溶液Aが供給され、
他方の取込み管に、水酸化物又は炭酸塩及び必要に応じてキレート剤を含む溶液Bが供給され、
前記方法が、
a)溶液A及びBを、連続反応器の反応管にそれぞれd
A及びd
Bの流速で送達し、反応管において前駆体を沈殿させる工程と、
b)沈殿した前記前駆体を反応管の出口で回収する工程と
を含み、反応管の長さL並びに送達流速d
A及びd
Bが、反応管における滞留時間が10秒以下になるように構成され、反応管におけるpHが7~12であり、反応管におけるレジームが層流レジームである、方法。
【請求項2】
反応管における滞留時間が、1ミリ秒から10秒の間であり、反応管における滞留時間が、好ましくは5秒以下であり、反応管における滞留時間が、更により好ましくは1秒以下である、請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
反応管の長さLが、少なくとも1mmである、請求項1又は2に記載の合成方法。
【請求項4】
各取込み管及び反応管の内径が、少なくとも0.5mmであり、各取込み管の内径が、好ましくは1mm超であり、各取込み管及び反応管の内径が、更により好ましくは1mmから1.5mmの間である、請求項1から3のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項5】
反応管における温度が、20℃から70℃の間、好ましくは25℃から50℃の間である、請求項1から4のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項6】
溶液Aが、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)から選択される少なくとも3種の遷移金属硫酸塩を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項7】
水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、8-ヒドロキシキノリン、アンモニア、水酸化リチウム及びそれらの混合物から構成される群から選択され、水酸化物が、好ましくは水酸化ナトリウムである、請求項1から6のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項8】
炭酸塩が、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム及びそれらの混合物から構成される群から選択され、炭酸塩が、好ましくは炭酸ナトリウムである、請求項1から7のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項9】
各溶液A及びBが、蠕動ポンプによって送達される、請求項1から8のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項10】
送達流速d
A及びd
Bが、それぞれ少なくとも0.01ml/分である、請求項1から9のいずれか一項に記載の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球形材料粒子を合成するための方法、特にバッテリー電極材料の前駆体を合成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モルフォロジー及び/又は組成が制御された遷移金属前駆体(Ni、Mn、Co等)の合成は、現在、様々な方法、例えば共沈、ソル-ゲル方法又は固体-固体技術を用いて行われている。これらの異なる合成技術を用いて、炭酸塩又は水酸化物の形態の遷移金属の混合物を得ることができる。共沈は、特に、モルフォロジー及び組成が均質な凝集物が生成されるので、最も一般的に使用される方法である。共沈は、主にサーモスタット制御式の撹拌反応器において行われ、その反応器に、遷移金属及びその遷移金属と共に沈殿することになるアルカリ溶液(例えば、炭酸塩又は水酸化物-を含有する)を含有する溶液が注入される。残念ながら、この技術は、所望の遷移金属前駆体を得る前に数時間の熟成時間が必要である。Pimentaら(Chem. Mater. 2017、29、9923~9936頁)によって記載されている通り、マンガンが豊富な炭酸塩を合成するには、期待された組成を有する均質な球形凝集物を得るために、55℃で4時間の熟成時間が必要とされる。
【0003】
それゆえに、これらの従来の合成方法を改善する必要がある。
【0004】
CN110875472は、金属塩の混合物を含む第1の溶液及び第2のアルカリ溶液の2種の溶液が供給されたT字形マイクロ流体反応器を有し、それらの溶液を熟成タンクに導く合成デバイスを記載している。ここでも残念ながら、所望の遷移金属前駆体を得るために、熟成タンク内で2~10時間の熟成が必要とされる。
【0005】
文献H. Liangら、Chemical Engineering Journal 394(2020) 124846は、T字形マイクロ流体反応器を有する別のデバイスを記載している。この文献では、反応器には、NiSO4・6H2O、CoSO4・7H2O及びMnSO4・H2Oの混合物を含み、Ni/Co/Mnのモル比が0.6:0.2:0.2に等しい第1の溶液、並びにN-セチル-N,N,N,-トリメチルアンモニウムブロミドに溶解した第2の炭酸ナトリウム溶液(Na2CO3)が供給される。反応は、60℃の温度で行われ、反応器における時間は、わずか12秒である。沈殿した遷移金属前駆体は、反応器の出口で直接回収される。しかし、この合成方法では、バッテリーにおける電気化学的に高性能の活物質としての使用が期待されるマイクロメートルサイズではなく、数百ナノメートルの凝集物が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pimentaら(Chem. Mater. 2017、29、9923~9936頁)
【非特許文献2】H. Liangら、Chemical Engineering Journal 394(2020) 124846
【非特許文献3】Petricek, V.、Dusek, M. & Palatinus, L.(2014). Z. Kristallogr. 229(5)、345-352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特に、従来技術におけるこれらの欠点を克服することである。
【0009】
より具体的には、本発明の目的は、均質なマイクロメートルの形状を有するバッテリー電極の活物質の前駆体を速やかに合成するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明の目的は、球形材料粒子を合成するための方法であって、前記方法は連続反応器内で行われ、前記連続反応器は反応管によって形成されており、前記反応管は2つの取込み管(intake tube)から供給を受け、反応管は長さLを有しており、
2つの取込み管のうち一方に、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)から選択される少なくとも1種の遷移金属硫酸塩を含む溶液Aが供給され、
他方の取込み管に、水酸化物又は炭酸塩及び必要に応じてキレート剤を含む溶液Bが供給され、
前記方法が、
a)溶液A及びBを、連続反応器の反応管にそれぞれdA及びdBの流速で送達し、反応管において前駆体を沈殿させる工程と、
b)沈殿した前記前駆体を反応管の出口で回収する工程と
を含み、反応管の長さL並びに送達流速dA及びdBが、反応管における滞留時間が10秒以下になるように構成され、反応管におけるpHが7~12である、方法である。
【0011】
本発明者らは、予想外に、反応管における滞留時間が短い(10秒以下)ことにより、モルフォロジー及び組成が均質なマイクロメートルサイズの球形材料粒子を得ることが可能になることを発見した。実際、従来技術において使用されているものと同じ桁数の反応時間よりも短い反応時間で、サイズがより大きく(ナノメートルではなくマイクロメートル)、モルフォロジーがより均質な凝集物を得ることが可能になりうるということは、直感に反している。同様に、大幅に短い反応時間(時間ではなく秒)で類似のサイズの凝集物が得られることは驚くべきことである。これらの異なる態様により、マイクロメートルのバッテリー電極材料の前駆体のための生成時間を非常に著しく短縮することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
反応管における滞留時間は、本発明に従う合成方法を行うための必須の因子である。一実施形態によれば、反応管における滞留時間は、1ミリ秒から10秒の間である。特に、反応管における滞留時間は、少なくとも10ミリ秒、特に少なくとも50ミリ秒、好ましくは少なくとも100ミリ秒である。本発明では、「少なくとも10ミリ秒」とは、10秒未満及び少なくとも10ミリ秒、少なくとも20ミリ秒、少なくとも30ミリ秒、少なくとも40ミリ秒、少なくとも50ミリ秒、少なくとも60ミリ秒、少なくとも70ミリ秒、少なくとも80ミリ秒、少なくとも90ミリ秒、少なくとも100ミリ秒、少なくとも110ミリ秒、少なくとも120ミリ秒、少なくとも130ミリ秒、少なくとも140ミリ秒、少なくとも150ミリ秒、少なくとも160ミリ秒、少なくとも170ミリ秒、少なくとも180ミリ秒、少なくとも190ミリ秒、少なくとも200ミリ秒、少なくとも210ミリ秒、少なくとも220ミリ秒、少なくとも230ミリ秒、少なくとも240ミリ秒、少なくとも250ミリ秒、少なくとも260ミリ秒、少なくとも270ミリ秒、少なくとも280ミリ秒、少なくとも290ミリ秒、少なくとも300ミリ秒、少なくとも310ミリ秒、少なくとも320ミリ秒、少なくとも330ミリ秒、少なくとも340ミリ秒、少なくとも350ミリ秒、少なくとも360ミリ秒、少なくとも370ミリ秒、少なくとも380ミリ秒、少なくとも390ミリ秒、少なくとも400ミリ秒、少なくとも410ミリ秒、少なくとも420ミリ秒、少なくとも430ミリ秒、少なくとも440ミリ秒、少なくとも450ミリ秒、少なくとも460ミリ秒、少なくとも470ミリ秒、少なくとも480ミリ秒、少なくとも490ミリ秒又は少なくとも500ミリ秒の時間であると理解される。反応管における滞留時間は、10秒未満であり、特に5秒以下、例えば1秒以下でありうる。本発明では、「10秒未満」とは、少なくとも10ミリ秒及び10秒未満、9秒以下、8秒以下、7秒以下、6秒以下、5秒以下、4秒以下、3秒以下、2秒以下、1秒以下、900ミリ秒以下、890ミリ秒以下、880ミリ秒以下、870ミリ秒以下、860ミリ秒以下、850ミリ秒以下、840ミリ秒以下、830ミリ秒以下、820ミリ秒以下、810ミリ秒以下、800ミリ秒以下、790ミリ秒以下、780ミリ秒以下、770ミリ秒以下、760ミリ秒以下、750ミリ秒以下、740ミリ秒以下、730ミリ秒以下、720ミリ秒以下、710ミリ秒以下、700ミリ秒以下、690ミリ秒以下、680ミリ秒以下、670ミリ秒以下、660ミリ秒以下、650ミリ秒以下、640ミリ秒以下、630ミリ秒以下、620ミリ秒以下、610ミリ秒以下、600ミリ秒以下、590ミリ秒以下、580ミリ秒以下、570ミリ秒以下、560ミリ秒以下、550ミリ秒以下、540ミリ秒以下、530ミリ秒以下、520ミリ秒以下、510ミリ秒以下、500ミリ秒以下、470ミリ秒以下、480ミリ秒以下、490ミリ秒以下又は500ミリ秒以下の時間であると理解される。例えば、1ミリ秒から10秒の間とは、本発明では1ミリ秒、10ミリ秒、50ミリ秒、100ミリ秒、150ミリ秒、200ミリ秒、250ミリ秒、300ミリ秒、350ミリ秒、400ミリ秒、450ミリ秒、500ミリ秒、550ミリ秒、600ミリ秒、650ミリ秒、700ミリ秒、750ミリ秒、800ミリ秒、850ミリ秒、900ミリ秒、950ミリ秒、1秒、1.5秒、2秒、2.5秒、3秒、3.5秒、4秒、4.5秒、5秒、5.5秒、6秒、6.5秒、7秒、7.5秒、8秒、8.5秒、9秒、9.5秒及び10秒であると理解される。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、反応管におけるレジームは、層流レジームである。本発明者らは、予想外に、反応管に層流フローだけがあると、全く予想外により高い反応効率が得られることを発見した。実際にはそれとは対照的に、従来技術では、反応物が接触する確率を上昇させるために、特に、小さい直径の管に高流速を使用することによって、又はボール等の要素若しくは固定された混合要素を反応管に加えることによって、乱流レジームを得ようとすることが慣行になっている。本発明の条件では、少なくとも2種の遷移金属を有する前駆体を得ることが可能になり、これは、中間レジーム又は乱流レジームでは不可能である。
【0014】
「層流レジーム」とは、本発明では、すべての流体が多かれ少なかれ同じ方向に流れ、互いに反作用する局所的差異がない流体フローモードを意味すると理解される。層流レジームは、特に1500未満のレイノルズ数によって特徴付けることができる。
【0015】
「中間レジーム」とは、本発明では、すべての流体が多かれ少なかれ同じ方向に流れるが、わずかな混合(複数の小さい渦)を伴う流体フローモードを意味すると理解される。中間レジームは、特に1500~3000のレイノルズ数によって特徴付けることができる。
【0016】
「乱流レジーム」とは、本発明では、すべての流体が至る所で渦を巻き、そのサイズ、位置及び向きが絶えず変わる流体フローモードを意味すると理解される。乱流レジームは、特に3000超のレイノルズ数によって特徴付けることができる。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、反応管におけるレジームは、層流であり、1500未満のレイノルズ数を有する。好ましくは、反応管におけるレジームは、層流であり、1000未満のレイノルズ数を有し、より好ましくは、反応管におけるレジームは、層流であり、500未満のレイノルズ数を有する。
【0018】
本発明の合成方法において使用される連続反応器の反応管の長さLは、前記管における滞留時間が、10秒以下であるという条件で、任意の寸法をとることができる。管の長さLは、溶液A及びBの流速に適合させ、特に反応管において層流レジームを得るように適合させる。特に、反応管の長さLは、少なくとも1mmである。
【0019】
本発明に従って、各取込み管の内径は、層流レジームを得るように適合させる。
【0020】
特に、各取込み管及び反応管の内径は、少なくとも0.5mmである。
【0021】
反応管及び取込み管は、好ましくは簡単な管、すなわち任意の内部要素を備えていない管である。反応管及び取込み管は、好ましくは円形断面を有する。
【0022】
各取込み管及び反応管の内径は、好ましくは1mm超、特に1cm超、例えば2cm超である。より好ましくは、各取込み管及び反応管の内径は、1mmから1.5mmの間である。
【0023】
本発明に従う合成方法は、有利なことには、前駆体を得るために反応管を加熱する必要がない。この合成方法は、有利なことには、室温でもより高温でも行うことができる。このことに基づくと、反応管の温度は、20℃から70℃の間、好ましくは25℃から50℃の間である。「20℃から70℃の間」とは、本発明では、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃及び70℃であると理解される。
【0024】
反応管におけるpH値の範囲は、溶液A及びBにおける化合物の濃度、並びに/又は溶液A及びBの注入流速を調整することによって得られる。反応管におけるpHは、炭酸塩が溶液B中に存在する場合、好ましくは7~10、特に8の値を有する。水酸化物が溶液B中に存在する場合には、反応管におけるpHは、9~12、特に11の値を有する。
【0025】
本発明に従う合成方法は、バッテリー電極の活物質の任意の種類の前駆体、例えばLiイオン又はNaイオンバッテリーの前駆体を得るために使用することができる。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、溶液Aは、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)から選択される少なくとも2種の遷移金属硫酸塩を含む。特に、溶液は、少なくとも3種の遷移金属硫酸塩、特に少なくとも4種、特に少なくとも5種、特には少なくとも6種、特に少なくとも7種、特に少なくとも8種の遷移金属硫酸塩を含む。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、溶液Aは、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)から選択される少なくとも1種の遷移金属硫酸塩、特に少なくとも2種、特に少なくとも3種、特には4種の遷移金属硫酸塩を含み、特にそのNi:Co:Mn:Alのモル比は、0~1:0~1:0~1:0~1である。
【0028】
特に、溶液Aは、遷移金属硫酸塩の以下の14種の組合せのうちの1つを含む。
【0029】
【0030】
例えば、Ni:Co:Mn:Alのモル比は、0.8:0.05:0.1:0.05又は0.2:0.15:0.6:0.05である。特に、前駆体は、遷移金属Ni、Mn及びCoを含み、Ni:Mn:Coのモル比は1/3:1/3:1/3又は0.2:0.5:0.3である。特に、前駆体は、遷移金属Ni及びMnを含み、Ni:Mnのモル比は0.25:0.75である。遷移金属のそのような組成は、特に、Liイオンバッテリーの前駆体を得るために使用される。特に、溶液Aはまた、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及び鉄(Fe)から選択される少なくとも1種の遷移金属硫酸塩、特に少なくとも2種、特に少なくとも3種、特に少なくとも4種、特には5種の遷移金属硫酸塩を含む。溶液Aのそのような組成は、特にNaイオンバッテリーの前駆体を得るために使用される。
【0031】
特に、溶液Aは、遷移金属硫酸塩の以下の433種の組合せのうちの1つを含む。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
そのような組成物は、例えば、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸マンガン及び硫酸チタンを有し、Ni:Zn:Mn:Tiのモル比は0.48:0.02:0.4:0.1に等しい。
【0046】
溶液A中の前記少なくとも1種の遷移金属硫酸塩の濃度は、0.1mol/lから飽和まで、特に2mol/lである。特に、溶液A中の前記少なくとも1種の遷移金属硫酸塩の濃度は、少なくとも0.1mol/lである。「少なくとも0.1mol/l」とは、本発明では、少なくとも0.1mol/l、少なくとも0.2mol/l、少なくとも0.3mol/l、少なくとも0.4mol/l、少なくとも0.5mol/l、少なくとも0.6mol/l、少なくとも0.7mol/l、少なくとも0.8mol/l、少なくとも0.9mol/l、少なくとも1mol/l、少なくとも1.1mol/l、少なくとも1.2mol/l、少なくとも1.3mol/l、少なくとも1.4mol/l、少なくとも1.5mol/l、少なくとも1.6mol/l、少なくとも1.7mol/l、少なくとも1.8mol/l及び少なくとも1.9mol/lを意味すると理解される。
【0047】
溶液Bは、水酸化物又は炭酸塩、及び必要に応じてキレート剤を含有する水性溶液である。
【0048】
「水酸化物」とは、本発明では、水に溶解すると水酸化物イオン(OH-)を生じる任意の化合物を意味すると理解される。この水酸化物イオンは、反応管において溶液Aの遷移金属と接触させられると、遷移金属と共に沈殿する。本発明の一実施形態によれば、水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、8-ヒドロキシキノリン、アンモニア、水酸化リチウム及びそれらの混合物から構成される群から選択される。水酸化物は、好ましくは水酸化ナトリウムである。水酸化物の濃度は、0.1mol/lから飽和までの範囲でありうる。例えば、水酸化ナトリウムの場合、飽和濃度は、27mol/lである。水酸化物の濃度は、好ましくは4mol/lである。
【0049】
「炭酸塩」とは、本発明では、水に溶解すると炭酸塩イオン(CO3
2-)を生じる任意の化合物を意味すると理解される。この炭酸塩イオンは、反応管において溶液Aの遷移金属と接触させられると、遷移金属と共に沈殿する。一実施形態によれば、炭酸塩は、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム及びそれらの混合物から構成される群から選択される。特に、炭酸塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム及びそれらの混合物から構成される群から選択される。炭酸塩は、好ましくは炭酸ナトリウムである。炭酸塩の濃度は、0.1mol/lから飽和までの範囲でありうる。炭酸ナトリウムの場合、飽和は、室温で2mol/lの濃度に対応する。炭酸塩の濃度は、好ましくは飽和濃度である。
【0050】
「キレート剤」とは、本発明では、溶液A中に存在する遷移金属をキレートする/錯化する特性を有する任意の化合物を意味すると理解される。そのような化合物の存在は、沈殿中に組成を制御することを可能にするという点で有利である。本発明の一実施形態によれば、キレート剤は、任意の種類のアンモニウム、例えば第一級アンモニウム、第二級アンモニウム、第三級アンモニウム又は第四級アンモニウムでありうる。特に、キレート剤は、アンモニア及びN-セチル-N,N,N,-トリメチルアンモニウムブロミドから構成される群から選択される。キレート剤は、好ましくはアンモニアである。キレート剤の濃度は、0.1mol/l~5mol/lの範囲でありうる。特に、アンモニアの場合、濃度は、好ましくは0.4mol/lである。
【0051】
溶液A及びBは、任意の手段によって、特に任意の種類のポンプによって送達される。例えば、溶液A及びBは、一定の流速を確保するポンプによって送達される。このことに基づくと、使用されるポンプは、空気ダイアフラムポンプ、蠕動ポンプ又は容積式ポンプでありうる。本発明の一実施形態によれば、各溶液A及びBは、蠕動ポンプによって送達される。
【0052】
各溶液A及びBの流速は、反応管における滞留時間が10秒以下になり、特に反応管におけるレジームが層流レジームになるように適合させる。溶液A及びBは、同じ流速でも異なる流速でも送達することができる。特に、溶液Aの流速dAは、溶液Bの流速dBよりも速い。溶液A及びBの流速の比dA:dBは、好ましくは0.5:1から5:1の間である。本発明の一実施形態によれば、送達流速dA及びdBは、それぞれ、少なくとも0.01ml/分である。
【0053】
取込み管は、反応管の初期部分にそれらの出口の開口部を有する。反応管の初期部分は、反応管を通るフローの方向にあると理解される。この初期部分はミキサーとも呼ばれ、溶液A及びBのための混合スペースである。本発明の一実施形態によれば、取込み管の出口は、ミキサーでの溶液A及びBの混合が、並流又は向流によって行われるように構成される。
【0054】
向流混合を得るために、溶液A及びBのフローは、実質的に互いに平行であるが、反対方向でなければならない。このやり方では、溶液Aのフローは、溶液Bのフローに対して噴出させられる。向流混合は、特に、取込み管の出口を互いに実質的に平行に、互いに向かい合うように方向を向かせることによって達成することができる。ここで「実質的に」という用語は、取込み管の2つの出口が平行向きでずれが10度以下であることを網羅すると理解される。出口は、様々なやり方で配置することができる。例えば、取込み管と反応管の交差点は、「T」字形を有する。反応管及び取込み管の残りの部分は、任意の方向をとることができる。代替的に、取込み管の一方の出口は、他方の出口の直径よりも大きい直径を有する。次に、反応管のミキサーは、最大直径の開口部を有する取込み管の連続部に対応することができ、最も細い取込み管の端部をその中に含む。ここでも、反応管及び取込み管の残りの部分は、任意の方向をとることができる。いずれの場合も、溶液の流速は、取込み管に逆流が生じないように適合させ、十分に速い。この逆流を予防するために、特に、最も細い取込み管の端部に1つ又は複数の逆流防止弁を配置することができる。
【0055】
並流混合を達成するために、溶液A及びBは、実質的に互いに平行な、同じ方向のフローを有し、それらの溶液のうちの一方のフローは、他方の溶液のフロー内に含有されていなければならない。このやり方では、2種の溶液は、2種の溶液フローの間の接触帯域に対応する事実上の管において混合される。ここで「実質的に」という用語は、取込み管の2つの出口が平行向きでずれが10度以下であることを網羅すると理解される。並流は、特に、取込み管の一方の出口を、他方の管の出口の内側に配置することによって達成することができる。このやり方では、一方の出口は、他方の出口の直径よりも大きい直径を有する。ここでも、反応管のミキサーは、最大直径の出口を有する取込み管の伸展部に対応する。ここでも再び、反応管及び取込み管の残りの部分は、任意の方向をとることができる。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、工程b)中に沈殿した前駆体は、少なくとも5秒、特に少なくとも10秒、特に少なくとも20秒、例えば少なくとも30秒の持続期間後に初めて、反応器の出口で回収される。実際、最初の5秒の間に得られた沈殿物は、ある一定の不均質性を示すことがあるが、この不均質性はこの時間を過ぎるとそれ以上存在しない。それゆえに、最初の5秒で反応器を離れた沈殿物は、回収されないのが好ましい。
【0057】
本発明はまた、球形材料粒子を合成するための連続反応器の使用であって、前記連続反応器は反応管によって形成されており、前記反応管は2つの取込み管から供給を受け、反応管は長さLを有しており、
2つの取込み管のうち一方に、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)から選択される少なくとも1種の遷移金属硫酸塩を含む溶液Aが供給され、
他方の取込み管に、水酸化物又は炭酸塩及び必要に応じてキレート剤を含む溶液Bが供給され、
溶液A及びBが、連続反応器の反応管にそれぞれdA及びdBの流速で送達され、反応管において前駆体が沈殿し、沈殿した前記前駆体が反応管の出口で回収され、
反応管の長さL並びに送達流速dA及びdBが、反応管における滞留時間が10秒以下になるように構成され、反応管におけるpHが7~12である、使用に関する。
【0058】
最後に、本発明は、上述の方法を使用して得られた又は得ることができる球形粒子に関する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】本発明に従う合成方法において使用されるT字形連続反応器の図である。
【
図2】本発明に従う合成方法を使用して沈殿させた前駆体の化学分類及び純度に関する2つのグラフ(A及びB)の組合せである。
図A)は、前記前駆体で実施したX線ディフラクトグラムの結果を示す。x軸は2θ度を表し、y軸は任意の単位の強度である。
図B)は、前記前駆体の試料30mgで行った熱重量分析の結果を示す。x軸は、温度を℃で示し、y軸は試料の質量を百分率で示す。両方向の矢印は、640℃で得られた質量減少を示す(-35.5%)。
【
図3】本発明に従う合成方法に従って沈殿させた前駆体の凝集物の走査電子顕微鏡によって得られた一連の画像(A及びB)である。白色バーは、画像ごとのスケールを示す。
【
図4】本発明に従う合成方法を使用して沈殿させた前駆体の試料の凝集物の、体積でのサイズ分布(
図4A)及び数でのサイズ分布(
図4B)の図である。
図4Aでは、x軸は、凝集物のサイズをマイクロメートルで示し、y軸は、凝集物が占める体積を百分率で示す。
図4Bでは、x軸は、凝集物のサイズをマイクロメートルで示し、y軸は、凝集物の数を百分率で示す。
【
図5】本発明に従う合成方法を使用して得られた前駆体から正極活物質を合成するために使用した熱サイクルの図である。この図では、Aは、室温(25℃)に対応する出発状態を表す。次に、温度が400℃に達するまで3.5℃/分の速度で上昇させる。Bは脱炭素に対応し、ここでは温度を400℃で2時間維持する。次に、温度が900℃に達するまで3.5℃/分の速度で上昇させる。Cは結晶化に対応し、ここでは温度を900℃で12時間維持する。次に、温度を1分当たり2℃の速度で低下させ、Dにおいて室温に戻る。
【
図6】本発明に従う合成方法を使用して得られた前駆体から得られた正極活物質で実施したX線ディフラクトグラムである。x軸は2θ度を表し、y軸は任意の単位の強度である。挿入図は、2θの値30°~80°について、改善されたディフラクトグラムの図を示す。中空円は、観察された強度値を表す。中空円の中の黒線は、予測された理論値を表す。底部の黒線は、観察値と予測値の差異を表す(ピークが存在しないことは差異が観察されなかったことに対応する)。その黒線の上の縦の黒線は、ブラッグ反射の位置を表す。
【
図7】本発明に従う合成方法を使用して沈殿させた前駆体から得られた正極活物質の凝集物の走査電子顕微鏡によって得られた一連の画像(A及びB)である。白色バーは、各画像のスケールを示す。
【
図8】本発明に従う合成方法を使用して沈殿させた前駆体から得られた正極活物質を含む2032ボタン電池のサイクル回数の関数としての放電能力(mAh.g
-1)の進化の図である。
【
図9】溶液A及びBの送達流速を4ml/分とし、マイクロ流体反応器の反応管の長さを1メートル(曲線1)又は2メートル(曲線2)とした比較合成方法によって得られた2種の前駆体で実施したX線ディフラクトグラムである。x軸は2θ度を表し、y軸は任意の単位の強度である。曲線2のy軸の起源は、図を読み取り易くするために移動させた。
【
図10】溶液A及びBの送達流速を4ml/分とし、マイクロ流体反応器の反応管の長さを1メートル(
図10A)又は2メートル(
図10B)とした比較合成方法を使用して沈殿させた前駆体の凝集物の走査電子顕微鏡によって得られた2つの画像である。白色バーは、各画像のスケールを示す。
【
図11】本発明の方法に従って得られた前駆体Ni
0.25Mn
0.75CO
3で実施したX線ディフラクトグラムの結果を示す図である。x軸は2θ度を表し、y軸は任意の単位の強度である。
【
図12】本発明の方法に従って得られた前駆体Ni
0.25Mn
0.75CO
3の凝集物の走査電子顕微鏡によって得られた一連の画像(A及びB)である。白色バーは、画像ごとのスケールを示す。
【
図13】本発明の方法に従って得られた前駆体Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3CO
3で実施したX線ディフラクトグラムの結果を示す図である。x軸は2θ度を表し、y軸は任意の単位の強度である。
【
図14】本発明の方法に従って得られた前駆体Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3CO
3の凝集物の走査電子顕微鏡によって得られた一連の画像(A及びB)である。白色バーは、画像ごとのスケールを示す。
【
図15】反応管におけるレジームが乱流である方法に従って得られた前駆体Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3CO
3で実施したX線ディフラクトグラムの結果を示す図である。x軸は2θ度を表し、y軸は任意の単位の強度である。
【
図16】反応管におけるレジームが乱流である方法に従って得られた前駆体Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3CO
3の凝集物の走査電子顕微鏡によって得られた一連の画像(A、B及びC)である。白色バーは、画像ごとのスケールを示す。
【実施例】
【0060】
1.T字形連続反応器
本発明において使用した連続反応器1を
図1に示す。この図は、互いに向かい合う2つの取込み管3から作製されたT字形連続反応器を示しており、各管にはそれぞれ溶液(A又はB)が供給され、それらの溶液は交差点で合流し、その交差点で取込み管3の方向に対して垂直な反応管5に導かれる。したがって、2つの取込み管3の交差点では、向流が達成される。溶液Aは、遷移金属硫酸塩を含有しており、溶液Bは、水酸化物又は炭酸塩及び錯化剤を含んでいる。溶液A及びBは、蠕動ポンプ7のおかげで反応器1に送達される。前駆体は反応管内で沈殿し、タンク9に導かれ、そこで沈殿した前駆体が回収される。
【0061】
2.炭酸塩前駆体Ni0.2Mn0.5Co0.3CO3
本発明者らは、まず、Ni0.2Mn0.5Co0.3CO3の組成のマンガンが豊富な炭酸塩前駆体を合成した。
【0062】
a.出発溶液の調製
調製を行うために、遷移金属硫酸塩の250mLの溶液Aを、26.29gのNiSO4.6H2O、42.26gのMnSO4.H2O及び42.17gのCoSO4.7H2Oを秤量することによって調製した。これらの硫酸塩を蒸留水に溶解させ、次に250mLの容量フラスコに入れ、目盛りまで満たした。Ni/Mn/Coのモル比は2/5/3である。この溶液の濃度は2mol/lである。炭酸ナトリウム及び錯化剤(NH4OH)を含有している250mLの溶液Bを、47.69gのNa2CO3及び11.26gのNH4OHを蒸留水に溶解させることによって調製し、次に250mLの容量フラスコに入れ、目盛りまで満たした。Na2CO3の濃度は1.8mol/Lであり、NH4OHの濃度は0.36mol/Lである。
【0063】
b.合成条件
遷移金属を含有している溶液のサンプリング流速は20mL/分であり、一方、炭酸塩を含有している溶液のサンプリング流速は12mL/分であった。沈殿物を含有している溶液のpHは7.8であった。反応器からの排出管は、長さが10cmであり、内径が1.39mmであった。これらの条件下で、反応器から排出管における滞留時間は0.3秒であり、反応器における流体のレジームは層流であった。沈殿物は、反応の最初の30秒間はサンプリングせず、次に60秒間サンプリングした。次に、沈殿物を蒸留水と共に遠心分離することによって洗浄し(洗浄水が中和されるまで)、70℃のオーブンで一晩乾燥させる。
【0064】
乾燥後に回収された遷移金属炭酸塩の質量は2.56gであり、予測された理論量(2.53g)と合致した。このことは、反応収率が100%に近いことを示している。
【0065】
c.沈殿物の分析
X線ディフラクトグラム(XRD)を実施し、その結果を
図2Aに示す。このディフラクトグラムは、すべての線がR-3c空間群に指標を与えうることを示しており、それらの格子パラメータは、a=b=4.778(3)Å、c=15.424(9)Åである。それゆえに、このディフラクトグラムにより、結晶化した不純物を全く伴うことなく炭酸塩が得られたことが確認される。加えて、熱重量分析を、空気中、約30mgの粉末に対して25℃~700℃までの温度で、10℃/分の上昇速度で実施した。結果は
図2Bに示されており、その結果により、実験的質量減少(-35.5%)が予測された理論的質量減少(-37.6%)と同等であるので、やはり結晶化した不純物を全く伴うことなく炭酸塩が得られたことが確認される。
【0066】
誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP-OES)を使用して化学分析を行って、沈殿物の化学組成を決定した。
【0067】
【0068】
実験的組成は、予測された理論的組成と合致している。
【0069】
凝集物のモルフォロジーを走査電子顕微鏡(SEM)によって検証し、その結果を
図3に示す。観察された凝集物は、約6マイクロメートルの直径を有している。この値及び均質性を、レーザー粒度分布分析によって検証し、その結果を
図4に示す。沈殿物の体積分布50(D50)は6.3μmであり、これはSEMを使用して行った観察と合致している。
【0070】
d.活物質の調製及び電気化学的性能
次に、本発明者らは、式:Li(Li0.15Ni0.17Mn0.425Co0.255)O2を有するバッテリーのための正極活物質を合成するために、前駆体Ni0.2Mn0.5Co0.3CO3をLi2CO3と混合した。
【0071】
このために、2gのNi
0.2Mn
0.5Co
0.3CO
3を0.8980gのLi
2CO
3(高温での材料の焼成中の任意のリチウム減少を予防するために、5質量%の過剰を含んでいた)と、均質な色の混合物が得られるまで少なくとも5分間、メノウ乳鉢で混合した。次に、混合物を金のるつぼに入れ、空気中、高温で熱処理するために管状炉に入れ、その熱サイクルは
図5に示される。
【0072】
XRDを活物質で実施する。結果は
図6に示されており、その結果により酸化物層が得られたことが確認され、そのX線回折パターンは、R-3m空間群に指標を与えることができ、格子パラメータa=b=2.8470(1)Å及びc=14.2171(9)Åである。合成後に得られた材料は純粋であり、結晶化された二次相は観察されなかった。Le Bail方法を使用して精密化した後に得られた格子パラメータは、共沈によって合成された前駆体からのまさに同じ化合物について得られた格子パラメータ(a=b=2.8492(3)Å及びc=14.219(3)Å)と合致している。Le Bail方法は、特に、文献Petricek, V.、Dusek, M. & Palatinus, L.(2014). Z. Kristallogr. 229(5)、345-352に記載されている。
【0073】
化学組成をICP-OESによって検証し、その結果を以下の表に示す。
【0074】
【0075】
Table 2(表2)の一番下の行は、Ni/Mn/Co比2/5/3を考慮する酸化リチウムについて予測された組成に対応する。得られた炭酸塩(表の一番上の行)及び酸化物(表の二番目の行)は、Ni/Mn/Co比2/5/3を考慮する酸化リチウムについて予測された組成(表の一番下の行)からの逸脱がごくわずかである。それゆえに、得られた材料は、バッテリーカソードにおける活物質としての使用に理想的である。
【0076】
図7に示されているSEM画像は、得られた材料の凝集物のモルフォロジーを示す。前駆体と同様に、6μmほどの球形凝集物が得られた。
【0077】
92%の得られた活物質、4%のカーボンブラック及び4%のポリフッ化ビニリデン(質量%で92/4/4)から構成された電極を調製した。これを行うために、最初に、N-メチル-2-ピロリドン(5質量%)に溶解させたポリフッ化ビニリデンの溶液を調製した。次に、活物質及びカーボンブラックをこの溶液に懸濁させ、約30~40%の乾物含量を得るために必要な量のN-メチル-2-ピロリドンを添加した。混合物を磁気撹拌器の下に1時間置いておいた。生じたインクを、「ドクターブレード」として公知の方法によってElcometer(登録商標)4340アプリケーターを使用してアルミニウムストリップ(コーティング厚さ150μm)上にコーティングした。
【0078】
最後に、電極を80℃のオーブンに入れて、溶媒を蒸発させた。直径16mmの電極をダイカットし、次に、5トンの一軸圧力でカレンダー処理した。最後に、これらの電極を、真空中80℃で12時間乾燥させた後、制御されたアルゴン雰囲気下でグローブボックスに入れて保存した。坪量は1cm
2当たり活物質4mgであった。次に、電気化学的試験を、Liの存在下、2つのCelgard(登録商標)2400セパレーターを用いてCR2032ボタン電池で行った。使用される電解質は、炭酸フルオロエチレン(FEC)及び炭酸ジメチル(DMC)の混合物(質量%で30/70)であり、それに1Mヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させる。連続的な充電及び放電サイクルを、C/10レジーム(すなわち、10時間で電池を完全に充電又は放電させる)で行った。サイクル回数の関数としての放電能力の進化は、
図8に示される。この図は、その能力が、試験した電池の最初の30サイクル中、約200mAh/gで安定なままであることを示す。
【0079】
e.反応器における滞留時間の影響
本発明者らは、反応器から排出管におけるより長い滞留時間(10秒超)、並びに得られた前駆体のモルフォロジー及び均質性に対するそれらの影響を試験した。
【0080】
これを行うために、実施例2.aからの初期溶液A及びBを使用した。次に、2種の異なる反応器を使用し(1及び2)、反応器1は排出管の長さが1メートルであり、反応器2は排出管の長さが2メートルであった。各反応器1及び2は内径が1.39mmであった。各場合、溶液A及びBのサンプリング流速は4mL/分であった。反応器1からの排出管についての滞留時間は11.4秒であり、反応器2からの排出管における滞留時間は22.8秒であった。反応器における流体のレジームは層流であった。沈殿物を含有しているそれぞれの溶液のpHは8であった。
【0081】
X線ディフラクトグラム(XRD)を、得られた沈殿物で実施し、結果を
図9に示す。このディフラクトグラムは、すべての線がR-3c空間群に指標を与えうることを示しており、それらの格子パラメータは、a=b=4.778(3)Å、c=15.424(9)Åである。このディフラクトグラムにより、結晶化した不純物を全く伴うことなく炭酸塩が得られたことが確認される。
【0082】
化学組成をICP-OESによって検証し、その結果を以下の表に示す。
【0083】
【0084】
各反応器を用いて得られた実験的組成は、予測された理論的組成と合致している。
【0085】
凝集物のモルフォロジーを走査電子顕微鏡によって検証し、その結果を
図10に示す。各場合、観察された凝集物は、部分的に球形であり、凝集物の形状及びサイズに高い度合いの不均一性があった。加えて、凝集物のサイズは、せいぜい1μmほどであった。それゆえに、排出管における10秒超の滞留時間は、得られる前駆体の特性を低下させ、本発明に従う合成方法を用いて得られる前駆体の直径及び均質性をもはや有していない。
【0086】
3.炭酸塩前駆体Ni0.25Mn0.75CO3
本発明者らは、その後、Ni0.25Mn0.75CO3の組成のマンガンが豊富な炭酸塩前駆体を合成した。
【0087】
a.出発溶液の調製
調製を行うために、遷移金属硫酸塩の50mLの溶液を、6.57gのNiSO4.6H2O及び12.68gのMnSO4.H2Oを秤量することによって調製した。これらの硫酸塩を蒸留水に溶解させ、次に50mLの容量フラスコに入れ、目盛りまで満たした。Ni/Mn/Coのモル比は1/3:1/3:1/3であった。この溶液の濃度は2mol/Lである。炭酸ナトリウム及び錯化剤(NH4OH)を含有している50mLの溶液を、10.60gのNa2CO3及び2.25gのNH4OHを秤量することによって調製した。Na2CO3を、NH4OHの存在下で蒸留水に溶解させ、次に50mLの容量フラスコに入れ、目盛りまで満たした。Na2CO3の濃度は2mol/Lであり、NH4OHの濃度は0.36mol/Lである。
【0088】
b.合成条件
溶液を、蠕動ポンプによってミキサー/反応器システムに注入した。遷移金属を含有している溶液のサンプリング流速を5mL/分(Qa)に設定し、炭酸塩を含有している溶液のサンプリング流速を5mL/分(Qb)に設定した(したがってQa=Qb)。反応器は、長さが10cmであり、内径が1.39mmであった。これらの条件下で、反応器における滞留時間は0.91秒であり、反応器における流体のレジームは層流であった。回収される沈殿物の均質性を確保するために、沈殿物は、反応の最初の30秒間は回収せず、次に前述の条件下で60秒間サンプリングした。沈殿物を含有している溶液のpHは8.7であった。次に、沈殿物を蒸留水と共に遠心分離することによって洗浄し(洗浄水が中和されるまで)、70℃のオーブンで一晩乾燥させた。
【0089】
乾燥後に回収された遷移金属炭酸塩の質量は2.33gであり、予測された理論量(2.37g)と合致した。このことは、反応収率が100%に近いことを示している。このように、2.33gの炭酸塩Ni0.25Mn0.75CO3が、60秒で生成された。これは、従来技術で使用される500mLバッチ反応器では16gを生成するのに6時間を超えるのと比較して、0.15mL反応器で1時間当たり140gが生成されることに相当する。
【0090】
c.沈殿物の分析
X線ディフラクトグラム(XRD)を実施し、その結果を
図11に示す。このディフラクトグラムにより、結晶化した不純物を全く伴うことなく炭酸塩が得られたことが確認される。
【0091】
誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP-OES)を使用して化学分析を行って、沈殿物の化学組成を決定した。
【0092】
【0093】
実験的組成は、予測された理論的組成と合致している。
【0094】
凝集物のモルフォロジーを走査電子顕微鏡(SEM)によって検証し、その結果を
図12に示す。観察された凝集物は、約4マイクロメートルの直径を有していた。
【0095】
これらの特徴のすべて(XRD、ICP-OES、SEM)により、制御された組成及びモルフォロジーを有する遷移金属炭酸塩が得られたことが実証される。
【0096】
4.炭酸塩前駆体Ni1/3Mn1/3Co1/3CO3
本発明者らは、その後、Ni1/3Mn1/3Co1/3CO3の組成の炭酸塩前駆体を合成した。
【0097】
a.出発溶液の調製
調製を行うために、遷移金属硫酸塩の50mLの溶液を、8.67gのNiSO4.6H2O、5.58gのMnSO4.H2O及び9.28gのCoSO4.7H2Oを秤量することによって調製した。これらの硫酸塩を蒸留水に溶解させ、次に50mLの容量フラスコに入れ、目盛りまで満たした。Ni/Mn/Coのモル比は1/3:1/3:1/3であった。この溶液の濃度は2mol/Lである。炭酸ナトリウム及び錯化剤(NH4OH)を含有している50mLの溶液を、10.60gのNa2CO3及び2.25gのNH4OHを秤量することによって調製した。Na2CO3を、NH4OHの存在下で蒸留水に溶解させ、次に50mLの容量フラスコに入れ、目盛りまで満たした。Na2CO3の濃度は2mol/Lであり、NH4OHの濃度は0.36mol/Lである。
【0098】
b.合成条件
溶液を、蠕動ポンプによってミキサー/反応器システムに注入した。遷移金属を含有している溶液のサンプリング流速を15mL/分(Qa)に設定し、炭酸塩を含有している溶液のサンプリング流速を15mL/分(Qb)に設定した(したがってQa=Qb)。反応器は、長さが10cmであり、内径が1.39mmであった。これらの条件下で、反応器における滞留時間は0.3秒であり、反応器における流体のレジームは層流であった。回収される沈殿物の均質性を確保するために、沈殿物は、反応の最初の30秒間は回収せず、次に前述の条件下で60秒間サンプリングした。沈殿物を含有している溶液のpHは7.3であった。次に、沈殿物を蒸留水と共に遠心分離することによって洗浄し(洗浄水が中和されるまで)、70℃のオーブンで一晩乾燥させた。
【0099】
乾燥後に回収された遷移金属炭酸塩の質量は2.24gであり、予測された理論量(2.27g)と合致した。このことは、反応収率が100%に近いことを示している。このように、2.24gの炭酸塩Ni1/3Mn1/3Co1/3CO3が、60秒で生成された。これは、従来技術で使用される500mLバッチ反応器では16gを生成するのに6時間を超えるのと比較して、0.15mL反応器で1時間当たり136gが生成されることに相当する。
【0100】
c.沈殿物の分析
X線ディフラクトグラム(XRD)を実施し、その結果を
図13に示す。このディフラクトグラムにより、わずかなオキシ水酸化物の存在を伴って炭酸塩が得られたことが示される。
【0101】
誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP-OES)を使用して化学分析を行って、沈殿物の化学組成を決定した。
【0102】
【0103】
実験的組成は、予測された理論的組成と合致している。
【0104】
凝集物のモルフォロジーを走査電子顕微鏡(SEM)によって検証し、その結果を
図14に示す。観察された凝集物は、約5マイクロメートルの直径を有していた。
【0105】
これらの特徴のすべて(XRD、ICP-OES、SEM)により、制御された組成及びモルフォロジーを有する遷移金属炭酸塩が得られたことが実証される。
【0106】
d.反応管におけるレジームの影響
本発明者らは、前駆体Ni1/3Mn1/3Co1/3CO3を得ることに対する反応管におけるレジームの影響を試験した。
【0107】
これを行うために、金属硫酸塩の溶液50mLを、Ni/Mn/Coのモル比1/3:1/3:1/3及び0.1mol/Lの濃度で調製した。0.2mol/Lの炭酸水素アンモニウムを含有している溶液50mLも調製した。
【0108】
溶液を、蠕動ポンプによってミキサー/反応器システムに注入した。遷移金属を含有している溶液のサンプリング流速を50mL/分(Qa)に設定し、炭酸塩を含有している溶液のサンプリング流速を50mL/分(Qb)に設定した(したがってQa=Qb)。反応器は、長さが10cmであり、内径が1.39mmであった。これらの条件下で、反応器における流体のレジームは層流であった。回収される沈殿物の均質性を確保するために、沈殿物は、反応の最初の30秒間は回収せず、次に前述の条件下で60秒間サンプリングした。沈殿物を含有している溶液のpHは7.5であった。次に、沈殿物を蒸留水と共に遠心分離することによって洗浄し(洗浄水が中和されるまで)、70℃のオーブンで一晩乾燥させた。
【0109】
X線ディフラクトグラム(XRD)を実施し、その結果を
図15に示す。このディフラクトグラムにより、結晶化相が沈殿せず、それゆえに、この方法を使用してNi
1/3Mn
1/3Co
1/3CO
3の組成を有する炭酸塩を得ることが不可能であったことが示される。
【0110】
凝集物のモルフォロジーを走査電子顕微鏡(SEM)によって検証し、その結果を
図16に示す。この図は、球形が得られなかったことを明らかに示しており、中間レジームではNi
1/3Mn
1/3Co
1/3CO
3の組成を有する炭酸塩が生成されないことを実証している。
【符号の説明】
【0111】
1 連続反応器
3 取込み管
5 反応管
7 蠕動ポンプ
9 タンク
【国際調査報告】