(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】細胞ベースの肉の成長のための植物脂肪ベースの足場と当該製品の作成方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240614BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240614BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N5/07
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574847
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 US2021037688
(87)【国際公開番号】W WO2022265632
(87)【国際公開日】2022-12-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521286293
【氏名又は名称】アップサイド フーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー‐アウファーマン, コンラッド
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー, ミカエラ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC07
4B065AA90X
4B065BB10
4B065CA41
(57)【要約】
消費用の細胞ベースの肉製品を成長させるための植物脂肪ベースの足場。足場は主に植物脂肪またはワックスに加えて、細胞結合タンパク質及び培養動物細胞の成長を助ける任意の追加成分を含む。足場は、滅菌中は液化状態、そして、足場の形成中、培養細胞の播種中、及び細胞成長段階の間は固体状態、の両方で存在することができる。足場は、消費用の最終製品に残すことができると共に、最終製品から部分的または完全に溶かし出して、新しい足場を形成するための原材料としてリサイクルすることもできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトが消費するための細胞ベースの動物組織を成長させるための植物脂肪ベースの足場であって、
a.結合温度及び滅菌温度を有する少なくとも1つの植物ベースの飽和脂肪酸またはワックスと、
b.動物組織細胞が成長するために前記足場に接着できるようにする細胞結合タンパク質と、を含み
前記足場は、前記少なくとも1つの植物ベースの飽和脂肪酸またはワックスの前記滅菌温度で、液体状態で存在することができ、前記足場は、前記結合温度で、細胞の接着及び成長中に固体状態で存在することができることを特徴とする植物脂肪ベースの足場。
【請求項2】
前記足場は、食べることが可能であることを特徴とする請求項1に記載の植物脂肪ベースの足場。
【請求項3】
細胞の成長を促進する栄養素及びミネラル、保存料、着色料、香味増進剤、細胞結合補助分子、及び構造支持成分から選択される、1つ以上の二次成分を更に有することを特徴とする請求項1に記載の植物脂肪ベースの足場。
【請求項3】
ヒトが消費するための細胞ベースの動物組織を成長させるために設計された植物脂肪ベースの足場を形成する方法であって、
a.足場を形成するために少なくとも1つの植物ベースの飽和脂肪酸またはワックスを選択し、
b.前記少なくとも1つの植物ベースの飽和脂肪酸またはワックスの融点または発煙点よりも高い温度まで前記足場を加熱することによって、前記足場を少なくとも部分的に滅菌し、
c.固体の足場を形成するために、前記足場を低温の液体またはガスに入れ、
d.成長のために前記固体の足場に動物細胞の集団を播種し、
e.細胞の成長の完了後、または動物組織が形成された後に、前記足場の少なくとも50パーセントを前記動物細胞から分離する
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記足場を溶かして液体の状態に戻し、前記細胞組織を損傷することなく前記液体の足場を組織製品から除去することによって、前記足場の大部分を前記動物細胞から分離できることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記足場を前記動物細胞から分離した後、前記足場が別の足場を形成するための原材料としてリサイクル可能であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
植物脂肪ベースの足場を用いて動物細胞の集団を動物組織製品に成長させる方法であって、
a.植物脂肪ベースの足場に、動物細胞の集団を播種し、
b.前記動物細胞に1つ以上の成長栄養素を供給し、
c.前記細胞の成長を評価して、細胞がいつ所望のサイズまたは形状に達するかを特定し、
d.成長が完了した後、前記動物細胞から前記足場を分離する
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記動物細胞に、成長を促進するために1つ以上の成長栄養素を供給することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の成長栄養素が前記足場に組み込まれてることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の成長栄養素を含む前記足場は、前記1つ以上の成長栄養素を解き放つために、成長段階において、温度を、前記細胞の最適成長温度よりも高く、前記細胞の温度耐久範囲の上端よりも低い温度に上昇させることによって、部分的に溶解可能であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
植物脂肪ベースの足場を用いて、細胞ベースの動物組織製品を成長させる方法であって、
a.少なくとも1つの植物ベースの脂肪またはワックスを用いて、細胞の成長のための足場を提供し、
b.前記足場が部分的に固体で部分的に液体である間に、前記足場に動物細胞の集団を播種し、
c.前記動物細胞を播種した後、前記足場を冷却して固体にする
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記足場は、それぞれ異なる溶融温度を有する2つ以上の異なるタイプの脂肪またはワックスで構成されていることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
脂肪またはワックスの少なくとも一つが液体状態にあり、脂肪またはワックスの少なくとも一つが固体状態にある間に、前記足場に播種することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記足場は、前記動物細胞の最適成長温度で固体であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記足場が部分的に固体で部分的に液体である間に、1以上の細胞結合タンパク質を入れることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消費用の細胞ベースの製品、特に、培養された接着剤と非ヒト動物に由来する浮遊細胞との組み合わせから調製される消費用の製品の分野に関する。本開示は、新規な消費可能製品及びそのような消費可能製品を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界人口が増加し続ける中、人類が消費する製品のニーズはこれまで以上に高まっている。すなわち、人口が増え続ける中、従来の製品の市場は需要に応えるのに苦労している。インビドロ生産された消費用の細胞ベースの製品は、従来の製品の需要を補う魅力的な選択肢として浮上している。また、インビドロ生産された製品は、従来の製品に関連するいくつかの欠点を軽減するのに役立つ。例えば、従来の食肉生産には、畜産と屠殺に関して物議を醸しだす行為が含まれている。従来の食肉生産に関連するその他の欠点には、生産に用いたカロリーから食用栄養素への変換率の低さ、製品の微生物汚染、獣医学的及び人獣共通感染症の出現と伝搬、相対的な天然資源の必要性、及び生産の結果として生じる温室効果ガス排出や一連の窒素廃棄物等の産業汚染物質が含まれる。
【0003】
研究室で培養した、培養肉は、細胞農業という新興分野に属し、これまで家畜によって生産されてきた製品を提供するための有望な技術の代表である。この技術革新は、人間、家畜、そして環境に対する従来の食肉生産技術の悪影響を軽減する可能性を提供することを目的としている。培養肉の生産には、適切な細胞と適切な増殖培地が必要である。研究室で培養した肉は、さまざまな病気を持つ人々の特定の食餌ニーズをカバーする優れた機能性食品にもなり得る。これは、必須アミノ酸と脂肪のプロファイルを変更し、ビタミン、ミネラル、生理活性化合物を豊富に含むようにする技術の能力による。しかしながら、培養肉を成長させて処理するには、さまざまな技術的問題が存在する。
【0004】
複数の核を持つ典型的な組織に関連する筋線維の成長には、シグナル伝達、タンパク質の排出及び融合を可能にするために、細胞が結合することが重要である。足場を細胞の成長環境で用いることで、接着と細胞接続をさらに可能にすることができる。例えば、成長した培養肉の細胞シートには、培養肉の汚染を防ぐために滅菌し、成長中に細胞シートが重要な栄養素にアクセスできるようにし、肉及び/または基材の構造を損傷することなく除去することができる、足場等の支持構造が必要である。
【0005】
しかしながら、医療目的で一般的に使用されている既知の足場のほとんどは、機能のみに基づいて設計されており、非食用成分が使用されている。このような足場は食べることができず、人間が消費する前に細胞ベースの肉製品から完全に除去する必要があるため、時間がかかるとともに材料が嵩む可能性がある。従って、本発明の目的は、細胞ベースの肉製品に必要な構造を有すると共に成長を支援でき、且つ、食べることができる植物ベースの製品から調製される消費可能な足場と、そのような足場を製造する方法を提供することである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は一般に、消費用の細胞ベースの肉製品の成長に使用される足場に関する。いくつかの実施形態では、足場は、消費しても安全であり、細胞ベースの肉の成長に必要なサポートを提供する固体構造を形成することができる植物ベースの脂肪から主に生成される。足場を生成する例示的な方法には、以下に説明する内蔵型バイオリアクターの使用が含まれるが、これに限定されない。足場を生成する他の例示的な方法には、滅菌環境において、3Dプリンタを使用すること、またはベンチトップが含まれる。いくつかの実施形態では、足場を内蔵型バイオリアクターへ送達する方法に応じて、足場は様々な形状をとることができる。例えば、足場を液滴の形態でバイオリアクター内に噴霧乾燥してもよいし、ノズルを介してバイオリアクター内に直接注入してスパゲッティ状のストランドを形成してもよい。これらの異なる足場形状の組み合わせを同時に利用してもよい。
【0007】
すべての実施形態において、天然の植物ベースの脂肪及びワックスが、足場の材料として使用される。足場は、それぞれが異なる融点特性を持つ、異なる種類の植物ベースの脂肪及びワックスの組み合わせで構成されていてもよい。これらの材料は疎水性であり、細胞は純粋な形ではそれらに付着しないため、細胞が足場へ付着することを助け、足場における細胞の成長速度を高め、または、好ましくは高温の無菌条件下で足場構造の安定性を維持するために、細胞結合タンパク質、炭水化物、繊維及び/またはミネラル等の他の機能性成分を植物脂肪ベースの足場に添加する。これらの材料は、足場が液体状態または固体状態のいずれにあるときでも、足場に添加することができる。
【0008】
足場のすべての材料は、足場に含める前に、既知の滅菌方法を使用して滅菌することができる。滅菌方法の例としては、熱、濾過、または両方を組み合わせて使用する方法が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、植物脂肪ベースの材料は、滅菌濾過システムを通して濾過される前に、液体状態に溶かされ、加熱により滅菌される。加熱滅菌は、確実に滅菌するために、植物脂肪ベースの材料を摂氏35度から摂氏100度の間の滅菌温度まで加熱し、上昇した温度を特定の時間保持することが含まれ得る。一般的に、滅菌温度が高いほど、材料を滅菌温度に保持しなければならない時間は短くなる。通常、液体の方が固体の材料よりも滅菌し易いため、液化された植物脂肪ベースの材料に対して滅菌濾過と組み合わせた加熱滅菌を使用することが、より効率的な処理である。さらに、液化された植物脂肪ベースの材料を加熱することで、液化された成分の粘度が変化するため、滅菌濾過システムで濾過し易くなる。他の機能性材料を植物脂肪懸濁液に添加し、植物脂肪ベースの材料と一緒に滅菌してもよいし、それぞれ別個に滅菌してもよい。
【0009】
いくつかの実施形態では、材料を滅菌した後、足場形成前に、材料を含む懸濁液を結合温度まで冷却する。結合温度は、成長させたい細胞の種類に応じて異なる。結合温度は、足場が固化する温度範囲、細胞接着が最適になる温度範囲、またはそのいずれかの現象が組み合わされた温度範囲である。結合温度は、成長させたい細胞の種類に応じて異なる。一般に、結合温度は、摂氏10度から40度の間である。最適成長温度がより高い細胞を使用すると、それに応じて結合温度も上昇する可能性がある。いくつかの実施形態では、加熱された懸濁液を冷ガスを用いて冷却することにより、懸濁液が固化して足場になる。他の実施形態では、懸濁液を冷たい滅菌流体中に散らすことにより、懸濁液が固化して足場となる。懸濁液は冷たい液体に直接注入してもよいし、液体となるように噴霧して、細胞が接着するのための大きな表面積を有する多数の液滴を作成してもよい。好ましい実施形態では、懸濁液は、播種された細胞が足場に結合して所望の組織を形成できる温度に冷却され、足場となる。
【0010】
細胞播種は、結合温度で実施され得る。結合温度は、最適な細胞の成長温度よりも低い場合があり、この温度未満で細胞を播種すると、足場全体を確実に固体のままとすることができる。あるいは、確実に足場を部分的または完全に液体のままとするために、細胞播種を結合温度よりも高い温度で実行してもよい。最適な細胞の成長温度は、成長させたい細胞の種類に応じて変動し得る。例えば、哺乳類の細胞は通常、摂氏約35~37度近辺の環境で成長するが、魚類の細胞は摂氏約15~20度近辺の低温環境を好む。播種ステップを完了した後、細胞を栄養豊富な環境に浸す。次に温度を徐々に上げて、播種した細胞の最適な成長温度にする。足場の構造全体で細胞に安定性を与える必要が無い実施形態では、足場の一部が溶ける点まで温度を上げることで、細胞の成長に貢献する追加の栄養素が放出され、さらに細胞は豊かな栄養素の環境に置かれる。別の実施形態では、足場は、比較的高い融点を有する1つ以上の脂肪、1つ以上のワックス、またはそれらの組み合わせから構築され、それにより足場が溶けることなく、温度を最適成長温度まで上昇させることができる。一例では、足場は、足場が部分的に溶融する温度と完全に溶融する温度との間の温度範囲を拡大するために、それぞれが異なる溶融温度を有する2つ以上の異なるタイプの脂肪またはワックスから構築される。場合によっては、細胞結合タンパク質の添加前に、確実に足場が少なくとも部分的に溶融した状態とするために、細胞播種を、播種された細胞の最適増殖温度よりも高く、細胞の温度耐久範囲の上限よりも低い温度で実行してもよい。その後、温度を播種細胞の最適成長温度まで下げてもよい。哺乳動物細胞の長時間の耐久温度範囲は一般に摂氏20~55度であり、冷血細胞(魚類を含む)の長時間の耐久温度範囲は一般に摂氏10~40度である。場合によっては、哺乳動物細胞および冷血細胞は、最適な温度に戻されたときに成長または生存率に悪影響を与えることなく、短期間、例えば一晩、摂氏4度で維持することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、足場を食することができるため、所望のバイオマス及び組織形成/細胞融合の程度に達した後、足場全体またはその一部を最終製品に残すことができる。他の実施形態では、植物脂肪ベースの足場は、温度耐久範囲の上限よりも低い融点を有するため、細胞組織を収穫する前に、細胞組織を損傷することなく、足場を部分的または完全に溶かすことができる。溶けた足場は、従来の公知の方法(例えば廃水処理プラント)によってリサイクルすることもできるし、あるいは、溶けた足場を次のバッチにおける新しい足場の材料として再利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、足場の生成を示す例示的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
本明細書では、細胞ベースの肉を成長させるための植物脂肪ベースの足場の調製に関連する方法及び製品を提供する。
【0014】
特定の実施形態を詳細に説明する前に、本開示は、本明細書に記載される特定の実施形態に限定されず、変更することができることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の例示的な実施形態を説明することのみを目的としており、別段の定義がない限り、限定を意図するものではないことも理解されたい。本明細書で使用される用語は、一般に、本開示の文脈内及び各用語が使用される特定の文脈において、当該技術分野における通常の意味を有する。本発明の組成物及び方法、ならびにそれらの製造方法及び使用方法を説明する際に、実践者に追加のガイダンスを提供するために、特定の用語を以下または明細書の他の場所で論じる。用語の範囲と意味は、その用語が使用される特定の文脈から明らかであろう。従って、本明細書に記載の定義は、特定の組成物または生物学的システムに限定されることなく、本発明の特定の実施形態を確認する際の例示的なガイダンスを提供することを意図している。
【0015】
本開示及び添付の請求項で使用される場合、「a」、「an」、及び「the」の単数形は、単数ではないとの明確な記載が無い限り、複数を含む。
【0016】
特定の定義がなされない限り、本明細書に記載される分子生物学、細胞生物学、分析化学、及び合成有機化学に関連して利用される命名法、ならびにそれらの実験手順及び技術は、当技術分野でよく知られており、一般に使用されているものである。標準的な技術は、組換え技術、分子生物学、微生物学、化学合成、及び化学分析に使用することができる。
【0017】
消費用の細胞ベースの製品の生成
本開示の消費のための細胞ベースの製品は、天然に存在する動物細胞、トランスジェニック動物細胞、または改変された培養中の動物細胞のインビトロ培養によって生成される製品である。
【0018】
本開示における方法で使用される細胞は、主要細胞または細胞株であり得る。本明細書で提供される方法は、培養中の任意の後生動物細胞に適用することができる。一般に、細胞は、その組織が食餌消費に適している任意の後生動物種に由来しており、骨格筋組織を特定する能力を示している。
【0019】
いくつかの実施形態では、細胞は、ヒトまたは非ヒトの食餌消費を目的とする任意の非ヒト動物種(例えば、鳥類、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、または魚類起源の細胞)に由来する(例えば、家畜、家禽、鳥類、狩猟動物、または水生種の細胞)。
【0020】
いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、水牛、ウサギ等の家畜に由来する。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、ニワトリ、七面鳥、アヒル、ガチョウ、ハト等の家禽に由来する。いくつかの実施形態では、細胞は、野生のシカ、ガリン科の家禽、水鳥、ノウサギ等の狩猟種に由来する。いくつかの実施形態では、細胞は、特定の魚類、甲殻類、軟体動物、頭足類、クジラ目、ワニ、カメ、カエル等を含む、野生漁業もしくは水産養殖業から商業的に、またはスポーツにより得られた水生種または半水生種に由来する。
【0021】
いくつかの実施形態では、細胞は、外来種、保存動物種、または絶滅した動物種に由来する。いくつかの実施形態では、細胞は、ガルス・ガルス、ガルス・ドメスティカス、ボス・タウルス、ス・スクロファ、メレアグリス・ガロパボ、アナス・プラティリンチョス、サルモ・サラール、トゥヌス・ティヌス、オビス・アリーズ、コトゥニクス、カプラ・アエガグルス・ヒルカス、またはホマルス・アメリカヌスに由来する。
【0022】
いくつかの実施形態では、細胞は、主要幹細胞、自己複製幹細胞、胚性幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、または分化転換多能性幹細胞である。
【0023】
いくつかの実施形態では、細胞は、培養生産のための骨格筋への細胞の迅速かつ効率的な変換を誘導するために、遺伝子スイッチによって改変可能である。
【0024】
いくつかの実施形態では、細胞は、筋肉になる筋原性細胞、または筋肉様細胞である。いくつかの実施形態では、筋原性細胞は、元来の筋原性である、例えば、筋芽細胞である。元来の筋原性細胞としては、筋芽細胞、筋細胞、衛星細胞、側集団細胞、筋肉由来幹細胞、間葉系幹細胞、筋原性周皮細胞、または中脈管芽細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
いくつかの実施形態では、細胞は骨格筋系統のものである。骨格筋系統の細胞には、筋芽細胞、筋細胞、及び筋原性前駆細胞とも呼ばれる骨格筋前駆細胞が含まれ、これには、衛星細胞、側集団細胞、筋肉由来幹細胞、間葉系幹細胞、筋原性周皮細胞、及び中性血管芽細胞が含まれる。
【0026】
いくつかの実施形態では、細胞は非筋原性であり、そのような非筋原性細胞は筋原性となるようにプログラムすることができ、例えば、細胞は、1つまたは複数の筋原性転写因子を発現するように改変された線維芽細胞を含み得る。例示的な実施形態では、筋原性転写因子には、MYOD1、MYOG、MYF5、MYF6、PAX3、PAX7、パラログ、オルソログ、及びそれらの遺伝子変異体が含まれる。いくつかの実施形態では、その全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT公開公報WO/2015/066377に記載されているように、細胞は、1つまたは複数の筋原性転写因子を発現するように改変される。
【0027】
いくつかの実施形態では、細胞は、本明細書に記載される細胞集団の混合物、例えば、共培養における線維形成細胞と筋原性細胞の混合物、例えば、共培養における線維芽細胞と筋芽細胞の混合物を含む。いくつかの実施形態では、消費用の細胞ベースの製品のインビトロ生産に使用される細胞は、懸濁共培養における線維芽細胞と筋芽細胞の混合物である。いくつかの実施形態では、消費用の細胞ベースの製品のインビトロ生産に使用される細胞は、接着共培養における線維芽細胞と筋芽細胞の混合物である。いくつかの実施形態では、共培養物は脂肪細胞をさらに含んでもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、細胞は懸濁培養または付着共培養のいずれかにあり、線維芽細胞と筋芽細胞の混合物を含み、線維芽細胞と筋芽細胞の比(FおよびMとして示される)は、約5F:98Mから約95F:5Mの範囲である。例示的な実施形態では、線維芽細胞対筋芽細胞の比は、約5F:95M、10F:90M、15F:85M、20F:80M、25F:75M、30F:70M、35F:65M、40F:60M、45F:55M、50F:50M、55F:45M、60M:40M、65F:35M、70F:30M、75F:25M、80F:20M、85F:15M、90F:10M、または約95F:5Mである。
【0029】
いくつかの実施形態では、細胞は、経路、例えばHIPPOシグナル伝達経路を阻害するように遺伝子改変される。HIPPOシグナル伝達経路を阻害する例示的な方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際出願番号PCT/US2018/031276に記載されている。
【0030】
いくつかの実施形態では、細胞は、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現し、および/またはサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(CKI)を阻害するように改変される。いくつかの実施形態では、その全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT公開公報、WO2017/124100に記載されているように、細胞は、TERTを発現し、及び/またはサイクリン依存性キナーゼ阻害剤を阻害するように改変される。
【0031】
いくつかの実施形態では、細胞は、グルタミン合成酵素(GS)、インスリン様成長因子(IGF)、及び/またはアルブミンを発現するように改変される。GS、IGF、及び/またはアルブミンを発現するように細胞を改変する例示的な方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT出願番号PCT/US2018/042187に記載されている。
【0032】
いくつかの実施形態では、細胞は、本明細書に記載される変形例と細胞の任意の組み合わせを含み得る。
【0033】
培養インフラストラクチャ
本明細書で言及される場合、培養インフラストラクチャは、消費用の二次元または三次元製品を提供するために、細胞が培養または栽培される環境を指す。
【0034】
培養インフラストラクチャは、ローラーボトル、チューブ、シリンダ、フラスコ、ペトリ皿、マルチウェルプレート、皿、バット、インキュベータ、バイオリアクタ、工業用発酵槽等であり得る。
【0035】
培養インフラストラクチャ自体は三次元構造または形状を有し得るが、培養インフラストラクチャで培養された細胞は、単層の細胞を形成し得る。本開示の組成物及び方法は、培養インフラストラクチャにおける後生動物細胞の三次元成長を促進して、三次元細胞バイオマスの足場のない自己集合体を提供することができる。
【0036】
三次元培養インフラストラクチャは、ステーキ、テンダーロイン、すね肉、鶏の胸肉、ドラムスティック、ラムチョップ、魚の切り身、ロブスターテール等、異なるタイプの筋肉組織に成長させて似せた、筋細胞の形状及び形態を提供するために、希望に応じて、異なるサイズ、形状、及び形態に整形することができる。三次元培養インフラストラクチャは、摂取しても有害ではないように、無毒の天然または合成の生体材料から作られてもよい。天然生体材料には、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、または他の細胞外マトリックスが含まれ得る。合成生体材料としては、例えば、ヒドロキシアパタイト、アルギン酸塩、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはそれらのコポリマーが挙げられる。三次元培養インフラストラクチャは、固体または半固体の支持体として形成され得る。
【0037】
培養インフラストラクチャは、任意の規模のものとすることができ、任意の量の細胞バイオマス及び培養試薬をサポートすることができる。いくつかの実施形態では、培養インフラストラクチャは、約10μL~約100,000Lの範囲である。例示的な実施形態では、培養インフラストラクチャは、約10μL、約100μL、約1mL、約10mL、約100mL、約1L、約10L、約100L、約1,000L、約10,000L、更には約100,000Lである。
【0038】
いくつかの実施形態では、栽培インフラストラクチャは足場を含む。培養インフラストラクチャは、浸透性の足場(例えば、生理学的溶液に対して浸透性を有する)または不浸透性の足場(例えば、生理学的溶液に対して浸透性を有さない)を含み得る。足場は、平ら、凹状、または凸状にすることができる。細胞の成長及び細胞シートの付着を促進するために、足場はテクスチャー加工されていてもよい。このような足場を使用する利点として、自家足場を形成するために追加の細胞培養物を使用する必要がなくなり、生産コストが削減されること、足場の形状とサイズを制御できること、細胞(例えば、ECM)によって生成可能な成分のみを使用した場合に物理的に不可能な形状と構造を形成できること、必要な構造を迅速に形成できること(そのような構造の細胞による生成は非常に遅いため)、細胞の成長に有益な栄養素等の追加の成分を足場自体に組み込んで、細胞の成長段階を促進できること、を含み得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、培養インフラストラクチャにおける細胞の培養は、三次元に細胞を成長させる、例えば、基材に垂直な平面上に細胞を付着、増殖及び肥大させるように自己足場として機能し得る、細胞外マトリックス(ECM)の生成を促すことができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、培養インフラストラクチャは、三次元細胞バイオマスの自己集合を促進するための、外因的に追加された足場を備えていなくてもよい。いくつかの実施形態では、培養インフラストラクチャは、本明細書に記載の植物脂肪ベースの足場、ヒドロゲル、または軟寒天等の外因性の足場を含まなくてもよい。
【0041】
培養条件
消費用の細胞ベースの製品を生成するための培養条件は、一般に無菌かつ滅菌である。
【0042】
細胞は、付着培養形式で成長させて細胞シートを形成すること、あるいは懸濁培養形式で成長させて細胞ペレットを形成することができる。表1は、インビトロで生産できるさまざまな製品の例示的な培養方法を示す。
表1:インビドロで生産される細胞ベースの肉を生成するための細胞培養方法
【0043】
いくつかの実施形態では、培地は、動物由来の血清または他の成分を実質的に含まない。
【0044】
従って、インビトロ生産された細胞ベースの肉を生成する例示的な方法では:(a)非ヒト生物由来の線維芽細胞及び/または筋芽細胞を提供し、(b)線維芽細胞及び/または筋芽細胞が、懸濁培養または付着培養のいずれかで成長する条件下で、培地中で線維芽細胞及び/または筋芽細胞を培養し、培地は、動物由来の血清及び他の成分を実質的に含まない。
【0045】
いくつかの実施形態では、例えば振盪フラスコ内において、細胞を懸濁培養により成長させ、培養の生成物を遠心分離して細胞ペレットを得る。他の実施形態では、細胞を接着培養により成長させ、培養の生成物は細胞シートである。
【0046】
配合
本開示の消費可能な細胞ベースの製品は、以下に限定されるものではないが、細胞ベースの肉製品、サプリメント、及びビタミンを含む任意の様々な製品に加工することができる。本開示の例示的な製品には、例えば、鳥肉製品、鶏肉製品、アヒル肉製品、及びウシ肉製品等の細胞ベースの肉製品が含まれる。他の例示的な製品として、以下に限定されるものではないが、ガルス・ガルス、ガルス・ドメスティカス、ボス・タウルス、ス・スクロファ、メレアグリス・ガロパボ、アナス・プラティリンチョス、サルモ・サラール、トゥヌス・ティヌス、オビス・アリーズ、コトゥニクス、カプラ・アエガグルス・ヒルカス、またはホマルス・アメリカヌス等の、外来種、保存動物種、または絶滅した動物種からの細胞を使用して培養された細胞ベースの肉製品を含み得る。
【0047】
消費用細胞ベース製品の特徴
本明細書では、従来の製品(生きた動物の屠殺または死亡を伴う場合がある)と区別することを可能にする多くの独特の特徴を含む、インビトロ生産された消費用の細胞ベースの製品が提供される。インビトロ方法は、健康や感覚上の利点等の所望の特性を達成するように調整することもできる。
【0048】
ホルモン
従来の製品と比較して、本開示のインビトロ生産された細胞ベースの製品に含まれるステロイドホルモンの量は、著しく少ない。例えば、記載されたインビトロ培養法を使用すると、培養物に外因性ホルモンを添加する必要がなく、その結果、得られる細胞ベースの肉製品のホルモンレベルが低下するか、存在しなくなる。従って、いくつかの実施形態では、細胞ベースの製品は、ステロイドホルモンを実質的に含まない(すなわち、ステロイドホルモンをほとんどまたは全く含まない)。これは、しばしば給餌または外因性ホルモンを投与される従来の食肉生産用に飼育される動物とは対照的である。
【0049】
従って、いくつかの実施形態では、本開示の細胞ベースの製品は、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約1μg、0.5μg、0.1μg、0.05μg、0.01μg、0.005μg、またはさらには約0.001μg以下のステロイドホルモンを含む。いくつかの実施形態では、細胞ベースの製品は、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約1μg、0.5μg、0.1μg、0.05μg、0.01μg、0.005μg、またはさらには約0.001μg以下のプロゲステロンを含む。いくつかの実施形態では、細胞ベースの製品は、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約1μg、0.5μg、0.1μg、0.05μg、0.01μg、0.005μg、またはさらには約0.001μg以下のテストステロンを含む。いくつかの実施形態では、細胞ベースの製品は、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約0.05μg、0.01μg、0.005μg、またはさらには約0.001μg以下のエストラジオールを含む。例示的な実施形態では、細胞ベースの製品は、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約35ng以下のエストラジオールを含む。
【0050】
微生物汚染
記載された滅菌の実験室ベースのインビトロ培養方法を使用することで、細胞ベースの製品には微生物汚染物質が実質的に含まれない。「実質的に含まない」とは、微生物または寄生虫の濃度が臨床的に重大な汚染レベルを下回っている、すなわち、摂取することにより病気になったり、健康状態が悪化するレベルを下回っていることを意味する。このように汚染レベルが低いため、品質保持期間を長くすることができる。これは、従来の食肉生産のために飼育された動物とは対照的である。本明細書において、微生物汚染には、以下に限定されるものではないが、細菌、真菌、ウイルス、プリオン、原生動物、及びそれらの組み合わせが含まれる。有害な微生物には、大腸菌群(糞便細菌)、大腸菌、酵母、カビ、カンピロバクター、サルモネラ菌、リステリア菌、ブドウ球菌等が含まれる。
【0051】
さらに、培養により成長した細胞は、動物全体の細胞に感染して不十分に調理された肉の摂取によってヒトに移入する、条虫等の寄生虫を実質的に含み得ない。
【0052】
抗生物質
従来の製品と比較して、本開示のインビトロ生産された細胞ベースの製品は、著しく少ない量の抗生物質を含むか、実質的に抗生物質を含まないか、あるいは抗生物質を完全に含まない。例えば、記載されたインビトロ培養法を使用することで、培養中に抗生物質の使用を制御または排除することができ、その結果、得られる細胞ベースの製品中の抗生物質レベルが低下するか、または存在しなくなる。従って、いくつかの実施形態では、細胞ベースの製品は、抗生物質を実質的に含まない(すなわち、抗生物質をほとんどまたは全く含まない)。これは、しばしば外因性抗生物質が給餌あるいは投与される従来の食肉生産用に飼育される動物とは対照的である。
【0053】
これにより、いくつかの実施形態では、本開示の細胞ベースの製品は、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約100μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約90μgの抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約80μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約70μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約60μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約50μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約40μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約30μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約20μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約10μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約5μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約1μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約0.5μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約0.1μg以下の抗生物質、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約0.05μg以下の抗生物質、またさらには、細胞ベースの製品の乾燥質量1kg当たり約0,01μg以下の抗生物質を含む。
【0054】
脂質
従来の製品と比較して、本開示のインビトロ生産された細胞ベースの製品は、より少ない量の平均総脂質(脂肪)を含有する。例えば、細胞ベースの肉は、一般に平均総脂肪含有量が約0.5%~約5.0%であるのに対し、従来の肉の脂肪酸含有量は部位に応じて大きく異なり、約3%~約18%の範囲にある。
【0055】
従って、いくつかの実施形態では、本開示の細胞ベースの製品の平均総脂肪含有量は、細胞ベースの製品の総湿潤質量の%として測定した場合、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約1.1%、約1.2%、約1.3%、約1.4%、約1.5%、約1.6%、約1.7%、約1.8%、約1.9%、約2.0%、約2.1%、約2.2%、約2.3%、約2.4%、約2.5%、約2.6%、約2.7%、約2.8%、約2.9%、約3.0%、約3.1%、約3.2%、約3.3%、約3.4%、約3.5%、約3.6%、約3.7%、約3.8%、約3.9%、約4.0%、約4.1%、約4.2%、約4.3%、約4.4%、約4.5%、約4.6%、約4.7%、約4.8%、約4.9%、または約5.0%である。従来の製品と比較して、脂肪含有量が低いため、カロリー含有量が低くなり、その他の関連する健康上の利点も享受することができる。
【0056】
本明細書で提供される方法では、特定の脂肪酸プロファイルを変更することにより、所望の風味特性または脂肪酸プロファイルを得ることができる。また、本開示の細胞ベースの製品中の脂肪酸のレベルが低いことにより、例えば、製品中の脂肪の酸化レベルの低下がもたらされることによって、品質保持期間の延長が促進される。
【0057】
アミノ酸
本開示の細胞ベースの肉製品は、一般に、乾燥質量100g当たり重量で約50g~約95gのアミノ酸を含む。
【0058】
ビタミンE含有量
従来の製品と比較して、本開示のインビトロ生産された細胞ベースの製品は、より多くのビタミンE(αトコフェロール)を含有する。いくつかの実施形態では、本開示の細胞ベースの製品は、細胞ベースの製品の湿潤質量100g当たり、少なくとも約0.5mg、少なくとも約0.6mg、少なくとも約0.7mg、少なくとも約0.8mg、少なくとも約0.9mg、または少なくとも約1.0mgのビタミンEを含む。
【0059】
水分含有量
本開示の細胞ベースの製品は、一般に、約65%~約95%の水分を含有する。
【0060】
細胞ベースの肉の構造
一例として、細胞ベースの肉は、含めるように操作しない限り、静脈及び動脈等の血管組織を含まないが、従来の肉はそのような血管系を含み、血管系内の血液を含む。このように、いくつかの実施形態では、細胞ベースの肉は血管系を含まない。
【0061】
同様に、細胞ベースの肉は、筋肉または筋肉様組織から構成されるが、含めるように操作しない限り、機能する筋肉組織を含まない。このように、いくつかの実施形態では、細胞ベースの肉は、機能する筋肉組織を含まない。
【0062】
なお、要望があれば、血管系や機能的な筋肉組織等の特徴を細胞ベースの肉にさらに組み込むことができることに留意されたい。
【0063】
添加
他の実施形態では、細胞ベースの製品の栄養価を高めるために、ビタミン等の他の栄養素を添加することができる。例えば、増殖培地への栄養素の外因性添加を通じて、または遺伝子工学技術を通じて達成され得る。
【0064】
品質保持期間
肉及び肉製品のかなりの部分が毎年傷んでいる。約35億kgの家禽及び肉が、消費者、小売業者及び食品サービスのレベルで廃棄されており、経済及び環境に多大な影響を与えていると推定されている(カンター等(1997年))。
【0065】
従来の肉は傷みやすく、品質保持安定性(本明細書では互換的に単に「品質保持期間」と呼ぶ。)が比較的短い。品質保持期間とは、食品が人間の消費に適した状態に保たれる期間のことを指す。従来の肉の組成と、肉を屠殺し、収穫するための条件は、糞便細菌(例えば、大腸菌群)を含むさまざまな微生物にとって好ましい生育条件を生み出す。肉はまた、化学的、酸化的、酵素的活動により腐敗し易い。一般に、微生物の増殖、酸化、及び酵素による自己消化が、肉の腐敗の原因となる3つのメカニズムであると考えられている。肉の脂肪、タンパク質及び炭水化物が分解されると、異臭と異味が発生し、これらの異臭や異味により肉は人間の消費には適さないものとなる。種や収穫方法にもよるが、従来の肉製品は比較的短い保存期間を過ぎると、安全に消費できなくなる。例えば、鶏肉は購入してから数日以内に調理する必要がある。調理済みの鶏肉は、冷蔵庫では4日間、冷凍庫では最大4か月間安全に保存することができる。従って、肉の品質保持期間を延ばし、栄養価、食感、風味を維持するために、肉の腐敗を制御する必要がある。
【0066】
インビトロ生産された細胞ベースの肉は、その生産方法及び組成により、従来の肉製品と比較して品質保持期間が長い肉製品を生産でき、品質保持期間の安定性を得るために、防腐剤を添加する必要がない。細胞ベースの肉の組成は、異臭や異味がほとんど検出されないようにできてる。さらに、インビトロ細胞ベースの肉を生産するために使用される製造方法では、清潔で無菌状態とする必要がある。これらの条件により、収穫された製品とその後の食品加工の両方における微生物細胞数が確実に低くなる。これらの複数の要因は、インビトロ細胞ベースの肉の品質保持期間の安定性の延長に貢献する。
【0067】
本開示の細胞ベースの肉の腐敗に起因する品質保持期間は、従来の肉と比較して向上する。これは、室温(約25℃)とそれより低い温度(例えば、約4℃)の両方に当てはまる。延長された品質保持期間は、汚染の減少、細胞ベースの肉の組成、細胞ベースの肉の劣化の減少、及び細胞ベースの肉の色、腐敗、匂い、風味の変化率の低下に関連している。
【0068】
足場の形成
上述したように、足場の約90重量%以上が植物ベースの脂肪及びワックスから生成されている。脂肪及びワックスの例としては、パーム核油、ココナッツ油、ココアバター、及びパーム油が挙げられる。もちろん、他の(飽和及び/または不飽和)脂肪(脂肪酸)/ワックスもまた、及び/または追加で使用することができる。野菜由来の油脂の混合物を乳化する既知の技術、例えば分別、エステル交換及び/または水素化を適用して、所望の特性を達成することができる。いくつかの実施形態では、植物ベースの脂肪及びワックスは、足場の約98重量%以上を構成する。
【0069】
植物ベースの脂肪及びワックスに加えて、足場の残りの約10%以下は、播種された細胞が足場に結合するのを助け、足場との構造的な一体化を維持する追加の機能性材料を含む。これらの機能性材料は、細胞表面/細胞膜内に存在する天然に存在する対応物と同様の機能を有する必要がある。例示的な成分には、セレクチン、カドヘリン、インテグリン、クロディン、及びコネキシン等の結合/シグナル伝達タンパク質、砂糖、デンプン、ペクチン等の炭水化物、セルロース繊維、菌糸体、藻類等の繊維、細胞の成長を促進させるビタミンとミネラル、空気、窒素、酸素等の気体を含む。いくつかの実施形態では、追加の機能性材料は、足場の約2重量%以下を構成する。場合によっては、足場の機能性材料は、増殖培地への曝露と溶けた足場への暴露との組み合わせによって、成長細胞に、過度のまたは許容できない浸透圧ストレスが生じないように制限される。
【0070】
成長期にある細胞ベースの肉の汚染を防ぐために、細胞の成長期の前に足場を加熱することによって足場を簡単に滅菌することができる。従って、植物ベースの脂肪(主に飽和脂肪酸)及び/またはワックスは、その融点よりも高く発煙点よりも低い滅菌温度まで加熱される。他の物質は、個別に滅菌してもよいし、及び/または懸濁液に添加してもよい。加熱滅菌処理に必要な時間と滅菌温度は、潜在的に有害な微生物や胞子(D値とZ値)に応じて選択する必要があり、また、他の材料の安定化(酵素やビタミンの変性温度等)に合わせて調整することもできる。生物のD値は、特定の培地及び温度において生物の数が10分の1に減少するのに要する時間であり、Z値は、D値の10倍(つまり、1 log10)の削減を達成するために、温度を何度まで上昇させる必要があるかを示す。加熱滅菌に追加または代替として製品の滅菌濾過が予定されている場合、使用されるすべての物質は可溶性/融解性である必要がある。
【0071】
全材料の滅菌が完了した後、足場を形成する前に、足場を結合温度まで冷却しても良い。ガスを含む他の滅菌材料は、化学的且つ物理的特性 (タンパク質の機能性及び/または結晶構造等)を維持するために、冷却前または冷却後に混合物に注入される。足場自体の形成は、分散と冷却によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、混合物を凝固させるために低温ガスが使用される。いくつかの実施形態では、滅菌粉末及び鉱物を、例えば噴霧乾燥反応器において種及び/またはコーティングとして使用することができる。異なる懸濁液や様々な材料を交互に使用することによって、異なる特性を有する複数層の足場をこれらのユニット内で作成することができる。
【0072】
ガス分散及び冷却を使用して足場を形成することにより、機能的で特別に設計された足場の作成が可能になるが、その処理は複雑であり、コストがかかる。従って、他の実施形態では、細胞ベースの肉の大量生産により適するように、水または培地(細胞を含むまたは含まない)等の冷たい無菌流体に足場を分散させることによって足場を凝固させることができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、溶けた液体の足場をより冷たい流体に注入して、足場材料の細いストランドを形成することができる。他の実施形態では、足場をより冷たい流体上に噴霧し、細胞接着のための大きな表面を有する多数の小さな液滴を生成する。これらの無菌で機能的な足場は非常に価値があるため、必要であれば、異なる時期に、または異なる施設で製造及び使用することができる。
【0074】
特定の実施形態では、事前に加熱滅菌した材料を冷却して少なくとも部分的に凝固させることによって形成された植物脂肪ベースの機能性足場は、細胞が、含まれるタンパク質に結合し、融合して組織を形成できる温度で処理される。これにより、細胞の最適成長温度よりも低い環境で播種を行うことができ、足場の構造を保証することができる。あるいは、足場が少なくとも部分的に溶けているときに、細胞の最適増殖温度以上で播種を行ってもよい。播種された細胞が足場に確実に接着できるようにするために、播種段階の間に細胞結合タンパク質も足場に追加してもよい。足場に細胞の所望の集団を播種した後、播種した足場を栄養豊富な培養液に浸して細胞の成長を促進する。
【0075】
足場は、播種された細胞の耐久温度範囲の上端よりも低い融点を有するため、細胞成長段階において細胞に損傷を与えることなく、足場が部分的に溶ける点まで温度を上昇させることができ、これにより、播種された細胞を、播種された足場が浸漬された栄養豊富な環境にさらすことができる。これにより、培養細胞が成長するためのより多くのスペースを確保し、また、培養細胞を細胞の成長を助けるためのより多くの栄養素にさらすことができる。いくつかの実施形態では、足場自体が、細胞の成長を促進する追加のビタミン及びミネラルを含む。これらの追加のビタミンやミネラルは、足場が溶けるにつれて放出されるようにしてもよい。一例において、足場の融解により、足場に蓄えられた栄養素が放出され、細胞が培地の流れ及びその中の栄養素により多くアクセスできるようになり、細胞が成長するための増加したスペース、またはそれらの組み合わせを提供することができる。他の実施形態では、細胞成長段階において足場が溶けないように、足場の融点よりも低い、播種細胞の最適増殖温度範囲内の一定温度が選択される。
【0076】
所望のバイオマス及び組織形成/細胞融合が達成された後、いくつかの実施形態では、足場は消費しても安全であるため、最終製品に完全に残される。他の実施形態では、細胞組織を採取する前に、最終製品から足場の一部または全部を溶かして取り除くことができる。
【0077】
足場を溶かして取り除く場合、溶けた足場の材料は、廃水処理プラント等の任意の既知の従来の手段を使用してリサイクルすることができる。あるいは、溶けた足場の材料は密度が低く、容易に分離することができるため、いくつかの実施形態では、溶けた足場の材料を分離し、新しい足場材料として再利用することができる。
【0078】
いくつかの実施形態では、足場は、反応チャンバと流体連通するタンク用の滅菌システムと、滅菌された植物ベースの脂肪、細胞結合タンパク質、培地、及び培養細胞のうちの1つ以上を送達することができる1つ以上のスプレーノズルとを備える自己密閉型バイオリアクター内で作成される。
【0079】
例
例1:哺乳類の肉の成長のための乳化ココナッツ油の足場
非限定的な1つの例では、90%以上の乳化ココナッツと、10%以下のセレクチン、セルロース繊維、およびペクチンを含む混合物を、混合物を滅菌するために、摂氏65度を超える温度で最長30分間加熱する。滅菌時間を短縮するために、より高い滅菌温度を使用してもよい。次いで、多数の液滴の足場を形成するために、摂氏15度の栄養培地を有するバイオリアクターに混合物を噴霧することによって、混合物を結合温度まで冷却する。細胞結合タンパク質、糖、ビタミン、ミネラル等の追加の機能性成分が、移送ラインまたはノズルを介してバイオリアクターに追加される。次に、インビトロで調製された哺乳類の肉細胞が、所望の集団に達するまで足場上に播種される。次に温度を哺乳類細胞の最適な細胞成長温度である摂氏30~40度に上げ、播種した細胞を成長させる。場合によっては、足場材料の所望の部分が細胞組織から溶け出すまで温度を一時的に摂氏41~43度に上げ、最適な生育温度に下げる前に、追加の糖、ビタミン、ミネラルを足場から培地に放出させて細胞の成長を促進する。次に、細胞組織がバイオリアクターから抽出される一方、溶解した足場は最終製品から溶かし出され、既知の密度濾過法を使用して水溶液から分離される。あるいは、足場を溶解せずに細胞組織から除去する。更に他の例では、足場は食べることが可能であるため、細胞組織の一部として残される。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトが消費するための細胞ベースの動物組織を成長させるための植物脂肪ベースの足場であって、
a.結合温度及び滅菌温度を有する少なくとも1つの植物ベースの飽和脂肪酸またはワックスと、
b.動物組織細胞が成長するために前記足場に接着できるようにする細胞結合タンパク質と、を含み
前記足場は、前記少なくとも1つの植物ベースの飽和脂肪酸またはワックスの前記滅菌温度で、液体状態で存在することができ、前記足場は、前記結合温度で、細胞の接着及び成長中に固体状態で存在することができることを特徴とする植物脂肪ベースの足場。
【請求項2】
前記足場は、食べることが可能であることを特徴とする請求項1に記載の植物脂肪ベースの足場。
【請求項3】
細胞の成長を促進する栄養素及びミネラル、保存料、着色料、香味増進剤、細胞結合補助分子、及び構造支持成分から選択される、1つ以上の二次成分を更に有することを特徴とする請求項1に記載の植物脂肪ベースの足場。
【請求項4】
ヒトが消費するための細胞ベースの動物組織を成長させるために設計された植物脂肪ベースの足場を形成する方法であって、
a.足場を形成するために少なくとも1つの植物ベースの飽和脂肪酸またはワックスを選択し、
b.前記少なくとも1つの植物ベースの飽和脂肪酸またはワックスの融点または発煙点よりも高い温度まで前記足場を加熱することによって、前記足場を少なくとも部分的に滅菌し、
c.固体の足場を形成するために、前記足場を低温の液体またはガスに入れ、
d.成長のために前記固体の足場に所定量の動物細胞の集団を播種し、
e.細胞の成長の完了後、または動物組織が形成された後に、前記足場の少なくとも50パーセントを前記動物細胞から分離
し、
前記足場を溶かして液体の状態に戻し、前記細胞組織を損傷することなく前記液体の足場を組織製品から除去することによって、前記足場の大部分を前記動物細胞から分離できることを特徴とする方法。
【請求項5】
前記足場を前記動物細胞から分離した後、前記足場が別の足場を形成するための原材料としてリサイクル可能であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
植物脂肪ベースの足場を用いて動物細胞の集団を動物組織製品に成長させる方法であって、
a.植物脂肪ベースの足場に、動物細胞の集団を播種し、
b.前記動物細胞に1つ以上の成長栄養素を供給し、
前記動物細胞に、成長を促進するために1つ以上の成長栄養素を供給してもよく、
c.前記細胞の成長を評価して、細胞がいつ所望のサイズまたは形状に達するかを特定し、
d.成長が完了した後、前記動物細胞から前記足場を分離する
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
1つ以上の成長栄養素が前記足場に組み込まれてることを特徴とする請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の成長栄養素を含む前記足場は、前記1つ以上の成長栄養素を解き放つために、成長段階において、温度を、前記細胞の最適成長温度よりも高く、前記細胞の温度耐久範囲の上端よりも低い温度に上昇させることによって、部分的に溶解可能であることを特徴とする請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
植物脂肪ベースの足場を用いて、細胞ベースの動物組織製品を成長させる方法であって、
a.少なくとも1つの植物ベースの脂肪またはワックスを用いて、細胞の成長のための足場を提供し、
b.前記足場が部分的に固体で部分的に液体である間に、前記足場に動物細胞の集団を播種し、
前記足場は、前記動物細胞の最適成長温度で固体であって、
c.前記動物細胞を播種した後、前記足場を冷却して固体にする
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記足場は、それぞれ異なる溶融温度を有する2つ以上の異なるタイプの脂肪またはワックスで構成されていることを特徴とする請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
脂肪またはワックスの少なくとも一つが液体状態にあり、脂肪またはワックスの少なくとも一つが固体状態にある間に、前記足場に播種することを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記足場が部分的に固体で部分的に液体である間に、1以上の細胞結合タンパク質を入れることを特徴とする請求項
9に記載の方法。
【国際調査報告】