(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】近赤外線遮蔽コーティングを製造するための透明膜形成組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/06 20060101AFI20240614BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240614BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240614BHJP
C09D 183/08 20060101ALI20240614BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240614BHJP
C09D 183/02 20060101ALI20240614BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C09D183/06
C09D7/61
C09D7/63
C09D183/08
C09D183/04
C09D183/02
C09D5/33
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575351
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 MY2022050043
(87)【国際公開番号】W WO2022255859
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】PI2021003079
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523455530
【氏名又は名称】クリスタルボンド テクノロジーズ センディリアン ベルハッド
【氏名又は名称原語表記】KRISTALBOND TECHNOLOGIES SDN BHD
【住所又は居所原語表記】44-a-1, Jalan Keluli Aj7/aj, Pusat Perniagaan Bukit, Raja, Seksyen 7, 40000 Shah Alam Selangor, Malaysia
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100217412
【氏名又は名称】小林 亜子
(72)【発明者】
【氏名】チューイ ヤン ガン
(72)【発明者】
【氏名】チョー アン ガン
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL021
4J038DL051
4J038DL081
4J038HA166
4J038JC34
4J038JC35
4J038KA04
4J038KA08
4J038MA14
4J038NA19
4J038PB06
4J038PC03
(57)【要約】
本発明は、近赤外線遮蔽コーティングを製造するための透明膜形成組成物であって、エポキシ基を有するアルコキシシランと活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの反応生成物を主成分として含有する膜形成バインダーと、酸触媒と、近赤外線遮蔽材料とを含有する組成物に関する。本発明は、前述した組成物を使用して製造される近赤外線遮蔽コーティング、及びその製造方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線遮蔽コーティングを製造するための透明膜形成組成物であって、
エポキシ基を有するアルコキシシランと活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの反応生成物を主成分として含有する膜形成バインダーと、
酸触媒と、
近赤外線遮蔽材料と
を含有する組成物。
【請求項2】
前記使用される近赤外線遮蔽材料が、三酸化タングステン、酸化アンチモンスズ、酸化インジウムスズ、酸化スズ、及び二酸化スズからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記使用される近赤外線遮蔽材料が三酸化タングステンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記三酸化タングステンが前記組成物全体の0.1重量%~20重量%の範囲の量で存在する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記三酸化タングステンが50nm未満の粒径を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記三酸化タングステンが溶媒中にナノ粒子の形態で均一に分散している、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記三酸化タングステンを分散させるために使用される前記溶媒が、水、アルコール系溶媒、ケトンエーテル系溶媒、並びにジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロパノールからなる群から選択される2つ以上の官能基を有する溶媒から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記膜形成バインダーが、トリ-若しくはジアルコキシラン(dialkoxylane)、モノアルコキシシラン、グリシドシラン、又はそれらの任意の2種以上の組み合わせから選択されるシラン化合物である副成分をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
紫外線吸収剤、赤外線反射剤又は赤外線吸収剤、染料及び/又は顔料、安定剤、並びに光安定剤から選択される添加剤の混合物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記酸触媒が、硫酸、硝酸、有機リン化合物、及びp-トルエンスルホン酸から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物から製造される近赤外線遮蔽コーティングであって、前記組成物が、
エポキシ基を有するアルコキシシラン及び活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランと、トリ-若しくはジアルコキシシラン、モノアルコキシシラン、及び/又はグリシドシランとの反応生成物を含む膜形成バインダーと、
酸触媒と、
近赤外線遮蔽材料と
を含有する近赤外線遮蔽コーティング。
【請求項12】
前記近赤外線遮蔽材料が、三酸化タングステン、酸化アンチモンスズ、酸化インジウムスズ、酸化スズ、及び二酸化スズからなる群から選択される、請求項11に記載の近赤外線遮蔽コーティング。
【請求項13】
前記使用される近赤外線遮蔽材料が三酸化タングステンである、請求項12に記載の近赤外線遮蔽コーティング。
【請求項14】
近赤外線遮蔽コーティングを製造するための方法であって、
エポキシ基を有するアルコキシシラン及び活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランと、トリ-若しくはジアルコキシシラン、モノアルコキシシラン、及び/又はグリシドシランとの反応生成物を含む膜形成バインダーを調製する工程と、
近赤外線遮蔽材料を溶媒中に分散させ、続いてその中に添加剤の混合物を添加することによって前記近赤外線遮蔽材料の分散液を調製する工程と、
酸触媒の存在下で前記膜形成バインダーを前記分散液と混合して透明膜形成組成物を形成する工程と、
前記膜形成組成物を基材の前処理された表面に塗布する工程と、
前記膜形成組成物を硬化させて前記近赤外線遮蔽コーティングを形成する工程と
を含む方法。
【請求項15】
前記近赤外線遮蔽材料が、三酸化タングステン、酸化アンチモンスズ、酸化インジウムスズ、酸化スズ、及び二酸化スズからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記使用される近赤外線遮蔽材料が酸化タングステンである、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成組成物、特に近赤外線遮蔽コーティングの製造に適した近赤外線遮蔽性を有する透明膜形成組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透明なガラスは、商業ビルのガラスドア及び窓に最も一般的且つ慣用的な材料である。伝統的に、自動車メーカーは、自動車の窓を製造するための主な材料としてガラスを使用してきた。その汎用性にもかかわらず、近年、ガラス窓をポリカーボネートなどのプラスチック製又はポリマー樹脂製の窓に置き換えることが望まれるようになってきた。ポリマー製の窓は、軽量、高強度、成型及び成形の容易性さなどの大きな利点のため、非常に需要がある。ガラス窓と同様に、自動車や建物でポリマー窓を使用することの潜在的な制約の1つは、ポリマー窓を通る光の透過率であり、そのため紫外線や赤外線がフィルタリングされずに窓を通過することになる。有害なことに、これにより車内や建物内の空調に大きな熱負荷がかかり、中にいる人の快適性に大きな影響を及ぼす。一般的に、ガラスと同等の赤外線フィルタリングが実現しない限り、自動車業界及び建設業界はガラスからポリマー窓への切り替えを行わないと考えられている。
【0003】
紫外線から保護するための一般的な戦略は、紫外線吸収剤が配合されたプラスチック膜又は塗料を車又は建物の窓に塗布することである。さらに、銀やアルミニウムなどの金属層を含む赤外線反射剤を導入することによって、自動車や建物の空調効率を改善することができる。しかしながら、これらの金属は化学的に不安定で酸化劣化し易く、保護しないと不透明な金属酸化物及び硫化物を形成することが知られている。そのため、赤外線反射層は、一般的には空気及び水への曝露から保護される二重窓ガラス構造の中央にのみ適用される。
【0004】
銀又はアルミニウムを含む赤外線反射金属層が2つの二酸化チタン又は酸化亜鉛層の間に挟まれたガラス窓において、より高度な手法が実証されている。この手法では、酸化チタン含有コーティングが部分的な紫外線吸収剤としてしか機能せず、これでコーティングされたポリマー窓が変色する可能性があるため、この手法はポリマー基材には不適切である。さらに、酸化チタンは光触媒作用を有しており、ポリマー基材を劣化させる。
【0005】
ガラス上で使用される赤外線フィルタリングの技術分野で知られている別のアプローチは、酸化インジウムスズなどの赤外線反射酸化物をガラス基板に塗布することである。酸化インジウムスズは導電性を有しており、一般に1500nmを超える波長の赤外線領域でよく反射する。しかしながら、酸化インジウムスズは、波長が800~1500nmの近赤外領域ではあまり反射しない。近赤外領域の放射のフィルタリングは、車室の過熱を防ぐために車両用途で特に不可欠である。そのような技術は、酸触媒の存在下でのエポキシ基を有するアルコキシシランと活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの反応生成物、並びにその中に混合された微粉砕ITO助触媒と少なくとも1種の溶媒との混合物、を含有する透明シリコーン膜形成組成物を開示している米国特許第6875836B2号明細書に例示されている。
【0006】
近年、酸化インジウムスズでは近赤外線を十分にフィルタリングすることができなかったガラス窓コーティングの製造において、三酸化タングステンが酸化インジウムスズの代わりに使用されている。ある代表的な研究では、三酸化タングステンナノ粒子の分散液が可視光の許容可能な高い透過率を維持しながらも近赤外光の大きな吸収を示すことが判明し、この特性が自動車や建築物の窓の日射制御フィルターに非常に適していると結論付けられている[Hiromitsu Takeda,Kenji Adachi;Near Infrared Absorption of Tungsten Oxide Nanoparticle Dispersions;Journal of the American Ceramic Society;Volume90,Issue12]。実際、近赤外線を吸収するための酸化タングステン分散液の使用に関する技術は、米国特許第7687141B2号明細書や欧州特許出願公開第2682265A1号明細書などの複数の特許文献に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
三酸化タングステンを実質的に使用することによって付与することができる近赤外線遮蔽特性を有するコーティングの製造に使用するための組成物を提供することが求められていることは明らかである。本発明はそのような解決手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、近赤外線遮蔽コーティングを製造するための透明膜形成組成物を提供することである。特に、この組成物は、近赤外線遮蔽及び吸収機能を付与するための三酸化タングステンの近赤外線遮蔽材料を含む。
【0009】
本発明の別の態様は、800nm~1000nmの波長領域内の近赤外線を遮蔽及び吸収することができる、上記組成物から製造される近赤外線遮蔽コーティングを提供することである。
【0010】
さらに、本発明の一態様は、上記組成物を使用する近赤外線遮蔽コーティングの製造方法を提供することである。
【0011】
前述した目的の少なくとも1つは、全体的に又は部分的に満たされ、その中で、本発明の実施形態は、近赤外線遮蔽コーティングを製造するための透明膜形成組成物について記載し、この組成物は、エポキシ基を有するアルコキシシランと活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの反応生成物を主成分として含有する膜形成バインダーと、酸触媒と、近赤外線遮蔽材料とを含有する。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、使用される近赤外線遮蔽材料が、三酸化タングステン、酸化アンチモンスズ、酸化インジウムスズ、酸化スズ、及び二酸化スズからなる群から選択されることが開示される。
【0013】
好ましくは、使用される近赤外線遮蔽材料は三酸化タングステンである。
【0014】
好ましくは、三酸化タングステンは50nm未満の粒径を有する。
【0015】
本発明の別の好ましい実施形態では、三酸化タングステンが溶媒中にナノ粒子の形態で均一に分散していることが開示される。
【0016】
好ましくは、三酸化タングステンを分散させるために使用される溶媒は、水、アルコール系溶媒、ケトンエーテル系溶媒、並びにジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロパノールからなる群から選択される2つ以上の官能基を有する溶媒から選択される。
【0017】
膜形成バインダーは、トリ-若しくはジアルコキシラン(dialkoxylane)、モノアルコキシシラン、グリシドシラン、又はそれらの任意の2種以上の組み合わせから選択されるシラン化合物である副成分をさらに含むことが好ましい。
【0018】
組成物は、紫外線吸収剤、赤外線反射剤又は赤外線吸収剤、染料及び/又は顔料、安定剤、並びに光安定剤から選択される添加剤の混合物をさらに含むことが好ましい。
【0019】
酸触媒が、硫酸、硝酸、有機リン化合物、及びp-トルエンスルホン酸から選択されることも好ましい。
【0020】
本発明のさらなる実施形態は、上述した組成物から製造される近赤外線遮蔽コーティングを開示する。
【0021】
本発明の別の例示的な実施形態は、近赤外線遮蔽コーティングを製造するための方法を記載し、この方法は、エポキシ基を有するアルコキシシラン及び活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランと、トリ-若しくはジアルコキシシラン、モノアルコキシシラン、及び/又はグリシドシランとの反応生成物を含む膜形成バインダーを調製する工程、近赤外線遮蔽材料を溶媒中に分散させ、続いてその中に添加剤の混合物を添加することによって近赤外線遮蔽材料の分散液を調製する工程、酸触媒の存在下で膜形成バインダーを分散液と混合して透明膜形成組成物を形成する工程、液体混合物を基材の前処理された表面に塗布する工程、並びに液体組成物を硬化させて近赤外線遮蔽コーティングを形成する工程を含む。好ましくは、近赤外線遮蔽材料は、三酸化タングステン、酸化アンチモンスズ、酸化インジウムスズ、酸化スズ、及び二酸化スズからなる群から選択される。より好ましくは、使用される近赤外線遮蔽材は酸化タングステンである。
【0022】
当業者は、本発明が目的を実行し、言及された目的及び利点、並びにそれらに固有のものを得るためによく適していることを容易に理解するであろう。本明細書に記載の実施形態は、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以降、本発明を、本発明の好ましい実施形態に従って、添付の明細書及び図面を参照して説明する。しかしながら、説明を本発明の好ましい実施形態に限定することは、本発明の検討を行い易くする目的にすぎず、当業者であれば、添付の特許請求の範囲から逸脱することなしに様々な修正形態を考え出すことができると想定されることが理解されるべきである。
【0024】
本発明は、近赤外線遮蔽コーティングを製造するための透明膜形成組成物、及び該組成物を使用する近赤外線遮蔽コーティングの製造方法に関する。「近赤外線」という用語は、通常800nm~1000nmの範囲の波長を持つスペクトル領域の電磁放射又は光を指す。本発明との関係において、近赤外線遮蔽コーティングは、近赤外線領域の放射に対する保護を提供することができる。本発明者らは、エポキシ基を有するアルコキシシランと活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの反応生成物を主成分として含有する膜形成バインダーと、酸触媒と、近赤外線遮蔽材料とを含有するケイ素系膜形成組成物から、近赤外線遮蔽特性/吸収特性に優れた透明コーティングを形成できることを見出した。そのため、本発明は、上述したものから簡便に製造される近赤外線遮蔽コーティングも提供し、これについても以降で詳しく説明する。
【0025】
本発明で使用される膜形成バインダーは、エポキシ基を有するアルコキシシランと、活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの反応生成物を含有する膜形成組成物の主成分である。本発明で使用されるアルコキシシランは、本質的には、組成物中で有機材料を無機材料に結合させる媒介として機能するシランカップリング剤である。アルコキシシラン中に存在するエポキシ基及びアミノ基は、合成樹脂などの有機材料と化学結合を形成する反応性基であり、これによって膜形成バインダーの付着性及び機械的強度が向上する。
【0026】
膜形成バインダーにおいて使用されるエポキシ基を有するアルコキシシランは、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランからなる群から選択することができる。
【0027】
膜形成バインダーに使用される活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランは、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-(β-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメトキシシランから選択することができる。好ましくは、N-(β-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメトキシシランが膜形成バインダーにおいて使用される。N-(β-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメトキシシランを膜形成バインダーの主成分として使用すると、得られる組成物が硬化後に硬い膜を生成し、窓の開閉を経ても傷が観察されないため、これは自動車の窓ガラスのコーティングとして適している。
【0028】
エポキシ基を有するアルコキシシランと活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの反応生成物を主成分として膜形成バインダーを調製する場合、エポキシ基を有するアルコキシシランと活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの配合比は、質量比で好ましくは1:1~9:1、より好ましくは1:1~4:1の範囲である。以降、上記配合を配合Iと呼ぶものとする。配合Iの調製において、エポキシ基を有するアルコキシシランの質量比が9を超える場合には、結果として生じる近赤外線遮蔽コーティングを得るために、膜形成組成物の硬化時間を長くする必要がある場合がある。さらに、それから形成されるコーティングの表面硬度が低い場合がある。その一方で、活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランの質量比が4を超えると、得られる近赤外線遮蔽コーティングの耐候性が低下する場合がある。
【0029】
必要に応じて、最終硬度、乾燥速度、及び耐候性などの得られるコーティングの表面特性を調整するために、膜形成バインダー中でシラン化合物である副成分を使用することができる。本発明の好ましい実施形態によれば、膜形成バインダーは、トリアルコキシリアン(trialkoxyliane)、ジアルコキシシラン、モノアルコキシシラン、グリシドシラン、又はそれらの任意の2種以上の組み合わせから選択される第2のシラン化合物をさらに含む。言い換えると、膜形成バインダーは、エポキシ基を有するアルコキシシラン及び活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランと、トリアルコキシリアン(trialkoxyliane)、ジアルコキシシラン、モノアルコキシシラン、グリシドシラン、又はそれらの任意の2種以上の組み合わせとの反応生成物であってよい。
【0030】
この場合、膜形成バインダーの副成分に使用されるトリアルコキシシラン又はジアルコキシシランとしては、典型的には、トリメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、及びトリエトキシエチルシランを挙げることができる。前述したシラン化合物は、硬化したコーティングの表面硬度を向上させることが確認された。膜形成バインダーの副成分に使用されるモノアルコキシシランとしては、メトキシシラン、エトキシシラン、プロポキシシラン、及びブトキシシランを挙げることができる。
【0031】
それに伴い、エポキシ基を有するアルコキシシランと活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランとの反応生成物である主成分と、シラン化合物である副成分の両方を含有する膜形成バインダーを調製する場合、活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランと、シラン化合物である副生成物との配合比は、得られる近赤外線遮蔽コーティングの望まれる表面特性に応じて増減させることができる。以降、前述した配合を配合IIと呼ぶものとする。配合IIの調製において、コーティングの作業性が減るようにシラン化合物である副成分の比率を増加させると、乾燥時間が速くなるが、コーティングに硬化収縮痕が生じる場合がある。他方で、活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランの比率を増加させると、後に添加される有機機能剤に影響が生じる可能性がある。したがって、耐候性コーティングを形成し、その硬度を十分に向上させるためには、前述した成分を等モル比に基づいて重合させることが重要である。エポキシ基を有するアルコキシシランと、活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランと、副成分であるシラン化合物の配合比は、8:4:1~8:8:5(これらのそれぞれは必ずしも整数ではない)の範囲内を示し得ることが好ましい。
【0032】
近赤外線遮蔽コーティングを生成する膜形成組成物では、酸触媒が使用される。ヒドロキシル基を有する親水性アルコキシシランが代わりに使用されると、酸触媒は、室温でその加水分解を促進してより高い反応性のシラノールを形成するように機能し、これはその後形成されたシラノールの縮重合を促進する。本発明の好ましい実施形態によれば、使用される酸触媒は、硫酸、硝酸、有機リン化合物、及びp-トルエンスルホン酸から選択することができるが、三フッ化ホウ素も考慮され得る。
【0033】
名前が示すように、膜形成組成物は、近赤外線遮蔽コーティングの製造のための使用に適しており、このコーティングは、800nm~1000nmの範囲の特定の波長を持つ近赤外線領域の電磁放射を選択的に遮蔽及び吸収する能力を有する。そのような能力は、本発明のユニークな特徴であり、組成物中に近赤外線遮蔽材料を含ませることによって付与される。一般的に使用される近赤外線遮蔽材は金属酸化物である。本発明の好ましい実施形態によれば、近赤外線遮蔽材料は、典型的には、三酸化タングステン、酸化アンチモンスズ、酸化インジウムスズ、酸化スズ、及び二酸化スズからなる群から選択される。一般に、金属酸化物は780nm~1mmの波長を持つ赤外線領域の放射を遮蔽及び吸収することができるが、三酸化タングステンは、800nm~1000nmの波長領域内の近赤外線放射を遮蔽及び吸収することができ、そのため、太陽光からの約950nmの赤外放射の最大強度は、前述した領域内にある。したがって、本発明との関係においては、膜形成組成物の配合の際に近赤外線遮蔽材料として三酸化タングステンを使用することが最も好ましい。
【0034】
近赤外線遮蔽コーティングに十分に機能を付与するためには、膜形成組成物の配合に適切な量の三酸化タングステンが必要とされる。本発明の好ましい実施形態によれば、三酸化タングステンは、全組成物の0.1重量%~20重量%の範囲の量で存在する。使用される三酸化タングステンは、好ましくは細かく粉砕された粒子の形態であり、曇りや濁りを生じない。組成物中の使用される三酸化タングステンの量が好ましい範囲を超えると、形成される近赤外線遮蔽コーティングの可視光線透過率が低下し、それによって透明性が低下する場合がある。
【0035】
十分な近赤外線遮蔽/吸収機能を付与しながらも、形成されるコーティングの評価できる可視光透過性及び透明性を維持するためには、使用される三酸化タングステンの粒径は、好ましくは可視光の波長未満とすることができる。本発明の好ましい実施形態では、使用される三酸化タングステンが500nm未満の粒径を有することが記載される。三酸化タングステンを膜形成バインダーに混合する際の作業性を得るためには、三酸化タングステンが溶媒中にナノ粒子の状態で均一に分散していることが好ましい。三酸化タングステンナノ粒子分散液は、近赤外領域において透明性が高く、800nm~1000nmの波長範囲で近赤外線の遮蔽及び吸収を示すことが確認されている。近赤外線の遮蔽及び吸収は、三酸化タングステンナノ粒子の積分球内に集められる散乱透過放射によるものであると考えられる。三酸化タングステンを分散させるために、基本的に溶媒が使用される。本発明の好ましい実施形態によれば、三酸化タングステンを分散させるために使用される溶媒は、水、アルコール系溶媒、ケトンエーテル系溶媒、並びにジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロパノールからなる群から選択される2つ以上の官能基を有する溶媒から選択される。前述したプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートの例としては、1-エトキシ-2-プロピルアセテート及び2-エトキシ-1-プロピルアセテート、これらによる2-プロピルと1-プロピルアセテートとの90%以上10%以下の比率の混合物を挙げることができる。ジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロパノールなどの高い極性の溶媒が好ましく使用され得るが、(2-メトキシメチルエトキシ)ジメチルホルムアミドやN-メチルピロリドンに限定されない。さらに、添加剤の溶解性を向上させるためにも溶媒が提供される。
【0036】
添加剤は、近赤外線遮蔽コーティングを製造するための膜形成組成物を配合する際に、その特性、外観、及び安定性を改善するように使用することができる。したがって、本発明の膜形成組成物は、紫外線吸収剤、赤外線反射剤又は赤外線吸収剤、染料及び/又は顔料、安定剤、並びに光安定剤から選択される添加剤の混合物をさらに含む。
【0037】
幅広い紫外線吸収剤を膜形成組成物に使用することができる。例えば、アルカリ試薬によって膜を剥がす際に撥アルカリ性が要求される場合には、アルカリ可溶性の紫外線吸収剤をベンゾフェノン系又はベンゾトリアゾール系から選択することができる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の例としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸などが挙げられる。
【0038】
赤外線遮蔽剤は、赤外線に対する保護特性を近赤外線遮蔽コーティングに付与するために膜形成組成物中で使用される。本発明では、2つのタイプの赤外線遮蔽剤、すなわち赤外線反射型と赤外線吸収型の赤外線遮蔽剤が使用される。赤外線反射型の遮蔽剤の例としては、BASF製のペリレンブラック顔料を挙げることができる。赤外線吸収型の遮蔽剤の例としては、日本カーリット株式会社製のアニリン系又はポリアニリン系、株式会社日本触媒製のシアニン系又はフタロシアニン系などの有機顔料、並びに株式会社クレハ製の酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、及び酸化アンチモンスズなどの無機化合物、又は銅、銀、鉄、及びマンガンなどの金属錯体を挙げることができ、600nm~の波長範囲で有効である。
【0039】
本発明との関係において、本発明で添加剤として使用される紫外線吸収剤及び赤外線遮蔽剤は、膜形成組成物の1~45重量%の量で存在することができる。紫外線吸収剤及び赤外線遮蔽剤が1重量%未満である場合、紫外線吸収効果が弱くなり、膜の撥水性が低下する。一方で、その量が45重量%を超えると、耐水性、耐薬品性が低下するだけでなく、ブルーミングや又はブロンズ現象が生じる。したがって、実用上の観点からは好ましい量は1.5~20重量%の量であることが望ましい。
【0040】
本発明の膜形成組成物において使用される添加剤の混合物は、好ましくは高い耐候性を有する染料及び/又は顔料を含む。許容される染料の例としては、CIダイレクトイエロー98、CIダイレクトレッド220、及びCIダイレクトブルー77などの直接染料、並びにCIアシッドイエロー112、CIアシッドレッド256、及びCIアシッドブルー182などの酸性染料が挙げられる。許容される顔料のいくつかの例には、CIピグメントイエロー157、CIピグメントレッド101、及びCIピグメントブルー29などの無機顔料、並びにCIピグメントイエロー154、CIピグメントレッド122、及びCIピグメントブルー15:1などの有機顔料も含まれ得る。好みに応じて、染料及び顔料を単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0041】
必要に応じて、外観を向上させるための特殊顔料を使用することもできる。特殊顔料の例としては、アクリル樹脂に溶解したアシッドイエロー73などの蛍光色を呈する蛍光顔料、照射を止めた後も光り続けるアルミン酸ストロンチウムなどの発光顔料、パール効果を呈する二酸化チタン被覆マイカなどの真珠光沢顔料、マイクロカプセル化されたローダミンBラクタム/没食子酸イソオクチル/セチルアルコールなどの温度に応じて色が変化するサーモカラー顔料、親水性を付与するためのシリカやチタニアなどの親水性顔料、カーボンブラックなどの光透過率を調整するための特殊顔料、及び赤外線や熱線を反射する機能性顔料が挙げられる。
【0042】
本発明の膜形成組成物においては、活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランに通常由来する窒素原子の孤立電子対を安定化するための安定剤である添加剤を含むことが好ましい。安定化しない場合には、紫外線吸収剤、赤外線遮蔽剤、染料、及び顔料との望ましくない反応を生じる可能性がある。例えば、好ましい安定剤としては、サリチル酸、フマル酸、クロトン酸、コハク酸、酒石酸(tararic acid)、p-ヒドロキシ安息香酸、ピロガロール、レゾルシノール、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0043】
光安定剤も、膜形成組成物の配合における添加剤の混合物に使用することができる。添加剤の混合物に使用される光安定剤の例としては、[2,2’-チオビス(4-tert-オクチルフェノレート)]-2-エチルヘキシルアミンニッケル(商品名Viosorb;分子量:635)、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(商品名Antigene NBC;分子量:407)、及び[N-アセチル-3-ドデシル-1(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)ピロリドン-2,5-ジオン(商品名Sanduvor3058)が挙げられる。
【0044】
本発明の例示的な実施形態では、上記膜形成組成物を使用して近赤外線遮蔽コーティングを製造する方法についても記載される。上述したように、エポキシ基を有するアルコキシシラン及び活性水素を持つアミノ基を有するアルコキシシランと、トリ若しくはジ-アルコキシシラン、モノアルコキシシラン、及び/又はグリシドシランなどのシラン化合物との反応生成物を含む膜形成バインダーが調製される。この工程に続いて、ナノ粒子分散液を膜形成バインダーと混合できるように、溶媒中の近赤外線遮蔽材料の分散液が調製される。本発明との関係において、近赤外線遮蔽材料は、三酸化タングステン、酸化アンチモンスズ、酸化インジウムスズ、酸化スズ、及び二酸化スズからなる群から選択することができる。より好ましくは、三酸化タングステンが使用される。膜形成バインダーを三酸化タングステンナノ粒子分散液と混合する前に、酸触媒の存在下で、上述した添加剤の混合物がその中に添加される。その結果、基材上に塗布する準備が整った液体混合物が得られる。
【0045】
液体混合物を塗布する前に、ガラスなどの基材表面の油分やワックス等の汚れを除去することが重要である。油膜を除去するためには様々な従来の方法が存在するが、望ましい方法で油膜剥離剤が使用される。本発明の膜形成組成物は、刷毛、フェルト、不織布、スプレーガン、又は任意の他の適切な手段によって基材上に塗布することができる。コーティングの不均一がほとんど生じないように、膜形成組成物を重力方向に塗布することが望ましい。塗布後、膜形成組成物が基材上で硬化されることで、近赤外線遮蔽コーティングが形成される。膜形成組成物は、室温で硬化して、0.5~12時間以内に乾燥指触硬度の硬い膜を形成することができ、その後、12~24時間乾燥させた後に、1H~5H又はそれ以上の鉛筆硬度を有する美しく透明で固体の硬化したコーティングが得られる。
【実施例】
【0046】
以下の非限定的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を説明するために行われた。
【0047】
実施例1
(1)33.35gの量の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと16.67gの3-アミノプロピルトリエトキシシランを混合し、1時間撹拌した後、25℃の一定の室温で14日間エージングのために硬化させることで、反応生成物を得た。
(2)ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート35gに10nmの粒径の三酸化タングステン15gを分散させる。
(3)工程(1)と(2)の混合物を1:1の割合で混合し、1分間均一に撹拌して透明な膜形成組成物(I)を製造した。
(4)工程(3)で製造した組成物(I)を厚さ6mmのガラス基材の上に塗布した。
(5)コーティングされたガラス基材を25℃の室温及び40%の相対湿度で乾燥した。
【0048】
対照例1
工程(2)の分散液を添加しなかった以外は実施例1に記載の方法と同様の方法で透明膜形成組成物(I’)の対照サンプルを調製した。製造した対照組成物(I’)を厚さ6mmのガラス基材の上に塗布した。コーティングされたガラス基材を25℃の室温及び40%の相対湿度で乾燥した。
【0049】
実施例2
(6)18.57gの量の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、20.00gの3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及び11.43gのメチルトリメトキシシランを混合し、1時間撹拌した後、25℃の一定の室温で14日間エージングのために硬化させることで、反応生成物を得た。
(7)工程(2)と同様の三酸化タングステン分散液を、実施例1に記載した方法と同様の方法で調製した。
(8)工程(6)と工程(7)の混合物を1:1の割合で混合し、1分間均一に撹拌して透明な膜形成組成物(II)を製造した。
(9)工程(8)で製造した組成物(II)を厚さ6mmのガラス基材の上に塗布した。
(10)コーティングされたガラス基材を25℃の室温及び40%の相対湿度で乾燥した。
【0050】
対照例2
工程(7)の分散液を添加しなかった以外は実施例2に記載の方法と同様の方法で透明膜形成組成物(II’)の対照サンプルを調製した。製造した対照組成物(II’)を厚さ6mmのガラス基材の上に塗布した。コーティングされたガラス基材を25℃の室温及び40%の相対湿度で乾燥した。
【0051】
実施例3
(11)30.88gの量の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、17.23gの3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及び1.91gのメチルトリメトキシシランを混合し、1時間撹拌した後、25℃の一定の室温で14日間エージングのために硬化させることで、反応生成物を得た。
(12)工程(2)と同様の三酸化タングステン分散液を、実施例1に記載した方法と同様の方法で調製した。
(13)工程(11)と工程(12)の混合物を1:1の割合で混合し、1分間均一に撹拌して透明な膜形成組成物(III)を製造した。
(14)工程(13)で製造した組成物(III)を厚さ6mmのガラス基材の上に塗布した。
(15)コーティングされたガラス基材を25℃の室温及び40%の相対湿度で乾燥した。
【0052】
対照例3
工程(12)の分散液を添加しなかった以外は実施例3に記載の方法と同様の方法で透明膜形成組成物(III’)の対照サンプルを調製した。製造した対照組成物(III’)を厚さ6mmのガラス基材の上に塗布した。コーティングされたガラス基材を25℃の室温及び40%の相対湿度で乾燥した。
【0053】
実施例4
(16)25.82gの量の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと24.19gの3-アミノプロピルトリエトキシシランを混合し、1時間撹拌した後、25℃の一定の室温で14日間エージングのために硬化させることで、反応生成物を得た。
(17)工程(2)と同様の三酸化タングステン分散液を、実施例1に記載した方法と同様の方法で調製した。
(18)工程(16)と工程(17)の混合物を1:1の割合で混合し、1分間均一に撹拌して透明な膜形成組成物(IV)を製造した。
(19)工程(18)で製造した組成物(IV)を厚さ6mmのガラス基材の上に塗布した。
(20)コーティングされたガラス基材を25℃の室温及び40%の相対湿度で乾燥した。
【0054】
対照例4
工程(17)の分散液を添加しなかった以外は実施例4に記載の方法と同様の方法で透明膜形成組成物(IV’)の対照サンプルを調製した。製造した対照組成物(IV’)を厚さ6mmのガラス基材の上に塗布した。コーティングされたガラス基材を25℃の室温及び40%の相対湿度で乾燥した。
【0055】
上述した製品の組成を以下の表1に詳しく示す。
【0056】
【0057】
実施例及び対照例で調製した透明膜形成組成物を使用して、ガラス基材の上に塗布し、このようにして形成したコーティングを硬化させることについて以降で詳細に説明する。
【0058】
油膜除去プロセス
少量の水を含ませた研磨スポンジに油膜洗浄コンパウンドを広げ、ガラス基材の表面全体を研磨する。ガラス基材をスポンジで十分に拭き取り、ガラス基材上の油膜が完全に除去されていることを確認する。油膜で汚染されたガラス基材上に水滴が現れない場合には、ガラス基材の表面全体が濡れるまで、油膜洗浄コンパウンドを使用して前述した洗浄手順を繰り返す。その後、水と洗浄コンパウンドを十分に拭き取り、数回折り畳んだ不織布とイソプロピルアルコールでガラス基材の表面をさらに洗浄し、油分を除去する。
【0059】
透明膜形成組成物の塗布プロセス
実施例で前述した通りに調製した透明膜形成組成物の溶液約30mlを150mlのトレイに注ぎ入れ、メラミン発泡スポンジの斜め断面のみに染み込ませる。スポンジをしっかりと保持しながら、このようにして染み込ませた溶液を、ガラス基材の表面に、左又は右の上から下に向かって重力方向にゆっくりと塗布し、帯状のコーティングを形成する。ガラス基材の底に到達した後、同様の手順を重力方向に上から下へ繰り返し、それにより、ガラス基材全体が均一にコーティングされるまで、各塗布を約1/3から1/4重ねる。
【0060】
乾燥プロセス
塗布完了後、コーティングされたガラス基材を湿気及び埃の影響のない適切な場所、特に約25℃の温度及び40%の湿度の適切な場所に置き、約10分間風乾によって処理する。一般的に、ガラス基材のコーティングされた面に指が貼り付かない場合に、コーティングされた膜は指触乾燥である。ほぼ完全に乾燥したコーティングされた膜は、柔らかい布で扱っても窓などのガラス基材表面に形成された膜に擦り傷がつかないように、約24時間硬化される。
【0061】
前述した通りに作製した膜形成組成物の様々な膜特性を評価し、以下で検討した。
【0062】
指触乾燥時間
指触乾燥時間は、日本工業規格(JIS)K5400に基づいた方法に従って、25℃において10分間隔で決定した。
【0063】
塗布してから72時間の時点のコーティングされた膜の状態を以下で評価した:
【0064】
透明性
コーティングされた膜をKIS K5400に基づいて目視評価した。
【0065】
膜の硬度
コーティングされた膜の硬度は、JIS K5400に基づいて鉛筆引掻き試験に従って評価した。
【0066】
紫外線(UV)透過率
実施例で前述した通りに調製した透明膜形成組成物を、ガラス試験片(幅70mm×長さ110mm×厚さ5mm)上に塗布し、上述した方法と同様の方法で乾燥した。各試験片を、分光光度計によってISO9050に基づいて345nmの波長における紫外線透過率を決定することによって評価した。さらに、JIS B7754で規定される促進耐光性試験装置に試験片を保持した後、192時間の時点での紫外線透過率を決定した。
【0067】
赤外線(IR)透過率
赤外線透過率は、分光光度計(Shimazu Double Chronometer)によって、ISO9050:2003に基づいた方法に従って決定した。
【0068】
可視光(Vis)透過率
可視光透過率は、分光光度計(Shimazu Double Chronometer)によって、ISO9050:2003の方法に従って決定した。
【0069】
日射熱取得率
日射熱取得率は、EDTMのWindow Energy Profiler Model 4500に従って決定した。
【0070】
実施例及び対照例に関し、各膜形成組成物の膜特性を下の表2に示す。
【0071】
【0072】
表1及び表2に示されている本発明の透明膜形成組成物は、コーティング不足が生じず、約25℃の室温で短時間で硬化可能であるため、風乾により膜を硬化させた後のコーティング硬度が1H~5Hである魅力的で耐候性を有する膜を製造することができる。さらに、赤外線遮蔽材料、特に三酸化タングステンを必須成分として含む本発明の組成物により、800nm~1000nmの波長領域の近赤外線の遮蔽及び吸収を可能にすることができる。
【0073】
本開示は、添付の特許請求の範囲に含まれるものだけでなく、前述した説明も含む。本発明は、その好ましい形態についてある程度具体的に説明されてきたが、好ましい形態の本開示は、例示として示されたものにすぎず、本発明の範囲から逸脱することなしに構造の細部並びに部品の組み合わせ及び配置に関して多くの変更を行うことができることが理解される。
【国際調査報告】