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特表2024-522606機能性消化管障害のための診断マーカー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】機能性消化管障害のための診断マーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240614BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/543 545A
G01N33/543 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575726
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(85)【翻訳文提出日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 AU2022050556
(87)【国際公開番号】W WO2022256861
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】2021901692
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523459712
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ニューカッスル
(71)【出願人】
【識別番号】503319102
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ クィーンズランド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サイモン・キーリー
(72)【発明者】
【氏名】ニック・タリー
(72)【発明者】
【氏名】グレース・バーンズ
(72)【発明者】
【氏名】マーク・モリソン
(57)【要約】
本明細書において、対象から得られた試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出する工程を含む、機能性消化管障害、例えば機能性ディスペプシア及び過敏性腸症候群を診断するための方法が提供されている。また、機能性消化管障害の診断において使用するためのIgG抗体を検出するためのキット、及び、機能性消化管障害を処置するための対象を選択するための方法も提供されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から得られた試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出する工程を含む、対象において機能性消化管障害を診断するための方法。
【請求項2】
機能性消化管障害が、機能性ディスペプシア又は過敏性腸症候群である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
機能性消化管障害が機能性ディスペプシアである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
試料が血液試料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
試料が血漿試料である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ストレプトコッカス・サリバリウスが、ブダペスト条約に従って、2021年4月28日に受託番号V21/008005でオーストラリアのNational Measurement Institute(NMI)に寄託されているストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ストレプトコッカス・サリバリウスがストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003であり、1つ又は複数の抗原が、B群連鎖球菌(GBS)Bsp様リピートタンパク質、30Sリボソームタンパク質S2、及びこれらの抗原性のペプチド又は断片から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
IgG抗体が酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して検出される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
試料を、GBS Bsp様リピートタンパク質又はその抗原性若しくは免疫反応性のペプチド若しくは断片、及び/或いは、30Sリボソームタンパク質S2又はその抗原性若しくは免疫反応性のペプチド若しくは断片と接触させる工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
試料中の決定されたIgG抗体レベルをリファレンス値又はコントロール値と比較する工程を含み、リファレンス値又はコントロール値が、機能性消化管障害の不在下でのIgG抗体のレベルを表している、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
リファレンス値又はコントロール値が、機能性消化管障害を有していないことが分かっている1人又は複数人の個体から誘導される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
GBS Bsp様リピートタンパク質又はその抗原性若しくは免疫反応性のペプチド若しくは断片、及び/或いは、30Sリボソームタンパク質S2又はその抗原性若しくは免疫反応性のペプチド若しくは断片から選択される、1つ又は複数の抗原性又は免疫反応性のタンパク質、ペプチド、又は断片を含む、機能性消化管障害の診断において使用するための、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出するためのキット。
【請求項13】
機能性消化管障害を処置するための対象を選択するための方法であって、
i)1人又は複数人の対象から得られた試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出する、及び任意選択で前記抗体のレベルを決定するステップを実行し、これによって、機能性消化管障害を診断する工程、並びに
ii)前記IgG抗体の検出又はレベルに基づいて、機能性消化管障害を処置するための対象を選択する工程
を含む、方法。
【請求項14】
機能性消化管障害のための処置レジメに対する対象の応答をモニタリングするため、又は機能性消化管障害を有する対象における処置レジメの有効性を評価するための方法であって、
i)機能性消化管障害のための処置レジメの有効性を評価するために十分な期間にわたり、前記レジメで対象を処置する工程、
ii)対象から試料を得、試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出し、任意選択で、前記抗体のレベルを決定する工程、
iii)対象に前記処置レジメを投与しながら、工程ii)を一定期間にわたり少なくとも1回反復する工程、並びに
iv)前記IgG抗体のレベルが前記期間にわたり変化しているかどうかを判定し、これによって、処置レジメに対する対象の応答及び/又は処置レジメの有効性を判定する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、機能性消化管障害、特に機能性ディスペプシア及び過敏性腸症候群の診断又は診断の確定を可能にする又は容易にする、免疫学的マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
機能性消化管障害は、明確な臨床病理を伴わない、患者の症候及び消化器系の機能の変化によって規定される、病因が不明の慢性的障害である。最も一般的な機能性消化管障害は、機能性ディスペプシア及び過敏性腸症候群であり、世界の一般集団の12%から30%の間が罹患していると推定されている。
【0003】
ディスペプシア又は消化不良は、ヒト及び動物の両方において最も一般的な胃腸障害の1つである。ディスペプシアは、持続性又は再発性の腹痛又は腹部不快感の症候を指す。多くの場合、ディスペプシアは一時的なものであり、自然に消失する。しかし、ディスペプシアは慢性的であることもあり、衰弱を引き起こす状態である可能性もある。明らかな原因のない慢性的な消化不良は、機能性ディスペプシア又は非潰瘍性ディスペプシアと呼ばれる。機能性ディスペプシアは、典型的には、腹痛、膨満感、ガス、及び食事中の満腹感を生じさせる。
【0004】
初期の研究は、機能性ディスペプシアにおいて胃に焦点を当てていた。しかし、管腔抗原の試料採取の主要な部位としてのその役割に加えて、十二指腸は、潜行性(subtle)の炎症がある部位であることも示されている。好酸球は健康な個体の消化管における通常の構成要素であるが、複数の研究は機能性ディスペプシアを有する患者がより多くの数の十二指腸好酸球を有していることを示している。小腸のバリアの完全性の欠如及び肥満細胞の数の増大も、機能性ディスペプシア患者において示されている。
【0005】
過敏性腸症候群は、いかなる検出可能な原因も存在しない慢性的な腹痛、不快感、膨満感/膨満、及び排便習慣の変化を特徴とする、一般的な胃腸障害である。過敏性腸症候群の病態生理学は不明なままであるが、胃腸の運動性の変化、内臓過敏、炎症、サイトカイン放出、糞便細菌叢の変化、及び細菌の異常増殖を含む多くの因子が関係している可能性があることを研究は示している。
【0006】
十二指腸粘膜に関連する微生物叢についての研究は初期段階であるが、様々な報告が、最も多く存在する属がストレプトコッカス属(Streptococcus)、プレボテラ属(Prevotella)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、ベイロネラ属(Veillonella)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、及びナイセリア属(Neisseria)、並びにパラプレボテラ科(Paraprevotellaceae)及びラクトバシラス科(Lactobacillaceae)のメンバーであることを示している(例えば、Shanahanら、2016、Alimentary Pharmacology and Therapeutics 43:1186~1196を参照されたい)。機能的消化管状態における微生物叢の組成又は機能に関して分かっていることはほとんどない。食事に関連する症候及び生活の質のスコアが低いことと相関し得る、機能性ディスペプシア患者の十二指腸における細菌量の増大及び多様性の低減が報告されており、これは機能性ディスペプシアの病態生理学における消化管の微生物叢の役割を示唆している(例えば、Zhongら、2017、Gut 66:1168~1169を参照されたい)。しかし、宿主-微生物叢の相互作用の性質及び結果、並びに機能性消化管障害の症候とのそれらの関連性は、良く理解されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,708,871号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Shanahanら、2016、Alimentary Pharmacology and Therapeutics 43:1186~1196
【非特許文献2】Zhongら、2017、Gut 66:1168~1169
【非特許文献3】Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology、第66巻、Glenn E. Morris編、1996
【非特許文献4】Sambrookら、Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York、1989
【非特許文献5】Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publ. Assoc. and Wiley-Intersciences、1992
【非特許文献6】Steward, J. M.及びYoung, J. D.、Solid Phase Peptide Synthesis. (第2版) Pierce Chemical Co.、Illinois、USA (1984)
【非特許文献7】Howl (編) Peptide Synthesis and Applications, Methods in Molecular Biology (第298巻)、2005
【非特許文献8】Drossman、2006、Gastroenterology 130:1377~1390)
【非特許文献9】Talleyら、1999、Alimentary Pharmacology & Therapeutics 13:225~235
【非特許文献10】Ronkainenら、2019、Alimentary Pharmacology & Therapeutics 50:24~32
【非特許文献11】Shanahanら、2018、Microbiome、第6巻、論文番号150
【非特許文献12】www.ecogenomic.org
【非特許文献13】Shevchenkoら、2006、Nature Protocols 1:2856~2860
【非特許文献14】Hoedtら、2021年、Microbiology Resource Announcements (https://doi.org/10.1128/MRA.00758-21)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多くの研究にもかかわらず、機能性ディスペプシア及び過敏性腸症候群の病因は、依然としてあまり理解されていない。したがって、これらの障害を診断する又はこれらの診断を確定するための努力は阻まれている。現在、機能性消化管障害の診断は、典型的には、器質性疾患を除くための内視鏡検査陰性の所見と組み合わされた、Rome III又はRome IV基準によって定義される、患者によって報告される経時的な症候に基づく。診断は労力を要するものであり、患者及び医療制度の両方にとって不要なストレスを伴う。特に、内視鏡検査は侵襲的であり、費用がかかる。機能性消化管障害のバイオマーカーの同定は、これらの状態の診断を加速させ、医療制度にとって大きな節約となる。加えて、抗生物質での処置は一部の機能性消化管障害患者の処置に効果的であるが、有効性は50%未満であり、誰が応答するかを区別する方法はない。
【0010】
機能性消化管障害、例えば機能性ディスペプシア及び過敏性腸症候群を診断する又はこれらの診断を確定する改良された方法の開発が明確に必要とされている。このような診断は、より効果的な処置を容易にする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、本発明者らによる、機能性ディスペプシア患者における十二指腸微生物叢と免疫系との間の関連の調節不全の同定に基づいている。本明細書において記載されるように、本発明者らは、驚くべきことに、機能性ディスペプシアに関連し、ヒト十二指腸から単離され分類学的にストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)に属する細菌に由来する抗原に対して向けられている、血漿中のIgG抗体を検出し、前記細菌は、以降、AGIRA0003株と記載され、ブダペスト条約に従って、2021年4月28日に受託番号V21/008005でNational Measurement Institute(オーストラリア)に寄託されている。
【0012】
細菌/免疫ベースでの、機能性消化管障害についての患者の同定は、抗生物質に対して応答性の患者を同定するための新規で強力なスクリーニングツールであり、したがって、不必要な治療を減らす。
【0013】
したがって、本発明の第1の態様は、対象から得られた試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出する工程を含む、対象において機能性消化管障害を診断するための方法を提供する。
【0014】
典型的には、機能性消化管障害は、機能性ディスペプシア又は過敏性腸症候群である。例示的な実施形態において、機能性消化管障害は、機能性ディスペプシアである。
【0015】
特定の実施形態において、試料は、血液試料、典型的には血漿試料である。
【0016】
典型的には、ストレプトコッカス・サリバリウスは、ブダペスト条約に従って、2021年4月28日に受託番号V21/008005で寄託されている、ストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius)AGIRA0003である。
【0017】
特定の実施形態において、ストレプトコッカス・サリバリウスは、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003であり、1つ又は複数の抗原は、B群連鎖球菌(GBS)Bsp様リピートタンパク質、30Sリボソームタンパク質S2、及びこれらの抗原性のペプチド又は断片から選択される。
【0018】
例示的な実施形態において、IgG抗体は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して検出される。任意選択で、本方法は、試料を、GBS Bsp様リピートタンパク質又はその抗原性若しくは免疫反応性のペプチド若しくは断片、及び/或いは、30Sリボソームタンパク質S2又はその抗原性若しくは免疫反応性のペプチド若しくは断片と接触させる工程を含む。
【0019】
本方法に従ったIgG抗体の前記検出は、定性的であっても定量的であってもよい。任意選択で、本方法は、試料中の決定されたIgG抗体レベルをリファレンス値又はコントロール値と比較する工程を含み、ここで、リファレンス値又はコントロール値は、機能性消化管障害の不在下でのIgG抗体のレベルである。リファレンス値又はコントロール値は、機能性消化管障害を有していないことが分かっている1人又は複数人の個体から誘導され得る。
【0020】
本発明の別の態様は、GBS Bsp様リピートタンパク質又はその抗原性若しくは免疫反応性のペプチド若しくは断片、及び/或いは、30Sリボソームタンパク質S2又はその抗原性若しくは免疫反応性のペプチド若しくは断片から選択される、1つ又は複数の抗原性又は免疫反応性のタンパク質、ペプチド、又は断片を含む、機能性消化管障害の診断において使用するための、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出するためのキットを提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、機能性消化管障害を処置するための対象を選択するための方法であって、
i)1人又は複数人の対象から得られた試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出する、及び任意選択で前記抗体のレベルを決定するステップを実行し、これによって、機能性消化管障害を診断する工程、
ii)前記IgG抗体の検出又はレベルに基づいて、機能性消化管障害を処置するための対象を選択する工程
を含む、方法を提供する。
【0022】
本発明の別の態様は、機能性消化管障害のための処置レジメに対する対象の応答をモニタリングするため、又は機能性消化管障害を有する対象における処置レジメの有効性を評価するための方法であって、
i)機能性消化管障害のための処置レジメの有効性を評価するために十分な期間にわたり、前記レジメで対象を処置する工程、
ii)対象から試料を得、試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出し、任意選択で、前記抗体のレベルを決定する工程、
iii)対象に前記処置レジメを投与しながら、工程ii)を一定期間にわたり少なくとも1回反復する工程、並びに
iv)前記IgG抗体のレベルが前記期間にわたり変化しているかどうかを判定し、これによって、処置レジメに対する対象の応答及び/又は処置レジメの有効性を判定する工程
を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】機能性ディスペプシア患者において変化した、患者の血漿に対する血清反応性についてのストレプトコッカス属及びコリネバクテリウム属(Corynebacterium)の微生物株の例示的な最初のスクリーニングを示す図である。細菌溶解物から抽出された全タンパク質を電気泳動し、プローブ抗体としての患者の血漿でイムノブロットして、機能性ディスペプシア(FD)における十二指腸微生物叢と患者の血漿との間の相互作用の証拠があるかどうかを判定した。このスクリーニングプロセスの代表的なイムノブロット。
図1B】機能性ディスペプシア患者において変化した、患者の血漿に対する血清反応性についてのストレプトコッカス属及びコリネバクテリウム属の微生物株の例示的な最初のスクリーニングを示す図である。細菌溶解物から抽出された全タンパク質を電気泳動し、プローブ抗体としての患者の血漿でイムノブロットして、機能性ディスペプシア(FD)における十二指腸微生物叢と患者の血漿との間の相互作用の証拠があるかどうかを判定した。このスクリーニングプロセスの代表的なイムノブロット。
図1C】機能性ディスペプシア患者において変化した、患者の血漿に対する血清反応性についてのストレプトコッカス属及びコリネバクテリウム属の微生物株の例示的な最初のスクリーニングを示す図である。細菌溶解物から抽出された全タンパク質を電気泳動し、プローブ抗体としての患者の血漿でイムノブロットして、機能性ディスペプシア(FD)における十二指腸微生物叢と患者の血漿との間の相互作用の証拠があるかどうかを判定した。ストレプトコッカス・サリバリウスのAGIRA0003株又は57.I株のいずれかとのこのような相互作用の存在を、スクリーニング集団において、FDとの関連の可能性について試験した。コントロールではn=6であり、FDではn=15である。統計分析:カイ二乗検定。
図2A】ベイロネラ属の種(Veillonella spp.)に属する5つの臨床的単離体を、コントロール及び機能性ディスペプシア患者における血清反応性についてスクリーニングしたことを示す図である。ヒト十二指腸の生検から回収されたベイロネラ属の種の5つの臨床的単離体に対するコントロール及びFD患者の血清のスクリーニングを示す代表的なブロット。コントロールではn=10であり、FD患者ではn=15である。種の名称は、最近の細菌分類学に基づく。統計分析:カイ二乗検定、全ての比較でp=nsである。
図2B】ベイロネラ属の種に属する5つの臨床的単離体を、コントロール及び機能性ディスペプシア患者における血清反応性についてスクリーニングしたことを示す図である。ヒト十二指腸の生検から回収されたベイロネラ属の種の5つの臨床的単離体に対するコントロール及びFD患者の血清のスクリーニングを示す代表的なブロット。コントロールではn=10であり、FD患者ではn=15である。種の名称は、最近の細菌分類学に基づく。統計分析:カイ二乗検定、全ての比較でp=nsである。
図2C-G】図2C. ベイロネラ属の種に属する5つの臨床的単離体を、コントロール及び機能性ディスペプシア患者における血清反応性についてスクリーニングしたことを示す図である。ベイロネラ・アティピカ(Veillonella atypica)N227-1株に対する血清反応性の存在と、コントロール又はFD患者としての参加者の状態との関連についての、カイ二乗検定。コントロールではn=10であり、FD患者ではn=15である。種の名称は、最近の細菌分類学に基づく。統計分析:カイ二乗検定、全ての比較でp=nsである。図2D.ベイロネラ属の種に属する5つの臨床的単離体を、コントロール及び機能性ディスペプシア患者における血清反応性についてスクリーニングしたことを示す図である。ベイロネラ・アティピカN221-1株に対する血清反応性の存在と、コントロール又はFD患者としての参加者の状態との関連についての、カイ二乗検定。コントロールではn=10であり、FD患者ではn=15である。種の名称は、最近の細菌分類学に基づく。統計分析:カイ二乗検定、全ての比較でp=nsである。図2E.ベイロネラ属の種に属する5つの臨床的単離体を、コントロール及び機能性ディスペプシア患者における血清反応性についてスクリーニングしたことを示す図である。ベイロネラ・アティピカN221-2株に対する血清反応性の存在と、コントロール又はFD患者としての参加者の状態との関連についての、カイ二乗検定。コントロールではn=10であり、FD患者ではn=15である。種の名称は、最近の細菌分類学に基づく。統計分析:カイ二乗検定、全ての比較でp=nsである。図2F.ベイロネラ属の種に属する5つの臨床的単離体を、コントロール及び機能性ディスペプシア患者における血清反応性についてスクリーニングしたことを示す図である。ベイロネラ・アティピカ株N221-3株に対する血清反応性の存在と、コントロール又はFD患者としての参加者の状態との関連についての、カイ二乗検定。コントロールではn=10であり、FD患者ではn=15である。種の名称は、最近の細菌分類学に基づく。統計分析:カイ二乗検定、全ての比較でp=nsである。図2G.ベイロネラ属の種に属する5つの臨床的単離体を、コントロール及び機能性ディスペプシア患者における血清反応性についてスクリーニングしたことを示す図である。ベイロネラ・ディスパー(Veillonella dispar)N221-4株に対する血清反応性の存在と、コントロール又はFD患者としての参加者の状況との関連についての、カイ二乗検定。コントロールではn=10であり、FD患者ではn=15である。種の名称は、最近の細菌分類学に基づく。統計分析:カイ二乗検定、全ての比較でp=nsである。
図3A】細菌から抽出された全タンパク質を患者の血漿とプローブさせたイムノブロットで見られるバンド形成パターンによって示される、コントロールと比較した場合の、FD患者におけるストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003のIgG血清反応性の存在を示す図である。
図3B】何らかの分子量で血清反応応答を示すFD患者の数を、血清反応性コントロールと比較した図である。
図3C】100~75kDaの間に位置するバンド形成パターンを有するFD患者の数を、ポジティブコントロールの数と比較して、この反応とFDとの間に関連があるかどうかを判定した図である。コントロールではn=17であり、FD患者ではn=40である。統計分析はカイ二乗検定であり、***p<0.001、****p<0.0001である。
図3D】30~35kDaの間に位置するバンド形成パターンを有するFD患者の数を、ポジティブコントロールの数と比較して、この反応とFDとの間に関連があるかどうかを判定した図である。コントロールではn=17であり、FD患者ではn=40である。統計分析はカイ二乗検定であり、***p<0.001、****p<0.0001である。
図4A】コントロール及び機能性ディスペプシア患者の血漿における抗体についての、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の総タンパク質の溶解物のスクリーニングを示す図である。患者を、(A)IgMについてスクリーニングし、(B)IgM血清反応性のFD患者及びコントロールの割合を解析した。(C)患者の血漿を、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に由来するタンパク質に対するIgA抗体についてスクリーニングし、(D)FD又はコントロールとの関連について試験した。(E)スクリーニングされたコントロール又は患者のいずれにおいても、IgE応答は検出されなかった。(B)では、コントロールではn=6、FDではn=13であり、(D)では、コントロールではn=17、FDではn=39であり、(E)では、コントロールではn=8、FDではn=21である。統計分析:カイ二乗検定。
図4B】コントロール及び機能性ディスペプシア患者の血漿における抗体についての、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の総タンパク質の溶解物のスクリーニングを示す図である。患者を、(A)IgMについてスクリーニングし、(B)IgM血清反応性のFD患者及びコントロールの割合を解析した。(C)患者の血漿を、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に由来するタンパク質に対するIgA抗体についてスクリーニングし、(D)FD又はコントロールとの関連について試験した。(E)スクリーニングされたコントロール又は患者のいずれにおいても、IgE応答は検出されなかった。(B)では、コントロールではn=6、FDではn=13であり、(D)では、コントロールではn=17、FDではn=39であり、(E)では、コントロールではn=8、FDではn=21である。統計分析:カイ二乗検定。
図4C】コントロール及び機能性ディスペプシア患者の血漿における抗体についての、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の総タンパク質の溶解物のスクリーニングを示す図である。患者を、(A)IgMについてスクリーニングし、(B)IgM血清反応性のFD患者及びコントロールの割合を解析した。(C)患者の血漿を、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に由来するタンパク質に対するIgA抗体についてスクリーニングし、(D)FD又はコントロールとの関連について試験した。(E)スクリーニングされたコントロール又は患者のいずれにおいても、IgE応答は検出されなかった。(B)では、コントロールではn=6、FDではn=13であり、(D)では、コントロールではn=17、FDではn=39であり、(E)では、コントロールではn=8、FDではn=21である。統計分析:カイ二乗検定。
図4D】コントロール及び機能性ディスペプシア患者の血漿における抗体についての、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の総タンパク質の溶解物のスクリーニングを示す図である。患者を、(A)IgMについてスクリーニングし、(B)IgM血清反応性のFD患者及びコントロールの割合を解析した。(C)患者の血漿を、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に由来するタンパク質に対するIgA抗体についてスクリーニングし、(D)FD又はコントロールとの関連について試験した。(E)スクリーニングされたコントロール又は患者のいずれにおいても、IgE応答は検出されなかった。(B)では、コントロールではn=6、FDではn=13であり、(D)では、コントロールではn=17、FDではn=39であり、(E)では、コントロールではn=8、FDではn=21である。統計分析:カイ二乗検定。
図4E】コントロール及び機能性ディスペプシア患者の血漿における抗体についての、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の総タンパク質の溶解物のスクリーニングを示す図である。患者を、(A)IgMについてスクリーニングし、(B)IgM血清反応性のFD患者及びコントロールの割合を解析した。(C)患者の血漿を、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に由来するタンパク質に対するIgA抗体についてスクリーニングし、(D)FD又はコントロールとの関連について試験した。(E)スクリーニングされたコントロール又は患者のいずれにおいても、IgE応答は検出されなかった。(B)では、コントロールではn=6、FDではn=13であり、(D)では、コントロールではn=17、FDではn=39であり、(E)では、コントロールではn=8、FDではn=21である。統計分析:カイ二乗検定。
図5A】機能性ディスペプシア患者においてIgG血清反応性の状況は好酸球数と関連していないことを示す図である。(A)好酸球を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した十二指腸生検における5つの高倍率視野の平均としてカウントした。スケールバー=50umであり、黄色の矢印は、例となる好酸球を示している。好酸球数を、(B)70~100kDa及び(C)30~35kDaで、コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者の間で比較した。(D)血清反応陰性のコントロール及び血清反応陽性のコントロールを、(D)70~100kDa及び(E)30~35kDaで、血清反応陰性のFD患者及び血清反応陽性のFD患者と比較した。(F)フローサイトメトリーを使用して、コントロール及びFD患者における消化管ホーミングT細胞集団を調べた。これらの集団を、(G)コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者で調べ、(H)血清反応陽性のコントロール集団及び血清反応陰性のコントロール集団も調べた。好酸球数について、コントロールではn=15、FDではn=36であり、消化管ホーミングT細胞の解析では、コントロールではn=15、FDではn=33である。データは、平均±SEMで表されている。統計分析:Dunn多重比較検定を伴うクラスカル・ウォリス検定、*p<0.05。
図5B-E】機能性ディスペプシア患者においてIgG血清反応性の状況は好酸球数と関連していないことを示す図である。(A)好酸球を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した十二指腸生検における5つの高倍率視野の平均としてカウントした。スケールバー=50umであり、黄色の矢印は、例となる好酸球を示している。好酸球数を、(B)70~100kDa及び(C)30~35kDaで、コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者の間で比較した。(D)血清反応陰性のコントロール及び血清反応陽性のコントロールを、(D)70~100kDa及び(E)30~35kDaで、血清反応陰性のFD患者及び血清反応陽性のFD患者と比較した。(F)フローサイトメトリーを使用して、コントロール及びFD患者における消化管ホーミングT細胞集団を調べた。これらの集団を、(G)コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者で調べ、(H)血清反応陽性のコントロール集団及び血清反応陰性のコントロール集団も調べた。好酸球数について、コントロールではn=15、FDではn=36であり、消化管ホーミングT細胞の解析では、コントロールではn=15、FDではn=33である。データは、平均±SEMで表されている。統計分析:Dunn多重比較検定を伴うクラスカル・ウォリス検定、*p<0.05。
図5F】機能性ディスペプシア患者においてIgG血清反応性の状況は好酸球数と関連していないことを示す図である。(A)好酸球を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した十二指腸生検における5つの高倍率視野の平均としてカウントした。スケールバー=50umであり、黄色の矢印は、例となる好酸球を示している。好酸球数を、(B)70~100kDa及び(C)30~35kDaで、コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者の間で比較した。(D)血清反応陰性のコントロール及び血清反応陽性のコントロールを、(D)70~100kDa及び(E)30~35kDaで、血清反応陰性のFD患者及び血清反応陽性のFD患者と比較した。(F)フローサイトメトリーを使用して、コントロール及びFD患者における消化管ホーミングT細胞集団を調べた。これらの集団を、(G)コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者で調べ、(H)血清反応陽性のコントロール集団及び血清反応陰性のコントロール集団も調べた。好酸球数について、コントロールではn=15、FDではn=36であり、消化管ホーミングT細胞の解析では、コントロールではn=15、FDではn=33である。データは、平均±SEMで表されている。統計分析:Dunn多重比較検定を伴うクラスカル・ウォリス検定、*p<0.05。
図5G】機能性ディスペプシア患者においてIgG血清反応性の状況は好酸球数と関連していないことを示す図である。(A)好酸球を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した十二指腸生検における5つの高倍率視野の平均としてカウントした。スケールバー=50umであり、黄色の矢印は、例となる好酸球を示している。好酸球数を、(B)70~100kDa及び(C)30~35kDaで、コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者の間で比較した。(D)血清反応陰性のコントロール及び血清反応陽性のコントロールを、(D)70~100kDa及び(E)30~35kDaで、血清反応陰性のFD患者及び血清反応陽性のFD患者と比較した。(F)フローサイトメトリーを使用して、コントロール及びFD患者における消化管ホーミングT細胞集団を調べた。これらの集団を、(G)コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者で調べ、(H)血清反応陽性のコントロール集団及び血清反応陰性のコントロール集団も調べた。好酸球数について、コントロールではn=15、FDではn=36であり、消化管ホーミングT細胞の解析では、コントロールではn=15、FDではn=33である。データは、平均±SEMで表されている。統計分析:Dunn多重比較検定を伴うクラスカル・ウォリス検定、*p<0.05。
図5H】機能性ディスペプシア患者においてIgG血清反応性の状況は好酸球数と関連していないことを示す図である。(A)好酸球を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した十二指腸生検における5つの高倍率視野の平均としてカウントした。スケールバー=50umであり、黄色の矢印は、例となる好酸球を示している。好酸球数を、(B)70~100kDa及び(C)30~35kDaで、コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者の間で比較した。(D)血清反応陰性のコントロール及び血清反応陽性のコントロールを、(D)70~100kDa及び(E)30~35kDaで、血清反応陰性のFD患者及び血清反応陽性のFD患者と比較した。(F)フローサイトメトリーを使用して、コントロール及びFD患者における消化管ホーミングT細胞集団を調べた。これらの集団を、(G)コントロール、IgG血清反応陽性(IgG+)のFD患者、又はIgG血清反応陰性(IgG-)のFD患者で調べ、(H)血清反応陽性のコントロール集団及び血清反応陰性のコントロール集団も調べた。好酸球数について、コントロールではn=15、FDではn=36であり、消化管ホーミングT細胞の解析では、コントロールではn=15、FDではn=33である。データは、平均±SEMで表されている。統計分析:Dunn多重比較検定を伴うクラスカル・ウォリス検定、*p<0.05。
図6】ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003における血清反応性タンパク質の同定を示す図である。質量分析を使用して得られたタンパク質配列を、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の臨床的単離体から決定されたタンパク質配列に対してblastして、GBS Bsp様リピートタンパク質を、FD患者がそれに対するIgG抗体を有していたタンパク質と同定した。これらのタンパク質は、GH25ムラミダーゼ触媒性モジュールに非常に近接している。
図7】AGIRA0003の全タンパク質の溶解物とインキュベートしたヒト血漿IgG(FD患者)の免疫沈降生成物を示す図である。FD患者1番の血漿でプローブされた免疫沈降生成物のイムノブロット。ウェル1はマーカーであり、ウェル2はAGIRA0003の全タンパク質の溶解物であり、ウェル3はAGIRA0003タンパク質とインキュベートしたFD患者1番の非架橋IgGであり、ウェル4はAGIRA0003タンパク質とインキュベートした同一の患者の架橋IgGであり、ウェル5はマーカーであり、ウェル6はマーカーであり、ウェル7はAGIRA0003の全タンパク質の溶解物であり、ウェル8はAGIRA0003タンパク質とインキュベートしたFD患者2番の非架橋IgGであり、ウェル9はAGIRA0003タンパク質とインキュベートした同一の患者の架橋IgGであり、ウェル10はマーカーである。四角は、質量分析のために切り取ったおおよその区域を示している。Mは光イメージングされたマーカーである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書は、本明細書において配列表で示されている、プログラムPatentlnバージョン3.5を使用して準備されたアミノ酸及びヌクレオチドの配列情報を含んでいる。この研究において同定されたストレプトコッカス・サリバリウスの血清反応性タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号1及び配列番号2で示されている。
【0025】
別段の規定がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されているものと同一の意味を有する。本明細書において記載されるものと類似の又は同等のあらゆる方法及び材料が本発明の実施又は試験において使用され得るが、典型的な方法及び材料が記載されている。
【0026】
冠詞「a」及び「an」は、その冠詞の文法上の対象の1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書において使用される。例えば、「要素(an element)」は、1つの要素又は2つ以上の要素を意味する。
【0027】
本明細書の文脈において、「約」という用語は、同一の機能又は結果を達成するという点において記載された値に等しいと当業者が考えるであろう数の範囲を指すと理解される。
【0028】
本明細書及び後の特許請求の範囲の全体を通して、文脈から別段のことが必要とされない限り、「含む(comprise)」という語、及び「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」等の変形は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含めることを意味するが、いかなる他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群も除外しないと理解される。
【0029】
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、「個体」又は「参加者」という用語と互換的に使用され得る。「対象」には、あらゆる哺乳動物、例えばヒト、非ヒト霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ)、実験研究動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、他の齧歯動物)、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ)が含まれ得る。好ましい実施形態において、対象はヒトである。
【0030】
「試料」という用語には、本明細書において使用される場合、対象から得られたあらゆる生物学的標本が含まれる。
【0031】
本明細書において使用される場合、「抗原」という用語は、対象における免疫応答を誘発する物質を意味する。抗原は、例えば、生物全体、生物のサブユニット若しくは部分、ペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質、ポリペプチド、核酸分子、又はこれらのあらゆる組合せを含み得る。
【0032】
「タンパク質」、「ポリペプチド」、及び「ペプチド」という用語は、任意の長さのアミノ酸残基のポリマーを指すために、本明細書において互換的に使用される。したがって、「タンパク質」という用語は、遺伝子のペプチド又はポリペプチド産物だけではなく、これらの機能的に同等な断片、誘導体、及びバリアント、並びにペプチド又はポリペプチド産物の翻訳後修飾された形態も包含する。バリアント及び誘導体は、典型的には、これらバリアント及び誘導体がバリアント又は誘導体となっている遺伝子の機能的活性の少なくとも一部を示す。タンパク質の異なるアイソフォームも、この一般用語に包含される。また、「タンパク質」という用語には、本明細書において使用される場合、プロタンパク質、プレプロタンパク質、及び他の前駆分子、例えば、シグナルペプチド、活性化ペプチド、又は、成熟タンパク質若しくは成熟ポリペプチド配列を生じさせるために前駆分子から切断される他の配列に加えて、成熟タンパク質及び成熟ポリペプチド配列も包含される。タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドは直鎖状又は分枝鎖状であり得、これは、修飾されたアミノ酸又はアミノ酸類似体を含み得、またこれには、アミノ酸以外の化学的部分が介在していることがある。この用語はまた、天然に又は介入によって、例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、又はあらゆる他の操作若しくは修飾、例えば標識成分又は生物活性成分とのコンジュゲーションによって修飾されている、タンパク質、ポリペプチド、及びペプチドを包含する。したがって、本明細書において検討される場合、本発明の診断方法において利用されるタンパク質、ポリペプチド、及びペプチドは、組換えタンパク質、組換えポリペプチド、及び組換えペプチドであり得る。
【0033】
本明細書において使用される場合、「処置」という用語は、状態、又は状態若しくは疾患の1つ若しくは複数の症候を改善する、状態又は疾患の確立を予防する、或いは、状態又は疾患又は他の望ましくない症候の進行を他の様式で形式はどうであれ予防する、妨げる、遅らせる、又は逆転させる、あらゆる及び全ての処置を指す。したがって、「処置」という用語は、その最も広い意味で解釈される。例えば、処置は、患者が完全な回復まで処置されることを必ずしも意味するわけではない。
【0034】
機能性消化管障害の文脈において、宿主の免疫系と十二指腸粘膜に関連するマイクロバイオームの常在微生物との間の関連性は、未だほとんどが研究されていないままである。本明細書において例示されるように、本発明者らは、機能性ディスペプシア患者の十二指腸の第2部から単離されたストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株の2つのタンパク質に対する患者の血漿中のIgG抗体の存在を示しており、前記タンパク質の1つは、細胞壁タンパク質のB群連鎖球菌(GBS)Bsp様リピートタンパク質であり、もう1つは、リボソーム関連タンパク質の30Sリボソームタンパク質S2である。これらの抗体の存在は、機能性ディスペプシアと著しく関連している。
【0035】
ストレプトコッカス・サリバリウスは、口腔、空腸、回腸、結腸、及び上気道、並びにヒト血液にコロニー形成することが示されている、嫌気性のグラム陽性細菌の株を構成する。ストレプトコッカス・サリバリウス株はまた、バイオフィルムの形成にも関与し得、NFkB炎症経路の阻害を介しての上部消化管におけるホメオスタシスの維持と関連付けられている。ストレプトコッカス・サリバリウスは、連鎖球菌(ストレプトコッカス・サリバリウス、ストレプトコッカス・ベスティブラリス(S. vestibularis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(S. thermophilus))のサリバリウス群で最も多数の細胞壁関連タンパク質及び細胞外タンパク質の1つ(例えばアドヘシンタンパク質)を有しており、このことは、コロニー形成における利点及び宿主の免疫応答を回避する能力を示唆している。
【0036】
本明細書において例示されるように、本発明者らは、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株に対するIgG抗体の存在と機能性ディスペプシアとの間の特異的な関連を同定し、ゲル電気泳動、イムノブロッティング、及び質量分析を使用して、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株の全ゲノム配列に対してペプチドスペクトルを分析して、GBS Bspリピートドメインタンパク質(75~100kDa、配列番号1)及び30sリボソームサブユニットS2タンパク質(30~35kDa、配列番号2)を抗原性タンパク質と同定した。本発明者らはこうして、機能性ディスペプシア等の機能性消化管障害の有用なバイオマーカーを同定した。報告された、機能性ディスペプシアにおける症候の不均質性を考慮すると、質量分析によって同定された、2つのストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003タンパク質の一方又は両方に対する血漿IgG抗体の存在についての計算された感度が90%であり特異度が64.71%であったことは、これらのバイオマーカーが、機能性又は器質性の消化管疾患の証拠を有さないコントロールから、機能性ディスペプシアを有する対象を正確に検出し得ることを示唆している。
【0037】
本明細書において記載される発見は、適応性の免疫グロブリン介在性の応答の存在を実証しており、組換えタンパク質を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)の基礎として例えば使用する、新規な、侵襲性が最小の、機能性消化管障害のための診断用アッセイ及び試験の開発を促進する。
【0038】
本発明の一態様は、対象から得られた試料においてIgG抗体を検出する工程を含む、対象において機能性消化管障害を診断するための方法であって、IgG抗体が、ストレプトコッカス・サリバリウス、典型的にはストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株に由来する1つ又は複数の抗原を認識する、方法を提供する。
【0039】
ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株は、ブダペスト条約に従って、2021年4月28日にNational Measurement Institute(NMI)に寄託され、その寄託は、受託番号V21/008005であった。
【0040】
抗原は、典型的には、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する血清反応性タンパク質、又はこのようなタンパク質の抗原性のペプチド若しくは断片を含む。特定の実施形態において、血清反応性タンパク質は、GBS Bsp様リピートタンパク質、又は30Sリボソームタンパク質S2を含む。ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003(PROKKA_00585)に由来するGBS Bsp様リピートタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号1に示す。ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003(PROKKA_01557)に由来する30Sリボソームタンパク質S2のアミノ酸配列を、配列番号2に示す。したがって、本発明の実施形態において、IgG抗体が認識する血清反応性タンパク質は、配列番号1及び配列番号2のいずれか1つで示されるアミノ酸配列又はこれに対して少なくとも約70%の配列同一性を有する前記アミノ酸配列のバリアントを含むタンパク質を含み得る。一実施形態において、血清反応性タンパク質は、配列番号1に少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、98%、又は99%同一なアミノ酸配列を含み得る。別の実施形態において、血清反応性タンパク質は、配列番号2に少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、98%、又は99%同一なアミノ酸配列を含み得る。アミノ酸の同一性は、CLUSTALW等の配列アラインメントプログラムを含む、当業者に周知の様々なツールを使用して決定することができる。
【0041】
検出対象のIgG抗体は、上記の血清反応性タンパク質の抗原性ペプチド及び断片を認識し得る。これらの抗原性ペプチド及び断片は、免疫応答、具体的には、対象におけるIgG抗体の産生を引き起こし得る、ペプチド及び断片である。典型的には、ペプチド又は断片は、それが由来した元であるタンパク質と実質的に同一の免疫学的活性を有する。したがって、本発明に従ったペプチド又は断片は、少なくとも1つのエピトープ又は抗原決定基を含むか又はそれからなる。
【0042】
本発明において使用するための適切な試料としては、限定はしないが、全血、血漿、血清、唾液、尿、便、喀痰、及びあらゆる他の体液、又は組織試料(すなわち生検)、例えば小腸試料又は結腸試料、及びこれらの細胞抽出物が含まれる。生体試料は、当業者によって決定され得るあらゆる適切な方法によって得ることができる。典型的な実施形態において、試料は、血液試料、血漿試料、又は血清試料である。例示的な実施形態において、試料は、血漿試料である。当業者には、血漿試料等の試料がマーカーレベルの解析の前に希釈され得ることが認識されよう。
【0043】
本発明の方法に従うと、当業者に公知の任意の手段を使用して、IgG抗体が検出され得、任意選択でIgG抗体のレベルが決定され得る。例えば、本発明の実施形態に従うと、対象から得られた試料中に存在するIgG抗体のレベルは、試料を配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を有する血清反応性タンパク質と接触させることによって決定することができる。
【0044】
試料は、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質の保存的なバリアントと接触させてもよい。保存的なバリアントは、1つ又は複数の保存的なアミノ酸置換を有するタンパク質置換である。保存的な置換は、別の生物学的に類似の残基によるアミノ酸残基の置き換えを指す。保存的な置換の例としては、1つの疎水性残基、例えばイソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、システイン、グリシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、ノルロイシン、若しくはメチオニンの、別の疎水性残基への置換、又は、1つの極性残基の、別の極性残基への置換、例えば、アルギニンのリジンへの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸への置換、若しくはグルタミンのアスパラギンへの置換、及びこれらに類するものが含まれる。互いに置換され得る中性の親水性アミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、及びスレオニンが含まれる。保存的な置換という用語には、置換されていない親アミノ酸の代わりに置換されたアミノ酸を使用することも含まれる。このようなアミノ酸の挿入、欠失、又は置換による修飾を生じさせるための例示的な技術としては、ランダム突然変異生成、部位特異的突然変異生成、オリゴヌクレオチド介在性又はポリヌクレオチド介在性突然変異生成、既存の又は操作された制限酵素部位の使用を介する選択された領域の欠失、及びポリメラーゼ連鎖反応が含まれる。このような技術は、当業者に周知であろう。
【0045】
試料は、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質のバリアントと接触させてもよい。例えば、タンパク質は、配列番号1に少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、98%、又は99%同一なアミノ酸配列を含み得る。例えば、タンパク質は、配列番号2に少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、98%、又は99%同一なアミノ酸配列を含み得る。
【0046】
試料は、配列番号1若しくは配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質、その保存的なバリアント、又はそれに対して少なくとも約70%の配列同一性を有するバリアントの、抗原性又は免疫反応性ペプチド又は断片と接触させてもよい。適切な抗原性又は免疫反応性ペプチド及び断片は、当技術分野において周知の任意の数のエピトープマッピング技術を使用して同定することができる(例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology、第66巻、Glenn E. Morris編、1996)。例えば、直鎖状エピトープは、例えば、固体担体上に、血清反応性タンパク質分子の一部に対応する多数のペプチドを同時に合成すること、及びペプチドを担体に依然として付着させながら、ペプチドと抗体とを反応させることによって決定することができる。このような技術は当技術分野において公知であり、例えば米国特許第4,708,871号において記載されている。同様に、立体構造エピトープは、例えばx線結晶学及び2次元核磁気共鳴等によってアミノ酸の空間構造を決定することによって容易に同定される。
【0047】
本発明の方法に従って使用される血清反応性タンパク質、又はその抗原性若しくは免疫反応性ペプチド若しくは断片は、宿主細胞からの精製を含む当業者に周知の組換えDNA及び分子生物学の標準的な技術を使用して、又はファージディスプレイを使用して、得ることができる。ガイダンスは、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York、1989、及びAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publ. Assoc. and Wiley-Intersciences、1992等の標準的なテキストから得ることができる。或いは、血清反応性タンパク質、又はその抗原性若しくは免疫反応性ペプチド若しくは断片は、当業者に周知の液相又は固相化学の標準的な方法によって合成することができる。例えば、このような分子は、Steward及びYoung (Steward, J. M.及びYoung, J. D.、Solid Phase Peptide Synthesis. (第2版) Pierce Chemical Co.、Illinois、USA (1984)、又はHowl (編) Peptide Synthesis and Applications, Methods in Molecular Biology (第298巻)、2005の固相化学手順に従って合成することができる。
【0048】
本発明の実施形態において、試料中におけるIgG抗体の検出は、免疫アッセイ、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫組織化学的アッセイ、又は質量分析ベースのアッセイを使用して行うことができる。特定の実施形態において、アッセイはELISAである。ELISA技術は当業者に周知である。適切なELISAキットは、様々な販売元、例えばeR&D Systems, Inc.社(ミネアポリス、MN)、Neogen Corp.社(レキシントン、KY)、Alpco Diagnostics社(セーレム、NH)、Assay Designs, Inc.社(アナーバー、MI)、BD Biosciences Pharmingen社(サンディエゴ、CA)、Invitrogen社(カマリロ、CA)、Calbiochem社(サンディエゴ、CA)、CHEMICON international, Inc.社(テメキュラ、CA)、Antigenix America Inc.社(ハンティントン・ステーション、NY)、QIAGEN Inc.社(バレンシア、CA)、Bio-Rad Laboratories, Inc.社(ハーキュリーズ、CA)、Bender MedSystems Inc.社(バーリンゲーム、CA)、Agdia Inc.社(エルクハート、IN)、American Research Products Inc.社(ベルモント、MA)、Biomeda Corp.社(フォスター・シティ、CA)、BioVision, Inc.社(マウンテンビュー、CA)、及びKamiya Biomedical Co.社(シアトル、WA)から入手可能である。
【0049】
本発明の方法に従うと、対象から得られた試料における、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原に対するIgG抗体の存在は、機能性消化管障害、例えば機能性ディスペプシア又は過敏性腸症候群を有する対象の予測又は指標となり得る。或いは、コントロール値と比較した、又は1つ若しくは複数のコントロール試料におけるIgG抗体のレベルと比較した、対象から得られた試料におけるこのようなIgG抗体のレベルの上昇は、機能性消化管障害、例えば機能性ディスペプシア又は過敏性腸症候群を有する対象の予測又は指標となり得る。
【0050】
「コントロール値」という用語は、本明細書において使用される場合、健康な個体又は個体群から得られた1つ又は複数の生体試料のIgG抗体レベルの値を指す。「コントロール値」は、本発明を目的として「コントロール」としての診断が確定している1人又は複数人の健康な個体、典型的には健康な個体の集団から得られたデータの集積を含み得る。つまり、本発明の実施形態を実施する目的では、コントロールとして使用される試料は、評価中の対象から得られた試料との比較を目的として具体的に又は即座に得られる必要はない。「コントロール値」は、測定された値又は本明細書において記載される統計分析の後の値を含み得る。「コントロール試料」は、本明細書において使用される場合、そこからコントロール値を得ることができる健康な個体から得られた試料を指す。本文脈において、「健康な個体」は、過敏性腸症候群についてRome IIIネガティブ若しくはRome IVネガティブの、慢性的な胃腸症候を有さない、いかなる活動性感染も有さない、及び/又は顕著な慢性的医学的状態を有さない、機能性消化管障害を有さないことが確認されている個体である。
【0051】
本方法に従って対象から得られた試料におけるIgGレベルはまた、機能性消化管障害を有することが分かっている1人又は複数人の個体、典型的には個体集団から決定された1つ又は複数のリファレンス試料又はリファレンス値と有利には比較され得る。本明細書において開示されている方法が適用される対象において、1つ又は複数のリファレンス試料又はリファレンス値のIgGレベルとのIgGレベルの比較は、診断の決定の助けとなり得る。
【0052】
一部の実施形態において、本発明の方法は、対象について決定されたIgG抗体のレベルについて統計分析を適用する工程を含む。利用され得る統計技術は当業者に公知であり、これとしては、限定はしないが、メタ解析、線形回帰分析、重回帰分析、及び受信者動作曲線(ROC)解析が含まれる。ROC解析は、最も優れた感度及び特異度を伴う診断となるスコアを決定するために使用される。曲線の見た目が「四角形」であるほど、診断レベル又はスコアの決定が簡単である。また、曲線下面積が1に近いほど、結果の感度及び特異度が高いことを示す。このような統計分析は、例えば回帰分析アルゴリズム等の適切なアルゴリズムを使用して適用され得る。
【0053】
当業者には、本明細書ではストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原に対する試料中のIgG抗体の検出を参照して例示されているが、機能性消化管障害、例えば機能性ディスペプシア又は過敏性腸症候群の診断は、本明細書において記載されるストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株又はストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株に由来する抗原性タンパク質の一方若しくは両方、B群連鎖球菌(GBS)のB表面タンパク質(Bsp)様リピートタンパク質(配列番号1の配列によって例示されている)及び30Sリボソームタンパク質S2(配列番号2の配列によって例示されている)、或いはこれらの抗原性ペプチド断片を検出することによっても行われ得ることが認識されよう。AGIRA0003株、抗原性タンパク質、又はこれらの抗原性ペプチド断片は、核酸に基づく検出技術のためのプローブ及びプライマーの使用を含む当業者に公知の任意の手段によって、生体試料において検出され得る。
【0054】
当業者には、本発明の方法が、機能性消化管障害を検出するための1つ又は複数の追加の診断方法又は診断ツールと組み合わせて利用され得ることが認識されよう。このような追加の診断方法又は診断ツールとしては、例えば、Rome III若しくはRome IV基準に従った評価、内視鏡検査、又は他の身体的検査若しくは評価が含まれる。本発明の方法はまた、当業者に周知の方法による、胃腸炎症の1つ又は複数の他のマーカー、例えば消化管ホーミングT細胞及び好酸球の検出又は定量と組み合わせて、行うことができる。
【0055】
本発明はまた、本発明の方法に従った使用に適したキットを提供する。このようなキットには、例えば、本明細書において開示されているIgG抗体のレベルを検出及び/又は決定するための薬剤、並びに抗体レベルの前記検出及び/又は決定を容易にするために有用な試薬を含む、生体試料をアッセイするための診断キットが含まれる。本発明に従ったキットはまた、本発明の方法を行うために必要な他の成分、例えばバッファー及び/又は希釈剤が含まれていてもよい。キットは、典型的には、様々な成分及び本発明の方法においてキットの成分を使用するための指示を収納するための容器を含む。
【0056】
本明細書において先に記載された本発明の方法に従って機能性消化管障害を有すると同定された対象は、処置のために選択され得るか、又は処置群に階層化され得、当該処置群において、適切な治療レジメンが状態の処置を目的として採用又は処方され得る。
【0057】
したがって、一実施形態において、本明細書において開示されている方法は、機能性消化管障害を有すると同定された対象を、状態を処置するための治療的処置又はレジメンに曝露する(すなわちかける)工程を含み得る。採用される治療的処置又はレジメンの性質は当業者によって決定され得、典型的には、限定はしないが対象の年齢、体重、及び全体的健康等の因子に応じる。
【0058】
本発明の一態様は、したがって、機能性消化管障害の処置のための対象を選択するための方法であって、
i)1人又は複数人の対象から得られた試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出する、及び任意選択で前記抗体のレベルを決定するステップを実行し、これによって、機能性消化管障害を診断する工程、並びに
ii)前記IgG抗体の検出又はレベルに基づいて、機能性消化管障害を処置するための対象を選択する工程
を含む、方法を提供する。
【0059】
当業者には、本明細書において開示されている方法が、機能性消化管障害の処置に対する対象の応答及び機能性消化管障害の処置の有効性をモニタリングするためにも使用され得、これによって、処置の開始の前、処置の過程の間、及び処置の停止の後を任意選択で含む2つ以上の離れた時点で、本明細書において記載されるIgG抗体が検出され得るか又はIgG抗体のレベルが決定されて、前記処置が有効であるかどうかが決定され得ることが明らかとなろう。
【0060】
したがって、本発明は、機能性消化管障害のための処置レジメに対する対象の応答をモニタリングするための、又は機能性消化管障害を有する対象における処置レジメの有効性を評価するための方法であって、
i)機能性消化管障害のための処置レジメの有効性を評価するために十分な期間にわたり、前記レジメで対象を処置する工程、
ii)対象から試料を得、試料において、ストレプトコッカス・サリバリウスに由来する1つ又は複数の抗原を認識するIgG抗体を検出し、任意選択で、前記抗体のレベルを決定する工程、
iii)対象に前記処置レジメを投与しながら、工程ii)を一定期間にわたり少なくとも1回反復する工程、並びに
iv)前記IgG抗体のレベルが前記期間にわたり変化しているかどうかを判定し、これによって、処置レジメに対する対象の応答及び/又は処置レジメの有効性を判定する工程
を含む、方法を提供する。
【0061】
本方法が、処置レジメが有効でないこと及び/又は対象が処置に十分に応答していないこと(すなわち、IgG抗体レベルの低減がない又は不十分であること)を示す場合には、本方法は、より有効な又は積極的な処置を提供することを目的として処置レジメを変える又は他の様式で修正する工程を更に含み得る。この工程は、追加の用量の、対象が処置されているものと同一の薬剤を対象に投与すること、又は医薬若しくは他の処置の用量及び/若しくはタイプを変更することを含み得る。
【0062】
したがって、機能性消化管障害の信頼性のある診断、例えば、本発明の方法を利用することが可能なこのような診断は、個々の対象にとっての最も適切な介入又は処置レジメに関する決定を容易にする。例えば、本明細書において開示されている方法は、対象が特定の処置の利益を受ける可能性の決定の助けとなり得る。例示的な処置としては、例えば、抗生物質(例えばリファキシミン)、プロトンポンプ阻害剤、植物療法薬、セロトニン作動性の薬剤、抗鬱剤、クロライドチャネル活性化剤、クロライドチャネルブロッカー、グアニル酸シクラーゼアゴニスト、抗生物質、オピオイドアゴニスト、ニューロキニンアンタゴニスト、抗痙攣剤若しくは抗コリン作動剤、ベラドンナアルカロイド、バルビツレート、GLP-1類似体、CRFアンタゴニスト等の治療用薬剤の投与、又は、心理療法若しくは理学療法等の治療の適用が含まれ得る。
【0063】
処置レジメは、検出されたIgG抗体のレベル及び/又は1つ若しくは複数の他の因子、例えば、症候の重症度、対象の生活習慣、年齢、体重、全体的健康等に基づいて、対象自身に合わせることができる。例えば、これは、新たな処置レジメを導入すること又は対象によって採用された既存のレジメを修正することを含み得る。処置レジメについてのこのような決定はケースごとに変化し、最も適切な戦略の決定は、十分に当業者の専門的知識及び経験の範囲内である。
【0064】
本明細書における、あらゆる先行文献(若しくはそれに由来する情報)又はあらゆる公知の事項についての言及は、その先行文献(若しくはそれに由来する情報)又は公知の事項が、本明細書が関連する技術分野における通常の一般的知識の一部を形成するということの、認容又は承認又は何らかの形の示唆として解釈されず、また、解釈されるべきではない。
【0065】
本発明はここで、以下の具体的な実施例を参照して記載されるが、当該実施例は、本発明の範囲を限定するものと決して解釈されるべきではない。
【実施例
【0066】
以下の実施例は本発明の例示であり、本明細書全体にわたる記載の発明の全体的な性質を限定するものとは決して解釈されるべきではない。
【0067】
(実施例1)
全般的方法
参加者の選択及び募集
参加者を、オーストラリアのニューサウスウェールズにあるジョン・ハンター病院、ゴスフォード病院、及びワイオン病院の外来の消化器クリニックから募集した。Rome III基準を使用して、患者を機能性ディスペプシアと診断した。コントロール参加者は、鉄欠乏性貧血、便潜血検査陽性、又は嚥下障害についてのスクリーニング内視鏡検査を受けていた。研究参加者の除外基準には、40を超えるBMI(クラスIIIの肥満)、インスリン依存性糖尿病、及び妊娠中の女性が含まれた。参加者は、内視鏡検査の時点で医療面接と、過敏性腸症候群及び機能性ディスペプシアの診断のための修正されたRome IIIの質問を組み込んだ、妥当性が確認された問診とを完了した(Drossman、2006、Gastroenterology 130:1377~1390)。参加者はまた、修正されたNepeanディスペプシアインデックスも完了した(Talleyら、1999、Alimentary Pharmacology & Therapeutics 13:225~235)。全ての研究は、Hunter New England Local Health District Ethics Committeeの承認を受けて行われた(External HRECリファレンスナンバー13/12/11/3.01)。
【0068】
試料の回収及び処理
内視鏡検査の際、生検を十二指腸の第2部(D2)から回収し、十二指腸の微生物叢の特徴付けのために、大量のRNAlater(Sigma-Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州、USA)中にすぐに置いたか、又は、15%(v/v)グリセロールを含有する無菌の嫌気的に調製された無機塩溶液に浸し、-80℃で保存した。追加のD2生検を、組織学的処理のために、10%中性緩衝ホルマリン中に回収した。およそ36mlのヘパリン処理した血液を各参加者から回収した。製造者の指示に従った、Lymphoprep(商標)培地(StemCell Technologies Inc社、バンクーバー、カナダ)での密度勾配遠心分離によって、末梢血単核球(PBMC)と血漿の単離を行った。単離されたPBMCを、凍結培地(10%DMSO、90%FCS)中、又は1:1比率の凍結培地及び完全ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640培地(10%FCS、1%HEPES、1%L-グルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、0.2%ペニシリン-ストレプトマイシンを添加した)中に再懸濁し、その後、液体窒素中に保存した。
【0069】
フローサイトメトリーのための細胞の染色及び取得
解凍した後、細胞を37℃/5%CO2で一晩放置した。細胞を次いで、固定可能な生存測定色素(AF700にコンジュゲートしている、BD Biosciences社、フランクリン・レイクス、USA)とインキュベートし、その後、Fcブロック抗体(BD Biosciences社)とインキュベートした。細胞を、CD3(BUV805にコンジュゲートしている、BD Biosciences社)、CD4(FITCにコンジュゲートしている、BD Biosciences社)、インテグリンアルファ4(CD49d、PE-CF594にコンジュゲートしている、BD Biosciences社)、インテグリンベータ7(BV650にコンジュゲートしている、BD Biosciences社)、及びケモカイン受容体9(CCR9、APCにコンジュゲートしている、BD Biosciences社)に対する抗体で、4℃で30分間染色した。FACSDivaソフトウェア(BD Biosciences社)を備えたLSRFortessa(商標)X20フローサイトメーターを使用して、細胞のプロファイルを取得した。FlowJo v.10ソフトウェア(BD Biosciences社)を使用して、取得したデータを解析した。目的の細胞集団は、CD4+消化管ホーミングT細胞(CD3+CD4+インテグリンα+インテグリンβ7+CCR9+)であった。
【0070】
好酸球数の同定
ホルマリン固定されパラフィン包埋されたD2生検を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。スライドを、Aperio AT2(Leica Biosystems社、ヴェッツラー、ドイツ)を使用してデジタル化し、Aperio ImageScopeソフトウェア(Leica Biosystems社)を使用して切片を観察した。好酸球を、5つのランダムに選択した視野で定量し、以前に記載されているように、各参加者について高倍率視野当たりの平均好酸球数を計算した(Ronkainenら、2019、Alimentary Pharmacology & Therapeutics 50:24~32)。
【0071】
十二指腸マイクロバイオームの同定及び分類
反復ビーズビーティング及び自動のカラムベースの精製プロトコルを使用して、RNAlater中に保存されたD2生検からゲノムDNAを抽出した(Shanahanら、2018、Microbiome、第6巻、論文番号150)。抽出されたゲノムDNAを次いで副次試料採取し、細菌/古細菌16S rRNA遺伝子内に存在するV6~V8超可変領域のPCR増幅に使用した。これらの産物を更に修飾し、オリゴヌクレオチド試料に特異的なバーコードを含むように伸長し(Shanahanら、2018、Microbiome、第6巻、論文番号150)、Illumina MiSeqプラットフォーム及びAustralian Centre for Ecogenomics(ACE、(www.ecogenomic.org))の標準化されたプロトコルを使用してシーケンシングした。
【0072】
無菌の嫌気的に調製された冷凍保存用バッファー中に保存された生検組織を、嫌気性のチャンバ内で、ヘミン及びビタミンKを添加した、10ml容積の嫌気的に調製されたブレインハートインフージョン(BHI)ブロスに無菌状態で移した。培養試験管を次いで37℃で一晩インキュベートし、嫌気性のチャンバに戻し、0.1ml容積の得られた培養済み細菌を取り出し、10倍連続希釈を行い、各希釈の0.1mlのアリコートを、ヘミン及びビタミンKを添加したBHI寒天培地に播種した。37℃の嫌気性のチャンバ内でこれらのプレートをインキュベートした後、個別のコロニーを、無菌の使い捨て接種ループで試料採取し、上記のように、新鮮な寒天プレートで増殖させた。目視及び顕微鏡による純度のチェックの後、1つのコロニーを使用して、ヘミン及びビタミンKを添加した10mlの新鮮なBHIブロスに接種し、37℃で一晩培養し、約3mlを冷凍保存用バッファーと混合し、その後の使用のために-80℃で保存した。
【0073】
選択された細菌単離体の残りの培養物(約7ml)を遠心分離にかけて微生物バイオマスを回収し、これを次いで、最小容積の無菌リンゲル溶液で再懸濁した。このバイオマスから得られたゲノムDNAを、上記で概説したプロトコルを使用して抽出し、副次試料を使用して、Australian Centre for Ecogenomicsで、Illumina NextSeqプラットフォーム及び標準化されたプロトコルを用いて、高品質のドラフトゲノム配列データの生成のために必要なライブラリーを作製した。データ(150bpのペアエンド配列リード)を、Trimmomatic(バージョン0.36)を使用してクオリティフィルタリングし、SPAdes Genome Assembler(バージョン3.11.0)を使用するデノボアセンブリにかけ、PROKKA(バージョン1.12)を使用してアノテーションを行った。
【0074】
細菌溶解物からのタンパク質抽出
細菌単離体のペレットを、プロテアーゼ及びホスファターゼの阻害剤(HALTカクテル、Thermo Fischer Scientific社)を含有する放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)バッファー(Sigma-Aldrich社)中に再懸濁した。試料をインキュベートし、次いで、ボルテックスして細胞を溶解し、遠心分離して未破壊細胞及び/又は大きな残屑を除去した。得られた可溶性タンパク質溶解物を次いでアリコートに分け、-20℃で保存した。ビシンコニン酸(BCA)アッセイキット(Thermo Fischer Scientific社)を使用して、細菌溶解物中の全タンパク質の濃度を決定した。アッセイは製造者の指示に従って行い、試料の吸光度は550nmで測定し、Soft Max Pro(Molecular Devices社)ソフトウェアで標準曲線を決定した。標準曲線から、細菌溶解物中のタンパク質の濃度を計算した。
【0075】
血清反応性の免疫グロブリン抗体についてのイムノブロッティング
細菌溶解物に、還元及び変性条件下で、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって、分子量に基づいた分離を行った。全てのセカンドウェルは、ブロック後のPVDF膜の切断を容易にするためのタンパク質マーカーを含有していた。電気泳動を、SDSランニングバッファー(0.1%SDSを含有する1×トリス-グリシン)中で行い、その後、タンパク質をポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に移した。タンパク質を移した後、非特異的な抗体結合を防ぐために、膜を2.5%BSA/2.5%脱脂乳粉末中で1時間ブロックした。ブロットを、個々の試料とプローブさせるためのタンパク質マーカーによってガイドされる、1本のウェルストリップに切断した。Lodesらによって適用されているように、機能性ディスペプシア患者及びコントロールから得られた血漿試料を、十二指腸の細菌タンパク質に対する何らかの抗体を検出するための一次抗体の代わりに使用した。血漿試料を1%BSA/1%脱脂乳粉末中に1:500で希釈し、4℃で一晩インキュベートした。ブロットを次いで、2.5%BSA/2.5%脱脂乳粉末中に1:1000で希釈したIgG、IgM、IgA、又はIgEに対する抗ヒトHRP二次抗体(Sigma-Aldrich社)と2時間インキュベートした。イムノブロットの画像をChemiDoc MPシステム(Bio-Rad社、ハーキュリーズ、USA)でキャプチャし、バンド形成の存在又は不在を各患者及び各コントロールについて記録した。
【0076】
質量分析による同定のための全細菌タンパク質からの血清反応性タンパク質の単離
目的の細菌種及び血清反応陰性のコントロール標的に由来するタンパク質の電気泳動を上記のように行った。細菌標的ごとに2つの同一のゲルで並行してランを行って、1つは固定及びサイプロルビーでの一晩の染色を行い、他方は上記のようにイムノブロッティングを行った。両細菌試料を同一の血漿試料でプローブした。イムノブロットによって生成された目的の特異的タンパク質の画像を、対応するサイプロルビー染色ゲルから得られた全タンパク質画像に重ねた。全タンパク質ゲルにおいて目的のタンパク質バンドを同定し、メスの刃を使用して切除した。対応する区域のゲルプラグを、血清反応陰性の細菌溶解物のゲルからも回収し、双方のゲルのタンパク質を含有しない区域を、質量分析の際のバックグラウンド除去のために得た。ゲルプラグを脱色し、洗浄し、100%アセトニトリル及び真空遠心分離を使用して脱水した。試料を、先に記載されたプロトコルに基づく質量分析のために調製した(Shevchenkoら、2006、Nature Protocols 1:2856~2860)。簡潔に述べると、シーケンシンググレードのトリプシン(Promega社、マディソン、ウィスコンシン州、USA)及び重炭酸アンモニウム溶液を使用して、ゲルプラグの再水和及び一晩のペプチド消化を行った。10%トリフルオロ酢酸を使用してトリプシンをクエンチし、試料の上清を回収し、-20℃で保存し、その後、分析の前に超音波処理した。
【0077】
液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)
質量分析を、Dionex Ultimate 3000RSLCナノフローHPLCシステムに接続されたQ-Exactive Plusハイブリッド四重極オービトラップMSシステム(Thermo Fisher Scientific社、ブレーメン、DE)を使用して行った。試料を、予備濃縮及びオンライン脱塩のために、Acclaim PepMap100 C18の75μm×20mmのトラップカラム(Thermo Fisher Scientific社)にロードした。次いで、分離を、300nl/分で120分間にわたる2%から32%のアセトニトリル線形勾配を利用して、EASY-Spray PepMap C18の75μm×250mmのカラム(Thermo Fisher Scientific社、ブレーメン、DE)で行った。
【0078】
データ依存的取得(DDA)を、フルMS/データ依存的MS/MSモードで操作されるQ-Exactive Plus MSシステムで行った。内因性ペプチドのプリカーサーイオンを、m/zが390~1400の質量範囲をスキャンするオービトラップで測定し、オービトラップの解像度は70000であり、標的のオートマチックゲインコントロール(AGC)値は1e6であり、最大充填時間は50msであった。最も強力なものから20個の多価プリカーサーを、30の規格化衝突エネルギー(NCE)での高エネルギー衝突解離(HCD)フラグメンテーションのために選択し、17500のオービトラップ解像度、5e5のAGC、及び110msの最大充填時間で、MS/MS断片を測定した。
【0079】
ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の臨床的単離体からの血清反応性タンパク質の同定
1DEイムノブロット試料の切除されたポリペプチドの質量分析から得られた個々のトリプシンペプチド配列を、PROKKAで生成されたストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003のゲノム配列データから予測されるタンパク質コード配列と手動で比較した。(GB_1D_03_B1)から回収された複数のトリプシンペプチドは、AGIRA0003ゲノムのPROKKAアノテーションから予測される推定「GBS Bspリピートドメインタンパク質」コード配列とマッチした。加えて、(GB_1D_03_B2)から得られた複数のトリプシンペプチドマスは、AGIRA0003ゲノムのPROKKAアノテーションから予測される推定「30SリボソームサブユニットSタンパク質」とマッチした。ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の「GBS Bspリピートドメインタンパク質」の全コード配列(CDS)を次いで、アメリカ国立生物工学情報センターによってキュレートされた全ての非冗長性のGenBank CDS翻訳+PDB+SwissProt+PIR+PRF(WGSプロジェクトの環境試料は除く)のデータベースに対するBLASTpベースの比較のためのクエリー配列として使用した。
【0080】
統計分析
データセットを解析し、Graphpad Prism 8ソフトウェアバージョン8.1(Graphpad Software Inc.社、ラホヤ、USA)を使用してグラフ化した。データを、ダゴスティーノ及びピアソンの検定を使用して、分布の正規性について解析し、p<0.05は、正規分布していないデータを示していた。コントロールと比較した機能性ディスペプシア患者の平均的な人口統計学的特徴を、データが正規分布しているパラメトリックt検定及び分布が正規性でない同等の非パラメトリックt検定によって解析した。このコホートデータは平均±SDで表され、p<0.05は有意であるとみなされる。フィッシャーの正確確率検定を使用して、コントロールコホートと機能性ディスペプシア患者との間で、及び血清反応陽性と同定された機能性ディスペプシア患者と血清反応陰性と同定された機能性ディスペプシア患者との間で、併存症及び交絡因子の潜在的な影響を解析した。このデータは、試験した変数についてポジティブの全コホートに対するパーセンテージとして表され、p<0.05は有意であるとみなされる。
【0081】
機能性ディスペプシア患者及びコントロールの間での、血清反応応答の存在又は不在の間の関連を、カイ二乗検定によって解析した。このデータは、試験した変数についてポジティブの全コホートに対するパーセンテージとして表され、p<0.05は有意であるとみなされる。血清反応性の状況と他の免疫パラメータとの間の潜在的な関連を、正規分布していたデータセットについては通常の一元配置ANOVAによって評価し、一方、正規分布を伴わないデータには、Dunn多重比較検定を伴う非パラメトリックANOVA(クラスカル・ウォリス検定)を使用した。このコホートデータは平均±SEMとして表され、p<0.05は有意であるとみなされる。
【0082】
(実施例2)
研究コホートの人口統計学的特徴及び診断の特徴
全部で17人のコントロール及び40人の機能性ディスペプシア(FD)患者をこの研究に含めた(Table 1(表1))。Rome III基準に従うと、機能性ディスペプシア患者のうちの13人は食後愁訴症候群(PDS)を有しており、8人が心窩部痛症候群(EPS)の基準を満たしており、19人がEPS及びPDSの両方の症候(EPS/PDS)を報告した。コントロール集団は、嚥下障害(n=6)、原因不明の鉄欠乏性貧血(IDA)(n=8)、原因不明の逆流(n=1)、又は便潜血検査陽性(+FOBT)(n=2)の症候についての内視鏡検査を受けた個体から構成された。器質性胃腸疾患の証拠は内視鏡検査の際に見られず、また、この研究コホートについての臨床的な組織学的検査の後にも報告されなかった。
【0083】
【表1】
【0084】
平均年齢はコントロールでは53.59±11.71歳、機能性ディスペプシア患者では46.45±17.42歳であった。コントロールコホートの58.82%が女性であり、それに対し、機能性ディスペプシア患者では82.50%であり、コントロール(27.18±5.83)と機能性ディスペプシア患者(27.31±5.65)との間でボディ・マス・インデックス(BMI)に有意差はなかった。試験したコントロール集団の18.18%がヘリコバクター・ピロリ感染に陽性であり、それに対し、機能性ディスペプシア患者では3.57%であった。プロトンポンプ阻害剤(PPI)の使用の割合は、コントロールでは14.29%であったのに対し機能性ディスペプシアコホートでは42.86%であり(p=0.087)、コントロールと機能性ディスペプシア患者との間で、ヒスタミン2-受容体アンタゴニスト(H2RA)又は非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の使用に差はなかった(Table 1(表1))。併存IBSを伴う機能性ディスペプシア患者の割合はコントロールよりも有意に高かった(5.88%対35.00%、p=0.025)。
【0085】
(実施例3)
機能性ディスペプシア患者における免疫応答と微生物叢との間の相互作用
機能性ディスペプシアにおける免疫系と微生物叢との潜在的な相互作用を調べるために、イムノブロッティングを使用して、胃内視鏡を受けているヒト対象から回収された十二指腸生検から単離された8つの細菌株を、FD患者及びコントロールの両方から得られた血漿に対してスクリーニングした。スクリーニングに選択された種は、ストレプトコッカス・サリバリウス57.I株、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)Challis CH1株、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株、コリネバクテリウム・アルゲントラテンス(Corynebacterium argentoratense)DSM44202に属する株、ベイロネラ・アティピカN227-1株、ベイロネラ・アティピカN221-1株、ベイロネラ・アティピカN221-2株、ベイロネラ・アティピカN221-3株、及びベイロネラ・ディスパーN221-4株であった。
【0086】
6人のコントロール及び15人の機能性ディスペプシア患者をストレプトコッカス・サリバリウス57.I、ストレプトコッカス・ゴルドニChallis CH1、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003、及びコリネバクテリウム・アルゲントラテンスDSM 44202に属する株に対して最初にスクリーニングした結果(図1A図1B)は、3人(50%)のコントロール及び14人(93.33%)の機能性ディスペプシア患者における、スクリーニングしたストレプトコッカス・サリバリウスの両方の株のおよそ70~100kDa及び30~35kDaのバンドの存在を示した。ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003のバンド強度は、ストレプトコッカス・サリバリウス57.Iのバンド形成の強度よりも目視では強かった。いずれかの株での何らかのIgG血清反応バンド形成の存在は、機能性ディスペプシアの診断と有意に関連していた(Χ2(5.219, 1)、p=0.022)(図1C)。
【0087】
選択された、ベイロネラ属の種に属する5つの株を、10人のコントロール及び15人の機能性ディスペプシア患者から得られた血漿試料を使用してスクリーニングした。両タイプの血漿試料の大部分が、5つのベイロネラ属(Veillonella)株の全てに由来する約100~150kDa、約37~50kDa、及び約20~37kDaのポリペプチドと相互作用した(図2A図2B)。
【0088】
試験した8人のコントロール(80%)及び15人全ての機能性ディスペプシア患者(100%)から得られた血漿が、ベイロネラ・アティピカN227-1(図2C)及びベイロネラ・ディスパーN221-4(図2G)のポリペプチドに対して血清反応陽性であった(Χ2(3.261, 1)p=0.071)。イムノブロットはまた、10人のコントロール及び15人の機能性ディスペプシア対象の全てに由来する血漿がベイロネラ・アティピカN221-1(図2D)及びベイロネラ・アティピカN221-2(図2E)に由来するポリペプチドに対して血清反応性であったことを示した。9人のコントロール(90%)及び15人(100%)の機能性ディスペプシア患者に由来する血漿は、ベイロネラ・アティピカN221-3に由来するポリペプチドに対して血清反応陽性であった(Χ2(1.563, 1)、p=0.211)(図2F)。試験した5つのベイロネラ属の種のいずれかに対する抗体の存在との間に有意な関連がないことを考慮すると、この相互作用の存在は機能性ディスペプシアに特異的ではないと考えられる。
【0089】
スクリーニングでのストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003と機能性ディスペプシア患者から得られた血漿との間のIgG特異的な相互作用を表すバンド形成の目視での強度を受けて、本発明者らは、この細菌に対して、より大きな血漿試料コホートの血清反応性を調べることにした。40人の機能性ディスペプシア患者を17人のコントロール患者と比較してスクリーニングし、これらのイムノブロットの代表的な結果が図3Aに含まれている。全部で、36人(90.00%)の機能性ディスペプシア患者がいずれかの分子量で血清反応応答を示し、それに対し、コントロールでは6人(35.29%)であった(Χ2(18.41, 1)、p<0.0001)(図3B)。このコホート内では、コントロールでは6人(35.29%)であったのとは対照的に、33人(82.50%)の機能性ディスペプシア患者が100~75kDaの間にバンド形成パターンを有していた(Χ2(12.30, 1)、p=0.0005)(図3C)。30人(75.00%)の機能性ディスペプシアコホートで30~35kDaの間のバンド形成パターンが検出され、それに対し、コントロールでは4人(23.53%)であった(Χ2(13.13, 1)、p=0.0003)(図3D)。この新たな相互作用の統計分析は、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の特異的タンパク質に対するIgG抗体の産生とRome基準に従った機能性ディスペプシアの診断との間に有意な関連があることを裏付けている。
【0090】
(実施例4)
ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に対するIgM、IgA、又はIgE抗体の存在又は不在と機能性ディスペプシアとの間の関連の不在
機能性ディスペプシア患者の血漿におけるIgG抗体の存在を受けて、本発明者らは、同一のストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003単離体を、IgM、IgA、及びIgE二次抗体を使用してヒト血漿に対してスクリーニングして、粘膜微生物種に対するこれらのクラスの免疫グロブリンも検出され得るかどうかを判定した。IgMでの6人のコントロール及び13人の機能性ディスペプシア患者のプロービング(図4A)は、2人(33.33%)のコントロール及び8人(61.54%)の患者において50~200kDaの間の細菌タンパク質との相互作用を同定したが、これは有意ではなかった(図4B)。ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に対するIgA血清反応性と機能性ディスペプシアの状況との間に有意な関連はなく(図4C)、この関連は、スクリーニングした17人のコントロールのうちの9人(52.94%)に存在しており、それに対し、含めた39人の機能性ディスペプシア患者では29人(74.36%)に存在していた(図4D)。IgE抗体での8人のコントロール及び21人の機能性ディスペプシア患者のスクリーニングは、いずれのコホートでも、どの分子量でもバンド形成を全く同定することができなかった(図4E)。
【0091】
(実施例5)
ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に対するIgG抗体は、機能性ディスペプシア患者における潜在的な交絡因子と関連していない
ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に対するIgG応答と機能性ディスペプシアとの間の関連がこれらの患者の交絡特徴の結果ではないことを確認するために、機能性ディスペプシアコホートを、検出可能なIgG応答(機能性ディスペプシアIgG陽性、血清反応陽性)を有していた人及び有していなかった人(機能性ディスペプシアIgG陰性、血清反応陰性)に分けた。相関解析を70~100kDaのバンド(Table 2(表2))及び30~35kDa(Table 3(表3))のバンドの両方について個別に行った。ヘリコバクター・ピロリの状況、併存症としてのIBS、又はPPI、H2RA、若しくはNSAIDの使用に関して、70~100kDaのバンド又は30~35kDaのバンドで、陽性の機能性ディスペプシア患者と陰性の機能性ディスペプシア患者との間で統計上の差はなかった。
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
(実施例6)
ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に対するIgG抗体と機能性ディスペプシアの免疫特徴との間の関連
十二指腸好酸球増加症と機能性ディスペプシアにおける消化管ホーミングに関連するα4β7インテグリン及びケモカイン受容体9(CCR9)を発現する末梢T細胞の増大との関連を受けて、本発明者らは、これらの特徴がストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に対するIgG抗体の存在又は不在に関連するかどうかを調べた。
【0095】
十二指腸生検は、この研究に含められたコントロール参加者のうちの2人及びこの研究に含められた4人の機能性ディスペプシア患者で入手できず、そのため、この分析に含めなかった。70~100kDaでは、コントロール、血清反応陽性のFD患者、又は血清反応陰性のFD患者において、十二指腸の好酸球数(図5A)とIgG血清反応性の状況との間に関連はなかった(全ての比較でp>0.9999)(図5B)。同一の結果が、30~35kDaの分子量の血清反応性のバンドで見られた(全ての比較でp>0.9999)(図5C)。血清反応性の状況に基づくコントロールの更なる層別化も、70~100kDaでFD患者とコントロールとの間で十二指腸の好酸球数及び血清反応性の状況に差がないことを明らかにした(全ての比較でp>0.9999)(図5D)。同様に、コントロールを血清反応性の状況で分けた場合、30~35kDaで、コントロールとFD患者との間で十二指腸の好酸球数と血清反応性の間で関連は見られなかった(全ての比較でp>0.9999)(図5E)。
【0096】
フローサイトメトリーによって調べた場合(図5F)、IgG+FD患者は、コントロールと比較して有意に高い割合のCD3+CD4+α4+β7+CCR9+細胞を有していた(0.02925±0.0522対0.4415±0.5599、p=0.014)(図5G)。IgG-患者(0.0700±0.06083)とコントロールコホートと又はIgG+コホートとの間で差はなかった(両比較でp>0.9999)。このデータセットにおけるコントロール集団をIgG-(0.0439□0.05957)及びIgG+(0.0000±0.0000)に分けた場合、CD3+CD4+α4+β7+CCR9+細胞の割合は、IgG-コントロールとIgG+FD患者との間で変化しなかった(p=0.062)(図5H)。IgG+FDコホートとIgG-FDコホート(p>0.9999)又はIgG-コントロールコホート(p>0.9999)との間で差はなかった。これらのデータは、コントロールと比較した場合の、FD患者における、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に対する血清反応応答の存在と消化管ホーミングT細胞の割合の増大との間の関連を示唆している。コントロール集団において、消化管ホーミングT細胞の割合と血清反応性の状況との間に差はない。
【0097】
(実施例7)
ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003に由来する抗原性タンパク質の同定
患者の血漿とストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の溶解物から分離されたタンパク質との間の相互作用の特異性を受けて、本発明者らは、質量分析を使用して、イムノブロットから抽出された血清反応性のポリペプチドから得られたトリプシンペプチド断片のアミノ酸配列を規定した。これらのデータを次いで、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003のドラフトゲノムから予測されるCDSと手動で比較した。これらの比較は、約70~100kDaの切除されたタンパク質に由来する複数のトリプシンペプチド(すなわち、GB_1D_03_B1)を、推定「B群連鎖球菌(GBS)B表面タンパク質(Bsp)様リピートタンパク質」であると同定した(ExPASyバイオインフォマティクスリソースポータルの理論上の分子量=85.04115kDa、理論上のpI=6.49)(図6)。加えて、約30~35kDaのポリペプチドから得られた複数のトリプシンペプチド(すなわち、GB_1D_03_B2)を、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003 30Sリボソームタンパク質S2のCDS(ExPASyバイオインフォマティクスリソースポータルの理論上の分子量=28.35238kDa、理論上のpI=5.04)にマッピングした(Table 4(表4))。発明者らは、したがって、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の抗原性タンパク質を、細菌のコロニー形成、宿主上皮細胞への細菌細胞の結合、及び細菌細胞間の相互作用に関与するGBS Bspリピートドメインタンパク質(75~100kDa、配列番号1)、並びに30sリボソームサブユニットS2タンパク質(30~35kDa、配列番号2)と同定した。
【0098】
【表4】
【0099】
抗原性タンパク質を更に特徴付けするために、本発明者らは、IgGプルダウンアッセイを使用して、患者の血漿から全IgG抗体を単離し、得られた試料をストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003の全タンパク質溶解物とインキュベートして、特異的な抗原性タンパク質を患者の特異的抗体に結合させた。対応する分子量位置の血清反応性タンパク質をゲルから抽出し(図7)、質量分析のために、マッチしたプルダウン溶出生成物も提供した。
【0100】
(実施例8)
血清反応性及び機能性ディスペプシアの感度及び特異度
以下のTable 5(表5)に示すように、いずれかの分子量で、IgG血清反応応答の存在は機能性ディスペプシアと関連しており、感度は90%(95%CI:0.7695~0.9604)であり、特異度は64.71%(95%CI:0.4130~0.8269)であった。70~100kDaでの血清反応応答では、感度は82.50%(95%CI:0.6805~0.9125)であり、特異度は64.71%(95%CI:0.4130~0.8269)であった。30~35kDaでの血清反応応答では、感度は75.00%(95%CI:0.5981~0.8581)であり、特異度は76.47%(95%CI:0.5274~0.9044)であった。いずれかの分子量で、IgG血清反応応答は機能性ディスペプシアと関連しており、陽性適中率(PPV)は85.71%(95%CI:0.7216~0.9328)であり、陰性適中率(NPV)は73.33%(95%CI:0.4805~0.8910)であり、尤度比は2.550であった。70~100kDaでの血清反応応答は、84.62%(95%CI:0.7027~0.9275)の陽性適中率(PPV)、61.11%(95%CI:0.3862~0.7969)の陰性適中率(NPV)、及び2.338の尤度比で機能性ディスペプシアと関連していた。30~35kDaでの血清反応応答では、機能性ディスペプシアとの関連は、88.24%(95%CI:0.7338~0.9533)の陽性適中率(PPV)、56.52%(95%CI:0.3681~0.7437)の陰性適中率(NPV)、及び3.188の尤度比を有していた。
【0101】
【表5】
【0102】
(実施例9)
ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株のゲノム解析
本発明者らは、ストレプトコッカス・サリバリウスAGIRA0003株の完全なゲノムを、Hoedtら、2021年、Microbiology Resource Announcements (https://doi.org/10.1128/MRA.00758-21)に記載している。
【0103】
本発明者らは、バイオインフォマティクスアプローチを使用して、AGIRA0003が免疫応答を引き起こす能力を、他のストレプトコッカス・サリバリウス株と比較して更に特徴付けた。代表的なストレプトコッカス・サリバリウス株のパンゲノムを作製し、各ゲノムにおける病原性遺伝子の存在、数、及びタイプを決定するためにサーチした。更に、ストレプトコッカス・サリバリウスATCC 7073株、M18株、K12株、及びAGIRA0003株のヌクレオチド配列のゲノムファイルを、RAST(Rapid Annotation using Subsystem Technology)にアップロードした。ここで、アノテーションサービス及びSEEDビューアレポートを使用して、病原性、疾患、及び防御に関連するサブシステムを調べた。これは、これらの株についての最初の文献サーチで見つけられなかった何らかの病原性遺伝子を確認及び同定するために行った。このインシリコのアプローチを使用して、本発明者らは、鞭毛モータータンパク質(Table 6(表6))及びライソバクター・エンザイモゲネス(Lysobacter enzymogenes)III型分泌システム細胞質リングタンパク質SctQとして二重にアノテーションされている固有の「病原性」遺伝子を同定した。III型分泌システムは、文献において、細胞外環境を迂回して細菌のエフェクタータンパク質を宿主細胞の細胞質に直接注入することを容易にする固有の病原性メカニズムを有するグラム陰性の病原体を提供する構造として記載されている。
【0104】
【表6】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C-G】
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B-E】
図5F
図5G
図5H
図6
図7
【配列表】
2024522606000001.app
【国際調査報告】