(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】多層ポリアリーレンスルフィドチューブ
(51)【国際特許分類】
F16L 9/12 20060101AFI20240614BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240614BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240614BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20240614BHJP
F16L 9/133 20060101ALI20240614BHJP
F16L 11/12 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
F16L9/12
C08K3/04
C08L23/08
C08L81/02
F16L9/133
F16L11/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575785
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2021065501
(87)【国際公開番号】W WO2022258172
(87)【国際公開日】2022-12-15
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カルヴァルゾ, ガエターノ
(72)【発明者】
【氏名】プリシデス, グレゴリー シー.
(72)【発明者】
【氏名】シェルス, マーク
(72)【発明者】
【氏名】サティッチ, ウィリアム イー.
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA15
3H111BA28
3H111CB03
3H111CB04
3H111CB14
3H111CC13
3H111DA05
3H111DB08
3H111EA02
3H111EA04
4J002BB072
4J002BB07X
4J002CN011
4J002CN01W
4J002DA016
4J002FD116
4J002GG01
(57)【要約】
本明細書では、複数の層を含む多層チューブが記載される。多層チューブは、第1のポリアリーレンスルフィド(「PAS」)及び5重量%~30重量%の耐衝撃性改質剤を含む最外層を含む。多層チューブは又、第2のPAS及び0.1重量%~10重量%の導電性フィラーを含む最内層を含む。重要なことに、多層チューブの各層は、PASを含む。最外層は、耐衝撃性改質剤を含む単独の層であり、最内層は、導電性フィラーを含む単独の層である。少なくとも部分的には、界面結合におけるPAS系の材料同士の適合性により、多層チューブには結合層が存在しない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を含み、且つ、
-第1のポリアリーレンスルフィド(「PAS」)と、
-10重量%~40重量%の耐衝撃性改質剤と、
を含む最外層、及び
-第2のPASと、
-0.1重量%~5重量%の導電性フィラーと、
を含む最内層を含む多層チューブであって、
ここで、
-前記多層チューブの各層は、PASを含み、
-前記最外層は、耐衝撃性改質剤を含む単独の層であり、
-前記最内層は、導電性フィラーを含む単独の層である、多層チューブ。
【請求項2】
前記第1のPAS及び前記第2のPASは、独立して、以下の式(1):
【化1】
(式中、Rは、それぞれの場合、独立して、C
1-C
12アルキル基、C
7-C
24アルキルアリール基、C
7-C
24アラルキル基、C
6-C
24アリーレン基、及びC
6-C
18アリールオキシ基からなる群から選択され、iは、独立して選択される0~4の整数であり、jは、それぞれの場合、独立して選択される0~3の整数である)によって表される、請求項1に記載の多層チューブ。
【請求項3】
前記第1のPASは、前記第2のPASと同じである、請求項1又は2に記載の多層チューブ。
【請求項4】
前記最外層は、前記第1のPAS及び10重量%~40重量%の前記耐衝撃性改質剤から実質的になる、請求項1~3のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項5】
前記最内層は、前記第2のPASと0.1重量%~5重量%の導電性フィラーから実質的になる、請求項1~4のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項6】
前記最外層及び前記最内層は、前記単独の層である、請求項1~5のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項7】
前記最外層は、0.1mmから10mm以下の厚さを有し、前記最内層は、10μmから1500μm以下の厚さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項8】
前記最外層及び前記最内層に接している中間層を更に含み、前記中間層は、第3のPASを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項9】
前記第3のPASは、独立して、式(1)で表される、請求項8に記載の多層チューブ。
【請求項10】
前記第1のPAS、前記第2のPAS、及び前記第3のPASは、同じである、請求項8又は9に記載の多層チューブ。
【請求項11】
前記中間層は、前記第3のPASから実質的になる、請求項8~10のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項12】
前記中間層は、10μmから1500μm以下の厚さを有する、請求項8~12のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項13】
前記耐衝撃性改質剤は、エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレートコポリマーである、請求項1~12のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項14】
前記導電性フィラーは、カーボンナノチューブ、好ましくは単層カーボンナノチューブである、請求項1~13のいずれか一項に記載の多層チューブ。
【請求項15】
前記最外層、前記最内層、及び存在する場合には前記中間層を共押出して前記多層チューブを形成することを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の多層チューブを形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最内層及び最外層を含む多層チューブに関し、これらの層は、ポリアリーレンスルフィド(「PAS」)を含み、燃料溶媒和(fuel solvation)及び燃料透過(fuel permeation)に対する望ましい耐性並びに望ましい静電荷放散(electrostatic charge dissipation)を有する。本発明は更に、中間層を含み、PASも含む前述の多層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の非金属製自動車燃料ラインチューブは、典型的には、主要な構造構成要素でありPA11又はPA12で形成された厚い一次チューブ、並びに燃料溶媒和及び燃料透過に対する望ましい耐性を達成し、静電荷放散(「ESD」)機能を提供する他のポリマー層の薄い層を含む複数の層を有する。その異なる組成物による、異なる層の間の界面結合の非相溶性により、介在する「結合層」が組み込まれて、異なる材料の層を十分に結合して多層構造の層間剥離を防止する。しかしながら、チューブ内の層の数を増やすと、製造の複雑さ及び費用が増加する。
【発明の概要】
【0003】
第1の態様では、本発明は、複数の層を含み、且つ、第1のポリアリーレンスルフィド(「PAS」)と、0重量%~40重量%の耐衝撃性改質剤とを含む最外層、及び第2のPASと、0.1重量%~5重量%の導電性フィラーとを含む最内層を含む多層チューブに関する。多層チューブの各層は、PASを含む。更に、最外層は、耐衝撃性改質剤を含む単独の層であり、最内層は、導電性フィラーを含む単独の層である。いくつかの実施形態では、第1のPAS及び第2のPASは、独立して、以下の式(1):
【化1】
(式中、Rは、それぞれの場合、独立して、C
1-C
12アルキル基、C
7-C
24アルキルアリール基、C
7-C
24アラルキル基、C
6-C
24アリーレン基、及びC
6-C
18アリールオキシ基からなる群から選択され、iは、独立して選択される0~4の整数であり、jは、それぞれの場合、独立して選択される0~3の整数である)によって表される。いくつかの実施形態では、第1のPASは、第2のPASと同じである。いくつかの実施形態では、最外層は、第1のPAS及び10重量%~40重量%の任意の耐衝撃性改質剤から本質的になる。いくつかの実施形態では、最内層は、第2のPAS及び0.1重量%~5重量%の導電性フィラーから本質的になる。いくつかの実施形態では、最外層及び最内層は、単独の層である。いくつかの実施形態では、最外層は、0.1mmから10mm以下の厚さを有し、最内層は、10μmから1500μm以下の厚さを有する。
【0004】
いくつかの実施形態では、多層チューブは、最外層及び最内層と接している中間層を更に含み、中間層は、第3のPASを含む。いくつかの実施形態では、第3のPASは、独立して式(1)で表される。いくつかの実施形態では、第1のPAS、第2のPAS、及び第3のPASは、同じである。いくつかの実施形態では、中間層は、第3のPASから本質的になる。いくつかの実施形態では、中間層は、10μmから1500μm以下の厚さを有する。
【0005】
いくつかの実施形態では、耐衝撃性改質剤は、エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレートコポリマーである。いくつかの実施形態では、導電性フィラーは、カーボンナノチューブ、好ましくは単層カーボンナノチューブである。
【0006】
別の態様では、本発明は、最外層、最内層、及び存在する場合には中間層を共押出して多層チューブを形成することを含む、多層チューブを形成する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】単独の層として最外層及び単独の層として最内層を有する多層チューブの概略図である。
【
図2】最外層、最内層、及び最外層と最内層の間に接触して配置された中間層を、単独の層として有する多層チューブの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書では、複数の層を含む多層チューブが記載される。多層チューブは、第1のポリアリーレンスルフィド(「PAS」)及び5重量%~30重量%の耐衝撃性改質剤を含む最外層を含む。多層チューブは又、第2のPAS及び0.1重量%~10重量%の導電性フィラーを含む最内層を含む。重要なことに、多層チューブの各層は、PASを含むが、最外層及び最内層は、導電性フィラー及び耐衝撃性改質剤を含まない。より具体的には、最外層は、耐衝撃性改質剤を含む単独の層であり、最内層は、導電性フィラーを含む単独の層である。少なくとも部分的には、界面結合におけるPAS系の材料同士の適合性により、多層チューブには結合層が存在しない。従って、本明細書に記載の多層チューブは、従来の非金属製自動車燃料ラインチューブと比較して、層の数が減少し、従って製造の複雑さが大幅に軽減される。更に、PASの固有の燃料溶媒和及び透過耐性、並びにその望ましい機械的性能のため、PAS系の層のみを有する多層チューブは、より少ない層を使用しながら、自動車チューブに対する所望の性能特性(例えば、燃料溶媒和及び燃料透過に対する耐性、及び静電荷放散(「ESD」)機能の提供)を達成することができる。本明細書で使用される場合、重量%は、特に明記しない限り、示された層の総重量に対するものである。
【0009】
本出願において、任意の説明は、特定の実施形態に関連して記載されているが、本開示の他の実施形態に適用可能であり、それらと交換可能である。要素又は成分が、列挙された要素又は成分のリストに含まれる及び/又はそのリストから選択されると言われる場合、本出願で明確に検討される関連実施形態では、要素又は成分は、個別の列挙された要素又は成分のいずれか1つであることができる、又は明確に列挙された要素又は成分の任意の2つ以上からなる群から又選択することができ、要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分も、このようなリストから省略され得、終点による数値範囲の本明細書におけるいかなる列挙も、列挙された範囲内に組み込まれた全ての数字並びに範囲の終点及び同等物を含むことが理解されるべきである。
【0010】
特に具体的に限定しない限り、用語「アルキル」並びに「アルコキシ」、「アシル」及び「アルキルチオ」などの派生用語は、本明細書で使用される場合、それらの範囲内に直鎖、分岐鎖及び環状部分を含む。アルキル基の例は、メチル、エチル、1-メチルエチル、プロピル、1,1-ジメチルエチル、及びシクロプロピルである。特に具体的に記述しない限り、各アルキル及びアリール基は、非置換であっても、或いはハロゲン、ヒドロキシ、スルホ、C1-C6アルコキシ、C1-C6アルキルチオ、C1-C6アシル、ホルミル、シアノ、C6-C15アリールオキシ又はC6-C15アリールから選択されるが、これらに限定されない1つ以上の置換基で置換されていてもよく、但し、置換基が立体的に適合性であり、且つ化学結合及び歪みエネルギーの規則が満たされていることを条件とする。用語「ハロゲン」又は「ハロ」には、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が含まれ、フッ素が好ましい。
【0011】
用語「アリール」は、フェニル、インダニル又はナフチル基を指す。アリール基は、1つ以上のアルキル基を含み得、この場合、「アルキルアリール」と呼ばれることもあり、例えば、シクロ芳香族基及び2つのC1-C6基(例えば、メチル又はエチル)から構成され得る。アリール基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、N、O又はSも含み得、この場合、「ヘテロアリール」基と呼ばれることもあり、これらのヘテロ芳香環は、他の芳香族系に縮合され得る。このようなヘテロ芳香環には、フラニル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、イソオキサゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジル、ピリミジル、ピラジニル及びトリアジニル環構造が含まれるが、これらに限定されない。アリール又はヘテロアリール置換基は、非置換であっても、又はハロゲン、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、スルホ、C1-C6アルキルチオ、C1-C6アシル、ホルミル、シアノ、C6-C15アリールオキシ又はC6-C15アリールから選択されるが、これらに限定されない1つ以上の置換基で置換されていてもよく、但し、置換基が立体的に適合性を有し、化学結合及び歪みエネルギーの規則が満たされていることを条件とする。
【0012】
ポリアリーレンスルフィド
多層チューブの各層は、PASを含む。PASは、硫黄原子に結合した少なくとも1つの芳香環を有する繰り返し単位(RPAS)を少なくとも50モル%含む。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAS)の濃度は、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも97モル%、少なくとも98モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.9モル%である。本明細書で使用される場合、モル%は、特に明記しない限り、示されたポリマー(例えば、PAS)中の繰り返し単位の総数に対するものである。
【0013】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R
PAS)は、以下の式の群:
【化2】
(式中、Rは、それぞれの場合、独立して、C
1-C
12アルキル基、C
7-C
24アルキルアリール基、C
7-C
24アラルキル基、C
6-C
24アリーレン基、及びC
6-C
18アリールオキシ基からなる群から独立して選択され、Tは、結合、-CO-、-SO
2-、-O-、-C(CH
3)
2、フェニル、及び-CH
2-からなる群から選択され、iは、それぞれの場合、0~4の独立して選択される整数であり、jは、それぞれの場合、0~3の独立して選択される整数である)から選択される式によって表される。明確にするために、i又はjが0の場合、対応するベンジル環は、置換されていなく、全体を通して同様の表記が使用される。好ましくは、PASは、ポリフェニレンスルフィド(「PPS」)であり、即ち、繰り返し単位(R
PAS)は、式(1)で表される。より好ましくは、繰り返し単位(R
PAS)は、以下の式:
【化3】
で表される。
【0014】
最も好ましくは、繰り返し単位(RPAS)は、式(4)で表される。
【0015】
PASは、非晶性又は半結晶性であり得る。本明細書で使用される場合、アモルファスポリマーは、5ジュール/g(「J/g」)以下の融解エンタルピー(「ΔHf」)を有する。当業者であれば、PASがアモルファスである場合、それが検出可能なTmを有さないことを認識するであろう。従って、当業者であれば、PASポリマーがTmを有する場合にはそれが半結晶性ポリマーを指すことを認識するであろう。好ましくは、PASポリマーは半結晶性である。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも10J/g、少なくとも20J/g、少なくとも、又は少なくとも25J/gのΔHfを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、90J/g以下、70J/g以下、又は60J/g以下のΔHfを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、10J/g~90J/g又は20J/g~70J/gのΔHfを有する。ΔHfは、ASTM D3418に従って、20℃/分の加熱及び冷却速度を使用する示差走査熱量測定(「DSC」)を使用して測定することができる。有利なことに、各DSC試験には3つのスキャンが使用される:350℃まで第1の加熱、続いて30℃まで第1の冷却、続いて350℃まで第2の加熱。
【0016】
好ましくは、PASは、多くとも700g/10分、より好ましくは多くとも500g/10分のメルトフローレート(以下の実施例に記載のように測定、5kgの重量下、315.6℃で)を有する。好ましくは、PAは、少なくとも5g/10分、より好ましくは少なくとも30g/10分、更により好ましくは少なくとも50g/モルのメルトフローレートを有する。MFRは、5分間の平衡期間の後、5kgの重量及び0.0825インチ×0.315インチのダイを使用して、315.6℃で押出可塑度計で測定され得る(単位はg・(10分)-1)。
【0017】
上述したように、多層チューブの各層は、PASを含む。いくつかの実施形態では、チューブの各層は、少なくとも10重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも55重量%、又は少なくとも60重量%のPASを含む。いくつかの実施形態では、最外層を除くチューブの各層は、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%のPASを含む。
【0018】
耐衝撃性改質剤
多層チューブは、第1のPASポリマー及び5重量%~40重量%の耐衝撃性改質剤を含む最外層を含む。より具体的には、最外層は、耐衝撃性改質剤を含む多層チューブの単独の層である。耐衝撃性改質剤は、一般に低いTgのポリマーであり、Tgは、例えば、室温未満、0℃未満、又は更には-25℃未満である。その低いTgの結果、耐衝撃性改質剤は、典型的には、室温でエラストマー状である。耐衝撃性改質剤は、官能化されたポリマー主鎖であり得る。
【0019】
耐衝撃性改質剤のポリマー骨格は、ポリエチレン及びこれらのコポリマー、例えば、エチレン-ブテン、エチレン-オクテン、ポリプロピレン及びこれらのコポリマー、ポリブテン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM)、エチレン-アクリレートゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴム、エチレン-アクリル酸(EAA)、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム(ABS)、ブロックコポリマースチレンエチレンブタジエンスチレン(SEBS)、ブロックコポリマースチレンブタジエンスチレン(SBS)、メタクリレート-ブタジエン-スチレン(MBS)タイプのコア-シェルエラストマー、又は上記の1つ以上の混合物を含むエラストマー骨格から選択することができる。
【0020】
耐衝撃性改質剤が官能化されている場合、骨格の官能化は、官能化を含むモノマーの共重合によって又は更なる成分でのポリマー骨格のグラフト化によって生じることができる。
【0021】
官能化された耐衝撃性改質剤の具体的な例は、とりわけ、エチレン、アクリル酸エステル及びグリシジルメタクリレートのターポリマー、エチレン、n-ブチルアクリレート及びグリシジルメタクリレートのターポリマー、エチレン及びブチルエステルアクリレートのコポリマー、エチレン、ブチルエステルアクリレート及びグリシジルメタクリレートのコポリマー、エチレン-無水マレイン酸コポリマー、無水マレイン酸をグラフトしたEPR、無水マレイン酸をグラフトしたスチレンコポリマー、無水マレイン酸をグラフトしたSEBSコポリマー、無水マレイン酸をグラフトしたスチレン-アクリロニトリルコポリマー、無水マレイン酸をグラフトしたABSコポリマーである。一実施形態では、耐衝撃性改質剤は、エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレートコポリマーである。
【0022】
最外層における耐衝撃性改質剤の濃度は、5重量%~40重量%である。いくつかの実施形態では、最外層における耐衝撃性改質剤の濃度は、10重量%~40重量%、15重量%~40重量%、10重量%~30重量%、又は15重量%~30重量%である。
【0023】
上述したように、最外層は、耐衝撃性改質剤を含む多層チューブの単独の層である。換言すれば、多層チューブ内の他の各層における耐衝撃性改質剤の濃度は、1重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%未満、又は0.01重量%未満である。
【0024】
導電性フィラー
多層チューブは、第2のPASポリマー及び0.1重量%~10重量%の導電性フィラーを含む最内層を含む。より具体的には、最内層は、導電性フィラーを含む多層チューブの単独の層である。本明細書で使用される場合、導電性フィラーは、ASTM D257に従って測定される、平方当たり106Ω以下の表面抵抗率を有する。導電性フィラーは、それが組み込まれている層(少なくとも最内層)のESDを改善する。導電性フィラーとしては、導電性カーボンブラック、金属フレーク、金属粉末、金属化ガラス球、金属化ガラス繊維、金属繊維、金属化ウィスカー、炭素繊維(金属化炭素繊維を含む)、カーボンナノチューブ、本質的に導電性のポリマー又はグラファイトフィブリルが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、導電性フィラーは、カーボンナノチューブである。ナノチューブは、ナノメートル又は分子サイズの材料の一例である。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(「SWNT」)、多層カーボンナノチューブ(「MWNT」)(入れ子状態の(nested)SWNTからなる)、又はこれらの混合物であり得る。好ましくは、カーボンナノチューブは、SWNTである。カーボンナノチューブ及びカーボンナノチューブのロープ(rope)(例えば、SWNT又はMWNT及びSWNT又はMWNTのロープ)は、高い機械的強度、金属伝導性、及び高い熱伝導性を示す。ポリマー組成物に組み込まれると、カーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブのロープは、ポリマー組成物の強度、靱性、導電性、及び熱伝導性を向上させる。このような特性は、例えば、本明細書で記載される多層チューブにおいてなど、導電性が求められるポリマー構造用途において特に有用である。
【0025】
いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、直径(「D」)に対する長さ(「L」)として定義される100以上の平均アスペクト比を有する。いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、1000以上の平均アスペクト比を有することができる。いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、1ナノメートル(「nm」)~3.5nm又は4nm(ロープ状(roping))の平均直径を有する。いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブは、少なくとも1μmの平均長さを有する。
【0026】
最内層のカーボンナノチューブの濃度は、0.1重量%~10重量%である。いくつかの実施形態では、最内層におけるカーボンナノチューブの濃度は、0.1重量%~8重量%、0.1重量%~7重量%、0.1重量%~6重量%、又は0.1重量%~5重量%である。
【0027】
上述したように、最内層は、導電性フィラーを含む多層チューブにおける単独の層である。換言すれば、多層チューブにおける他の各層の導電性フィラー濃度は、1重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%未満、又は0.01重量%である。
【0028】
添加剤
いくつかの実施形態では、多層チューブ層の1つ以上は、これに限定されないが補強フィラーを含む、添加剤を含む。添加剤には、これらに限定されないが、可塑剤、着色剤、顔料(例えば、カーボンブラック及びニグロシンなどの黒色顔料)、帯電防止剤、染料、潤滑剤(例えば、直鎖低密度ポリエチレン、ステアリン酸カルシウム又はマグネシウム又はモンタン酸ナトリウム)、熱安定剤、光安定剤、難燃剤(ハロゲンフリー難燃剤及びハロゲン含有難燃剤の両方)、核形成剤、酸捕捉剤、酸化防止剤、表面接着増強剤、シランカップリング剤、及びその他の加工助剤が挙げられる。本明細書で使用される場合、添加剤には、耐衝撃性改質剤(強化剤としても知られる)も導電性フィラーも含まれない。
【0029】
上述したように、多層チューブは、高温に曝される可能性がある用途環境、或いは可燃性の液体又はガスを移送する用途環境に組み込まれることが望ましい。従って、いくつかの実施形態では、難燃剤が、多層チューブ層の1つ以上に組み込まれることが望ましい。更に又、同様な理由のために、難燃剤は、好ましくは、ハロゲンフリー難燃剤である。
【0030】
いくつかの実施形態では、ハロゲンフリー難燃剤は、ホスフィン塩(ホスフィネート)、ジホスフィン塩(ジホスフィネート)及びこれらの縮合生成物からなる群から選択される有機リン化合物である。好ましくは、有機リン化合物は、式(I)のホスフィン酸塩(ホスフィネート)、式(II)のジホスフィン酸塩(ジホスフィネート)及びこれらの縮合生成物からなる群から選択される:
【化4】
(式中、R
1、R
2は、同一である又は異なり、R
1及びR
2のそれぞれは、水素又は直鎖又は分岐C
1-C
6アルキル基又はアリール基であり、R
3は、直鎖又は分岐C
1-C
10アルキレン基、C
6-C
10アリーレン基、アルキル-アリーレン基、又はアリール-アルキレン基であり、Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、チタンイオン、及びこれらの組み合わせから選択され、mは、2又は3の整数であり、nは、1又は3の整数であり、xは、1又は2の整数である)。
【0031】
好ましくは、R1及びR2は、独立して、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、及びフェニルから選択され、R3は、メチレン、エチレン、n-プロピレン、イソプロピレン、n-ブチレン、tert-ブチレン、n-ペンチレン、n-オクチレン、n-ドデシレン、フェニレン、ナフチレン、メチルフェニレン、エチルフェニレン、tert-ブチルフェニレン、メチルナフチレン、エチルナフチレン、tert-ブチルナフチレン、フェニルメチレン、フェニルエチレン、フェニルプロピレン、及びフェニルブチレンから選択され、Mは、アルミニウムイオン及び亜鉛イオンから選択される。
【0032】
ホスフィネートが有機リン化合物として好ましい。適切なホスフィネートは、米国特許第6,365,071号明細書に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。特に好ましいホスフィネートは、アルミニウムホスフィネート、カルシウムホスフィネート、及び亜鉛ホスフィネートである。優れた結果は、アルミニウムホスフィネートで得られた。アルミニウムホスフィネートの中でも、アルミニウムエチルメチルホスフィネート及びアルミニウムジエチルホスフィネート並びにこれらの組み合わせが好ましい。優れた結果は、アルミニウムジエチルホスフィネートが使用される場合に特に得られた。
【0033】
いくつかの実施形態では、多層チューブの層中のハロゲンフリー難燃剤の濃度は、少なくとも5重量%又は少なくとも7重量%である。いくつかの実施形態では、多層チューブの層中のハロゲンフリー難燃剤の濃度は、20重量%以下又は15重量%以下である。いくつかの実施形態では、多層チューブの層中のハロゲンフリー難燃剤の濃度は、5重量%~20重量%、7重量%~20重量%、5重量%~15重量%、又は7重量%~15重量%である。
【0034】
いくつかの実施形態では、多層チューブの1つ以上は、酸捕捉剤を含み、最も望ましくは、ハロゲンフリー難燃剤を組み込む実施形態である。酸捕捉剤には、これらに限定されないが、シリコーン、シリカ、ベーマイト、酸化アルミニウム、酸化カルシウム酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅及び酸化タングステンなどの金属酸化物、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、スズ、アンチモン、ニッケル、銅及びタングステンなどの金属粉末、及びメタ硼酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、及び炭酸バリウムなどの金属塩が挙げられる。
【0035】
多層チューブの層が酸捕捉剤を含むいくつかの実施形態では、酸捕捉剤の濃度は、0.01重量%~5重量%、0.05重量%~4重量%、0.08重量%~3重量%、0.1重量%~2重量%、0.1重量%~1重量%、0.1重量%~0.5重量%、又は0.1重量%~0.3重量%である。
【0036】
いくつかの実施形態では、層中の総添加剤濃度は、少なくとも0.1重量%、少なくとも0.2重量%、又は少なくとも0.3重量%である。いくつかの実施形態では、層中の総添加剤濃度は、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、7重量%以下、又は5重量%以下である。いくつかの実施形態では、層中の総添加剤濃度は、0.1重量%~20重量%、0.1重量%~15重量%、0.1重量%~10重量%、0.2重量%~7重量%又は0.3重量%~5重量%である。
【0037】
いくつかの実施形態では、多層チューブの層の1つ以上は、補強剤を含む。補強繊維又は補強フィラーとも呼ばれる、幅広く選択した補強剤をポリマー組成物(PC)に添加することができる。いくつかの実施形態では、補強剤は、鉱物フィラー(タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウムを含むが、これらに限定されない)、ガラス繊維、炭素繊維、合成ポリマー繊維、アラミド繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、マグネシウム繊維、炭化ホウ素繊維、ロックウール繊維、鋼繊維、及び珪灰石から選択される。特に、本明細書で使用される場合、最内層に関して、補強剤にはカーボンナノチューブは含まれない。
【0038】
一般に、補強剤は、繊維状補強剤又は粒状補強剤である。繊維状補強剤は、平均長さが幅及び厚さの両方よりもかなり大きい長さ、幅及び厚さを有する材料を指す。一般に、このような材料は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20又は少なくとも50の、長さと幅及び厚さの最大のものとの間の平均比として定義されるアスペクト比を有する。いくつかの実施形態では、繊維状補強剤(例えば、ガラス繊維又は炭素繊維)は、3mm~50mmの平均長さを有する。いくつかのこのような実施形態では、繊維状補強剤は、3mm~10mm、3mm~8mm、3mm~6mm又は3mm~5mmの平均長さを有する。代替の実施形態では、繊維状補強剤は、10mm~50mm、10mm~45mm、10mm~35mm、10mm~30mm、10mm~25mm又は15mm~25mmの平均長さを有する。繊維状補強剤の平均長さは、ポリマー組成物(PC)中への組み入れ前の繊維状補強剤の平均長さと解釈することができる、又はポリマー組成物(PC)中の繊維状補強剤の平均長さと解釈することができる。
【0039】
ガラス繊維に対して、それらは、異なったタイプのガラスを生成するように調整され得るいくつかの金属酸化物を含有するシリカ系ガラス化合物である。主な酸化物は、ケイ砂の形態のシリカであり、カルシウム、ナトリウム及びアルミニウムなどの他の酸化物は、融解温度を低下させ、結晶化を妨げるために組み込まれる。ガラス繊維は、エンドレス繊維又はチョップドガラス繊維として添加され得る。ガラス繊維は、一般に、5~20、好ましくは5~15μm、より好ましくは5~10μmの相当直径を有する。ガラス繊維タイプの全て、例えばA、C、D、E、M、S、R、Tガラス繊維(Additives for Plastics Handbook,2nd ed,John Murphyのchapter 5.2.3,pages 43-48に記載される通り)又はこれらの任意の混合物又はこれらの混合物が使用され得る。
【0040】
E、R、S及びTガラス繊維は、当技術分野で周知である。それらは、特に、Fiberglass and Glass Technology,Wallenberger,Frederick T.;Bingham,Paul A.(Eds.),2010,XIV,chapter 5,pages197-225に記載されている。R、S及びTガラス繊維は、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムの酸化物から本質的に構成される。特に、これらのガラス繊維は、典型的には62~75重量%のSiO2、16~28重量%のAl2O3、及び5~14重量%のMgOを含む。一方、R、S及びTガラス繊維は、10重量%未満のCaOを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、高弾性率ガラス繊維である。高弾性ガラス繊維の弾性率は、ASTM D2343に従って測定して少なくとも76、好ましくは少なくとも78、より好ましくは少なくとも80、最も好ましくは少なくとも82GPaである。高弾性ガラス繊維の例には、これらに限定されないが、S、R及びTガラス繊維が含まれる。高弾性率ガラス繊維の市販の供給源は、それぞれTaishan及びAGYから提供されるS-1及びS-2ガラス繊維である。
【0042】
ガラス繊維のモルフォロジーは、特に限定されない。上述したように、ガラス繊維は、円形断面(「ラウンドガラス繊維」)又は非円形断面(「扁平ガラス繊維」)を有し得る。好適な扁平ガラス繊維の例には、これらに限定されないが、長円形、楕円形及び長方形の断面を有するガラス繊維が含まれる。ポリマー組成物が扁平ガラス繊維を含むいくつかの実施形態では、扁平ガラス繊維の断面最長径は、少なくとも15μm、好ましくは少なくとも20μm、より好ましくは少なくとも22μm、更により好ましくは少なくとも25μmである。加えて又は代わりに、いくつかの実施形態では、扁平ガラス繊維は、多くとも40μm、好ましくは多くとも35μm、より好ましくは多くとも32μm、更に好ましくは多くとも30μmの断面最長径を有する。いくつかの実施形態では、扁平ガラス繊維は、15~35μm、好ましくは20~30μm及びより好ましくは25~29μmの範囲の断面の直径を有する。いくつかの実施形態では、扁平ガラス繊維は、少なくとも4μm、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも6μm、更に好ましくは少なくとも7μmの断面最短径を有する。加えて又は代わりに、いくつかの実施形態では、扁平ガラス繊維は、多くとも25μm、好ましくは多くとも20μm、より好ましくは多くとも17μm、更に好ましくは多くとも15μmの断面最短径を有する。いくつかの実施形態では、扁平ガラス繊維の断面最短径は、5~20μm、好ましくは5~15μm、より好ましくは7~11μmの範囲である。
【0043】
いくつかの実施形態では、扁平ガラス繊維のアスペクト比は、少なくとも2、好ましくは少なくとも2.2、より好ましくは少なくとも2.4、更により好ましくは少なくとも3である。アスペクト比は、ガラス繊維の断面における最長径の、同じ断面における最短径に対する比として定義される。加えて又は代わりに、一部の実施形態では、扁平ガラス繊維のアスペクト比は、多くとも8、好ましくは多くとも6、より好ましくは多くとも4である。いくつかの実施形態では、扁平ガラス繊維は、2~6、好ましくは、2.2~4のアスペクト比を有する。ガラス繊維が円形ガラス繊維であるいくつかの実施形態では、ガラス繊維のアスペクト比は、2未満、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.2未満、更により好ましくは1.1未満、最も好ましくは1.05未満である。当然のことながら、当業者は、ガラス繊維のモルフォロジー(例えば、円形又は扁平)に関わらず、定義により、アスペクト比が1未満になり得ないことを理解するであろう。
【0044】
いくつかの実施形態では、多層チューブの1つ以上の層は、炭素繊維を含む。いくつかの実施形態では、炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(「PAN」)系炭素繊維又はピッチ(芳香族炭化水素から構成される粘弾性材料)系炭素繊維である。いくつかの実施形態では、炭素繊維は、標準弾性率炭素繊維又は中間弾性率炭素繊維である。標準弾性率炭素繊維は、227GPa~235GPaの引張弾性率を有する。中間弾性率炭素繊維は、282GPA~289GPaの引張弾性率を有する。炭素繊維は未使用炭素繊維又は再生(使用済み又はポスト工業)炭素繊維(熱分解される又は過大の)であり得る。いくつかの実施形態では、炭素繊維は、少なくとも1mm、少なくとも3mm、少なくとも4mm、少なくとも5mm、又は少なくとも6mmの平均長さを有する。いくつかの実施形態では、ガラス繊維は、10mm以下の平均長さを有する。いくつかの実施形態では、炭素繊維は、1mm~10mm、3mm~10mm、4mm~10mm、5mm~10mm、又は6mm超から10mmまでの平均長さを有する。
【0045】
いくつかの実施形態では、多層チューブ層中の補強剤(例えば、ガラス繊維又は炭素繊維)の濃度は、少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、又は少なくとも20重量%である。いくつかの実施形態では、多層チューブ層中の補強剤の濃度は、70重量%以下、60重量%以下、又は50重量%以下である。いくつかの実施形態では、多層チューブ層中の補強剤の濃度は、10重量%~70重量%、15重量%~70重量%、20重量%~70重量%、10重量%~60重量%、15重量%~60重量%、20重量%~60重量%、10重量%~50重量%、15重量%~50重量%又は20重量%~50重量%である。多層チューブ層が炭素繊維及びガラス繊維を含むいくつかの実施形態では、炭素繊維及びガラス繊維の合計濃度は、前述の範囲内である。代替のこのような実施形態では、炭素繊維濃度及びガラス繊維濃度は各々、独立して上記の範囲内である。
【0046】
ポリマー組成物(PC)が炭素繊維及びガラス繊維を含むいくつかの実施形態では、炭素繊維対ガラス繊維の重量比(ポリマー組成物(PC)中の炭素繊維の重量/ポリマー組成物(PC)中のガラス繊維の重量)は、少なくとも0.05、少なくとも0.15、少なくとも0.2、少なくとも0.5、少なくとも0.75、又は少なくとも1である。ポリマー組成物(PC)が炭素繊維及びガラス繊維を含むいくつかの実施形態では、炭素繊維対ガラス繊維の重量比は、4以下、3以下、2以下又は1以下である。ポリマー組成物(PC)が炭素繊維及びガラス繊維を含むいくつかの実施形態では、炭素繊維対ガラス繊維の重量比は、0.05~4、0.05~3、0.05~2、0.05~1、0.15~4、0.15~3、0.15~2、0.15~1、0.2~5、0.2~4、0.2~3、0.2~1、0.5~4、0.5~3、0.5~2、0.5~1、1~4、1~3又は1~2である。
【0047】
多層チューブ
多層チューブは、最外層及び最内層を含む。多層チューブは、一般に円筒状である。最外層(内径及び外径が最大である層)は、多層チューブの外層であり、これより、最外層より先には層がない。例えば、最外層の最外面は、多層チューブのいかなる他の層とも接していない。換言すれば、最外層は、多層チューブの外部環境と接している。同様に、最内層(内径及び外径が最小である層)の内面は、多層チューブのいかなる他の層とも接していない。別の言い方をすると、最内層は、その意図された使用の間に多層チューブによって輸送される流体又は気体と接している層である(当然ながら、蒸気の拡散にもかかわらず)。
【0048】
いくつかの実施形態では、各層のPASは、それぞれの他の各層とは異なる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの層のPASは、別の層のPASと同じであり、残りの層は、別個のPASを有する。いくつかの実施形態では、各層のPASは、同じである。
【0049】
いくつかの実施形態では、多層チューブは、最外層及び最内層を単独の層として含む。
図1は、最外層及び最内層を単独層として有する多層チューブの概略図である。
図1を参照すると、多層チューブ100において、最外層102と最内層104は、例えば、チューブの長さ全体にわたって互いに接している。最外層102の内面106は、最内層104の外面108と接している。最外層102の外面110は、多層チューブ100の外部環境に曝され、最内層104の内面112は、多層チューブ100によって輸送される燃料又はガスと接している。いくつかの実施形態では、最外層102は、第1のPPSと10重量%~40重量%の耐衝撃性改質剤とを含む、又はこれらから本質的になる。いくつかの実施形態では、最内層104は、第2のPPSと0.1重量%~5重量%の導電性フィラーとを含む、又はこれらから本質的になる。いくつかの実施形態では、最外層102は、第1のPAS及び10重量%~40重量%の耐衝撃性改質剤から本質的になり、最内層104は、第2のPAS及び0.1重量%~5重量%の導電性フィラーから本質的になる。多層チューブが単独の層として最外層102及び最内層104を含むいくつかの実施形態では、第1のPASは、第2のPASと同じである。好ましくは、第1のPAS及び第2のPASは、独立して、式(1)で表される繰り返し単位(R
PAS)を含み、最も好ましくは、第1のPAS及び第2のPASは、式(2)で表される繰り返し単位(R
PAS)を含む。好ましくは、導電性フィラーは、カーボンナノチューブである。本明細書で使用される場合、層に関して「本質的に~からなる」とは、明示的に記載されていない成分(例えば、添加剤)の総濃度が、1重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%未満、又は0.01重量%未満であることを意味する。
【0050】
いくつかの実施形態では、多層チューブは、最外層、最内層、及び最外層と最内層の間に接触して配置された中間層を単独の層として含む。
図2は、最外層、最内層、及び最外層と最内層の間に接触して配置された中間層を単独の層として有する多層チューブの概略図である。
図2を参照すると、多層チューブ200では、中間層204の外面202は、最外層208の内面206に接しており、更に、中間層204の内面210は、最内層214の外面212に接している。最外層208の外面216は、多層チューブ200の外部環境に曝され、最内層214の内面218は、多層チューブ200によって輸送される燃料又はガスと接している。中間層204は、第3のPASを含む。いくつかの実施形態では、最外層208は、第1のPPSと10重量%~40重量%の耐衝撃性改質剤とを含む、又はこれらから本質的になる。いくつかの実施形態では、最内層214は、第2のPPSと0.1重量%~5重量%の導電性フィラーとを含む、又はこれらから本質的になる。いくつかの実施形態では、中間層204は、第3のPASを含む、又は第3のPASから本質的になる。いくつかの実施形態では、最外層208は、第1のPPS及び10重量%~40重量%の耐衝撃性改質剤から本質的になり、最内層214は、第2のPPS及び0.1重量%~5重量%の導電性フィラーから本質的になり、中間層204は、第3のPASから本質的になる。いくつかの実施形態では、第1のPAS、第2のPAS、及び第3のPASは、全て別個のPASである。いくつかの実施形態では、第1のPASと第2のPASは、同じであり、第3のPASは、別個である。いくつかの実施形態では、第1のPAS、第2のPAS、及び第3のPASは、全て同じである。好ましくは、第1のPAS、第2のPAS及び第3のPASは、独立して式(1)で表される繰り返し単位(R
PAS)を含み、最も好ましくは、第1のPAS、第2のPAS及び第3のPASは、式(2)で表される繰り返し単位(R
PAS)を含む。好ましくは、導電性フィラーは、カーボンナノチューブである。
【0051】
いくつかの実施形態では、最外層は、少なくとも0.1mm、少なくとも0.5、少なくとも1mm、又は少なくとも2mmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、最外層は、10mm以下、5mm以下、又は4mm以下の厚さを有する。いくつかの実施形態では、最外層は、0.1mmから10mm以下、5mm以下、又は4mm以下の厚さを有する。いくつかの実施形態では、最外層は、0.5mmから10mm以下、5mm以下、又は4mm以下の厚さを有する。いくつかの実施形態では、最外層は、1mmから10mm以下、5mm以下、又は4mm以下の厚さを有する。いくつかの実施形態では、最外層は、2mmから10mm以下、5mm以下、又は4mm以下の厚さを有する。いくつかの実施形態では、最内層は、少なくとも10マイクロメートル(「μm」)、少なくとも50μm、少なくとも80μm、又は少なくとも90μmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、最内層は、1500μm以下、1000μm以下、500μm以下、300μm以下、200μm以下、150μm以下、又は110μm以下の厚さを有する。いくつかの実施形態では、最内層は、10μm~1500μm、10μm~1000μm、50μm~500μm、50μm~300μm、80μm~200μm、90μm~150μm又は90μm~110μmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、最内層は、少なくとも10マイクロメートル(「μm」)、少なくとも50μm、少なくとも80μm、又は少なくとも90μmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、中間層は、1500μm以下、1000μm以下、500μm以下、300μm以下、200μm以下、150μm以下、又は110μm以下の厚さを有する。いくつかの実施形態では、中間層は、10μm~1500μm、10μm~1000μm、50μm~500μm、50μm~300μm、80μm~200μm、90μm~150μm又は90μm~110μmの厚さを有する。
【0052】
多層チューブの作製
多層チューブは、当技術分野で周知の方法を使用して形成することができる。1つの望ましい方法は、更なる層成分(例えば、添加剤及び補強フィラー)を含むPASを溶融ブレンドし、多層チューブを共押出することを含む。
【0053】
任意の溶融ブレンド方法が、本発明との関連でポリマー原料と非ポリマー原料とを混合するために用いられ得る。例えば、ポリマー原料及び非ポリマー原料は、一軸スクリュー押出機又は二軸スクリュー押出機、撹拌機、一軸スクリュー又は二軸スクリュー混錬機、又はバンバリーミキサーなどの、溶融ミキサーへ供給され得、この添加工程は、全ての原料の同時添加又はバッチ式の漸次添加であり得る。ポリマー原料及び非ポリマー原料がバッチ式に徐々に添加される場合、ポリマー原料及び/又は非ポリマー原料の一部がまず添加され、次いで、十分に混合された組成物が得られるまで、その後に添加される残りのポリマー原料及び非ポリマー原料と溶融混合される。補強剤が長い物理的形状(例えば、長い繊維並びに連続繊維)を示す場合、補強された組成物を調製するために延伸押出成形又は引抜成形が用いられ得る。溶融ブレンドされたポリマーを共押出して多層チューブを形成することができる。
【実施例】
【0054】
この実施例は、本明細書に記載の多層チューブの機械的強度及び燃料透過性能を実証する。
【0055】
試験は、外径15.5mm及び総厚1.75mmの多層チューブについて実施した。チューブは、以下の寸法の3つの層を有した:厚さ1.19mmの最外層、厚さ0.25mmの中間層、及び厚さ0.34mmの最内層。最外層は、75重量%のPPS及び25重量%の反応性耐衝撃性改質剤からなった。中間層は、PPSからなった。最内層は、76重量%のPPS、16重量%の丸いEガラス繊維、5重量%の反応性耐衝撃性改質剤(最外層の反応性耐衝撃性改質剤とは異なる)、1重量%のカーボンブラック(導電性フィラー)及び2重量%未満の熱安定剤及び潤滑剤からなった。
【0056】
多層チューブの機械的強度は、以下の通り測定した。破裂圧力試験は、DIN 73411-2に従って実施した。チューブを約20cmの長さに切断し、金属製の端部耐荷重機械フィッティング(end-load resistant mechanical fitting)で閉じた。組み立てられたチューブを水で満たし、空気でパージした。組立体内の圧力は、パイプが破裂するまで約34バール/分の速度で増加した。チューブの破裂圧力値は、96.9バールであり、これは、最外層と同じ組成を有し、外径16mm及び厚さ1.5mmの単層チューブ(「対照チューブ」)と同様であった。この対照チューブの破裂圧力値は、97.3バールである。
【0057】
燃料透過は、以下の通り測定した。上述の多層チューブを、それぞれ長さ20cmの2つの部分に切断した。次いで、それぞれの部分を金属製の端部耐荷重機械フィッティングで閉じた。組み立てられた部分の1つは、13mlのCE10で満たし、もう1つは、13mlのCM15で満たした。充填した部分を40℃にてオーブンに30日間入れた。オーブンにて加熱する前と後の重量の差は、透過した燃料に相当する。燃料透過は、以下の通り計算した:
【数1】
式中、W
i及びW
fは、それぞれ、チューブ部分の初期(加熱前)と最終(加熱後)の重量であり、Tは、チューブ部分の総厚さであり、Aは、チューブ部分の内面面積であり、tは、加熱時間である。燃料透過は、それぞれ、CE10燃料及びCM15燃料で充填されたチューブ部分で、0.65(g・mm)/(m
2・日)及び0.21(g・mm)/(m
2・日)であった。対照チューブの2つの部分について同じ試験を実行したところ、燃料透過は、それぞれ、CE10燃料及びCM15燃料で、15.6(g・mm)/(m
2・日)及び6.9(g・mm)/(m
2・日)であることがわかった。
【0058】
上記の実施形態は、例示的であり、限定的ではないことを意図する。追加の実施形態は、本発明の概念内にある。加えて、本発明は、特定の実施形態に関連して記載されているが、当業者は、本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における変更が行われ得ることを認めるであろう。上記の文書の参照によるいかなる援用も、本明細書での明白な開示に反する主題が援用されないように限定される。
【国際調査報告】