(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】自己免疫状態を治療するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20240614BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/37 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/727 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/45 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/4365 20060101ALI20240614BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20240614BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240614BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240614BHJP
C07K 14/44 20060101ALI20240614BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K45/00
A61K31/37
A61K31/727
A61K31/5377
A61K31/4439
A61K31/45
A61K31/4365
A61P7/02
A61P29/00
A61P37/06
A61P43/00 121
C07K14/44 ZNA
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575852
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 IB2022055391
(87)【国際公開番号】W WO2022259208
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514243896
【氏名又は名称】ウニヴェルシテーツメディツィン・デア・ヨハネス・グーテンベルク-ウニヴェルシテート・マインツ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ルーフ ヴォルフラム
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー-カレヤ ナディーン
(72)【発明者】
【氏名】ラックナー カール
(72)【発明者】
【氏名】ワインマン-メンケ ユリア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084AA23
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4H045AA10
4H045AA20
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4H045CA20
4H045EA24
4H045FA33
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質症候群を含む自己免疫状態および炎症状態を治療するための方法ならびに組成物を提供する。本開示の特定の局面は、治療有効量のNAPc2またはNAPc2/プロリンを含む組成物を投与する工程を含む、自己免疫状態または炎症状態を治療するための方法に関する。さらなる局面には、NAPc2またはNAPc2/プロリン、場合によっては1つまたは複数の追加の抗炎症剤を含む、薬学的組成物が含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫状態または炎症状態について対象を治療するための方法であって、治療有効量の、線虫抗凝固タンパク質c2(NAPc2)またはNAPc2/プロリンを含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
薬学的組成物がNAPc2を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薬学的組成物がNAPc2/プロリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象が、自己免疫状態または炎症状態の症状を有すると決定された、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
薬学的組成物が、症状の発生後に対象に投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象が、自己免疫状態または炎症状態の症状を有しない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
薬学的組成物が、自己免疫状態または炎症状態の症状の発生前に投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
対象が、以前の治療により、自己免疫状態または炎症状態について以前に治療されていた、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
対象が、以前の治療に対して耐性であると決定された、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
薬学的組成物が、皮下注射を介して投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
薬学的組成物が、静脈内注入を介して投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
薬学的組成物が、1日おきに対象に投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、5μg/kg~10μg/kgの用量で投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約10μg/kgの用量で投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約7.5μg/kgの用量で投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約5μg/kgの用量で投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
NAPc2またはNAPc2/プロリンを1日目に約7.5μg/kgの用量で投与する工程、NAPc2またはNAPc2/プロリンを3日目に約5μg/kgの用量で提供する工程、およびNAPc2またはNAPc2/プロリンを5日目に約5μg/kgの用量で提供する工程を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
追加の抗炎症剤を対象に投与する工程をさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
追加の抗炎症剤が、非ステロイド性抗炎症薬である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
抗凝固剤を対象に投与する工程をさらに含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
抗凝固剤が、ビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)阻害剤、トロンビン阻害剤、または第Xa因子阻害剤である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
抗凝固剤が、ワルファリン、ヘパリンもしくはその合成アナログ、リバーロキサバン、ダビガトラン、アピキサバン、またはエドキサバンである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
追加の抗凝固剤を投与する工程を含まない、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
薬学的組成物が、追加の抗凝固剤を含まない、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
自己免疫状態または炎症状態が、全身性エリテマトーデスである、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
自己免疫状態または炎症状態が、抗リン脂質症候群である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
対象が、抗リン脂質抗体を有すると決定された、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
薬学的組成物を対象に投与する工程の前に、対象における抗リン脂質抗体の存在を検出する工程をさらに含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
抗リン脂質抗体を検出する工程が、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
抗リン脂質症候群について対象を治療するための方法であって、治療有効量の、線虫抗凝固タンパク質c2(NAPc2)またはNAPc2/プロリンを含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項31】
薬学的組成物がNAPc2を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
薬学的組成物がNAPc2/プロリンを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
薬学的組成物が、皮下注射を介して投与される、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
薬学的組成物が、静脈内注入を介して投与される、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
薬学的組成物が、1日おきに対象に投与される、請求項30~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、5μg/kg~10μg/kgの用量で投与される、請求項30~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約10μg/kgの用量で投与される、請求項30~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約7.5μg/kgの用量で投与される、請求項30~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約5μg/kgの用量で投与される、請求項30~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
NAPc2またはNAPc2/プロリンを1日目に約7.5μg/kgの用量で投与する工程、NAPc2またはNAPc2/プロリンを3日目に約5μg/kgの用量で投与する工程、およびNAPc2またはNAPc2/プロリンを5日目に約5μg/kgの用量で投与する工程を含む、請求項30~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
薬学的組成物を投与する工程の前に、対象における抗リン脂質抗体の存在を検出する工程をさらに含む、請求項30~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
抗リン脂質抗体を検出する工程が、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
追加の抗凝固剤を投与する工程を含まない、請求項30~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
薬学的組成物が、追加の抗凝固剤を含まない、請求項30~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
全身性エリテマトーデスについて対象を治療するための方法であって、治療有効量の、線虫抗凝固タンパク質c2(NAPc2)またはNAPc2/プロリンを含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項46】
薬学的組成物がNAPc2を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
薬学的組成物がNAPc2/プロリンを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
薬学的組成物が、皮下注射を介して投与される、請求項45~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
薬学的組成物が、静脈内注入を介して投与される、請求項45~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
薬学的組成物が、1日おきに対象に投与される、請求項45~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、5μg/kg~10μg/kgの用量で投与される、請求項45~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約10μg/kgの用量で投与される、請求項45~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約7.5μg/kgの用量で投与される、請求項45~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
NAPc2またはNAPc2/プロリンが、約5μg/kgの用量で投与される、請求項45~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
NAPc2またはNAPc2/プロリンを1日目に約7.5μg/kgの用量で投与する工程、NAPc2またはNAPc2/プロリンを3日目に約5μg/kgの用量で投与する工程、およびNAPc2またはNAPc2/プロリンを5日目に約5μg/kgの用量で投与する工程を含む、請求項45~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
薬学的組成物を投与する工程の前に、対象における抗リン脂質抗体の存在を検出する工程をさらに含む、請求項45~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
抗リン脂質抗体を検出する工程が、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
追加の抗凝固剤を投与する工程を含まない、請求項45~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
薬学的組成物が、追加の抗凝固剤を含まない、請求項45~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
有効量のNAPc2を細胞に投与する工程を含む、細胞における抗リン脂質抗体誘発性シグナル伝達を阻害するための方法。
【請求項61】
有効量のNAPc2/プロリンを細胞に投与する工程を含む、細胞における抗リン脂質抗体誘発性シグナル伝達を阻害するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月9日に出願された米国仮出願第63/208,929号の優先権およびその恩典を主張するものであり、その内容はその全体が本出願に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。2021年6月8日に作成された当該ASCIIコピーは、ARCAP0067WO_Sequence_Listing.txtと名付けられ、サイズが1,943バイトである。
【0003】
I. 発明の分野
本発明の局面は、少なくとも免疫学、血液学、および医学の分野に関するものである。
【背景技術】
【0004】
II. 背景
脂質反応性抗体は感染症において一過性に出現するが、持続性の自己免疫性抗リン脂質抗体(aPL)のクローン進化は、重篤な血栓塞栓性および微小血管障害性合併症、妊娠合併症(pregnancy morbidity)、ならびに胎児消失(流産)を特徴とする抗リン脂質症候群(APS)を引き起こす。全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は慢性の自己免疫疾患であり、抗リン脂質抗体や抗dsDNA抗体などの自己反応性自己抗体の存在を特徴とする。
【0005】
本明細書においては、全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質症候群を含む、自己免疫状態または炎症状態を有する対象を治療するための方法および組成物の必要性が認識される。
【発明の概要】
【0006】
概要
本開示は、自己免疫状態もしくは炎症状態を治療または予防するための方法および組成物を提供することによって、特定のニーズを満たすものである。したがって、本開示の局面では、自己免疫状態または炎症状態、例えば全身性エリテマトーデスまたは抗リン脂質症候群、について対象を治療するための方法および組成物が提供される。特定の局面では、NAPc2またはNAPc2/プロリンを含む組成物、ならびに全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質症候群を含む、自己免疫状態および炎症状態の治療におけるこのような組成物の使用方法が開示される。
【0007】
本開示の態様には、自己免疫状態または炎症状態を有する対象を治療する方法、全身性エリテマトーデスについて対象を治療する方法、抗リン脂質症候群について対象を治療する方法、抗炎症治療の有効性を評価する方法、薬学的組成物、ポリヌクレオチド、および核酸が含まれる。本開示の方法は、以下の工程の少なくとも1つ、2つ、3つ、またはそれ以上を含むことができる:自己免疫状態または炎症状態について対象を診断する工程;対象における自己免疫状態または炎症状態の1つまたは複数の症状を測定する工程;対象由来の生物学的サンプル中の抗リン脂質抗体を検出する工程;対象由来の生物学的サンプル中の抗カルジオリピン抗体を検出する工程;NAPc2を対象に投与する工程;NAPc2変異体を対象に投与する工程;rNAPc2を対象に投与する工程;抗炎症剤を対象に投与する工程;抗凝固剤を対象に投与する工程;および凝固因子を対象に投与する工程。具体的には、前述の工程の1つまたは複数を特定の態様において省略することができると考えられる。
【0008】
本明細書では、いくつかの態様において、自己免疫状態または炎症状態について対象を治療するための方法が開示され、この方法は、治療有効量の、線虫抗凝固タンパク質c2(nematode anticoagulant protein c2:NAPc2)またはNAPc2/プロリンを含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む。いくつかの態様では、薬学的組成物はNAPc2を含む。いくつかの態様では、薬学的組成物はNAPc2/プロリンを含む。薬学的組成物は1つまたは複数の追加の治療薬を含み得る。いくつかの態様では、前記方法は、追加の抗炎症剤を対象に投与する工程をさらに含む。いくつかの態様では、追加の抗炎症剤は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。いくつかの態様では、薬学的組成物は、追加の治療薬を含まない。薬学的組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される添加剤を含み得る。
【0009】
いくつかの態様では、対象は自己免疫状態または炎症状態と診断されていた。対象は、当技術分野で知られた任意の手段によって、自己免疫状態または炎症状態と診断され得るか、診断されている。いくつかの態様では、対象は、自己免疫状態または炎症状態の1つまたは複数の症状を有すると決定された。自己免疫状態または炎症状態の症状は、例えば、倦怠感、皮膚病変、発疹、発熱、血栓症(例:静脈血栓症、肺塞栓症)、血小板減少症、高血圧、腎不全、または反復流産であり得る。これらの症状の1つまたは複数が、本開示の態様から除外されてもよい。いくつかの態様では、薬学的組成物は、症状の発生後に対象に投与される。いくつかの態様では、対象は自己免疫状態または炎症状態と診断されなかった。いくつかの態様では、薬学的組成物は、自己免疫状態または炎症状態の症状の発生前に投与される。例えば、薬学的組成物は、自己免疫状態もしくは炎症状態を有するまたは発症するリスクのある対象に投与され得る。いくつかの態様では、対象は抗リン脂質抗体を有すると決定された。いくつかの態様では、前記方法は、対象における抗リン脂質抗体の存在を検出する工程をさらに含む。
【0010】
いくつかの態様では、対象は、以前の治療(例:以前の抗炎症剤)により、自己免疫状態または炎症状態について以前に治療されていた。いくつかの態様では、対象は以前の治療に対して耐性であると決定された。いくつかの態様では、対象は、自己免疫状態または炎症状態について以前に治療されていなかった。いくつかの態様では、対象は、NAPc2またはNAPc2/プロリンを1、2、3、4、5、6、7、またはそれ以上の追加の治療薬(例:抗炎症剤、抗凝固剤など)と共に含む薬学的組成物で治療される。
【0011】
いくつかの態様では、薬学的組成物は皮下注射を介して投与される。いくつかの態様では、薬学的組成物は静脈内注入を介して投与される。いくつかの態様では、薬学的組成物は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、13、または14日おきに対象に投与される。いくつかの態様では、薬学的組成物は1日おきに対象に投与される。いくつかの態様では、薬学的組成物は、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、および/または14日目に投与される。いくつかの態様では、薬学的組成物は、1日目、3日目、および5日目に投与される。
【0012】
いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンは、少なくとも、多くとも、または約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、もしくは15.0μg/kgの用量で対象に投与される。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンは、5μg/kg~10μg/kgの用量で投与される。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンは、約10μg/kgの用量で投与される。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンは、約7.5μg/kgの用量で投与される。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンは、約5μg/kgの用量で投与される。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンは、1日目、3日目、および5日目に投与される。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンは、1日目に約7.5μg/kg、3日目に約5μg/kg、5日目に約5μg/kgの用量で投与される。
【0013】
いくつかの態様では、前記方法は、追加の抗凝固剤を対象に投与する工程をさらに含む。いくつかの態様では、追加の抗凝固剤は、VKORC1阻害剤、トロンビン阻害剤、または第Xa因子阻害剤である。いくつかの態様では、追加の抗凝固剤は、ワルファリン、ヘパリンもしくはその合成アナログ、リバーロキサバン、ダビガトラン、アピキサバン、またはエドキサバンである。前記方法は、1、2、3、4、5、またはそれ以上の追加の抗凝固剤を投与する工程を含み得る。
【0014】
いくつかの態様では、前記方法は、追加の抗凝固剤を対象に投与する工程を含まない。例えば、いくつかの態様では、該方法は、VKORC1阻害剤、トロンビン阻害剤、または第Xa因子阻害剤を投与する工程を含まない。いくつかの態様では、該方法は、ワルファリン、ヘパリンもしくはその合成アナログ、リバーロキサバン、ダビガトラン、アピキサバン、またはエドキサバンを投与する工程を含まない。
【0015】
また、本明細書では、いくつかの態様において、抗リン脂質症候群について対象を治療するための方法が開示され、この方法は、治療有効量の、線虫抗凝固タンパク質c2(NAPc2)またはNAPc2/プロリンを含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む。さらに、いくつかの態様では、全身性エリテマトーデスについて対象を治療するための方法が開示され、この方法は、治療有効量の、線虫抗凝固タンパク質c2(NAPc2)またはNAPc2/プロリンを含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む。いくつかの態様では、薬学的組成物はNAPc2を含む。いくつかの態様では、薬学的組成物はNAPc2/プロリンを含む。いくつかの態様では、該方法は、薬学的組成物を投与する工程の前に、対象由来の生物学的サンプル中の抗リン脂質抗体の存在を検出する工程をさらに含む。抗リン脂質抗体は、当技術分野で知られた任意の方法によって、生物学的サンプルから検出され得る。いくつかの態様では、抗リン脂質抗体を検出する工程は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を含む。
【0016】
本出願を通じて、「約」という用語は、ある値が測定法または定量法に固有の誤差の変動を含むことを示すために使用される。
【0017】
用語「含む」(comprising)と共に使用される場合の「a」または「an」という語の使用は、「1つ」を意味し得るが、それは「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、「1つまたは2つ以上」という意味とも合致する。
【0018】
「および/または」という語句は、「および」もしくは「または」を意味する。例示すると、A、B、および/またはCには、以下のものが含まれる:A単独、B単独、C単独、AとBの組み合わせ、AとCの組み合わせ、BとCの組み合わせ、またはAとBとCの組み合わせ。言い換えれば、「および/または」は、インクルーシブオア(inclusive or)として機能する。
【0019】
「含むこと(comprising)」(および「含む(comprise)」、「含む(comprises)」などの含むこと(comprising)の任意の形)、「有すること(having)」(および「有する(have)」、「有する(has)」などの有すること(having)の任意の形)、「含むこと(including)」(および「含む(includes)」、「含む(include)」などの含むこと(including)の任意の形)、または「含むこと(containing)」(および「含む(contains)」、「含む(contain)」などの含むこと(containing)の任意の形)という語は、包括的またはオープンエンドであり、記載されていない追加の要素または方法の工程を除外しない。
【0020】
組成物およびその使用方法は、本明細書全体を通じて開示された成分または工程のいずれか「を含む」(comprise)、「から本質的になる」(consist essentially of)、または「からなる」(consist of)ことができる。開示された成分または工程のいずれか「から本質的になる」組成物および方法は、特許請求された発明の基本的かつ新規な特徴に実質的な影響を与えない特定の材料または工程に、特許請求の範囲を限定する。用語「含む」という状況下で本明細書に記載された態様は、用語「からなる」または「から本質的になる」という状況下でも実施され得ると考えられる。
【0021】
治療上、診断上、または生理学上の目的もしくは効果という状況下での方法はどれも、記載された治療上、診断上、生理学上の目的もしくは効果を達成または実施するための、本明細書で論じられた任意の化合物、組成物、または薬剤「の使用」のような、「使用」クレーム文言でも記載することができる。
【0022】
具体的には、本発明の一態様に関して論じられた限定は、本発明の他の態様にも適用し得ると考えられる。さらに、本発明の組成物は、本発明の方法において使用することができ、また、本発明の方法は、本発明の組成物を調製または利用するために使用することができる。本開示の一局面に関して論じられた態様は、本開示の他の局面にも適用され、その逆もまた同様である。例えば、本明細書に記載された方法の工程は、他の方法にも適用することができる。さらに、本明細書に記載された方法は、任意の工程または工程の組み合わせを除外し得る。実施例に記載された態様の局面は、別の実施例の他の箇所で、または「概要」、「詳細な説明」、「特許請求の範囲」、「図面の簡単な説明」などの本出願の他の箇所で論じられた態様の状況下において実施され得る態様でもある。
【0023】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の特定の態様を示すものであって、例示のためにのみ与えられており、本発明の精神および範囲内での様々な変更および修正がこの詳細な説明から当業者には明らかになることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下の図面は、本明細書の一部を構成し、本発明の特定の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書に提示された具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の1つまたは複数を参照することによって、より良く理解することができる。
【
図1】aPL HL5Bにより誘発される単球系MM1細胞の活性化と、rNAPc2および抗TF抗体10H10による阻害の次世代シーケンシング解析の結果を示す。
【
図2】MRL/lprマウスのrNAPc2処置がaPL力価に及ぼす効果を示す。11週齢で開始して、マウスを1日おきに0.5mg/kgで処置した;
***P<0.001;
****P<0.0001。
【
図3】MRL/lprマウスのrNAPc2処置が抗カルジオリピン(
図3A)およびβ2GPI(
図3B)力価に及ぼす効果を示す。11週齢で開始して、マウスを1日おきに0.5mg/kgで処置した;
**P<0.01;
****P<0.0001。
【
図4】
図4Aは、rNAPc2処置がMRL/lprマウスにおいて蛍光標識リン脂質と反応する循環B細胞に及ぼす効果を示す。細胞を非標識競合剤sEPCR/PC、sEPCR/LBPA、またはβ2GPIの存在下で染色した。
図4Bは、sEPCR-PCまたはsEPCR-LBPAの存在下または非存在下に蛍光標識β2GPIでB細胞を染色した結果を示す。
【
図5】11週齢で開始して偽処置またはrNAPc2処置を施したMRL/lprマウスにおけるアルブミン尿の解析結果を示す。
【
図6】[1]に記載されるような、半定量的スコアリングによる糸球体および尿細管の組織像の評価を示す。生理食塩水に対してrNAPc2で処置した2つのコホートからのプールされたデータを示す;
****P<0.0001。
【
図7】[1]に記載されるような、マクロファージ、T細胞、およびB細胞について染色した切片上でのスコアリングされた腎免疫細胞浸潤の評価を示す。生理食塩水に対してrNAPc2で処置した2つのコホートからのプールされたデータを示す;
*P<0.05;
**P<0.01。
【
図8A】ループス(lupus)になりやすいマウスにおいて、ヘパリン療法に対してNAPc2処置がaPLの発生に及ぼす効果を示す。
図8Aおよび8Bは、示したとおりに処置したマウスから得られた血清サンプルのカルジオリピンまたはβ2GPIとの抗体反応性を示す。
図8Cおよび8Dは、過剰のβ2GPI、sEPCR、またはsEPCR-LBPAの非存在下または存在下でのリン脂質またはβ2GPI反応性についての末梢血B細胞の染色を示す。CD19陽性細胞の割合が示される。
【
図9A】NAPc2阻害の存在下および非存在下に、血漿中で、β2GPIと交差反応するaPL HL5BまたはHL7Gにより刺激された単球系MM1細胞の次世代シーケンシング解析の結果を示す。
図9Aは、HL5刺激により誘導された、異なって調節された転写産物のヒートマップを示す。
図9Bは、NAPc2の存在下でaPL HL5B刺激細胞においてなおも誘導された転写産物を示す。
図9Cは、NAPc2の存在下でaPL HL7G刺激細胞においてなおも誘導された転写産物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
本開示は、NAPc2が抗リン脂質(aPL)による単球の炎症誘発活性化を消失させ、全身性エリテマトーデス(SLE)のマウスモデルにおいてカルジオリピン反応性およびβ2グリコプロテインI反応性の自己抗体の増加を抑制し、かつ前臨床SLEモデルにおいて腎臓病を予防する、という発見に少なくとも部分的に基づいている。かくして、本明細書に開示されるように、NAPc2はTF依存性血栓症の阻害剤として作用するだけでなく、自己免疫疾患における病原性自己抗体の発生と臓器病理をも予防する。したがって、本開示の局面は、NAPc2またはその変異体(例:NAPc2/プロリン)を対象に投与する工程を含む、全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質症候群などの、自己免疫状態または炎症状態について対象を治療するための方法に向けられる。
【0026】
I. タンパク質
本明細書で使用する「タンパク質」または「ポリペプチド」とは、少なくとも4個のアミノ酸残基を含む分子を指す。本明細書で使用する用語「野生型」とは、生物内に存在する天然分子の内因性バージョンを指す。いくつかの態様では、タンパク質またはポリペプチドの野生型バージョンが使用されるが、本開示の多くの態様では、免疫応答を生じさせるために、修飾されたタンパク質またはポリペプチドが使用される。上記の用語は相互交換可能に使用することができる。「修飾タンパク質」または「修飾ポリペプチド」、つまり「変異体」は、その化学構造、特にそのアミノ酸配列が、野生型タンパク質またはポリペプチドに対して改変されているタンパク質またはポリペプチドを指す。いくつかの態様では、修飾/変異タンパク質またはポリペプチドは、少なくとも1つの改変された活性または機能を有する(タンパク質またはポリペプチドは複数の活性または機能を有し得るという認識である)。具体的には、修飾/変異タンパク質またはポリペプチドは、1つの活性または機能に関して改変され得るが、免疫原性などの他の点では野生型の活性または機能を保持し得ると考えられる。
【0027】
本明細書中でタンパク質が具体的に言及されている場合、それは一般に、天然(野生型)もしくは組換えタンパク質、または任意で、シグナル配列が除去されたタンパク質への言及である。タンパク質は、それがもともと存在する生物から直接単離されるか、組換えDNA/外因的発現法によって産生されるか、固相ペプチド合成(SPPS)または他のインビトロ法によって製造され得る。特定の態様では、ポリペプチドをコードする単離された核酸セグメント、およびポリペプチドをコードする核酸配列を組み込んだ組換えベクターが存在する。「組換え」という用語は、ポリペプチドまたは特定のポリペプチドの名前と組み合わせて使用することができ、これは一般に、インビトロで操作された核酸分子から、またはそのような分子の複製産物である核酸分子から生成されたポリペプチドを指す。
【0028】
特定の態様では、タンパク質またはポリペプチド(野生型または修飾型)のサイズは、限定するものではないが、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1750、2000、2250、2500個のアミノ酸残基もしくはそれ以上、およびそこから導出可能な任意の範囲、または本明細書に記載もしくは言及される対応するアミノ配列の誘導体を含むことができる。ポリペプチドは、トランケーションによって変異させて、対応する野生型よりも短くすることができ、また、特定の機能(例えば、標的化または局在化、免疫原性の増強、精製目的などに向けた機能)を有する異種タンパク質もしくはポリペプチド配列と融合またはコンジュゲートすることによって改変することができると考えられる。本明細書で使用する「ドメイン」という用語は、タンパク質またはポリペプチドの明確に区別される機能的または構造的単位を指し、一般に、当業者によって認識される構造または機能を有するアミノ酸の配列を指す。
【0029】
本開示のポリペプチドは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、もしくは50個(またはそこから導出可能な任意の範囲)またはそれ以上の変異アミノ酸を含むことができ、あるいはSEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2の少なくとも、または多くとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84個もしくはそれ以上連続するアミノ酸または核酸(またはそこから導出可能な任意の範囲)と少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%(またはそこから導出可能な任意の範囲)類似するか、同一であるか、または相同であり得る。本開示のポリヌクレオチドは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、もしくは50個(またはそこから導出可能な任意の範囲)またはそれ以上の変異アミノ酸を有する配列をコードすることができ、あるいはSEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2の少なくとも、または多くとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84個もしくはそれ以上連続するアミノ酸または核酸(またはそこから導出可能な任意の範囲)と少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%(またはそこから導出可能な任意の範囲)類似するか、同一であるか、または相同である配列をコードすることができる。
【0030】
いくつかの態様では、タンパク質またはポリペプチドは、SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2のアミノ酸1から2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、もしくは85まで(またはそこから導出可能な任意の範囲)を含み得る。
【0031】
いくつかの態様では、タンパク質またはポリペプチドは、SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、もしくは85個(またはそこから導出可能な任意の範囲)連続するアミノ酸を含み得る。
【0032】
いくつかの態様では、ポリペプチドまたはタンパク質は、SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2の1つと少なくとも、多くとも、または正確に60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%(またはそこから導出可能な任意の範囲)類似するか、同一であるか、または相同であるSEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2の少なくとも、多くとも、または正確に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、もしくは85個(またはそこから導出可能な任意の範囲)連続するアミノ酸を含み得る。
【0033】
いくつかの局面では、SEQ ID NO:2および/またはSEQ ID NO:3の位置1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、または83で始まり、かつSEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:2の少なくとも、多くとも、または正確に2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、もしくは85個(またはそこから導出可能な任意の範囲)連続するアミノ酸またはヌクレオチドを含むポリペプチドが存在する。
【0034】
様々な遺伝子のヌクレオチド配列ならびにタンパク質、ポリペプチド、およびペプチド配列は以前に開示されており、広く認められているコンピュータ化されたデータベース中に見い出すことができる。2つの一般的に使用されているデータベースは、National Center for Biotechnology InformationのGenbankおよびGenPeptデータベース(World Wide Webではncbi.nlm.nih.gov/)とUniversal Protein Resource(UniProt;World Wide Webではuniprot.org)である。これらの遺伝子のコード領域は、本明細書に開示された技術、または当業者に知られるような技術を用いて、増幅および/または発現させることができる。
【0035】
A. 変異型ポリペプチド
以下は、タンパク質のアミノ酸サブユニットを変化させて、同等の、またはなお一層改良された次世代の変異型ポリペプチドもしくはペプチドを作成することについての考察である。例えば、タンパク質またはポリペプチド配列において、特定のアミノ酸は、例えば基質分子上の結合部位などの構造との相互作用的結合能力のかなりの低下を伴ってまたは伴わずに、他のアミノ酸に置き換えることができる。タンパク質の機能的活性を定義するのはタンパク質の相互作用的能力および性質であるため、タンパク質配列およびその対応するDNAコード配列において特定のアミノ酸置換を行って、それでもなお、同様のまたは望ましい特性を備えたタンパク質を生成することができる。それゆえ、本明細書では、タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列において、その生物学的有用性または活性を著しく損なうことなく、様々な変更を加えることができると考えられる。
【0036】
本明細書で使用する「機能的に等価なコドン」という用語は、アルギニンに対する6つの異なるコドンのように、同じアミノ酸をコードするコドンを指す。また、生物学的に等価なアミノ酸をコードするコドンの変更を指す「中立的置換」(neutral substitution)または「中立的変異」(neutral mutation)も考慮される。
【0037】
本開示のアミノ酸配列変異体は、置換変異体、挿入変異体、または欠失変異体であり得る。本開示のポリペプチドにおける変異は、野生型と比較して、タンパク質またはポリペプチドの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50個、またはそれ以上連続しないまたは連続するアミノ酸に影響を及ぼし得る。変異体は、本明細書中で提供または言及される配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%(その間の全ての値および範囲を含む)同一であるアミノ酸配列を含むことができる。変異体は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個、またはそれ以上の置換アミノ酸を含むことができる。
【0038】
また、アミノ酸配列および核酸配列は、それぞれ、追加のN末端もしくはC末端アミノ酸、または5'もしくは3'配列などの、追加の残基を含むことができるが、それでもなお、タンパク質発現が関係する生物学的タンパク質活性の維持を含めて、上記の基準を満たす限り、本明細書に開示される配列の1つに示されたものと本質的に同一であることが理解されよう。末端配列の付加は特に核酸配列に適用され、例えば、核酸配列はコード領域の5'または3'部分に隣接する様々な非コード配列を含むことができる。
【0039】
欠失変異体は通常、天然または野生型タンパク質の1つまたは複数の残基を欠いている。個々の残基を欠失させることも、いくつか連続するアミノ酸を欠失させることもできる。コードする核酸配列に(置換または挿入によって)停止コドンを導入して、トランケートされたタンパク質を生成することが可能である。
【0040】
挿入変異体は通常、ポリペプチドの非末端位置にアミノ酸残基を付加することを含む。これには、1つまたは複数のアミノ酸残基の挿入が含まれる。末端付加体を生成することも可能であり、末端付加体には、本明細書に記載または言及される1つまたは複数のペプチドもしくはポリペプチドの多量体またはコンカテマーである融合タンパク質が含まれ得る。
【0041】
置換変異体は通常、タンパク質またはポリペプチド内の1つまたは複数の部位で、1つのアミノ酸を別のアミノ酸と交換することを含み、他の機能または特性の損失の有無にかかわらず、ポリペプチドの1つまたは複数の特性を調節するように設計され得る。置換は保存的であってよく、つまり、あるアミノ酸が化学的性質の類似したものに置き換えられる。「保存的アミノ酸置換」は、あるアミノ酸クラスのメンバーを、同じクラスの別のメンバーと交換することを含み得る。保存的置換は当技術分野でよく知られており、例えば、以下の変更が含まれる:アラニンからセリン;アルギニンからリジン;アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジン;アスパラギン酸からグルタミン酸;システインからセリン;グルタミンからアスパラギン;グルタミン酸からアスパラギン酸;グリシンからプロリン;ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミン;イソロイシンからロイシンまたはバリン;ロイシンからバリンまたはイソロイシン;リジンからアルギニン;メチオニンからロイシンまたはイソロイシン;フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニン;セリンからスレオニン;スレオニンからセリン;トリプトファンからチロシン;チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニン;およびバリンからイソロイシンまたはロイシンへの変更。保守的アミノ酸置換は、天然に存在しないアミノ酸残基を含んでもよく、そうしたアミノ酸は通常、生物系での合成によるのではなく、化学的ペプチド合成により組み込まれる。これらには、ペプチドミメティック、またはアミノ酸部分の他の逆転もしくは反転形態が含まれる。
【0042】
あるいは、置換は、ポリペプチドの機能または活性が影響を受けるような、「非保存的」であってもよい。非保存的変更には通常、あるアミノ酸残基を化学的に類似しないものと置き換えること、例えば、極性または荷電アミノ酸を非極性または非荷電アミノ酸と置き換えること、およびその逆が含まれる。非保存的置換は、あるアミノ酸クラスのメンバーを別のクラスのメンバーと交換することを含み得る。
【0043】
B. 線虫から抽出された抗凝固タンパク質およびNAPc2
本開示の局面は、1つまたは複数の線虫抽出抗凝固タンパク質(Nematode-extracted Anticoagulant Protein:NAP)を含む組成物およびその使用方法に向けられる。いくつかの態様では、1つまたは複数のNAPを含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む治療方法が開示される。いくつかの態様では、本開示のNAPは、米国特許第5,866,542号(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載されたNAPのうちの1つまたは複数である。いくつかの態様では、開示された方法および組成物は、NAPc2を含む。いくつかの態様では、開示された方法および組成物は、NAPc2/プロリンを含む。
【0044】
本明細書で使用する場合、NAPc2(SEQ ID NO:1)は、一本鎖の非グリコシル化85アミノ酸タンパク質(MW=9732Da)を表す。「rNAPc2」は、組換えNAPc2タンパク質を表す。理論によって拘束されることを望まないが、rNAPc2は、TF:第VIIa因子(FVIIa)複合体の活性を阻害すると理解されており、この複合体は、チモーゲンFXへの結合後に四元複合体(quaternary complex)の形成を介して、凝固におけるTF経路と、他の重要な経路を開始するものである。また、本明細書にはrNAPc2の変異体も開示される。いくつかの態様では、開示された治療用組成物は、NAPc2(SEQ ID NO:1)またはNAPc2/プロリン(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも、または多くとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、または99.9%の配列同一性(またはそこから導出可能な任意の範囲もしくは値)を有するタンパク質を含む。いくつかの態様では、NAPc2/プロリンを含む組成物が開示される。「NAPc2/プロリン」(SEQ ID NO:2)は、NAPc2の配列のC末端にプロリン残基を付加するように改変されたNAPc2の変異体を指す。
【0045】
【0046】
II. 自己免疫状態および炎症状態
本開示の局面は、自己免疫状態または炎症状態を治療するための方法に向けられる。本明細書で使用する場合、「自己免疫疾患」、「自己免疫状態」および「炎症状態」という用語は、相互交換可能に使用される。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンを対象に投与する工程を含む、自己免疫状態または炎症状態の治療方法が開示される。
【0047】
治療に適している自己免疫状態または炎症状態には、限定するものではないが、以下のような状態が含まれ得る:糖尿病(例:1型糖尿病)、移植片拒絶反応、関節炎(関節リウマチ、例えば、急性関節炎、慢性関節リウマチ、痛風または痛風性関節炎、急性痛風性関節炎、急性免疫性関節炎、慢性炎症性関節炎、変性関節炎、II型コラーゲン誘発性関節炎、感染性関節炎、ライム関節炎、増殖性関節炎、乾癬性関節炎、スティル病、脊椎関節炎、全身型若年発症関節リウマチ、変形性関節症、慢性進行性関節炎、変形性関節炎、慢性原発性多発性関節炎、反応性関節炎、および強直性脊椎炎など)、炎症性過増殖性皮膚疾患、乾癬(尋常性乾癬、滴状乾癬、膿疱性乾癬、および爪の乾癬など)、アトピー(花粉症やヨブ症候群などのアトピー性疾患を含む)、皮膚炎(接触皮膚炎、慢性接触皮膚炎、剥脱性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、疱疹性皮膚炎、貨幣状皮膚炎、脂漏性皮膚炎、非特異的皮膚炎、一次刺激性接触皮膚炎、およびアトピー性皮膚炎を含む)、x連鎖型高IgM症候群、アレルギー性眼内炎症性疾患、蕁麻疹(慢性アレルギー性蕁麻疹および慢性特発性蕁麻疹など、慢性自己免疫蕁麻疹を含む)、筋炎、多発性筋炎/皮膚筋炎、若年性皮膚筋炎、中毒性表皮壊死症、強皮症(全身性強皮症を含む)、硬化症(全身性硬化症、多発性硬化症(MS)、例えば脊髄視覚型(spino-optical)MS、原発性進行性MS(PPMS)、および再発寛解型MS(RRMS)など、進行性全身性硬化症、アテローム性硬化症、動脈硬化症、散在性硬化症、運動失調性硬化症など)、視神経脊髄炎(NMO)、炎症性腸疾患(IBD)(例えば、クローン病、自己免疫介在性胃腸疾患、潰瘍性大腸炎、顕微鏡的大腸炎、膠原線維性大腸炎、ポリープ状大腸炎(colitis polyposa)、壊死性腸炎、および全層性大腸炎(transmural colitis)などの大腸炎、ならびに自己免疫性炎症性腸疾患)、腸炎、壊疽性膿皮症、結節性紅斑、原発性硬化性胆管炎、呼吸窮迫症候群(成人または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む)、髄膜炎、ブドウ膜の全部または一部の炎症、虹彩炎、脈絡膜炎、自己免疫性血液障害、リウマチ様脊椎炎、リウマチ様滑膜炎、遺伝性血管性浮腫、髄膜炎のような脳神経損傷、妊娠性疱疹、妊娠性類天疱瘡、陰嚢掻痒症、自己免疫性早発卵巣不全、自己免疫状態による突発性難聴、IgE介在性疾患(アナフィラキシー、アレルギー性およびアトピー性鼻炎など)、脳炎(ラスムッセン脳炎、辺縁系および/または脳幹脳炎など)、ブドウ膜炎(前部ブドウ膜炎、急性前部ブドウ膜炎、肉芽腫性ブドウ膜炎、非肉芽腫性ブドウ膜炎、水晶体抗原性ブドウ膜炎(phacoantigenic uveitis)、後部ブドウ膜炎、または自己免疫性ブドウ膜炎など)、ネフローゼ症候群を伴うおよび伴わない糸球体腎炎(GN)、例えば慢性または急性糸球体腎炎(一次性GN、免疫介在性GN、膜性GN(膜性腎症)、特発性膜性GNまたは特発性膜性腎症、I型およびII型を含む膜性増殖性GN(MPGN)、および急速進行性GN、増殖性腎炎など)、自己免疫性多腺性内分泌不全、亀頭炎(形質細胞性亀頭包皮炎、亀頭包皮炎を含む)、遠心性環状紅斑、色素異常性固定紅斑、多形紅斑、環状肉芽腫、光沢苔癬、硬化性萎縮性苔癬、慢性単純性苔癬、棘状苔癬、扁平苔癬、葉状魚鱗癬、魚鱗癬様紅皮症、前がん性角化症、壊疽性膿皮症、アレルギー状態および応答、アレルギー反応、湿疹(アレルギー性またはアトピー性湿疹、皮脂欠乏性湿疹、異汗性湿疹、および小水疱性掌蹠湿疹を含む)、喘息(気管支喘息、自己免疫性喘息など)、T細胞の浸潤と慢性炎症反応を伴う状態、妊娠中の胎児A-B-O血液型などの外来抗原に対する免疫反応、慢性肺炎症性疾患、自己免疫性心筋炎、白血球接着不全症、ループス(ループス腎炎、ループス脳炎、小児ループス、非腎性ループス、腎外ループス、円板状ループスおよび円板状エリテマトーデス、ループス脱毛症、全身性エリテマトーデス(SLE)(皮膚SLEまたは亜急性皮膚SLEなど)、新生児ループス症候群(NLE)、播種状エリテマトーデスを含む)、若年発症(I型)糖尿病(小児インスリン依存性糖尿病(IDDM)を含む)、ならびに成人発症糖尿病(II型糖尿病)および自己免疫性糖尿病。
【0048】
本明細書で企図される追加の自己免疫状態および炎症状態としては、以下が挙げられる:サルコイドーシス、肉芽腫症(リンパ腫様肉芽腫症、ウェゲナー肉芽腫症を含む)、顆粒球減少症、血管炎、大型血管炎(リウマチ性多発筋痛症および巨細胞性(高安)動脈炎を含む)、中型血管炎(川崎病および結節性多発動脈炎/結節性動脈周囲炎を含む)、顕微鏡的多発動脈炎、免疫血管炎、CNS血管炎、皮膚血管炎、過敏性血管炎、全身性壊死性血管炎などの壊死性血管炎、およびANCA関連血管炎(チャーグ・ストラウス血管炎または症候群(CSS)およびANCA関連小型血管炎など)、側頭動脈炎、再生不良性貧血、自己免疫性再生不良性貧血、クームス(Coombs)陽性貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血、溶血性貧血または免疫性溶血性貧血(自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を含む)、アジソン病、自己免疫性好中球減少症、汎血球減少症、白血球減少症、白血球漏出を伴う疾患、CNS炎症性障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、多臓器損傷症候群(敗血症、外傷または出血に続発するものなど)、抗原抗体複合体介在性疾患、抗糸球体基底膜病、抗リン脂質症候群(「抗リン脂質抗体症候群」ともいう)、アレルギー性神経炎、ベーチェット病/症候群、キャッスルマン症候群、グッドパスチャー症候群、レイノー症候群、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、類天疱瘡(水疱性類天疱瘡および皮膚類天疱瘡など)、天疱瘡(尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、粘膜天疱瘡、および紅斑性天疱瘡を含む)、自己免疫性多内分泌腺症候群、ライター病または症候群、熱傷、妊娠高血圧腎症、免疫複合体性疾患(免疫複合体性腎炎など)、抗体介在性腎炎、多発性神経障害、慢性神経障害(IgM多発神経炎またはIgM介在性神経炎など)、自己免疫性または免疫介在性血小板減少症(慢性または急性の特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を含むITPなど)、強膜炎(特発性角膜強膜炎、上強膜炎など)、精巣および卵巣の自己免疫疾患(自己免疫性精巣炎および卵巣炎を含む)、原発性甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症、自己免疫性内分泌腺病(自己免疫性甲状腺炎などの甲状腺炎を含む)、橋本病、慢性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、または亜急性甲状腺炎、自己免疫性甲状腺疾患、特発性甲状腺機能低下症、グレーブス病、多内分泌腺症候群、例えば自己免疫性多内分泌腺症候群(または多腺性内分泌症候群)、傍腫瘍性症候群(ランバート・イートン筋無力症候群またはイートン・ランバート症候群などの傍腫瘍性神経症候群を含む)、スティッフマン症候群またはスティッフパーソン症候群、脳脊髄炎(アレルギー性脳脊髄炎、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)、実験的自己免疫性脳脊髄炎など)、重症筋無力症(胸腺腫関連重症筋無力症など)、小脳変性症、神経筋強直症、オプソクローヌスまたはオプソクローヌス・ミオクローヌス症候群(OMS)、および感覚性神経障害、多巣性運動神経障害、シーハン症候群、自己免疫性肝炎、慢性肝炎、ルポイド肝炎、巨細胞性肝炎、慢性活動性肝炎または自己免疫性慢性活動性肝炎、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、閉塞性細気管支炎(非移植)およびNSIP(非特異性間質性肺炎)、ギラン・バレー症候群、バーガー病(IgA腎症)、特発性IgA腎症、線状IgA皮膚症、急性熱性好中球性皮膚症、角層下膿疱性皮膚症、一過性棘融解性皮膚症、肝硬変(原発性胆汁性肝硬変および肺硬変(pneumonocirrhosis)など)、自己免疫性腸症候群、セリアック病、セリアックスプルー(グルテン腸症)、難治性スプルー、特発性スプルー、クリオグロブリン血症、筋萎縮性側索硬化症(ALS;ルー・ゲーリッグ病)、冠動脈疾患、自己免疫性耳疾患(自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性難聴など)、多発性軟骨炎(難治性または再発型もしくは再発性の多発性軟骨炎など)、肺胞蛋白症、コーガン症候群/非梅毒性間質性角膜炎、ベル麻痺、スウィート病/症候群、自己免疫性酒さ、帯状疱疹関連痛、アミロイドーシス、非がん性リンパ球増加症、原発性リンパ球増加症(単クローン性B細胞リンパ球増加症(例:良性単クローン性免疫グロブリン血症、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症、MGUS)を含む)、末梢神経障害、傍腫瘍性神経症候群、チャネロパチー(てんかん、片頭痛、不整脈、筋障害、難聴、失明、周期性四肢麻痺、およびCNSのチャネロパチーなど)、自閉症、炎症性ミオパチー、巣状または分節性または巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、内分泌性眼障害、ブドウ膜網膜炎、脈絡網膜炎、自己免疫性肝臓障害、線維筋痛症、多発性内分泌不全、シュミット症候群、副腎炎、胃の萎縮症、初老期認知症、脱髄疾患(自己免疫性脱髄疾患および慢性炎症性脱髄性多発性神経炎など)、ドレスラー症候群、円形脱毛症、完全脱毛症、クレスト(CREST)症候群(皮下石灰沈着、レイノー現象、食道蠕動低下、指の皮膚硬化、および毛細血管拡張)、男性および女性の自己免疫性不妊症(例えば抗精子抗体による)、混合性結合組織病、シャーガス病、リウマチ熱、反復流産、農夫肺、多形紅斑、心切開術後症候群、クッシング症候群、愛鳥家肺、アレルギー性肉芽腫性血管炎、良性リンパ球性血管炎、アルポート症候群、肺胞炎(アレルギー性肺胞炎および線維化性肺胞炎など)、間質性肺疾患、輸血の副作用、ハンセン病、マラリア、寄生虫疾患(リーシュマニア症、キパノソーマ症(kypanosomiasis)、住血吸虫症、回虫症など)、アスペルギルス症、サンプター症候群(Sampter's syndrome)、カプラン症候群、デング熱、心内膜炎、心内膜心筋線維症、びまん性間質性肺線維症、間質性肺線維症、肺線維症、特発性肺線維症、嚢胞性線維症、眼内炎、持久性隆起性紅斑、胎児赤芽球症、好酸球性筋膜炎、シュルマン症候群、フェルティ症候群、フィラリア症、毛様体炎(慢性毛様体炎、虹彩異色性毛様体炎、虹彩毛様体炎(急性または慢性)、またはフックス毛様体炎(Fuch's cyclitis)など)、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、SCID、後天性免疫不全症候群(AIDS)、エコーウイルス感染症、敗血症、内毒素血症、膵炎、甲状腺中毒症、パルボウイルス感染症、風疹ウイルス感染症、ワクチン接種後症候群、先天性風疹感染症、エプスタイン・バーウイルス感染症、流行性耳下腺炎、エヴァン症候群、自己免疫性性腺機能不全、シデナム舞踏病、溶連菌感染後腎炎、閉塞性血栓血管炎、甲状腺機能亢進症、脊髄癆、脈絡膜炎、巨細胞性多発筋痛症、慢性過敏性肺炎、乾燥性角結膜炎、流行性角結膜炎、特発性腎炎症候群、微小変化型腎症、良性家族性および虚血性再灌流障害、移植臓器再灌流障害、自己免疫網膜症、関節の炎症、気管支炎、慢性閉塞性気道/肺疾患、珪肺症、アフタ、アフタ性口内炎、動脈硬化性疾患、無精子症、自己免疫性溶血、ベック病、クリオグロブリン血症、デュプイトラン拘縮、水晶体過敏性眼内炎、アレルギー性腸炎、らい性結節性紅斑、特発性顔面麻痺、慢性疲労症候群、リウマチ熱、ハンマン・リッチ病、感音性難聴、発作性ヘモグロビン尿症、性腺機能低下症、限局性回腸炎、白血球減少症、伝染性単核球症、横断性脊髄炎、原発性特発性粘液水腫、ネフローゼ、交感性眼炎(ophthalmia symphatica)、肉芽腫性精巣炎、膵炎、急性多発性肉芽腫、壊疽性膿皮症、ケルバン甲状腺炎、後天性脾萎縮(acquired spenic atrophy)、非悪性胸腺腫、白斑、毒素性ショック症候群、食中毒、T細胞の浸潤を伴う病態、白血球接着不全、サイトカインとTリンパ球が介在する急性および遅延型過敏症に伴う免疫反応、白血球漏出を伴う疾患、多臓器障害症候群、抗原抗体複合体介在疾患、抗糸球体基底膜病、アレルギー性神経炎、自己免疫性多腺性内分泌障害、卵巣炎、原発性粘液水腫、自己免疫性萎縮性胃炎、交感性眼炎(sympathetic ophthalmia)、リウマチ性疾患、混合性結合組織病、ネフローゼ症候群、膵島炎、多内分泌腺不全、多腺性自己免疫症候群I型、成人発症型特発性副甲状腺機能低下症(AOIH)、心筋症(拡張型心筋症など)、後天性表皮水疱症(EBA)、ヘモクロマトーシス、心筋炎、ネフローゼ症候群、原発性硬化性胆管炎、化膿性または非化膿性副鼻腔炎、急性または慢性副鼻腔炎、篩骨洞炎、前頭洞炎、上顎洞炎、または蝶形骨洞炎、好酸球関連疾患(好酸球増加症、肺浸潤性好酸球増加症、好酸球増加・筋痛症候群、レフラー症候群、慢性好酸球性肺炎、熱帯性肺好酸球増加症、気管支肺アスペルギルス症、アスペルギルス腫、または好酸球を含む肉芽腫など)、アナフィラキシー、血清反応陰性脊椎関節炎、多腺性自己免疫疾患、硬化性胆管炎、強膜炎、上強膜炎、慢性皮膚粘膜カンジダ症、ブルトン症候群(Bruton's syndrome)、一過性乳児低ガンマグロブリン血症、ウィスコット・アルドリッチ症候群、毛細血管拡張性運動失調症候群、血管拡張症、膠原病に伴う自己免疫疾患、リウマチ、神経疾患、リンパ節炎、血圧反応の低下、血管機能不全、組織損傷、心血管虚血、痛覚過敏、腎虚血、脳虚血、および血管新生を伴う疾患、アレルギー性過敏症、糸球体腎炎、再灌流障害、虚血性再灌流障害、心筋または他の組織の再灌流障害、リンパ腫性気管気管支炎、炎症性皮膚疾患、急性炎症成分を伴う皮膚疾患、多臓器不全、水疱性疾患、腎皮質壊死症、急性化膿性髄膜炎または他の中枢神経系炎症性疾患、眼および眼窩の炎症性疾患、顆粒球輸血関連症候群、サイトカイン誘発毒性、ナルコレプシー、重篤な急性炎症、慢性難治性炎症、腎盂炎、動脈内膜増殖症、消化性潰瘍、弁膜症、移植片対宿主病、サイトカインストーム、接触過敏症、喘息性気道過敏反応、ならびに子宮内膜症。
【0049】
いくつかの態様では、自己免疫状態または炎症状態は、全身性エリテマトーデスである。いくつかの態様では、自己免疫状態または炎症状態は、抗リン脂質症候群(APS;「抗リン脂質症候群」ともいう)である。
【0050】
III. 自己免疫状態および炎症状態の治療
本開示の局面は、自己免疫状態または炎症状態、例えば全身性エリテマトーデスまたは抗リン脂質症候群などの、本明細書に開示される自己免疫状態または炎症状態を有する対象を治療するための方法に向けられる。いくつかの態様では、治療有効量のNAPc2またはその変異体(例:NAPc2/プロリン)を提供することを含む、自己免疫状態または炎症状態を有する対象の治療方法が開示される。
【0051】
本開示の特定の態様は、自己免疫状態または炎症状態の1つまたは複数の症状を有する対象の治療に向けられる。自己免疫状態または炎症状態が全身性エリテマトーデスである態様では、その症状として、倦怠感、皮膚病変、皮疹、腎不全、および発熱が含まれ得るが、これらに限定されない。自己免疫状態または炎症状態が抗リン脂質症候群である態様では、その症状として、血栓症(例:静脈血栓症、肺塞栓症)、血小板減少症、高血圧、腎不全、および反復流産が含まれ得るが、これらに限定されない。いくつかの態様では、対象は自己免疫状態または炎症状態と診断されている。いくつかの態様では、対象は自己免疫状態または炎症状態と診断されていない。いくつかの態様では、対象は、自己免疫状態または炎症状態を有するまたは発症するリスクがある。
【0052】
いくつかの態様では、対象は自己免疫状態または炎症状態について以前に治療されていた。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンを含む組成物が自己免疫状態または炎症状態を有する対象に提供されるが、ここで、対象は以前に、自己免疫状態または炎症状態に罹患していて、1つまたは複数の抗炎症剤で治療されていた。いくつかの態様では、該1つまたは複数の抗炎症剤には、NAPc2またはNAPc2/プロリンが含まれていなかった。いくつかの態様では、対象は、以前に提供された1つまたは複数の抗炎症剤に対して耐性であると決定された。
【0053】
いくつかの態様では、自己免疫状態または炎症状態について治療される対象は、少なくとも以下の年齢であるか、多くとも以下の年齢であるか、または以下の年齢である:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、もしくは90歳、またはそこから導出可能な任意の範囲。
【0054】
いくつかの態様では、対象は、NAPc2またはその変異体(例:NAPc2/プロリン)を含む薬学的組成物を投与される。薬学的組成物は、治療に有効な量で投与され得る。いくつかの態様では、NAPc2またはNAPc2/プロリンは、少なくとも、多くとも、または約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、もしくは15.0μg/kgもしくはmg/kg、またはそこから導出可能な任意の範囲もしくは値の用量で提供される。薬学的組成物は、毎日、1日おき、2日おき、または3日おきに対象に投与され得る。いくつかの態様では、薬学的組成物は、1日目、3日目、および5日目に対象に投与される。NAPc2またはその変異体(例:NAPc2/プロリン)は、各日に同じ用量で投与されても、異なる用量で投与されてもよい。いくつかの態様では、NAPc2またはその変異体(例:NAPc2/プロリン)は、1日目に第1の用量で、その後の各治療日に第2の用量で提供される。いくつかの態様では、NAPc2またはその変異体(例:NAPc2/プロリン)は、1日目に第1の用量で、3日目と5日目に第2の用量で提供される。いくつかの態様では、NAPc2またはその変異体(例:NAPc2/プロリン)は、1日目に約7.5μg/kg、3日目に約5.0μg/kg、5日目に約5.0μg/kgの用量で提供される。
【0055】
本開示の局面は、1つまたは複数の抗炎症剤の投与に向けられる。いくつかの態様では、本開示の抗炎症剤は、NAPc2またはその変異体(例:NAPc2/プロリン)である。いくつかの態様では、抗炎症剤はNAPc2である。いくつかの態様では、抗炎症剤はNAPc2/プロリンである。追加の抗炎症剤は当技術分野で知られており、本明細書において企図されており、その例として、コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、TNFα阻害剤(例:アダリムマブ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ)、および他の生物学的抗炎症剤(例:ベリムマブ)が挙げられる。
【0056】
IV. 治療用組成物の投与
本明細書で提供される治療は、単一の治療剤(例:NAPc2、NAPc2/プロリン)、または治療剤の組み合わせ、例えばNAPc2(またはNAPc2/プロリン)と追加の抗炎症剤、の投与を含み得る。治療は、当技術分野で知られた適切な方法で行うことができる。例えば、第1の治療と第2の治療のそれぞれは、連続的に(異なる時間に)行っても、同時に(同じ時間に)行ってもよい。いくつかの態様では、第1の治療と第2の治療が別々の組成物で行われる。いくつかの態様では、第1の治療と第2の治療が同じ組成物で行われる。
【0057】
本開示の態様は、治療用組成物を含む組成物および方法に関する。治療用組成物は、単一の治療剤(例:NAPc2、NAPc2/プロリン)または複数の異なる治療剤を含み得る。異なる治療剤は、1つの組成物で投与されてもよいし、2つ以上の組成物、例えば、2つの組成物、3つの組成物、または4つの組成物で投与されてもよい。様々な治療剤の組み合わせが採用され得る。
【0058】
本開示の治療剤(例:NAPc2、NAPc2/プロリン)は、同じ投与経路で、または異なる投与経路で投与することができる。いくつかの態様では、この治療は、静脈内に、筋肉内に、皮下に、局所的に、経口的に、経皮的に、腹腔内に、眼窩内に、埋め込みにより、吸入により、髄腔内に、脳室内に、または鼻腔内に施される。いくつかの態様では、治療剤(例:NAPc2、NAPc2/プロリン)は皮下に投与される。いくつかの態様では、治療剤(例:NAPc2、NAPc2/プロリン)は静脈内に投与される。適切な投与量は、治療すべき疾患のタイプ、疾患の重症度と経過、個体の臨床状態、個体の病歴と治療に対する反応、および主治医の裁量に基づいて決定され得る。
【0059】
治療は、様々な「単位用量」を含むことができる。単位用量は、治療用組成物の予め決められた量を含むと定義される。投与すべき量と、特定の経路および製剤は、臨床分野の当業者の判断スキルの範囲内である。単位用量は、単回の注射として投与する必要はなく、定められた時間にわたる連続注入を含み得る。いくつかの態様では、単位用量は単回投与可能な用量を含む。
【0060】
治療回数と単位用量の両方に応じて投与される量は、所望の治療効果によって決まる。有効な用量は、特定の効果を達成するために必要な量を指すと理解される。特定の態様における実施では、1μg/kg~200μg/kgの範囲の用量がこれらの薬剤の保護能力に影響を及ぼし得ると考えられる。用量は、約0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、および200、300、400、500、1000μg/kg、mg/kg、μg/日、mg/日、またはそこから導出可能な任意の範囲の用量を含むことが企図される。いくつかの態様では、有効な用量は、少なくとも、多くとも、または約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、もしくは10.0μg/kgである。さらに、このような用量は、1日のうちに複数回、および/または複数の日数、週数、もしくは月数で投与することができる。
【0061】
また、治療用組成物の正確な量も医師の判断に任され、各個体に特有である。用量に影響を及ぼす要因には、患者の身体的・臨床的状態、投与経路、意図する治療目標(症状の緩和か治癒か)、ならびに特定の治療物質または対象が受けている可能性のある他の治療の効力、安定性および毒性が含まれる。
【0062】
μg/kgまたはmg/kg(体重1kgあたり)の投与量単位が、μg/mlまたはmM(血中濃度)の匹敵する濃度単位に変換され、このような濃度単位で表し得ることは、当業者には理解され、認識されるであろう。また、体内への取り込みは、種および臓器/組織に依存することも理解されよう。取り込みおよび濃度測定に関して適用可能な変換係数および生理学的な仮定はよく知られており、当業者であれば、ある濃度測定値を別の濃度測定値に変換し、本明細書に記載の用量、有効性および結果に関して合理的に比較して、結論を下すことができるであろう。
【0063】
V. 一般的な薬学的組成物
いくつかの態様では、薬学的組成物が対象に投与される。様々な局面は、有効量の組成物を対象に投与する工程を含み得る。いくつかの態様では、NAPc2(またはNAPc2/プロリン)は、状態(例えば、自己免疫状態または炎症状態)を予防または治療するために対象に投与され得る。このような組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解または分散させることができる。
【0064】
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という表現は、動物またはヒトに投与した場合に、有害反応、アレルギー反応、または他の厄介な反応を引き起こさない分子実体および組成物を指す。本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌・抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などが含まれる。薬学的活性物質のためのこのような媒体および作用剤の使用は、当技術分野で周知である。慣用の媒体または作用剤が活性成分と不適合である場合を除き、免疫原性組成物および治療用組成物におけるその使用が企図される。他の抗感染症薬およびワクチンなどの、補助的な活性成分を組成物中に取り入れることもできる。
【0065】
活性化合物は、非経口投与用に製剤化することができ、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、または腹腔内経路による注射用に製剤化することができる。通常、このような組成物は、溶液剤または懸濁液剤として調製することができる;また、注射前に液体を加えて溶液剤または懸濁液剤を調製するのに適した固体剤形を調製することもできる;かつ、その調製物は乳化することもできる。
【0066】
注射用に適した薬学的剤形には、無菌の水性溶液剤または分散液剤;例えば水性プロピレングリコールを含む製剤;および無菌の注射用溶液剤または分散液剤を即時調製するための無菌の粉剤が含まれる。どのような場合にも、その剤形は無菌でなければならず、かつ容易に注射できる程度に流動性でなければならない。それはまた、製造・保管の条件下で安定である必要があり、また、細菌や真菌などの微生物の汚染作用から防護されねばならない。
【0067】
タンパク質性組成物は、中性または塩の形態に製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基により形成される)が含まれ、酸付加塩は、例えば塩酸やリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸を用いて形成される。また、遊離カルボキシル基により形成される塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することができる。
【0068】
薬学的組成物は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒を含むことができる。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング剤の使用によって、分散体の場合は必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用は、様々な抗菌・抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって防止することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン、を組成物中で使用することによって生じさせることができる。
【0069】
無菌注射液は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙した様々な他の成分を含む適切な溶媒中に入れ、次いでろ過滅菌または同等の手順を行うことによって調製することができる。一般に、分散体は、基本的な分散媒および上に列挙したものからの必要な他の成分を含有する無菌ビヒクル中に、様々な滅菌された活性成分を含めることによって調製される。無菌注射液を調製するための無菌粉剤の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥技術であり、これらの技術は、事前にろ過滅菌された溶液から、追加の望ましい成分を含む、活性成分の粉末を生じさせる。
【0070】
組成物の投与は通常、一般的経路を介して行われる。これには、経口投与または静脈内投与が含まれるが、これらに限定されない。代替的に、または追加的に、投与は、同所(orthotopic)、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または鼻腔内投与により行ってもよい。このような組成物は一般に、生理学的に許容される担体、緩衝剤または他の医薬用添加剤を含む薬学的に許容される組成物として投与されるであろう。
【0071】
製剤化の後に、溶液剤は、投与製剤に適合する方法で、かつ治療上または予防上有効な量で投与される。製剤は、上記のタイプの注射液など、様々な剤形で容易に投与される。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を実証するために記載されている。以下の実施例に開示された技術は、本発明の実施において良好に機能することが見い出された技術を表しており、したがって、その実施のための特定のモードを構成していると考えられることを当業者は理解すべきである。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な態様に多くの変更を加えることができ、それでもなお同様のまたは類似の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0073】
実施例1 - 単球におけるaPL誘発性遺伝子発現に対するrNAPc2の効果
組換えNAPc2/プロリン(rNAPc2)が抗リン脂質抗体(aPL)による単球系MM1細胞の炎症誘発活性化に及ぼす効果を、確立されたインビトロアッセイ法[1]を用いて評価した。MM1細胞をヒト血漿含有培地中に懸濁して、TF-FVIIaを阻害するためのrNAPc2により認識されるFXの供給源を提供した。次に、細胞をaPL HL5BまたはIgG対照で1時間刺激し、次世代シーケンシング(NGS)によるゲノムワイドな転写プロファイリングのために処理した。別の反応において、rNAPc2の阻害効果と、aPL誘発性TF活性化およびエンドソームシグナル伝達の確立された阻害剤である抗TF 10H10の阻害効果[2, 3]を評価した。凝固促進(TF、F3)反応および炎症誘発反応の誘導は、TF抗体10H10と同じくらい効率的にrNAPc2によってブロックされた(
図1)。かくして、NAPc2は単球系細胞におけるaPL誘発性シグナル伝達の効果的な阻害剤である。
【0074】
実施例2 - SLEのMRL/lprマウスモデルにおける自己抗体産生と自己免疫病理のrNAPc2による阻害
ループス病理の阻害は、自己免疫疾患を遺伝的に起こしやすいマウスモデルで評価した。MRL/lprマウスは、高力価のaPLおよびβ2グリコプロテインI(β2GPI)自己抗体が出現するSLE様症候群を発症する[1]。MRL/lprマウスは5~6週齢でaPLを発生し、aPL力価は重症SLE様症候群の発症中も持続するため、15~16週齢に達する前にマウスの安楽死が必要である。MRL/lprマウスを11週齢で0.5mg/kgのrNAPc2または生理食塩水対照により1日おきに3週間処置した。治療に無作為に割り付けた時点では、両群とも同様の抗カルジオリピンaPL力価を有していたが、rNAPc2処置マウスでは治療後1週間以内にaPL力価が急速に低下し、実験期間中再び出現することはなかった(
図2)。
【0075】
第2のコホートでは、MRL/lprマウスを同様に治療に向けて無作為に割り付け、カルジオリピンまたはβ2GPIに対する血清サンプルの反応性をrNAPc2による治療中に測定した。偽処置マウスでは抗体価が経時的に著しく上昇したのに対し、rNAPc2治療を受けるように無作為に割り付けたマウスは、カルジオリピン(
図3A)とβ2GPI(
図3B)の両方の自己抗体を非常に低い力価で産生し続けた。
【0076】
自己免疫性aPLは、血液中を循環するB1細胞によって産生される[1]。上記の実験の終了時に、循環するB1細胞の反応性に対するrNAPc2治療の効果を、蛍光標識したリン脂質小胞またはβ2GPIのいずれかを用いて測定した。これらのマウスで測定されたaPL力価から予想されたように、偽処置MRL/lprマウスはリン脂質反応性およびβ2GPI反応性の循環B細胞の高い割合を示した(
図4Aおよび4B)。リン脂質小胞によるB細胞の染色は、ホスファチジルコリンを負荷した可溶性EPCR(sEPCR-PC)ではブロックされなかったが、aPL、LBPA負荷sEPCR、または非標識β2GPIの病原性標的によって阻止された(
図4A)。測定された抗体価と一致して、rNAPc2で処置したMRL/lprマウスではリン脂質反応性のB細胞が検出されなかった。同様に、β2GPI反応性のB細胞は、偽処置したマウスにのみ見られたが、rNAPc2で処置した、ループス様病理を示すMRL/lprマウスには見られなかった(
図4B)。β2GPI染色はsEPCR-LBPAによって特異的に阻止されたことから、この自己免疫マウスモデルでのaPLはEPCR-LBPAおよびβ2GPIとの二重反応性を有すること、およびrNAPc2処置は自己免疫抗体の発生を効果的に阻止することが示された。
【0077】
腎機能は、rNAPc2による治療中に尿中のアルブミンを測定することによって評価した。偽処置した対照マウスは観察期間中に進行性のアルブミン尿を発症したが、rNAPc2処置マウスでは尿中のアルブミン濃度が上昇しなかった(
図5)。ベースラインのアルブミン尿が高い1匹のマウスをrNAPc2処置群に無作為に割り付けたが、このマウスは、実験終了時にアルブミン尿の減少を示した。これらのデータは、rNAPc2処置MRL/lprマウスでは腎機能が維持されることを示した。
【0078】
腎臓の病理は、2つの処置コホートにおいて組織像により評価した。糸球体と尿細管の損傷の総合値である腎病理スコアは、対照マウスに比べてrNAPc2処置マウスで有意に改善された(
図6)。さらに、免疫細胞の浸潤を、免疫組織化学用に処理された切片上のマクロファージ(CD68)、T細胞(CD4)、およびB細胞(B220)について半定量的にスコアリングした。rNAPc2による処置は、腎臓の免疫細胞浸潤を有意に減少させた(
図7)。
【0079】
これらのデータは、単球におけるaPLシグナル伝達に及ぼすrNAPc2の阻害効果と、関連する前臨床SLEモデルにおける自己免疫疾患の予防を実証している。カルジオリピンとβ2GPIの両方に反応するaPLの産生に関与しているB細胞増殖の抑制は、重症抗リン脂質症候群の患者への治療介入に関する論理的根拠を提供しており、また、SLE様病理のマウスモデルにおける腎病理の軽減は、自己免疫疾患での末端臓器(end organ)損傷の予防と逆転におけるrNAPc2の広範な治療効果を裏付けている。
【0080】
実施例3 - ループスになりやすいマウスにおいて、NAPc2はaPLの発生を抑制するのにヘパリンの抗凝固作用よりも優れている
NAPc2処置と対比して、低分子量ヘパリン(LMWH)による抗凝固作用がaPLの発生および反応性循環B1細胞の活性化に及ぼす治療効果を、EPCR-LBPAと比較した。MRL/lprマウスを5週齢で無作為に割り付けて、NAPc2または治療用量のLMWHを19日間投与した。NAPc2はカルジオリピンだけでなくβ2GPIとも反応する抗体の発生を抑制したが、ヘパリン療法はMRL/lprマウスで発生する抗体価に影響を及ぼさなかった(
図8Aおよび8B)。これらのマウスから末梢血を採取し、B1細胞のリン脂質反応性とβ2GPI反応性について染色した。NAPc2はこれらのB細胞の出現を抑制したが、ヘパリンは抑制せず、染色はEPCR-LBPAによって特異的に阻止されたが、非修飾EPCRによっては阻止されなかった(
図8Cおよび8D)。これらのデータは、標準的なヘパリン抗凝固療法ではなく、NAPc2のみがループス関連の抗リン脂質症候群の病原性標的であるEPCR-LBPAを認識するB細胞の出現を阻止することを示した。
【0081】
実施例4 - NAPc2は単球におけるaPLシグナル伝達のモジュレーターとして働く
NAPc2は、aPLに対する単球の応答をユニークな方法で再プログラムすることが示された。単球系MM1細胞を、ヒトモノクローナル抗リン脂質抗体HL5BまたはHL7Gにより血漿中で刺激すると、同様の転写応答が得られた(
図9A)。これらの実験条件下でのaPLシグナル伝達の阻害により、NAPc2はaPLの炎症誘発反応と凝固促進性TFのアップレギュレーションとを効果的に抑制することが確認された(
図9B)。しかしながら、インターフェロンシグナル伝達の誘導は、IRF1とIRF7のアップレギュレーションによって示されるように、阻害されなかった(
図9C)。応答がβ2GPIおよびEPCR-LBPAと交差反応するaPL HL7Gにより誘導された場合にも、NAPc2は同じ阻害プロファイルを示した(
図2D、E)。これらのデータは、NAPc2が単にaPLシグナル伝達の抑制因子として働くだけでなく、むしろ奥深い抗炎症作用を有する応答修飾因子として働くことを示している。
【0082】
本明細書で開示されかつ特許請求された全ての方法は、本開示に照らして、過度な実験を行うことなく実施および実行することができる。本発明の組成物および方法は、特定の態様に関して説明されているが、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された方法および方法の工程または工程の順序に変化を加えることができることが、当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的および生理学的に関連するある種の薬剤を、本明細書に記載の薬剤の代わりに使用しても、同じまたは類似の結果が得られることは明らかであろう。当業者に明らかな、全てのこのような類似の代替物および修正は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
【0083】
参考文献
以下の参考文献、および本明細書の他の箇所で引用された文献は、それらが本明細書に記載されたものを補足する例示的な手順または他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】