(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】高LIDAR反射率を有する材料
(51)【国際特許分類】
C01G 3/02 20060101AFI20240614BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240614BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240614BHJP
C09C 1/00 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C01G3/02
C09D7/61
C09D201/00
C09C1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575879
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 US2022032693
(87)【国際公開番号】W WO2022261222
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ソンタオ
(72)【発明者】
【氏名】バナジー,デバシッシュ
(72)【発明者】
【氏名】グヌグヌリ,クリシュナ
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA08
4J037DD02
4J037DD05
4J037FF02
4J038DG001
4J038HA216
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
5nm以上15nm以下の平均粒径と、0.5以上1.5以下の(-111)/(111)の比と、130以上170以下の黒色度Myとを有する、酸化銅結晶子。酸化銅結晶子は、10.0%以下の電磁放射線の可視スペクトルにおける反射率、並びに10%以上の電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける反射率を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅結晶子であって、
5nm以上15nm以下の平均粒径と、
0.5以上1.5以下の(-111)/(111)の比と、
130以上170以下の黒色度Myと、を備え、
前記酸化銅結晶子が、
10.0%以下である電磁放射線の可視スペクトルにおける反射率と、
10%以上である電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける反射率と、を有する、酸化銅結晶子。
【請求項2】
前記酸化銅結晶子が、5%以下である電磁放射線の可視スペクトルにおける電磁放射線の反射率を有する、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項3】
前記酸化銅結晶子が、20%以上である電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける電磁放射線の反射率を有する、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項4】
前記(-111)/(111)の比が、0.9以上1.1以下である、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項5】
前記平均粒径が、8nm以上12nm以下である、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項6】
前記黒色度Myが、150以上170以下である、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項7】
前記平均粒径が、8nm以上12nm以下であり、
前記(-111)/(111)の比が、0.9以上1.1以下であり、
前記黒色度Myが、150以上170以下であり、
前記電磁放射線の可視スペクトルにおける前記反射率が、5.0%以下であり、
前記電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける前記反射率が、20%以上である、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項8】
塗料であって、
塗料バインダと、
複数の請求項1に記載の酸化銅結晶子と、を含み、
前記塗料が、CIELAB色空間における明度が40以下の色を有する、塗料。
【請求項9】
請求項8に記載の塗料でコーティングされた本体パネルを備える、車両。
【請求項10】
酸化銅結晶子を形成するための方法であって、
沈殿剤を硝酸銅を含む溶液と組み合わせて沈殿物を形成することと、
前記沈殿物を乾燥させ、それにより乾燥沈殿物を得ることと、
前記乾燥沈殿物を焼結して、5nm以上15nm以下の平均粒径を有する酸化銅結晶子を形成することと、を含み、
前記沈殿剤が、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸アンモニウムからなる群から選択される、方法。
【請求項11】
前記沈殿剤が、水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
Cu/Naモル比が、0.3以上1.6未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Cu/Naモル比が、0.5以上1.0未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
Cu/Naモル比が、0.65以上0.76未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化銅結晶子を乾燥させることが、100℃以上140℃以下の温度で0.5時間以上5.0時間以下の期間乾燥させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記酸化銅結晶子を焼結することが、200℃以上300℃以下の温度で焼結することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記酸化銅結晶子を焼結することが、250℃以上300℃以下の温度で焼結することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記焼結が、0.5時間以上5.0時間以下の期間にわたって起こる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記沈殿剤が、炭酸アンモニウムである、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
前記平均粒径が、8nm以上12nm以下である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月9日に出願された米国仮出願第63/208,783号の米国特許法第119条に基づく優先権の利益を主張し、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本明細書は、概して、近赤外電磁放射線を反射する粒子に関し、より具体的には、近赤外電磁放射線を反射する酸化銅粒子に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
905ナノメートル(nm)又は1050nmの波長を有するパルスレーザ電磁放射線を使用する光検出及び測距(LiDAR)システムが提案され、自動運転車両障害物検出及び回避システム並びに他の自動検出システムについて試験されている。しかしながら、暗色の物体を提供するために塗料及び他の材料に使用される暗色(例えば、黒色)の顔料は、暗い色を提供するために可視光電磁放射線を吸収するだけでなく、LiDAR電磁放射線を含む約750ナノメートルを超える波長を有する近赤外電磁放射線も吸収する。
【0004】
したがって、可視スペクトル内の電磁放射線を吸収するが、905nm又は1050nm付近の波長を有する近赤外電磁放射線を反射する代替的な暗色顔料が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
第1の態様は、酸化銅結晶子であって、5nm以上15nm以下の平均粒径と、0.5以上1.5以下の(-111)/(111)の比と、130以上170以下の黒色度Myと、を備え、酸化銅結晶子が、10.0%以下である電磁放射線の可視スペクトルにおける反射率と、10.0%以上である電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける反射率と、を有する、酸化銅結晶子を含む。
【0006】
第2の態様は、酸化銅結晶子が、5.0%以下である可視スペクトルにおける電磁放射線の反射率を有する、第1の態様に記載の酸化銅結晶子を含む。
【0007】
第3の態様は、酸化銅結晶子が、20.0%以上の近赤外及びLiDARスペクトルの電磁放射線に対する反射率を有する、第1及び第2の態様のいずれか1つに記載の酸化銅結晶子を含む。
【0008】
第4の態様は、(-111)/(111)の比が、0.9以上1.1以下である、第1~第3の態様のいずれか1つに記載の酸化銅結晶子を含む。
【0009】
第5の態様は、平均粒径が、8nm以上12nm以下である、第1~第4の態様のいずれか1つに記載の酸化銅結晶子を含む。
【0010】
第6の態様は、My黒色度が、150以上170以下である、第1~第5の態様のいずれか1つに記載の酸化銅結晶子を含む。
【0011】
第7の態様は、平均粒径が、8nm以上12nm以下であり、(-111)/(111)の比が、0.9以上1.1以下であり、黒色度Myが、150以上170以下であり、電磁放射線の可視スペクトルにおける反射率が、5.0%以下であり、電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける反射率が、20.0%以上である、第1~第6の態様のいずれか1つに記載の酸化銅結晶子を含む。
【0012】
第8の態様は、塗料バインダと、複数の第1~第7の態様のいずれか1つに記載の酸化銅結晶子とを含み、該塗料が、CIELAB色空間における明度が40以下の色を有する、塗料を含む。
【0013】
第9の態様は、第8の態様に記載の塗料で塗装された本体パネルを備える車両を含む。
第10の態様は、酸化銅結晶子を形成するための方法であって、沈殿剤を硝酸銅を含む溶液と組み合わせて沈殿物を形成することと、濾過された沈殿物を乾燥させ、それにより乾燥沈殿物を得ることと、乾燥沈殿物を焼結して、5nm以上15nm以下の平均粒径を有する酸化銅結晶子を形成することと、を含み、沈殿剤が、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸アンモニウムからなる群から選択される、方法を含む。
【0014】
第11の態様は、沈殿剤が、水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される、第10の態様に記載の方法を含む。
【0015】
第12の態様は、Cu/Naモル比が、0.3以上1.6未満である、第11の態様に記載の方法を含む。
【0016】
第13の態様は、Cu/Naモル比が、0.5以上1.0未満である、第11又は第12の態様に記載の方法を含む。
【0017】
第14の態様は、Cu/Naモル比が、0.65以上0.76未満である、第11~13の態様のいずれかに記載の方法を含む。
【0018】
第15の態様は、酸化銅結晶子を乾燥させることが、100℃以上140℃以下の温度で0.5時間以上5.0時間以下の期間乾燥することを含む、第10~第14の態様のいずれかに記載の方法を含む。
【0019】
第16の態様は、酸化銅結晶子を焼結することが、200℃以上300℃以下の温度で焼結することを含む、第10~第15の態様のいずれかに記載の方法を含む。
【0020】
第17の態様は、酸化銅結晶子を焼結することが、250℃以上300℃以下の温度で焼結することを含む、第10~第16の態様のいずれかに記載の方法を含む。
【0021】
第18の態様は、焼結が、0.5時間以上5.0時間以下の期間にわたって起こる、第10~第17の態様のいずれかに記載の方法を含む。
【0022】
第19の態様は、沈殿剤が、炭酸アンモニウムである、第10~第18の態様のいずれかに記載の方法を含む。
【0023】
第20の態様は、平均粒径が、8nm以上12nm以下である、第10~19の態様に記載のいずれかの方法を含む。
【0024】
本明細書に記載の実施形態によって提供されるこれら及び追加の特徴は、図面と併せて以下の詳細な説明を考慮してより完全に理解されるであろう。
【0025】
図面の簡単な説明
図面に示される実施形態は、本質的に例示的かつ例示的であり、特許請求の範囲によって定義される主題を限定することを意図しない。例示的な実施形態の以下の詳細な説明は、同様の構造が同様の参照番号で示されている以下の図面と併せて読むと理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】
図1Aは、従来の着色剤の電磁放射線の反射率対波長をグラフで示す。
【
図1B】
図1Bは、本明細書に開示及び記載される実施形態による着色剤の電磁放射線の反射率対波長をグラフで示す。
【
図2】
図2は、商業的に入手可能な材料及び黒色TiO
2の黒色度を示す棒グラフである。
【
図3A】
図3Aは、カーボンブラック、市販の「クールブラック」、市販のN-CuO-C及びN-CuO-A顔料をそれぞれ組み込んだ塗料の黒色度My値を示し、挿入写真は、これらの4つの試料の黒色度の差を明らかにする。
【
図3B】
図3Bは、カーボンブラック、市販の「クールブラック」、市販のN-CuO-C及びN-CuO-A顔料の波長に対する反射率をグラフで示す。
【
図3C】
図3Cは、N-CuO-A、N-CuO-B及び市販のN-CuO-CのXRDプロファイルを示し、(-111)及び(111)の面は、最も高いピーク強度を有するため、分析のための主要な面である。
【
図3D】
図3Dは、以下の2つの指標:結晶子サイズ(-111)及び(-111)/(111)の相対強度比を使用した試料の評価マップを示し、挿入図は、左から右に、それぞれN-CuO-A、N-CuO-B及び市販のN-CuO-Cの生粒子試料を示す。
【
図3E】
図3Eは、N-CuO-A(スケールバー-5nm)の高分解能透過型電子顕微鏡画像を示し、右下の挿入図は、N-CuO-A試料(スケールバー-2μm)の拡大図である。TEMの図は、N-CuO-A試料の結晶格子の特徴を示し、上部の挿入図は、N-CuO-Aの多数のナノ粒子を含有する領域から記録された選択領域電子回折(SAED)パターンである。
【
図3F】
図3Fは、N-CuO-B(スケールバー-5nm)の高分解能透過型電子顕微鏡画像を示し、右下の挿入図は、N-CuO-B試料(スケールバー-1μm)の拡大図であり、上の挿入図は、N-CuO-Bの多数のナノワイヤを含有する領域から記録された選択領域電子回折(SAED)パターンである。
【
図3G】
図3Gは、純粋なCuCO
3、CuCO
3.Cu(OH)
2及びCu(OH)
2の基準と比較した、異なる沈殿剤から得られた沈殿物のXRDスペクトルを示す図である。
【
図4A】
図4Aは、TGAによる熱分解プロセス中の重量パーセントの進化及び重量パーセント曲線の導関数を示し、挿入図は、左から右へ、50℃、200℃、300℃及び500℃の異なる温度で焼結された対応するCuO試料の画像である。
【
図4B】
図4Bは、周囲温度から600℃までのTGAによる熱分解中の(-111)の平均結晶子サイズ及び(-111)/(111)の相対強度の進化を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、黒色パネルの背景上の市販のN-CuO-C(左)と比較して、異なる焼結温度300℃、400℃及び500℃の下で、カーボンブラック(右)とCuO粒子との間の可視範囲の黒色度を明らかにする通常のカメラによって撮影された写真である。
【
図5B】
図5Bは、300℃、400℃及び500℃で焼結されたCuOの2つの異なる倍率下でのSEM画像である(画像中のスケールバーは全て1μmである)。
【
図6】
図6は、合成中のCu/Naモル比を変化させた焼成前のCuO試料のX線回折プロファイルである。
【
図7】
図7は、合成中のCu/Naモル比を変化させた焼成後のCuO試料のSEM画像である。
【
図8】
図8は、合成中の様々なCu/Naモル比を有する抽出された沈殿物のCu2p及びNa1s XPSプロファイルである。
【
図9A】
図9Aは、通常のカメラ(上)及びNIRカメラ(下)の下での、黒背景及び白背景に対して異なるCu/Naモル比を有するCuO粒子の写真である。
【
図9C】
図9Cは、CuO粒子の塗装パネルの拡散反射率を示す。
【
図9D】
図9Dは、CuO粒子の塗装パネルのTauプロットを示す。
【
図9E】
図9Eは、Tauプロットから得られた間接バンドギャップエネルギー値を示す図である。
【
図9F】
図9Fは、様々なCu/Naモル比を有するCuO粒子の塗装パネルの黒色度の程度を示す。
【
図10】
図10は、本明細書に開示及び説明される1つ以上の実施形態による、暗色の塗料を反射するLiDARで塗装されたサイドパネルを有する車両を概略的に示す。
【
図11】
図11は、暗色の塗料を反射するLiDARで塗装されたサイドパネルの断面図を概略的に示す。
【
図12A】
図12Aは、8mil(200μm)の湿潤フィルム厚さでのプレコーティングされた白黒背景に対する黒色度の程度に対する顔料対ポリマー樹脂の重量比の影響をグラフで示す。
【
図12B】
図12Bは、顔料対樹脂の重量比が1:4(0.25)に等しい、プレコートされた白黒背景に対する黒色度の程度に対する湿潤フィルム厚さの影響をグラフで示す。
【
図13A】
図13Aは、自動運転車を模倣した、905nmの2Dレーザスキャナを装備したロボット車を使用した実証設定の写真である。
【
図13B】
図13Bは、それぞれカーボンブラック、N-CuO-A、N-CuO-B、市販のN-CuO-C及びクールブラック顔料を組み込んだ塗装パネルから8°でロボット車によって得られたLiDAR強度の比較を示す図である。
【
図13C】
図13Cは、LiDAR強度の閾値を100に設定したカーボンブラック系の塗装パネルにロボット車がぶつかる様子を示す写真である。
【
図13D】
図13Dは、LiDAR強度の閾値を100に設定したN-CuO-A顔料が組み込まれた塗装パネルの前で停止しているロボット車のデモンストレーションの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
本明細書に開示及び記載される酸化銅結晶子は、暗色を示し、850nm以上1550nm以下の波長を有するLiDARを含む近赤外線電磁放射線を反射する。実施形態では、本明細書に開示及び記載される酸化銅結晶子は、例えば車両の一部、構造の一部、ロボット等の物体に塗布することができる近赤外及びLiDAR反射の暗色塗料を形成するために塗料系に含めることができ、それにより、近赤外及びLiDAR検出システムは、近赤外及びLiDARを反射する暗色塗料でコーティングされた物品を検出することができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「近赤外電磁放射線」という用語は、800nm以上2500nm以下の波長を有する電磁放射線を指し、「LiDAR」は、905nm以上1550nm以下の波長を有する電磁放射線を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、「可視スペクトル」という用語は、350nm以上750nm以下の波長を有する電磁放射線を指す。
【0030】
暗色の塗料を反射するLiDARを表面に配置して、暗色の表面を反射するLiDARを提供し得る。非限定的な例には、車両ドアパネル、車両クォータパネル等の車体パネルの表面が含まれる。酸化銅結晶子を反射するLiDARを利用することにより、暗色の車両をLiDARシステムで検出することが可能になる。酸化銅結晶子を反射するLiDARの様々な実施形態、並びにそれらを作製及び使用するための方法を、添付の図面を特に参照して本明細書において更に詳細に説明する。
【0031】
LiDAR又は近赤外電磁放射線を反射する暗色(黒色等)粒子及び塗料系を形成する際の1つの困難は、電磁放射線及び近赤外電磁放射線又はLiDARの可視スペクトルに非常に近いことである。黒色等の暗色を提供する材料は、電磁放射線の可視スペクトル内の電磁放射線を反射しない。そのような材料はまた、一般に、近赤外及びLiDAR電磁放射線等の電磁放射線の可視スペクトルのすぐ外側の電磁放射線も反射しない。カーボンブラックは、暗い顔料として一般的に使用され、可視スペクトルの電磁放射線を反射せず、近赤外又はLiDARの電磁放射線も反射しないそのような材料の1つである。したがって、可視スペクトル内の電磁放射線を反射しないが、近赤外又はLiDARの電磁放射線を反射する材料は、電磁放射線の可視スペクトルのすぐ外側で反射率を非常に急激に増加させる必要がある。
【0032】
ここで
図1Aを参照すると、塗料系において着色剤として一般的に使用される材料の反射率が示されている。反射率のパーセンテージは、
図1Aのy軸に沿って提示され、電磁放射線の波長は、
図1Aのx軸に沿って提供される。カーボンブラック等の従来の黒色着色剤の反射率は、グラフの下部に沿って示されている。
図1Aに示すように、カーボンブラック着色剤は、可視スペクトルの電磁放射線を反射しない(グラフの左側)。すなわち、この黒色着色剤の反射は、電磁放射線の可視スペクトル内でほぼ0パーセントである。これは、着色剤が暗いほぼ純粋な黒色を提供することを示す。しかしながら、この従来の着色剤はまた、近赤外電磁放射線又はLiDAR電磁放射線(例えば、約750ナノメートル(nm)超~約1550nm)等の可視スペクトル外の電磁放射線の0パーセント付近を反射する(グラフの右側)。同様に、グラフの上部付近には、従来の白色着色剤として使用される白色TiO
2の反射率が示されている。
図1Aに示すように、白色TiO
2は、グラフの右側に示すように近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射し(例えば、約750nm超~1550nm)、近赤外及びLiDAR電磁放射線の反射は40パーセントより大きく(1550nmにおいて)、60パーセント付近である(905nmにおいて)。しかしながら、白色TiO
2は、その名称が示すように、可視スペクトル内の電磁放射線も反射する。
図1Aに示すように、白色TiO
2は、可視スペクトル内の電磁放射線のほぼ80パーセントを反射する。したがって、これらの着色剤(カーボンブラック又は白色TiO
2)はいずれも、近赤外又はLiDAR電磁放射線も反射する暗色粒子として適していない。
【0033】
図1Bは、電磁放射線の可視スペクトルにおいて光を反射しないが、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する粒子の目標条件を示すグラフである。
図1Bでは、反射率のパーセンテージがy軸に沿って測定され、電磁放射線の波長がx軸に沿って提供される。グラフの下部には、従来の黒色着色剤の反射率が示されており、これは、
図1Aに示す従来のブラック着色剤(カーボンブラック等)の反射率と同一である。
図1Bに示すように、可視スペクトル内の電磁を反射せず、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する粒子は、少なくとも2つの異なる反射領域を有する。第1の反射領域は、
図1Bのグラフの左側に示される電磁放射線の可視スペクトル内にある。この反射領域では、可視スペクトル内の電磁放射線を反射せず、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する粒子は、可視スペクトル内の電磁放射線を反射しないことにより、従来の黒色着色剤(カーボンブラック等)と同じ挙動を示す。
図1Bに示すように、可視スペクトル内の電磁を反射せず、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する粒子は、可視スペクトル内の電磁放射線のほぼ0パーセントを反射する。しかしながら、可視スペクトル内の電磁を反射せず、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する粒子は、電磁放射線の可視スペクトルの外側にある第2の反射領域を有する。
【0034】
第2の反射領域は、750nm以上1050nm以下の波長を有する電磁放射線(近赤外及びLiDAR電磁放射線を含む)を包含する。第2の反射領域では、可視スペクトル内の電磁を反射せず、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する粒子は、第2の反射領域内で大量の電磁放射線を反射することによって白色TiO
2と同様に機能する。
図1Bに示すように、可視スペクトル内の電磁を反射せず、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する粒子は、例えば、905nmの波長を有するLiDAR電磁放射線の約60パーセントを反射し、1550nmの波長を有するLiDAR電磁放射線の40パーセント超を反射する。白色TiO
2と同様の反射の第2の領域に反射率を有することにより、粒子は、LiDARシステムによって粒子を検出することができる十分な量の近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射することができる。
【0035】
図1Bは、可視スペクトル内の電磁を反射せず、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する粒子を形成することの困難さを示す。特に、
図1Bは、電磁放射線の可視スペクトルのすぐ外側の反射率の急激な増加を示す。実施形態では、この反射率の急激な増加は、LiDARシステムで一般的に使用される電磁放射線の波長である約905nm又はそれ以上の電磁放射線の波長で存在する。
図1Bに示すように、反射率は、約905nmの電磁放射線の波長で約0パーセントからほぼ60パーセントまで増加する。このような正確かつ急激な反射率の増加を有する粒子を形成することは達成が困難であり、誤差の余地はほとんどない。例えば、材料が可視スペクトル内の電磁放射線を反射しすぎる場合、色の外観は純粋な黒色ではなく、例えば赤色又は紫色の色合いを有する。しかしながら、材料が十分な量の近赤外又はLiDAR電磁放射線を反射しない場合、材料はLiDARシステムによる検出に適していない。
【0036】
いくつかの材料は、可視スペクトルの多くの範囲内の電磁放射線を反射せず、近赤外及びLiDARの電磁放射線を反射するが、これらの材料は、カーボンブラックの目に見える外観を再現することができなかった(すなわち、可視スペクトル内の電磁放射線に対して約0パーセントの反射率を有する)。関心を集めているそのような材料の1つは、酸化クロム鉄及びその誘導体である。酸化クロム鉄材料は一般に近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射することができるが、酸化クロム鉄材料から作製された着色剤は、酸化クロム鉄又はその誘導体から作製された着色剤に赤色又は青色の色合いを有するため、一般に「クールブラック」と呼ばれる。
図2は、各種材料の黒色度をy軸上に示す棒グラフである。黒色度は、X-Rite分光光度計によって測定される。
図2の左端には、カーボンブラックがあり、これは、黒色着色剤として一般的に使用される材料であるが、カーボンブラックは、近赤外又はLiDAR電磁放射線を反射しない。
図2に示すように、カーボンブラックは、約165の黒色度を有する。材料1~7は、近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射するクロム酸化鉄含有材料であるが、
図2から分かるように、これらの材料は142付近以下の黒色度を有する。材料1~7は赤又は青の色合いを有するため、この黒色度の違いは顕著である。したがって、カーボンブラックと材料1~7との間の黒色度のこのかなりのギャップは、材料1~7が一般に、純粋な黒色が望まれる用途、例えば自動車用途の塗料、織物等に使用するのに適していないことを示している。その結果、Cabot Corporation製の顔料(「Carbon Black」と表記される)等のカーボンブラックに類似した黒色度を有し、近赤外及びLiDAR電磁放射線も反射する耐久性があり、安価な顔料が必要とされている。
【0037】
いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、700nmの波長と905nmの波長の電磁放射線との間の反射率(又は吸光度)の急激な遷移は、(-111)/(111)結晶ファセットのほぼ単位比と、(-111)面について100Å付近の結晶サイズとに起因すると考えられる。
【0038】
黒色用途に関心のある材料の1つは、酸化銅(II)又は酸化第二銅(CuO)である。CuOは、その自然状態で黒色固体材料である一般的な無機化合物である。しかしながら、全ての酸化銅がこの黒色を有するわけではない。すなわち、銅の別の安定な酸化物は、自然状態で赤色固体である亜酸化銅(Cu2O)である。したがって、銅の酸化状態は、材料が黒色を有することを確実にするために重要である。CuOは銅採掘の生成物であり、他の多くの銅含有生成物及び化合物の前駆体である。CuOは、セラミック、光沢等の特定の用途において黒色顔料として使用されてきた。しかしながら、一般的に使用されるCuOは、近赤外又はLiDAR電磁放射線を反射しない。すなわち、CuOは、その自然状態では、可視スペクトルの電磁放射線を反射せず、近赤外又はLiDARスペクトルの電磁放射線も反射しないという点で、カーボンブラックのように挙動する。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、CuOは、以下でより詳細に説明するように、近赤外又はLiDARスペクトルの電磁放射線を容易に反射しない2.0eVのバンドギャップを有する。近赤外又はLiDARスペクトルにおける電磁放射線の反射により適したバンドギャップを有するようにCuOを操作すると、CuOの色が褐色がかった黒色に劣化し、これは、自動車塗料、織物等の特定の用途には適さない。
【0039】
カーボンブラックを含有する塗料は、可視及び近赤外波長全体にわたって非常に低い反射(1%未満)を示し、135付近の高い黒色度My値をもたらす。市販のCuOを用いた塗料は、900nm~1000nmの電磁放射線波長の波長で選択的により高い近赤外反射率を有するが、市販のCuOは、可視波長で、特に赤色色相で識別可能な反射を示し、黒色度My値が130未満の明らかな褐色がかった色調の外観をもたらす。一方、「クールブラック」は、905nmを超える電磁放射線波長で近赤外スペクトルの深い端で強い反射を示すが、黒色度My値が128の可視波長では十分に吸収されない。
図3Aの挿入写真は、これらの原料顔料試料の黒色度の違いを示し、
図3Bに示すように、塗料試料としての可視範囲の反射率スペクトルの実際の適用を示す。図において、N-CuO-Cは市販のCuOであり、N-CuO-Aは、本明細書に開示及び記載される実施形態によるCuOである。電磁放射線の可視スペクトルにおける低反射率から近赤外及びLiDAR電磁放射線での高反射率へのこの遷移を決定する1つの方法は、材料のバンドギャップを評価することである。
【0040】
バンドギャップは、一般に、価電子帯(VB)の上部と伝導帯(CB)の下部との間のエネルギー差(電子ボルト又はeV)を指す。VBは、励起されると電子がCB内に移動しながら飛び出すことができる電子軌道のバンドである。VBは、電子が実際に占有できる原子の最外電子軌道である。バンドギャップは、電子がVBからCBに移動するのに必要なエネルギーであり、材料の電気伝導率を示すことができる。光学系では、バンドギャップは、光子が材料によって吸収され得る閾値と相関する。したがって、いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、バンドギャップは、材料が電磁スペクトルのどの部分を吸収できるかを決定する。一般に、バンドギャップが大きい材料は、短波長を有する電磁スペクトルの大部分を吸収し、バンドギャップが小さい材料は、長波長を有する電磁スペクトルの大部分を吸収する。言い換えれば、バンドギャップが大きいことは、CBに価電子を励起するために多くのエネルギーが必要であることを意味する。対照的に、金属のように価電子帯と伝導帯が重なる場合、電子は2つのバンド間で容易にジャンプすることができ、これは材料が高導電性であることを意味する。しかしながら、材料のバンドギャップを操作することによって、材料によって吸収される電磁スペクトルのタイプを制御し得ることが分かった。これを考慮すると、LiDAR検出電磁放射線波長付近(905nm付近)のバンドギャップエネルギーを有する材料は、1.37eV付近のバンドギャップ及び可視端(700nm付近)での鋭い遷移を有し、可視電磁放射線を反射しないが近赤外及びLiDAR電磁放射線を反射する材料として有望な候補である。
【0041】
酸化銅(II)(CuO)は、間接的な性質の基本的なバンドギャップを有する単斜晶系p型半導体である。その間接バンドギャップの実験値は、1.2eV~2.2eVの範囲であると決定された。CuO化合物は、太陽エネルギー材料、ガスセンサ、磁気媒体、光学デバイス、電池、触媒、並びに接合デバイス及び超伝導材料の構築等の分野において広く研究されている。CuOのバンドギャップは、ドーパント、合成溶媒及び化学量論、ナノ粒子サイズ、並びにナノ構造の形状並びに形態等の異なる手法によって調整可能であることも強調されている。現在、CuOのバンドギャップエンジニアリング研究は、日射に対する光学的応答及びその触媒挙動に焦点を当てている。しかしながら、電磁放射線の可視スペクトルの波長を吸収し、近赤外及びLiDARスペクトルの電磁放射波長を反射するようにCuOを調整することに関する開示はない。これまでにも、ボールミル等により粒径を物理的に調整することで、CuOの黒色度を改善する試みがなされている。しかしながら、CuOを、カーボンブラックの黒色度レベルに達するまで粉砕することはできなかった。
【0042】
一般に、化合物が可視スペクトルの電磁放射線を吸収し(すなわち、反射しない)、近赤外及びLiDARスペクトルの電磁放射線を反射するためには、1.2eV~1.8eVのバンドギャップが必要である。操作なしでは、バルクCuOはこれらの要件を満たさない。バルクCuOのバンドギャップは2.0eV、黒色度My値は128と報告されている。このバンドギャップは、近赤外及びLiDARスペクトルの電磁放射線を反射するのに必要な1.2eV~1.8eVの範囲外である。さらに、
図2を参照して上述したように、128の黒色度は、カーボンブラックの約165の黒色度よりも著しく低い。したがって、本明細書に開示及び記載される実施形態では、バンドギャップの減少及びCuOの黒色度の増加をもたらす、粒径が著しく減少したCuO結晶子を形成するための方法が提供される。
【0043】
実施形態では、カーボンブラックの代替として使用することができ、近赤外線及びLiDAR電磁放射波長において高い反射率も有しながら、電磁放射線の可視スペクトルにおいて優れた黒色度を示すCuO結晶子のタイプ(本明細書では「N-CuO-A」とも呼ばれる)の合成が提供される。N-CuO-Aは、いくつかの実施形態では、特定の濃度範囲の沈殿剤を適切に選択して、スケーラブルな沈殿-熱分解法によって合成することができ、その後、十分に定義された焼結プロセスが続く。構造及び化学組成の研究は、前駆体から抽出された沈殿物へ、及び様々なプロセス段階で最終的なCuO結晶子への進化を示す。上記で参照したように、実験条件を所望の結晶構造及び結果として生じる可視及び近赤外範囲の両方の光学コントラストに導くためのXRDスペクトルにおける2つの重要な指標が予想外に発見された。N-CuO-Aを塗料媒体に組み込むことによって調製された塗装パネルは、カーボンブラックと比較して、黒色度挙動及びLiDAR検知動作を確認した。
【0044】
前駆体Cu(NO
3)
2から得られた異なるCuO粒子と、CuOの合成に一般的に使用される異なるアルカリ塩基、すなわちN-CuO-Aの弱塩基Na
2CO
3及び他のCuO粒子の強塩基NaOH(本明細書では「N-CuO-B」と呼ぶ)との比較は、特定のCuO結晶子における著しく高い黒色度及び近赤外又はLiDAR反射の起源の理解を提供する。N-CuO-A及びN-CuO-Bは、比較を提供するため、従来のオーブン(300℃で3時間)で同じ焼結条件に従って調製される。市販のナノ構造CuO(本明細書では「N-CuO-C」と呼ぶ)は、N-CuO-A及びN-CuO-Bと比較するための参照である。
図3Cは、これらのCuO試料のXRDプロファイルを示す。それは、全ての試料が単斜晶構造を有する純粋な酸化第二銅(II)であり、JCPDS番号03-065-2309とほぼ一致することを明らかにする。(110)、(-111)、(111)、(-112)、(-202)、(020)、(202)、(-113)、(220)、(311)、(-222)の各格子面に対応する全ての試料について、33.5°、35.5°、38.2°、48.7°、54.2°、58.3°、62.5°、66.4°、68.2°、73.4°、75.6°の2θ値の回折ピークが観測される。これらの面の中で、(-111)及び(111)ピークの強度は他のピークの強度よりもはるかに強く、これは、これらの方向に沿って形成されたナノ結晶のこの配向が、実施形態に従って所望されるタイプの反射率を提供することを示している。Cu
2O等の不純物相のピークは検出されない。N-CuO-A及びN-CuO-Bの比較的広いXRDピークは、提供される焼結条件下で、N-CuO-A及びN-CuO-Bの両方の結晶のサイズが両方とも比較的小さい(約100Å)ことを示している。比較すると、N-CuO-CのXRDプロファイルは、はるかに狭く鋭いピークを示し、より大きな結晶子サイズ(約204Å)を示している。N-CuO-A及びN-CuO-Bは類似の結晶子サイズを有するが、XRDスペクトルを詳細に見ると、N-CuO-A及びN-CuO-Bにおける2つの主格子面(-111)と(111)との間の相対強度比が有意に異なることが明らかである。
【0045】
図3Cから分かるように、N-CuO-Aは、N-CuO-Bよりも相対的に小さい(-111)/(111)の比を示す。DFT法を用いて算出したCuO低屈折率面のポテンシャルによると、(111)面は、バンドギャップエネルギーが1.5eVで、1.2eV付近(又は約1030nm)に価電子帯最大端(VBM)を有し、(-111)面は、バンドギャップエネルギーが1.6eVで、2.1eV付近(又は約620nm)にわずかに大きいVBMを有する。したがって、目視観察は、620nm付近のより大きなVBMから始まるので、(-111)面が可視反射の主な原因であることを示している。したがって、(-111)/(111)の比がより小さいか、又は(-111)面の結晶子サイズがより小さいと、黒色度レベルが高くなる可能性があるが、比及び結晶子サイズがより大きいと、近赤外又はLiDAR反射率が向上する。
【0046】
図3Dに見られるように、N-CuO-Aは、比率が最も低く、結晶子サイズが最も小さく、黒色度のレベルは最も高いが、近赤外反射率が比較的弱い(
図3Dの挿入図内の左試料)。より大きな結晶子サイズ(例えば、N-CuO-C)(
図3Dの挿入図内の右試料)又は(-111)/(111)の比較的高い比(例えば、N-CuO-B)を有する試料は、褐色がかった色(
図3Dの挿入図内の中央試料)を示す。これらの2つの試料における近赤外反射は、支配的な(-111)面(N-CuO-B)又は(-111)面のより大きな平均結晶子サイズ(N-CuO-C)に起因してより高い。したがって、いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、これらは、可視スペクトルの電磁放射線を吸収し、近赤外及びLiDARスペクトルの電磁放射線を反射する材料の2つの重要な指標(結晶子相中の(-111)/(111)面の比及び得られたCuO結晶子の平均結晶子サイズ)であると考えられる。実施形態によれば、1付近の比(-111)/(111)と100Å付近の結晶子サイズ(-111)のバランスを維持することは、LiDAR反射率及び視覚的黒色度を達成するのに役立つ。
【0047】
図3E及び
図3Fは、それぞれ合成されたN-CuO-A及びN-CuO-Bから撮影されたHR-TEM画像であり、凝集体及びより小さな結晶子の両方の違いを明らかにする。N-CuO-Aは、
図3Eの下部挿入図に示されているように、直径が数十ナノメートルの規模の連結されたナノスフェアから作製された微小球状凝集体を示し、一方、N-CuO-Bは、
図3Fの下部挿入図に示されているように、幅が数十ナノメートルであるが長さが1μmのナノロッド様凝集体から構成される。N-CuO-Aの場合、一次N-CuO-A結晶子中のいくつかの面間間隔は、
図3Eに示すように、それぞれ(111)、(-111)及び(200)面に対応する0.239Å、0.250Å、0.234Åとして指定される。(-111)/(111)の比較的等しい強度比は、XRDプロファイルによって指定されるようにほぼ単一であり、これは、
図3Eの上部挿入図に示すように、選択領域電子回折(SAED)パターンにおいて比較的同様の輝度を有するいくつかの回折スポットの観察と一致する。対照的に、SEADパターンの強化スポットがN-CuO-Bで観察され、これはXRDプロファイルの比較的高い(-111)/(111)の比と一致し、
図3Fに示すように、ナノ結晶の優先配向を示す。優位な面のうちの1つは、近赤外及び望ましくない可視反射率の両方のより高い強度に寄与する(-111)面として指定された。同様の配向のナノ結晶は、互いに接続して成長するのが容易である。1つの好ましい方向での凝集速度が他の方向に沿ったものよりも速く、N-CuO-BのCuOナノロッドの形成をもたらす。
【0048】
したがって、実施形態では、(-111)/(111)の比は、0.8以上1.3以下、例えば、0.9以上1.3以下、1.0以上1.3以下、1.1以上1.3以下、1.2以上1.3以下、0.8以上1.2以下,0.9以上1.2以下、1.0以上1.2以下、1.1以上1.2以下、0.8以上1.1以下、0.9以上1.1以下、1.0以上1.1以下、0.8以上1.0以下、0.9以上1.0以下、又は0.8以上0.9以下であり得る。
【0049】
以下に開示される平均粒径等のCuO粒子のサイズを縮小することによって、CuOのバンドギャップが減少する。実施形態では、CuOナノ粒子のX線光電子分光法(XPS)によって測定されるバンドギャップは、1.2eV以上1.8eV以下、例えば、1.3eV以上1.8eV以下、1.4eV以上1.8eV以下、1.5eV以上1.8eV以下、1.6eV以上1.8eV以下、1.7eV以上1.8eV以下であり、1.2eV以上1.7eV以下、例えば1.3eV以上1.7eV以下、1.4eV以上1.7eV以下、1.5eV以上1.7eV以下、1.6eV以上1.7eV以下、1.2eV以上1.6eV以下、例えば1.3eV以上1.6eV以下、1.4eV以上1.6eV以下、1.5eV以上1.6eV以下、1.2eV以上1.5eV以下、例えば1.3eV以上1.5eV以下、1.4eV以上1.5eV以下、1.2eV以上1.4eV以下、例えば1.3eV以上1.4eV以下、又は1.2eV以上1.3eV以下である。
【0050】
いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、CuOナノ粒子の平均結晶サイズが小さいほど、CuOナノ粒子のバンドギャップは小さくなると考えられる。したがって、本明細書に開示及び記載される実施形態に従ってバルクCuO粒子をCuOナノ粒子に還元することによって、CuOナノ粒子のバンドギャップは、近赤外及びLiDARスペクトル内の電磁放射線を反射する範囲内にあり、例えば、1.5eV~2.0eVのバンドギャップを有する。
【0051】
いくつかの実施形態において、CuO結晶子は、5nm以上15nm以下、例えば6nm以上15nm以下、7nm以上15nm以下、8nm以上15nm以下、9nm以上15nm以下、10nm以上15nm以下、11nm以上15nm以下、12nm以上15nm以下、13nm以上15nm以下、14nm以上15nm以下、5nm以上14nm以下、6nm以上14nm以下、7nm以上14nm以下、8nm以上14nm以下、9nm以上14nm以下、10nm以上14nm以下、11nm以上14nm以下、12nm以上14nm以下、13nm以上14nm以下、5nm以上13nm以下、6nm以上13nm以下、7nm以上13nm以下、8nm以上13nm以下、9nm以上13nm以下、10nm以上13nm以下、11nm以上13nm以下、12nm以上13nm以下、5nm以上12nm以下、6nm以上12nm以下、7nm以上12nm以下、8nm以上12nm以下、9nm以上12nm以下、10nm以上12nm以下、11nm以上12nm以下、5nm以上11nm以下、6nm以上11nm以下、7nm以上11nm以下、8nm以上11nm以下、9nm以上11nm以下、10nm以上11nm以下、5nm以上10nm以下、6nm以上10nm以下、7nm以上10nm以下、8nm以上10nm以下、9nm以上10nm以下、5nm以上9nm以下、6nm以上9nm以下、7nm以上9nm以下、8nm以上9nm以下、5nm以上8nm以下、6nm以上8nm以下、7nm以上8nm以下、5nm以上7nm以下、6nm以上7nm以下、又は5nm以上6nm以下である平均粒径を有し得る。
【0052】
CuO結晶子の黒色度My(すなわち、黒色度の尺度)は、いくつかの実施形態において、130以上170以下、例えば、135以上170以下、140以上170以下、145以上170以下、150以上170以下、155以上170以下、160以上170以下、165以上170以下、130以上165以下、135以上165以下、140以上165以下、145以上165以下、150以上165以下、155以上165以下、160以上165以下、130以上160以下、135以上160以下、140以上160以下、145以上160以下、150以上160以下、155以上160以下、130以上155以下、135以上155以下、140以上155以下、145以上155以下、150以上155以下、130以上150以下、135以上150以下、140以上150以下、145以上150以下、130以上145以下、135以上145以下、140以上145以下、130以上140以下、135以上140以下、又は130以上135以下である。
【0053】
本明細書に開示及び記載される実施形態による酸化銅結晶子は、10.0%以下、例えば9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、又は0.5%以下の電磁放射線の可視スペクトルにおける反射率を有する。
【0054】
本明細書に開示及び記載される実施形態による酸化銅結晶子は、10%以上、例えば15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、又は60%以上の電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける反射率を有する。1つ以上の実施形態では、酸化銅結晶子は、10%以上60%以下、例えば、15%以上60%以下、20%以上60%以下、25%以上60%以下、30%以上60%以下、35%以上60%以下、40%以上60%以下、45%以上60%以下、50%以上60%以下、55%以上60%以下、10%以上55%以下、15%以上55%以下、20%以上55%以下、25%以上55%以下、30%以上55%以下、35%以上55%以下、40%以上55%以下、45%以上55%以下、50%以上55%以下、10%以上50%以下、15%以上50%以下、20%以上50%以下、25%以上50%以下、30%以上50%以下、35%以上50%以下、40%以上50%以下、45%以上50%以下、10%以上45%以下、15%以上45%以下、20%以上45%以下、25%以上45%以下、30%以上45%以下、35%以上45%以下、40%以上45%以下、10%以上40%以下、15%以上40%以下、20%以上40%以下、25%以上40%以下、30%以上40%以下、35%以上40%以下、10%以上35%以下、15%以上35%以下、20%以上35%以下、25%以上35%以下、30%以上35%以下、10%以上30%以下、15%以上30%以下、20%以上30%以下、25%以上30%以下、10%以上25%以下、15%以上25%以下、20%以上25%以下、10%以上20%以下、15%以上20%以下、又は10%以上15%以下である電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルの反射率を有する。
【0055】
次に、実施形態によるCuO結晶子を作製するための方法について説明する。
前駆体から抽出された沈殿物、及び焼結後に得られた最終生成物N-CuO-Aへの結晶構造及びサイズの進化を研究した。まず、比較のために、Cu/Naモル比が0.65で一定のNaOHとNa
2CO
3の異なる沈殿剤を用いた。溶液からの沈殿の直後及び焼結工程の前に形成された抽出された沈殿物のXRDプロファイルを
図3Gに示す。純粋な化学物質Cu(OH)
2、CuCO
3及びマラカイトCuCO
3・Cu(OH)
2のXRDプロファイルを
図3Gに参照として示す。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、Na
2CO
3を使用した場合に関与する反応は、以下の(1)~(4)の反応であり、反応(2)及び(4)はCuOの形成をもたらす。Na
2CO
3を使用して形成された沈殿物は、空気中で石灰緑色を示し、32°に主ピークを有する参照CuCO
3・Cu(OH)
2と同様のXRDピークを示し、反応(1)に従うと考えられ、CuCO
3のピークは確認できない。反応(2)により、マラカイトがCuOとなるためには、より高温での焼結が必要となる。
【0056】
一方、NaOHを用いて得られた抽出沈殿物は、褐色がかった黒色を示し、
図3Cの最終生成物N-CuO-Bと同様のXRDプロファイルを示す。これらの特徴から、NaOHを用いた沈殿は、固相での反応(7)ではなく、水相での反応(5)及び(6)に従うことが確認される。水酸化銅Cu(OH)
2は準安定であることが知られており、より安定な形態の酸化銅(II)に容易に変換する。酸化銅(II)への変態の速度論は、室温で純水中でゆっくり行うことができるが、水酸化物イオンOH
-の存在下では、二価の銅イオンがテトラヒドロキソクプラート(II)アニオンCu(OH)
4
2-の形態の間に容易に溶解し、続いて反応(6)でCuOが沈殿するため、速く回転する。ここで、成長面として(-111)面を有するCuOの形成は、XRDによって特定され、これは、
図3Gに示すように、高い近赤外及びLiDAR反射率をもたらすが、視覚的には褐色がかって見える。その後の300℃での焼結プロセスは、
図3Gに示すように、(-111)面と(111)面との間の比を逆転させたり、成長方向を変化させたりすることはなく、むしろ結晶面のサイズを増加させる。
【0057】
Cu
2+
(aq)+CO
3
2-
(aq)+H
2O→CuCO
3・Cu(OH)
2(s)+CO
2(g) (1)
CuCO
3・Cu(OH)
2(s)→2CuO
(s)+CO
2(g)+H
2O
(g) (2)
Cu
2+
(aq)+CO
3
2-
(aq)→CuCO
3(s) (3)
CuCO
3(s)→CuO
(s)+CO
2(g) (4)
Cu
2+
(aq)+2(OH)
-
(aq)→Cu(OH)
2(s) (5)
Cu(OH)
2(s)+2OH
-
(aq)→Cu(OH)
4
2-
(aq)←→CuO
(s)+2OH
-
(aq)+H
2O (6)
Cu(OH)
2(s)→CuO
(s)+H
2O
(g) (7)
合成工程においてNa
2CO
3沈殿剤を用いる場合、抽出された沈殿物をCuCO
3・Cu(OH)
2と同定する。熱重量分析(TGA)を使用して、CuCO
3・Cu(OH)
2をN-CuO-Aに変換する熱分解プロセスを評価する。上記の反応(2)から別々に生成した水及び二酸化炭素の質量損失は、TGA並びに変換開始時の臨界温度によって決定することができる。ここで、得られたCuCO
3・Cu(OH)
2をTGAを介して大気中にて常温から600℃まで焼結した。熱分解プロセス中のマラカイトの主な重量損失は、H
2O及びCO
2の放出に起因して、200℃~300℃の間で観察された。目視観察により、マラカイトは、約200℃で元の石灰緑色からオレンジ色に変化し、次いで300℃で真黒に変化し、より高温でわずかに褐色に変化することが示される。合成マラカイトは単一の工程で熱分解することが知られており、これは
図4Aに示す単一ピークDTA曲線によっても確認された。
図4A及び
図4Bに示すTGA分析から明らかなように、CuOは300℃付近以上で安定になった。
【0058】
これらの測定は、CuCO
3・Cu(OH)
2のCuOへの分解が主に250℃~300℃で起こることを示しており、ここで著しい重量変化が起こる。300℃での合計で28.1%の重量損失値は、CuCO
3対Cu(OH)
2のモル比がほぼ1であることを示し、CuCO
3又はCu(OH)
2ではなく純粋なマラカイトの形成を更に裏付けている。300℃を超えるアニーリング温度の更なる上昇は、無視できる重量損失をもたらすが、CuO結晶子の成長をもたらすであろう。
図4B.一方、(111)/(-111)の相対強度は、マラカイトからCuOへの変換中の300℃の前に著しく低下し、その後安定になることを示す。300℃では、Cu/Naモル比0.65でNa
2CO
3(N-CuO-A等)から合成されたCuO粒子は、
図5Aに示すように、より高い焼結温度の対応物又は市販のN-CuO-Cと比較して最も高い黒色度を有し、これは
図3Dに示す結果に対応する。
図5Bに示される代表的なSEM画像は、より高い温度で焼結された材料が、1μm~3μmの同じ範囲内で球状凝集体のサイズを維持するが、ナノサイズ粒子は、より高い焼結温度でナノスケールの穴を有するミクロスフェア内でより相互連結されるようになることを明らかにする。そのため、
図5Bに示すように、表面積が小さくなる。したがって、微小球状凝集体のサイズではなく、ナノ結晶の結晶サイズは、結晶サイズの増加に伴う可視反射の一貫した増加を示す光学特性に主な影響を与える。表面積の減少を伴う、より高い焼結温度での結晶成長の観察は、結晶成長に伴う酸素の空孔数、空孔クラスタ及び局所格子不規則性の減少によって説明することができる。したがって、より小さい結晶サイズでのこの優れた黒色度は、マラカイトからCuOへの変換のちょうど完了時に起こるより高い結晶学的障害に起因する可能性がある。したがって、実施形態において、マラカイト起源のCuOナノ粒子は、300℃の変換温度でアニーリングされる。
【0059】
同じ沈殿剤Na
2CO
3であるが、異なるモル比のCu/Na(又は炭酸塩濃度のレベル)では、核成長経路を変更し、抽出された沈殿物としてCuCO
3との反応(3)~(4)を介した経路に従うことが可能である。そのような実施形態では、Cu/Naモル比を1.52(炭酸塩欠乏)から0.36(炭酸塩余剰)まで変化させることによって一連の試料を調製した。焼結プロセスの前に形成された様々なCu/Naモル比を有する抽出された沈殿物のXRDプロファイルを
図6に示す。抽出されたCu/Na比が1.52及び0.82の沈殿物試料は、CuCO
3・Cu(OH)
2が無視できる程度に存在するCuCO
3のピークを示す。これらの測定は、炭酸塩欠乏条件に対応する1.52~0.82等のより高いCu/Na比でのCuOの合成が、主に上記の反応(3)~(4)に続くことを示している。Cu/Na比が0.82を下回ると、CuCO
3ピークの強度が低下し、マラカイトCuCO
3・Cu(OH)
2の新たなピークが現れ始める。Cu/Naモル比が0.76の試料は、CuCO
3とCuCO
3・Cu(OH)
2との混合物に起因するピークを示し、後者が支配的な種である。抽出されたCu/Naモル比が0.65未満の沈殿物はCuCO
3ピークが完全に減少し、純粋なマラカイトピークのみが観察された。Cu/Naモル比の更なる減少(又は過剰なNa
2CO
3)を伴うXRDピークの有意な変化はなく、抽出された沈殿材料はCuCO
3・Cu(OH)
2に起因するピークのみを示す。
【0060】
以下の表1は、(-111)面の結晶子サイズ及び(-111)/(111)の強度比に関して、様々なCu/Naモル比を有する得られたCuO試料のXRDプロファイルを要約する。CuOの結晶子サイズは、約0.53までCu/Naモル比の減少と共に減少し、Cu/Naモル比の更なる減少は、結晶子サイズの最小変化をもたらす。一方、合成中のCu/Naモル比の変化に伴う(-111)/(111)比の顕著な変化はない。全ての試料は、1.00±0.05付近で(-111)/(111)の比を示す。
【0061】
表1.Cu/Naモル比を変えることによって合成したCuO材料の結晶子サイズ、(-111)/(111)面の比。
【0062】
【0063】
焼結後のCu/Naモル比を変化させたCuO試料のSEM画像を
図7に示す。Cu/Naモル比が1.52及び1.12のCuO試料は、鋭いスパイクを有するフロー状の形態を示す。Cu/Naモル比が0.76まで減少すると、フロー様形態とミクロスフェアの混合が観察される。Cu/Naモル比が0.76~0.65の間では、フロー状形態が消失し、ミクロスフェアのみが観察される。XRD測定と組み合わせると、炭酸塩濃度のレベルが核生成及び成長並びに沈殿物の形成に影響を及ぼすと結論付けることができる。また、沈殿中のCuCO
3の形成は、CuO生成物の不規則なフロー様形態をもたらすが、CuCO
3・Cu(OH)
2マラカイトの形成は、ほぼ単分散のマイクロスフェアCuO生成物をもたらす傾向があることも明らかである。注目すべきことに、0.65未満のCu/Naモル比を有する試料は、
図6に示すように、これらの抽出された沈殿物がCuCO
3・Cu(OH)
2のピークのみを示すことをXRD測定が示しているにもかかわらず、不規則な形態を示す。
【0064】
さらに、XPS測定を行ったところ、
図8に示すように、Cu/Naモル比が0.65未満の場合には、抽出された沈殿物中に外部不純物であるナトリウムイオンが確認された。Na
+(1.02Å)及びCu
2+(0.73Å)のサイズ半径及び原子価電荷の違いにより、外部のNa
+不純物の存在は結晶の成長過程に影響を及ぼし、表面エネルギーを上昇させ、
図7に観察されるように異なる不規則な形態をもたらす可能性がある。上記表1に示すように、少量のNa
+の存在により結晶子サイズが減少することも分かる。したがって、合成中のCu/Naモル比の減少は、洗浄及び濾過後であってもCuCO
3・Cu(OH)
2沈殿物中にNa
+の存在をもたらす。
【0065】
図9Aは、同じ順序で白黒背景に対して様々なCu/Naモル比を有するCuOナノ粒子の写真画像を示す。黒背景に示すように、粉末の視覚的黒色度は、約0.7までCu/Naモル比が減少するにつれて増加し、その後、Cu/Naモル比が更に減少すると、黒色度の不適格な変化が観察される。しかしながら、近赤外カメラを使用して撮影された写真は、Cu/Naモル比が0.65未満に減少すると、近赤外及びLiDAR反射率が大幅に減少することを示し、これは、結晶構造に対するNa
+不純物の悪影響並びに近赤外及びLiDAR反射率を意味する。CuOナノ粒子が取り込まれた塗装パネルを
図9Bに示し、黒色度のレベルは、基材の背景色に関係なく同じであることが確認された。
【0066】
これらの塗装パネルの拡散反射スペクトルを
図9C(「CB」はカーボンブラックを表す)に示し、Kubelka-Munk関数に基づく対応する間接バンドギャップTauプロットを
図9Dに示し、得られたバンドギャップ値及び黒色度データをそれぞれ
図9E及び
図9Fに示す。粉末試料で確認されたものと同様に、減少したCu/Na比で、調製されたCuO塗料試料における基本反射エッジのレッドシフトが
図9Dに示すように観察された。異なるCu/Na比のCuO塗装試料の間接的なバンドギャップエネルギーは、
図9D及び
図9Eに示すように、0.65付近のCu/Naモル比で1.4eVから1.3eVへの有意な減少を示す。パネルの黒色度Myは、Cu/Naモル比を減少させることによって、130以下(Cu/Naモル比が1.52~0.76の間の比において)から134以上(Cu/Naモル比が0.7~0.65の間である場合)に増加する。Cu/Naモル比の更なる減少は、
図9Bに示されるような塗装された試料に示される褐色がかった縁からの証拠として、
図9Dに示されるような黒色度の減少をもたらす。結果は、核生成プロセス、抽出された沈殿物の形成、結晶子サイズ及び凝集形態に対するCu/Na比及び不純物の影響を示している。黒色度測定及びKubelka-Munk分析を利用する反射率測定からのバンドギャップ推定の両方が、実施形態では、0.65~0.70のCu/Na比が漆黒性並びに適切な近赤外及びLiDAR反射率の両方を提供すると結論付ける。
【0067】
したがって、実施形態では、CuO結晶子を配合するために沈殿物に使用されるCu/Naモル比は、0.3以上1.6未満、例えば、0.4以上1.6未満、0.5以上1.6未満、0.6以上1.6未満、0.7以上1.6未満、0.8以上1.6未満、0.9以上1.6未満、1.0以上1.6未満、1.1以上1.6未満、1.2以上1.6未満、1.3以上1.6未満、1.4以上1.6未満、1.5以上1.6未満、0.3以上1.5未満、0.4以上1.5未満、0.5以上1.5未満、0.6以上1.5未満、0.7以上1.5未満、0.8以上1.5未満、0.9以上1.5未満、1.0以上1.5未満、1.1以上1.5未満、1.2以上1.5未満、1.3以上1.5未満、1.4以上1.5未満、0.3以上1.4未満、0.4以上1.4未満、0.5以上1.4未満、0.6以上1.4未満、0.7以上1.4未満、0.8以上1.4未満、0.9以上1.4未満、1.0以上1.4未満、1.1以上1.4未満、1.2以上1.4未満、1.3以上1.4未満、0.3以上1.3未満、0.4以上1.3未満、0.5以上1.3未満、0.6以上1.3未満、0.7以上1.3未満、0.8以上1.3未満、0.9以上1.3未満、1.0以上1.3未満、1.1以上1.3未満、1.2以上1.3未満、0.3以上1.2未満、0.4以上1.2未満、0.5以上1.2未満、0.6以上1.2未満、0.7以上1.2未満、0.8以上1.2未満、0.9以上1.2未満、1.0以上1.2未満、1.1以上1.2未満、0.3以上1.1未満、0.4以上1.1未満、0.5以上1.1未満、0.6以上1.1未満、0.7以上1.1未満、0.8以上1.1未満、0.9以上1.1未満、1.0以上1.1未満、0.3以上1.0未満、0.4以上1.0未満、0.5以上1.0未満、0.6以上1.0未満、0.7以上1.0未満、0.8以上1.0未満、0.9以上1.0未満、0.3以上0.9未満、0.4以上0.9未満、0.5以上0.9未満、0.6以上0.9未満、0.7以上0.9未満、0.8以上0.9未満、0.3以上0.8未満、0.4以上0.8未満、0.5以上0.8未満、0.6以上0.8未満、0.7以上0.8未満、0.3以上0.7未満、0.4以上0.7未満、0.5以上0.7未満、0.6以上0.7未満、0.3以上0.6未満、0.4以上0.6未満、0.5以上0.6未満、0.3以上0.5未満、0.4以上0.5未満、又は0.3以上0.4未満である。
【0068】
いくつかの実施形態では、以下でより詳細に説明するように、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を使用して、ナトリウム含有組成物(NaOH及びNaCO3等)の代わりにCuO結晶子を形成する。このような実施形態では、CO3/Cuモル比は、0.3以上1.6未満、例えば、0.4以上1.6未満、0.5以上1.6未満、0.6以上1.6未満、0.7以上1.6未満、0.8以上1.6未満、0.9以上1.6未満、1.0以上1.6未満、1.1以上1.6未満、1.2以上1.6未満、1.3以上1.6未満、1.4以上1.6未満、1.5以上1.6未満、0.3以上1.5未満、0.4以上1.5未満、0.5以上1.5未満、0.6以上1.5未満、0.7以上1.5未満、0.8以上1.5未満、0.9以上1.5未満、1.0以上1.5未満、1.1以上1.5未満、1.2以上1.5未満、1.3以上1.5未満、1.4以上1.5未満、0.3以上1.4未満、0.4以上1.4未満、0.5以上1.4未満、0.6以上1.4未満、0.7以上1.4未満、0.8以上1.4未満、0.9以上1.4未満、1.0以上1.4未満、1.1以上1.4未満、1.2以上1.4未満、1.3以上1.4未満、0.3以上1.3未満、0.4以上1.3未満、0.5以上1.3未満、0.6以上1.3未満、0.7以上1.3未満、0.8以上1.3未満、0.9以上1.3未満、1.0以上1.3未満、1.1以上1.3未満、1.2以上1.3未満、0.3以上1.2未満、0.4以上1.2未満、0.5以上1.2未満、0.6以上1.2未満、0.7以上1.2未満、0.8以上1.2未満、0.9以上1.2未満、1.0以上1.2未満、1.1以上1.2未満、0.3以上1.1未満、0.4以上1.1未満、0.5以上1.1未満、0.6以上1.1未満、0.7以上1.1未満、0.8以上1.1未満、0.9以上1.1未満、1.0以上1.1未満、0.3以上1.0未満、0.4以上1.0未満、0.5以上1.0未満、0.6以上1.0未満、0.7以上1.0未満、0.8以上1.0未満、0.9以上1.0未満、0.3以上0.9未満、0.4以上0.9未満、0.5以上0.9未満、0.6以上0.9未満、0.7以上0.9未満、0.8以上0.9未満、0.3以上0.8未満、0.4以上0.8未満、0.5以上0.8未満、0.6以上0.8未満、0.7以上0.8未満、0.3以上0.7未満、0.4以上0.7未満、0.5以上0.7未満、0.6以上0.7未満、0.3以上0.6未満、0.4以上0.6未満、0.5以上0.6未満、0.3以上0.5未満、0.4以上0.5未満、又は0.3以上0.4未満である。
【0069】
上記のように、実施形態によれば、CuO結晶子を形成するために使用することができる第1の湿式化学法は、0.0001M以上1M以下の濃度を有する硝酸銅(Cu(NO3)2)の溶液から始まる。これに、沈殿剤として、0.1M以上1M以下の濃度の水酸化ナトリウム(NaOH)又は炭酸ナトリウム(NaCO3)を導入する。Cu(NO3)2の濃度及びNaOH又はNaCO3の濃度は、上に開示したNa/Cuモル比を有するように選択され得る。Cu(NO3)2とNaOH又はNaCO3沈殿剤とが反応して、水酸化銅(Cu(OH)2)又は炭酸銅(CuCO3)と硝酸ナトリウム(NaNO3)の沈殿物を形成する。実施形態によれば、混合物は、室温で一晩(例えば、8時間以上~15時間以下)保存される。次いで、100℃以上140℃以下の温度で、0.5時間以上5.0時間以下の期間、Cu(OH)2を乾燥させる。
【0070】
使用することができる第2の湿式化学法は、実施形態によれば、0.0001M以上1M以下の濃度を有する硝酸銅(Cu(NO3)2)の溶液から始まる。この溶液に、沈殿剤として炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)を導入する。この湿式化学法では、第1の湿式化学法のナトリウム系沈殿剤に代えて、アンモニウム系沈殿剤を用いる。ナトリウム系沈殿剤によって形成されたナトリウム系沈殿物は、反応を妨害し、CuOの収率を低下させる可能性がある。Cu(NO3)2及び(NH4)2CO3沈殿剤が反応して炭酸及び銅(CuCO3)硝酸アンモニウム((NH4)2NO3)の沈殿物を形成する。実施形態によれば、混合物は、室温(20℃以上及び25℃以下等)で一晩(8時間以上及び15時間以下等)保存され得る。次いで、100℃以上140℃以下の温度で、0.5時間以上5.0時間以下の期間、CuCO3を乾燥させる。
【0071】
第1の湿式化学法及び第2の湿式化学法からそれぞれ得られた乾燥Cu(OH)2又はCuCO3は、実施形態によれば、200℃以上400℃以下の温度で0.5時間以上5.0時間以下の期間焼結される。
【0072】
1つ以上の実施形態では、乾燥Cu(OH)2又はCuCO3は、300℃以上350℃以下、例えば、310℃以上350℃以下、320℃以上350℃以下、330℃以上350℃以下、340℃以上350℃以下、300℃以上340℃以下、310℃以上340℃以下、320℃以上340℃以下、330℃以上340℃以下、300℃以上330℃以下、310℃以上330℃以下、320℃以上330℃以下、300℃以上320℃以下、310℃以上320℃以下、又は300℃以上310℃以下の温度で焼結される。
【0073】
実施形態によれば、乾燥Cu(OH)2又はCuCO3は、1.0時間以上5.0時間以下、例えば、1.5時間以上5.0時間以下、2.0時間以上5.0時間以下、2.5時間以上5.0時間以下、3.0時間以上5.0時間以下、3.5時間以上5.0時間以下、4.0時間以上5.0時間以下、4.5時間以上5.0時間以下、0.5時間以上4.5時間以下、1.0時間以上4.5時間以下、1.5時間以上4.5時間以下、2.0時間以上4.5時間以下、2.5時間以上4.5時間以下、3.0時間以上4.5時間以下、3.5時間以上4.5時間以下、4.0時間以上4.5時間以下、0.5時間以上4.0時間以下、1.0時間以上4.0時間以下、1.5時間以上4.0時間以下、2.0時間以上4.0時間以下、2.5時間以上4.0時間以下、3.0時間以上4.0時間以下、3.5時間以上4.0時間以下、0.5時間以上3.5時間以下、1.0時間以上3.5時間以下、1.5時間以上3.5時間以下、2.0時間以上3.5時間以下、2.5時間以上3.5時間以下、3.0時間以上3.5時間以下、0.5時間以上3.0時間以下、1.0時間以上3.0時間以下、1.5時間以上3.0時間以下、2.0時間以上3.0時間以下、2.5時間以上3.0時間以下、0.5時間以上2.5時間以下、1.0時間以上2.5時間以下、1.5時間以上2.5時間以下、2.0時間以上2.5時間以下、0.5時間以上2.0時間以下、1.0時間以上2.0時間以下、1.5時間以上2.0時間以下、0.5時間以上1.5時間以下、1.0時間以上1.5時間以下、0.5時間以上1.0時間以下の期間焼結される。
【0074】
次に、酸化銅結晶子を有する系の実施形態について説明する。実施形態によれば、酸化銅結晶子を有する系は、担体中に複数の酸化銅結晶子を有する塗料層であってもよい。本明細書に開示及び記載される実施形態によれば、担体は結合剤であってもよい。結合剤の非限定的な例は、エナメル塗料バインダ、ウレタン塗料バインダ、及びエナメル-ウレタン塗料バインダの組み合わせを含む。酸化銅結晶子を有する系は、酸化銅結晶子を有する系を観察する観察者には暗色として見え、近赤外及びLiDARスペクトルの電磁放射線、例えば約750nm超~1550nmの波長を有する電磁放射線を反射する。すなわち、酸化銅結晶子を有する近赤外及びLiDAR反射システムは、太陽光に曝され、観察者が見ると、CIELAB色空間における明度が20以下の色を有し、約850nm超~950nmの波長を有する電磁放射線等の近赤外及びLiDARスペクトルにおいて平均5%超の電磁放射線を反射する。実施形態では、太陽光に曝されたときに酸化銅結晶子を有する近赤外及びLiDAR反射システムは、可視スペクトルの電磁放射線の平均3%未満を反射し、15以下のCIELAB色空間における明度を有する。そのような実施形態では、太陽光に曝されたときに酸化銅結晶子を有する近赤外及びLiDAR反射システムは、10以下のCIELAB色空間における明度を有し得る。本明細書で使用される場合、「平均」という用語は、本明細書に記載の酸化銅被覆酸化コバルト300を有する近赤外及びLiDAR反射暗色顔料又は近赤外及びLiDAR反射システムについての特定の反射スペクトルに沿って等間隔に配置された10(10)個の参照値の平均を指す。また、本明細書で使用される場合「~超を反射する」及び「~未満を反射する」という用語は、特に明記しない限り、それぞれ「~超を平均で反射する」及び「~を平均又はそれ未満で反射する」ことを指す。
【0075】
ここで
図10及び
図11を参照すると、本明細書に開示及び説明される酸化銅結晶子を有する近赤外及びLiDAR反射の暗色塗料で塗装された車両「V」の実施形態が示されている。特に、
図10は、本明細書に開示及び説明される酸化銅結晶子を含む近赤外及びLiDAR反射暗色塗料50でコーティングされたサイドパネル「S」を有する車両Vを示し、
図11は、近赤外及びLiDARを反射する暗色塗料50を有するサイドパネルSの一方の断面を示す。近赤外及びLiDAR反射暗色塗料50は、表面保護及び所望の色を提供する複数の層を含み得る。例えば、近赤外及びLiDAR反射暗色塗料50は、ホスフェート層122、電気コーティング層124、プライマー層126、カラー層112又はカラー層114(ベースコート又はベースコート層としても知られる)及びクリアコート層128を含んでもよい。リン酸塩層の非限定的な例としては、リン酸マンガン層、リン酸鉄層、リン酸亜鉛層、及びそれらの組み合わせが挙げられる。電気コーティング層の非限定的な例としては、陽極電気コーティング層及び陰極電気コーティング層が挙げられる。プライマー層の非限定的な例としては、エポキシプライマー層及びウレタンプライマー層が挙げられる。クリアコート層の非限定的な例としては、ウレタン系のクリアコート層、アクリル系のラッカー系のクリアコート層等が挙げられる。近赤外及びLiDAR反射暗色塗料50は、暗い塗料を反射する近赤外及びLiDARを観察する観察者には暗色として見え、約750nm超~1550nmの波長を有する電磁放射線等の近赤外及びLiDARスペクトルの電磁放射線を反射することを理解されたい。すなわち、太陽光に曝され、観察者によって見られる、近赤外及びLiDAR反射暗色塗料50は、CIELAB色空間における明度が20以下の色を有し、近赤外及びLiDARスペクトルにおいて40%を超える電磁放射線、例えば約750nm超~1550nmの波長を有する電磁放射線を反射する。いくつかの実施形態では、太陽光に曝された近赤外及びLiDAR反射の暗色塗料50は、可視スペクトルの平均10%未満の電磁放射線を反射し、15以下のCIELAB色空間における明度を有する。そのような実施形態では、太陽光に曝された暗色塗料50を反射するLiDARは、10以下のCIELAB色空間における明度を有し得る。
【0076】
クリアコートを有する塗料系の黒色度は、顔料自体の黒色度よりも低くてもよい。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、クリアコートの平滑な表面からの光散乱が少ないこと、又はクリアコートによって引き起こされる屈折率のコントラストが少ないことは、より低い黒色度値をもたらすと考えられる。実施形態によれば、酸化銅結晶子を有する近赤外及びLiDAR反射暗色塗料は、120以上140以下、例えば、122以上140以下、124以上140以下、126以上140以下、128以上140以下、130以上140以下、132以上140以下、134以上140以下、136以上140以下、138以上140以下、120以上138以下、122以上138以下、124以上138以下、126以上138以下、128以上138以下、130以上138以下、132以上138以下、134以上138以下、136以上138以下、120以上136以下、122以上136以下、124以上136以下、126以上136以下、128以上136以下、130以上136以下、132以上136以下、134以上136以下、120以上134以下、122以上134以下、124以上134以下、126以上134以下、128以上134以下、130以上134以下、132以上134以下、120以上132以下、122以上132以下、124以上132以下、126以上132以下、128以上132以下、130以上132以下、120以上130以下、122以上130以下、124以上130以下、126以上130以下、128以上130以下、120以上128以下、122以上128以下、124以上128以下、126以上128以下、120以上126以下、122以上126以下、124以上126以下、120以上124以下、122以上124以下、又は120以上122以下の黒色度を有する。
【0077】
上述したように、本明細書に開示及び説明される実施形態による近赤外及びLiDAR反射酸化銅結晶子を塗料に使用して、約750nm超~1550nmの波長を有する電磁放射線等の近赤外又はLiDAR電磁放射線を検出するシステムで検出することができる近赤外及びLiDAR反射暗色物品を提供することができる。すなわち、自動車、オートバイ、自転車等の近赤外及びLiDAR検出システムによって検出されることが望まれる物品に、本明細書に記載の近赤外及びLiDAR反射暗色塗料を塗装してもよく、それによって所望の暗色を有する暗色の物品を提供し得るが、近赤外及びLiDARスペクトルの電磁放射線、例えば約750nm超~1550nmの波長を有する電磁放射線を検出するシステムによって検出可能であり得る。
【0078】
上記から理解されるように、本明細書に開示及び記載の実施形態による酸化銅結晶子は、将来の自動運転環境において従来のカーボンブラック顔料を置き換える有効な解決策を提供する。酸化銅結晶子は、赤外反射率を維持しながら、可視領域で優れた黒色度を示す。
【実施例】
【0079】
実施例
実施形態は、以下の実施例によって更に明確になるであろう。
【0080】
実施例1-合成
分析グレード(AR)硝酸銅(II)Cu(NO3)2、Sigma Aldrichから得られた水酸化ナトリウム(NaOH)及び炭酸ナトリウムNa2CO3、並びに脱イオン水を更に精製することなく使用した。
【0081】
沈殿剤としてNa2CO3又はNaOHを用いた共沈法によりCuOナノ粒子を合成した。必要量のCu(NO3)2を蒸留水300mlに溶解した。次いで、激しく撹拌しながら室温で既知濃度のNa2CO3又はNaOH溶液をCu(NO3)2溶液に滴下した。次いで、溶液を3時間撹拌し、一晩熟成した後、濾過した。一晩熟成させた後、沈殿物を濾過し、蒸留水1000mlで洗浄した。次いで、固体生成物を120℃で一晩乾燥させた後、5℃/分のランプ速度で300℃~600℃で3時間焼結する。
【0082】
さらに、CuOナノ粒子の結晶構造及び形態に対する塩基タイプ、Cu/Naモル比及び焼結プロセスの影響を分析するために同じ手順に従って対照実験を行った。最後に、これらの異なる系の形態及び光学特性と、本発明者らの代表的な試料であるN-CuO-Aとの比較を示す。CuOナノ粒子の結晶学的情報を、Cu Kα線(λ=0.1541nm)を用いた粉末X線回折(XRD、日本、Rigaku Miniflex 600)を用いて調べた。作製した粒子の平均結晶子サイズτは、Scherrerの式を用いて、測定したXRD回折曲線の幅から推定した。
【0083】
【0084】
ここで、kは、1に近い値を有する無次元形状係数である。λはX線放射の波長を表し、βは最大強度(FWHM)の半分で広がる線であり、θはブラッグ角である。形態及び構造は、エネルギー分散型分光法(EDS)及び高分解能透過型電子顕微鏡法(HR-TEM)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM、日本、JSM-7800FLV)によって決定した。TEM及び小面積電子回折(SAED)をEAG Laboratoryによって行った。超音波処理によって粉末をアルコール中に分散させ、銅グリッド支持体上に液滴を配置し、次いで空気中で乾燥させることによって試料を調製した。
【0085】
塗装試料については、指定されていない場合、CuO結晶子を1:4の粉末/樹脂比でポリウレタン樹脂と混合し、次いで、予めコーティングされたハーフブラック(反射率-最大1%)及びハーフホワイト(反射率-最小78%)表面を有する鋼パネル上に200μm(又は8mil)の湿潤フィルム厚さを有するドクターブレードを介して塗布した。次いで、乾燥フィルム厚さ60μmの透明クリアコートを自動車塗料系に似た試料上に塗布した。上記の条件は、
図12A及び
図12Bに示すように、基板の背景色に関係なく一貫したレベルの黒色度を達成するのに十分であった。そのため、粒子含有膜の固有特性のみを測定した。樹脂系中の粒子濃度を更に増加させても、本発明者らは黒色度の程度の影響を観察しなかった。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
塗装された試料の黒色度の程度Myを、機器によって提供される参照に直接関係するX-Rite Ci 7600ベンチトップ分光光度計(米国、X-Rite)によって評価した。
【0090】
【0091】
ここで、Yn=100.000は、D65/10条件のCIEホワイトポイント値のうちの1つである。Yは、測定されている試料のCIE三刺激値の1つである。
【0092】
Al Kα線を励起源としてX線光電子分光(XPS、米国PHI 5000 Versaprobe II)測定を行った。触媒試料の帯電は、外来性炭素(C1s)の結合エネルギーを284.6eVとして補正した。XPS分析は周囲温度で行い、圧力は典型的には107Torr程度であった。分析の前に、試料を真空下で30分間脱気した。熱重量分析(TGA、USA Thermal Science TGA Q500)の測定を、25℃~-600℃の試験範囲を有し、加熱速度が5℃・分-1である空気中で行った。CuOナノ粒子の表面積を、窒素吸脱着分析(3 flex chemi、米国Micromeritics)による単点Brunauer-Emmett-Teller(BET)法によって測定した。分析の前に、試料を真空(5×10-3Torr)下、300℃で2時間アウトガスした。
【0093】
実施例2-LiDAR反射性能
本明細書に開示されるように合成されたN-CuO-AのLiDAR反射性能を検証するために、905nmの2Dレーザスキャナを装備したロボット車(Model TurtleBot 3 Burger)を使用して自動運転車を模倣した。レーザスキャナは、SLAM(自己位置推定と環境地図作成の同時実行)及びナビゲーションに使用するためにロボットの周りのデータセットを収集し、また障害物が検出されたときに停止を実行する360度を検知することができる。
図13Aは、塗装パネルが毎回自動運転ロボット車の前に配置されたセットアップを示し、挿入図は、カーボンブラック塗料と同一に見える調製されたN-CuO-A塗装パネルを示す。パネルによって反射され、スクリーン上に記録されたLiDARセンサの強度は、距離及び角度が固定されている場合、905nmにおけるパネルの反射強度にのみ比例する。試験したパネルを6インチの固定距離及び固定角度(8°)でロボット車の前に配置したときに、センサ上の検出されたLiDAR強度値を
図13BのBluetooth(登録商標)を介して記録した。それは、N-CuO-A塗装パネルが、カーボンブラックパネルで作られたものよりも著しく高いLiDAR強度(ほぼ1500%)を有することを明らかに示している。したがって、N-CuO-A塗料試料からのLiDAR反射率は、
図13Dに示すように、ロボット車が検出して自動「停止」を実行するのに十分であるが、
図13Cに示すように、近赤外波長でほぼ完全に吸収されるため、カーボンブラックパネルに「衝突する」。
【0094】
特定の実施形態を本明細書で例示及び説明したが、特許請求される主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な他の変更及び修正を行うことができることを理解されたい。さらに、特許請求される主題の様々な態様が本明細書に記載されているが、そのような態様は組み合わせて利用される必要はない。したがって、添付の特許請求の範囲は、特許請求される主題の範囲内にある全てのそのような変更及び修正を包含することが意図されている。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅結晶子であって、
5nm以上15nm以下の平均粒径と、
0.5以上1.5以下の(-111)/(111)の比と、
130以上170以下の黒色度Myと、を備え、
前記酸化銅結晶子が、
10.0%以下である電磁放射線の可視スペクトルにおける反射率と、
10%以上である電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける反射率と、を有する、酸化銅結晶子。
【請求項2】
前記酸化銅結晶子が、5%以下である電磁放射線の可視スペクトルにおける電磁放射線の反射率を有する、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項3】
前記酸化銅結晶子が、20%以上である電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける電磁放射線の反射率を有する、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項4】
前記(-111)/(111)の比が、0.9以上1.1以下である、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項5】
前記平均粒径が、8nm以上12nm以下である、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項6】
前記黒色度Myが、150以上170以下である、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項7】
前記平均粒径が、8nm以上12nm以下であり、
前記(-111)/(111)の比が、0.9以上1.1以下であり、
前記黒色度Myが、150以上170以下であり、
前記電磁放射線の可視スペクトルにおける前記反射率が、5.0%以下であり、
前記電磁放射線の近赤外及びLiDARスペクトルにおける前記反射率が、20%以上である、請求項1に記載の酸化銅結晶子。
【請求項8】
塗料であって、
塗料バインダと、
複数の請求項1に記載の酸化銅結晶子と、を含み、
前記塗料が、CIELAB色空間における明度が40以下の色を有する、塗料。
【請求項9】
請求項8に記載の塗料でコーティングされた本体パネルを備える、車両。
【請求項10】
酸化銅結晶子を形成するための方法であって、
沈殿剤を硝酸銅を含む溶液と組み合わせて沈殿物を形成することと、
前記沈殿物を乾燥させ、それにより乾燥沈殿物を得ることと、
前記乾燥沈殿物を焼結して、5nm以上15nm以下の平均粒径を有する酸化銅結晶子を形成することと、を含み、
前記沈殿剤が、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸アンモニウムからなる群から選択される、方法。
【請求項11】
前記沈殿剤が、水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
Cu/Naモル比が、0.3以上1.6未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Cu/Naモル比が、0.5以上1.0未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
Cu/Naモル比が、0.65以上0.76未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化銅結晶子を乾燥させることが、100℃以上140℃以下の温度で0.5時間以上5.0時間以下の期間乾燥させることを含む、請求項10に記載の方法。
【国際調査報告】