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特表2024-522632自閉症スペクトラム障害(ASD)を治療する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】自閉症スペクトラム障害(ASD)を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/27 20060101AFI20240614BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K31/27
A61P25/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575881
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 KR2022008238
(87)【国際公開番号】W WO2022260484
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】63/209,463
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511206696
【氏名又は名称】エスケー バイオファーマスティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジンヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ソクファン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヒョンソク
(72)【発明者】
【氏名】カン,ホウォン
(72)【発明者】
【氏名】カク,ヨンド
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ミンジェ
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA22
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
(57)【要約】
本開示、一般に、式(I)の化合物を用いて自閉症スペクトラム障害(ASD)を治療する方法に関するものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)又はASDの1つ以上の症状を治療又は予防する方法であって、それを必要とする対象に、治療有効量の下記式(I)
【化1】
(式中、Rは、-H、アルキル、ハロ、アルコキシ、ニトロ、ヒドロキシ、ハロアルキル、及びチオアルコキシからなる群から選択され、
xは、1~3の整数であり、ただし、xが2又は3である場合、Rは同じであっても異なっていてもよく、
1及びR2は、独立して、-H、アルキル、アリール、アリールアルキル、及びシクロアルキルからなる群から選択されるか、又はR1及びR2は、一緒に、アルキル又はアリールで任意に置換される5~7員の複素環基を形成し、ここで、複素環基は、1~2個の窒素原子及び0~1個の酸素原子を含むことができ、ここで、窒素原子は、互いに又は酸素原子と直接結合していない。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルを投与することを含む、方法。
【請求項2】
Rは、-H、炭素数1~8の低級アルキル、F、Cl、Br及びIから選択されるハロ、炭素数1~3のアルコキシ、ニトロ、ヒドロキシ、トリフルオロメチル、及び炭素数1~3のチオアルコキシからなる群から選択されるメンバーであり、
xは、1~3の整数であり、ただし、xが2又は3である場合、Rは同じであっても異なっていてもよく、
1及びR2は、互いに同じであっても異なっていてもよく、独立して、-H、炭素数1~8の低級アルキル、アリール、アリールアルキル、炭素数3~7のシクロアルキルからなる群から選択されるか、またはR1及びR2は結合して、-H、アルキル、及びアリール基からなる群から選択されるメンバーで置換される5~7員の複素環を形成することができ、ここで、環状化合物は、1~2個の窒素原子及び0~1個の酸素原子を含むことができ、ここで、窒素原子は、互いに、又は酸素原子と直接結合していない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Rが-Hであり、xが1である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
R、R1、及びR2のそれぞれが、-Hであり、xが1である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
式(I)の化合物が、他のエナンチオマーを実質的に含まない式(I)のエナンチオマー、又は式(I)の1つのエナンチオマーが優勢であるエナンチオマー混合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
式(I)のエナンチオマーが、約90%以上の程度まで優勢である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
式(I)のエナンチオマーが、約98%以上の程度まで優勢である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
式(I)のエナンチオマーが、下記式(Ia)
【化2】
で示されるエナンチオマー又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
式(Ia)のエナンチオマーが、(R)又は(D)エナンチオマーである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
式(Ia)のエナンチオマーが、(S)又は(L)エナンチオマーである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
式(Ia)のエナンチオマーが、約90%以上の程度まで優勢である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
式(Ia)のエナンチオマーが、約98%以上の程度まで優勢である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
他のエナンチオマーを実質的に含まない式(I)のエナンチオマーが、下記式(Ib)
【化3】
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル、又は式(Ib)の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが優勢であるエナンチオマー混合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
式(Ib)の化合物が、約90%以上の程度まで優勢である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
式(Ib)の化合物が、約98%以上の程度まで優勢である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
自閉症スペクトラム障害(ASD)が、自閉症、自閉性障害、アスペルガー症候群、レット症候群、アンジェルマン症候群、ウィリアムズ症候群、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)、小児期崩壊性障害、及びスミス・マギニス症候群からなる群から選択される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
自閉症スペクトラム障害(ASD)が、レット症候群である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
自閉症スペクトラム障害(ASD)が、自閉症である請求項16に記載の方法。
【請求項19】
治療が、不安、社会的相互作用の障害、複数の非言語的行動の使用における障害、発達レベルに適した仲間関係構築の失敗、楽しみ、興味又は成果を共有しようとする自発的な努力の欠如、社会的又は感情的な相互関係の欠如、コミュニケーション障害、制限された反復的な興味や行動、自発的なごっこ遊びの欠如、異常な恐怖条件付け、異常な社会的行動、反復的な行動、異常な夜間行動、発作活動、異常な運動、Phospho-ERK1/2の異常発現、Phospho-Aktの異常発現、及び徐脈からなる群から選択される1つ以上の症状を軽減する、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
式(I)の化合物の治療有効量が、約0.01mg/kg/用量~約300mg/kg/用量である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、神経発達障害を治療する方法などの薬理学及び神経学分野に関する。より具体的には、本開示は、自閉症(autism)、自閉性障害(autistic disorder)、アスペルガー症候群(Asperger Syndrome)、レット症候群(Rett syndrome)、アンジェルマン症候群(Angelman syndrome)、ウィリアムズ症候群(Williams syndrome)、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)、小児期崩壊性障害(childhood disintegrative disorder)及び/又はスミス・マギニス症候群(Smith-Magenis syndrome)を含む自閉症スペクトラム障害(ASD)などの神経発達障害の治療のためにカルバメート化合物を使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、学習障害、知的障害(精神遅滞としても知られている)、行動障害、脳性麻痺、視覚、聴覚、運動、言語及び言語の障害を伴う複雑な神経発達疾患である。自閉症スペクトラム障害には、自閉症、自閉性障害、アスペルガー症候群、レット症候群、アンジェルマン症候群、ウィリアムズ症候群、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)、小児期崩壊性障害及びスミス・マギニス症候群が含まれる。
【0003】
この疾患の臨床過程は、6~18カ月までの初期の正常な発達の後、1歳から4歳の間に脳発達の停止、深刻な表現言語の障害、手の常同運動(stereotypic hand movement)発達、歩行失調及び体幹失行/運動失調(truncal apraxia/ataxia)が出現する。罹患者は主に若い女性で、患者の95%以上がメチル-CpG-結合タンパク質2(MeCP2)遺伝子にde novo変異を保有している。脳内のMeCP2発現は厳密に制御されており、その発現変化が脳機能の異常につながることから、MeCP2がRTTの病理生物学及び疾患メカニズムにおいて自閉症スペクトラム障害のいくつかの症例に関与していることが示唆されている(非特許文献1)。
【0004】
その他の頻発な症状には、呼吸機能障害、脳波(EEG)異常、発作、痙攣、脊柱側弯症及び成長低下がある(非特許文献1)
【0005】
レット様症候群には、退行を伴う又は伴わない知的障害(ID)、てんかん、乳児脳症、出生後小頭症、自閉症スペクトラム障害の特徴、及びその他の様々な神経学的症状など、様々な臨床特徴を共有している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biomolecules 2021, 11, 75
【非特許文献2】Mol Syndromol. 2012 Apr; 2(3-5): 217-234.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レット症候群を含むASDには治療法がなく、現在治療薬もない。いくつかの薬が発作、呼吸困難を含む睡眠障害、不安、うつ病、集中力の低下などの関連症状に使用できることが報告されているだけである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)又はASDの1つ以上の症状を治療又は予防する方法であって、それを必要とする対象に、治療有効量の下記式(I)
【化1】
(式中、Rは、-H、アルキル、ハロ、アルコキシ、ニトロ、ヒドロキシ、ハロアルキル及びチオアルコキシからなる群から選択され、
xは、1~3の整数であり、ただし、xが2又は3である場合、Rは同じであっても異なっていてもよく、
1及びR2は、独立して-H、アルキル、アリール、アリールアルキル及びシクロアルキルからなる群から選択されるか、又はR1及びR2は、一緒にアルキル又はアリールで任意に置換される5~7員の複素環基を形成し、ここで、複素環基は、1~2個の窒素原子及び0~1個の酸素原子を含むことができ、ここで、窒素原子は、互いに又は酸素原子と直接結合していない。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルを投与することを含む、方法を提供する。
【0009】
一実施態様において、Rは、-H、炭素数1~8の低級アルキル、F、Cl、Br及びIから選択されるハロ、炭素数1~3のアルコキシ、ニトロ、ヒドロキシ、トリフルオロメチル、及び炭素数1~3のチオアルコキシからなる群から選択され、
xは、1~3の整数であり、ただし、xが2又は3である場合、Rは同じであっても異なっていてもよく、
1及びR2は、互いに同じであっても異なっていてもよく、独立して、-H、炭素数1~8の低級アルキル、アリール、アリールアルキル、炭素数3~7のシクロアルキルからなる群から選択され、R1及びR2は結合して、-H、アルキル、及びアリールからなる群から選択されるメンバーで置換される5~7員の複素環基を形成することができ、ここで、複素環基は、1~2個の窒素原子及び0~1個の酸素原子を含むことができ、ここで、窒素原子は、互いに、又は酸素原子と直接結合していない。
【0010】
本開示は、また、自閉症スペクトラム障害(ASD)又はASDの1つ以上の症状の治療又は予防用薬剤の製造のための下記式(I)
【化2】
(式中、R、R1、R2及びxは、前記定義されたものと同義である。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの使用を提供する。
【0011】
本開示はまた、自閉症スペクトラム障害(ASD)又はASDの1つ以上の症状の治療又は予防に使用するための、式(I)
【化3】
(式中、R、R1、R2及びxは、前記定義されたものと同義である。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルを含む医薬組成物を提供する。
【0012】
いくつかの実施態様において、式(I)の化合物が、下記式(Ia)
【化4】
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルである。
【0013】
いくつかの一部実施態様において、式(I)の化合物が、下記式(Ib)
【化5】

で示される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルである。この化合物は、(R)-(β-アミノ-ベンゼンプロピル)カルバメート又はO-カルバモイル-(D)-フェニルアラニノールと呼ばれ、ADX-N05、SKL-N05、YKP10A、及びR228060とも呼ばれている。
【0014】
いくつかの実施態様において、自閉症スペクトラム障害(ASD)が、自閉症、自閉性障害、アスペルガー症候群、レット症候群、アンジェルマン症候群、ウィリアムズ症候群、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)、小児崩壊性障害、及びスミス・マギニス症候群からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1図3は、MeCP2KO初代ニューロンの形態学的回復に対する試験化合物の投与効果を、神経突起伸長、シナプス形成及び細胞体サイズの観点からそれぞれ示している。
図2図1図3は、MeCP2KO初代ニューロンの形態学的回復に対する試験化合物の投与効果を、神経突起伸長、シナプス形成及び細胞体サイズの観点からそれぞれ示している。
図3図1図3は、MeCP2KO初代ニューロンの形態学的回復に対する試験化合物の投与効果を、神経突起伸長、シナプス形成及び細胞体サイズの観点からそれぞれ示している。
図4図4は、生理食塩水で処置したMeCP2KOマウス(Null)と比較した、MeCP2KOマウス(Null)における生存期間延長に対する試験化合物の投与効果を示す。
図5図5は、生理食塩水で処置したMeCP2KOマウス(HET)及びWTマウスと比較した、MeCP2KOマウス(HET)の体重変化に対する試験化合物の投与効果を示す。
図6図6及び図7は、MeCP2KOマウス(HET)の運動機能に対する試験化合物の投与効果を、それぞれ加速ロータロッド(accelerating rotarod)及び後肢の握りこみ(hindlimb clasping)試験の観点から、食塩水で処置したMeCP2KOマウス(HET)及び食塩水で処置したWTマウスと比較して示す。
図7図6及び図7は、MeCP2KOマウス(HET)の運動機能に対する試験化合物の投与効果を、それぞれ加速ロータロッド(accelerating rotarod)及び後肢の握りこみ(hindlimb clasping)試験の観点から、食塩水で処置したMeCP2KOマウス(HET)及び食塩水で処置したWTマウスと比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示に記載の発明は、式(I)の化合物が新規かつ独特の薬理学的特性を有するという発見に部分的に基づいている。具体的には、式(I)の化合物は、インビトロ及び動物モデルの両方において、レット症候群などのASDを治療、予防又は改善する効果を有することが示されている。式(I)の化合物は、MeCP2ノックアウト初代神経細胞及び動物において、メチル-CpG結合タンパク質2(MeCP2)をコードする遺伝子の機能喪失変異による構造的異常及び行動異常を改善させる。MeCP2遺伝子変異は、他の自閉症スペクトラム障害と重要な特徴を共有するレット症候群のほとんどの症例の原因である。また、最近発表された論文では、MeCP2-P152L、MeCP2-R294X又はMeCP2-P376Sの変異が自閉症患者から同定されており、これがMeCP2タンパク質の適切な生理的機能に影響を及ぼし、自閉症の発病に寄与している可能性があると報告した(Molecular Autism volume 8, Article number: 43 (2017))。
【0017】
従って、式(I)の化合物は、自閉症スペクトラム障害(ASD)又はASDの1つ以上の症状の治療又は予防における使用に適している。いくつかの実施態様において、本開示は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の重症度を予防又は減少する方法を提供する。この方法は、下記式(I)
【化6】
(式中、Rは、-H、アルキル、ハロ、アルコキシ、ニトロ、ヒドロキシ、ハロアルキル及びチオアルコキシからなる群から選択され、
xは、1~3の整数であり、ただし、xが2又は3である場合、Rは同じであっても異なっていてもよく、
1及びR2は、独立して-H、アルキル、アリール、アリールアルキル及びシクロアルキルからなる群から選択されるか、又はR1及びR2は、一緒にアルキル又はアリールで任意に置換される5~7員の複素環基を形成し、ここで、複素環基は、1~2個の窒素原子及び0~1個の酸素原子を含むことができ、ここで、窒素原子は、互いに又は酸素原子と直接結合していない。)で示されるフェニルアルキルアミノカルバメート、又はそれらのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体若しくは混合物、又はそれらの薬学的に許容される塩若しくはエステルからなる群から選択される化合物の治療有効量を、それを必要とする治療が必要な対象に投与することを含む。
【0018】
この方法はまた、下記式(Ia)の構造を有する、R、R1及びR2が-Hから選択される、式(I)の化合物の使用を含む:
【化7】
【0019】
この方法はまた、式(I)のDエナンチオマー化合物又は式(Ia)(R、R、及びRが-Hから選択される)からなる群から選択されるDエナンチオマーが優勢であるエナンチオマー混合物の使用を含み、すなわち、前記化合物は、下記式(Ib)の構造を有するO-カルバモイル-(D)-フェニルアラニノールである;(つまり、Dエナンチオマーでは、下記の通り、キラル炭素上のアミン基は紙面の中に向かっている):
【化8】
【0020】
式(I)からなる群から選択される1つのエナンチオマーが優勢であるエナンチオマー混合物については、特定の実施態様では、式(I)からなる群から選択されるエナンチオマーが約90%以上の程度まで優勢である。いくつかの他の実施態様において、式(I)のエナンチオマーが約98%以上の程度まで優勢である。
【0021】
一実施態様において、式(I)の化合物は、以下に示す構造の(D)エナンチオマーからなり、ここで、R、R1、R2はすべて-Hであり、以下に示される構造において、アミン基は紙面から下に向いている:
【化9】
【0022】
この化合物は、(R)エナンチオマーであり、化学名は(R)-(β-アミノ-ベンゼンプロピル)カルバメートである。この化合物は、右旋性のエナンチオマーであるため、O-カルバモイル-(D)-フェニルアラニノールと名付けられ、本明細書では「試験化合物」と呼ばれている。この2つの化学名は、本明細書では、互換的に使用される場合がある。
【0023】
この化合物は、多くの動物モデルで試験され、メチル-CpG結合タンパク質2(MeCP2)をコードする遺伝子の機能喪失変異による構造異常及び行動異常が強く改善されるなどの効果が実証されている。
【0024】
式(I)の化合物は、当該技術分野で公知の方法により合成することができる。式(I)の化合物の塩及びエステルは、化合物を適切な溶媒中で適切な無機酸又は有機酸(HX)で処理することによって、又は当該技術分野で公知の他の手段によって製造することができる。
【0025】
式(I)の化合物を合成するための前記反応スキームの詳細及び特定の化合物の製造に関する代表例は、アメリカ特許第5,705,640号、アメリカ特許第5,756,817号、アメリカ特許第5,955,499号及びアメリカ特許第6,140,532号に記載されており、これらはすべて参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0026】
本開示の化合物の中には、少なくとも1つ、場合によってはそれ以上の不斉炭素原子を有する。本発明は、その範囲内に化合物の立体化学的に純粋な異性体及びこれらのラセミ体を含む。立体化学的に純粋な異性体は、当該技術分野で公知の原理を適用して得ることができる。ジアステレオマーは、分別結晶化及びクロマトグラフィー技術などの物理的分離方法によって分離することができ、エナンチオマーは、ジアステレオマー塩の光学活性酸又は塩基による選択的結晶化又はキラルクロマトグラフィーによって互いに分離することができる。純粋な立体異性体は、適切な立体化学的に純粋な出発物質から合成的に、又は立体選択的反応を使用して製造することもできる。
【0027】
本発明の化合物を製造するための工程のいずれにおいて、関係する分子上の感受性基または反応性基を保護することが必要及び/又は好ましい場合がある。これは、例えば、文献[Protective Groups in Organic Chemistry, ed. J.F.W. McOmie, Plenum Press, 1973; 及びT.W. Greene & P.G.M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, Third Edition, John Wiley & Sons, 1999.]に記載されているような従来の保護基によって達成することができる。保護基は、当該技術分野で公知の方法を使用して、都合のよい後続の工程で除去することができる。
【0028】
他の実施態様には、自閉症スペクトラム障害(ASD)の治療又は予防のための医薬の製造のための、前記化合物又はエナンチオマー若しくはエナンチオマー混合物の中の1つ、又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの使用を含む。
【0029】
定義
便宜上、明細書、実施例及び添付の特許請求の範囲に使用されている特定の用語をここに集めておく。本発明は、記載された特定の方法論、プロトコル、動物種又は属、及び試薬に限定されず、それ自体が変化し得る。
【0030】
本明細書で使用された用語「治療有効量」とは、研究者、獣医、医師又は他の臨床医が対象としている組織系、動物、又はヒトにおいて生物学的又は医学的反応を誘発する活性化合物又は医薬製剤の量を意味し、これには、治療中の疾患又は障害の1つ又は複数の兆候又は症状の緩和が含まれる。また、治療有効量の製剤又は併用療法は、対象の疾病状態、年齢、体重、及び対象において望む反応を引き起こす製剤の能力などの要因に応じて変化し得ることを理解しなければならない。最適な治療反応が得られるように投与計画を調整することができる。治療有効量は、治療上有益な効果が、活性化合物のあらゆる毒性又は有害な効果に勝る量でもある。
【0031】
用語「予防的有効量」は、研究者、獣医、医師又はその他の臨床医が、組織、系、動物、又はヒトにおいて予防しようとする生物学的又は医学的事象の発生リスクを予防又は軽減する医薬品の量を意味することを意図する。
【0032】
用語「薬学的に許容される塩若しくはエステル」は、一般に、遊離酸と適切な有機若しくは無機塩基と、又は遊離塩基と適切な有機若しくは無機酸と反応させることによって製造される、本開示で使用される化合物の無毒性塩又はエステルを意味する。このような塩としては、アセテート、ベンゼンスルホネート、ベンゾエート、ビカーボネート、ビスルフェート、ビタルトラート、ボレート、ブロミド、カルシウム、カルシウムエデタート、カンシラート、カーボネート、クロリド、クラブラネート、シトラート、ジヒドロクロリド、エデタート、エジシラート、エストレート、エシレート、フマレート、グルセプテート、グルコネート、グルタメート、グリコリルアルサニラート、ヘキシルレゾルシネート、ヒドラバミン、ヒドロブロミド、ヒドロクロリド、ヒドロキシナプトアート、ヨージド、イソチオナート(isothionate)、ラクテート、ラクトビオナート、ラウレート、マラート(malate)、マレエート(maleate)、マンデラート、シレート、メチルブロマイド、メチルニトラート、メチルスルフェート、ムケート(mucate)、ナプシラート、ニトラート、オレエート、オキサレート、パモアート、パルミテート、パントテナート、ホスフェート/ジホスフェート、ポリガラクチュロネート、カリウム、サリチラート、ナトリウム、ステアレート、サブアセテート、スクシネート、タンネート、タルトラート、テオクレート、トシラート、トリエチオジド及びバレラート(valerate)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
用語「対象」又は「患者」は、本明細書で互換的に使用され、本明細書で使用される場合、本開示の組成物が投与され得る、ヒトの患者又は対象を含むが、これらに限定されない、ヒトを含む任意の哺乳動物を意味する。用語「哺乳動物」は、ヒトの患者及びヒト以外の霊長類だけでなく、ウサギ、ラット及びマウスなどの実験動物及びその他の動物を含む。対象又は患者は、成長の減速又は言語の退行、意図的な手の動きを含む運動機能の低下を観察することによって診断される場合がある。対象はまた、常同運動、自閉症特徴、パニック様発作、睡眠サイクル障害、振戦、発作、呼吸機能障害(エピソード性無呼吸、過呼吸)、失行(apraxia)、ジストニア、ジスキネジア、筋緊張低下、進行性の後彎症又は脊柱側彎症、及び深刻な認知障害からなる群から選択される1つ以上の症状又は障害を有していてもよい。
【0034】
本明細書で使用される用語「治療すること」又は「治療」は、傷害、病態又は状態の予防又は改善における成功の指標を指し、これには、軽減;緩和;症状の軽減、又は傷害、病態、若しくは状態を患者にとってより耐えられるようにすること;変性若しくは衰退又は疾患の悪化の速度が遅くなること;悪化最終段階での衰弱を軽減すること;又は対象の身体的又は精神的健康を改善すること、などの客観的又は主観的なパラメータが含まれる。症状の治療又は改善は、失行、ジストニア、ジスキネジア、筋緊張低下、脊柱側弯症、反復的な手の動き及び常同運動などの運動技能の改善、言語・嚥下能力、認知機能及び呼吸機能の改善の結果をはじめとする、客観的又は主観的パラメータに基づき得る。
【0035】
本明細書で使用される用語「予防すること」又は「予防」は、傷害、病態又は状態の発症を予防すること、すなわち特に対象(好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト)、特に前記対象が病的状態を発症する傾向がある場合、疾患又は病的病態の発生を防止することからなる。
【0036】
本明細書で使用される用語「治療効果」は、前述の作用を効果的に提供することを意味する。
【0037】
化合物、治療剤、又は既知の薬物と本開示の化合物との「同時投与」又は「併用投与」という用語は、既知の薬剤又は薬物に加えて、既知の薬物と化合物の両方が治療効果を有するようなタイミングで、本開示の1つ又は複数の化合物を投与することを意味する。ある実施態様では、この治療効果は相乗的である。このような併用投与は、本開示の化合物の投与に関して、既知の薬物と一緒(すなわち、同時に)、その前又はその後の投与を含むことができる。当業者であれば、本開示の特定の薬物及び化合物について、適切な投与時期、順序及び投与量を容易に決定することができる。
【0038】
いくつかの実施態様において、本開示の化合物は、治療を必要とする患者又は対象にASDの治療を提供するための薬剤を製造するために、単独で、又は相互に組み合わせて、又は前記のような1つ以上の他の治療薬物、又はそれらの塩若しくはエステルと組み合わせて、使用される。
【0039】
用語「アルキル」は、直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を指す。一実施態様において、アルキルは1~12個の炭素原子を有する。いくつかの実施態様において、アルキルは、1~4個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素を指す「C1-C4アルキル」である。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
用語「試験化合物」又は「テスト化合物」は、O-カルバモイル-(D)-フェニルアラニノールとも呼ばれる(R)-(β-アミノ-ベンゼンプロピル)カルバメートの塩酸塩を意味する。この化合物は、構造的には式(Ib)で示される(R)エナンチオマーであり、また、右旋性のエナンチオマーでもある。
【0041】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的相互作用及びコミュニケーションにおける異常、制限された興味及び反復的な行動を特徴とする一連の連鎖的な発達障害の集合体である。自閉症スペクトラム障害(ASD)には、自閉症、自閉性障害、アスペルガー症候群、レット症候群、アンジェルマン症候群、ウィリアムズ症候群、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)、小児期崩壊性障害、及びスミス・マギニス症候群が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
自閉症は、非常に多様な神経発達障害である。典型的には乳児期又は幼児期に診断され、生後6か月から明らかな症状が現れ、2~3才までに確立される。DSM-IVの基準によると、自閉症診断には、(a)社会的相互作用の障害、(b)コミュニケーションの障害、及び(c)制限的かつ反復的な興味と行動を含む3徴候がなければならない。異常な摂食などの他の機能障害もよくみられるが、診断に必須ではない。これらの障害のうち、社会的相互作用の障害は診断において特に重要であり、自閉症の診断には、以下の障害のうちの2つが存在する必要がある。
(i)社会的相互作用を制御するための複数の非言語的行動(例:アイコンタクト)の使用における障害
(ii)発達レベルに応じた仲間関係構築の失敗;
(iii)楽しみ、興味又は成果を共有しようとする自発的な努力の欠如
(iv)社会的又は感情的な相互関係の欠如
【0043】
重要なのは、自閉症がニューロン結合に関してレット症候群の特徴を共有していることである。3つの疾患はすべて、シナプス機能とニューロン結合の欠陥が特徴である。これは、これらの患者群の死後のヒトの脳の研究に反映されており、いずれも正常なシナプス結合が形成されていないことを示している。これは、形態学的特徴の変化に反映され、ニューロンの樹状突起スパイン密度が減少するか、樹状突起スパイン密度は増加するが未熟なシナプスを伴うかのいずれかである。これは、自閉症、レット症候群及び脆弱性X症候群(Fragile X Syndrome)の動物モデルに反映されており、これらのモデルは、これらの疾患において病的であることが知られている遺伝的変化に基づいている。これら動物モデルでは、ニューロンの結合不全が形態学的に、また長期増強(LTP)の失敗として明らかにされている。
【0044】
自閉症は、早期乳児自閉症、小児自閉症、又はカナー自閉症など、いくつかの異なる方法で呼ばれている。
【0045】
アスペルガー症候群又はアスペルガー障害は、自閉症に似ており、特定の特徴を共有する。自閉症と同様に、アスペルガー症候群も社会的相互作用の障害を特徴とし、制限的かつ反復的な興味と行動を伴う。従って、アスペルガー症候群の診断は、自閉症と同じ障害の3徴候によって特徴付けられる。しかし、言語や認知の発達に一般的な遅れがなく、対象の環境への関心の欠如がないという点、他のASDとは異なる。さらに、アスペルガー症候群は、典型的には古典的な自閉症よりも症状が重篤ではなく、アスペルガー患者は自給自足で機能し、比較的正常な生活を送る可能性がある。
【0046】
レット症候群(RTT)は、ほぼ女性のみが罹患する神経発達障害である(出生10,000人に1人)。RTTは、自閉症スペクトラム障害として分類されている(精神障害の診断及び統計マニュアル、第4版-改正版(DSM-IV-R))。現在、米国では、約16,000人の患者がこの疾患を罹患している(レット症候群リサーチトラストのデータ)。レット症候群診断には、以下の症状が特徴的である。生後6~18か月の発達障害;生後3か月から~4歳の間で始まる頭の成長速度の低下;重度の言語障害;反復的かつ常同的な手の動き;及び歩行異常、例えば、つま先歩き、又は不安定な足のつまずき歩き。また、レット症候群の診断に役に立つ可能性がある多数の補助基準があるが、診断において必須ではない。ここには、呼吸困難、脳波異常、発作、筋肉強直と痙攣、脊柱側弯症(脊椎の湾曲)、歯ぎしり、身長に対して小さい手足、成長遅延、体脂肪及び筋肉量の減少、異常な睡眠パターン、いらいらや興奮、咀嚼及び/又は嚥下障害、血行不良と便秘などが含まれる。
【0047】
RTTの発症は通常、生後6~18か月の間に始まり、発達と成長速度が遅くなる。これに続いて、退行期(通常は1~4歳の小児)、仮性安定期(2~10歳)及びその後の進行性の後期運動機能低下状態が続く。RTTの症状には、成長の急激な減速、言語・運動技能の退行(意図的な手の動きが常同的な動きに置き換わること)、自閉症特徴、パニック様発作、睡眠サイクル障害、振戦、発作、呼吸機能障害(エピソード性無呼吸、過呼吸)、失行、ジストニア、ジスキネジア、筋緊張低下、進行性の後湾症又は脊柱側彎症及び重度の認知障害が含まれる。RTT患者のほとんどは、重度の障害を抱えながら成人まで生存し、24時間体制のケアを必要とする。
【0048】
RTTの85%~95%の症例は、メチル-CpG結合タンパク質2(MeCP2)をコードする遺伝子であるMeCP2遺伝子の変異によって引き起こされると報告された((Amir et al. 1999. Nat Genet 23: 185-188; Rett Syndrome Research Trust)。Mecplは、X染色体(Xq28の位置)にマッピングされており、このため、男性における遺伝子の変異は通常致命的である。RTTは遺伝性の疾患であるが、遺伝する症例は全体の1%未満である。Mecp2のほぼすべての変異は、新たに発生し、3分の2は、3番目及び4番目のエクソンに位置する8個のCpGジヌクレオチド(R106、R133、T158、R168、R255、R270、R294及びR306)の変異によって引き起こされる。MeCP2+/-モデルは、ASDと潜在的に関連するRTTにおける特定の皮質処理異常を対象とした前臨床開発に役立つ可能性がある(Neurobiol Dis. 2012 Apr;46(1):88-92.)。
【0049】
MeCP2は、メチル化CpGジヌクレオチドに結合して、CNSにおけるDNAの転写サイレンシングを発揮するタンパク質である。MeCP2の減少又は欠如の主な影響は、樹状突起スパイン発達及びシナプス形成の障害であると考えられる。MeCP2発現は、脳の成熟と時間的に相関関係があるようであり、典型的な症状が生後18か月頃に現れる理由を説明している。
【0050】
アンジェルマン症候群は、主に神経系に影響を及ぼす複雑な遺伝性疾患である。この疾患の特徴として、発達遅延、知的障害、重度の言語障害と運動及び平衡感覚の問題(運動失調症)などが挙げられる。レット症候群とアンジェルマン症候群は、重度の知的障害、小頭症、言語障害、歩行及び/又は体幹性運動失調を伴う運動障害、及び時々、類似した顔貌を特徴とする神経発達障害である。
【0051】
ウィリアムズ症候群は、ウィリアムズ-ベーレン症候群としても知られ、出生前後の成長遅延(出生前及び出生後の成長遅延)、低身長、様々な程度の精神的欠陥、及び一般には年齢とともに顕著になる独特の顔貌を特徴とする稀な遺伝性疾患である。
【0052】
PDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)は、他の明確に定義されたASDに関連する症状のすべてではないが、一部を示す患者を表すASDである。ASD診断の主な基準には、他者との社交性の困難、反復的な行動、及び特定の刺激に対する過敏症が含まれる。これらはすべて、前記のASDに見られる。しかし、自閉症、アスペルガー症候群、レット症候群及び小児期崩壊性障害はすべて、特定の診断を可能にする他の特徴を有している。これらの4つ障害のいずれかについて、具体的な診断はできないが、ASDが明らかな場合、PDD-NOSと診断される。このような診断は、スペクトラムの他の状態に適用できる年齢より遅い年齢で始まる症状に起因する可能性がある。
【0053】
ヘラー症候群としても知られている小児期崩壊性障害(CDD)は、子供が2~4歳までは正常に発達する(すなわち、自閉症及びレット症候群よりも遅い)が、その後、社会性、コミュニケーション、及びその他の技能が著しく失われる症状である。小児期崩壊性障害は、自閉症とよく似ており、どちらも正常な発達に続いて、言語、社会的遊び及び運動能力の重大な喪失を伴う。しかし、小児期崩壊性障害は通常、自閉症よりも遅く発症し、より劇的な技能の喪失を伴い、はるかに稀である。
【0054】
スミス・マギニス症候群(SMS)は、身体の多くの部分に影響を及ぼす発達障害である。この疾患の主な特徴には、軽度~中等度の知的障害、会話や言語能力の遅れ、独特の顔特徴、睡眠障害及び行動上の問題などがある。
【0055】
いくつかの実施態様では、ASDの症状は、不安、社会的相互作用の障害、複数の非言語的行動の使用の障害、発達レベルに適した仲間関係構築の失敗、楽しみ、興味又は成果を共有しようとする自発的な努力の欠如、社会的又は感情的な相互関係の欠如、コミュニケーション障害、制限された反復的な興味や行動、自発的なごっこ遊びの欠如、異常な恐怖条件付け、異常な社会的行動、反復的な行動、異常な夜間行動、発作活動、異常な運動、Phospho-ERK1/2の異常発現、Phospho-Aktの異常発現、及び徐脈である。
【0056】
本開示の医薬組成物の治療上及び予防有効量を決定するための方法は、当該技術分野で知られている。例えば、ASDの治療薬として使用する場合、本開示の化合物は、平均成人の場合、通常、1日当たり1~3回の用量で、約0.1mg~1000mgの範囲の1日用量で使用することができる。しかしながら、有効量は、使用される特定の化合物、投与方法、製剤の強度、投与方法、及び病状の進行に応じて変化し得る。さらに、患者の年齢、体重、食事及び投与時間など、治療を受ける特定の患者に関連する要因により、投与量を調整する必要がある。典型的には、式(I)の化合物の用量は、10~25mg/日又は37.5~75mg/日で開始し、副作用が介入するまで、又は少なくも数日の間隔をおいて、又は十分な反応が得られるまで、1週間当たり約10~25mg/日の増量で増やし、最大容量は150mg/日~500mg/日又は500mg/日~2000mg/日の範囲とする。
【0057】
本開示の化合物は、静脈内投与、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、皮内投与及び非経口投与など、従来の任意の投与経路で対象に投与することができる。投与経路に応じて、式(I)の化合物は任意の形態に構成することができる。例えば、経口投与に適した形態には、丸剤、ゲルキャップ、錠剤、カプレット、カプセル(それぞれ即時放出、徐放及び徐放性製剤を含む)、顆粒剤及び粉末剤などの固体形態が挙げられる。経口投与に適した形態はまた、溶液、シロップ、エリキシル、エマルジョン及び懸濁液などの液体形態を含む。また、非経口投与に有用な形態には、滅菌溶液、エマルジョン及び懸濁液が含まれる。
【0058】
本開示の医薬組成物を製造するために、有効成分として1つ以上の式(I)の化合物又はその塩を、従来の製剤配合技術に従って薬学担体と混合する。担体は、結合剤、懸濁化剤、潤滑剤、香味剤、甘味剤、防腐剤、色素及びコーティング剤を含むが、これらに限定されない、必要かつ不活性な医薬賦形剤である。経口投与形態の組成物を製造する際には、通常の医薬担体のいずれかを使用することができる。例えば、液体経口製剤の場合、適した担体及び添加剤には、水、グリコール、オイル、アルコール、香味剤、防腐剤、着色剤などが挙げられ、固体経口製剤の場合、適した担体及び添加剤には、デンプン、糖、希釈剤、顆粒剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤などが挙げられる。
【0059】
非経口使用の場合、担体は通常、滅菌水又は食塩水を含むが、例えば、溶解性の補助又は保存などの目的で他の成分が含まれてもよい。注射可能な懸濁液も製造することができ、この場合、適切な液体担体、懸濁化剤などを使用することができる。
【0060】
錠剤とカプセルは投与が容易であるため、最も有利な経口投与単位形態であり、この場合には固体の医薬担体が使用されることが明らかである。必要に応じて、錠剤は標準的な技術により糖衣又は腸溶コーティングすることができる。坐剤を製造することができ、この場合には担体としてココアバターを使用することができる。錠剤又は丸剤は、長期間作用するという利点をもたらす剤形を提供するために、コーティング又は他の方法で配合することができる。例えば、錠剤又は丸剤は、内部投与成分及び外部投与成分を含むことができ、後者は前者を覆う包膜の形態である。2つの成分は、腸溶性層によって分離することができ、胃での崩壊に抵抗し、内部の成分をそのまま十二指腸に到達させるか、又は放出が遅れるようにする役割を果たす。このような腸溶性層又はコーティングには、シェラック、セチルアルコール及びセルロースアセテートなどの材料を用いた複数のポリマー酸を含む様々な材料を使用することができる。
【0061】
有効成分は、化合物分子が結合した個々の担体としてモノクローナル抗体を使用することによって送達することもできる。有効成分は、標的化可能な薬物担体として可溶性重合体と結合することができる。このような重合体には、ポリビニル-ピロリドン、ピラン共重合体、ポリヒドロキシ-プロピル-メタクリルアミド-フェノール、ポリヒドロキシ-エチル-アスパルトアミド(aspartamide)-フェノール、又はパルミトイル残基で置換されるポリエチレンオキシド-ポリリジンが含まれる。また、有効成分は、薬物の放出調節を達成するのに有用な生分解性重合体の部類、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート及びヒドロゲルの架橋又は両親媒性ブロック共重合体に結合することができる。
【0062】
いくつかの実施態様において、これら組成物は、経口、非経口、経鼻、舌下若しくは直腸投与、又は吸入若しくは送気による投与のための錠剤、丸剤、カプセル、粉末剤、顆粒剤、滅菌非経口溶液又は懸濁液、定量エアロゾル又は液体スプレー剤、滴剤、アンプル剤、自動注射デバイス又は坐剤などの単位剤形である。
【0063】
あるいは、本開示の組成物は、週1回又は月1回の投与に適した形態で提供することができる。例えば、デカン酸塩などの活性化合物の不溶性塩を、筋肉内注射のためのデポー製剤を提供するように適合させることができる。
【0064】
本明細書の医薬組成物は、例えば、用量単位(例えば、錠剤、カプセル、粉末、注射剤、ティースプーン剤、坐剤など)当たり、前記のような有効用量を送達するのに必要な量の有効成分を含む。例えば、本明細書の医薬組成物は、単位用量当たり、約10~約1000mg又は約10~約500mgの有効成分を含有することができる。いくつかの実施態様では、医薬組成物は、約1mg~約1000mgの有効成分、又はその中の任意の範囲若しくは値、例えば、約10mg~約500mg、例えば、約37.5mg、約75mg、約150mg、又は約300mgの有効成分を含有する。いくつかの実施態様では、その範囲は、約10mg~約300mg又は約25~約200mgの有効成分である。
【0065】
いくつかの実施態様において、本発明の実施における使用に適したカルバメート化合物は、単独で、又は少なくとも1つ以上の他の化合物又は治療剤、例えば覚醒(arousal)又は覚醒度(alertness)を高めることができる他の製剤と同時に投与される。これらの実施態様では、本開示は、患者のASDを治療又は予防する方法を提供する。この方法は、治療を必要とする患者に、有効量の本明細書に開示されたカルバメート化合物の1つを、場合により有利な組み合わせ効果を提供する能力、例えば、本開示の化合物の活性化効果を増大させる能力がある1つ以上の他の化合物又は治療剤の有効量と組み合わせて投与する工程を含む。
【0066】
本開示には、式(I)の単離されたエナンチオマーの使用が含まれる。一実施態様では、対象に治療を提供するために、式(I)の単離されたS-エナンチオマーを含む医薬組成物が使用される。別の実施態様では、対象に治療を提供するために、式(I)の単離されたR-エナンチオマーを含む医薬組成物が使用される。
【0067】
本開示はまた、式(I)のエナンチオマーの混合物の使用を含む。一態様では、1つのエナンチオマーが優勢となる。混合物中で優勢なエナンチオマーは、混合物に存在する他のエナンチオマーのいずれよりも多い量、例えば、50%を超える量で混合物中に存在する。一態様では、1つのエナンチオマーが90%程度又は91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%又は98%以上の程度まで優勢となる。1つの特定実施態様では、式(I)の化合物を含む組成物で優勢なエナンチオマーは、式(I)のS-エナンチオマーである。
【0068】
本開示は、式(I)で示される化合物のエナンチオマー及び/又はエナンチオマー混合物を使用する方法を提供する。式(I)のカルバメートエナンチオマーは、ベンジル位に不斉キラル炭素を含有し、これはフェニル環に隣接する2番目の脂肪族炭素である。
【0069】
単離されたエナンチオマーは、対応するエナンチオマーが実質的に含まないものである。従って、単離されたエナンチオマーとは、分離技術を介して分離された化合物、又は対応するエナンチオマーを含まずに製造された化合物を指す。
【0070】
本明細書で使用される用語「実質的に含まない」は、化合物が有意に高い割合の1つのエナンチオマーから構成されていることを意味する。いくつかの実施態様では、化合物は、少なくとも約90重量%の好ましいエナンチオマーを含む。他の実施態様では、化合物は、少なくとも約99重量%の好ましいエナンチオマーを含む。好ましいエナンチオマーは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)並びにキラル塩の形成及び結晶化を含む、当業者に知られている任意の方法によってラセミ混合物から単離することができ、又は好ましいエナンチオマーは、本明細書に記載の方法によって製造することができる。
【0071】
医薬品としてのカルバメート化合物
本開示は、医薬品として、式(I)のラセミ混合物、エナンチオマー混合物及び/又は単離されたエナンチオマーを提供する。カルバメート化合物は、対象におけるASD治療を提供するための医薬品として製剤化される。
【0072】
一般に、本開示のカルバメート化合物は、経口、口腔、局所、全身(例えば、経皮、鼻腔内又は坐剤)、又は非経口(例えば、筋肉内、皮下又は静脈内注射)を含む、治療薬を投与するための当該技術分野で公知の任意の方法によって、医薬組成物として投与することができる。神経系への化合物の直接投与には、例えば、ポンプ装置の有無にかかわらず、頭蓋内又は脊柱内の針又はカテーテルを介した送達による、脳内、心室内(intraventricular)、脳室内(intracerebealventricar)、髄腔内(intrathecal)、大槽内(intracisternal)、脊髄内(intraspinal)又は脊髄周囲(peri-spinal)の投与経路への投与を含む。
【0073】
組成物は、錠剤、丸剤、カプセル、半固体、粉末、徐放性製剤、溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エリキシル剤、エアロゾル又はその他の適切な組成物の形態をとることができ、少なくとも1つの本開示の化合物を少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む。適切な賦形剤は当該技術分野で周知であり、これら及び組成物を製剤化する方法は、Alfonso AR: Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton PA, 1985などの標準文献に見出すことができ、その開示は、参照によりその全体があらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。特に注射液に適した液体担体としては、水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液及びグリコールが挙げられる。
【0074】
一実施態様において、カルバメート化合物は、水性懸濁液として提供される。本開示の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合したカルバメート化合物を含有することができる。このような賦形剤は、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム及びアカシアガムなどの懸濁化剤、及び天然のリン脂質(例:レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例:ステアリン酸ポリオキシエチレン、エチレンオキサイドと長鎖脂肪族アルコールの縮合生成物(例:ヘプタデカエチレンオキシセタノール(heptadecaethylene oxycetanol))、エチレンオキサイドとヘキシトール及び脂肪酸由来の部分エステルの縮合生成物(例:ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)、又はエチレンオキサイドとヘキシトール無水物及び脂肪酸由来の部分エステルの縮合生成物(例:ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)などの分散剤又は湿潤剤を含むことができる。
【0075】
水性懸濁液はまた、エチル又はn-プロピルp-ヒドロキシベンゾエートなどの1つ以上の保存剤、1つ以上の着色剤、1つ以上の香味剤、及び1つ以上の甘味剤、例えば、スクロース、アスパルテーム又はサッカリンを含有することができる。製剤は、浸透圧を調整することができる。
【0076】
本発明の方法で使用するためのオイル懸濁液は、カルバメート化合物をラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油若しくはヤシ油などの植物油、又は液体パラフィンなどの鉱油;又はこれらの混合物に懸濁させて製剤化することができる。オイル懸濁液は、蜜蝋、硬質パラフィン又はセチルアルコールなどの増粘剤を含むことができる。グリセロール、ソルビトール又はスクロースなどの甘味剤を加えて、口当たりの良い経口製剤を提供することができる。これらの製剤は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を加えて保存することができる。注射可能なオイルビヒクルの例としては、[Minto, J. Pharmacol. Exp. Ther. 281:93-102, 1997.]を参照する。本開示の医薬製剤は、水中油型エマルジョンの形態であってもよい。油相は、前記の植物油、鉱油、又はこれらの混合物であってもよい。
【0077】
適切な乳化剤としては、アカシアゴム及びトラガカントゴムなどの天然由来ゴム、大豆レシチンなどの天然由来のリン脂質、オレイン酸ソルビタンなどの脂肪酸及びヘキシトール無水物から誘導されるエステル又は部分エステル、及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートのようなこれらの部分エステルとエチレンオキサイドの縮合生成物が挙げられる。エマルジョンはまた、シロップやエリキシルの製剤のように甘味剤と香味剤を含むことができる。このような製剤はまた、粘滑剤(demulcent)、保存剤又は着色剤を含有することができる。
【0078】
選択した化合物は単独で、又は他の適切な成分と組み合わせてエアロゾル製剤にし(即ち、「噴霧剤」化し)、吸収投与することができる。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの加圧された許容可能な噴霧剤に入れることができる。
【0079】
例えば、関節内(関節中)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内及び皮下経路による非経口投与に適した本開示の製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤及び製剤を対象レシピエントの血液と等張性にする溶質を含有できる水性及び非水性等張滅菌注射溶液、及び懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤及び保存剤を含む水性及び非水性滅菌懸濁液を含むことができる。使用できる許容可能なビヒクル及び溶媒には水及び等張性塩化ナトリウムであるリンゲル溶液がある。また、滅菌固定油は従来から溶媒又は懸濁媒質として使用することができる。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む、任意の刺激の少ない固定油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も同様に注射剤の製造に使用することができる。これらの溶液は無菌であり、通常、好ましくない物質が含まれていない。
【0080】
化合物が十分に溶解する場合には、それらは、プロピレングリコールやポリエチレングリコールなどの適した有機溶媒の使用の有無にかかわらず、生理食塩水に直接溶解することができる。微粉化された化合物の分散液は、水性デンプン又はナトリウムカルボキシメチルセルロース溶液、又はラッカセイ油などの適した油中で製造することができる。これらの製剤は、従来の周知の滅菌技術で滅菌することができる。製剤は、pH調節剤及び緩衝剤、毒性調節剤、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどの生理的条件に近づけるために必要に応じて薬学的に許容される補助物質を含有することができる。
【0081】
これらの製剤中のカルバメート化合物の濃度は、広範囲に変化し得、選択される特定の投与方式及び患者の要求に応じて、主に体液量、粘度、体重などに基づいて選択される。静脈内投与の場合、製剤は、滅菌された注射可能な水性又は油性懸濁液などの滅菌された注射可能な製剤であってもよい。この懸濁液は、適した分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて、公知技術に従って製剤化することができる。滅菌注射製剤はまた、無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒、例えば1,3-ブタンジオール溶液中の滅菌注射溶液又は懸濁液であってもよい。推奨製剤は、アンプル及びバイアルなどの単位用量又は複数用量の密封容器に入れることができる。注射溶液及び懸濁液は、前述した種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から製造することができる。
【0082】
特定の実施態様において、カルバメート化合物は経口投与される。組成物中のカルバメート化合物の量は、組成物の種類、単位投与量の大きさ、賦形剤の種類及び当業者に周知の他の要因によって大きく変わり得る。一般に、最終組成物は、例えば、0.000001重量%(%w)~50%w、好ましくは0.00001%w~25%wのカルバメート化合物をふくみ、残量は賦形剤又は添加剤である。
【0083】
経口投与用医薬製剤は、当該技術分野で周知の薬学的に許容される担体を経口投与に適した投与量で製剤化することができる。このような担体により、医薬製剤を、患者による摂取に適した錠剤、丸剤、粉末、糖衣錠、カプセル、液体、トローチ剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などの単位剤形に製剤化することが可能になる。
【0084】
経口投与に適した製剤は、(a)水、生理食塩水又はPEG400などの希釈剤に懸濁した有効量の医薬製剤などの液体溶液;(b)それぞれ所定量の有効成分を液体、固体、顆粒又はゼラチンとして含有するカプセル、小袋又は錠剤;(c)適切な液体中の懸濁液;及び(d)適切なエマルジョン、からなっていてもよい。
【0085】
経口使用のための医薬製剤は、本開示の化合物と固体賦形剤との組み合わせ、任意選択的に得られた混合物を粉砕し、所望により適切な追加の化合物を添加した後、顆粒の混合物を加工して錠剤又は糖衣錠コアを得ることで得ることができる。適した固体賦形剤は、炭水化物又はタンパク質の充填剤であり、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールを含む糖;トウモロコシ、小麦、米、ジャガイモ又はその他植物からのデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース又はナトリウムカルボキシメチルセルロースのようなセルロース;及びアラビア及びトラガカントを含むゴム;及びゼラチン及びコラーゲンなどのタンパク質を含むが、これらに限定されない。
【0086】
所望により、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、又はアルギン酸ナトリウムのようなその塩などの崩壊剤又は可溶化剤を添加することができる。錠剤の形態は、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、微晶質セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びその他賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、香味剤、染料、崩壊剤及び薬学的に適した担体の中の1つ以上を含むことができる。トローチ剤(Lozenge)の形態は、香味剤、例えば、スクロース中に有効成分を含むことができ、トローチ(pastille)は、不活性基剤中、例えば、ゼラチン及びグリセリンなどの中に有効成分を含み、あるいはスクロース及びアカシアのエマルジョン、ゲル、並びに同類のものは、有効成分に加えて当該技術分野で公知の担体を含む。
【0087】
一実施態様において、本開示の化合物は、薬物の直腸投与のための坐剤の形態で投与される。このような製剤は、室温では固体であるが直腸温では液体であり、したがって直腸内で溶解して薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤と薬物を混合して製造することができる。このような物質は、ココアバターとポリエチレングリコールである。
【0088】
一実施態様において、本開示の化合物は、坐剤、吸入剤(insufflation)、粉末及びエアロゾル製剤を含む、鼻腔内、眼内、膣内及び/又は直腸内経路で投与される(ステロイド吸入剤の例は、Rohatagi, J. Clin. Pharmacol. 35:1187-1193, 1995; Tjwa, Ann. Allergy Asthma Immunol. 75:107-111, 1995を参照)。
【0089】
一実施態様において、本開示の化合物は、アプリケータースティック、溶液、懸濁液、エマルジョン、ゲル、クリーム、軟膏、ペースト、ゼリー、ペイント、粉末及びエアロゾルとして製剤化され、局所経路によって経皮的に送達される。
【0090】
カプセル化物質も本開示の化合物とともに使用することができ、用語「組成物」は、他の担体の有無にかかわらず、製剤としてカプセル化物質と組み合わせて有効成分を含むことができる。例えば、本開示の化合物はまた、体内で徐放性のために微小球体として送達され得る。一実施態様において、微小球体は、皮下に徐々に放出される薬物(例えば、ミフェプリストン)含有微小球体の皮内注射(例えば、J. Biomater Sci. Polym. Ed. 7:623-645, 1995を参照)を介して;生分解性及び注射型ゲル製剤(例えば、Gao, Pharm. Res. 12:857-863, 1995を参照)として;又は経口投与用微小球体(例えば、Eyles, J. Pharm. Pharmacol. 49:669-674, 1997を参照)として投与することができる。経皮経路と皮内経路の両方で、数週間又は数か月にわたる断続的な送達が可能である。カシェー(Cachet)もまた、本開示の化合物の送達に使用することができる。
【0091】
別の実施態様において、本開示の化合物は、細胞膜と融合するか、又はエンドサイトーシスされるリポソームの使用によって、すなわち、エンドサイトーシスをもたらす細胞の表面膜タンパク質受容体に結合するリポソームに結合したリガンドを使用することによって送達される。活性薬物は、小さな単層リポソーム、大きな単層リポソーム及び多重層リポソームなどのリポソーム送達システムの形態で投与することができる。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミン又はホスファチジルコリンなどの様々なリン脂質から形成できる。
【0092】
リポソームを使用することにより、特にリポソーム表面が標的細胞に特異的なリガンドを担持している場合、又は他の方法で特定の器官に優先的に向けられている場合、インビボで標的細胞内へのカルバメート化合物の送達を集中させることができる(例えば、Al-Muhammed, J. Microencapsul. 13:293-306, 1996; Chonn, Curr. Opin. Biotechnol. 6:698-708, 1995; Ostro, Am. J. Hosp. Pharm. 46:1576-1587, 1989を参照)。
【0093】
様々な実施態様において、本開示の化合物は、塩として提供され、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などを含むが、これらに限定されない多くの酸で形成することができる。塩は、対応する遊離塩基の形態である水性溶媒又は他のプロトン性溶媒に溶解しやすい傾向がある。他の場合において、好ましい製剤は、例えば、以下のいずれか又はすべてを含有できる凍結乾燥粉末であり得る:pH4.5~5.5の範囲で、1mM~50mMヒスチジン、0.1%~2%スクロース、2%~7%マンニトール、使用前に緩衝液と組み合わされる。
【0094】
薬学的に許容される塩及びエステルは、薬学的に許容され、所望の薬理学的特性を有する塩及びエステルを指す。このような塩には、化合物中に存在する酸性プロトンが無機塩基又は有機塩基と反応できる場合に形成され得る塩が含まれる。好適な無機塩としては、アルカリ金属、例えば、ナトリウム及びカリウム、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムで形成されたものが挙げられる。好適な有機塩としては、アミン塩基、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トゥロメタミン、N-メチルグルカミンなどの有機塩基で形成されたものが挙げられる。薬学的に許容される塩にはまた、親化合物中のアミン残基と無機酸(例:塩酸及び臭化水素酸)及び有機酸(例:酢酸、クエン酸、マレイン酸、アルカン及びアレーン-スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との反応から形成される酸付加塩が含まれることがある。薬学的に許容されるエステルには、化合物中に存在するカルボキシ基、スルホニルオキシ基及びホスホノキシ(phosphonoxy)基から形成されたエステルが含まれる。2個の酸性基が存在する場合、薬学的に許容される塩又はエステルは、モノ-酸-モノ-塩又はエステル又はジ-塩又はエステルであってもよく;同様に、2個以上の酸性基が存在する場合、このような基のうち一部又は全部を塩化(salify)又はエステル化することができる。
【0095】
本開示に記載の化合物は、未塩化又は未エステル化形態、又は塩化及び/又はエステル化形態で存在し得、このような化合物の命名は、元の(未塩化及び未エステル化)化合物、及びその薬学的に許容される塩及びエステルの両方を含むことを意図している。本開示は、式(I)の薬学的に許容される塩及びエステル形態を含む。式(I)のエナンチオマーの1つ以上の結晶形が存在し得、そのようなものもまた本開示に含まれる。
【0096】
本開示の医薬組成物は、選択的に、カルバメート化合物に加えて、ASDの治療に有用な少なくとも1つの他の治療剤を含有することができる。例えば、式(I)のカルバメート化合物は、投与を単純化するために、固定用量組み合わせで他の活性化化合物又は刺激性化合物と物理的に組み合わせることができる。
【0097】
医薬組成物の製剤化方法は、[Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets. Second Edition. Revised and Expanded. Volumes 1-3, edited by Lieberman et al; Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications. Volumes 1-2, edited by Avis et al; and Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems. Volumes 1-2, edited by Lieberman et al; published by Marcel Dekker, Inc.]などの出版物に記載されている。その開示は、参照によりその全体があらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。
【0098】
医薬組成物は、一般に、滅菌で実質的に等張性であり、米国食品医薬品局(FDA)のすべての適正製造基準(GMP)規制を完全に遵守して製剤化される。
【0099】
投薬計画
本開示は、カルバメート化合物を使用して哺乳動物におけるASDを治療する方法を提供する。ASD治療を提供するために必要なカルバメート化合物の量は、治療上又は薬学的に有効な投与量として定義される。このような用途に有効な投薬スケジュール及び量、すなわち投与量又は投薬計画は、疾患の段階、患者の身体状態、年齢などを含む様々な要因に依存する。患者への投与量を計算する際には、投与方法も考慮される。
【0100】
当業者は、その技術及び本開示を考慮して、過度な実験を行うことなく、本発明の実施のための特定の置換カルバメート化合物の治療有効量を決定することができる(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (Vols. 1-3, 1992); Lloyd, 1999, The art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding; and Pickar, 1999, Dosage Calculationsを参照)。治療上有効な投与量は、臨床的には、活性剤のいかなる毒性又は有害な副作用よりも、治療上有益な効果が上回る用量でもある。さらに、特定の対象ごとに、個人のニーズ及び化合物の投与を管理又は監督する者の専門的判断に従って、特定の投与計画を評価し、経時的に調製すべきであることを留意しなければならない。
【0101】
治療目的のために、本明細書に開示された組成物又は化合物は、単一ボーラス送達で、長期間にわたる連続送達を介して、又は繰返し投与プロトコル(例えば、毎時、毎日又は毎週の繰返し投与プロトコル)で対象に投与することができる。医薬製剤は、例えば、毎日1回以上、1週間に3回、又は毎週投与することができる。一実施態様では、医薬製剤は、1日1回又は2回経口投与される。
【0102】
これに関連して、生物学的活性薬剤の治療上有効な投与量には、ASD治療を提供するために臨床的に有意な結果をもたらす長期の治療計画内の繰返し投与量が含まれることがある。この文脈における有効投与量の決定は、通常、ヒト臨床試験の前の動物モデル試験に基づいており、対象における標的曝露(targeted exposure)の症状又は症状の発生又は重症度を有意に軽減する有効用量及び投与プロトコルを決定することによって導かれる。適したモデルとしては、例えば、マウス(murine)、ラット、ブタ、ネコ、非ヒト霊長類、及び当該技術分野で公知の他の許容される動物モデル対象が含まれる。あるいは、有効投与量は、インビトロモデル(例:免疫学的及び組織病理学的分析)を使用して決定することができる。
【0103】
このようなモデルを使用すると、治療上有効な量の生物学的活性剤(例えば、所望の反応を惹起するために経鼻的に有効な量、経皮的に有効な量、静脈内に有効な量、または筋肉内に有効な量)を投与するための適切な濃度および用量の決定には、通常、通常の計算および調整のみが必要となる。
【0104】
例示的な実施態様において、化合物の単位剤形は、標準的な投与計画用に製造される。このようにして、組成物は、医師の指示により、より少ない用量に容易に小分けすることができる。例えば、単位投与量は、分包された粉末、バイアル又はアンプルであり、好ましくはカプセル又は錠剤の形態で製造することができる。
【0105】
組成物のこれらの単位剤形中に存在する活性化合物は、患者の特別な要求に準じて、単回又は複数回の1日の投与のために、例えば、約10mg~約1g以上の量で存在することができる。約1gの最小1日投与量で治療計画を開始することにより、カルバメート化合物の血中濃度を用いて、より多い投与量又はより少ない投与量のいずれかが適応であるかを決定することができる。
【0106】
例示的な実施態様において、式(I)の化合物の治療有効量は、約0.01mg/kg/用量~約300mg/kg/用量である。カルバメート化合物の有効な投与は、例えば、約0.01mg/kg/用量~約150mg/kg/用量の経口又は非経口用量である。例えば、投与は、約0.1mg/kg/用量~約25mg/kg/用量、例えば、約0.2~約18mg/kg/用量、例えば、約0.5~約10mg/kg/用量であってもよい。従って、有効成分の治療有効量は、例えば、平均体重70kgを有する対象において、例えば、約1mg/日~約7000mg/日、例えば、約10~約2,000mg/日、例えば、約50~約600mg/日、例えば、約10、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、又は600mg/日以上、又はその中の任意の範囲である。一実施態様では、式(I)の化合物は、賦形剤を含まずに約150mg~約300mgの用量でカプセルの形態で投与される。
【0107】
一実施態様において、本開示は、ASDの治療を提供する際に使用するためのキットを提供する。治療効果がある1つ以上の他の化合物を任意選択的に添加した、1つ以上のカルバメート化合物を含む医薬組成物を、適した担体中で製剤化した後、それを適切な容器に入れて、ASDの治療を提供するためのラベルを貼り付けることができる。さらに、少なくとも1つの他の治療剤を含む別の医薬品も同様に容器内に入れて、表示された疾患の治療用にラベルを貼り付けることができる。このようなラベルには、例えば、各医薬品の量、頻度及び投与方法に関する指針が含まれ得る。
【0108】
前述の発明は、理解を明確にする目的で実施例によって詳細に記載されているが、特定の変更および修正が本開示によって包含され、限定ではなく例示のために提示された添付の特許請求の範囲内で過度の実験をすることなく実施され得ることは、当業者には明らかであろう。以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するために提供されるものであり、限定を意味するものではない。
【実施例
【0109】
試験化合物の製造
本試験は、式(I)のフェニルアルキルアミノカルバメートの(D)又は(R)エナンチオマー、具体的には、前記式(Ib)として示されており、本願では「試験化合物」として呼ばれているO-カルバモイル-(D)-フェニルアラニノール((R)-(β-アミノ-ベンゼンプロピル)カルバメートとも呼ばれ得る)の効果を決定するために行われた。試験化合物は、WO1996/07637に開示された実施例I~IIIの合成方法に従って製造された。
【0110】
インビボモデル
試験化合物の治療効果をインビボでの一連の実験で調べ、MeCP2欠損動物における構造的及び行動異常に対する効果を決めた。インビボモデルは、ASDを予測することが知られている。皮質感覚処理の障害は、レット症候群(RTT)及び自閉症スペクトラム障害(ASD)で実証されている。これは高次の表現型欠損に寄与することが考えられている。MeCP2+/-モデルは、ASDに関連する可能性があるRTTにおける特定の皮質処理異常を標的とした前臨床開発に有用である(Neurobiol Dis. 2012 Apr;46(1):88-92.)。自閉症及びその他の神経発達障害におけるMeCP2免疫蛍光をレーザー走査型サイトメトリーで定量し、大規模組織マイクロアレイ上の対照死後大脳皮質サンプルと比較した。自閉症11/14例(79%)、RTT9/9例(100%)、アンジェルマン症候群4/4例(100%)、プラダー・ウィリ症候群3/4例(75%)、ダウン症候群3/5例(60%)前頭葉皮質サンプルにおいて、年齢をマッチさせた対照群と比較して、MeCP2発現の有意な減少が認められた(Epigenetics. 2006; 1(4): e1-11.)。
【0111】
試験では、野生型(WT)マウスとヘテロ接合性MeCP2ノックアウトマウス(HET)を使用した。すべてのマウスは、メイン州バーハーバーの Jackson Laboratory から提供された。HETマウスは、ノックアウト雌(HET)と野生型(WT)雄性(C57B/6J)を交配することによって得られたバードマウス(Jackson Laboratories, Bar Harbor, Me., B6.129P2(C)-Mecp2.sup.tm1.1Bird/Stock Number: 003890)であった。129P2(C)-Mecp2.sup.tm1.1Bird/Jは、レット症候群様の神経学的欠陥を示す構成的Mecp2ノックアウトである。
【0112】
試験マウスの飼育はSKバイオファーム社で行い、MeCP2ノックアウトマウス(NullとHET)を神経形態学的分析と運動行動検査にそれぞれ使用した。最近の研究では、自閉症患者におけるMeCP2遺伝子の遺伝子変異が同定され、この遺伝子変異は、これまで主にRTTに関連すると考えられていたが、別の結果から、遺伝的及びエピジェネティックな欠陥の両方がMeCP2発現の低下につながり、自閉症の複雑な病因において重要である可能性が示唆された。(Molecular Autism volume 8, Article number: 43 (2017), Epigenetics. 2006; 1(4): e1-11.)
【0113】
実験例1:MeCP2KO初代ニューロンの形態学的回復
(1)方法
MeCP2KOマウス初代皮質ニューロンをP0で培養し、免疫細胞化学染色で形態学的変化を分析した。
【0114】
BDNF(50ng/mL)又は試験化合物(80及び2000nM)をDIV1から指示された日まで処置した。DIV5で、神経突起形成の分析のためにMAP2免疫染色を用いて神経突起伸長を分析した。
【0115】
MeCP2KOマウス初代皮質ニューロンをP0で培養し、免疫細胞化学染色で形態学的変化を分析した。
【0116】
BDNF(50ng/mL)又は試験化合物(1000nM)をDIV1から指示された日まで処置した。DIV14で、シナプシン-1、MAP2免疫染色及びHoechstによる核染色を用いて、シナプス形成及び細胞体サイズを分析した。
【0117】
(2)結果
MeCP2が失われると、シナプスが機能しなくなり、神経突起の形成と細胞体サイズの縮小が起こり、脳内での成熟が損なわれた。これは、MeCP2動物とRTT患者の両方におけるRTT特異的な神経表現型である。試験化合物は、神経突起の長さをBDNFと同程度まで有意に増大させ、シナプス形成及び細胞体サイズを増大させた(図1~3)。
【0118】
実験例2:生存率
(1)方法
試験群は以下の通りである:
ビヒクルNull群:ビヒクル(0.9%生理食塩水、10mL/kg)
試験化合物Null群:100mg/kg、0.9%生理食塩水で経口(po)
【0119】
約5週齢のNullマウスにビヒクル又は試験化合物を毎日経口注射で処置した。すべての動物が死亡するまで、MeCP2ノックアウトマウス(Null群)の生存率試験を行った。
【0120】
(2)結果
ビヒクル処置されたNullマウスと比較して、試験化合物(100mg/kg)で処置されたNullマウスは、ILS%が42.7%増加したことが分かった。また、寿命が有意に延長した(P<0.0046、ログランク試験(ログランク検定))。
ILS(自立生活スケール)%:100×(試験群の日数中央値-ビヒクル群の生存日数中央値)/ビヒクル群の生存日数中央値(図4)。
【0121】
実験例3:体重
(1)方法
試験群は下記の通りである:
ビヒクルWT群:ビヒクル(0.9%食塩水、10mL/kg)
ビヒクルHET群:ビヒクル(0.9%食塩水、10mL/kg)
試験化合物HET群:100mg/kg、0.9%食塩水にて経口投与
【0122】
約5週齢のWT及びHETマウスに、ビヒクル又は試験化合物を毎日経口注射して処置した。マウスが16週齢になるまで処置を行った。
【0123】
(2)結果
ビヒクル処置された野生型マウスとHET対照マウスとの間で体重の差は観察されなかった。試験化合物は、慢性処置に対するHET動物の体重変化に影響を与えなかった(図5)。
【0124】
実験例4:加速ロータロッド試験及びクラスピング
(1)方法
ロータロッド試験は、齧歯類の運動協調性を評価するのに広く用いられており、特に小脳機能障害を検出するのに感度が高い。ロータロッドにおける運動性能は、運動協調性、学習及び心肺持久力などのいくつかの要因の影響を受ける可能性がある。いくつかの研究により、大脳基底核が一連の運動順序の運動スキルの学習に不可欠であることが示された。試験では、耐久時間(秒)又は持久力(RPM)などのパラメータを測定した。
【0125】
マウスを、一定又は可変の加速速度4rpmで回転するロッドからなるロータロッド装置(Ugo Basile社製、イタリア)上に置いた。マウスがバランスを崩して下にあるプラットフォームに落ちると、タイマーが自動的に停止した。マウスをさらに一定の速度(4rpm)で5分間訓練し、転倒するたびにロッド上に戻した。少なくとも1時間の休息期間の後、動物を試験のために再びロータロッド装置に戻した。試験セッションですべての動物をロッドに置いた後、ロータロッド装置を5分間かけて加速速度(0~40rpm)にし、最初の落下時間を記録した。試験を1頭につき連続3回繰り返した。各試験セッションについて、ロッドから落ちたときのRPMスコアを記録した。
【0126】
(2)結果
ビヒクル処置されたHETマウスは、ビヒクル処置されたWTマウスに比べて、より急速に、より低速で転倒した。試験化合物で処置されたマウスは、ビヒクル処置されたHETマウスに比べて、ロッドから落ちるのに時間がかかり、落下速度も速かった(図6)。
【0127】
ビヒクル処置されたHETマウスは、ビヒクル処置された野生型マウスよりも握りこみが多かった。試験化合物(100mg/kg)で処置されたマウスは、ビヒクル処置されたHETマウスよりも握りこみが少なかった(図7)。
【0128】
まとめ
MeCP2遺伝子の調節障害は、齧歯類とヒトの両方の神経細胞において、神経突起の形成異常、細胞体サイズの縮小及びシナプス形成の調節障害といった主要な表現型を引き起こした。試験化合物は、脳のシナプス機能を改善する可能性のある初代ニューロンを介して、MeCP2遺伝子の調節障害によるニューロン表現型の改善に有効である。試験化合物は、MeCP2KO雌性及び雄性マウスにおいて、それぞれで運動機能及び生存率の改善につながる可能性がある。
【0129】
従って、式(I)の化合物を含む試験化合物は、レット症候群及び他のASDにおける神経学的欠損を改善させることができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】