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特表2024-522640高感度で温度多重化PCRを行うための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】高感度で温度多重化PCRを行うための方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20240614BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575960
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2023-12-08
(86)【国際出願番号】 EP2022067310
(87)【国際公開番号】W WO2022269023
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/215,137
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】クルニク,ロナルド
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ02
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、高感度で標的核酸を検出および定量するための温度多重化PCRのための方法を記載する。方法は、試料を温度多重化PCR用に設計されたプローブと接触させ、複数の温度で蛍光を測定し、シグナルを減算して、目的の各標的の計算されたシグナルを取得することによって実施される。さらに、方法は、第1の蛍光シグナルのベースラインを取得すること、および取得された第1の蛍光シグナルのベースラインを用いて計算されたシグナルを調整して、ベースラインシフトした計算されたシグナルを取得することを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の2以上の標的核酸配列を検出するための方法であって、
(a)単一の反応容器内において、前記2以上の標的核酸配列を含むことが疑われる前記試料を、それぞれが共通の蛍光色素を含むプローブペアと接触させるステップであって、前記プローブペアのうちの第1のプローブは第1の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記プローブペアのうちの第2のプローブは第2の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記第1のプローブおよび前記第2のプローブは温度多重化PCR用に設計されている、前記ステップ;
(b)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって前記第1の標的核酸配列および前記第2の標的核酸配列を増幅するステップ;
(c)第1の温度で前記共通の蛍光色素の第1の蛍光シグナルを測定するステップ;
(d)前記第1の温度よりも高い第2の温度まで温度を上昇させるステップ;
(e)前記第2の温度で前記共通の蛍光色素の第2の蛍光シグナルを測定するステップ;
(f)前記第1の蛍光シグナルを前記第2の蛍光シグナルから減算して、計算されたシグナルを取得するステップ;
(g)前記第1の蛍光シグナルのベースラインを取得するステップ;
(h)前記第1の蛍光シグナルの前記取得されたベースラインを用いて前記計算されたシグナルを調整して、ベースラインシフトした計算されたシグナルを取得するステップ;
(i)ステップ(b)からステップ(h)を複数のPCRサイクルで繰り返して、前記第1の標的核酸配列および前記第2の標的核酸配列から所望量の増幅産物を生成させるステップ;
(j)前記複数のPCRサイクル由来の前記第1の蛍光シグナルから前記第1の標的核酸配列の存在を判定し、かつ前記複数のPCRサイクル由来の前記ベースラインシフトした計算されたシグナルから前記第2の標的核酸配列の存在を判定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記第1の蛍光シグナルの前記ベースラインを取得することが、前記第1の温度で前記第1の蛍光シグナルの非線形回帰分析を実行して近似シグナル曲線を同定し、前記近似シグナル曲線から前記ベースラインを取得することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の蛍光シグナルの前記ベースラインを取得することが、前記近似シグナル曲線のy切片を求めることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記計算されたシグナルを調整することが、前記計算されたシグナルのy切片を前記近似シグナル曲線の前記y切片にマッチングさせることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の蛍光シグナルの前記ベースラインを取得することが、前記近似シグナル曲線のy切片およびベースラインスロープを求めることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記計算されたシグナルを調整することが、前記計算されたシグナルのy切片を前記近似シグナル曲線の前記y切片にマッチングさせること、および前記計算されたシグナルのベースラインスロープを前記近似シグナル曲線の前記ベースラインスロープにマッチングさせることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の標的核酸および前記第2の標的核酸の存在を判定することが、前記第1の蛍光シグナルの一連の相対蛍光強度値および前記ベースラインシフトした計算されたシグナルの一連の相対蛍光強度値を求めることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(i)前記第1の標的核酸配列の存在を判定することが、前記第1の蛍光シグナルの前記一連の相対蛍光強度値を閾値と比較することを含み;
(ii)前記第2の標的核酸配列の存在を判定することが、前記ベースラインシフトした計算されたシグナルの前記一連の相対蛍光強度値を第2の閾値と比較することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の標的核酸および前記第2の標的核酸の存在を判定することが、式:
【数1】
に基づいて計算される相対蛍光強度エンドポイント(RFIe)を求めることを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも3つの標的核酸配列が前記試料中で検出され、ステップ(a)において、前記試料を、前記共通の蛍光色素と、第3の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列とを含む第3のプローブとも接触させ、ステップ(b)において、前記第3の核酸もポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅され、前記方法が、
(e1)ステップ(e)の後に、前記第2の温度よりも高い第3の温度まで温度を上昇させるステップ;
(f1)前記第3の温度で前記共通の蛍光色素の第3の蛍光シグナルを測定するステップ;
(g1)前記第2の蛍光シグナルを前記第3の蛍光シグナルから減算して、第2の計算されたシグナルを取得するステップ;
(h1)前記第1の蛍光シグナルの前記取得されたベースラインを用いて前記第2の計算されたシグナルを調整して、第2のベースラインシフトした計算されたシグナルを取得するステップ;
(i1)ステップ(b)から(h)および(e1)から(h1)を複数のPCRサイクルで繰り返して、前記第1の標的核酸配列、前記第2の標的核酸配列、および前記第3の標的核酸配列から所望量の増幅産物を生成させるステップ;ならびに
(j1)前記複数のPCRサイクル由来の前記第2のベースラインシフトした計算されたシグナルから前記第3の標的核酸配列の存在を判定するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の蛍光シグナルの前記ベースラインを取得することが、前記第1の蛍光シグナルのy切片を求めることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記計算されたシグナルを調整することが、それぞれ、前記計算されたシグナルのy切片を前記第1の蛍光シグナルの前記y切片にマッチングさせることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の蛍光シグナルの前記ベースラインを取得することが、前記第1の蛍光シグナルのy切片およびベースラインスロープを求めることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記計算されたシグナルを調整することが、それぞれ、前記計算されたシグナルの各y切片を前記第1の蛍光シグナルの前記y切片にマッチングさせること、および前記計算されたシグナルの各ベースラインスロープを前記第1の蛍光シグナルの前記ベースラインスロープにマッチングさせることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プローブの各々が、様々な融解温度でそれぞれのクエンチングオリゴヌクレオチド分子にハイブリダイズしたタグ部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記プローブの各々が、様々な融解温度でそれぞれのクエンチングオリゴヌクレオチド分子にハイブリダイズしたタグ部分を含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための方法、特に、高感度で温度多重化PCRを行うための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、生物医学研究、疾患のモニタリングおよび診断の普遍的なツールとなっている。PCRによる核酸配列の増幅は、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、および同第4,965,188号に記載されている。PCRは現在、当技術分野で周知であり、科学文献に広く記載されている。PCR Applications、((1999)Innis et al.,eds.、Academic Press、San Diego)、PCR Strategies、((1995)Innis et al.,eds.、Academic Press、San Diego);PCR Protocols、((1990)Innis et al.,eds.、Academic Press、San Diego)、およびPCR Technology、((1989)Erlich,ed.、Stockton Press、New York)を参照されたい。「リアルタイム」PCRアッセイは、標的配列の増幅および検出および開始量の定量を同時に行うことができる。DNAポリメラーゼの5’から3’へのヌクレアーゼ活性を用いる基本的なTaqManリアルタイムPCRアッセイは、Holland et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.88:7276-7280および米国特許第5,210,015号に記載されている。ヌクレアーゼ活性なしのリアルタイムPCR(ヌクレアーゼ-フリーアッセイ)は、2008年12月9日に出願された米国出願シリアル番号第12/330,694号に記載されている。リアルタイムPCRにおける蛍光プローブの使用は、米国特許第5,538,848号に記載されている。
【0003】
蛍光プローブを用いた典型的なリアルタイムPCRのプロトコルは、各標的配列に特異的な標識されたプローブの使用を含む。プローブは、好ましくは、特定の波長で光を吸収および放出する1つまたは複数の蛍光部分で標識される。標的配列またはそのアンプリコンにハイブリダイズすると、プローブは、プローブハイブリダイゼーションまたは加水分解の結果として蛍光発光の検出可能な変化を呈する。
【0004】
しかしながら、リアルタイムアッセイの主な課題は、単一のチューブ内の多数の標的を分析する能力を維持することである。医学および診断の事実上あらゆる分野において、目的の遺伝子座の数は急速に増加している。例えば、いくつか例を挙げると、法医学のDNAプロファイリング、病原性微生物の検出、多遺伝子座遺伝子疾患のスクリーニングおよび多遺伝子の発現研究では、複数の遺伝子座を分析しなければならない。
【0005】
現在の方法の大半は、アッセイを多重化する能力は、検出機器によって制限されている。具体的には、同じ反応における複数のプローブの使用は、別個の蛍光標識の使用を必要とする。複数のプローブを同時に検出するために、機器は各プローブによって放出される光シグナルを識別できなくてはならない。市場に流通している現在の技術の大半は、同じ反応容器内で4~7を超える別個の波長を検出することができない。したがって、標的ごとに1つの一意的に標識されたプローブを使用すると、同じ容器内で4~7以下の別個の標的を検出できるにすぎない。実際には、少なくとも1つの標的は、通常、対照核酸である。したがって、実際には、同じチューブ内で3~6以下の実験標的が検出できるにすぎない。蛍光色素の使用はまた、約6つまたは7つの色素のみが顕著な重複干渉なしに可視スペクトル内に適合され得るという、スペクトル幅が原因で制限される。したがって、増幅および検出戦略に根本的な変化が生じない限り、アッセイを多重化する能力は、臨床面のニーズに追いつかないであろう。
【0006】
上記のニーズに対処するために、温度多重化PCR技法を用いて複数の標的核酸を検出するための方法が、米国特許出願シリアル番号第15/705,821号(US2018-073064A1として公開)に開示されており、その内容は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。これらの方法は、多重化の範囲を大幅に改善するが、臨床的に有益であるためには、このような方法の感度を改善するニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、高感度で核酸配列検出、特に温度多重化PCR技法を用いた複数の標的核酸の検出のための新規方法を提供する。方法は、試料を温度多重化PCR用に設計されたプローブと接触させ、複数の温度で蛍光を測定し、シグナルを減算して目的の各標的の計算されたシグナルを取得し、計算されたシグナルのベースラインを調整し、結果として得られたシグナルを評価して、標的を同定および定量することによって行われる。
【0008】
一態様では、試料中の2以上の標的核酸配列を検出するための方法が提供される。方法は、単一の反応容器内において、前記2以上の標的核酸配列を含むと疑われる試料を、それぞれが共通の蛍光色素を含むプローブペアと接触させることであって、プローブペアのうちの第1のプローブは第1の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、プローブペアのうちの第2のプローブは第2の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含む、プローブペアと接触させることを含む。第1のプローブおよび第2のプローブは、温度多重化PCR用に設計され得る。
【0009】
方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって第1の標的核酸配列および第2の標的核酸配列を増幅すること、第1の温度で共通の蛍光色素の第1の蛍光シグナルを測定すること、第1の温度よりも高い第2の温度まで温度を上昇させること、および第2の温度で共通の蛍光色素の第2の蛍光シグナルを測定することをさらに含む。方法は、第1の蛍光シグナルを第2の蛍光シグナルから減算して、計算されたシグナルを取得すること、第1の蛍光シグナルのベースラインを取得すること、および第1の蛍光シグナルの取得されたベースラインを用いて計算されたシグナルを調整してベースラインシフトした計算されたシグナルを取得することをさらに含む。
【0010】
方法は、上記のステップを複数のPCRサイクルで繰り返して、第1の標的核酸配列および第2の標的核酸配列から所望量の増幅産物を生成させること、ならびに複数のPCRサイクル由来の第1の蛍光シグナルから第1の標的核酸配列の存在を判定すること、および複数のPCRサイクル由来のベースラインシフトした計算されたシグナルから第2の標的核酸配列の存在を判定することをさらに含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、第1の蛍光シグナルのベースラインを取得することは、第1の温度で第1の蛍光シグナルの非線形回帰分析を実行して近似シグナル曲線を同定し、近似シグナル曲線からベースラインを取得することを含み得る。いくつかの実施形態では、第1の蛍光シグナルのベースラインを取得することは、近似シグナル曲線のy切片を求めることを含み得、計算されたシグナルを調整することは、計算されたシグナルのy切片を近似シグナル曲線のy切片にマッチングさせることを含み得る。他の実施態様では、第1の蛍光シグナルのベースラインを取得することは、近似シグナル曲線のy切片およびベースラインスロープを求めることを含み得、計算されたシグナルを調整することは、計算されたシグナルのy切片を近似シグナル曲線のy切片にマッチングさせること、および計算されたシグナルのベースラインスロープを近似シグナル曲線のベースラインスロープにマッチングさせることを含み得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1の標的核酸および第2の標的核酸の存在を判定することは、第1の蛍光シグナルの一連の相対蛍光強度値およびベースラインシフトした計算されたシグナルの一連の相対蛍光強度値を求めることを含み得る。例えば、第1の標的核酸配列の存在を判定することは、第1の蛍光シグナルの一連の相対蛍光強度値を閾値と比較すること、および第2の標的核酸配列の存在を判定することは、ベースラインシフトした計算されたシグナルの一連の相対蛍光強度値を第2の閾値と比較することを含み得る。例えば、第1の標的核酸および第2の標的核酸の存在を判定することは、以下の式に基づいて計算される相対蛍光強度エンドポイント(RFIe)を求めることを含み得る。
【数1】
【0013】
いくつかの実施形態では、方法は、試料中の少なくとも3つの標的核酸配列を検出する。例えば、試料を、共通の蛍光色素と、第3の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列とを含む第3のプローブとも接触させ得、第3の核酸もポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅される。そのような方法は、第2の温度よりも高い第3の温度まで温度を上昇させること、第3の温度で共通の蛍光色素の第3の蛍光シグナルを測定すること、第2の蛍光シグナルを第3の蛍光シグナルから減算して、第2の計算されたシグナルを取得すること、および第1の蛍光シグナルの取得されたベースラインを用いて第2の計算されたシグナルを調整して第2のベースラインシフトした計算されたシグナルを取得することをさらに含み得る。方法は、複数のPCRサイクルで上記ステップを繰り返して、第1の標的核酸配列、第2の標的核酸配列、および第3の標的核酸配列から所望量の増幅産物を生成させること、ならびに複数のPCRサイクル由来の第2のベースラインシフトした計算されたシグナルから第3の標的核酸配列の存在を判定することをさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の方法の一実施形態による、2つの温度での蛍光プローブを用いた温度多重化の図示である。
図2】本発明の方法の一実施形態による、3つの温度での温度多重化の図示である。
図3】2つの温度での蛍光シグナルおよびベースラインマッチングなしの減算されたシグナルを示す。
図4】本開示の方法の一実施形態による、図3に示す2つの温度での蛍光シグナルおよびベースラインマッチングした減算シグナルを示す。
図5】ベースラインマッチングなしで結果として得られたRFIe値のプロットを示す。
図6】本開示の方法の一実施形態による、ベースラインマッチしたシグナルを用いて結果として得られたRFIe値のプロットを示す。
図7】本開示の方法の一実施形態による、ベースラインマッチングを用いた高感度で温度多重化PCRを行うための方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
本明細書で使用される「試料」という用語は、核酸を含む標本または培養物(例えば微生物培養物)を含む。「試料」という用語はまた、生体試料および環境試料の両方を含むことを意味する。試料は、合成起源の標本を含み得る。生体試料としては、全血、血清、血漿、臍帯血、絨毛膜絨毛、羊水、脳脊髄液、髄液、洗浄液(例えば、気管支肺胞上皮、胃、腹膜、管、耳、関節鏡視下の)、生検試料、尿、糞便、痰、唾液、鼻粘液、前立腺液、精液、リンパ液、胆汁、涙液、汗、母乳、母体液(breast fluid)、胚細胞、および胎児細胞が挙げられる。好ましい実施形態では、生体試料は血液であり、より好ましくは血漿である。本明細書で使用される場合、「血液」という用語は、一般的な定義のとおり、全血または血液の任意の画分(例えば、血清および血漿)を包含する。血漿とは、抗凝固剤で処理された血液の遠心分離から生じる全血の画分を指す。血清とは、血液試料が凝固した後に残った体液の水様性部分を指す。環境試料としては、表面物質、土壌、水および工業試料などの環境物質、ならびに食品および乳製品の加工機器、装置、器具、設備、用具、使い捨ておよび非使い捨てアイテムから得られた試料が挙げられる。これらの例は、本発明に適用可能な試料の種類を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0016】
本明細書で使用される「標的」または「標的核酸」という用語は、その存在が検出もしくは測定されるか、またはその機能、相互作用もしくは特性が研究される任意の分子を意味することが意図されている。したがって、標的は、検出可能なプローブ(例えば、オリゴヌクレオチドプローブ)もしくはアッセイが存在するか、または当業者によって生成され得る本質的にいかなる分子も含む。例えば、標的は、検出可能なプローブ(例えば、抗体)と結合するか、そうでなければ接触することができる生体分子、例えば核酸分子、ポリペプチド、脂質、または炭水化物であり得、検出可能なプローブはまた、本発明の方法によって検出され得る核酸を含む。本明細書で使用される場合、「検出可能なプローブ」とは、目的の標的生体分子にハイブリダイズまたはアニーリングすることができ、本明細書に記載の標的生体分子の特異的検出を可能にする任意の分子または作用物質を指す。本発明の一態様では、標的は核酸であり、検出可能なプローブはオリゴヌクレオチドである。「核酸」および「核酸分子」という用語は、本開示を通して互換的に使用され得る。用語は、オリゴヌクレオチド、オリゴ、ポリヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA(mtDNA)、相補的DNA(cDNA)、細菌DNA、ウイルスDNA、ウイルスRNA、RNA、メッセージRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、siRNA、触媒RNA、クローン、プラスミド、M13、P1、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、増幅された核酸、アンプリコン、PCR産物および他の種類の増幅された核酸、RNA/DNAハイブリッド、ならびにポリアミド核酸(PNA)を指し、これらはすべて、一本鎖か二本鎖形態のいずれかであり得、特に限定しない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様の機能を果たすことができる天然ヌクレオチドの既知のアナログ、ならびにそれらの組み合わせおよび/または混合物を包含し得る。したがって、「ヌクレオチド」という用語は、ヌクレオシドのトリ、ジ、およびモノホスフェート、ならびにポリ核酸またはオリゴヌクレオチド内に存在するモノホスフェートモノマーを含む、天然に存在するヌクレオチドおよび改変された/天然に存在しないヌクレオチドの両方を指す。ヌクレオチドはまた、リボ;2’-デオキシ;2’,3’-デオキシ、ならびに当技術分野において周知な多数の他のヌクレオチド模倣物であり得る。模倣物としては、鎖終結ヌクレオチド、例えば3’-O-メチル、ハロゲン化塩基または糖置換;非糖、アルキル環構造を含む代替糖構造;イノシンを含む代替塩基;デアザ改変;カイ(chi)、およびプシー(psi)、リンカー改変;質量標識改変;ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ボラノホスフェート、アミド、エステル、エーテルを含むホスホジエステル改変または置換;および光開裂性二トロフェニル部分などの開裂連結を含む、塩基性または完全なインターヌクレオチド置換が挙げられる。
【0017】
標的の有無は、定量的または定性的に測定され得る。標的は、例えば単純もしくは複雑な混合物、または実質的に精製された形態を含む、様々な異なる形態があり得る。例えば、標的は、他の成分を含む試料の一部であり得るか、または試料の唯一のもしくは主要な成分であり得る。したがって、標的は、細胞または組織全体の成分、細胞もしくは組織抽出物、その分画されたライセート、または実質的に精製された分子であり得る。また、標的は、既知または未知の配列または構造のいずれかを有し得る。
【0018】
「増幅反応」という用語は、核酸の標的配列のコピーを増やすための任意のin vitro手段を指す。
【0019】
「増幅すること」とは、増幅を可能にするのに十分な条件に溶液を供するステップを指す。増幅反応の成分としては、例えば、プライマー、ポリヌクレオチドテンプレート、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、dNTPなどが挙げられ得るが、これらに限定されない。「増幅すること」という用語は、典型的には、標的核酸の「指数関数的」増加を指す。しかしながら、本明細書で使用される「増幅すること」とは、核酸の選択された標的配列の数の直線的増加を指し得るが、1回限りの単一プライマー伸長ステップとは異なる。
【0020】
「ポリメラーゼ連鎖反応」または「PCR」とは、標的の二本鎖DNAの特定のセグメントまたはサブ配列が等比数列的に増幅される方法を指す。PCRは当業者に周知であり;例えば、米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号;およびPCR Protocols:A Guide to Methods and Applications、Innis et al.,eds、1990を参照されたい。
【0021】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」とは、ホスホジエステル結合またはそのアナログによって連結された天然または改変ヌクレオシドモノマーの線状オリゴマーを指す。オリゴヌクレオチドとしては、標的核酸に特異的に結合することができる、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、それらのアノマー形態、ペプチド核酸(PNA)などが挙げられる。通常、モノマーは、ホスホジエステル結合またはそのアナログによって連結され、数個のモノマー単位(例えば3~4個)から数十個のモノマー単位(例えば40~60個)までのサイズの範囲のオリゴヌクレオチドを形成する。オリゴヌクレオチドが「ATGCCTG」などの文字の配列によって表される場合、特に断りのない限り、ヌクレオチドは、左から右へ5’-3’の順序であり、「A」はデオキシアデノシンを示し、「C」はデオキシシチジンを示し、「G」はデオキシグアノシンを示し、「T」はデオキシチミジンを示し、「U」はリボヌクレオシドであるウリジンを示すことが理解されるであろう。通常、オリゴヌクレオチドは、4つの天然デオキシヌクレオチドを含むが、それらは、リボヌクレオシドまたは非天然ヌクレオチドアナログも含み得る。酵素が活性のために特定のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質要件(例えば一本鎖DNA、RNA/DNAデュプレックスなど)を有する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質の適切な組成の選択は、十分に当業者の知識の範囲内である。
【0022】
本明細書で使用される場合、「オリゴヌクレオチドプライマー」または単に「プライマー」とは、標的核酸テンプレート上の配列にハイブリダイズし、オリゴヌクレオチドプローブの検出を容易にするポリヌクレオチド配列を指す。本発明の増幅実施形態では、オリゴヌクレオチドプライマーは、核酸合成の開始点として働く。非増幅の実施形態では、オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、切断剤によって切断され得る構造を作成することができる。プライマーは、様々な長さであり得、多くの場合、50ヌクレオチド長未満、例えば12~25ヌクレオチド長である。PCRで使用するためのプライマーの長さおよび配列は、当業者に既知の原理に基づいて設計され得る。
【0023】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチドプローブ」という用語は、目的の標的核酸にハイブリダイズまたはアニーリングすることができ、かつ標的核酸の特異的検出を可能にするポリヌクレオチド配列を指す。
【0024】
「レポーター部分」または「レポーター分子」は、検出可能なシグナルを与える分子である。検出可能な表現型は、例えば比色、蛍光または発光であり得る。「クエンチャー部分」または「クエンチャー分子」は、レポーター部分からの検出可能なシグナルをクエンチすることができる分子である。
【0025】
「ミスマッチヌクレオチド」または「ミスマッチ」とは、その位置(複数可)で標的配列に相補的でないヌクレオチドを指す。オリゴヌクレオチドプローブは、少なくとも1つのミスマッチを有し得、2、3、4、5、6もしくは7またはそれ以上のミスマッチヌクレオチドも有し得る。
【0026】
本明細書で使用される「多型」という用語は、対立遺伝子バリアントを指す。多型としては、一塩基多型(SNP)、ならびに単純配列長多型が挙げられ得る。多型は、別の対立遺伝子と比較して、ある対立遺伝子での1つまたは複数のヌクレオチド置換に起因し得るか、または挿入もしくは欠失、重複、逆位、および当技術分野で公知な他の改変に起因し得る。
【0027】
標的ポリヌクレオチドに対するプローブなど、1つの分子の別の分子への結合に関する「特異的」または「特異性」という用語は、2つの分子間の認識、接触、および安定な複合体の形成とともに、その分子と他の分子との大幅に弱い認識、接触、または複合体形成も指す。本明細書で使用される場合、「アニール」という用語は、2つの分子間の安定な複合体の形成を指す。
【0028】
プローブの少なくとも1つの領域が核酸配列の相補体の少なくとも1つの領域と実質的な配列同一性を共有する場合、プローブは、核酸配列に「アニーリングすることができる」。「実質的な配列同一性」は、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、95%または99%、最も好ましくは100%の配列同一性である。DNA配列およびRNA配列の配列同一性を求める目的では、UおよびTは、しばしば同じヌクレオチドと見なされる。例えば、配列ATCAGCを含むプローブは、配列GCUGAUを含む標的RNA配列にハイブリダイズすることができる。
【0029】
本明細書で使用される「切断剤」という用語は、オリゴヌクレオチドプローブを切断して断片を得ることができる任意の手段を指し、酵素を含むがこれに限定されない。増幅が起こらない方法の場合、切断剤は、オリゴヌクレオチドプローブの第2の部分またはその断片を切断、分解するか、そうでなければ分離するためにのみ役立ち得る。切断剤は、酵素であってもよい。切断剤は、天然でも合成でも、修飾されていてもいなくてもよい。
【0030】
増幅が起こる方法の場合、切断剤は、好ましくは、合成(または重合)活性およびヌクレアーゼ活性を有する酵素である。このような酵素は、しばしば核酸増幅酵素である。核酸増幅酵素の一例は、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)(Taq)DNAポリメラーゼ(TaqMan(登録商標))または大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼIなどの核酸ポリメラーゼ酵素である。酵素は、天然に存在するもの、非改変または改変されたものであり得る。
【0031】
「核酸ポリメラーゼ」とは、核酸へのヌクレオチドの取り込みを触媒する酵素を指す。例示的な核酸ポリメラーゼとしては、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、末端転移酵素、逆転写酵素、テロメラーゼなどが挙げられる。
【0032】
「耐熱性DNAポリメラーゼ」とは、選択された期間高温にさらされた場合に、安定であり(すなわち、分解または変性に耐え)、かつ十分な触媒活性を保持するDNAポリメラーゼを指す。例えば、耐熱性DNAポリメラーゼは、二本鎖核酸を変性させるのに必要な時間高温にさらされた場合に、後続のプライマー伸長反応を引き起こすのに十分な活性を保持する。核酸の変性に必要な加熱条件は当技術分野で周知であり、米国特許第4,683,202号および同第4,683,195号に例示されている。本明細書で使用される場合、耐熱性ポリメラーゼは、典型的には、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)などの温度サイクル反応における使用に適している。耐熱性核酸ポリメラーゼの例としては、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)Taq DNAポリメラーゼ、サーマス種(Thermus sp.)Z05ポリメラーゼ、サーマス・フラブス(Thermus flavus)ポリメラーゼ、サーモトガ・マリティマポリメラーゼ、例えばTMA-25およびTMA-30ポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼなどが挙げられる。
【0033】
前述の米国特許出願第15/705,821号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、温度多重化PCR技法は、各別個の蛍光プローブを使用して、別個の温度で蛍光をモニターすることによって複数の標的を同定することを可能にする。より低い温度でモニターされたシグナルは、後続の(より高い)温度シグナルから減算されて、目的のシグナル値を取得することができる。(図1を参照されたい。)より具体的には、前述の出願に記載されているように、温度多重化は、様々なTm温度でそれぞれのクエンチングオリゴヌクレオチド分子にハイブリダイズするタグ部分を有するようにプローブを設計し、Tm温度またはそれを超える複数の温度で蛍光を測定し、結果として得られたシグナルを処理して標的を同定および定量することによって行われ得る。
【0034】
例えば、1つの反応における3つの標的核酸の増幅および検出は、すべて同じフルオロフォアで標識された3つのオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって達成され得る。標準的なTaqMan(登録商標)オリゴヌクレオチドプローブを使用して、第1の温度(通常、PCRサイクルのアニーリング温度)で蛍光シグナルを測定することによって第1の標的を検出することができる。低いTmのタグ-クエンチングオリゴヌクレオチドデュプレックスを有する第1の「タグ付き」プローブを使用して、そのTm温度またはそれを超える、第1の温度よりも高い第2の温度で、計算された蛍光値を測定することによって、第2の標的を検出することができる。高いTmのタグ-クエンチングオリゴヌクレオチドデュプレックスを有する第2の「タグ付き」プローブを使用して、そのTm温度またはそれを超える、第2の温度よりも高い第3の温度で、計算された蛍光値を測定することによって、第3の標的を検出することができる。(図2を参照されたい)この方法論は、理論的には、1つの反応で12から21の間の異なる標的核酸を検出するために1つのTaqMan(登録商標)プローブおよび4~7個の異なるレポーター部分(例えば蛍光色素)を有する2つの異なるタグ化プローブの使用、または1つの反応で16から28の間の異なる標的核酸を検出するために1つのTaqMan(登録商標)プローブおよび3つの異なるタグ化プローブの使用を可能にするが、本開示による実施形態に従って実証されるように、改善された感度が望まれる。
【0035】
3つの温度T1、T2、およびT3(この例の目的については昇順)で読み取られる単一の蛍光チャネルの典型的な場合では、T1は標的「A」に関連付けられ、T2は標的「B」に関連付けられ、T3は標的「C」に関連付けられ、標的「A」の目的のシグナルは単にT1で生成されるシグナルであり、標的「B」の目的のシグナルはシグナル(T2)-シグナル(T1)であり、標的「C」のシグナルはシグナル(T3)-シグナル(T2)である。このシグナルの減算は、標的「B」および「C」の目的のシグナルが標的「A」のそれとは異なるベースラインの切片を有するようにし得ることが理解されよう。実際には、シグナルをさらに処理することなく、このようにしてこれらのシグナルを用いる標的の感度は、関連する標的の存在を確実かつ正確に同定すること、および/または関連する標的を定量することを可能にするためには望ましくないことがわかっている。
【0036】
本発明は、他のシグナルの減算によって計算された目的のシグナルを補正することによって、改善された感度を提供する。3つの異なる標的が、3つの温度(T1<T2<T3)で蛍光シグナルをモニターすることによって評価され得るように、異なる温度でそれぞれのクエンチングオリゴヌクレオチド分子にハイブリダイズするように設計されたプローブを有する単一の蛍光色素、例えばFAMを使用する場合、これらの3つの温度のシグナルは以下のように計算され得る(ここで、FAM(T)は、所与の温度Tで測定されるFAMの相対蛍光である):
式1:シグナル(T1)=FAM(T1)
式2:シグナル(T2)=FAM(T2)-(FAM_m1)xFAM(T1)
式3:シグナル(T3)=FAM(T3)-(FAM_m2)xFAM(T2)
【0037】
この場合、FAM_m1およびFAM_m2は、シグナルの温度間のゲインを等しくするために求められる色素固有のマルチプライヤーであり得る。例えば、マルチプライヤーは、式4を各温度のシグナルについて評価し、次いで、式5および6を用いて変数を解くことによって計算され得る。
式4:mT=中央値[最後の5つの蛍光値]-中央値[最初の5つの蛍光値]。
式5 xFAM(T1)=mT2/mT1
式6 xFAM(T2)=mT3/mT1
【0038】
3つの標的の同定および/または定量に使用される3つの関連シグナルを取得するために、式2および3に記載されているようなシグナル値の単純な減算を含む上記の計算を実行すると、これらのシグナルの各々は、必然的に異なるベースラインの切片を有することが理解されよう。多くの場合、このようなベースラインの切片の処理は、シグナルを適切に評価するために必要なスケールの不変性を維持しない可能性があるため、適切ではない。しかしながら、単一ウェル内の所与の蛍光色素に対して、光路はすべての温度で同一である。したがって、ベースラインの切片のマッチングは、所与のシグナルを異なる温度で同じフルオロフォアのそれに単純にマッチングさせるので、スケールの不変性を実際には維持する。したがって、本発明によれば、T2およびT3でのシグナルのベースラインをT1でのシグナルのベースラインとマッチングさせることによって、後続のより高い温度での蛍光シグナルのより正確な表現が取得され得る。本発明のいくつかの実施形態では、このベースラインアライメントまたはマッチングは、シグナルT2およびT3のy切片をシグナルT1のそれとマッチングさせることによって達成され得る。他の実施形態では、ベースラインアライメントまたはマッチングは、シグナルT2およびT3のy切片およびベースラインスロープの両方をシグナルT1のそれらとマッチングさせることによって達成され得る。シグナルのy切片およびベースラインスロープの両方をシグナルT1のそれらとマッチングさせることが望ましくかつ最も正確であり得るが、それはまた、より計算集約的であり得ることが理解されよう。したがって、後続の計算の感度を十分に改善することができるので、y切片を単純にマッチングさせることが適切であり得る。
【0039】
本発明によれば、これは、初期温度でのシグナルのPCRデータセットに適合する曲線への近似を特定し、次いでその近似の関連するベースラインパラメータを後続のより高い温度のシグナルに置換することによって行うことができる。すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる、所有者が共通の米国特許第7,680,868号に記載されているように、多くの場合、PCRデータセットは、式7、またはベースライン切片+スロープを含む同様の関数を用いた近似に適合され、xはサイクル数を指し、z~zは調整可能なパラメータである。
【数2】
【0040】
この例では、y切片はzとして与えられ、ベースラインスロープはzとして与えられる。したがって、シグナル(T2)およびシグナル(T3)とシグナル(T1)のそれとのベースラインマッチングは、シグナル(T2)およびシグナル(T3)のzまたはz+zxをシグナル(T1)の近似から求められたもので置換することによって行われ得る。以下でさらに詳細に説明するように、そのようなベースラインマッチングは、標的の感度を大幅に改善し、本発明の方法を使用して行われる判定および定量の信頼性および精度を改善する。
【0041】
図7は、本開示の方法の一実施形態による、ベースラインマッチングを用いた高感度で温度多重化PCRを行うための方法を示す。最初のステップ702では、標的核酸を含むことが疑われる試料を、単一の反応容器(例えば、単一の試験管またはマルチウェルマイクロプレートの単一のウェル)内で、温度多重化PCR用に設計されたプローブと接触させる。例えば、試料は、少なくとも2つの別個の標的核酸を含むと疑われ得る。プローブは、複数の温度でモニターされる単一の蛍光色素を使用することによって、温度多重化PCR用に設計され得る。例えば、プローブは、様々なTm温度でそれぞれのクエンチングオリゴヌクレオチド分子にハイブリダイズするタグ部分を有することによって、温度多重化用に設計され得る。プローブと接触させた後、ステップ704において、標的核酸をPCRによって増幅する。
【0042】
次に、ステップ706において、蛍光シグナルを第1の温度で測定する。例えば、第1の温度は、PCRサイクルのアニーリングおよび/または伸長温度であり得る。第1の温度で測定されたシグナルは、第1の標的核酸の存在を示し得る。
【0043】
次に、ステップ708において、温度を第2の温度まで徐々に上昇させる。第2の温度は、第2のプローブのタグ-クエンチングオリゴヌクレオチドデュプレックスに関連する融解温度またはそれ以上であり得る。ステップ710において、蛍光シグナルを第2の温度で測定する。次いで、第2の標的核酸の存在を示すシグナルを取得するために、ステップ712において、第1の温度で検出されたシグナルを第2の温度で検出されたシグナルから減算することによって、計算されたシグナル値を求める。計算されたシグナル値は、任意に、温度の影響を受け得るシグナルの補正のために正規化され得る。例えば、蛍光シグナルは、より高い温度で減少することが公知であり、したがって、標準を使用して、異なる温度で取得されたシグナル値を正規化することができる。
【0044】
任意に、3つ以上の標的が評価されている場合、温度を、第3のプローブのタグ-クエンチングオリゴヌクレオチドデュプレックスに関連する融解温度またはそれを超える第3の温度まで上昇させ得るさらなるステップ(図7には示されていない)が設けられ得る。蛍光シグナルは、第3の温度で測定され得、第2の計算されたシグナルは、第2の温度での蛍光シグナルを第3の温度での蛍光シグナルから減算することによって取得され得る。
【0045】
ステップ714において、第1の温度での蛍光シグナルのベースラインが取得される。ベースラインは、第1の温度での蛍光シグナルのy切片および/またはベースラインスロープを含み得る。ベースラインは、評価されるシグナルのそのようなパラメータを取得するのに適した任意の方法によって取得され得る。いくつかの実施形態では、ベースラインは、測定されたシグナルの非線形回帰分析を実行することによって取得され得る。例えば、測定されたシグナルは、式7を用いて近似され得、ベースラインは、測定されたシグナルから求められる近似シグナルのy切片および/またはベースラインスロープ値を求めることによって取得され得る。
【0046】
ステップ716において、ステップ712で計算されたシグナルのベースラインは、ステップ714で取得されたベースラインをマッチングさせるように調整される。いくつかの実施形態では、ベースラインをマッチングさせるために、y切片のみが使用される。いくつかの実施形態では、y切片およびベースラインスロープの両方がベースラインをマッチングさせるために使用される。第2の計算されたシグナルが取得される場合(例えば、3つの標的が評価されている場合)、第2の計算されたシグナルのベースラインはまた、ステップ714で取得されたベースラインをマッチングさせるように調整され得る。
【0047】
矢印718によって示されるように、これらのシグナル測定および計算は、複数のPCRサイクルで、反復され、行われ得る。次いで、ステップ720において、所望のサイクル数が繰り返されると、求められた累積シグナル値を使用して、標的核酸の有無だけでなく量も求めることができる。これは、PCRサイクル数に対してプロットした計算されたシグナル値から生成されるPCR増幅曲線から閾値(Ct値)を求めることによって行われ得る。例えば、RFIeは、以下に記載の式8を用いて求められ得、閾値は、RFIe値に基づいて設定され得る。
【0048】
本発明の実施形態を、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定しない、以下の実施例でさらに説明する。
【実施例
【0049】
実施例1
リアルタイムPCR研究を実施して、本発明の実施形態によるベースラインマッチングの効果を評価した。研究は、様々な濃度のヒトパピローマウイルス(HPV)を含有する試料を用いて実施した。使用した蛍光プローブには、クマリン、FAM、HEX、JA270、およびDKRが含まれた。蛍光を、58℃(T1)、80℃(T2)、および96℃(T3)の3つの温度で評価した。本発明の実施形態によるベースラインマッチングの効果を理解するために、FAMに関連するシグナルを評価し、ベースラインマッチングありおよびなしで計算を行った。具体的には、RFIe値は、以下の式8によって求められ得る、PCR曲線のスケール不変増幅の尺度であり、ベースラインマッチングありおよびなしで求めた。
【数3】
【0050】
図3は、T1およびT3での蛍光シグナル、および式3を用いて計算されたシグナル(CT3)を示し、ここで、FAM_m2=0.91であり、いかなるベースラインマッチングも行っていない。図3では、CT3のベースラインがT1のそれとアライメントされていないことが分かり得る。図3に示された曲線のRFIe値を以下の表に提供する。
【表1】
【0051】
図4は、T1およびT3での蛍光シグナル、ならびにベースラインシフトした計算されたシグナル(BCT3)を示す。この場合、CT3のy切片をT1のそれに置換することによって、ベースラインをシフトさせた。図4では、BCT3のベースラインがT1のそれとアライメントしていることが分かり得る。図4に示された曲線のRFIe値を以下の表に提供する。
【表2】
【0052】
T3に関連する曲線のRFIe値が、ベースラインマッチングが採用される場合に有意に増加することが分かり得る。したがって、ベースラインマッチングが標的の同定および定量に重要な影響を及ぼし得ることは明らかである。
【0053】
実施例2
実施例1と同様であるが、より大きなデータセットを用いたリアルタイムPCR研究を実施して、ベースラインマッチングの感度改善を評価した。
【0054】
図5は、ベースラインマッチングなしのデータセットの結果として得られたRFIe値のプロットを示し、図6は、ベースラインマッチングしたシグナルを用いて結果として得られたRFIe値のプロットを示す。各場合において、水平な線は、正対負の曲線コールの分離、すなわち標的の存在の判定を示す。しかしながら、本発明の実施形態によるベースラインマッチングを用いた後に計算された値を有する図6では、正および負の曲線コールの間にはるかに明確な分離があることが分かり得る。対照的に、ベースラインマッチングを使用しなかった図5では、正および負の曲線コールの間に明確な境界が単純には存在しないことが分かり得る。これらの結果は、本発明の実施形態によるベースラインマッチングを用いて得ることができる改善された感度を実証している。
【0055】
前述の発明を明確化および理解する目的のために、ある程度詳細に説明してきたが、本開示を読むことにより、本発明の真の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更が行われ得ることが当業者には明らかであろう。例えば、上述の方法は、様々な組み合わせで用いられ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】