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特表2024-522671複合材料物品の製造方法、及びそれにより製造される複合材料物品
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  • 特表-複合材料物品の製造方法、及びそれにより製造される複合材料物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】複合材料物品の製造方法、及びそれにより製造される複合材料物品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576220
(86)(22)【出願日】2022-04-25
(85)【翻訳文提出日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 US2022026142
(87)【国際公開番号】W WO2022265727
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/210,168
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ポンソル, ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ラーリー, ピエール-イヴ
(72)【発明者】
【氏名】プレベ, クリスティアーヌ
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB02
4F072AB10
4F072AB15
4F072AB22
4F072AB28
4F072AB29
4F072AD23
4F072AH36
4F072AJ04
4F072AL02
4F072AL17
(57)【要約】
本開示は、複合材料物品の製造方法、及びそれにより製造される複合材料物品に関する。本明細書に記載される方法は、特定のタイプの縫合糸を有するNCF生地を含む硬化性組成物を利用する。本開示に従って製造される硬化性組成物及び複合材料物品は、航空、自動車、及び海洋用途などの多くの用途で使用するための複合材料部品の製造に特に適している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料物品の製造方法であって、
a)マトリックス樹脂と非捲縮生地とを含む硬化性組成物を提供することであって、前記非捲縮生地が、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の少なくとも1つの層と、前記マルチフィラメント炭素糸を相互連結するマルチフィラメント縫合糸とを含み、前記縫合糸が熱可塑性ポリマーを含み且つ80dtex以下の線密度を有すること;
b)前記硬化性組成物を温度Tまで加熱することであって、Tが前記縫合糸の溶融温度(T)よりも高く、T又はTにおける前記マトリックス樹脂の転化率が30%以下、典型的には20%以下、より典型的には10%以下であること;
c)前記硬化性組成物が硬化するのに十分な時間、温度Tを維持するか、又は温度Tまで加熱し、それにより複合材料物品を製造すること、
を含む方法。
【請求項2】
前記硬化性組成物が硬化するのに十分な時間が6時間以下、典型的には5時間以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記縫合糸が230℃以下、典型的には220℃以下の溶融温度を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記縫合糸の前記溶融温度が70℃~200℃、典型的には90℃~180℃である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記縫合糸が1種以上の熱可塑性繊維又はフィラメントを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記縫合糸の前記熱可塑性ポリマーが、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、及びそれらのコポリマーからなる群から選択されるポリマー、例えばコポリエステル、コポリアミド、コポリイミド、コポリカーボネート、コポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリアミドイミド、ポリアラミド、ポリフタルアミド、及びポリ(エステル)カーボネートからなる群から選択されるポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記マルチフィラメント縫合糸の前記線密度が1~55dtex、より典型的には1~40dtexの範囲内である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記非捲縮生地が多軸であり、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の2つ以上の層を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記非捲縮生地がベール、典型的には不織布ベールを更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記硬化性組成物を前記温度Tまで加熱することが、約10℃/分以下の昇温速度で前記硬化性組成物を加熱することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記硬化性組成物を前記温度Tまで加熱することが、0.2~10℃/分、典型的には0.5~2℃/分の昇温速度で前記硬化性組成物を加熱することを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記温度Tが前記硬化性組成物の硬化温度である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記縫合糸の前記Tが、前記硬化性組成物がゲル化する温度(Tgel)よりも低い、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記硬化性組成物が注入温度で供給され、Tが注入温度と前記縫合糸のTの両方よりも高い、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記縫合糸の前記熱可塑性ポリマーが半結晶性ポリマーである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記マトリックス樹脂がエポキシ樹脂を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記非捲縮生地の前記縫合糸と前記マトリックス樹脂が前記方法中に相互拡散し、その結果前記縫合糸の化学的性質のみを有する領域がほとんど又は全く存在しない、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
製造された前記複合材料物品が、熱可塑性ポリマーを含まず線密度が80dtex以下である縫合糸を用いて製造された複合材料物品と比較して微小亀裂の減少を示す、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法に従って製造された複合材料物品。
【請求項20】
a)マトリックス樹脂と非捲縮生地とを含む硬化性組成物を提供することであって、前記非捲縮生地が、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の少なくとも1つの層と、前記マルチフィラメント炭素糸を相互連結するマルチフィラメント縫合糸とを含み、前記縫合糸が熱可塑性ポリマーを含み且つ80dtex以下の線密度を有すること;
b)前記硬化性組成物を温度Tまで加熱することであって、Tが前記縫合糸の溶融温度(T)よりも高く、前記T又はTにおける前記マトリックス樹脂の転化率が30%以下、典型的には20%以下、より典型的には10%以下であること;
c)前記硬化性組成物が硬化するのに十分な時間、温度Tを維持するか、又は温度Tまで加熱すること、
を含む方法によって製造される複合材料物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月14日に出願された米国仮出願第63/210,168号に基づく優先権を主張し、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、複合材料物品の製造方法、及びそれにより製造される複合材料物品に関する。本明細書に記載される方法は、特定のタイプの縫合糸を有するNCF生地を含む硬化性組成物を利用する。本開示に従って製造される硬化性組成物及び複合材料物品は、航空、自動車、及び海洋用途などの多くの用途で使用するための複合材料部品の製造に特に適している。
【背景技術】
【0003】
繊維強化ポリマー(「FRP」)複合材料は、航空機、自動車、船舶、工業、及びインフラ/建築分野などの様々な用途において、より伝統的な材料に代わる最新の代替材料として推進されている。具体的には、FRP複合材料は、鋼やアルミニウムなどの金属及び合金の代替として、及びコンクリートの代替として、利用分野に応じて使用することができる。
【0004】
FRP複合材料が推進されていることは、金属に代わる代替品や、靱性及び耐薬品性を含み得る望ましい特性のバランスを備えた軽量材料が求められていることなど、様々な要因によると考えられる。より具体的には、FRP複合材料の望ましい特性を維持する更には高めると同時に、総重量を低減することで、金属疲労や腐食に関連する問題が解消され、その結果、性能を犠牲にせずに、より燃費が優れた航空機、自動車、輸送車両、及び船舶、並びにそれらの部品を製造することが可能になる。更に、航空機、車両、船舶の部品及び構成要素をFRP複合材料を用いて製造することにより、航空機、車両、船舶の総重量を軽量化できるのみならず、部品及び構成要素の製造や加工に要する時間も短縮することができる。同様に、建設及びインフラの用途に関しても、FRP複合材料は、構造全体のコスト、重量(及び関連する応力及び負荷)、及び構築に必要な時間を(すなわちプレハブ加工プロセスにより)削減及び維持しながらも、従来の建築及び建設材料の代替材料を提供することができる。
【0005】
FRP複合材料を製造するために、非捲縮繊維などの様々な形態で提供され得る強化繊維がマトリックス樹脂と組み合わされる。次いで、この組み合わせが典型的には鋳型の中で所定の温度と圧力で硬化されることで、最終的なFRP複合材料が形成される。しかしながら、得られるFRP複合材料は、特定の用途、特に航空機用途に望まれる強度及び靱性を欠いている場合がある。
【0006】
非捲縮生地(NCF)は、通常、構造繊維、フィラメント、又は糸の1つ以上の層を含み、各層は、別の方向に配向した繊維、フィラメント、又は糸を有する。繊維、フィラメント、又は糸は、強化繊維、フィラメント、又は糸とも呼ばれる。そのような非捲縮生地は、それぞれが例えばウェブ、織物、ベール、スクリムなどを含む1つ以上の層間層を更に含んでいてもよい。層は、典型的には縫合糸によって一体化される。
【0007】
NCF複合材料などの複合材料部品は、様々な用途で使用される場合、熱サイクルや高湿期間にさらされることが多い。温度変化により、そのような複合材料部品は、プライの配向に依存する熱膨張係数(CTE)に応じて、様々な方向に膨張と収縮を経験する。独立しており応力がないプライで膨張又は収縮が注意深く行われると、プライの配向に関わらず応力は発生しない。しかし、プライを異なる配向に回転させて一緒に積層すると、隣接するプライの応力により、各プライはそれ自体のCTEに従って膨張又は収縮ができなくなる。この結果、プライに高い応力が生じる。マトリックスは繊維よりも系内破壊応力が小さいため、典型的にはマトリックス内に微小亀裂が生じる。更に、プライを一体に固定するために典型的に使用される縫合の導入により、プライの膨張又は収縮の結果として微小亀裂が形成されやすい領域が縫合糸の近傍に形成される可能性があることが知られている。微小亀裂は、剛性などの特性に重大な変化を引き起こす可能性がある。したがって、微小亀裂の形成を軽減することが、この分野における研究課題となっている。
【0008】
Beraudらの米国特許9,695,533号明細書及びWockatzの米国特許第8,613,257号明細書には、それぞれ複合材料の微小亀裂挙動と複合材料の面内方向の機械的特性を改善するために、縫合糸の繊度を減らすことによって複合材料部品内の樹脂が多く含まれる領域のサイズを最小限に抑える戦略が記載されている。しかしながら、記載されている微小亀裂挙動の改善は、特定の用途のためには十分ではない。
【0009】
したがって、湿熱応力にさらされる複合材料部品、特にNCFから製造される部品における微小亀裂の発生を緩和又は防止することが継続的に求められている。本明細書では、特定の硬化性組成物が本発明の方法に従って硬化される、複合材料物品の微小亀裂挙動を抑制するための新しい戦略が説明される。
【発明の概要】
【0010】
この目的及び以下の詳細な説明から明らかにされる他の目的は、全体で、又は一部において、本開示の組成物、方法及び/又はプロセスによって応じられる。
【0011】
第1の態様では、本開示は、複合材料物品の製造方法に関し、この方法は、
a)マトリックス樹脂と非捲縮生地とを含む硬化性組成物を提供することであって、非捲縮生地が、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の少なくとも1つの層と、マルチフィラメント炭素糸を相互連結するマルチフィラメント縫合糸とを含み、縫合糸が熱可塑性ポリマーを含み且つ80dtex以下の線密度を有すること;
b)硬化性組成物を温度Tまで加熱することであって、Tが縫合糸の溶融温度(T)よりも高く、T又はTにおけるマトリックス樹脂の転化率が30%以下、典型的には20%以下、より典型的には10%以下であること;
c)硬化性組成物が硬化するのに十分な時間、温度Tを維持するか、又は温度Tまで加熱し、それにより複合材料物品を製造すること、
を含む。
【0012】
第2の態様では、本開示は、本明細書に記載の方法に従って製造された複合材料物品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】亜音速ジェットのライフサイクルに典型的な運転条件を表す加速湿熱負荷を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、又は「その(the)」は、特に明記しない限り、「1つ以上」又は「少なくとも1つ」を意味し、互いに交換して使用することができる。
【0015】
本明細書で使用される場合、「A及び/又はB」の形態の句で使用される用語「及び/又は」は、Aだけ、Bだけ、又はAとBを一緒に、を意味する。
【0016】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」は、「から本質的になる(consists essentially of)」及び「からなる(consists of)」を含む。用語「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」を含む。
【0017】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される技術的な用語及び科学的な用語の全ては、本明細書が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0018】
本明細書で使用される場合、特に指示がない限り、用語「約」又は「およそ」は、当業者によって決定される特定の値についての許容可能な誤差を意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるかに部分的に依存する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、1、2、3、又は4標準偏差内を意味する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、所定の値又は範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.05%以内を意味する。
【0019】
また、本明細書に記載される任意の数値範囲は、そこに包含される全ての部分的な範囲を含むことを意図することが理解されよう。例えば、範囲「1~10」は、列挙された最小値である1と、列挙された最大値である10との間及びそれを含む全ての部分的な範囲を含むことを意図する、即ち、1以上の最小値及び10以下の最大値を有する。開示されている数値範囲は連続しているため、最小値と最大値との間の全ての値が含まれる。特に明記しない限り、本出願で指定された様々な数値範囲は概算値である。
【0020】
本開示を通じて、様々な刊行物を参照により組み込むことができる。参照により組み込まれたこのような刊行物における任意の言語の意味が、本開示の言語の意味と矛盾する場合、他に指示がない限り、本開示の言語の意味が優先される。
【0021】
第1の態様では、本開示は、複合材料物品の製造方法に関し、この方法は、
a)マトリックス樹脂と非捲縮生地とを含む硬化性組成物を提供することであって、非捲縮生地が、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の少なくとも1つの層と、マルチフィラメント炭素糸を相互連結するマルチフィラメント縫合糸とを含み、縫合糸が熱可塑性ポリマーを含み且つ80dtex以下の線密度を有すること;
b)硬化性組成物を温度Tまで加熱することであって、Tが縫合糸の溶融温度(T)よりも高く、T又はTにおける硬化性組成物の転化率が30%以下、典型的には20%以下、より典型的には10%以下であること;及び
c)硬化性組成物が硬化するのに十分な時間、温度Tを維持するか、又は温度Tまで加熱し、それにより複合材料物品を製造すること、
を含む。
【0022】
この方法の工程a)では、マトリックス樹脂と非捲縮生地とを含む硬化性組成物であって、非捲縮生地が、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の少なくとも1つの層と、マルチフィラメント炭素糸を相互連結するマルチフィラメント縫合糸とを含み、縫合糸が熱可塑性ポリマーを含み且つ80dtex以下の線密度を有する硬化性組成物が提供される。
【0023】
「非捲縮生地」又は「ノンクリンプ生地」という用語は、「NCF」と呼ばれる場合もあり、繊維、フィラメント、又は糸の1つ以上の層を含む構造を指す。単一の層の中の繊維、フィラメント、又は糸は、互いに平行になり、単一の方向(すなわち一方向)に配向されるように配置される。1つの層の繊維、フィラメント、又は糸が隣接する層の繊維、フィラメント、又は糸と平行に配向するか、又は隣接する層の繊維、フィラメント、又は糸と交差して配向するように、複数の層を積層することができる。1つの層の繊維、フィラメント、又は糸が、隣接する層の繊維、フィラメント、又は糸と交差するように配向している場合、1つの層の軸(軸は、層の繊維、フィラメント、糸の方向によって決定される)と、隣接する層の軸との間の角度は、事実上無限に調整可能である。例えば、隣接する繊維層間の角度は、0°若しくは90°、又はそのような角度プラス若しくはマイナス25°、プラス若しくはマイナス30°、プラス若しくはマイナス45°、又はプラス若しくはマイナス60°であってよく、0度方向は当業者に公知の方法によって決定される。例えば、機械方向を0°方向として指定することができる。したがって、「多軸」という用語は、各層が様々な方向に配向した2つ以上の層を有するNCF生地を指す。多軸生地には、層が2方向に配向している二軸生地、層が3方向に配向している三軸生地などが含まれる。例えば経編機又はステッチボンディング機によって、多軸非捲縮生地を製造することができる。
【0024】
一実施形態では、非捲縮生地は、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の1つの層を含む。
【0025】
別の実施形態では、非捲縮生地は、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の2つ以上の層を含む。
【0026】
一実施形態では、非捲縮生地は、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の2つ以上の層を含み、これらの層は同じ方向に配向している。別の実施形態では、非捲縮生地は、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の2つ以上の層を含み、これらの層は異なる方向に配向している。
【0027】
本明細書において、糸とは、生地の製造、縫製、かぎ針編み、編み物、織り物、縫い物などに使用するために適した形態の、1つ以上の繊維、1つ以上のフィラメント、又は材料の連続ストランドである。糸には、例えば、(1)複数のフィラメントが、撚りを加えることなく、或いは意図的に撚りをかけことなく、一緒に重ねるか又は束ねられたもの(ゼロ撚り糸又は無撚糸と呼ばれることもある);(2)複数のフィラメントが、一緒に重ねるか又は束ねられており、交絡されているか、偽撚りされているか、又は何らかの方法でかさ高加工されているもの;(3)複数のフィラメントが、ある程度の撚りを加えて一緒に重ねるか又は束ねられているもの(撚糸と呼ばれることもある);(4)撚りのある又はない単一のフィラメント(モノフィラメント又はモノフィラメント糸と呼ばれることもある);が含まれる。かさ高加工された糸は、物理的、化学的、若しくは熱的な処理、又はこれらの組み合わせによって著しく大きな体積を与えられたフィラメント又は紡績糸であってよい。場合によっては、糸はフィラメント糸又はマルチフィラメント糸と呼ばれ、いずれも一般的には複数のフィラメントから作られた糸である。
【0028】
本明細書で使用される「繊維」は、長さ対厚さの比率が高い材料を指す。繊維は連続的であってよく、その場合、そのような繊維はフィラメント、又はステープル長(すなわち個別長さ)と呼ばれる。
【0029】
したがって、一実施形態では、縫合糸は1つ以上の熱可塑性繊維又はフィラメントを含む。
【0030】
本開示のNCFの単一の層内の一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸は、NCF生地におけるフィッシュアイなどの分離ゾーンのサイズの低減に寄与する特定の特性を有するマルチフィラメント縫合糸によって相互連結され、その結果、NCF生地から製造された複合材料物品中の樹脂を多く含む望ましくないゾーンのサイズを低減する。
【0031】
縫合糸は熱可塑性ポリマーを含み、80dtex以下の線密度を有する。
【0032】
熱可塑性ポリマーは、当業者に公知の任意の熱可塑性ポリマーであってよい。例示的な熱可塑性ポリマーとしては、限定するものではないが、ポリカーボネート、ポリウレタン、及びそれらのコポリマーが挙げられる。適切なコポリマーとしては、限定するものではないが、コポリエステル、コポリアミド、コポリイミド、コポリカーボネート、コポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリアミドイミド、ポリアラミド、ポリフタルアミド、及びポリ(エステル)カーボネートが挙げられる。
【0033】
一実施形態では、熱可塑性ポリマーは、ポリアミド、ポリエステル、又はそれらのブレンド若しくはコポリマーを含む。
【0034】
適切なポリアミドの例としては、限定するものではないが、PA6、PA6/6、PA6T、PA12、PA6/10、PA9T、PA10/10、PA10T、PA11、PA6/12、PA10/12、PA6/18、PA6/36、PA4/6、PA4T、及びそれらのブレンド又はコポリマーが挙げられる。
【0035】
一実施形態では、縫合糸の熱可塑性ポリマーは半結晶性ポリマーである。
【0036】
縫合糸は、その溶融温度、すなわちTによって特徴付けることができる。一実施形態では、縫合糸は、230℃以下、典型的には220℃以下の溶融温度を有する。別の実施形態では、縫合糸の溶融温度は70℃~200℃、典型的には90℃~180℃である。
【0037】
マルチフィラメント縫合糸は、線質量密度及び/又はフィラメント数(糸が2つ以上のフィラメントを含む場合)などの特定の特性によって特徴付けることができる。
【0038】
糸の線質量密度は、tex、又はより一般的にはデシテックス(dtex)の単位で与えられる。1texは、糸1000メートルあたりのグラム単位での質量として定義される。したがって、1dtexは糸10,000メートルあたりのグラム単位での質量である。本発明によれば、マルチフィラメント縫合糸の線密度は80dtex以下である。典型的には、マルチフィラメント縫合糸の線密度は、1~55dtex、より典型的には1~40dtexの範囲内である。一実施形態では、マルチフィラメント縫合糸の線密度は15~55dtexの範囲内である。
【0039】
マルチフィラメント縫合糸の繊維又はフィラメントは、密度によって特徴付けることができる。本明細書で使用される密度は、繊維の製造に使用されるポリマー系材料の密度を指す。マルチフィラメント縫合糸の繊維又はフィラメントは、0.5~2.0g/cm、典型的には0.8~1.8g/cm、より典型的には0.9~1.5g/cmの密度を有する。一実施形態では、マルチフィラメント縫合糸の繊維又はフィラメントは0.9~1.4g/cmの密度を有する。
【0040】
本明細書で使用されるフィラメント数は、糸を構成するフィラメントの数である。マルチフィラメント縫合糸のフィラメント数は、縫合糸のデシテックス値の1.0倍以下、典型的にはデシテックス値の0.9倍以下、より典型的にはデシテックス値の0.8倍以下である。
【0041】
いくつかの実施形態では、フィラメント数は、糸のデシテックス値の0.1~0.8倍、典型的には糸のデシテックス値の0.1~0.6倍、より典型的には糸のデシテックス値の0.1~0.5倍の範囲である。
【0042】
マルチフィラメント縫合糸の繊維又はフィラメントは、当業者に公知の方法に従って、交絡させる(絡ませる又は混ぜ合わせるとも呼ばれる)ことができる。例えば、空気流などの局所的な流体ジェットに複数のフィラメントをさらすことによって糸フィラメントを交絡させることができる。交絡により、ノードと呼ばれる絡み合いの点が生じ、これは絡み合っていないフィラメントの空間によって分離される。
【0043】
縫合糸は、撚りによって特徴付けることもできる。本明細書において、撚りとは、糸の軸の周りの繊維又はフィラメントの螺旋状の配置を指す。本開示のマルチフィラメント縫合糸は、撚りを含んでいても含んでいなくてもよい。撚りが存在する場合、単位長さあたりの回転数、典型的には1メートルあたりの回転数として示される。マルチフィラメント縫合糸は、通常1メートルあたり200回転未満の撚りを有する。一実施形態では、縫合糸は150r/m未満、典型的には100r/m未満、より典型的には50r/m未満の撚りを有する。一実施形態では、縫合糸には撚りを有さない。
【0044】
一実施形態では、非捲縮生地は多軸であり、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の2つ以上の層を含む。多軸NCF生地の層は、例えば互いに平行に配置されており互いに平行に走って縫い目を形成している複数の縫合糸又は編み糸によって、当業者に公知の方法に従って互いに接続及び固定することができる。多軸NCF生地の層を互いに接続及び固定するために使用される縫合糸又は編み糸は、本明細書に記載のマルチフィラメント縫合糸と同じであっても異なっていてもよい。一実施形態では、多軸NCF生地の層を互いに接続及び固定するために使用される縫合糸又は編み糸は、本明細書に記載のマルチフィラメント縫合糸と同じである。
【0045】
マルチフィラメント縫合糸は、一方向に配向したマルチフィラメント糸をNCFの単一の層内に一体に保持し、及び/又はNCF生地の2つ以上の層を互いに固定し、構造的な補強を提供しない。したがって、NCFの単一の層内で一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸を相互連結するために及び/又はNCF生地内の2つ以上の層を一体化するために本開示に従って使用されるマルチフィラメント縫合糸は、非構造的である。対照的に、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸は、複合材料又はそれから製造される物品に構造的補強を提供するため、構造的である。
【0046】
非捲縮生地は、ベール、典型的には不織布ベールの1つ以上の層を更に含み得る。例えば、非捲縮生地は、ベールの層と組み合わされた一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸の層を含んでいてもよい。当業者に公知の任意のベールを使用することができる。1つ以上のベールの層を含むNCF生地を構成する層は、例えば複数の縫合糸又は編み糸によってなどの当業者に公知の方法に従って、互いに接続及び固定することができる。ベール層は、使用される場合、有利なことに、透過性などのプロセス性能、及び耐衝撃性や耐層間剥離性などの機械的性能を向上させる。使用され得る例示的なベールは、PCT国際公開第2017/083631号パンフレット及び国際公開第2016/003763号パンフレットに記載されており、これらは参照により組み込まれる。ベールは、当業者に周知の材料から製造することができる。
【0047】
非捲縮生地は、商業的供給元から入手することができ、或いは当業者に知られている方法に従って製造することができる。NCFの単一の層を形成するために、一方向に配向したマルチフィラメント炭素糸を相互連結させることができる。複数のそのような単層のNCFを組み合わせて、本明細書に記載の縫合糸を使用して複数の層が相互連結された多層NCF生地を形成することができる。
【0048】
NCFの単層内における一方向に配向したマルチフィラメントカーボン糸の相互連結、及び/又はNCF生地における2つ以上の層の一体化は、当業者に公知の様々な縫い目のタイプ、縫い目幅(すなわち緯糸方向の点間の距離)、及び縫い目長さ(すなわち緯糸方向の点間の距離)を使用して達成することができる。適切な縫い目パターンには、直線縫い、鎖縫い、二重縫い、ジグザグ縫い、トリコット縫い、又はそれらの組み合わせが含まれる。一実施形態では、縫い目のパターンはトリコット縫いであり、典型的にはジグザグトリコット縫いである。使用可能な縫い目幅及び縫い目長さには特に制限は存在しない。例えば、縫い目幅は1~20mm、典型的には1~10mmの範囲であってよい。縫い目長さは、例えば1~20mm、典型的には1~10mmの範囲であってよい。
【0049】
NCF生地が2つ以上の層を含む場合、複数の層は、本明細書に記載のマルチフィラメント縫合糸などの縫合糸を使用する公知の方法に従って縫うか又は編むことによって互いに接続及び固定することができる。NCF生地が多軸である場合、そのような多軸NCFの製造は公知であり、例えば書籍“Textile Structural Composites,Composite Materials Series Volume 3”by Tsu Wei Chou & Franck K.Ko,ISBN-0-44442992-1,Elsevier Science Publishers B.V.,1989,Chapter5,paragraph 3.3に記載されている従来の技術が利用される。
【0050】
硬化性組成物は、本明細書に記載のNCFを含む支持構造体を成形し、多くの液体成形プロセスにおいて支持構造体に熱硬化性樹脂を注入又は射出することによって提供することができる。
【0051】
本明細書で使用される「支持構造体」という用語は、本明細書で説明されるNCF生地などの強化材料の1つ以上の層が、マトリックス樹脂を注入又は射出するなどの更なる処理のために鋳型内にマトリックス樹脂なしで配置されて硬化性組成物を形成し、これがその後硬化されて複合材料物品を形成し得る構成体を指す。支持構造体の例は、繊維プリフォームである。
【0052】
支持構造体は、複合材料を製造するために当業者に公知の任意のタイプの繊維製品の層を更に含んでいてもよい。適切な生地のタイプ又は構成の例としては、限定するものではないが、全ての織り生地(その例は平織り、綾織り、朱子織り、螺旋織り、及び単織り生地である);たて編み生地;編み生地;編組生地;全ての不織布(その例は、限定するものではないが、不織布ベール、チョップドファイバー及び/又は連続繊維フィラメントから構成されるマット生地、フェルトなど)、並びに前述した生地タイプの組み合わせが挙げられる。
【0053】
一実施形態では、支持構造体は、ベール、典型的には不織布ベールを更に含み得る。当業者に公知の任意のベールを使用することができる。例えば、PCT国際公開第2017/083631号パンフレットに記載のベールを使用することができる。バインダー成分は、ベール層の少なくとも片面に又はベールの一部を貫通して分布させることができ、或いは一方向に配向した繊維間の空間及びベールの一部を含む非捲縮生地全体にわたって分布させることができる。例えば、PCT国際公開第2016/003763号パンフレット(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているバインダーを使用することができる。バインダーは、最終生地の15重量%以下の量で存在することができる。典型的には、バインダー成分は繊維状材料の表面に連続したフィルムを形成しない。ベールは、当業者に周知の材料から製造することができる。例えば、ベールは、本明細書に記載の縫合糸と同じ材料から製造することができる。
【0054】
使用可能な液体成形プロセスとしては、真空で生じる差圧を用いて支持構造体に樹脂を注入する真空支援樹脂トランスファー成形(VARTM)が挙げられるが、これに限定されない。別の方法は、密閉した鋳型において支持構造体に樹脂を加圧注入する樹脂トランスファー成形(RTM)である。3番目の方法は、半固形の樹脂を支持構造体の下又は上に置き、適切な工具を部品に配置し、その部品を袋に入れた後にオートクレーブに入れて溶融し、支持構造体に樹脂を注入する、樹脂フィルム注入(RFI)である。
【0055】
本明細書に記載の支持構造体に含浸させる、注入する、又は射出するためのマトリックス樹脂は、硬化性樹脂を含み、任意選択的には当業者に公知の適切な添加剤も含む。本開示における「硬化(curing)」又は「硬化(cure)」は、ポリマー鎖の化学架橋によるポリマー材料の固化を意味する。組成物に関しての用語「硬化性(curable)」は、組成物が、組成物を固化した状態にする条件に供され得ることを意味する。一実施形態では、マトリックス樹脂は、1種以上の未硬化の熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物である。
【0056】
好適な熱硬化性樹脂としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、オキセタン、イミド(ポリイミド又はビスマレイミドなど)、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ベンゾオキサジン、ホルムアルデヒド縮合樹脂(尿素、メラミン、又はフェノールなど)、ポリエステル、アクリル、これらのハイブリッド、ブレンド、及び組み合わせが挙げられる。
【0057】
好適なエポキシ樹脂としては、芳香族ジアミン、芳香族モノ1級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のグリシジル誘導体、及びオレフィン性二重結合の過酸化により生成する非グリシジル樹脂が挙げられる。好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールK及びビスフェノールZなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル;クレゾール及びフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテル、フェノール-アルデヒド付加物のグリシジルエーテル、脂肪族ジアルのグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族ポリグリシジルエーテル、エポキシ化オレフィン、臭素化樹脂、芳香族グリシジルアミン、複素環式グリシジルイミド及びアミド、グリシジルエーテル、フッ素化エポキシ樹脂又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0058】
具体的な例は、4,4’-ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体(TGDDM)、レゾルシノールジグリシジルエーテル、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、ブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、フェノール-ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジルエーテル、o-クレゾールノボラックのポリグリシジルエーテル又はテトラフェニルエタンのテトラグリシジルエーテルである。
【0059】
分子あたり少なくとも1つのオキセタノ基を含む化合物である好適なオキセタン化合物としては、例えば、3-エチル-3[[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル]オキセタン、オキセタン-3-メタノール、3,3-ビス-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-ブチル-3-メチルオキセタン、3-メチル-3-オキセタンメタノール、3,3-ジプロピルオキセタン、及び3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタンなどの化合物が挙げられる。
【0060】
一実施形態では、マトリックス樹脂はエポキシ樹脂を含む。
【0061】
硬化性マトリックス樹脂は、場合により、硬化剤、硬化触媒、コモノマー、レオロジー制御剤、粘着付与剤、無機又は有機充填剤、強化剤としての熱可塑性及び/又は弾性ポリマー、安定剤、抑制剤、顔料、染料、難燃剤、反応性稀釈剤、UV吸収剤及び硬化前及び/又は硬化後のマトリックス樹脂の特性を改良するための当業者に公知のその他の添加剤などの1種又は複数の添加剤を含んでもよい。
【0062】
好適な硬化剤の例としては、芳香族、脂肪族及び脂環式アミン、又はグアニジン誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。好適な芳香族アミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)、及び3,3’ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアンモジフェニルメタン、ベンゼンジアミン(BDA)が挙げられ;好適な脂肪族アミンとしては、エチレンジアミン(EDA)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)(M-DEA)、m-キシリレンジアミン(mXDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、トリオキサトリデカンジアミン(TTDA)、ポリオキシプロピレンジアミン、及び更なる同族体、ジアミノシクロヘキサン(DACH)、イソホロンジアミン(IPDA)、4,4’ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)、ビスアミノプロピルピペラジン(BAPP)、N-アミノエチルピペラジン(N-AEP)などの脂環式アミンが挙げられ;他の好適な硬化剤としては、無水物、典型的にはポリカルボン酸無水物、例えば、無水ナジック酸、メチルナジック酸無水物、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、ピロメリット酸二無水物、無水クロレンド酸、及び無水トリメリット酸などが挙げられる。
【0063】
更に他の硬化剤は、ルイス酸:ルイス塩基錯体である。好適なルイス酸:好適な塩基錯体としては、例えば、BCl:アミン錯体、BF:アミン錯体、例えば、BF:モノエチルアミン、BF:プロピルアミン、BF:イソプロピルアミン、BF:ベンジルアミン、BF:クロロベンジルアミン、BF3:トリメチルアミン、BF:ピリジン、BF:THF、AlCl:THF、AlCl:アセトニトリル、及びZnCl:THFなどの錯体が挙げられる。
【0064】
追加の硬化剤は、ポリアミド、ポリアミン、アミドアミン、ポリアミドアミン、多脂環式、ポリエーテルアミド、イミダゾール、ジシアンジアミド、置換尿素及びウロン(urone)、ヒドラジン及びシリコーンである。
【0065】
尿素系硬化剤は、商品名DYHARD(Alzchem社により販売)で入手可能な材料、及びUR200、UR300、UR400、UR600、UR700として市販されているものなどの尿素誘導体の範囲である。ウロン促進剤としては、例えば、4,4-メチレンジフェニレンビス(N,N-ジメチル尿素)(U52MとしてOnmicure社から入手可能)などが挙げられる。
【0066】
存在する場合、硬化剤の総重量は、樹脂組成物の1重量%~60重量%の範囲内である。典型的には、硬化剤は、15重量%~50重量%の範囲、より典型的には20重量%~30重量%の範囲で存在する。
【0067】
好適な強化剤には、これらに限定されないが、ポリアミド、コポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリケトン、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレンオキシド(PPO)及び変性PPO、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリプロピレンオキシド、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリル、ポリフェニルスルホン、高性能炭化水素ポリマー、液晶ポリマー、エラストマー、セグメント化エラストマー、及びコア-シェル粒子の単独又は組み合わせのどちらかのホモポリマー又はコポリマーが含まれてよい。
【0068】
強化粒子又は強化剤は、存在する場合、樹脂組成物の0.1重量%~30重量%の範囲であってよい。一実施形態においては、強化粒子又は強化剤は、10重量%~25重量%の範囲で存在してよい。別の実施形態では、強化粒子又は強化剤は、0.1~10重量%の範囲で存在してよい。好適な強化粒子又は強化剤としては、例えば、SolvayからのVirantage VW10200FRP、VW10300FP及びVW10700FRP、住友化学からのBASF UltrasonE2020及びSumikaexcel5003Pが挙げられる。
【0069】
強化粒子又は強化剤は、直径5ミクロン以下、典型的には直径1ミクロン以下の粒子の形態であってよい。強化粒子又は強化剤のサイズは、繊維強化材により濾過されないように選択することができる。任意選択的には、組成物は、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、シリカ酸化物、リン酸塩、モリブデン酸塩、ヒュームドシリカ、非晶質シリカ、非晶質溶融シリカ、ベントナイトなどの粘土、有機粘土、アルミニウム三水和物、中空ガラス微小球、中空ポリマー微小球、マイクロバルーン、及び炭酸カルシウムも含んでいてもよい。
【0070】
組成物は、PCT国際公開第2013/141916号パンフレット、国際公開第2015/130368号パンフレット及び国際公開第2016/048885号パンフレットなどに記載されているものなどの導電性粒子も含んでいてもよい。
【0071】
マルチフィラメント炭素糸の炭素はグラファイトの形態であってもよい。炭素は、不連続な又は連続した金属層で金属化されていてもよい。本発明において特に有用であることが分かっているグラファイト繊維は、商品名T650-35、T650-42、及びT300としてSolvayから供給されているもの;Torayから商品名T700、T800、及びT1000として供給されているもの;Hexcelから商品名AS4、AS7、IM7、IM8、及びIM10として供給されているものである。炭素繊維、典型的にはフィラメントは、サイジングされていなくても、樹脂組成物と適合する材料でサイジングされていてもよい。
【0072】
樹脂注入のための鋳型は、2つの構成要素の密閉型であっても、又は真空バックで密閉した片面型であってもよい。
【0073】
硬化性組成物は、当業者に公知の任意の適切な方法に従って製造することができる。硬化性組成物を調製するための1つの適切な方法は、鋳型内に支持構造体を供給し、その後、非捲縮生地の1つ以上の層に本明細書に記載のマトリックス樹脂を注入又は射出することを含む。通常、支持構造体及び/又はマトリックス樹脂は、注入又は射出プロセス中、特定の温度にある。本明細書において、「注入」又は「射出」は、支持構造体とマトリックス樹脂との組み合わせを指し、これらの用語は互換的に使用することができる。しかしながら、簡単にするために、「注入温度」は、支持構造体とマトリックス樹脂が組み合わされる温度を指すために使用される。したがって、硬化性組成物は、典型的には周囲温度より高い、すなわち25℃よりも高い特定の注入温度で供給され得る。
【0074】
方法の工程b)において、硬化性組成物は温度Tまで加熱され、Tは縫合糸の溶融温度(T)よりも高く、T又はTにおける硬化性組成物の転化率は30%以下、典型的には20%以下、より典型的には10%以下である。
【0075】
硬化性組成物の転化率とは、ポリマーに転化された樹脂のパーセント割合を指す。転化率は、硬化性組成物のサンプルに対して公知の機器及び方法を使用する示差走査熱量測定(DSC)によって決定される。硬化性組成物のサンプルは、DSCを使用して望まれる加熱プロファイルを経ることができ、硬化性組成物の転化率は、加熱プロファイルに沿った選択された点で決定することができる。本発明の方法によれば、T又はTにおける硬化性組成物の転化率は30%以下、典型的には20%以下、より典型的には10%以下である必要がある。
【0076】
有利なことに、硬化性組成物を縫合糸のTよりも高い温度Tに加熱する一方で、T又はTにおける硬化性組成物の転化率が30%以下であると、微小亀裂の形成に対して顕著な耐性を示す複合材料部品の製造が可能になることが発見された。理論に拘束されることを望むものではないが、30%以下の転化率では、マトリックス樹脂は、縫合糸の形状を保持するのに十分なほど粘性も硬さも無い状態にあると考えられる。したがって、溶融すると、縫合糸はマトリックス樹脂と相互拡散することができる(以降で説明する)。このような効果の現れは、最終複合材料物品における微小亀裂の大幅な減少である。
【0077】
通常、組成物を温度Tまで加熱することは、当業者に公知の任意の方法で達成することができる。一実施形態では、硬化性組成物を温度Tまで加熱することは、硬化性組成物を約10℃/分以下の昇温速度で加熱することを含む。別の実施形態では、硬化性組成物を温度Tまで加熱することは、0.2~10℃/分、典型的には0.5~2℃/分の昇温速度で硬化性組成物を加熱することを含む。
【0078】
縫合糸の溶融温度Tよりも高い任意の温度Tが、方法の実行に適している。しかしながら、一実施形態では、温度Tが硬化性組成物の硬化温度である。硬化性組成物の硬化温度は、組成物が硬化するために必要な温度を指し、典型的には硬化性組成物に使用される樹脂系に依存する。場合によっては、硬化性組成物は、典型的には周囲温度より高い、すなわち25℃よりも高い特定の注入温度で供給されてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、硬化性組成物は注入温度で供給され、Tは注入温度と縫合糸のTの両方よりも高い。
【0079】
方法の工程c)では、硬化性組成物が硬化するのに十分な時間、温度Tが維持されるか、又は温度Tまで加熱が行われ、それによって複合材料物品が製造される。
【0080】
硬化プロセス中、マトリックス樹脂は硬化性組成物全体に架橋を形成し、樹脂はゲルであるとされる。ゲル化すると、マトリックス樹脂はもはや流動しなくなり、むしろ固体として挙動する。ゲル化が起こる温度は、ゲル化温度Tgelである。特定の組成物のTgelは、典型的には、公知の方法を使用して硬化性組成物のサンプルに対して動的レオロジー測定を行うことによって決定される。典型的には、温度掃引は、異なる周波数(1、3、5、及び10Hz)で300℃まで適用される。特定の温度で、異なる周波数でのtanδ(=G”/G’)曲線が交差し、これがポリマーサンプルのゲル温度と解釈される。いくつかの実施形態では、縫合糸のTは、硬化性組成物のTgelよりも低い。
【0081】
さらなる加熱が温度Tまで行われる場合、Tは、硬化プロセスが損なわれない限り、Tよりも大きい任意の適切な温度であってよい。
【0082】
硬化性組成物が硬化するのに十分な任意の時間が、プロセスの実施に適している。しかしながら、一実施形態では、硬化性組成物が硬化するのに十分な時間は6時間以下、典型的には5時間以下である。いくつかの実施形態では、硬化性組成物が硬化するのに十分な時間は、3時間以下、典型的には2時間以下である。
【0083】
驚くべきことに、本明細書に記載のプロセスに従って製造された複合材料物品は、熱可塑性ポリマー含まず線密度が80dtex以下である縫合糸を用いて同じプロセスを使用して製造された複合材料物品と比較して、更には熱可塑性ポリマー含み線密度が80dtex以下である縫合糸を用いて異なるプロセスを使用して製造された複合材料物品と比較して、微小亀裂の減少を示す。理論に拘束されることを望むものではないが、硬化性組成物の転化率が30%以下になるように制御しながら硬化性組成物を縫合糸のTよりも高い温度Tまで加熱すると、マトリックス樹脂と縫合糸との間のユニークな相互作用(本明細書では相互拡散と呼ぶ)が得られると考えられる。非捲縮生地の縫合糸とマトリックス樹脂はプロセス中に相互拡散し、その結果縫合糸の化学的特徴のみを有する領域はほとんど又は全く存在しなくなると考えられる。言い換えると、縫合糸は溶融するのに伴いマトリックス樹脂に向かって拡散する一方で、まだゲル化しておらず縫合糸の形状をとるのに十分な粘性も硬さもないマトリックス樹脂も、縫合糸に向かって拡散すると考えられる。したがって、硬化性組成物内で2つの材料の相互拡散が起こり、微小亀裂の減少など、望ましいバルク特性がもたらされる。
【0084】
本明細書に記載の方法に従って製造される複合材料物品は、当業者に公知の方法を使用して微小亀裂について評価することができる。通常、微小亀裂は製造プロセスの結果として発生することが知られているため、複合材料物品における微小亀裂のベースライン評価が行われる。熱サイクル及び高湿期間への曝露による微小亀裂の評価を行う目的で、複合材料物品のサンプルを、指定された時間、周囲の温度及び/又は湿度レベルに維持し、その後、指定された速度で別の温度及び/又は湿度レベルに調整し、その後、指定された時間維持する条件に置くことができる。典型的には湿熱負荷又はサイクリングとして知られるこのプロセスは、複合材料物品が使用され得る現実世界の条件をシミュレートするために、ユーザーの要求に応じて繰り返すことができる。湿熱負荷条件にさらすと、複合材料物品に微小亀裂が観察される場合がある。微小亀裂の定量化は、通常、各プライ及び繊維のスケールで光学顕微鏡を使用して行われる。
【0085】
NCF生地、縫合糸、支持構造体、及びそこで使用される硬化性組成物を含むプロセス、並びに製造される複合材料物品を、以下の非限定的な実施例によって更に説明する。
【実施例
【0086】
実施例1.NCF複合材料の製造
別段の指示がない限り、本明細書で使用される非捲縮生地(NCF)は、CHOMARAT(フランス)によって製造及び供給されたものである。Karl MayerのMAX 5多軸装置でNCFを製造するために、炭素繊維(Toho Tenax IMS65 24k E23)を使用した。NCFは、2つの炭素繊維層が重ねられた二配向NCFであった(配向した第1の上層が+45°であり、第2の下層が-45°である)。構造はBiaxであり、NCF幅は125cmである。2つの層を様々な縫合糸で縫合した。縫い目のパターンは、ジグザグトリコット縫いパターンであり、特に縫い目長さ3.3mmのTricot E5であった。プライあたりの表面質量は196±5g/mである。
【0087】
二軸のNCFレイアップに、真空支援樹脂注入プロセスを使用して樹脂(EP2400PRISM(商標)、Solvayから入手可能)を含浸させ、供給元の指示に従って硬化した。樹脂を最初に真空オーブン中で100℃に加熱し、次いで15分間真空脱気した。注入は、約10mbarの真空下、100℃で行った。
【0088】
2つの異なる硬化プロファイルを使用してNCF複合材料を硬化した。1つの硬化プロファイルであるプロファイルAでは、プレートを2℃/分で180℃まで加熱し、180℃で2時間保持し、その後0.5℃/分で80℃まで冷却した。別の硬化プロファイルであるプロファイルBでは、プレートを2℃/分で110℃まで加熱し、110℃で12時間保持し、その後再度2℃/分で180℃まで加熱し、180℃で2時間保持し、その後0.5℃/分で80℃まで冷却した。プロファイルAでは、180℃におけるNCF複合材料の転化率は約6%であった。プロファイルBでは、180℃に加熱される時間までのNCF複合材料の転化率は約50%であった。製造したNCF複合材料は下の表1にまとめられている。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例2.NCF複合材料の湿熱負荷
実施例1に従って製造したNCF複合材料に、亜音速ジェットのライフサイクル中の典型的な運転条件を表す加速湿熱負荷を2000回かけた(図1参照)。この負荷では、400サイクルの5つのブロックがあり、各ブロックは、サンプルを50℃で12時間95%RHに曝露する最初の定常段階の「吸水」と、2番目の熱乾燥サイクル段階の2つの異なる負荷段階で構成される。この最後の段階の間に、サンプルは-54~80℃の温度範囲で9℃/分の温度割合で400回サイクルされる。各サイクルは1時間(4×15分)継続され、これにより論理上は、各昇温/降温に15分、80℃と-54℃における各等温ステップに15分の継続時間が与えられる。2000サイクルに到達するまでに合計で約3か月要する。サイクルさせるサンプルの最小寸法は50×50mmである。
【0091】
実施例3.微小亀裂の定量化
実施例2に記載の湿熱負荷手順を行ったNCF複合材料のサンプル(すなわちサイクルを行ったサンプル)を、400サイクルごと、すなわち、400、800、1200、1600、及び2000サイクル後に採取した。各400回の湿熱サイクル後(12時間の湿潤条件でのコンディショニングとそれに続く400回の熱サイクル)。20×20×3.2mmのサイズの微小亀裂分析サンプルをサイクル後のサンプルの中心から採取した。これらの分析用サンプルは、切り取りによる損傷を避けるためにマイクロスリッターで慎重に切り取った。観察断面(20×3.2mm)は、自動研磨機(Struers TegraPol)で研磨した。各材料について、微小亀裂分析ステップ(例えば400サイクル)は、単一のサイクルした試験片(1回の切り取りと3回の研磨ステップ)で準備する必要がある。したがって、2000サイクル(5×400の湿熱サイクル)の完全な分析には、材料のタイプごとに5つの試験片が必要とされる(1つの分析ステップに1つのサンプル)。分析した各複合材料の総微小亀裂密度(密度、cm-1)は、下の表2にまとめられている。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例4.NCF複合材料の特性評価
硬化したNCF複合材料を赤外分光法で検査した。ポリマー縫合糸/硬化エポキシ樹脂領域の化学組成は、反射モードで赤外線ATRゲルマニウム法を使用して決定した。20×20mmのサンプルを切り取り、次いで0.3μmの粒子で研磨したStruers Caldo Fixエポキシ樹脂でコーティングした。赤外分析に使用した装置はBruker Vertex70であり、顕微鏡検査に使用した装置はHyperion2000であった。
【0094】
組成プロファイル(マッピング)は、サンプルの領域内で10~30μmごとに規定された経路に沿って決定した。サンプル3及び5を分析した。対象のIRバンドは、縫合糸のポリアミドに対応するバンド、すなわち1637cm-1のC=Oバンド(バンド1、C=Oの伸縮)、1550cm-1のNH(バンド2、N-Hの変形及びC-Nの伸縮)、並びに1550cm-1のバンド2の高調波である3082及び3086cm-1であった。エポキシ樹脂については、1237cm-1のエポキシサイクルのC-O及びC-Cの対称結合振動が対象であった。
【0095】
サンプル5では、縫合糸の溶融が縫合糸のフィラメントの形状の消失を引き起こさないようであることが観察された。縫合フィラメントの領域では、赤外スペクトルはポリアミドに起因する振動バンドを示しており、この領域の化学組成が縫合糸のものであることを示唆している。エポキシ領域では、赤外スペクトルはエポキシ樹脂に起因する振動バンドを示しており、この領域の化学組成がマトリックス樹脂のものであることを示唆している。
【0096】
しかしながら、サンプル3では、縫合糸の溶融により、縫合糸のフィラメントの形状が消失しているようである。縫合フィラメント領域とエポキシ領域のいずれであっても、いずれの領域を選択しても赤外スペクトルはポリアミドに起因する振動バンドとエポキシ樹脂に起因する振動バンドの両方を示した。このことは、選択した領域の化学組成が、硬化したエポキシ樹脂と縫合糸のポリマーの両方の混合物に起因していたことを示唆している。
図1
【国際調査報告】