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特表2024-522693抗菌組成物および抗菌組成物を送達するためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】抗菌組成物および抗菌組成物を送達するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/12 20060101AFI20240614BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240614BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240614BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20240614BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20240614BHJP
   A61L 29/10 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A01N59/12
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/00 D
A61L29/08
A61L29/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577166
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(85)【翻訳文提出日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 US2022027728
(87)【国際公開番号】W WO2022235845
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】63/184,765
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523466606
【氏名又は名称】エイチディーアール エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】HDR LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホワン,ミン
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,ブライアン ギャレット
【テーマコード(参考)】
4C081
4H011
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081BB09
4C081CE01
4C081CF21
4H011AA01
4H011AA04
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB18
4H011BC06
4H011BC19
4H011DA13
4H011DH02
4H011DH25
(57)【要約】
壁によって画定されたチャンバを有する医療機器用の抗菌溶液であって、チャンバは、水を含むように構成され、水中のヨウ素の量が、医療機器のチャンバに導入されたときに遊離元素ヨウ素を生成するのに十分である。遊離元素ヨウ素はチャンバの壁を通って拡散し、および/又は医療機器のチャンバの壁に埋め込まれて、チャンバの壁上に抗菌ポリマーを形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁によって画定されたチャンバを有する医療装置用の抗菌溶液であって、前記チャンバは少なくとも部分的に患者に挿入されるように構成され、前記抗菌溶液は、
水、および
前記医療装置の前記チャンバに導入されたときに遊離元素状ヨウ素を生成するのに十分な量の前記水中のヨウ素を含み、
前記遊離元素状ヨウ素が前記チャンバの前記壁を通って拡散し、および/又は前記医療機器の前記チャンバの前記壁に埋め込まれて、前記チャンバの前記壁上に抗菌ポリマーを形成する、抗菌溶液。
【請求項2】
前記溶液が、
ヨウ素0.01~1重量%のヨウ素、および
85~98重量%の水を含む、請求項1に記載の抗菌溶液。
【請求項3】
前記0.01~1重量%のヨウ素が、約9~12重量%のヨウ素を有する0.1~10%のポビドンヨードからなる、請求項2に記載の抗菌溶液。
【請求項4】
水溶性酸化剤、および
水溶性第二銅塩をさらに含む、請求項1に記載の抗菌溶液。
【請求項5】
前記水溶性酸化剤が前記溶液の0.001~0.5重量%であり、前記水溶性第二銅塩が前記溶液の0.001~0.5重量%である、請求項4に記載の抗菌溶液。
【請求項6】
酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム七水和物、クエン酸、および二塩基性リン酸ナトリウムからなる緩衝剤の群から選択される緩衝剤をさらに含む、請求項1に記載の抗菌溶液。
【請求項7】
前記水溶性酸化剤が、アルカリ金属亜硝酸塩、硝酸塩、塩素酸塩、過酸化水素およびヨウ素酸塩からなる酸化剤の群から選択される、請求項4に記載の抗菌溶液。
【請求項8】
前記水溶性第二銅塩が硫酸第二銅五水和物である、請求項4記載の抗菌溶液。
【請求項9】
前記ヨウ素の重量基準の量が2~20mlの体積で提供される、請求項1に記載の抗菌溶液。
【請求項10】
患者用の抗菌カテーテルシステムであって、
管腔と、壁によって画定されたチャンバを有し、前記患者に少なくとも部分的に配置されるように構成されたカテーテル装置と、
前記カテーテル装置の前記管腔および前記チャンバに導入可能な抗菌溶液であって、ヨウ素と水を含む、抗菌溶液とを含み、
前記抗菌溶液を前記管腔および前記チャンバに導入すると、遊離ヨウ素元素が生成され、前記ヨウ素元素が前記チャンバの前記壁を通って拡散し、および/又は前記チャンバの前記壁および/又は前記カテーテル装置の前記管腔に埋め込まれ、前記チャンバおよび/又は前記管腔の前記壁上に抗菌ポリマーを形成する、抗菌カテーテルシステム。
【請求項11】
前記抗菌溶液が、
0.01~1重量%のヨウ素と、
85~98重量%の水を含む、請求項10に記載の抗菌カテーテルシステム。
【請求項12】
前記カテーテル装置がフォーリーカテーテルであり、前記チャンバが前記抗菌溶液で充填可能なバルーンである、請求項10に記載の抗菌カテーテルシステム。
【請求項13】
前記0.01~1重量%のヨウ素が、約9~12重量%のヨウ素を有する0.1~10%のポビドンヨードからなる、請求項11に記載の抗菌カテーテルシステム。
【請求項14】
前記抗菌溶液が、
水溶性酸化剤、および
水溶性第二銅塩をさらに含む、請求項8に記載の抗菌カテーテルシステム。
【請求項15】
前記水溶性酸化剤が前記溶液の0.001~0.5重量%であり、前記水溶性第二銅塩が前記溶液の0.001~0.5重量%である、請求項14に記載の抗菌カテーテルシステム。
【請求項16】
前記抗菌溶液が、
酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム七水和物、クエン酸、および二塩基性リン酸ナトリウムからなる緩衝剤の群から選択される緩衝剤をさらに含む、請求項10に記載の抗菌カテーテルシステム。
【請求項17】
前記水溶性酸化剤が、アルカリ金属亜硝酸塩、硝酸塩、塩素酸塩、過酸化水素およびヨウ素酸塩からなる酸化剤の群から選択される、請求項14に記載の抗菌カテーテルシステム。
【請求項18】
前記水溶性第二銅塩が硫酸第二銅五水和物である、請求項14に記載の抗菌カテーテルシステム。
【請求項19】
請求項10に記載の抗菌カテーテルシステムであって、前記抗菌溶液が、2~20mlの量で前記フォーリーカテーテルの前記バルーンに提供される。
【請求項20】
患者に少なくとも部分的に配置されるカテーテルを消毒する方法であって、前記カテーテルは管腔および壁を備え、前記方法は、
前記カテーテルの前記管腔にヨウ素と水を含むロッキング溶液を導入すること、
前記カテーテルの前記管腔に固定溶液を導入することによって遊離ヨウ素を生成し、前記元素状ヨウ素が前記管腔の前記壁を通って拡散し、および/又は前記カテーテルの前記壁に埋め込まれて前記チャンバの前記壁に抗菌ポリマーを形成するようにすること、および
前記管腔上に形成された抗菌性ポリマーおよび/又は前記管腔の前記壁を通って拡散された前記遊離元素状ヨウ素を用いて、前記管腔および前記壁の上又は周囲の領域を消毒することを含む、方法。
【請求項21】
前記ロッキング溶液が、
0.01~1重量%のヨウ素と、
85~98重量%の水を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記0.01~1重量%のヨウ素が、約9~12重量%のヨウ素を有する0.1~10%のポビドンヨードからなる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ロッキング溶液が、
水溶性酸化剤と、
水溶性第二銅塩をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記水溶性酸化剤が前記ロッキング溶液の0.001~0.5重量%であり、前記水溶性第二銅塩が前記ロッキング溶液の0.001~0.5重量%である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ロッキング溶液が、
酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム七水和物、クエン酸、および二塩基性リン酸ナトリウムからなる緩衝剤の群から選択される緩衝剤をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記水溶性酸化剤が、アルカリ金属亜硝酸塩、硝酸塩、塩素酸塩、過酸化水素およびヨウ素酸塩からなる酸化剤の群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記水溶性第二銅塩が硫酸第二銅五水和物である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記抗菌溶液が、2~20mlの量で前記フォーリーカテーテルの前記バルーンに提供される、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記カテーテルは、尿路内に挿入するように構成されたフォーリーカテーテルである、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月5日に出願された米国仮特許出願第63/184,765号の利益を主張する。この出願は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
病院は、患者に医療と治癒処置を提供する場所である一方で、そのような患者に対する大きな感染源でもある。人間などの生物の体内又は体上での医療処置のための医療機器の使用、又は医療処置自体は、医療関連感染又は病院関連感染(HAI)として知られる重篤な院内感染を引き起こす可能性がある。HAIは医療関連の機器や処置の直接的な結果であり、非常に一般的であり、高価で、潜在的に致命的である。HAIは米国で毎年、全入院患者の5~10パーセント、あるいはそれ以上、最大200万人の患者が罹患し、追加の病院費用の直接的な原因として500億ドル近くを占め、年間約10万人以上の死亡を引き起こしている。
【0003】
カテーテルなどの生物に挿入される医療機器は、製造時に慎重に梱包され、臨床処置で使用される前に細菌やその他の微生物の存在を抑制するために滅菌されなければならない。カテーテルは、病院の環境で、薬剤、非経口栄養、生理食塩水などの液体を患者に注入するために長い間使用されてきた。また、患者から血液を採取し、患者の血管系のさまざまなパラメータを監視することにも使用されている。一般に、カテーテルには、患者の体内に注射又は投与される流体又は薬剤を含む管腔もしくは複数の管腔又はリザーバと、患者の体内に針でアクセスするための注入ポート又は装置が含まれる。
【0004】
これらの管腔とリザーバは、細菌、微生物、ウイルス、細菌が定着して蔓延する可能性のある大きな表面を提供する可能性がある。医療処置中、医療機器が患者の静脈、尿道、又はその他の部分に挿入されると、機器の管腔外又は外表面が皮膚から細菌を拾い上げ、挿入部位の奥深くまで細菌を運ぶ可能性があり、そこで細菌定着が生じる可能性がある。
【0005】
カテーテルには、中心静脈カテーテル(CVC)、静脈内カテーテル又は中心静脈アクセス装置(CVAD)、留置カテーテル、尿道「フォーリー」カテーテルなど、さまざまな形式と種類がある。CVCおよびCVADは「中心ライン」と呼ばれることが多く、輸液、薬剤、血液および血液製剤、非経口栄養の投与に使用される広範なカテゴリーの侵襲的装置を指す。中心ライン使用のリスクは重大である。中心ラインは血流感染の主要な危険因子であり、感染と死亡のリスクを大幅に増加させ、医療費を押し上げる可能性がある。
【0006】
最も重大なHAIは、侵襲的処置および/又は医療機器に関連するもので、中心ライン関連血流感染症(CLABSI)、カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)、手術部位感染症(SSI)、および人工呼吸器関連肺炎(VAP)を含む。図1に示すように、尿道カテーテル又は中心静脈カテーテルなどのカテーテル102の滑らかなプラスチック又はエラストマー(すなわちバルーン)表面は、バイオフィルム104が付着し成長するのに理想的な表面を提供する。
【0007】
バイオフィルムは、低地に存在し急速に増殖する細菌106の不浸透性マトリックスであり、それ自身のポリマー分泌物に安全に包まれており、細菌のさらなる増殖とほとんどの抗生物質に対する耐性を可能にする。これらの細菌106は、カテーテル表面102に近い環境において外部細菌108よりも急速に増殖することができる。
【0008】
尿道カテーテルとCVC、特に長期間使用されるものの場合、カテーテルの外面に沿って微生物が増殖するという重大な脅威がある。これは、長期間の尿道カテーテル(最も一般的にはフォーリーカテーテル)の場合にはCAUTIを、CVCおよびCVADの場合にはCLABSIを引き起こす可能性がある。VAPは、人工呼吸器を使用している人に発現する肺感染症である。人工呼吸器は、患者の口や鼻に挿入されたチューブ、又は首の前の穴から酸素を供給することにより、患者の呼吸を補助するために使用される機械である。細菌や他の病原体がチューブを通って患者の肺に侵入すると、感染症が発生する可能性がある。
【0009】
最も一般的な医療関連感染症の1つはCAUTIであり、尿道カテーテルの留置又は抜去後のどの時点でも発生する可能性がある。一部の尿道カテーテルは、少なくとも部分的に膀胱内に留まる留置カテーテルとして知られており、膀胱から尿を収集し、排液バッグ又は他の種類の洗面器又は容器に尿を堆積させる中空の可撓性チューブを備えている。これらのカテーテルは、手術中や手術後の回復中など、患者が膀胱を空にすることができない場合に使用され、危険で永久的な腎臓損傷につながる可能性がある。尿道カテーテルは通常、短期間の使用向けに設計されており、「留置」、つまり数日から数週間留置したままにすることもできる。
【0010】
一般的な種類の留置尿道カテーテルは「フォーリー」カテーテルとして知られており、挿入時にカテーテルチューブを膀胱内に固定するための膨張可能なバルーンを備えている。バルーンは、膀胱に挿入した後、滅菌水などの溶液で膨張させ、膀胱からカテーテルが抜けないようにするブロックとして機能する。フォーリーカテーテルの滑らかなプラスチック又はエラストマー(バルーン)表面は、上述し、図1に示すように、バイオフィルムにとって理想的な病巣を提供する。
【0011】
留置尿道カテーテルは、最も一般的に配備されている人工装具医療機器である。これは膀胱から尿を排出する便利な方法であるが、残念なことに、細菌が重度に汚染された皮膚の外側から侵入して脆弱な体腔に感染する可能性がある導管にもなる。汚染の3つの主要なモードは、管腔外(挿入プロセス中)、管腔内(カテーテルのドレイン管腔で増殖する細菌)、および尿中の細菌によるカテーテルへの細菌播種(管腔内又は管腔外の両方の可能性がある)である。感染のリスクはカテーテルの留置期間に関係しており、カテーテルを挿入されている多くの患者にとって、膀胱内に細菌群が定着することは避けられない。通常、カテーテルを挿入した尿路には、エンテロコッカス・フェカリス、大腸菌、プロビデンシア・スチュアルティ、緑膿菌、プロテウス・ミラビリス、モルガネラ・モルガニィ、および肺炎桿菌などのさまざまな微生物が定着する。すべての尿道カテーテルは細菌定着する可能性があり、3日目から16日目の間に定着が100,000コロニー形成単位を超えるまで増殖した場合、この高度に定着した状態は細菌尿症と呼ばれる。患者が感染症の症状を伴う細菌尿症を患っている場合、これは尿路感染症(UTI)と定義される。
【0012】
CAUTIは、細菌尿症(尿中の細菌の存在)、症候性尿路感染症(SUTI)、血流感染症(BSI)、又はそれらのさまざまな組み合わせの形態をとることがある。米国では毎年4,000万本以上の留置尿道カテーテルが入院患者およびこれらの患者に挿入されている。無症候性細菌尿症を引き起こすカテーテルの定着は、1日当たり患者の約3~10パーセントで発生する。細菌尿症が発現すると、患者の約25パーセントが症候性UTIを発現し、約3パーセントが菌血症(血液中に細菌が存在する)又はBSIを発現する。
【0013】
CAUTIの各症例は、患者1人あたり平均5,000ドルから20,000ドルをはるかに超える追加の病院費用に直接つながる可能性があり、通常はさらに多く、年間約45億ドルの追加費用と、CAUTIの入院者数1,000人あたり36人を超える超過死亡につながる。これらの数字には、CAUTIが病院で診断されず、後になって自宅で症状が出た患者は含まれていない。CLABSI関連の追加費用は、平均して18,000ドルからほぼ100,000ドルの範囲に及ぶ可能性がある。
【0014】
さらに、2008年以降、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、入院中および尿道カテーテルの使用中にCAUTIを発現した患者の治療にかかる追加費用を病院に払い戻さなくなった。民間保険会社も現在のCAUTI料金に関連するリスクと費用を認識しており、感染予防を促進する手段として、感染が発生した場合には病院に重大な支払い圧力をかけている。しかし、特にCAUTIに対する効果的な感染予防は依然として実現が困難である。
【0015】
入院患者ではカテーテル治療が頻繁に行われるため、無症候性細菌尿症やCAUTIなどの感染症により抗生物質による治療を引き起こすことがよくあるが、これが抗生物質耐性病原体のリザーバとなる可能性がある。抗生物質の長期使用や誤用は、多くの場合、抗生物質耐性株の増加をもたらす。したがって、一般に抗生物質の全身療法は無謀であり、CAUTIの予防には効果がない。抗生物質の全身投与による二次副作用も、多くの患者に深刻なリスクをもたらす可能性がある。微生物バイオフィルムは、体と直接接触するすべてのカテーテル又は管腔における感染症の発現において重要な役割を果たす。
【0016】
上で簡単に説明したように、非生物表面に最初に定着した後、細菌や他の尿路病原体などの病原体は、バイオフィルムとして知られる細胞外ポリマー物質の水和マトリックスを形成する。CAUTIの場合、これらのバイオフィルム構造により、カテーテルの表面と患者の上皮への接着が促進され、尿路病原菌が抗生物質や宿主の免疫系から保護されるため、尿路内での細菌の生存が可能になる。バイオフィルム内の細菌が剥離もして、最初の定着部位から上部尿路に拡散する可能性があり、腎盂腎炎の潜在的な原因となる。さらに、尿路病原性細菌はリン酸カルシウムやリン酸マグネシウムの沈殿を誘発し、カテーテルを通る尿の流れを妨げて重篤な合併症を引き起こす可能性のある尿路結石を形成する可能性がある。
【0017】
カテーテルが源位置にある間は、感染症を抗生物質で根絶するのは難しいことが知られている。感染が腎臓又は血流に到達した証拠がある場合にのみ治療に頼るのが通常慣行である。概念的に、バイオフィルムの形成を防ぐ最も簡単な方法は、周囲環境に溶出する広域スペクトルの抗菌剤をカテーテルに含浸させることである。このようにして、図1に示されるように、装置の近くの浮遊細菌108は、表面に定着してバイオフィルム耐性表現型を採用する前に攻撃でき得る。
【0018】
しかし、有効濃度の抗菌剤をカテーテルから長期間送達するのが難しいため、長期の膀胱管理を受けている患者における抗菌剤カテーテルの有用性は限られており、一部の患者にとって一般的な治療法はカテーテルを頻繁に交換することであり、これは挿入後最大10~12週間の間隔までの数日間を意味する。
【0019】
CAUTIを最小限に抑えるために、完全に閉鎖された排液システムの導入や抗生物質の全身投与による予防的治療など、いくつかの試みが行われてきた。別の方法は、カテーテルを抗生物質化合物に浸すか、細菌の付着とバイオフィルムの生成を防ぐコーティングで表面全体を覆うことである。これらの努力にもかかわらず、CAUTIは依然として非常に一般的であり、これらの潜在的に深刻な合併症のための費用は高い。
【0020】
CAUTIは毎年全尿路感染症の80%を占めるため、図2に示すような多くの感染制御対策が追求されてきた。銀ヒドロゲルコーティングや、銀やその他の抗生物質などの消毒用化学物質を尿道カテーテルに含浸させると細菌尿症の重症度が軽減される可能性があるが、フォーリーカテーテルの使用に伴うバイオフィルム誘発感染症を効果的に予防する方法はまだ開発されていない。銀含浸カテーテルの欠点の1つは、長期間にわたると抗菌活性が失われるため、長期間のカテーテル挿入には必ずしも適していないこと、また、抗生物質カテーテルと比較した場合により大きな細胞毒性を示すことである。しかし、泌尿器科カテーテルでの抗生物質の使用に関する主な懸念は、抗生物質に対する微生物の耐性の発現と抗生物質の細胞毒性である。
【0021】
尿道カテーテルなどのチューブ含有医療装置の使用による感染を防止するための別の提案された解決策には、チューブ含有医療装置の管腔に挿入するための交換可能な生物活性管腔構造の使用が含まれる。しかし、この解決策では、管腔又は流体経路内に金属棒(銅など)を含める必要があり、注入された薬剤と金属棒の間の化学的相互作用の問題が最も重要になる。さらに、この解決策では、既存のアクセスバルブの大規模な変更又はまったく新しい追加のコンポーネントが必要となり、血管アクセスに大幅な変更が必要になる。
【0022】
このような棒を使用する主な弱点は、棒が潜在的な感染部位の下流に配置されるため、感染の病因(膀胱内の装置表面での播種と増殖)に影響を与えるために銅イオンを上流に伝達する必要があることである。膀胱に到達するカテーテルの一部が病因の核心であり、バルーン自体が、感染が起こる表面の圧倒的大部分を占めている。
【0023】
遊離元素状ヨウ素(I)は、殺菌、殺真菌、殺胞子、および殺ウイルス特性を備えた広範囲の消毒剤としての活性を有するよく知られた抗菌剤である。溶液中の数百万分率(ppm)が細菌やウイルスを死滅させるのに十分である。現在使用されているヨウ素ベースの製品は、主要な抗菌剤としてヨウ素に依存している。これらの製品は、皮膚や局所適用の目的で、カチオン性、アニオン性、非イオン性、又は界面活性剤、および皮膚軟化剤を配合してもよい。しかし、元素状ヨウ素は水、空気、脂質中への拡散性が高く、酸化剤としての反応性が高いため、臨床現場での取り扱いが困難である。
【0024】
ヨウ素を抗菌剤として使用すると、他の問題が生じる。一般的なヨウ素製品は、滅菌されているかどうかにかかわらず、保存期間中に継続的にヨウ素を失う。ヨードフォアは通常、水性塩基中で使用され、水の存在下では、ヨウ素はよく知られているが複雑な一連の反応を起こし、とりわけヨウ化物イオンと水素イオンを生成する。水素イオンの生成により、ヨウ素が外科用スクラブ又は皮膚前処理剤として使用された場合、使用者に皮膚の炎症や不快感を引き起こすほど局所ヨウ素剤のpHが低下する可能性があるが、バルーンカテーテルの抗菌充填溶液の場合、pHの低下により一酸化窒素ガスの生成が促進される。ヨウ素力価の損失は、フォーリーカテーテルのバルーンに注入するなど、この抗菌溶液を使用するときに、組成物のヨウ素含有量が必要な濃度を下回らないようにするというさらなる課題を引き起こす。
【0025】
したがって、さまざまなアプローチが、ヨードフォアヨウ素複合体中のヨウ素濃度を安定化する方法に焦点を当ててきた。1つの方法は、有機物質、ヨウ素、ヨウ化物イオンおよびヨウ素酸イオンを含有し、pH5~7に維持される組成物を対象とし、ヨウ化物およびヨウ素酸塩が水素イオンの存在下で反応して、保管中に失われたヨウ素を補充する。他の方法は、ヨウ素酸イオンなどの酸化剤を添加することによって予め形成されたヨードフォアヨウ素複合体を安定化する方法、およびポビドンなどのヨードフォアをヨウ素酸イオンおよびヨウ化物イオンと反応させることによって複合体を調製する方法を開示している。ただし、これらの方法は、部位が感染の宿主になるのを防ぐために部位に適切に送達できないため、CAUTIやその他の医療機器関連感染症などの感染症に対処するのには適していない。
【0026】
銅化合物はその抗菌特性のために古くから使用されており、多くのさまざまな微生物は銅イオンによって急速に死滅する。最近、銅合金が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、サルモネラ菌や大腸菌O157などの重要な細菌、並びにバクテリオファージ、ノロウイルスなどに対する効果的な抗菌特性により、米国環境保護庁によって使用が承認された(Reg82012-1)。銅は医療用途だけでなく、ステンレス鋼単独や銀よりも効果的に病原菌の拡散を防ぐことができるため、表面にも使用されている。銅イオンの抗菌メカニズムには、膜損傷、酸化ストレス、タンパク質/DNA変性が含まれる。
【0027】
銅の殺菌活性は主にイオンの放出に起因しており、このイオンは膜および/又は細菌壁の完全性に影響を与え、細胞内酸化ストレスを生成し、遺伝毒性を持ち、微生物の死滅をもたらす。銅は人間だけでなく細菌にとっても必須の栄養素であるが、銅イオンが制御されずに大量に放出されると、浸透圧(浸透圧バランス)の破壊、細胞壁の弱体化など、細菌の細胞内での悪影響などの一連の悪影響が引き起こされる可能性があり、内容物が漏れて微生物が死滅する可能性がある。銅が適切に管理されていない場合、これと同じ毒性効果が人間の細胞にも起こる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
上記に基づいて、体腔へのカテーテル挿入によって引き起こされる感染症を予防するより良い方法/解決策の開発、特に抗生物質耐性微生物を選択する問題を回避する方法、抗菌溶液および装置の開発が非常に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0029】
細菌やウイルスなどの微生物を死滅させるか、又はその増殖を防止するための抗菌溶液、および人間などの生物内の標的位置でのバイオフィルムの形成を防止するための抗菌溶液を送達するための送達システム、装置および方法が提示される。この文書はCAUTIに焦点を当てているが、本開示、および本明細書に記載されるすべての変形例および代替例は、血管アクセス装置および方法、人工呼吸器チューブ、手術部位の感染症の予防、一般的な創傷又は感染症の治療などの付加的および広範囲の適用を含むと理解される。
【0030】
いくつかの態様では、半多孔質膜を有するバルーン/リザーバに充填するために使用することができる遊離ヨウ素放出溶液が記載されており、遊離ヨウ素は膜を通って放出され、膜の外表面への微生物の付着を減少させ、および/またリザーバ周囲の液体に存在する可能性のある細菌のレベルを減らす。
【0031】
他の態様では、バルーン/リザーバを充填するために使用できる遊離ヨウ素放出溶液が記載されており、放出された遊離ヨウ素はリザーバの表面および同様の又は近接した表面に付着して抗菌層を形成し、したがってそれらの表面での細菌の付着および増殖を阻害する。
【0032】
他の態様では、抗菌溶液は、遊離ヨウ素(I)、一酸化窒素ガス(NO)、および銅イオン(Cu2+)を抗菌剤として生成することができる、ヨウ素、一酸化窒素および銅イオンの様々な組成物を含む。これらの組成物は、これらの組成物を受け取って搬送するように構成された装置によって、患者又は患者の標的内部領域に放出され、最終的にはそこから回収されるように構成することができる。
【0033】
別の態様では、生物に抗菌溶液を送達するためのシステムおよび装置が開示されている。このシステムおよび装置は、カテーテルによる細菌の定着を防ぐために尿の付着を防止する尿道カテーテル(例えば、フォーリーカテーテル)を含む。いくつかの実装形態では、システムおよび装置は、カテーテルの保持バルーンおよび連通管腔内での抗菌溶液の抗菌剤の拡散および/又は浸透を利用する。
【0034】
上述のように、細菌増殖の播種には1)細菌、2)播種して栽培する領域が必要である。本発明は、細菌尿又は他の細菌感染症の問題を排除するために、病因を排除又は迅速に阻止し、逆行させる。例えば、フォーリーカテーテルの場合、対象となる播種は、最終的に膀胱内に存在するバルーンなどのカテーテルの部分上の播種であり得る。これは挿入中又は挿入直後に発生する。本発明は、カテーテルの留置表面および膀胱のほぼ内部にあるこれらの播種を迅速に攻撃して、CAUTIのリスクを低減する。
【0035】
これらの実装形態では、溶液又は組成物は、同時に、用途に応じて様々な割合で供給される1つ又は複数の抗菌剤(遊離ヨウ素、一酸化窒素ガス、銅イオン、又はそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない)を提供する。フォーリーカテーテルに適用される場合、これは、バルーンの壁および/又はカテーテル壁を介した拡散および/又は浸透を介して、カテーテルバルーンおよび連通管腔自体から尿中に抗菌溶液から直接抗菌剤を制御放出することによって達成することができる。あるいは、抗菌剤をチューブなどのカテーテルを少なくとも部分的に形成する材料に含浸させることもでき、その結果、カテーテルの材料が抗菌材料となり、特に生物の内部の標的領域に細菌が宿主になる又は定着する可能性のあるバイオフィルムの形成を防ぐことができる。
【0036】
1つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明に明示されている。本発明の他の特徴および利点は、説明および図面、並びに特許請求の範囲から明らかであろう。
【0037】
これらおよび他の様態を、以下の図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】細菌感染とバイオフィルムの発生を示す。
図2】カテーテル材料(すなわちチューブ)が抗菌材料となり、細菌の増殖の原因となり得るバイオフィルム又は他の表面の形成を防止するなど、カテーテル材料に含浸させるためにカテーテル材料に供給される抗菌剤を示す。
図3】尿道カテーテルのバルーンを膨張させる溶液から放出される銅イオンの影響と、尿道カテーテルの使用中に患者の尿路内に形成される可能性のある微生物を銅がどのように死滅させることができるかを示す。
図4】本明細書に記載の実装形態による、抗菌送達システムを有する尿道カテーテルを示す。
図5】本明細書に記載の実装形態と一致する、尿道カテーテルの挿入および使用を示す。
図6】本明細書に記載される抗菌溶液を送達するための様々な送達装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
種々の図面における同様の参照番号は、同様の要素を示す。
【0040】
本文書は、細菌やウイルスなどの微生物を死滅させるかその増殖を阻止し、バイオフィルムの形成を防止するための抗菌組成物およびその送達システムについて記載している。いくつかの実装形態では、送達システムは、組成物の1つ以上の化学成分による、又はそれらの間の化学反応を促進して、1つ以上の新しい抗菌成分を生成するように構成される。
【0041】
特定の実装形態では、本文書は抗菌溶液又は抗菌物質について説明している。いくつかの実装形態では、溶液又は物質は、硫酸銅などの銅含有化学成分、および/又はヨードフォア、および/又は一酸化窒素、あるいはそれらの変異体などの単一の化学成分を含むことができる。
【0042】
いくつかの実装形態では、溶液は、還元酸化(レドックス)反応を介して、医療および/又は製薬用途に十分な1つ以上の新しい抗菌成分を生成する2つ以上の化学成分を含む。例えば、1つ以上の新しい抗菌成分は、送達システムの表面を介した拡散および/又は浸透によって送達システムによって送達されるガスを含むことができる。他の例では、1つ以上の新しい抗菌成分には、粘膜などの感染部位への局所適用のための液体、クリーム又はゲルが含まれ得る。さらに他の実装形態では、1つ以上の新しい抗菌成分を包帯、塗布器などの送達装置に組み込むことができる。
【0043】
いくつかの特定の実装形態では、遊離ヨウ素放出溶液を使用して半多孔質膜を有するバルーン/リザーバを充填することができ、遊離ヨウ素は膜を通して放出されて、膜の外表面への微生物の付着を減少させる、および/又はリザーバ周囲の液体に存在する可能性のある細菌のレベルを減らす。いくつかの実装形態では、その溶液はバルーン/リザーバを充填するために使用でき、放出された遊離ヨウ素はリザーバの表面および同様の又は近接した表面に付着して抗菌層を形成し、したがってそれらの表面での細菌の付着および増殖を阻害する。
【0044】
したがって、本発明は、還元および/又は酸化(レドックス)などの化学反応を介して1つ以上の新しい化学成分を生成するために組み合わされる2つ以上の化学成分を含む、医療機器の充填、ロック、排出、灌注、又は局所適用溶液を含み、1つ以上の新しい化学成分には抗菌特性が含まれる。
【0045】
いくつかの実装形態では、1つ以上の新しい化学成分のうちの少なくとも1つは気体であるが、他の実装形態では、1つ以上の新しい化学成分のうちの少なくとも1つは液体であり、さらに他の実装形態では、1つ以上の新しい化学成分のうちの少なくとも1つは粉末、ジェル、クリームなどの固体又は半固体である。いくつかの場合には、結合して1つ以上の新しい化学成分を生成する2つ以上の化学成分を含む溶液は医療機器内に含まれ、患者の体液と接触しないており、他の場合には、2つ以上の化学成分が、血管アクセス又は尿道カテーテルのフラッシング、選択的透過性膜、すなわち膨張したカテーテルバルーン又は他の搬送メカニズムを介した拡散および/又は浸透など、患者の体液に直接接触するような方法で提供される。
【0046】
したがって、初期溶液は自然の状態では抗菌性である場合もあればそうでない場合もあるが、化学反応は1つ以上の抗菌剤を生成するように構成されている。適用には、バルーンなどの形態のカフに抗菌ガスなどの抗菌剤が充填されているカフ付き気管内チューブが含まれるが、これに限定されない。別の適用には、ラブ又は軟膏が含まれる。このような適用は、微生物の定着を除去するために、例えば鼻腔又は他の体腔内で使用することができる。さらに別の適用としては、皮膚上のバイオフィルムやその他の感染の定着を阻害するために、患者の皮膚に塗布するためのラブや軟膏であることができる。さらに別の適用は創傷の治療又は皮膚の除菌などの用途のために、本明細書に記載の溶液の実装を帯具又は包帯に適用することが含まれる。
【0047】
いくつかの実装形態では、2つ以上の化学成分および/又は1つ以上の新しい抗菌成分は、硫酸銅充填溶液、PVP-I充填溶液、又は他の無機充填溶液もしくは抗菌剤又は新しい成分を生成する充填溶液を含むことができる。例えば、いくつかの実装形態では、抗菌装置は、バルーンに一酸化窒素ガス、遊離ヨウ素、又は他の抗菌ガス、又はそれらの任意の組み合わせを充填することを含むことができる。
【0048】
抗菌溶液
いくつかの好ましい例示的な実装形態では、送達システムで使用するための抗菌溶液には、ヨードフォア、第二銅塩もしくは銅塩、および亜硝酸ナトリウム、又はそれらの様々な組み合わせが、様々な割合で含まれる。ヨードフォアは、9%以上12%以下の利用可能なヨウ素を含む粉末形態のPVP-I USPであり得る。このヨードフォアにはある程度のヨウ化物イオンが含まれており、その含有率は6.6%以下であることが好ましい。第二銅塩を粉末組成物に添加することができる。第二銅塩は、硫酸銅五水和物(CUSO.5HO)、塩化銅(CuCl)、又は任意の他の好ましい硫酸銅(II)(CuSO(HO))などの多くの銅塩のいずれであってもよい。亜硝酸ナトリウム(NaNO)はヨウ化第二銅を酸化して一酸化窒素ガス(抗菌剤)を放出し、第一銅イオンは酸化されて第二銅イオンに戻り、第二銅イオンはヨウ化物イオンを酸化して遊離ヨウ素I(他の抗菌剤)を生成する。
【0049】
ヨードフォア
ヨウ素は非常に効果的な局所用抗菌剤であり、細菌、マイコバクテリア、真菌、原生動物、ウイルスに対して有効な広範囲の抗菌活性を備えているが、従来は急性および慢性の両方の創傷の局所適用および治療に限定されていた。溶液中では、ヨウ素は一般に不安定で、少なくとも7つのヨウ素種が複雑な平衡状態で存在し、分子ヨウ素分子(I)が主に抗菌効果に関与している。例えば、あるいはポリビニルピロリドン(PVP-I)は、創傷、潰瘍、切り傷および火傷の感染の治療および予防のための外科用スクラブ、外科用皮膚調製物として医療に広く応用されている。これらの適用のために、PVP-Iは溶液、スプレー、外科用スクラブ、軟膏、および綿棒の剤形で製剤され、色は茶色である。
【0050】
通常の老化によりヨウ素元素がヨウ化物イオンに変換され、それによって有効性が失われる。したがって、本明細書に開示される実装形態は、以下を含むがこれらに限定されないさまざまな適用に適切な安定性を提供する。1)CAUTIを防ぐためのフォーリーカテーテル用抗菌バルーン充填溶液、2)CAUTIを防ぐために患者の膀胱を洗浄するための抗菌溶液、および3)CVC、血液透析カテーテル、間欠カテーテルなど用の抗菌ロック溶液。
【0051】
ポビドンヨードは、ポリビニルピロリドン(PVP)と元素状ヨウ素(I)の安定した化学複合体であり、可溶化剤又はヨードフォアと呼ばれる担体として機能し、ヨードフォアは活性「遊離」ヨウ素のリザーバとして機能する。これには有効ヨウ素が9~12%含まれる。この材料にはある程度のヨウ化物イオンが含まれており、その含有率は6.6%以下である。ヨウ素とポリビニルピロリドン(PVP)を組み合わせると、ヨウ素の蒸気圧が低下し、水へのヨウ素の溶解度が増加する。
【0052】
いくつかの例示的な実装形態では、溶液は硫酸銅および一酸化窒素(NO)を含むことができる。組成物の色は、最初は茶色である。PVP-Iからのすべてのヨウ化物イオンが酸化され、すべての遊離ヨウ素が逃げると、その時点までにすべての亜硝酸ナトリウムが一酸化窒素ガス(NO)などによって酸化されるため、組成物は硫酸銅により青色になり、硫酸銅のみがシステム内に残る。青色は、抗菌溶液を交換する必要があることを示すインジケータとしても機能する。その時点で、すべてのPVP-Iと亜硝酸ナトリウムが反応物からなくなり、このため遊離ヨウ素および/又は一酸化窒素ガスはそれ以上放出されない。
【0053】
以下は、本明細書に記載されるいくつかの実装形態による例示的なヨードフォアの化学図である。
【化1】
【0054】
一酸化窒素
分子量30の一酸化窒素(NO)は、最小の生物学的分子メディエーターの1つである。哺乳動物細胞では、L-アルギニンの酵素酸化により、L-シトルリンとともにNOが生成される。酵素的に生成されるNOはさまざまな生理学的プロセスにおいて重要であり、その多くは感染の病因の理解に関連している。NOは、血管拡張因子、心筋抑制因子、細胞傷害性メディエーターとして作用することにより、感染の病的状態に寄与する可能性がある。一方、NOの微小血管特性、細胞保護特性、免疫調節特性、および抗菌特性は、感染した宿主にとって有益であり、おそらく不可欠な役割を果たす。
【0055】
通常、NOは酸素の存在下で一酸化窒素シンターゼ(NOS)によってアミノ酸L-アルギニンから酵素的に生成される。NOは、血圧の調節、血小板凝集の制御、免疫複合体の組織沈着によって引き起こされる血管損傷からの保護を担う一時的な遊離基であり、自然界と細胞媒介免疫系の両方で広範囲の抗菌剤として使用される。NOは、L-アルギニンからL-シトルリンへの酸化を触媒するNOSファミリーによって生体内で合成される遊離基である。真核細胞によって産生される一酸化窒素合成酵素は以下の3つがある。(a)内皮細胞における構成的NO合成を担う内皮NOS(eNOS)、(b)神経関連細胞におけるNO合成を担うニューロンNOS(nNOS)、および(c)上皮細胞、内皮細胞、炎症細胞に見られ、その発現はサイトカイン、微生物、又は細菌産物によって上方制御される誘導型、(iNOS)。NOは、経路と目的の機能に基づいてさまざまなレベルで合成される。しかし、NOに対する殺菌効果を引き出すには、はるかに高いレベルが必要である。
【0056】
NOはヒト特異的および非特異的免疫において重要な役割を果たしており、特に優れた広範囲スペクトルの抗菌剤である。皮膚、腸内、および病気を防御し闘う細胞免疫系による内因性NO生成の証拠が増えている。さらに、血液中の全身性硝酸塩、亜硝酸塩、およびニトロシル化化合物の重要性がよりよく理解され、感染症との闘いにおける意味がより明らかになってきている。内因性NOの刺激、又は感染したヒト組織への外因性NOの適用は、微生物感染を治療する効果的な方法となり得る。ただし、商業的に実行可能な装置の設計にはかなりのハードルが存在する。
【0057】
抗菌性NO生成製品を臨床現場に導入する際の最大のハードルの1つは、真核細胞にとって有毒と考えられるレベル未満の治療用抗菌レベルを維持しながら、ガス状の一酸化窒素(gNO)を治療レベルで一貫して放出することである。吸着放出又は化学放出技術の大部分は、湿気、熱、光、又は臨床現場では制御が難しいその他の要因による活性化を必要とする。これらの課題は、ほとんどの装置が初期に高レベルのgNOを放出し、時間の経過とともに放出レベルが低下するため、殺菌レベルのgNOを十分な期間維持することが困難であるという事実によってさらに複雑になる。gNOの一貫した送達は、本明細書に記載のいくつかの実装形態で開示されるように、チューブおよび/又は局所塗布器を介して送達されるタンクからのgNOの直接適用によることが好ましい。
【0058】
残念ながら、これにより患者は歩行できなくなり、多大な費用がかかる。これらのハードルは、新しいgNO活性化および送達システムによって克服できる。いくつかの実装形態では、制御放出又は酵素系などの反応システムは、安価な大量生産可能な成分を利用しながら、長期間にわたる持続的な一貫した治療放出を提供する。さらに、これらのシステムと装置は、長期の保存寿命と安定性を確保するために、安定した安全なコンポーネントを使用して慎重に設計されている。このような装置は、多種多様な細菌、真菌、寄生虫、およびウイルス感染の治療、および感染した傷の治癒において商業的に実行可能であることが証明される。
【0059】

銅化合物は抗菌特性があり、多くのさまざまな微生物は銅イオンによって急速に死滅する。最近、銅合金が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、サルモネラ菌や大腸菌O157などの重要な細菌、並びにバクテリオファージ、ノロウイルスなどに対する効果的な抗菌特性により、米国環境保護庁によって使用が承認された(すなわちReg82012-1)。銅は医療用途だけでなく、ステンレス鋼単独や銀よりも効果的に病原菌の拡散を防ぐことができるため、表面にも使用されている。銅イオンの抗菌メカニズムには、膜損傷、酸化ストレス、細菌および他の微生物のタンパク質/DNA変性が含まれる。
【0060】
銅の殺菌活性は主に銅イオンの放出に起因しており、このイオンは細菌細胞壁および/又は細菌の膜の完全性に影響を与え、細胞内酸化ストレスを生成し、遺伝毒性を持ち、細菌などの微生物の死滅をもたらす。銅は人間だけでなく細菌にとっても必須の栄養素であるが、大量に放出された銅イオンは、浸透圧(浸透圧バランス)の破壊、細胞壁の弱体化など、細菌の細胞内での悪影響などの一連の悪影響が引き起こされる可能性があり、内容物が漏れて微生物が死滅する可能性がある。本明細書に記載される実装形態では、銅イオンは、ヒト細胞又は他の生物の細胞には無害である一方で、殺菌剤として作用するか、細菌又は他の病原体又は微生物を死滅させるか中和するのに十分な量でのみ放出される。
【0061】
図3は、尿道カテーテルのバルーンを膨張させる溶液から放出される銅イオンの影響と、尿道カテーテルの使用中に患者の尿路内に形成される可能性のある微生物を銅がどのように死滅させることができるかを説明している。
【0062】
上述の抗菌剤はそれぞれ無機形態で送達可能であるため、トリクロサン又は他の潜在的に有毒な物質などの担体を必要としない。
【0063】
有機抗菌剤
ここで開示される実装形態において使用することができる有機抗菌剤としては、ピリジニウム殺生物剤、塩化ベンザルコニウム、セトリミド、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、酢酸デカリニウム、塩化デカリニウムを含む四級アンモニウム殺生物剤が挙げられるが、これらに限定されない。他の有機抗菌剤には、クロロキシレノール、パラクロロメタキシレノール、又は2,4,4’-トリクロロ-2’-ヒドロキシジフェノールなどのフェノール系殺生物剤が含まれる。本発明で使用される殺生物剤として使用できる消毒剤には、アレキシジン、クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、二塩酸オクテニジン(オクテニジン)および/又はタウロリジンなどのグアニジンが含まれる。
【0064】
溶液の例
好ましい例示的な実装形態では、ヨードフォア組成物は安定なヨウ素溶液又は組成物を生成する。いくつかの実装形態では、記載された溶液又は組成物が水又は水溶液(すなわち、尿)、又は他の溶媒に溶解される場合、PVP-I粉末、硫酸銅塩およびナトリウム亜硝酸塩を含むが限定されない組成物の他の成分は完全に溶解する。式(1)に示すように、第二銅イオン(Cu2+)は、PVP-Iからのヨウ化物イオン(I)を酸化してヨウ素(I)を生成し、このI分子は、接触した細菌を死滅させる抗菌剤として機能する。
【化2】
【0065】
いくつかの実装形態では、式(1)に示されるように、モル比は、2モルの硫酸銅であり、4モルのヨウ化物と反応して、2モルのヨウ素第一銅(CuI)および1モルの遊離ヨウ素(I)を生成する。
【0066】
PVP-I溶液中に存在するこのヨウ化物イオン(I)はヨウ素(I)に変換され、この遊離ヨウ素分子は抗菌剤として作用し、接触した細菌を死滅させる。さらに、このヨウ素分子は、それが曝露されるか接触するあらゆる物質に浸透し、これらの物質自体が抗菌性になる。したがって、これらの材料は、材料の表面に接触する細菌を死滅させるなど、1つ以上の抗菌機能を備えている。さらに、この抗菌材料は、表面上のバイオフィルムなどの表面にバクテリアが増殖するのを防ぐ。
【0067】
式(1)で生成されるヨウ化第一銅(CuI)は、抗菌システム内の亜硝酸ナトリウムによって酸化される可能性がある。式(2)によれば、亜硝酸イオンNO2-は、ヨウ化第二銅(CuI)を酸化して一酸化窒素ガス(NO)を生成する。
【化3】
【0068】
したがって、1モルのヨウ素第二銅は1モルの亜硝酸ナトリウムと反応して、1モルの一酸化窒素ガスを生成する。第二銅塩の濃度は0.001重量%~0.5重量%の範囲である。
【0069】
式(1)および(2)の反応は、同時に又は順次に発生し得、好ましい又は最適な比率は、一酸化窒素ガスが生成されなくなるまで最初にすべての亜硝酸ナトリウムがシステムから流出するように定式化される。このとき、PVP-Iがなくなるまで、第二銅イオン(Cu2+)だけがヨウ化物イオン(I)をPVP-Iからヨウ素(I)に酸化させる。ヨウ素溶液の茶色は消え、残った硫酸銅により青色になる。この時点では、第二銅イオン(Cu2+)が抗菌特性を提供し続ける。この溶液は、投与後所定の時間又は日数で色が変化し、溶液の交換時期の指標として機能し、抗菌効果の働きを示すように設計および配合されている。したがって、溶液は、1~10日以内、さらに又は1時間以上、最大で数週間以内に色が変化するように配合および構成することができる。
【0070】
本明細書に記載の実施形態と一致して、ヨードフォア溶液は、元素状ヨウ素源(ヨウ素結晶又はPVP-Iなど)をクエン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸銅五水和物、水、および亜硝酸ナトリウム又は五水和物などのpH緩衝剤又はそれらの任意の組み合わせ、および任意の重量による量と混合することによって調製することができる。最後に、溶液のpHを3~6の範囲の所望の値に調整することができるが、好ましくはpH4~5である。適切な酸化剤は、ヨウ素酸塩、塩素酸塩、亜硝酸塩および硝酸塩であり、0.001重量%から0.5重量%の範囲の量で提供することができる。
【0071】
他の実装形態では、ヨードフォア組成物は、ヨウ素酸ナトリウムおよび/又はヨウ素酸カリウムなどの酸化剤をヨウ素溶液に添加して、ヨウ化物イオンをヨウ素元素として遊離ヨウ素に変換することによって、安定なヨウ素溶液を提供する。このヨウ素酸塩の利用により、長期間にわたって元素状ヨウ素の安定性を向上させることができる。ヨウ素酸塩には酸素原子が3つ含まれているため、強力な酸化剤であり、ヨウ素酸塩1モルあたり3モルのヨウ素を生成する。ヨウ素酸塩は、式(3)の以下の反応に従ってヨウ化物と反応する。
【化4】
【0072】
このヨードフォアを用いて、ヨウ素元素(I)の量がヨウ素酸源の0.05重量%~1.25重量%と0.001重量%~0.5重量%の間のレベルに維持されるように、水性ヨードフォア組成物を調製することができる。ヨウ素酸塩の供給源は、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウムなどを含むがこれらに限定されない1つ以上の無機化合物から選択することができる。
【0073】
さらに別の実装形態では、ヨードフォア組成物は、硫酸銅を含むヨウ素溶液にヨウ素酸カリウムなどの酸化剤を添加した安定ヨウ素溶液を提供し、ヨウ化物イオンを遊離ヨウ素又は元素状ヨウ素に変換することができる。
【化5】
【0074】
ヨードフォア溶液の通常の化学老化プロセスでは、ヨードフォア溶液にヨウ素酸塩を添加すると、ヨードフォア内のヨウ素がヨウ化物イオンに変換され、ヨードフォア溶液の抗菌効果が失われる。これにより、ヨウ化物イオンがヨードフォアの抗菌効果を維持し、ヨードフォア溶液の保存寿命を長くするヨウ素に再変換される。
【0075】
任意の水溶性酸化剤が、ヨウ化物イオンをヨウ素元素(I)に酸化するために、本明細書に記載される溶液中の組成物中で使用され得る。
【0076】
適切な酸化剤は、硝酸塩、塩素酸塩、過酸化物、ヨウ素酸塩、亜硝酸塩である。本明細書に記載のヨードフォアのいくつかの実装形態によれば、ヨウ素元素(I)の量が0.05重量%~1.25重量%のレベルに維持されるように水性ヨードフォア組成物が調製される。ヨウ素酸源は0.001重量%~0.5重量%であり、第二銅塩の濃度は0.001重量%~0.5重量%の範囲である。ヨウ素酸塩の供給源は、ヨウ素酸ナトリウムおよびヨウ素酸カリウムを含むがこれらに限定されない無機化合物から選択してもよい。本発明におけるヨウ素溶液は、粘膜、人間の器官(膀胱など)の内部、開いた傷の洗浄に使用されるため、界面活性剤は使用されない。界面活性剤および/又は他の非必須成分は、刺激物であり得、アレルギー反応を引き起こし得、および/又は有毒であり得る。
【0077】
本発明におけるヨードフォア溶液は、好ましくは元素状ヨウ素源(ヨウ素結晶又はPVP-Iなど)、ヨウ素酸塩、水、およびクエン酸ナトリウム又はリン酸ナトリウムなどのpH緩衝剤を混合することによって調製される。最後に、溶液のpHを3~4の範囲の望ましい値に調整する。正常な尿のpHは弱酸性であるため、通常の値は6.0~7.5だが、正常範囲は4.5~8.0である。尿のpH8.5又は9.0は、多くの場合、プロテウス、クレブシエラ、又はウレアプラズマ・ウレアリチカムなどの尿素分解微生物を示す。アルカリ性の尿pHは、「感染結石」としても知られるストルバイト腎結石を示している可能性がある。尿路感染症(UTI)は、入院患者と外来患者の両方で抗生物質が投与される最も一般的な適応症の1つである。最近の総説論文では、尿のpHが7以上の患者には画像検査を考慮する必要があると述べられている。アルカリ性尿は尿のpHが7以上であると定義され、酸性尿は尿のpHが7未満であると定義される。尿がアルカリ性の患者は、UTIを再発する可能性が高くなる。
【0078】
ヨウ素溶液は、感染した膀胱内のすべての細菌を死滅させるための膀胱灌注として使用する場合、又はフォーリーカテーテルのバルーンを充填するために使用して、カテーテルへの定着およびカテーテル先端でのバイオフィルムの形成を防ぐ場合にヨードフォアが強力な抗菌効果を有するように、3~6の範囲のpHを有することが好ましい。
【0079】
ヨードフォア溶液のpHを制御すると、ヨードフォア溶液の保存寿命が延長され、医療用途におけるその他の抗菌効果の利点も得られる。pHの制御は、溶液のpHを3~6の範囲、好ましくはpH4~5に維持するために緩衝液を添加することによって強化することができる。適切な緩衝液としては、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム七水和物、クエン酸(クエン酸ナトリウム緩衝液およびクエン酸など)、および二塩基性リン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
上述の溶液又は組成物の一部又は全部は、粉末などの固体として、又はゲルもしくはクリームなどの半固体として、あるいは液体として提供することができる。これらの状態のそれぞれは、とりわけ、局所的なラブ又は塗布として、又は医療機器の充填溶液として、すなわち、例えばフォーリーカテーテルのバルーンを充填するために使用することができる。
【0081】
以下の表は、溶液の成分を介して抗菌特性および効果を提供するための、医療機器の充填、ロック、フラッシュ又は局所溶液のための溶液およびその製剤の例示的な実装形態を示す。
【表1】



【0082】
用途
上述の抗菌溶液は、HAIの感染制御に多くの用途がある。尿道カテーテル(例えば、図4に示すようなフォーリーカテーテル)の場合、使用中の尿カテーテルの付着物を防止するためのシステムおよび装置が提供され(図5)カテーテルに細菌が定着するのを防ぐ。いくつかの実装形態では、図7に示すように、溶液からの抗菌剤の拡散および/又は浸透がカテーテルの保持バルーン内で利用される。いくつかの実装形態では、尿道カテーテルは、3つの抗菌剤(遊離ヨウ素、一酸化窒素ガス、および銅イオン)を同時に供給する。場合によっては、これは、バルーンカテーテルおよび連通管腔自体から、すなわち拡散および/又は浸透を介して、抗菌溶液中の抗菌剤を直接尿中に制御放出することによって達成される。これは、カテーテル材料(すなわちチューブ)が抗菌材料となり、細菌の増殖の原因となり得るバイオフィルム又は他の表面の形成を防止するなど、カテーテル材料に含浸させるためにカテーテル材料に抗菌剤を供給することもできる。
【0083】
これは、カテーテル材料(すなわちチューブ)が抗菌材料となり、細菌の増殖の原因となり得るバイオフィルム又は他の表面の形成を防止するなど、カテーテル材料に含浸させるためにカテーテル材料に抗菌剤を供給することもできる。本明細書に記載の溶液での使用に適したカテーテル材料としては、ポリウレタン、天然ゴムラテックス、合成ポリイソプレンラテックス、ネオプレン、スチレンブタジエンゴム、シリコン又はシリコン処理ゴムラテックス材料を含む。留置カテーテルは主に天然ゴムラテックスとシリコン素材から製造される。合成ポリイソプレンラテックス又はポリウレタンで作られているものもある。これらのポリマーは、気管内チューブ、吸入バッグ、静脈内カテーテル、集中カテーテル、およびフォーリーカテーテルなどの泌尿器科用カテーテルなどの医療および外科用器具の製造に適している。血液透析カテーテルに最も一般的に使用される2つの血液適合性材料は、シリコンとポリウレタンである。医療グレードのシリコンゴムは、伝統的に動物や人間の長期使用の標準と考えられてきた。シリコンはほとんどの化学物質に対して耐性があり、非常に柔らかく柔軟性がある。
【0084】
さらに他の実装形態では、図6に示すように、本明細書に記載の抗菌溶液の局所製品は、スワップから泡塗布器まで、多数の適用装置のうちの1つによって適用することができる。塗布器は、抗菌溶液用の容器を含むことができる。
【0085】
いくつかの実装形態では、溶液の抗菌成分は、カテーテルバルーン又は他の薄い透過性膜又は医療機器を介した拡散および/又は浸透によって送達されるが、溶液は、そのような拡散および/又は浸透を抑制する容器に提供および保管することができる。例えば、溶液は、少なくとも一定期間、例えば2年以上、拡散および/又は浸透を抑制する壁厚を有する容器に梱包することができる。このような容器は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート又は他のプラスチック材料、あるいは適切な厚さの他の熱可塑性ポリマー材料から作ることができる。したがって、溶液の保存寿命は2~3年以上になる可能性がある。
【0086】
実験および実施例
「ヨウ素デンプン」試験を使用して多くの実験が行われた。この試験は、デンプン又はヨウ素の存在を試験するために使用される化学反応である。デンプンとヨウ素の組み合わせは、色が強烈な青黒色である。デンプンと三ヨウ化物アニオン(I )の間の相互作用は、ヨードメトリーの基礎である。
【0087】
指示薬としてのデンプン:デンプンは、三ヨウ化物(I )が存在する酸化還元滴定の指示薬として化学でよく使用される。デンプンは三ヨウ化物と非常に濃い青黒色の錯体溶液を形成する。ただし、ヨウ素のみ、又はヨウ化物(I)のみが存在する場合には錯体は形成されない。デンプン複合体の色は非常に濃いため、ヨウ素濃度が20℃で20μMと低い場合でも視覚的に検出できる。
【0088】
実験1:
フォーリーカテーテル又は他の医療機器で使用できるような、遊離ヨウ素がバルーン膜を通って拡散することを示す実験において、バルーンカテーテルにヨウ素溶液を充填した。このヨウ素溶液は、ヨウ素チンキ溶液又はヨードフォアと呼ばれるポビドンヨード溶液である。次に、ヨウ素溶液を含むバルーンを、デンプンを含む水溶液に浸漬した。
【0089】
ヨウ素デンプン試験を使用すると、ヨウ素溶液中で化学反応がゆっくりと起こる。これらの化学反応により遊離ヨウ素が放出される。ヨウ素I分子はバルーン素材の膜を通って拡散し、デンプンと反応して深い青色を作り、その彩度は膜を通って拡散した遊離ヨウ素の濃度に依存する。
【0090】
1)時間ゼロでは、バルーンの外側の水溶液の色が透明であることが示され、水溶液中にヨウ素が存在しないことを示した。連日充填されたバルーンを水に沈めると、水の色はますます濃い青色に変化した(すなわち、3日目の青色は2日目の青色よりも濃く、さらに2日目の青色は1日目よりも濃かった)。これは、遊離ヨウ素が拡散および/又は浸透を介して、一定期間にわたってバルーンから水溶液中に徐々に放出されることを決定的に示した。
【0091】
2)フォーリーカテーテルには2つのチューブ又は管腔があり、1つはバルーンを満たすため、もう1つは尿を患者の膀胱から放出して尿バッグに運ぶためのものである。実験では、両方のチューブをデンプン/水溶液に浸した。実験の結果、デンプン/水溶液が青色に変色し、バルーンチューブからヨウ素がチューブの壁を通って放出され、他のチューブからの水中のデンプンとの反応を示した。
【0092】
3)この実験の別の態様では、時間ゼロの時点でバルーンの外側の水溶液中にヨウ素が存在し、ヨウ素がバルーン内に充填されているため、水の色は透明であり、バルーンからヨウ素が漏れていないことを示す結果が得られた。1日目と2日目の後、水溶液はますます濃い青になった。これは、遊離ヨウ素分子がバルーン内のヨウ素溶液(PVP-I対照溶液―水中2%PVP-Iのみ)に由来し、バルーン膜を通って拡散して水溶液中のデンプンと反応することを示している。3日目では、水溶液はさらに濃くなり、遊離ヨウ素がバルーンから放出され続け、デンプンと反応して水溶液がさらに濃い青色になることを示している。
【0093】
実験2:
バルーンを浸した尿ベースの溶液を使用して、すべてのヨウ素溶液がバルーン膜を通って拡散する遊離ヨウ素を生成することを示す別の実験が行われた。
【0094】
1)この実験は、バルーン内のすべてのヨウ素溶液が化学反応を起こしてIの遊離ヨウ素分子を生成することを示した。実験では、ルシャトリエの原理に従って、この遊離ヨウ素が濃度の違いによりバルーン膜を通って拡散することが示された。ルシャトリエの原理では、平衡状態の反応混合物に応力が加えられると、正味の反応は応力を緩和する方向に進む。反応物又は生成物の濃度の変化は、平衡状態の反応に応力をかける1つの方法である。したがって、遊離ヨウ素は、すべての化学物質が平衡に達するまで、バルーン膜を通してゆっくりと拡散する。この場合、ヨウ素溶液を含むフォーリーカテーテルバルーンが尿溶液に浸されると、遊離ヨウ素分子がバルーン膜を通ってゆっくり拡散する。ヨウ素の拡散速度は、尿の温度、バルーンの膜の厚さ、バルーンの表面積、バルーンの体積、バルーン内のヨウ素溶液の体積などのいくつかの要因に依存する。すべての要素を同じに保つと仮定すると、ヨウ素の拡散速度は配合に依存する。例えば、ヨウ素チンキはポビドンヨードほど安定ではないため、ヨウ素チンキはPVP-I溶液よりも速く化学反応を起こし、遊離ヨウ素をより速く放出する。さらに、水中のPVP-Iのみからなるヨードフォア溶液は安定していないことが示されており、したがって、重炭酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、二塩基性リン酸ナトリウム、又はクエン酸ナトリウムなどの適切なpH緩衝剤を含むPVP-Iで構成されるヨードフォア溶液よりも速く遊離ヨウ素分子を放出する。
【0095】
2)ルシャトリエの原理に従ってヨウ素分子がバルーンの膜を通って拡散するにつれて、尿溶液はより多くの遊離ヨウ素が溶解してゆっくりと濃くなり、バルーン内のヨウ素溶液は徐々に薄くなり、含まれるヨウ素は減少した。3日目までに、すべてのヨウ素がバルーンから放出されたため、バルーン内のヨウ素溶液は消失した。ただし、風船に又は銅を含む配合20又は別の配合を充填した場合、風船の内側にはまだ色が残っていた。
【0096】
黄色ブドウ球菌に関する結果を表2に示す。
【表2】
【0097】
表3は、その他の微生物の結果を示す。
【表3】

【0098】
いくつかの実施形態を上で詳細に説明してきたが、他の修正が可能である。他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内であり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】