(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】治療用哺乳動物細胞および細胞スフェアならびにそれらの組成物の作製のための新規方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20240614BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240614BHJP
【FI】
C12N5/077
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577357
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 US2022033688
(87)【国際公開番号】W WO2022266262
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515254574
【氏名又は名称】ディスクジェニックス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DISCGENICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】シルバーマン,ララ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス-グランローズ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ヒートン,ウィル
(72)【発明者】
【氏名】タンデスキー,テリー
(72)【発明者】
【氏名】ズラウスキ,ジェフ
(72)【発明者】
【氏名】ファーハン,ニルーファル
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,アイザック
(72)【発明者】
【氏名】スカル,エリン
(72)【発明者】
【氏名】フォーリー,ケビン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029DB19
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA90X
4B065BC09
4B065CA43
4B065CA44
(57)【要約】
懸濁培養における大量の哺乳動物細胞の培養のための組成物、デバイス、方法、プロセス、およびシステムが本明細書に開示される。開示される方法、プロセス、およびシステムに由来する固有の驚くべき細胞集団もまた開示される。多くの実施形態では、細胞は、細胞を懸濁状態に維持するために撹拌される液体培養培地中で懸濁状態で培養され、撹拌は、細胞を懸濁状態に維持しながら成長および分裂させて細胞スフェアを作出するために増大する。開示されるデバイス、方法、プロセス、およびシステムは、結果として得られる細胞の特徴を、ドナー対象/初期細胞の特徴に基づいて調節するのに有用である。開示される細胞集団は、細胞ベースの療法を用いて、様々な疾患および状態のためにそれを必要とする対象を処置するのに有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞を培養するための方法であって、
複数の哺乳動物細胞を採取すること、
前記複数の哺乳動物細胞を、スフェア培養培地を含むコンテナまたは容器に導入して、細胞/培地混合物を作製すること、
前記細胞/培地混合物を、第1のエネルギーレベルに対応する撹拌スピードにおいて撹拌することであって、前記第1のエネルギーレベルが、90%超の前記細胞を懸濁状態に維持するのに十分である、撹拌すること、
前記複数の細胞を成長させ、分裂させ、第1の直径の細胞スフェアを形成させること、
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることであって、前記第2のエネルギーレベルが、前記第1のエネルギーレベルよりも高く、前記細胞スフェアを懸濁状態に維持するのに十分である、上昇させること、
前記撹拌スピードを維持して、前記細胞スフェアが、懸濁状態を維持しながらより大きな直径を達成するのを可能にすること
を含む、方法。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞が、前駆細胞、幹細胞、または多能性細胞から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞が、筋肉、脳、脊髄、末梢神経、腎臓、眼、皮膚、血管、毛包、羊膜、絨毛、臍帯、胎盤、肝臓、心臓、肺、膵臓、軟骨、骨、胸腺、甲状腺、血液、リンパ節、軟骨、および椎間板細胞に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物細胞が軟骨細胞である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物細胞が椎間板細胞である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、経時的に直線的である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、非直線的である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、少なくとも1つの段階を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記スフェア培養培地が足場分子を欠く、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の哺乳動物細胞を前記スフェア培養培地を含むコンテナまたは容器に導入する前に、前記複数の細胞を接着培養において成長させる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の哺乳動物細胞をスフェア培養培地を含むコンテナまたは容器に導入する前に、固体表面に付着した細胞を倍加させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
動的懸濁状態において哺乳動物細胞集団を培養するための方法であって、
第1日に、哺乳動物細胞集団を、スフェア培養培地を含有するバイオリアクターに導入して、細胞/培地混合物を作製すること、
前記細胞/培地混合物を第1の撹拌スピードにおいて撹拌すること、
前記細胞/培地混合物の前記細胞集団に細胞スフェアを形成させること、
前記細胞/培地混合物を第2のスピードにおいて撹拌することであって、前記第1のスピードとの差が第1の最大剪断値未満の第1の剪断値を生じ、前記第2のスピードが第2の最大剪断値未満の第2の剪断値を生じる、撹拌すること
を含む、方法。
【請求項13】
哺乳動物細胞集団を、スフェア培養培地を含有するバイオリアクターに導入して、細胞/培地混合物を作製し、
前記細胞/培地混合物を、前記細胞の懸濁状態が失われるのを予防または阻止するのに十分な第1の撹拌スピードにおいて撹拌し、
前記細胞/培地混合物中の前記細胞集団に細胞スフェアを形成させ、
大部分の細胞を懸濁状態に維持し、
懸濁した細胞スフェアを単離および回収し、これにより
哺乳動物細胞スフェアを動的に培養する、
哺乳動物細胞スフェアの動的培養のための方法。
【請求項14】
治療用哺乳動物細胞集団の1つまたは複数の特徴を改変する方法であって、
細胞の集団をドナー組織から単離することであって、ドナーが、第1の属性スコアを有する第1の属性と、第2の属性スコアを有する第2の属性とを有する、単離することと、
治療用細胞集団に所望される特徴を決定することと、
前記第1の属性スコアおよび/または前記第2の属性スコアに基づいて第1の培地パラメータを選択することと、
前記第1の属性スコアおよび/もしくは前記第2の属性スコアならびに/または前記培地パラメータに基づいてプロセスパラメータを選択することと、
スフェア培養培地を含むコンテナまたは容器中で懸濁状態において前記細胞の集団を培養することと、
前記細胞の集団を懸濁状態に維持することと、
前記細胞を分裂および成長させて、クローナル細胞スフェアを形成することと、
前記細胞スフェアの集団を懸濁状態に維持することと、
前記の予め決定した特徴を有する懸濁した細胞スフェアを単離および回収することと、これにより
治療用哺乳動物細胞集団の1つまたは複数の特徴を改変することと
を含む、方法。
【請求項15】
前記哺乳動物細胞が、前駆細胞、幹細胞、または多能性細胞から選択される、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記哺乳動物細胞が、筋肉、肝臓、心臓、肺、膵臓、骨、甲状腺、血液、リンパ節、脳、脊髄、末梢神経、腎臓、眼、皮膚、血管、毛包、羊膜、絨毛、軟骨、椎間板細胞、臍帯、および胎盤に由来する、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳動物細胞が軟骨細胞である、請求項12から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳動物細胞が椎間板細胞である、請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、経時的に直線的である、請求項12から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、非直線的である、請求項12から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、少なくとも1つの段階を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記スフェア培養培地が足場分子を欠く、請求項12から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記複数の哺乳動物細胞を前記スフェア培養培地を含むコンテナまたは容器に導入する前に、前記複数の細胞を接着培養において成長させる、請求項12から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の哺乳動物細胞をスフェア培養培地を含むコンテナまたは容器に導入する前に、固体表面に付着した細胞を倍加させる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
90%超の細胞が、
CD24、HLA-DR/DP/DQ、CD45、CD40、CD271、CD80、CD86、またはその組合せから選択される表面マーカーについて陰性であり、
CD44、CD73、CD90、HLA-ABCまたはその組合せから選択される表面マーカーについて陽性である、
椎間板細胞
を含む哺乳動物細胞集団。
【請求項26】
90%超の細胞が、
アグリカン、コラーゲン1、コラーゲン2、コラーゲン6、コラーゲン14、デコリン(DCN)、ビグリカン(BGN)、ルミカン(LUM)、およびフィブロモジュリン(FMOD);活性化T細胞アッセイによって確認される抗炎症作用のうちの1つまたは複数を発現する、
椎間板細胞
を含む哺乳動物細胞集団。
【請求項27】
哺乳動物細胞を培養するための方法であって、
複数の哺乳動物細胞を採取すること、
前記複数の哺乳動物細胞を、スフェア培養培地を含むコンテナまたは容器に導入して、細胞/培地混合物を作製すること、
前記細胞/培地混合物を、第1のエネルギーレベルに対応する撹拌スピードにおいて撹拌することであって、前記第1のエネルギーレベルが、90%超の前記細胞を懸濁状態に維持するのに十分である、撹拌すること、
前記複数の細胞を成長させ、分裂させ、第1の直径の細胞スフェアを形成させること、
前記撹拌スピードを維持して、前記細胞スフェアが、懸濁状態を維持しながらより大きな直径を達成するのを可能にすること
を含む、方法。
【請求項28】
前記哺乳動物細胞が、前駆細胞、幹細胞、または多能性細胞から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳動物細胞が、筋肉、脳、脊髄、末梢神経、腎臓、眼、皮膚、血管、毛包、羊膜、絨毛、臍帯、胎盤、肝臓、心臓、肺、膵臓、軟骨、骨、胸腺、甲状腺、血液、リンパ節、軟骨、および椎間板細胞に由来する、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記哺乳動物細胞が軟骨細胞である、請求項27から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳動物細胞が椎間板細胞である、請求項27から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記スフェア培養培地が足場分子を欠く、請求項27から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
複数の哺乳動物細胞を前記スフェア培養培地を含むコンテナまたは容器に導入する前に、前記複数の細胞を接着培養において成長させる、請求項27から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記複数の哺乳動物細胞をスフェア培養培地を含むコンテナまたは容器に導入する前に、固体表面に付着した細胞を倍加させる、請求項27から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることであって、前記第2のエネルギーレベルが、前記第1のエネルギーレベルよりも高く、前記細胞スフェアを懸濁状態に維持するのに十分である、上昇させることを含む、請求項27から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、経時的に直線的である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、非直線的である、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
前記撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることが、少なくとも1つの段階を含む、請求項37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される組成物、デバイス、プロセス、方法、およびシステムは、懸濁状態における大量の哺乳動物細胞の成長、とりわけ椎間板の修復のための哺乳動物細胞の成長を対象とする。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、いずれも「NOVEL METHODS FOR PRODUCTION OF THERAPEUTIC MAMMALIAN CELLS AND CELL SPHERES AND COMPOSITIONS OF SAME」と題され、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2021年6月15日に出願された米国仮特許出願第63/210,859号、および2021年7月7日に出願された同第63/219,067号の優先権の利益を、米国特許法第119条(e)に従って主張する。
【背景技術】
【0003】
椎間板変性は腰痛の主な原因であり、腰痛は、世界中で医療コスト/支出および患者の身体障害の促進要因となっている。椎間板変性を経験する患者は、治療法の選択肢をほとんど有していない。処置が利用可能である場合、患者は当該椎間板を摘出する外科的処置を受けることを選択することができる。しかしながら、この種類の外科的処置は、高額かつ高度に専門的であり、その利用可能性を、十分な資金を有し、適切な施設および専門医を利用できる患者に制限する。さらに、これらの患者は、その症状(および変性)が、外科的処置が正当化されるほど十分に重度となるまで待たされる場合がある。そのような場合、外科的処置は様々な転帰を有する。成功した場合であっても、脊椎固定術は、多くの場合、隣接レベルの変性の加速を引き起こす。低分子および生物学的治療薬の投与を含む従来の手法などの他の治療法の選択肢は、臨床試験における有効性および安全性などの著しい困難に直面している。細胞療法による椎間板変性の処置は可能であり得るが、そのような処置は、他の細胞治療薬が直面している課題、例えば、コストを最小限にすると同時に、均一な細胞を迅速に、大規模に作製するという課題を抱えている。典型的には、そのような方法は、細胞ベースの療法の作出に利用可能となってはいない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
必要とされるものは、コストを最小限にすると同時に、椎間板変性症(degenerative disc disease)などの細胞の疾患および損傷に効果的かつ安全に対処する新規治療処置である。これらの処置は、市場規模を支えるほど、また、有効性を維持または向上させながら製品のコスト全体を抑えるほど十分に大きな規模で製造される必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
哺乳動物細胞を培養するための様々な方法であって、複数の哺乳動物細胞を採取すること、複数の哺乳動物細胞をスフェア培養培地を含むコンテナ(container)または容器(vessel)に導入して、細胞/培地混合物を作製すること;細胞/培地混合物を、第1のエネルギーレベルに対応する撹拌スピード(agitation speed)において撹拌することであって、第1のエネルギーレベルが、90%超の細胞を懸濁状態に維持するのに十分である、撹拌すること;複数の細胞を成長させ、分裂させ、第1の直径の細胞スフェアを形成させること;撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることであって、第2のエネルギーレベルが、第1のエネルギーレベルよりも高く、細胞スフェアを懸濁状態に維持するのに十分である、上昇させること;撹拌スピードを維持して、細胞スフェアが、懸濁状態を維持しながらより大きな直径を達成するのを可能にすることを含む、方法が本明細書に開示される。一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、前駆細胞、幹細胞、または多能性細胞から選択され得、筋肉、肝臓、心臓、肺、膵臓、骨、甲状腺、血液、リンパ節、筋肉、脳、脊髄、末梢神経、腎臓、眼、皮膚、血管、毛包、羊膜、絨毛、臍帯、胎盤、軟骨細胞、および椎間板細胞に由来し得る。一部の実施形態では、撹拌スピードを第2のエネルギーレベルまで上昇させることは、経時的に直線的、非直線的、または段階的(例えば2段階以上)であり得る。一部の実施形態では、スフェア培養培地は足場分子を欠いていてもよい。一部の実施形態では、複数の哺乳動物細胞を、スフェア培養培地を含むコンテナもしくは容器に導入する前に、複数の細胞は付着培養(attachment culture)において成長され得る、および/または複数の哺乳動物細胞を、スフェア培養培地を含むコンテナもしくは容器に導入する前に、細胞は、固体表面に付着し、倍加し得る。哺乳動物細胞は、様々な哺乳動物源および哺乳動物種に由来し得る。
【0006】
動的懸濁状態において哺乳動物細胞集団を培養する様々な方法であって、第1日に、哺乳動物細胞集団を、スフェア培養培地を含有するバイオリアクターに導入して、細胞/培地混合物を作製すること;細胞/培地混合物を第1の撹拌スピードにおいて撹拌すること;細胞/培地混合物における細胞集団に細胞スフェアを形成させること;細胞/培地混合物を第2のスピードにおいて撹拌することであって、第1のスピードとの差が第1の最大剪断値未満の第1の剪断値を生じ、第2のスピードが第2の最大剪断値未満の第2の剪断値を生じる、撹拌することを含む、方法もまた開示される。
【0007】
哺乳動物細胞集団を、スフェア培養培地を含有するバイオリアクターに導入して、細胞/培地混合物を作製し;細胞/培地混合物を、細胞の懸濁状態が失われるのを予防または阻止するのに十分な第1の撹拌スピードにおいて撹拌し;細胞/培地混合物における細胞集団に細胞スフェアを形成させ;大部分の細胞を懸濁状態に維持し;懸濁した細胞スフェアを単離および回収し;これにより哺乳動物細胞スフェアを動的に培養する、哺乳動物細胞スフェアの動的培養のための様々な方法が本明細書に開示される。
【0008】
治療用細胞集団の1つまたは複数の特徴を改変する様々な方法であって、細胞の集団をドナー組織から単離することであって、ドナーが、第1の属性スコアを有する第1の属性と、第2の属性スコアを有する第2の属性とを有する、単離することと;治療用細胞集団に所望される特徴を決定することと;第1の属性スコアおよび/または第2の属性スコアに基づいて第1の培地パラメータを選択することと;第1の属性スコアおよび/もしくは第2の属性スコアならびに/または培地パラメータに基づいてプロセスパラメータを選択することと;スフェア培養培地を含むコンテナまたは容器中で懸濁状態において細胞の集団を培養することと;細胞の集団を懸濁状態に維持することと;細胞を分裂および成長させて、クローナル細胞スフェアを形成することと;細胞スフェアの集団を懸濁状態に維持することと;事前に決定した特徴を有する懸濁した細胞スフェアを単離および回収することと;これにより治療用細胞集団の1つまたは複数の特徴を改変することとを含む、方法もまた開示される。
【0009】
90%超の細胞が、CD24、HLA-DR/DP/DQ、CD45、CD40、CD271、CD80、CD86、またはその組合せから選択される表面マーカーについて陰性であり;CD44、CD73、CD90、HLA-ABCまたはその組合せから選択される表面マーカーについて陽性である、椎間板細胞を含む様々な哺乳動物細胞集団もまた開示される。
【0010】
椎間板細胞であって、90%超の細胞が、アグリカン、コラーゲン1、コラーゲン2、コラーゲン6、コラーゲン14、デコリン(DCN)、ビグリカン(BGN)、ルミカン(LUM)、およびフィブロモジュリン(FMOD);活性化T細胞アッセイによって確認される抗炎症作用のうちの1つまたは複数を発現する、椎間板細胞を含む哺乳動物細胞集団もまた開示される。
【0011】
開示される細胞および方法は、同種異系細胞(allogenic)、自家細胞、または異種細胞および治療方法を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、様々なモダリティにおける細胞の成長を示す。(パネルA)メチルセルロースを含有する静置懸濁培養(suspension culture)モダリティにおいて成長させた細胞は、所望のスフェア表現型を呈する。(パネルB)水車において成長させた細胞は、スフェアではなくシート状に形成される。(パネルC)三角フラスコにおいて成長させた細胞は、懸濁せず、容器壁に付着する。(パネルD)波動型バイオリアクターバッグ(Wave Bioreactor Bag)において成長させた細胞は、スフェアではなく大きな集積体を形成する。(パネルE)撹拌槽バイオリアクター(STR)において低撹拌にて成長させた場合、細胞はスフェアを形成するが、大きなスフェアは、サイズがあまりにも大きくなり、酸素輸送および溶液からの沈降に関する問題を引き起こす。(パネルF)STRにおいて低撹拌にて成長させた大部分の細胞は、容器表面に付着し、成長動力学に影響を及ぼす。(パネルG)STRにおいて高撹拌スピードにて成長させた細胞は、ある程度のスフェア成長を示すが、主に単一細胞を形成する。(パネルH)低い初期RPMおよび高い最終RPMを伴う勾配撹拌プロファイルを使用する場合、本出願人らはSTRにおいてスフェアを成長させ、細胞付着を制限する。
【
図2】
図2(パネルA)CFDモデルは、流体力学的条件がSTRにおけるRPM上昇に基づいて異なる傾きおよび曲率を伴って増加することを示す。(パネルB)STRを様々な条件において運転し、次いでアグリカン結果を、様々な流体力学的傾きを使用してモデル化することによって、最大剪断速度(1/s)が、本発明者らが検討した流体力学的条件とアグリカン発現との間の最も強い相関関係を有することを確認することができる(p=0.012)。
【
図3】
図3。(パネルA)最大剪断とアグリカン(p=0.012)、平均渦乱流散逸と細胞沈降(p=0.024)、最大剪断と倍加(p=0.018)、および動的撹拌とスフェアサイズ(0.033)のモデル。(パネルB)RPMが動的培養条件において変化する場合の流体力学的環境の変化の例示。細胞を様々なRPMにおいて成長させ、結果を測定することによって、細胞に対する流体力学的条件の効果がモデル化される。(パネルC)単一のスフェアサイズおよびRPMにおける平均渦乱流散逸から算出した細胞容量画分の例示。グラフィックは、細胞沈降を予測することができる細胞のシミュレートされた位置を示す(他のRPM、スフェアサイズ、および規模もまたシミュレートされた)。(パネルD)剪断力を最小限にすると同時に、さらにスフェアを、サイズを成長させながら懸濁状態に保持するために、CFDを活用して動的撹拌プロファイルを開発する。
【
図4】
図4:実験設計条件下において成長させた109の0.25L STRリアクターの回帰分析。これらの多変量モデルを使用して、本出願人は、プロセスを11の本発明者らの高リスク因子全てについて最適な値となる結果に調整する「望ましさを最大化する」ことができ、比較可能性要件を満たす。
【
図5】
図5は、ドナー集団プロセスパラメータを解析する研究を示す。パネルA:ドナー集団に許容されるプロセスパラメータの範囲。2つのドナー属性および2つのプロセスパラメータの変動を使用して作成した等高線プロファイルは、許容される操作範囲が白色で示され、品質属性の失敗が属性ごとに陰を付けて示される。4つのグラフは、ドナー属性が以下の位置に固定された場合のプロセスパラメータ1およびプロセスパラメータ2の範囲を示す:パネルB(低、低)、パネルC(低、高)、パネルD(高、低)、およびパネルE(高、高)。加えて、これらの4つのグラフは、本発明者らが検討したドナーおよびプロセス範囲にわたる、ドナー属性およびプロセス変動性の許容される範囲を示す。
【
図6】
図6(パネルA):撹拌段階の数は、スフェアサイズ、アグリカン発現、および倍加を含むプロセス属性に影響を及ぼす。パネルB:撹拌のために使用した最終RPMは、倍加、コラーゲン1(ELISAによる)およびコラーゲン2(PCRによる)を含むプロセス属性に影響を及ぼす。
【
図7】
図7(パネルA):RPMと、最大剪断を含む様々なCFDパラメータとの間の関係。パネルB:最大剪断に対して正規化した流体力学的条件ごとのアグリカンELISA予測力(R
2)。パネルC:0.25L STRにおけるCFD算出最大剪断の関数としてのアグリカンELISA。
【
図8】
図8(パネルA)5つの細胞株が0.25L STRモダリティと静置懸濁(「Cellstack」)モダリティの両方において成長された継代ストリーム成長(split stream growth)の図。(パネルB)静置懸濁培養モダリティおよび勾配撹拌を使用した場合のSTRモダリティにおける同等のスフェア成長。(パネルC)静置懸濁培養モダリティおよび0.25L STRモダリティにおける、2日目から培養終了までの相対スフェアサイズ、倍加、およびアグリカン発現は同等である。SDEVバーは0.25L STRの平均相対値に対して正規化した。(パネルD)フローサイトメトリーによって測定される細胞の同一性は、0.25L STRモダリティと静置モダリティとの間で同等である。
【
図9】
図9は、インビボ(in vivo)動物研究において本細胞を分析する研究からの結果を示す。(パネルA)ウサギ研究設計は、椎間板損傷から開始し、2週間後に椎間板に投薬し、投薬の6週間後に研究は終了する。(パネルB)投薬から終了までの椎間板高指数(DHI)の平均パーセント変化が標準誤差と共に示される。投薬後、椎間板高(disc height)は、シャム群においてはわずかに、媒体群においてはそれよりも多く、および細胞療法群においてはより実質的に増加した。「*」は、a=.05における最小二乗平均差のスチューデントのt(LS Means Differences Student’s t)によるシャムとの統計的有意差を示す。(パネルC)椎間板組織学は、媒体またはシャムと比較した、細胞療法を注射した椎間板における、高さ回復および水和の増加(赤い椎間板の中心における白色領域)を示す。
【
図10】
図10(パネルA)は、単一のドナー由来の細胞が2つのストリームに継代され、成長された-半分の細胞は小規模バイオリアクター(0.25L)において成長され、半分の細胞は50Lバイオリアクターにおいて成長された-継代ストリーム成長を示す図である。パネルBは、小規模および大規模リアクターにおいて観察された同等のスフェア成長を示す。(パネルC)0.25Lおよび50L STRにおける、2日目から培養の終了までの相対スフェアサイズおよび倍加は同等である。(パネルD)フローサイトメトリーによって測定される細胞の同一性および純度は、0.25L STRと50L STRとの間で同等である。
【
図11】
図11は、静置フラスコ方法(赤)を使用するかまたはSTR(青)を使用して生成した別々のドナー由来の椎間板由来細胞の5つのロットのフローサイトメトリー解析からの結果を示す。グラフは、前方散乱に対する数を示し、これは細胞サイズに比例する。STRを使用して生成した細胞は、よりサイズの小さい、より一様なプロファイルを有する。
【
図12】
図12は、異なる方法を使用して生成した椎間板由来細胞からのECM産生の評価を示す。解析には、コラーゲンIと総コラーゲンの両方、アグリカンおよびsGAG(全てのプロテオグリカンに存在する側鎖)、ならびに培養中の細胞によって生成された様々な非従来的なECM分子が含まれた。
【
図13】
図13は、椎間板由来細胞の免疫調節特性の評価を示す。PMBCはCFSE色素を用いて染色され、増殖(proliferation)はフローサイトメトリーを介してCD4+細胞に関して評価され(パネルA);非増殖および増殖PMBCのヒストグラムが作成される(パネルB)。パネルCは、椎間板由来細胞に関するより低いCFSEシグナルによって増殖の阻害を示す、椎間板由来細胞と共に、およびそれを伴わずに培養したPMBCの重ね合わせヒストグラムを示す。アッセイ範囲もまた、非染色およびCFSE染色細胞のヒストグラムによって実証される。椎間板由来細胞と共に、およびそれを伴わずに培養した複数のPMBCドナーの相対増殖率(relative proliferation)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
非接着哺乳動物細胞および/または細胞スフェアの成長のための既存の哺乳動物細胞培養技法およびシステムは、様々な欠点を抱えており、それを必要とする全ての対象を処置するのに必要な十分な数の細胞を供給する間、必要とされる細胞成長環境を維持するには不十分である。例えば、既存の方法は、磁気浮上、足場、および/または粘性担体を使用して細胞スフェアを培養することに依存する。これらの技法は、単一静置培養デバイスから作製される少数よりも多い細胞のための標準的な培養環境を維持することができない。一部の場合では、例えば足場または粘性担体を含む静置培養における成長は、培養するプロセス(culturing process)の間に内部表面(interior surface)に接着した可能性がある細胞の回収を完全に防止することは不可能であるという事実のために、付着培養下で発生する集団の画分をもたらす。これは、細胞のより不均一な集団-その一部は接着培養(adherent culture)において成長し、一部は接着細胞として成長した-をもたらす。
【0014】
十分な数の細胞を得るために、製造業者は、別個の静置培養デバイスにおいて成長した細胞を合わせなければならない。静置培養およびそのためのデバイスは、典型的には、足場および/または粘性基質を含み、培地および/または細胞の混合を欠き、大半の実施形態では、培地は静置培養において定期的に交換され得るが、培地は撹拌されない。上述したように、静置培養による細胞の製造は、治療用量における不均一性を導入し、その不均一な用量の治療値/効力を低減し得る。静置培養からの治療用細胞のプールおよび単離はまた、培養に関する、哺乳動物細胞を作製する時間、労力、およびコストを大きく増加させると同時に、作製された細胞の有効性および効力を低下させもする。最後に、細胞スフェアを培養するための現在の方法はまた、培養条件(培地、気体、pHなど)をモニタリングし、培地成分を補充/交換するための方法を欠き、そのため細胞密度は、多くの場合、非常に限定的である。
【0015】
均一性が向上した多数の用量の急速な増加を可能にする治療用哺乳動物細胞集団の大規模成長のためのプロセス、方法、およびシステムが本明細書に開示される。開示されるプロセス、方法、およびシステムは、条件をモニタリングすること、および様々な培地成分を補充/交換することを可能にするため、培養回数(culture times)の延長も実現し、治療用細胞集団のさらなる増大(expansion)、より高い細胞密度までの成長、より少ない操作/取扱い、および汚染のリスクの低下をもたらす。開示される方法、プロセス、およびシステムは、脳、肝臓、腎臓、軟骨、筋肉、心臓、肺、骨、血液、腱/靱帯、膵臓、甲状腺、リンパ節、脊髄、末梢神経、眼、皮膚、血管、毛包、羊膜、絨毛、臍帯、胎盤、軟骨、および椎間板組織由来の幹細胞、前駆細胞、および多能性細胞を含む広範な組織および細胞型から、他と区別される非天然細胞集団を作出するために使用され得る。開示される細胞集団はまた、それらが様々な疾患、障害、および状態のための研究、薬物開発、および処置に使用されることを可能にする固有かつ有益な特徴を有する。
【0016】
開示されるプロセス、方法、システム、および細胞集団は、様々な細胞、組織、臓器、および系に影響を及ぼす様々な傷害、損傷、疾患、障害、および状態を処置または予防するために使用され得る。多くの実施形態では、開示される細胞は、椎間板変性症を処置するのに有用であり得、椎間板の高さ(intervertebral disc height)(すなわち、隣接する椎骨間の距離)の保存および/または回復、組織構造の正常化などを促進し得る。
【0017】
本出願人らは、細胞を、足場分子なしに懸濁状態に維持することができる様々な細胞培養方法およびシステムの注意深い解析および比較の後、本プロセス、方法、およびシステムを開発した。本出願人らは、哺乳動物細胞集団、とりわけ表現型が固体表面への付着の非存在下における細胞スフェアとしての成長に依存する細胞型の大規模な成長が、特殊化された変化する培養条件を必要とすることを発見した。これらの変化する条件は、(1)単一細胞からの細胞スフェアの成長ならびに(2)懸濁状態における細胞および細胞スフェアの維持を可能にすると同時に、(3)細胞スフェアの脱凝集を最小限にし、(4)細胞およびスフェアに傷害を与え得る高剪断力を最小限にし、(5)大きな細胞スフェアでさえ、その細胞スフェアの沈降を最小限にする。
【0018】
本明細書に開示される本出願人の方法およびシステムは、一実施形態では、細胞を懸濁状態に維持するために撹拌槽バイオリアクター(STR)の使用を含む。開示されるSTR培養環境は、他の方法-波型振盪バイオリアクター(wave rocking bioreactor)、振盪フラスコ、および内部水車を備えるフラスコなどの、培養培地の移動を伴い得るものを含む-と比べて驚くほど増強した特徴を有する高密度集団の作出を支持する。大半の場合、バイオリアクターとは、培地が、連続的に撹拌および/または混合され、培養期間(culture period)にわたって交換、補充などがなされてもよい、細胞を成長させるためのデバイスまたは方法を指すことがある。さらに、本方法は、既存の方法、とりわけ静置培養(すなわち、培養培地の混合/移動を伴わない)および/または足場の使用に依存する方法と比べて実質的に改善した哺乳動物細胞スフェアの作製を実現する。多くの実施形態では、開示される方法およびシステムは、足場の使用を回避する一方で連続的または間欠的な流体移動を用いて、細胞スフェアの懸濁を維持および促進する。大半の実施形態では、開示される方法およびシステムは、細胞スフェアをSTRおよび/またはSTRデバイスにおいて成長させて、細胞スフェアの沈降を最小限にする工程を含む。開示される方法およびシステムは、開示される細胞スフェアのサイズ、形状、および品質(例えば、有効性、均一性など)を維持する。このことは、従来の静置足場培養方法においてこれまでに同定された有益な細胞品質属性のうちの多くの均一性を維持および促進するのに役立つ。
【0019】
上述したように、本出願人らは、既存の細胞スフェア作製方法のいくつかの態様が治療用細胞のスケールアップおよび/または大量作製に不適切であったことを認識した。具体的には、足場材料における成長は、有益な特徴を有する細胞の集団を生じる一方で、コストがかかり、労働集約的であり、汚染されやすく、不均一な細胞集団を生じた。細胞集団の不均一性は、様々な状況、例えば、個々の細胞スフェアが静置培養において曝露された微小環境の差、別個のデバイスおよび異なる時間において成長させた細胞の集団間の差(すなわち、マクロ環境)、個々のデバイス内の培養環境の変化などに起因した。したがって、本出願人らは、治療有効性に必要な特定の細胞特徴を維持しながら足場を使用せずに細胞スフェアを成長させることが可能か否かを検討した。
【0020】
驚くべきことに、本出願人は、本明細書において、足場材料が細胞スフェアの成長、発生、および維持および細胞スフェアに関連する特徴に必要とされないことを示す。本出願人らは、哺乳動物細胞スフェアを懸濁状態において成長および維持する能力について、波動型リアクター、振盪三角フラスコ、水車、およびSTRなどの様々な培養方法を分析した。残念なことに、検討した方法は、従来の方法と一致する特徴を有する細胞スフェアの所望の集団を成長させるのに不適切であり、結果は不確実であることが判明した。具体的には、これらの方法から培養された細胞の大部分は、デバイス内の固体表面に接着したか、細胞の大きな塊もしくはシート(スフェアではなく)として成長したか、または単一細胞として残存した。
【0021】
本開示の方法、プロセス、およびシステムの開発を促進するために、本出願人らは、数値流体力学(CFD)を使用して、哺乳動物細胞および培養培地の動的流れを支持することができる様々な培養方法を検討、分析、および比較した。CFDは、流体力学を使用して、所与のシステムにおける流体の流れを理解する。
【0022】
様々な動的培養条件およびシステムを哺乳動物細胞スフェアの成長に不適切であると分析した後、本出願人らは、細胞凝集、細胞のシート化、および表面付着を最小限にするために、撹拌槽リアクター条件の修正を検討することを選択した。小規模リアクターのための、さらに、所望の条件を維持しながらリアクターサイズをスケールアップするための条件を最適化するために、CFDが実施された。
【0023】
STRを最適化するため、さらに、所望の細胞特徴を維持しながら、システム、プロセス、および方法をより大きなシステムおよびデバイスに拡大するために、小規模CFD研究からの結果が使用された。初期小規模研究は、約0.25Lにおいて実施した。これらの条件は、次いで、CFDを使用して、足場ベースの静置方法において同定された、選択した細胞特徴の維持のために最適化された。これらの条件は、より一層大きな培養、例えば50L STR培養において、CFDを使用して流体力学的条件を調整することによって維持された。
【0024】
本出願人らによる、本開示の流体力学的条件下での哺乳動物細胞の成長は、単一細胞からの細胞スフェアの発生およびそれらの進行性成長をもたらし、細胞スフェアの細胞数が増加している間、細胞スフェアを懸濁状態に維持した。加えて、本開示の方法およびシステムは、従来の静置培養方法と比べて同等および/または増強した特徴を有する細胞を作製することができた。さらに、開示される細胞集団は、他の方法と比べて向上した均一性を有する。加えて、開示される方法、プロセス、およびシステムは、細胞培養データ(pH、溶存酸素、DOなど)の連続的なモニタリング-この連続的なモニタリングは、成長/培養の期間全体にわたって光(optical)培養条件を維持することも可能にする-を実現する。
【0025】
大量の哺乳動物細胞の増大および成長を可能にする新規方法およびシステムが本明細書に開示される。開示される細胞培養プロセス、方法、およびシステムは、細胞および/または細胞スフェアを懸濁状態に維持するのに十分な培養培地の活発な移動を含み得る。多くの実施形態では、開示される培養プロセス、方法、およびシステムは、細胞および/または細胞スフェアが成長して細胞表面に付着し得る場合、細胞および/または細胞スフェアの表面への定着を予防または減少するのに有用である。
【0026】
開示されるプロセス、方法、およびシステムは、培養培地および細胞/細胞スフェアの移動を提供する。多くの実施形態では、開示される方法、プロセス、およびシステムは、活発に混合または移動している培養培地における細胞および/または細胞スフェアの成長を可能にし得るバイオリアクターにおいて開示される治療用細胞を培養することを提供し得る。多くの実施形態では、培養培地の移動は、培養している期間(culturing period)にわたって変動し得る。多くの実施形態では、培養培地の移動を促進にするために使用されるエネルギーの量は、経時的に増加してもよく、これは勾配と称される場合がある。多くの実施形態では、培養培地の動的移動は培養培地撹拌と称される場合があり、勾配撹拌は動的撹拌と称される場合がある。
【0027】
開示される方法およびシステムは、懸濁状態において成長させることができる様々な細胞、例えば幹細胞および前駆細胞などの表現型、バイオマーカー、および特徴を維持するのに有用である。多くの実施形態では、開示される方法およびシステムは、典型的には細胞スフェアまたはクラスターとして成長する細胞の表現型および特徴を維持しながら、それらの成長および増大を可能にする。多くの実施形態では、開示される条件および方法の下で成長させた細胞および細胞集団の特徴は、他の方法およびプロセス、例えば静置方法および/または非動的培養法(non-dynamic culturing)を使用して成長させた細胞と比べて有意に増強され得る。
【0028】
開示される方法およびシステムは、培養培地、そこに懸濁される細胞スフェアおよび細胞の移動を介した哺乳動物細胞の大規模懸濁培養の増大および成長に有用である。多くの実施形態では、開示される方法およびシステムは、哺乳動物細胞、すなわち、単一細胞、複数の細胞の小さなクラスター、および細胞スフェアの両方を懸濁状態に維持することを実現する。開示される方法およびシステムは、細胞およびスフェアを懸濁状態に維持しながら単一細胞に細胞スフェアを形成させるのに有用である。多くの実施形態では、開示される哺乳動物細胞は、非動的培養(non-dynamic culture)において成長させた細胞、例えば固体マトリックスにおいて成長させた細胞と同等であるかまたはそれと比べて増強した表現型、バイオマーカー、および特徴を有する。
【0029】
開示される方法およびシステムは、多数の治療用細胞集団の増大および成長を提供する。多くの実施形態では、開示される方法およびシステムは、実質的に同種のバイオマーカーおよび特徴を提示する治療用哺乳動物細胞を提供する。多くの実施形態では、開示される治療用哺乳動物細胞集団は、表現型、バイオマーカー、および特徴、例えば、遺伝子発現、細胞外マトリックス産生、抗炎症性シグナル伝達、表面マーカー提示、スフェアサイズなどの点で低い異種性を提示する。
【0030】
治療用哺乳動物細胞の多数の均一な集団の作製のための方法およびシステムが本明細書に開示される。多くの実施形態では、開示される細胞は、他の方法、例えば、足場分子を含むおよび/または培養培地の撹拌も移動も含まない他の方法、ならびに経時的に変動しない撹拌を含む方法から作製される類似の細胞よりも、インビトロ(in vitro)およびインビボにおいて、均一であり、効果的であり、強力である。開示される方法、プロセス、およびシステムは、固体または半固体足場を培養培地に含める必要性を回避または減少し得る。
【0031】
足場の減少または非存在は、開示される細胞のより均一な成長を可能にし得、固体表面と接触して成長し得る、すなわち付着または接着培養において成長し得る細胞の亜集団の成長を予防または抑制し得る。多くの実施形態では、開示されるプロセスは、サイズ、特色、同一性などの点でより均一な細胞集団を生じ得る。多くの場合、より均一な細胞集団は、別の集団よりも実質的に大きい、ある細胞の集団を構成し得る。
【0032】
開示される方法およびシステムは、他の方法よりも高い効力、および例えば1つまたは複数の特徴(例えば、サイズ、倍加、表面マーカー発現などのうちの1つまたは複数)の点でより小さい変動性を有する実質的に均一な細胞の集団を生じ得る。多くの実施形態では、他の方法に由来する哺乳動物細胞は、2つ以上の亜集団から構成され得る。多くの実施形態では、他の培養方法、例えば培養培地が足場を含む培養方法から作製される細胞集団は、不均一であり、2つ以上の亜集団からの実質的な細胞の集団を含み得る。一部の実施形態では、一例として、細胞集団の実質的な部分は、全体の約20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%超であり得る。
【0033】
治療用哺乳動物細胞集団の新規組成物が本明細書に開示される。多くの実施形態では、開示される治療用細胞集団は、増強した特徴、バイオマーカー発現、および他の表現型を有し、発現する。多くの実施形態では、開示される治療用細胞集団は、他の培養方法、例えば、足場分子における成長、ならびに/あるいは半固体、静置、および/もしくは非混合培養培地、および/または撹拌が経時的に変動しない混合/撹拌培地において培養することを含む方法によって得られた細胞集団では見られないか、発現しないか、弱まっているか、抑制されるか、またはマスクされる場合がある、固有の望ましい表現型を提示および発現する。
【0034】
開示される哺乳動物細胞は、前駆細胞、幹細胞、または多能性細胞を含む様々な細胞型であり得る。様々な種類の幹細胞および前駆細胞は、例えばAdv Drug Deliv Rev, vol. 60, no. 2, pp. 199-214, Jan 14, 2008に記載されているように、当技術分野において周知である。多くの実施形態では、開示される哺乳動物細胞は、細胞スフェア、例えば懸濁培養において成長した細胞スフェアに由来し得るか、または細胞スフェア、例えば懸濁培養において成長した細胞スフェアとして成長し得る。
【0035】
開示される細胞は、細胞および組織ベースの様々な療法に有用な哺乳動物細胞であり得る。多くの実施形態では、開示される治療用細胞集団は、同種異系療法、自家療法、または異種療法に使用され得る。開示される細胞、組成物、および方法は、1つまたは複数の変性疾患の処置に有用であり得る。
【0036】
開示される治療用哺乳動物細胞は、様々な組織に由来する、増大および改変された細胞であり得る。一部の実施形態では、細胞は、ヒト髄核細胞および組織に由来し、変性性椎間板症(degenerative intervertebral disc disease)を処置するために使用され得る。多くの実施形態では、椎間板は、傷害があるか、罹患しているか、もしくは変性しているか、またはそれらのリスクがある場合がある。多くの実施形態では、開示される細胞は、有痛性の単数または複数の椎間板、例えば、腰椎、胸椎、および頸椎領域の有痛性の椎間板を有する対象を処置するために使用され得る。多くの実施形態では、開示される細胞は、疼痛、傷害、疾患、または変性が切迫しているかまたは予想される椎間板の疼痛、傷害、疾患、または変性の予防に使用され得る。
【0037】
開示されるプロセス、方法、およびシステムの一実施形態は、椎間板組織に由来する哺乳動物細胞、例えば、髄核細胞および線維輪細胞の治療用集団の作製を実現する。多くの実施形態では、細胞は、同種異系ヒトドナーに由来し得る。多くの実施形態では、開示される治療用細胞集団は、様々な椎間板障害、状態、および疾患、一例として椎間板変性症を処置および予防する、よく適した1つまたは複数の改変された特徴を有する。
【0038】
細胞
開示される方法およびシステムは、様々な哺乳動物組織由来の細胞の成長、均一性、および有効性を向上させるのに有用であり得る。開示される細胞は、様々な哺乳動物源から単離され得る。多くの実施形態では、開示される細胞は、様々な哺乳動物組織に由来する。多くの実施形態では、開示される哺乳動物組織は、神経学的組織、免疫学的組織、筋肉、骨、血液、軟骨などのうちの1つまたは複数を含み得る。多くの実施形態では、細胞は、椎間板、髄輪(annulus pulposus)、髄核、心臓、肝臓、腎臓、肺、膵臓、関節軟骨、骨、胸腺、甲状腺、血液、脳、脊髄、末梢神経、眼、皮膚、血管、毛包、羊膜、絨毛、臍帯、胎盤、軟骨、またはリンパ節に由来し得る。一部の実施形態では、細胞は、軟骨、腱、または靱帯に由来する。一部の実施形態では、開示される細胞は、椎間板組織に由来する。これらの実施形態では、細胞は、髄輪および/または髄核に由来し得る。多くの実施形態では、開示される細胞は、髄核に由来する。
【0039】
ドナー属性
開示される治療用哺乳動物細胞は、様々な供給源に由来し得る。一実施形態では、細胞は、ヒトドナーに由来する。ドナーは、年齢、性別、体重、身長、ボディマス指数(BMI)、健康状態などを含む様々な属性を呈し、それに基づいてスコア化され得る。多くの実施形態では、ドナーは、約16~65歳の年齢、約0~50の間のボディマス指数、約75~600lbの間の体重、および約4’5”~7’7”の間の身長であり得る。多くの実施形態では、ドナー属性は、ドナーの死亡から細胞の処理までの時間、例えば約0~36時間の時間を含み得る。一部の実施形態では、ドナー属性には、健康歴、例えば喫煙(箱/日および期間)、疾患歴、例えば糖尿病、癌、全身疾患の既往歴、および他の関連のある医療情報が含まれ得る。一部の実施形態では、ドナー属性には、解剖された組織の健康、例えば解剖された組織において観察された線維輪のレベルを捕捉する、1~5のスコアの椎間板スコア(5は、非常に線維状であり、乾燥しており、凹凸のある外観である)、およびグラム単位での組織の量(1~50グラム)が記載され得る。
【0040】
懸濁成長のための培養容器
開示される細胞は、様々な容器またはコンテナ中で懸濁状態において成長し得る。多くの実施形態では、容器は、1リットルまたはそれよりも多い、例えば、0.1L、0.25L、1L、2L、3L、4L、5L、6L、7L、8L、9L、10L、20L、30L、40L、50L、60L、70L、80L、90L、100L、150L、200L、300L、または400L超かつ約500L、400L 300L、200L、150L、100L、90L、70L、60L、50L、40L、30L、20L、10L、9L、8L、7L、6L、5L、4L、3L、2L、1L、0.25Lまたは0.1L未満の培養培地を保持するように構成され得る。多くの実施形態では、開示される容器またはコンテナは、バイオリアクターと称される場合がある。多くの実施形態では、バイオリアクターデバイスは、培養培地の移動を誘導または維持するための1つまたは複数の機構を備え得る。多くの実施形態では、開示されるバイオリアクターは、1つまたは複数のインペラ、プロペラ、または培養培地の移動を促進し得る類似のデバイスを備え得る。培地がバイオリアクターにおいて移動/撹拌されるスピードは、インペラを駆動するために使用されるエネルギーの関数であり得る。一部の実施形態では、動力は、経時的に、例えば1つもしくは複数の段階においてまたは時間の線形関数として、増加し得る。多くの実施形態では、線形関数は、例えば培養期間の開始時、終了時、または中間に、力が増加し得ない1つまたは複数のプラトーを有し得る。一部の実施形態では、段階は、より低い段階からより高い段階への力の直線的または漸進的増加によって接続されていてもよい。
【0041】
容器またはコンテナは、多くの物質から形成され得る。一部の実施形態では、コンテナまたは容器の内面(inner surface)はコーティングされ得る。一部の実施形態では、内面は、開示される哺乳動物細胞の、その面への接着(adherence)を予防もしくは減少し得る物質であり得るか、またはそれを予防もしくは減少し得るコーティングを含み得る。一部の実施形態では、コンテナは、開示される細胞の成長のために、バッグなどの可撓性容器を含有し得る。これらの実施形態では、バッグは、細胞接着を予防または減少するための表面改質を含んでもよい。
【0042】
開示される容器またはコンテナは、培養培地の混合を促進するように構成され得る。多くの実施形態では、容器またはコンテナは、面積または容量を最小限にするように構成され、ここで、培養培地の移動は、細胞またはスフェアがコンテナもしくは容器の底に沈降するかまたは内面に接着することを可能にするほど十分に減少し得る。
【0043】
撹拌
細胞培養培地の混合および/または移動を使用する哺乳動物細胞の大規模作製のために様々な方法が利用可能であるが、既存の方法および条件は、細胞スフェアを作製することおよび細胞スフェアを懸濁状態に維持することができない。
【0044】
本出願人らは、本明細書において、実質的に同種の特徴を有する治療用細胞集団の作製のための、懸濁状態における細胞スフェアの成長および維持のための方法を開示する。容器内の液体、例えば開示される培養培地を移動、撹拌、および/または混合するのに有用な1つまたは複数の機構を備え得るコンテナおよび容器が本明細書に開示される。多くの実施形態では、開示される機構は、インペラ、プロペラ、または類似のデバイスであり、混合のエネルギーは、(1)細胞スフェアの成長および発生を支持し、(2)細胞および細胞スフェアが懸濁状態から沈殿することを予防し、(3)細胞の内部表面への接着を最小限にするかまたは予防するように調節される。多くの実施形態では、混合または撹拌機構は、培養培地の移動の1つまたは複数のスピードを変更および/または選択することを可能にするように制御され得る。
【0045】
本出願人らは、本明細書において、懸濁状態における細胞スフェアの成長および維持のための方法であって、成長の条件が数値流体力学またはCFDを使用して最適化される、方法を開示する。多くの実施形態では、CFDは、1つまたは複数の細胞特徴、例えば、細胞およびスフェアサイズ、バイオマーカー発現、倍加数および時間などを達成するための、撹拌、培地、プロペラ/インペラスピードおよび形状、容器構成、容器容量などを含む成長条件を選択するために使用され得る。
【0046】
本開示の撹拌または混合スピードは、細胞および/またはスフェア成長を促進するために経時的に変動させてもよい。大半の実施形態では、撹拌スピードは、開示される細胞の培養および成長の間、上昇させてもよい。多くの実施形態では、撹拌スピードの選択は、成長速度、倍加数、倍加速度、スフェアサイズの変化の速度、スフェアサイズ、バイオマーカー産生、および/または1つもしくは複数のバイオマーカーの発現レベルに基づいて選択され得る。
【0047】
開示される撹拌または混合スピードは、細胞スフェアの成長、細胞スフェアの安定性を向上させるため、細胞スフェアの懸濁を維持するため、ならびに/あるいは細胞スフェアの容器の底への沈降、および/または細胞もしくは細胞スフェアの容器表面への接着を最小限にするために経時的に上昇させてもよい。大半の実施形態では、撹拌スピードは、最大剪断未満かつ2500以上のレイノルズ数を提供する速度超に維持され得る。レイノルズ数とは、本明細書において使用される場合、流体の密度、その流れのスピード、動的粘性率および直線の代表長さ(characteristic linear dimension)に基づく無単位値を指す。大半のシステムは、約10,000のレイノルズ数において十分に乱流である。
【0048】
開示される撹拌スピードは、開示される細胞の培養の期間にわたって変動する。多くの実施形態では、開始撹拌スピード/エネルギーは、剪断速度、容量平均速さ(velocity)、単位容量当たりの動力、エネルギー散逸から選択される1つまたは複数のパラメータに基づいて選択され得る。多くの実施形態では、開始撹拌スピード/エネルギーは、細胞スフェアが形成および成長するのを可能にすると同時に単一細胞を懸濁状態に維持するように選択され得る。インペラまたはプロペラが培養培地を混合および/または撹拌するために使用される実施形態では、撹拌スピードはまた、インペラ先端スピードに基づいて選択されてもよい。
【0049】
様々なパラメータは、インペラスピードの選択を補助するために使用され得る。多くの実施形態では、パラメータは、平均エネルギー散逸(一例では、1×10-6~1×10-4m2/s3)、単位容量当たりの動力(一例では、0.05~130W/m3)、最大剪断速度(一例では、500~10,000 1/s)、平均剪断速度(1/s)、容量平均速さ(一例では、0.001~0.2m/s)、最大速さ(一例では、0.05~1.5m/s)、渦サイズ(一例では、コルモゴロフ長、120~20μm)、容量平均剪断(一例では、0.1~25)、容量平均エネルギー散逸(一例では、1×10-6~1×10-2)、先端スピード(一例では、0.1~2m/s)、および回転毎分(約10~1000のRPM)のうちの1つまたは複数から選択される。一部の実施形態では、平均エネルギー散逸は、約1×10-7、1×10-6、1×10-5、1×10-4、または1×10-3m2/s3超かつ1×10-2、1×10-3、1×10-4、1×10-5、または1×10-6m2/s3未満であり得る。一部の実施形態では、単位容量当たりの動力は、約0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、5.0、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、または120W/m3超かつ約150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、1.0、0.5、0.1、または0.05W/m3未満であり得る。一部の実施形態では、最大剪断速度は、約500、1,000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、または8500s-1超かつ約10,000、9500、9000、8500、8000、7500、7000、6500、6000、5500、5000、4500、4000、3500、3000、2500、2000、1500、または1000s-1未満である。一部の実施形態では、約10、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、2000、3000、4000、または4500s-1超かつ約5000、4500、4000、3500、3000、2500、2000、1500、1000、900、800、700、600、500、400、300、200、100、または50s-1未満の平均剪断速度。一部の実施形態では、容量平均速さは、約0.0001、0.0005、0.001、0.005、0.01、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、または0.15m/s超かつ約0.2、0.15、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.005、0.001、または0.0005m/s未満である。一部の実施形態では、最大速さは、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8または0.9m/s超かつ約1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、および0.002m/s未満である。一部の実施形態では、渦サイズは、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100または110μm超かつ約150、130、120、110、100、95、90、85、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、または25μm未満である。一部の実施形態では、容量平均剪断は、約0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.8、2.7、または2.9超かつ約3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05未満である。一部の実施形態では、容量平均エネルギー散逸は、約1×E-6、1×E-5、1×E-4、1×E-3、または1×E-2超かつ約1×E-1、1×E-2、1×E-3、1×E-4、または1×E-5未満である。一部の実施形態では、先端スピードは、約0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.18、0.17、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、または0.25m/s超かつ約0.3、0.25、0.24、0.23、0.22、0.21、0.20、0.19、0.18、0.17、0.16、0.15、0.14、0.13、0.12、0.11、0.10、0.09、0.08、0.07、または0.06m/s未満である。一部の実施形態では、インペラの開始または終了RPMは、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000RPM超かつ約1250、1000、900、800、700、600、500、400、300、350、250、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40、30、または20RPM未満である。
【0050】
他の箇所に記載されるように、様々なパラメータは、結果として得られる細胞集団の性能特徴/属性を維持ないし最適化および/または調整するために、懸濁培養期間の間、増加/変化させてもよい。多くの実施形態では、培養を混合するために加えられるエネルギー(例えば、インペラまたはミキサースピード)の量は、培養期間の過程にわたって増加させてもよい。多くの実施形態では、インペラスピードは、経時的に上昇を小さくしてもよく、これはまた、剪断、平均剪断、および/または最大剪断の経時的な増加をもたらし得る。一実施形態では、最大剪断は、最初は約1000~3000s-1であり、経時的に増加するが、約4000~8000s-1の間の最終値を有し得る。一例では、初期最大剪断は、約2863s-1であってもよく、懸濁培養の4日目に約4400s-1に増加させてもよい。
【0051】
開示される撹拌スピードは、培養期間または培養している期間の間上昇させてもよい。培養期間とは、培養培地へのいくつかの哺乳動物細胞(単一細胞および/または細胞スフェア)の接種から細胞スフェアが回収される時間までの時間を指すことがある。多くの実施形態では、培養培地には、単一細胞または小さな細胞スフェア(2~50個の間の細胞)が接種され得る。多くの実施形態では、培養期間は、主に約50~300ミクロンの間のサイズの細胞スフェアであり得る細胞の回収により終了し得る。大半の実施形態では、撹拌スピードの上昇は一定で、実質的に直線的であり得るか、または上昇は段階的であり得る、例えば、接種と回収との間に2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上の段階を含み得る。多くの実施形態では、開示される方法は、培養期間にわたって撹拌スピードの3つの異なる段階、すなわち、培養に接種される際の初期設定、第2の設定、第3の設定と、それに続く細胞スフェアの回収とを含み得る。一実施形態では、例えば培養容器が200~300mlである場合、開示される方法は、250mL容器に対して75~275RPMの開始および終了RPMを含み得る。
【0052】
初期撹拌スピードは、細胞の懸濁状態の維持と、細胞スフェアの形成を可能にすること-すなわち、細胞スフェアを分解または分裂するのに十分な力の回避-の両方を実現するように選択され得る。
【0053】
培地
他のプロセスパラメータ
開示される細胞は、懸濁培養および調整された様々な成長パラメータにおいて成長させることができる。一部の実施形態では、播種密度は、約100~約1×106細胞/mLにおいて変動し得る。容器および成長条件、例えば、培養時間、温度、容量、溶存酸素、pH、培地交換速度、灌流サプリメント交換速度などもまた変動し得る。様々な実施形態では、培養時間は、約7~約25日において変動し得る。一部の実施形態では、最終細胞密度は、約100~約10e6細胞/mLであり得る。様々な実施形態では、培養温度は、約35~約38℃において変動し得る)。容器における培地の容量もまた、約50~約100%において変動し得、溶存酸素百分率は、約50~約110%において変動し得、培地のpHは、約7.2~約7.8の間において変動し得る。様々な実施形態では、培地および灌流交換速度は、約0~約500%/日において変動し得る。
【0054】
細胞成長/倍加
開示される方法、プロセス、およびシステムは、効力の喪失を伴わずにインビトロにおいて成長した哺乳動物細胞の成長速度および/または増大能力を向上させるのに有用である。多くの実施形態では、開示される方法、プロセスおよびシステムは、手動の介入(すなわち、細胞を1つの培養容器から2つの培養容器に「継代すること」、細胞スフェアを単一細胞に解離して、より多くのスフェアを再成長させることなど)を伴わずにより多くの細胞倍加を可能にする。多くの実施形態では、開示される方法、プロセス、およびシステムは、より一様な細胞およびより均一な細胞集団のより速い成長を可能にする。
【0055】
開示される細胞は、懸濁状態における成長の前または後に、付着培養において成長させてもよい。多くの実施形態では、開示される細胞は、懸濁状態に置かれる前に2回以上の分裂を受けていてもよい。多くの実施形態では、開示される細胞の集団は、懸濁培養に移される前に、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15回以上の「倍加」を受けていてもよく、ここで、「倍加」とは、細胞の集団が2倍または2xに増加することを指す。
【0056】
懸濁状態において成長させる場合、開示される細胞集団は、1~15回倍加し得る。多くの実施形態では、開示される細胞は、懸濁状態における成長の間、2回以上の倍加、例えば、収集される前に、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15回よりも多い「倍加」を受けていてもよい。
【0057】
本明細書において使用される場合、細胞集団は、集団における細胞の数が「倍加する」1回または複数回の倍加を受けると記載される場合がある-したがって、2回の「倍加」を受けた集団は、培養への最初の接種から数が4倍または4xに増加しており、ここで、xは開始時の細胞の数である。
【0058】
スフェアサイズ
開示される方法、プロセス、およびシステムは、哺乳動物細胞スフェアの成長を提供する。多くの実施形態では、開示される細胞スフェアは、約20μm~200μmの間のサイズである。多くの実施形態では、開示される方法によって作製される細胞スフェアの平均サイズ(mean average size)は、約50μm~約75μmである。多くの実施形態では、開示される細胞スフェアの約80%以上は約93μm~164μmの間である。多くの実施形態では、細胞スフェアは、前駆細胞に由来する複数の細胞、例えばクローン集団を含み得る。多くの実施形態では、細胞スフェアは、約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、350、4000、450、もしくは500個超かつ/または約2000、1500、1000、500、450、400、350、300、250、200、150、100、もしくは50個未満の細胞を含み得る。
【0059】
バイオマーカー
本出願人の開示される方法およびシステムは、様々な遺伝子および/またはタンパク質発現プロファイルを誘導および/または支持し得る。多くの実施形態では、開示される細胞の遺伝子およびタンパク質発現プロファイルは、組織の修復または健康を支持することを促進し得る。一部の実施形態では、発現される遺伝子およびタンパク質は、椎間板、例えば椎間板変性症のリスクがあるかまたはそれを提示している椎間板の修復および/または維持を促進し得る。多くの実施形態では、遺伝子発現におけるこの差は、他の培養方法、例えば、細胞を懸濁状態に維持するための1つまたは複数の粘性足場を含む培養方法、および培地撹拌のための1つまたは複数の技法、例えば水車または培養もしくは容器デバイスの移動を使用し得る培養方法によって生じるものと異なり得る。一部の実施形態では、発現は、椎間板変性症において抑制されることが示されている遺伝子およびタンパク質について増強する。
【0060】
遺伝子、タンパク質、および化合物を含むバイオマーカーは、本方法の結果として、増強した発現を提示し得る。開示されるバイオマーカーは、プロテオグリカンまたはコラーゲンに関連する1つまたは複数のバイオマーカーを含み得る。多くの実施形態では、開示されるバイオマーカーは、1つまたは複数の小型ロイシンリッチプロテオグリカンに関するものであり得る。開示される遺伝子、タンパク質、または化合物は、髄核マーカー、細胞外マトリックス分子、グリコサミノグリカン(GAG)、小型ロイシンリッチプロテオグリカン(SLRP)、アグリカン(NP_001126、XP_001131727、XP_001131734;NP_037359;NP_001356197、XP_006720482;XP_011519615;XP_011519616)、コラーゲン1、2、6、12などのうちの1つまたは複数から選択され得る。多くの実施形態では、SLRPは、デコリン(DCN;NP_001911;NP_598010;NP_598011;NP_598012;NP_598013;NP_598014)、ビグリカン(BGN;NP_001702)、ルミカン(LUM;NP_002336)、およびフィブロモジュリン(FMOD;NM_002023.5)を含む糖タンパク質である。
【0061】
発現
バイオマーカー発現は、様々な方法によって測定することができる。多くの実施形態では、バイオマーカー発現は、フローサイトメトリー、PCR、RT-PCR、タンパク質アッセイ、グリカンアッセイ、ELISAアッセイ、比色アッセイなどのうちの1つまたは複数によって測定される。一実施形態では、フローサイトメトリーは、蛍光色素コンジュゲートマウス抗ヒトモノクローナル抗体を用いて実施され得る。多くの実施形態では、フローサイトメトリーは、1つまたは複数のアイソタイプ対照を含み得る。多くの実施形態では、開示される細胞は、表面受容体、マーカー、またはタンパク質を認識する1つまたは複数の抗体と共にインキュベートされ得る。多くの実施形態では、インキュベーションは、血清アルブミンおよびヒトFcブロックの存在下で、4℃において約20~90分間実施され得る。様々な表面マーカー、例えば、HLA-DR/DP/DQ、CD24、CD44、CD73、CD90、HLA-ABC、CD34、CD45、CD40、CD271、CD80、Gd2、Flt-1およびCD86のうちの1つまたは複数がアッセイされ得る。一部の実施形態では、死細胞または代謝的に不活性な細胞は、同定され、その後、例えばこれらの細胞と生細胞とを識別するのに役立つ化合物(例えば、化合物7-AAD)を用いて解析から除外され得る。多くの実施形態では、バイオマーカー発現、例えば表面マーカー発現は、フローサイトメトリーおよび集団全体の発現に関するデータによって定量することができ、集団の100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、または1%未満かつ約0.1%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%超がバイオマーカーを発現する。
【0062】
「約」または「およそ」という用語は、当業者によって決定される、特定の値の許容誤差を意味し、これは、部分的には、その値が測定または決定される方法に依存する。ある特定の実施形態では、「約」または「およそ」という用語は、1、2、3、または4標準偏差以内であることを意味する。ある特定の実施形態では、「約」または「およそ」という用語は、所与の値または範囲から30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.05%以内であることを意味する。「約」または「およそ」という用語が一連の2つ以上の数値における第1の数値に先行する場合は常に、「約」または「およそ」という用語は、その連続する数値の1つずつに適用されることが理解される。多くの実施形態では、「実質的に」または「実質的な」とは、ある部分の大半、例えばセットまたは集団の約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98%、または99%超を指すことがある。一部の場合では、実質的は、改善との関連において使用されることがあり、これらの場合では、改善は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、または300%以上であり得る。
【実施例】
【0063】
足場を用いない培養方法の検討
死亡したばかりの哺乳動物ドナー対象から得た椎間板組織。個々の髄核細胞を、酵素消化を介して椎間板組織から単離した。次いで、単一細胞を接着培養において増大させた。次に、細胞を別個の群に継代し、各細胞群を1種類の非接着または付着非依存性培養条件において成長させた。具体的には、ある細胞群は、フラスコに粘性足場を含有する従前の方法によって成長させた。他の群は、振盪非粘着性バッグ(rocking non-stick bag)、振盪三角フラスコ、内部回転車輪を含有する容器、およびSTRに基づく培養において成長させた。各細胞群を、従前のフラスコ系に使用された同じ培養培地カクテルに播種したが、対照フラスコ群を除き、培地はメチルセルロースを欠いていた。
【0064】
図1は、様々なフラスコ/容器/コンテナ/バイオリアクターおよびシステムの画像を示す。加えて、
図1は、本方法から得た開示される細胞/スフェアの一実施形態の顕微鏡画像を示す。これらの顕微鏡写真は、収集直前に様々な倍率において作成した。
【0065】
収集時、細胞スフェアは、最終総細胞数を得るために、単一細胞に解離され計数される(K2自動セルカウンター;Nexcellomを使用)。細胞倍加の数を各モダリティについて算出し(倍加=3.32(log(収集数)-log(接種数))、記録した。記録した倍加値をフラスコ系における細胞倍加と比較した。
【0066】
初期解析の後、本出願人らは、容器表面への有意な細胞付着を伴わずに細胞成長およびスフェア形成を支持した方法を同定した。次いで、これらの方法からの細胞を追加の試験のためにさらに処理した(洗浄し、濃縮し、-196℃において凍結した)。
【0067】
細胞を、受動制御を伴う4つのモダリティおよび能動制御を伴う1つのモダリティにおいて成長させた。第1のモダリティ、および対照条件は、超低接着コーティングを有するCellSTACK(Corning)における静置懸濁培養であった(n=8)。この静置培養では、培地は、足場を提供し、細胞固着(adhesion)を予防し、スフェア成長を促進するために0.75%メチルセルロース(Benecel A4M、Ashland)を含んだ。残りのモダリティでは、細胞を、流体移動させながら、メチルセルロース不含培地に懸濁した。第2のモダリティは、通気孔付きキャップを備える500ml邪魔板なしガラス製三角フラスコであった(Chemglass、100および130回転毎分(RPM)においてn=2)。フラスコは、容器壁への細胞固着を低減するために、使用前にシリコン処理をした(Sigmacoteシリコン処理試薬、Sigma-Aldrich)。第3のモダリティは、通気孔付きキャップ水車であった(PBS 0.1MAG、PBS Biotech、n=2)。第4のモダリティは、波動型バイオリアクターであった(Xuri Cell Expansion System、Cytiva、n=2)。リアクターは、1分当たり4回の最大振動において、4度の振盪角度にて振盪させた。各受動制御モダリティにおいて、温度は37℃に維持した。溶存酸素およびpHは、インキュベーターを使用して、95%空気および5%CO2において、通気孔付きキャップによって維持した。
【0068】
第5のモダリティは能動制御を利用し、細胞を0.25Lガラス製撹拌槽バイオリアクター(0.25L DASbox Mini Reactor Systems、Eppendorf)において成長させた。STR容器は、容器壁への細胞固着を低減するために、使用前にSigmacoteを用いてシリコン処理をした。3つの撹拌スピード(低、中、高)を、8枚ブレードのインペラを使用して利用した(条件1つ当たりn=2)。溶存酸素およびpHは、CO2、空気、O2、およびN2ガスオーバーレイの混合物を使用して、能動的に制御した。
【0069】
5つのモダリティのそれぞれにおいて、細胞を同等の期間成長させた。フラスコ/バイオリアクターの肉眼画像および細胞/スフェアの顕微鏡画像を、収集直前に様々な倍率において得た。
【0070】
【0071】
撹拌モデリング研究
0.25L STRを22の異なる条件において運転し、条件には、様々な静的撹拌プロファイルを有する6つの条件と、勾配撹拌プロファイルを有する16の条件とが含まれた。細胞倍加、スフェアサイズ、および細胞外アグリカンマトリックス産生を各条件について測定した。次いで、CFDを使用して、0.25L STRにおける流体力の流体力学的モデルを生成した(以下に記載)。これらの流体力学的モデルを、標準的な最小二乗回帰を使用して、細胞品質の結果(cell quality output)と比較した。最後に、STRパラメータを、流体力学的力および細胞品質の回帰モデルを使用して同定された新たな最適な設定値に修正した。
【0072】
細胞倍加
収集時、細胞をスフェアから解離し、K2自動セルカウンター(Nexcelom)を使用して最終細胞数を得て、総成長動態を評価した。細胞倍加(倍加=3.32(log(収集数)-log(接種数))を、静置懸濁培養において見出された倍加と比較した倍数として報告した。
【0073】
スフェアサイズ
スフェアサイズを、ImageJソフトウェアにおける画像解析を介して測定した[22]。容器1つ当たり3枚の濃縮スフェア収集物の写真を40倍の倍率において撮影し、自社で作成した特注のImageJプラグインを使用して解析した。各写真に対して、特注のプラグインは、8ビットのグレースケール画像を作成し、外れ値を除去し、穴埋めをし、ウォーターシェッド(watershed)を使用して、スフェアを同定し、重なったスフェアを分割した。最後に、プラグインは、スフェア特徴データを捕捉するためにスケールおよび測定値を設定し、画像倍率を調整し、その後、「Analyze Particles」関数が、1000~7500ピクセルの間のサイズおよび0.15~1.0の間の真円度の全てのスフェアについてこれらの測定値を捕捉した。
【0074】
細胞外マトリックスタンパク質インビトロ培養アッセイ
椎間板由来細胞を96ウェル丸底超低接着プレートに、0.5%ウシ胎児血清および50ug/mLゲンタマイシンを含有するDMEM/F12中2.5×105細胞/ウェルにおいて播種した。細胞培養を37℃において、5%CO2にて72時間インキュベートした。上清を、アグリカンの濃度を決定するELISAアッセイ(Aggrecan(PG)Human ELISA Kit、Thermo Fisher Scientific)による解析のために、培養から除去した。内部参照対照細胞株を各アッセイに関して実行して、アッセイ性能を並列的に検証した。
【0075】
数値流体力学モデリング
次に、2つのSTRシステム(Eppendorfによる0.25L DASboxおよびThermo Fisher ScientificによるHyPerforma 5:1 50L S.U.B.)の詳細なモデルを、DesignModeler、Meshing、Fluent&CFD Post(ANSYS18.1、Ansys)を使用して作成した。システムを、インペラのRPMおよび流体力学的条件の規模を捕捉することを目的とした7つの撹拌スピードを使用してモデル化した。平均エネルギー散逸(m2/s3)、単位容量当たりの動力(W/m3)、最大剪断速度(1/s)、平均剪断速度(1/s)、容量平均速さ(m/s)および先端スピード(m/s)を、補足資料において見出される1組の仮定および式を使用して算出した。
【0076】
22のSTR容器からの細胞倍加、スフェアサイズ、およびアグリカン生産を、これらのCFD由来流体力学的条件を使用してモデル化し、標準的な最小二乗回帰を使用して経験的所見と比較した。CFDはまた、スフェアがSTR運転からの最大観察スフェアサイズであると仮定して、平均渦乱流散逸とリアクターの各部分における細胞の分布(細胞容量画分)との間の相関を算出するためにも使用した。
【0077】
静置懸濁モダリティとSTRモダリティとの比較
STRパラメータを、撹拌およびCFD回帰モデルに基づいて更新して、倍加、スフェアサイズ、およびアグリカン産生値を最適化した。静置懸濁プロセスと新たなSTR培養プロセスとを、並列的に培養した、5名の別々のヒトドナーに由来する細胞を用いて比較した。勾配撹拌プロファイルをSTRに対して使用し、ここで、撹拌速度(agitation rate)は経時的に上昇させ、これによりスフェアサイズが増加した。静置懸濁条件につき1回の反復、および0.25L STRにつき3回の反復を実施した。それぞれから生成された細胞を、細胞倍加、スフェアサイズ、アグリカン発現、およびフローサイトメトリー同一性を含む重要な属性について比較した。細胞の生理活性もまた、椎間板変性のインビボウサギモデルにおいて比較した。
【0078】
細胞外マトリックスタンパク質インビトロ培養アッセイの更新
静置懸濁研究と0.25L STR研究とのこの比較のために、アッセイをわずかに修正して感度を向上させた。椎間板由来細胞を、1×ITS+プレミックス、0.35mM L-プロリン、0.17mM 2-ホスホ-L-アスコルビン酸および50ug/mLゲンタマイシンを補充したピルビン酸塩含有DMEM高グルコース中2.5×105細胞/ウェルにおいて96ウェルv底ポリプロピレンプレートに播種した。細胞培養を37℃において、5%CO2にて5日間インキュベートした。上清を、アグリカン(Aggrecan(PG)Human ELISA Kit、Thermo Fisher Scientific)およびコラーゲンI(Abcam)の濃度を決定するELISAアッセイによる解析のために、培養から除去した。内部参照対照を各アッセイに関して実行して、アッセイ性能を検証した。
【0079】
フローサイトメトリーによる同一性
細胞同一性を、適切なアイソタイプ対照を含む、蛍光色素コンジュゲートマウス抗ヒトモノクローナル抗体を用いるフローサイトメトリーを使用して測定した。細胞を、0.5%ヒト血清アルブミン、ヒトFcブロックならびに以下の抗体、HLA-DR/DP/DQ、CD24、CD44、CD73、CD90、HLA-ABC、CD34、CD45、CD40、CD271、CD80、およびCD86(BD Biosciences、San Jose、CA、USA)を含有するPBS中、抗体と共に4℃において30~60分間インキュベートした。前方散乱ヒストグラムを作成した。陽性発現を、死細胞を除外する7-AAD(BD Biosciences)染色を使用して、生細胞集団において評価した。フローサイトメトリー測定をCytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter Life Sciences、Indianapolis、IN USA)において実施し、FlowJoソフトウェア(BD Bioscience)を用いて解析した。各解析について10,000以上の事象を収集した。
【0080】
プロセス調整可能モデリング
本発明者らのドナー集団を表す5名のドナーを選択し、4名のドナー(ドナー1~4)は、本発明者らの許容される範囲の両端のドナー品質属性を有し、1名のドナー(ドナー5)は、その範囲の中心のドナー品質属性を有した。DOEダイアログ内に共変量データを与えるためにドナー属性のデータ表を作成し(表2)、ここで、範囲の下端は-1として表され、範囲の上端は+1として選択され、範囲の中心点は0として表される。この共変量表を作成することによって、開示されるデータ解析ソフトウェア(一例として、SAS製のJMP)は、選択されたモデルの役割に加えて、DOEにおける各ドナーのRandom Block Roleを有するWhole Plotを自動的に作成する。
【0081】
【0082】
2つの共変量ドナー品質パラメータ、4つの高リスク培地パラメータ、および5つの高リスクプロセスパラメータを使用して、D最適DOE(実験設計)を作成した(表3)。培地およびプロセス設定値には、DOEダイアログにおいて連続の役割を与えた。DOEを、ブロック化の役割において、14のSTR条件の6回の試行により設計した。主効果、交互作用効果、および曲率推定可能性(curvature estimibility)は、それぞれ、DOEダイアログにおいて「Necessary」に設定した。D最適DOEを作成し、実行した。DOEダイアログを伴わずに、7回目の試行を行い、5つの細胞株のそれぞれを、培地およびプロセスパラメータの中心点条件下において3連で試行した。実験条件がDOE設定値に維持されなかった場合、追加のSTRを8回目の試行として運転した。7回目および8回目の試行には、それぞれ、独自のブロック化レベルを割り当てた。
【0083】
【0084】
8回の試行からのデータを、回帰およびANN技法(以下に概略を示す)を使用して解析した。いずれの方法を使用しても、11のドナー、培地、およびプロセス設定値の全てについて、最適な条件が同定された。これらの設定値を試験するために、STRを、本発明者らのプロセス中心点ならびにANNおよび回帰モデルによって同定された最適な条件において3連で運転した。
【0085】
DOEを、初めに、アンダーソン-ダーリングの適合度検定を使用して正規分布について評価した。次いで、正規分布したデータを、制約付き最尤法を用いる標準的な最小二乗回帰によって解析した。主、交互作用、および二次効果の全ては、初期モデルに含まれた。モデルに有意には寄与しなかったか(p>0.05)、または高次効果を有しなかった入力は、依然としてモデルに含まれており、p値の降順において、1つずつモデルから除去された。有意な効果のみが残ったら、調整済みR二乗および分散分析を使用して、モデル品質をアッセイした。最適なプロセス設定値を見出すために、予測プロファイラ、例えば解析ソフトウェア内の予測プロファイラを使用して、細胞倍加を最大化した。プロファイラは、1つまたは2つの入力パラメータ/因子を変更した場合において、応答曲面を可視化することを補助し得る。多くの場合、プロファイルは、様々な空間-例えば機会空間-の探索を可能にするデータの断面図であり得る。潜在的な多変量範囲を、JMPソフトウェアにより利用可能な等高線プロファイラを使用して評価した。
【0086】
維持可能DOEからの結果は、プロセスおよび培地パラメータを調整/選択することによって、様々な属性を有するドナー細胞が、特定の性能特徴を伴って作製され得ることを実証する。多くの実施形態では、性能属性は、様々な基準または細胞の所期の使用に基づいて選択され得る。
【0087】
生理活性のインビボ評価
生理活性のインビボ評価のために、雌ニュージーランド白ウサギ(3~4kg)を、私設(private)動物実験委員会(IACUC)による承認下において使用した。14匹のウサギを麻酔し、脊椎の腰椎領域を外科的に露出した。3つの腰椎椎間板(L3-L4、L4-L5、L5-L6)を、18ゲージ針5mmの椎間板への挿入を介して損傷させた。L2-L3は、健康対照として非介入のままとした。その後、筋肉および皮膚を、縫合糸を使用して閉じ、動物を、回復の間モニタリングした。2週間後、外科的処置のためにウサギを再び用意し、27ゲージ針によって、2名の異なるドナー由来の、25mlの媒体中0または67,000個の細胞を椎間板に注射した(条件1つ当たり2匹の動物において、n=3~6/条件)。シャム手術もまた比較のために実施した(n=3)。半分の細胞は、メチルセルロースを含有する静置培養において生成し、従来の媒体(Profreeze(Lonza Bioscience)、ジメチルスルホキシド、生理食塩水およびヒト血清アルブミンを含有する1%ヒアルロン酸ナトリウム)と混合した。残りの半分の細胞は、STRにおいて生成し、Profreezeを除外した更新された媒体と混合した。
【0088】
腰椎脊椎のX線画像を2週間ごとに得た。18の骨ランドマーク間の測定を盲検的に行って、様々な条件において椎間板高指数(DHI)を算出した。DHIおよびその測定は、L. I. Silverman et al., "In vitro and in vivo evaluation of discogenic cells, an investigational cell therapy for disc degeneration," Spine J, vol. 20, no. 1, pp. 138-149, Jan 2020に開示されているように、当技術分野において周知である。また、動物の体重および行動を、あらゆる異常に関して記載した。投薬の6週間後、動物を屠殺し、椎間板を外植し、固定し、脱灰し、椎間板の中心を通るように切断し、ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)、サフラニンO、ならびにピクロシリウスレッド/アルシアンブルー混合物を用いて染色した。スライドを、異常組織または炎症の存在、および組織構造の任意の潜在的な正常化について、委員会認定の獣医病理学者によって評価した。
【0089】
大規模STRへのスケールアップ
HyPerforma 5:1 50L S.U.B.(Thermo Fisher Scientific)のCFDモデルを生成した。RPMを、複数の規模の間で最大剪断速度(s-1)を維持することによって拡大した。単一のドナー由来の細胞を0.25L STR(DASbox、n=2)および50Lパイロット規模商用システム(Thermo Fisher ScientificによるHyPerforma 5:1 50L S.U.B.、n=1)に継代した。結果として得られた椎間板由来細胞を、倍加、スフェアサイズ、および同一性について、上に記載した方法を使用して、フローサイトメトリーを介して比較した。
【0090】
ECM産生
高グルコースDMEM、1×ITS+プレミックス(corning)、0.35mMプロリン、0.17mMアスコルビン酸-2-リン酸、および25~50ug/mLゲンタマイシン硫酸塩からなる無血清ECM培養培地を調製した。液体窒素試料を解凍し、培地を含有する遠心チューブに移した。試料を200~400×gにおいて5分間遠心分離して、細胞をペレット化した。上清を吸引し、細胞ペレットを1~3mLのECM培養培地に再懸濁した。細胞濃度を、K2またはcellaca cellometer(Nexcelom)を使用して測定し、それに応じて、細胞の濃度を0.5~3×106生存細胞/mLに調整した。200~300μLの各細胞懸濁液を超低接着96ウェル丸底プレートの各ウェルに添加した。細胞を有するプレートを、細胞培養インキュベーター(37℃、5%CO2)においてインキュベートした。3~5日後、細胞プレートを取り出し、200~400×gにおいて5分間遠心分離した。上清を、細胞ペレットを乱すことなく、新たな96ウェルv底プレートに注意深く移した。
【0091】
コラーゲンI Elisaアッセイを、標準的な慣習に従って実施した。アグリカンELISAアッセイを、50μlの試料ではなく60~100μlの試料を使用し、投入した試料容量の量(60~100μl)と等しくなるようにインキュベーション緩衝液の容量を調整したことを除いては、標準的な慣習に従って実施した。細胞上清におけるコラーゲンIおよびアグリカンの総量を、各分析物に対して作成した標準曲線を使用して決定した。
【0092】
PCRアッセイ
試料を、ECM効力アッセイにおけるインビトロ培養後の細胞ペレット、または解離前の懸濁培養収集物から取得した細胞のいずれかから取得した(注:試料は、解離後に取得することもできる)。新鮮細胞試料(すなわち、インビトロ培養後の細胞ペレットから取得した)は、懸濁培養から取得した細胞と比較して異なるバイオマーカーを異なるレベルにおいて発現し得る。多くの実施形態では、細胞試料は、PCR解析のために同様に処理され得る。試料をTRIzol試薬に溶解し、-80Cにおいて保存した後に解析した。RNAを、PureLink RNA Microscale Kitを使用して抽出した。ACAN(Hs00153936_m1)、COL1A2(Hs00164099_m1)およびCOL2A1(Hs01060325_g1)に関する遺伝子発現を、商用のTaqManアッセイを使用して測定し、ハウスキーピング遺伝子HPRT1(Hs02800695_m1)の発現に対して正規化した。cDNAへの逆転写およびPCR増幅工程を、推奨されるサイクリング条件を使用して、1-step Fast Virus Master Mix(ThermoFisherカタログ4444436)を使用する単一の実験により、QuantStudio5リアルタイムPCRシステムにおいて実施した。
【0093】
ペレット重量アッセイ
高グルコースDMEM、1×ITS+プレミックス(corning)、0.35mMプロリン、0.17mMアスコルビン酸-2-リン酸、および25~50ug/mLゲンタマイシン硫酸塩からなる無血清ペレット培養培地を調製する。細胞を解凍し、1~9mLのペレット培養培地に再懸濁する。細胞をK2またはcellaca cellometerにおいて計数する。300万~900万個の細胞を15mLチューブに移し、細胞濃度を100万~200万細胞/mLに調整する。細胞を200~400×gにおいて5分間遠心分離して、細胞をペレット化する。ペレットを37Cおよび5%酸素のインキュベーターにおいて2週間培養し、培地を2~3日ごとに交換する。培養の最後に、細胞を収集し、秤量して、ペレットの湿重量を測定する。
【0094】
sGAGおよびヒドロキシプロリンを測定するための生化学的アッセイ
0.01Mまでのシステイン塩酸塩および0.125mg/mLまでのパパインを塩基消化緩衝液(0.10Mリン酸二ナトリウム、0.01Mエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物、pH6.5)に混合することによってパパイン消化緩衝液を調製する。細胞ペレットを200~500μLのパパイン消化緩衝液において60℃にて12~18時間消化する。消化混合物をボルテックスして、消化されたペレットを消失させる。sGAGおよび総コラーゲンを、既知のプロトコールに従ってアッセイする。コラーゲンアッセイは、Cissell et alから修正した。具体的には、Cissellの反応容量を半分にし、その結果、投入試料容量および全ての溶液の容量を半分にした。
【0095】
硫酸化グリコサミノグリカンを、DMMB溶液の容量を1Lではなく800mLにして1.25×溶液を生成したことを除いては、(Eur Cell Mater, 2015 Apr 19;29:224-36)に由来する方法を使用してアッセイした。この溶液のpHを、使用の当日にHClを用いて1.5に調整し、溶液濃度を、0.03162M HClを用いて1×にして、1.5のpHを維持した。
【0096】
T細胞免疫調節アッセイ
液体窒素からの椎間板由来細胞の試料を解凍し、10~20%FBSおよび25~50ug/mLゲンタマイシン硫酸塩を含有する3~8mLのDMEM/F-12(椎間板由来細胞培養培地)を含有する遠心チューブに移した。細胞を200~400×gにおいて5分間遠心分離して、細胞をペレット化した。上清を吸引し、細胞を1~3mLの椎間板由来培養培地に再懸濁した。細胞濃度を、K2またはcellaca cellometerを使用して測定し、それに応じて、細胞濃度を0.2~2×106生存細胞/mLに調整した。各細胞懸濁液を、96ウェル組織培養プレート(平底)のウェル1つ当たり200~300μL添加した。プレートを細胞培養インキュベーター(37℃、5%CO2)において1~4日間インキュベートした。
【0097】
インキュベーション後、PBMCを解凍し、椎間板由来細胞と同じプレートに以下のプロトコールに従ってプレーティングした。30~50μg/mLの濃度のマイトマイシンを含有する椎間板由来細胞培養培地を調製し、これは、「前培養培地」と称される場合があり、増殖を阻害または予防するのに有用であり得る。マイトマイシンを含有する100~200μLの前培養培地を椎間板由来細胞に添加し、37Cにおいて1.5~3時間インキュベートする。細胞をマイトマイシン中でインキュベートしている間、PBMCを以下の通りに調製する。液体窒素からのPBMC試料を解凍し、10~20%FBSおよび25~50ug/mLゲンタマイシン硫酸塩を含有する3~8mLのImmunocult XF T細胞増大培地(Stem Cell Technologies)(クエンチ培地)を含有する遠心チューブに移した。次いで、解凍したPBMCを含有するチューブを200~400×gにおいて5分間遠心分離して、細胞をペレット化した。上清を吸引し、試料を1~3mLのPBSに再懸濁した。細胞濃度を、K2またはcellaca cellometerを使用して測定し、それに応じて、細胞濃度を1~2×106生存細胞/mLに調整した。CFSE色素を18~40μLのDMSOに再懸濁し、次いで0.5~1.5μLの再懸濁したCFSEを細胞に添加し、5~10分ごとにボルテックスすることによって定期的に混合しながら5~25分間インキュベートした。CFSE染色が完了した後、3倍~4倍容量のクエンチ培地を添加し、混合物を3~8分間インキュベートした。PBMC試料を200~400×gにおいて5分間遠心分離して、細胞をペレット化した。上清を吸引し、細胞を、10~20ng/mLのIL-2および25~50μLのゲンタマイシンを含有する適切な量のImmunocult XF T細胞増大培地に再懸濁して、100万~500万細胞/mLのPBMC濃度を得た。PBMCのサブセットを、CD3/CD28アクチベーターを用いて、アクチベーターを2~50μL/mLの濃度において細胞に添加することによって活性化した。アクチベーターを用いて処理しなかったPBMCのサブセットは、非活性化対照として機能した。活性化PBMCを、椎間板由来細胞を有するウェルおよび有しないウェルに、100~200μLの培地中100,000~500,000細胞/ウェルの密度において添加した。非活性化対照PBMCは、椎間板由来細胞を有しないウェルに、同じ密度において添加した。
【0098】
細胞培養を3~5日間インキュベートし、次いで、細胞を、PBMC増殖を評価するフローサイトメトリーのために、以下の工程に従って調製した。100~200μLのTRYPLE(Thermofisher)を各ウェルに添加し、椎間板由来細胞が剥離するまで(5~10分)37℃においてインキュベートした。細胞をピペッティングして、クラスターを混合および破壊し、96ウェルポリプロピレンプレートに移した。細胞プレートを200~400×gにおいて5分間遠心分離した。上清をデカントし、細胞を、0.02~0.08ug/mLヒトFcブロック(BD Biosciences)を含有する90μLのフロー緩衝液(PBS+1%HSA)に再懸濁した。再懸濁した細胞をRTにおいて10~15分間インキュベートした後、5~20μLのCD4抗体またはIgGアイソタイプ対照(対照試料用)を添加し、次いで、試料を混合し、4Cにおいて30~60分間染色した。フロー緩衝液を添加して、総容量を250~300μLにし、次いで200~400×gにおいて5分間遠心分離した。上清をデカントし、250~300μLのフロー緩衝液を添加した後、200~400×gにおいて5分間遠心分離した。上清を再びデカントし、細胞を200~300μLのフロー緩衝液に再懸濁し、試料をマイクロ遠心チューブに移し、CD4陽性細胞におけるFITCシグナルをフローサイトメトリーによって解析した。椎間板由来細胞を伴わないCD4+活性化PBMCの平均FITCシグナルを算出し、この値を使用して、以下の式を使用して、椎間板由来細胞と共に培養した活性化CD4+PBMCおよび非活性化CD4+PBMCの相対増殖率を算出した:
相対増殖率=100-100×((1/(FITC-M_試料))/(1/(FITC-A_対照))
FITC-M試料=各試料において測定した全てのCD4+細胞の平均FITCシグナル
FITC-A_対照=椎間板由来細胞を伴わずに培養した活性化PBMCの全ての試料の平均FITC_Mシグナル
【0099】
統計解析
実験条件の各セットについて、平均と標準偏差(SD)または標準誤差とを算出した。複数の群を比較する場合、標準的な最小二乗回帰モデルを作成し、実験群のペアワイズ比較を、アルファ=0.05における事後最小二乗平均差スチューデントt検定(post hoc least squares means differences student’s t test)によって行った。
【0100】
数値流体力学方法
2つのシステム(Eppendorfによる0.25L DASboxおよびThermo Fisher ScientificによるHyPerforma 50リットル)の詳細なモデルを、ANSYS18.1によるSign Modeller、Meshing、Fluent&CFD Postを使用して作成した。ブレード移動を説明するために、移動参照ゾーンをインペラブレードの周囲に作成した。次いで、計算領域を複数の微小容量または要素に分割して、2つのタンク規模に対して「メッシュ」を作成した。要素の寸法は、モデル化されたプロセスの主特徴を、特に強乱流の領域(すなわち、インペラブレードの近傍)において捕捉することができるほど十分に小さく作成した。最初の粗いメッシュを作成した後、適用可能な場合は、メッシュをインペラブレードおよびプローブの周囲において改良した。最初は、各リアクターの粗いメッシュに平均して約90,000の要素が存在した。改良により、その数は440万の要素に上昇した。次いで、輸送現象の保存式を適用し、各要素について解いた。このプロセスを、各容器構成について、それぞれ7つの撹拌スピードにおいて実行した。
【0101】
1組の仮定および式を使用して、CFDモデルを作成した。略語の表を以下に提供する。大半の実施形態では、レイノルズ数(フロー特徴を説明する無単位係数)は乱流領域、すなわちレイノルズ数>2500(乱流)に維持される。
【0102】
【0103】
レイノルズ数(フロー特徴を説明する無単位係数)を乱流領域におけるもの、すなわちレイノルズ数>2500(乱流)であると仮定した。レイノルド数(Reynold number)は、式:
【数1】
を使用して算出した。
【0104】
入力した動力は、CFDにおいて、
P=πNM
により算出することができる。
【0105】
次いで、インペラ動力数Po(-)を算出することができる:
【数2】
【0106】
剪断速度算出は、具体的には、容器におけるエネルギー散逸に関する。インペラによって導入されたエネルギーが散逸する場合、このエネルギーは、高速のエネルギー散逸(すなわち高剪断)による悪影響を受け得る近くの流体および他の粒子(この場合、具体的にはタンパク質)によって消費される。剪断速度算出は、以下の通りに計算される:
容器平均乱流剪断速度:
【数3】
インペラ平均乱流剪断速度:
【数4】
式中、
【数5】
である。
【0107】
新たな培養モダリティの選択
細胞を、静置懸濁培養、波動型リアクター、水車、振盪三角フラスコ、および0.25L STRにおいて成長させた。静置培養において成長させた細胞は、典型的な椎間板由来細胞スフェアを生成した(
図1パネルA)。水車において成長させた細胞(1.16倍の相対倍加、SD 0.04)は、車輪に沿った細胞の長いシート状に形成され、容器の隅に蓄積した(
図1パネルB)。振盪三角フラスコにおいて成長させた細胞は、元々の静置培養対照と比べて同等の倍加を有したが(100RPM:1.04倍の相対倍加、SD 0.09;130RPM:1.07倍の相対倍加、SD 0.32)、スフェアは生成されず、細胞は容器壁に付着し、凝集塊を形成した(
図1パネルC)。細胞凝集は、波動型リアクターにおいて最も顕著であり、波動型リアクターでは細胞の大きな集積体が形成された(0.50倍の相対倍加、SD 0.31)(
図1パネルD)。
【0108】
0.25L STRでは、低RPM設定において成長させた細胞はスフェアを形成した。しかしながら、スフェアは、サイズがあまりにも大きくなり(
図1パネルE)、スフェアが溶液から沈降するという問題を引き起こし(
図1パネルF);中および高RPM設定は、限定的なスフェア形成をもたらした(
図1パネルG)。倍加は、元々の静置懸濁培養よりもSTRにおいて一貫して大きかった(低RPM:1.69倍の相対倍加、SD 0.42;中RPM:2.51倍の相対倍加、SD 0.00;高RPM:2.19倍の相対倍加、SD 0.18)。0.25L STRの低および中RPMでスフェアが形成され、相対倍加は静置懸濁培養対照の倍加の2倍であったため、およびスケール変更の可能性のために、さらなる最適化に関してSTRモダリティを選択した。
【0109】
撹拌モデリング研究
次に、22のDASboxを用いる実験を試行して、異なる撹拌戦略を評価した。培養の期間にわたり単一のRPMにおいて運転したリアクターは、容器壁への付着を限定しながらのスフェア成長を可能にしなかった。対照的に、培養の過程にわたりRPMを勾配させた場合、本発明者らは、小さなスフェアが運転の初めに成功裏に形成され、次いで沈降せずに成長することを確認した。勾配撹拌は、本発明者らの静置培養モダリティ由来のスフェアと外観上類似したスフェア形成を可能にした(
図1パネルH)。
【0110】
これらの試行から生成されたデータを、8つの異なる撹拌速度のCFDモデリングのために使用した。流体力学的パラメータは、RPMの関数として別様に変動することが見出された(
図2パネルA)。同じ規模だが異なるRPMにおいて、平均エネルギー散逸(m
2/s
3)と単位容量当たりの動力(W/m
3)とは、指数関数的な曲線を生じたが、最大剪断速度(1/s)、平均剪断速度(1/s)、容量平均速さ(m/s)および先端スピード(m/s)は、直線的な傾きを有した。各場合において傾きは異なり、これは、様々な流体力学的条件がRPMに基づいて等しくは拡大しないことを示した。様々な流体力学的条件を伴う22のDASboxリアクターからのアグリカン発現をモデル化することによって、本発明者らは、最大剪断速度(1/s)がアグリカン発現と最も高い相関関係を有することを見出した(p=0.012)(
図2パネルB)。
【0111】
様々な撹拌プロファイルのCFDモデルは、どの指標がSTRにおける細胞成長に影響を及ぼすかを示した(
図3パネルA)。前述のように、最大剪断速度(1/s)は、細胞倍加(p=0.018)と共にアグリカン産生(p=0.012)に影響を及ぼした(
図3パネルB)。また、細胞沈降は、細胞容量画分による影響を受け、これは、平均渦乱流散逸(p=0.024)によって予測されるように、細胞スフェアが溶液から沈降し得ることを意味した(
図3パネルC)。最後に、スフェアサイズは動的撹拌の使用による影響を受け、勾配対静的撹拌スキームの使用は、スフェアサイズと有意に相関した(p=0.033)(
図3パネルD)。これらの所見により、静置培養において成長させた細胞と同等の特性を有する椎間板由来細胞を作製し得ると本発明者らが予測する新たな設定値がDASboxについて同定された。
【0112】
プロセス調整可能モデリング
細胞倍加または効力の間の関係(様々な方法によって、例えばPCRを介して測定されたバイオマーカーレベルにおいて反映される)を、ドナー属性、培地属性およびプロセスパラメータを含む入力因子に関してモデル化し、確立した。これらのモデルは、11の測定した入力因子うち5つが倍加に影響を及ぼし、11の因子のうち11がPCR効力に影響を及ぼすことを決定した。回帰モデルおよび一連の2因子等高線プロファイラを使用して、2つの高リスクドナー属性のプロセスパラメータおよび2つの高リスクプロセスパラメータの許容される範囲を定義する(
図5)。ドナー属性の最高値と最低値の各組合せの解析は、ドナー変動の影響に対する洞察を与えた。本出願人らは、これらの洞察を使用して、多種多様な初期属性を有するドナーから所望の性能属性を有する細胞集団を得る方法、プロトコール、およびシステムを開発した。一部の実施形態では、特定の(またはある範囲の)性能属性を有する細胞を獲得するために培地およびプロセスパラメータを変更することは、「調整可能」と称される場合がある。
【0113】
図5は、本研究からの結果を示す。等高線プロファイラにおいて陰を付けた領域は、品質指標のそれぞれの失敗条件を示す。全ての条件にわたって陰の付いていない範囲は、許容される操作範囲を示す。
【0114】
細胞倍加は、記録され、アンダーソン-ダーリングの適合度検定を使用して正規分布することが見出された(p>0.079)。全てのSTR運転を、1回の実験において1つの因子を使用して以前に確立された範囲内において行ったにもかかわらず、本発明者らの多変量実験条件は、結果として、全てのSTR運転のうち44%が細胞倍加を有せず、84%がプロセス倍加要件を満たすことができなかった。84%の失敗条件を捕捉した以前の単変量解析の失敗は、複数の同種異系細胞株にわたるバイオプロセスを特徴付ける場合、多変量実験の必要性を確立する。初期撹拌スピードは、懸濁状態に細胞を維持することと、細胞スフェアの形成を可能にすることの両方-すなわち、細胞およびスフェアの溶液から沈降する能力を妨げるかまたは低下させると同時に、細胞スフェアを分解または分裂するのに十分な力を回避すること-を実現するように選択され得る。
【0115】
静置モダリティ対STRモダリティの比較
最小限の沈降または粘着を伴ってスフェアを生成できることを実証した撹拌勾配プロファイルを進展させ、0.25L STRと静置懸濁培養との間でのその後の継代ストリーム成長のために使用した(
図4A)。両方のモダリティにおいて、全ての細胞は特徴的なスフェアを形成した(
図4B)。スフェアサイズ、アグリカン発現、および細胞倍加は、新たなSTRプロセスと元々の静置懸濁方法との間において統計的有意差を呈しなかった。(
図4C)。フローサイトメトリーは、2つのモダリティの間において有意差を示さなかった(
図4D)。
【0116】
次いで、両方のモダリティ由来の細胞を、椎間板変性のインビボウサギモデルにおいて試験した。最初の損傷後、X線解析は、椎間板高指数が25~50%減少したことを示した。投薬後(
図5A)、椎間板高は、媒体群ではわずかに、細胞療法群ではより実質的に回復した(p=0.019)(
図5B)。いずれのプロセスを使用して成長させた細胞も、6週間後、インビボにおいて、シャムよりも有意に高い椎間板高を有した(p>0.05)。
【0117】
病理学者による組織学的解析は、シャムまたは媒体を投与された椎間板由来の髄核において異常に高い密度および細胞密度(cellularity)を同定し、これは、針穿刺損傷およびその後の変性によって引き起こされた水和の喪失によって生じると仮定された。対照的に、細胞療法を注射した椎間板は、これらのパラメータにおいてより正常な外観を有した(
図5C)。背側軟骨および骨棘形成が認められたが、処置条件とは関連せず、損傷モデルに起因する。細胞療法によって引き起こされたと考えられる炎症または毒性は、いずれも認められなかった。また、新たな媒体(元々の賦形剤を、1種除いて、異なる濃度において含有する)は、いかなる異常な所見ももたらさなかった。組織学的に、異常な組織(脂肪、骨など)は、細胞療法を伴う椎間板において認められず、X線を介して測定された椎間板高の構造的増加を説明し得る。
【0118】
大規模STRへのスケールアップ
モデル化された細胞容量画分は、先端スピード(m/s)または平均エネルギー散逸(m2/s3)に基づくスケールアップ戦略が、大部分の細胞の溶液からの沈降をもたらし得ることを示した。また、平均剪断(1/s)を使用するスケールアップは、スフェア形成を妨げ、細胞死を促進し得る極めて高いRPMをもたらし得る。単位容量当たりの動力(W/m3)、最大剪断速度(1/s)、および容量平均速さ(m/s)に基づくスケールアップは全て、スフェア形成を可能にすると同時に細胞沈降を限定し得る。これらの流体力学的条件のうち、最大剪断速度(1/s)は、アグリカン発現と最も強い相関関係を有したため、これを選択して50Lに拡大した。
【0119】
細胞を0.25Lおよび50L STRに継代し、成長させた(
図6A)。最大剪断速度(1/s)を複数の規模の間で維持した。スフェアは、0.25L規模と50L規模の両方において成功裏に形成された(
図6B)。50Lは同等の倍加(DASbox平均と比べて1.00の倍加)を有した(
図6C)。スフェアサイズもまた、2つのDASbox(相対スフェアサイズ1.00、SD 0.07)と50L(相対スフェアサイズDASbox 0.98、SD 0.44)との間で同等であった。最後に、フローサイトメトリーは、表面マーカーにおいて著しい差を見出さなかった(
図6D)。
【0120】
椎間板由来細胞の解析
5名の別々のドナー由来の細胞を静置フラスコ培養とSTRの両方において成長させた場合、結果として得られた前方散乱のヒストグラムは、方法間で異なった。注目すべきことに、STRにおいて生成された細胞は、サイズがより一様であり、より小さかった(
図11)。また、2つのモダリティの間で、コラーゲン1産生においては差が認められたが、総コラーゲン産生においては差が認められなかった(
図12)。モダリティの間で、アグリカンもsGAGも差を示さなかった(
図12)。他のECM分子を評価した場合、ルミカンとコラーゲン6A2の両方は、有意な発現およびモダリティの間の差を示した(
図12)。
【0121】
細胞は、細胞外マトリックスを産生するだけでなく、CSFE色素組込み法を使用してフローサイトメトリーを介して測定される抗炎症特性も有する(
図13)。活性化PBMC(血液細胞)の増殖は、椎間板由来細胞の存在下において抑制され、椎間板変性を処置するのに有益となり得る免疫調節効果を示す。
【0122】
複数の実施形態が開示されているが、依然として本発明の他の実施形態が、以下の詳細な説明から当業者に明らかになるだろう。明らかになるように、本発明は様々な明白な態様において変更が可能であり、全て、本発明の趣旨および範囲から逸脱しない。したがって、詳細な説明は、本質的に例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【0123】
本明細書に開示された全ての参考文献は、特許文献であれ非特許文献であれ、それぞれの全体が引用として含まれるように、参照によって本明細書に組み込まれる。参考文献と本明細書との間で矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先する。
【0124】
本開示はある程度詳細に記載されているが、本開示は例としてなされており、詳細または構造の変更は、添付の特許請求の範囲において定義される本開示の趣旨から逸脱することなく行うことができることが理解される。
【図】
【国際調査報告】