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特表2024-522734セルロースナノ結晶のワンポット生成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】セルロースナノ結晶のワンポット生成
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/02 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
C08B15/02 ZNM
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577446
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 CA2022050952
(87)【国際公開番号】W WO2022261763
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/211,291
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518264044
【氏名又は名称】ナノ - グリーン バイオリファイナリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムカルパイン、ショーン
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090BA34
4C090BC01
4C090CA34
(57)【要約】
精製セルロースからセルロースナノ結晶を生成する方法には、NaOHでセルロースを前処理してから、次亜ハロゲン酸塩溶液及び遷移金属触媒でセルロースを酸化する一段及び/又はワンポット反応が包含される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、セルロースから実質的に純粋な結晶ナノセルロース(crystalline nanocellulose:CNC)を生成する方法:
a.約9.0より大きいpHで前記セルロースを前処理する工程;
b.前記セルロースの非晶質領域を分解するために、次亜ハロゲン酸塩及び遷移金属塩触媒で前記セルロースを酸化して、実質的に純粋なCNCを生成する工程;
c.任意に、前記CNCを脱凝集する工程、及び
d.前記実質的に純粋なCNCを回収する工程。
【請求項2】
精製セルロースが、木材パルプ、麻パルプ又は穀類わらパルプなどの製紙パルプを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前処理工程が、セルロースを水性スラリに分散させることを含み、前処理に続いて、前記水性スラリに次亜ハロゲン酸塩を直接添加する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
次亜ハロゲン酸塩が、次亜塩素酸、次亜ヨウ素酸又は次亜臭素酸のナトリウム塩又はカルシウム塩などの、+1酸化状態のハロゲンを含有するオキシアニオンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
次亜ハロゲン酸塩が次亜塩素酸ナトリウムを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
スラリの前処理のpHが、約10.0より大きく、好ましくは約11.0より大きい、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前処理工程が、NaOHを、所望のpHに達するのに十分な量で添加することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
NaOHが、セルロース1g当たり約2.0mg~約20mg、例えば約6.0mg/g~約10.0mg/gの間の量で添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前処理工程が約30度~約95度の間の温度で行われる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酸化工程が、約30度~約95度の間の温度で行われる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
次亜ハロゲン酸塩が、精製セルロース1kg(乾燥重量)当たり約5mol~約20mol、好ましくは約10~約16mol/kgの間の濃度で添加される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
触媒が、銅、マンガン、鉄、亜鉛、又はコバルト、例えばCu、Mn、Fe、Zi又はCoの硫酸塩を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
水性スラリ中の触媒の濃度が、0.1mg/g~5mg/gの間、好ましくは約0.2mg/g~約1.0mg/gの間である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
回収された実質的に純粋なCNCの平均粒子径が約400nm未満、約300nm未満、約200nm未満又は約100nm未満である、粒径分布が単一ピークの方法。
【請求項15】
精製セルロースから実質的に純粋なCNCを生成する方法であって、一段及び/又はワンポット反応で行われ、
前記精製セルロースはアルカリで前処理され、次いで次亜ハロゲン酸塩及び遷移金属触媒で酸化される、方法。
【請求項16】
a.次亜ハロゲン酸塩が、次亜塩素酸、次亜ヨウ素酸又は次亜臭素酸のナトリウム塩又はカルシウム塩などの、+1酸化状態のハロゲンを含有するオキシアニオンを含み、かつ/又は
b.前処理のpHが9.0より大きいか、10.0より大きいか又は11.0より大きい、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
一段及び/又はワンポット反応において生成された実質的に純粋なセルロースナノ結晶(CNC)であって、精製セルロースがアルカリで前処理され、次いで次亜ハロゲン酸塩及び遷移金属触媒で酸化される、実質的に純粋なセルロースナノ結晶(CNC)。
【請求項18】
CNCの平均粒子径が、約400nm未満、約300nm未満、約200nm未満又は約100nm未満である、請求項17に記載のCNC。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノ結晶の、酸化反応及び遷移金属触媒を使用した生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノ結晶(cellulose nanocrystal:CNC)は、ウィスカ、ナノウィスカ、結晶ナノセルロース、又はナノ結晶セルロースとしても知られており、微結晶セルロース(microcrystalline cellulose:MCC)の生成と同様に、従来から酸加水分解を用いて生成されている。溶解グレードのアルファセルロース又はクラフトパルプなどの高純度セルロースは、強い鉱酸(64%硫酸など)で消化され、続いて、物理的に粒径が減少される。しかし、酸加水分解は、資本コスト及び運転コストが高く、収率が比較的低いため、費用がかかる。腐食性鉱酸の使用は、安全性及び環境の面で問題がある。また、硫酸濃度及び温度の厳密な制御要件があるため、バイオマス原料として乾燥パルプを使用する必要がある。
【0003】
CNCの物理的特性は、原料物質、消化に使用される酸の種類(塩酸又は硫酸)、電荷、及び寸法に強く影響される。酸消化に続いて、いくつかの機械的な粒径減少方法、例えば超音波処理、極低温粉砕、及び磨砕、並びに流動化などの均質化を用いることができ、この方法によっても収率が高められ得る。CNC粒子は、文献に報告されている可変粒径、すなわち幅5~70nm及び長さ100~約1000nmで産生される。
【0004】
CNCはまた、強い鉱酸の加水分解と、それに続く分画遠心法による分離を用いて産生され得、これにより、CNCの粒径分布が狭くなる(Bai他、2009年)。
【0005】
遷移金属触媒を伴い、改変されたフェントン反応又はハーバーワイス反応を伴い得る過酸化水素化学を用いて、結晶セルロースを生成することも知られている。しかし、そのような反応は長時間かかり、通常、微結晶セルロースといくつかのナノ粒径結晶との混合物が生成される可能性がある。その生成物は形態及び粒径画分が不均一であり、実質的に純粋なCNC、又は粒径分布が狭い他の生成物を生成するために、さらなる処理が必要である。
【0006】
また、酸化剤として次亜塩素酸塩を使用して結晶セルロースを生成することも知られている。溶解パルプなどの高品質セルロースは、第1のレドックス反応でMCCに変換され、次いで第2のレドックス反応後にCNCに変換される。この2工程の方法は、中間体MCCをアルカリ溶液中で洗浄することによって強化される。
【0007】
当技術分野では、セルロースナノ結晶を生成する改善された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
一態様では、本発明は、精製セルロースから実質的に純粋なセルロースナノ結晶(CNC)を生成する方法であって、
(a)約9.0超のpHで精製セルロースを前処理する工程、
(b)該セルロースの非晶質領域を分解するために、次亜ハロゲン酸塩及び遷移金属触媒で該セルロースを酸化して、セルロースナノ結晶を生成する工程、及び
(b)実質的に純粋なセルロースナノ結晶を回収する工程
を含む方法を、含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、前処理工程は、セルロースを水性スラリに分散させることを含み、前処理に続いて、次亜ハロゲン酸塩がセルローススラリに添加される。いくつかの実施形態では、前記スラリの前処理のpHは、約10.0超、好ましくは約11.0超である。好ましくは、NaOHが、所望のpHに達するのに十分な、セルロース1g当たり約2.0mg~約20mgであり得る量で、前記スラリに添加される。いくつかの実施形態では、NaOHの添加量は、約6.0mg/g~約10.0mg/gの間である。
【0010】
次亜ハロゲン酸塩をセルローススラリに添加することによって開始される酸化工程の前に、前処理を高温で約5~約60分間継続してもよい。次亜ハロゲン酸塩の添加により、酸化還元電位(oxidation-reduction potential:ORP)が約300mV超まで、好ましくは約400mV超まで上昇する。次いで、次亜ハロゲン酸塩が消費されて、ORPが100mV未満に急速に降下するまで、酸化反応は継続されてもよい。
【0011】
次亜ハロゲン酸塩の添加より先に、又は次亜ハロゲン酸塩の添加と共に、任意の時点で遷移金属触媒が添加される。いくつかの実施形態では、遷移金属触媒は、アルカリ前処理の前に、又はアルカリ前処理と共に添加される。
【0012】
いくつかの実施形態では、次亜ハロゲン酸の塩は、+1酸化状態のハロゲンを含有するオキシアニオンを含み、次亜塩素酸、次亜ヨウ素酸又は次亜臭素酸のナトリウム塩又はカルシウム塩を包含してもよい。好ましい実施形態では、次亜ハロゲン酸塩は、次亜塩素酸ナトリウムを含む。
【0013】
任意選択で、CNC生成物は、NaOHなどのアルカリ溶液で洗浄されてもよい。
【0014】
図面において、同様の要素には同様の参照番号が割り当てられている。図面は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに本発明の原理に重点が置かれている。加えて、図示された実施形態のそれぞれは、本発明の基本概念を利用した複数の可能な構成のうちの1つにすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の1つの方法の概略図である。
【0016】
図2】精製セルロースから実質的に純粋なCNCを生成するための一段、ワンポット法のpH及び温度を示すグラフである。
【0017】
図3】精製セルロースから実質的に純粋なCNCを生成するための一段、ワンポット法のORP及び温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、精製セルロースから結晶セルロースを生成する方法に関する。本明細書で使用される場合、「精製セルロース」には、リグニン又はヘミセルロースなどの非セルロース系成分が実質的に除去されており、セルロースをかなりの割合で含む任意の材料が包含される。精製セルロースは、リグノセルロース系バイオマスから調製され、セルロースを少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%含む。精製セルロースには、アルファセルロース、溶解グレードのパルプ、クラフトパルプ、又は他のパルプ、例えば製紙パルプ若しくは再生パルプが包含されてもよい。パルプは、機械的、熱機械的、化学的及び化学熱機械的な方法を包含する任意の既知の方法によって生成されてもよい。精製セルロースは、木材、麻、又は穀物わらなどの任意の適切なリグノセルロース系バイオマスから生成されてもよく、漂白されてもされてなくてもよい。精製セルロースは、乾燥形態で、水和状態で、又は水性懸濁液として使用されてもよい。本明細書で使用される場合、「精製セルロース」には、微結晶セルロース(MCC)などの結晶セルロース、又は、セルロースの非晶質領域が実質的に分解又は除去された他の形態のセルロースは包含されない。
【0019】
セルロースは、直鎖及び分枝鎖のD-グルコース単位を含む多糖である。直鎖は結晶領域内で平行構造に秩序化されているが、そのような秩序及び構造を欠く準結晶及び非晶質の領域が存在する。非晶質領域は酸加水分解を受けやすいため、結晶セルロースは、従来から、非晶質領域を消化し除去するための酸加水分解によって生成されている。結晶セルロースは、セルロース系材料に存在する非晶質セルロースの少なくとも一部が除去されて、結晶形態のセルロースの割合が大きくなっているセルロースを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、結晶セルロースは、結晶化度指数(crystallinity index:CI)が、反応前の精製セルロースのCIよりも少なくとも10%、20%、25%又は30%大きいセルロースであり、ここでCIは、それぞれの場合で同じ方法が用いられることを条件として、適切な任意の方法によって測定されるものである。結晶セルロースは、CIを測定するのに用いられる方法、及び材料の性質に応じて、CIが少なくとも約50%であり、好ましくは約60%より大きく、約70%より大きく、約80%より大きく、約90%より大きく、約95%より大きく又は約98%より大きい。結晶化度指数は、ピーク高さ法、ピークデコンボリューション法、非晶質減算法を用いたX線回折、又はNMR法によって測定され得る。(Park他、Cellulose crystallinity index:measurement techniques and their impact on interpreting cellulase performance、Biotechnol Biofuels.2010;3:10)。
【0021】
ピーク高さ法を用いたCI測定では、通常、他の方法よりもCIは高くなる。下記の表1に、上記の様々な方法を用いて、いくつかの既知のセルロース系材料及び市販のMCC製品の結晶化度指数を示す。
【表1】
【0022】
結晶セルロースは、微結晶セルロース(MCC)若しくはCNCの両方、又は両方を含む混合物を含み得る。本明細書で使用される場合、MCCは、少なくとも1つの寸法が約1ミクロンより大きいが約1mm未満、普通は約500ミクロン未満の結晶セルロース粒子を含む。MCC粒子は、細長くてもよく、直径が1ミクロン未満であってもよい。二段マルチポットレドックス化学を用いたMCC及びCNCの生成は、米国特許出願公開第20190040158号に記載されており、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0023】
CNCは、関連する全ての寸法が約1ミクロン未満である結晶セルロースを含む粒子である。CNC粒子は、通常、直径が約50nm未満であり、長さが約50nmより大きく約500nm未満である長尺の高アスペクト結晶である。好ましい実施形態では、CNC粒子は、平均長さが約100nm~約400nm、より好ましくは約100~約200nmの間であり、平均直径が約10nmである。CNC粒子は、通常、MCCよりもはるかに高いアスペクト比を有し、約10~約70の範囲であってもよい。
【0024】
一態様では、本発明は、次亜ハロゲン酸塩及び遷移金属触媒を使用し、精製セルロースを処理して実質的に純粋なCNCを生成する方法を含む。本明細書で使用される場合、「実質的に純粋なCNC」は、得られた結晶セルロースの50%、40%、30%、20%、10%又は5%(重量)未満が、CNCではないことを意味する。CNCの均一性を決定する1つの方法は、粒子径分布を決定することである。好ましくは、実質的に純粋なCNCは、約1ミクロン未満の単一ピークを示し、粒径が1ミクロンより大きい粒子がほとんどない。例えば、回収された実質的に純粋なCNCは、粒径分布が単一ピークであり得、平均粒子径が約約400nm未満、約300nm未満、約200nm未満又は約100nm未満未満である。粒子径及び分布は、動的光散乱又は準弾性光散乱などの既知の任意の手法によって測定され得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明は、図1に概略的に示す方法を含む実質的に純粋なCNCを産生する工程を含む。前記方法の主な工程は、精製セルロースを高いpHで、好ましくはNaOHで前処理し、続いてレドックス反応において次亜ハロゲン酸塩による酸化を行うことを含む。このレドックス反応では、次亜ハロゲン酸塩が還元される一方でセルロースが酸化される。この方法により、単一のレドックス反応段階でCNCが生成される。
【0026】
いくつかの実施形態では、前記方法は、反応物が単一の反応器に添加され、所望の生成物がその単一の反応器から回収され得る「ワンポット」方法を含んでもよい。
【0027】
次亜ハロゲン酸塩の添加と共に、又はレドックス反応より先の任意の時点で、遷移金属触媒が添加される。いくつかの実施形態では、遷移金属触媒は、アルカリ前処理の前又は間に添加される。
【0028】
精製セルロース出発材料は、好ましくは細かく分割され、水性スラリに懸濁されてもよく、水性スラリは、約1%~15%(w/v)、好ましくは約2%~約10%の間の乾燥重量の精製セルロースを含んでもよい。次いで、十分に分散するまでスラリを撹拌してもよく、前記セルロースは実質的に水和する。
【0029】
アルカリ前処理工程は、pHを約9.0より大きく、好ましくは10.0より大きく、より好ましくは約11.0より大きく、上昇させることによって行われる。好ましくは、NaOHが、所望のpHに達するのに十分な、セルロース1g当たり約2.0mg~約20mgであり得る量で、前記スラリに添加される。いくつかの実施形態では、NaOHの添加量は、約6.0mg/g~約10.0mg/gの間である。
【0030】
前処理は、例えば約40℃より大きく、好ましくは約50℃より大きく、より好ましくは約60℃より大きくなるまで加熱しながら、約5~約60分間継続してもよい。いくつかの実施形態では、アルカリ前処理は約75℃で行われる。pHは、混合物が加熱されるにつれて徐々に降下し得るが、10.0より大きいpHを維持するべきである。
【0031】
前記アルカリ性セルローススラリに次亜ハロゲン酸塩を添加することによって、酸化工程が開始される。前処理したセルロースを洗浄する必要はなく、次亜ハロゲン酸塩を前記アルカリ性スラリに直接添加してもよい。次亜ハロゲン酸塩の添加により、酸化還元電位(ORP)が約300mVより大きく、好ましくは約400mVより大きく、より好ましくは約500mVより大きくなるまで上昇する。いくつかの実施形態では、初期ORPは、約+500~約+1000mVの間であってもよい。前記混合物を加熱し続けてもよく、温度は約40℃~約95℃の範囲であってもよい。100℃を超えることは望ましくなく、反応は、より低い温度でより遅く進行する。したがって、いくつかの実施形態では、温度は、約50℃と95℃の間、好ましくは約65℃~約85℃の間であってもよい。
【0032】
水溶液中では、酸化還元電位(ORP)は、溶液が新しい種の導入によって変化し得る場合、溶液が電子を得るか又は失う傾向の尺度である。新しい種よりも高いORPを有する溶液は、新しい種から電子を得る傾向があり(すなわち、新しい種を酸化することによって還元される)、新しい種よりも低い(より負の)還元電位を有する溶液は、新しい種に対して電子を失う傾向がある(すなわち、新しい種を還元することによって酸化される)。水溶液のORP値は、該溶液と接触している不活性な検知電極と、塩橋によって該溶液に接続された安定な基準電極との間の電位差を測定することによって決定される。
【0033】
前記反応の長さは、少なくとも部分的に、反応速度及び次亜ハロゲン酸塩の元の量に依存する。ORPは、次亜ハロゲン酸塩が消費されたときにORPが急速に低下する時点まで、非晶質セルロースが分解されるにつれて上昇し得る。ORPは、約100mV未満、又は約0.0mV以下に急速に降下する。
【0034】
次亜ハロゲン酸塩の量は、精製セルロースの量及び/又は精製セルロースの純度に合わせてもよく、精製セルロース1kg当たり塩素5mol~約20mol(乾燥重量)の範囲であってもよい。いくつかの好ましい実施形態では、次亜ハロゲン酸塩の量は、約10~約16mol/kgの間である。セルロースが完全に酸化されると、過剰の次亜ハロゲン酸塩は溶液中の酸を酸化し続け、その結果、二酸化炭素及び水が生成する。過剰の次亜ハロゲン酸塩は、反応に悪影響を及ぼさないが、所望のCNC生成物の収率を低下させる可能性がある。
【0035】
いくつかの好ましい実施形態では、次亜ハロゲン酸塩は、約3%~約20%(w:v)の範囲の商業濃度で市販されている次亜塩素酸ナトリウムを含む。商業濃度8%では、比重が約1.11、有効塩素が約7.2%、NaOClが7.6%(w:w)である。商業濃度12%では、比重が約1.17、有効塩素が約10.4%であり、約10.9%(w:w)のNaOClを含む。
【0036】
塩素は20℃で約7000ppmまで水に可溶であり、水と反応し、次亜塩素酸(HOCl)が形成される。アルカリ溶液中では、次亜塩素酸が解離し、次亜塩素酸塩(OCl-)が形成される。塩素、次亜塩素酸、及び次亜塩素酸塩は、平衡状態で一緒に存在し、平衡状態はpH感受性である。
【0037】
一実施形態では、遷移金属触媒は、鉄、銅、マンガン、モリブデン、ロジウム、亜鉛又はコバルトなどの適切な任意の遷移金属を含んでもよく、前記方法の任意の時点で添加されてもよい。例えば、触媒は、前処理工程の開始時、その間若しくはその後に、又は、酸化工程の前若しくはその間に添加されてもよい。触媒は、溶液に溶解した塩として提供されてもよく、又は不溶性担体に付けて提供されてもよい。遷移金属触媒は、第二鉄(Fe3+)イオン、第二銅(Cu2+)イオン、第一マンガン(Mn2+)イオン又はコバルト(Co2+)イオン、例えば、硫酸第二鉄(Fe(SO)、硫酸第二銅(CuSO)又は硫酸第一マンガン(MnSO)を含んでもよい。前記触媒は、約0.01mMの最小濃度になるように添加されてもよく、好ましくは約0.045mM~0.67mMの間の濃度を有する。精製セルロースに対する遷移金属イオンの比率は、約0.1mg/g~約5mg/gの範囲、好ましくは約0.2mg/g~約1.0mg/gの間であってもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、レドックス反応相において、pHはゆっくり低下する一方で、ORPは同じ状態を維持するか、又はわずかに上昇する。一実施形態では、反応の終点は、ORPが突然大きく降下し、かつpHが約7.0未満、好ましくは約4.0と6.0の間に降下することによって示される。
【0039】
得られた生成物は実質的に純粋なCNCであり、好ましくは粒径分布が単一ピークであり、平均粒子径が約300nm、200nm又は100nm未満である。その実質的に純粋なCNCを洗浄し、水、好ましくは逆浸透(reverse osmosis:RO)水に再懸濁してもよく、任意選択で、機械的撹拌又は超音波処理などの物理的処理を行って、粒子を脱凝集させてもよい。
【0040】
任意選択で、実質的に純粋なCNC生成物をNaOHなどのアルカリ溶液で洗浄してもよい。いくつかの実施形態では、このアルカリ洗浄液は、例えば約30℃と90℃の間に加熱し、約5分~1時間保持してもよい。初期pHは、約10より大きいか、約11より大きいか又は約12大きくてよく、洗浄が進むにつれてわずかに低下する。次いで、CNC生成物を、例えば濾過によって回収してもよい。
【0041】
実質的に純粋なCNC生成物の品質は、以下の要素で評価されてもよい。得られた生成物の好ましい実施形態は、より高い品質特性を有する。
【表2】
【0042】
ゼータ電位は、コロイド粒子間の電位、及びそれらの分散媒体との相互作用の測定値である。これは、コロイド分散液の安定性の指標として用いられる。低い値(-30mV~+30mV)は、粒子同士が凝析及び/又は沈降する可能性のあることを示唆する。高い絶対値(-30mV未満又は+30mVより大きい)は、コロイドの電気的安定性が良好であることを表す。
【0043】
生成物に対して行われ得る他の測定としては、塩酸及び水酸化ナトリウムでの伝導度滴定による、CNCの表面のカルボキシル含有量の測定が挙げられる。単位はmmol/gである。カルボキシル含有量及び伝導度により、生成物純度についての代替的な尺度が提供され得る。
【0044】
チキソトロピー性又は非ニュートン挙動は、粒径分布が均一な高品質CNC懸濁液の特性である。好ましい実施形態はチキソトロピー性挙動を示し、アスペクト比が少なくとも約30~50の範囲であることを表す。
【0045】
理論に束縛されるものではないが、実質的に純粋なCNCを一段、ワンポットレドックス反応で得るという驚くべき成果は、酸化剤を添加する前のアルカリ前処理であると考えられる。任意の酸化剤を添加する前に、高いpHでの前処理工程が必要である。精製セルロースは前処理の後に洗浄する必要はなく、前処理したセルロースに酸化剤を直接添加してもよい。
【0046】
例-以下の例は、特許請求される本発明の態様を説明することを意図しているが、限定事項として明示的に列挙されていない限り、いかなる方法においても限定するものではない。
例1-例示的な生成方法
1.パルプ10gを600mLビーカーに入れ、水約450mLを添加する。メカニカルスターラを使用して、パルプを完全に分散させる。
2.触媒(0.0537M)1mLを添加する。
3.前記ビーカーをホットプレート上に置き、磁気撹拌する。pHプローブ、温度プローブ、及びORPプローブを前記ビーカーに入れ、データロガーを始動させる。
4.2%NaOH(0.510M)4mLを添加する。
5.ヒーターをオンにし、温度を75℃に設定する。
6.温度が75℃に達したら、8%NaOClを110mL(11.0g、すなわちパルプ1g当たり1.1g)添加する。これは塩素0.148mol、すなわちパルプ1kg当たり14.8molに相当する。
7.pH及びORPをモニタする。反応が完了し、ORPが急速に低下する。
8.混合物を5μmのフィルタ紙で脱水する。遊離水を除去したら、RO水100mLを添加する。
9.そのフィルタの濾滓をRO水に再懸濁する。総体積200mL。
10.30秒の超音波処理(Heilscher UIP 1000hd、100%振幅)で混合物を処理して、個々の粒子を粉砕する。
11.任意選択-0.5mLの50%NaOHを混合物に添加し、75℃に1時間かけて加熱する。工程8、9及び10を繰り返す。
この標準反応は以下の条件を有する。
【表3】
【0047】
これらの条件下で、前記反応は、生成物収率が61.9%であり、平均粒子径が107.7nm(標準偏差2.75nm)であった。
【0048】
例2-反応の進行
図2及び図3は、上記の例1に記載の反応のpH、ORP及び温度を示すグラフである。
【0049】
グラフはNaOHの時点で標識化されており、次亜塩素酸塩が添加された。NaOHを添加することにより、pHが約11.6に上昇している。混合物の温度が上昇するにつれて、pHは約10.5に降下している。次亜塩素酸塩を添加すると、ORPは約-100mVから約550mVまで高くなっている。反応が進行するにつれて、pHは低下し、ORPは上昇している。反応が完了すると、ORPは高いプラスからわずかにマイナスへ急速に変化している。反応時間は、次亜塩素酸塩の添加時から反応終了時までの時間から計測される。
【0050】
例3-様々なセルロース原料
以下の表は、CNCを生成するために使用した様々な種類のパルプについての説明である。
【表4】
【0051】
以下の表は、様々なバイオマス原料についての試験の結果である。
【表5】
【0052】
これらの結果により、前記方法が、様々な精製セルロース原料で有効であることが示されている。収率の差は、主に出発材料のセルロース含有量の差に起因している。溶解パルプは、通常、クラフトパルプ及び他の製紙パルプよりもセルロース含有量が高い。この結果、溶解パルプでは収率が高くなる傾向があり、バイオマスをCNCに変換するために必要な次亜塩素酸塩が少なくてすむ。
【0053】
例4-温度の影響
以下の表に、反応時間、収率及び粒子径に対する温度変化の影響を示す。他のパラメータは、上記の例1に記載の通りである。
【表6】
【0054】
反応時間は、温度によって最も影響を受ける。温度が低くなると、反応時間は長くなった。収率及び粒子径は、わずかに影響を受けるにすぎない。
【0055】
例5-NaOH添加量の影響
前記方法の開始時に添加するNaOHの量を変えた。他の全てのパラメータは一定に保持した。以下の表に、この変化の影響を示す。
【表7】
【0056】
NaOHの添加量は、反応時間にわずかに影響しただけであった。添加量を高くすると、収率が低くなりかつ粒子径が大きくなったことから、反応はわずかに低効率になったようである。
【0057】
例6-触媒添加量の影響
前記方法の開始時に添加するCuSO触媒の量を変えた。他の全てのパラメータは一定に保持した。以下の表に、この変化の影響を示す。
【表8】
【0058】
触媒の添加を多くすると反応時間は短くなったが、収率は低下し、平均粒子径は約0.006mmol/gより大きくなった。
【0059】
例7-触媒の種類
5つの異なる遷移金属を、それぞれ硫酸塩として使用した。他の試験により、選んだ塩は、実質的な影響のないことが実証されている。それらを全て、パルプ1g当たり0.006mmolの同じ添加量で添加した。以下の表に、各触媒の影響を示す。
【表9】
【0060】
コバルトを除き、全ての触媒は同様に機能した。コバルト触媒は反応の速度を高め、理論に束縛されるものではないが、非晶質分解に対して反応の選択性を低くし、その結果結晶セルロースの収率は低下したが、生成物の純度は高くなったと考えられる。銅、マンガン、鉄、及び亜鉛は、本質的に同じ様式で作用する。
【0061】
例8-任意選択のポストアルカリ洗浄
【0062】
実質的に純粋なCNC生成物のバッチ(乾燥質量11.5kg)を、ステンレス鋼のジャケット付き反応器中で、体積750Lの水に分散させる。50%水酸化ナトリウム1,000mLを懸濁液に添加し、これを75℃に加熱し、その温度で30分間保持する。初期pHは11.2であり、最終pHは10.0である。懸濁液の色は白色から暗褐色に変わる。次いで、混合物を膜ダイアフィルトレーションシステムにポンプ圧送する。ダイアフィルトレーションシステムにより、CNC生成物は、pH及び伝導度の平衡に達するまで逆浸透水で洗浄される。
【0063】
定義及び解釈
本発明の説明は、例示及び説明の目的で提示されているが、網羅的であること、又は開示された形態の本発明に限定されることを意図するものではない。本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、多くの改変形態及び変形形態が当業者には明らかであろう。本発明の原理及び実際の用途を最もよく説明するために、かつ、企図される特定の用途に適した様々な改変を伴う様々な実施形態について当業者が本発明を理解することができるように、実施形態を選び記載した。
【0064】
本明細書に添付の特許請求の範囲における全ての手段又は工程及び機能要素に対応する構造、材料、動作、及び均等物は、具体的に特許請求された他の請求要素と組み合わせて機能を実行するためのいかなる構造、材料、又は動作も包含することを意図している。
【0065】
本明細書における「一実施形態(one embodiment)」、「実施形態(an embodiment)」などへの言及は、記載された実施形態が特定の態様、特徴、構造、又は特性を包含し得るが、各実施形態がその態様、特徴、構造、又は特性を必ずしも包含するとは限らないことを表す。さらに、それらの語句は、必ずしもそうとは限らないが、本明細書の他の部分で言及された同じ実施形態を指し得る。さらに、特定の態様、特徴、構造、又は特性がある実施形態に関して記載されている場合、明示的に記載されているか否かにかかわらず、そのような態様、特徴、構造、又は特性を他の実施形態に関係させるか又は結合させることは、当業者の知識の範囲内である。言い換えれば、いかなる要素又は特徴も、2つの実施形態の間に明白な又は固有の不適合性がない限り、又は特に除外されない限り、異なる実施形態のいかなる他の要素又は特徴とも組み合わせられてもよい。
【0066】
特許請求の範囲は、任意選択のいずれかの要素を除外するように起草され得ることに、さらに留意されたい。したがって、この記述は、特許請求の範囲の要素の列挙又は「負」限定の使用に関連して、「単独で、」、「のみ、」などの排他的な用語を使用するための先行根拠としての役割を果たすことを意図している。「好ましくは(preferably)」、「好ましい(preferred)」、「好ましい(prefer)」、「任意選択で(optionally)」、「してもよい(may)」という用語及び同様の用語は、言及されている事項、条件又は工程が、本発明の任意選択の(必須ではない)特徴であることを表すために使用されている。
【0067】
単数形「1つの(a)、」、「1つの(an)、」、及び「前記(the)」は、文脈上別に明確に指示されない限り、複数形への言及を包含する。「及び/又は」という用語は、この用語が関係する事項のいずれか1つ、事項の任意の組合せ、又は事項の全てを意味する。
【0068】
当業者なら理解するように、試薬又は成分の量、分子量などの特性、反応条件などを表す数を包含する全ての数は近似値であり、全ての場合において「約」という用語によって任意選択で修飾されると理解される。これらの値は、本明細書の説明の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に応じて変えることができる。そのような値は、それぞれの試験測定値で認められる標準偏差から必然的に生じる変動性を、本質的に含むことも理解される。
【0069】
「約」という用語は、指定された値の±5%、±10%、±20%、又は±25%の変動を指し得る。例えば、「約50」パーセントは、いくつかの実施形態では、45~55%の変動を有し得る。整数による範囲については、「約」の語は、範囲の両端に示された整数より1又は2大きい整数及び/又は1又は2小さい整数を包含し得る。本明細書で別に示されない限り、「約」という用語は、組成物の機能性又は実施形態に関して等価である、列挙された範囲に近い値及び範囲を包含することを意図している。
【0070】
当業者が理解するように、あらゆる全ての目的のために、特に書面による説明を提供することに関して、本明細書に列挙された全ての範囲はまた、あらゆる全ての可能な部分範囲及びその部分範囲の組合せ、並びに前記範囲を構成する個々の値、特に整数値を包含する。列挙された範囲(例えば、重量パーセント又は炭素基)は、その範囲内の具体的なそれぞれの値、整数、小数、又は同一性を包含する。挙げられた範囲はいずれも、同じ範囲が少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、又は10分の1に分割されることを十分に記載しており、可能にするものと容易に認識され得る。非限定的な例として、本明細書で論じた各範囲は、下部の3分の1、中間の3分の1、及び上部の3分の1などに容易に分割され得る。
【0071】
また、当業者なら理解するように、「まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」、「より多い」、「以上」などの全ての言い回しは、列挙された数を包含し、これらの用語は、上で論じたように、引き続き部分範囲に分割され得る範囲を指す。同様に、本明細書に列挙された全ての比も、より広い比の範囲内にある全ての部分比を包含する。したがって、基、置換基及び範囲について列挙された具体的な値は、例示のためのものにすぎず、それらは、定義された他の値、又は基及び置換基について定義された範囲内の他の値を除外しない。
【0072】
例えばマーカッシュ群において、構成要素が共通の様式で一緒に群にされる場合、本発明は、まとめて挙げられた群全体だけでなく、群の各構成要素を個々に包含し、かつ主要な群の可能な全ての下位群を包含することも、当業者なら容易に認識するであろう。加えて、全ての目的のために、本発明は、主要な群だけでなく、群の構成要素の1つ又は複数が存在しない主要な群も包含する。したがって、本発明は、列挙された群の構成要素のうちのいずれか1つ又は複数が明示的に除外されることを想定している。したがって、開示されたカテゴリ又は実施形態のいずれにも条件が適用されてもよく、例えば、条件が明示的な否定的限定で用いられる場合、列挙された要素、種、又は実施形態のいずれか1つ又は複数は、そのようなカテゴリ又は実施形態から除外されてもよい。

図1
図2
図3
【国際調査報告】