(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】ダブルノックアウトナチュラルキラー細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240614BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240614BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240614BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240614BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577581
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2022066768
(87)【国際公開番号】W WO2022263682
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520179578
【氏名又は名称】オーエヌケイ セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】オドワイアー,マイケル エイモン ピーター
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
NK細胞およびNK細胞株は、それらの細胞障害性、増殖、代謝プロファイルおよび持続性を高めるように改変され、当該細胞およびその組成物は、癌の治療に用途を有する。改変されたNK細胞およびNK細胞株の製造は、CISH遺伝子およびCD38遺伝子の両方の発現をノックアウトする遺伝子改変によるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CISおよびCD38の機能が低下するように改変された、ナチュラルキラー(NK)細胞またはNK細胞株。
【請求項2】
前記改変が、CISHおよびCD38の発現をノックダウンまたはノックアウトするためのものである、請求項1に記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項3】
CIS機能および/またはCISH発現が、前記改変がなされていない同じNK細胞またはNK細胞株と比較して少なくとも50%低下している、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項4】
CIS機能および/またはCISH発現が、前記改変がなされていない同じNK細胞またはNK細胞株と比較して少なくとも90%低下している、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項5】
CD38の機能および/または発現が、前記改変がなされていない同じNK細胞またはNK細胞株と比較して少なくとも50%低下している、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項6】
CD38の機能および/または発現が、前記改変がなされていない同じNK細胞またはNK細胞株と比較して少なくとも90%低下している、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項7】
CISHおよびCD38の発現の両方がノックアウトされている、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項8】
IL-15を発現するように改変されている、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項9】
野生型TRAIL、またはTRAIL死受容体に対する親和性が上昇したTRAIL改変体を発現するようにさらに改変されている、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項10】
CD19、CD38、MUC-1、CLL-1、SLAMF7またはCD96に対するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するようにさらに改変されている、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項11】
治療に使用するための、先行する請求項のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株。
【請求項12】
癌の治療に使用するための、請求項11に記載の使用のためのNK細胞またはNK細胞株。
【請求項13】
前記癌がCD38発現癌である、請求項12に記載の使用のためのNK細胞またはNK細胞株。
【請求項14】
前記癌が、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病から選択される、請求項12または13に記載の使用のためのNK細胞またはNK細胞株。
【請求項15】
改変されたNK細胞またはNK細胞株を作製する方法であって、
a)CISH遺伝子およびCD38遺伝子の発現を同時にノックアウトする工程と、必要に応じて、
b)IL-15遺伝子の発現をノックインする工程と
を含む方法。
【請求項16】
請求項1から10のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株を患者に投与することによって癌を治療する方法。
【請求項17】
前記癌はCD38発現癌である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記癌が多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病から選択される、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から10のいずれかに記載のNK細胞またはNK細胞株を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(序論)
本発明は、ナチュラルキラー(NK)細胞およびNK細胞株を、より細胞傷害性の高い表現型を有するそれらの誘導体を産生するように改変することに関する。さらに、本発明は、改変されたNK細胞およびNK細胞株を製造する方法、当該細胞および細胞株を含む組成物、ならびに癌の治療における当該細胞、株および組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、免疫細胞は、標的細胞の死をもたらす免疫応答を誘発する前に、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を介して標的細胞が抗原を提示することを必要とする。これにより、MHCクラスIを提示しない癌細胞が免疫応答の大部分を回避することができる。
【0003】
しかし、NK細胞は、MHCクラスIの発現がない場合に、癌細胞を認識することができる。そのため、NK細胞は、癌に対する身体の防御において重要な役割を果たす。
【0004】
一方、特定の状況では、癌細胞は、NK細胞膜上の抑制性受容体に結合するリガンドの発現を通じて、NK細胞の細胞傷害活性を弱める能力を示す。癌に対する抵抗はこれらと他の因子との間のバランスを含み得る。
【0005】
この文脈において、細胞傷害性とは、免疫エフェクター細胞、例えばNK細胞が、(例えば細胞溶解性化合物を放出することにより、あるいは癌細胞膜上の受容体を結合し、かつ当該癌細胞のアポトーシスを誘導することにより)癌細胞死を誘発する能力を指す。細胞傷害性は、細胞溶解性化合物の放出を誘発するシグナルだけでなく、それらの放出を抑制するシグナルによっても影響を受ける。したがって、細胞傷害性の上昇は、上記のように、癌細胞がNKの細胞傷害性活性を弱める可能性が低い状態で、癌細胞のより効率的な死滅をもたらす。
【0006】
サイトカイン誘導性SH2含有タンパク質(CIS)の発現は、ある特定の成長サイトカインによって誘導され、ナチュラルキラー(NK)細胞においてシグナル伝達を行うインターロイキン-15(IL-15)の重要な負の調節因子である。CISは、CISH遺伝子によってコードされる。CIS発現は、低サイトカイン濃度に維持された場合の複数の癌細胞株に対する細胞増殖の制限および細胞傷害活性の低下に関連する。したがって、NK細胞におけるCISH遺伝子の欠失によってCIS発現をノックアウトすることは、癌細胞に対するNK細胞の細胞障害性に有益であることが最近報告されている(Zhuら、2020年“Metabolic Reprograming via Deletion of CISH in Human iPSC-Derived NK Cells Promotes In Vivo Persistence and Enhances Anti-tumor Activity” Cell: Vol. 27(2): pp. 224-237)。
【0007】
しかし、特に癌細胞に対する細胞障害性および持続性を向上させた、代替的でかつ好ましく改良された細胞ベースの治療法が必要とされている。加えて、改変された治療用形態で細胞をより容易に診療所に持ち込むことができるように、迅速かつ高効率な細胞のトランスフェクションを実現することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、より細胞障害性および/または持続性の高い表現型を有する癌細胞を標的とするNK細胞およびNK細胞株を提供することである。さらなる目的は、改変されたNK細胞およびNK細胞株を製造する方法、当該細胞または細胞株を含む組成物、ならびに、治療、具体的には癌の治療におけるそれらの使用を提供することである。より具体的な実施形態は、特定された癌の治療を提供することを目的とする。特定の実施形態は、NK細胞およびNK細胞株の2つ以上の改変を組み合わせて、改変された細胞の細胞障害性および持続性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、より細胞傷害性の高い表現型を有する改変されたNK細胞およびNK細胞株、ならびに当該細胞および細胞株を作製する方法が提供される。改変されたNK細胞およびNK細胞株の組成物、ならびに癌を治療するための当該組成物の使用も提供される。この文脈における細胞傷害性とは、上記のように、癌細胞の殺傷を指す。
【0010】
本発明は、CISおよびCD38の機能が低下するように改変されたNK細胞およびNK細胞株を提供する。
【0011】
本発明によれば、全般的かつ特異的に、改変されたNK細胞およびNK細胞株を用いて、癌(例えば、血液癌)を治療する方法がさらに提供され、改変されたNK細胞およびNK細胞株は、CISおよびCD38の機能が低下するように操作され、必要に応じて、1つ以上のチェックポイント抑制性受容体の発現の欠失に加えて、1つ以上のTRAILリガンドを発現し、1つ以上のキメラ抗原受容体を発現し、1つ以上の成長促進サイトカインを発現し、および/または1つ以上のFc受容体を発現するように操作されている。
【0012】
本発明によって特に治療可能な疾患としては、癌、固形癌および血液癌、より具体的にはCD38発現癌が含まれる。特に、ヒトの腫瘍や癌を治療することができる。本明細書における腫瘍への言及は新生物への言及を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、臍帯血由来NK細胞におけるCISHおよびCD38のノックアウトの達成に関係する経時変化を示す一連のグラフである。
【
図2】
図2は、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、(3)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞、および(4)CISHおよびCD38のダブルノックアウトを有するNK細胞のATP産生速度を示す。
【
図3】
図3は、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、(3)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞、および(4)CISHおよびCD38のダブルノックアウトを有するNK細胞の代謝プロファイルを示す。
【
図4a】
図4は、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞、(3)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、ならびに(4)CISHおよびCD38のダブルノックアウトのみを有するかまたはダラツムマブまたはエロツズマブモノクローナル抗体を追加したNK細胞を用いた、Incuyte(登録商標)による細胞傷害性アッセイ(
図4a)およびフローサイトメトリーによる細胞傷害性アッセイ(
図4b)の結果を示す。
【
図4b】
図4は、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞、(3)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、ならびに(4)CISHおよびCD38のダブルノックアウトのみを有するかまたはダラツムマブまたはエロツズマブモノクローナル抗体を追加したNK細胞を用いた、Incuyte(登録商標)による細胞傷害性アッセイ(
図4a)およびフローサイトメトリーによる細胞傷害性アッセイ(
図4b)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
したがって、本発明は、CISおよびCD38の機能が低下するように改変されたナチュラルキラー(NK)細胞またはNK細胞株を提供する。
【0015】
併せて、本発明のNK細胞およびNK細胞株は、(文脈上別段の定めがない限り)NK細胞とも称される。好ましくは、NK細胞はヒトNK細胞である。
【0016】
実施例において以下に詳細に記載されるように、NK細胞およびNK細胞株は、それらの細胞傷害活性、特に癌に対する細胞傷害活性を高めるように遺伝子改変されている。したがって、この改変は、CISHおよびCD38の発現をノックダウンまたはノックアウトするようなものであることが好ましい。
【0017】
好ましくは、CISの機能および/または発現は、改変がなされていない同じNK細胞またはNK細胞株(野生型NK細胞)と比較して少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも99%低下している。
【0018】
好ましくは、CD38の機能および/または発現は、改変がなされていない同じNK細胞またはNK細胞株(野生型NK細胞)と比較して少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%低下している。
【0019】
本発明に係るNK細胞は、CISおよびCD38の両方の発現がノックアウトされていることが特に好ましい。CISHおよび/またはCD38の遺伝子ノックアウトは、好ましくは、CRISPR遺伝子編集によるものである。
【0020】
本発明の好ましい特徴は、培養中の急速な成長および増殖に対する固有の能力が増大した、改変されたNK細胞およびNK細胞株を提供することである。これは、例えば、成長誘導サイトカインIL-2および/またはIL-15を過剰発現するように細胞をトランスフェクトすることにより実現することができる。さらに、この任意の変更により、継続的に成長培地にサイトカインを補充することに対する費用対効果の高い代替手段が提供される。これらの細胞は、治療適用前に、後続の処理(例えば、分裂能力を低下させる)のために、顕著な量の細胞を調製するための中間体として使用され得る。
【0021】
したがって、本発明の改変されたNK細胞は、IL-15を発現するようにさらに改変されてもよく、あるいは、NK細胞が既に一定量のIL-15を発現している場合は、IL-15を過剰発現するように改変されてもよい。
【0022】
本発明の大きな利点は、NK細胞の各改変が、共に作用して、効果、持続性および細胞障害性の高いエフェクター細胞を提供する方法にある。NK細胞におけるCISH発現をノックアウトすることにより、より障害性の高い表現型が有利となるように活性化受容体と抑制性受容体のバランスを改変するとともに、増殖が高まり、サイトカインが産生される一方で、NK細胞におけるCD38の発現をノックアウトすることにより、NAD+の利用可能性が高まり、それにより解糖が向上し、酸化ストレスに対する耐性が大きくなることが示されている。したがって、NK細胞におけるCISHおよびCD38の両方のノックアウトを組み合わせることにより、自身の標的(例えば、癌細胞)に対する障害性がより高く、より持続的であり、かつ代謝の回復が早いエフェクターNK細胞が提供される。
【0023】
CD38ノックアウト改変およびCISHノックアウト改変のそれぞれによって達成される利点は、共に作用して、癌治療に有効性の高いNK細胞を提供する。この主な理由は、改変されたNK細胞のエフェクター機能は、癌の微小環境における変化に対してそれほど脆弱ではないからである。この一例としては、サイトカインに富む微小環境、すなわちIL-15が容易に利用可能な場所では、CISHノックアウトはNK細胞の応答性を高める一方、サイトカインの乏しい微小環境、すなわちIL-15がほとんど利用できない場所では、CD38ノックアウトは、低栄養微小環境であることをよく示す酸化ストレスに対するNK細胞の耐性を高めるということが挙げられる。
【0024】
さらに、CISH/CD38ダブルノックアウトは、NK細胞のトランスフェクションを改善するのにも有利であることが示されている。本発明者らは、CRISPR/Cas9によってCD38/CISHノックアウトを多重化することで、CD38およびCISHの発現を別々に独立してノックアウトする場合と比較して、トランスフェクション処理が大幅に迅速化することを示した。これは、各改変が順次にではなく同時になされるからだけではない。CISHおよびCD38を同時にノックアウトすることにより、各標的をそれぞれ個別にノックアウトする場合と比較して、両方の標的に対するタンパク質発現がより迅速に低下することが観察されている。
【0025】
本発明の他の実施形態では、TRAILリガンドも発現または過剰発現するNK細胞が提供される。好ましくは、TRAILリガンドは変異体(改変体)TRAILリガンドである。得られるNK細胞は、TRAIL受容体への結合の増加を示し、その結果、癌、特に固形癌、特に卵巣癌、乳癌および結腸直腸癌、ならびに血液癌、特に白血病に対する細胞傷害性の上昇を示す。この組み合わされた活性を有するNK細胞は、癌転移の減少にも有効であり得る。
【0026】
TRAIL変異体/改変体は、「デコイ」受容体に対する親和性が、デコイ受容体への野生型TRAILの結合と比較して低い(または実質的に親和性を有しない)ことが好ましい。このようなデコイ受容体は、TRAILリガンドに結合するが細胞死を開始する能力を持たず、場合によっては死シグナル伝達経路に拮抗するように作用するクラスのTRAIL受容体を表す。変異体/改変体TRAILリガンドは、国際公開公報第2009/077857号に従って調製されてもよい。
【0027】
変異体/改変体は、TRAIL受容体(例えばDR4およびDR5)に対する親和性が別々に上昇していてもよい。野生型TRAILは、典型的には、DR4に対して>2nM、DR5に対して>5nM、デコイ受容体DcR1に対して>20nM(国際公開公報第2009/077857号、表面プラズモン共鳴により測定)、またはDR4に対して約50~100nM、DR5に対して1~10nM、DcR1に対して175~225nM(Truneh、A.ら、2000年;等温滴定熱量測定およびELISAで測定)のKDを有することが知られている。したがって、DR4に対する親和性の上昇は、それぞれ<2nMまたは<50nMのKDとして適切に定義され、DR5に対する上昇した親和性は、それぞれ<5nMまたは<1nMのKDとして適切に定義される。デコイ受容体DcR1に対する低下した親和性は、それぞれ、>50nMまたは>225nMのKDとして適切に定義される。いずれの場合も、TRAIL改変体/変異体によって示される親和性の上昇または低下は、野生型TRAILによって示されるベースライン親和性に対するものである。親和性は、野生型TRAILによって示される親和性と比較して、好ましくは少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも100%、より好ましくは少なくとも1000%上昇している。
【0028】
TRAIL改変体は、好ましくは、DR4、DcR1およびDcR2に対する親和性と比較して、DR5に対する親和性が上昇している。好ましくは、親和性は、DR4、DcR1およびDcR2のうち1つまたはそれ以上よりも、DR5に対して少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、あるいは1,000倍またはそれ以上でさえある。より好ましくは、親和性は、DR4、DcR1およびDcR2のうち少なくとも2つ、好ましくはそれらのすべてよりも、DR5に対して少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、あるいは1000倍またはそれ以上でさえある。
【0029】
TRAIL改変体は、好ましくは、野生型TRAILに対するその親和性と比較して、DR4およびDR5の一方または両方に対する親和性が上昇している。好ましくは、親和性は、野生型TRAILに対してよりも、DR4および/またはDR5に対して、少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、あるいは1000倍またはそれ以上でさえある。
【0030】
さらなる特定の実施形態は、TRAILデコイ受容体に対する親和性が低下しているかまたは親和性を有しない変異TRAILリガンドを発現するNK細胞を含む。さらなる特定の実施形態は、TRAILデコイ受容体に対する親和性が低下しているかまたは親和性を有さず、DR4および/またはDR5に対する親和性が上昇している変異TRAILリガンドを発現するNK細胞を含む。
【0031】
結合親和性は、当該技術分野で公知である任意の適した方法に従って測定されてもよい。好ましくは、結合親和性は、表面プラズモン共鳴、等温滴定熱量測定またはELISAを使用して測定される。
【0032】
特定の実施形態では、TRAIL改変体は、131、149、159、160、189、191、193、195、199、200、201、203、204、212、213、214、215、218、240、251、261、264、266、267、269および270からなる群から選択される位置において少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0033】
特定の実施形態では、TRAIL改変体は、G131R、G131K、R149I、R149M、R149N、R149K、S159R、G160E、Y189A、Y189Q、R191K、Q193H、Q193K、Q193S、Q193R、E195R、N199V、N199R、N199H、T200H、K201R、K201H、D203A、K204E、K204D、K204Y、K212R、Y213W、T214R、S215D、S215E、S215H、S215K、S215D、D218H、D218A、Y240A、K251D、K251E、K251Q、T261L、H264R、I266L、D267Q、D269A、D269HおよびH270Dからなる群から選択される少なくとも1つの置換を含む。
【0034】
特定の実施形態では、TRAIL改変体は、G131R、G131K、R149I、R149M、R149N、R149K、S159R、G160E、Y189A、Y189Q、R191K、Q193H、Q193K、Q193S、Q193R、E195R、N199V、N199R、N199H、T200H、K201R、K201H、D203A、K204E、K204D、K204Y、K212R、Y213W、T214R、S215D、S215E、S215H、S215K、S215D、D218H、D218A、Y240A、K251D、K251E、K251Q、T261L、H264R、I266L、D267Q、D269A、D269HおよびH270Dからなる群から選択される少なくとも2つの置換を含む。
【0035】
特定の実施形態では、TRAIL改変体は、G131R、G131K、R149I、R149M、R149N、R149K、S159R、G160E、Y189A、Y189Q、R191K、Q193H、Q193K、Q193S、Q193R、E195R、N199V、N199R、N199H、T200H、K201R、K201H、D203A、K204E、K204D、K204Y、K212R、Y213W、T214R、S215D、S215E、S215H、S215K、S215D、D218H、D218A、Y240A、K251D、K251E、K251Q、T261L、H264R、I266L、D267Q、D269A、D269HおよびH270Dからなる群から選択される少なくとも3つの置換を含む。
【0036】
特定の実施形態では、TRAIL改変体のアミノ酸置換は、G131R、G131K、R149I、R149M、R149N、R149K、S159R、G160E、Y189A、Y189Q、R191K、Q193H、Q193K、Q193S、Q193R、E195R、N199V、N199R、N199H、T200H、K201R、K201H、D203A、K204E、K204D、K204Y、K212R、Y213W、T214R、S215D、S215E、S215H、S215K、S215D、D218H、D218A、Y240A、K251D、K251E、K251Q、T261L、H264R、I266L、D267Q、D269A、D269H、H270D、T214R/E195R、T214R/D269H、Y189A/Q193S/N199V/K201R/Y213W/S215D、Y213W/S215D、N199R/K201H、N199H/K201R、G131R/N199R/K201H、G131R/N199R/K201H/R149I/S159R/S215D、G131R/R149I/S159R/S215D、G131R/N199R/K201H/R149I/S159R/S215D、G131R/D218H、Y189Q/R191K/Q193R/H264R/I266L/D267Q、T261L/G160E、T261L/H270D、T261L/G160E/H270DおよびT261L/G160E/H270D/T200H(「/」の使用は複数のアミノ酸置換を示す)からなる群から選択される。
【0037】
特定の実施形態では、TRAIL改変体のアミノ酸置換は、DR5に対する親和性が上昇した改変体に基づいて選択される。この種の置換は、D269H、E195R、T214R、D269H/E195R、T214R/E195R、T214R/D269H、N199V、Y189A/Q193S/N199V/K201R/Y213W/S215D、Y213W/S215D、D269AおよびY240Aからなる群から選択されてもよい。
【0038】
特定の実施形態では、TRAIL改変体のアミノ酸置換は、DR4に対する親和性が上昇した改変体に基づいて選択される。この種の置換は、G131R、G131K、R149I、R149M、R149N、R149K、S159R、Q193H、W193K、N199R、N199R/K201H、N199H/K201R、G131R/N199R/K201H、G131R/N199R/K201H、G131R/N199R/K201H/R149I/S159R/S215D、G131R/R149I/S159R/S215D、G131R/D218H、K201R、K201H、K204E、K204D、K204L、K204Y、K212R、S215E、S215H、S215K、S215D、D218H、K251D、K251E、K251QおよびY189Q/R191K/Q193R/H264R/I266L/D267Qからなる群から選択されてもよい。
【0039】
特定の実施形態では、TRAIL改変体のアミノ酸置換は、TRAILデコイ受容体に対する親和性が低下した改変体に基づいて選択される。この種の置換は、T261L、H270D、T200H、T261L/G160E、T261L/H270D、T261L/G160E/H270D、T261L/G160E/H270D/T200H、D203AおよびD218Aからなる群から選択されてもよい。
【0040】
TRAILまたはTRAIL改変体を発現する改変されたNK細胞を使用する癌の治療は、癌細胞上のTRAIL死受容体の発現をアップレギュレートすることができる作用物質を患者に投与することにより、必要に応じて改善される。この作用物質は、改変されたNK細胞の投与の前に、またはそれと組み合わせて、またはその後に投与されてもよい。しかし、作用物質は、改変されたNK細胞を投与する前に投与することが好ましい。作用物質は、癌細胞上のDR5の発現をアップレギュレートする。作用物質は、必要に応じて化学療法薬(例えば、プロテアソーム阻害剤。その1つはボルテゾミブである)であってもよく、癌上のDR5発現をアップレギュレートできる低用量で投与されてもよい。DR5誘導剤の他の例としては、ゲフィチニブ、ピペルロングミン、ドキソルビシン、コハク酸α-トコフェリルおよびHDAC阻害剤が挙げられる。
【0041】
本発明の特定の実施形態では、チェックポイント抑制性受容体の機能が低下するかまたは存在しないようにさらに改変されたNK細胞が提供される。1つ以上のチェックポイント抑制性受容体遺伝子がノックダウン/アウトされたNK細胞が製造されてもよい。好ましくは、これらの受容体は、特定のチェックポイント抑制性受容体である。さらに好ましくは、これらのチェックポイント抑制性受容体は、TIGIT、CD96(TACTILE)、CD152(CTLA4)、CD223(LAG-3)、CD279(PD-1)、CD328(SIGLEC7)、SIGLEC9および/またはTIM-3のうちの1つ以上あるいはそれらのすべてである。他の実施形態では、1つ以上の抑制性受容体シグナル伝達経路が、ノックアウトされるかまたは機能の低下を示し、その結果、再び抑制性受容体機能が低下または欠如する、NK細胞が提供される。例えば、SHP-1、SHP-2、および/またはSHIPによって媒介されるシグナル伝達経路が、細胞の遺伝子改変によってノックアウトされる。
【0042】
NK細胞の活性化に続いてチェックポイント抑制性受容体が発現するため、チェックポイント抑制性受容体の機能は、他の抑制性受容体よりも低下させることが好ましい。KIRファミリーの大部分であるNKG2AやLIR-2などの通常のまたは「古典的な」抑制性受容体は、MHCクラスIに結合し、そのため、自己標的化の問題の軽減に主に関与する。したがって、好ましくは、チェックポイント抑制性受容体はノックアウトされる。本発明に係るこれらの受容体の機能の低下または欠如は、癌細胞が免疫エフェクター機能を抑制することを防ぐ(さもなければ、受容体が完全に機能的であった場合に起こり得る)。したがって、本発明のこれらの実施形態の重要な利点は、癌細胞によるそれらの細胞傷害性活性の抑制の影響を受けにくいNK細胞にあり、結果として、それらは癌治療に有用である。
【0043】
本明細書で用いる場合、抑制性受容体への言及は、免疫エフェクター細胞(例えばNK細胞)の原形質膜上に発現される受容体を一般に指す。その相補的リガンドに結合すると、細胞内シグナルを生じ、当該免疫エフェクター細胞の細胞傷害性を低下させる原因となる。これらの抑制性受容体は、免疫エフェクター細胞の「休止」状態と「活性化」状態との両方で発現し、多くの場合、細胞および身体の組織に対する細胞傷害性反応を抑制する「自己寛容」メカニズムを免疫系に提供することに関連している。例としては、NK細胞上で発現し、身体の健康な細胞上で発現するMHCクラスIを認識する抑制性受容体ファミリー「KIR」がある。
【0044】
また、本明細書で用いる場合、チェックポイント抑制性受容体は、通常、上記の抑制性受容体のサブセットと見なされる。しかし、他の抑制性受容体とは異なり、チェックポイント抑制性受容体は、免疫エフェクター細胞(例えばNK細胞)の長期活性化および細胞傷害性の間、より高いレベルで発現する。この現象は、例えば炎症部位での慢性細胞傷害性を抑制するのに有用である。例としては、チェックポイント抑制性受容体PD-1、CTLA-4、CD96が挙げられ、これらはすべてNK細胞上で発現する。
【0045】
本発明では、MHCクラスIに結合する抑制性受容体の機能を低下させないことが好ましい。
【0046】
本発明の改変された細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)も発現してもよい。膜結合CARは、典型的には、標的配列(一般に抗体由来の一本鎖フラグメント(scFv))を含み、かつ、通常、ヒンジ(立体障害の問題を克服するための)、スペーサー、膜貫通エレメントおよびシグナル伝達エンドドメインを含む。
【0047】
CARは、MUC-1、CD38、CD96、CLL-1、SLAMF7およびCD19から選択される抗原に結合する標的領域を好ましくは含む。
【0048】
異常にグリコシル化されたMUC-1に結合することが知られている配列の例を標的配列として使用することができ、当該配列は、5E5、SM3およびHMFG2を含み、本発明のCARに適切に組み込まれる。好ましくは、CARはHMFG2配列を含む。しかし、異常にグリコシル化されたMUC-1を標的とするためのさらなる配列を、従来技術で公知であるスクリーニング方法により同定してもよく、親和性の高い配列を用いて、MUC-1を標的とするCAR-NK細胞を製造することができる。
【0049】
CD38に結合することが知られる配列の例を標的配列として使用してもよく、当該配列は、ダラツムマブ、イサツキシマブおよび国際公開第2018/104562号に開示されるものを含み、本発明のCARに適切に組み込まれる。CD38 CARは、CD38に対するダラツムマブの親和性と比較して、CD38に対する親和性が低下していること好ましい。好ましくは、この低下した親和性は、ダラツムマブの親和性と比較して、少なくとも10%、少なくとも25%、より好ましくは少なくとも45%低下している。好ましくは、さらに、この低下した親和性は、ダラツムマブの親和性と比較して、90%以下、75%以下、より好ましくは55%以下である。
【0050】
本発明のNK細胞で使用されるCARは、1つ以上のNK細胞共刺激ドメイン、例えば、CD28、CD134/OX40、4-1BB/CD137、CD3ζ/CD247、DAP12またはDAP10を含むか、またはそれに連結されてもよい。したがって、標的細胞上のその抗原へのCARの結合は、改変されたNK細胞における細胞傷害性シグナルを促進する。
【0051】
本発明に係るNK細胞はまた、分裂不能となるように処理されるかまたは前処理されてもよい。これにより、患者の循環における寿命が例えばT細胞と比較してさらに短くなり、上記のリスクがさらに軽減されるとともに、患者の腫瘍を形成する傾向が減少するかまたはなくなる。
【0052】
本発明のNK細胞は、治療、特に患者の癌の治療に使用するためのものである。癌は、適切には、CD38を発現する癌である。好ましくは、癌は、骨髄腫、白血病または固形癌である。
【0053】
NK細胞耐性癌は、概して、当技術分野で周知である(Pardoll, D.M. Immunity (2015) 42: 605-606)。NK細胞を介した殺傷に対する癌細胞の感受性は、いくつかの要因によって決定される。癌細胞のリガンドと相互作用するNK細胞の膜受容体を介して大部分が送達される正と負のシグナルのバランスが存在する。多くの場合、NK細胞による殺傷に対して癌が感受性であるか抵抗性であるかを決定するのは、これらの受容体に対するリガンドの発現のバランスである(Yokoyama、W.M. Immunol Res (2005) 32: 317-325)。
【0054】
NK媒介性細胞傷害性に対する癌感受性は、一般には次のカテゴリーのうち1つに分類されると考えられている。すなわち、高耐性、耐性、感受性、および高感受性である。実験室においては、細胞傷害性アッセイによって、NK細胞媒介性細胞傷害性に対する感受性について癌細胞がスクリーニングされ得る。次いで、各カテゴリーは、特定のエフェクター:ターゲット(E:T)比で、特定の時間、NK細胞への曝露中に殺滅された癌細胞の割合に対応するものとして理解される。
【0055】
本発明の例では、最大5:1のE:T比で最大15時間NK細胞とインキュベートした後に癌細胞の≦25%が死滅すれば、癌はNK細胞媒介殺傷に対して高耐性であるとされる。好ましくは、NK細胞はKHYG-1細胞である。
【0056】
本発明の例では、最大5:1のE:T比で最大15時間NK細胞とインキュベートした後に癌細胞の≦50%が死滅すれば、癌はNK細胞媒介性殺傷に対して耐性であるとされる。好ましくは、NK細胞はKHYG-1細胞である。
【0057】
本発明の例では、最大5:1のE:T比で最大15時間NK細胞とインキュベートした後に癌細胞の>50%が死滅すれば、癌はNK細胞媒介性殺傷に対して感受性であるとされる。好ましくは、NK細胞はKHYG-1細胞である。
【0058】
本発明の例では、最大5:1のE:T比で最大15時間NK細胞とインキュベートした後に癌細胞の≧75%が死滅すれば、癌はNK細胞媒介性殺傷に対して高感受性であるとされる。好ましくは、NK細胞はKHYG-1細胞である。
【0059】
遺伝子改変されたNK細胞の調製では、改変は、細胞がNK細胞に分化する前に行われてもよい。例えば、多能性幹細胞(例えばiPSC)を遺伝子改変した後、分化させて、細胞傷害性が上昇した遺伝子改変されたNK細胞を製造してもよい。
【0060】
本発明の任意の特徴は、上記のNK細胞およびNK細胞株にさらなる改変を提供することを含み、例えば、Fc受容体(サブタイプおよび誘導体を含む、CD16、CD32またはCD64であり得る)は、細胞の表面で発現される。使用時、これらの細胞は、抗体で被覆された癌細胞の認識の増加と細胞傷害性応答の活性化の改善とを示し得る。
【0061】
本発明のさらなる任意の特徴は、身体の特定の標的領域によりよくホーミングするように、改変されたNK細胞およびNK細胞株を適合させることを含む。本発明のNK細胞は、特定の癌細胞位置に対して標的されてもよい。血液癌の治療のための好ましい実施形態では、本発明のNKエフェクターは、骨髄にホーミングするように適合されている。特定のNK細胞は、フコシル化および/またはシアル化によって骨髄にホーミングするように改変される。これは、適切なフコシルトランスフェラーゼおよび/またはシアリルトランスフェラーゼをそれぞれ発現するようにNK細胞を遺伝改変することによって行われてもよい。腫瘍部位へのNKエフェクター細胞のホーミングの増加は、腫瘍血管系の破壊、例えばメトロノーム化学療法によるか、または血管新生を標的とする薬物(Meleroら、2014年)を使用して、癌血管を介してNK細胞浸潤を正常化することによっても可能とされ得る。
【0062】
本発明は、上述のようなNK細胞を含む組成物をさらに提供する。
【0063】
本発明は、
a)CISH遺伝子の発現をノックアウトする工程と、
b)CD38遺伝子の発現をノックアウトする工程と、必要に応じて、
c)IL-15遺伝子の発現をノックインする工程とを好ましくは含む、上述のようなNK細胞を作製する方法をさらに提供する。
【0064】
好ましくは、CISH遺伝子およびCD38遺伝子は、同時にノックアウトされる。
【0065】
本明細書において上記および以下に記載される改変されたNK細胞、NK細胞株およびそれらの組成物は、癌、特にヒトの癌の治療(例えば、血液細胞の癌または固形癌の治療)に適している。NK細胞およびその誘導体は、好ましくはヒトNK細胞である。ヒトの治療には、ヒトNK細胞を使用することが好ましい。本発明はまた、有効量のNK細胞またはそれを含む組成物を投与することを含む、ヒトの癌を治療する方法を提供する。
【0066】
必要とする患者に活性剤およびそれらの組み合わせを送達するための様々な投与経路が当業者に知られている。改変されたNK細胞の投与は、例えば腹腔内経路を介するなど、全身的または局所的であり得る。他の実施形態では、活性剤はより直接的に投与される。したがって、投与は腫瘍内に直接行うことができ、特に固形腫瘍に適している。
【0067】
NK細胞は、一般に、本発明の方法、使用および組成物に適していると考えられている。本明細書の特定の例で使用される細胞のように、NK細胞は、癌細胞株から得られたNK細胞であり得る。有利には、NK細胞(好ましくは、(例えばそれを死滅させかつ/または分裂不能にすることにより)その腫瘍形成性を低下させるように処理された)が血液癌細胞株から得られ、血液癌を治療するために本発明の方法で使用することができる。
【0068】
癌由来のNK細胞を治療的使用に対してより許容できるものとするために、当該細胞は、一般に、患者に腫瘍を形成する傾向を低減するかまたは無くすように、何らかの方法で処理または前処理される。実施例で使用される特定の改変されたNK細胞株は、分裂不能にされているため安全である。すなわち、当該細胞株は、照射されており、その殺傷能力を保持するが、約3~4日以内に死亡する。したがって、特定の細胞および細胞株は、例えば照射の結果として、増殖することができない。本明細書の方法で使用する潜在的なNK細胞の処理としては、それらがインビボで分裂して腫瘍を形成するのを防ぐための照射、および腫瘍形成性を低下させるための遺伝子改変(例えば、インビボで細胞が分裂して腫瘍を形成するのを防ぐように活性化され得る、自殺遺伝子をコードする配列を挿入することによる)が挙げられる。自殺遺伝子は、次にその遺伝子を発現している細胞で細胞死を引き起こす外因性(例えば循環性)作用物質によってオンとされ得る。さらなる選択肢は、治療の特定のNK細胞を標的とするモノクローナル抗体の使用である。例えば、CD52は、KHYG-1細胞上で発現し、このマーカーへのモノクローナル抗体の結合は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)およびKHYG-1細胞死を引き起こす。
【0069】
Suckら、2006により公開された文献で説明されているように、癌由来のNK細胞および細胞株は、Gammacell 3000 Elanなどの照射装置を使用して容易に照射できる。セシウム137の線源を用いて放射線の線量が制御され、例えば1Gy~50Gyの線量応答曲線を用いて、上昇した細胞傷害性の利益を維持しつつ細胞の増殖能を排除するための最適線量を決定することができる。これは、放射線の各線量が投与された後に細胞傷害性について細胞をアッセイすることによって実現される。
【0070】
照射されたNK細胞株を養子細胞免疫療法に使用することには、十分に確立された自系またはMHC適合性のT細胞アプローチを上回る大きな利点がある。第一に、増殖性の高いNK細胞株を使用することで、改変されたNK細胞株の増殖がより容易に、かつ商業レベルで達成できるようになる。次に、細胞を患者に投与する前に、改変されたNK細胞株の照射を行うことができる。これらの照射された細胞は、それらの有用な細胞傷害性を保持するものであるが、寿命が限られており、よって、改変されたT細胞とは異なり、長期間にわたって循環して永続的な副作用を引き起こすことはない。
【0071】
さらに、同種の改変されたNK細胞およびNK細胞株を使用することで、患者のMHCクラスI発現細胞は、自己NK細胞傷害性応答に対して可能であるのと同じようにはNK細胞傷害性応答を抑制することができなくなる。癌細胞殺傷に同種のNK細胞および細胞株を使用することは、前述のGVL効果の恩恵を受ける。そして、T細胞とは異なり、同種のNK細胞および細胞株はGVHDの発症を刺激しないため、養子細胞免疫療法による癌の治療の好ましい選択肢ともなる。
【実施例】
【0072】
さまざまな癌細胞に対してより高い細胞傷害活性を示すように改変されたNK細胞の製造に関連して、本発明をより詳細かつ具体的に説明する。
【0073】
抑制性受容体機能のノックアウト/ノックダウンおよびTRAIL/変異体TRAILのノックインの関連例については、国際公開第2017/017184号(同文献の内容は参照により本明細書に援用される)を参照する。
【0074】
CD38 CAR発現の関連例については、国際公開第2018/104562号(同文献の内容は参照により本明細書に援用される)を参照する。
【0075】
MUC-1 CAR発現の関連例については、国際公開第2019/101998号(同文献の内容は参照により本明細書に援用される)を参照する。
【0076】
以下、添付図面を参照し、本発明を具体的な実施形態で説明する。
【0077】
実施例1-NK細胞におけるCISH/CD38のダブルノックアウトのための設計プロトコル
CISおよびCD38の機能を除去したNK細胞を以下のように調製する。gRNA構築物を、NK細胞中のCIS(CISH)およびCD38をコードする内因性遺伝子を標的とするように設計および調製する。次いで、CRISPR/Cas9ゲノム編集を使用して、標的遺伝子をノックアウトする。
【0078】
CISH遺伝子およびCD38遺伝子の両方について合計3つのgRNA候補を選択し、一次増殖NK細胞におけるそれらの切断効率を求める。MaxCyte(登録商標)GTを用いて、細胞にgRNA:Cas9リボ核蛋白質(RNP)複合体をエレクトロポレーションし、次いで、フローサイトメトリーによってCISHおよびCD38のノックアウトを分析する。インビトロミスマッチ検出アッセイを用いて、gRNAの切断活性も求める。T7E1エンドヌクレアーゼは、不完全にマッチしたDNAを認識して切断し、CRISPR/Cas9トランスフェクションおよび非相同末端結合(NHEJ)の後に、親のCISH遺伝子/CD38遺伝子を変異遺伝子と比較することを可能にする。
【0079】
一次NK細胞、NK細胞株またはCD34+前駆細胞(例えば、後続のNK細胞への分化およびNK細胞の増殖のためのiPSC)においてCISH/CD38をノックアウトするためのさらなる実験のために、ノックアウト効率が最も高いgRNAを選択する。CISH/CD38のノックアウトは、フローサイトメトリーによるアッセイによって決定する。
【0080】
実施例2-NK細胞におけるCISHおよびCD38のノックアウト
(材料)
1.臍帯血由来濃縮NK細胞。
2.NK-MACS培地、プレミアムグレードIL-15、抗CD38-PE、抗CD3 VioBlue、抗CD56VB515、Inside Stain Kit、MACSquant 16(Miltenyi Biosciences)。
3.ヒト血清アルブミン(シグマ)。
4.CISH、CD38およびCas9組換えタンパク質用の遺伝子ノックアウトキットV2(Synthego)。
5.Cloudz(商標)細胞活性化キット(R&D systems)。
6.抗CISH抗体(D4D9)(Cell Signaling Technology)。
7.エレクトロポレーション緩衝液(EB緩衝液)、OC-100X2処理アセンブリ(PA)、MaxCyte ATxエレクトロポレーションシステム(Maxcyte)。
8.ソル・コーテフ(ヒドロコルチゾン)(Pfizer)。
9.フィコール(Cytiva)。
【0081】
(プロトコル)
臍帯血単核細胞(CBMC)をフィコール法によって単離し、10%ヒト血清アルブミン、CD2/NKp46ミクロスフェア(Cloudz(商標))、抗CD3、抗CD16、IL-15およびヒドロコルチゾンを含むNK-MACS培地中で15日間濃縮した。
【0082】
抗CD3抗体および抗CD56抗体で染色することによるFACS(MACSquant 16)分析によって、NK細胞の90%を超える濃縮が確認された。CBNK細胞を、Maxcyteエレクトロポレーション緩衝液(EB緩衝液)を用いて、300×gで10分間、2回洗浄し、75μlのEB緩衝液中で5百万個の細胞を取り出した。
【0083】
マルチガイドRNA(CISH、CD38用sgRNA)の凍結乾燥混合物を、ヌクレアーゼを含まないTE緩衝液中に溶解させて200μMのストックを得た。1200pmolのsgRNAを160pmolのCas9と7.5:1の比率で混合した。EB緩衝液を用いて容積を25μlに調整し、室温にて10分間インキュベートし、RNP複合体を形成した。
【0084】
25μlのRNP複合体を75μlのCBNK細胞と混合し、OC-100X2処理アセンブリに移した。NK5プロトコルを使用して細胞をエレクトロポレーションし、室温にて15分間静置した。
【0085】
以下の4つの異なる条件を試験した。a)CD38 RNPのみ、b)CISH RNPのみ、c)CD38 RNP+CISH RNP、およびd)対照としてRNP無し。
【0086】
エレクトロポレーションした細胞を、10%のABおよび20ng/mLのIL-15を含むNK-MACS培地に入れてGrex6ウェルプレートに移し、37℃にて5%CO2インキュベータ中で13日間インキュベートした。次いで、CD38ノックアウトおよびCISHノックアウトについて3日~4日おきに細胞を分析した。抗CD38による染色を用いてCD38の表面発現を分析し、Inside Stain Kitおよび抗CISH抗体を用いてCISHの細胞内発現を分析した。
【0087】
NK細胞におけるCD38およびCISHの両方の発現のノックアウトが成功したことが観察された。
【0088】
NK細胞は、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、および(3)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞と比較して、優れた持続性および優れた代謝プロファイルを示した。これらの知見は、CISH/CD38ダブルノックアウトNK細胞が多くのシナリオ、特に癌治療において有利であることを示している。
【0089】
さらに、
図1から理解されるように、CISH/CD38ノックアウトを成功させるためのトランスフェクション効率は、これらの遺伝子ノックアウトをCRISPR/Cas9を介して多重化することによって高められる。
【0090】
CD38/CISH多重ノックアウトを用いたトランスフェクションからたった1日で、CISH+NK細胞の数は、CISHノックアウトのみを受けた対照NK細胞におけるものと比較して、およそ50%よりも大きく低減した。この差は、8日目までにおよそ30%低減し、その後、13日目までにおよそ15%再び低減した。
【0091】
CD38発現の場合、CD38/CISH多重ノックアウトを用いたトランスフェクションからたった8日で、CD38+NK細胞の数は、CD38ノックアウトのみを受けた対照NK細胞におけるものと比較して、およそ15%よりも大きく低減した。この差もまた、13日目までにおよそ同じとなることが分かった。
【0092】
実施例3-CISH/CD38ダブルノックアウトNK細胞の代謝プロファイルの改善
実施例2の材料およびプロトコルに従い、CISH/CD38ダブルノックアウトを有するNK細胞を調製した。
【0093】
図2から分かるように、CISH/CD38ノックアウトを有するNK細胞は、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、および(3)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞と比較して、向上したATP産生速度を示した。
【0094】
図3を参照すると、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、(3)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞、および(4)CISH/CD38ノックアウトを有するNK細胞のそれぞれの細胞外酸性化速度(ECAR)および酸素消費速度(OCR)が測定されている。
図3は、CISH/CD38ダブルノックアウトを有するNK細胞は、好気性(ミトコンドリア)呼吸活性(その尺度はOCRである)および解糖系呼吸活性(その尺度はECARである)がいずれもより高いため、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、および(3)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞よりもエネルギーの高い代謝プロファイルを示すことを示している。
【0095】
実施例4-CISH/CD38ダブルノックアウトNK細胞の細胞傷害性の改善
実施例2の材料およびプロトコルに従い、CISH/CD38ダブルノックアウトを有するNK細胞を調製した。
【0096】
図4aおよび
図4bから分かるように、CISH/CD38ノックアウトを有するNK細胞は、Incuyte(登録商標)による細胞傷害性アッセイ(
図4a)およびフローサイトメトリーによる細胞傷害性アッセイ(
図4b)において細胞障害特性を示した。多発性骨髄腫標的細胞に対するNK細胞のみの細胞傷害性、またはダラツムマブモノクローナル抗体もしくはエロツズマブモノクローナル抗体を追加した場合の細胞傷害性を、示された3:1のエフェクター:ターゲット(E:T)比で、異なるNK細胞を用いて分析した。試験は、(1)未改変の対照NK細胞、(2)CD38ノックアウトのみを有するNK細胞、(3)CISHノックアウトのみを有するNK細胞、(4)CD38/CISHノックアウトを有するNK細胞、および(5)NK細胞の非存在下(標的細胞、対照)を使用して行った。CD38/CISHノックアウトを有するNK細胞は、顕著な細胞障害性を示した。
【0097】
したがって、本発明は、細胞障害性が上昇したNK細胞およびNK細胞株、ならびに癌治療におけるこれらの細胞の使用を提供するものである。
【国際調査報告】