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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】虚血再灌流傷害の処置または予防
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/194 20060101AFI20240614BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240614BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K31/194
A61K9/08
A61P9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577694
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 GB2022051436
(87)【国際公開番号】W WO2022263792
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】2108594.9
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221578
【弁理士】
【氏名又は名称】林 康次郎
(72)【発明者】
【氏名】クリーグ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー,マイケル ピー
(72)【発明者】
【氏名】プラグ,ハイラン エイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076CC11
4C076CC45
4C076DD25Z
4C076DD41Z
4C076DD42Z
4C076DD43Z
4C076DD51Z
4C076FF61
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA36
4C206KA12
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA36
(57)【要約】
本発明は、虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための組成物に関する。特に、本発明は、対象における虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための、式(I)の塩:
を含む組成物であって;前記組成物が約4.0~約7.0のpHを有し、X、Y、n、m、Z、AおよびBが本明細書で定義されるとおりである、組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための、式(I):
【化1】
〔式中、
Xは負電荷、HまたはC-C12アルキルから選択され;
YはH、OHまたはC-C12アルキルから選択され;
nは0または1であり;
mは0または1であり;
Zは1以上の薬学的に許容されるカチオンであり;
AおよびBは独立して、塩の電荷が0となるような任意の整数である〕
の塩を含む組成物であって;
約4.0~約7.0のpHを有するものである、組成物。
【請求項2】
前記組成物が約5.5~約6.5のpHを有するものである、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記組成物が1以上の緩衝剤をさらに含む、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
1以上の緩衝剤が、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、炭酸、炭酸塩、炭酸水素塩またはα-ケトグルタル酸から選択されるものである、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記組成物が注入用溶液の形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記組成物が抗凝血剤および/または溶血剤をさらに含むものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記式(I)の塩において、nが0であり、mが0である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記式(I)の塩がマロン酸塩である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
1以上の薬学的に許容される賦形剤、担体または希釈剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
虚血再灌流傷害が卒中虚血再灌流傷害である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
虚血再灌流傷害が心筋虚血再灌流傷害である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
虚血が臓器移植中に生じるものである、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記使用が、組成物を虚血組織に直接投与することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記使用が、再灌流の発生前に前記組成物を対象に投与することを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記使用が、再灌流の時点で前記組成物を対象に投与することを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
前記使用が、前記組成物をボーラスで投与することを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記使用が、血流中の障壁を除去するために使用または意図される処置と組み合わせて組成物を投与することを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
血流中の障壁を除去するために使用または意図される処置が、抗凝血剤の適用または溶血剤の適用による血栓溶解療法ならびに/または血栓除去術から選択される、請求項17に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
血流中の障壁を除去するために使用または意図される処置が血栓除去術であり、前記組成物が血栓除去術中に虚血組織へ投与される、ものである、請求項17または18に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
対象における虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための併用療法であって、(1)約4.0~約7.0のpHを有するpH低下成分、および(2)請求項1、7または8のいずれか一項で定義される式(I)の塩を含む、併用療法。
【請求項21】
前記pH低下成分が1以上の緩衝剤を含む、請求項20に記載の併用療法。
【請求項22】
式(I):
【化2】
〔式中、
Xは負電荷、HまたはC-C12アルキルから選択され;
YはH、OHまたはC-C12アルキルから選択され;
nは0または1であり;
mは0または1であり;
Zは1以上の薬学的に許容されるカチオンであり;
AおよびBは独立して、塩の電荷が0となるような任意の整数である〕
の塩を含む組成物を含む単位投与形態または静脈内点滴用液体バッグであって、
ここで前記組成物が約4.0~約7.0のpHを有するものであり;
単位投与形態の総体積が約20ml未満であり;
静脈内点滴用液体バッグの総体積が約250mlであり;
好ましくは、前記組成物が請求項2~9のいずれか一項で定義されるとおりである、
単位投与形態または静脈内点滴用液体バッグ。
【請求項23】
(1)血栓除去術デバイスおよび(2)請求項22に記載の単位投与形態または式(I):
【化3】
〔式中、
Xは負電荷、HまたはC-C12アルキルから選択され;
YはH、OHまたはC-C12アルキルから選択され;
nは0または1であり;
mは0または1であり;
Zは1以上の薬学的に許容されるカチオンであり;
AおよびBは独立して、塩の電荷が0となるような任意の整数である〕
の塩を含む組成物を含むキットであって、
ここで前記組成物が約4.0~約7.0のpHを有するものであり;
好ましくは、前記組成物が請求項2~9のいずれか一項で定義されるとおりである、
キット。
【請求項24】
対象における虚血再灌流傷害を処置または予防する方法であって、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物または請求項22に記載の単位投与形態を対象に投与することを含む、方法。
【請求項25】
虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための医薬の製造のための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物または請求項22に記載の単位投与形態の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血再灌流(IR)傷害の処置または予防に使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血再灌流傷害は、世界的に重大な健康問題である。心筋梗塞、虚血性脳卒中、待機的外科手術、心機能停止後の蘇生、傷害または医療行為による局所虚血および再灌流障害ならびに臓器保存および移植後の再灌流傷害が、このような傷害の多くの原因である。
【0003】
最近の推計(Feigin VL et al. Global and regional burden of stroke during 1990-2010: findings from the Global Burden of Disease Study 2010. Lancet. 2014; 383 (9913): 245-254)では、脳卒中の世界の有病率は1年あたり1000人に5人であり、脳卒中後の3300万人の生存に相当する。2010年は590万人が脳卒中に関連する死に見舞われ、脳卒中は、早期死亡および障害により失われた健康な年数の合計に相当する、障害調整生存年(DALY)の1億200万を超える喪失をもたらす。
【0004】
数十年間、脳卒中治療の選択肢はほとんど進歩しておらず、それに応じて死亡/罹患率の減少もほとんど進歩していない。
【0005】
現在、虚血性脳卒中のための特定の治療法は、血栓除去術や血栓溶解療法によって虚血発作を停止させる以外に存在しない。虚血組織の救済には、虚血時間を最小限にすることが重要である。
【0006】
虚血発作が停止されると、虚血組織への血液の再灌流それ自体が傷害性であり、脳卒中性虚血/再灌流(IR)傷害をもたらす。
【0007】
心筋梗塞(MI)およびその結果生じるポンプとしての心臓の機能不全は、先進国における第一の死因である(Davidson SM et al. Multitarget Strategies to Reduce Myocardial Ischemia/Reperfusion Injury. Journal of the American College of Cardiology. 2019; 73: 89-99)。一次的経皮的冠動脈形成術(PPCI)による虚血心筋の早期再灌流は、心筋細胞死を予防し、心臓を救済するために必須である(Murphy E et al. Mechanisms underlying acute protection from cardiac ischemia-reperfusion injury. Physiological Reviews. 2008;88:581-609)。しかしながら、心臓組織への酸素の再導入は、虚血/再灌流(IR)傷害による心筋細胞死を加速させる(Kalogeris T et al. Cell biology of ischemia/reperfusion injury. International Review of Cell and Molecular Biology. 2012;298:229-317)。初期の梗塞から生存する患者の数は増加しているが、IR傷害はMI後心不全の主な原因である(Kloner RA et al. New and revisited approaches to preserving the reperfused myocardium. Nature Reviews Cardiology. 2017; 14: 679-693)。
【0008】
移植される臓器は、レシピエントに移植される前に何度も、かつ頻繁に長時間の全体的な温冷虚血に曝露されるため、虚血再灌流傷害は臓器移植中にも多い(Martin JL et al. Succinate accumulation drives ischaemia-reperfusion injury during organ transplantation. Nature Metabolism. 2019;1:966-974)。多くの国における現在の法律はドナーへの薬物投与を禁止しているため、移植される臓器に対する損傷を最小限にするための薬理学的に介入する機会は限定されている。
【0009】
虚血再灌流傷害の明白な有害作用にもかかわらず、IR傷害を低減するための薬理学的介入はまだ開発途上である。
【0010】
歴史的には、IR傷害は、再灌流する虚血組織からの活性酸素種(ROS)の形成を生じさせる、無作為かつ無秩序な一連の傷害性事象と考えられていた。
【0011】
最近、ミトコンドリア内の代謝機構がIR傷害の中心であることが示された。クエン酸回路の代謝物であるコハク酸が虚血中に組織に蓄積されることが判明した。再灌流中、このコハク酸は、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)によって急速に酸化され、ミトコンドリア複合体IによりROS産生の急上昇が起こる。このROSパルスは、カルシウム調節不全およびATP減少とともに、再灌流障害に至る傷害性事象のカスケードを開始させる。この再灌流は、虚血のみによる損傷以上の損傷をもたらす。したがって、虚血性脳卒中または心筋梗塞により引き起こされるような、虚血後の再灌流傷害を低減する薬物の開発は臓器損傷を低減する治療機会を提供する。
【0012】
SDHは、虚血および再灌流後の酸化中のコハク酸形成における重要な酵素である。虚血再灌流傷害は虚血中のコハク酸の蓄積を妨げる(したがって、再灌流中に酸化される利用可能なコハク酸が少なくなる)ことにより、または再灌流中にその酸化を直接的に阻害する(例えば、SDHを阻害する)ことにより、コハク酸代謝を変化させ、回復させ得ると考えられる。
【0013】
WO2016/001686号に記載のとおり、マロン酸ジメチル(DMM)は、虚血前および虚血中に投与されるとき、保護作用を示すことが以前に示された。しかしながら、図8に示すとおり、マロン酸の放出が緩徐過ぎるため、再灌流時またはその直前に注入されるとき、DMMは保護作用を示さないことが分かった。
【0014】
急速に虚血組織に拡散し、加水分解し、マロン酸を放出する調整されたマロン酸プロドラッグは、再灌流の臨床的に適切な時点で投与されると保護作用を示すことが判明している(Prag HA et al., Prodrugs of Malonate with Enhanced Intracellular Delivery Protect Against Cardiac Ischemia-Reperfusion Injury In Vivo)。驚くべきことに、マロン酸自体(ジナトリウム塩、マロン酸ジナトリウム(DSM)として投与される)もまた、小動物エクスビボおよび大型動物モデルにおいて心筋IR傷害に対して保護作用を示す(Valls-Lacalle L et al. Succinate dehydrogenase inhibition with malonate during reperfusion reduces infarct size by preventing mitochondrial permeability transition. Cardiovascular Research. 2016; 109: 374-384)。マロン酸はジカルボン酸であり、血液中の生理学的pH(すなわち、pH約7.4)で2つの負電荷を有し、生体膜を通過する取り込みが阻害されるため、DSMによるこの心臓保護は予想外のものである。しかしながら、大量の過剰なマロン酸にもかかわらず、インビトロでのマロン酸依存的な効果を確認するためには高濃度かつ長時間のインキュベートが必要である。IR傷害の処置におけるDSMの取り込みのメカニズムおよび作用、故に臨床への応用の可能性は、以前は不明であった(Kula-Alwar D et al. Targeting Succinate Metabolism in Ischemia/Reperfusion Injury. Circulation. 2019 Dec 10;140(24):1968-1970)。
【0015】
したがって、虚血組織の再灌流後のIR傷害の程度をさらに低減する医薬組成物、虚血組織を選択的に標的化できる医薬組成物、および虚血組織により迅速に取り込まれる医薬組成物に対する臨床的な必要性は、明らに満たされていない。
【発明の概要】
【0016】
上記の観点から、虚血再灌流傷害の処置および予防に使用するための改善された組成物を開発する必要性が依然として存在する。
【0017】
理想的には、このような化合物および組成物はまた、虚血事象、例えば血栓を化学的または機械的に除去ことを意図した療法とともに投与され得る。
【0018】
本発明は、マロン酸塩を含む特定の塩の細胞への取り込みが、低pHで劇的に増加するという驚くべき発見に起因するものである。低pHでマロン酸の取り込みを引き起こすと、細胞におけるミトコンドリア酸素消費が実質的に低下し、損傷の開始に最適な条件である再灌流の重要な最初の数分間、コハク酸の酸化が遅くなることが発見された。この発見は、故に、虚血再灌流傷害に対する処置を劇的に改善する機会を提供する。
【0019】
マロン酸の細胞内送達は、より低い(より酸性の)pHで、細胞中で大きく増加する(図1)。pH7.4と比較したpH6のマロン酸取り込みの増加は、およそ15倍である。このように、酸性pHは、マロン酸が原形質膜を通過し、細胞へ侵入する能力を劇的に増加させる。さらに、エクスビボのランゲンドルフ灌流心実験法において、マロン酸の取り込みはまた、より中性条件で注入した時と比較して、低pHで注入した時に大きく増加した(図2)。膜を通過するマロン酸取り込みの増加においてpHが重要であることを確認するために、我々は、種々のpHでの細胞におけるマロン酸取り込みを、マロン酸の修飾体である、3-アミノ-3-オキシプロパン酸(3A3OPA)と比較した。3A3OPAは低pHでマロン酸と同じように反応することはできず、3A3OPAで達成された取り込みは、低pHと中性pHの両方で同様のレベルであった(図5)。全体として、ここに示されたデータは、虚血組織のpHを人為的に低下させることによりマロン酸の細胞内送達が劇的に増加するという発見を裏付けるものである。虚血組織によるこのマロン酸の選択的取り込みは、組織内に蓄積するマロン酸塩の濃度を大きく増加させ、これが再灌流によるIR傷害の程度を低減させる。
【0020】
本発明は特に、対象における虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための、式(I):
【化1】
〔式中、
Xは負電荷、HまたはC-C12アルキルから選択され;
YはH、OHまたはC-C12アルキルから選択され;
nは0または1であり;
mは0または1であり;
Zは1以上の薬学的に許容されるカチオンであり;
AおよびBは独立して、塩の電荷が0となるような任意の整数である〕
の塩を含む組成物であって、
約4.0~約7.0のpHを有する、前記組成物に関する。
【0021】
好ましくは、上記式(I)の塩は以下で定義される式(II)の塩であり、より好ましくはマロン酸塩である。
【0022】
本発明はまた、対象における虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための併用療法であって、前記併用療法が、(1)約4.0~約7.0のpHを有するpH低下成分および(2)本明細書に記載の式(I)の塩を含む、併用療法に関する。
【0023】
本発明はまた、上で定義される組成物を含む単位投与形態であって、ここで単位投与形態の総体積は約20ml未満である、単位投与形態に関する。このような単位投与形態は、血栓除去処置の一部として閉塞血栓の近位または遠位および虚血組織に直接投与されるとき、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】C2C12筋芽細胞におけるマロン酸取り込みのpH依存性を示す。C2C12細胞をpH8、7.4または6でマロン酸とインキュベートし、LC-MS/MSにより細胞内のレベルを測定した(平均+/-S.E.M.、n=4)。
【0025】
図2】ランゲンドルフ灌流心におけるマロン酸取り込みのpH依存性を示す。マロン酸(5mM)をランゲンドルフ灌流マウス心臓にpH7.4または6で注入した。心臓を洗浄して血管内のマロン酸を全て除去し、LC-MS/MSによりマロン酸レベルを測定した(平均+/-S.E.M.、n=4)。
【0026】
図3】ランゲンドルフ灌流心におけるマロン酸取り込みの虚血依存性を示す。0分、5分、10分、または20分間の虚血後、ランゲンドルフ灌流マウス心臓をマロン酸(5mM)で再灌流した)。心臓を洗浄して血管内のマロン酸を全て除去し、LC-MS/MSによりマロン酸レベルを測定した(平均+/-S.E.M.、n=4~5)。
【0027】
図4】インビボでの虚血中のマロン酸取り込みの心臓保護作用への効果を示す。マウスを左前方降順冠動脈結紮心臓発作モデル(30分間虚血、2時間再灌流)に供し、虚血の発生前または初期再灌流中にマロン酸を注入した。トリフェニルテトラゾリウムクロライドを用いて心臓を染色することにより、梗塞サイズを決定した(平均+/-S.E.M.、n=5~8)。
【0028】
図5】C2C12細胞によるマロン酸の取り込みの増加倍率を示す。C2C12細胞をpH7.4または6でマロン酸または3-アミノ-3-オキシプロパン酸で処理し、LC-MS/MSによりそれらの細胞内レベルを測定した(平均+/-S.E.M.、n=6)。
【0029】
図6】食塩水対照に対する、代表的な化合物であるマロン酸ジナトリウムの虚血性脳卒中後の梗塞体積への影響を示す。
【0030】
図7】食塩水対照に対する、代表的な化合物であるマロン酸ジナトリウムの、虚血性脳卒中および再灌流中の様々な時点での脳血流(CBF)への影響を示す。
【0031】
図8】食塩水対照に対する、比較化合物であるマロン酸ジメチルの、虚血性脳卒中後の梗塞体積への影響を示す。
【0032】
図9】組織および細胞による代表的な化合物であるマロン酸ジナトリウムのインビトロ取り込みを示す。
【0033】
図10】マウス組織による代表的な化合物であるマロン酸ジナトリウムのインビボ取り込みを示す。
【0034】
図11】インビボ急性虚血性脳卒中マウスモデルを示す。
【0035】
図12】急性中大脳動脈(MCA)閉塞におけるコハク酸レベルのMALDIイメージを示す。
【0036】
図13】マウス脳における卒中中のコハク酸の蓄積を示す。
【0037】
図14】ヒト脳における卒中中のコハク酸の蓄積を示す。
【0038】
図15】マウス卒中モデルからの脳組織における虚血コハク酸レベルを示す。
【0039】
図16】マウス卒中モデルからの脳組織における複合体I活性を示す。
【0040】
図17】再灌流前5分から5分後までのマロン酸ジナトリウムの投与後のマウス脳組織におけるマロン酸レベルを示す。
【0041】
図18】再灌流前5分から5分後までのマロン酸ジナトリウムの投与後のマウス脳脊髄液(CSF)におけるマロン酸レベルを示す。
【0042】
図19】急性虚血マウス卒中モデルにおける梗塞サイズへのマロン酸ジナトリウムの影響を示す。
【0043】
図20図14に示すデータを生成するために使用される脳を示す。淡い脳領域は梗塞領域を表す。
【0044】
図21】急性虚血性脳卒中により血栓溶解を受けた患者からの静脈血における血漿コハク酸レベルを示す。
【0045】
図22】H9c2筋芽細胞におけるマロン酸取り込みのpH依存性を示す。
【0046】
図23】種々のpH値でのマロン酸投与後のH9c2筋芽細胞におけるコハク酸レベルを示す。
【0047】
図24】一定のpH値の範囲で、DSM(5mM)と15分間インキュベートしたC2C12細胞におけるコハク酸レベルを示す。
【0048】
図25】20分間の虚血ならびに5mM DSMを用いるおよび用いない1分間の再灌流後の、ランゲンドルフ灌流心における乳酸レベルを示す。
【0049】
図26】30分間の虚血後、再灌流時に8mg/kg DSM、pH4酸対照または8mg/kg、pH4のマロン酸製剤の100μlボーラスで処置したマウスLADMIモデルにおける梗塞サイズを示す。
【0050】
図27】5mM DSM±乳酸(50mM;Lac)またはMCT1阻害剤と共にpH6で5分間灌流したマウスランゲンドルフ灌流心におけるマロン酸レベルを示す。
【0051】
図28】再灌流時にビークル(エタノール/食塩水中のCremphor EL)±シクロスポリンA(10mg/kg)またはDSM(160mg/kg)の注入で処置したマウスLADモデルにおける梗塞サイズを示す。
【0052】
発明の詳細な説明
特に、本発明は、対象における虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための、式(I):
【化2】
の塩を含む組成物であって、約4.0~約7.0のpHを有する、前記組成物に関する。
【0053】
式(I)の塩において、Xは負電荷、H、またはC-C12アルキル基から選択される。好ましくは、Xは負電荷、HまたはC-C10アルキルから選択される。より好ましくは、Xは負電荷、HまたはC-Cアルキルから選択される。
【0054】
式(I)の塩において、YはH、OHまたはC-C12アルキルから選択される。好ましくは、YはH、OHまたはC-C10アルキルから選択される。より好ましくは、YはH、OHまたはC-Cアルキルから選択される。
【0055】
式(I)の塩において、nは0または1である。
【0056】
上記式(I)の塩において、mは0または1である。
【0057】
上記式(I)の塩において、Zは1以上の薬学的に許容されるカチオンである。各Zは薬学的に許容されるカチオンであるが、但し、式(I)の塩の正味電荷は0である。例えば、Zは、+1の電荷、+2の電荷、または+3の電荷を有するカチオンを含み得る。好ましくは、Zは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Cu、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Pb2+、Ni2+、Ag、Sn2+、Cr3+、Zn2+、Al3+、NH および/またはトリフェニルホスホニウムから選択されるカチオン;またはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Pb2+、Ni2+、Ag、Sn2+、Cr3+、Zn2+、Al3+、NH および/またはトリフェニルホスホニウムから選択されるカチオン;またはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Pb2+、Ni2+、Sn2+、Cr3+、Zn2+、NH および/またはアルキルトリフェニルホスホニウムから選択されるカチオン;またはLi、Na、K、Mg2+、Ca2+、Zn2+、NH および/またはトリフェニルホスホニウムから選択されるカチオンを含む。
【0058】
カチオンがトリフェニルホスホニウムカチオンであるとき、それは好ましくは、C-C12アルキルトリフェニルホスホニウムカチオン、より好ましくはデシル(トリフェニル)ホスホニウムカチオンである。
【0059】
式(I)の塩において、AおよびBは独立して、任意の整数(例えば、独立して1、2または3)であり得るが、但し、式(I)の塩の正味電荷は0である。例えば、Zが+3のカチオンであり、アニオンが-2のアニオンであるとき、塩の正味電荷が0であるようにAは3であり、Bは2である。ある実施態様において、AおよびBは各々、独立して、1および2から選択され;例えば、Aは1であり、Bは1または2である。
【0060】
式(I)の塩において、Zは単一のイオン、例えば、Naイオンであり得るか、または複数のイオン、例えば、NaおよびKイオンであり得る。したがって、複数のカチオンを有する塩(例えば、マロン酸ナトリウムカリウム塩)は、式(I)に包含される。
【0061】
本発明による使用のための組成物の好ましい実施態様において、式(I)の塩は、0のnの値および0のmの値を有する。この場合、塩は、式(II):
【化3】
〔式中、A、B、Z、YおよびXは、上に定義されるとおりである〕
の塩である。
【0062】
式(I)の塩は、好ましくはマロン酸塩であり得る。この場合、塩は式(II)のものであり、YはH原子である。
【0063】
例えば、式(II)の塩は、マロン酸ジナトリウム塩、マロン酸モノナトリウム塩、マロン酸ジカリウム塩、マロン酸モノカリウム塩、マロン酸ジリチウム塩、マロン酸モノリチウム塩、マロン酸カルシウム塩、マロン酸マグネシウム塩、マロン酸アンモニウム塩、マロン酸アルミニウム塩またはマロン酸亜鉛塩であり得る。場合により、式(II)の塩はマロン酸ジナトリウム塩である。
【0064】
式(I)の塩はまた、YがC-Cアルキル、より好ましくはブチル基である、式(II)の塩であり得る。
【0065】
本発明による使用のための組成物は、約7未満のpHを有する。好ましくは、組成物は、約6.9未満、好ましくは約6.8未満、好ましくは約6.7未満、好ましくは約6.6未満、および好ましくは約6.5未満のpHを有する。
【0066】
本発明による使用のための組成物は、約4超のpHを有する。好ましくは、組成物は、4.3超、好ましくは約4.5超、好ましくは約4.8超、好ましくは約5超、好ましくは約5.3超、および好ましくは約5.5超のpHを有する。
【0067】
本発明による使用のための組成物は、約4.1~約6.9、好ましくは約4.4~約6.8、好ましくは約4.7~約6.7、好ましくは約5~約6.6、および好ましくは約5.3~約6.6のpHを有する。
【0068】
本発明による使用のための組成物は、組成物のpHを上記した特定のpH範囲内に維持する1以上の緩衝剤を含み得る。pHを上記した特定のpH範囲内に維持することができる任意の緩衝剤が使用され得る。例えば、本発明の組成物は、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、炭酸、炭酸塩、炭酸水素塩またはα-ケトグルタル酸の1以上の緩衝剤を含み得る。
【0069】
本発明による使用のための組成物は、血栓溶解により虚血発作を停止させることを意図する1以上の抗凝血剤および/または1以上の溶血剤および/または1以上の抗血小板薬物と組み合わせて投与され得る。例えば、組成物は、(限定されないが)CoumadinTM(ワルファリン);PradaxaTM(ダビガトラン);XareltoTM(リバロキサバン)およびEliquisTM(アピキサバン)、フォンダパリヌクス、非分画ヘパリン、限定されないが、エノキサパリンおよびダルテパリンを含む低分子量ヘパリンから選択される1以上の抗凝血剤;(限定されないが)ストレプトキナーゼ(SK)、ウロキナーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、スタフィロキナーゼ、テネクテプラーゼおよびアルテプラーゼから選択される1以上の血栓溶解剤;および/または(限定されないが)アスピリン、クロピドグレルまたはチカグレロルから選択される1以上の抗血小板薬物と組み合わせて投与され得る。
【0070】
本発明の組成物の使用は、臨床応用へのいくつかの障壁を無くす。本発明の組成物の活性化合物、例えばマロン酸塩は、内因性輸送メカニズムによりミトコンドリアに侵入し得て、したがって、化合物が適時に標的部位へ到達することを可能にする。上記のとおり、および図1および2に示すとおり、虚血組織への取り込み速度は、前記虚血組織へ投与される組成物の低いpHの結果として、有利に増加する。これは、虚血組織への式(I)の塩の選択的取り込みをもたらす。したがって、効果が高い濃度の式(I)の塩は組織中に蓄積することが可能であり、組織の再灌流後の虚血組織におけるコハク酸酸化および組織損傷を最小限にすることができる。
【0071】
さらに、本発明の活性化合物、および特にマロン酸塩は、限定された毒性、十分に確立された代謝を有し、医薬開発において賦形剤として使用されている。
【0072】
本発明で使用される再灌流とは、虚血事象後に虚血組織への血液流入が開始する時点をいう。再灌流は、自発的に(例えば、一過性虚血性発作後に)起こり得るか、または例えば、医療現場において人為的に開始され得る。再灌流が開始されるとき、それは、例えば機械的または化学的手段により、血流の閉塞を除去することができる当分野で知られる任意の方法により開始される。好ましくは、再灌流は、血栓溶解により(例えば、患者へ抗凝血剤を投与する、または溶血剤を適用することにより)、および/または血栓除去により開始される。再灌流が開始するとき、本発明の組成物の投与と組み合わせ得る。例えば、再灌流の開始は、本発明の組成物の投与の開始前に起こり得る。あるいは、再灌流の開始は、本発明の組成物の投与開始と同時に-例えば、上記のとおり、溶血剤が本発明の組成物の一部として投与されたときに起こり得る。あるいは、再灌流の開始は、本発明の組成物の投与開始後に起こり得る。
【0073】
適切な抗凝血剤は、CoumadinTM(ワルファリン);PradaxaTM(ダビガトラン);XareltoTM(リバロキサバン)およびEliquisTM(アピキサバン)、フォンダパリヌクス、非分画ヘパリン、限定されないが、エノキサパリンおよびダルテパリンを含む低分子量ヘパリン、限定されないが、ストレプトキナーゼ(SK)、ウロキナーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼ、スタフィロキナーゼ、テネクテプラーゼおよびアルテプラーゼを含む血栓溶解剤、またはアスピリン、クロピドグレルもしくはチカグレロルなどの抗血小板薬物から選択され得る。
【0074】
本発明による使用のための組成物は、虚血が疑われた後のどの時点で投与されてもよい。例えば、虚血性脳卒中が起こったことが疑われたとき、組成物は、顔、腕もしくは脚の突然のしびれもしくは脱力、突然の錯乱、会話困難、または会話の理解困難、突然の片目もしくは両眼の視認困難、突然の歩行困難、めまい、平衡感覚の喪失、または協調性欠如、突然の激しい頭痛、半身の完全麻痺、嚥下困難(嚥下障害)および意識喪失から選択される1以上の卒中症状が見られた後に投与され得る。心筋梗塞(MI)が起こったことが疑われたとき、組成物は、胸部圧迫感または胸痛、意識朦朧状態またはめまい、発汗、呼吸困難、悪心または嘔吐、不安および咳または喘鳴などの1以上の症状が見られた後に投与され得る。
【0075】
本発明の利点は、本発明による使用のための組成物は虚血性脳卒中再灌流傷害の処置および予防に有益であるが、出血性卒中の場合に有害ではないことである。したがって、本発明の組成物は、卒中の種類の診断前に、卒中を有することが疑われる患者に投与され得る。そのため卒中の種類の診断前に、再灌流により引き起こされる損傷を最小限にする緊急薬剤として投与され得る。緊急薬剤としての投与(緊急対応者による投与、例えば、医療補助員による投与)の場合において、本発明の組成物は、好ましくは卒中の種類の診断前のあらゆる時点で、卒中の罹患が疑われる、および好ましくは卒中症状の発生の約4時間以内、好ましくは卒中症状の発生の約3時間以内、好ましくは卒中症状の発生の約2時間以内およびより好ましくは卒中症状の発生の約1時間以内に患者に投与される。本発明の組成物は、卒中症状が起こった直後に処置を開始することが可能な現場で、例えば、病室で投与され得る。したがって、本発明による組成物の投与の開始は、卒中症状の発生の約50分以内、好ましくは卒中症状の発生の約40分以内、好ましくは卒中症状の発生の約30分以内、好ましくは卒中症状の発生の約20分以内および最も好ましくは卒中症状の発生の約15分以内に開始され得る。
【0076】
上記のとおり、臓器移植中の虚血は手術の結果に対して数多くの有害な影響を有する。臓器移植レシピエントは、提供された臓器の移植前に本発明による組成物で処置され得る。その後、臓器が再灌流されるとき、再灌流後の移植された臓器におけるコハク酸酸化および組織損傷を最小化することができる蓄積したマロン酸が存在する。これとは別にまたはこれに加えて、本発明の組成物は、再灌流前または再灌流の時点で移植された臓器自体に投与され得る。この投与はインビボで、すなわち臓器がレシピエントに移植された後、またはエクスビボで投与され得る。したがって、本発明はまた、本明細書で定義される組成物をエクスビボで臓器に投与する方法に関する。両方の場合において、これは再灌流後のコハク酸酸化および移植された臓器への再灌流損傷を低減する。したがって。本発明は、臓器移植中の臨床業務に対する実質的な利益を有する。
【0077】
本発明は、虚血後に再灌流が起こり得るあらゆる臨床的状況に適用可能である。臓器移植中に起こる心臓発作、虚血性脳卒中および虚血に加えて、本発明による使用のための組成物は、例えば、腎臓IR傷害の処置および待機的外科手術に起こるIRの処置において使用され得る。本発明による使用のための組成物はまた、待機的外科手術、心機能停止後の蘇生および局所虚血後の再灌流傷害ならびに傷害または医療行為によるIR傷害を処置するために使用され得る。例えば、本発明による使用のための組成物は、心蘇生後の脳へのIR傷害を処置するために使用され得る。
【0078】
本発明の組成物は、虚血の発生後であるが、再灌流前に患者に投与され得る。好ましくは、本発明の化合物の投与はその後、再灌流が確立されるまで継続される、好ましくは再灌流中継続される、および好ましくは再灌流が完了するまで継続される。
【0079】
再灌流の開始または発生前の期間に本発明の組成物を投与することは、虚血組織のpHを通常の生理学的pH未満に低下させ、かつ式(I)の塩が有利に、再灌流におけるROSの産生を最小限にするのに十分な濃度で蓄積することができ、IR傷害から虚血組織を保護することを確実にする。そのため、虚血症状の発生後、可能な限り速やかに本発明の組成物を最初に患者に投与することが好ましいことがある。したがって、本発明の組成物は、好ましくは、少なくとも再灌流の開始の際、または再灌流の発生時、場合により再灌流の開始または発生の少なくとも約5分前、場合により10分前、場合により15分前、および場合により再灌流の開始または発生の20分以上前に投与される。
【0080】
あるいは、本発明の組成物は、再灌流の開始または発生後、患者に最初に投与され得る。この場合、本発明の組成物は、好ましくは、IR傷害を最小限にするために、再灌流の開始後可能な限り速やかに、最初に患者に投与される。本発明の組成物の患者への初期投与の後、投与は、好ましくは再灌流が完了するまで継続される。
【0081】
あるいは、本発明の組成物は、再灌流の時点で最初に患者に投与され得る。好ましくは、本発明の組成物の投与はその後、再灌流が完了するまで継続される。
【0082】
本発明の組成物は、血流の閉塞を除去するために使用または意図される処置、すなわち、再灌流を開始するために使用または意図される処置と組み合わせて患者に投与され得る。これは同時に、例えば、再灌流の時点で組成物を患者に投与するとき、または別々に;例えば、虚血後であるが、再灌流の前に組成物を患者に投与し、再灌流を開始する処置がその後に開始されるとき(本発明の組成物の投与中、またはこのような投与を中止した後)に起こり得る。好ましくは、本発明の組成物は、血栓溶解処置および/または血栓除去と組み合わせて患者に投与され得る。好ましくは、血栓溶解処置は、患者への抗凝血剤または溶血剤、例えば上記の剤の適用から選択される。
【0083】
本発明の組成物は、血栓除去、すなわち機械的手段を用いた血流に対する閉塞、例えば、血栓の除去を含む処置と組み合わせて患者に投与されることが、特に好ましい。例として、血栓除去カテーテルは、閉塞された血管に入り虚血性傷害を物理的に除去するために使用され得る。本発明による使用のための組成物を血栓除去処置と組み合わせて投与することは、本発明の組成物が虚血性傷害の部位に直接的に導入されることを可能にし、これは虚血組織における局所pHを低下させることを可能にする。血栓除去のためのいずれかの機械的手段は、本発明による使用のための組成物と組み合わせて使用され得る。
【0084】
血栓除去が実施されるとき、本発明による使用のための組成物は、血栓を除去するために使用される機械的手段によって、閉塞を介して閉塞された血管に直接的に投与され得る。この場合、血栓除去を実施するための機械的手段は、本発明による組成物を含み得る。例えば、血栓除去を実施するための機械的手段は、本発明による組成物によりコーティングされ得て、次に、拡散により閉塞した血管内に放出され得る。あるいは、機械的手段は、閉塞する血栓の近位または遠位の閉塞した血管内で、本発明による使用のための組成物を放出するために、本明細書で定義されるボーラスまたは単位投与形態として構成され得る。あるいは、機械的手段は、本発明による使用のための組成物を閉塞した血管に導入し得るカテーテルを含み得る。
【0085】
あるいは、血栓除去が実施されるとき、本発明による使用のための組成物は、血栓除去を実施するために使用される機械的手段とは別のカテーテルにより、閉塞した血管に導入され得る。例えば、本発明の組成物は、カテーテルにより閉塞した血管に導入され得て、血栓除去を実施するための機械的手段の前に、身体からカテーテルが引き抜かれる。あるいは、本発明の組成物は、血栓除去が実施され、血栓除去を実施するための機械的手段が閉塞した血管から取り除かれた後、カテーテルにより閉塞した血管に導入され得る。
【0086】
本発明による使用のための組成物は、組織損傷を予防または最小化することを意図する1以上のさらなる成分を含み得るか、または併用療法の一部として投与され得る。例えば、本発明による使用のための組成物は、虚血再灌流傷害を標的とするための他の薬剤または介入とともに投与され得る。
【0087】
本発明による使用のための組成物は、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(PTP)阻害剤と組み合わせて投与され得る。ミトコンドリアPTP阻害剤は、例えば、シクロスポリンA(CsA)であり得る。
【0088】
上記のとおり、本発明の重要な利点は、本明細書で定義される組成物の投与が虚血組織におけるpHの低下をもたらすことである。この組織の酸性化は、虚血組織による式(I)の塩、例えばマロン酸塩の選択的取り込みを引き起こし、虚血組織内で有利に高濃度のこのような塩をもたらす。この有利な迅速かつ選択的な式(I)の塩の取り込みは、再灌流により虚血組織に起こる再灌流損傷を低減する。
【0089】
本発明による使用のための組成物は、当分野における任意の方法により投与され得る。例えば、本発明の組成物は、経口、局所的、皮下、非経腸的、筋肉内、腹腔内、眼球内、鼻腔内、動脈内または静脈内投与され得る。好ましくは、本発明による使用のための組成物は、静脈内、動脈内、腹腔内または非経腸で、例えば、虚血を受けているまたは虚血を受けたことが疑われる組織に直接的に投与される。
【0090】
本発明による使用のための組成物は、処置を必要とする対象への投与に適切なあらゆる形態で投与され得るが、好ましくは、注入用溶液の形態で投与される。場合により、注入用溶液は、1以上の上で定義される緩衝剤を含む。場合により、注入用溶液は、等張溶液である。場合により、注入用溶液は塩化ナトリウムを含み、それは食塩水溶液である。本明細書で考察されるとおり、血栓除去のための機械的手段は、本発明による使用のための組成物の溶液を含み、これは血栓除去中に閉塞した血管に直接的に放出される。あるいは、本発明による使用のための組成物は、静脈内投与のために意図された点滴用溶液の形態であり得る。
【0091】
あるいは、本発明による使用のための組成物は、制御または持続放出組成物として製剤化および投与され得る。例えば、本発明による使用のための組成物は、親油性デポー(例えば、脂肪酸、蝋、油)に製剤化され得るか、またはポリマー被覆(例えば、ポロキサマーまたはポロキサミン)を含み得る。本発明による使用のための組成物は、ポリマー被覆を含み、前記ポリマーは、体内での加水分解により酸を放出するポリマー、例えば、ポリ乳酸(PLA)またはポリグリコール酸(PGA)である。これは、式(I)の塩の取り込み速度をさらに増加させ得る組成物の放出の時点で組織のpHをさらに低下させる利点を有する。
【0092】
本発明による使用のための組成物は、ボーラスとして、すなわち、約30分未満、場合により約20分未満、場合により約10分未満、および場合により約5分未満の時間内での投与を意図する組成物の分離量として製剤化および投与され得る。
【0093】
本発明による使用のための組成物がボーラスとして投与されるとき、ボーラスの総体積は、処置される虚血再灌流傷害の具体的な種類に応じて変化し得る。例えば、ボーラスの総体積は、約1ml~約500mlであり得る。ボーラスは、本明細書で定義される単位投与形態または静脈内点滴用液体バッグの形態であり得る。
【0094】
あるいは、本発明による使用のための組成物は、最初の投与の時間から最大6時間の時間まで継続的に投与され得る。例えば、組成物の投与の合計時間は、約2分超、場合により約5分超、場合により約10分超、場合により約15分超であり得る。場合により、本発明による使用のための組成物の投与の合計時間は、約5時間未満、場合により約4時間未満、場合により約3時間未満、および場合により約2時間未満である。
【0095】
上記に示すとおり、本発明による使用のための組成物は、式(I)の塩を含む。式(I)の塩は、約0.1mg/kg~約500mg/kg体重の用量で投与され得る。好ましくは、式(I)の塩は、約0.2mg/kg体重超、好ましくは約0.3mg/kg体重超、好ましくは約0.4mg/kg体重超、および好ましくは約0.5mg/kg体重超の用量で投与される。好ましくは、式(I)の塩は、約450mg/kg体重未満、好ましくは約400mg/kg体重未満、好ましくは約350mg/kg体重未満、および好ましくは約300mg/kg体重未満の用量で投与される。
【0096】
本発明による使用のための組成物は、好ましくは、約0.1%(w/v)~約5%(w/v)、好ましくは約0.2%(w/v)~約4.5%(w/v)、好ましくは約0.3%(w/v)~約4%(w/v)、好ましくは約0.4%(w/v)~約3.5%(w/v)、好ましくは約0.5%(w/v)~約3%(w/v)、好ましくは約0.5%(w/v)~約2.5%(w/v)、および好ましくは約0.5%(w/v)~約2%(w/v)の濃度の式(I)の塩を有する。
【0097】
本発明による使用のための組成物は、好ましくは、約1mM~100mMの濃度の式(I)の塩を有する。
【0098】
患者に投与される本発明による使用のための組成物の総体積は、処置されるIR傷害の性質および投与方法により変化することが予想される。例えば、本発明による使用のための組成物が、卒中虚血再灌流傷害の処置中に脳動脈に投与されるとき、投与される組成物の総体積は、約20ml未満であり得る。しかしながら、本発明による使用のための組成物が静脈内投与されるとき、投与される組成物の総体積は、約250ml未満であり得る。
【0099】
したがって、本発明はまた、本明細書で定義される式(I)の塩を含む組成物を含む静脈内点滴用液体バッグであって、ここで前記組成物は約4.0~約7.0のpHを有し;液体バッグ中の組成物の総体積は約250ml未満である、液体バッグに関する。前記組成物は、本明細書で定義される組成物のいずれかの特徴を有する。
【0100】
好ましくは、液体バッグ中の組成物は、約225ml未満、好ましくは約200ml未満、好ましくは約175ml未満および好ましくは約150ml未満の体積を有する。
【0101】
好ましくは、液体バッグ中の組成物は、約25ml超、好ましくは約50ml超、好ましくは約75ml超および約100ml超の体積を有する。
【0102】
好ましくは、液体バッグ中の組成物は、約25ml~約250ml、好ましくは約50ml~約225ml、好ましくは約75ml~約200mlおよび好ましくは約100ml~約175mlの体積を有する。
【0103】
本発明による使用のための組成物はさらに、1以上の薬学的に許容される賦形剤、担体または希釈剤を含む。
【0104】
適切な賦形剤、担体および希釈剤は、標準的な医薬の教材において見ることができる。例えば、Handbook for Pharmaceutical Additives, 3rd Edition (eds. M. Ash and I. Ash), 2007 (Synapse Information Resources, Inc., Endicott, New York, USA)およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 2ist Edition (ed. D. B. Troy) 2006 (Lippincott, Williams and Wilkins, Philadelphia, USA)を参照。
【0105】
本発明の組成物における使用のための賦形剤は、限定されないが、微結晶セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、二リン酸カルシウムおよびグリシンを含み、デンプン(および好ましくはトウモロコシ、ジャガイモまたはタピオカデンプン)、アルギン酸および特定の複合ケイ酸塩などの多様な崩壊剤とともに、ポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチンおよびアカシアなどの顆粒結合剤と合わせて使用され得る。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルクなどの滑沢剤はしばしば、錠剤化の目的のために極めて有用である。同様の種類の固体組成物はまた、ゼラチンカプセル中の充填剤としても使用され得て;これに関して好ましい物質は、ラクトースまたは乳糖および高分子量ポリエチレングリコールもまた含む。水性懸濁液および/またはエリキシルが経口投与のために望ましいとき、活性成分は、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンおよびそれらの様々な組合せとしてのこのような希釈剤とともに、多様な甘味剤または香味剤、着色剤または染色剤と、および所望ならば、乳化剤および/または懸濁化剤ともまた、組み合わせられ得る。
【0106】
薬学的な担体は、固体希釈剤または充填剤、無菌水性媒体および多様な非毒性有機溶媒などを含む。
【0107】
薬学的に許容される担体は、ガム、デンプン、糖、セルロース物質およびそれらの混合物を含む。化合物は、例えば、ペレットの皮下埋込みにより、対象に投与され得る。製剤はまた、液体製剤の静脈内、動脈内または筋肉内注射、液体または固体製剤の経口投与、または局所適用により投与され得る。投与は、直腸坐剤または尿道坐剤の使用により達成され得る。
【0108】
さらに、本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」は当業者に既知のものであり、限定されないが、0.01~0.1Mおよび好ましくは0.05M リン酸緩衝液または0.9% 食塩水を含む。さらに、このような薬学的に許容される担体は、水溶液または非水溶液、懸濁液、およびエマルジョンであり得る。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体は、食塩水および緩衝媒体を含む水、アルコール性/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液を含む。
【0109】
薬学的に許容される非経腸ビークルは、塩化ナトリウム溶液、デキストロースリンゲル液、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液および不揮発性油を含む。静脈内ビークルは、体液および栄養補給液、電解質補給液、例えばリンゲルデキストロースなどに基づくものを含む。また、例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤(collating agents)、不活性ガスなどのような防腐剤および他の添加剤もまた、存在し得る。
【0110】
本発明により投与可能な制御または持続放出組成物のための薬学的に許容される担体は、親油性デポー(例えば、脂肪酸、蝋、油)中の製剤を含む。ポリマー(例えば、ポロキサマーまたはポロキサミン)で被覆された粒子組成物および組織特異的受容体、リガンドもしくは抗原に対する抗体に結合したまたは組織特異的受容体のリガンドに結合した化合物もまた、本発明により理解される。
【0111】
薬学的に許容される担体は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールのコポリマーおよびポリプロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはポリプロリンなどの水溶性ポリマーの共有結合により修飾された化合物を含み、これらは対応する非修飾化合物より長い静脈内注射後の血中半減期を示すことが知られている(Abuchowski and Davis, Soluble Polymer-Enzyme Adducts, Enzymes as Drugs, Hocenberg and Roberts, eds., Wiley-Interscience, New York, N.Y., (1981), pp 367-383)。このような修飾はまた、水溶液の化合物の溶解度を増加させ、凝集を排除し、化合物の物理的および化学的安定性を向上させ、化合物の免疫原性および反応性を大きく低減する。結果として望ましいインビボ生物活性は、このようなポリマー-化合物付加物の投与により、非修飾化合物よりも少ない頻度または低用量で達成され得る。
【0112】
本発明のさらなる態様において、(1)pH低下成分および(2)本明細書で定義される式(I)の塩を含む、対象における虚血再灌流傷害の処置または予防に使用するための、併用療法が提供される。
【0113】
pH低下成分は、対象に、好ましくは虚血組織に、式(I)の塩と同時にまたは別々に投与され得る。
【0114】
pH低下成分が式(I)の塩と別々に対象に投与されるとき、pH低下成分は、式(I)の塩を対象に投与する前または投与した後に投与され得る。この場合、好ましくは、pH低下成分は、式(I)の塩を対象に投与する前に投与される。これは、本発明の塩を投与する前に虚血組織を酸性にし、これは式(I)の塩が投与されるときに虚血組織による式(I)の塩の迅速な取り込みを促進する。好ましくは、式(I)の塩は、pH低下成分の投与後すぐに、例えば、pH低下成分の投与の10分以内、好ましくはpH低下成分の投与の約8分以内、好ましくは約6分以内、好ましくは約5分以内、好ましくは約4分以内、および好ましくは約3分以内に、対象に投与される。
【0115】
あるいは、pH低下成分は、対象に、好ましくは虚血組織に、式(I)の塩の投与と同時に投与され得る。
【0116】
pH低下成分は、好ましくは約7未満のpHを有する。好ましくは、pH低下成分は約6.9、好ましくは6.8未満、好ましくは6.7未満、好ましくは6.6未満、および好ましくは6.5未満のpHを有する。
【0117】
pH低下成分は、好ましくは、約4超のpHを有する。好ましくは、pH低下成分は約4.3超、好ましくは4.5超、好ましくは4.8超、好ましくは約5超、好ましくは5.3超、および好ましくは5.5超のpHを有する。
【0118】
好ましくは、pH低下成分は約4.1~約6.9、好ましくは約4.4~約6.8、好ましくは約4.7~約6.7、好ましくは約5~約6.6、および好ましくは約5.3~約6.6のpHを有する。
【0119】
pH低下成分は、pH低下成分のpHを上記で示す特定のpH範囲内に維持する1以上の緩衝剤を含み得る。pHを上記で示す特定のpH範囲内に維持するあらゆる緩衝剤が使用され得る。例えば、pH低下成分は、緩衝剤として、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、炭酸、炭酸塩、炭酸水素塩またはα-ケトグルタル酸の1以上を含み得る。
【0120】
本発明による併用療法は、本発明の組成物に関して定義されるいずれかのさらなる成分を含む、1以上のさらなる薬学的に許容される成分を含み得る。これらの任意のさらなる成分は、とりわけ、溶血剤、抗凝血剤、薬学的に許容される賦形剤、担体または希釈剤を含む。
【0121】
本発明による併用療法は、ミトコンドリア膜透過性遷移孔(PTP)阻害剤、例えば、シクロスポリンA(CsA)をさらに含み得る。
【0122】
本発明による併用療法は、本明細書に示される投与と血栓除去処置の組合せを含む本発明の組成物の投与に関する上で定義される方法を含む、当分野で知られるいずれかの方法により、処置を必要とする患者に投与され得る。
【0123】
本発明はまた、上で定義される組成物を含む単位投与形態であって、ここで単位投与形態の総体積は約20ml未満であり得る、単位投与形態に関する。本発明の単位投与形態は、虚血組織に直接的に、例えば、閉塞血栓の近位または遠位近位の閉塞した血管を、単位投与形態を直接的に投与することにより、投与され得る。単位投与形態を投与することにより、pHを局所的に低下させ、虚血組織への式(I)の塩の選択的取り込みが加速させる。
【0124】
単位投与形態は、好ましくは、約18ml未満、好ましくは約16ml未満、好ましくは約14ml未満、好ましくは約12ml未満、および好ましくは約10ml未満の体積を有する。
【0125】
単位投与形態は、好ましくは、約1ml超、好ましくは約2ml超、好ましくは約3ml超、好ましくは約4ml超、および好ましくは約5ml超の体積を有する。
【0126】
単位投与形態は、好ましくは、約1ml~約18ml、好ましくは約2ml~約16ml、好ましくは約3ml~約14ml、好ましくは約4ml~約12mlおよび好ましくは約5ml~約10mlの体積を有する。
【0127】
単位投与形態は、好ましくは、約0.1%(w/v)~約5%(w/v)、好ましくは約0.2%(w/v)~約4.5%(w/v)、好ましくは約0.3%(w/v)~約4%(w/v)、好ましくは約0.4%(w/v)~約3.5%(w/v)、好ましくは約0.5%(w/v)~約3%(w/v)、好ましくは約0.5%(w/v)~約2.5%(w/v)、および好ましくは約0.5%(w/v)~約2%(w/v)の濃度の式(I)の塩を有する。
【0128】
単位投与形態は好ましくは、約1mM~100mMの濃度の式(I)の塩を有する。
【0129】
このような単位投与形態は、血栓除去処置の一部として閉塞血栓の近位または遠位に虚血組織に直接的に投与するとき、特に有利である。単位投与形態は、本発明による使用のための組成物に関して上記と同様の方法で、血栓除去処置と組み合わせて投与され得る。
【0130】
本発明はまた、(1)血栓切除デバイスおよび(2)本明細書で定義される単位投与形態または本明細書で定義される式(I)の塩を含む組成物を含む、キットに関する。
【0131】
本発明はまた、対象における虚血再灌流傷害を処置または予防する方法であって、ここで前記方法が本明細書で定義される組成物または併用療法を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0132】
本発明はまた、虚血再灌流傷害を処置または予防するための医薬の製造における、本明細書で定義される組成物の使用に関する。
【0133】
本明細書で使用される用語「C-Cアルキル」とは、一般に1~n個の炭素原子を有する直鎖および分岐飽和炭化水素基をいう。アルキル基の例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ペント-1-イル、ペント-2-イル、ペント-3-イル、3-メチルブト-1-イル、3-メチルブト-2-イル、2-メチルブト-2-イル、2,2,2-トリメチルeth-1-イルなどを含む。
【0134】
本明細書で使用される用語「薬物」、「薬物物質」、「活性医薬成分」などは、処置を必要とする対象を処置するために使用され得る化合物をいう。
【0135】
本明細書で使用される用語「賦形剤」とは、薬物のバイオアベイラビリティに影響を与え得るが、薬理学的に不活性であり得るあらゆる物質をいう。
【0136】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される」とは、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などを伴うことなく対象の組織との接触に使用するのに適切な健全な医学的判断の範囲内であり、合理的なリスク-利益比に見合った、それらの意図された使用に効果的な種をいう。
【0137】
本明細書で使用される用語「医薬組成物」とは、1以上の薬物物質と1以上の賦形剤の組合せをいう。
【0138】
本明細書で使用される用語「対象」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物をいう。
【0139】
非ヒト哺乳動物の例は、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギおよびシカなどの家畜動物;ならびにネコ、イヌ、齧歯類およびウマなどのコンパニオン・アニマルを含む。
【0140】
本明細書で使用される用語「身体」とは、上で定義される対象の身体をいう。
【0141】
本明細書で使用される用語「治療有効量」の薬物とは、対象の処置およびそれによる所望の治療、改善、阻害または予防効果の発生に有効な薬物または組成物の量をいう。治療有効量は、特に対象の体重および年齢ならびに投与経路に依存し得る。
【0142】
本明細書で使用される用語「処置する」とは、このような用語が適用される障害、疾患または状態を逆転させる、軽減する、進行を阻害するまたは予防すること、またはそのような障害、疾患または状態の1以上の症状を逆転させる、軽減する、進行を阻害するまたは予防することをいう。
【0143】
本明細書で使用される用語「処置」は、上で定義する「処置する」という行動をいう。
【0144】
本明細書で使用される用語「予防する」とは、疾患または障害に罹患するリスクの低減、または予防措置後に疾患または障害に罹患した場合の症状の重篤度の低減をいう。したがって、「予防する」とは、処置を必要とする対象の予防処置をいう。予防処置は、障害の症状がない、もしくは最小限であっても障害素因を有するまたは障害を発症するリスクがある対象に適切な用量の治療剤を投与し、それにより障害の発症を実質的に防ぐ、または予防措置後に症状を発症した場合、その重篤度を実質的に低減することにより達成され得る。
【0145】
本明細書で使用される用語「コハク酸デヒドロゲナーゼ阻害剤」または「SDHi」とは、コハク酸デヒドロゲナーゼを阻害する種をいう。
【0146】
本明細書で使用される用語「血栓溶解」とは、化学的手段、例えば、血栓溶解剤を用いて血流の妨害物、例えば、血栓を取り除くことをいう。
【0147】
本明細書で使用される用語「血栓除去」とは、機械的手段を用いて、血流の妨害物、例えば、血栓を取り除くことをいう。
【0148】
本明細書で使用される用語「pH低下」とは、正常な生理学的pH(pH約7.4)に対する減少をいう。
【0149】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」とは、「少なくとも一部それから成る」を意味する。用語「含む」を含む本明細書の各文章を解釈するとき、その用語により前置される特徴以外の特徴もまた、存在し得る。「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの関連用語は、同様の方法で解釈される。
【実施例
【0150】
実施例1
C2C12細胞をDSM(0mM、1mMまたは5mM)とpH6、7.4および8で15分間インキュベートし、その後LC-MS/MSにより細胞内マロン酸を測定した(図1)(データは平均±S.E.Mとして示す、n=4 生物学的反復、統計的有意差は、多重比較のためのボンフェローニ補正を用いた2元配置分散分析により評価した)。マロン酸の細胞内送達はより低いpHで、細胞内で大きく増加する。
【0151】
実施例2
マウスから単離した、pH7.4または6で5mM DSMを注入して処置されたランゲンドルフ灌流心におけるマロン酸レベルを決定した(図2-データは平均±S.E.Mとして示す、n=4 生物学的反復、統計的有意差は、対応のない、両側スチューデントt検定により評価した)。低pHで注入されたとき、マロン酸取り込みが大きく増加することを示す。
【0152】
実施例3
ランゲンドルフ灌流マウス心臓を0分間、5分間、10分間または20分間虚血状態で保持し、5mM DSM(pH7.4)と共に再灌流し、その後LC-MS/MSにより、心臓におけるマロン酸レベルを測定した(図3-データは平均±S.E.Mとして示す、n=4~6 生物学的反復、統計的有意差は、多重比較のためのボンフェローニ補正を用いた1元配置分散分析により評価した)。虚血時間依存的なマロン酸の取り込みがあることを示す。
【0153】
実施例4
再灌流時にDSM(160mg/kg)を注入したマウスLADモデルにおける梗塞サイズを測定し、TTC染色により定量した(図4-データは平均±S.E.Mとして示す、n=5~8 生物学的反復、統計的有意差は、多重比較のためのボンフェローニ補正を用いた1元配置分散分析により評価した)。このように、虚血後の再灌流の時点で投与されるとき、マロン酸は心臓保護作用を有することが確認された。
【0154】
実施例5
C2C12細胞をpH6または7.4で、DSMまたはマロナメート(3-アミノ-3-オキシプロパン酸-3A3OPA)(ともに5mM)とインキュベートし、LC-MS/MSにより細胞内レベルを測定した(図5-pH7.4の取り込みに対するpHの取り込みの増加倍率のデータは平均±S.E.Mとして示す、n=6 生物学的反復、統計的有意差は、多重比較のためのボンフェローニ補正を用いた1元配置分散分析により評価した)。3A3OPAは低下したpHに対してマロン酸と同様に反応することはできず、低および中性pHで3A3OPAについて達成された取り込みは同様のレベルであり、これは膜を通過したマロン酸の取り込みを加速させるのに重要であることを示す。
【0155】
マロン酸は2.83および5.69のpKa値を有するため、pH6.4で、約16%のマロン酸がモノカルボキシレート形態であり得る。3A3OPAにおいては、1つのカルボン酸が中性アミド基に置換されており、pKa約4.75の単一のカルボン酸が残る。したがって、pH7.4の3A3OPAはマロン酸のモノカルボキシレート形態に類似する。これにより、pH7.4でマロン酸より多くの3A3OPAの細胞への取り込みがもたらされた。pHを6まで低下させると、マロン酸取り込みは約15倍増加したが、3A3OPA取り込みは、それがこのpH範囲にわたりモノカルボキシレートとして存在するため、無視できるほどの変化であった。併せて、これらのデータは、初期の再灌流中に生じる条件下でのマロン酸のモノアニオン形態の輸送を支持する。
【0156】
実施例6
H9c2筋芽細胞をDSM(0mM、1mMまたは5mM)とpH6、7.4または8で15分間、インキュベートし、その後LC-MS/MSにより細胞内マロン酸(図22)およびコハク酸(図23)を測定した(データは平均±S.E.Mとして示す、n=4 生物学的反復、統計的有意差は、多重比較のためのボンフェローニ補正を用いた2元配置分散分析により評価した)。図24は、多様なpHで15分間、DSM(5mM)とインキュベートしたC2C12細胞におけるコハク酸レベルを示す(データは平均±S.E.Mとして示す、n=3 生物学的反復)。
【0157】
pH6で、細胞におけるマロン酸レベルは、pH7.4または8でのレベルより有意に高かったため、マロン酸取り込みは酸性pHが好ましい。コハク酸レベルはマロン酸のものが反映され、低pHでのマロン酸依存性SDH阻害の増加の結果として、より多くのコハク酸が蓄積した。低pHのみではコハク酸レベルへの影響はなく(図23)、これはコハク酸レベルの上昇がマロン酸の細胞への侵入とその後のSDH阻害の結果であることを示唆する。
【0158】
実施例7
20分間の虚血ならびに5mM DSMを伴うおよび伴わない1分間の再灌流後に、ランゲンドルフ灌流心における乳酸レベルを測定した(データは平均として示す、n=4 生物学的反復、統計的有意差は対応のない、両側スチューデントt検定により評価した)。結果を図25に示す。再灌流のみと比較して、マロン酸処理した心臓においては乳酸レベルが低下した。
【0159】
実施例8
梗塞サイズをマウスLAD MIモデルにおいて測定し、30分間の虚血後、再灌流時に8mg/kg DSM、pH4酸対照または8mg/kg、pH4マロン酸製剤の100μlボーラスで処置し、2時間の再灌流後にTTCおよびエバンスブルー染色により定量した(データは平均として示す、n=5 生物学的反復、統計的有意差は、多重比較のためのボンフェローニ補正を用いた1元配置分散分析により評価した)。結果を図26に示す。このデータは所定の用量のマロン酸がpH4(FDA承認の非経腸製剤で現在使用されるpH)で再製剤化され、ボーラスとして投与されたとき、低pHによるものだけではない有意な保護が得られたことを示している。
【0160】
実施例9
5mM DSM±乳酸(50mM;Lac)またはMCT1阻害剤(10μM AR-C141990;MCT1i)で5分間灌流したマウスランゲンドルフ灌流心におけるマロン酸レベルを示す(データは平均±S.E.M.、n=4、統計的有意差は、多重比較のためのボンフェローニ補正を用いた1元配置分散分析により評価した)。結果を図27に示す。ランゲンドルフ灌流心へのマロン酸取り込みは、灌流媒体中ではMCT1阻害剤AR-C141990により、および過剰の酪酸により阻害された。これは、MCT1がマロン酸の低pHでの取り込みに関与していることを示唆する。MCT1は乳酸輸送体でもあるため、このデータは高濃度では乳酸がマロン酸と競合することもまた示唆している。
【0161】
実施例10
梗塞サイズをマウスLADモデルにおいて測定し、再灌流時にビークル(エタノール/食塩水中のCremphor EL)±シクロスポリンA(10mg/kg)またはDSM(160mg/kg)を注入した(データは平均±S.E.Mとして示す、n=5~7 生物学的反復、統計的有意差は、多重比較のためのボンフェローニ補正を用いた1元配置分散分析により評価した)。シクロスポリンAは既知のミトコンドリア膜透過性遷移孔(PTP)阻害剤である。結果を図28に示す。マロン酸の心臓保護は、シクロスポリンA単独に対して相加的であった。
【0162】
参照実施例11-一過性中大脳動脈閉塞(MCAO)モデル
6~8週齢の雄性C57Bl6Jマウスを3% イソフルランで麻酔し、麻酔を1.5~2% イソフルランで維持した。ドップラーフローメトリープローブ(Perimed、スウェーデン)を頭蓋骨に装着し、脳血流を継続的にモニタリングした。左総頸動脈(CCA)および左外頸動脈を露出し、永久結紮した。左内総頸動脈を一時的に遮断した。次にCCA上で切開し、シリコンチップ付きのフィラメント(直径0.22mm、長さ2~3mm、Doccol、アメリカ合衆国)を挿入し、中大脳動脈(MCA)に達するまで内頸動脈を前進させた。MCAの閉塞は、少なくとも70%の脳血流の減少が見られることで確認された。45分間の虚血後、フィラメントを後退させ、2時間の再灌流を行った。脳血流がベースラインの80%に達したとき、再灌流が確認された。
【0163】
再灌流直前から20分間、マロン酸ジナトリウム(DSM)またはビークルを静脈内投与した。
【0164】
再灌流終了時、マウスを頸椎脱臼により屠殺し、脳を回収して2mmの厚さにスライスし、食塩水中2%のトリフェニルテトラゾリウムクロライドで、37℃で10~15分間染色した。その後、脳スライスを4% パラホルムアルデヒドで一晩固定し、スキャナを用いて撮影した。両方の半球における健常組織領域(赤で染色)を、ImageJを用いて測定した。梗塞体積%は、初めに各半球における健常組織の体積(各スライスのΣ領域×スライスの厚さ)を計算し、その後式:((傷害のない半球における健常組織の体積-傷害のある半球における健常組織の体積)÷傷害のない半球における健常組織の体積)×100により計算した。
【0165】
図6に示すとおり、DSMが再灌流直前に20分間与えられたとき、壊死性脳梗塞体積が減少した。
【0166】
図7に示すとおり、脳血流は、一過性中大脳動脈閉塞(MCAO)中、有意に減少した。再灌流直前にDSMを20分間投与しても、処置中の血流は有意に変化せず、これはDSMが脳血流より再灌流傷害を標的としていることを示す。
【0167】
比較参照実施例11
DSMの代わりにマロン酸ジメチル(DMM)を投与したことを除いて、参照実施例11の方法を実施した。図8に示すとおり、DMMが再灌流直前に20分間与えられたとき、壊死性脳梗塞体積における有意な差異は見られなかった。
【0168】
参照実施例12-インビトロマロン酸取り込み
まず、培地中の細胞によりマロン酸が取り込まれるかどうかを確認した。C2C12マウス筋芽細胞を300,000細胞/ウェルで播種し、一晩付着させた。翌日、細胞を0~240分間、DSM(a-0.25mM;b-0.25mM、1mMまたは5mM)で処理するか、または処理せず、その後氷上でプレートを冷却し、氷冷PBSで迅速に4回洗浄し、ドライアイス上においた。細胞質量分析のために、1nmol 13C-マロン酸内部標準を含む抽出緩衝液500μl(50% メタノール、30% アセトニトリルおよび20% 水)で抽出し、遠心分離し、不溶性の残骸を除去した。
【0169】
これは細胞への迅速なマロン酸取り込みが存在することを示し、250μM マロン酸ジナトリウムとインキュベートしたとき、約0.2~0.4nmol/mgタンパク質の細胞内レベルに達した(図9a)。マロン酸取り込みは、用量および時間の両方に依存的であり(図9b)、5mM DSMでは、5分後に高レベルの細胞内マロン酸(約2nmol/mgタンパク質)を達成した。260mgタンパク質/mlの細胞体積を考慮すると、250μMまたは5mM マロン酸塩とインキュベートした5分後の細胞内のマロン酸濃度は、それぞれ約50μMおよび500μMである。
【0170】
参照実施例13-インビボマロン酸取り込み
この取り込みがインビボでも生じるかどうかを確認するために、尾静脈でのボーラスにより、正常酸素圧マウスにマロン酸ジナトリウム塩を注射し、5分後に組織中のマロン酸レベルを測定した。C57/BL6マウスにDSM(160mg/kg)を尾静脈注射し、注射5分後に頸椎脱臼により屠殺し、組織を回収し、固定し、液体窒素中で凍結させた。組織分析のために、組織を計量し、内部標準を含む25μl/mg抽出緩衝液で抽出し、Precellys 24ホモジナイザーでホモジナイズした。ホモジネートを遠心分離し、不溶性の残骸を除去した。抽出物をLC-MS/MSにより分析し、マロン酸標準曲線の内挿によりマロン酸レベルを評価した。
【0171】
これは、マロン酸塩の組織レベルが腎臓において特に高く、心臓および肝臓においても顕著な量であり、脳における取り込みも示した(図10)。これはマロン酸の組織取り込みと一致した。
【0172】
参照実施例14
動物
Charles River Laboratoriesから雄性C57Bl6Jマウスを購入し、12時間の明/暗サイクルの室内で飼育し、自由に餌および水を与えた。マウスは実験に使用する前に1週間馴化させた。全ての実験方法は、1986年英国動物法およびケンブリッジ大学動物福祉方針に従って実施され、内務省により承認された(プロジェクトライセンス70/8238および70/08840)。
【0173】
ヒトおよびマウス脳温虚血
8~10週齢マウスを、37℃での温虚血の直後、または5分後、15分後、60分後もしくは120分後に頸椎脱臼により屠殺し、脳を直ちにクランプ凍結させた。ケンブリッジ脳神経外科Richard Mair博士と共同で、脳腫瘍の手術を受けた患者からヒトの脳生検を採取した。生検片(20~80mg)を組織サイズに応じて3~5個の切片に切断した。1つの切片を直ちに凍結させ(切開から凍結までの時間:30秒~2分)、他の切片を指定された温虚血の時間(5分~120分)、37℃でインキュベートし、クランプ凍結させた。
【0174】
代謝物抽出
約20mgのマウス脳組織および5~20mgのヒト脳組織をドライアイス上で計量し、事前に冷却したPrecellysチューブ(CK28-R、Bertin Instruments、フランス)に入れた。次に、ドライアイスで冷却した、1nmolの[13]-コハク酸(Sigma Aldrich、イギリス)を添加した25μl/mgの抽出緩衝液(50%[v/v] メタノール、30%[v/v] アセトニトリルおよび20%[v/v]、HO)、をチューブに添加し、Precellys 24組織ホモジナイザー(6,500rpm、15秒;Bertin Instruments、フランス)を用いて組織をホモジナイズした。ドライアイス上でインキュベートした後、ホモジナイズの手順を再び実施した。その後サンプルを4℃、17000rpmで遠心分離し、上清を回収し、-20℃の冷凍庫で1時間インキュベートした。遠心分離の工程を2回繰り返し、上清を事前に冷却したMSバイアルに移し、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)によるコハク酸の分析まで、-80℃で保管した。
【0175】
コハク酸の定量のためのLC-MS/MS
Nexera X2 UHPLC系(Shimadzu、イギリス)を備えたLCMS-8060質量スペクトロメーター(Shimadzu、イギリス)を用いて、コハク酸のLC-MS/MS分析を実施した。サンプルを、15μlのフロースルーニードルに5μl注入し、冷却したオートサンプラー(4℃)で保管した。分離は、ZIC(登録商標)-HILICガードカラム(200Å、1×5mm)を備えたSeQuant(登録商標)ZIC(登録商標)-HILICカラム(3.5μm、100Å、150×2.1mm、カラム温度30℃;MerckMillipore、イギリス)を用いて達成された。200μl/分の流速を移動相A)10mM 重炭酸アンモニウムおよびB)100% アセトニトリルとともに使用した。0~0.1分、80% MS緩衝液B;0.1~4分、80%~20% B;4~10分、20% B、10~11分、20%~80% B;11~15分、80% Bの勾配を使用した。質量スペクトロメーターを多重反応モニタリング(MRM)とともに、陰イオンモードで作動させ、Labsolutionソフトウェア(Shimadzu、イギリス)を用いてスペクトルを取得し、MS抽出緩衝液における関連する標準曲線から化合物量を計算し、[13]-コハク酸内部標準と比較した。
【0176】
ミトコンドリア複合体I活性の測定
Precellys CK14チューブおよび6500rpm、15秒サイクル1回でPrecellys組織ホモジナイザー(Bertin Instruments)を用いて、7~10mgの凍結マウス脳を氷冷した400mlの50mM KHPO(KPi緩衝液)中で溶解させた。ホモジネートを、ドライアイスで冷却したチューブに迅速に分注し、さらなる処理まで-80℃で保管した。標準的なBCAアッセイに従い、タンパク質濃度を測定した。新たなサンプルの分量を0.05% ドデシルマルトシド(DDM)を含むKPi緩衝液中で希釈し、複合体I活性アッセイのための総タンパク質量5μgの緩衝液を得た。96ウェルプレートにおいて、40μlのアッセイ緩衝液(KPi緩衝液中、200μM KCNおよび0.3μM アンチマイシンA)を各ウェルに添加し、その後、5μlのエタノール+100μM デシルユビキノンまたは5μlのエタノール+0.5μM ロテノンを添加した。50μlの新たに調製した0.8mM NADHを添加することにより、アッセイを開始した。λ=340および380(8~10秒間隔)で30分間、吸光度をモニタリングすることにより、プレートリーダー内でNADH酸化を測定した。サンプルはデュプリケートで実施した。NADH酸化の最大線形速度は340~380nmでの吸光度を減算することにより計算し、背景速度はロテノンを含むサンプルにおける速度を減算することにより除外した。NADH濃度はベール-ランベルトの法則および吸光係数ε340~380=4.81mMcm-1を用いて決定した。
【0177】
8~12週齢および体重22~30グラムのマウスを100% 酸素中で送達したイソフルラン(3%導入、1.5~2%維持)で麻酔した。ドップラー(PeriFlux System 5000、Perimed、スウェーデン)フローメトリープローブを同側の頭蓋骨に装着し、MCA領域の血液循環をモニタリングし、記録した。次に、左総頸動脈(CCA)および左外頸動脈を露出し、永久結紮した。クランプにより左内総頸動脈を一時的に閉塞させた後、CCA上で切開し、シリコーンコーティングされたチップを有する6-0縫合糸(602223PK10RE、Doccol、アメリカ合衆国)を挿入し、クランプを除去し、ドップラーで血流の低下が観測されるまで縫合糸を前方に挿入し、MCAOを確認した。虚血時間は30分または45分であり、その後縫合糸を除去して再灌流を行った。代謝物分析のために、虚血または再灌流後、マウスを指定された時点で頸椎脱臼により屠殺し、脳の同側および対側の領域を迅速に解剖し、クランプ凍結した。梗塞を測定するため、マウスは2時間の再灌流中、麻酔下を維持し、頸椎脱臼で屠殺した。脳を解剖し、染色と梗塞サイズ測定のために、直ちにスライスした。MCAO後の血流低下がベースラインの30%以上であった場合、または過度の出血などの外科的理由によるものであった場合、マウスを試験から除外した。エンドポイント測定後の除外は行われなかった。
【0178】
コハク酸のマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)イメージング
マウスを上記のMCAO外科手術(30分間の虚血±5分間の再灌流)に供し、脳を直ちに摘出し、液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結させた。冠状切片を20μmの厚さに切断し、スライド(Superfrost Plus、Thermo Scientific、イギリス)の上に置き、ヒートパッド上で60℃で迅速に乾燥させ、分析まで-80℃で保管した。線条体(MCA領域)レベルでの脳ごとに、2つの切片をMALDIのために使用した。ネブライズドスプレー(Suncollect MALDI spotter;KR Analytical、Cheshire、イギリス)を用いて、マトリックス溶液(80:20 MeOH:HO v/v中の1,5-ジアミノナフタレン、10mg/ml)を切片(20層)に噴霧した。MALDI LTQ Orbitrap XL(Thermo Fisher Scientific、Hemel Hempstead、イギリス)を用いてイメージングを実施した。ミトコンドリア代謝物について、陰イオンモードでスペクトルを取得した。理論m/z値と観測値を比較することにより、代謝物の同一性を得た。117.0166 m/zでコハク酸を検出した。ImageQuest(Thermofisher)を用いて、イメージを再構築した。
【0179】
MCAO後の脳脊髄液(CSF)回収
マウスを非回復MCAO外科手術に供し、示された時点で過剰量のペントバルビタールナトリウムにより屠殺した。次に、マウスを2ml/分の速度で2.5分間、左心室を介して氷冷PBSで灌流した。ガラスキャピラリーを用いてCSFを大槽から回収した。
【0180】
マロン酸ジナトリウム処理
非回復外科手術マウスを、マロン酸ジナトリウム(DSM)またはビークル(リン酸緩衝化食塩水、PBS)で静脈内(i.v.)処置し、10分後i.v.5μl/分の速度での注入で再灌流した。総注入体積は100μlであった。非回復外科手術では、無作為化を実施しなかったが、梗塞を測定する研究者は、処置群について盲検化されていた。回復手術では、試験者がDSMまたはPBSを含むエッペンドルフチューブに無作為にID番号を付けた。外科医は無作為に治療用のチューブを選んだ。したがって、外科医および行動と梗塞体積を分析する試験者は、実験と測定を通して治療について盲検化されていた。22~28(24.7±1.4;平均±SD)グラムの体重のマウスに、100μl PBS中4mg DSM(162.2±9.1mg/kg;平均±SD)またはPBSのみを、再灌流の5分前から10μl/分の速度でi.v.注入した。
【0181】
非回復MCAO後の梗塞体積の測定
非回復外科手術を受けたマウスからの脳を、直ちに2mmの厚さにスライスし、2% トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)中37℃で10分間染色し、梗塞領域を特定した(図20に示す)。スライスを4% パラホルムアルデヒドで一晩固定し、スキャナで画像化した。2つの半球において健常領域(赤で染色)測定した。梗塞領域を(対側の健常領域-同側の健常領域)として計算した。梗塞体積を(梗塞領域×スライス厚)の合計として計算し、健常半球体積の割合として表す。
【0182】
統計
梗塞サイズを2群間で比較する場合ために、ノンパラメトリックのマン・ホイットニー検定を実施した。多群比較(血流およびコハク酸量)については、テューキーまたはシダック事後検定を用いて1元または2元配置分散分析を実施した。全ての統計分析は、7.0eを用いて実施した。
【0183】
参照実施例15-卒中患者の静脈血中の代謝物
5つの時点:A-血栓溶解の開始前;血栓溶解の開始後B-5分、C-15分、D-30分およびE-60分での急性虚血性脳卒中による血栓溶解前後の患者から、静脈血を得た。血漿コハク酸レベルについて血液サンプルを分析した。健常対象は、年齢と性別を一致させた。結果を図21に示す。血栓溶解療法を受けた患者からの静脈血では、コハク酸の増加は認められなかった。
【0184】
上記で本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は説明した以外の方法で実施され得ることが理解される。上記の説明は、例示を意図したものであり、限定を意図したものではない。従って、当業者には、以下に記載される特許請求の範囲から逸脱することなく、記載される本発明について修飾がされ得ることが明らかである。
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【国際調査報告】