(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】硫酸化多糖を調製するための方法、および硫酸化多糖
(51)【国際特許分類】
C08B 5/14 20060101AFI20240614BHJP
C08B 37/08 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C08B5/14
C08B37/08 Z
A61K9/50
A61K47/36
A61K47/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577903
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2021066640
(87)【国際公開番号】W WO2022262996
(87)【国際公開日】2022-12-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507241894
【氏名又は名称】フラオンホファー-ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】ヘットリヒ,カイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C090
【Fターム(参考)】
4C076AA61
4C076BB11
4C076BB32
4C076EE25
4C076EE33
4C076EE37
4C076FF70
4C076GG21
4C090AA05
4C090AA09
4C090BA27
4C090BA67
4C090BB63
4C090BB94
4C090CA38
4C090DA22
4C090DA23
(57)【要約】
本発明は、硫酸化多糖を調製する方法に関する。少なくとも1種の多糖および少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を含む混合物が、この方法において調製される。少なくとも1種の硫酸化剤、少なくとも1種のアセチル化剤、および少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩が混合物に添加され、その後混合物が温度処理に供されることで、少なくとも1種の多糖が少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖に変換される。少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖は混合物から分離され、硫酸化多糖に変換される。本発明はさらに、本発明による方法を使用して調製され得る硫酸化多糖に関する。本発明はさらに、マイクロカプセルおよびマイクロカプセルを生成する方法にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸化多糖を調製する方法であって、
a)少なくとも1種の多糖および少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を含む混合物が調製され、
b)少なくとも1種の硫酸化剤、少なくとも1種のアセチル化剤、および少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩を前記混合物に添加し、その後前記混合物を温度処理に供することにより、前記少なくとも1種の多糖が硫酸化酢酸多糖に変換され、
c)前記少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、前記混合物から分離され、
d)前記少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、少なくとも1種の硫酸化多糖に変換される方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種の多糖が、セルロース、ヘミセルロース、キトサン、ヒアルロン酸、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシブチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒が、
- 第三級カルボン酸アミド、例えばジメチルホルムアミド、
- カルボン酸エステル、例えばジメチルカーボネート、
- スルホキシド、例えばジメチルスルホキシド、
- ラクタム、例えばN-メチル-2-ピロリドン、および
- それらの混合物
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の多糖が前記少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒中に分散されることでステップa)における前記混合物が調製され、このようにして得られた前記混合物は、好ましくは、ステップb)の前に、10℃~150℃、好ましくは50℃~120℃の範囲内の温度で、1分~10時間、好ましくは30分~5時間の期間、撹拌されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
- 前記少なくとも1種の硫酸化剤が、硫酸、クロロ硫酸、SO
3錯体、スルファミン酸、塩化スルフリル、およびそれらの混合物からなる群から選択されること、ならびに/または
- 前記少なくとも1種のアセチル化剤が、無水酢酸、塩化アセチル、およびそれらの混合物からなる群から選択されること、ならびに/または
- 前記少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩が、ペルオキシ二硫酸カリウム、ペルオキシ二硫酸アンモニウム、ペルオキシ二硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物からなる群から選択されること
を特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)において、最初に前記少なくとも1種の硫酸化剤および前記少なくとも1種のアセチル化剤が前記混合物に添加され、次いで前記少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩が前記混合物に添加されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)における前記温度処理が、
- -10℃~150℃、好ましくは30℃~100℃、特に好ましくは45℃~80℃の範囲内の温度で、および/または
- 1分~30時間、好ましくは30分~20時間、特に好ましくは3時間~10時間の期間
行われることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップc)において、前記少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、少なくともアルコールおよび水を含有する沈殿媒体に前記混合物を添加することにより沈殿され、次いで機械的分離プロセスによって、好ましくは濾過によって分離されることで、前記少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が前記混合物から分離され、前記少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖は、好ましくは、洗浄溶液を使用して1回または複数回洗浄されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップd)において、前記少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、酢酸基のアルカリ分離によって前記少なくとも1種の硫酸化多糖に変換されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖がアルカリ溶液と混合され、このようにして生成された混合物が1分~30時間、好ましくは1時間~20時間、特に好ましくは5時間~15時間の期間撹拌されることで、前記酢酸基の前記アルカリ分離が達成され、好ましくは、前記混合物は、前記撹拌後に中和され、前記少なくとも1種の多糖が分離され、1回または複数回洗浄され、乾燥されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を使用して調製可能な、または調製される硫酸化多糖。
【請求項12】
- 水中1%溶液中で、少なくとも0.5mm
2/s、好ましくは少なくとも2mm
2/sの溶液粘度を有する、および/または
- 0.15~1.8、好ましくは0.5~1.3の範囲内の置換度DSを有する
ことを特徴とする、請求項11に記載の硫酸化多糖。
【請求項13】
少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.3、特に好ましくは少なくとも0.4のC2位における置換度DS
2、および/または最大0.9、好ましくは最大0.8、特に好ましくは最大0.7、極めて特に好ましくは最大0.6のC6位における置換度DS
6を有することを特徴とする、請求項11または請求項12に記載の硫酸化多糖。
【請求項14】
マイクロカプセルを生成する方法であって、少なくとも1種の硫酸化多糖が請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を使用して調製され、または請求項11から13のいずれか一項に記載の少なくとも1種の硫酸化多糖が提供され、
次いで、
e)前記少なくとも1種の硫酸化多糖の水溶液が調製され、
f)カプセル化される少なくとも1種の材料が前記少なくとも1種の硫酸化多糖の前記水溶液に添加され、それにより懸濁液が生成され、
g)前記懸濁液の少なくとも一部の液滴化が行われ、それにより前記懸濁液の液滴が生成され、
h)前記懸濁液の前記液滴がカチオン性ポリマーの溶液中に滴下され、前記カチオン性ポリマーは、前記硫酸化多糖と高分子電解質複合体を形成し、それにより前記液滴は、カプセル化される前記材料がカプセル化されたマイクロカプセルに変換される、方法。
【請求項15】
- ステップe)において調製された前記少なくとも1種の硫酸化多糖の前記水溶液が、水中の前記少なくとも1種の硫酸化多糖の0.5%~10%溶液であること、ならびに/または
- 前記カプセル化される少なくとも1種の材料が、生物由来の材料であるか、もしくは非生物由来の材料であること、ならびに/または
- ステップf)において、担体材料、添加剤、溶媒、例えばDMSO、保存剤、塩、グリセリン、およびそれらの混合物からなる群から選択される1種もしくは複数種の物質が、前記少なくとも1種の多糖の前記水溶液に追加的に添加されること、ならびに/または
- 前記少なくとも1種のカチオン性ポリマーが、ポリエチレンジアミン、ポリピペラジン、ポリアルギニン、ポリトリエチルアミン、スペルミン、ポリジメチルアリルアンモニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、カチオン性キトサン、カチオン性キトサンの誘導体、およびそれらの混合物からなる群から選択されること、ならびに/または
- 前記少なくとも1種のカチオン性ポリマーの前記溶液が、前記少なくとも1種のカチオン性ポリマーの水溶液であること
を特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1種のカプセル化材料および前記少なくとも1種のカプセル化材料を取り囲むシェルを備えるマイクロカプセルであって、前記シェルは、少なくとも1種のカチオン性ポリマーおよび請求項11から13のいずれか一項に記載の少なくとも1種の硫酸化多糖の高分子電解質複合体を含有する、マイクロカプセル。
【請求項17】
請求項14または請求項15に記載の方法を使用して生成可能である、または生成されることを特徴とする、請求項16に記載のマイクロカプセル。
【請求項18】
薬物としての使用、移植のプロセスにおける使用、または注射のプロセスにおける使用のための、請求項16または請求項17に記載のマイクロカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸化多糖を調製する方法に関する。少なくとも1種の多糖および少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を含む混合物が、この方法において調製される。少なくとも1種の硫酸化剤、少なくとも1種のアセチル化剤、および少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩(peroxydisulfate)が混合物に添加され、その後混合物が温度処理に供されることで、少なくとも1種の多糖が少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖(polysaccharide acetate sulfate)に変換される。少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖は混合物から分離され、硫酸化多糖に変換される。本発明はさらに、本発明による方法を使用して調製され得る硫酸化多糖に関する。本発明はさらに、マイクロカプセルおよびマイクロカプセルを生成する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース硫酸ナトリウムは、セルロースの硫酸ハーフエステルの水溶性ポリマーである。ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(ポリ(DADMAC)等のカチオン性ポリマー、対応する高分子電解質複合体は、水性溶液に液滴を添加することによって、セルロース硫酸ナトリウムの水性溶液を用いて形成され得る。それにより、染料、香料等の材料だけでなく、細胞、酵素、細菌等の生体もまたカプセル化され得る。セルロース酢酸ナトリウムは、無水硫酸、硫酸、またはそれらの誘導体等の硫酸化剤によるセルロースのヒドロキシル基のエステル化、およびその後のアジドハーフエステルの中性ナトリウム塩への変換によって形成され得る。
【0003】
ポリマー(不均一)を溶解することなく不均一相中で、またはポリマー(半均一)の溶解中もしくはポリマー(均一)の事前の溶解後に均一相中で硫酸化が行われる、セルロース硫酸ナトリウムを調製する方法が一般に知られている。
【0004】
Lukanoffら(Lukanoff,B.およびDautzenberg,H.、Das Papier、1994、6、287~298)は、反応媒体および硫酸化剤として硫酸およびプロパノールを使用する既知の不均一調製法(US2,539,451/US2,969,355)をさらに開発した。そのような不均一調製法において、反応媒体は、例えばBohlmannら(Chemie Ingenieur Technik、2021、74、359~363)に従い、まず1.8:1のモル比の96%硫酸およびイソプロパノールから調製される。ここで、セルロースの硫酸化は、-5℃で150分の期間にわたって行われる。反応混合物は、形成されたセルロース硫酸ハーフエステルから分離され、アルコールを使用して洗浄されて反応が中断される。洗浄された生成物はその後、ナトリウム苛性アルカリ溶液を使用してナトリウム塩に変換される。
【0005】
このセルロースの不均一硫酸化プロセスの実質的な欠点は、不均一相中での発熱反応であることを含み、これは、制御が困難で、必然的に、ポリマー鎖に沿った、およびその間の置換基分布(substitute distribution)に不規則性をもたらし、したがって得られる硫酸化セルロースの溶解挙動を損なう。
【0006】
不均一調製法のさらなる深刻な欠点は、硫酸化の進行中のセルロースの急速で強力な鎖長低減である。セルロースの鎖長低減を軽減するために、例えば十分な熱を除去し、したがってさらなる温度上昇を回避する洗浄ステップによって、硫酸化反応が中断される。それにもかかわらず、セルロースの全体的な固形物構造を維持しながら反応が進むため、セルロースの拡散および拡張プロセスならびに形態学的構造は、反応手順に対する実質的な影響を有している。
【0007】
0.8未満のDS範囲内の不溶性部分を分離せずに不均一調製された硫酸化セルロースの完全な水溶性を達成するために、DE4019116A1ではセルロースの事前活性化が提案されているが、それにもかかわらず、1%溶液で8.5mPasの最大値を有する非常に低粘度の生成物のみが得られる。単純な(symplex)マイクロカプセルを生成するためにこれらの硫酸化セルロースを使用した場合、非常に低い機械的強度を有するマイクロカプセルのみが生成されることが観察されるはずである。
【0008】
DE4021049によれば、水に不溶性の部分が追加的な方法ステップにより分離されるが、低い粘度を有する得られた可溶性部分が洗い流されることにより、付随的な反応生成物からより高い粘度の硫酸化セルロースが単離され得る(Lukanoff,B.およびDautzenberg,H.、Das Papier、1994、6、287~298を参照されたい)。
【0009】
その結果、不均一調製プロセスは、それから得られる比較的高い置換度(少なくともDS=0.7)の均一でない置換基分布を有する生成物をもたらし、また完全なる水溶性までセルロースを変換するのに高分子量の出発セルロースを使用するにもかかわらず、低い粘度のセルロース硫酸ナトリウムをもたらす。
【0010】
有機溶媒に可溶性の中間セルロース誘導体がセルロースの均一硫酸化に従来使用され、それにより硫酸化反応中のセルロースの鎖長低減がより良好に抑制され得る。硫酸化は、双極性非プロトン性溶媒への固形物構造の完全溶解の後またはその間に進むため、より一様な置換基分布が達成される。最終生成物はより高い溶液粘度を有し、0.25のDS値ですでに部分的に完全水溶性である。
【0011】
例えば、比較的低分子量の酢酸セルロース(DS=2.4;Cuoxam-DP約250)を使用して、ほぼ10mPasまでの合成されたセルロース硫酸ナトリウムの溶液粘度(Ubbelohde型粘度計における2N NaOh中2%溶液の測定)が得られる(DE4435180を参照されたい)。
【0012】
使用された市販の酢酸セルロース(Cuoxam-DP約200~350)の重合度(これは低すぎるため、それからは1%水溶液中で約10mPas超の溶液粘度の硫酸化セルロースが調製され得ない)は、実質的な欠点である。所与の開始重合度の酢酸セルロースでの、得られるセルロース硫酸ナトリウムの対応する溶液粘度範囲の設定が、依然として望まれている。
【0013】
混合エステル化による硫酸化酢酸セルロース、酢酸セルロース、または硫酸化セルロースの調製のための基本原理としての天然セルロースのアセト硫酸化(acetosulfating)は、長い間知られている。これに関して、ほとんど反応媒体としての氷酢酸中に無水酢酸を有する硫酸のみが、反応物質として使用された(例えばUS2,683,143を参照されたい)。スルホン酸塩化ナトリウム(sodium chloride sulfonate)もまた、硫酸の代わりに使用されている(US2,969,355)。水溶性硫酸化酢酸セルロースの調製に関するChauvelonらの研究(G.Chauvelon、Carbohydrate Research、2003、338、743~750)の結果は、標的生成物が分別でしか得ることができないほどのこの不均一反応の高い不規則性を示した。
【0014】
さらに、反応媒体としてN,N-ジメチルホルムアミドを使用して、溶解の間に進むセルロースのアセト硫酸化が可能であることが知られている。これに関して、酢酸水素化物(acetic hydride)/SO3、または無水酢酸/クロロ硫酸が反応混合物として使用される(Wagenknechtら、Das Papier、1996、50、12、712~720)。不安定なアセチル基のアルカリ分離(alkaline splitting off)後、主に無水グルコース単位のC6位の約0.8のDS値までの置換水溶性硫酸化セルロースが得られた。
【0015】
この方式で以前に合成された硫酸化セルロースの欠点は、0.6未満のDSでの不規則性を含み、これは、水性溶液の不均一性をもたらし、したがって単純な膜または安定な高分子電解質複合体の製造の不安定性をもたらす。
【0016】
アセト硫酸化によって硫酸化セルロースを調製するさらなる可能性が、EP1863851に記載されている。沈殿時の鎖長低減は、それに対応して定義される中和条件によって防止され、重合度、およびそれに関連して調製後に得られる硫酸化セルロースの溶液粘度が確定される。
【0017】
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EMIMAC)または1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(BMIMCl)等のイオン性液体への溶解後の硫酸化セルロースの調製が、DE102007035322に記載されている。高粘度の結果、この発明は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の共溶媒の添加を必要とする。イオン性液体の使用は、この調製における労力の増加に加え、欠点として挙げることができる。医学的および薬学的用途のための硫酸化セルロースの使用は、イオン性液体の使用に起因して、複雑な清浄化プロセス後にのみ可能である。さらに、大規模な技術的スケールでのイオン性液体の使用は、その高い製造費により制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
このことから、本発明の目的は、マイクロカプセルの生成に好適な硫酸化多糖を調製することができる方法を提供することであった。さらに、本発明の目的は、対応するマイクロカプセルを生成する方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、硫酸化多糖を調製する方法に関しては請求項1の特徴によって、硫酸化多糖に関しては請求項11の特徴によって、マイクロカプセルを生成する方法に関しては請求項14の特徴によって、またマイクロカプセルに関しては請求項16の特徴によって達成される。従属請求項は、有利なさらなる発展型を表している。
【0020】
したがって、本発明によれば、硫酸化多糖を調製する方法が提供され、
a)少なくとも1種の多糖および少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を含む混合物が調製され、
b)少なくとも1種の硫酸化剤、少なくとも1種のアセチル化剤、および少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩を混合物に添加し、その後混合物を温度処理に供することにより、少なくとも1種の多糖が硫酸化酢酸多糖に変換され、
c)少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、混合物から分離され、
d)少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、少なくとも1種の硫酸化多糖に変換される。
【0021】
本発明による方法のステップa)において、セルロース等の少なくとも1種の多糖およびジメチルホルムアミド等の少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を含む混合物がまず調製される。混合物は、分散液であってもよい。混合物は、例えば、少なくとも1種の多糖が少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒に分散されることで調製され得る。
【0022】
ステップb)において、少なくとも1種の硫酸化剤、少なくとも1種のアセチル化剤、および少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩が混合物(ステップa)において調製)に添加され、その後混合物が温度処理に供されることで、少なくとも1種の多糖が硫酸化酢酸多糖に変換される。ここで、好ましくは最初に少なくとも1種の硫酸化剤および少なくとも1種のアセチル化剤が混合物に添加され、次いで少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩が混合物に添加される。温度処理は、例えば、-10℃~150℃の範囲内の温度で、1分~30時間の期間行われ得る。少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖は、混合物中に溶解した形態で存在し得る。
【0023】
ステップc)において、少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖(ステップb)において調製)は、混合物から分離される。これは、例えば、少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、沈殿媒体(例えば少なくともアルコールおよび水を含有する)に混合物を添加することにより沈殿され、次いで、沈殿した少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、機械的分離プロセスによって、例えば濾過によって(混合物および沈殿媒体から)分離されることで行われ得る。
【0024】
ステップd)において、少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖は、少なくとも1種の硫酸化多糖に変換される。これは、例えば、酢酸基のアルカリ分離によって行われ得る。
マイクロカプセルの生成に、特に液滴化を用いたマイクロカプセルの生成に特に良く適した硫酸化多糖が、本発明による方法を使用して調製され得、シェルは、ポリ-(DADMAC)等のカチオン性ポリマーおよび硫酸化多糖の高分子電解質複合体を含む。医薬品有効成分等のカプセル化される材料が、そのようなマイクロカプセル内にカプセル化され得る。その結果、そのようなマイクロカプセルは、例えば、移植のプロセスにおいて、および注射のプロセスにおいて薬物として使用され得る。
【0025】
本発明による方法は、特に、少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩の使用を特徴とする。驚くべきことに、置換度の著しい増加、ひいては水に対する調製された硫酸化多糖のより良好な可溶性が、多糖のアセト硫酸化におけるペルオキシ二硫酸塩の添加によって達成され得、クロロ硫酸等の強力な硫酸化剤の使用が同時に著しく低減され得ることが見出された。これはまた、強力な硫酸化剤、特にそのより多くの部分の使用が多糖鎖の低減をもたらし得るため、有利である。したがって、置換度の増加は、少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩の使用によって、多糖鎖の長さ低減のリスクが増加することなく達成され得る。本発明による方法を使用して調製された硫酸化多糖は、置換度の増加およびそれに伴う水に対する可溶性の改善に起因して、マイクロカプセルの生成に特に良く適している。対照的に、これらの利点は、K2SO4またはNa2SO4等の硫酸塩(ペルオキシ二硫酸塩の代わり)の使用によって達成することはできない。
【0026】
ペルオキシ二硫酸塩は、漂白剤および酸化剤として技術的に使用されるが、スチレン、アクリロニトリル、およびフルオロアルケンを含む様々なアルケンの重合の開始にも使用されるペルオキシ二硫酸の塩である。重合は、ペルオキシ二硫酸塩のホモリシスにより開始される。また、ペルオキシ二硫酸ナトリウムは、土壌および地下水の回復、ならびにプリント基板上の銅のエッチングに使用され得ることも知られている。カリウムおよびアンモニウム化合物が、しばしば使用されるペルオキシ二硫酸塩である。
【0027】
本発明による方法において、いわゆる硫酸化酢酸多糖、例えば硫酸化酢酸セルロースが合成中に形成される。この混合エステルは、セルロース等の純粋な多糖とは異なり、DMF等の非プロトン性溶媒に可溶である。したがって、本発明による方法において使用される合成は、準均一な合成であり、これは、多糖とは異なり溶媒に可溶である誘導体への多糖の修飾が行われることで、溶媒への多糖の溶解が合成中に行われることを意味する。硫酸化酢酸多糖の可溶性は、ポリマー鎖に沿った置換基の均一な分布をもたらす。そのような均一な分布は、溶解プロセスにおいて役立つ。したがって、準均一合成を用いて得られた硫酸化多糖は、均一な置換基分布に起因して改善された可溶性を有する。
【0028】
対照的に、先行技術においてしばしば使用される不均一合成(すなわちセルロース+溶媒+反応物質=2つの相)では、無水グルコース単位(AGU)(または無水単糖単位または糖単位)において、および多糖鎖に沿って置換基の均一でない分布が典型的に得られる。例えば、AGUには、セルロースおよび硫酸による硫酸化セルロースの不均一合成において、2位、3位および/または6位に均一でない置換が存在する。さらに、2回またはさらには3回置換されるAGUもあれば、ポリマー鎖に沿って全く置換されないAGUもあることが生じ得る。すると、そのような生成物は結果として確かに例えば0.7の全置換度DSを有するが、同時に、DSがそれより著しく高い領域、およびDSがそれより著しく低い他の領域を有し得る。そのような生成物は結果として著しく不良な特性、例えばより低い水に対する可溶性を有し、したがってマイクロカプセルの生成への適性がより低い。
【0029】
先行技術では、溶媒への多糖の溶解が合成の前に行われる均一合成において、および多糖の溶解が合成中に誘導体への修飾によって行われる準均一合成において、典型的にはポリマー鎖に沿った置換基の均一な分布、およびしばしばAGU(または無水単糖単位)内に位置選択的な置換が存在する。したがって、アセト硫酸化において、多くの場合置換はまず主にC6位に生じる。
【0030】
対照的に、準均一系に基づく本発明による方法では、AGU(または無水単糖単位)内に異なる位置選択的置換基分布が得られる。したがって、置換は、例えば、主にC6位だけでなく、C2位のより広範囲にまで生じ、よって、ポリマー鎖に沿った置換基の均一な分布に加えて、AGU(または無水単糖単位)内の置換基のより均一な分布もまた得られる。驚くべきことに、ペルオキシ二硫酸塩の使用に起因する特定の位置選択的置換基分布、およびそれから生じるAGU(または無水単糖単位)内のより均一な置換基の分布は、ポリマー鎖に沿った置換基の均一な分布と共に、調製された硫酸化酢酸多糖の水に対するさらにより良好な可溶性をもたらすことが見出された。本発明による方法を使用して調製された硫酸化多糖はまた、この理由によりマイクロカプセルの生成に特に良く適している。
【0031】
全体的に見ると、本発明による方法を使用して調製された硫酸化多糖は、特定の調製に起因して、より高い置換度、均一な置換基分布、および有利な位置選択的置換基分布(AGUまたは無水単糖単位内)を有する。これらの有利な特性は、調製された硫酸化多糖の水に対する非常に良好な可溶性をもたらし、よって本発明による方法を使用して調製された硫酸化多糖は、マイクロカプセルの生成に特に良く適している。
【0032】
本発明による方法の好ましい変形例は、少なくとも1種の多糖が、セルロース、ヘミセルロース、キトサン、ヒアルロン酸、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシブチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする。少なくとも1種の多糖は、特に好ましくはセルロースである。
【0033】
本発明による方法のさらに好ましい変形例によれば、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒は、
- 第三級カルボン酸アミド、例えばジメチルホルムアミド、
- カルボン酸エステル、例えばジメチルカーボネート、
- スルホキシド、例えばジメチルスルホキシド、
- ラクタム、例えばN-メチル-2-ピロリドン、および
- それらの混合物
からなる群から選択される。
【0034】
本発明による方法のさらに好ましい変形例は、少なくとも1種の多糖が少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒中に分散されることでステップa)における混合物が調製されることを特徴とする。このようにして得られた混合物(または分散液)は、好ましくは、ステップb)の前に、10℃~150℃、好ましくは50℃~120℃の範囲内の温度で、および/または1分~10時間、好ましくは30分~5時間の期間撹拌される。
【0035】
本発明による方法のさらに好ましい変形例は、
- 少なくとも1種の硫酸化剤が、硫酸、クロロ硫酸、SO3錯体、スルファミン酸、塩化スルフリル、およびそれらの混合物からなる群から選択されること、ならびに/または
- 少なくとも1種のアセチル化剤が、無水酢酸、塩化アセチル、およびそれらの混合物からなる群から選択されること、ならびに/または
- 少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩が、ペルオキシ二硫酸カリウム、ペルオキシ二硫酸アンモニウム、ペルオキシ二硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物からなる群から選択されること
を特徴とする。
【0036】
本発明による方法のさらに好ましい変形例によれば、ステップa)において調製された混合物は、最大3モル/モルAGU(または無水単糖単位)、好ましくは最大2モル/モルAGU(または無水単糖単位)、特に好ましくは最大1モル/モルAGU(または無水単糖単位)、および極めて特に好ましくは0.5モル/モルAGU(または無水単糖単位)の少なくとも1種の硫酸化剤を含有する。
【0037】
本発明による方法のさらに好ましい変形例は、ステップb)において、最初に少なくとも1種の硫酸化剤および少なくとも1種のアセチル化剤が混合物に添加され、次いで少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩が混合物に添加されることを特徴とする。
【0038】
本発明による方法のさらなる好ましい変形例は、ステップb)における温度処理が、
- -10℃~150℃、好ましくは30℃~100℃、特に好ましくは45℃~80℃の範囲内の温度で、および/または
- 1分~30時間、好ましくは30分~20時間、特に好ましくは3時間~10時間の期間
行われることを特徴とする。
【0039】
本発明による方法のさらに好ましい変形例によれば、ステップc)において、少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、少なくともアルコールおよび水を含有する沈殿媒体に混合物を添加することにより沈殿され、次いで機械的分離プロセスによって、好ましくは濾過によって分離されることで、少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が混合物から分離される。少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖は、好ましくは、分離後に1回または複数回洗浄溶液を使用して洗浄される。
【0040】
本発明による方法のさらに好ましい変形例は、ステップd)において、少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、酢酸基のアルカリ分離によって少なくとも1種の硫酸化多糖に変換されることを特徴とする。少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖がアルカリ溶液と混合され、このようにして生成された混合物が1分~30時間、好ましくは1時間~20時間、特に好ましくは5時間~15時間の期間撹拌されることで、酢酸基のアルカリ分離が好ましくは達成される。混合物が撹拌後に中和され、少なくとも1種の多糖が分離され、1回または複数回洗浄され、乾燥されることが好ましい。
【0041】
本発明はさらに、本発明による方法を使用して調製され得る、または調製される硫酸化多糖に関する。
本発明による硫酸化多糖は、個々のAGU(または無水単糖単位)内に特定の位置選択的置換基分布を有し、これにより、本発明による硫酸化多糖は、本発明による方法に起因して、特にペルオキシ二硫酸塩の使用に起因して、すでに知られている硫酸化多糖とは異なる。厳密な置換基分布はまた、調製においてそれぞれ使用される多糖にある程度依存し、したがって、全ての硫酸化多糖に当てはまる一般的な置換基分布を与えることはできない。その結果、本発明による硫酸化多糖は、調製プロセスにより特徴付けられる。
【0042】
多糖化学では、置換度は、糖単位(または無水単糖単位)内でどれほど多くのOH基が置換されたかを示す。セルロースの場合、DS値は最大3で、グルコース単位(またはAGU)内に3つのOH基となり得る。原則として、また決定方法に応じて、置換度は、元素分析による硫黄および窒素等のヘテロ原子の決定等において、合計パラメータとして与えられる。13C-NMR分光法等の特定の分光法では、ある特定の状況下で構造単位における位置選択性の関連付けが可能である。したがって、C6位、C2位、およびC3位での置換を決定することが可能となり得る。
【0043】
硫酸化多糖に関しては、個々のC位置の置換度、例えば硫酸化多糖のC2位での置換度DS2またはC6位での置換度DS6は、13C-NMR分光法を用いて決定され得る。ここで、NMRスペクトルの測定は、例えばD2O中で60℃で行われ得る。置換は、13C-NMRスペクトルからの信号を積分し、C原子、例えばC1の信号に標準化することにより定量され得る。そのような手順は、例えば、Zhantら、「Synthesis and spectroscopic analysis of cellulose sulfates with regulable total degrees of substitution and sulfation patterns via 13C NMR and FT Raman spectroscopy」、Polymer、52(1)、26~32頁に記載されている。
【0044】
本発明による硫酸化多糖の好ましい実施形態は、硫酸化多糖が、
- 水中1%溶液中で、少なくとも0.5mm2/s、好ましくは少なくとも2mm2/sの溶液粘度を有する、および/または
- 0.15~1.8、好ましくは0.5~1.3の範囲内の(全)置換度DSを有する(例えば、元素分析を用いて決定される硫酸化多糖の硫黄含有量を介して、または13C-NMR分光法を介して決定される)
ことを特徴とする。
【0045】
溶液粘度は、例えば、DIN51562-1:1999-01を用いて決定され得る。
置換度DSまたは全置換度DSは、C位置において(ヒドロキシル基の硫酸基への)置換が生じ得る割合、すなわち、元の多糖においてヒドロキシル基が存在し、かつ(元のヒドロキシル基の硫酸基への)置換が実際に生じた割合を示す。(全)置換度DSは、0~zの範囲内の値をとることができ、ここで、zは、(ヒドロキシル基の硫酸基への)置換が生じ得る、すなわち、元の多糖においてヒドロキシル基が存在する、多糖の無水グルコース単位におけるC位置の数に対応する。例えば、セルロースの無水グルコース単位は、(ヒドロキシル基の硫酸基への)置換が生じ得る3つのC位置、すなわちC2位、C3位、およびC6位を含有する。(全)置換度DSの硫酸化セルロースは、結果として0~3の範囲内の値をとり得、最小値0では、いかなる位置でも置換は生じておらず、最大値3では、置換は多糖におけるC2、C3およびC6位全てで生じている。例えば、硫酸化セルロースの(全)置換度DSの1.5という値は、(元のヒドロキシル基の硫酸基への)置換が、硫酸化多糖の全ての可能な置換位置(すなわちC2、C3、およびC6位の全ての合計)の50%または半分で生じたことを意味する。ここで、(全)置換度DSは、個々のC位置において置換度がどれほど高いかについていかなる直接的な結論も引き出すことを許容するものではない。例えば、硫酸化セルロースの(全)置換度DSの1.5という値は、(硫酸基によるヒドロキシル基の)置換が、C6位の全て、C2位の半分で生じ、C3位では生じなかったことを意味し得る。あるいはまた一方で、例えば、硫酸化セルロースの(全)置換度DSの1.5という値は、(硫酸基によるヒドロキシル基の)置換が、C6位の半分、C2位の半分、およびC3位の半分で生じたことを意味し得る。
【0046】
置換度DSまたは全置換度DSは、硫酸化多糖の硫黄含有量を介して決定され得、硫酸化多糖の硫黄含有量の決定は、元素分析を用いて行うことができる。硫黄含有量を介した置換度の決定は、以下の式(A)を用いて行うことができる。
式(A) DS=(MPS×S[%])/(100×MS-ΔM×S[%])
式中、MSは、決定される元素の、この場合では硫黄のモル質量であり、MPSは、使用される多糖のモル質量であり、ΔMは、新たな置換基(例えばSO3)と脱離基(例えばH)との間のモル質量の差である。そのような置換度の決定はまた、例えば、Rohowskyら、Carbohydr.Polymers、2016、142、56~62に記載されている。
【0047】
あるいは、置換度DSまたは全置換度DSはまた、13C-NMR分光法を用いて決定され得る。ここで、NMRスペクトルの測定は、D2O中で60℃で行われ得る。次いで、13C-NMRスペクトルからの信号を積分し、C原子、例えばC1の信号に標準化することによって、13C-NMRスペクトルからの置換度の決定が行われ得る(例えば、Zhangら、Polymer、52(1)、26~32頁を参照されたい)。AGU(または無水単糖単位)における個々のC原子での置換もまた、13C-NMR分光法によって決定され得る。
【0048】
本発明による硫酸化多糖のさらなる好ましい実施形態は、硫酸化多糖が少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.3、特に好ましくは少なくとも0.4のC2位置における置換度DS2、および/または最大0.9、好ましくは最大0.8、特に好ましくは最大0.7、極めて特に好ましくは最大0.6のC6位置における置換度DS6を有することを特徴とする。
【0049】
個々のC位置の置換度、例えば硫酸化多糖のC2位での置換度DS2およびC6位での置換度DS6は、13C-NMR分光法を用いて決定され得る。ここで、NMRスペクトルの測定は、D2O中で60℃で行われ得る。次いで、13C-NMRスペクトルからの信号を積分し、C原子、例えばC1の信号に標準化することによって、13C-NMRスペクトルからの個々の置換度の決定が行われ得る(例えば、Zhangら、Polymer、52(1)、26~32頁を参照されたい)。
【0050】
本発明による硫酸化多糖の極めて特に好ましい実施形態は、硫酸化多糖が硫酸化セルロースであり、硫酸化セルロースが、少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.3、特に好ましくは少なくとも0.4のC2位における置換度DS2、および/または最大0.9、好ましくは最大0.8、特に好ましくは最大0.7、極めて特に好ましくは最大0.6のC6位における置換度DS6を有することを特徴とする。
【0051】
本発明はまた、少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.3、特に好ましくは少なくとも0.4のC2位における置換度DS2、および/または最大0.9、好ましくは最大0.8、特に好ましくは最大0.7、極めて特に好ましくは最大0.6のC6位における置換度DS6を有する硫酸化多糖(好ましくは硫酸化セルロース)に関する。
【0052】
本発明はさらに、マイクロカプセルを生成する方法に関し、
- 硫酸化多糖を調製するための本発明による方法を使用して、少なくとも1種の硫酸化多糖が調製され、または
- 本発明による少なくとも1種の硫酸化多糖が提供され、
次いで、
e)少なくとも1種の硫酸化多糖の水溶液が調製され、
f)カプセル化される少なくとも1種の材料が少なくとも1種の硫酸化多糖の水溶液に添加され、それにより懸濁液が生成され、
g)懸濁液の少なくとも一部の液滴化が行われ、それにより懸濁液の液滴が生成され、
h)懸濁液の液滴が少なくとも1種のカチオン性ポリマーの溶液中に滴下され、カチオン性ポリマーは、硫酸化多糖と高分子電解質複合体を形成し、それにより液滴は、カプセル化される材料がカプセル化されたマイクロカプセルに変換される。
【0053】
マイクロカプセルを生成するための本発明による方法の好ましい変形例は、方法において、
a)少なくとも1種の多糖および少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を含む混合物が調製され、
b)少なくとも1種の硫酸化剤、少なくとも1種のアセチル化剤、および少なくとも1種のペルオキシ二硫酸塩を混合物に添加し、その後混合物を温度処理に供することにより、少なくとも1種の多糖が硫酸化酢酸多糖に変換され、
c)少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、混合物から分離され、
d)少なくとも1種の硫酸化酢酸多糖が、少なくとも1種の硫酸化多糖に変換され、
e)少なくとも1種の硫酸化多糖の水溶液が調製され、
f)カプセル化される少なくとも1種の材料が少なくとも1種の硫酸化多糖の水溶液に添加され、それにより懸濁液が生成され、
g)懸濁液の少なくとも一部の液滴化が行われ、それにより懸濁液の液滴が生成され、
h)懸濁液の液滴が少なくとも1種のカチオン性ポリマーの溶液中に滴下され、カチオン性ポリマーは、硫酸化多糖と高分子電解質複合体を形成し、それにより液滴は、カプセル化される材料がカプセル化されたマイクロカプセルに変換される
ことを特徴とする。
【0054】
生成されたマイクロカプセルは、好ましくは、0.1μm~1,000,000μm、特に1μm~10000μm、極めて特に好ましくは10μm~1000μmの直径を有する。
【0055】
本発明による方法のさらに好ましい変形例は、
- ステップe)において調製された少なくとも1種の硫酸化多糖の水溶液が、水中の少なくとも1種の硫酸化多糖の0.5%~10%溶液であること、ならびに/または
- カプセル化される少なくとも1種の材料が、生物由来の材料であるか、もしくは非生物由来の材料であること、ならびに/または
- ステップf)において、担体材料、添加剤、溶媒、例えばDMSO、保存剤、塩、グリセリン、およびそれらの混合物からなる群から選択される1種もしくは複数種の物質が、少なくとも1種の多糖の水溶液に追加的に添加されること、ならびに/または
- 少なくとも1種のカチオン性ポリマーが、ポリエチレンジアミン、ポリピペラジン、ポリアルギニン、ポリトリエチルアミン、スペルミン、ポリジメチルアリルアンモニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、カチオン性キトサン、カチオン性キトサンの誘導体、およびそれらの混合物からなる群から選択されること、ならびに/または
- 少なくとも1種のカチオン性ポリマーの溶液が、少なくとも1種のカチオン性ポリマーの水溶液であること
を特徴とする。
【0056】
カプセル化される少なくとも1種の材料は、生物由来の少なくとも1種の材料であってもよい。あるいは、カプセル化される少なくとも1種の材料は、非生物由来の少なくとも1種の材料であってもよい。例えば、カプセル化される少なくとも1種の材料は、少なくとも1種の医薬品有効成分であってもよい。例えば、カプセル化される少なくとも1種の材料は、薬物として使用される少なくとも1種の物質であってもよい。医薬品有効成分または薬物は、マイクロカプセル内にカプセル化されて移植または注射され得る。
【0057】
あるいは、カプセル化される少なくとも1種の材料は、医薬品有効成分ではなく、また薬物でもない少なくとも1種の物質であってもよい。
また、本発明はさらに、少なくとも1種のカプセル化される材料および少なくとも1種のカプセル化される材料を取り囲むシェルを備えるマイクロカプセルに関し、シェルは、少なくとも1種のカチオン性ポリマーおよび本発明による少なくとも1種の硫酸化多糖の高分子電解質複合体を含有する。
【0058】
好ましくは、本発明によるマイクロカプセルは、マイクロカプセルを生成するための本発明による方法を使用して生成され得るか、または生成される。
本発明によるマイクロカプセルは、好ましくは、0.1μm~1,000,000μm、特に好ましくは1μm~10000μm、極めて特に好ましくは10μm~1000μmの直径を有する。
【0059】
本発明はまた、薬物としての使用、移植のプロセスにおける使用、または注射のプロセスにおける使用のための本発明によるマイクロカプセルに関する。
本発明はさらに、移植のプロセスにおける、または注射のプロセスにおける薬物としての、本発明によるマイクロカプセルの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明を以下の図および例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は具体的に示されたパラメータに限定されない。
【実施例】
【0061】
実施形態1
5g(atro)のセルロース(コットンリンター)を150mlのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中に分散させ、85℃で2時間撹拌する。
【0062】
80mLのDMF中の4mLのクロロ硫酸(1モル/モルAGU)+70mLの無水酢酸(12モル/モルAGU)を添加することによって、硫酸化を開始した。その後、50mLのDMF中の8.3kgのK2S2O8(0.5モル/モルAGU)の懸濁液を添加する。65℃の温度で合成を行った。ポリマーは、1~2時間後に溶媒に溶解する。
【0063】
750mLのエタノールに加えられた21gの水酸化ナトリウム(NaOH)、42gのH2O、および10gの酢酸ナトリウムで構成された室温の沈殿媒体にポリマー溶液を徐々に注ぎ込む(10分以内)ことによって、連続的に撹拌しながら5時間後に沈殿を行った。沈殿の終了後1時間の間、撹拌を継続した。その後濾過を行い、エタノール-水混合物(1:1、w/w)中4%(w/w)の酢酸ナトリウムからなる洗浄溶液で3回、それぞれ300mLで洗浄した。その後、ポリマーまたは沈殿生成物をアルカリ溶液(8gのNaOH、16gの60、200mLのエタノール)中で12時間撹拌し、酢酸基を分離した。酢酸エタノール溶液での中和後(6~9のpH設定)、それぞれ300mLのエタノールで3回の洗浄を行い、洗浄後の生成物を真空乾燥棚内で乾燥させた。
【0064】
このようにして調製された硫酸化セルロースは、0.8の全置換度DS(式(A)を使用し、元素分析を用いて決定された硫酸化セルロースの硫黄含有量を介して決定)、および14mm2/sの粘度(DIN51562-1:1999-01に従い決定)を有する。調製された硫酸化セルロースのさらなる特性は、表1に見ることができる。
【0065】
さらに、調製された硫酸化セルロースのD
2O中での
13C-NMRスペクトルを60℃の温度で記録した。得られたスペクトルを
図1に示す。
13C-NMRスペクトルから、調製された酢酸セルロースがC2位において0.30の置換度DS
2を、またC6位において0.49の置換度DS
6を有すると決定することができた。決定は、
13C-NMRスペクトルからの信号を積分し、C原子、例えばC1の信号に標準化することによって行われた(例えば、Zhangら、Polymer、52(1)、26~32頁を参照されたい)。したがって、0.79の(全)置換度DSが
13C-NMRスペクトルから得られ、これは、硫黄含有量を介して丸め精度内で決定された0.8の(全)置換度に相関する。
【0066】
実施形態2
5g(atro)のセルロース(コットンリンター)を150mlのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中に分散させ、85℃で2時間撹拌する。
【0067】
80mLのDMF中の2mLのクロロ硫酸(0.5モル/モルAGU)+70mLの無水酢酸(12モル/モルAGU)を添加することによって、硫酸化を開始した。その後、50mLのDMF中の14gの(NH4)2S2O8(1モル/モルAGU)の懸濁液を添加する。75℃の温度で合成を行った。ポリマーは、約1~2時間後に溶媒に溶解する。
【0068】
沈殿および調製は、実施例1に記載のように6時間後に行った。
このようにして調製された硫酸化セルロースは、1.2の全置換度DS(式(A)を使用し、元素分析を用いて決定された硫酸化セルロースの硫黄含有量を介して決定)、および2mm2/sの粘度(DIN51562-1:1999-01に従い決定)を有する。調製された硫酸化セルロースのさらなる特性は、表1に見ることができる。
【0069】
さらに、調製された硫酸化セルロースのD
2O中での
13C-NMRスペクトルを60℃の温度で記録した。得られたスペクトルを、
図2に示す。
13C-NMRスペクトルから、調製された酢酸セルロースがC2位において0.35の置換度DS
2を、またC6位において0.77の置換度DS
6を有すると決定することができた。決定は、
13C-NMRスペクトルからの信号を積分し、C原子、例えばC1の信号に標準化することによって行われた(例えば、Zhangら、Polymer、52(1)、26~32頁を参照されたい)。したがって、1.12の(全)置換度DSが
13C-NMRスペクトルから得られ、これは、硫黄含有量を介して丸め精度内で決定された1.2の(全)置換度に相関する。
【0070】
実施形態3
5g(atro)の微結晶セルロース(MCC)を150mlのDMF中に分散させ、85℃で3時間撹拌した。
【0071】
50mLのDMFに溶解した2.5gの硫酸トリオキシド/ピリジン複合体(0.5モル/モルAGU)+70mLの無水酢酸(12モル/モルAGU)を添加することによって、硫酸化を開始した。60℃の温度で合成を行った。その後、50mLのDMF中の14gの(NH4)2S2O8(4モル/モルAGU)の懸濁液を添加する。ポリマーは、1~2時間後に溶媒に溶解する。
【0072】
沈殿および調製は、実施例1に記載のように4時間後に行った。
このようにして調製された硫酸化セルロースは、0.85の全置換度DS(式(A)を使用し、元素分析を用いて決定された硫酸化セルロースの硫黄含有量を介して決定)、および1mm2/sの粘度(DIN51562-1:1999-01に従い決定)を有する。調製された硫酸化セルロースのさらなる特性は、表1に見ることができる。
【0073】
実施形態4
5g(atro)のセルロース(モミパルプ)を150mlのDMF中に分散させ、85℃で3時間撹拌した。
【0074】
80mLのDMF中の1.2mlの硫酸(0.7モル/モルAGU)+70mLの無水酢酸(12モル/モルAGU)を添加することによって、硫酸化を開始した。その後、50mLのDMF中の8.3kgのK2S2O8(0.5モル/モルAGU)の懸濁液を添加する。50℃の温度で合成を行った。ポリマーは、約1~2時間後に溶媒に溶解する。
【0075】
沈殿および調製は、実施例1に記載のように8時間後に行った。
このようにして調製された硫酸化セルロースは、1.0の全置換度DS(式(A)を使用し、元素分析を用いて決定された硫酸化セルロースの硫黄含有量を介して決定)、および10mm2/sの粘度(DIN51562-1:1999-01に従い決定)を有する。調製された硫酸化セルロースのさらなる特性は、表1に見ることができる。
【0076】
実施形態5
5g(atro)のセルロース(ユーカリパルプ)を150mlのDMF中に分散させ、85℃で3時間撹拌した。
【0077】
80mLのDMF中の2mLのクロロ硫酸(0.5モル/モルAGU)+70mLの無水酢酸(12モル/モルAGU)を添加することによって、硫酸化を開始した。その後、50mLのDMF中の14gの(NH4)2S2O8(4モル/モルAGU)の懸濁液を添加する。75℃の温度で合成を行った。ポリマーは、約1~2時間後に溶媒に溶解する。
【0078】
沈殿および調製は、実施例1に記載のように6時間後に行った。
このようにして調製された硫酸化セルロースは、1.3の全置換度DS(式(A)を使用し、元素分析を用いて決定された硫酸化セルロースの硫黄含有量を介して決定)、および22mm2/sの粘度(DIN51562-1:1999-01に従い決定)を有する。調製された硫酸化セルロースのさらなる特性は、表1に見ることができる。
【0079】
実施形態6
5g(atro)のアラビノキシラン(カバノキ)を150mlのDMF中に分散させ、85℃で3時間撹拌した。
【0080】
80mLのDMF中の1.2mLのクロロ硫酸(0.5モル/モルAGU)+70mLの無水酢酸(12モル/モルAGU)を添加することによって、硫酸化を開始した。その後、50mLのDMF中の5.4kgのK2S2O8(0.5モル/モルAGU)の懸濁液を添加する。55℃の温度で合成を行った。ポリマーは、約1~2時間後に溶媒に溶解する。
【0081】
沈殿および調製は、実施例1に記載のように6時間後に行った。ただし、最後の洗浄ステップは、透析管を利用して行った。
このようにして調製された硫酸化アラビノキシランは、0.9の全置換度DS(式(A)を使用し、元素分析を用いて決定された硫酸化アラビノキシランの硫黄含有量を介して決定)、および2mm2/sの粘度(DIN51562-1:1999-01に従い決定)を有する。調製された硫酸化アラビノキシランのさらなる特性は、表1に見ることができる。
【0082】
【0083】
表1中の(全)置換度DSSは、式(A)を使用し、元素分析を用いて決定された硫酸化セルロースの硫黄含有量を介して決定された。表1中の(全)置換度DSNMRは、13C-NMRスペクトルからの信号を積分し、C原子、例えばC1の信号に標準化することによって、13C-NMR分光法を用いて決定された(例えば、Zhangら、Polymer、52(1)、26~32頁を参照されたい)。表1中の粘度の値は、DIN 51562-1:1999-01に従って決定された。表1中の曇りの値は、DIN EN ISO7027-1:2016-11を用いて決定された。
【0084】
マイクロカプセルは、実施例1~6に従って調製された硫酸化多糖の全てを用いて成功裏に生成することができた。実施例6において得られた硫酸化多糖では、不定形のマイクロカプセルのみを得ることができた。
【0085】
実施形態7
実施例1において調製された硫酸化セルロースからの対応する重量の部分により、水溶液(1%w/w)を調製する。物質が完全に溶解した後、カプセル化される材料を少なくとも1種の硫酸化多糖の水溶液に添加し、それにより懸濁液を生成する。その後、硫酸化セルロース溶液を、1%の市販のポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド溶液(ポリDADMAC溶液)に滴下することによって添加する。均一な丸い球状粒子(マイクロカプセル)が得られる。カプセル化される材料を、得られたマイクロカプセル内にカプセル化する。得られたカプセルを、
図3および
図4の撮影写真に示す。
【国際調査報告】