(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】付加製造された自己ゲル化構造物の製造方法及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
A61L 27/14 20060101AFI20240614BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240614BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240614BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240614BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61L27/14
A61L27/20
A61L27/38 112
A61L27/52
A61K45/00
A61K9/14
A61K9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577905
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 US2022021007
(87)【国際公開番号】W WO2022265705
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523472272
【氏名又は名称】ディメンション インクス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】DIMENSION INX CORP
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ジャクス、アダム イー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA22
4C076AA29
4C076BB11
4C076EE01
4C076EE37
4C081AB01
4C081AB05
4C081AB11
4C081BA13
4C081BB08
4C081BB09
4C081BC02
4C081CD081
4C081CE02
4C081DB03
4C081EA02
4C084AA17
4C084MA28
4C084MA43
4C084NA13
(57)【要約】
自己ゲル化材料及び構造物、即ち、1つ以上の自己ゲル化成分を有する材料又は構造物が開示され、医療用途のためのヒドロゲル局在化に起因する既存の制限を解決するものであり、例えば、1)微細構造的に、即ち物理的に固着される特性が、ゲル及びプリントされた又は別様に形成された構造物全体を局在化させるのに役立ち、ゲルに構造形態を与え、これによりゲルが体内で局在化され適所に縫合されることさえ可能となり、ゲルの移動を軽減し、その滞留時間を延長し;2)基礎となる3Dプリントされた構造が、埋植後にゲルを含んで支持するのに役立つ、等によって提供される。自己ゲル化3Dプリントされた構造は、元のより大きな構造物の成分及びナノ/ミクロ構造と共に、分解足場マイクロ顆粒を生成するため、粉砕による更なる処理を施してもよい。分解足場マイクロ顆粒は、注入可能なゲルへの形態を付与すべく、マイクロ顆粒が埋め込まれた注入可能なゲルネットワークを形成するため、水和されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の自己ゲル化成分を有する3Dプリントされた構造物であって、
前記3Dプリント構造物は、
多孔性ポリマーマトリックス構造内に埋め込まれた乾燥ゲル化粉末を含み、
前記ゲル化粉末は、前記ゲル化粉末をゲル化させる水溶液と接触させたときにゲルを形成するように構成されている、構造物。
【請求項2】
前記多孔性ポリマーマトリックス構造内に埋め込まれたマイクロ粒子及びナノ粒子をさらに含み、前記マイクロ粒子及びナノ粒子は、導電性材料、セラミック材料、金属材料、及び生体由来材料のうちの1つ以上である、請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックス構造は、生体適合性ポリマーを含む、請求項1に記載の構造物。
【請求項4】
前記ゲルは、前記生体適合性ポリマーマトリックス構造の微細構造内に物理的に固着される、請求項3に記載の構造物。
【請求項5】
1つ以上の自己ゲル化成分を有する3Dプリント構造物をプリントするためのインク組成物であって、前記インク組成物は、
溶媒系ポリマー押出し物を含み、
前記溶媒系ポリマー押出し物は、前記ポリマー内に封入されるか、又は組み込まれる乾燥ゲル化粉末を含んで維持し、押出し後に乾燥させたアルコール中及び水洗浄で洗浄され、押出し後に乾燥させると保存安定性があり乾燥形態にある状態を保ち、押出し後に水性溶液中で水和させるとゲル化するように構成されている、インク組成物。
【請求項6】
前記インク組成物は、ゲルではなく、且つゲルを含まない、請求項5に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記乾燥ゲル化粉末は、100μm未満の平均粒子サイズを有する、請求項5に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記溶媒系ポリマー押出し物には、導電性材料、セラミック材料、金属材料、及び生体由来材料のうちの1つ以上であるナノスケール材料及びマイクロスケール材料のうちの1つ以上を含む、付加的な粉末成分が懸濁されている、請求項5に記載のインク組成物。
【請求項9】
1つ以上の自己ゲル化成分を有したポリマー構造物を形成する方法であって、
溶媒系ポリマーと乾燥させたゲル化粉末とを組み合わせてインクを形成し、前記インクを押し出して、乾燥させたゲル化粉末が埋め込まれたマイクロ多孔性ポリマーマトリックスを有する構造物を形成するステップと、
残留溶媒を除去するために、一連のアルコール溶液洗浄及び水洗浄によって、ゲル化粉末が埋め込まれた構造を有した前記マイクロ多孔性ポリマーマトリックスを有する前記構造物を洗浄するステップと、
前記洗浄するステップにおいて前記乾燥させたゲル化粉末を活性化させ、ゲル化させるステップであって、前記乾燥させたゲル化粉末は、水を吸収して前記乾燥させたゲル化粉末をゲルに変換し、前記ゲルは、前記マイクロ多孔性ポリマーマトリックスを充填し、前記マイクロ多孔性ポリマーマトリックスから滲出し、前記マイクロ多孔性ポリマーマトリックスを封入する、ステップと、
前記マイクロ多孔性ポリマーマトリックスを含んで封入する前記ゲルを乾燥させて、保存安定性がある構造物にするとともに乾燥形態にするステップと、
前記保存安定性がある構造物を水性溶液中で水和させるステップとを含む、方法。
【請求項10】
前記溶媒系ポリマーは、生体適合性ポリマーである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記乾燥させたゲル化粉末は、機械的に粉砕されて、分解足場マイクロ顆粒粒子を有するゲル化粉末を生成する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
乾燥させたゲル化粉末が埋め込まれたマイクロ多孔性ポリマーマトリックスを有する前記構造物を水和させることによって、ゲルネットワークによって接続され、前記ゲルネットワーク内に懸濁された離散したマイクロ顆粒の相互に接続したネットワークから、マイクロ顆粒が埋め込まれたゲル懸濁物を形成するステップと、
前記マイクロ顆粒が埋め込まれたゲル懸濁物をシリンジによって注入するステップであって、前記ゲル懸濁物は、前記洗浄するステップの前にナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマー粒子の別個のユニット内に固着され前記ユニットを取り囲む、連続したゲルを含む別の構造物を形成し、前記ゲルは、前記水和させるステップの後に、前記ナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマー粒子内に物理的に固着されるステップとをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記水和させるステップは、前記保存安定性がある構造物を患者に埋植するステップである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
1つ以上の自己ゲル化成分を有する3Dプリント構造物であって、前記3Dプリント構造物は、
水性溶液中でゲルを形成するように構成された離散した乾燥粒子の無水洗浄された吸収性の乾燥ゲル化粉末を封入した又は組み込んだポリマーマトリックス構造を含む、構造物。
【請求項15】
前記ゲル化粉末からのゲルは、ゲル化により前記ポリマーマトリックス構造の微細構造内に固着されるように構成されている、請求項14に記載の構造物。
【請求項16】
ゲル化により前記ポリマーマトリックス構造内に封入された又は組み込まれた固体-ゲル懸濁物に封入されることによって、前記多孔性ポリマーマトリックス構造内に埋め込まれるように構成されたマイクロ粒子及びナノ粒子のネットワークをさらに含む、請求項14に記載の構造物。
【請求項17】
前記ポリマーマトリックス構造は、生体適合性ポリマーを含む、請求項14に記載の構造物。
【請求項18】
前記構造物はゲルではなく、且つゲルを含まない、請求項14に記載の構造物。
【請求項19】
1つ以上の自己ゲル化成分を有する3Dプリント構造物をプリントするためのインク組成物であって、前記インク組成物は、
凍結乾燥された、離散した乾燥粒子の無水洗浄された吸収性の乾燥ゲル化粉末を封入した又は組み込んだ溶媒系ポリマーを含み、前記ゲル化粉末は、押出し後に水性溶液中でゲル化するように構成されている、インク組成物。
【請求項20】
ゲル化により前記ポリマーマトリックス構造内に封入される又は組み込まれる固体-ゲル懸濁物に封入されることによって、前記溶媒系ポリマーから形成される多孔性ポリマーマトリックス構造内に埋め込まれるように構成されたマイクロ粒子及びナノ粒子をさらに含む、請求項19に記載のインク組成物。
【請求項21】
前記溶媒系ポリマーは、溶媒系生体適合性ポリマーである、請求項19に記載のインク組成物。
【請求項22】
前記インク組成物は、ゲルではなく、且つゲルを含まない、請求項19に記載のインク組成物。
【請求項23】
前記乾燥ゲル化粉末は、100μm未満の平均粒子サイズを有する、請求項19に記載のインク組成物。
【請求項24】
導電性材料又は生体由来材料のうちの1つ以上の粉末成分が、前記溶媒系ポリマーに付加的に封入されるか、又は組み込まれる、請求項19に記載のインク組成物。
【請求項25】
1つ以上の自己ゲル化成分を有したポリマー構造物を形成する方法であって、
溶媒系ポリマーと乾燥させたゲル化粉末とを組み合わせてインクを形成し、前記インクを押し出して、ゲル化粉末を含んだマイクロ多孔性ポリマーを有する構造物を形成するステップと、
ゲル化粉末が埋め込まれた前記マイクロ多孔性ポリマーを有する構造物を、事前のゲル化を防止するために非水性溶媒洗浄又は無水洗浄で洗浄するステップと、
洗浄した前記ゲル化粉末が埋め込まれたマイクロ多孔性ポリマーを有する構造物を乾燥させて、乾燥させた保存安定性がある構造物を形成するステップと、
前記乾燥させた保存安定性がある構造物を水性溶液中で水和させることによって、前記乾燥させた保存安定性がある構造物の前記乾燥させたゲル化粉末を活性化させ、ゲル化させるステップであって、前記乾燥させたゲル化粉末のゲル化は、水を吸収し、ゲル化を生じ、前記乾燥させた保存安定性がある構造物の前記マイクロ多孔性ポリマーマトリックスを膨張させる、ステップとを含む、方法。
【請求項26】
前記溶媒系ポリマーは、溶媒系生体適合性ポリマーである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記乾燥させた保存安定性がある構造物は、機械的に粉砕されて、ゲル化粉末を含有する分解足場マイクロ顆粒粒子を生成する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記ゲル化粉末が埋め込まれたマイクロ多孔性ポリマーを有する構造物を水和させることによって、マイクロ顆粒が埋め込まれたゲル懸濁物を形成するステップと、前記マイクロ顆粒が埋め込まれたゲル懸濁物をシリンジによって注入するステップであって、前記ゲル懸濁物は、前記洗浄するステップの前にナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマー粒子の別個のユニットを含む、別の構造物を形成し、前記ナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマー粒子は、前記水和させるステップの後に前記別の構造物のゲルネットワーク内に微細構造的に固着される、ステップとをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
前記活性化又はゲル化させるステップの前に、乾燥させた保存安定性がある材料を埋植するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記活性化又はゲル化させるステップの前に、乾燥させた保存安定性がある材料を埋植するステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記マイクロ多孔性ポリマーマトリックス内には、マイクロ粒子及びナノ粒子が埋め込まれている、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記ナノ粒子は、金属、セラミック、薬物、生物活性因子、又は他の生体関連物質であり、前記マイクロ粒子は、金属、セラミック、薬物、RNA、DNA、生物活性因子、若しくは前記ナノ粒子とは異なる他の生体関連物質であるか、又はこれらを含む、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒドロゲルの局在化及び安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、例えば、組織の治癒及び再生、薬物送達、細胞送達、埋植可能なデバイス及びバイオエレクトロニクスの封入等、医療及びその他の応用のために有用な基材である。ヒドロゲルは、天然マトリックスに物理的に類似しており、人体を構成する、つまり水素結合した又は静電的に結合した水性媒体を含んだ緩やかなナノネットワークである(つまり、人体の大半はゲル様である)。生体系との物理的な類似性のため、ヒドロゲルは、組織修復、薬物送達、遺伝子送達、細胞送達及び炎症の低減を含むが、これらに限定されない多くの医療用途を有する。しかしながら、医学的利用向けのヒドロゲル、特に身体での固定配置及び/又は注入のために考案されたものは、多くの不都合を抱えている。そのような不都合としては、1)局在化することが困難である(ゲルは容易に移動し、埋植後の機械的応力の結果として非局在化するであろう)こと、及び2)局在化できないことによって生じる移動により、破壊、分裂、分散、又は崩壊する傾向にあることが挙げられる。これらの技術的な不都合により、用途全体で医療用ヒドロゲルの有効性が非常に制限されている。加えて、ヒドロゲルは、多くの場合、使用の直前に手術室及び/又は医師の診療所において、現場(onsite)で調製されなければならず、これにより、処置時間及びコストが増大し、調製及び適用の過誤の可能性も増す。
【発明の概要】
【0003】
様々な実施形態における、本発明で規定される1つ以上の自己ゲル化成分を有する材料及び構造物は、既存の、非微細構造的に固着されたゲルに対して改善された性能を提供するものであり、これは、例えば、1)微細構造的に、すなわち物理的に、固着される特性が、ゲル及びプリントされた又は別様に形成された構造物全体を局在化させるのに役立ち、ゲルに構造形態を与え、これによりゲルが体内で局在化され適所に縫合されることさえ可能となり、ゲルの移動を軽減し、機械的な力に対する耐性を高め、その滞留時間を延長し;2)基礎となる3次元(3D)プリントされた足場(以下「3Dプリント足場」と記載)又は分解された3Dプリント足場粒子材料の設計されたマクロ構造、並びに固有のマイクロ構造及びナノ構造が、埋植後又は注入後にゲルを含んで支持するのに役立ち、且つ/又は3)事前に活性化されたゲル化粉末を含有する3Dプリント足場材料は、保存安定性があり(shelf-stable)、例えば、水和の前に、切断される、切り取られる、圧縮される、カニューレによって送達されること等が可能であり、これにより埋植又は注入の際に上記材料が配置され周囲の血液、媒質、血漿等で水和されることが可能となり、周囲組織を一体化し治癒させるデバイスの能力を大幅に増大させる、という理由による。本明細書で用いられる場合、1つ以上の自己ゲル化成分又は1つ以上の自己ゲル化粉末成分とは、同一の自己ゲル化成分の1つ以上、及び/又は異なる自己ゲル化成分の1つ以上を指す。ここで開示する1つ以上の自己ゲル化成分を有する材料は、既に水和されているために周囲の生物学的成分を吸収するのが遥かに遅い注入可能なヒドロゲルや埋植された3Dプリントヒドロゲルとは別のものである。加えて、3Dプリントされた構造物(以下、「3Dプリント構造物」と記載)又は分解された3Dプリント構造物の形態にある、基礎となるナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマーメッシュは、インプラント形態又は注入可能なボリュームをそれぞれ維持するのに役立ち、埋植前に追加されたゲルを有したポリマー又は複合材メッシュであって、ゲル成分がポリマーネットワークのナノ/マイクロ構造内に固着されておらず、代わりに単にメッシュを緩く封入している、ポリマー又は複合材メッシュよりも良好に局在化を向上させる。
【0004】
ゲル化粉末を含有する材料又は構造物が開示され、ゲル化粉末は、本質的に無水であり、3Dプリント構造物の生成若しくは形成の後、及び/又は分解された顆粒の製造後にゲル化されるように意図されている。換言すると、ゲル化粉末は、以下にさらに開示するように、後加工処理で活性化された場合のみゲル化される。ゲル化粉末含有材料、及び基礎となるマトリックス、すなわちメッシュ、構造は、水和、つまりゲル化すると、又は別様に活性化されると、埋め込まれたゲル化粉末が膨張してポリマーマイクロ多孔性マトリックス、すなわちメッシュ、ネットワークを押圧するため、膨張する。ゲル化粉末は本質的に無水であるため、ゲル化粉末を含む分解された足場マイクロ顆粒(以下「分解足場マイクロ顆粒」と記載)は、後続のインク組成物、又はゲル化粉末を含有する分解足場マイクロ顆粒(本明細書でより一般的には「分解足場ゲル化顆粒」と称される)にさらに組み込むために、ゲル化粉末を含むインクから誘導された、押し出されたか又は別様に形成された材料を粉砕することによってさらに得ることができる。マイクロ顆粒は、それ自体、多孔性の生分解性ポリマーマトリックス内に埋め込まれたゲル化粉末の離散した粒子から構成される離散粒子であり、換言すると、分解足場マイクロ顆粒は、ゲル化粒子が埋め込まれた生分解性ポリマーマトリックスから構成されている。顆粒は、粉末粒子より大きいものと理解され、分解されたゲル化顆粒は、別様にゲル化粉末を含有する分解された足場から生成されたマイクロ顆粒である。
【0005】
本開示はまた、1つ以上の自己ゲル化成分を有する3Dプリント構造物も包含する。3Dプリント構造物は、乾燥形態において保存安定性がある、乾燥ゲル化粉末及び/又は分解足場マイクロ顆粒(すなわちゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒)を封入した又は組み込んだ、多孔性ポリマー又はポリマー複合材マトリックス、すなわちメッシュ、構造を含み、構造物のゲル化粉末成分は、水溶液と接触させたときにゲル化するように構成されている。構造物は、乾燥形態において多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造内に埋め込まれたマイクロ粒子及び/又はナノ粒子をさらに含んでもよく、多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造は、構造物が水溶液に曝露された後、ゲルによってさらに内部飽和状態となり、封入されるようになる。マイクロ粒子及び/又はナノ粒子は、導電性材料、セラミック材料、金属材料、及び生体由来(biologically derived)材料のうちの1つ以上であり得る。構造物は、薬物、小分子、RNA、及び/又はDNA、並びにこれらの誘導体をさらに付加的に含んでもよい。ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造は、生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造であり得る。乾燥ゲル化粉末及び/又は分解足場マイクロ顆粒(すなわちゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒)は、生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造の多孔性微細構造内に配置される。例において、乾燥ゲル化粉末を含有する又はマイクロ顆粒を含有する3Dプリント構造物(ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒を含有する)を、水洗浄するか、又は水溶液中で洗浄することができ、この場合、ゲル化粉末がゲル化を受けて嵩高なゲルを形成し、多孔性で生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造の相互に接続したナノ多孔性構造及びマイクロ多孔性構造内に微細構造的に、すなわち物理的に、固着されるようになる。本明細書で言及される場合、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性とは、ナノスケールからマイクロスケールに及ぶ多孔性の性質を指す。本明細書のこのような例では、多孔性は、ナノスケール及びマイクロスケールの双方におけるものであり得る。本明細書のこのような例では、多孔性は、ナノスケールのみにおけるものであってもよい。本明細書のこのような例では、多孔性は、マイクロスケールのみにおけるものであってもよい。マトリックス、すなわちメッシュ、構造、並びに分解足場ゲル化顆粒は、非常に多孔性である。これらの材料の細孔サイズは、本明細書に記載するように、前記ナノ多孔性及びミクロ多孔性のものであるか、又は代替となるものである。しかしながら、多孔性の生体適合性ポリマーマトリックスの細孔は、分解足場ゲル化顆粒自体よりも大きくないことが注目される。特定の例において、多孔性の生体適合性ポリマーマトリックスの細孔のサイズは、20μm以下である。
【0006】
1つ以上の自己ゲル化粉末成分を有する3Dプリント構造物の押出しに基づく3Dプリンティング用のインク組成物も説明される。このインク組成物は、溶媒系(solvent-based)生体適合性ポリマーを含み、生体適合性ポリマーは、生体適合性ポリマー内に封入されるか、又は組み込まれる乾燥ゲル化粉末を含んで維持し、生体適合性ポリマーは、プリント後にアルコール中で洗浄され、乾燥させると乾燥形態において保存安定性を保ち、水溶液中で水和させるとゲル化するように構成されている。例において、インク組成物は、ヒドロゲルではなく、且つヒドロゲルを含まない。例において、乾燥ゲル化粉末は、100μm未満の平均粒子サイズを有する。例において、乾燥ゲル化粉末成分は、導電性材料、セラミック材料、金属材料、又は生体由来材料(例えば、タンパク質、ペプチド、細胞外マトリックス、等など)と組み合わせて使用される。これらの他の材料は、同様に粉末形態であってもよいが、乾燥ゲル化粉末とは異なるか、又は別のものであってもよく、乾燥ゲル化粉末に加えて提供され得る。これらの粒子は、上述したマイクロ粒子及び/又はナノ粒子であり得る。マイクロ粒子及び/又はナノ粒子は、インクに使用される一次溶媒、ジクロロメタン、又は洗浄ステップ中に利用されるアルコール溶液に溶解しない任意の組成物であり得る。一例において、導電性材料、セラミック材料、金属材料、及び生体由来材料のうちの1つ以上であり得るナノスケール材料及びマイクロスケール材料のうちの1つ以上を含む付加的な粉末成分が、溶媒系ポリマー押出し物に懸濁される。
【0007】
1つ以上の自己ゲル化成分を有する構造物を形成する方法も説明され、この方法は、
溶媒系ポリマーと乾燥させたゲル化粉末とを組み合わせてインクを形成し、このインクを押し出して、ゲル化粉末が埋め込まれた、相互に接続したナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、を有する構造物を形成するステップと、
残留溶媒を除去するために、一連のアルコール溶液洗浄及び水洗浄によって、ゲル化粉末が埋め込まれたナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、を有する構造物を洗浄するステップと、
洗浄するステップにおいて、乾燥させたゲル化粉末を活性化させ、ゲル化させるステップであって、乾燥させたゲル化粉末は、水を吸収してゲルに変換し、このゲルは、マイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造を充填し、該構造から滲出し、該構造を封入する、ステップと、
封入されたマイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、を含むゲルを乾燥させて、保存安定性がある構造物にするとともに乾燥形態にするステップと、
保存安定性がある構造物を水性溶液中で水和させるステップとを含む。
【0008】
溶媒系ポリマーは、溶媒系生体適合性ポリマーであり得る。ゲル化粉末が埋め込まれた乾燥したマイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、は、加えて、機械的に粉砕されて、ゲル化粉末を含有する分解足場マイクロ顆粒、換言すると、分解足場ゲル化顆粒を生成する。水和させるステップは、保存安定性がある構造物を患者に埋植するステップであり得る。この方法は、
乾燥させたゲル化粉末が埋め込まれたマイクロ多孔性ポリマーマトリックスを有する構造物を水和させることによりゲルネットワーク(マイクロ顆粒状埋め込みゲル)によって接続され、ゲルネットワーク内に懸濁された分解足場ゲル化顆粒を水和させることによって、相互に接続した固体-ゲル懸濁物を形成するステップと、
相互に接続した固体-ゲル懸濁物をシリンジによって注入するステップであって、固体-ゲル懸濁物は、洗浄するステップの前にナノ多孔性及びマイクロ多孔性の生体適合性ポリマー粒子の離散したユニット内に固着され、これらのユニットを取り囲む、連続的に接続したヒドロゲルを含む別の構造物を形成し、上記ゲルは、水和させるステップの後に、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性の生体適合性ポリマー粒子内に微細構造的に、すなわち物理的に、固着される、ステップとをさらに含む。
【0009】
本開示は、1つ以上の自己ゲル化成分を有する他の3Dプリント構造物について説明する。この3Dプリント構造物は、凍結乾燥され、水性溶液中でゲルを形成するように構成された離散した脱水粒子からなる無水洗浄された吸収性の乾燥ゲル化粉末を封入した又は組み込んだポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造を含む。乾燥ゲル化粉末は、ゲル化によりポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造の微細構造内に固着されるように構成され得る。換言すると、乾燥ゲル化粉末は、ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、の微細構造内に埋め込まれ、ゲル化粉末が水に曝露され、その後ゲル化すると、生じたゲルは、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性の非ゲル化ポリマー微細構造内にある起源となる乾燥ゲル化粉末粒子の位置に固着される。ゲルは、ポリマー微細構造を封入し、取り囲むだけでなく、その中に浸透し固着される。自己ゲル化3Dプリント構造物は、ゲル化によりポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造内に封入された又は組み込まれた固体-ゲル懸濁物に封入されることによって、マイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造内に埋め込まれるように構成されたマイクロ粒子及び/又はナノ粒子をさらに含み得る。ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造は、生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造であり得る。例において、インク組成物自体は、ゲルではなく、且つゲルを含まない。
【0010】
マイクロ粒子及び/又はナノ粒子は、ゲル化粉末と同様に、多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、内に埋め込まれ得る。水和すると、ゲル化粉末はゲルに変化して膨張し、ゲルは多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、を充填し包含するとともに、周囲のマイクロ粒子及び/又はナノ粒子も包含する。マイクロ粒子及び/又はナノ粒子の長さスケールは、水和時のゲル粉末の展開及び膨張により、マイクロ粒子及び/又はナノ粒子が多孔性ポリマーネットワークを通して実際に移動/押圧されるようなものである。一例において、ナノ粒子は水和したゲルによって移動するが、マイクロ粒子は、膨張するゲルによって、移動しないか、又は著しく移動しない。
【0011】
本開示は、3Dプリント構造物をプリントするための他のインク組成物について説明する。インク組成物は、離散した(discreate)粒子の無水ゲル化粉末を封入した又は組み込んだ溶媒系ポリマーを含み、前記ゲル化粉末は、押出し後に水性溶液中でゲル化するように構成されている。換言すると、ゲル化粉末はインクとともに押し出され、押出し後又は3Dプリント構造物が形成されるまでゲル化しない。ゲル化粉末は水性環境に曝露されるまでゲル化しないので、ゲル化粉末は、インクとともに押し出され、押出し後までゲル化しない。その後、3Dプリント構造物を水性溶液に曝露させることができ、ゲル化粉末はゲルする。換言すると、ゲル化粉末を含有するインクは、押出し中、押出し後、又は3Dプリント構造物の形成後、3Dプリント構造物が水性環境に曝露されるまでゲル化しない。インク組成物は、ゲル化粉末が埋め込まれた構造を有した、マイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、内に埋め込まれるように構成されたマイクロ粒子及び/又はナノ粒子をさらに含み得る。溶媒系ポリマーは、溶媒系生体適合性ポリマーである。例において、インク組成物は、ゲルではなく、且つゲルを含まない。さらに、例において、3Dプリント構造物は、ゲルではなく、且つゲルを含まない。例において、乾燥ゲル化粉末は、100μm未満の平均粒子サイズを有する。いくつかの例において、乾燥ゲル化粉末成分は、1つ以上の導電性材料、セラミック材料、金属材料、薬物、合成化学品(synthetic chemistries)、又は生体由来材料と組み合わせて使用される。
【0012】
1つ以上の自己ゲル化成分を有するポリマーを形成する方法も説明され、この方法は、
溶媒系マイクロ多孔性ポリマーと乾燥させたゲル化粉末とを組み合わせてインクを形成し、このインクを押し出して、ゲル化粉末が埋め込まれた構造を有したマイクロ多孔性ポリマーを形成するステップと、
ゲル化粉末が埋め込まれた構造を有したマイクロ多孔性ポリマーを、事前のゲル化を防止するために非水性溶媒洗浄又は無水洗浄で洗浄するステップと、
洗浄したゲル化粉末が埋め込まれた構造を有したマイクロ多孔性ポリマーを乾燥させて、乾燥した保存安定性がある構造物を形成するステップと、
乾燥した保存安定性がある構造物を水性溶液中で水和させることによって、乾燥した保存安定性がある構造物のゲル化粉末成分を活性化させ、ゲル化させるステップであって、乾燥させたゲル化粉末成分のゲル化は、水又は一次水溶液(例えば、水、血液、細胞懸濁液、生物学的血漿、薬物含有溶液などが含まれるが、これらに限定されるものではない)を吸収し、ゲル化を生じ、乾燥した保存安定性のある構造物のマイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、成分を膨張させる、ステップとを含む。
【0013】
溶媒系ポリマーは、溶媒系生体適合性ポリマーであり得る。ゲル化粉末が埋め込まれた構造を有した乾燥したマイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、は、加えて、機械的に粉砕されて、分解足場ゲル化顆粒を生成する。水和させるステップは、ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒を有する保存安定性がある構造物を患者に埋植するステップであり得る。乾燥させた保存安定性がある構造物を埋植するステップは、活性化又はゲル化させるステップの前に行われ得る。分解足場ゲル化顆粒は、別個の分解足場マイクロ顆粒を混合する、又は組み合わせるステップによって、さらに形成され得る。例えば、一定量のヒアルロン酸自己ゲル化マイクロ顆粒は、同様に乾燥形態にある一定量のゼラチン又はコラーゲン自己ゲル化マイクロ顆粒と乾式混合され得る。水和は乾式混合後に行われるであろう。この方法は、
ゲル化粉末を含有するマイクロ足場粒子(つまりゲル化粉末が埋め込まれたマイクロ多孔性ポリマーを有する構造物)を水和させることによって、マイクロ顆粒が埋め込まれたゲル懸濁物を形成するステップと、固体-ゲル懸濁物をシリンジによって注入するステップであって、固体-ゲル懸濁物は、洗浄するステップの前にナノ多孔性及びマイクロ多孔性の生体適合性ポリマー粒子の別個のユニット内に固着され、これらのユニットを取り囲む、連続したヒドロゲルを含む別の構造物を形成し、上記ゲルは、水和させるステップの後に、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性の生体適合性ポリマー粒子内に微細構造的に、すなわち物理的に、固着される、ステップとをさらに含む。
【0014】
例において、マイクロ多孔性ポリマーマトリックス内には、マイクロ粒子及びナノ粒子が埋め込まれている。ナノ粒子は、金属、セラミック、薬物、RNA、DNA、生物活性因子、又は他の生体関連物質であるか、又はこれらを含むことができ、マイクロ粒子は、金属、セラミック、薬物、RNA、DNA、生物活性因子、若しくはナノ粒子とは異なる他の生体関連物質であるか、又はこれらを含むことができる。一例において、ナノ粒子は金属であり、マイクロの粒子はセラミックであり、またその逆も同様である。いくつかの例において、上記の方法は、活性化又はゲル化させるステップの前に、乾燥した保存安定性がある材料を埋植するステップをさらに含む。
【0015】
これらの例の前述の及び他の目的、特徴、及び利点は、添付図面に示す特定の例の以下のより詳細な説明から明らかになるであろう。添付図面では、同一の参照番号は例の同一の部分を表す。
【0016】
特定の例及びそれらの例のさらなる利点が以下の説明でより詳細に説明するように示されている添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】本開示の例による、成形前に生成物の3Dプリントインク組成物にゲル化粉末が添加された本開示の生成物の画像であって、生成物は活性化又はゲル化の前の状態で示されている、画像。
【
図1B】本開示の一例による、3Dプリンティング用インク組成物に添加されたゲル化粉末を有し、プリンティング後又は加工後の再水和プロセスなどの活性化又はゲル化を受けて(活性化又はゲル化の後)、マイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、から滲出し、それを取り囲み、(ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、骨格内に)微細構造的に、すなわち物理的に、固着されるゲルを形成する本開示の生成物の画像。
【
図2A】本開示の一例による、押出し後に実施される一連のアルコール溶液洗浄及び水洗浄を繰り返すことによって洗浄された、ゲル化粉末を含むインク組成物の生成物であるゲル内にさらに封入される物体の構造を規定する生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、を形成する自己ゲル化アプローチ(本明細書ではアプローチ1と称される)の流れ図であって、ゲル化粉末の吸収性が高い性質のために、押出し後、洗浄アプローチにより、ゲル化粉末が水を吸収し、ゲル化して、ゲル内に封入された生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造が得られる、流れ図。
【
図2B】自己ゲル化アプローチ(本明細書ではアプローチ1と称される)のための
図2Aの流れ図のステップに対応する生成物の画像を示す図。画像の代表的な生成物は、本開示の一例による、押出し後に実施される一連のアルコール溶液洗浄及び水洗浄を繰り返すことによって洗浄された、ゲル化粉末を含むインク組成物の生成物であるゲル内にさらに封入される物体の構造を規定する生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、を形成する自己ゲル化アプローチのものであり、ゲル化粉末の吸収性が高い性質のために、押出し後、洗浄アプローチにより、ゲル化粉末が水を吸収し、ゲル化して、ゲル内に封入された生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造が得られる。
【
図3A】本開示の一例による、インク組成物を構成するゲル化粉末の生成物であるゲル内にさらに封入される物体の構造を規定する生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、を形成する他のアプローチ(本明細書ではアプローチ2と称される)の流れ図であって、上記生成物は、事前のゲル化を防止するために、イソプロパノール、エタノール、又は他のアルコール系溶液などの、完全に又は主として(>50%)非水性の溶媒中で行われる無水洗浄によって洗浄されて、凍結乾燥(フリーズドライ)されたゲル化粉末を提供し、このゲル化粉末は、その後、制御環境における再水和によりゲル化して、ゲル内に封入された生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造を提供し得る生成物において依拠され得る。
【
図3B】
図3Aの流れ図のステップ(本明細書ではアプローチ2と称される)に対応する生成物の画像を示す図。画像の代表的な生成物は、本開示の一例による、インク組成物を構成するゲル化粉末の生成物であるゲル内にさらに封入される物体の構造を規定する生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、の形成を示しており、上記生成物は、事前のゲル化を防止するために、イソプロパノール、エタノール、又は他のアルコール系溶液などの、完全に又は主として(>50%)非水性の溶媒中で行われる無水洗浄によって洗浄されて、凍結乾燥(フリーズドライ)されたゲル化粉末を提供し、このゲル化粉末は、その後、制御環境における再水和によりゲル化してゲル内に封入された生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造を提供し得る生成物において依拠され得る。
【
図4】付加的な加工(例えば機械的粉砕)を受けて、分解足場マイクロ顆粒、換言すると、分解足場ゲル化顆粒を生成する、押し出された繊維などの、乾燥させたゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末含有構造物の付加的なアプローチ(本明細書ではアプローチ3と称される)の流れ図。分解足場マイクロ顆粒、換言すると分解足場ゲル化顆粒のこのような集団は、乾燥形態において保存安定性があるが、水和されて(下記参照)、粒子のポリマーマトリックス内に含有された粉末のゲル化を生じて粒子を潤滑し、ゲルネットワークによって接続され、ゲルネットワーク内に懸濁された離散したマイクロ顆粒の相互に接続したネットワークを形成することができ、これは本明細書では固体-ゲル懸濁物と称され、シリンジによる注入が可能である。このような水和した材料は、本開示の一例により、さらに別の材料又は構造物(各生体適合性ポリマーマイクロ粒子内の微細構造化された固着「点」を特徴とするゲルネットワークによって接続された、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性の生体適合性ポリマー粒子の非連続的な別個のユニットから構成されたもの)に3Dプリントされ得る。
【
図5A】本開示の一例による、活性化/ゲル化前(水和前)の、多孔性マトリックスにおけるゼラチン自己ゲル化粉末から構成されたより大きな3Dプリント足場内での3Dプリントされた繊維内部の走査型電子顕微鏡写真の画像(左側の画像)。
【
図5B】本開示の一例による、活性化/ゲル化後(水和後)の、多孔性マトリックスにおけるゼラチン自己ゲル化粉末から構成されたより大きな3Dプリント足場内での3Dプリントされた繊維内部の走査型電子顕微鏡写真の画像(右側の画像)であって、多孔性マイクロ足場500が標識されており、ゼラチンゲル510が標識されており、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマーメッシュ内に固着されたゼラチンゲル520が標識されている、画像。
【
図6A】本開示の一例による、活性化又はゲル化前の、多孔性マトリックスすなわちメッシュにおけるリン酸カルシウムセラミック球とヒアルロン酸自己ゲル化粉末とから構成されたより大きな3Dプリント足場内での3Dプリントされた繊維内部の断面の走査型電子顕微鏡写真の画像(左側の画像)。
【
図6B】本開示の一例による、活性化又はゲル化後の多孔性マトリックスすなわちメッシュにおけるリン酸カルシウムセラミック球とヒアルロン酸自己ゲル化粉末とから構成されたより大きな3Dプリント足場内での3Dプリントされた繊維内部の断面の走査型電子顕微鏡写真の画像(右側の画像)。
【
図7A】より大きな3Dプリント構造物の粉砕によって得られた個々の分解足場マイクロ顆粒の走査型電子顕微鏡写真(詳細)の画像であって、
図7Aの左側の顆粒は、本開示の一例による、個々の分解足場マイクロ顆粒(非自己ゲル化)を示しており、具体的には非多孔性及びマイクロ多孔性のポリラクチド-co-グリコリドマトリックスから構成されている、画像。
【
図7B】より大きな3Dプリント構造物の粉砕によって得られた個々の分解足場マイクロ顆粒の走査型電子顕微鏡写真(詳細)の画像であって、
図7Bの右側の顆粒は、本開示の一例による、個々のヒアルロン酸ゲル化粉末を含有する分解足場マイクロ顆粒(活性化前/ゲル化前)を示しており、具体的には、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性のPLGマトリックス内に埋め込まれた乾燥ヒアルロン酸粉末から構成されている、画像。
【
図8A】本開示の一例による、22ゲージ(Ga)針による押出し前の、非自己ゲル化分解足場マイクロ顆粒(約33重量%)と自己ゲル化ヒアルロン酸分解足場マイクロ顆粒(約65重量%)との水和(生理食塩水)混合物を収容したシリンジの写真(上部画像)であって、この混合物は22Ga針によって押し出されることが可能である、写真。
【
図8B】本開示の一例による、押し出されたマイクロ顆粒の走査型電子顕微鏡写真の画像(左側の画像)。
【
図8C】本開示の一例による、互いにインターロックし、滲出したゲルによって接続された離散したマイクロ顆粒の走査型電子顕微鏡写真の画像であって、ポリマーマトリックス顆粒内から発しているゲル800が標識されており、分解された足場から発している生体適合性ポリマーマトリックスマイクロ顆粒850が標識されている、画像(右側の画像)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
様々な実施形態における本発明で規定される自己ゲル化材料及び構造物は、既存のゲルの制限に対して改善された性能を提供するものであり、これは、例えば、1)微細構造的に、すなわち物理的に、固着される特性が、ゲル及びプリントされた又は別様に形成された構造物全体を局在化させるのに役立ち、ゲルに構造形態を与え、これによりゲルが体内で局在化され適所に縫合されることさえ可能となり、ゲルの移動を軽減し、その滞留時間を延長し、2)基礎となる3Dプリント構造物が、埋植後にゲルを含んで支持するのに役立ち、及び/又は3)乾燥させたゲル化粉末及び/又は乾燥させた分解足場ゲル化顆粒を含有する材料は、保存安定性があり、例えば、水和の前に、切断される、切り取られる、圧縮される、カニューレによって送達されること等が可能であり、これにより埋植の際に上記材料が配置され周囲の血液、媒質、血漿等で水和されることが可能となり、周囲組織を一体化し治癒させるデバイスの能力を大幅に増大させる、という理由による。ここで開示する1つ以上の自己ゲル化成分を有する構造物は、既に水和されているために周囲の生物学的成分を吸収するのが遥かに遅い既に水和されたゲルの注入剤とは別のものである。加えて、基礎となるポリマーメッシュ構造は、埋植前に追加されたゲルを有するポリマーメッシュであって、ゲルがポリマーネットワークの微細構造内に微細構造的に、すなわち物理的に、固着されておらず、代りに単にそれを緩く封入している、ポリマーメッシュよりも良好にインプラント形態及び局在化を維持するのに役立つ。
図1Aは、ゲル化粉末を含むインクから作製された材料を示しており、この材料は活性化又はゲル化の前の乾燥した保存安定性がある状態にある。
図1Bは、ゲル化粉末を含むインクから作製された活性化され自己ゲル化した材料を示す。
【0019】
最も簡潔な形において、本発明は、医療用途のためのヒドロゲル局在化の課題を解決する(既存のゲルをより有効なものにすることができる)。具体的には、「自己ゲル化」構造物とは、本明細書では、乾燥した構造化された物体として創傷若しくは身体に、又はインプラントとして環境に、埋植/導入/配置され得、身体の水分に曝露されると、又は環境に導入されると、その少なくとも一部が活性化されて、規定されたマイクロ多孔性ポリマー構造を封入し、その中に固着されるゲルを形成する、構造物、足場、又は材料として定義される。換言すると「自己ゲル化」。ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、内のゲル化粉末は、本質的に水(及び例えば血液細胞などの水中にあるものすべて)を吸い上げることによって、時には自重の5倍以上も吸い上げることによって、「活性化」する。吸収により、非常に大きな体積変化及び乾燥した固体ゲル化粉末粒子から膨張性の湿ったヒドロゲルへの効果的な変換が生じ、このヒドロゲルは、ポリマー(つまり、ポリエステルマトリックス、すなわちメッシュ)のナノ細孔及びマイクロ細孔を飽和状態にし、最終的にはポリマー成分の境界を越えて滲出して、ポリマー材料を封入し、より大きな3Dプリント構造物を全体的に封入する。
【0020】
この「活性化状態」において、3Dプリントされたポリマー材料の形態は、(ゲルが形成されるにつれて、ゲル膨張の結果としてわずかに膨張してポリマー細孔壁を内側から外に押圧するが)その元の形態のままであり、ゲルに対するポリマー補強材として作用する。
【0021】
例として用いられる特定の3つの応用分野は、以下のような本開示のアプローチの利点を示す。
実施例1:1つ以上の自己ゲル化成分を有する3Dプリントされたヒアルロン酸構造物による生体関節(骨軟骨)修復。この実施例において、ヒアルロン酸(HyAc)は、軟骨性連結組織に自然に存在する物質であるため、損傷又は劣化した関節(外傷、関節炎、手術の副作用、等)を治療するために頻繁に使用される。これらの治療のために、HyAcは、典型的には、注入可能なゲルとして用いられるか、又は既存のインプラントデバイスに追加され、埋植される。HyAcは関節疾患の治療に組成的に適切であるが、HyAcゲル注入剤は、HyAcゲルが通常の生体運動の結果として初期の注入部位から移動してしまうため、効果が限られており、長続きしない。また、この移動により、HyAcゲルは物理的に崩壊し、適切に周囲組織に組み込まれなくなるか、又は周囲組織と一体化されなくなる。この問題は、ゲルが既存の多孔性構造物に注入され、その後この構造物が埋植される場合にはわずかに軽減されるが、ゲルは、多孔性インプラント構造物とあまり一体化されず、また運動によりその部位から移動し始めるであろう。加えて、これらの既存のアプローチの双方では、埋植する直前にゲルが水和ゲルになる必要があり、注入剤又はインプラントによって吸収され得る周囲血液及び生体媒質の量が制限される。本発明では、デザイナー構造物(必要な形状及び形状因子のもの)は、標準侵襲的若しくは低侵襲的プロセス、又はカニューレ挿入プロセスによって、所望の部位に配備され、周囲組織に縫合されることが可能であり、これにより構造物は適所に固定されるとともに、構造物は周囲の血液や細胞、等を吸収し、結果として膨潤し、さらにそれを適所に固定する。構造物内で生じたゲルは、ポリマーメッシュネットワークと微細構造的に、すなわち物理的に、固着されて、運動の間であってもゲルを局在化した状態に維持するのに役立ち、したがってその滞留時間及び治療効果を延長する。
【0022】
実施例2:損傷した組織又は器官(つまり梗塞後の心臓組織)を治療するために注入可能なゲル。前の実施例と同様に、多くの症状が、組織及び器官に対する表面又は表面下の損傷をもたらす。その一例は心筋梗塞であり、これにより心臓組織が壊死する。これを治療するために新たに出現した方法は、薬物、細胞、等を含んだヒドロゲルを損傷した組織上に直接注入することを含む。しかしながら、欠損の表面性状、並びに器官の動的性質のために、ゲルは長期間にわたって局在化され続けず、その治療可能性が制限される。例えば、1つ以上の自己ゲル化成分を有する材料のシートをカニューレによって心臓に送達し、損傷部位に/損傷部位の周囲に(外科用接着剤又は細い縫合糸によって)固定することができる。インプラントは、このプロセス中に自己ゲルを有する構造物の形態にあり、生じたゲルは、構造物の、構造的に高度に多孔性のポリマー微細構造内に固着され、インプラントを所望の部位に局在化した状態に保つであろう。
【0023】
実施例3:注入可能なものが依然として必要とされる場合(より大きなインプラントを使用できない低侵襲的処置)には、ヒドロゲルを直接注入する代わりに、マイクロ足場アプローチ(以下に記載のアプローチ3)を用いることができる。より大きな構造物がそうであるほどゲルの局在化に効果的ではないが、マイクロ粒子の存在及び滲出したゲルとの一体化は、注入剤の形態及び滞留時間を保持するのに役立つであろう。一例は、表面下の脊椎損傷を治療するためのものであり、これにより、損傷部位へマイクロ足場粒子を注入すると、ゲルとポリマーマイクロ粒子のマイクロ多孔性構造との間の接続により、その部位にある程度固着される自己ゲル化(膨張)治療用フィラーが生じる。
【0024】
本開示の実施例は、2016年11月14日出願の「INK COMPOSITIONS FOR THREE-DIMENSIONAL PRINTING AND METHODS OF FORMING OBJECTS USING THE INK COMPOSITIONS」と題された米国特許第10,584,254号のインク組成物及び/又は足場材料の独特な拡張、又はそれらに対する改善として依拠され得る。上記特許文献は参照によりその全体が本明細書に援用される(以下、「’254特許」と称する)。’254特許は、一連の溶媒、生体適合性ポリマー、及び粒子/粉末から形成された(室温で、化学反応又は熱反応なしで、層状に押し出すことができる)3Dプリント可能な「インク」について述べている。この「インク」は、様々な形状因子に3Dプリントされることができ、また他の製造法(例えば、繊維形成、テキスタイル、製織、流延、等)にも適している。基本的なインク組成物アプローチは、上記の’254特許の組成物に依拠し得るが、本開示は、’254特許に記載の基本的なインク組成物とは別のものである後加工可能な(post-processable)材料、プロセス、使用の手段、及び/又は特徴について述べる。具体的には、本開示は、従来技術の不十分な点であることが示されているように、局在化した状態のまま’254特許のインク組成物及び/又は足場によって構造的に支持されるゲル化粉末及び自己ゲル化技術について述べる。本明細書において、’254特許は、インク組成物及び/若しくは構造物、又は足場の例として依拠されるが、本開示の自己ゲル化技術及びゲル化粉末は、以下で述べるように、他のインク組成物及び/若しくは構造物、又は足場に対する改善として依拠され得ることが理解される。
【0025】
粉末及びインク
本発明の実例において、’254特許によって開示されたものなどのインクは、水分に曝露されたときに実質的な膨潤を受ける乾燥した(本質的に水分を含まない)湿りやすい高吸湿(吸水)性材料(以後「ゲル化粉末」)であるポストフォーミング(post-forming)粉末の1つ以上を含有し得る。ゲル化粉末は、アルコール又はジクロロメタン類などの非極性溶媒中で、実質的に可溶性であってはならないか、又は不可溶性である。インクの使用目的が、’254特許によって開示されたものなどの、押出しに基づく3Dプリンティング用である場合、ゲル化粉末は、材料を微細な先端ノズルから押し出して堆積させることができるように、100μm未満の平均粒子サイズを有することが好ましい。
【0026】
ゲル化粉末は、合成物(例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、又はこれらの変異体)、天然物(ゼラチン、セルロース、キトサン、アルギナート類、「ゴム質」、ヒアルロン酸、他の多糖類)、ゼオライト類、天然由来材料(細菌発酵又は菌発酵に由来するヒアルロン酸及び前述の材料)、合成的に誘導された天然材料(合成的に生成されたコラーゲン)、シリケート類、シリコン系ポリマー、又はこれらの組合せであり得る。いくつかの例において、ゲル化粉末は、H-H相互作用(水素結合)又は静電相互作用によって、かなりの量の水を保持することができる。かなりとは、ゲル化粉末の乾燥質量以上を意味し得る。例えば、1グラムの乾燥ゲル化粉末は、少なくとも1グラムの水又は他の水性溶液を保持することができなければならない。ゲル化粉末は、機能化がアルコール又はジクロロメタンなどの非水性溶媒における溶解性を与えない限り、インク合成に使用する前に、化学的に機能化(小分子、薬物、タンパク質、ペプチド、ナノ粒子、酸性基、塩基性基、等)されてもよい。ゲル化粉末は、広範囲の平均分子量、分子数、多分散性、等を示すことができる。分子量は、ほとんどの例において、500~5,000,000ダルトンに及び得る。
【0027】
ゲル化粉末と組み合わせて使用するために依拠される典型的なインクは、蒸発剤(evaporant)(例えばジクロロメタンなど)、表面活性剤(例えば2-ブトキシエタノールなど)、可塑剤の三溶媒混合物と、ポリマーとから構成される。ポリマーは、例えば、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、等のうちの1つ以上などの非生体適合性ポリマーであってもよい。ポリマーは、加えて、又は代わりに、例えば、ポリ(ラクチド-co-グリコリド(PLG)、ポリラクチド(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド、等のうちの1つ以上などの生体適合性ポリマーであってもよい。本開示のインクは、加えて、又は代わりに、インク組成物の溶解性を調節するために、シクロデキストリンとともに使用されてもよい。三溶媒混合物、並びにポリマー及びより具体的には生体適合性ポリマーは、’254特許に既に記載のものと概して同じものであり得る。ポリマーは、蒸発剤に添加され溶解され得る(周囲条件下でゆっくり溶解)。1つの具体的な例では、蒸発剤2~10gにつき、1gのポリマーが使用される。蒸発剤の量は、最終的なインクの所望の粘度に応じて変更され得る。表面活性剤及び可塑剤は、蒸発剤/溶解したポリマーに添加される。蒸発剤に対する表面活性剤の量は、インクの所望の最終特性及び使用されている粉末の性質に応じて変化し得る。
【0028】
本開示において、インクはゲル化粉末と組み合わせられるか、又はインクはゲル化粉末を含む。ゲル化粉末とインクの組合せは、単一の一体となった材料である。一例において、粉末成分は、50~80体積%(vol.%)を構成する(固形分、ポリマー+粉末)。得られるインクの粉末成分のすべてが、複数の別個のゲル化粉末を含むゲル化粉末であってもよいし、又は粉末成分は、一部をゲル化粉末から構成され、一部を基礎となるインク組成物に適合する(ジクロロメタン又は同様の非極性溶媒に溶解しない)非ゲル化粉末から構成されてもよい。例えば、インクは、35体積%のヒアルロン酸(AKA:ヒアルロン酸ナトリウム-ゲル化粉末)と、35体積%のバイオセラミック(例えば、バイオセラミックなどのリン酸カルシウム)を含有し得る。インクと粉末の組合せは、水又は他の水性流体を実質的に含んではならない。インクは、空気に曝露されたとき、急速に乾燥し固化するであろう。ゲル化粉末の分子量は、10,000kDa~10,000,000kDaに及ぶことができる。具体的な例では、ゲル化粉末は最後に添加される。インクは、均一になるまで物理的に混合され、均一になった時点で室温押出しにより3Dプリントする準備が整う。得られた3Dプリント構造物は、ポリマー(より大きな3Dプリントされたマクロ形態に加えて、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性マトリックスとして存在する)と、粉末(複数可)(多孔性ポリマーマトリックス内に埋め込まれている)と、3つの溶媒の残留物(多孔性ポリマーマトリックス内及びその表面上に埋め込まれている)とを含む。
【0029】
ゲル化粉末に加えて、他の粉末がインクに添加されてもよい。例えば、インクは、ヒアルロン酸(HA)ゲル化粉末とヒドロキシアパタイト(HA)バイオセラミックとを含有して、最終的な「HAHA」3Dプリント材料を生じ得る。ゲル化粉末成分は、水に曝露されたとき、ゲルに変化して非常に膨張し、バイオセラミック粒子は(例えば、これらがナノスケールよりも大きい場合)、ポリマーマトリックス内に残存し得る。
【0030】
いくつかの例では、得られたインクの粉末成分は、ゲル化粉末と、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、マイクロ又はナノダイヤモンドなどの導電性材料とから構成されてもよく、これにより、最終的に製造される構造物に導電性が与えられるであろう。いくつかの例では、粉末成分は、ゲル化粉末と、コラーゲン及び組織特異的な脱細胞化細胞外マトリックス(例えば、筋肉、軟骨、腎臓、肝臓、卵巣、皮膚、脂肪、等)などの生体由来材料とから構成されてもよく、これにより、最終的に製造される構造物に付加的な生物学的特性が与えられるであろう。さらに他の例では、粉末成分は、ゲル化粉末と、前述した種類の粉末、又は三溶媒系に適合する任意の粉末の組み合わせとから構成されてもよい。いくつかのインクの例は、ゲル化粉末に加えて、合成、天然、ハイブリッド、有機、又は無機のナノ粒子(<1μm)を含有し得る。ゲル化粉末含有インクは、高粘度であるが、1Gにおいて自重で流動することができる。粘度は、配合物中に存在する蒸発剤溶媒の量を変更することによって調整することができる、つまり、量が多いほどより低粘度のインクとなり、量が少ないほどより高粘度のインクとなる。
【0031】
本明細書で使用される場合、ゲル化粉末はゲルと区別される。ゲル化粉末は、粉末形態にある高吸収性の固体である。高吸収性粉末は、以下で定義されるように、水溶液に曝露された際又は水溶液と混合された際にのみゲルになる。本開示とゲル化粉末に依拠し得る従来の3Dプリンティング用インクとの相違点は、従来のインク中のゲル化粉末は、インクを3Dプリントするか、押し出すか、又は成形してヒドロゲル構造物、足場、又は生成物を形成する前に、インクの一部として水溶液と混合されることである。そのため、従来のインクのゲル化粉末は、実際には、ゲルである、すなわちそのゲル形態にある。対照的に、本開示のゲル化粉末は、インク組成物の非水性溶媒に基づく性質によって、インク内で、及びインク押出しプロセスを通して、ゲル化粉末、すなわち固体として残存する。本開示のゲル化粉末は、3Dプリンティング、押出し、又は成形の完了後まで及び後加工処理を経るまで、ゲルにならない。インクはゲルを含まない。換言すると、後加工処理が、アプローチ1~3で説明されたようなインク及び対応するゲル化のための水性組成物から形成された構造物、足場、又は生成物に関与するまで、ゲル化粉末はゲルにならない。
【0032】
加工に関して、生体適合性ポリマーは、蒸発剤に添加され、溶解される。典型的には、蒸発剤2~10gにつき、1gのポリマーが使用される(蒸発剤の量は、最終的なインクの所望の粘度に応じて変更され得る)。蒸発剤/溶解したポリマーに、表面活性剤及び可塑剤が添加される。蒸発剤に対する量は、インクの所望の最終特性及び使用されている粉末の性質に応じて変化し得る。ゲル化粉末及び他の所望の粉末(複数可)は、最後に添加され、典型的には、ゲル化粉末及びがインクの全固形物量(ポリマー+粉末の量)の85体積%以下を占めるように添加される。いくつかの例では、ゲル化粉末は、インクの全固形物量(ポリマー+粉末の量)の1~85体積%を占める。さらに他の例では、ゲル化粉末は、インクの全固形物量(ポリマー+粉末の量)の50~85体積%を占める。これは、均一になるまで物理的に混合され、均一になった時点で単純な室温押出しにより3Dプリントする準備が整う。
【0033】
3Dプリンティング及び成形
ゲル化粉末含有インクは、’254特許に既に記載のプロセスを用いて、3Dプリントされるか、又は別様に成形される。手短に言えば、ゲル化粉末含有インクは、室温で、空気式、ピストン、又はオーガー駆動機構(auger driven mechanism)によって、層状に押し出される。先の細いノズル(100~1000μm)からの押出し後の数ミリ秒以内に、ゲル化粉末含有インクは、ゲル化粉末をゲルではなく固体として維持したまま、固化し、基材上への堆積の際に自重を支持することができる。基材は、事前に堆積されたゲル化粉末含有インクを含めた任意の材料であり得る。このプロセスを通して、ゲル化粉末含有インクの層を堆積させて、繊維(又はフィラメント)から構成された固体構造物を形成することができる。インクの他の使用法には、繊維/フィラメントの押出し及び集積が含まれる。繊維は、可撓性であり、そのまま使用するか、又はブレーディング、ケーブリング、製織、または他の織編物製造方法によってさらに加工することができる。インクの他の使用法には、平坦な、テクスチャ付きの、又は立体的な(volumetric)型の上に流延すること、又はこれらの型内に注入することが含まれる。製造方法にかかわらず、得られたゲル化粉末含有構造物は、残存溶媒を除去するために洗浄されなければならない。加えて、又は代わりに、ゲル化粉末含有インクはさらに、乾燥させたゲル化粉末材料が劣化する可能性があるため、例えば加熱、溶融、等などの著しい熱エネルギーの付加を必要とする任意のプロセスには不適合である。
【0034】
得られた3Dプリント構造物は、ポリマー(より大きな3Dプリントされたマクロ形態に加えて、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性マトリックス、すなわちメッシュ、として存在する)と、多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、内に埋め込まれた粉末(複数可)と、多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、の中及び表面上に埋め込まれた3つの溶媒の残留物とから構成される。本明細書で使用される場合、「埋め込まれた」又は「内/中に埋め込まれた」とは、材料の微細構造に組み込まれているか、又は微細構造的に、すなわち物理的に、固着されていることと定義される。
【0035】
溶媒の残留物は、一連のアルコール溶液洗浄と水洗浄とを交互に行うことによって、又はアルコール溶液のみで洗浄することを通して、除去され得る。一連のアルコール溶液洗浄と水洗浄とを交互に行う例では、乾燥ステップの前に、水(又は大部分が水の溶液)への曝露により、ゲル化粉末成分の活性化及びゲル化が開始されるであろう。乾燥後、構造物は、十分な液体に曝露されると再水和され得る。アルコール溶液のみで洗浄する例では、乾燥ステップの前に活性化及びゲル化は起こらない。乾燥後、ゲル化粉末の事前の活性化が所望される場合、水(又は大部分が水の溶液又は液体/水環境)への曝露により、ゲル化粉末(ポリマー成分内に埋め込まれている)はゲル化するであろう。これと比較して、乾燥前の活性化/ゲル化が回避されるべき場合には、洗浄は、大部分がアルコールである溶液で行われ得る。
【0036】
ポスト3Dプリンティング及び成形加工
ポストフォーミング、ゲル化粉末含有構造物、すなわちゲル化粉末がゲルではなくゲル化粉末つまり固体として維持されるインクから形成された構造物は、洗浄され乾燥されなければならない。
【0037】
アプローチ1(
図2A~
図2B参照)
図2Aのステップ、及び
図2Aのそれぞれのステップに対応する
図2Bによって示される生成物によって示すように、ゲル化粉末構造物は、一連のアルコール溶液洗浄及び水洗浄を繰り返すことによって洗浄され得る。アルコール洗浄及び水洗浄は、構造物から残留溶媒(製造残留物)を除去するために行われる。ゲル化粉末の吸収性が高い性質のため、この洗浄アプローチにより、ゲル化粉末が水を吸収することで活性化され、ゲル化し、それにより物体の全体構造を画定する生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、が、ゲル内に封入され、ゲルによって浸透される。洗浄後の乾燥ステップは、物体の材料又は構造を、保存安定性がある形態にする。本明細書で使用される場合、「保存安定性がある」とは、例えば水和又は後続の加工の前に切断される、切り取られる、圧縮される、カニューレによって送達されること等が可能な材料を形成するように、乾燥している、脱水されている、又は乾燥されていることと定義される。換言すると、保存安定性がある構造物は、埋植の際に配置され周囲の血液、媒質、血漿、等で水和されることが可能であり、周囲組織を一体化し治癒させるデバイスの能力を大幅に増大させる(既に水和されているために周囲の生物学的成分を吸収するのが遥かに遅い既に水和されたゲルの注入剤とは別のものである)。以下の「ゲル化のための水性組成物」によって概説される最終水和ステップは、物体の材料又は構造の最終使用加工として提供される。
【0038】
アプローチ2(
図3A~
図3B参照)
ゲル化粉末材料の吸収性(水性)が高い性質のため、
図3Aのステップ、及び
図3Aのそれぞれのステップに対応する
図3Bによって示される生成物によって示すように、洗浄は、必要に応じて、事前のゲル化を防止するために、イソプロパノール、エタノール、又は他のアルコール系溶液などの、完全に又は主として(>50%)非水性の溶媒中で行われ得る。換言すると、ゲル化粉末構造物は、ゲル化粉末の活性化を防止するために、水溶液又は主として水溶液(例えば水)を使用して洗浄されないが、代りに、非水性溶媒を使用して洗浄される。対照的に、水溶液又は主として水溶液に曝露された場合には、構造物は、上記のアプローチ1でするように、ゲル化するであろう。このアプローチは、構造物が別様に水に曝露される必要がある’254特許のインク組成物に実質的な修正を与える。
【0039】
いずれのアプローチにおいても、洗浄時間及び洗浄媒体の量は、洗浄されている物体のサイズ及び曝露表面積に依存して変化するであろう。典型的には洗浄時間は5~120分間にわたる。複数の洗浄サイクルが用いられ得る。洗浄後の乾燥は、任意の単一の手段又は複数の手段の組合せによって行われ得る。一例において、主としてアルコール溶液で洗浄された、ゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末を含有する物体(以下「ゲル化粉末含有物」と記載)は、風乾させるか、又は気流(ファン、圧縮空気、等)の支援により乾燥させることができる。他の例では、主としてアルコール溶液で洗浄された、ゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末含有物は、凍結乾燥(フリーズドライ)され得る。しかしながら、アルコール含有量が高いため、ユーザは、使用される凍結乾燥機が、ゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末含有物を洗浄するために使用される溶液を凝縮(凍結)させることができることを確実にしなければならない。他の例において、アルコール溶液で洗浄された、ゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末含有物は、適切な圧力及び温度における超臨界CO2を使用して臨界点乾燥させることができる。臨界点乾燥を受ける任意の物体が臨界点乾燥の前に実質的に水を含まないことが重要である。得られた乾燥させたゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末含有物は、典型的には60℃未満の温度で水分を含まない環境(デシケータ、密封包装、等)に保管される限りにおいて、保存安定性があるはずである。得られた乾燥させた、ゲル化粉末、又はゲル化粉末含有物は、生体適合性ポリマーと埋め込まれたゲル化粉末の別個の粒子との複合材と説明され得る。生体適合性ポリマー成分は、典型的にはマイクロ多孔性であり、無秩序な相互に接続したメッシュネットワークと説明され得る。メッシュネットワーク内には、ゲル化粉末粒子が捕捉されており、製造された構造物は、任意のゲル又は実質量の水分を含有していない(例えば、構造物はゲル又は液体ではなく固体物質である)。その後、ゲル化粉末粒子は、以下の「ゲル化のための水性組成物」によって概説されるように、活性化又は水和され得る。
【0040】
上記のアプローチ1~2に関して、乾燥ゲル化粉末は、2014年8月1日出願の「METHODS FOR FABRICATING THREE-DIMENSIONAL METALLIC OBJECTS VIA ADDITIVE MANUFACTURING USING METAL OXIDE PASTES」と題された米国特許第9,327,448号;2016年7月18日出願の「THREE DIMENSIONAL EXTRUSION PRINTED ELECTROCHEMICAL DEVICES」と題された米国特許第10,236,528号;2015年10月15日出願の「GRAPHENE-BASED INK COMPOSITIONS FOR THREE-DIMENSIONAL PRINTING APPLICATIONS」と題された米国特許第10,350,329号;2016年4月7日出願の「INK COMPOSITIONS FOR FABRICATING OBJECTS FROM REGOLITHS AND METHODS OF FORMING THE OBJECTS」と題された米国特許第10,793,733号;2019年5月16日出願の「SURGICALLY-FRIENDLY TISSUE PAPERS FROM ORGAN-SPECIFIC DECELLULARIZED EXTRACELLULAR MATRICES」と題された米国特許出願公開第2019/0343989A1号;及び2020年4月29日出願の「WATER-SOLUBLE SALT PARTICLE CONTAINING COMPOSITIONS AND POROUS MATERIALS MADE THEREFROM」と題された米国特許出願公開第2020/0353129A1号に記載されるものなどの、さらに別の材料/構造物とともに使用されてもよいし、且つ/又はそれらの別の材料/構造物に3Dプリントされてもよい。上記特許文献のすべては、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0041】
アプローチ3(
図4参照)
押し出された繊維などの、乾燥させたゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末含有構造物は、付加的な加工を受けて、ゲル化粉末を含有する分解足場マイクロ顆粒、換言すると、分解足場ゲル化顆粒を生じ得る。具体的には、乾燥ゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末含有構造物は、機械的に粉砕され(カッティングミル)、篩にかけられて、より大きな3Dプリントされた又は別様に形成されたゲル化粉末構造物、すなわちゲル化粉末含有構造物、を代表する個々の粒子組成及び微細構造を有する粉末を生じ得る。ゲル化粉末を含有する分解足場マイクロ顆粒粉末のこのような集団は、乾燥形態において保存安定性があるが、水和されて(下記参照)、粒子のポリマーマトリックス内に含有された粉末のゲル化を生じて粒子を潤滑し、ゲルネットワークによって接続され、そのゲルネットワーク内に懸濁された離散したマイクロ顆粒の相互に接続したネットワークを形成することができ、これはシリンジによる押出しが可能である。このような水和材料は、さらに別の材料/構造物(各生体適合性ポリマーマイクロ粒子内の微細構造化された固着「点」を特徴とする、ゲルネットワークによって接続された、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性の生体適合性ポリマー粒子の非連続的な別個のユニットから構成されたもの)に3Dプリントされ得る。「分解足場ゲル化顆粒」という用語は、本明細書で定義されるように、粉砕の前ではなく、粉砕から得られた生成物を指す。換言すると、3Dプリントされた、押し出された、又は別様に形成された生成物は、付加的に粉砕されて粉末を生じ、各粉末粒子は粉砕前の材料を代表する組成及び微細構造を有する。分解足場ゲル化顆粒は、粉砕された、押し出された又は別様に形成された生成物から得られたそれらの粉末から形成されたそれらの構造物である。大量の材料を粉砕することにより、その材料から粉末が製造され、各粉末粒子は、本質的に、粉砕されたそのより大きな構造物の小さいバージョンである。そのため、各粒子は、ゲル化粉末、ポリマー、及び元の材料又はインクに存在していた可能性がある任意の他の粉末の複合物を含有する。さらに、粉砕された粉末はまた、必要に応じて、特定のサイズ範囲を得るために、篩にかけられ、選別されてもよい。マイクロ顆粒のサイズは、典型的には20μm以上である。1つの特定の例において、細胞送達及び組織修復の用途のためには、マイクロ顆粒が、直接隣接又は接着する細胞の大部分よりも数倍大きいことが重要である場合がある。この大きさの差により、個々の細胞がマイクロ顆粒と同じ材料から構成され同じ微細構造によって定義される遥かに大きな構造物と相互作用するのと同様の方法で、個々の細胞と個々のマイクロ顆粒との相互作用が促進される。
【0042】
アプローチ3は、
図4によってさらに示される。
図4において、上記のアプローチ1又は2のいずれかによって形成される(
図4のステップ1)多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、構造内に埋め込まれた乾燥ゲル化粉末を含む3Dプリント構造物は、機械的に粉砕されて、元のより大きな構造物の成分を代表する保存安定性がある分解足場ゲル化顆粒を形成する(
図4のステップ2)。機械的に粉砕された分解足場ゲル化顆粒を水溶液(例えば、血液、水、等)と組み合わせることができ、それにより、分解足場ゲル化顆粒のゲル化粉末成分を活性化/ゲル化させて、分解足場ゲル化顆粒の活性化/ゲル化した足場懸濁物を形成する(
図4のステップ3)。分解足場ゲル化顆粒の足場懸濁物のマイクロ顆粒粒子は、ゲル化により、固着された、しかも流動可能な、ゲル-粒子懸濁物となる。この懸濁物は、シリンジに装填され、例えば、組織、器官、又は創傷部位などの部位内に又はその上に注入され得る(
図4のステップ4)。したがって、分解足場ゲル化顆粒は、アプローチ1及び2のいずれのゲル化粉末としてもさらに利用され得る。
【0043】
上記のアプローチを考慮して本明細書で使用される場合、洗浄した構造物は、その「保存安定性がある」状態を得るために乾燥される。乾燥は、風乾(ファンなどの支援をの有無を問わない)、臨界点乾燥、凍結乾燥を含む、任意の数の方法によって行われ得る。乾燥させた構造物は、ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒(及び添加された場合には他の粉末)が埋め込まれた、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、からのみ構成されてもよく、それらから成ってもよく、又は、それらから本質的に成ってもよい。乾燥した構造物は、可撓性であってもよく、はさみ、カミソリの刃、又は等価な鋭利な道具で切断することができる。乾燥した構造物はまた、縫合糸又は糸を保持することができる場合もある。乾燥した構造物はまた、薄い(シート又は膜のような形態にある)場合には、圧縮され、カニューレに押し込まれ得る。
【0044】
上記のアプローチを考慮して本明細書で使用される場合、十分な水に曝露されると、ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、内のゲル化粉末及び/又は分解足場顆粒は、「活性化して」、本質的に自重の5倍以上の水(及び水中にあるものすべて、つまり血液)を吸い上げる。吸収により、非常に大きな体積変化及び乾燥した固体ゲル化粉末粒子から膨張性の湿ったヒドロゲルへの効果的な変換がもたらされ、このヒドロゲルは、ポリマー(つまりポリエステル)マトリックス、すなわちメッシュ、のナノ細孔及びマイクロ細孔を飽和状態にし、最終的にはポリマー成分の境界を越えて滲出して、ポリマー材料を封入し、より大きな3Dプリント構造物を全体的に封入する。
【0045】
ゲル化のための水性組成物
ゲル化粉末を含有する洗浄され乾燥させた構造物は、
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3Bによって示すように、水性液体に曝露されると、「微細構造的に固着された」又は「物理的に固着された」ゲルを滲出させることができる。本質的に、生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、内における、別個の乾燥ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒は、水(及び水中の任意のもの)を吸収し、それらがヒドロゲル(少量の相互に接続した固体ポリマーネットワークを含む、主に水を含有する物質、ここで「主に」は>50体積%と定義される)に変換するにつれて膨張し始める。このプロセスは、本明細書では、ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒の「活性化」と称される。この膨張により、周囲の生体適合性のポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、ネットワークに対する圧力が生じ、今や相互に接続したゲルネットワークが、依然として固体であり高度に多孔性の生体適合性ポリマーネットワークから滲出するか、又は追い出される。周囲を取り囲む生体適合性ポリマー、固体メッシュネットワーク、に対する膨張するゲルの圧力の結果として、メッシュネットワークが拡張し、製造された物体の肉眼的な膨張(典型的には、全ての方向で0.5~20%の線膨張)をもたらす。ゲル体積は、水性溶液への曝露の結果として、ゲルネットワークが、プリントされた又は別様に形成された生体適合性ポリマーメッシュネットワークの境界/半径を越えて滲出し、ゲル内に埋め込まれた、高度に多孔性だが固体のポリマーメッシュネットワークと説明され得る構造を生じる程度まで増大する。重要なことに、ポリマーメッシュネットワークがゲル内に埋め込まれるだけでなく、ゲルもポリマーメッシュネットワーク(例えば、ポリマーネットワークのナノ細孔及びマイクロ細孔)内に埋め込まれる。ゲルが構造的に多孔性の生体適合性ポリマー成分に/該成分内に、微細構造的に、すなわち物理的に、固着されるため、これは特性及び使用法にとって重要な意味合いを有する。活性化により、後加工処理は、ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒を、材料内又は構造物内から滲出させられるゲルに移行させる(つまり内側から外へのゲル化)。これは、既存の表面にゲルを追加する米国特許出願公開第2019/0060516号によって教示されているように既存の表面にゲルを追加したり、又はゲルを接着したりすること(つまり外側から中へ)とは対照的である。構造物から独立しているゲルは、剪断し、移動したり動いたりすることが判明していた。対照的に、構造物、足場、又は生成物に固着される本開示の活性化されたゲルは、本明細書で説明するように、剪断若しくは移動しない、又はそのような程度にまで剪断若しくは移動しない。換言すると、材料内又は構造物内から滲出するゲルは、既存の材料又は構造物に追加されるゲルとは対称的に、ナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、から滲出しているゲルにせん断力が加えられ、その後、解除された場合に、ゲルがその元の位置に戻るような(ゲルが、より実質的なナノ多孔性及びマイクロ多孔性ポリマーマトリックス、すなわちメッシュ、内に付着又は固着されるような)固着点を有する。これにより、ゲルがこの3Dプリント物(3D printed form)に埋植された場合に、単に注入されたゲル又は既存の(3Dプリントされた又はされていない)構造物に後から追加されたゲルと比べて、ゲルの移動が制限され、ゲルの滞留時間が増大する。
【0046】
本開示の他の例において、粉末成分を含んだ前述のインクは、ゲル化粉末、分解足場ゲル化顆粒、マイクロスケール(平均で1~100マイクロメートル)の非ゲル化粉末粒子、及びナノスケール(平均で0.001~0.999マイクロメートル)の非ゲル化粒子のうちの1つ以上の組合せであり得る。マイクロ粒子は、ジクロロメタンに実質的に溶解しないか、又は不溶性である任意の材料であり、これには、セラミック、金属、合金、共有結合固体、生物学的粒子(細胞外マトリックス、コラーゲン、タンパク質)、又はこれらの修飾された粒子が含まれるが、これらに限定されるものではない。修飾には、表面の機能化、コーティング、及び他の材料とのカプセル化が含まれ得るが、これらに限定されるものではない。ナノスケール粒子には、タンパク質、薬物、ペプチド、生物活性因子に加えて、マイクロスケール粒子と同様の範疇の材料が含まれる可能性がある。
【0047】
乾燥ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒を含有する構造物は、任意の数の水性溶液で水和/ゲル化させることができる。これには、以下の、水、生理食塩水、血液、血漿、精製した血液製剤(多血小板血漿)、並びに細胞、薬物、タンパク質、ペプチド、細胞又は組織培養培地、小分子、ナノ粒子、抗生物質、抗真菌薬、等を含有する水系溶液が含まれるが、これらに限定されるものではない。水和の割合及びゲル化の程度(つまり、どれくらいのゲルがポリマーネットワークから滲出されるか)は複数の要因に依存し、これらの要因には、構造物中におけるゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒の相対体積%(他の粉末並びにポリマー成分に対するもの)、ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒材料の分子量及び多分散性、ゲル化に使用される水溶液が含まれるが、これらに限定されるものではない。このように、ゲル化は、生体適合性ポリマー繊維又は大きな構造物のまわりのゲル「半径」を調節するように制御され得る(つまり、少量のゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒が、約10~100μmの、又は数ミリメートルに及ぶ、プリントされた繊維のまわりのゲル化半径をもたらし得る)。
【0048】
乾燥ゲル化粉末及び/又は分解足場ゲル化顆粒を含有する構造物は、形状因子に応じて、典型的には可撓性であり、整形するために弾性的及び塑性的に変形される(曲げられる、折り曲げられる、等)、切断される、型押しされる、及び別様に切り取られることが可能である。これらのプロセスもまた、構造物が水和されゲル化した後に実施することができる。
【0049】
水和されゲル化した構造物を、任意で、凍結乾燥(フリーズドライ)させて、乾燥させたゲルネットワーク(及びポリマーメッシュ微細構造内部にもある乾燥させたゲルネットワーク)内に埋め込まれた元の生体適合性ポリマーメッシュネットワークによって規定された、水分を含まない構造物を得ることができる。
【0050】
本発明は、本発明の例を参照して説明されているが、このような説明は、例示のみを目的としており、特許請求される例の範囲を限定するものと解釈されるべきではないと理解されるものとする。よって、例の範囲及び内容は、以下の特許請求の範囲の文言によってのみ定義されるべきである。さらに、本明細書で論じられるいずれの例の特徴も、特に指示しない限り、本明細書で別様に論じられるか、又は企図された任意の1つ以上の例の1つ以上の特徴と組み合わされてもよいことが理解される。
【国際調査報告】