(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】定量的質量分析のためのユニバーサル較正
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240614BHJP
【FI】
G01N27/62 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577912
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2022066362
(87)【国際公開番号】W WO2022263541
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】プフリーガー,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】パークル,ニコル
(72)【発明者】
【氏名】レンプト,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ツート,クリストフ
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA12
2G041FA10
2G041FA22
2G041JA05
2G041LA09
(57)【要約】
本発明は、質量分析(MS)によって試料中の分析物を決定する方法であって、本方法は、(a)所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することであって、前記内部キャリブレータが、所定量の分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む、所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することと、(b)前記分析物から生成されたイオンのMSシグナル(分析物シグナル)及び前記少なくとも2つのアイソトポログから生成されたイオンのMSシグナル(アイソトポログシグナル)を決定することと、(c)工程(b)で決定された分析物シグナル及びアイソトポログシグナルに基づいて較正を提供することと、(d)工程(c)で提供された較正に基づいて、前記分析物を決定することと、を含む、方法に関する。さらに、本発明は、それに関連する装置、システム、及び使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析(MS)によって試料中の分析物を決定する方法であって、
(a)所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することであって、前記内部キャリブレータが、所定量の前記分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む、所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することと、
(b)前記分析物から生成されたイオンのMSシグナル(分析物シグナル)及び前記少なくとも2つのアイソトポログから生成されたイオンのMSシグナル(アイソトポログシグナル)を決定することと、
(c)工程(b)で決定された前記分析物シグナル及び前記アイソトポログシグナルに基づいて較正を提供することと、
(d)工程(c)で提供された前記較正に基づいて、前記分析物を決定することと
を含む、方法。
【請求項2】
工程(c)が、(i)前記少なくとも2つのアイソトポログの各々に対する前記アイソトポログシグナル及び前記分析物シグナルの和と(ii)前記少なくとも2つのアイソトポログの各々に対する前記量との比に基づいて較正を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
回帰方程式が前記比に適合され、前記分析物の前記量が、イオンの前記MSシグナルの値が0であることに対する前記回帰方程式の解の負の値として決定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記回帰方程式が、線形回帰方程式である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記内部キャリブレータが、主化合物としての前記分析物の第1のアイソトポログと、前記第1のアイソトポログの最大20%、一実施形態では最大10%、さらなる実施形態では最大5%の相対分率の少なくとも第2のアイソトポログとを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のアイソトポログの前記相対分率が、前記内部キャリブレータの製造プロセスにおける相対的同位体分布の結果である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アイソトポログが、前記分析物の単一の同位体標識調製物に含まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記アイソトポログについて、及び一実施形態では前記分析物について決定された前記イオンが、構造的に同一である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が対象の試料であり、一実施形態では医療用又は診断用の試料であり、一実施形態では体液又は組織試料の試料である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記分析物が、低分子量化合物であり、一実施形態では最大2.5kDaの分子質量を有する低分子量化合物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記分析物がテストステロンであり、前記内部キャリブレータが2,3,4-
13C
3-テストステロンである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法の少なくとも工程c)、一実施形態では工程(c)及び(d)を実行するように構成された、装置。
【請求項13】
質量分析装置に動作可能に接続された、請求項12に記載の装置を含む、システム。
【請求項14】
前記質量分析装置が、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法の少なくとも工程(b)、一実施形態では少なくとも工程(a)及び(b)を実行するように適合されている、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法による一実施形態における、試料中の分析物の決定のための、所定の比で前記分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析(MS)によって試料中の分析物を決定する方法に関し、この方法は、(a)所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することであって前記内部キャリブレータが、所定量の分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む、所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することと、(b)前記分析物から生成されたイオンのMSシグナル(分析物シグナル)及び前記少なくとも2つのアイソトポログから生成されたイオンのMSシグナル(アイソトポログシグナル)を決定することと、(c)工程(b)で決定された分析物シグナル及びアイソトポログシグナルに基づいて較正を提供することと、(d)工程(c)で提供された較正に基づいて、前記分析物を決定することと、を含む。さらに、本発明は、それに関連する装置、システム、及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS)などの分析方法による絶対定量の品質は、測定されたシグナルを分析物濃度に変換するために使用される較正プロセスの品質に大きく依存する。MSシグナルは、原則として、外部較正法及び内部較正法に適している。例えば、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)では、最良の場合には対象となる分析物から全てのマトリックス効果を除去することができる適切なLC方法を使用することによって、マトリックス効果を回避することが可能であり得る。マトリックスが分析物シグナルと共溶出される場合、一定のマトリックス効果のみが外部較正によって補償され得る。試料マトリックスが変化している場合(例えば、異なるサンプルタイプ又は異なるイオン化特性によって引き起こされる)、外部較正はあまり正確ではない。
【0003】
それにもかかわらず、MS定量化のための技術水準の方法論は、安定同位体希釈の概念と、シグナル応答(分析物シグナル/内部標準シグナル)を使用することによって参照標準から生成された外部較正曲線とに依存する。較正頻度を増加させることによって、データ品質及び信頼性を改善することができるが、これは測定時間、したがってコストを増加させる。また、外部較正は、バッチモードアッセイのためにLC-MS環境で広く適合されているが、ランダムアクセスで多くの異なるアッセイを実行することができる動的多重化システムを扱うにはあまり適していない。この場合の較正要求は、この場合の定期的な再較正を可能にするには高すぎる。
【0004】
前述の欠点、特にマトリックス効果を回避するために、分析化学において標準を様々な濃度で試料に添加し、それによって潜在的なマトリックス効果が分析物と同程度に標準に影響することを確実にする標準添加法が考案されている。
【0005】
異なるアプローチは、マトリックス効果を補償する内部標準の使用であるが、分析物/内部標準比を較正するために追加の標準曲線を必要とする。前述の方法は全て、当該技術分野で知られており、標準的な教科書に記載されている較正方法である。
【0006】
さらなる方法として、マルチポイント内部標準回帰が、例えばHoffman et al.(2020),Clin Chem 66(3):474及び国際公開第2017/178453号に記載された。しかしながら、外部較正と同様に、この方法は、分析物の濃度が、使用されるキャリブレータの濃度範囲によって固定された範囲内にあることを必要とする。
【0007】
解決すべき課題
上記を考慮して、当技術分野では、MSによって分析物を決定するための改善された手段及び方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
概要
この課題は、独立請求項の特徴を有する方法、装置、システム、及び使用によって対処される。単独の方式又は任意の恣意的な組み合わせで実現され得る有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0009】
したがって、本発明は、質量分析(MS)によって試料中の分析物を決定する方法であって、
(a)所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することであって、前記内部キャリブレータが、所定量の分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む、所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することと、
(b)前記分析物から生成されたイオンのMSシグナル(分析物シグナル)及び前記少なくとも2つのアイソトポログから生成されたイオンのMSシグナル(アイソトポログシグナル)を決定することと、
(c)工程(b)で決定された分析物シグナル及びアイソトポログシグナルに基づいて較正を提供することと、
(d)工程(c)で提供された較正に基づいて、前記分析物を決定することと
を含む、方法に関する。
【0010】
概して、本明細書で使用される用語は、当業者に通常の慣習的な意味を与えられるべきであり、別途指示がない限り、特別な又はカスタマイズされた意味に限定されるべきではない。以下で使用される「有する」、「備える」、若しくは「含む」という用語、又はそれらの任意の文法的変形は、包括的に使用される。よって、これらの用語は、これらの用語によって導入された特徴に加えて、この文脈で説明されている存在物にさらなる特徴が存在しない状況と、1つ以上の追加の特徴が存在する状況との両方を指す場合がある。一例として、「AはBを有する」、「AはBを備える」、及び「AはBを含む」という表現は、両方とも、B以外に、他の要素がAに存在しない状況(すなわち、Aが単独かつ排他的にBからなる状況)、及び、B以外に、要素C、要素C及びD、又はさらなる要素などの1つ以上のさらなる要素がエンティティAに存在する状況を指してもよい。また、当業者によって理解されるように、「備える(comprising a)」及び「備える(comprising an)」という表現は、一実施形態では、「1つ以上の・・・を備える(comprising one or more)」を指し、すなわち「少なくとも1つの・・・を備える(comprising at least one)」と等価である。したがって、複数のうちの1つの項目に関する表現は、別段の指示がない限り、一実施形態では、少なくとも1つのそのような項目に関し、さらなる実施形態では、その複数、したがって、例えば、「細胞」を同定することは、少なくとも1つの細胞を同定することに関し、一実施形態では、多数の細胞を同定することに関する。
【0011】
さらに、以下で使用される場合、「好ましくは(preferably)、「より好ましくは(more preferably)」、「最も好ましくは(most preferably)」、「特に(particularly)」、「より特には(more particularly)、「具体的には(specifically)」、「より具体的には(more specifically)」という用語、又は同様の用語は、さらなる可能性を制限することなく、任意の特徴と併せて使用される。したがって、これらの用語により導入される特徴は、任意の特徴であり、特許請求の範囲を、いかなる方法によっても制約することを意図されていない。本発明は、当業者が認識するように、代替の特徴を使用して実施されてもよい。同様に、「一実施形態では(in an embodiment)」又は同様の表現によって導入された特徴は、本発明のさらなる実施形態に関するいかなる制限もなく、本発明の範囲に関するいかなる制限もなく、及びそのように導入された特徴を他の任意又は非任意の特徴と組み合わせる可能性に関するいかなる制限もなく、任意の特徴であることが意図されている。
【0012】
一実施形態では、本明細書中下記で特定される方法は、in vitro法である。方法工程は、原則として、当業者によって適切であると考えられる任意の順序で行われてもよいが、一実施形態では、指定の順序で行われ、また、前記工程の1つ以上、一実施形態では全てが、自動化された機器によって支援又は実施されてもよい。さらに、本方法は、明示的に上述された工程以外の工程も含むことができる。
【0013】
本明細書で使用される場合、「標準条件」という用語は、別途明記されない場合、IUPAC標準の常温及び圧力(SATP)条件、すなわち、一実施形態では、25℃の温度及び100kPaの絶対圧力に関し、また一実施形態では、標準条件は7のpHを含む。さらに、別段の指示がない限り、「約」という用語は、関連分野で一般に認められている技術的精度を有する指示値に関し、一実施形態では、指示値±20%に関し、さらなる実施形態では±10%に関し、さらなる実施形態では±5%に関する。さらに、「本質的に」という用語は、示された結果又は使用に影響を及ぼす偏差が存在しない、すなわち、潜在的な偏差が、示された結果をさらなる実施形態では±20%、さらなる実施形態では±10%、さらなる実施形態では±5%を超えて偏差させないことを示す。したがって、「から本質的になる(consisting essentially of)」とは、特定された成分を含むが、不純物として存在する材料、成分を提供するために使用されるプロセスの結果として存在する不可避の材料、及び本発明の技術的効果を達成すること以外の目的のために添加される成分を除く他の成分を除外することを意味する。例えば、「から本質的になる」という語句を使用して定義される組成物は、任意の既知の許容される添加剤、添加物、希釈剤、担体などを包含する。一実施形態では、一組の成分から本質的になる組成物は、5%重量未満、さらなる実施形態では3%重量未満、さらなる実施形態では1%重量未満、さらなる実施形態では0.1%重量未満の特定されていない成分(複数可)を含む。
【0014】
上記のように、本明細書で指定される分析物を決定する方法は、本明細書で上記に指定されたものに加えて工程を含み得る。追加の工程は、特に、工程(a)のための試料の提供、本明細書で以下に指定される試料前処理、脱離マトリックスの混合、イオン化などのような当業者によって適切と考えられる特定のMS工程に関する場合がある。さらに、工程(d)の後、決定の結果は、ユーザに出力されてもよく、データベースに格納されてもよく、標準的な数学的計算などで使用されてもよい。
【0015】
「決定する」という用語は、事実及び/又はデータを確定すること、結論付けること、又は確認することを指すと当業者によって理解される。したがって、一実施形態では、決定することは定性的決定、半定量的決定、又は定量的決定であり、一実施形態では定量的決定に関する。定性的決定は、パラメータの値が所定の閾値、例えば検出限界又は生理学的に関連する閾値を上回っているかどうかを決定することであり得る。半定量的決定は、測定値を予め確立されたカテゴリ、例えば「低」、「中」、又は「高」の濃度に割り当てることである。一実施形態では、決定することは定量的であり、すなわちパラメータの定量的尺度の値を決定することである。
【0016】
「試料中の分析物を決定する」という用語は、当業者によって理解される。一実施形態では、この用語は、試料中の分析物の量の定性的、半定量的、又は定量的決定に関し、一実施形態では、試料中の分析物の量の定量的決定に関する。本明細書で使用される場合、分析物の「量」という用語は、分析物の任意の定量的尺度に関し、試料質量又は試料容積が分かっている場合の量から計算され得る質量分率及び濃度などの他の対応する尺度と等価である。したがって、試料中の分析物の測定結果は、任意の単位、重量、質量分率、濃度などの測定値、又はそれらから導出された測定値、例えば所定の定義による国際単位を含む、当業者によって適切と考えられる任意の単位で表され得る。MSによって分析物の量を決定するための方法は、原則として当業者に公知である。
【0017】
上記のように、「分析物」という用語は、本明細書で使用される場合、試料中の決定されるべき任意の化学化合物又は化合物群に関する。一実施形態では、分析物は高分子、すなわち2500u(すなわち、2.5kDa超)を超える分子質量を有する化合物である。さらなる実施形態では、分析物は、生物学的高分子、特にポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖、又は前述のいずれかの断片である。一実施形態では、分析物は、小分子化学化合物、すなわち、最大2500u(2.5kDa)、一実施形態では最大1.5kDa、さらなる実施形態では最大1kDaの分子質量を有する化合物である。分析物は、目的の任意の化学化合物であってもよく、一実施形態では、分析物は、対象の身体によって代謝される化学化合物であり、対象の代謝の変化を誘導するために対象に投与される化合物であり、技術的プロセスにおいて目的の化学化合物、例えば、遊離体、中間体又は生成物であり、環境試料中の対象となる化学化合物などである。一実施形態では、分析物は、対象、特にヒト対象の身体によって代謝される化学化合物であるか、又は対象の代謝の変化を誘導するために対象に投与される化合物である。したがって、一実施形態では、分析物は、乱用薬物又はその代謝産物、例えばアンフェタミン、コカイン、メタドン、エチルグルクロニド、硫酸エチル、オピエート、特にブプレノルフィン、6-モノアカチルモルヒネ、コデイン、ジヒドロコデイン、モルヒネ、モルフィン-3-グルクロニド、及び/又はトラマドール、及び/又はオピオイド、特にアセチルフェンタニル、カルフェンタニル、フェンタニル、ヒドロコドン、ノルフェンタニル、オキシコドン、及び/又はオキシモルホンである。一実施形態では、分析物は、治療薬、例えばバルプロ酸、クロナゼパム、メトトレキサート、ボリコナゾール、ミコフェノール酸(合計)、ミコフェノール酸-グルクロニド、アセトアミノフェン、サリチル酸、テオフィリン、ジゴキシン、免疫抑制薬、特にシクロスポリン、エベロリムス、シロリムス、及び/又はタクロリムス、鎮痛薬、特にメペリジン、ノルメペリジン、トラマドール、及び/又はO-デスメチル-トラマドール、抗生物質、特にゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、バンコマイシン、ピペラシリン(タゾバクタム)、メロペネム、及び/又はリネゾリド、抗てんかん薬、特にフェニトイン、バルポール酸、遊離フェニトイン、遊離バルプロ酸、レベチラセタム、カルバマゼピン、カルバマゼピン-10、11-エポキシド、フェノバルビタール、プリミドン、ガバペンチン、ゾニサミド、ラモトリギン及び/又はトピラマートである。一実施形態では、分析物は、ホルモン、特にコルチゾール、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、アルドステロン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)、ジヒドロテストステロン、及び/又はコルチゾンである。一実施形態では、試料は、血清又は血漿試料であり、分析物は、コルチゾール、DHEA-S、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、アルドステロン、DHEA、ジヒドロテストステロン、及び/又はコルチゾンである。一実施形態では、試料は、唾液試料であり、分析物は、コルチゾール、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、アンドロステンジオン、及び/又はコルチゾンである。一実施形態では、試料は、尿試料であり、分析物は、コルチゾール、アルドステロン及び/又はコルチゾンである。一実施形態では、分析物は、ビタミンであり、一実施形態ではビタミンD、特にエルゴカルシフェロール(ビタミンD2)及び/又はコレカルシフェロール(ビタミンD3)又はそれらの誘導体、例えば25-ヒドロキシ-ビタミン-D2、25-ヒドロキシ-ビタミン-D3、24,25-ジヒドロキシ-ビタミン-D2、24,25-ジヒドロキシ-ビタミン-D3、1,25-ジヒドロキシ-ビタミン-D2及び/又は1,25-ジヒドロキシ-ビタミン-D3である。さらなる実施形態では、分析物は、対象の代謝産物である。一実施形態では、分析物は、少なくとも10個、一実施形態では、少なくとも15個の同じ元素の原子、一実施形態では、炭素原子を含む。一実施形態では、分析物はテストステロンであり、内部キャリブレータは2,3,4-13C3-テストステロンの調製物である。
【0018】
本明細書で使用される場合、「試験試料」とも呼ばれる「試料」という用語は、原則として、物質の任意の種類の組成物に関し、したがって、この用語は、限定されないが、生物学的試料、化学的試料、環境試料、又は対象となる分析物を含むか若しくは含むと仮定される任意の他の試料などの任意の試料を指し得る。試料は、一実施形態では、対象の試料であり、一実施形態では、医学的試料又は診断用試料である。一実施形態では、試料は、液体試料であり、さらなる実施形態では水性試料である。一実施形態では、試験試料は、血液、血清、血漿、唾液、眼水晶体液、涙液、脳脊髄液、汗、尿、乳、腹水、粘液、滑液、腹腔液、及び羊水を含む生理液、洗浄液、組織、細胞などからなる群から選択される。一実施形態では、試料は、血液、血漿、血清、唾液又は尿試料、さらなる実施形態では、血液、血漿又は血清試料、さらなる実施形態では、血清又は血漿試料である。しかしながら、試料は、天然又は工業用液体、特に地上水又は地下水、下水、工業廃水、処理液、土壌溶出液などであってもよい。一実施形態では、試料は、少なくとも1つの対象となる化合物、すなわち「分析物」と呼ばれる決定される化学化合物を含むか、又は含むと疑われる。試料は、1つ以上のさらなる化学化合物を含んでいてもよく、これらは決定されるものではなく、一般に「マトリックス」と呼ばれる。したがって、試料は、一実施形態では複合マトリックス試料であり、一実施形態では100を超え、さらなる実施形態では1000を超える化学化合物を含む。試料は、それぞれの供給源から得られたものとして直接使用されてもよく、又は1つ以上の前処理及び/又は試料調製工程(複数可)に供されてもよい。したがって、試料は、物理的及び/又は化学的方法によって、一実施形態においては遠心分離、ろ過、混合、均質化、クロマトグラフィー、沈殿、希釈、濃縮、結合剤及び/又は検出試薬との接触、並びに/あるいは当業者が適切であると考える任意の他の方法によって前処理されてよい。
【0019】
「MS」と略される「質量分析」という用語は、当業者によって理解される。一実施形態では、この用語は、分析物から生成されたイオンの質量電荷比を決定することを含む分析技術に関する。したがって、「MS装置」は、一実施形態では、少なくとも1つの質量分析ユニット(MSユニット)を含む。本明細書で使用される場合、「質量分析ユニット」という用語は、一実施形態では、分析物又はその断片の質量電荷(m/z)に基づいて少なくとも1つの分析物を検出するように構成された質量分析装置に関する。一実施形態では、MSユニットは、タンデム質量分析(MS/MS)ユニット、さらなる実施形態ではトリプル四重極MS(QqQ-MS)、さらなる実施形態では多重反応モニタリング(MRM)モードである。MSユニットは、典型的には質量分析装置を通過するイオンの量によって誘導され、一実施形態ではそれに比例する電荷又は電流を記録する少なくとも1つの検出器を備える。MS装置は、典型的には、分子イオンを生成し、分子イオンを気相に移動させるように構成された少なくとも1つのイオン化源を更に含む。イオン化方法及び適切なイオン化ユニットは当技術分野で公知であり、特に電子イオン化(EI)、化学イオン化(CI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)、及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)が挙げられる。
【0020】
一実施形態では、MSは、クロマトグラフィーMS、特にガスクロマトグラフィーMS(GC-MS)又は液体クロマトグラフィーMS(LC-MS)であり、これらは当業者によって理解される用語である。したがって、一実施形態では、MS装置は、クロマトグラフィー(例えば、LC又はGC)と質量分析(MS)との組み合わせを実施するように構成される。したがって、装置は、一実施形態では、少なくとも1つのLC及び/又はGCユニットと、少なくとも1つのMSユニットとを備え、LC及び/又はGCユニット(複数可)とMSユニットとは、少なくとも1つのインターフェースを介して結合される。本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー(LC)ユニット」という用語は、一実施形態では、質量分析装置を用いて1つ以上の分析物を検出するための実施形態では、液体クロマトグラフィーを介して試料の1つ以上の対象となる分析物を試料の他の成分から分離するように構成された分析モジュールに関する。LCは、当業者によって適切と考えられる任意の分離原理に基づいてもよい。一実施形態では、LCは、逆相クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、又はキラルクロマトグラフィーである。さらなる実施形態では、LCは、逆相クロマトグラフィーである。LC装置は、少なくとも1つのLCカラムを備え得る。例えば、LC装置は、シングルカラム型のLC装置であってもよく、複数のLCカラムを有するマルチカラム型のLC装置であってもよい。LCカラムは、対象となる分析物(複数可)を分離及び/又は溶出及び/又は移送するために移動相が圧送される固定相を有し得る。LCユニットは、少なくとも1つの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ユニット及び/又は少なくとも1つのマイクロ液体クロマトグラフィー(μLC)装置であり得るか、又はそれを備え得る。「ガスクロマトグラフィー」という用語は、当業者によって理解され、一実施形態では、LCと同じ分離原理が適用可能であるが、移動相はGC中のガスである。
【0021】
「混合(mixing)」及び「混合(admixing)」という用語は、当業者によって理解され、本明細書では互換的に使用される。一実施形態では、この用語は、当業者によって適切であると考えられ、示された成分及び任意のさらなる成分を混合させ、一実施形態では均一にするあらゆる手段を含む。特に明記しない限り、化合物は任意の順序で混合のために添加することができる。また、成分は、予備混合された形態で添加されてもよい。
【0022】
「アイソトポログ」という用語は、本明細書ではその従来の意味で使用され、その又はそれらの同位体組成のみが比較化合物とは異なる化合物又は化合物群に関する。したがって、方法におけるアイソトポログについて決定されたイオンは、一実施形態では、それらの同位体組成のみが異なり、さらなる実施形態では、アイソトポログ及び分析物について決定されたイオンは、それらの同位体組成のみが異なる。当業者が知っているように、安定な異性体、したがってアイソトポログは、例えば同位体の自然分布によって引き起こされる統計的様式で化学化合物の調製物中に存在し得る。例えば、化学分子中の任意の炭素原子は、人工的に濃縮又は枯渇されない限り、13Cである確率は約1%である。したがって、また従来の使用と一致して、アイソトポログという用語は、同じ同位体組成を有するが、同位体標識(アイソトポマー)の特定の位置が異なる分子の集団も含む。したがって、例えば、テストステロンの13C1アイソトポログには、1-13C1-テストステロン、2-13C1-テストステロン、3-13C1-テストステロン、4-13C1-テストステロンなどが含まれる。上記を考慮して、一実施形態では、アイソトポログは、分析物と構造的に同一であるが、少なくとも1つの同位体標識、すなわち一実施形態では、原子がその同位体によって置き換えられる少なくとも1つの位置を含む。誤解を避けるために、本明細書で使用される場合、アイソトポログという用語は、分析物と比較して、同じ数の原子が同じ同位体によって置き換えられた分子の集団を指し、これは、同じ位置(複数可)の同じ原子(複数可)が置き換えられた分子の集団であり得、その場合、アイソトポログは「特定のアイソトポログ」とも呼ばれる場合があるが、アイソトポログは、同じ数の同じ原子が同じ数の同じ同位体によって置き換えられた分子の集団であってもよく、その場合、アイソトポログは「混合アイソトポログ」とも呼ばれる場合がある。
【0023】
一実施形態では、同位体は安定同位体である。一実施形態において、置き換えられた原子は炭素原子であり、同位体は13Cである。さらなる実施形態では、置き換えられた原子は窒素であり、同位体は15Nである。さらなる実施形態では、置き換えられた原子は水素であり、同位体は2Hである。さらなる実施形態では、置き換えられた原子は酸素であり、同位体は17O又は18Oであり、一実施形態では18Oである。さらなる実施形態では、置き換えられた原子は硫黄であり、同位体は33S又は34Sである。一実施形態では、少なくとも2個、さらなる実施形態では少なくとも3個、さらなる実施形態では少なくとも4個、さらなる実施形態では分析物構造中の少なくとも5個の原子がそれらの同位体によって置き換えられ、そのような場合、一実施形態では、同じ元素の原子のみが置き換えられ、原子を置き換える同位体は同じ同位体である。したがって、一実施形態では、炭素原子が置き換えられる場合、置き換えられる全ての炭素原子は13C原子によって置き換えられる。さらなる実施形態では、特定の元素の原子の少なくとも10%、さらなる実施形態では少なくとも20%、さらなる実施形態では少なくとも30%が特定の同位体で置き換えられる。当業者が理解するように、上記は、必要な変更を加えて、MS中に生成及び検出され得る分析物及びアイソトポログの断片に適用される。
【0024】
本明細書で使用される場合、「内部キャリブレータ」という用語は、所定の量の分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む物質の組成物に関する。本明細書を考慮して当業者によって理解されるように、分析物の非同一アイソトポログである化合物は、一実施形態では相互にアイソトポログでもある。したがって、一実施形態では、互いに非同一のアイソトポログは、アイソトポマーではなく、及び/又は分析物のアイソトポマーではない。
【0025】
一実施形態では、内部キャリブレータは、少なくとも第1及び第2のアイソトポログを含み、さらなる実施形態では、分析物の少なくとも第3のアイソトポログ、さらなる実施形態では少なくとも第4のアイソトポログを更に含む。アイソトポログの名称は、一実施形態では、内部キャリブレータ内のそれらの相対量によって順序付けられ、すなわち、一実施形態では、第1のアイソトポログは最も高い分率で存在するアイソトポログであり、第2のアイソトポログは2番目に高い分率で存在するアイソトポログであり、以下同様である。一実施形態では、内部キャリブレータは、主化合物としての分析物の少なくとも第1のアイソトポログと、第1のアイソトポログの最大20%、一実施形態では最大10%、さらなる実施形態では最大5%の相対分率の少なくとも第2のアイソトポログとを含む。一実施形態では、少なくとも2つのアイソトポログ又はそれに由来するイオンは、x~x+(n-1)の範囲のm/z比を有し、xは、最も低いm/z比を有するアイソトポログのm/z比であり、nは、内部キャリブレータに存在するアイソトポログの数である。したがって、一実施形態では、内部キャリブレータは、それぞれ1質量単位分増加するm/z値を有する一連のイオンを提供する。
【0026】
一実施形態では、内部キャリブレータ内の第1のアイソトポログは、分子内の特定の位置、一実施形態では少なくとも2つ、さらなる実施形態では少なくとも3つ、さらなる実施形態では少なくとも4つの位置で標識されている分析物のアイソトポログを含むか、又はそのアイソトポログである。したがって、一実施形態では、第1のアイソトポログは、分析物の2つの同位体、さらなる実施形態では3つの同位体、さらなる実施形態では4つのアイソトポログの誘導体である。したがって、第1のアイソトポログは、一実施形態では、本明細書で上記に特定される特定のアイソトポログである。
【0027】
一実施形態では、第2のアイソトポログは、天然の同位体分布の結果として第1のアイソトポログの調製物中に存在する。さらなる実施形態では、第2及び第3のアイソトポログ、さらなる実施形態では、第2、第3及び第4のアイソトポログが、天然の同位体分布の結果として第1のアイソトポログの調製物において存在する。したがって、一実施形態では、第2のアイソトポログ並びに任意の第3のアイソトポログ及びさらなるアイソトポログ(複数可)は、本明細書中上記で明記されるような混合アイソトポログである。したがって、一実施形態では、内部キャリブレータの全てのアイソトポログは、分析物の単一の同位体標識調製物に含まれる。元素の同位体の自然分布は既知であるため、原則として、原子が同位体である確率から第2の同位体及びさらなるアイソトポログの分率を計算することが可能である。一実施形態では、内部キャリブレータ中のアイソトポログの相対分率は、例えばMSによって決定されるか、又は製造業者によって提供される。
【0028】
例示的な実施形態では、分析物はテストステロンであってもよい。そのような場合、第1のアイソトポログは、例えば、2,3,4-13C3-テストステロンであり得、したがって、第1のアイソトポログは、2位、3位及び4位の3個の炭素原子が13Cで置き換えられたアイソトポログであり、したがって、テストステロンと比較して+3分増加したm/z値を有する。さらに、テストステロンは19個の炭素原子を有することから、2,3,4-13C3-テストステロンの16個の正式には標識されていない炭素原子のうち、それぞれが13Cである確率は約1%であるため、2,3,4-13C3-テストステロン調製物の約16%は1個の追加の13C原子を含み、約2.4%は2個の追加の13C原子を含む。
【0029】
一実施形態では、第2のアイソトポログは、第1のアイソトポログと比較して分子内の1つのさらなる位置又はより少ない位置で標識されている分析物のアイソトポログを含むか、又はそのアイソトポログである。一実施形態では、前述のものは、必要な変更を加えて、任意の第3及びさらなるアイソトポログに適用され、したがって、第2の同位体、並びに任意の第3の同位体及びさらなる同位体(複数可)は、本明細書中上記で特定されるような具体的な同位体である。したがって、第1の同位体が3,4-13C2-テストステロンである場合、第2の同位体は、例えば2,3,4-13C3-テストステロンであり得る。第2のアイソトポログが分子中の1つ以上の特定の原子で標識されたアイソトポログである場合、当業者は、天然の同位体分布に応じて、第1のアイソトポログの調製が有意な量の第2のアイソトポログを含み得ることを考慮する。
【0030】
上記を考慮して、一実施形態では、第2のアイソトポログの相対分率は、内部キャリブレータの製造プロセスにおける相対的同位体分布の結果であり、前記相対的同位体分布は、天然の相対的同位体分布又は富化された相対的同位体分布であり得る。
【0031】
上記のように、内部キャリブレータは、所定量の分析物の少なくとも2つのアイソトポログを含む。本明細書で使用される場合、「所定量」という用語は、少なくとも本方法の較正が行われる前に固定され記録される量に関する。内部キャリブレータの所定量は、試料に添加される内部キャリブレータの量と相関する任意のパラメータに関連してもよく、一実施形態では、内部キャリブレータ原液の体積である。当業者が理解するように、内部キャリブレータを試料に混合する際に、そのような所定量は必ずしも知られている必要はないが、方法の工程(c)では知られている必要がある。また、本明細書中上記で示されるように、所定量のアイソトポログは、原則として、計算された量であってもよく、すなわち、所定量の内部キャリブレータは、使用された内部キャリブレータ化合物の重量、それが溶解された体積、及び試料に混合された得られた溶液の体積から計算されてもよい。また、所定量のアイソトポログを、本明細書中上記で示されるように計算してもよい。しかしながら、一実施形態では、内部キャリブレータ化合物中のアイソトポログの所定量は、測定によって、例えば内部キャリブレータのMSシグナルを決定することによって決定される。また、内部標準物質の所定量は、定量的NMR(Q-NMR)、GC、LC及び/又は分光法若しくは免疫学的方法などの当業者に公知の標準的な方法によって内部キャリブレータ中のアイソトポログの濃度を測定することによって決定され得る。
【0032】
「MSシグナル」という用語は、本明細書では、当業者に知られているその通例の意味で使用される。一実施形態では、この用語は、特定のm/z値又はm/z値の範囲に対してMS装置の検出器によって検出される任意の強度パラメータ又はその値に関する。分析物から生成されたイオンのm/z値又はm/z値の範囲で決定されたMSシグナルは、本明細書では「分析物シグナル」と称され、アイソトポログから生成されたイオンのm/z値又はm/z値の範囲で決定されたMSシグナルは、本明細書では「アイソトポログシグナル」と称される。
【0033】
「MSシグナルを決定する」という用語も同様に、当業者によって理解される。本明細書で指定される方法に従ってMSシグナルを決定することは、分析物から生成されたイオンのMSシグナル(分析物シグナル)及び前記少なくとも2つのアイソトポログから生成されたイオンのMSシグナル(アイソトポログシグナル)を決定することを含む。生成及び検出されるイオンは、当業者が理解するように、分析物、特にその分子量及び構造、並びに適用されるイオン化方法及び想定されるMS検出の特定のモードに依存する。一実施形態では、MS検出は、MSモード、MS/MSモード、又は当業者が適切と考える任意のモード、特に本明細書の他の箇所で指定されるMS装置に適切なものでの検出を含む。一実施形態では、この用語は、MSシグナルと、前記シグナルを引き起こすイオンのm/z値又はm/z値の範囲との相関プロットを決定することに関する。マススペクトルのグラフ表示は、例えば、重心グラフ及び/又は連続グラフとして提供されてもよい。本明細書で言及されるように、分析物シグナル及び同位体シグナルは、別々のシグナルとして決定され得るが、アイソトポログシグナルは、結合シグナルとして決定されてもよい。例えば、第1のアイソトポログのシグナル(第1のアイソトポログシグナル)は、結合された分析物シグナル+第1のアイソトポログシグナルの決定の一部として決定されてもよく、第2のアイソトポログのシグナル(第1のアイソトポログのシグナル)は、結合された分析物シグナル+第2のアイソトポログのシグナルの決定の一部などとして決定されてもよい。したがって、アイソトポログは、必ずしも単離された様式で決定される必要はない。しかしながら、分析物シグナルは、一実施形態では、単離された分析物シグナルとして決定される。
【0034】
「較正」という用語は、本明細書では、当業者による典型的な使用と一致して広い意味で使用される。したがって、較正という用語は、特定の条件下で、測定標準を用いて得られた量の値と、較正された機器、すなわち狭義の較正の対応する量の値との間の関係を確立する動作を含む。しかしながら、較正は、測定値の検証であってもよい。較正という用語は、内部キャリブレータに含まれる測定標準、すなわちその通常のより広い意味での較正で得られた前述の量の値と一致するように、較正された機器又はその出力を調整又は再調整する手段を更に含む。したがって、本明細書で指定される方法では、較正という用語はまた、MS装置によって決定されたMSシグナルと試料に含まれるアイソトポログの量との相関の提供に関連し得る。
【0035】
分析物を決定する方法の工程(a)によれば、所定量の内部キャリブレータが前記試料に混合され、前記内部較正物質は、所定量の分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む。したがって、試料調製工程の前、最中、及び/又は後に、内部キャリブレータが試料に混合される。内部キャリブレータの量は、本明細書で上述したように予め決定される。
【0036】
分析物を決定する方法の工程(b)によれば、分析物から生成されたイオンのMSシグナル(分析物シグナル)及び少なくとも2つのアイソトポログから生成されたイオンのMSシグナル(アイソトポログシグナル)が決定される。一実施形態では、分析物のシグナルは、分析物から生成された主イオン、すなわちM+Hイオンなどの最も高い存在量を有するイオンのm/z値で決定される。主イオンのシグナルが高すぎる場合、より低い存在量の他のイオンも同様に使用され得る。最低分子量を有する内部キャリブレータ内のアイソトポログが1つよりも多い、一実施形態では2つよりも多い質量単位で除去される場合、微量イオンは同様に分析物の+1アイソトポログであってもよい。一実施形態では、工程(b)におけるイオンのMSシグナルを決定することは、分析物とその少なくとも2つの非同一アイソトポログとの間の非同一アイソトポマーであるイオンのMSシグナルを決定することを含む。さらなる実施形態では、工程(b)においてイオンのMSシグナルを決定することは、1質量単位分、すなわち1m/z単位分異なる前記少なくとも2つの非同一アイソトポログのイオンのMSシグナルを決定することを含む。当業者が理解するように、一実施形態では、各場合において、対応するイオンが決定され、すなわち、分析物のフラグメントイオンが決定される場合、同じ構造を有するアイソトポログのイオンが決定される。工程(b)では、分析物シグナル及びアイソトポログシグナルは、別々に決定されてもよいが、本明細書中上記で特定されるように、組み合わされた分析物+アイソトポログのシグナルも決定され得る。
【0037】
分析物を決定する方法の工程(c)によれば、工程(b)で決定された分析物シグナル及びアイソトポログシグナルに基づく較正が提供される。したがって、分析物を決定する方法の較正は、アイソトポログシグナル並びに分析物シグナルを利用する。工程(c)は、試料に添加された所定量の内部キャリブレータ及び工程(a)の内部キャリブレータ中の所定量のアイソトポログから試料中のそれぞれのアイソトポログの量を計算するサブ工程を含み得る。一実施形態では、較正は、分析物、並びに第1、第2及び任意のさらなるアイソトポログの結合シグナルをそれぞれ、各々のアイソトポログの所定量に相関させることを含み、すなわち、一実施形態では、工程(c)は、(i)前記少なくとも2つのアイソトポログのそれぞれについてのアイソトポログシグナル及び分析物シグナルの和(ii)と、前記少なくとも2つのアイソトポログの各々についての量との比に基づいて較正を提供することを含む。したがって、一実施形態では、分析物+第1のアイソトポログシグナルは第1のアイソトポログの量と相関し、分析物+第2のアイソトポログシグナルは試料中の第2のアイソトポログの量と相関するなどである。本明細書で上述したように、前記和は、計算された和であってもよく、又は工程(b)でそのまま決定されてもよい。一実施形態では、前述の和は計算された和であり、すなわち、工程(b)で別々に決定された分析物シグナルとそれぞれのアイソトポログシグナルとの合計として計算され、前記分析物シグナルは、分析物の量と内部キャリブレータ内で最高濃度を有するアイソトポログの量との和に対応する分析物の量まで線形である。一実施形態では、前述の相関は、それぞれのアイソトポログの量に対する結合シグナルの比を提供することを含み、前記比は、結合シグナルに対するアイソトポログの量のグラフによってグラフで表されてもよい。さらなる実施形態では、較正は、回帰方程式を前記比に当てはめることを更に含む。前記回帰は、一次方程式、多項方程式、指数方程式、又は他の回帰方程式を含む、当業者によって適切と考えられる任意のタイプのものであり得る。一実施形態では、回帰方程式は、線形回帰方程式である。
【0038】
分析物を決定する方法の工程(d)によれば、分析物は、工程(c)で提供された較正に基づいて決定される。当業者には理解されるように、工程(c)の較正は、とりわけ、すでに分析物シグナルに基づいているため、一実施形態において、この較正は、較正から分析物を直接決定することを可能にする。したがって、特に較正に使用される回帰方程式が線形である場合、分析物の量は、イオンのMSシグナルの値が0であることに対する回帰方程式の解の負の値として決定される。一実施形態では、前述の量は、分析物のモノアイソトピック量、すなわち、最も高い存在量を有するそのアイソトポログによって表される及び/又は同じm/z値を有するキャリブレータアイソトポログイオンに対応する分析物の量である。したがって、一実施形態では、前述の量は、分析物内の同位体の自然存在量に対して補正され、その分布は当業者に知られている。したがって、一実施形態では、前述の量は、試料中に予測可能に存在する分析物のアイソトポログ(複数可)の量(複数可)を加えることによって補正される。
【0039】
有利には、本発明の基礎となる研究において、例えばMS法における較正を提供するために、マルチポイント内部標準回帰を標準添加法と組み合わせることができることが見出された。そのような組み合わせにより、一実施形態では、分析物濃度が較正に使用される既知の濃度の範囲内にあることは必要ではない。したがって、分析物は、任意の濃度で決定され得る。さらに、分析物の同位体標識調製物は、較正を確立するために使用可能な量のアイソトポマーを含むことができ、したがって、分析物の1つの同位体標識調製物を添加するだけで較正曲線を提供することを可能にすることが見出された。さらに、分析物の同位体標識調製物の相対含有量は、分析物自体の同位体標識調製物のMSシグナルを決定することによって、又は工程(a)に従って試料から、その場で確立することができる。
【0040】
上記の定義は、必要な変更を加えて以下に適用される。以下のさらなる追加の定義及び説明もまた、本明細書に記載される全ての実施形態に準用される。
【0041】
本発明は更に、一実施形態では、本発明の分析物を決定するための方法の少なくとも工程(c)及び工程(d)を実施するように構成された装置に関する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「装置」という用語は、少なくとも較正を提供することを可能にする一実施形態において、互いに動作可能に連結された少なくとも示された手段を含む手段の集合に関する。較正のための典型的な手段は当業者に知られており、特に、一実施形態では、較正を実施するアルゴリズムが有形に組み込まれたデータプロセッサを備えるデータ処理ユニットを含む。しかしながら、前述のコンピュータアルゴリズムは、装置のメモリユニットに含まれてもよい。したがって、装置は、一実施形態では、マイクロプロセッサ及びメモリユニットを備え、さらなる実施形態では、装置は、一実施形態では、メモリユニットに有形に組み込まれた、マイクロプロセッサによって実行されると、装置に分析物を決定する方法の少なくとも工程c)を実施させるアルゴリズムを備える。一実施形態では、装置は、工程(b)で決定されたMSシグナルの値、工程(a)の内部キャリブレータ及び/若しくはアイソトポログの所定量などのデータを受信するため、並びに/又はデータ、例えば回帰方程式、較正グラフ、及び/若しくは分析物の量を出力するための少なくとも1つのデータインターフェースを更に備える。前述の出力データはまた、任意の出力ユニット、例えばスクリーン、プリンタなどを介して出力されてもよい。結果は、技術者による解釈を必要とする生データの出力として与えられてもよい。しかしながら、一実施形態では、装置の出力は処理される、すなわち評価される生データであり、その解釈は技術者を必要としない。装置の手段を動作様式でどのように連結するかは、装置に含まれる手段のタイプに依存する。当業者は、さらなる困難を伴わずに適切な手段を提供及び連結する方法を理解するであろう。一実施形態では、手段は単一の装置に含まれる。
【0043】
本発明はまた、質量分析装置に動作可能に接続された本明細書で上述した装置を含むシステムに関する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「システム」という用語は、互いに動作可能に連結された少なくとも示された装置を含む手段のシステムに関する。システムは、本明細書中上記で特定されるような少なくとも1つの装置と、本明細書中上記で同様に特定されるような少なくとも1つのMS装置とを含む。当業者は、装置をMS装置に動作可能に接続する方法を知っており、一実施形態では、動作可能な連結は、少なくとも1つの共通データインターフェースを含む。一実施形態では、システムは、本明細書で指定される分析物を決定する方法を実施するように適合される。一実施形態では、質量分析ユニットは、少なくとも工程(b)、一実施形態では、分析物を決定する方法の少なくとも工程(a)及び工程(b)を実施するように適合され、並びに/又は装置は、少なくとも工程(c)、一実施形態では、分析物を決定する方法の工程(c)及び工程(d)を実施するように適合される。
【0045】
本発明は更に、本明細書において上記で特定された分析物を決定する方法による一実施形態では、試料中の前記分析物の決定のための、所定の比の分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む組成物の使用に関する。
【0046】
本発明は、プログラムがコンピュータ又はコンピュータネットワーク上で実行されると、本明細書に添付された実施形態のうちの1つ以上において本発明にかかる方法を実行するためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムを更に開示及び提案する。具体的には、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読データキャリアに記憶され得る。したがって、具体的には、上述したような方法工程a)からd)の1つ、1つよりも多い、又は全ては、コンピュータ又はコンピュータネットワークを使用して、一実施形態では、コンピュータプログラムを使用して実行されてもよい。
【0047】
本発明は、プログラムがコンピュータ又はコンピュータネットワーク上で実行されると、本明細書に含まれる1つ以上の実施形態では、本発明にかかる方法を実行するために、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品を更に開示及び提案する。具体的には、プログラムコード手段は、コンピュータ可読データキャリアに記憶され得る。
【0048】
さらに、本発明は、例えばコンピュータ又はコンピュータネットワークの作業メモリ又は主メモリなど、コンピュータ又はコンピュータネットワークへとロードされた後に、本明細書に開示される実施形態のうちの1つ以上にかかる方法を実行し得るデータ構造を記憶したデータキャリアを開示及び提案する。
【0049】
本発明は、プログラムがコンピュータ又はコンピュータネットワーク上で実行されると、本明細書に開示された実施形態のうちの1つ以上にかかる方法を実行するために、機械可読キャリア上に記憶されたプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品を更に提案及び開示する。本明細書で使用される場合、コンピュータプログラム製品は、取引可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、紙のフォーマット等の任意のフォーマットで、又はコンピュータ可読データキャリア上に存在する。具体的には、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で配信されてもよい。
【0050】
最後に、本発明は、本明細書に開示された実施形態のうちの1つ以上による方法を実行するためのコンピュータシステム又はコンピュータネットワークによって読み取り可能な命令を含む変調データシグナルを提案及び開示する。
【0051】
一実施形態では、本発明のコンピュータ実装態様を参照すると、本明細書に開示される実施形態の1つ以上にかかる方法のうちの1つ以上の方法工程又は全ての方法工程は、コンピュータ又はコンピュータネットワークを使用することによって実行され得る。したがって、一般に、データの提供及び/又は操作を含む方法工程のいずれかは、コンピュータ又はコンピュータネットワークを使用することによって実施され得る。一般に、これらの方法工程は、試料の提供及び/又は実際の測定を実施する特定の態様などの手作業を必要とする方法工程を通常除いて、任意の方法工程を含み得る。
【0052】
具体的には、本発明は、
- 少なくとも1つのプロセッサを備えており、プロセッサは、本明細書に記載の実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように構成されているコンピュータ又はコンピュータネットワーク、
- コンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されたコンピュータロード可能データ構造、
- プログラムがコンピュータ上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように適合されたコンピュータプログラム、
- コンピュータプログラムがコンピュータ上又はコンピュータネットワーク上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するためのプログラム手段を備えるコンピュータプログラム、
- 先行の実施形態に記載のプログラム手段をコンピュータにとって読み取り可能な記憶媒体上に格納して備えているコンピュータプログラム、
- データ構造が記憶媒体に記憶され、データ構造がコンピュータ又はコンピュータネットワークのメイン及び/又はワーキング記憶部にロードされた後、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するように適合された、記憶媒体、及び
- コンピュータ又はコンピュータネットワーク上でプログラムコード手段が実行された場合に、本明細書に記載された実施形態のうちの1つにかかる方法を実行するために、プログラムコード手段が記憶媒体上に記憶され得る、又は記憶される、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品
を更に開示する。
【0053】
本発明の知見を要約すると、以下の実施形態が特に想定される。
【0054】
実施形態1:質量分析(MS)によって試料中の分析物を決定する方法であって、
(a)所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することであって、前記内部キャリブレータが、所定量の前記分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む、所定量の内部キャリブレータを前記試料に混合することと、
(b)前記分析物から生成されたイオンのMSシグナル(分析物シグナル)及び前記少なくとも2つのアイソトポログから生成されたイオンのMSシグナル(アイソトポログシグナル)を決定することと、
(c)工程(b)で決定された分析物シグナル及びアイソトポログシグナルに基づいて較正を提供することと、
(d)工程(c)で提供された較正に基づいて、前記分析物を決定することと、
を含む、質量分析(MS)によって試料中の分析物を決定する方法。
【0055】
実施形態2:前記内部キャリブレータが、主化合物としての分析物の第1のアイソトポログと、第1のアイソトポログの最大20%、一実施形態では最大10%、さらなる実施形態では最大5%の相対分率の少なくとも第2のアイソトポログとを含む、実施形態1に記載の方法。
【0056】
実施形態3:第2のアイソトポログの相対分率が、内部キャリブレータの製造プロセスにおける相対的同位体分布の結果である、実施形態2に記載の方法。
【0057】
実施形態4:前記相対的同位体分布が、天然の相対的同位体分布又は富化された相対的同位体分布である、実施形態3に記載の方法。
【0058】
実施形態5:前記アイソトポログが、分析物の単一の同位体標識調製物に含まれる、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0059】
実施形態6:前記分析物が、少なくとも10個、一実施形態では、少なくとも15個の同じ元素の原子、一実施形態では、炭素原子を含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0060】
実施形態7:工程(c)が、工程(b)で決定されたMSシグナル及び前記少なくとも2つのアイソトポログの量に基づいて較正を提供することを含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0061】
実施形態8:工程(c)が、(i)前記少なくとも2つのアイソトポログの各々に対するアイソトポログシグナル及び分析物シグナルの和と(ii)前記少なくとも2つのアイソトポログの各々に対する量との比に基づいて較正を提供することを含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0062】
実施形態9:前記和が、工程(b)で直接測定される、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0063】
実施形態10:前記和が計算された和であり、一実施形態では、前記分析物シグナルが、分析物の量と内部キャリブレータ中の最高濃度を有するアイソトポログの量との和に対応する分析物の量まで線形である、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0064】
実施形態11:回帰方程式が前記比に適合され、分析物の量が、イオンの前記MSシグナルの値が0であることに対する前記回帰方程式の解の負の値として決定される、実施形態8~10のいずれか1つに記載の方法。
【0065】
実施形態12:前記回帰方程式が、線形回帰方程式である、実施形態11に記載の方法。
【0066】
実施形態13:前記少なくとも2つのアイソトポログのうちの2つが、1質量単位分の分子質量が異なる、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0067】
実施形態14:前記少なくとも2つのアイソトポログ又はそれに由来するイオンが、x~x+(n-1)の範囲のm/z比を有し、xが、最も低いm/z比を有するアイソトポログのm/z比であり、nが、内部キャリブレータに存在するアイソトポログの数である、実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0068】
実施形態15:前記アイソトポログが、相互にアイソトポマーではない、実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0069】
実施形態16:工程(b)におけるイオンのMSシグナルを決定することが、分析物とその少なくとも2つの非同一アイソトポログとの間の非同一アイソトポマーであるイオンのMSシグナルを決定することを含む、実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0070】
実施形態17:工程(b)においてイオンのMSシグナルを決定することが、1質量単位分異なる前記少なくとも2つの非同一アイソトポログのイオンのMSシグナルを決定することを含む、実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
【0071】
実施形態18:前記少なくとも2つのアイソトポログが、少なくとも3つ、一実施形態では少なくとも4つのアイソトポログである、実施形態1~17のいずれか1つに記載の方法。
【0072】
実施形態19:アイソトポログについて、及び一実施形態では分析物について決定されたイオンが、構造的に同一である、実施形態1~18のいずれか一項に記載の方法。
【0073】
実施形態20:アイソトポログについて決定されたイオンが、それらの同位体組成においてのみ異なる、実施形態1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0074】
実施形態21:アイソトポログ及び分析物について決定されたイオンが、それらの同位体組成においてのみ異なる、実施形態1~20のいずれか1つに記載の方法。
【0075】
実施形態22:前記試料が、複合マトリックス試料であり、一実施形態では100を超える、さらなる実施形態では1000を超える化学化合物を含む、実施形態1~21のいずれか1つに記載の方法。
【0076】
実施形態23:前記試料が、対象の試料、一実施形態では医学的試料である、実施形態1~21のいずれか1つに記載の方法。
【0077】
実施形態24:前記試料が、体液又は組織試料の試料である、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
【0078】
実施形態25:前記試料が、血清、血漿、又は血液試料である、実施形態1~24のいずれか1つに記載の方法。
【0079】
実施形態26:前記分析物が、低分子量化合物、一実施形態では、最大2.5kDa、一実施形態では、最大1.5kDa、さらなる実施形態では、最大1kDaの分子質量を有する、実施形態1~25のいずれか1つに記載の方法。
【0080】
実施形態27:前記分析物が、テストステロン;アンフェタミン;コカイン;メタドン;エチルグルクロニド;硫酸エチル;オピエート;オピオイド;クロナゼパム;メトトレキサート;ボリコナゾール;ミコフェノール酸(合計);ミコフェノール酸-グルクロニド;アセトアミノフェン;サリチル酸;テオフィリン;ジゴキシン;免疫抑制薬;鎮痛剤;抗生物質;抗てんかん薬;ホルモン;及びビタミンからなるリストから選択される、実施形態1~26のいずれか1つに記載の方法。
【0081】
実施形態28:前記分析物がテストステロンであり、前記内部キャリブレータが2,3,4-13C3-テストステロンである、実施形態1~27のいずれか1つに記載の方法。
【0082】
実施形態29:前記方法の少なくとも工程(c)、一実施形態では、工程(c)及び工程(d)が、コンピュータ実装される、実施形態1~28のいずれか1つに記載の方法。
【0083】
実施形態30:前記方法が、工程(d)における決定に基づいて、試料中の分析物の量又は濃度を出力する工程を更に含む、実施形態1~29のいずれか1つに記載の方法。
【0084】
実施形態31:実施形態1~30のいずれか1つに記載の方法の少なくとも工程c)、一実施形態では、工程(c)及び工程(d)を実施するように構成された、装置。
【0085】
実施形態32:前記装置が、マイクロプロセッサ及びメモリユニットを備える、実施形態31に記載の装置。
【0086】
実施形態33:一実施形態では、前記メモリユニットに有形に埋め込まれた前記デバイスが、マイクロプロセッサによって実行されると、装置に実施形態1~28のいずれか1つに記載の方法の少なくとも工程c)を実施させるアルゴリズムを含む、実施形態32に記載のデバイス。
【0087】
実施形態34:質量分析装置に動作可能に接続された、実施形態31~33のいずれか1つに記載の装置を含む、システム。
【0088】
実施形態35:前記質量分析装置が、実施形態1~30のいずれか1つに記載の方法の少なくとも工程(b)、一実施形態では少なくとも工程(a)及び(b)を実行するように適合されている、実施形態34に記載のシステム。
【0089】
実施形態36:実施形態1~30のいずれか1つに記載の方法による一実施形態では、試料中の分析物の決定のための、所定の比で前記分析物の少なくとも2つの非同一アイソトポログを含む組成物の使用。
【0090】
本明細書で引用された全ての参考文献は、その全体の開示内容及び本明細書で具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書で組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【
図1】実施例1の人工試料のQ-TOF MSスペクトル。
【
図2】表3、実施例1のデータの標準添加プロット。
【
図4】マルチポイント内部標準回帰の較正グラフ(比較例3)。
【0092】
以下の実施例は、単に本発明を例示するものにすぎない。それらは、いかなる場合であっても、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0093】
実施例1:テストステロンのMS測定
1.1化学物質
テストステロン原液Cerilliant(アセトニトリル中1mg/mL)、ロットFE07241802の濃度を、Q-PCRによって1.018mg/mL±2%であると決定した。テストステロン原液2,3,4-13C3-テストステロンCerilliant(アセトニトリル中0.1mg/mL)、ロットFE06071902の濃度を、Q-PCRによって0.083mg/mL±5~7%であると決定した。
【0094】
両原液をアセトニトリルで10ng/mLの濃度を有する溶液を使用するように希釈し、255ng/mLテストステロン及び415n/mL 2,3,4-13C3-テストステロンの公称濃度を含む人工試料と合わせた。
【0095】
人工試料中の各アイソトポログの含有量を表1及び表2に示す。
【表1】
【表2】
【0096】
人工試料をQ-TOF MSシステムで測定した。得られた質量スペクトルを
図1に示す。
【0097】
各イオン面積(シグナル強度)を測定し、これを用いて標準添加プロットのデータを算出し(表3)、標準添加プロットを確立した(
図2)。
【表3】
【0098】
図2の較正プロット及び対応する相関式y=574.96x+117,196から、分析物テストステロンの濃度は204ng/mLであると決定され、これを公称濃度217ng/mLと比較する。これは、6の%ドリフトエラーに相当する。
【0099】
上記と同じ手順を、100ng/mL~1000ng/mLのテストステロン濃度について試験し、より低い濃度がより高い%ドリフトエラーをもたらす傾向があることが見出された。
【0100】
以下の比較例と比べて、本発明の方法は、より低い%ドリフトエラーを有する。さらに、この方法は、飽和効果を補償し、追加のアイソトポログをキャリブレータとして容易に追加できるという点で非常に柔軟である。
【0101】
実施例2:比較例:外部較正
Q-TOF MSによる外部較正で様々なテストステロン濃度を決定し、測定されたシグナルを表4に示し、較正グラフを
図3に示す。
【表4】
【0102】
得られた相関式はy=283.3x+46,955であり、試験試料中の決定された濃度は496ng/mLであり、これを公称濃度415ng/mLと比較する。5ドリフトエラーは-19であった。
【0103】
実施例3:比較例マルチポイント内部標準回帰
また、実施例1の2,3,4-
13C
3-テストステロン製剤をマルチポイント内部標準回帰較正法に用いた。標準及び対応するシグナルの濃度を表5に示し、較正グラフを
図4に示す。
【表5】
【0104】
得られた相関式はy=512.67x+2118.2であり、試験試料中の決定された濃度は372ng/mLであり、これを公称濃度433ng/mLと比較する。%ドリフトエラーは14であった。
【0105】
実施例4:エストラジオールの決定
この方法は、本質的に実施例1と同様に、エストラジオールを分析物として使用し、
13C
5-エストラジオールを内部キャリブレータとしてQ-TOF MS装置で使用して実施した。得られた較正グラフを
図5に示す。
【0106】
測定の%ドリフトエラーは約11であり、これを外部較正(実施例2と同様に実施)の15及びマルチポイント内部回帰(実施例3と同様に実施)の14と比較する。
【0107】
参考文献:
- Hoffman et al.(2020),Clin Chem 66(3):474
- 国際公開第2017/178453号
【国際調査報告】