(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】積層造形法、検出添加剤を含むポリマー粉末組成物、及び該方法により得られる物品
(51)【国際特許分類】
B29C 64/153 20170101AFI20240614BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240614BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240614BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240614BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577928
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-14
(86)【国際出願番号】 IB2022055495
(87)【国際公開番号】W WO2022264027
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523472939
【氏名又は名称】ファビュラス
【氏名又は名称原語表記】FABULOUS
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】クーレ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】フェティラ エスクディロ,リタ
(72)【発明者】
【氏名】クーレ,アルノー
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA29
4F213AB07
4F213AB12
4F213AB13
4F213AB14
4F213AC04
4F213AE04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL25
4F213WL26
(57)【要約】
本発明は、加熱チャンバー内で電磁放射を使用して粉末の温度を局所的に上昇させ、冷却後に所定の厚さの層を局所的に溶融/合体させて形成することを含む三次元物体の製造方法に関し、粉末は、組成物の総重量に対して、60重量%~99重量%のポリアミド;遷移金属のカチオン、遷移金属の酸化物、遷移金属の硫化物を含むスピネル構造を含む顔料からなる群から選択される1重量%~40重量%の光学的および/または磁気的検出用添加剤;0重量%~5重量%の流動剤を含み、粉末は、35μm~55μmの粒径分布D
50;および15μmを超える粒度分布D
10;および100μm未満の粒度分布D
90を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元物体を製造するプロセスであって、加熱された筐体内での電磁放射によるポリアミドベースの粉末の温度の局所的上昇を引き起こすこと、冷却後にポリアミドの固体層を形成するように、所定の厚さの層の局所的融合を引き起こすこと、を備え、前記プロセスは、前記粉末が、組成物の総重量に対して、
・60重量%~99重量%のポリアミド;
・遷移金属のカチオンを含むスピネル構造を含む顔料、遷移金属の酸化物、遷移金属の硫化物からなる群から選択される、1重量%~40重量%の光学および/または磁気的検出添加剤;
・0重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~4.5重量%の流動剤;
を含むことを特徴とし、
前記粉末は、
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D
50;
・15μmを超える粒径分布D
10、および
・100μm未満の粒度分布D
90を示す、
プロセス。
【請求項2】
前記粉末の30%~70%の質量分率が新鮮なポリアミド粉末であり、前記粉末の70%~30%の質量分率が、前の製造プロセスの終わりに前記加熱された筐体内で回収されたポリアミド粉末であり、前記新鮮なポリアミド粉末は、25℃でISO 307:2019に準拠して測定される0.9デシリットル/g~1.4デシリットル/gの内部粘度数を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電磁放射線が、25mJ/mm
2を超えるエネルギー密度を有するレーザー放射線である、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
加熱された筐体内での電磁放射によるポリアミドベースの粉末の温度の局所的上昇による積層造形プロセス用の粉末組成物であって、冷却後にポリアミドの固体層を形成するように、所定の厚さの層の局所的融合を引き起こし、前記粉末が、前記組成物の総重量に対して、
・60重量%~99重量%のポリアミド;
・好ましくは、遷移金属のカチオンを含むスピネル構造を含む顔料、遷移金属の酸化物、遷移金属の硫化物からなる群から選択される光学的検出添加剤および/または磁気的検出添加剤である、1重量%~40%重量の光学的および/または磁気的検出添加剤;
・0重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~4.5重量%の流動剤;
を含むことを特徴とし、
前記粉末は、
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D
50;
・15μmを超える粒径分布D
10、および
・100μm未満の粒度分布D
90
を示す、粉末組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の粉末組成物であって
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D
50、
・15μm~25μmに含まれる粒径分布D
10、および
・80μm~100μmに含まれる粒径分布D
90
を示す粉末組成物。
【請求項6】
天然ポリアミド粉末と、検出添加剤を含むポリアミド粉末とを乾式混合することによって得られる、
請求項4または5に記載の粉末組成物。
【請求項7】
・遷移金属のカチオンを含むスピネル構造を含む顔料から選択される0.05重量%~5重量%の光学的検出添加剤、および
・遷移金属酸化物のうちの1重量%~35重量%の磁気的検出添加剤を含む、
請求項4~6のいずれか一項に記載の粉末組成物。
【請求項8】
25℃でISO 307:2019に準拠して測定される0.9~1.4デシリットル/gの内部粘度数を有する、
請求項4~7のいずれか一項に記載の粉末組成物。
【請求項9】
30℃~50℃の範囲に含まれる値ΔT=(T
m-T
c)
onsetを有する、
請求項4~8のいずれか一項に記載の粉末組成物。
【請求項10】
光学的検出添加剤を含み、前記光学的検出添加剤がコバルトブルーを含む、
請求項4~9のいずれか一項に記載の粉末組成物。
【請求項11】
請求項4~10のいずれか一項に記載の組成物から積層造形によって得られる三次元物体。
【請求項12】
光学的検出添加剤によって全体として青色に着色され、前記光学的検出添加剤が0.5μm~12μmに含まれる波長範囲での光学的検出を可能にする、
請求項11に記載の物体。
【請求項13】
1600MPa以上の弾性率、30MPa以上の引張強度、第1方向における20%以上および第1方向に垂直な第2方向における35%以上の破断点伸びの係数を有する
請求項11または12に記載の物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料で作られた部品の製造に関し、光学的および/または磁気的検出添加剤を含むポリマー粉末を層ごとに、特に融解または焼結によって、凝集させるプロセスに関する。本発明はまた、このプロセスに供給され、プロセス中に消費されるそのようなポリマー粉末にも関する。本発明は最終的に、食品生産チェーンの安全性の分野において特に有利な特性を有するプロセスによって得られる物体を目的とする。
【背景技術】
【0002】
現在利用可能なポリマー材料で作られた部品を製造する積層造形技術の多種多様の中で、本出願は、三次元物体を得る目的で、層ごとに粉末を凝集させることを含む技術の枠組みに含まれる。したがって、本書の文脈では、これらの方法を「積層造形法」または「3Dプリンティング」という用語でのみ指定する。このような3Dプリンティング法により得られる物体を「3D物体」と呼ぶ。
【0003】
この文脈において、融合、合体、および/または「焼結」による粉末の凝集は、凝集する材料を融解させる放射線によって引き起こされる。たとえば、選択的レーザー焼結(SLS)は、粉末状の材料をレーザーの作用下で溶かすことによって局所的に高密度化することから構成される。粉末の融解を可能にする他の電磁放射線源、例えば、赤外線、可視光線、またはUV放射線も使用することができる。粉末床の融合による積層造形の他の注目すべき方法には、レーザー焼結、マルチジェットフュージョン、赤外線焼結、高速焼結などがある。
【0004】
熱可塑性プラスチックで作られた3D物体の使用は、特にそのようなオブジェクトが特定の用途向けに少量ずつ生産できるため、または特定の構造的特徴を示すため、工業生産チェーンにおいて有利である。ただし、熱可塑性プラスチックで作られた3Dオブジェクトは、特に食品業界でオンライン品質管理の一環として通常実装される異物検出手段では検出することが困難である。そのため、3D熱可塑性プラスチック物体が破損すると、その破片が製品内に混入し、食品の安全性が脅かされる可能性がある。
【0005】
従来技術から知られる積層造形プロセスおよびそれらが使用する粉末では、産業で使用するのに十分な機械的特性と、例えば磁気的検出または異常な色の検出といった異物検出手段による強力な検出能力との両方を備えた3D物体を製造することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これらの欠点の全部または一部を改善することを目的とする。
【0007】
この目的のために、第1の態様によれば、本発明は、三次元物体の製造方法に関し、加熱された筐体内での電磁放射によるポリアミドベースの粉末の温度の局所的上昇を含み、冷却後にポリアミドの固体層を形成するように、所定の厚さの層の局所的融合を引き起こし、前記プロセスは、前記粉末が、組成物の総重量に対して、
・60重量%~99重量%のポリアミド;
・遷移金属のカチオンを含むスピネル構造を含む顔料、遷移金属の硫化物からなる群から選択される、1重量%~40重量%の光学的および/または磁気的検出添加剤;
・0重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~4.5重量%の流動剤;
を含むことを特徴とし、
前記粉末は、
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D50;
・15μmを超える粒径分布D10、および
・100μm未満の粒度分布D90を示す。
【0008】
ある実施形態では、粉末は、
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D50、
・15μm~25μmに含まれる粒径分布D10、および
・80μm~100μmに含まれる粒径分布D90
を有する。
【0009】
ある実施形態では、粒径分布D10は10μmより大きく、好ましくは15μmより大きく、好ましくは17μmより大きく、好ましくは20μmより大きい。
【0010】
ある実施形態では、粒径分布D50は110μm未満、好ましくは100μm未満、好ましくは95μm未満、好ましくは93μm未満、好ましくは90μm未満である。ある実施形態では、粒径分布D50は80μm未満である。
【0011】
ある実施形態では、上記粉末の30%~70%の質量分率は新鮮なポリアミド粉末であり、上記粉末の30%~70%の質量分率は前の製造プロセスの終わりに前記加熱された筐体内で回収されたポリアミド粉末であり、上記新鮮なポリアミド粉末は、25℃でISO 307:2019に準拠して測定される0.9デシリットル/g~1.4デシリットル/gの内部粘度数を有する。
【0012】
ある実施形態では、層の局所的な融解を引き起こす電磁放射線は、25mJ/mm2以上のエネルギー密度を有するレーザー放射線である。
この場合に使用される方法は、好ましくは、選択的レーザー焼結法、より一般的にはSLS(「選択的レーザー焼結」の略称)と呼ばれる。
【0013】
第2の態様において、積層造形プロセス用の粉末組成物に関する発明は、組成物の総重量に対して、
・60重量%~99重量%のポリアミド;
・好ましくは、遷移金属のカチオンを含むスピネル構造を含む顔料、遷移金属の酸化物、遷移金属の硫化物からなる群から選択される光学的検出添加剤および/または磁気的検出添加剤である、1重量%~40重量%の磁気的検出添加剤;
・0重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~4.5重量%の流動剤を含み;
前記粉末は、
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D50;
・15μmを超える粒径分布D10、および
・100μm未満の粒度分布D90を示す。
【0014】
ある実施形態では、本発明の粉末組成物は、天然ポリアミド粉末と、検出添加剤を含むポリアミド粉末とを乾式混合することによって得られる。
【0015】
ある実施形態では、本発明の粉末組成物は、
・遷移金属のカチオンを含むスピネル構造を含む顔料から選択される0.05重量%~5重量%の光学的検出添加剤、および
・遷移金属酸化物から選択される1重量%~35重量%の磁気的検出添加剤
を含む。
【0016】
あるいは、光学的または磁気的検出添加剤は、遷移金属の硫化物から選択される。
【0017】
ある実施形態では、本発明の主題である粉末組成物は、ISO 307:2019に準拠して測定される0.9デシリットル/g~1.4デシリットル/gの内部粘度数を有する。
【0018】
ある実施形態では、本発明の主題である粉末組成物は、30℃~50℃の範囲に含まれる値ΔT=(Tm-Tc)onsetを有する。
【0019】
ある実施形態では、本発明の主題である粉末組成物は、光学的検出添加剤を含み、前記光学的検出添加剤はコバルトブルーを含む。
【0020】
第3の態様によると、本発明は、本発明の主題である組成物から積層造形によって得られる三次元物体に関する。
【0021】
ある実施形態では、三次元物体は、光学的検出添加剤によって全体として青色に着色される。好ましくは、光学的検出添加剤は、0.5μm~12μmに含まれる波長範囲での光学的検出を可能にする。
【0022】
ある実施形態では、三次元物体は、1700MPa以上の弾性率、30MPa以上の引張強度、並びに第1方向における20%以上および第1方向に垂直な第2方向における35%以上の破断点伸びを有する。
【0023】
本発明の他の利点、目的、並びに特定の特徴は、積層造形プロセス、前記プロセス用の粉末組成物、および前記プロセスによって得られる三次元物体の少なくとも1つの特定の実施形態に関する以下の非限定的な説明から明らかになるであろうし、添付の図面を参照すると、これらはすべて本発明の主題である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明による2つの粉末組成物および天然ポリアミド11粉末の粒子サイズの関数としての粒子サイズ分布密度曲線を表す。
【
図2】
図2は、本発明による2つの粉末組成物および天然ポリアミド11粉末の円形度の関数としての累積分布曲線を表す。
【
図3】
図3は、本発明の粉末組成物の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【
図4】
図4は、
図3に示す粉末組成物を使用した積層造形プロセスから得られた3D物体の断面のX線断層撮影によって得られた写真を表す。
【
図5】
図5は、
図3に示す粉末組成物を焼結して得られる3D物体の断面を模式的に示す。
【
図6】
図6は、走査型電子顕微鏡で撮影された積層造形用粉末組成物の写真を示す。
【
図7】
図7は、
図6に示す粉末組成物を用いた焼結プロセスから得られた3D物体の断面のX線断層撮影によって得られた写真を示す。
【
図8】
図8は、
図6に示す粉末組成物を焼結して得られる3D造形物の断面を模式的に示す。
【
図9】
図9は、本発明による特定の粉末組成物の示差走査熱量測定(DSC)を示す。
【
図10】
図10は、本発明の特定の実施形態において、粉末Aの組成物を焼結することによって得られた3D物体についての伸長試験から得られた、%で表されたxy方向の伸びの関数として力をMPa単位で表したグラフを表す。
【
図11】
図11は、本発明の特定の実施形態において、粉末組成物Aを焼結することで得られた3D物体についての伸び試験の終了時に得られた、%で表したxz方向の伸びの関数として力をMPa単位で表したグラフである。
【
図12】
図12は、本発明の粉末組成物の粒径の関数としての体積粒径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本説明は非限定的なものであり、ある実施形態の各特徴は、他の実施形態の他の特徴と有利な方法で組み合わせることができる。
【0026】
本書に開示されるポリアミドの内部粘度数の値は、25℃でISO 307:2019に準拠して測定される。
【0027】
本発明による焼結による積層造形プロセス用の粉末組成物は、組成物の総重量に対して、
・60重量%~99重量%のポリアミド;
・光学的検出添加剤および/または磁気的検出添加剤であってもよく、好ましくは遷移金属のカチオンを含むスピネル構造を含む顔料、遷移金属の酸化物、遷移金属の硫化物からなる群から選択される、1重量%~40重量%の磁気的検出添加剤;
・0重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~4.5重量%の流動剤;
を含有し、
前記粉末は、
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D50;
・15μmを超える粒径分布D10、および
・100μm未満の粒度分布D90
を示す。
【0028】
この粉末は主にポリアミドを含有するため、「ポリアミドベース」と呼ばれる。
【0029】
焼結による積層造形用粉末組成物(以下、「焼結粉末」という)の特徴とその成分について詳述する。
【0030】
焼結粉末の粒子の形状は球状であることが好ましい。
【0031】
本発明によれば、前記検出添加剤は、磁気的検出または光学的検出を可能にするように選択することができ、あるいは2つの添加剤、すなわち、磁気的検出を可能にする第1の添加剤および光学的検出を可能にする第2の添加剤、あるいは光学的検出および磁気的検出の両方を可能にする添加剤を使用することができる。
【0032】
ポリアミドまたはポリアミド混合物の選択
ポリアミドは、本発明の組成物の粒径特性を得ることが可能になるように、任意の入手可能なポリアミド、またはポリアミドの混合物から選択することができる。
【0033】
好ましくは、ポリアミドは、以下のモノマー:PA6、PA10、PA11、PA12およびそれらの混合物、の1つを含むポリアミドから選択される。
【0034】
特に、PA11はその有利な特性および生物由来の起源を持つことから使用できる。「生物由来」製品とは、全体的または部分的に生物起源の材料から製造された製品である。
【0035】
焼結粉末の特性および使用温度(T
2
)
好ましくは、焼結粉末は160℃~210℃の使用温度範囲を有する。使用温度ウィンドウは、融解ピークから外挿される初期温度(℃で表されるTei.mまたはTm,onset)および結晶化ピークから外挿される最終温度(℃で表されるTef,cまたはTc,onset)によって区切られる温度範囲である。これら2つの温度の差はΔTと呼ばれ、ΔT=Tei.m-Tef.cまたはΔT=(Tm-Tc)onsetで表される。
【0036】
融解ピークT
m,onsetから推定される初期温度、および結晶化ピークT
c,onsetから推定される最終温度は、Schmid M. & Wegener Kにより2016年に発表された論文「Polymers Applicable for Laser Sintering (LS)」(Additive Manufacturing: Procedia Engineering, 149, 457-464)の、特に
図9に関連する部分を参照することによって、より理解されるであろう。
【0037】
好ましくは、ΔT=(Tm-Tc)onsetは、30℃~50℃に含まれる。このΔTは、使用温度T2を定義できるため有利である。さらに好ましくは、ΔT=(Tm-Tc)onsetは30℃~35℃に含まれる。
【0038】
ΔTが30℃未満の場合、ポリマーは、エネルギーが追加されたときの状態変化に対して過剰に反応するおそれがある。
【0039】
ΔTが50℃を超える場合、安定した使用温度T2を定義できず、その結果、粉末床が全体的に凝集し、回収の問題が発生するおそれがある。
【0040】
同様に、この範囲ΔT=(Tm-Tc)onsetで選択される使用温度T2に応じてエネルギー供給を調整する必要がある。過剰なエネルギー入力は、3Dプリントされた物体を変形させるという有害な結果をもたらす可能性がある。
【0041】
検出添加剤
本発明の本質的な特徴によれば、粉末組成物は検出添加剤を含む。この添加剤は、水に不溶で無毒の無機化合物、好ましくはスピネル型の無機化合物であることが有利である。本発明の粉末組成物は、組成物の総重量に対して、1重量%~40重量%の検出添加剤を含む。
【0042】
検出添加剤は光学的検出添加剤であってもよい。より具体的には、本発明の粉末組成物は、組成物の総重量に対して、0.05重量%~5重量%、例えば0.05重量%~0.5重量%の光学的検出添加剤を含んでもよい。後者は、遷移金属のカチオンを含むスピネル構造を含む顔料から選択されるのが有利である。このタイプの顔料には毒性がないという利点がある。特に、遷移金属カチオンはスピネル構造内に捕捉されたままであり、飲食物との通常の接触条件下でも、腸管を通過する誤飲の場合でも可溶化できない。スピネルは、SLSレーザー焼結プロセス技術で実装されるレーザービーム下で優れた熱安定性を備える。したがって、これらの顔料の使用は、この用途を目的とした粉末組成物にとって特に好ましい。
【0043】
ある実施形態によれば、顔料は青色顔料、好ましくは商品名PB28で入手可能なアルミン酸コバルト(CAS番号:1345-16-0)である。
好ましくは、使用される光学的検出添加剤は、必要に応じて赤外線による光学的検出を可能にする。例えば、使用される光学的検出添加剤は、0.5μmから12μmまでの波長範囲での光学的検出を可能にする。
【0044】
他の実施形態によれば、顔料はオリビン構造またはルチル構造を含む。
【0045】
光学的検出添加剤は粉末組成物中に実質的に均一に存在するため、この粉末から積層造形によって得られた部品は全体的に着色されることに留意されたい。
【0046】
検出添加剤は、磁気的検出添加剤であってもよい。より具体的には、本発明の粉末組成物は、組成物の総重量に対して、1重量%~40重量%の磁気的検出添加剤を含んでもよい。
【0047】
磁気的検出添加剤は、遷移金属を含む酸化物から選択されることが好ましい。例えば、磁気的検出添加剤は、天然または合成マグネタイト(Fe3O4)などの酸化鉄である。このスピネル型酸化物は水に不溶であり、毒性がない。さらに、この粉末から積層造形によって得られる部品から放出される可能性のある金属塩を形成する傾向がない。天然磁鉄鉱は合成磁鉄鉱よりも好ましい。
【0048】
光学的検出添加剤としてであっても、磁気的検出添加剤としてであっても、スピネルではない遷移金属の酸化物、または遷移金属の硫化物を使用することも可能である。磁気的検出添加剤は、明らかに、容易に検出できる特定の磁気特性を示すように選択する必要がある。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明の粉末組成物は、顔料から選択される0.05重量%~5重量%の光学的検出添加剤と、遷移金属酸化物から選択される1重量%~40重量%の磁気的検出添加剤の両方を含む。
【0050】
流動剤の選択
本発明による組成物は、組成物が自由に流れ、流動性を保ち、ポリマーのレイヤーバイレイヤー焼結(SLS,LS)とも呼ばれる粉末床(PBF-粉末床融合)における層構築プロセス中に均一で均質かつ平坦な層を形成するように、十分な量の流動剤をさらに含む。
【0051】
本発明による組成物は、組成物の総重量に対して、0重量%~5重量%の流動剤を含む。0.1重量%~4.5重量%の含有量が好ましい。
【0052】
流動剤は、ポリマー粉末の焼結の分野で一般に使用されるもの、例えば、シリカ、沈降シリカ、シリカフューム、水和シリカ、シリカガラス、ヒュームドシリカ、ガラス質リン酸塩、ガラス質酸化物から選択される。
【0053】
好ましくは、流動剤は小さな接触表面を有する。
【0054】
粉末組成物の製造
ある実施形態によれば、本発明による粉末組成物は、いわゆる「天然」ポリアミド粉末を流動剤と混合する第1のステップと、以下のうちの少なくとも1つのステップとを含む製造方法に従って得られる:
・先に得られた組成物を、光学的検出添加剤を含むポリアミド粉末組成物と混合するステップ;
・先に得られた組成物を、磁気的検出添加剤を含む組成物と混合するステップ。
【0055】
ある実施形態では、検出添加剤を含む組成物を用いるこれらの最後の2つの混合ステップは連続的に実施され;順序は逆になる可能性があることに留意されたい。
【0056】
天然ポリアミド粉末は、95重量%~100重量%のポリアミド、好ましくは少なくとも99重量%のポリアミドを含む粉末組成物である。
【0057】
光学的検出添加剤を含むポリアミド粉末組成物は、ポリアミドおよび上述の光学添加剤を含む均質な液体もしくは固体塊の粉末への変換によって、または固相重縮合、乾燥、その後の選択的粉砕によって得ることができる。
【0058】
磁気的検出添加剤を含む組成物は、純粋な形態の磁性添加剤(すなわち、少なくとも95%の磁気的検出添加剤を含む)であってもよく、または磁気的検出添加剤との乾式混合によって均質化されたポリアミドを含む組成物であってもよい。
【0059】
上述の混合ステップは、乾式混合(英語の用語「dry blend」として知られる)または配合プロセス(英語の用語「master batch」として知られる)によって実行することができる。配合には、得られた塊の選択的な粉砕並びに固相重縮合および乾燥による粘度の調整という後続のステップが必要である;この理由から、乾燥混合物が好ましい。
【0060】
流動剤の分散では、良好な均質化を得るためにかなりの混合エネルギーを適用する必要がある。この混合エネルギーにより、検出添加剤が損傷する可能性がある。
したがって、第1の混合ステップよりも強度の低い、検出添加剤を含む組成物との少なくとも1つの混合ステップの前に、第1の混合ステップ中に流動剤と天然ポリアミド粉末との乾燥プレミックスを選択することが好ましい。
【0061】
ある実施形態では、混合ステップは低温粉砕によって実行され、この方法は当業者にはよく知られているので、本書では詳しく説明しない。
【0062】
これらの他の実施形態では、すべての成分の均一で分散した粉末の乾燥混合物を得る方法は、初期分布および最終目標分布、すなわち、
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D50、
・15μm~25μmに含まれる粒径分布D10、および
・80μm~100μmに含まれる粒径分布D90
に従って適合される。
【0063】
ある実施形態によれば、粉末の最終目標粒径分布は次のとおりである。
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D50、
・20μmを超える粒径分布D10、および
・80μm未満の粒径分布D90
【0064】
粉末組成物の粒度分布
粉末組成物の粒径分布D10は、10μmより大きく、好ましくは15μmより大きく、好ましくは17μmより大きく、好ましくは20μmより大きい。
【0065】
粉末組成物のそのような粒度分布D10は、空気中に揮発し、吸入および蓄積した場合に健康上のリスクをもたらしたり、目および肌がこれらの微細な粉塵粒子に接触することで刺激を与えたりする可能性のある多量の微粒子または粉塵の存在を回避するのに有利である。
【0066】
粉末組成物の粒径分布D50は、35μm~55μmに含まれる。好ましくは、粉末組成物の粒径分布D50は、38μm~45μmに含まれ、非常に好ましくは、それは38μm~40μmに含まれる。
【0067】
出願人は、試験中に、これらの粒度分布範囲D50により、80μm~120μmの層を使用するPBF粉末床プロセスのための温度での粉体のより良い被覆率および良好な流動性と共に、最終的な解像度、得られる部品の幾何学的定義の点で、最高の性能を得ることが可能になることに気づいた。
【0068】
粉末組成物の粒径分布D90は、110μm未満、好ましくは100μm未満、好ましくは95μm未満、好ましくは93μm未満、好ましくは90μm未満である。ある実施形態では、粒径分布D50は80μm未満である。
【0069】
このような粒度分布D90は、層の厚さが80μm~160μm、例えば層の厚さが100μmの積層造形プロセスにおいて粉末を使用するのに有利である。好ましくは、D90値は、積層造形プロセスで想定される層サイズよりも小さくなるように選択される。
【0070】
ある実施形態によると、粉末組成物は、
・35μm~55μmに含まれる粒度分布D50、
・15μm~25μmに含まれる粒径分布D10、および
・80μm~100μmに含まれる粒径分布D90
を有する。
【0071】
焼結による積層造形には、緻密な分布および同じ形態を有することが有利であるものの、粉末組成物の粒径の均質性が大きすぎると、幾何学的配置が粉末をより凝集させるため、「ケーキング」現象(つまり、粉末の凝集)が発生することから、出願人は、そのような粒径分布D10、D50、およびD90が有利であることに注目した。したがって、これらの粒度分布D10、D50およびD90は、粉末の凝集現象を制限し、焼結による積層造形によって得られる部品からの粉末除去を容易にするので有利である。
【0072】
なお、粉体組成物の上述した粒度分布値D10、D50およびD90は、ISO 13322-1:2014規格に準拠した静止画像解析法により決定される。
【0073】
図1は、3つの粉末について、粒径(マイクロメートル(μmと略する)で表される)の関数としての分布密度曲線を示す。
・曲線105は、いわゆる天然PA11粉末、すなわち少なくとも99%のPA11を含む粉末の粒径分布を示す。
・曲線110は、本発明による粉末組成物Aの粒径分布を示し、粉末組成物におけるポリアミドはPA11であり、粉末組成物は光学的検出添加剤を含む。
・曲線115は、本発明による粉末組成物Bの粒径分布を示し、粉末磯生物におけるポリアミドはポリアミド11であり、粉末組成物は光学的検出添加剤および磁気的検出添加剤の両方を含む。
【0074】
光学的検出添加剤および/または磁気的検出添加剤が、上で詳述したような粉末組成物の粒径分布を達成するように選択されることは、強調されるべきである。
図1からわかるように、検出添加剤を含む本発明による粉末組成物の粒径分布は、天然PA11粉末の粒径分布に近いままであり、密度ピークは約50μmである。
【0075】
有利には、本発明の主題である粉末組成物は、サイズが10μm~120μm、好ましくは20μm~90μm、より好ましくは20μm~80μmの粒子を、90%、より好ましくは99%含む。
【0076】
図12は、粉末組成物Aの粒径の関数として粒径分布を示すグラフであり、粉末組成物AにおけるポリアミドはPA11であり、粉末組成物Aは光学的検出添加剤を含む。
図12に示されるデータは、Malvern Panalytical社のMastersizer 3000(登録商標)粒径分析装置を使用して実施された粒径測定から得られた。このグラフは、μmで表された各サイズに関連する粉末組成物中の粒子のパーセンテージを示すヒストグラムのバー140を示す。曲線150は、μmで表された閾値未満のサイズを有する粒子の累積パーセンテージを表す。
図12のグラフからわかるように、粉末組成物Aは、サイズが10μm~120μmの粒子の90%を含む。
【0077】
粉末組成物の形状因子
形状因子は、粒子のサイズに関係なく、粒子の形状の数値的な記述としての画像解析および顕微鏡検査で使用される無次元の量である。
【0078】
円形性指数fcircは次のように計算される形成因子である。
【0079】
【0080】
Pは周囲長、Aは粉末粒子の画像の表面積である。
【0081】
したがって、平行六面体の雲母の円形度は0に近くなる一方で、球の円形度指数は1になる。
【0082】
ISO 9276-6:2008で指定される粒子の形状よび形態の説明並びに定量的表現に関する規則と命名法には、以下に説明される。
【0083】
好ましくは、本発明による粉末組成物の累積分布f10は0.15以下である。非常に好ましくは、粉末組成物の累積分布f10は0.10以下である。換言すれば、粉末粒子の10%だけが、0.15以下、好ましくは0.10以下の円形度指数を有する。換言すれば、粒子の90%は0.1より大きい、好ましくは0.15より大きい円形度指数を有する。
【0084】
粉末組成物の累積分布f50は0.6以下である。好ましくは、粉末組成物の累積分布f50は0.55以下である。換言すれば、粉末粒子の50%だけが、0.6以下、好ましくは0.55以下の円形度指数を有する。換言すれば、粉末粒子の50%は、0.55より大きい、好ましくは0.6より大きい円形度指数を有する。
【0085】
粉末組成物の累積分布f90は0.8以下である。好ましくは、粉末組成物の累積分布f90は0.75以下である。換言すれば、粉末粒子の90%は、0.8以下、好ましくは0.75以下の円形度指数を有する。換言すれば、粉末粒子の10%は、0.75より大きい、好ましくは0.8より大きい円形度指数を有する。
【0086】
図2は、縦軸の累積分布(パーセンテージで表示)、横軸の円形度(単位のない指数)の関数として、をグラフ表示する。
図2から以下のことがわかる。
・曲線205は、いわゆる天然PA11粉末、すなわち少なくとも99質量%のPA11を含む粉末の累積分布を示す。
・曲線210は、本発明による粉末組成物の累積分布を示し、粉末組成物におけるポリアミドはPA11であり、粉末組成物は光学的検出添加剤を含む。
・曲線215は、本発明による粉末組成物の累積分布を示し、粉末組成物におけるポリアミドはポリアミド11であり、粉末組成物は光学的検出添加剤と磁気的検出添加剤の両方を含む。
【0087】
光学的検出添加剤および/または磁気的検出添加剤は、好ましくは、上で詳述した粉末組成物の累積分布を得るという観点から選択される。
図2から、検出添加剤を含む本発明による粉末組成物の累積分布は、天然PA11粉末の分布の粒径分布に近いままであることが分かる。
【0088】
粒子の形態は、混合物の流動性、および連続被覆中の粉体床の緻密化にとって重要だが、得られる最終部品における残留気孔率にとっても重要である。粉末の良好な球形性は、非常に厳密な分布、つまり上述した種類の累積分布を組み合わせると、層の圧縮および幾何学的配置によって、粉末床の自然な緻密化を得ることを可能にする。次に、この層は、残留気孔率が低い部品の緻密化を促進する融合および合体のために、レーザーエネルギーにさらされる。逆に、より広範囲に分散した非常に不均一な粉末は、大きな粒子の一部が融解しない可能性があるため、より無秩序に組織化される傾向があり、粉末床の緻密化が低下し得る。
【0089】
この点を説明するために、
図3および
図6は、走査電子顕微鏡で2つの粉末を同じ倍率で撮影した2つの図を示す。
図3は、本発明の主題である粉末組成物の球形度に匹敵する球形度を有する粉末を示し、
図6の粉末は比較のために示される。
【0090】
これらの粉末は、34mJ/mm
2(550および850)のエネルギー密度でのSLSレーザー焼結プロセスの対象となる。焼結プロセス後に得られた3D物体の断面のX線断層撮影図を
図4および
図7に示す。
図3および
図6に示す粉末30および60の概略図と、これらの粉末の焼結によって得られた3D物体の断面を
図5および
図8に示す。
【0091】
図3に示される粉末30は、粒子円形度が0.4~0.8で、平均で0.65に等しい、良好な円形度均一性を有する粉末である。粉末30は、予め固化した層505上に配置され、34mJ/mm
2のエネルギー密度でSLSレーザー焼結プロセス550の対象となり、
図5のセクション510に示すように3D物体の断層撮影によって得られ、
図4のセクション410に示すように、低く、かつ分散した残留気孔率を得ることを可能にする。
図4では黒色で示される多孔質部分420が、
図5では白い空洞の形で示される。
図7および
図8に示すように、これらの多孔質部分は、粒子の円形度の均一性が低い粉末から焼結により得られる3D物体の断面で観察されるよりも数が少なく、よく分布している。
【0092】
図6に示す粉末60は、粉末30より均質性が低く、粒子円形度が0.1~0.8で、平均して0.55に等しい。粉末60は、予め固化した層805上に配置され、34mJ/mm
2のエネルギー密度でSLSレーザー焼結プロセス550の対象となり、均質性が低く残留気孔率が大きい3D物体となり、断層撮影によって得られた
図7のセクション710に示され、
図8の概略断面
図810として示される。
【0093】
3D物体の製造プロセス
本特許出願は、三次元物体を得るために、層ごとの凝集を伴う粉末床を用いる技術の枠組み内にあることが想起される。本書の文脈では、これらの方法を「積層造形」または「3Dプリンティング」という用語のみで指す。このような3Dプリンティング法により得られる物体を「3D物体」と呼ぶことにする。
【0094】
より具体的には、本発明は、加熱された筐体内でポリアミド粉末から層ごとに粉体床融合(PBF)により積層製造するプロセスに関する。これらの方法は、特にレーザー焼結(LS)、選択的レーザー焼結(SLS)、マルチジェットフュージョン(MJF)、赤外線焼結(IRS)、および高速焼結(HSS)を含む。
【0095】
どの付加製造方法が選択されたとしても、本発明によるプロセスは、ポリアミド粉末組成物から得られ、検出添加剤を含む3Dポリアミド物体を製造することを目的とする。
【0096】
本発明によるプロセスは、設定温度T1に予熱された密閉容器内で行われる。ポリマー粉末の酸化を制限するために、容器内の雰囲気は窒素が豊富(または真空下)であり、酸素が少なく、この酸化は、ポリマー粉末粒子を構成する高分子を徐々に伸長させ、前記粉末の主な老化メカニズムとなる。この高分子の伸長により、ポリマーの内部粘度が増加する傾向がある。粉末の温度酸化を制限することにより、未使用粉末のリサイクルが促進され、本発明によるプロセスの経済性に大きく貢献する。好ましくは、酸素レベルは5体積%未満、好ましくは2体積%未満、より好ましくは1体積%未満である。
【0097】
保持温度T1は、ポリマーの結晶化温度Tc付近の約20~30℃に設定するのが有利である。有利な実施形態によれば、ポリアミドPA11および/またはPA12をベースとする粉末の場合、予熱温度T1は、有利には約140℃~約160℃、好ましくは約142℃~約158℃である。特定の実施形態によれば、加熱温度は保持温度と等しい。
【0098】
より一般的には、保持温度T1は150℃~185℃であることが好ましい。
【0099】
本発明の主題であるプロセスは、予熱された筐体内でポリアミド粉末床の均一な層を堆積することを含む。
【0100】
各層の堆積直後、粉体床の表面は、通常は赤外線によって、ポリアミドのTmより約8%~14%低くなるように(つまり粉末の融点Tmよりも12~26℃低くなるように)選択される温度T2まで急速に加熱されるこの温度T2まで加熱することで、ポリアミド粉末を、その融点に達することなく、その融点にかなり近い温度に維持することが可能になる。この温度は、PBFシステムの動作温度とも呼ばれる。
【0101】
有利な実施形態によれば、ポリアミドPA11および/またはPA6をベースとする粉末の場合、温度T2は約183℃~約204℃である。
【0102】
より一般的には、温度T2は168℃~206℃である。
【0103】
緻密な部品を得るには粉末の融解が必要である。液体ポリマーの制御されない流れを避けるために、この融解は一時的、急速、局所的かつ制御されなければならず、この理由から、短時間でなければならず、すなわち、局所的融解の後に直ちに、ポリマーの融点Tmより低い温度まで、ポリマーが融解状態から再結晶化できる温度TRへの冷却を行わなければならない。前記温度TRは、温度T2付近とすることができ、TRはT1~T2の間に含まれる。
【0104】
粉体床の選択された部分の前記局所的かつ制御された融合を得るために、電磁放射がポリアミド粉末の標的領域に照射され、局所的に温度を上昇させ、標的領域のポリアミド粒子を凝集させることが可能になる。選択した方法に応じて、電磁放射線は、たとえば、可視、赤外線、または近赤外線レーザー放射線である。融解ゾーンの局所温度TLは、ポリアミドのTmより約8%~14%高い(すなわち、粉末の融点Tmより12℃~26℃高い)ことが好ましい。このようにして一時的な液相が形成されるが、TLが高すぎると融解ポリマーの粘度が低くなりすぎ、タレが発生する恐れがある。
【0105】
ある例として、本発明による焼結プロセス中に実施される温度T1およびT2を以下の表1にまとめ、本発明による焼結粉末AおよびBの融点Tmおよび結晶化温度Tcと比較する。
【0106】
【0107】
各試料は以下のとおりである。
・粉末Aは、本発明による粉末組成物であり、粉末組成物におけるポリアミドはPA11であり、粉末組成物は光学的検出添加剤を含む。
・粉末Bは、本発明による粉末組成物であり、粉末組成物におけるポリアミドはポリアミド11であり、粉末組成物は光学的検出添加剤と磁気的検出添加剤の両方を含む。
【0108】
融点または結晶化温度を中心とする任意の間隔を決定するには、融解ピークおよび結晶化ピークに対応する温度値ではなく、融解ピークから外挿された初期温度(Tm,onset)および結晶化ピークから外挿された最終温度(Tc,onset)を利用することが好ましく、これらの基準値を決定するための2つの方法は、本発明から逸脱することなく実施することができる。
【0109】
この点を説明するために、
図9では、PA11ベースの本発明による粉末組成物のDSC(示差走査熱量測定)を示す。このDSCは、初期温度上昇曲線910と冷却曲線920を示す。
融点および結晶化温度は、対応するピーク(T
cおよびT
m)の同定によって決定されたか、融解ピークについて外挿された初期温度(T
m,onset)および結晶化ピークについて外挿された最終温度(T
c,onset)で決定されたかにかかわらず、このグラフに示される。
【0110】
粉体床層のターゲット領域のすべてが電磁放射線源によってスキャンされると、新しい粉体床が前の粉体床の上に堆積され、平らになる。
粉末は自己支持型である、つまり、プロセス中に先に堆積された粉末を基礎とすることを覚えておく必要がある。したがって、毎回、新しい粉体床が堆積され、新しい粉体床の一部の固化が始まる。各粉体床の固化部分は、プロセスの終わりに得られる3D物体の層または薄片に対応する。
【0111】
各層の厚さは、典型的には約50μm~約150μm、好ましくは約70μm~約120μm、より好ましくは約80μm~約110μmである。各層の堆積の後に、上述したように温度T2まで加熱される。
【0112】
この方法の一実施形態によれば、本発明の主題である焼結はSLSによって実行され、作動温度T2を180℃~199℃、例えば188℃に等しくするには、層の局所的融合を引き起こす電磁放射は、25mJ/mm2以上のエネルギー密度を有するレーザー放射である。25mJ/mm2以上のエネルギー密度により、層の剥離、つまり固化したポリアミドの連続する2つの層間の分離を回避することができる。
【0113】
エネルギー密度は、簡略化されたモーガンの公式を使用して計算され、次のように表される。
【0114】
【0115】
Pはレーザーの出力であり、ワットで表される。
Sはスキャン間隔(ハッチ偏差)であり、ミリメートル(mm)で表される。
vはレーザー速度であり、mm/秒で表される。
rはレーザー半径であり、mmで表される。
【0116】
例として、異なるSLSシステムを用いた本発明による焼結プロセスの操作条件を以下の表2に要約する。これらの操作条件は、PA11を含む焼結粉末組成物に対して、188℃にほぼ等しい動作温度T2で、固定層厚さ100μmで実施される。
【0117】
【0118】
焼結プロセスから得られた3D物体は、凝集していない粉末でまだ覆われている。この粉末は、当業者に周知の機械的および/または化学的手段(エアジェットまたはウォータージェット、ブラッシング、サンディング、溶媒相処理、超音波浴、HF溶液による処理など)によって除去されるが、詳細は本書には記載しない。
【0119】
本発明の主題であるポリアミド粉末組成物の再利用
上述のようなプロセス中、加熱チャンバーに導入される、PBF(粉末床融合)粉末床を使用する積層造形プロセス用の粉末組成物の一部は、固化しない。有利には、この粉末は、新鮮なポリアミド粉末の組成物、すなわち焼結プロセスでまだ使用されていない粉末と混合して再利用することを目的として収集され、篩にかけられる。
【0120】
好ましくは、本発明による粉末組成物は、20%~70%の質量分率の新鮮なポリアミド粉末組成物と、80%~30%の質量分率の前の製造後に回収されたポリアミド粉末を含む。より好ましくは、堆積粉末床は、25%~55%の質量分率の新鮮なポリアミド粉末組成物と、75%~45%の質量分率の前の製造の終わりに回収されたポリアミド粉末を含む。
【0121】
新鮮な粉末を使用済み粉末に添加することは、損傷を受けていない(熱酸化されていない)ポリアミド粒子を追加することになり、このポリアミド粒子は。熱酸化を誘発する前の焼結プロセスによってすでに損傷または変形していないため、展開するサイクル毎に混合物の内部粘度を低下させることで内部粘度を所定の範囲に維持する。
【0122】
好ましくは、新鮮なポリアミド粉末は、ISO 307:2019に準拠して測定される0.9デシリットル/g~1.4デシリットル/gの内部粘度数を有する。
1.4デシリットル/g未満、好ましくは1.2デシリットル/g未満の内部粘度数は、たとえこの組成物が、新鮮な粉末をPBF粉末床プロセスで使用されたリサイクル粉末と混合することによって得られる場合でも、ポリアミド粉末組成物の内部粘度を十分に低く保つことを可能にする。
【0123】
プラスチックおよびポリアミドの内部粘度数を測定する方法は、ISO 307:2019に準拠し、前述の規格で指定される特定の溶媒中のポリアミドの希釈溶液の粘度数の決定に基づく。
【0124】
この粘度は、融解および/または合体現象のレオロジーに関与し、堆積した粒子は、無制御にクリープすることなく、高密度で非多孔質の塊を形成するために、融解および合体する必要がありま内部粘度は、部品の機械的特性、外観、完成品の表面仕上げに影響を与える。
【0125】
粉末組成物を最適に使用するには、同じ粉末について一定のリサイクルの回数を超えないようにすること、つまり、PBF粉末床プロセスで多数の熱サイクルを受けた粉末の混合物を再度リサイクルしないことが推奨される。粉末粒子の凝集物を除去するために、循環粉末の収集とそのふるい分けは、新鮮なポリアミド粉末と混合する前に行う必要がある。
【0126】
内部粘度は酸化の程度とともに増加することがわかっているため、可能なサイクル数はリサイクルされた粉末の酸化の程度によって異なる。
発明者らは、平均して同じ粉末を8~10回のリサイクルサイクルで再利用できるが、これは、PBFでの製造プロセスの全体または60℃未満の温度への冷却の間に受けた熱サイクル(予熱、一定温度での製造、および冷却)全体を通しての、粉末の高温への曝露時間、および筐体内の酸素レベルに主に依存することに注目している。
【0127】
リサイクルは、新鮮な粉末が上記の内部粘度を有するという事実により促進される。実際、本発明による方法によって高品質の部品を製造するために、内部粘度数が0.9デシリットル/g~1.4デシリットル/gのこのゾーンの少し外側に位置する粉末を使用することが可能であるが、そのため、新鮮な粉末は、魅力的な経済条件の下で、かつ上記の技術条件(新鮮な粉末と30%~60%の割合で混合)に従って、PBFプロセスでリサイクルでき、新鮮な粉末については、50%での連続的な再生、およびすでに使用された粉末の正しいふるい分けを守ることが好ましい。
【0128】
一例として、本発明による組成物は粉末Aである(すでに上述した)。新鮮な粉末Aは1.3デシリットル/gと同等の内部粘度を有する。
焼結プロセスを実施した後、本発明による新しい粉末組成物は、半分の新鮮な粉末と半分のリサイクルされた粉末とを混合することによって形成される。または2サイクル後、粉末組成物の内部粘度数は1.7デシリットル/g程度となる。
3~6サイクル後、粉末組成物の内部粘度は約2.05デシリットル/gとなる。
【0129】
【表3】
サイクル数の代わりに、加熱時間、すなわち粉末組成物が加熱された筐体内で加熱にさらされる時間を考慮することができる。このアプローチは、製造サイクルがより長くなるか、より短くなる可能性があるため、より正確になる可能性がある。上の表には、内部粘度数値に到達するために使用された温度時間値も示される。この加熱時間は、新鮮な粉末の場合は0に等しく、1~2サイクルを経た粉末の場合は20時間を超え、3~6回のリサイクルサイクルを経た粉末の場合は50時間を超える。
【0130】
得られた3D物体の磁気的検出
本発明の粉末組成物中に光学的または磁気的検出添加剤が存在することにより、この粉末の焼結によって得られる3D物体の検出が可能になる。
【0131】
磁気的検出の場合、磁気的検出添加剤を含む粉末から得られる3D物体は、例えば、電磁誘導によって、または磁性物体を検出する他の任意の方法に従って検出される。これらの方法は当業者にはよく知られているので、ここでは説明しない。
【0132】
得られた3D物体の光学的検出
粉末組成物の積層造形によって得られる3D物体は、塊全体が着色されており、つまり、3D物体を構成する材料が着色されており、物体はその外面に着色を呈するだけではない。
【0133】
この特性により、壊れた3D物体の断片のすべての面に、使用された光学的検出添加剤に対応する色が表示される。したがって、着色された塊である物体の破片は、物体が壊れたときに光学的検出方法によって検出することができる。
【0134】
好ましくは、3Dオブジェクトは全体的に青色である。青色は食品の中では珍しい色なので、食品の中にあると他の色よりも目立ちやすい。特に、0.5μm~12μmの波長範囲の照射により赤外線検出が可能である。好ましくは、光学的検出添加剤は、0.5μm~12μmに含まれる波長範囲での光学的検出を可能にする。これらの光学的検出方法は、プラスチック材料の破片に適用されるものであっても、当業者にはよく知られており、ここでは詳細には説明しない。
【0135】
本発明による焼結によって得られる3D物体の機械的特性
好ましくは、本発明による焼結によって得られる3D物体は、40MPa(メガパスカル)以上、好ましくは44MPa以上の最低引張強度を有する。
【0136】
3D物体が磁気的検出添加剤を含む粉末の焼結によって得られる場合、4D物体は、好ましくは30MPa以上、非常に好ましくは35MPa以上の最低引張強度を有する。
【0137】
好ましくは、本発明による焼結によって得られる3D物体は、1600MPa以上、好ましくは1750MPa以上の最低弾性率を有する。
【0138】
特に、本発明による焼結プロセスから得られた3D物体の標準化された試験片について、メガパスカル(MPa)で表される引張強さおよび弾性率、およびパーセンテージで表される破断点伸びについて試験した。試験される3D物体は、光学的検出添加剤を含み、ポリアミドがPA11である、本発明の焼結粉末組成物から得られる。実施された試験方法は、引張特性の測定に関するISO 527-1:2019規格に準拠する。
【0139】
【0140】
好ましくは、本発明による方法によって得られる3D物体は、第1の配向で20%以上、第1の配向に垂直な第2の配向で35%以上の破断点伸びを有する。
【0141】
ISO 527-1:2019に従って実施された試験については、その結果を上記の表4に示し、これらの破断点伸びは25%および40%と測定された。
【0142】
図10および
図11は、破断点伸びについて上に示した試験結果に対応するグラフを示す。
図10はxy配向での引張伸び試験の結果、
図11はxz配向での引張伸び試験の結果である。
【国際調査報告】