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特表2024-522797中空物品の内部表面をコーティングするための装置及び方法
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  • 特表-中空物品の内部表面をコーティングするための装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】中空物品の内部表面をコーティングするための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
C23C14/34 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577949
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 AT2022060188
(87)【国際公開番号】W WO2022261684
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】A60170/2021
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523473198
【氏名又は名称】プラズマテリア・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ヤロシュ・マルチン
(72)【発明者】
【氏名】コールハウザー・ベルンハルト
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA27
4K029BA07
4K029BA44
4K029BA46
4K029BA54
4K029BA55
4K029BA56
4K029BA58
4K029CA06
4K029DA12
4K029DC03
4K029DC04
4K029DC05
4K029DC13
(57)【要約】
本発明は、中空物品(1)の内部表面上にコーティングを形成し、および/または当該内部表面の特性を改質するための装置であって、プラズマ源(2)を備え、当該プラズマ源は細長い形状を有し、およびカソード(3)とターゲット(4)とを含み、当該ターゲット(4)は熱イオン電子放出源であり、前記ターゲット(4)は前記カソード(3)に電気的に導通して接続されている装置において、前記プラズマ源(2)は、前記カソード(3)と前記ターゲット(4)の外側表面を部分的に覆うマスキング(5)をさらに備えており、当該マスキング(5)は、前記装置の操作中にマスキング(5)によって覆われた領域上でのプラズマの形成を防止するように適合されており、プラズマ形成領域(6)が前記ターゲット(4)上に供され、このプラズマ形成領域(6)はマスキング(5)によって覆われていない前記装置に関する。本発明はさらに、ターゲット(4)、前記装置の集成装置、方法、および中空物品(1)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空物品(1)の内部表面上にコーティングを形成し、および/または当該内部表面の特性を改質するための装置であって、プラズマ源(2)を備え、当該プラズマ源は細長い形状を有し、およびカソード(3)とターゲット(4)とを含み、当該ターゲット(4)は熱イオン電子放出源であり、前記ターゲット(4)は前記カソード(3)に電気的に導通して接続されている装置において、
前記プラズマ源(2)は、前記カソード(3)と前記ターゲット(4)の外側表面を部分的に覆うマスキング(5)をさらに備えており、当該マスキング(5)は、前記装置の操作中に、前記マスキング(5)によって覆われた領域上でのプラズマの形成を防止するように適合されており、プラズマ形成領域(6)が前記ターゲット(4)上に提供され、このプラズマ形成領域(6)は前記マスキング(5)によって覆われていないことを特徴とする、前記装置。
【請求項2】
前記ターゲット(4)が中空である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ターゲット(4)が本質的に管状の形状を有しており、および前記プラズマ形成領域(6)が、好ましくは前記プラズマ源(2)の自由端(10)に配置される、リング形状部分を含む、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記マスキング(5)が、当該マスキング(5)によって覆われていないプラズマ形成領域(6)を除き、前記カソード(3)および前記ターゲット(4)の外側表面を完全に覆っている、請求項1~3のいずれか1つに記載の装置。
【請求項5】
前記プラズマ源(1)が、前記プラズマ形成領域(6)に配置されたガス出口(8)を有するガス供給チャネル(7)を備える、請求項1~4のいずれか1つに記載の装置。
【請求項6】
前記ガス出口(8)が、前記プラズマ形成領域(6)内に配置されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記ガス出口(8)における前記ガス供給チャンネル(7)が、7mm以下の断面積を有する、請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
- 前記マスキング(5)が電気絶縁材料でできているか、
または
- 前記マスキング(5)が導電性材料でできており、当該マスキング(5)が前記カソード(3)および前記ターゲット(4)に電気的に導通して接続されていない、
請求項1~7のいずれか1つに記載の装置。
【請求項9】
前記プラズマ源(2)が0.1mm~150mmの間の直径を有し、および/または前記プラズマ源(2)が80mm~5000mmの間の長さを有する、請求項1~8のいずれか1つに記載の装置。
【請求項10】
前記ターゲット(4)が、以下の群:
金属、例えば金属クロム、または別の耐酸化性および/または耐腐食性金属;少なくとも2種の異なる金属からなる合金;金属化合物、例えば金属窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物;炭素系化合物、例えばグラファイト
のうちの1種または複数から選択される材料からなるかまたは当該材料を含む、請求項1~9のいずれか1つに記載の装置。
【請求項11】
前記プラズマ源(2)が真空チャンバー(9)中に配置され、当該真空チャンバー(9)が前記中空物品(1)を収容するように適合されている、請求項1~10のいずれか1つに記載の装置。
【請求項12】
前記プラズマ源(2)によって放出された電子を消費するように適合されたアノード(10)をさらに備える、請求項1~11のいずれか1つに記載の装置。
【請求項13】
前記プラズマ源(2)によって生成されるプラズマの形状に影響を及ぼすために、少なくとも1つの磁場源を有するプラズマ偏向ユニット(11)をさらに備え、当該プラズマ偏向ユニット(11)は、前記中空物品(1)に近接して配置されることができる、請求項1~12のいずれか1つに記載の装置。
【請求項14】
前記プラズマ偏向ユニット(11)が、凹部(12)であって、そこに中空物品(1)を導くことができる凹部(12)を備える、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
- 前記カソード(3)が前記ターゲット(4)と一体的に形成されており、ここで前記カソード(3)と前記ターゲット(4)は同一の材料からできており、
- あるいは、前記カソード(3)と前記ターゲット(4)が、互いに接続された別個の部品であり、ここで前記カソード(3)と前記ターゲット(4)は同一の材料からまたは異なる材料からできている、
請求項1~14のいずれか1つに記載の装置。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1つに記載の装置において使用するためのターゲットであって、前記ターゲット(4)が前記カソード(3)に電気的に導通して接続されていてよい前記ターゲット。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1つに記載の装置と中空物品(1)との集成装置であって、プラズマ源(2)が前記中空物品(1)の内部(13)に挿入されている、前記集成装置。
【請求項18】
前記中空物品(1)が固定具(14)によって保持されている、請求項17に記載の集成装置。
【請求項19】
中空物品(1)の内部表面上にコーティングを形成し、および/または当該内部表面の特性を改質するための方法であって、以下のステップを含む方法:
- 請求項1~15のいずれか1つに記載の装置のプラズマ源(2)を、前記中空物品(1)の内部(13)に挿入するステップ、
- プラズマ源(2)のカソード(3)から熱イオン電子放出を生じさせることにより、プラズマを生成するステップ、
- プラズマ源(2)のターゲット(4)から材料を蒸発させ、および/または生成したプラズマよってガス状前駆体を分解するステップ、
- コーティングを形成するために、前記中空物品(1)の内部表面上に、蒸発および/または分解された材料を堆積させるステップ。
【請求項20】
プラズマを生成するステップが以下のステップ:
- 前記カソード(3)に100V~1000Vの間の電圧を印加することによってプラズマを点火するステップ、
- 10V~500Vの間の放電電圧を印加することによってプラズマを維持するステップ、
を含み、前記ターゲット(4)の表面がプラズマによって加熱され、および、プラズマを点火するステップにおける電圧が、プラズマを維持するステップにおける電圧よりも高い、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
プラズマを点火するステップが、以下:
- パルス高電圧が前記カソード(3)に印加される第1の点火相、および
- 直流が前記カソード(3)に印加される第2の点火相、
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記中空物品(1)が、前記装置の真空チャンバー(9)内に配置され、前記真空チャンバー(9)内の圧力が500Pa未満である、請求項19~21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
前記プラズマ源(2)のガス供給チャネル(7)内の圧力が、前記真空チャンバー(9)における圧力よりも高い、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記カソード(3)に加えられる電力密度が、プラズマ形成領域(6)のサイズに関して10kW/cm未満である、請求項19~23のいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
ガスのストリームがプラズマ形成領域(6)に供給され、前記ガスが、以下:
水素;希ガス;窒素;酸素;アンモニア;アルカン、例えばメタン;アルケン、例えばエタン;アルキン、例えばアセチレン;シラン類、例えばモノシラン;金属化合物、例えば有機金属化合物または金属ハロゲン化物、
のうちの1つまたは複数から選択される、請求項19~24のいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
内部表面上にコーティングを有する中空物品であって、前記コーティングが、請求項1~15のいずれか1つに記載の装置、および/または請求項19~25のいずれか1つに記載の方法によって形成された前記中空物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空物品の内部表面上にコーティングを形成するための、および/または中空物品の内部表面の特性を改質するための装置に関する。本発明はさらに、そのような装置において使用するためのターゲット、そのような装置と中空物品との集成装置、方法、および中空物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークピースのキャビティ内部および内部表面上にコーティングを製造することは、工業的に非常に関連性のあるプロセスである。そのような内部表面上のコーティングは、例えば、当該表面の耐摩耗性、耐疲労性、耐酸化性および/または耐腐食性を高めるために必要とされ得る。内部表面上の表面特性の向上を必要とする一般的な用途は、パイプ、バレル、ハウジング、バルブ、ショックアブソーバ、流体操作器、成形ツール、成形装置、ノズル、タンクおよび熱交換器である。
【0003】
多くの場合、そのようなコーティングは、クロムめっきのような電気化学的または化学的プロセスによって製造される。これらの技術の欠点は、それらが、重大な安全-、健康-および環境リスクをもたらす多くの化学物質へ依存していることである。特に、内部表面上の最も一般的なコーティングは、発癌性のCr(VI)化合物に通常由来する金属クロムをベースとするコーティングである。
【0004】
これらのタイプの化学物質の法的制限のために、様々な代替技術が知られている。それらには、レーザビーム蒸着、ガス溶射、はんだ付けプロセス、爆発的蒸着(explosive evaporation)、またはガス状前駆体を用いたホローカソード放電に基づくプラズマ技術が含まれる。
【0005】
内部表面上にコーティングを生成するために従来適用されている別の方法は化学気相堆積(CVD)であるが、この技術は多くの部品材料に適していない高いプロセス温度を必要とする。
【0006】
部品上にコーティングを生成するための典型的な工業的に適用される方法は、物理蒸着法(PVD)である。物理蒸着プロセスは、スパッタリング、カソードアーク蒸着、熱蒸着、または電子ビーム蒸着を含むいくつかの異なる技術で実現することができる。物理蒸着プロセスを実現するための一般的なセットアップは、基材(例えば、ワークピース、例えばツールまたは部品)を、後に真空チャンバー内に導入され、コーティング源(しばしばプラズマ源とも呼ばれる)の前で回転または移動される基材ホルダ上に置くことである。典型的には、コーティング源は真空チャンバーの壁、天井または底部に組み込まれる。このような工業的に適用される物理蒸着技術の主な欠点は、それらがライン・オブ・サイトベースのプロセスであり、従って、著しい深さを有するキャビティ内側にコーティングを堆積させることができないことである。
【0007】
従って、上述の技術はいずれも、低コスト、堅牢性、プロセス温度、汎用性、コーティング特性、ワークピース寸法に関する産業要件を完全に満たさないか、またはそれらは、それらの健康および環境リスクのために適切ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、先行技術の上述の欠点の少なくとも1つを克服することに見ることができる。本発明の特定の目的は、中空物品の内部表面上へのコーティング材料の経済的な堆積に適した装置及び/又は方法を提供することに見ることができる。好ましくは、本発明の堆積プロセスは、制御され、空間的に定義された方法で実施されるべきである。本発明のさらなる目的は、中空物品のキャビティ内側および内部表面のコーティングを製造するための技術のための新しい工業的に扱いやすい解決策を提供することに見ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的の少なくとも1つは、本発明によって解決することができる。
【0010】
本発明によれば、内部キャビティに到達することができ、および/またはコーティング材料のフラックスを中空物品のキャビティ中へ偏向させることができるプラズマ源を提供することができる。さらに、中空物品の内部表面上への材料の堆積プロセスを容易にするための方法を提供することができる。
【0011】
本発明の文脈において、中空物品は、内部表面を備える任意の物品であることができる。中空物品の例は、チューブ、パイプ、中空シャフトなどである。中空物品の内部表面は、特に、中空物品中に延在する開口部の表面であってもよい。内部表面の非限定的な例は、ボアホールの内側表面、またはパイプ、チューブ、中空シャフトなどの内径面に沿って延在する表面である。
【0012】
本発明の装置は、カソードおよびターゲットを含み得るプラズマ源を含む。カソードの1つの目的は、中空物品の内部表面上の標的化領域の近くにプラズマを送達することである。
【0013】
本発明によれば、前記装置は、カソードおよびターゲットの外側表面を部分的に覆うマスキングをさらに含むことができる。マスキングの1つの目的は、カソードおよびターゲットの周りの望ましくない寄生放電を排除することである。従って、マスキングは、プラズマの局限された形成に有益であり得、明確に定義された材料堆積をもたらす。
【0014】
本発明の装置のプラズマ源は、電源ユニットに接続することができる。電源ユニットは特に、プラズマ源に電気エネルギーを供給するように適合され得る。電源ユニットは特に、プラズマ源に直流およびパルス電流を供給するように適合されていてもよく、および/または、プラズマ源に供給される電流を制御するように適合された制御ユニットを備えてもよい。
【0015】
一実施態様では、ターゲットおよびカソードの幾何形状および特性は、ターゲットおよびカソードがプラズマを形成するのに適している限り、特に限定はされない。特に、ターゲットは、熱イオン電子放出源であるように適合されるべきである。カソードとターゲットは、同一の材料から製造される1つの一体部品として形成されてもよい。あるいは、ターゲットとカソードは、電気的に導通して接続された別個の部品であってもよい。後者の場合、ターゲットとカソードの材料は異なっていてもよい。
【0016】
マスキングは、カソードおよび/またはターゲットの外側表面を部分的に覆ってもよい。特に、マスキングは、マスキングによって覆われるカソードおよびターゲットの領域上にプラズマが形成されることを防止することができる。
【0017】
ターゲットの特定の領域はマスキングによって覆われていなくてもよい。この領域は、プラズマ形成領域と呼ばれ得る。従って、プラズマは、専らプラズマ形成領域において形成され得る。
【0018】
従って、プラズマ源は、少なくともカソード、ターゲットおよびマスキングを含むことができる。中空物品に導入可能であるために、プラズマ源は細長い形状を有することができる。本発明の文脈において、語句「細長い形状」は特に、プラズマ源の直径とプラズマ源の長さとの間の比が1:5未満、例えば1:8未満、または1:10未満であることを指し得る。
【0019】
マスキングは、非導電性または導電性材料のいずれかから作製されていてもよい。マスキングが非導電性材料から作製されている場合、マスキングデバイスを、カソードおよびターゲットの周囲に自由に配置することができる。マスキングは、カソードおよびターゲットの外側表面と直接接触してもよいが、直接接触しなければならないわけではない。マスキングデバイスが導電性材料から作製されている場合、マスキングデバイスは、マスキングとカソードおよびターゲットの外側表面が電気的に接触することなく、可能な限りカソードの周囲に配置される必要がある。
【0020】
概して、プラズマ源の形状は、処理されるべき内部表面の直径およびサイズに適合させることができる。中空物品への挿入のために、プラズマ源の外径は、処理されるべき中空物品の内径よりも小さい必要がある。プラズマ源がキャビティの前に配置される場合、プラズマ源は、キャビティと類似のサイズの開口部を有することができる。
【0021】
プラズマ源の長さは、内部表面が完全に処理されるのに必要な長さであることができる。
【0022】
カソードは、好ましくは、高融点材料でできている。カソードは、以下のリストからの1種または複数の材料/元素を含み得る:ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、グラファイト。
【0023】
ターゲットは特に、中空物品の内部表面上で凝縮する蒸発材料の供給源として意図され得る。従って、ターゲットの材料は、所望のコーティングの性質に適合させることができる。材料堆積またはプラズマ処理のためにターゲットを使用する場合、ターゲットは任意選択的に、マスキングの外側に配置または延在されることができる。プラズマ形成およびターゲットからの材料蒸発は、ターゲットの表面、特にプラズマ形成領域において高温を維持することによって達成され得る。
【0024】
特定の態様では、本発明は、ターゲット自体、または本発明の装置における使用のためのターゲットに関し得る。本発明はまた、本発明の装置におけるターゲットの使用に関し得る。
【0025】
そのようなターゲットは、本発明の装置のカソードに接続されるように適合され得る。このような接続は例えば、嵌め込み式の接続(positive-locking connection)、例えばプラグ接続またはねじ接続によって達成することができる。従って、ターゲットは、カソードとの接続を確立するように適合された接続部を備えることができる。このようにして、同じ装置に様々なターゲットを装備することができる。ターゲットは、例えば、中空形状を有することができる。
【0026】
ターゲットは、以下のリストからの1種または複数の材料/元素を含むことができる:アルミニウム、ホウ素、炭素、クロム、コバルト、銅、金、ホルミウム、鉄、ランタン、リチウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ケイ素、銀、スズ、チタン、バナジウム、イッテルビウム、イットリウム、亜鉛、ジルコニウム、これらの合金。
【0027】
プラズマ形成領域は、プラズマ源のターゲット上に形成されてもよい。好ましい実施態様では、ターゲットの自由端もプラズマ形成領域を提供する。例えば、中空円筒形状を有するターゲットの場合、プラズマ形成領域は、円筒の1つの基部から形成されるリング形状部分を含むことができる。ターゲットがその全長でマスキングによって覆われていない場合、プラズマ形成領域は、ターゲットの側面の一部をさらに含むことができる。
【0028】
本発明の装置はさらに、ガス供給チャネルを備えることができる。ガス供給チャネルは特に、プラズマ源の内部および/または中央部に配置されるチャネルであってもよい。プラズマ源はさらに、ガス供給チャネルのガス出口を備えてもよい。ガス出口は特に、プラズマ形成領域内に配置することができる。
【0029】
ガス供給は、ターゲットの能動的冷却を達成するために有用であり得、これはプラズマ源の細長い幾何形状のために必要であり得る。ガス供給チャネルを介して提供されるガスは、プラズマをターゲットの自由端のみに維持するのに有益であり得る。これは、プラズマ源の自由端に上昇した圧力をもたらし得、これは当該高圧領域にプラズマ放電を優先的に集中させる。
【0030】
ガス供給チャネルはまた、コーティング組成および/またはコーティングの材料特性に影響を与えるために、反応性ガスをコーティング部位に供給するために使用されてもよい。
【0031】
本発明の装置はさらに、コーティングされる中空物品およびプラズマ源の少なくとも一部を収容するように適合されている真空チャンバーを備えることができる。
【0032】
さらに、前記装置は、中空物品の温度を制御するように適合された温度制御システムを備えてもよい。それによって、中空物品の材料を過熱することなく、または前記材料に負の影響を及ぼすことなく、最適なコーティング特性のための望ましい温度を達成することができる。
【0033】
前記装置は、全体の操作(すなわち、ローディング-処理-アンローディング)の間に中空物品を適所に保持し、好ましくは、コーティングが望まれない領域を覆うように個々のワークピースにフィットするように設計された取付具を備えることができる。
【0034】
前記装置は、プラズマ源によって放出された電子を消費できるアノードをさらに備えることができる。アノードは、装置の別個の部品、または真空チャンバーの接地壁もしくは他の構成要素であってもよい。しかしながら、中空物品自体(接地されているか、またはパルスバイアス電圧に接続されている)も、アノードとして好適であり得る。
【0035】
一実施態様において、アノードは、中空物品の内部に導入できるように設計することができる。そのような補助アノードは、以下の目的のうちの1つ以上を果たすために使用され得る:堆積プロセスを安定化すること;堆積プロセスから電子を抽出すること;プロセス中の電子のエネルギーを増加させること;非導電性材料の堆積を実現すること;堆積領域を限定および/または局限すること;中空物品の温度を管理すること;追加的なプロセスガスを導入すること。
【0036】
ガス供給チャネルを介してプラズマに供給されるプロセスガスは、以下のリストのうちの1つまたは複数から選択され得る:水素、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、ネオン、キセノン、窒素、酸素、アンモニア、メタン、エタン、エテン、アセチレン、ヘキサン、モノシラン、金属アルキル、金属アルキルアミド、金属アルコキシド、金属ジケトネート、金属カルボニル、金属シクロペンタジエニル、金属ハロゲン化物。
【0037】
アノードはまた、カソードの周りに、例えば、管状アノードとして、又はカソードに隣接して任意の他の幾何形状で配置されてもよい。
【0038】
カソードおよび/またはアノードは、冷却要素、例えば冷却チャネルとともに実現されてもよい。
【0039】
一実施態様において、前記装置は、少なくとも1つの磁場源を有するプラズマ偏向ユニットをさらに備えることができる。プラズマ偏向ユニットは、プラズマ源によって生成されるプラズマの形状および密度分布に影響を及ぼすために使用され得る。プラズマ密度の改変によって、所望の領域に向かって材料の堆積を導くために、蒸発させたターゲット原子の方向および流れに影響を及ぼすことができる。従って、磁場によって原子の飛行軌道に影響を及ぼすことができる場合には、直接的なライン・オブ・サイトは必要なくてよい。特定の実施態様において、プラズマ偏向ユニットは、中空物品を導入することができる凹部を備えていてよい。この場合、磁場源は、プラズマ源によって生成されるプラズマが、異なる側からの磁場に曝露され得るように設計することができる。
【0040】
プラズマ偏向ユニットはまた、アンダーカットキャビティ幾何形状および不規則形状キャビティにおけるコーティング厚さ分布の制御を増加させるために有用であり得る。
【0041】
プラズマ偏向ユニットの磁場源は、永久磁石または電磁コイルまたはそれらの組み合わせとして実現されてもよい。
【0042】
この任意のプラズマ偏向ユニットはまた、堆積プロセスにおいてイオン化を調整するために中空物品の周りに配置可能であってもよい。この場合、少なくとも1つのコイルまたは少なくとも1つの永久磁石を中空物品の近くに配置してもよい。
【0043】
任意選択的に、本発明の装置は、少なくとも1つの追加的な二次プラズマ源を備えてもよい。前記二次プラズマ源は、本発明の前記プラズマ源の全ての特徴を有することができる。しかしながら、二次プラズマ源は、第1のプラズマ源と同一でなくてもよい。
【0044】
二次プラズマ源は、中空物品の内部に挿入されてもよい。管状形状を有する中空物品の場合、二次プラズマ源は、前記プラズマ源とは反対側から中空物品の内部に導入されてもよい。2つ以上の二次プラズマ源が提供されてもよい。
【0045】
概して、前記装置は、中空物品の内部表面上にコーティングを形成するのに有用であるだけでなく、代替的に又は追加的に、中空物品の内部表面の特性を改質するためにも有用であり得る。従って、プラズマ源によって生成されたプラズマは、中空物品の内部表面の改質のために使用することもできる。そのような改質はエッチング(すなわち、表面からの材料除去)および/またはプラズマ窒化を含み得る。
【0046】
本発明はまた、中空物品と本発明の装置との集成装置にも関し得る。
【0047】
本発明はさらに、中空物品の内部表面上にコーティングを形成するための、および/または中空物品の内部表面の特性を改質するための方法に関する。
【0048】
前記方法において、プラズマ源、好ましくは本発明によるプラズマ源は、中空物品の内部に導入されてもよい。次いで、中空物品の内部表面が、プラズマ源によって処理され、特にコーティングされ得る。
【0049】
コーティングはプラズマ源のターゲットから蒸発した材料に、および/またはプラズマに供給され、プラズマによって分解されたガス状材料に由来し得る。
【0050】
高密度プラズマを達成するためには、熱イオン電子放出プロセスの形成が有益である。これは、高温に維持された表面から電子を放出することによって達成することができる。従って、プラズマ源のマスキングされていない部分、すなわちプラズマ形成領域は、高められた温度に維持されるべきである。
【0051】
これは、好ましくは一連のステップにおいて達成される。第1のステップにおいて、プラズマ形成領域の加熱を行うことができる。これは、カソードを通してパルス電場または非パルス電場をかけることによって達成することができる。プラズマ源の大部分がマスキングによって覆われているので、マスキングされた領域の周囲にはプラズマは生成されず、生成したプラズマはプラズマ形成領域においてのみ存在する。この技術によって、カソードの狙いを定めた加熱を達成することができる。
【0052】
適切な温度が達成されると、第2のステップにおいて、熱イオン電子を放出することができ、高密度プラズマを維持することができる。プラズマの維持は通常、プラズマの点火および/またはターゲットの加熱と比較して、より低い電圧で行われる。
【0053】
好ましい実施態様において、ガス供給チャネルにおける圧力、特にガス出口の圧力は、真空チャンバーにおける圧力よりも高い。これは、局限された形状を有するプラズマの形成を可能にする。
【0054】
中空物品の内部表面上のコーティングは、プラズマ形成領域において生じるプラズマ放電に当該内部表面を曝露することによって達成することができ、一方で、プラズマ源は、中空物品の内部にまたは中空物品のキャビティ開口部の前に配置することができる。広範な長さにわたって中空物品の内部表面を処理するためには、プラズマ源を中空物品に対して移動させてもよい。
【0055】
プラズマ放電は、プラズマ源の自由端でプラズマ形成領域において局所的に生成されてもよい。プラズマは、プラズマ源のターゲットの表面からの電子放出によって維持することができる。
【0056】
コーティングの材料はターゲットの材料に由来してもよく、当該材料はターゲット表面から蒸発され、一方で蒸気が基材表面上で凝縮する。追加的にまたは代替的に、コーティングの材料はまた、ガス供給チャネルを通してプラズマ放電に反応性ガスを加え、反応生成物および分解生成物を基材上で凝縮または部分的に凝縮させることによって、気相に由来してもよい。また、これらの2つのプロセスの組み合わせも、コーティングの形成をもたらし得る。
【0057】
コーティング厚さの分布は、プラズマプロセスへの電力入力によって、プラズマ偏向ユニットの任意の磁場によって、ならびに中空物品に対するプラズマ源の移動によって、ならびに処理中に供給されるガスの圧力によって制御することができる。
【0058】
可能なコーティング材料には、窒化物、酸化物、炭化物、ホウ化物、ケイ化物または金属化合物または元素が含まれるが、これらに限定はされない。特に興味深い例示的な材料系には以下が含まれる:金属クロム、酸化および/または腐食耐性および/または摩耗耐性金属、または合金、CrN、CrCN、AlCrN、AlCrCN、AlN、AlCN、Ti、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、TiAlCN、TiSiN、TiSiCN、Si、SiN、SiC、SiCN、SiO、AlSiO、AlO、AlCrO、AlON、AlCrON、CrO、CrON、MCrAlY、またはC系コーティング(例えばダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)、アモルファスカーボンまたはta-C)。プラズマ源のターゲットを交換するか、または任意選択的に追加的なプラズマ源を使用することによって、金属副格子の異なる化学的性質を有する層を含むコーティングを実現することができる。概して、コーティング組成は、1つまたは複数のプラズマ源、様々なターゲット材料、様々なプロセスガス、圧力、温度およびプラズマパラメーターの使用によって定めることができる。
【0059】
任意選択的に、中空物品の内部表面のプラズマ洗浄またはプラズマエッチングプロセスが、前記プラズマ源によって生成されたプラズマを使用して供されてもよい。
【0060】
任意選択的に、プラズマ窒化ステップが、窒素ガスをプラズマに導入することによって、コーティングプロセスの前またはその間に実行されてもよい。
【0061】
材料堆積中、基材は、プラズマの特性および堆積プロセス自体に応じて、浮遊電位に維持され得る。堆積されたコーティングの特性を調整するために、バイアス電圧が基材に印加されてもよく、これは成長するコーティングのイオン衝撃を増加させる。バイアス電圧は、好ましくは、RF(無線周波数)、DC(直流)、パルスDC、またはバイポーラーパルスモードで実現することができる。
【0062】
プラズマ源の操作はDC又はパルスモードで実現することができるが、好ましくは、カソード及びアノード操作が周期的に逆転されるバイポーラー操作モードで実現される。この選択肢では単一のターゲットを蒸発させることが可能であるが、任意選択的に、2種以上の異なるターゲットから材料を蒸発させることも可能であり、従って、少なくとも2種の異なるターゲットの材料の混合物を含む多成分コーティング、ならびに2種以上の材料からの多層コーティングを達成することが可能である。他の記載された操作プロセスにおけるように、任意選択的に、反応性ガスをプロセスに加えることができる。
【0063】
プラズマプロセスは、好ましくは、プラズマ形成領域の表面に関して10kW/cm未満の電力密度に調整される。低い電力密度、例えばTiに関して約20W/cmは、材料を蒸発させるのには十分でないかもしれないが、電力密度を増加させながら連続的なプラズマ放電を維持すると、ターゲット材料の蒸発速度の増加がもたらされる。
【0064】
本発明の方法は、コーティングを堆積させる前に中空物品を加熱するステップを含むことができる。これは、コーティングの材料特性を改善することができる。
【0065】
本発明の方法は、コーティングを堆積させる前に中空物品の内部表面を洗浄するステップを含むことができる。洗浄ステップは特に、ガス、例えば希ガスなどの不活性ガス、または水素などの反応性ガスが真空チャンバーに導入されるプラズマ洗浄ステップであることができる。前記ガスは、0.1~100Paの間の分圧に導入されてもよい。
【0066】
次いで、プラズマは、中空物品上で直接点火することができ、これは中空カソードとして作用する。材料除去を容易にするために、生成されたイオンを加速して衝撃種の十分な運動エネルギーを達成するために、中空物品にバイアス電圧を印加することができる。
【0067】
任意選択的に、より強力な材料除去速度が必要とされる場合には、プラズマ源自体を熱イオン電子源として加えることによって、プラズマエッチングプロセスをさらに増進することができる。
【0068】
コーティングの特性または堆積プロセス自体の特性を強化または改質するために、コーティングに追加的な元素をドープすることができる。従って、中空物品の内部表面上に配置された最終コーティングは、20重量%未満のドーピング元素を含有してもよい。
【0069】
ドーピングは、以下のうちの少なくとも1つの使用によって実現することができる:少なくとも1種のドーピング元素を含むターゲットを備えた二次プラズマ源;少なくとも1種のドーピング元素を含む補助アノード;ガス供給チャネルを通した、ガス状前駆体としての少なくとも1種のドーピング元素の添加;ターゲットをドーピング元素と選択的に合金化すること。
【0070】
ドーピング元素は、以下のリストから選択される1種または複数であり得る:ホウ素、アルミニウム、セリウム、クロム、ガリウム、インジウム、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、リチウム、ゲルマニウム、ケイ素、キセノン、モリブデン、ニオブ、窒素、酸素、炭素、金、銀、チタン、タングステン、白金、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム。
【0071】
本発明は、任意選択的に、内部表面上のコーティングが本発明によるプラズマ源によって実現される従来のPVDシステム中に導入することができるが、一方でワークピースの外側表面上のコーティングは、好ましくは、従来のPVDコーティング源によって実現される。この任意のプロセスの組み合わせは、好ましくは、単一のプロセスで実現することができるが、2つの個々のプロセスセグメントを空間的に(例えば、第2のチャンバーを設けることによって)および/または時間的に(例えば、第2のプロセスステップを設けることによって)分離する全ての組み合わせが可能である。
【0072】
本発明はまた、その内部表面上にコーティングを有する中空物品であって、前記コーティングが本発明の装置および/または方法によって形成された中空物品に関することができる。
【0073】
本発明は、任意選択的に、中空物品の内部表面上にコーティングを形成し、かつ/または当該内部表面の特性を改質するための装置に関し、当該装置はプラズマ源を備え、当該プラズマ源は、細長い形状を有し、およびカソードとターゲットとを含み、当該ターゲットは熱イオン電子放出源であり、前記ターゲットは前記カソードに電気的に導通して接続されている。
【0074】
前記プラズマ源は、カソードとターゲットの外側表面を部分的に覆うマスキングをさらに備えていてよく、当該マスキングが、装置の操作中にマスキングによって覆われる領域上でのプラズマの形成を防止するように適合され、プラズマ形成領域は前記ターゲットに提供され、当該プラズマ形成領域はマスキングによって覆われていないことができる。
【0075】
前記ターゲットは中空であってもよい。
【0076】
前記ターゲットは、本質的に管状の形状を有していてもよく、プラズマ形成領域は、好ましくはプラズマ源の自由端に配置される、リング形状部分を含むことができる。
【0077】
マスキングは、マスキングによって覆われていないプラズマ形成領域を除き、カソードおよびターゲットの外側表面を完全に覆ってもよい。
【0078】
プラズマ源は、プラズマ形成領域に配置されたガス出口を有するガス供給チャネルを備えていてもよい。
【0079】
ガス出口は、プラズマ形成領域内に配置されてもよい。
【0080】
ガス出口におけるガス供給チャンネルは、7mm以下の断面積を有していてもよい。
【0081】
マスキングは、電気絶縁材料でできていてもよい。
【0082】
マスキングは導電性材料でできていてよく、当該マスキングはカソードおよびターゲットに電気的に導通して接続されなくてもよい。
【0083】
プラズマ源は0.1mm~150mmの直径を有することができ、および/またはプラズマ源は、80mm~5000mmの長さを有することができる。
【0084】
ターゲットは、以下の群のうちの1種または複数から選択される材料からなるかまたは当該材料を含むことができる:金属、例えば金属クロム、または別の耐酸化性および/または耐腐食性金属;少なくとも2種の異なる金属からなる合金;金属化合物、例えば金属窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物;炭素系化合物、例えばグラファイト。
【0085】
プラズマ源は真空チャンバー中に配置されることができ、当該真空チャンバーは中空物品を収容するように適合されていてよい。
【0086】
前記装置はさらに、プラズマ源によって放出された電子を消費するように適合されたアノードを備えていてもよい。
【0087】
前記装置はさらに、プラズマ源によって生成されるプラズマの形状に影響を及ぼすために、少なくとも1つの磁場源を有するプラズマ偏向ユニットを備えることができ、当該プラズマ偏向ユニットは、中空物品に近接して配置することができる。
【0088】
プラズマ偏向ユニットは、中空物品を導入することができる凹部を備えていてよい。
【0089】
カソードはターゲットと一体的に形成されてもよく、ここでカソードとターゲットは同一の材料からできていてもよい。
【0090】
カソードとターゲットは、互いに接続された別個の部品であってもよく、ここでカソードとターゲットは同一の材料からまたは異なる材料からできていてよい。
【0091】
本発明はまた、本発明による装置における使用のためのターゲット、および/または本発明による装置における使用のために適合されたターゲットにも関し得る。
【0092】
ターゲットは、カソードに電気的に導通して接続されてもよい。
【0093】
本発明はまた、本発明に従う装置と中空物品との集成装置であって、プラズマ源が前記中空物品の内部に挿入される集成装置にも関し得る。
【0094】
中空物品は、固定具によって保持されてもよい。
【0095】
本発明はまた、中空物品の内部表面上にコーティングを形成するための、および/または中空物品の内部表面の特性を改質するための方法に関する。
【0096】
前記方法は、本発明による装置のプラズマ源を中空物品の内部に挿入するステップを含み得る。
【0097】
前記方法は、プラズマ源のカソードから熱イオン電子放出を生じさせることにより、プラズマを生成するステップを含むことができる。
【0098】
前記方法は、プラズマ源のターゲットから材料を蒸発させ、および/または生成したプラズマよってガス状前駆体を分解するステップを含むことができる。
【0099】
前記方法は、コーティングを形成するために、中空物品の内部表面上に、蒸発および/または分解された材料を堆積させるステップを含むことができる。
【0100】
プラズマの生成は、以下のステップ:
(i)カソードに100V~1000Vの間の電圧を印加することによってプラズマを点火するステップ、(ii)10V~500Vの間の放電電圧を印加することによってプラズマを維持するステップ
を含むことができ、ターゲット(4)の表面がプラズマによって加熱されてよく、および、プラズマを点火するステップにおける電圧が、プラズマを維持するステップにおける電圧よりも高くてよい。
【0101】
プラズマを点火するステップは、以下を含むことができる:(ia)パルス高電圧がカソードに印加される第1の点火相、および(ib)直流がカソードに印加される第2の点火相。
【0102】
中空物品は、前記装置の真空チャンバー内に配置されてもよく、ここで真空チャンバー内の圧力は500Pa未満であることができる。
【0103】
プラズマ源のガス供給チャネル内の圧力は、真空チャンバーにおける圧力よりも高くてもよい。
【0104】
カソードに加えられる電力密度は、プラズマ形成領域のサイズに対して10kW/cm未満であってもよい。
【0105】
ガスのストリームがプラズマ形成領域に供給されてもよく、前記ガスは、以下のうちの1つまたは複数から選択されてもよい:水素;希ガス;窒素;酸素;アンモニア;アルカン、例えばメタン;アルケン、例えばエタン;アルキン、例えばアセチレン;シラン類、例えばモノシラン;金属化合物、例えば有機金属化合物または金属ハロゲン化物。
【0106】
本発明はまた、その内部表面上にコーティングを有する中空物品であって、前記コーティングが本発明の装置および/または本発明の方法によって形成された中空物品に関することができる。
【0107】
本発明のさらなる特徴は、特許請求の範囲、図面、および本発明に従う例示的な実施態様に関する以下の詳細な説明から導き出すことができる。
【0108】
以下、本発明の態様の例示的な実施態様を参照して、本発明を詳細に説明する。例示的な実施態様は、独立請求項の特徴によってのみ定義される保護範囲を限定することを意図するものではない。
【0109】
【図面の簡単な説明】
【0110】
図面において:
図1は、第1の例示的な実施態様による装置のプラズマ源の概略断面図を示し、プラズマ源は、中空物品内に配置されている;
図2は、図1の面A-Aを横切る概略断面図を示す;
図3は、第1の例示的な実施態様による装置の概略図を示す;
図4は、第2の例示的な実施態様による装置のプラズマ源の概略断面図を示し、プラズマ源は、中空物品内に配置されている。
【0111】
別段の断りがない限り、図面は一般に以下の特徴を示す:中空物品1、プラズマ源2、カソード3、ターゲット4、マスキング5、プラズマ形成領域6、ガス供給チャネル7、ガス出口8、真空チャンバー9、アノード10、プラズマ偏向ユニット11、凹部12、内部13、接続手段14。
【0112】
図1は、本発明の第1の例示的な実施態様による装置のプラズマ源2の概略断面図を示し、プラズマ源2は、中空物品1内に配置されている。
【0113】
プラズマ源2は、本質的に管状の細長い形状を有し、カソード3と、カソード3に電気的に導通して接続されたターゲット4とを備える。カソード3とターゲット4との間の接続は、これら2つの部品の間の嵌め込み式の接続を得るために、ピンとして設計された接続手段14によって達成される。
【0114】
カソード3およびターゲット4は、マスキング5によって覆われており、この実施態様において、マスキング5は非導電性材料でできている。プラズマ源2の自由端、特にプラズマ源2の自由端におけるターゲット4の一部は、マスキング5によって覆われていない。
【0115】
マスキング5は前記マスキング5によって覆われている領域においてプラズマを防ぐ目的を果たすが、プラズマはマスキング5によって覆われていない領域において形成することができる。従って、後者の領域を、プラズマ形成領域6と呼ぶ。
【0116】
本実施態様では、ターゲット4は管状形状であり、マスキング5はターゲット4の円周外側表面を完全に覆っている。従って、プラズマ形成領域6は、リング形状を有する。
【0117】
第1の実施態様のプラズマ源2は、カソード3およびターゲット4の中央部に配置されたガス供給チャネル7を有し、ガス出口8がプラズマ源2の自由端に配置されている。
【0118】
図1では、プラズマ源2が中空物品1(この例では管である)の内部13に配置される。
【0119】
図2は、図1の面A-Aを横切る概略断面図を示し、中空物品1、ターゲット4、マスキング5、並びに中空物品1の内部13及びガス供給チャネル7の断面が示されている。
【0120】
第1の例示的な実施態様に従う装置の機能を、当該装置の概略図を示す図3に関してさらに説明する。図1および図2に関連して説明した特徴とは別に、前記装置は、真空チャンバー9、アノード10および取付具14をさらに備える。
【0121】
真空チャンバー9は、堆積プロセス中に制御された圧力管理状況が存在することを可能にするように、中空物品1ならびにプラズマ源2を収容する。固定具14は、中空物品1を適所に保持する。アノード10は、プラズマ源2によって生成された電子を取り込むために使用される。この実施態様において、アノード10は接地されている。
【0122】
前記装置のガス供給チャネル7は、所望のガスを供給するように適合されたガス供給源(図示せず)に接続される。ガス供給と共に電源(図示せず)が供され、これは電源ユニット(図示せず)に接続される。電源ユニットは、プラズマ源に電力を供給するように適合される。
【0123】
この例示的な実施態様では、ターゲット4は、約99.95%の純度を有する元素銅でできている。ターゲットは、約6mmの外径を有する。
【0124】
第1の実施態様の装置は、中空物品1の内部表面をコーティングするための方法に使用することができる。この例では、中空物品1は、約1cmの内径を有する長さ約1mのパイプである。
【0125】
前記方法の例示的な実施態様において、中空物品1は、真空チャンバー9内側の固定具14上に配置される。
【0126】
そして、真空チャンバー9内側のガス圧は、500Pa未満に制御される。
【0127】
プラズマ源2を使用する中空物品1の内部表面の処理のためのプラズマプロセスが、ターゲット4からの熱イオン電子アーク放出によって達成され、一方で、コーティング堆積が、放出された電子とプロセスガスとの相互作用によって、およびターゲット材料の熱イオン電子蒸発によって促進される。
【0128】
プラズマを点火する際、アルゴンガスが、8Paの分圧で真空チャンバー9に導入される。プラズマは、パルス電圧で約450Vの電圧を、第1点火相でカソード3に加えることによって点火される。パルス電圧の使用周波数は、50%交番で約100kHzである。第2の点火相において、電源は直流電源に切り替えられ、約0.44Aの放電電流を達成するために、電圧は約200Vに下げられる。操作に関して、約120Vの放電電圧と約0.6Aの放電電流を使用することでプラズマが維持される。操作中にターゲットから放出される電子は二重の役割を果たす:第1に、前記電子は、中空物品1の内部13におけるガスまたは蒸気をイオン化する。第2に、前記電子は、ターゲット4を加熱する。従って、加熱されたターゲット4の表面から材料が蒸発され、それによって、当該材料を基材内部表面上に堆積させることができる。
【0129】
次いで、約9mmの外径を有するプラズマ源2を、中空物品1の内部13を通して移動させる。
【0130】
ターゲット4の材料は、プラズマによって蒸発され、中空物品1の内部表面上に堆積され、従って、中空物品1の内部表面上に金属銅のコーティングが得られる。内部13全体にわたるプラズマ源2の移動速度を制御することによって、所望のコーティング厚さおよび厚さ分布を制御することができる。
【0131】
代替的な例において、窒素がガス供給チャネル7を介して導入される場合、前記方法は、窒化物コーティングプロセスとして実施することができる。この例では、上記例のターゲット4が、元素チタンでできた別のターゲットによって交換される。ガス状窒素が堆積プロセスにおいてチタンと反応し、TiNを形成する。
【0132】
プラズマを点火し維持するための条件は、特にターゲット4の材料に依存する。条件の適切な選択は、完全に当業者の技術常識内にある。
【0133】
前記方法によって製造されるコーティングは、少なくとも1つの層を含むことができ、第1の層が、中空物品1の内部表面に直接接着する。プラズマ源2を内部表面に沿って追加的な回数移動させることによって、2つまたはそれを超える層を有する多層コーティングを作製することができる。各々個々の相の堆積の間に、ターゲット4自体、プラズマ源2、プロセスガス組成物またはこれらの組み合わせを任意選択的に交換して、様々な組成を含むコーティングを有する多層コーティングを堆積させることができる。
【0134】
プラズマ源2の操作中、接地されたアノード10は、プラズマによって生成された電子を消費するために使用される。アノード10の使用は、酸化物のような高い電気抵抗率を有するコーティングに特に有用であり、なぜならこれは高いエネルギー消費、プロセスの不安定性、またはコーティングの質の低下をもたらし得るためである。
【0135】
アノード10は、プラズマ放電中にターゲット4で放出される電子を少なくとも部分的に消費する。アノード10を使用すると、中空物品1の内部表面上の電子衝撃を低減することによって、中空物品1のための追加的な熱管理をもたらすことが可能である。さらに、アノード10の使用は、中空物品1の内部表面上に非導電性コーティングを堆積させることを可能にする。アノード10は、それがプラズマ源2とは反対側の開口部から中空物品1の内部13に入る設計で実現することができる。
【0136】
アノード10に関しては他の配置および/または設計もまた可能である。例えば、キャビティ直径が許容する場合、アノード10はプラズマ源2と同じ開口部を通って入ることができ、あるいは、プラズマ源2の周りの円筒管として実現されてもよい。
【0137】
図4は、第2の例示的な実施態様による装置のプラズマ源2の概略断面図を示し、プラズマ源2は、中空物品1内に配置されている。
【0138】
図4に示す装置のプラズマ源2は、第1の実施態様のものと類似しているが、マスキング5がターゲット4の完全な円周表面を完全には覆わず、その結果、プラズマ形成領域6は、第1の実施態様におけるようにリング形状部分を含むが、追加的に、マスキング5によって覆われないターゲット4の外側表面を含む点で異なっている。
【0139】
第1の実施態様とはさらに対照的に、カソード3とターゲット4が互いに溶接されている。
【0140】
さらに、第2の実施態様に従う装置は、磁場源を備えるプラズマ偏向ユニット11を備える。プラズマ偏向ユニット11は、そこに中空物品1を導くことができる凹部12を備える。
【0141】
この追加的な磁場は、プラズマ源2によって生成されるプラズマの形状に影響を及ぼすために使用され得る。この実施態様では、磁場源は電磁コイルである。磁場の方向はプラズマの偏向の方向を制御し、一方、前記場の磁界強度は、偏向された電子および後続のイオンの軌道の曲率を制御する。磁場はさらに、成長するコーティング膜の特性および厚さ分布を微調整するために使用することができる。従って、外部磁場をかけることは、不規則な幾何形状を有する基材の内部表面上のコーティング被覆を制御することを可能にする。
【0142】
多くの用途は、多成分複合コーティングを必要とする。一部の用途では、所望の各金属成分およびそれらの異なる相はあまりにも似ておらず、単一の合金でできたターゲット4からの蒸発を達成することはできない。対応の図面で示されていない第3の例示的な実施態様では、本発明に従う少なくとも2つのプラズマ源2の組み合わせが使用される。
【0143】
プラズマ源2は、異なる材料の各ターゲット4を備えており、それらは、中空物品1の内部13に反対側または同じキャビティ開口部で入る。各々の追加的プラズマ源2は、任意選択的に、アノードまたはカソードとして機能することができる。例えば、プラズマ源2は、バイポーラーパルスモードで使用することができる。このモードでは、電圧パルスの間、負の電圧がプラズマ源の一方に印加され、正の電圧が他方のプラズマ源に印加される。これは、正の電圧が印加されるプラズマ源2が実際にはアノード10として作用し、一方、負の電圧が印加されるプラズマ源2がカソード3として作用し、ターゲット4の材料の蒸発が起こることを意味する。
【0144】
電圧パルスが終了した後、印加電圧を逆にすることができ、他のプラズマ源2からの蒸発が生じる。長いパルス持続時間では、多層タイプを作製することができ、一方、短いパルス持続時間では、両方のプラズマ源2からの蒸発が、材料の混合およびその後の多成分複合コーティングの堆積を可能にするのに十分に近い時間的関係で起こる。この任意の設定は、アノード10がプラズマ放電の内部に常に存在することを保証し、従って、放出された電子をプラズマ放電から容易に抽出することができる。これは、多成分複合コーティングの堆積のための安定なプラズマ条件を保証するものである。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】