(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】マイクロバイオームの健康を促進するためのイベザポルスタットの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20240614BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240614BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61P1/04
A61P31/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578088
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 US2022033786
(87)【国際公開番号】W WO2022266318
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523474416
【氏名又は名称】アクルクス ファーマシューティカルズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギャレイ、ケビン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086CB07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、腸内マイクロバイオームの健康を増大させるためにイベザポルスタットを使用する方法に関する。本発明は、C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療すると同時に、C.ディフィシル(C.difficile)感染の再発の可能性を低減するか、またはC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する方法を提供する。本発明はまた、腸内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)および/またはファーミキューテス(Firmicutes)の数を増加させることによって腸内マイクロバイオームの健康を増大させる方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療すると同時に、対象のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発の可能性を低減するか、または対象のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する方法であって、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、前記有効量のイベザポルスタットの投与が、前記C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療すると同時に、90日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の可能性を低減するか、または90日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する方法。
【請求項2】
イベザポルスタットの投与が、前記C.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成されるまで継続される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イベザポルスタットの投与が、前記C.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成された際に終了される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記有効量のイベザポルスタットの投与が、30日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の可能性を低減するか、または30日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象においてアクチノバクテリア(Actinobacteria)の増殖を促進する方法であって、
前記C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療または予防するために有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、
前記対象の腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量が増加するか、またはプロテオバクテリア(Proteobacteria)と比較してアクチノバクテリア(Actinobacteria)の割合が増加する方法。
【請求項6】
イベザポルスタットの投与が、前記C.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成されるまで継続される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
イベザポルスタットの投与が、前記C.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成された際に終了される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
腸内マイクロバイオームの健康を改善する方法であって、
C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、
前記対象の腸内マイクロバイオーム内の細菌の門の割合が、前記イベザポルスタットの投与前の前記対象の腸内マイクロバイオームよりも健康なバランスに調整される方法。
【請求項9】
腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量を増加させる方法であって、
それを必要とする対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、
アクチノバクテリア(Actinobacteria)の量が、前記イベザポルスタットの投与前の前記腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量よりも、前記腸内マイクロバイオーム内で多い方法。
【請求項10】
腸内マイクロバイオームの健康を改善する方法であって、
それを必要とする対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、
前記対象の腸内マイクロバイオーム内の細菌の門の割合が、前記イベザポルスタットの投与前の前記対象の腸内マイクロバイオームよりも健康なバランスに調整される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願が、参照によりその全体が組み込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、腸内マイクロバイオームの健康を増大させるためにイベザポルスタットを使用する方法に関する。本発明は、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)(C.ディフィシル(C.difficile);以前はクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)として知られていた)感染(CDI)を治療すると同時に、C.ディフィシル(C.difficile)感染の再発の可能性を低減するか、またはC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する方法を提供する。本発明はまた、腸内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)および/またはファーミキューテス(Firmicutes)の数を増加させることによって腸内マイクロバイオームの健康を増大させる方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
身体の粘膜表面は、多くの場合マイクロバイオームまたは微生物叢と呼ばれる複雑で特殊化した微生物群を含有する。(Mullish BH,et al.Frontline Gastroenterology 2021;12:118-127)。ヒトの消化管の微生物叢またはマイクロバイオームは、最大100兆個の微生物からなると推定され、それらのほとんどは大腸に見出される。(Kachrimanidou,Microorganisms 2020,8,200)。消化管マイクロバイオームは多様であるが、健康な成人では、ファーミキューテス(Firmicutes)(グラム陽性胞子形成生物)およびバクテロイデテス(Bacteroidetes)(グラム陰性非胞子形成生物)の2つの主要な門に由来する細菌から主に構成される。これらの2つの門は、マイクロバイオームの約90%を典型的に構成する。(Mullish BH,et al.Frontline Gastroenterology 2021;12:118-127)。
【0004】
ファーミキューテス(Firmicutes)およびバクテロイデテス(Bacteroidetes)に加えて、腸内マイクロバイオームは、アクチノバクテリア(Actinobacteria)、フソバクテリア(Fusobacteria)、ベルコミクロビア(Verrucomicrobia)およびプロテオバクテリア(Proteobacteria)からも構成される。(Mullish)。プロテオバクテリア(Proteobacteria)門は、グラム陰性通性嫌気性菌から構成され、プロテオバクテリア(Proteobacteria)門の一部のメンバーは健康な腸の一部であるが、この門はまた、サルモネラ(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)および大腸菌(Escherichia coli)などの一般的なグラム陰性病原性共生生物を含む。(Mullish)。さらに、データ量の増加により、疾患の可能性のある微生物シグネチャーとしてプロテオバクテリア(Proteobacteria)が示されている。(Rizzatti,L.R.et al.,”Proteobacteria:A Common Factor in Human Diseases”,BioMed Research International,vol.2017,Article ID 9351507,7 pages,2017.https://doi.org/10.1155/2017/9351507)。アクチノバクテリア(Actinobacteria)は、小児では大きな割合で存在し、年齢とともに全体的な割合が一般に低下する(ファーミキューテス(Firmicutes)およびアクチノバクテリア(Actinobacteria)に置き換えられる)。出生時に、大腸菌(E.coli)、ブドウ球菌(Staphylococcus)および連鎖球菌(Streptococcus)などの通性嫌気性種は、乳児の腸に定着し、生後数日以内に嫌気性環境をもたらし、バクテロイデス(Bacteroides)(バクテロイデテス(Bacteroidetes)門)およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)(アクチノバクテリア(Actinobacteria)門)などの厳密な嫌気性菌が増殖することを可能にする。(Mueller,et al.,Trends in Molecular Medicine,February 2015,Vol.21,No.2)。生後1年にわたって、環境および母乳または人工乳に乳児を曝露することによって、腸内マイクロバイオームは、成人の腸内マイクロバイオームに近似する成熟したバイオームに進化する。(Jangi and Lamont,JPGN,Vol.51,No.1,July 2010)。
【0005】
腸内マイクロバイオームは複雑であり、宿主と相互に有益な関係を有する。この関係を通じて、マイクロバイオームは、腸および全身の免疫系を形成すること、健康な腸上皮を維持すること、食物からエネルギーを採取すること、ならびに病原体からの保護を含む多くの利益を宿主に提供する。(Mullish)。マイクロバイオームの組成がその正常な多様性から変化すると、これらの有益な生理学的機能が破壊される。これは、ディスバイオシスと呼ばれる。(Mullish)。腸内マイクロバイオームがディスバイオシスの状態にあると、マイクロバイオームには、有益な微生物(共生生物)が少なくなり、潜在的に有害な微生物(病原性共生生物)が多くなる。(Mullish)。
【0006】
先の段落に記載される利点に加えて、腸内細菌は、2組の酵素の活性を介して抱合胆汁酸を代謝する。
【0007】
第1の組、胆汁塩加水分解酵素(BSH)は、抱合タウリンまたは抱合グリシンを除去して、非抱合胆汁酸を生成する。非抱合後、一次胆汁酸は、7α-脱ヒドロキシル経路によってさらに代謝されて、二次胆汁酸を生成することができる。抱合および非抱合一次胆汁酸タウロコラート(TCA)およびコラート(CA)はそれぞれC.ディフィシル(C.difficile)胞子の発芽を促進するが、二次胆汁酸、例えば、リトコラート(LCA)およびデオキシコラート(DCA)は、C.ディフィシル(C.difficile)の栄養生長を一般に阻害することが報告されている。(Qian et al.,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol319:G227-G237,2020)。
【0008】
クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)感染(CDI)は、米国では、医療関連感染症の最も一般的な原因である。(Magill SS,et al.Changes in prevalence of health care-associated infections in U.S.hospitals.N Engl J Med 2018;379:1732-44)。C.ディフィシル(C.difficile)は、時として健康な腸内マイクロバイオームの正常な成分であるが、マイクロバイオームがバランスを崩すと、C.ディフィシル(C.difficile)が増殖し、疾患(CDIとして知られている)を引き起こす可能性がある。C.ディフィシル(C.difficile)の定着後、この生物は、2つの重要なクロストリジウム毒素A(TcdA)およびB(TcdB)という主な病原性因子を産生および放出する。(Kachrimanidou,Microorganisms 2020,8,200;doi:10.3390/microorganisms8020200)。TcdAおよびTcdBは、ヒト腸上皮細胞に結合し、炎症、体液および粘膜分泌、ならびに腸粘膜への損傷の原因となる外毒素である。C.ディフィシル(C.difficile)は、軽度の下痢から、生命を脅かす重度の結腸穿孔および中毒性巨大結腸症に及ぶ広範囲の臨床症状を引き起こす。CDIでは、宿主マイクロバイオームが破壊されやすく、これは高リスク抗生物質の以前の使用によって通常引き起こされる。(Davis ML,et al.Multicentre derivation and validation of a simple predictive index for healthcare-associated C.difficile infection.(Clin Microbiol Infect 2018;24:1190-4)。例えば、広域抗生物質による治療により、バクテロイデテス(Bacteroidetes)のほぼ完全な喪失、ファーミキューテス(Firmicutes)の減少、およびプロテオバクテリア(Proteobacteria)の過剰増殖が起こり得る。これらの変化により、C.ディフィシル(C.difficile)胞子が発芽し、コロニーが増殖し、病原性になる可能性がある。(Mullish)。C.ディフィシル(C.difficile)が活性化されると、疾患を引き起こす2つの毒素が結腸内で産生される。(Britton RA,et al.Role of the intestinal microbiota in resistance to colonization by C.difficile.Gastroenterology 2014;146:1547-53)。
【0009】
C.ディフィシル(C.difficile)は、健康な新生児および乳児の約60%~70%に定着する。(Jangi 2010)。しかし、未だ完全には理解されていない理由から、これらの定着された乳児では、重度の下痢および大腸炎を起こしやすい年長児および成人とは対照的に、この嫌気性菌によって放出される強力な外毒素に由来する悪影響が示されない。この生物は、乳児期に、成人の場合と同様に、育児室または家庭環境内の環境汚染から獲得される。C.ディフィシル(C.difficile)の毒素産生性株は乳児の腸に定着することが多く、コロニー数は偽膜性大腸炎(CDIの重度の症状である)を有する成人に見られるものと同じくらい高い。(Jangi 2010)。乳児における無症候性の定着の1つの可能性のある理由が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)(アクチノバクテリア(Actinobacteria)門)およびラクトバチルス(Lactobacillus)(ファーミキューテス(Firmicutes)門)などの他の共生細菌叢の存在および競合であり得る。(Jangi 2010)。実際、Jangiで報告されているように、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)およびラクトバチルス(Lactobacillus)はいずれも、特定のC.ディフィシル(C.difficile)株の増殖を阻害することができた。
【0010】
抗菌療法はCDI治療の顕著な特徴であるが、治療選択肢は限られている。従来から、メトロニダゾールはCDIの治療に広く使用されてきたが、バンコマイシンと比較して許容できないほど高い失敗率、高い死亡率および累積毒性のために、もはや推奨されていない。(McDonald LC,et al.Clinical practice guidelines for C.difficile infection in adults and children:2017 update by the Infectious Diseases Society of America(IDSA)and Society for Healthcare Epidemiology of America(SHEA).Clin Infect Dis 2018;66:987-94;およびStevens VW,et al.Comparative effectiveness of vancomycin and metronidazole for the prevention of recurrence and death in patients with C.difficile infection.JAMA Intern Med 2017;177:546-53)。
【0011】
現在、バンコマイシンまたはフィダキソマイシンのいずれかが、C.ディフィシル(C.difficile)を死滅させる能力のため、および臨床症状を解消するためにCDIに推奨される抗生物質である。(Gonzales-Luna AJ,et al.,Systems biology evaluation of refractory Clostridioides difficile infection including multiple failures of fecal microbiota transplantation,Anaerobe,https://doi.org/10.1016/j.anaerobe.2021.102387)。バンコマイシンは、IDSA治療ガイドラインによって推奨されているが、高いCDI再発率に関連しており、近年、宿主微生物叢の深刻な破壊のために耐性が増加することが示されている。(Isaac S,et al.,Short-and long-term effects of oral vancomycin on the human intestinal microbiota.J Antimicrob Chemother 2017;72:128-36;およびPeng Z,et al.,Update on antimicrobial resistance in C.difficile:resistance mechanisms and antimicrobial susceptibility testing.(J Clin Microbiol 2017;55:1998-2008)。バンコマイシンによる治療は、特徴的なプロテオバクテリア(Proteobacteria)過剰増殖とともに、ファーミキューテス(Firmicutes)、アクチノバクテリア(Actinobacteria)およびバクテロイデテス(Bacteroidetes)のマイクロバイオーム多様性を低下させる。(Garey 2020)。プロテオバクテリア(Proteobacteria)過剰増殖は、多剤耐性(MDR)グラム陰性生物による全身感染のリスクの顕著な増加に関連する。バンコマイシンは、高率のCDI再発に関連しており、患者の約20~25%に治療中止後に再発性感染が生じている。(Gonzales-Luna)。
【0012】
フィダキソマイシンは、バンコマイシンよりも狭い活性スペクトルを有し、治療過程にわたってディスバイオシスをあまり引き起こさない。バンコマイシンとは異なり、フィダキソマイシンはC.ディフィシル(C.difficile)胞子に結合し、栄養細胞の増殖を予防し、それにより、再発率は他の治療よりも約50%低くなる。(Gonzales-Luna)。フィダキソマイシンでは再発率は低いが、rpoB遺伝子の変異を介して耐性が現れたという報告がある。(Garey 2020)。選択された治療法にかかわらず、CDI再発率はCDIのその後の各エピソードとともに増加し、多くの場合、疾患を制御するために長期間の抗生物質が必要とされる。
【0013】
さらに、広域抗生物質治療は、二次胆汁酸の喪失をもたらすことが報告されている。(Qian)。加えて、C.ディフィシル(C.difficile)再発性感染に罹患している患者では一次胆汁酸が増大するが、健常対象では二次胆汁酸が増大することが報告されている。(Qian)。これらの結果は、二次胆汁酸を増加させる治療が再発性CDIの予防に有効であり得ることを示唆している。
【0014】
したがって、C.ディフィシル(C.difficile)に対する異なる作用機序を有する新たな治療法が緊急に必要とされている。実際、CDCは、新たなクラスの抗生物質が必要とされる優先病原体の「緊急」カテゴリーにC.ディフィシル(C.difficile)を列挙している。特に、さらなる治療を必要とせずにマイクロバイオームが再発に抵抗するための環境も提供するCDI治療が必要とされている。マイクロバイオームの健康を促進するCDI治療も必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療すると同時に、対象のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発の可能性を低減するか、または対象のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する方法であって、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、有効量のイベザポルスタットの投与が、C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療すると同時に、90日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の可能性を低減するか、または90日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する方法を提供する。イベザポルスタットの投与は、C.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成されるまで継続され得るか、またはC.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成された際に終了され得る。有効量のイベザポルスタットの投与は、30日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の可能性を低減し得るか、または30日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する。
【0016】
本発明はまた、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象においてアクチノバクテリア(Actinobacteria)の増殖を促進する方法であって、上記C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療または予防するために有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、対象の腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量が増加するか、またはプロテオバクテリア(Proteobacteria)と比較してアクチノバクテリア(Actinobacteria)の割合が増加する方法を提供する。イベザポルスタットの投与は、C.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成されるまで継続され得るか、またはC.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成された際に終了され得る。
【0017】
本発明は、腸内マイクロバイオームの健康を改善する方法であって、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、対象の腸内マイクロバイオーム内の細菌の門の割合が、イベザポルスタットの投与前の対象の腸内マイクロバイオームよりも健康なバランスに調整される方法をさらに提供する。
【0018】
本発明は、腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量を増加させる方法であって、それを必要とする対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、アクチノバクテリア(Actinobacteria)の量が、イベザポルスタットの投与前の腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量よりも、腸内マイクロバイオーム内で多い方法をさらに提供する。
【0019】
本発明は、腸内マイクロバイオームの健康を改善する方法であって、それを必要とする対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、対象の腸内マイクロバイオーム内の細菌の門の割合が、イベザポルスタットの投与前の対象の腸内マイクロバイオームよりも健康なバランスに調整される方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】Shannon’s indexを使用して決定した場合に、マイクロバイオーム内の種のアルファ多様性が、イベザポルスタット(ACX362E)の投与時に顕著に低下しなかったことを示す。対照的に、細菌種の多様性は、125mgのバンコマイシンの投与時に低下した。プラセボと標識された対象は、イベザポルスタットまたはバンコマイシンが投与されなかった健康な腸を有する対象である。各ボックスは、10日間にわたる試験薬、または13日間の試験期間でプラセボを投与された患者1例を表す。
【
図2】300mgおよび450mgのイベザポルスタットの投与ならびに125mgのバンコマイシンから生じる、マイクロバイオームプロファイルに対する効果を示す。PCoA Bray Curtis Plotを介してデータを提供する。図に見られるように、バンコマイシンと比較して異なるイベザポルスタットマイクロバイオームプロファイルが10日間の投与後に同定された。
【
図3】125mgのバンコマイシン、300mgのイベザポルスタットおよび450mgのイベザポルスタットの投与時の細菌門ごとのマイクロバイオームの組成を示す。プラセボと標識された対象は、イベザポルスタットまたはバンコマイシンが投与されなかった健康な腸を有する対象である。各ボックスは、10日間にわたる試験薬、または13日間の試験期間でプラセボを投与された患者1例を表す
【
図4A】イベザポルスタットおよびバンコマイシンが投与された対象における10日目と対比した0日目からのマイクロバイオーム変化の線形効果サイズアルゴリズム(LEfSe)要約を示す。陰影は、ベースラインと比較して10日目の細菌存在量の増加または減少を表す。
【
図4B】イベザポルスタットおよびバンコマイシンが投与された対象における10日目と対比した0日目からのマイクロバイオーム変化の線形効果サイズアルゴリズム(LEfSe)要約を示す。陰影は、ベースラインと比較して10日目の細菌存在量の増加または減少を表す。
【
図5A】イベザポルスタットおよびバンコマイシンの投与に関連する一次胆汁酸および二次胆汁酸の変化を示し、
図5Bは、一次胆汁酸対二次胆汁酸の比の形態のデータを示す。
【
図5B】イベザポルスタットおよびバンコマイシンの投与に関連する一次胆汁酸および二次胆汁酸の変化を示し、
図5Bは、一次胆汁酸対二次胆汁酸の比の形態のデータを示す。
【
図6】Shannon’s Entropy(6A)またはSimpson’s Index(6B)によって測定した治療群ごとの経時的なアルファ多様性、およびベースライン(6C)で、または少なくとも5日間の治療(6D)後に測定したベータ多様性の要約的推定値を示す。
【
図7】一次胆汁酸(7A)および二次胆汁酸(7B)ならびに一次胆汁酸:二次胆汁酸(7C)の比の経時的な要約的変化を示す。値は、平均±標準誤差を表す。
【
図8】ベースライン、治療の中間点、および治療終了時のIBZ治療対象およびVAN治療対象から得られた胆汁酸濃度を示す。
【
図9】イベザポルスタットの投与後の臨床的治癒および持続的臨床的治癒を示すイベザポルスタット試験結果を示す。
【
図10】GI感染に対するイベザポルスタットPK特性を示す。図に示すように、イベザポルスタットは、GI感染に対して理想的なPK特性を有する。
【
図11】CCFAプレート上にプレーティングする前にタウロコラートによる48時間の富化工程を受けたイベザポルスタットによって処理した試料を示す。
【
図12A】Shannon Diversity Indexによって測定したイベザポルスタットの投与後の経時的なアルファ多様性の要約的推定値を示す。図に示すように、イベザポルスタットではアルファ多様性が改善された。
【
図12B】Inverse Simpson Indexによって測定した、イベザポルスタットの投与後の経時的なアルファ多様性の要約的推定値を示す。図に示すように、イベザポルスタットではアルファ多様性が改善された。
【
図13A】平均比例門存在量対抗生物質治療の日数を比較するチャートを示す。図に示すように、イベザポルスタット療法ではファーミキューテス(Firmicutes)の割合の増加が観察され、ファーミキューテス(Firmicutes)の最も一般的な増加した分類群はクロストリジアーレス(Clostridiales)である。
【
図13B】平均比例綱存在量対抗生物質治療の日数を比較するチャートを示す。図に示すように、イベザポルスタット療法ではファーミキューテス(Firmicutes)の割合の増加が観察され、ファーミキューテス(Firmicutes)の最も一般的な増加した分類群はクロストリジアーレス(Clostridiales)である。
【
図13C】平均比例目存在量対抗生物質治療の日数を比較するチャートを示す。図に示すように、イベザポルスタット療法ではファーミキューテス(Firmicutes)の割合の増加が観察され、ファーミキューテス(Firmicutes)の最も一般的な増加した分類群はクロストリジアーレス(Clostridiales)である。
【
図13D】平均比例科存在量対抗生物質治療の日数を比較するチャートを示す。図に示すように、イベザポルスタット療法ではファーミキューテス(Firmicutes)の割合の増加が観察され、ファーミキューテス(Firmicutes)の最も一般的な増加した分類群はクロストリジアーレス(Clostridiales)である。
【
図14A】一次胆汁酸に対するイベザポルスタットの効果による経時的な変化の要約を示す。
【
図14B】二次胆汁酸に対するイベザポルスタットの効果による経時的な変化の要約を示す。
【
図14C】二次胆汁酸対一次胆汁酸比を示す。値は、平均±標準誤差を表す。
【
図15A】門ごとの分類群の相対存在量の対象特異的変化を示すチャートである。チャートは、40日目までの追跡期間を伴う、イベザポルスタットを10日間投与された患者1例を表す。
【
図15B】綱ごとの分類群の相対存在量の対象特異的変化を示すチャートである。チャートは、40日目までの追跡期間を伴う、イベザポルスタットを10日間投与された患者1例を表す。
【
図15C】目ごとの分類群の相対存在量の対象特異的変化を示すチャートである。チャートは、40日目までの追跡期間を伴う、イベザポルスタットを10日間投与された患者1例を表す。
【
図15D】科ごとの分類群の相対存在量の対象特異的変化を示すチャートである。チャートは、40日目までの追跡期間を伴う、イベザポルスタットを10日間投与された患者1例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
腸内マイクロバイオームの健康を増大させるためにイベザポルスタットを使用する方法が本明細書に記載される。本発明は、C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療すると同時に、C.ディフィシル(C.difficile)感染の再発の可能性を低減するか、またはC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する方法を提供する。本発明はまた、腸内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の数を増加させること、および/またはマイクロバイオーム内の細菌の他の門と比較してアクチノバクテリア(Actinobacteria)の割合を増加させることによって、腸内マイクロバイオームの健康を増大させる方法を提供する。
【0022】
「C.ディフィシル(C.difficile)感染」または「CDI」とは、C.ディフィシル(C.difficile)による宿主動物、例えば、哺乳動物の侵入を意味する。例えば、感染には、哺乳動物の体内もしくは体上に通常存在するC.ディフィシル(C.difficile)の過剰増殖、または哺乳動物の体内もしくは体上に通常存在しないC.ディフィシル(C.difficile)の増殖が含まれ得る。さらに一般的には、C.ディフィシル(C.difficile)感染は、C.ディフィシル(C.difficile)、またはC.ディフィシル(C.difficile)によって放出された毒素の存在が宿主動物に損傷を与えている任意の状況であり得る。動物は、過剰量のC.ディフィシル(C.difficile)が動物の体内もしくは体上に存在する場合、またはC.ディフィシル(C.difficile)毒素の存在が動物の腸細胞もしくは他の組織に損傷を与えている場合、C.ディフィシル(C.difficile)感染に「罹患している」。一実施形態では、C.ディフィシル(C.difficile)の特定の属または種の数は、健康なマイクロバイオーム内に見られる数よりも少なくとも2、4、6または8log高い。あるいは、C.ディフィシル(C.difficile)の数は、健康なマイクロバイオームと同じであり得るが、毒素を産生している。C.ディフィシル(C.difficile)感染の存在は、PCR法を使用して、または毒素タンパク質を検出することができるELISAアッセイを使用して、便内の毒素の存在によって、通常、毒素Bを産生する遺伝子を試験することによって特性評価され得る。
【0023】
「有効量」とは、有益なまたは所望の臨床的結果または生化学的結果をもたらすのに十分な量を意味する。有効量は、1回以上投与することができる。本発明の目的のために、有効量は、感染部位または潜在的な感染部位に投与された場合にC.ディフィシル(C.difficile)感染を治療または予防すると同時に、マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)および/またはファーミキューテス(Firmicutes)の量および/または割合を増加させる、イベザポルスタットの量である。
【0024】
「投与」または「投与する」とは、1つ以上の単位用量のイベザポルスタットを動物、例えば、哺乳動物に与える方法(例えば、局所投与、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与または筋肉内投与)を意味する。投与方法は、様々な要因、例えば、医薬組成物の成分、潜在的な感染部位または実際の感染部位、および実際の微生物感染の重症度に応じて異なり得る。
【0025】
「阻害する」とは、C.ディフィシル(C.difficile)細菌の細胞増殖速度を少なくとも80%低下させることを意味する。特定の実施形態では、増殖は、90%、95%またはさらには99%以上阻害され得る。阻害の程度は、例えば、インビトロ増殖アッセイによって、例えば、標準的な液体培養技術によって確認され得る。好適なMIC(最小阻害濃度)、例えば、<100μg/ml、さらに好ましくは<10μg/mlでのコロニー形成の阻害が好ましい。
【0026】
「治療」とは、有益なまたは所望の臨床結果を得るための手法を意味する。本発明の目的のために、有益なまたは所望の臨床結果には、限定するものではないが、検出可能または検出不能を問わず、症状の緩和、疾患の程度の軽減、疾患の状態の安定化(すなわち悪化しない)、疾患の進行の遅延、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分的または全体的を問わず)が含まれる。「治療」は、治療的処置および予防的措置(prophylactic measure)または予防的措置(preventative measure)の両方を指す。治療を必要とする者には、既に障害を有する者、ならびに障害を予防すべきおよび/または再発を予防すべき者が含まれる。疾患を「緩和する」とは、疾患状態の程度および/もしくは望ましくない臨床症状が軽減されること、ならびに/または進行の時間経過が、治療を行わない状況と比較して遅くなるかもしくは長くなることを意味する。
【0027】
「マイクロバイオーム」とは、特定の環境(身体、または身体の一部を含む)内の微生物を意味する。好ましくは、マイクロバイオームは腸内に位置する。
【0028】
「健康なマイクロバイオーム」は、理想化された(おそらく健康に関連する)組成物による、または望ましい機能的プロファイル(宿主への代謝的供給および栄養供給を含む)による生態学的安定性(すなわち、ストレス下での群落構造の変化に抵抗する能力、またはストレス関連の変化後にベースラインに迅速に戻る能力)に関して記載され得る。健康な成人のマイクロバイオームはまた、ファーミキュート(Firmicute)門またはバクテロイデテス(Bacteroidetes)門の細菌種の大部分、ならびにアクチノバクテリア(Actinobacteria)門およびプロテオバクテリア(Proteobacteria)門の少数を特徴とし得る。健康な新生児のマイクロバイオームは、バクテロイデテス(Bacteroidetes)門およびアクチノバクテリア(Actinobacteria)門の細菌種の大部分を特徴とし得る。
【0029】
「腸内マイクロバイオームの健康を改善する」とは、マイクロバイオームの組成の大部分の割合がアクチノバクテリア(Actinobacteria)門、ファーミキュート(Firmicute)門またはバクテロイデテス(Bacteroidetes)門由来の細菌種にされ、プロテオバクテリア(Proteobacteria)門は少数であることを意味する。あるいは、腸内マイクロバイオームの健康を改善するとは、健康な新生児の腸内マイクロバイオームに存在するように、アクチノバクテリア(Actinobacteria)門の細菌種の割合を増加させることを意味し得る。対象は、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患していてもよいか、またはC.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患していなくてもよい。
【0030】
「C.ディフィシル(C.difficile)感染の可能性を低減する」とは、イベザポルスタットを投与することによって、イベザポルスタットを投与していない対象または患者集団と比較して、対象または患者集団がC.ディフィシル(C.difficile)感染を発症する可能性または割合が低下する(例えば、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%)予防的治療または治療を意味する。
【0031】
「臨床的治癒」とは、初期感染が解消されたことを意味する。これは、好ましくは、対象が治療を受けた後、診断の約10~12日後に測定される。
【0032】
「持続的臨床的治癒」とは、対象が臨床的治癒を有し、感染が再発しなかったことを意味する。これは、診断後30~90日目に測定される。
【0033】
「再発」とは、対象が臨床的治癒を有し、感染が30~90日以内に再び起こったことを意味する。
【0034】
健康な腸のマイクロバイオームは、門と呼ばれる主要な細菌群から構成される。ファーミキューテス(Firmicutes)(グラム陽性胞子形成生物)およびバクテロイデテス(Bacteroidetes)(グラム陰性非胞子形成生物)は、最も一般的であり、健康な成人の腸内マイクロバイオームの90%超を一般に構成する。成人の腸内マイクロバイオームはまた、アクチノバクテリア(Actinobacteria)、フソバクテリア(Fusobacteria)、ベルコミクロビア(Verrucomicrobia)およびプロテオバクテリア(Proteobacteria)を含有する。アクチノバクテリア(Actinobacteria)は、小児では大きな割合で存在し、年齢とともに全体的な割合が一般に低下する(ファーミキューテス(Firmicutes)およびアクチノバクテリア(Actinobacteria)に置き換えられる)。プロテオバクテリア(Proteobacteria)(グラム陰性通性嫌気性菌)は、健康なマイクロバイオームの2~5%を一般に構成する。マイクロバイオームの組成がその正常な多様性から変化すると、正常な生理学的機能が破壊される(ディスバイオシスと呼ばれる)。C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している患者は、ディスバイオシスの状態にある。C.ディフィシル(C.difficile)感染を有する対象に関連するディスバイオシスには、プロテオバクテリア(Proteobacteria)の割合の増加(多くの場合「異常発生」と呼ばれる)、ならびにファーミキューテス(Firmicutes)およびバクテロイデテス(Bacteroidetes)の数の減少が含まれる。
【0035】
イベザポルスタットは、2-((3,4-ジクロロベンジル)アミノ)-7-(2-モルホリノエチル)-1,7-ジヒドロ-6H-プリン-6-オンである。1,7-ジヒドロ-6H-プリン-6-オン化合物の合成手順、および細菌増殖の阻害におけるそれらの使用は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,926,763号および米国特許第8,796,292号に開示されている。イベザポルスタットは、DNAポリメラーゼIIIC阻害剤である。イベザポルスタットは、C.ディフィシル(C.difficile)感染の治療に有用な抗菌活性の抗グラム陽性スペクトルを有する。イベザポルスタットの作用機序は、G+C含有量が低い(GおよびC DNA塩基がAおよびT塩基よりも少ない)グラム陽性菌、主にC.ディフィシル(C.difficile)を含むファーミキューテス(Firmicutes)を標的とする。DNAポリメラーゼIIIC酵素は、G+C含有量が低いグラム陽性菌の複製に必須であるため、C.ディフィシル(C.difficile)などのファーミキューテス(Firmicutes)に対して選択的であるが、アクチノバクテリア(Actinobacteria)またはバクテロイデテス(Bacteroidetes)などの他の宿主微生物叢に対しては不活性である。
【0036】
イベザポルスタットの投与は、C.ディフィシル(C.difficile)感染について現在推奨されている治療であるバンコマイシンの投与と比較して、明らかに異なるマイクロバイオームプロファイルをもたらす。例えば、バンコマイシン治療対象では望ましくないプロテオバクテリア(Proteobacteria)の数および割合が増大しているのと比較して、イベザポルスタット治療対象では、望ましいアクチノバクテリア(Actinobacteria)門およびファーミキュート(Firmicute)門の割合が増大していることが認められた。プロテオバクテリア(Proteobacteria)過剰増殖は、MDRグラム陰性生物による全身感染のリスクの顕著な増加に関連する。したがって、イベザポルスタットは、バンコマイシンとは対照的に望ましいアクチノバクテリア(Actinobacteria)およびファーミキューテス(Firmicutes)の集団に害を及ぼさないだけでなく、イベザポルスタットは、マイクロバイオームに存在するアクチノバクテリア(Actinobacteria)およびファーミキューテス(Firmicutes)の数および/または割合を予想外に増加させる。
図3および
図4を参照されたい。アクチノバクテリア(Actinobacteria)およびファーミキューテス(Firmicutes)などの健康な細菌の増殖を促進し、プロテオバクテリア(Proteobacteria)の増加を引き起こさないことによって、イベザポルスタットはまた、C.ディフィシル(C.difficile)感染の再発の可能性を予防または低減するマイクロバイオームを提供する。
【0037】
イベザポルスタットは、インビボまたはインビトロでの投与に適した生物学的に適合性の形態でヒトまたは動物対象に投与するための医薬組成物に製剤化され得る。したがって、本発明は、賦形剤と混合した、本発明の化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0038】
本発明は、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象に有効量のイベザポルスタットを投与することによって、C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療すると同時に、対象のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発の可能性を低減するか、または対象のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する方法を提供する。有効量のイベザポルスタットの投与は、C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療すると同時に、30~90日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の可能性を低減するか、または30~90日以内のC.ディフィシル(C.difficile)感染の再発を予防する。好ましくは、イベザポルスタットの投与は、C.ディフィシル(C.difficile)感染が臨床的に治癒するまで継続されてもよい。好ましくは、イベザポルスタットの投与は、臨床的治癒が達成されると終了され得る。
【0039】
本発明は、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象においてアクチノバクテリア(Actinobacteria)の増殖を促進する方法であって、C.ディフィシル(C.difficile)感染を治療または予防するために有効量のイベザポルスタットを投与することを含む方法をさらに提供する。対象の腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量が増加するか、またはアクチノバクテリア(Actinobacteria)の割合が増加する。イベザポルスタットの投与は、C.ディフィシル(C.difficile)感染の臨床的治癒が達成されるまで継続される。好ましくは、イベザポルスタットの投与は、C.ディフィシル(C.difficile)の臨床的治癒が達成された際に終了される。イベザポルスタットの投与後のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の割合は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%増加し得る。
【0040】
本発明は、腸内マイクロバイオームの健康を改善する方法であって、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含む方法をさらに提供する。対象の腸内マイクロバイオーム内の細菌の門の割合は、イベザポルスタットの投与前の対象の腸内マイクロバイオームよりも健康なバランスに調整される。例えば、アクチノバクテリア(Actinobacteria)の割合は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%増加し得る。
【0041】
本発明はまた、腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量を増加させる方法であって、それを必要とする対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、アクチノバクテリア(Actinobacteria)の量が、イベザポルスタットの投与前の腸内マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)の量よりも、腸内マイクロバイオーム内で多い方法を提供する。対象は、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している必要はない。本発明はまた、腸内マイクロバイオームの健康を改善する方法であって、それを必要とする対象に有効量のイベザポルスタットを投与することを含み、対象の腸内マイクロバイオーム内の細菌の門の割合が、イベザポルスタットの投与前の人の腸内マイクロバイオームよりも健康なバランスに調整される方法を提供する。対象は、C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している必要はない。
【0042】
図1に示すように、マイクロバイオーム内の細菌種のアルファ多様性は、イベザポルスタットの投与時に顕著に低下しなかった。対照的に、細菌種の多様性は、バンコマイシンの投与時に低下した。プラセボと標識された対象は、イベザポルスタットまたはバンコマイシンが投与されなかった健康な腸を有する対象である。プラセボと比較した場合、イベザポルスタットの投与は、マイクロバイオームの多様性を顕著に低下させなかった。細菌多様性の低下は、C.ディフィシル(C.difficile)感染の再発が経時的に予測されることから望ましくない。
図2に示すように、300mgおよび450mgのイベザポルスタットの投与から生じるマイクロバイオームプロファイルは、10日間にわたる125mgのバンコマイシンから生じるマイクロバイオームプロファイルとは異なっていた。
【0043】
図3に示すように、バンコマイシンを投与すると、プロテオバクテリア(Proteobacteria)が増加し、これにより、マイクロバイオームの健康およびバランスが低下し、C.ディフィシル(C.difficile)感染の再発の可能性が増加する。対照的に、300mgのイベザポルスタットを投与すると、他の細菌門と比較して、マイクロバイオーム内のアクチノバクテリア(Actinobacteria)が増加した。450mgのイベザポルスタットを投与しても、他の細菌門と比較して、アクチノバクテリア(Actinobacteria)が増加した。いずれの用量でのイベザポルスタットの投与も、バンコマイシンの投与時に見られるプロテオバクテリア(Proteobacteria)の増加をもたらさなかった。
【0044】
小児は、生後すぐに、様々な細菌種への曝露によって腸内マイクロバイオームを発達させ始める。乳児期初期に、大腸菌(E.coli)、ブドウ球菌(Staphylococcus)および連鎖球菌(Streptococcus)などの通性嫌気性種は、乳児の腸に定着し、生後数日以内に嫌気性環境をもたらし、バクテロイデス(Bacteroides)(バクテロイデテス(Bacteroidetes)門)およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)(アクチノバクテリア(Actinobacteria)門)などの厳密な嫌気性菌が増殖することを可能にする。また、健康な新生児および乳児の約60%~70%には、C.ディフィシル(C.difficile)が定着しており、CDIに罹患している症候性成人と同程度に高い定着数を有することが多い。これらの乳児は、この定着からいかなる症状も典型的に経験しない。本発明の方法は、多量のアクチノバクテリア(Actinobacteria)を含む健康な早期乳児腸内マイクロバイオームによく似た腸内マイクロバイオームをもたらす。アクチノバクテリア(Actinobacteria)門の細菌群であるビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)は、C.ディフィシル(C.difficile)株の増殖を阻害する。したがって、本発明による方法は、CDIの再発の可能性を予防または低減する腸内マイクロバイオームをもたらす。
【0045】
イベザポルスタットは、理想的な抗C.ディフィシル(C.difficile)抗生物質の以下の3つの重要な基準を満たす。イベザポルスタットは、最小限の全身吸収によって高い結腸濃度を達成する。イベザポルスタットは、C.ディフィシル(C.difficile)に対して強力な活性を有するが、経口バンコマイシンとは対照的に、腸内マイクロバイオームの破壊は最小限である。イベザポルスタットは、腸内胆汁酸代謝に対して潜在的に有益な効果を示す。
【0046】
本発明の方法によれば、イベザポルスタットは、当業者によって理解されるように、選択された投与経路に応じて様々な形態で対象または患者に投与され得る。ヒトまたは動物の使用のために、イベザポルスタットは、経口、頬側、直腸および膣経路によって、または局所投与によって投与され、それに応じて製剤化された医薬組成物である。好ましくは、イベザポルスタットは、経口剤形で投与される。限定するものではないが、経口投与の場合、組成物は、例えば、錠剤、カプセル、顆粒、液体溶液および懸濁剤の形態であり得る。組成物はまた、坐剤または浣腸によって投与され得る。
【0047】
イベザポルスタットは、上記のように、単独で、または薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて、動物、好ましくはヒトに投与され得、その割合は、化合物の溶解性および化学的性質、選択された投与経路、ならびに標準的な製薬慣行によって決定される。イベザポルスタットは、成人または小児に投与され得る。本発明の化合物および/または本発明の化合物を含む組成物の投与量は、多くの要因、例えば、投与様式;レシピエントの年齢、健康状態および体重;症状の性質および程度;治療の頻度、およびもしあれば併用治療の種類;ならびに治療される動物における化合物のクリアランス速度に応じて変動し得る。当業者であれば、上記の要因に基づいて適切な投与量を決定することができる。本発明の化合物は、臨床応答に応じて必要に応じて調整され得る好適な投与量で最初に投与され得る。一般に、本発明の化合物は、約0.1~10%w/vの化合物を含有する生理学的緩衝水溶液中で、または錠剤もしくはカプセルなどの固体剤形で提供され得る。一般的な用量範囲は、1日当たり約0.01mg/kg体重~約1g/kg体重である。イベザポルスタットの経口投与量は、約10mg~1000mg/日、好ましくは100mg~900mg/日、さらに好ましくは約150、300、600または900mg/日の量を含み得る。
【0048】
例
前述の説明および例は、本発明を例示するために単に記載されており、限定することを意図するものではない。本発明の趣旨および実体を組み込んだ記載される実施形態の改変が当業者に想起され得るため、本発明は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲内のすべての変形例を含むように広く解釈されるべきである。
【0049】
例1:
第I相健常ボランティア試験のためのマイクロバイオーム試験:
背景:健康な腸のマイクロバイオームは、門と呼ばれる2つの主要な細菌群から構成される。ファーミキューテス(Firmicutes)(グラム陽性胞子形成生物)およびバクテロイデテス(Bacteroidetes)(グラム陰性非胞子形成生物)が最も一般的である。第3の門であるプロテオバクテリア(Proteobacteria)(グラム陰性通性嫌気性菌)は、低存在量で存在するが、健康なマイクロバイオームの2~5%を一般に構成する。第4の門であるアクチノバクテリア(Actinobacteria)は、小児では大きな割合で存在し、年齢とともに全体的な割合が一般に低下する(ファーミキューテス(Firmicutes)およびアクチノバクテリア(Actinobacteria)に置き換えられる)。C.ディフィシル(C.difficile)感染に罹患している患者は、ディスバイオシスの状態にあり、そのような患者では、多くの場合、プロテオバクテリア(Proteobacteria)の割合が増加しており、例えば、プロテオバクテリア(Proteobacteria)が過剰であるか、または「プロテオバクテリア(Proteobacteria)異常発生」であり、ファーミキューテス(Firmicutes)およびバクテロイデテス(Bacteroidetes)の数が減少している。
【0050】
イベザポルスタット試験:第I相健常ボランティア試験およびショットガンメタゲノムシーケンシングから得られた便試料を使用して、10日間にわたるイベザポルスタットによる治療が、バンコマイシンを投与されている対象と比較して、対象に顕著に異なるマイクロバイオームプロファイルをもたらすことが実証された。その差は、バンコマイシン処置治療ではプロテオバクテリア(Proteobacteria)の割合が増大しているのに対比して、イベザポルスタット治療対象ではアクチノバクテリア(Actinobacteria)門およびファーミキュート(Firmicute)門の割合が増大していたことであった。
【0051】
方法および材料
材料:一次胆汁酸コラート(CA)およびケノデオキシコラート(CDCA)、抱合一次胆汁酸グリココラート(GCA)、タウロコラート(TCA)、グリコケノデオキシコラート(GCDCA)およびタウロケノデオキシコラート(TCDCA)、二次胆汁酸リトコラート(LCA)、デオキシコラート(DCA)、ウルソデオキシコラート(UDCA)およびヒオデオキシコラート(HDCA)、ならびに抱合二次胆汁酸グリコリトコラート(GLCA)、タウロリトコラート(TLCA)、グリコデオキシコラート(GDCA)およびタウロデオキシコラート(TDCA)の標準は、Sigmaから購入した。
【0052】
臨床試験の説明:30±8歳の対象22例(女性:33%)を登録した。各々患者6例にバンコマイシン、イベザポルスタット300mgまたはイベザポルスタット450mgのいずれかを投与し、さらに4例にプラセボを投与した。記載されるように、1日4回125mgが投与されるバンコマイシン比較アームおよびプラセボを用いた、漸増用量のイベザポルスタット(300または450mgを1日2回投与)の近年の第I相健常ボランティア試験の一部として、便試料を連日採取した。(Garey KW,et al.A randomized,double-blind,placebo-controlled,single and multiple ascending dose Phase 1 study to determine the safety,pharmacokinetics and food and faecal microbiome effects of ibezapolstat administered orally to healthy subjects.J Antimicrob Chemother 2020;75(12):3635-3643.DOI:10.1093/jac/dkaa364.)施設内審査委員会の承認を得(Midlands Institutional Review Board IRB #222220170383)、全ボランティアが、試験手順を行う前にインフォームドコンセント用紙に署名した。この分析では、イベザポルスタット300もしくは450mgを1日2回、バンコマイシン125mgを1日4回、またはプラセボを10日間投与された対象から、入手可能であれば、0(ベースライン)から13日目、および30日目の追跡期間のために便試料を連日採取した。便試料を-80°Cで直ちに凍結した後、分析のためにドライアイスを用いてUniversity of Houstonに輸送した。
【0053】
便DNA抽出およびショットガンメタゲノムシーケンシング:以前に記載されているように、QiaCube自動DNA抽出システムでDNAeasy Power Soil Pro kit(Qiagen、カタログ番号1288-100)を使用して便DNAを抽出した。(Garey KW,et al.,J Antimicrob Chemother 2020;75(12):3635-3643.DOI:10.1093/jac/dkaa364.)DNAライブラリー調製のためのNextera DNA Flex Library Prep Kitと、シーケンシングのためのIllumina NextSeq 500プラットフォームとを使用して、University of Houston Sequencing and Gene Editing Core(Houston,TX USA)でショットガンメタゲノムシーケンシングを行った。CLC Genomic Workbenchバージョン12(Qiagen)をメタゲノムアセンブリと、存在量表の作成とに使用した。
【0054】
便試料からの胆汁酸の抽出:便試料を分注および秤量し(約10~約150mgの範囲)、各アリコートをボルテックスおよび超音波処理によって内部標準(LCA-d5およびCA-d5、200μg/L)を含有する100%メタノール1mlと十分に混合した。混合物を4°Cで一晩置き、10,000gで3分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移し、純水によって10倍に希釈した。続いて、希釈した上清を、予めコンディショニングしたSep-Pak C18 Classic CartridgeまたはWaters Corp Oasis HLB 96-well Plate(Waters,USA)にアプライした。5%メタノールによって洗浄した後、胆汁酸画分を100%メタノールによって溶出した。溶出液を窒素下で乾燥させ、2mlのメタノール/水(1:1、vol/vol)に再懸濁し、その後の分析まで-20°Cで保存した。
【0055】
胆汁酸分析:以前に記載された方法から適合されたQTRAP 5500質量分析計(Sciex,Framingham,MA,USA)を用いて行われた標的化液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)を使用して、胆汁酸を定量した。(Scherer M,et al.Rapid quantification of bile acids and their conjugates in serum by liquid chromatography-tandem mass spectrometry.J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 2009;877(30):3920-5.DOI:10.1016/j.jchromb.2009.09.038.)要約すると、C18カラム(Phenomenex,Torrance,CA,USA)を用いて、2つの移動相(溶媒A:10mM酢酸アンモニウムおよび0.1%(wt/vol)水酸化アンモニウム(pH9)を含むメタノール-水(1:1、vol/vol);溶媒B:10mM酢酸アンモニウムおよび0.1%(wt/vol)水酸化アンモニウム(pH9))を含むメタノールを使用する勾配法により、同様の質量および化学構造の胆汁酸間のクロマトグラフィー分離を行った。胆汁酸の非標識標準および安定同位体標識標準を使用して作成した標準曲線から、各タイプの胆汁酸の定量を計算した。対応する試料重量によって胆汁酸濃度を正規化した。
【0056】
統計分析
Rソフトウェアを使用して、細菌分類群およびアルファ多様性の対象特異的変化および要約的変化を生成した。線形回帰モデルを構築して、全試料の少なくとも5パーセントに存在する分類群に対して正規化する、バンコマイシンまたはイベザポルスタットが投与された対象について、経時的な門、綱、目および科レベルでの比例的な分類群差を評価した。また、線形回帰モデルを構築して、バンコマイシンまたはイベザポルスタットが投与された対象について、経時的なアルファ多様性尺度(Shannon、SimpsonおよびPielous)の連日の変化を評価した。線形効果サイズ(LEfSe)アルゴリズムを使用して、ベースラインと10日目の試料との間の微生物叢組成の有意差を可視化および同定した。(Segata N,et al.Metagenomic biomarker discovery and explanation.Genome Biol 2011;12(6):R60.DOI:10.1186/gb-2011-12-6-r60.)線形回帰モデルを構築して、バンコマイシンまたはイベザポルスタットが投与された対象から得られた経時的な一次胆汁酸および二次胆汁酸の変化ならびに経時的な一次胆汁酸:二次胆汁酸の比を評価した。線形回帰モデルではいずれも、ベースライン値として、対象の年齢、体重および性別について制御したプラセボ結果を使用した。全統計分析に、SAS Vers 9.4(Sas Institute,Cary NC)またはRを使用した。目的ごとの複数の分析を説明するために、誤検出率を制限すると特に明記しない限り、p<0.005という低いp値を統計学的に有意であると考えた。(Korthauer K,et al.A practical guide to methods controlling false discoveries in computational biology.Genome Biol 2019;20(1):118.DOI:10.1186/s13059-019-1716-1.)
【0057】
アルファ多様性およびベータ多様性
アルファ多様性およびベータ多様性:試料内の細菌種の多様性に関するアルファ多様性試験に対して、試料間の多様性の差に関するベータ多様性試験。Gonzales-Luna(Systems biology evaluation of refractory Clostridioides difficile infection including multiple failures of fecal microbiota transplantation.Anaerobe 2021:102387.DOI:10.1016/j.anaerobe.2021.102387)に記載されている方法を使用して、イベザポルスタットが投与された健常対象由来の試料のアルファ多様性およびベータ多様性を評価し、バンコマイシンが投与された対象と比較した。
【0058】
16SリボソームRNA(rRNA)遺伝子シーケンシング:Gonzales-Luna 2021に記載されているように、16S rRNAシーケンシングを行って、微生物分類を特性評価した。1試料当たり最小15,000個のリードとともにIlluminaベースのシーケンシングプラットフォームを使用して、16S rRNA遺伝子のV3-V4領域をシーケンシングして、腸内マイクロバイオーム群落構造を評価した。少なくとも97%の類似性を有する品質フィルタリングした配列リードをOperational Taxonomic Unit(OTU)にクラスタリングし、NCBI BLAST+パッケージv2.8.1 2018を使用してNCBI 16S rRNA配列データベース(公開日2018年9月1日)に対して検索することによって、各OTUからの代表的な配列に種レベルで分類学的同一性を割り当てた。種の豊富さ、および系統発生的距離がα多様性を表し、Bray-CurtisおよびWeighted Unifracがβ多様性を表すQIIME v1.9.0を使用して微生物多様性指数を計算した。結果を視覚化するために、RプラットフォームおよびGraphPad Prism 7.0(San Diego,CA)を使用した。
【0059】
ショットガンメタゲノムシーケンシング:マイクロバイオーム機能遺伝子の分析のためのIlluminaベースのプラットフォームを使用して、16S rRNAシーケンシングに以前に使用した糞便試料から抽出したDNAをショットガンメタゲノムシーケンシングした。HUMAnN2 v0.11.2パイプラインを使用して、ショットガンメタゲノムの機能的遺伝子プロファイリングを行った。35 前処理工程では、シーケンシングリードの品質フィルタリングを行い、続いて、コンタミナント宿主(ヒト)リードのスクリーニングおよび除去を行った。デフォルトのカットオフ設定で生の配列データのフィルタリングおよびトリミングにTrimmomatic v0.38を使用した。bowtie2アルゴリズムを使用してペアエンドモードでヒトゲノムデータベースに対してリードを検索し、それらがデータベースにマッピングされた場合は破棄した。遺伝子ファミリープロファイルを得るために、bowtie2を使用してヌクレオチドデータベース(ChocoPhlAn)に対してこれらの品質管理したメタゲノム配列を最初に検索し、次いで、diamondを使用してタンパク質データベース(UniRef90)に対して検索した。UniRef90を使用して、同定された全遺伝子ファミリーをアノテーションし、MetaCyc識別子を使用して経路をアノテーションした。遺伝子ファミリープロファイルを用いてα多様性およびβ多様性を生成した。
【0060】
アルファ多様性分析の結果を
図1に示す。図では、プロットの一番上の行は、バンコマイシン治療を受けている対象を表す。プロットの2番目の行は、300mgのイベザポルスタット治療を受けている対象を表す。また、プロットの3番目の行は、450mgのイベザポルスタット治療を受けている対象を表す。4番目の行は、プラセボを投与されている対象を表す。この図に見られるように、イベザポルスタットによる治療は、バンコマイシンと比較して、治療の経過中に、バイオームのアルファ多様性の全体的な変化を少なくする。
【0061】
ベータ多様性分析の結果を
図2に示す。図では、左側のプロットは、治療前の対象におけるベースライン多様性を示している。右側のプロットは、バンコマイシンまたはイベザポルスタットのいずれかを投与されている対象のベータ多様性を示す。イベザポルスタットを投与されている対象は、同じy軸の周りに留まるベータ多様性を有するのに対して、バンコマイシン対象は、はるかに異なるベータ多様性を示している。この試験の結果は、腸の多様性が、バンコマイシンと比較してイベザポルスタットの投与後に異なることを実証している。
【0062】
マイクロバイオーム分析
Gonzales-Luna(Systems biology evaluation of refractory Clostridioides difficile infection including multiple failures of fecal microbiota transplantation.Anaerobe 2021:102387.DOI:10.1016/j.anaerobe.2021.102387)およびSegata et al.(Metagenomic biomarker discovery and explanation.Genome Biol 2011;12(6):R60.DOI:10.1186/gb-2011-12-6-r60)に記載されている方法を使用して、イベザポルスタットまたはバンコマイシン治療のいずれかを受けている健常対象のマイクロバイオームを分析した。
【0063】
上記のシーケンシングを使用して、本発明者らは、イベザポルスタットまたはバンコマイシンのいずれかを投与されている対象における細菌門の経時的変化を分析した。この分析の結果を
図3に示す。この分析の結果から明らかなように、バンコマイシンによる治療は、プロテオバクテリア(Proteobacteria)を「異常発生」させる(プロットでは濃い灰色で示されている)。また、この分析から明らかなのは、イベザポルスタットによる治療の方が高い割合のアクチノバクテリア(Actinobacteria)をもたらすことである。
【0064】
本発明者らは、メタゲノム分析に特に焦点を当てた高次元な綱比較を可能にする線形判別分析効果サイズ(LEfSe)法を使用して、イベザポルスタットまたはバンコマイシンのいずれかによって治療した健常ボランティアからのデータを分析した。この方法は、Segata et al.(Metagenomic biomarker discovery and explanation.Genome Biol 2011;12(6):R60.DOI:10.1186/gb-2011-12-6-r60)に記載されている。この分析の結果を
図4に示す。図は、イベザポルスタットまたはバンコマイシンのいずれかが投与された対象における0日目対10日目のマイクロバイオームの変化を示す。陰影は、ベースラインと比較して10日目の細菌存在量の減少、または存在量の増加を表す。LEfSeプロットで明らかなように、イベザポルスタットでは、10日目のバンコマイシンと比較して、治療の10日目でマイクロバイオーム全体に対する変化がはるかに少ない。
【0065】
ベースライン微生物叢は、いずれの試験群についてもベースライン(0日目の試料)で差がなかった。イベザポルスタット、バンコマイシンまたはプラセボが投与された対象に関する個々の門およびShannon’s indexアルファ多様性の経時的な連日の変化を
図1および
図3に示す。個々の門間の差は明らかであった。ただし、一般に、バンコマイシンが投与された対象ではプロテオバクテリア(Proteobacteria)またはフソバクテリア(Fusobacteria)の割合が増加したのに対して、イベザポルスタットが投与された対象ではアクチノバクテリア(Actinobacteria)の割合が一定して増加した。一般に、イベザポルスタットまたはバンコマイシンのいずれかを投与されている個々の対象の治療では、プラセボと比較してアルファ多様性が低下した。経時的なアルファ多様性変化の統計分析を以下の表1に示す。3つの別個のアルファ多様性指数(Shannon、SimpsonおよびPielous)を使用すると、イベザポルスタット450mgおよびバンコマイシンは、プラセボと比較して、アルファ多様性の統計学的に有意な変化を経時的に示した。イベザポルスタット300mgは、プラセボと比較して統計学的に有意な変化を示さなかった。治療群ごとの経時的なアルファ多様性変化(Shannon)の要約的測定を
図6に示す。ベータ多様性の変化により、微生物叢が試験群間で有意に異なることが確認された(
図6)。主座標分析を使用すると、ベースライン試料は全試験群で類似していたが、各クラスターの95%信頼を表す明確な楕円は、いずれかの用量のイベザポルスタット試料またはプラセボ試料と比較してバンコマイシン治療対象について有意に異なっていた。LEfSeアルゴリズムによって生成した、治療終了と比較したベースラインでの分岐図を
図4に示す。バンコマイシンは、ガンマプロテオバクテリア(Gammaproteobacteria)の割合が増加したことを除いて、ほとんどの分類群の割合が有意に低いことを含めて、マイクロバイオームに対してさらに広範囲の効果を有した。イベザポルスタットは、クロストリジアーレス(Clostridiales)の割合の減少、ならびにエンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)、およびビフィドバクテリアシエ(Bifidobacteriaceae)の特定の種の割合の増加を示した。門、綱、目および科レベルでの細菌分類群の変化を以下の表2に示す。
【表1】
【表2-1】
【表2-2】
【0066】
胆汁酸分析
イベザポルスタットの使用に関連する胆汁酸の変化をさらに分析するために、Scherer M,et al.(Rapid quantification of bile acids and their conjugates in serum by liquid chromatography-tandem mass spectrometry.J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 2009;877(30):3920-5.DOI:10.1016/j.jchromb.2009.09.038)およびQian X et al.(Ridinilazole,a narrow spectrum antibiotic for treatment of Clostridioides difficile infection,enhances preservation of microbiota-dependent bile acids.Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2020;319(2):G227-G237.DOI:10.1152/ajpgi.00046.2020)の発表されたデータに基づいて、この試験のためにLC-MS-MS法を開発した。
【0067】
胆汁酸分析には17個のベースライン試料、17日間の5つの試料、および14日間の10個の試料が利用可能であった。各薬物および期間に関する胆汁酸の濃度を
図8に示す。ベースライン試料は全試験群について同様であり、(>95%)の二次胆汁酸を主に含んでいた。全試験薬への曝露により、一次胆汁酸は増加し、二次胆汁酸は減少した(
図7)。対象の背景因子について制御する線形回帰分析を使用すると、バンコマイシンは、一次胆汁酸および一次胆汁酸:二次胆汁酸比の有意な増加に関連していた。同様の効果がイベザポルスタット450mgで認められたが、これらの結果は統計学的に有意ではなかった(上記の表1)。
【0068】
この分析の結果を
図5Aおよび
図5Bに示す。左のプロットは、イベザポルスタットまたはバンコマイシンのいずれかによる治療の経過中の一次胆汁酸の変化を示す。右のプロットは、イベザポルスタットまたはバンコマイシンのいずれかによる治療の経過中の二次胆汁酸の変化を示す。これらの結果から明らかなように、バンコマイシンによる治療は、一次胆汁酸の大きな増加を引き起こすとともに、二次胆汁酸の大きな減少も引き起こす。対照的に、イベザポルスタットは、一次胆汁酸の量に顕著な変化を引き起こさず、二次胆汁酸の同じ大きな減少を引き起こさない。
【0069】
微生物叢と胆汁酸変化との相関
科分類群と一次胆汁酸濃度および二次胆汁酸濃度との相関を表3に示す。エンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)は一次胆汁酸濃度と最も高く相関し(r:0.63;p<0.0001)、ルミノコッカシエ(Ruminococcaceae)は一次胆汁酸濃度と負に相関した(r:-0.37;p=0.0025)。また、ルミノコッカシエ(Ruminococcaceae)は、二次胆汁酸濃度と正に相関した(r:0.44;p=0.0002)。シュードモナダシエ(Pseudomonadaceae)も、二次胆汁酸濃度と正に相関した(r:0.38;p=0.0017)。
【表3】
【0070】
この試験における重要なメタゲノム所見は、両抗生物質によりクロストリジア(Clostridia)綱が一定して減少したが、イベザポルスタット治療対象ではアクチノバクテリア(Actinobacteria)綱が拡大し、バンコマイシン治療対象ではガンマプロテオバクテリア(Gammaproteobacteria)綱、エンテロバクテラレス(Enterobacterales)目およびエンテロバクテリアセエ(Enterobacteriaceae)科が拡大したことであった。ファーミキュート(Firmicute)門内では、バンコマイシンはまた、桿菌(Bacilli)綱分類群の割合の増加に関連していた。
【0071】
例2:
CDIのためのイベザポルスタットの第2a相臨床試験から得られたマイクロバイオームデータ
第2相臨床試験:
第2相臨床試験は、CDIの治療におけるイベザポルスタットを評価するようにデザインされている。
【0072】
この試験の第2a相は、米国の試験センターからの対象10例の非盲検コホートであった。このコホートでは、毒素EIA+を介して診断された軽度/中等度のC.ディフィシル(C.difficile)によって引き起こされた下痢を有する患者10例を、10日間にわたって1日2回、イベザポルスタット450mgを経口的に用いて治療した。全患者を28±2日間にわたって再発について追跡した。治療の経過中、および追跡期間時に便を採取した。C.ディフィシル(C.difficile)培養およびマイクロバイオームの変化について、患者の糞便試料を評価した。この試験では、12日目に100%の臨床的治癒および38日目に100%の持続的臨床的治癒が実証された。好ましいマイクロバイオームの変化には、治療中のアクチノバクテリア(Actinobacteria)門およびファーミキューテス(Firmicutes)門の種の過剰増殖が含まれた。これらの所見から、胆汁酸代謝に対する有益な効果が実証され、さらに、マイクロバイオームの効果が、低い再発率を含む有益な患者転帰の前兆となり得ることが裏付けられる。
【0073】
感染は100%排除され、感染の再発はなく(100%)、有害事象プロファイルは許容可能であった。
【0074】
方法:
安全性評価
安全性評価には、AE評価、身体検査、バイタルサイン、臨床検査(化学、血液学および尿検査)および心電図検査を含めた。全対象について、AEの性質、頻度および重症度を含む安全性エンドポイントを記録した。AEを、登録時から始めて各来院時に評価し、Medical Dictionary for Regulatory Activities(MedDRAバージョン15.0)に従って分類した。AE重症度(軽度、中程度または重度)および因果関係(試験薬と無関係であるか、場合により関連しているか、またはおそらく関連している)を各拠点の治験責任医師が評価した。
【0075】
PK評価
1、5および10日目の最初の連日のイベザポルスタット投与の2および4時間後に血漿レベルを測定した。ベースライン時、および1~10日目の連日のイベザポルスタット投与時に糞便試料を採取した。血漿および糞便濃度をAltaSciences(Laval,Quebec,Canada)がアッセイし、PK分析をLearn and Confirm Inc.(Montreal,Quebec,Canada)が行った。
【0076】
微生物学
C.ディフィシル(C.difficile)増殖のために、選択的 サイクロセリン-セフォキシチンフルクトース寒天(CCFA)上、37°C、嫌気条件下で48時間にわたって便試料を培養した。(Gonzales-Luna)。増殖および形態に基づいて単離体をC.ディフィシル(C.difficile)であると決定し、C.ディフィシル(C.difficile)毒素およびtpi遺伝子についてPCRによって確認した。以前に記載されたようにPCRに基づくリボタイピング法を使用して、C.ディフィシル(C.difficile)を菌株分類した。(Gonzales-Luna AJ,Carlson TJ,Dotson KM,et al.PCR ribotypes of Clostridioides difficile across Texas from 2011 to 2018 including emergence of ribotype 255.Emerg Microbes Infect 2020;9(1):341-7.)0.1%タウロコール酸ナトリウムBrain Heart Infusion(BHI)培地中のブロス微量希釈によって、イベザポルスタットについて最小発育阻止濃度(MIC)を決定した。(Begum K,Basseres E,Miranda J,et al.In Vitro Activity of Omadacycline,a New Tetracycline Analog,and Comparators against Clostridioides difficile.Antimicrob Agents Chemother 2020;64(8).)
【0077】
マイクロバイオームおよび胆汁酸の評価
イベザポルスタット投与中は連日、ならびにEOT後2、10、20および28日目に、マイクロバイオーム分析のための糞便試料を採取した。指示に従って、QIAcube自動DNA抽出システム(Qiagen)で、Qiagen DNeasy PowerSoil Pro Kit(Qiagen、カタログ番号12888-100)を介して便DNA抽出を行った。MiSeqシステム(Illumina,San Diego,CA,USA)を使用して16S rRNA遺伝子のV1-V3領域をシーケンシングすることによって、マイクロバイオームの特性評価を行った。(Fadrosh DW,Ma B,Gajer P,et al.An improved dual-indexing approach for multiplexed 16S rRNA gene sequencing on the Illumina MiSeq platform.Microbiome 2014;2(1):6;Walker JN,Hanson BM,Pinkner CL,et al.Insights into the Microbiome of Breast Implants and Periprosthetic Tissue in Breast Implant-Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma.Sci Rep 2019;9(1):10393.)バーコード化プライマーを使用して各試料を増幅し、これにより、各個々の試料ライブラリーにタグ付けされた固有の配列識別子が得られた。PCRの前にゲノムDNA(gDNA)を正規化し、プールの前にPCR産物を正規化した。Illuminaベースのシーケンシングにより、1試料当たり15,000を超えるリードが得られた。以前に記載された方法から適合されたQTRAP 5500質量分析計(Sciex,Framingham,MA,USA)を用いて行われた標的化液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)を使用して、胆汁酸を定量した。(Scherer M,Gnewuch C,Schmitz G,Liebisch G.Rapid quantification of bile acids and their conjugates in serum by liquid chromatography-tandem mass spectrometry.J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci 2009;877(30):3920-5.)対応する便試料重量によって胆汁酸レベルを正規化した。
【0078】
有効性評価
主要な有効性転帰尺度は、EOT前の24時間の期間内の下痢の解消として定義され、EOT後少なくとも48時間維持された、EOTでの臨床的治癒とした。SCCは、EOT後28(±2)日以内にCDIが再発しない臨床的治癒と定義した。
【0079】
統計分析
少なくとも1用量のイベザポルスタットを投与されている患者のintent-to-treat解析を行った。有効性、安全性/忍容性、およびSASバージョン9.4ソフトウェア(SAS Institute,Inc Cary,NC,USA)を使用して生成したPKデータについて、記述統計を計算した。Rソフトウェアバージョン4.1.1(R Core Team 2021,Vienna,Austria)を使用して、マイクロバイオーム要約的プロットおよびデータ視覚化を作成した。(R Core Team(2013).R:A language and environment for statistical computing.R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria.)Shannon Diversity IndexおよびInverse Simpson Indexを使用して、VeganRパッケージバージョン2.4-2を用いて、各試料のアルファ多様性を評価した。線形回帰モデルを使用して、治療中または治療後と比較したベースラインでのアルファ多様性(Shannon Diversity IndexおよびInverse Simpson Index)および胆汁酸の差を比較した。試験期間中に少なくとも1パーセントの比例的変化を伴う分類群に関する線形回帰モデルを使用して、10日間の投与間隔にわたる細菌分類群の比例的変化を計算した。p値<0.05を有意と考えた。
【0080】
第2a相臨床試験の結果:
第2a相データでは、イベザポルスタットによる治療の3日目までに結腸C.ディフィシル(C.difficile)が完全に根絶したこと、ならびに治療中および治療後の健康な腸内微生物叢、アクチノバクテリア(Actinobacteria)門種およびファーミキュート(Firmicute)門種の過剰増殖が観察されたことが実証された。さらに、データでは、7α-脱ヒドロキシル経路を介して一次胆汁酸を二次胆汁酸に代謝することが知られているクロストリジアーレス(Clostridiales)目分類群を含む健康な微生物叢の割合が増加したことが実証された。(Ridlon JM,Kang DJ,Hylemon PB.Bile salt biotransformations by human intestinal bacteria.J Lipid Res 2006;47(2):241-59)。これらのデータは、C.ディフィシル(C.difficile)に対する定着耐性と相関する、イベザポルスタット療法中およびイベザポルスタット療法後の二次胆汁酸濃度の増加を示している。さらに、一次胆汁酸の減少と、二次胆汁酸対一次胆汁酸の比の好ましい増加とは、イベザポルスタットがバンコマイシンと比較した場合にCDI再発の可能性を低減し得ることを示している。
【0081】
患者
49(±15)歳(50%女性;100%白色人種;80%ヒスパニック系またはラテンアメリカ系民族)の患者10例を登録した。全患者10例にイベザポルスタットを投与し、全患者10例が試験を完了した。治療開始前の24時間以内の未形成排便数の中央値は4であった(範囲:3~10)。患者10例のうち2例が、イベザポルスタットを開始する前に、24時間未満のメトロニダゾールまたはバンコマイシンのいずれかの抗生物質治療を受けていた。登録前または登録後に入院した患者はいなかった。
【0082】
安全性
AEの要約を表4に示す。患者10例のうち4例に7件のAEが報告され、これらの事象のうち4件が1例の対象に発生した。いずれの事象も重篤なAEではなかった。AEの重症度は、軽度(n=2)、中等度(n=4)および重度(n=1;薬物に関連しない片頭痛)であった。最も一般的なAEは、頭痛(n=2)または悪心(n=2)であった。悪心の両エピソードは、治験責任医師によって試験薬と「おそらく関連している」とみなされた。これらのAEには治療は必要ではなく、AEにより試験薬スケジュールの変更、または投与の中止は必要とされなかった。全AEが試験の終了までに解消した。
【0083】
PK結果
投与後2~4時間のイベザポルスタット血漿レベルは233~578ng/mLの範囲であり、投与後2時間の期間(範囲:234~299ng/mL)と比較して、投与後4時間の期間(範囲:373~578ng/mL)の方が高い濃度が観察された。治療3日目までに、イベザポルスタット便中濃度は平均416±494μg/g便であり、治療8~10日目までに>1,000μg/g便に増加した。濃度は、EOTの2日後に平均535±748μg/g便であった。38日目に採取した4つの便試料のうち3つでは、イベザポルスタットの便中濃度は検出可能であり続けた(136±161μg/g便)。便全体および血漿PKデータを
図10に示す。イベザポルスタットは、1ug/mLを超えない高い便中濃度および血漿中濃度を達成した。
【0084】
微生物学的結果
微生物学試験のために7つのベースライン便試料が利用可能であり、そのうち6つ(86%)では毒素産生性C.ディフィシル(C.difficile)が増殖した。他の全採取日(7~9試料/日の範囲)から得られた便試料では、C.ディフィシル(C.difficile)は増殖しなかった。同定されたリボタイプには、F078-126(n=2)、F014-020(n=2)、F106(n=1)およびFP435(n=1)が含まれた。イベザポルスタットのMICは、0.25(n=1)、0.5(n=3)または1.0(n=1)ug/mLであった。
【0085】
マイクロバイオームおよび胆汁酸の結果
Inverse Simpson IndexおよびShannon Indexの両方を使用すると、ベースライン試料からアルファ多様性の急速な増加が認められた(
図12)。ベースラインと比較して、Inverse Simpson Index多様性は、イベザポルスタット療法中に0.14±0.056ポイント増加し(p=0.017)、EOT後に0.22±0.10ポイント増加した(p=0.0033)。
【0086】
Shannon Diversity Indexを使用して、同様の結果が観察された。多様性は、ベースラインと比較して、イベザポルスタット療法中に0.98±0.48ポイント増加し(p=0.049)、治療完了後に1.7±0.87ポイント増加した(p=0.043)。イベザポルスタット療法中およびイベザポルスタット療法後の分類群の変化を
図13に示す。最も一般的には、バクテロイディア(Bacteroidia)綱分類群(-10.0±4.8%)およびフラボバクテリアシエ(Flavobacteriaceae)科分類群(-8.8±4.8%)の割合の低下に起因して、バクテロイデテス(Bacteroidetes)門の比例的減少が観察された(-10.0±4.8%;p=0.043)。最も一般的には、ラクノスピラシエ(Lachnospiraceae)(+12.7±6.0%)およびルミノコッカシエ(Ruminococcaceae)(+2.8±2.7%)の割合の増加に起因して、ファーミキューテス(Firmicutes)門の割合の増加が観察された(+14.7±5.4%;p=0.009)。他のファーミキューテス(Firmicutes)は割合が低下し、最も顕著にはバチラレス(Bacillales)(-4.4±2.3%)目分類群およびラクトバチラレス(Lactobacillales)(-3.7±2.2%)目分類群であった。個々の患者の存在量表を
図15に示す。
【0087】
胆汁酸分析の結果を
図14に示す。ベースラインと比較して、便内の総一次酸は、治療中に40.1±9.6ng/mg便減少し(p=0.0002)、治療完了後に40.5±14.1ng/mg便減少した(p=0.0066)。ベースラインと比較して、総二次胆汁酸は、治療中に65.6±146.7ng/mg便増加し(p=0.66)、治療完了後に97.5±215.4ng/mg便増加した(p=0.65)。
【表4】
【国際調査報告】