(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】バクテリア由来の高純度細胞外小胞体の商業的精製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578749
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 KR2022008791
(87)【国際公開番号】W WO2022270872
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0080108
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522496127
【氏名又は名称】ロゼッタ エクソソーム カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】イ チャン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ソン サン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】キム シ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】イ テ リョン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BA22
4B065BD14
4B065BD15
4B065BD18
4B065BD22
4B065BD44
4B065CA44
(57)【要約】
本発明はバクテリア由来の細胞外小胞体(bacterial extracellular vesicle)の高純度大量精製方法に関するものであり、より詳細には、本発明はカルシウムまたはコバルトを用いて大量のバクテリア細胞培養物から高純度のバクテリア由来の細胞外小胞体を迅速かつ簡単に分離および精製する方法に関する。本発明の精製方法は、大量のバクテリア細胞培養物を処理して高純度のバクテリア由来の細胞外小胞体を商業規模で得るのに適しており、特に人体に無害なカルシウムを用いる場合、人体用医薬品の使用のバクテリア由来の細胞外小胞体を精製することにおいて、より有利である。
【選択図】
図2b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)バクテリア細胞培養物にカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを添加する工程;
(b)上記のバクテリア細胞培養物に含まれるバクテリア由来の細胞外小胞体(extracellular vesicle)とカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンとを反応させて不溶性複合体を形成する工程;
(c)上記のバクテリア細胞培養物からバクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンとの複合体を分離する工程;および
(d)上記の複合体からカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを分離して、バクテリア由来の細胞外小胞体を精製する工程を含む、バクテリア由来の細胞外小胞体の大量精製方法。
【請求項2】
上記のカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンの濃度が1乃至1000 mM、1乃至500 mM、1乃至100 mM、5乃至100 mM、5乃至50 mM、5乃至20 mM、5乃至15 mM、または5乃至10 mMである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記のカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンの濃度が5乃至20 mMである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記の工程(c)が遠心分離法、超遠心分離法、濾過法、限外濾過法、重力、透析法、音波処理法、密度勾配法およびサイズ排除法からなる群から選択される一つ以上の方法を利用するものである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記の工程(d)がキレート剤を添加する方法;pH値を変える方法;およびイミダゾール、ヒスチジン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)または塩(salts)の濃度を変化させる方法からなる群から選択される一つ以上の方法を利用するものである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記のキレート剤がイミノジアセチン酸(IDA、iminodiacetic acid)、ニトリロ三酢酸(NTA、nitrilotriacetic acid)、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED、tris-(carboxymethyl)ethylenediamine)、エチレンジアミン(ethylenediamine)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、アルキレンジアミン三酢酸(alkylenediamine triacetic acid)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA、diethylenetriaminepentaacetic acid)、エチレングリコールビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA, ethyleneglycol-bis ([3-aminoethyl ether )-N,N,N',N'-tetraacetic acid)、ホスホセリン(phosphoserine)および1,4,7-トリアゾサイクロノナン(TACN、1,4,7-triazocyclononane)からなる群から選択される一つ以上の方法を利用するものである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記工程(a)の前にバクテリア細胞培養物の前処理工程をさらに含んだり、または工程(d)の後で精製されたバクテリア細胞培養物の後処理工程をさらに含んだり、または上記の前処理工程および後処理工程の両方を含んだりする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記の前処理工程が遠心分離法、濾過法、限外濾過法、サイズ排除法、脱塩カラムクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ポリマー沈殿法、塩沈殿法、有機溶媒沈殿法、水性二相系法及び酵素処理法の中で、一つ以上の方法を利用するものである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記の前処理工程が遠心分離法、濾過法、ポリマー沈殿法または塩沈殿法を利用するものである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記の前処理工程が接線流濾過法(tangential flow filtration、TFF)を利用するものである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記の前処理工程が、接線流濾過法の後でポリマー沈殿法または塩沈殿法をさらに実施するものである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記の後処理工程が遠心分離法、濾過法、限外濾過法、透析法、音波処理法、密度勾配法、サイズ排除法、脱塩カラムクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ポリマー沈殿法、塩沈殿法、有機溶媒沈殿法、水性二相系法および酵素処理法の中で一つ以上の方法を利用するものである請求項7に記載の方法。
【請求項13】
上記の後処理工程が限外濾過法、透析法、サイズ排除法、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ポリマー沈殿法または塩沈殿法を利用するものである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記工程(a)の前、工程(b)の後、工程(c)の後、または工程(d)の後で、バクテリア由来の核酸粒子を除去するための酵素処理工程をさらに含む請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
上記の酵素処理工程がベンゾナーゼ(benzonase)を利用するものである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記のベンゾナーゼ処理と併用してまたはベンゾナーゼ処理の後で、イオン交換クロマトグラフィーを実施することをさらに含む請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリア由来の細胞外小胞体(extracellular vesicles、EV)を高純度で大量精製できる効率的な方法を提供することである。具体的には、本発明はカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを利用して大量のバクテリア細胞培養物から高純度のバクテリア由来の細胞外小胞体を迅速かつ容易に分離および精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリアを含むすべての細胞は、細胞外小胞体を自然に分泌することが知られている。バクテリア由来の細胞外小胞体は、約10 nm乃至1000 nmのサイズを有する小胞であり、タンパク質、脂質、遺伝物質(DNA、RNA)、病毒性因子(virulence factor)など起源のバクテリアの様々な生物学的活性物質を含んでいる。バクテリア由来の細胞外小胞体はグラム陰性(Gram-negative)バクテリア由来の細胞外小胞体およびグラム陽性(Gram-positive)バクテリア由来の細胞外小胞体に分類することができ、グラム陰性バクテリアから分泌される細胞外小胞体は外膜小胞体(outer membrane vesicle、OMV)としても知られている。これらのバクテリア由来の細胞外小胞体は、同種バクテリア間のタンパク質または遺伝物質の伝達などの情報伝達体としての機能や競争バクテリアの除去、バクテリアの生存増進に寄与し、宿主に病原性毒素などを伝達することにより、バクテリア感染症に関与することが知られている。
【0003】
最近、様々なバクテリア由来の細胞外小胞体ががんをはじめとする様々な疾患に対して直接的な治療効能があり、これらの疾患を治療するための薬物送達体としても効果的に作用することが明らかになった(韓国登録特許公報第10-1752506号)。また、バクテリア由来の細胞外小胞体は髄膜炎など、病原性バクテリアによる感染症を予防または治療するためのワクチンとしての応用研究開発も行われている。このようなバクテリア由来の細胞外小胞体は生きている細胞ではないため、長く保管して輸送することができ、感染の懸念が低い利点がある。
【0004】
バクテリア由来の細胞外小胞体の疾患治療を含む様々な使用への活用可能性が増大しつつ、バクテリア細胞培養物からバクテリア由来の細胞外小胞体を大量に得る方法が必要となった。しかし、バクテリア由来の細胞外小胞体はサイズがナノメートルレベルに小さく、バクテリア細胞培養物には細胞外小胞体以外にも細胞外小胞体と同様の密度、質量、大きさや電荷などを有する他のタンパク質粒子(例えば、フラジェリン(flagellin)タンパク質粒子)と核酸粒子など、数多くの微細物質が存在するため、細胞外小胞体の構造と機能を完全に保存しながら、大量のバクテリア細胞培養物からバクテリア由来の細胞外小胞体を純粋に分離することが難しくなる。
【0005】
従来のバクテリア由来の細胞外小胞体の分離技術では密度差分離法、粒径分離法、免疫親和性分離法などが知られており、例えば、超遠心分離法(ultra-centrifugation)(Momen-Heravi et al., Methods Mol. Biol., 1660:25-32, 2017) 、 サイズ排除法(size exclusion) (Gamez-Valero et al., Sci. Rep. 6: 33641, 2016) 、免疫親和性分離法 (immunoaffinity isolation)、マイクロ流体チップ技術 (microfluidics chip)とポリマー沈殿法(polymer precipitation) (Niu et al.、 PLoS ONE、 0186534、2017)などが使用されている。
【0006】
密度差分離法は細胞外小胞体の密度が1.13乃至1.19程度であるのに対し、液体の密度が1.0程度のものを用いて分離する方法で、代表的に超遠心分離法が最も広く使用されているが、原理が簡単で最も信頼性の高い分離方法である。しかし、分離工程が複雑で労力と時間がかかり、高価な装置を必要とするだけでなく、一度に許容される流体の量が最大0.6Lレベルに過ぎず、収率と純度が著しく低い限界があり、大量のバクテリア由来の細胞外小胞体を得るのには適さない。
【0007】
サイズ排除法は、バクテリア由来の細胞外小胞体より細孔サイズが小さいかまたは類似のフィルターを用いて細胞外小胞体を濾過する方法で、反応時間を必要とせず、分離時間が短く、細胞外小胞体の純度を高めることができるという利点がある。しかし、細胞外小胞体がフィルターに付着したり抜けたりする割合が高く、分離後の収率が低いという限界がある。
【0008】
免疫親和性分離法は、抗体をバクテリア由来の細胞外小胞体に貼り付けて分離する方法で、特定性(specificity)が非常に高いという利点があるが、抗体を作るプロセスが長く、高い費用がかかるため、実用性の問題が提起される。
【0009】
ポリマー沈殿法は、ポリエチレングリコール(polyethyleneglycol、PEG)などの親水性ポリマーを追加して、バクテリア由来の細胞外小胞体の溶解度を減少させ、溶出及び沈殿させる方法で、少ない遠心力で分離させることができる利点を有している。しかし、添加されたポリマーによって試料溶液内部に存在するタンパク質が一緒に沈殿しつつ、タンパク質による汚染問題が発生する問題がある。
【0010】
現在、グラム陰性バクテリアのOMV分離キットとして、SBI社の製品(ExoBacteria(商標) OMV Kit)が市販されている。しかし、OMV親和性樹脂カラムを使用する上記製品は、1回カラムへの分離容量が30 mLに過ぎず、大量生産工程には適さない。
【0011】
したがって、バクテリア由来の細胞外小胞体に適用可能な簡便な大量精製方法が必要であり、その構造と機能を保存しながら、バクテリアの他のタンパク質粒子(例えば、フラジェリン粒子)や核酸粒子からバクテリア由来の細胞外小胞体を高純度、高効率で分離および精製できる方法が切実に求められている実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Momen-Heravi et al., Methods Mol. Biol., 1660: 25-32, 2017
【非特許文献2】Gamez-Valero et al., Sci. Rep. 6:33641, 2016
【非特許文献3】Niu et al., PLoS ONE, 0186534, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、大量のバクテリア細胞培養物を処理し、それから高純度のバクテリア由来の細胞外小胞体を容易かつ迅速に分離および精製する方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらなる目的は、従来の分離技術を用いる場合、バクテリア由来の細胞外小胞体以外に他のタンパク質粒子や核酸粒子などが一緒に分離される問題を解決した、バクテリア由来の細胞外小胞体に適用可能な高純度及び高効率の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、カルシウムカチオンまたはコバルトカチオンがバクテリア由来の細胞外小胞体の高純度精製を可能にし、大量処理に有用であるという予想外の研究結果に基づいて完成したものである。
【0016】
本発明では、バクテリア細胞培養物にカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを処理して反応させると、バクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンが結合して不溶性複合体を形成する。このとき、カルシウムカチオンまたはコバルトカチオンは、バクテリア由来の細胞外小胞体以外のバクテリア由来の他のタンパク質粒子や核酸粒子が一緒に共沈することを効果的に抑制することにより、バクテリア細胞培養物からバクテリア由来の細胞外小胞体を高純度で分離および精製することができる。形成されたバクテリア由来の細胞外小胞体-カルシウムカチオンの複合体またはバクテリア由来の細胞外小胞体-コバルトカチオンの複合体は、遠心分離や重力による沈殿など様々な方法により分離され、その後、上記の複合体からカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを脱着することにより、バクテリア由来の細胞外小胞体を高効率で簡便に精製することができる。
【0017】
本発明は、(a)バクテリア細胞培養物にカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを添加する工程;(b)上記のバクテリア細胞培養物に含まれるバクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンとを反応させて不溶性複合体を形成する工程;(c)上記のバクテリア細胞培養物からバクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオンの複合体またはバクテリア由来の細胞外小胞体とコバルトカチオンの複合体を分離する工程;および (d)上記の複合体からカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを分離して、バクテリア由来の細胞外小胞体を精製する工程を含む、バクテリア由来の細胞外小胞体の大量精製方法を提供する。
【0018】
本発明の方法は、バクテリア細胞培養物の処理量に制限がなく、大量処理が可能である。したがって、本発明の方法は、大量のバクテリア細胞培養物を処理して、多量の高純度バクテリア由来の細胞外小胞体を簡便かつ迅速に精製することができ、商業規模で実施することができる。
【0019】
本発明の「バクテリア由来の細胞外小胞体」は、バクテリアから起源の外膜小胞体、シェーディング小胞体(shedding vesicle)、エクソソーム(exosome)、エクトソーム(ectosome)、マイクロベシクル(microvesicle)、マイクロパーティクル(microparticle)、ナノベシクル(nanovesicle)などと呼ばれこともあり、これらはいずれも、本発明のバクテリア由来の細胞外小胞体の範囲に含まれるものとして理解される。また、グラム陰性バクテリア由来の細胞外小胞体には外膜由来の細胞外小胞体、内膜由来の細胞外小胞体、そして内膜/外膜由来の細胞外小胞体(外膜と内膜の成分が同時に存在するかまたは外膜内に内膜がある形態、逆に内膜内に外膜がある形態など)が含まれており、これらもやはり本発明のバクテリア由来の細胞外小胞体に含まれるものとして理解される。
【0020】
本発明の「バクテリア細胞培養物」は、バクテリア(遺伝子工学的に改変されたバクテリアを含む)細胞を培養培地で培養した培養液を意味する。上記の培養培地はバクテリア細胞を培養するために使用されるものであれば、特に限定されず、血清、組織抽出物など組成が不明な自然由来の素材を用いた「自然培地」と成分構成と化学的性状が明らかな物質のみで製造した「化学組成培地」を含む。均一な効果を示すバクテリア由来の細胞外小胞体を産生するために、上記のバクテリア細胞培養物はバクテリアを化学組成培地で培養することが好ましい場合がある。本発明で使用することができる化学組成培地は、M9培地、DMEM培地(Dulbecco's modified Eagle's medium)およびRPMI 1640培地(Roswell Park Memorial Institute medium 1640)からなる群から選択することができるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明で使用されるバクテリアの種類は特に限定されず、本発明において「バクテリア」は、天然に存在するグラム陰性およびグラム陽性バクテリア、および遺伝子工学的に改変されたバクテリアを含む。
【0022】
上記の遺伝子工学的に改変されたバクテリアは、上記の細胞外小胞体の毒性が弱まるように形質転換されたバクテリアを含み、その例として、内毒素(endotoxin)産生遺伝子が欠損、または改変されたバクテリアが挙げられる。好ましくは、脂質多糖類の毒性が弱まるように形質転換されたグラム陰性バクテリア、またはリポタイコ酸の毒性が弱まるように形質転換されたグラム陽性バクテリアであり得る。より好ましくは、脂質多糖類の脂質成分である脂質Aアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(msbB)が欠損するように形質転換された(△msbB)バクテリア、最も好ましくは△msbB形質転換の大腸菌であり得るが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の一実施形態では、カルシウムカチオンまたはコバルトカチオンの濃度は1乃至1000 mMであり、好ましくは1乃至500 mM、1乃至100 mM、5乃至100 mM、5乃至50 mM、5乃至20 mM、5乃至15 mM、または5乃至10 mMである。特に好ましくは、カルシウムカチオンまたはコバルトカチオンの濃度は5乃至20 mMである。カルシウムカチオンまたはコバルトカチオンの濃度が5 mM未満であれば、バクテリア由来の細胞外小胞体の沈殿が不十分であり、カルシウムカチオンまたはコバルトカチオンの濃度20 mM以上では、カチオンの濃度をさらに高めても得られるバクテリア由来の細胞外小胞体の量が比例して増加しない。
【0024】
本発明の一実施形態では、カルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを添加する方法は、バクテリア細胞培養物にカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを含む溶液を添加する方法と、固体形態で添加して溶解させる方法を含むが、カチオン状態でバクテリア細胞培養物内の細胞外小胞体と反応できる形態であれば、特に限定されない。
【0025】
細胞外小胞体はカチオンと特異的に結合して不溶性細胞外小胞体カチオンの複合体を形成し、上記の不溶性複合体は重力によって沈むので、容易に分離することができる。しかし、バクテリア細胞培養物には、バクテリア由来の細胞外小胞体と同様の質量、密度、サイズ、または電荷を有する多数のバクテリア由来のタンパク質粒子や核酸粒子などの不純物が多量に含まれており、カチオンによるバクテリア由来の細胞外小胞体の沈殿時に、上記の不純物粒子が共沈して汚染されやすい。上記の不純物粒子としては、バクテリアの鞭毛に由来するフラジェリンタンパク質粒子や核酸粒子などがある。
【0026】
ところで、本発明の方法において、カルシウムカチオンは、バクテリア細胞外小胞体と共に不溶性複合体を形成および沈殿する際、バクテリア由来のフラジェリンのような不純物タンパク質粒子や核酸粒子が共沈することを効果的に抑制することができる。
【0027】
本発明の一実施形態では、バクテリア細胞培養物からバクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオンの不溶性複合体またはバクテリア由来の細胞外小胞体とコバルトカチオンの不溶性複合体を分離する工程(工程(c))に用いられる方法は、水溶性物質を含む試料から不溶性物質を分離するのに使用される方法であれば、特に制限されず、遠心分離法、超遠心分離法、濾過法、限外濾過法、重力、透析法、音波処理法、密度勾配法、サイズ排除法などの方法を選択することができるが、これに限定されない。好ましくは、本発明の工程(c)に濾過法、遠心分離法または限外濾過法を用いることができる。
【0028】
本発明の一実施形態では、上記の複合体からカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを分離してバクテリア由来の細胞外小胞体を精製する工程(工程(d))に用いられる方法は、バクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンの特異的結合状態を除去して複合体からバクテリア由来の細胞外小胞体のみを分離できる方法であれば、特に限定されず、本発明が属する技術分野の当業者が理解できる様々な方法、または条件を適用することができる。
【0029】
本発明の一実施形態では、上記の工程(d)は分離されたバクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオン複合体またはバクテリア由来の細胞外小胞体とコバルトカチオン複合体にキレート剤を添加する方法を用いることができる。
【0030】
本発明において、用語「キレート剤」は、金属イオンに配位して安定なキレート錯体を形成する2つ以上の配位原子を含むイオン、分子または原子団を意味し、配位原子の数に応じて三座配位子(tridentrate ligand)、四座配位子(tetradentrate ligand)、五座配位子(pentadentrate ligand)、六座配位子(hexadentrate ligand)などと呼ぶ。本発明のキレート剤は、イミノ二酢酸(IDA、iminodiacetic acid)、ニトリロ三酢酸(NTA、nitrilotriacetic acid)、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED、tris-(carboxymethyl)ethylenediamine)、エチレンジアミン(ethylenediamine)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA、ethylendiamine tetraacetate)、アルキレンジアミン三酢酸(alkylenediamine triacetic acid)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA、diethylenetriaminepentaacetic acid)、エチレングリコールビス(β-aminoethyl ether)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA、ethylene glycol-bis([3-aminoethyl ether)-N,N,N',N'- tetraacetic acid)、ホスホセリン(phosphoserine)および1,4,7-トリアゾシクロノナン(TACN、1,4,7-triazocyclononane)からなる群から一つ以上を選択することができるが、本発明で使用されるカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンに特異的に結合して複合体からカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを特異的に分離することができるのであれば、これに限定されない。
【0031】
本発明の一実施形態では、上記の工程(d)は分離されたバクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオンの複合体またはバクテリア由来の細胞外小胞体とコバルトカチオンの複合体を含む溶液のpH値を変化させる方法を使用することができる。
【0032】
本発明の一実施形態では、工程(d)は分離されたバクテリア由来の細胞外小胞体とカルシウムカチオンの複合体またはバクテリア由来の細胞外小胞体とコバルトカチオンの複合体を含む溶液で、イミダゾール(imidazole)、ヒスチジン(histidine)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)または塩(salts)の濃度を変化させることによって、複合体からバクテリア由来の細胞外小胞体を分離する方法を使用することができる。好ましくは、本発明の工程(d)は、pH 10以下の緩衝液、0乃至5 MのNaCl、0乃至2 Mのイミダゾール、0乃至2 Mの金属キレート剤または上記の条件の組み合わせを適用することができるが、これに限定されない。
【0033】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は上記のバクテリア細胞培養物にカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンを添加する前(すなわち、工程(a)以前)バクテリア細胞培養物の前処理工程をさらに含み得る。
【0034】
本発明の上記の前処理工程は、バクテリア細胞培養物を濃縮して、その後の精製工程に投入される試料の量を減らすと同時に、非精製バクテリア細胞培養物からバクテリア細胞を除去するか、またはバクテリア由来の他のタンパク質粒子または核酸粒子を除去するための部分精製工程として、遠心分離法、濾過法、限外濾過法、サイズ排除法、脱塩カラムクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ポリマー沈殿法、塩沈殿法、有機溶媒沈殿法、水性二相系法および酵素処理法の中で一つ以上の方法を選択することができるが、これらに限定されない。好ましくは、上記の前処理工程で遠心分離法、濾過法、ポリマー沈殿法または塩沈殿法を用いることができる。接線流濾過法(TFF:tangential flow filtration)が最も好ましい。
【0035】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は上記の工程(d)の後、精製されたバクテリア由来の細胞外小胞体を後処理することをさらに含み得る。
【0036】
本発明の上記の後処理工程は、精製されたバクテリア由来の細胞外小胞体の追加精製工程として、遠心分離法、濾過法、限外濾過法、透析法、音波処理法、密度勾配法、サイズ排除法、脱塩カラムクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ポリマー沈殿法、塩沈殿法、有機溶媒沈殿法、水性二相系法および酵素処理法の中で、一つ以上の方法を選択することができるが、これらに限定されない。好ましくは、上記の後処理工程で限外濾過法、透析法、サイズ排除法、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ポリマー沈殿法または塩沈殿法を使用することができ、限外濾過法またはサイズ排除法が特に好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は上記のカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンによる沈殿工程の以前または以後、バクテリア由来の細胞外小胞体以外の他のタンパク質粒子または核酸粒子を除去するための濾過工程をさらに含み得る。
【0038】
本発明の一実施形態では、本発明の方法はカルシウムカチオンまたはコバルトカチオンによる沈殿工程の以前または以後、バクテリア由来の核酸粒子を除去するための酵素処理工程をさらに含み得る。上記の酵素は、バクテリア細胞培養物から核酸粒子を分解するために使用できる酵素であれば特に限定されず、例えばベンゾナーゼ(benzonase)などを用いることができるが、これらに限定されない。上記の酵素処理工程は、好ましくはベンゾナーゼと組み合わせて、またはベンゾナーゼ処理後にイオン交換クロマトグラフィーを実施することができる。
【0039】
本発明のバクテリア由来の細胞外小胞体の大量精製方法は分離効率を最大化するために、必要に応じて従来の分離技術と併用されることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によるバクテリア由来の細胞外小胞体の大量精製方法は、フラジェリンのようなバクテリア由来のタンパク質粒子または核酸粒子を効率的に除去することができ、分離過程で極端な環境にさらされないため、バクテリア由来の細胞外小胞体の構造や機能を保存しながら効果的に精製することができる。
【0041】
また、本発明の方法は、バクテリア細胞培養物の処理量に制限がなく、大量のバクテリア細胞培養物を処理してバクテリア由来の細胞外小胞体を多量に得ることができ、高価な機器や抗体などの材料を必要とせず、高い収率と純度を達成することができるので、高純度バクテリア由来の細胞外小胞体を商業規模で簡便に得ることができる。
【0042】
特に、カルシウムカチオンは人体に無害であるため、カルシウムカチオンを用いて本発明の方法により得られたバクテリア由来の細胞外小胞体は人体用医薬品として開発するには、より有利である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1a】
図1aは、無細胞(cell-free)バクテリア細胞培養物に含まれる不純物を示す総タンパク質染色写真およびOmpAとFliCウェスタンブロットの写真である。
【
図1b】
図1bは、無細胞バクテリア細胞培養物に含まれる不純物を示すHPLC分析結果を示すグラフである。
【
図2a】
図2aは、6種の金属カチオンおよびポリマー(PEG)を用いたバクテリアEVの沈殿分離精製能を示す総タンパク質染色写真およびOmpAとFliCウェスタンブロットの写真である。
【
図2b】
図2bは、6種の金属カチオンを用いたバクテリアEV沈殿分離物のHPLC分析結果を示すグラフである。
【
図2c】
図2cは、6種の金属カチオンを用いたバクテリアEV沈殿分離物にベンゾナーゼを処理して核酸を除去した後のHPLC分析結果を示すグラフである。
【
図3a】
図3aおよび
図3bは、様々な濃度のカルシウムを処理して得られたEV沈殿物のHPLC分析結果を示すグラフである。
【
図3b】
図3aおよび
図3bは、様々な濃度のカルシウムを処理して得られたEV沈殿物のHPLC分析結果を示すグラフである。
【
図3c】
図3cは、様々な濃度のカルシウムまたはPEGを処理して得られたEV沈殿物の総タンパク質染色写真である。
【
図4】
図4は、本発明の精製方法をパイロット規模の50リットル培養物に対して実施して得られたバクテリアEVのSEC-HPLC(a)、DLS(b)およびNTA(c)分析結果を示す。
【
図5】
図5は、
図4で得られたバクテリアEVの投資電子顕微鏡写真(a)、SDS-PAGE分析写真(b)、OmpAウエスタンブロット写真(c)、およびナノフローサイトメトリーの結果を示すグラフ(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に例示するためのものであり、本発明の正当な権利範囲を制限するために提供されるものではないことを理解すべきである。
【0045】
本発明は、後述する特許の請求範囲の記載およびそれから解釈される均等カテゴリー内で様々な変形及び応用が可能である。
【0046】
実施例1:無細胞(cell-free)バクテリア細胞培養物の不純物の確認および除去
E. coli W3110(msbB mutant)培養物を6000 xgで20分間、遠心分離して沈殿した細胞を除去し、上澄み液を接線流フィルター(TFF)に通過させて10倍濃縮した。10Xに濃縮されたセルフリー細胞培養物1 mLをそれぞれ氷と37℃で30分間放置した後、遠心分離(12000 xg、10分)した。一方、10Xに濃縮されたセルフリー細胞培養物1mLは0.2 μmフィルターを通して濾過した後、得られた濾液を遠心分離(12000 xg、10分)した。遠心分離後に得られたペレットはHBS緩衝液に懸濁した後、タンパク質分析とHPLC分析を行い、その結果を
図1aおよび
図1bに示した。
【0047】
分析対象物質のタンパク質構成パターンを分析するために、同一体積または同一タンパク質含量の各試料に0.1%SDSを添加し、100℃で5分間加熱して変性(denaturation)した後、SDS-polyacrylamide gel(4-20% linear gradient)の各wellにロードして電気泳動を行った。総タンパク質染色のため、Simply Blue(SimplyBlue(商標)、 Invitrogen)溶液と反応させた後、各試料を構成する総タンパク質パターンを分析した。
【0048】
また、分析対象試料のFliCとOmpAタンパク質の含量をさらに分析するために、各試料をSDS-PAGE実施後、PVDF membraneにelectrotransferを介してblotを作製した。準備されたblotとin-house製作されたRabbit polyclonal anti-FliCまたはRabbit polyclonal anti-OmpAの抗体溶液と4時間以上反応させた後、blotを洗浄し、二次抗体、HRP-conjugated anti-rabbit IgG 抗体(Santa Cruz)溶液と1時間反応させた後、洗浄した。その後、ECL(Enhanced chemiluminescene, Thermo Scientific)溶液で発光反応を誘導して、FliCまたはOmpAタンパク質の発光シグナルを検出した。
【0049】
上記分析に加えて、各分析対象物質に対するクロマトグラムおよび波長別の吸光度の差を分析するために、SEC-HPLCシステム(Ultimate 3000, Thermo Scientific)と多波長UV Detectorによる各物質に対する多波長吸光のクロマトグラムを記録し、分析した。具体的には、固定相でセパクリルS300(GE healthcare)サイズ排除クロマトグラフィーカラム(10×100 mm)を用い、移動相の緩衝液(20 mM HEPES 、500 mM NaCl、pH 7.2)を0.5 mL/minの流速で平衡化した後、50 μLの各試料を注入した。試料注入後に溶出する溶液の260 nm、280 nm、450 nmの波長の吸光度を同時にリアルタイムで記録し、吸光クロマトグラムを得て、それを分析した。バクテリア由来の細胞外小胞体を含む様々な粒子は、対応するカラムおよび溶出条件で約4.9~5.2分でピークが検出され、その後、溶出されるピークは、様々な物質からなるサイズの小さい非粒子状物質である(これらの非粒子性物質は透析法などで容易に除去することができる)。
【0050】
12000 xgで10分間の遠心分離では細胞外小胞体(EV)が沈殿しないので、上記の遠心分離で得られたペレットの分析により、バクテリア細胞培養物に含まれる不純物を確認することができた。
【0051】
ペレットのタンパク質分析結果(
図1a)と同様に、不純物で様々なサイズのタンパク質バンドが観察され、ウエスタンブロットで確認した結果、OmpAを含むタンパク質粒子とフランジェリン(FliC)が多量含まれていることを確認した(
図1aの一番目と二番目のレーン)。一方、遠心分離工程の前に、0.2 μmフィルターに通過させた場合、これらの不純物が著しく除去されることが確認された(
図1aの三番目のレーン)。
【0052】
同様に、これらのペレットのHPLC結果(
図lb)を見ると、5分付近に見られる粒子性不純物ピークが0.2 μmフィルターを通過した場合(F22)、ほとんど消えたことを確認した。すなわち、無細胞バクテリア細胞培養物に含まれるこれらの粒子状不純物は、0.2 μmフィルターで濾過すると、ほとんど除去できた。
【0053】
上記の粒子状不純物は、サイズが非常に大きい粒子として、細胞死の生成物であるかまたは変形された不活性化の細胞外小胞体である可能性があり、EV沈殿分離時、EVと一緒に沈殿することができ、EVの最終精製後にはOmpAを有するEV粒子と区別が難しいことがあるので、EV沈殿工程の前後に濾過法などにより除去することが好ましい。本発明の後続の実施例では、EV沈殿工程の前に除去した。
【0054】
実施例2:様々な沈殿法を用いたバクテリアEV分離精製効力試験
様々な金属カチオン(Ca、Co、Cu、Mn、Ni、Zn)とポリマー(PEG)を用いてバクテリアEVの分離精製効力を比較した。
【0055】
実施例1の10Xに濃縮された無細胞細胞培養物を0.2 μmフィルターに通した後、それぞれ6種の金属カチオン(Ca、Co、Cu、Mn、Ni、Zn)25 mMまたは12% PEG6000を添加した後、10分間放置し、12000 xgで10分間遠心分離し、ペレットを得て、ペレットに対して実施例1と同様のタンパク質分析およびHPLC分析を行い、その結果を
図2a乃至
図2cに示した。
【0056】
図2aの総タンパク質染色結果を見ると、Cu、ZnはEVに加えて多数の様々なタンパク質不純物が多数共沈(co-precipitation)されることが分かる。PEGの場合も多数のタンパク質不純物が共沈し、特にFliC不純物量が多いことを観察した。
【0057】
図2aのウエスタンブロット結果を見ると、Niの場合は比較的OmpA信号が低く、EV取得効率が低いことがわかる。
【0058】
その結果、他の不純物を除くEV取得の観点からCa、Co、Mnが優れていた。
【0059】
図2bに示すように、HPLC結果も同様の結果を示す。すなわち、Ca、Co、Mnの場合、比較的不純物の濃度が低く、Niの場合は5分付近のEVに当たるピーク信号が弱いことがわかる。
【0060】
ところで、ベンゾナーゼを処理して核酸を除去した後のHPLC結果(
図2c)と比較してみると、Co、Cu、Mn、Znの場合、ベンゾナーゼ処理前には、核酸粒子が多数含まれていることがわかる。
【0061】
結局、カルシウム(Ca)を用いて沈殿させたとき、フラジェリンや他のタンパク質粒子、核酸粒子の不純物が最も効果的に除去されながらも、細胞外の小胞体(EV)を最も効率的に得ることができた。
【0062】
実施例3:カルシウム濃度によるEV精製効率試験
様々な濃度のカルシウム(Ca)を用いてバクテリアEVの分離精製効力を比較した。
【0063】
実施例1の10Xに濃縮した無細胞細胞培養物を0.2 μmフィルターに通過させた後、様々な濃度のカルシウムカチオンを加えた後、10分間放置し、12000 xgで10分遠心分離してペレットを得て、ペレットに対して実施例1と同様の方法でHPLC分析およびタンパク質分析を行い、その結果を
図3a乃至
図3cに示した。
【0064】
図3a及び
図3bのHPLC結果を見ると、カルシウムイオン濃度を5 mMから100 mMまで高めながら実験した結果、試験した最低濃度の5 mMからもEVが沈殿し、カルシウム濃度が高くなるほどEV沈殿率が増加するが、20 mM以上では、カルシウム濃度を高めても分離されるEV量は比例して増加しなかった。
【0065】
図3cの総タンパク質分析結果は、カルシウム濃度を100 mMまで増加させても総タンパク質パターンにほとんど変化がなかった(
図3cの写真左)、PEG沈殿結果と比較すると、EVと一緒に沈殿する不純物タンパク質の種類と量が大幅に減少したことが確認できた(
図3cの写真右)。
【0066】
実施例4:バクテリア細胞外小胞体(EV)の量産精製
バクテリア細胞外小胞体の大量精製のために、75リットルの発酵槽システムを利用してE. coli BL21(DE3) △msbB strainを好気的条件で16時間培養した後、6000 xg、20分間の遠心分離により細胞が除去された培養液を調製した。当該培養液を0.2 μmフィルターに濾過した後、100 kDa MWCO(Molecular weight cut-off)のメンブレンフィルターと接線誘導限外濾過により10X濃縮した培養液を生産した。濃縮した培養液を50 μMのPMSF(phenylmethylsulfony fluoride)を加えて、30分間振盪反応させてタンパク質分解酵素を不活化した。当該濃縮培養液を再び0.2 μmフィルターに通した後、2 mMのMgSO4とベンゾナーゼ(250 U/100 mL)を加えて、常温で1時間振盪反応させて不純物粒子を除去した。上記の培養液に25 mMのCaCl2を含む緩衝溶液(pH 7.2)を加え、1時間冷蔵振盪反応させてバクテリアEVを選択的に沈殿させた。当該反応物を13000 xg、40分間遠心分離して沈殿体を集めた後、これをキレート剤が含まれる緩衝溶液(pH 7.2)に振盪反応して溶かし、0.2 μmフィルターに濾過した。その後、バクテリアEVより分子量の小さい非粒子性の汚染体および緩衝溶液の交換のために、100 kDa MWCOの透析膜に当該溶液を入れ、4℃で計18時間、5回透析液を交換しながら、バクテリア細胞外小胞体をさらに精製した。
【0067】
その結果、50リットルの培養液で計200 mgのバクテリア細胞外小胞体を採取し(4 mg/Liter-培養液)、上記方法で精製したバクテリアEVをSEC-HPLCにより分析した結果、260 nmおよび280 nm吸光度基準、99%以上の高い純度が確認された(
図4a)。また、Dynamic Light Scattering(DLS)分析を通じて当該バクテリアEVの平均粒径が24.3(±5.09)nmであり、粒子均一度のバロメーターであるPolydispersity Index(PDI)は0.304(±0.036)で、かなり均一な粒子で構成されたことを確認した(
図4b)。そして、 Nanoparticle Tracking Analysis(NTA)分析およびBradfordタンパク質定量分析により、Particle/Protein Indexは3.3で、単位タンパク質あたり3.3×10
9個の非常に高レベルの粒子で構成されることを確認した(
図4c)。
【0068】
さらに、当該の精製されたバクテリアEVの小胞体形態および脂質二重層の構造を確認するために、透過電子顕微鏡分析を行った。その結果、上記方法で精製したバクテリアEVは全て脂質二重層構造を有し、均一な球状の典型的な小胞体の形態であることを確認し(
図5a)、SDS-PAGE分析を通じて当該菌株から分泌されるバクテリアEVは10以上のmajor proteinと様々なminor proteinで構成されていることがわかり(
図5b)、また大腸菌の主な外膜タンパク質であるOmpA抗体を用いてウェスタンブロットを行った結果、本技術で精製したバクテリアEVにOmpAが強く検出されることを確認した(
図5c)。これに加えて、nano flowcytometry分析により、OmpAタンパク質シグナルがほとんどのナノ粒子から検出されることを確認することによって、精製されたバクテリアEVは、ほとんどOmpAタンパク質を発現していることが確認された(
図5d)。
【0069】
このように本発明によるカルシウム沈殿法を用いる場合、高価な機器や抗体などの材料がなくても、大容量のバクテリア培養物から高い収率と純度を有するバクテリアEVを大量に精製することができた。さらに、精製されたEVは極端な環境にさらされないため、バクテリア由来の細胞外小胞体の構造や機能をよく保存しながら効果的に精製することができる。
【国際調査報告】