(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】磁束同調可能な素子を備えた超伝導回路、及び超伝導回路における磁束同調可能な素子間の磁束クロストークを最小化する方法
(51)【国際特許分類】
H10N 60/10 20230101AFI20240614BHJP
G06N 10/40 20220101ALI20240614BHJP
【FI】
H10N60/10 K ZAA
G06N10/40
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023578785
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 FI2021050477
(87)【国際公開番号】W WO2022269121
(87)【国際公開日】2022-12-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519394241
【氏名又は名称】アイキューエム フィンランド オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】オクケロエン-コルッピ キャスパー
(72)【発明者】
【氏名】ラビナ ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】ヘインスー ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ハッセル ユハ
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AC45
4M113AD42
4M113AD51
(57)【要約】
超伝導回路は、第1磁束同調可能な素子及び第2磁束同調可能な素子(501、502)を含む。これらのそれぞれは、それぞれの磁束感応部分を有する。第1電流駆動型超伝導オンチップ磁束バイアスライン及び第2電流駆動型超伝導オンチップ磁束バイアスラインが設けられる。これらのそれぞれは、それぞれの磁束同調可能な素子(501、502)の磁束感応部分に隣接して通過する。複数の第1超伝導迷走電流経路は、第1磁束同調可能な素子に隣接して存在する。複数の第2超伝導迷走電流経路は、第2磁束同調可能な素子に隣接して存在する。超伝導迷走電流経路は、一方の磁束同調可能な素子(501)の磁束線から生じる迷走電流(506、507)を、他方の磁束同調可能な素子(502)の周りにそれぞれ複数の迷走電流に分配する。このようにして、迷走電流(506、507)は、他方の磁束同調可能な素子(502)の電気的特性を変化させることを防止する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がそれぞれの磁束感応部分を有し、磁束同調可能な素子の電気的特性がそれぞれの前記磁束感応部分の位置における磁束に依存する第1磁束同調可能な素子及び第2磁束同調可能な素子と、
各々がそれぞれの前記磁束同調可能な素子の磁束感応部分に隣接して通過する、それぞれ第1磁束線及び第2磁束線と呼ばれる、第1電流駆動型超伝導オンチップ磁束バイアスライン及び第2電流駆動型超伝導オンチップ磁束バイアスラインと、
前記第1磁束同調可能な素子に隣接する複数の第1超伝導迷走電流経路と、
前記第2磁束同調可能な素子に隣接する複数の第2超伝導迷走電流経路と、を含み、
前記複数の第1超伝導迷走電流経路及び前記複数の第2超伝導迷走電流経路のそれぞれは、他方の前記磁束同調可能な素子の磁束線から生じる迷走電流を、それぞれの前記磁束同調可能な素子の周りにそれぞれの複数の迷走電流に分配することにより、前記複数の迷走電流がそれぞれの前記磁束同調可能な素子の電気的特性を変化させることを防止するように構成される、超伝導回路。
【請求項2】
前記第1磁束同調可能な素子及び前記第2磁束同調可能な素子の周りに共通の超伝導グランドプレーンを含み、
前記複数の迷走電流は、それぞれの前記磁束感応部分の位置で互いに打ち消し合う磁束を誘導するように構成される、請求項1に記載の超伝導回路。
【請求項3】
前記第1磁束線及び前記第2磁束線のそれぞれは、それぞれの第1終端部又は第2終端部により前記共通の超伝導グランドプレーンで終端し、
前記第1終端部及び前記第2終端部の間の最短の直接経路は、前記共通の超伝導グランドプレーンにおける少なくとも1つのギャップにより切断され、
前記超伝導回路は、前記第1終端部及び前記第2終端部のそれぞれに隣接して、前記少なくとも1つのギャップを横切るそれぞれの超伝導ブリッジ接続部を含み、その結果として、所与の終端部について、それぞれの超伝導ブリッジ接続部を流れる任意の電流は、同じ電流が前記終端部を通って前記共通の超伝導グランドプレーンに、又はそこから流れる方向とは逆に向けられる、請求項2に記載の超伝導回路。
【請求項4】
前記第1磁束線及び前記第2磁束線のそれぞれは、それぞれの前記磁束感応部分に隣接して位置する磁束誘導部を含み、
前記第1終端部及び前記第2終端部のそれぞれは、それぞれの前記磁束誘導部から続き、前記磁束誘導部と平行であるが、電流に関して逆方向であり、それぞれの前記磁束感応部分からそれぞれの前記磁束誘導部より遠く位置し、
前記超伝導ブリッジ接続部のそれぞれは、それぞれの前記磁束誘導部及び前記終端部と平行であり、前記磁束誘導部及び前記終端部の間の点を、前記ギャップの反対側にある前記共通の超伝導グランドプレーンにおける点に接続する、請求項3に記載の超伝導回路。
【請求項5】
前記超伝導ブリッジ接続部は、エアブリッジを通過する、請求項3又は4に記載の超伝導回路。
【請求項6】
前記超伝導ブリッジ接続部は、超伝導多層構造における専用層を通過する、請求項3又は4に記載の超伝導回路。
【請求項7】
前記第1磁束線及び前記第2磁束線のそれぞれは、電流源とそれぞれの前記磁束同調可能な素子の間にそれぞれの引込み線及び引出し線を備えた差動駆動電流ループと、それぞれの前記磁束感応部分に隣接する、前記引込み線及び前記引出し線の間の磁束誘導部とを含み、
前記第1磁束線及び前記第2磁束線のそれぞれは、それぞれの磁束線の両側に延びるギャップにより前記共通の超伝導グランドプレーンから分離され、
前記超伝導回路は、前記第1磁束誘導部に隣接して、前記ギャップを横切る第1接地接続部を含み、
前記超伝導回路は、前記第2磁束誘導部に隣接して、前記ギャップを横切る第2接地接続部を含み、
前記超伝導回路は、それぞれの前記ギャップ、前記引込み線、前記引出し線及び前記ギャップの集合に横切る超伝導ブリッジ接続部を含み、前記超伝導ブリッジ接続部のそれぞれは、それぞれの前記磁束感応部分からそれぞれの前記接地接続部より遠く位置する、請求項2に記載の超伝導回路。
【請求項8】
前記超伝導ブリッジ接続部のそれぞれは、それぞれの前記磁束感応部分から距離を置いて位置し、前記他方の磁束同調可能な素子の磁束線から生じる迷走電流は、前記超伝導ブリッジ接続部を通る第1迷走電流成分と、前記一方の磁束同調可能な素子を循環する第2迷走電流成分とに分配され、その結果として、前記第1迷走電流成分及び前記第2迷走電流成分は、対応する前記磁束感応部分の位置で互いに打ち消し合う磁束を誘導する、請求項7に記載の超伝導回路。
【請求項9】
前記第1磁束同調可能な素子及び前記第2磁束同調可能な素子の周りに分割された超伝導グランドプレーンを含み、
前記分割された超伝導グランドプレーンの分割は、前記複数の迷走電流が前記一方の磁束感応部分に隣接して流れることを防止する1つ以上ギャップにより画定される、請求項1に記載の超伝導回路。
【請求項10】
前記分割された超伝導グランドプレーンは、前記第1磁束同調可能な素子及び前記第2磁束同調可能な素子の間に位置する中間部を含み、
前記第1磁束線は、前記中間部で終端し、前記第2磁束線は、前記ギャップの1つにより前記中間部から分離される、請求項9に記載の超伝導回路。
【請求項11】
前記ギャップのうちの別のギャップは、前記第2磁束線から前記第2磁束同調可能な素子の周りの前記中間部への任意の環状電流経路を遮断する、請求項10に記載の超伝導回路。
【請求項12】
前記分割された超伝導グランドプレーンにおけるギャップは、前記第1磁束同調可能な素子の周りの第1部を、前記第2磁束同調可能な素子の周りの第2部から分離する、請求項9に記載の超伝導回路。
【請求項13】
前記1つ以上のギャップのうちの1つ以上に横切る容量結合を含む、請求項10~12のいずれかに記載の超伝導回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導回路のハードウェアに関する。特に、本発明は、磁束に反応する超伝導回路素子、及びそのような磁束を生成するために使用される回路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子干渉装置(SQUID)などの磁束同調可能な回路素子は、周波数同調可能な量子ビットなどを実現する超伝導回路、及びジョセフソンパラメトリック増幅器によく使用されている。高密度の同調可能な素子を達成するために、磁気同調磁束は、多くの場合、同調可能な素子の近くを通る1つ以上の電流駆動型オンチップ磁束バイアスライン(磁束線と略称される)により生成される。例えば、同調可能な素子を散逸環境に結合し、例えば量子ビットにデコヒーレンスを引き起こすことを防止するために、磁束線は、同調可能な素子自体のグランドを構成する同じグランド電位で終端させる必要がある。また、高品質係数の量子ビットに対して良好なRF(無線周波数)接地条件を保証するために、ほぼ連続したグランドプレーンを必要とする。
【0003】
終端要件により、磁束同調可能な素子の近くを走り、迷走電流が流れ得る電流経路が存在してもよい。このような迷走電流は、磁束同調可能な素子の干渉(不要な同調)を引き起こす。迷走電流が一般的に他の回路素子の磁束線から生じるため、干渉は、磁束クロストークとして説明できる。
【0004】
図1は、磁束同調可能な超伝導回路素子の一例を示す。例示的な素子は、実質的に連続した超伝導グランドプレーン102により囲まれたプラス状の超伝導島101を含む量子ビットである。これらは、両方とも絶縁基板の表面に形成され、絶縁基板の一部は、超伝導島101の周りの白い境界103として見える。超伝導島101の1つの分岐の端部は、2つのジョセフソン接合部により超伝導材料のストリップ104に接続され、2つのジョセフソン接合部のうちの1つが105として示される。磁束感応部分は、ジョセフソン接合部の間のループ106である。このアイデアは、超伝導導体107に注入された電流がストリップ104を通ってグランドに流れ、ループ106を通って所望の大きさの磁束を誘導することである。
【0005】
図2は、簡略化された回路図の形式で同じ構造を示す。2つのジョセフソン接合部202及び203を含むループ内の斜線領域201は、磁束感応部分であり、コンデンサ204は、量子ビットの容量性部分を表す。インダクタ205は、電流源206から生じる電流が流れ、ループ201を通る磁束を誘導できる電流経路(又は全ての可能な電流経路の複合効果)を表す。
【0006】
図3は、量子コンピューティング回路内で互いに比較的近く、共通の連続したグランドプレーンに囲まれた、
図1及び2に示した種類の2つの量子ビットを示す。磁束感応部分の図的表現は、図を明確にするために簡略化される。電流源301は、電流を生成し、その目的が左側の量子ビット302を同調させることである。それぞれの超伝導ストリップを通る実際の意図された磁束誘導電流は、矢印304で示される。この電流が全て矢印305で示される最短経路を通ってグランドに戻る場合、隣接する右側の量子ビット303は、磁束クロストークを経験しない。しかしながら、一部の迷走電流が矢印306、307で示された経路を流れると、磁束クロストーク現象が発生する。迷走電流が流れる材料は、超伝導性であり、つまり抵抗がゼロであり、これは、迷走電流が一次戻り電流305に比べて、明らかに長い経路にもかかわらず、大きな値に達することができることを意味する。
【0007】
図4は、上述した問題を回避するために、いわゆる差動駆動電流ループがどのように使用され得るかを示す。
図4では、同調電流の戻り経路401は、破線の接続線402で示すように、量子ビットから更に離れたある箇所に接地され得る。アーチ403として概略的に示されるエアブリッジは、グランドプレーンの2つの半分を接続し、そうでなければ、グランドプレーンの2つの半分は、量子ビット全体を迂回するより長い経路のみにより互いに接続される。最左側の量子ビット404と中間の量子ビット405は、この構造を有し、最右側の量子ビット406では、エアブリッジが、同調に使用される電流ループ及び量子ビットの磁束感応部分の間の狭い超伝導峡部407で置き換えられる。
【0008】
図4に示される構造は、磁束クロストーク現象を回避するが、おそらくより深刻な別の問題を引き起こす。つまり、量子ビットの近くに共通のグランド接続が存在しない場合、磁束線は、量子ビットを散逸環境(電流源)に容量結合して、量子ビットの散逸及びデコヒーレンスを引き起こす。
【0009】
更なる別の従来技術は、いわゆる磁束クロストークのアクティブな打ち消し合いを使用することである。これは、一般的に、第1級で行われる。各同調可能な素子nについて、磁束線mに対する磁束感度を実験的に測定して、(N個の同調可能な素子とM個の磁束線に対して)N×Mの磁束クロストーク行列を得る。その行列の逆行列は、全ての素子の意図した同調を引き起こす電流で全ての磁束線をアクティブに駆動するために使用される。この技術は、小さなレベルのクロストークを補償するのに効果的であるが、素子の数が増加すると、大量の校正測定を必要とする。更に、測定誤差、電流源ゲインドリフト又は非直線性のいずれかにより、打ち消し合いが不完全になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術の解決手段より効果的に磁束クロストークの不利な影響を軽減するための構成及び方法を提供することを目的とする。複数の磁束同調可能な回路素子の磁束同調間の大きな独立性を可能にする方法及び構成により磁束クロストークを防止するか又は軽減することを別の目的とする。この方法及び構成が大量の磁束同調可能な回路素子を備えたシステムに適用できることを保証することを更なる目的とする。
【0011】
これら及び更なる有利な目的は、2つ以上の迷走電流成分の磁束誘導効果が互いに打ち消し合うように、迷走電流が流れ得る導体部分の形式を最適化することにより、達成される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1態様によれば、第1磁束同調可能な素子及び第2磁束同調可能な素子を含む超伝導回路が提供される。これらのそれぞれは、それぞれの磁束感応部分を有し、そのため、磁束同調可能な素子の電気的特性は、それぞれの磁束感応部分の位置における磁束に依存する。超伝導回路は、第1電流駆動型超伝導オンチップ磁束バイアスライン及び第2電流駆動型超伝導オンチップ磁束バイアスラインを含む。これらのそれぞれは、それぞれの磁束同調可能な素子の磁束感応部分に隣接して通過する。超伝導回路は、第1磁束同調可能な素子に隣接する複数の第1超伝導迷走電流経路と、第2磁束同調可能な素子に隣接する複数の第2超伝導迷走電流経路とを含む。複数の第1超伝導迷走電流経路及び複数の第2超伝導迷走電流経路のそれぞれは、他方の磁束同調可能な素子の磁束線から生じる迷走電流を、それぞれの磁束同調可能な素子の周りにそれぞれ複数の迷走電流に分配することにより、複数の迷走電流がそれぞれの磁束同調可能な素子の電気的特性を変化させることを防止するように構成される。
【0013】
一実施形態において、超伝導回路は、第1磁束同調可能な素子及び第2磁束同調可能な素子の周りに共通の超伝導グランドプレーンを含む。複数の迷走電流は、次に、それぞれの磁束感応部分の位置で互いに打ち消し合う磁束を誘導するように構成され得る。これには、超伝導回路の全ての部分に非常に効果的な連続接地を提供できるという利点が含まれる。
【0014】
一実施形態において、第1磁束線及び第2磁束線のそれぞれは、それぞれの第1終端部又は第2終端部により共通の超伝導グランドプレーンで終端する。第1終端部及び第2終端部の間の最短の直接経路は、共通の超伝導グランドプレーンにおける少なくとも1つのギャップにより切断できる。超伝導回路は、第1終端部及び第2終端部のそれぞれに隣接して、少なくとも1つのギャップを横切るそれぞれの超伝導ブリッジ接続部を含んでもよく、その結果として、所与の終端部について、それぞれの超伝導ブリッジ接続部を流れる任意の電流は、同じ電流が終端部を通って共通の超伝導グランドプレーンに、又はそこから流れる方向とは逆に向けられる。これには、迷走電流が実質的に互いの影響を打ち消し合うように、回路の配置をシミュレーション及び実験に従って調整することができるという利点が含まれる。
【0015】
一実施形態において、第1磁束線及び第2磁束線のそれぞれは、それぞれの磁束感応部分に隣接して位置する磁束誘導部を含む。第1終端部及び第2終端部のそれぞれは、次に、それぞれの磁束誘導部から続き、磁束誘導部と平行であるが、電流に関して逆方向であり、それぞれの磁束感応部分からそれぞれの磁束誘導部より遠く位置してもよい。超伝導ブリッジ接続部のそれぞれは、それぞれの磁束誘導部及び終端部と平行であり、磁束誘導部及び終端部の間の点を、ギャップの反対側にある共通の超伝導グランドプレーンにおける点に接続してもよい。これには、構造の配置が正確な計算シミュレーションに適用できるという利点が含まれる。
【0016】
一実施形態において、超伝導ブリッジ接続部は、エアブリッジを通過する。これには、ブリッジ接続部を製造プロセスの比較的遅い段階で製造することができ、より簡単な基板構造と、ブリッジ接続部の配置要素を選択する多様な方法とが可能になるという利点が含まれる。
【0017】
一実施形態において、超伝導ブリッジ接続部は、超伝導多層構造における専用層を通過する。これには、ブリッジ接続部が環境要素から十分に保護され、基板の上のスペースを占有しないという利点が含まれる。
【0018】
一実施形態において、第1磁束線及び第2磁束線のそれぞれは、電流源とそれぞれの磁束同調可能な素子との間にそれぞれの引込み線及び引出し線を備えた差動駆動電流ループと、それぞれの磁束感応部分に隣接する、引込み線及び引出し線の間の磁束誘導部とを含む。第1磁束線及び第2磁束線のそれぞれは、次に、それぞれの磁束線の両側に延びるギャップにより共通の超伝導グランドプレーンから分離され得る。超伝導回路は、第1磁束誘導部に隣接して、ギャップを横切る第1接地接続部を含んでもよい。超伝導回路は、第2磁束誘導部に隣接して、ギャップを横切る第2接地接続部を更に含んでもよい。超伝導回路は、それぞれのギャップ、引込み線、引出し線及びギャップの集合に横切る超伝導ブリッジ接続部を含んでもよく、超伝導ブリッジ接続部のそれぞれは、それぞれの磁束感応部分からそれぞれの接地接続部より遠く位置する。これには、それぞれの差動駆動電流ループにおける外向き電流を引出し線に大幅に制限することができるという利点が含まれる。
【0019】
一実施形態において、超伝導ブリッジ接続部のそれぞれは、それぞれの磁束感応部分から距離を置いて位置し、他方の磁束同調可能な素子の磁束線から生じる迷走電流は、超伝導ブリッジ接続部を通る第1迷走電流成分と、それぞれの磁束同調可能な素子を循環する第2迷走電流成分とに分配され、その結果として、第1迷走電流成分及び第2迷走電流成分は、それぞれの磁束感応部分の位置で互いに打ち消し合う磁束を誘導する。これには、全体の配置を比較的簡単に保つことができるという利点が含まれる。
【0020】
一実施形態において、超伝導回路は、第1磁束同調可能な素子及び第2磁束同調可能な素子の周りに分割された超伝導グランドプレーンを含む。分割された超伝導グランドプレーンの分割は、複数の迷走電流がそれぞれの磁束感応部分に隣接して流れることを防止する1つ以上ギャップにより画定され得る。これには、迷走電流の広がりをグランドプレーン構造の限られた部分に抑えることができるという利点が含まれる。
【0021】
一実施形態において、分割された超伝導グランドプレーンは、第1磁束同調可能な素子及び第2磁束同調可能な素子の間に位置する中間部を含む。第1磁束線は、次に、中間部で終端してもよく、第2磁束線は、ギャップの1つにより中間部から分離される。これには、異なる磁束同調可能な素子に関連する迷走電流経路を大幅に分離することができるという利点が含まれる。
【0022】
一実施形態において、ギャップのうちの別のギャップは、第2磁束線から第2磁束同調可能な素子の周りの中間部への任意の環状電流経路を遮断する。これには、迷走電流の広がりをグランドプレーン構造の限られた部分に抑えることができるという利点が含まれる。
【0023】
一実施形態において、分割された超伝導グランドプレーンにおけるギャップは、第1磁束同調可能な素子の周りの第1部を、第2磁束同調可能な素子の周りの第2部から分離する。これには、迷走電流の広がりをグランドプレーン構造の限られた部分に抑えることができるという利点が含まれる。
【0024】
一実施形態において、超伝導回路は、1つ以上のギャップのうちの1つ以上に横切る容量結合を含む。これには、高周波信号の観点から、グランドプレーン構造の異なる部分を互いに結合したままにできるという利点が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明の更なる理解を提供し、本明細書の一部を構成するために含まれる添付の図面は、本発明の実施形態を示し、明細書と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。
【0026】
【
図3】2つの量子ビットを含む従来技術の回路における迷走電流の望ましくない影響を示す。
【
図4】差動駆動電流ループを使用するいくつかの既知の方法を示す。
【
図11】従来技術の超伝導回路の計算シミュレーションを示す。
【
図12】従来技術の超伝導回路の計算シミュレーションを示す。
【
図13】一実施形態に係る超伝導回路の計算シミュレーションを示す。
【
図14】
図13のエアブリッジ距離の関数として計算された磁束を示す。
【
図15】一実施形態に係る超伝導回路の計算シミュレーションを示す。
【
図16】
図15のエアブリッジ距離の関数として計算された磁束を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図5は、第1磁束同調可能な素子501及び第2磁束同調可能な素子502を含む超伝導回路の一部の動作を概略的に示す。磁束を同調可能にするために、両方の素子501及び502は、それぞれの磁束感応部分を有する。図を明確にするために、
図5ではこれらを個別に示さない。磁束同調可能な素子501及び502のそれぞれの電気的特性は、それぞれの磁束感応部分の位置における磁束に依存する。このような磁束依存性の電気的特性の例は、共振周波数であるが、他の種類の電気的特性も問題になり得る。
【0028】
また、その動作が
図5に概略的に示される超伝導回路は、上記磁束感応部分のそれぞれの位置に所望の磁束を生成する電流駆動型超伝導オンチップバイアスラインを有すると仮定される。電流駆動型超伝導オンチップバイアスラインは、磁束線と略称され得る。第1磁束線は、第1磁束同調可能な素子501の磁束感応部分に隣接して通過し、第2磁束線は、第2磁束同調可能な素子502の磁束感応部分に隣接して通過する。
【0029】
また、超伝導回路において、第1磁束同調可能な素子501に隣接する複数の第1超伝導迷走電流経路と、第2磁束同調可能な素子502に隣接する複数の第2超伝導迷走電流経路とを画定すると仮定される。これらの迷走電流経路がどのように形成されるかの例については、本明細書に後に更に詳しく説明する。
【0030】
超伝導迷走電流経路の重要な特徴は、超伝導迷走電流経路が、他方の磁束同調可能な素子の磁束線から生じる迷走電流を、特定の方法でそれぞれの磁束同調可能な素子の周りにそれぞれ複数の迷走電流に分配するように構成されることである。このような分配の結果、複数の迷走電流がそれぞれの磁束同調可能な素子の電気的特性を変化させることが効果的に防止される。
【0031】
図5の概略図では、第1磁束同調可能な素子501の電気的特性を変化させる目的で、選択された大きさの電流503が意図的に生成される。生成された電流は、第1磁束同調可能な素子501の磁束感応部分に隣接する磁束線を通って流れることにより、所望の電流504となる。磁束同調の原理に従って、所望の電流504は、第1磁束同調可能な素子501の共振周波数の変化などの所望の効果505を引き起こす。
【0032】
しかしながら、
図5にも概略的に示すように、生成された電流503は、迷走電流を生成してもよい。迷走電流が超伝導回路の一部を通過する経路は、迷走電流経路と呼ばれてもよい。
図5では、特に、第2磁束同調可能な素子502に隣接する複数の超伝導迷走電流経路があると仮定される。同様に、第1磁束同調可能な素子501に隣接する複数の超伝導迷走電流経路があり得る。
図5では、これらは、詳細に考えられず、その理由として、
図5の目的は、所望の電流504が第1磁束同調可能な素子501に隣接して流れるとともに、第2磁束同調可能な素子502に隣接して迷走電流506及び507を引き起こした場合に何が起こるかを評価することである。別個に考えると、そのような1つの迷走電流506は、第2磁束同調可能な素子502に対して望ましくない影響508を引き起こす傾向があり、別の迷走電流507は、別の望ましくない影響509を引き起こす傾向がある。
【0033】
図5に概略的に示される原理によれば、第2磁束同調可能な素子502に隣接する複数の超伝導迷走電流経路は、第1磁束同調可能な素子501の磁束線から生じる迷走電流506及び507を、第2磁束同調可能な素子502の周りにそれぞれ複数の迷走電流に分配することにより、迷走電流が第2磁束同調可能な素子502の電気的特性を変化させることを防止するように構成される。比喩的に、望ましくない影響508及び509は、第2磁束同調可能な素子502に到達することなく互いに打ち消し合う。これを実際に実現するための様々な実施形態については、本明細書に後に説明する。
【0034】
第1実施形態は、
図6及び
図7に示され、
図6は、
図7の2つの磁束同調可能な素子のそれぞれの磁束感応部分に隣接して使用される超伝導電流経路の詳細な構成を示す。超伝導回路は、第1磁束同調可能な素子及び第2磁束同調可能な素子の周りに共通の超伝導グランドプレーン606を含む。最後に述べたものは、量子ビットであり、それぞれは、境界によりグランドプレーン606から分離されたプラス状の超伝導島601又は701を含み、境界では、下にある絶縁基板の表面が見え、
図6の境界602を参照する。各超伝導島601又は701の1つの分岐の外端には、
図6の603として概略的に示される磁束感応部分がある。磁束線と略称されるそれぞれの電流駆動型超伝導オンチップ磁束バイアスラインは、それぞれの磁束感応部分に隣接し、
図6の磁束線604とその磁束誘導部605を参照する。磁束線及び関連する構造の特定の形状は、他方の磁束同調可能な素子の磁束線を通る所望の電流により生成される迷走電流が、該磁束感応部分の位置で互いに打ち消し合う磁束を誘導するようなものである。
【0035】
図6では、第1磁束線604を例として使用して、第1磁束線604及び第2磁束線702のそれぞれがどのようにそれぞれの終端部により共通の超伝導グランドプレーン606で終端するかを示し、
図6の終端部607を参照する。第1磁束線604の終端部607は、第1終端部と呼ばれ、第2磁束線702の終端部(
図7を参照)は、第2終端部と呼ばれる。第1終端部及び第2終端部の間の最短の直接経路は、共通の超伝導プレーンにおける少なくとも1つのギャップにより切断される。
図7では、第2磁束線702を共通のグランドプレーン606から分離するギャップ703及び704がある。本明細書の観点から、ギャップ703は、第1磁束線604から生じる迷走電流が第2磁束線702に到達し、そこで、意図された電流が第2磁束線702を流れるのと同様に、右側の量子ビットに影響を与えることになることを防止するという重要な目的を有する。第1磁束線604の終端部から第2磁束線702の終端部まで仮想の直線を引くと、直線がギャップ703と704を横切ることになる。
【0036】
超伝導回路は、前に紹介した第1終端部及び第2終端部のそれぞれに隣接して、少なくとも1つのギャップを横切るそれぞれの超伝導ブリッジ接続部を含む。
図6では、超伝導ブリッジ接続部608が示され、
図7は、同様の超伝導ブリッジ接続部705がどのように第2磁束線702の端部の第2終端部に隣接して設けられるかを示す。所与の終端部について、それぞれの超伝導ブリッジ接続部を流れる任意の電流は、同じ電流が終端部を通って共通の超伝導グランドプレーン606に、又はそこから流れる方向とは逆に向けられる。
【0037】
最後に述べたものは、
図7に矢印で示される。第1磁束同調可能な回路素子の任意の磁束誘導電流の意図された経路として、
第1磁束線604を通って流入すること(矢印706)と、
磁束誘導部605を通ること(矢印707)と、
第1終端部607を通って共通のグランドプレーン606に流れることと、
共通のグランドプレーン606により提供される最短の経路を通って外へ流れること(矢印708)とがある。
【0038】
グランドに戻る電流の一部は、より長い経路を流れ、第2磁束同調可能な回路素子の超伝導ブリッジ接続部705を通って流れ(矢印709)、続いて第2終端部を通って共通の超伝導グランドプレーン606に流れる(矢印710)迷走電流を生成する。
図7の矢印709及び710からわかるように、第2超伝導ブリッジ接続部705を流れる任意のこのような迷走電流は、同じ電流が第2終端部を通って共通の超伝導グランドプレーン606に流れる方向とは逆に向けられる。最終的には、矢印711で示すように、この迷走電流は、グランドに戻ることになる。
【0039】
前に説明した電流分配を実現するために
図6及び7で利用した配置は、次のように更に詳細に特徴付けることができる。第1磁束線604及び第2磁束線702のそれぞれは、それぞれの磁束感応部分に隣接して位置する磁束誘導部(
図6の磁束感応部分603に隣接して位置する磁束誘導部605を参照)を含む。第1終端部及び第2終端部のそれぞれは、それぞれの磁束誘導部から続く(
図6の磁束誘導部605の右端から続く終端部607を参照)。終端部は、それぞれの磁束誘導部と平行であるが、電流に関して逆方向であり、例えば、グランドへの経路を求める電流は、
図6では磁束誘導部605を通って左から右に流れるが、終端部607を通って右から左に流れる。終端部は、それぞれの磁束感応部分からそれぞれの磁束誘導部より遠く位置する。超伝導ブリッジ接続部は、磁束誘導部及び終端部と平行である。これは、磁束誘導部及び終端部間の点(
図6のタブ609)を、前述したギャップの反対側にある共通の超伝導グランドプレーンにおける点に接続する。
図6では、超伝導ブリッジ接続部608の左端は、第1磁束線604と、それをグランドプレーン606から分離するギャップとからなる集合の反対側にある。
【0040】
超伝導ブリッジ接続部は、様々な方法で実装することができる。非限定的な例として、それは、エアブリッジ(即ち、超伝導回路の一般的な表面レベルの上に部分的に位置する構造)又はフリップチップ構造であってもよく、或いは、それは、見える回路素子が表面に位置する多層基板などの超伝導多層構造における専用層を通過してもよい。
【0041】
電流源301は、第1磁束線604に関連してのみ
図7に示される。これは、
図7に矢印でマークされた電流が、
図7の第1磁束同調可能な素子(左側のもの)の電気的特性に影響を与えるという目的で、バイアス電流が第1磁束線604に供給されるときに生じる電流だけであることを明確にするための図示上の慣例である。実際には、
図7の第2磁束同調可能な素子(右側のもの)の電気的特性に影響を与えるという目的で、第2磁束線702を通ってバイアス電流を供給できる電流源も存在してもよい。実際の超伝導回路は、大量の量子ビット、ジョセフソン増幅器及び/又は他の磁束同調可能な素子含んでもよく、それらのそれぞれに同じアプローチを使用することができる。
【0042】
図8は、別の実施形態に係る超伝導回路の一部を示す。また、本実施形態では、1つの磁束同調可能な素子の磁束線から生じる迷走電流を、他の磁束同調可能な素子の周りにそれぞれ複数の迷走電流に分配するように構成された複数の超伝導迷走電流経路が存在する。これにより、上記複数の迷走電流が上記他の磁束同調可能な素子の電気的特性を変化させることを防止する。しかしながら、この目的は、
図6及び
図7を参照して上述したものとはわずかに異なる実際の実装で達成される。
【0043】
図8の実施形態では、各磁束線は、電流源をそれぞれの磁束同調可能な素子に結合し、それぞれの引込み線及び引出し線(例えば、
図8の最左側の磁束線の引込み線801及び引出し線802を参照)を備える差動駆動電流ループを含む。磁束誘導部は、引込み線及び引出し線の間に、それぞれの磁束感応部分に隣接して位置する。
図8の最左側の磁束線において、磁束誘導部は、引込み線801の上端と引出し線802の上端を接続する短い水平部である。
【0044】
それぞれの磁束線は、それぞれの磁束線の両側に延びるギャップにより共通の超伝導グランドプレーン803から分離され、
図8のギャップ804及び805を参照する。各磁束誘導部に隣接して、超伝導回路は、上記ギャップを横切る接地接続部を含み、例えば、
図8の接地接続部806を参照する。超伝導回路は、それぞれのギャップ、引込み線、引出し線及びギャップの集合に横切る超伝導ブリッジ接続部を含み、例えば、
図8の超伝導ブリッジ接続部807を参照する。いずれの場合に、超伝導ブリッジ接続部は、それぞれの磁束感応部分からそれぞれの接地接続部より遠く位置する。例として、接地接続部806は、超伝導ブリッジ接続部807よりも、プラス状の導電島の下部分岐の端部にある磁束感応部分に近い。
【0045】
超伝導ブリッジ接続部とそれぞれの磁束感応部分との間の距離は、
図8に示される実施形態に係る超伝導回路の正しい動作に対して重要である。つまり、目的は、他の磁束感応部分の周りを時計回りと反時計回りに流れる迷走電流の正味の影響がゼロになるように、迷走電流のバランスをとることである。
図8は、最左側の磁束線に沿った3つの矢印で示される所望の電流がどのように迷走電流を引き起こすかを示す(一部の電流が接地接続部806を通って最左側の磁束線から「逃げる」ためである)。一部のその迷走電流は、グランドへの経路を求めて、矢印808で示すように、中間の磁束同調可能な素子の周りを流れる。矢印809で示すように、別の迷走電流が超伝導ブリッジ接続部を通って中間の磁束線を横切って流れる。上部電流808により誘導された、中間の磁束同調可能な素子の磁束感応部分における磁束は、下部電流809により誘導された磁束とは逆に向けられる。寸法が正しければ、これらの2種の磁束は、互いに打ち消し合う。
【0046】
前に説明した原理は、次のように特徴付けることができる。
図8の超伝導ブリッジ接続部のそれぞれは、それぞれの磁束感応部分から特定の距離を置いて位置する。他の磁束同調可能な素子の磁束線から生じる迷走電流は、超伝導ブリッジ接続部を通る第1迷走電流成分と、該磁束同調可能な素子を循環する第2迷走電流成分とに分配される。上記距離は、上記第1迷走電流成分と第2迷走電流成分がそれぞれの磁束感応部分の位置で互いに打ち消し合う磁束を誘導するように選択される。それぞれの場合に適切な距離を選択するために、シミュレーション計算を使用してもよい。
【0047】
前の実施形態と同様に、超伝導回路の技術から知られている技術を使用して、
図8の超伝導ブリッジ接続部について様々な実際の実装が可能である。
【0048】
図9は、別の実施形態に係る超伝導回路の一部を示す。
図7と同様に、超伝導回路は、第1磁束同調可能な素子601及び第2磁束同調可能な素子701を含み、第1磁束同調可能な素子601及び第2磁束同調可能な素子701のそれぞれは、それぞれの磁束感応部分を有し、それぞれの磁束感応部分の位置に所望の磁束を生成することによりそれらの電気的特性を変化させる。また、
図7と同様に、第1磁束線及び第2磁束線があり、第1磁束線及び第2磁束線のそれぞれは、それぞれの磁束感応部分の位置に所望の磁束を生成する所望の電流を生成するという目的で、それぞれの磁束同調可能な素子の磁束感応部分に隣接して通過する。
【0049】
図7及び
図8との相違点として、
図9では、複数の迷走電流経路は、他方の磁束同調可能な素子の磁束線から生じる迷走電流を周波数に基づいて分配するように構成される。別の磁束同調可能な素子の磁束バイアスから生じる迷走電流は、実質的にDC電流であるか、又は少なくとも量子コンピューティングで情報を伝えるために使用されるギガヘルツ範囲のマイクロ波信号よりはるかに低い周波数を有する。この目的を達成するために、
図9の超伝導回路は、第1磁束同調可能な素子601及び第2磁束同調可能な素子701の周りに分割されたグランドプレーンを含む。分割された超伝導グランドプレーンの分割により、迷走電流がそれぞれの磁束感応部分に隣接して流れることを実質的に防止する。コンデンサ、又は実際の容量結合の任意の方法は、ギガヘルツ範囲の周波数に対して低インピーダンス接続を提供するが、DCに対して重要な接続を提供しない。容量結合の代わりに、又はそれに加えて、抵抗結合を同様の目的のために使用することができる。抵抗結合では、分離は、周波数ではなく超伝導体の特性に基づく。
【0050】
図9に示される2つの磁束同調可能な素子601及び701に関して、分割された超伝導グランドプレーンは、第1磁束同調可能な素子601の左側にある左側部901と、第1磁束同調可能な素子601及び第2磁束同調可能な素子701の間に位置する中間部902と、第2磁束同調可能な素子701の右側にある右側部903とを含む。第1磁束線(
図9の第1磁束同調可能な素子601に隣接する磁束線)は、中間部902で終端する。第2磁束線(
図9の第2磁束同調可能な素子701に隣接する磁束線)は、分割を作り出すギャップ(
図9のギャップ904を参照)の1つにより中間部から分離される。
【0051】
任意に、分割を作り出す上記ギャップのうちの更なるギャップは、磁束線の以外に磁束同調可能な素子の他側に位置してもよい。これらは、
図6では破線でマークされるギャップ905及び906であり得る。このような更なるギャップが設けられる場合、その目的は、保護された磁束線(
図9の第2磁束線)からそれぞれの磁束同調可能な素子701の周りの中間部902までの円形経路を遮断することである。
【0052】
図10は、別の実施形態に係る超伝導回路の一部を示す。
図9と同様に、
図10でも迷走電流の分配は、周波数に基づく。分割された超伝導グランドプレーンにおけるギャップ1001は、第1磁束同調可能な素子601の周りの第1部1002を、第2磁束同調可能な素子701の周りの第2部1003から分離する。第1磁束同調可能な素子601の磁束感応部分に隣接して流れる所望の電流707は、矢印1004及び1005で示すように、第1部1002内のみでグランドに戻る。
【0053】
容量結合は、
図9及び
図10のような実施形態において、超伝導グランドプレーンの分割を作り出す1つ以上のギャップに横切って設けられ得る。このような容量結合が使用される場合、その目的は、少なくともRF信号に関して、超伝導グランドプレーンの全ての部分の電位を同じままであるように保証することである。容量結合の代わりに、又はそれに加えて、抵抗結合を使用することができ、その理由として、任意の抵抗結合は、グランドプレーンにおいて迷走電流のために提供される超伝導電流経路と比較して、電流の流れを大幅に抑制する。
【0054】
図11は、
図3のような従来技術の構造に対して実行された計算シミュレーションの結果を示す。超伝導領域の電流密度は、白色から、黄色及び緑色を通って黒色までの範囲のカラースケールで示される。基板の裸の領域での磁束の大きさは、青色(負の磁束)から赤色(正の磁束)までの範囲のカラースケールで示される。電流及び磁束の単位は、無関係である。比較として、計算シミュレーションにおいて、左側の磁束同調可能な素子の磁束感応部分ではアンペアあたり800個の磁束量子の磁束、及び右側の磁束同調可能な素子の磁束感応部分ではアンペアあたり410個の磁束量子の磁束が示される。
【0055】
図12は、
図4の磁束同調可能な素子404及び405のような従来技術の構造に対して実行された同様の計算シミュレーションの結果を示す。左右の磁束同調可能な素子の磁束感応部分でのシミュレートされた磁束は、それぞれ1200と-16である。
図11に比べて大幅に改善されるが、依然としていくらかの磁束クロストークがある。
【0056】
図13及び
図14は、
図6及び
図7に示される実施形態に係る超伝導回路の計算シミュレーションを示す。
図14では、左右の磁束同調可能な素子のそれぞれの磁束感応部分で誘導された磁束が、磁束感応素子とそれぞれのエアブリッジとの間の距離の関数として示される。シミュレーションでは、電気的特性に所定の変化を引き起こすために、所望の電流が左側の磁束同調可能な素子に向けられる。所望の電流により、構造により提供される迷走電流経路に迷走電流が発生する。グラフ1401は、迷走電流が右側の磁束同調可能な素子の磁束感応部分で誘導する磁束を示し、
図14の右側の縦軸に適切なスケールが示される。グラフ1402は、所望の電流が左側の磁束同調可能な素子の磁束感応部分で誘導する磁束を示し、
図14の左側の縦軸に適切なスケールが示される。
【0057】
図14の水平及び垂直の破線で示すように、最適なエアブリッジ距離は、約40マイクロメートルであり、この場合、全ての迷走電流の複合効果により、右側の磁束同調可能な素子の磁束感応部分で誘導された磁束がゼロになる。
図13の図示は、このようなエアブリッジ距離を使用して作成される。
【0058】
図15及び
図16は、
図8に示される実施形態に係る超伝導回路の同様の計算シミュレーションを示す。グラフ1601と右側の垂直スケールは、右側の磁束同調可能な素子の磁束感応部分での迷走電流により誘導された磁束に関連する。グラフ1602及び左側の垂直スケールは、左側の磁束同調可能な素子の磁束感応部分での所望の電流により誘導された磁束に関連する。更に、最適なエアブリッジ距離が存在し、この場合、50マイクロメートルよりやや少なく、この距離で迷走電流の正味の影響がゼロになる。
図15は、エアブリッジ距離が50マイクロメートルである場合の計算シミュレーションを示す。
【0059】
技術の進歩に伴い、本発明の基本的な考え方が様々な方法で実装され得ることは、当業者にとって明らかである。したがって、本発明及びその実施形態は、上述した例に限定されるものではなく、代わりに、特許請求の範囲内で変更してもよい。
【国際調査報告】