(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】スルホキシイミン置換インダゾール系IRAK4キナーゼ阻害剤、調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C07D 401/14 20060101AFI20240614BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240614BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240614BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240614BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240614BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240614BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240614BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240614BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240614BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240614BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240614BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240614BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240614BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240614BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20240614BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240614BHJP
A61P 11/08 20060101ALI20240614BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240614BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240614BHJP
C07D 401/12 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20240614BHJP
C07D 409/14 20060101ALI20240614BHJP
C07D 413/14 20060101ALI20240614BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240614BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20240614BHJP
C07D 417/14 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C07D401/14
A61P43/00 111
A61P37/02
A61P29/00
A61P25/04
A61P11/00
A61P1/00
A61P37/08
A61P31/00
A61P17/02
A61P43/00 105
A61P27/02
A61P19/02
A61P21/00
A61P19/08
A61P17/00
A61P13/12
A61P7/00
A61P1/16
A61P1/02
A61P3/00
A61P9/00
A61P25/00
A61P35/00
A61P17/06
A61P1/04
A61P19/06
A61P11/06
A61P11/08
A61P37/06
A61P35/02
C07D401/12 CSP
A61K31/4439
A61K31/5377
A61K31/444
A61K31/4709
C07D409/14
C07D413/14
C07D487/04 142
A61K31/519
A61K31/506
A61K31/517
C07D417/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578885
(86)(22)【出願日】2022-04-24
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2022088752
(87)【国際公開番号】W WO2022267673
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】202110684539.3
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521510051
【氏名又は名称】シャンハイ シュンフェァ ファーマシューティカル テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI XUNHE PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY CO. LTD.
【住所又は居所原語表記】Zheng, Yongyong Room 216, Building 2,No. 1366 Qixin Road, Minhang District Shanghai 200000 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ノンノン
(72)【発明者】
【氏名】ジン ファ
(72)【発明者】
【氏名】ヂォン ヨンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ フォン
(72)【発明者】
【氏名】ファン メイファー
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC37
4C086BC42
4C086BC69
4C086BC73
4C086CB05
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA08
4C086ZA33
4C086ZA36
4C086ZA51
4C086ZA59
4C086ZA61
4C086ZA66
4C086ZA67
4C086ZA68
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB07
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB13
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZB31
4C086ZC21
4C086ZC31
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、生物医薬の技術分野に関し、具体的には、化学式Iに示されるスルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩に関する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Iに示されるスルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩であって、
【化1】
Aは、
【化2】
から選択され、
R
1は、水素、シアノ基、ハロゲン、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルキル基ヒドロキシ基、C
1-C
6アルコキシ基又はC
3-C
8シクロアルキルから選択される、
或いは、R
1はモルフォリノ若しくはテトラヒドロピロールであり、又は、1つ以上のヒドロキシ基若しくはC
1-C
6アルキル基で置換されたモルフォリノ若しくはテトラヒドロピロールである、
或いは、R
1は
であり、
R
2は、水素、C
1-C
6アルキル基、C
3-C
8シクロアルキルから選択され、前記C
1-C
6アルキル基及び前記C
3-C
8シクロアルキルは、1つ以上のハロゲンで置換され得、
Arは、アリール又はヘテロアリールから選択され、任意に1つ以上のR
5基で置換され、R
3及びR
4は水素又はC
1-C
6アルキル基から選択され、
R
5は、水素、シアノ基、ハロゲン、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基又はC
3-C
8シクロアルキルから選択され、
R
6は、水素、ハロゲン又はC
1-C
6アルキル基から選択されることを特徴とするスルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記Aは、
【化3】
から選択され、
R
1は、水素、シアノ基、ハロゲン、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基若しくはC
3-C
8シクロアルキルから選択される、
又はR
1は、
【化4】
であり、
R
2は、水素、C
1-C
6アルキル基又はC
3-C
8シクロアルキルから選択され、
R
3及びR
4は、水素又はC
1-C
6アルキル基から選択され、
Arは、1つ以上のR
5基で置換されたベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、キナゾリン環、チオフェン環、チアゾール環又はオキサゾール環から選択され、
R
5は、水素、シアノ基、ハロゲン、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基又はC
3-C
8シクロアルキルから選択され、
R
6は、水素又はC
1-C
6アルキル基から選択されることを特徴とする請求項1に記載のスルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
Aは、
【化5】
から選択され、
R
1は、水素、シアノ基、ハロゲン、C
1-C
3アルキル基、C
1-C
3アルコキシ基若しくはC
3-C
8シクロアルキルから選択される、
又はR
1は、
【化6】
であり、
R
2は、水素、C
1-C
3アルキル基又はC
3-C
8シクロアルキルから選択され、
R
3及びR
4は、常に同じ定義を有し、いずれも水素又はC
1-C
3アルキル基から選択され、
Arは、1つ、2つ又は3つのR
5基で置換されたベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、キナゾリン環、チオフェン環、チアゾール環又はオキサゾール環から選択され、
R
5は、水素、シアノ基、ハロゲン又はC
1-C
3アルキル基から選択され、
R
6は、水素又はC
1-C
3アルキル基から選択されることを特徴とする請求項1に記載のスルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
スルホキシイミン置換インダゾール系化合物の構成が表1a~表1cに示す通りであることを特徴とする請求項1に記載のスルホキシイミン置換インダゾール系化合物、又は異性体、又はその薬学的に許容される塩。
【表1a】
【表1b】
【表1c】
【請求項5】
化合物IAと化合物IBとの縮合反応によってICを得るステップ1と、
化合物ICと側鎖IDとを反応させて最終生成物Iを得るステップ2とを含み、
反応式が下記の通りであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のスルホキシイミン置換インダゾール系化合物の製造方法。
【化7】
【請求項6】
IRAK4関連疾患を予防若しくは治療するための薬剤の調製における、請求項1~4のいずれか1項に記載のスルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項7】
前記疾患は、自己免疫疾患、炎症性疾患、疼痛疾患、呼吸器及び肺疾患、胃腸疾患、アレルギー性疾患、感染症、創傷及び組織損傷疾患、線維化疾患、眼疾患、関節、筋肉及び骨の疾患、皮膚疾患、腎臓疾患、造血器疾患、肝臓疾患、口腔疾患、代謝疾患、心臓疾患、血管疾患、神経炎症性疾患、神経変性疾患、膿毒症、遺伝性疾患又は癌から選択されることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記自己免疫疾患及び前記炎症性疾患は、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、関節炎、乾癬、大腸炎、クローン病、アトピー性皮膚炎、肝線維症、骨髄線維症、血小板増多症、赤血球増加症、痛風、タンパク質関連の周期性症候群、慢性腎臓病若しくは急性腎障害、慢性閉塞性肺疾患、喘息、気管支痙攣又は移植片対宿主病から選択されることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記癌は、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、気管支肺胞癌、前立腺癌、胆管癌、骨癌、膀胱癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、消化管癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、皮膚癌、精巣癌、甲状腺癌、子宮癌、子宮頸部及び膣癌、白血病、多発性骨髄腫又はリンパ腫から選択されることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の、治療有効量の、スルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩と薬学的に許容される担体とを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬の技術分野に関し、具体的には、アリール(ヘテロ)スルホキシイミン置換インダゾール系IRAK4キナーゼ阻害剤及びその異性体、その薬学的に許容される塩、並びにその調製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン-1受容体関連キナーゼ4(IRAK-4)は、細胞内セリン スレオニンキナーゼIRAKファミリーのメンバーである。キナーゼファミリーの他のメンバーには、IRAK-1、IRAK-2及びIRAK-Mが含まれる。IRAK-Mは単球及びマクロファージでのみ発現するが、IRAK-1、IRAK-2及びIRAK4の発現は遍在する。IRAK4は主に、N末端に保存されたデスドメイン(DD)、ヒンジ領域及びC末端の中央キナーゼドメイン(KD)から構成されている。領域DDは、IRAK4とアダプタータンパク質骨髄分化因子一次応答遺伝子88(MyD88)とが結合する領域である。領域KDは、12個のサブ領域から構成され、典型的なセリン スレオニンキナーゼドメインの特徴を有する。IRAK4の主な機能は、領域KDを介して基質をリン酸化することによって下流のシグナル分子を活性化することである。IRAK4は、インターロイキン-1受容体(IL-1R)/Toll様受容体(TLR)媒介炎症シグナル伝達経路の下流にある重要な因子であり、免疫系において重要な役割を果たしている(Sims JE, etal.NatRevImmunol, 2010,10 (2):89-102)。インターロイキン-1受容体(IL-1R)又はToll様受容体(TLR)がリガンドに結合した後、IRAK4はシグナル伝達を媒介して、下流にある炎症性因子の発現を活性化することができる。TLRは、有機体と微生物との相互作用又は内因性物質による刺激からのリガンドシグナル、並びにこれらの刺激によって引き起こされる炎症シグナル及び自然免疫応答シグナルの第一波を受け入れることができる。TLRは、感染症や自己炎症性疾患、及び人間の他の多くの疾患を含む多くの疾患において非常に重要な役割を果たしている。腫瘍壊死因子-α(TNF-α)及び他の主要なサイトカインと同様に、インターロイキン-1(IL-1)は炎症媒介経路における重要な因子であり、シグナルを伝達且つ増幅することができる。TLR、IL-1R及び他のサイトカイン受容体によって媒介されるシグナル伝達経路が相互間の架橋を果たしているため、TLR及びIL-1Rの炎症経路の中流にある重要なシグナル伝達因子であるIRAK4は、全身性炎症反応において重要な役割を果たしおり、様々な炎症関連疾患を治療するための効果的且つ潜在的な標的として使用され得る。
【0003】
検査の結果、一部のヒト患者にはIRAK4の発現が欠如しており(Picard,C .et al,2003,Science 299:2076-2079)、これらの患者から得られた細胞は、すべてのTLR(TLR3を除く)アゴニスト及びIL-1ファミリーメンバー(IL-1β及びIL-18を含む)に対して反応しなかったことが判明された(Ku,C .et al,2007,J .Exp .Med .204:2407-2422)。マウスにおいてIRAK4が欠損すると、IL-1、IL-18及びすべてのTLR(TLR3を除く)依存性の応答が重度に遮断される(Suzuki,N .et al,2002,Nature416:750-754)。一方、IRAK1 (Thomas,J .A .et al,1999,J .Immunol .163:978-984;Swantek,J .L .et al,2000,J .Immunol .164:4301-4306)又はIRAK2(Wan,Y .et al,2009,J .Biol .Chem .284:10367-10375) が欠失すると、シグナル伝達は部分的にしか阻害されなかった。しかも、IRAK4は、シグナル伝達を開始するためにそのキナーゼ活性が不可欠であることがすでに証明されているIRAKファミリーの唯一のファミリーメンバーである。マウスゲノム内の野生型IRAK4を、キナーゼ不活性変異体(KDKI)で置換すると、IL-1、IL-18及びすべてのTLR(TLR3を除く)を含むすべてのMyD88依存性受容体によるシグナル伝達を遮断することができる(Koziczak-Holbro,M.etal,2007,J .Biol .Chem .282:13552-13560;Kawagoe,T.et al,2007,J .Exp .Med .204:1013-1024)。
【0004】
野生型マウスと比較すれば、IRAK4キナーゼ不活性変異体(KDKI)を持つマウスは、多発性硬化症(Staschke,K .A .et al,2009,J .Immunol .183:568-577)、関節リウマチ(Koziczak-Holbro,M .et al,2009,Arthritis Rheum .60:1661-1671)、アテローム性動脈硬化症(Kim,T .W .et al,2011,J . Immunol .186:2871 - 2880)及び心筋梗塞(Maekawa,Y .et al,2009,Circulation120:1401-1414)の疾患モデルにおいて、疾患の重症度が大幅に低下したことを示している。上述したように、IRAK4阻害剤はすべてのMyD88依存性のシグナル伝達を遮断することができる。MyD88依存性のTLRsは、多発性硬化症、関節リウマチ、心血管疾患、メタボリックシンドローム、膿毒症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む)、自己免疫性ぶどう膜炎、喘息、アレルギー、1型糖尿病及び臓器移植後の拒絶反応の症状をもたらす原因であることがすでに証明されている(Keogh,B .et al,2011,Trends Pharmacol .Sci .32:435-442;Mann,D .L .2011,Circ .Res .108:1133-1145;Goldstein,D .R .et al,2005,J .Heart Lung Transpl .24:1721-1729、and Cario,E .,2010,Inflamm .Bowel Dis .16:1583-1597)。びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫では、発がん性MyD88変異を持つ腫瘍細胞は、IRAK4阻害に対する感受性があることがすでに確認されている(Ngo,V .et al,2011,Nature 470:115-121)。全ゲノムシーケンスにより、MyD88変異が慢性リンパ性白血病と関連していることも確認されており、IRAK4阻害剤が白血病の治療に使用される可能性が示されている(Puente,X .S .et al,2011,Nature 475:101-105)。
【0005】
IRAK4阻害剤は、IL-1及びIL-1ファミリーによって伝達されるシグナルを同様に遮断することができる。IL-1の調節は、痛風、痛風性関節炎、2型糖尿病、自己炎症性疾患、腫瘍壊死因子受容体関連周期性症候群、家族性地中海熱、成人スティル病、全身型若年性特発性関節炎、脳卒中、移植片対宿主病、無症候性多発性骨髄腫、再発性心膜炎、変形性関節症及び肺気腫などを含む様々な疾患に効果があることがすでに証明されている(Dina rello,C .A .,2011 ,Eur .J .Immunol .41 :1 203-1217 ;and Couillin,I .et al,2009 .J .Immunol .183:8195-8202)。アルツハイマー病モデルマウスにおいて、IL-1受容体を遮断することで認知障害が改善され、タウオパチーが低下し、アミロイドβのオリゴメリ化が減少した(Kitazawa,M .et al,2011,J .Immunol .187:6539-6549)。IL-1は、エフェクターT細胞サブセットTh17の分化を促進できる、獲得免疫における重要な橋渡しであることも証明されている(Chung,Y .et al,2009,Immunity 30:576-587)。したがって、IRAK4阻害剤は、多発性硬化症、乾癬、炎症性腸疾患、自己免疫性ぶどう膜炎及び関節リウマチなどを含むTh17細胞関連疾患に効果を発揮できると予測されている(Wilke,C .M .et al,2011,Trends Immunol .32:603-611)。
【0006】
たとえば肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)、間質性肺疾患(ILD)、サルコイドーシス及び肺高血圧症のような肺疾患も、様々なTLR媒介シグナル伝達経路に関連していることが示されている。肺疾患の発症機序は、感染を介するプロセス又は感染を介さないプロセスである可能性がある(Jeyaseelan,Chuなど、Infection and Immunity,2005;Seki,Tasakaなど、Inflammation Research,2010; Nadigel,Prefontaineなど、Respiratory Research,2011;Kovach and Standiford,International Immunopharmacology,2011;Bauer,Shapiroなど、Mol Med,2012;Deng,Yangなど、PLoS One,2013;Freeman,Martinezなど、Respiratory Research,2013;Dubaniewicz,A .,Human Immunology ,2013)。TLR及びIL-1Rファミリーメンバーは、ベーチェット病、痛風、エリテマトーデス、成人スティル病、潰瘍性大腸炎及びクローン病(Crohn’s disease)のような慢性炎症性腸疾患、並びに移植拒絶反応のような他の炎症性疾患の発症機序にも関与する。したがって、IRAK4阻害剤はこれらのような疾患の治療に適している(Nickerson,Christensenなど、The Journal of Immunology,2010;Kobori,Yagiなど、J Gastroenterol,2010;Shi,Mucsiなど、Immunological Reviews,2010; Chen,Linなど、Arthritis Res Ther,2013;Hao ,Liuなど、Curr O pin Gastroenterol ,2013;Kreisel and Gold stein ,Transplant International,2013;Li,Wangなど、Pharmacology&Therapeutics,2013; Zhu ,Jia ngなど、Autoimmunity,2013;Yap and Lai,Nephrology,2013)。IRAK4阻害剤は、TLR及びIL-1Rファミリー媒介の、子宮内膜症及びアテローム性動脈硬化症の疾患の予防的及び/又は治療的使用にも適している(Akoum,Lawsonなど、Human Reproduction,2007;Allhorn,Boingなど、Reproductive Biology and Endocrinology,2008;Lawson,Bourcierなど、Journal of Reproductive Immunology,2008;Seneviratne,Sivagurunathanなど、Clinica Chimica Acta,2012;Khan,Kitajimaなど、Journal of Obstetrics and Gynaecology Research,2013;Santulli,Borgheseなど、Human Reproduction,2013;Sedimbi,Hagglofなど、Cell Mol Life Sci,2013)。
【0007】
すでに述べた疾患に加えて、貧血性網膜症、角膜炎、アレルギー性結膜炎、乾性角結膜炎、黄斑変性症及びぶどう膜炎などの眼疾患の発症機序においてもIRAK4媒介TLRのプロセスが記載されている(Kaa rniranta and Sa lminen ,J Mol Med (Berl) ,2009;Sun and Pearlman ,Investigative Ophthalmology&Visual Science,2009;Redfern and McDermott,Experimental Eye Research,2010;Kezic,Taylorなど、J Leukoc Biol,2011;Chang,McCluskeyなど、Clinical&Experimental Ophthalmology,2012;Guo,Gaoなど、Immunol Cell Biol,2012;Lee,Hattoriなど、Investigative Ophthalmology&Visual Science,2012;Qi,Zhaoなど、Investigative Ophthalmology&Visual Science,2014)。
【0008】
先行技術では多くのIRAK4阻害剤が開示されている(たとえば、Annual Reports in Medicinal Chemistry(2014),49,117-133;Progress in Medicinal Chemistry,2017;56:117-163を参照)。
【0009】
インダゾール骨格を有するIRAK4阻害剤は広く研究されており、IRAK4阻害剤の効果的な構造タイプの1つであることもすでに証明されている。BAY-1834845及びBAY-1830839はいずれも第I相臨床試験段階にある。既存の文献WO2007091107A1、WO2011153588A1、WO2013106254A1、WO2015091426A1、WO2015193846 A1、WO201510466A1、WO2016083433A1、WO2016174183A1、WO2017009798A1、WO2017108744A1、WO2017157792A1、WO2017207385A1、WO2017207386A1、WO2017148902A1、WO2017207481A1、WO2018060174A1、WO2018178947A1、CN110835332A、WO2019089580A1、WO2020035019A1、WO2020048471A1では、インダゾール系の構造を有する一連のIRAK4阻害剤も公開されている。また、非インダゾール構造を有するIRAK4阻害剤に関する文献報告WO2020035020A1、CN109890829A、CN110770229A、CN110785418A、CN111094292A、CN110835338A、WO2017207340A1、WO2018234345A1がある。
【0010】
IRAK4阻害剤の初期臨床段階に関する報告はすでに公開されているが、この標的に対する薬剤はいまだ市場に存在しない。
【0011】
臨床段階に入っているものは、PF-06650833、BAY-1834845、BAY-1830839、R835及びCA-4948のみである。
【0012】
第I相臨床段階にあるBAY-1830839、 BAY-1834845は、まさにインダゾール系IRAK4阻害剤である。
【0013】
特許文献CN111362920Aには、アルキル基スルホキシイミンインダゾール系化合物が開示されている。代表的な化合物は以下である。
【0014】
先行技術で開示されている化合物及び試験薬は、有効性、安全性、薬物動態などの点において依然として満足できるものではなく、日々増大する人々の医療及び健康ニーズを満たすために、新たなIRAK4阻害剤の研究開発を継続する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする技術的問題は、優れたIRAK4阻害活性、動物安全性及び薬物動態パラメータを備えたスルホキシイミン置換インダゾール系IRAK4キナーゼ阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の技術的問題を解決するために、本発明の技術的解決手段は下記の通りである。
【0017】
スルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩であって、その構造は化学式Iに示される。
【化1】
ここで、
Aは、
【化2】
から選択される。
【0018】
R1は、水素、シアノ基、ハロゲン、C1-C6アルキル基、C1-C6アルキル基ヒドロキシ基、C1-C6アルコキシ基若しくはC3-C8シクロアルキルから選択され、
【0019】
或いは、R
1はモルフォリノ若しくはテトラヒドロピロールであり、又は、1つ以上のヒドロキシ基若しくはC
1-C
6アルキル基で置換されたモルフォリノ若しくはテトラヒドロピロールであり、或いは、R
1は
である。
【0020】
R2は、水素、C1-C6アルキル基、C3-C8シクロアルキルから選択される。前記C1-C6アルキル基及び前記C3-C8シクロアルキルは、1つ以上のハロゲンで置換され得る。
【0021】
Arは、アリール又はヘテロアリールから選択され、任意に1つ以上のR5基で置換される。R3及びR4は水素又はC1-C6アルキル基から選択される。
【0022】
R5は、水素、シアノ基、ハロゲン、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基又はC3-C8シクロアルキルから選択される。
【0023】
R6は、水素、ハロゲン又はC1-C6アルキル基から選択される。好ましくは、Arは、N、O、Sから選択される0、1又は2個のヘテロ原子を含む5員環~6員環の単環芳香族又は10員環の縮合芳香環から選択され、任意に1個以上のR5基で置換される。
【0024】
好ましくは、
Aは、
【化3】
から選択される。
R
1は、水素、シアノ基、ハロゲン、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基若しくはC
3-C
8シクロアルキルから選択される、
又はR
1は、
【化4】
である。
R
2は、水素、C
1-C
6アルキル基又はC
3-C
8シクロアルキルから選択される。
R
3及びR
4は、常に同じ定義を有し、いずれも水素又はC
1-C
6アルキル基から選択される。
Arは、1つ以上のR
5基で置換されたベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、キナゾリン環、チオフェン環、チアゾール環又はオキサゾール環から選択される。上記の芳香環に加えて、Ar は他の一般的な芳香環構造も選択できる。上記に列挙した芳香環に加えて、Arは他の一般的な芳香環構造であってもよい。
R
5は、水素、シアノ基、ハロゲン、C
1-C
6アルキル基、C
1-C
6アルコキシ基又はC
3-C
8シクロアルキルから選択される。
R
6は、水素又はC
1-C
6アルキル基から選択される。
【0025】
さらに好ましくは、
Aは、
【化5】
から選択される。
R
1は、水素、シアノ基、ハロゲン、C
1-C
3アルキル基、C
1-C
3アルコキシ基若しくはC
3-C
8シクロアルキルから選択され、
又はR
1は、
【化6】
である。
R
2は、水素、C
1-C
3アルキル基又はC
3-C
8シクロアルキルから選択される。
R
3及びR
4は、常に同じ定義を有し、いずれも水素又はC
1-C
3アルキル基から選択される。
Arは、1つ、2つ又は3つのR
5基で置換されたベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、キナゾリン環、チオフェン環、チアゾール環又はオキサゾール環から選択される。
R
5は、水素、シアノ基、ハロゲン又はC
1-C
3アルキル基から選択される。
R
6は、水素又はC
1-C
3アルキル基から選択される。
【0026】
本願で記述している「C1-C3アルキル基」は、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基を指す。記述している「C1-C3アルコキシ基」は、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基を指す。記述している「ハロゲン」は、F、Cl、Br、Iを指す。記述している「C3-C8シクロアルキル」は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチルを指す。
【0027】
本発明の典型的な化合物は、以下の表1a~表1cの化合物を含むが、これらに限定されない。
【表1a】
【表1b】
【表1c】
【0028】
本発明の第二の目的は、上記化合物の合成方法を提供することである。前記方法は、
【化7】
化合物IAと化合物IBとの縮合反応によってICを得るステップ1と、
化合物ICと側鎖IDとを反応させて最終生成物Iを得るステップ2とを含む。
【0029】
反応工程における各原子団の定義は前述の通りである。
第3の態様として、本発明は、プロテインキナーゼを阻害する薬剤を調製するために使用される、化学式Iの化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0030】
一部の実施形態では、プロテインキナーゼは、IRAKファミリーキナーゼ、特にIRAK4キナーゼである。
【0031】
もう1つの態様として、本発明は、プロテインキナーゼによって引き起こされる疾患の治療薬を調製するために使用される、化学式Iの化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0032】
一部の実施形態では、本発明に係る化合物又は組成物は、IRAKファミリーキナーゼ、特にIRAK4キナーゼによって引き起こされる自己免疫疾患、炎症性疾患、疼痛疾患、呼吸器及び肺の炎症や損傷、肺高血圧症から具体的に選択され得る肺疾患、胃腸疾患、アレルギー性疾患、感染症、創傷及び組織損傷疾患、線維化疾患、眼疾患、関節、筋肉及び骨の疾患、皮膚疾患、腎臓疾患、造血器疾患、肝臓疾患、口腔疾患、代謝疾患、心臓疾患、血管疾患、神経炎症性疾患、神経変性疾患、膿毒症並びに遺伝性疾患を治療するために使用され得る。
【0033】
一部の実施形態では、本発明に記載の自己免疫疾患及び炎症性疾患は、全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、関節炎、乾癬、大腸炎、クローン病、アトピー性皮膚炎、肝線維症、骨髄線維症、血小板増多症、赤血球増加症、痛風、タンパク質関連の周期性症候群(CAPS)、慢性腎臓病若しくは急性腎障害、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、気管支痙攣又は移植片対宿主病から選択される。
【0034】
一部の実施形態では、本発明の化合物又は組成物は、IRAKファミリーキナーゼ、特にIRAK4キナーゼによって引き起こされる異常な細胞増殖の疾患、特に癌を治療するために使用され得る。
【0035】
一部の実施形態では、本発明に記載の癌は、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、気管支肺胞癌、前立腺癌、胆管癌、骨癌、膀胱癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、消化管癌、食道癌、卵巣癌、膵臓癌、皮膚癌、精巣癌、甲状腺癌、子宮癌、子宮頸部及び膣癌、白血病、多発性骨髄腫又はリンパ腫を含む。
【0036】
疾患を治療する過程において、本発明の誘導体は、組成物の形態で経口投与、注射などによって関連する癌及び他の疾患を治療するために使用され得る。経口投与の場合には、錠剤、散剤、カプセルなどの通常の固形製剤として調製してもよく、注射の場合には、注射液として調製してもよい。
【0037】
第4の様態として、本発明は、治療有効量の、上記の新規なアリール(ヘテロ)スルホキシイミン置換インダゾール系化合物、その異性体、又はその薬学的に許容される塩と薬学的に許容される担体とを含む組成物を提供する。
【0038】
薬学的に許容される塩としては、無機酸と形成される塩、及び有機酸と形成される塩などが挙げられる。無機酸と形成される塩の非限定的な実例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などと形成される塩が挙げられるが、これらに限定されない。有機酸と形成される塩の非限定的な実例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などと形成される塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
言及した担体は製薬分野における従来の担体を指す。たとえば、水などの希釈剤及び賦形剤、セルロース誘導体、ゼラチン及びポリビニルピロリドンなどの結合剤、デンプンなどの充填剤、炭酸カルシウム及び重炭酸ナトリウムなどの崩壊剤が挙げられる。また、香味剤及び甘味剤などの他の補助剤をも組成物に添加することができる。
【0040】
本発明に係る組成物について、有効成分の含有量が0.1%~99.5%(重量比)の範囲で、医療分野における通常の方法で様々な剤形に調製することができる。
【0041】
本発明の投与量は、投与経路、患者の年齢及び体重、治療する疾患の種類及び重症度などによって変更されてよい。1日の投与量は、体重1kg当たり0.001~30mg(経口)又は体重1kg当たり0.005~30mg(注射)である。
【0042】
本発明に係る化合物は、既存のインダゾール系IRAK4阻害剤(たとえば、BAY-1834845、BAY-1830839)、特許文献CN111362920AにおけるMY-004-102、MY-004-103と比較すれば、より優れたIRAK4活性のほか、先行技術と比較して以下の優越性をも有する。1)先行技術における置換基をアリール(ヘテロ)スルホキシイミン構造に置換することによって、hERG阻害のリスクを軽減するという予期せぬ効果が得られた。2)本発明に係る化合物の予備的安全性は既存のインダゾール系IRAK4阻害剤よりも優れている。3)動物の生体内(in vivo)実験によれば、同じ用量において、本発明に係る化合物の薬物動態パラメータAUC及びCmaxは、既存のインダゾール系IRAK4阻害剤より明らかに高い。本発明の化合物はより優れたPK特性を有することがわかり、このことから、本発明の化合物を臨床に応用すれば、有効量がより低くなり、薬剤の安全性がさらに向上することが合理的に推測できる。
【0043】
本発明における化合物の名称が化学式と矛盾する場合は、化学式に明らかな間違いがない限り、化学式が優先されるものとする。
【0044】
従来技術と比較すれば、本発明に係る新規なアリール(ヘテロ)スルホキシイミン置換インダゾール系化合物及びその薬学的に許容される塩は、より優れたIRAK4阻害活性且つより優れた安全性を有する。また、本発明の好ましい化合物は、良好な薬物動態学的特性を示しており、選択的IRAK4阻害剤として開発されるポテンシャルがある。
【発明を実施するための形態】
【0045】
<実施例1> I-1の合成
合成経路は以下の通りである。
【化8】
【0046】
操作手順は以下の通りである。
ステップ1、
ジクロロメタン(DCM、30mL)に化合物IA-1(1.63g、0.01mol)及び化合物IB-1(1.91g、0.01mol)を添加して、次いでN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、1.94g、0.015mol)、及び1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(EDCI)(2.3g、0.015mol)を加えて、反応系を30℃で12時間撹拌した。反応混合物を水(20mL)で抽出して、有機層を減圧下で濃縮乾燥し、無水エタノール(10mL)を加えて再結晶させて、淡黄色固体のIC-1(2.67g、収率79.5%)を得た。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ = 13.10 (br, 1H), 11.55 (br, 1H), 8.35 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.14 (m, 1H), 7.98 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.72 (s, 1H), 7.47 (s, 1H), 7.04 (s, 1H), 3.92 (s, 3H)。LCMS: MS Calcd.: 336.3, MS Found: 337.2[M+1]。
ステップ2、
化合物IC-1(400mg,1.2mmol)、ID-1(327mg,1.32mmol)、K2CO3(332mg,2.4mmol)、及びKI(17mg,0.1mmol)をDMF(10mL)に加え、窒素N2の保護下で内温100℃まで加熱して、24時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し、溶媒を減圧下で濃縮乾燥し、残留物をシリカゲルカラム(溶離液の酢酸エチル/石油エーテル:1/2)に通し、生成物画分を回収し、乾燥するまで濃縮して生成物I-1(210mg、収率35%)を得た。1HNMR (400 MHz, DMSO-d6): δ = 11.53 (br, 1H), 10.45 (br, 1H), 8.36 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.12 (m, 2H), 8.02 (s, 1H), 7.71 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.51 (m, 5H), 7.32 (s, 1H), 4.11 (t, J = 4.8 Hz, 2H), 3.86 (s, 3H),3.04 (t, J = 4.8 Hz, 2H)。LCMS: MS Calcd.: 503.5, MS Found: 504.2 [M+1]。
【0047】
化合物I-2~I-36の調製は、実施例1の化合物I-1のスキームに従って実施した。化合物の関連データを表2a~表2eに示す。
【表2a】
【表2b】
【表2c】
【表2d】
【表2e】
【0048】
生物学的検査
試験例1、IRAK4キナーゼ活性試験
移動度シフトアッセイ(MSA)を使用して、Km ATPでのIRAK4キナーゼに対する化合物の阻害活性(IC
50)を検出し、10の薬物濃度勾配(開始濃度1μM、3倍希釈、各濃度につき2つのウェル)を設定した。IRAK4キナーゼをキナーゼベースの緩衝液に加えてテストプレートに移し、次いで、FAM標識ペプチド及びATP(37μM)を添加して、28℃で一定時間インキュベートした後、10μLの反応停止液を加えて反応を停止させ、変換率データをキャリパー(Caliper)で読み取って、変換率を阻害率データに変換した。各濃度の阻害率データに基づいて、半数阻害濃度のIC50をロジット分析(Logit method)により算出した(表3)。
【表3】
注記:上記の対照物質及び本発明の化合物は、いずれも同じ実験条件下での実測値である。
結論:IRAK4キナーゼに対する本発明の化合物の阻害活性は、対照化合物BAY-1834845、BAY-1830839、MY-004-102及びMY-004-103より顕著に優れている。
【0049】
試験例2、THP-1細胞におけるTNF-αの分泌を阻害する化合物の能力
この試験は、THP-1細胞 (ヒト急性単球性白血病細胞株)におけるTNF-α(腫瘍壊死因子α)の分泌を阻害する化合物の能力を試験するのに適している。TNF-αは、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患の炎症過程に関与する重要なサイトカインである。当該試験において、TNF-α分泌は、細菌性リポ多糖(LPS)とのインキュベーションによって誘導された。
【0050】
10000個のTHP-1細胞を含むRPMI-1640培地溶液150μLを96ウェルプレートの各ウェルに加え、次に最終濃度8倍の試験化合物25μL(10μMから開始、3倍希釈、9濃度、各濃度に4%のDMSOを含むRPMI-1640培地)の溶液を添加して、均一に混合し、37℃で30分間インキュベートした。LPSを含むRPMI-1640培地溶液25μL(最終LPS濃度は1μg/mL、最終DMSO濃度は0.5%)を各試験ウェルに加えて混合し、37℃で4.5時間インキュベートした。96ウェルプレートを2000rpmで5分間回転させた後、上清液50μLを採取し、ヒトELISAキットを用いて上清液内のTNF-α含有量を測定し、化合物のIC
50値をXL-Fitにより算出した(表4)。
【表4】
注記:上記の対照物質及び本発明の化合物は、いずれも同じ実験条件下での実測値である。
結論:本発明の化合物は、THP-1細胞においてLPS刺激によるTNF-αの分泌を効果的に阻害することができ、その阻害効果は対照化合物BAY-1834845、BAY-1830839、MY-004-102及びMY-004-103より顕著に優れている。
【0051】
試験例3、本発明の化合物の薬物動態試験
試験動物としてSDラットを使用し、ラットにBAY-1834845、BAY-1830839、MY-004-102、MY-004-103及び本発明の好ましい実施例における化合物を胃内投与した後、異なる時間における血漿中の薬物濃度をLC-MS/MS法により測定して、ラット生体内における本発明の化合物の薬物動態学的特徴を調べた。
【0052】
SDラットの供給源:上海斯莱克実験動物有限責任公司(Shanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd)
投与方式:単回胃内投与
薬剤投与量及濃度:10 mg/kg; 2 mg/mL
製剤処方:0.5% メチルセルロース(methylcellulose)
サンプリング時間:5分間、15分間、30分間、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間
【0053】
標準曲線と品質管理サンプルの調製及び処理:適切な量のストック溶液(stock solution)を50%アセトニトリル水で希釈して、0.04、0.10、0.20、0.40、1.00、2.00、4.00μg/mLの標準作業溶液、及び、0.10、1.00、3.00μg/mLの品質管理作業溶液を得た。47.5μLのブランクラット血漿に標準曲線作業溶液及び品質管理作業溶液をそれぞれ2.50μL添加して、被験物質の濃度2.00、5.00、10.00、20.00、50.00、100.00、200.00 ng/mLの標準曲線試料及び濃度5.00、50.00、150.00ng/mLの品質管理試料を調製し、それぞれ200μLのアセトニトリル(5ng/mLの内部標準ロラタジンを含む)を加え、3分間ボルテックス振動攪拌した後、15000rpm、4℃で15分間遠心分離して、100μLの上清液をLC-MS/MS分析用に採取した。WinNonlin(登録商標)8.0を使用して実験結果を算出した。
【0054】
本発明の好ましい化合物の薬物動態パラメータを表5に示す。
【表5】
結論:本発明の実施例における化合物は、良好な薬物動態学的特性を示し、BAY-1834845、BAY-1830839、MY-004-102及びMY-004-103と比較して明らかな薬物動態学的優越性を有する。
【0055】
試験例4、本発明の化合物の急性毒性試験
【0056】
本発明に記載の化合物(I-1、I-2、I-5、I-7、I-7、I-10、I-16、I-21、I-24、I-26、I-29、I-31、I-34)、及びMY-004-102、BAY-1830839(陽性対照薬)を選択して急性毒性実験を実施した。
【0057】
(1)実験プロトコル
(i) MY-004-102、BAY-1830839、本発明に記載のI-1等の化合物をICRマウスに経口投与した後、動物の中毒症状及び死亡を観察し、それらの急性毒性を比較した。
(ii)溶媒調製:適量のメチルセルロースナトリウム(MC)を量り取り、超純水で一定の体積まで溶解して、0.5%MC(w/v)を調製した。
(iii) 投薬準備:必要な被験物質をそれぞれ量り取り、0.5%MC溶液を使用して12.5、37.5、75.0、及び100.0mg/mLの濃度の懸濁液を調製した。
(iv) 投与経路:被験物質及び溶媒対照群(0.5% MC)の投与経路はいずれも経口投与であった。
(v) 投与頻度:単回投与、投与前に一夜絶食した。
【0058】
一般的な症状の観察:投与当日は、初回投与後約0.5、1、2、4、6時間後に1回観察し、観察期間の2~6日目は、1日に午前と午後1回ずつ計2回観察した。
観察内容は、一般状態、行動、歩行や姿勢、目、口、鼻、消化管、皮膚被毛、泌尿生殖管を含むが、これらに限定されない。
【0059】
(2)統計分析
体重データを平均値±標準偏差で表し、群間比較にはルビーン(Levene's)検定及び一元配置分散分析を使用した。差がある場合はダネット(Dunnett)検定を使用した。
【0060】
(3)実験結果
本発明に記載のI-1等の化合物とMY-004-102及びBAY-1830839(陽性対照薬)を選択して上記のように急性毒性実験を実施した。実験結果を表6aに示す。
MTD試験では、薬物に対する動物の耐性を観察した。動物の瀕死状態に至る薬剤投与量が最大耐量である。
【表6a】
注記:MTD:最大耐量。
結果として、上記で選択した、本発明に記載のI-1等の化合物のMTD(最大耐量)はいずれも2000mg/kgを超え、急性毒性はMY-004-102及びBAY-1830839より遙かに低いことが示された。
【0061】
試験例5、hERGカリウムチャネルに対する本発明の化合物の効果
ヒト遅延整流性器外向きカリウム電流(IKr)の急速な活性化は、主にhERGイオンチャネルによって媒介され、ヒト心筋細胞の再分極に関与している。この電流を薬物で遮断すると、臨床ではQT延長症候群が出現し、急性不整脈ひいては突然死が誘発されやすい。この研究では、手動パッチクランプ法を用いて、hERGカリウムチャネルをトランスフェクトした安定な細胞株でhERGカリウム電流に対するI-1等の化合物の効果を試験し、それによってI-1等の化合物がhERGイオンチャネルに対して阻害作用を有する否かを確認した。
【0062】
測定対象化合物の最終濃度は5、50及び500μMであり、細胞外液中のDMSOの最終濃度は0.3%であった。hERG電流に対する測定対象化合物の阻害作用を表6bに示す。
【表6b】
【0063】
この実験の条件下では、本発明のI-1等の化合物の、500μMでhERGカリウムチャネル電流に対する平均阻害率は<50%(N=3)である。したがって、hERG電流に対する本発明のI-1等の化合物の阻害効果を示すIC50値は500μMより大きい。対照化合物MY-004-102、BAY-1830839の、50μMでhERGカリウムチャネル電流に対する平均阻害率は>50%(N=3)であることから、hERG電流に対するMY-004-102及びBAY-1830839の阻害効果を示すIC50値は50μM前後であることが推測される。
【0064】
上述した内容は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨及び原理の範囲内で行われるいかなる修正、等価置換、改良などのすべては本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【国際調査報告】