(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】工具ホルダのための挟持デバイス
(51)【国際特許分類】
B23B 31/26 20060101AFI20240614BHJP
B23B 31/30 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B23B31/26
B23B31/30 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579038
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2022058423
(87)【国際公開番号】W WO2022268373
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マトリック, グンナル
【テーマコード(参考)】
3C032
【Fターム(参考)】
3C032AA02
3C032GG07
3C032KK11
(57)【要約】
工具ホルダシャンク(81)を解放可能に保持するための挟持デバイスであって、 - ハウジング(3)の内側に回転可能に取り付けられたスピンドル(2)と、 - 前進解放位置と後退係止位置との間でハウジングにおけるボア(5)内で軸方向に移動可能である引張棒(8)と、 - 引張棒の影響下で工具ホルダシャンクと係止係合するように移動可能である係合部材(20)と、 - スピンドルに摺動可能に取り付けられた作動部材(13)と、 - 作動部材の軸方向移動を引張棒の移動に伝達する運動伝達機構(30)と、 - 作動部材をスピンドルに対して移動させるためのシリンダハウジング(60)および関連するピストン部材(70)と、を備える、挟持デバイス。シリンダハウジング(60)は、軸方向に浮動する態様でハウジング(3)内に配置される。作動部材(13)は、スピンドル(2)と一緒にシリンダハウジング(60)およびピストン部材(70)に対して回転可能である。
【選択図】
図3a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具ホルダシャンクを解放可能に保持するための挟持デバイスであって、前記挟持デバイス(1)が、
- ハウジング(3)と、
- 前記ハウジング(3)の内側に回転可能に取り付けられ、かつ、前方端部(2a)、後方端部(2b)、および前記前方端部(2a)と交わりかつ前記前方端部(2a)から後方に延在するボア(5)を有するスピンドル(2)であって、工具ホルダシャンク(81)を受け入れるための取付け部分(7)が前記ボア(5)の前方端部に設けられた、スピンドル(2)と、
- 前進解放位置と後退係止位置との間で前記ボアの長手軸(L)に沿って前記ボア内で相反的に移動可能であるように前記ボア(5)の内側に摺動可能に取り付けられた引張棒(8)と、
- 前記引張棒(8)の前方端部において前記引張棒(8)の周りに配置された係合部材(20)であって、前記前進解放位置から前記後退係止位置への前記引張棒(8)の移動の影響下で第1の位置から第2の位置へ移動可能であり、前記第1の位置では、前記工具ホルダシャンク(81)が前記ボア(5)の前記取付け部分(7)を出入りすることを可能にし、前記第2の位置では、前記工具ホルダシャンク(81)と係止係合して前記工具ホルダシャンク(81)を前記スピンドル(2)に固着させておく、係合部材(20)と、
- 前記ハウジング(3)の内側に配置された作動部材(13)であって、前記スピンドル(2)の軸方向において前記スピンドル(2)に対して移動可能であるように前記スピンドル(2)に摺動可能に取り付けられた、作動部材(13)と、
- 前記ハウジング(3)の内側に配置された運動伝達機構(30)であって、前記スピンドル(2)に取り付けられ、かつ、前記スピンドル(2)に対する第1の軸方向(D1)における前記作動部材(13)の軸方向移動を前記前進解放位置から前記後退係止位置への前記引張棒(8)の移動に伝達するように構成された、運動伝達機構(30)と、
を備え、
- 前記挟持デバイス(1)が、前記作動部材(13)を前記スピンドルに対して軸方向に移動させるための液圧アクチュエータ(17)を備え、前記液圧アクチュエータ(17)が、前記ハウジング(3)内に配置され、かつ、シリンダハウジング(60)およびピストン部材(70)を備えること、
- 前記シリンダハウジング(60)が、前記スピンドル(2)の周りに延在し、かつ、第1の端位置と第2の端位置との間で前記スピンドル(2)に対して軸方向に移動可能であるように前記ハウジング(3)の内側に摺動可能に取り付けられ、前記第1の端位置では、前記シリンダハウジング(60)が、前記第1の軸方向(D1)における前記スピンドル(2)に対する前記シリンダハウジング(60)の前記移動を制限する前記スピンドル(2)上の第1の肩(61a)に当接し、前記第2の端位置では、前記シリンダハウジング(60)が、反対の第2の軸方向(D2)における前記スピンドル(2)に対する前記シリンダハウジング(60)の前記移動を制限する前記スピンドル(2)上の第2の肩(61b)に当接すること、
- 前記ピストン部材(70)が、前記スピンドル(2)の周りに延在し、かつ、前記ピストン部材(70)が前記第1の軸方向(D1)において前記作動部材(13)に引く力または押す力を及ぼすことにより前記前進解放位置から前記後退係止位置への前記引張棒(8)の移動をもたらすことを可能にするために、前記スピンドル(2)に対して軸方向に液圧で移動可能であるように前記シリンダハウジング(60)に摺動可能に取り付けられること、
- 前記ピストン部材(70)が、前記シリンダハウジング(60)内の空間に摺動可能に受け入れられる環状ピストンヘッド(71)を備え、第1の液圧チャンバ(63a)が、前記ピストンヘッド(71)の第1の側において前記空間内に形成され、前記第1の液圧チャンバ(63a)内に液圧流体を供給することにより、前記シリンダハウジング(60)が前記第2の端位置へ移動可能であり、前記ピストン部材(70)が前記第1の軸方向(D1)に移動可能であること、ならびに、
- 前記作動部材(13)が、前記スピンドル(2)と一緒に前記シリンダハウジング(60)および前記ピストン部材(70)に対して回転可能であること
を特徴とする、挟持デバイス。
【請求項2】
前記作動部材(13)が、前記引張棒(8)が前記作動部材(13)および前記運動伝達機構(30)の影響下で強制的に前記後退係止位置に着かされたときに、前記スピンドル(2)上で自己係止軸方向位置を取ることにより前記引張棒(8)を前記後退係止位置に保つように構成されることを特徴とする、請求項1に記載の挟持デバイス。
【請求項3】
第2の液圧チャンバ(63b)が、前記ピストンヘッド(71)の反対側の第2の側において前記シリンダハウジング(60)内の前記空間内に形成され、前記シリンダハウジング(60)が、前記ピストン部材(70)が前記第2の軸方向(D2)において前記作動部材(13)に引く力または押す力を及ぼすことを可能にするために前記第2の液圧チャンバ(63b)内に液圧流体を供給することにより、前記シリンダハウジング(60)が前記第1の端位置へ移動可能であり、前記ピストン部材(70)が前記第2の軸方向(D2)に移動可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載の挟持デバイス。
【請求項4】
前記シリンダハウジング(60)が、前記シリンダハウジング内の前記空間を径方向外方において制限する第1の円筒形壁(64)と、前記シリンダハウジング内の前記空間を径方向内方において制限する反対側の第2の円筒形壁(65)と、を備えることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項5】
- シリンダハウジング(60)の内側側面上に内部突起(62)が設けられ、前記シリンダハウジング(60)が、前記第1の端位置では前記内部突起(62)を介して前記スピンドル(2)上の前記第1の肩(61a)に当接するように構成され、かつ、前記第2の端位置では前記内部突起(62)を介して前記スピンドル(2)上の前記第2の肩(61b)に当接するように構成されること、および、
- 前記シリンダハウジング(60)上の前記内部突起(62)が、前記スピンドル(2)上の前記第1の肩(61a)と前記第2の肩(61b)との間に形成された間隙内に遊びを有して受け入れられること
を特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項6】
前記シリンダハウジング(60)が、前記第1の端位置と前記第2の端位置との間の中間軸方向位置を取っているときに前記スピンドル(2)と接触しないように構成されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項7】
前記挟持デバイス(1)が、前記シリンダハウジング(60)に作用するように構成されたばね懸架式の戻し機構(90)を備えること、
- 前記シリンダハウジング(60)が、前記戻し機構(90)のばね力の作用に逆らって前記中間軸方向位置から前記第1の端位置へ移動可能であり、かつ、前記ばね力の作用下で前記第1の端位置から前記中間軸方向位置へ移動可能であること、および、
- 前記シリンダハウジング(60)が、前記戻し機構(90)のばね力の作用に逆らって前記中間軸方向位置から前記第2の端位置へ移動可能であり、かつ、前記ばね力の作用下で前記第2の端位置から前記中間軸方向位置へ移動可能であること
を特徴とする、請求項6に記載の挟持デバイス。
【請求項8】
前記ピストン部材(70)が、前記ピストンヘッド(71)に固定されたスリーブ形状のピストンステム(73)を備え、前記ピストン部材(70)が、前記ピストンステム(73)を通じて前記作動部材(13)に前記引く力または前記押す力を及ぼすように構成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項9】
前記ピストンステム(73)が、前記第1の液圧チャンバ(63a)を径方向内方に区切るように構成されることを特徴とする、請求項8に記載の挟持デバイス。
【請求項10】
前記作動部材(13)が、スリーブの形態を有し、前記作動部材(13)が、前記スピンドル(2)の周壁(14)の周りに配置され、かつ、前記スピンドルに対して軸方向に移動可能であるように前記周壁に摺動可能に取り付けられることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【請求項11】
- 前記運動伝達機構(30)が、前記スピンドル(2)の前記周壁(14)を径方向に貫通する第1の開口(45)内に摺動可能に受け入れられる第1のくさび(40)を備え、前記第1のくさび(40)が、前記第1の開口(45)内で径方向内方に押されたときに前記引張棒(8)を前記後退係止位置に向かって押すように構成されること、
- 前記第1のくさび(40)が、前記スピンドル(2)から外方に面する第1の圧力受け表面(41)を備えること、
- 前記作動部材(13)が、第1の圧力印加表面(31)をその内側側面上に備え、前記第1の圧力印加表面(31)が、前記第1の圧力受け表面(41)と接触するために内方に面し、かつ、前記第1の軸方向(D1)に見たときに増大する前記長手軸(L)までの径方向距離を有すること、ならびに、
- 前記第1の圧力印加表面(31)が、前記作動部材(13)が前記第1の軸方向(D1)に移動されるときに、前記第1の圧力受け表面(41)を圧迫することにより前記第1のくさび(40)を前記第1の開口(45)内で径方向内方に押すように構成され、前記第1の圧力印加表面(31)および前記第1の圧力受け表面(41)が、好ましくは、前記引張棒(8)が前記作動部材(13)および前記第1のくさび(40)の影響下で強制的に前記後退係止位置に着かされたときに前記第1のくさび(40)が前記作動部材(13)を前記周壁(14)上の自己係止軸方向位置に保つような角度αにより、前記長手軸(L)に対して傾けられること
を特徴とする、請求項10に記載の挟持デバイス。
【請求項12】
前記第1のくさび(40)が、くさび表面(48)を備え、前記くさび表面(48)が、前記スピンドル(2)の前記後方端部(2b)に面し、かつ、前記スピンドルの前記前方端部(2a)に面している前記引張棒上の第1の摺動表面(18)と接触することを特徴とする、請求項11に記載の挟持デバイス。
【請求項13】
- 前記運動伝達機構(30)が、前記スピンドル(2)の前記周壁(14)を径方向に貫通する第2の開口(55)内に摺動可能に受け入れられる第2のくさび(50)を備え前記第2のくさび(50)が、くさび表面(59)および第2の圧力受け表面(52)を備え、前記くさび表面(59)が、前記スピンドル(2)の前記前方端部(2a)に面し、かつ、前記スピンドルの前記後方端部(2b)に面している前記引張棒上の第2の摺動表面(19)と接触し、前記第2の圧力受け表面(52)が、前記スピンドル(2)から外方に面し、前記第2のくさび(50)が、前記第2の開口(55)内で径方向内方に押されたときに前記引張棒(8)を前記前進解放位置に向かって押すように構成されること、
- 前記作動部材(13)が、第2の圧力印加表面(32)をその内側側面上に備え、前記第2の圧力印加表面(32)が、前記第2の圧力受け表面(52)と接触するために内方に面し、かつ、前記第2の軸方向(D2)に見たときに増大する前記長手軸(L)までの径方向距離を有すること、ならびに、
- 前記第2の圧力印加表面(32)が、前記作動部材(13)が前記第2の軸方向(D2)に移動されるときに、前記第2の圧力受け表面(52)を圧迫することにより前記第2のくさび(50)を前記第2の開口(55)内で径方向内方に押すように構成されること
を特徴とする、請求項12に記載の挟持デバイス。
【請求項14】
前記挟持デバイス(1)が、前記周壁(14)の円周方向において離隔された2つ以上の、好ましくは3つの前記第2のくさび(50)を備え、各第2のくさび(50)が、前記周壁(14)を径方向に貫通するそれぞれの第2の開口(55)内に受け入れられることを特徴とする、請求項13に記載の挟持デバイス。
【請求項15】
前記挟持デバイス(1)が、前記周壁(14)の円周方向において離隔された2つ以上の、好ましくは3つの前記第1のくさび(40)を備え、各第1のくさび(40)が、前記周壁(14)を径方向に貫通するそれぞれの第1の開口(45)内に受け入れられることを特徴とする、請求項11から14のいずれか一項に記載の挟持デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野および従来技術
本発明は、工具ホルダを工作機械に接続するために使用されることが意図されている、請求項1のプリアンブルに記載の挟持デバイスに関する。
【0002】
金属切削のための工作機械の分野では、金属材料の被加工物を機械加工するために使用される例えばドリルまたはフライス工具の形態である切削工具は、しばしば工具ホルダに固定されて工具ホルダと一緒に回転され、工具ホルダは、スピンドルと一緒に回転されるために工作機械の回転スピンドルに分離可能に挟持され得る。そのような工具ホルダのシャンクをスピンドル内に配置された挟持機構により回転スピンドルに挟持することが、従来知られている。切削工具の交換を必要とする場合、工具ホルダはスピンドルから解放され、別の切削工具を有する新たな工具ホルダが、スピンドルに挟持される。
【0003】
自動工具変更動作に適した挟持機構を有するスピンドルを備える挟持デバイスが、EP1468767B1からすでに知られている。EP1468767B1に記載の挟持デバイスでは、第1の引張棒の形態をした作動部材が、スピンドルの内側に摺動可能に取り付けられ、かつ、引張棒間に配置された複数の協動するくさびを備える力増幅機構を介して第2の引張棒の軸方向変位をもたらすように構成される。スピンドルの内側のガスばねが、2つの引張棒を後退係止位置(retracted locking position)に付勢するように構成され、後退係止位置では、工具ホルダがスピンドルに挟持され、液圧ピストンが、2つの引張棒の前進解放位置(advanced releasing position)への変位を達成するために、ガスばねの後端部におけるピストンに作用するように構成されてもよく、前進解放位置では、工具ホルダは、スピンドルから解放され得る。しかし、このすでに知られている挟持デバイスは、比較的長い軸方向範囲を有し、したがって、挟持デバイスのための利用可能な軸方向空間が限られている工具タレットの周辺に工具ホルダが分離可能に固定されるべき場合には、このタイプの挟持デバイスを使用することは適切ではない。
【0004】
請求項1のプリアンブルに記載の挟持デバイスは、EP3825047A1からすでに知られている。
【0005】
発明の目的
本発明の目的は、新規かつ好ましい設計を有し、また、工作機械の工具タレットとの使用に適している、上述のタイプの挟持デバイスを提供することである。
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、前述の目的は、請求項1において定められる特徴を有する挟持デバイスによって達成される。
【0007】
本発明による挟持デバイスは、
- ハウジングと、
- ハウジングの内側に回転可能に取り付けられ、かつ、前方端部、後方端部、および前方端部と交わりかつ前方端部から後方に延在するボアを有するスピンドルであって、工具ホルダシャンクを受け入れるための取付け部分がボアの前方端部に設けられた、スピンドルと、
- 前進解放位置と後退係止位置との間でボアの長手軸に沿ってボア内で相反的に移動可能であるようにボアの内側に摺動可能に取り付けられた引張棒と、
- 引張棒の前方端部において引張棒の周りに配置された係合部材であって、前進解放位置から後退係止位置への引張棒の移動の影響下で第1の位置から第2の位置へ移動可能であり、第1の位置では、工具ホルダシャンクが前述のボアの取付け部分を出入りすることを可能にし、第2の位置では、工具ホルダシャンクと係止係合して工具ホルダシャンクをスピンドルに固着させておく、係合部材と、
- ハウジングの内側に配置された作動部材であって、スピンドルの軸方向においてスピンドルに対して移動可能であるようにスピンドルに摺動可能に取り付けられた、作動部材と、
- ハウジングの内側に配置された運動伝達機構であって、スピンドルに取り付けられ、かつ、スピンドルに対する第1の軸方向における作動部材の軸方向移動を前進解放位置から後退係止位置への引張棒の移動に伝達するように構成された、運動伝達機構と、
- 作動部材をスピンドルに対して軸方向に移動させるための液圧アクチュエータであって、ハウジング内に配置され、かつ、シリンダハウジングおよびピストン部材を備え、ピストン部材が、スピンドルの周りに延在し、かつ、第1の軸方向において作動部材に引く力または押す力を及ぼすことにより前進解放位置から後退係止位置への引張棒の移動をもたらすことを可能にするためにスピンドルに対して軸方向に液圧で移動可能であるようにシリンダハウジングに摺動可能に取り付けられた、液圧アクチュエータと、
を備える。
【0008】
作動部材は、スピンドルと一緒にシリンダハウジングおよびピストン部材に対して回転可能であり、これは、工具ホルダがスピンドルと一緒に回転される機械加工動作中に液圧アクチュエータが動かないままでいられることを意味する。液圧アクチュエータにおける回転部品を回避することにより、液圧アクチュエータおよび関連する液圧系の組立が促進され、また、ハウジングとスピンドルとの間の接触面において、スピンドルの潜在的な回転速度を制限するであろうロータリシールが必要とされない。作動部材を移動させることにより引張棒の移動を達成するための液圧アクチュエータの使用は、本発明による挟持デバイスが自動工具変更動作における使用に適していることを意味する。
【0009】
シリンダハウジングは、スピンドルの周りに延在し、かつ、第1の端位置と第2の端位置との間でスピンドルに対して軸方向に移動可能であるように挟持デバイスのハウジングの内側に摺動可能に取り付けられ、第1の位置では、シリンダハウジングは、前述の第1の軸方向におけるシリンダハウジングのスピンドルに対する移動を制限するスピンドル上の第1の肩に当接し、第2の端位置では、シリンダハウジングは、反対の第2の軸方向におけるシリンダハウジングのスピンドルに対する移動を制限するスピンドル上の第2の肩に当接する。ピストン部材は、シリンダハウジング内の空間に摺動可能に受け入れられる環状ピストンヘッドを備え、第1の液圧チャンバが、ピストンヘッドの第1の側においてこの空間内に形成され、この第1の液圧チャンバ内に液圧流体を供給することにより、シリンダハウジングは第2の端位置へ移動可能であり、ピストン部材は第1の軸方向に移動可能である。
【0010】
したがって、シリンダハウジングは、ハウジングおよびスピンドルに対して短い距離を軸方向に移動可能であるように、軸方向に浮動する態様で挟持デバイスのハウジングの内側に取り付けられる。引張棒が後退係止位置に移動されるべきときに、液圧流体が第1の液圧チャンバ内に供給され、それが、シリンダハウジングのその第2の端位置への移動をもたらし、シリンダハウジングをスピンドル上の第2の肩に当接させる。スピンドル上の第2の肩は、シリンダハウジングのためのストッパ部材として作用し、第1の液圧チャンバ内に液圧流体をさらに供給すると、ピストン部材は第1の軸方向に押され、それにより、作動部材は、後退係止位置への引張棒の移動をもたらす。ピストン部材および引張棒のこの軸方向移動中、ピストン部材は、第1の軸方向において作動部材に力を及ぼし、一方で、シリンダハウジングは、スピンドル上の第2の肩を介して、対応する反力をスピンドルに及ぼす。その結果、後退係止位置への引張棒の移動中には挟持デバイスのハウジングに力が伝達されず、したがって、スピンドルと挟持デバイスのハウジングとの間のロータリ軸受(rotary bearing)は、この液圧アクチュエータの作動中にはいかなる軸方向力も受けず、これは、ロータリ軸受にかかる応力の減少を意味する。スピンドルと挟持デバイスのハウジングとの間のロータリ軸受が引張棒の移動中に軸方向応力を受ける従来技術の解決策と比較すると、本発明による解決策は、ロータリ軸受の予想耐用寿命を短くすることなしにより小さな寸法のロータリ軸受を使用すること、または、同じ寸法のロータリ軸受を使用するときにロータリ軸受のより長い予想耐用寿命を得ることを可能にする。
【0011】
本発明による挟持デバイスは、工作機械の工具タレットに取り付けることができ、ここで、挟持デバイスの回転スピンドルは、工具タレット内の駆動機構に接続されるか、駆動機構に接続可能である。しかし、挟持デバイスは、工具タレットでの使用に限定されない。それどころか、挟持デバイスの回転スピンドルは、工作機械の主スピンドルを構成するか、または、中間の工具タレットを伴わずにそのような主スピンドルに接続され得る。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、作動部材は、引張棒が作動部材および運動伝達機構の影響下で強制的に後退係止位置に着かされたときに、スピンドル上で自己係止軸方向位置を取ることにより引張棒を後退係止位置に保つように構成される。その結果、作動部材は、ピストン部材からの外力を必要とすることなしにスピンドルの回転中に引張棒を後退係止位置に保つことが可能であり、これは、スピンドルおよび作動部材が静止位置にある工具変更動作に関連してピストン部材が作動部材に引く力または押す力を及ぼすことだけを必要とすることを意味する。その結果、スピンドルの回転中の作動部材とピストン部材との間の摩擦力、およびシリンダハウジングとスピンドルとの間の摩擦力は、回避されるかまたは少なくとも非常に低い水準に減少され得る。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、第2の液圧チャンバが、ピストンヘッドの反対側の第2の側においてシリンダハウジング内の前述の空間内に形成され、ピストン部材が第2の軸方向において作動部材に引く力または押す力を及ぼすことを可能にするためにこの第2の液圧チャンバ内に液圧流体を供給することにより、シリンダハウジングは、第1の端位置へ移動可能であり、ピストン部材は、第2の軸方向に移動可能である。その結果、複動ピストン部材が得られ、したがって、引張棒が前進解放位置から後退係止位置へ移動されるべきときに作動部材を第1の軸方向に移動させるために、および、引張棒が後退係止位置から前進解放位置へ移動されるべきときに作動部材を反対方向に移動させるために、全く同一のピストン部材を使用することができ、これは、挟持デバイスを非常にコンパクトに作れることを意味する。引張棒が前進解放位置に移動されるべきときに、液圧流体が第2の液圧チャンバ内に供給され、それが、シリンダハウジングのその第1の端位置への移動をもたらし、かつ、シリンダハウジングをスピンドル上の第1の肩に当接させる。スピンドル上の第1の肩は、シリンダハウジングのためのストッパ部材として作用し、第2の液圧チャンバ内に液圧流体をさらに供給すると、ピストン部材は第2の軸方向に押され、それにより、作動部材は、前進解放位置への引張棒の移動をもたらす。ピストン部材および引張棒のこの軸方向移動中、ピストン部材は、第2の軸方向において作動部材に力を及ぼし、一方で、シリンダハウジングは、スピンドル上の第1の肩を介して、対応する反力をスピンドルに及ぼす。その結果、前進解放位置への引張棒の移動中には挟持デバイスのハウジングに力が伝達されず、したがって、スピンドルと挟持デバイスのハウジングとの間のロータリ軸受は、この液圧アクチュエータの作動中にはいかなる軸方向力も受けず、これは、ロータリ軸受にかかる応力の減少を意味する。
【0014】
本発明の別の実施形態によれば、シリンダハウジングは、シリンダハウジング内の前述の空間を径方向外方において制限する第1の円筒形壁と、シリンダハウジング内の前述の空間を径方向内方において制限する反対側の第2の円筒形壁と、を備える。したがって、ピストン部材のピストンヘッドは、これらのシリンダ壁の間に摺動可能に受け入れられる。
【0015】
本発明の別の実施形態によれば、シリンダハウジングの内側側面上に内部突起が設けられ、シリンダハウジングは、前述の第1の端位置ではこの内部突起を介してスピンドル上の第1の肩に当接するように構成され、かつ、前述の第2の端位置ではこの内部突起を介してスピンドル上の第2の肩に当接するように構成され、シリンダハウジング上の内部突起は、スピンドル上の第1の肩と第2の肩との間に形成された間隙内に遊びを有して受け入れられる。その結果、シリンダハウジングとスピンドルとの間の接続が、工具変更動作中に単純かつ確実な態様で達成され得る。
【0016】
本発明の別の実施形態によれば、シリンダハウジングは、前述の第1の端位置と第2の端位置との間の中間軸方向位置を取っているときにスピンドルと接触しないように構成される。シリンダハウジングは、工具変更動作が行われる時点の間、すなわち工具ホルダがスピンドルと一緒に回転される機械加工動作中、この中間軸方向位置にあることが意図されている。その結果、スピンドルの回転中のシリンダハウジングとスピンドルとの間の摩擦力を回避することができる。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、挟持デバイスは、シリンダハウジングに作用するように構成されたばね懸架式の戻し機構を備え、
- シリンダハウジングは、戻し機構のばね力の作用に逆らって前述の中間軸方向位置から第1の端位置へ移動可能であり、かつ、このばね力の作用下で第1の端位置から中間軸方向位置へ移動可能であり、
- シリンダハウジングは、戻し機構のばね力の作用に逆らって前述の中間軸方向位置から第2の端位置へ移動可能であり、かつ、このばね力の作用下で第2の端位置から中間軸方向位置へ移動可能である。
【0018】
したがって、シリンダハウジングは、戻し機構のばね力により中間軸方向位置に向かって付勢される。ばね懸架式の戻し機構により、工具変更動作後にスピンドルがシリンダハウジングに対して高速度で回転されるときにシリンダハウジングとスピンドルとの間の接触面において摩擦熱が発生しなくなるように、シリンダハウジングが工具変更動作の完了後に自動的にスピンドルとの接触から外されることを確実にすることが可能である。
【0019】
本発明の別の実施形態によれば、ピストン部材は、ピストンヘッドに固定されたスリーブ形状のピストンステムを備え、ピストン部材は、ピストンステムを通じて作動部材に前述の引く力または押す力を及ぼすように構成される。ピストンステムは、有利には、第1の液圧チャンバを径方向内方に区切るように構成される。
【0020】
本発明の別の実施形態によれば、作動部材は、スリーブの形態を有し、作動部材は、スピンドルの周壁の周りに配置され、かつ、スピンドルに対して軸方向に移動可能であるようにこの周壁に摺動可能に取り付けられる。
【0021】
本発明の別の実施形態は、
- 運動伝達機構が、スピンドルの周壁を径方向に貫通する第1の開口内に摺動可能に受け入れられる第1のくさびを備え、第1のくさびが、第1の開口内で径方向内方に押されたときに引張棒を後退係止位置に向かって押すように構成されること、
- 第1のくさびが、スピンドルから外方に面する第1の圧力受け表面を備えること、
- 作動部材が、第1の圧力印加表面をその内側側面上に備え、第1の圧力印加表面が、第1の圧力受け表面と接触するために内方に面し、かつ、第1の軸方向に見たときに増大する長手軸までの径方向距離を有すること、および、
- 第1の圧力印加表面が、作動部材が第1の軸方向に移動されるときに、第1の圧力受け表面を圧迫することにより第1のくさびを第1の開口内で径方向内方に押すように構成されること
を特徴とする。
【0022】
引張棒は、第1の軸方向における作動部材の移動による作動部材および第1のくさびの影響下で前進解放位置から後退係止位置へ移動可能である。第1の圧力印加表面は第1の軸方向に増大する長手軸までの径方向距離を有するので、第1の軸方向における作動部材の移動が、第1の圧力印加表面により第1のくさび上の第1の圧力受け表面上に印加されるべき圧力を生じさせる。この圧力は、第1のくさびが長手軸に向かって径方向内方に押されるように、径方向における成分を有する。
【0023】
第1の圧力印加表面および第1の圧力受け表面は、引張棒が作動部材および第1のくさびの影響下で強制的に後退係止位置に着かされたときに第1のくさびが作動部材を周壁上の自己係止軸方向位置に保つような角度αにより、長手軸に対して傾けられることが好ましい。この場合、第1の圧力印加表面および第1の圧力受け表面はどちらも、長手方向断面において見たときにスピンドルを貫いて同じ方向に延在する。角度αは、引張棒がボアの内側で後退係止位置に変位されたときに作動部材が第1のくさびに対して自己係止軸方向位置に達するように、自己係止閾値角度を下回るように選択される。自己係止軸方向位置を得るために、角度αは、十分に小さいものであるべきであり、すなわち、自己係止閾値角度を下回るべきである。自己係止軸方向位置は、第1のくさび上の第1の圧力受け表面と作動部材上の第1の圧力印加表面との間の静止摩擦力が、長手軸に直角な径方向において第1のくさびに印加される力によって生じる摩擦面における対抗する力を上回る、軸方向位置を指す。したがって、第1のくさび上の第1の圧力受け表面と作動部材上の第1の圧力印加表面との間の摩擦係数に依存する角度範囲内で、自己係止軸方向位置が得られる。この摩擦係数は、使用される材料、表面上のコーティング、潤滑剤の使用、などのような様々なパラメータに依存する。したがって、自己係止閾値角度は、そのようなパラメータに依存する。当業者は、共通の一般知識および/もしくは通例の実験を使用することにより各特定の事例に適用される自己係止閾値角度を特定するか、または、ある角度がそのような自己係止閾値角度を下回るかどうかを少なくとも予測するかもしくは見積もることができるであろう。一般に、自己係止閾値角度を十分に下回る角度αを選択することにより自己係止構成を確実にすることが好ましい。小さな角度αを使用することのさらなる便益は、作動部材の比較的長い軸方向変位が引張棒の比較的短い軸方向変位をもたらすことを小さな角度αが意味するという事実により、力増幅効果が得られることである。しかし、過度に小さな角度αは、非効率的であり、実際にはうまく機能しないことがある。例えば、非常に小さな角度αは、作動部材を自己係止軸方向位置から解放することを困難にし得る。角度αは、有利には2°から10°の間である。この範囲内の角度αにより、自己係止効果だけでなく、適切な力増幅効果を得ることができる。
【0024】
本発明の別の実施形態によれば、第1のくさびは、くさび表面を備え、このくさび表面は、スピンドルの後方端部に面し、かつ、スピンドルの前方端部に面している引張棒上の第1の摺動表面と接触する。
【0025】
本発明の別の実施形態は、
- 運動伝達機構が、スピンドルの周壁を径方向に貫通する第2の開口内に摺動可能に受け入れられる第2のくさびを備え、第2のくさびが、くさび表面および第2の圧力受け表面を備え、くさび表面が、スピンドルの前方端部に面し、かつ、スピンドルの後端部に面している引張棒上の第2の摺動面と接触し、第2の圧力受け表面が、スピンドルから外方に面し、第2のくさびが、第2の開口内で径方向内方に押されたときに引張棒を前進解放位置に向かって押すように構成されること、
- 作動部材が、第2の圧力印加表面をその内側側面上に備え、第2の圧力印加表面が、第2の圧力受け表面と接触するために内方に面し、かつ、第2の軸方向に見たときに増大する長手軸までの径方向距離を有すること、ならびに、
- 第2の圧力印加表面が、作動部材が第2の軸方向に移動されるときに、第2の圧力受け表面を圧迫することにより第2のくさびを第2の開口内で径方向内方に押すように構成されること
を特徴とする。
【0026】
引張棒は、第2の軸方向における作動部材の移動による作動部材および第2のくさびの影響下で後退係止位置から前進解放位置へ移動可能である。第2の圧力印加表面は第2の軸方向に増大する長手軸までの径方向距離を有するので、第2の軸方向における作動部材の移動が、第2の圧力印加表面により第2のくさび上の第2の圧力受け表面上に印加されるべき圧力を生じさせる。この圧力は、第2のくさびが長手軸に向かって径方向内方に押されるように、径方向における成分を有する。
【0027】
本発明の別の実施形態によれば、挟持デバイスは、周壁の円周方向において離隔された2つ以上のそのような第1のくさびを備え、各第1のくさびは、周壁を径方向に貫通するそれぞれの第1の開口内に受け入れられる。挟持デバイスはまた、周壁の円周方向において離隔された2つ以上のそのような第2のくさびを備えることができ、各第2のくさびは、周壁を径方向に貫通するそれぞれの第2の開口内に受け入れられる。第1の開口および関連する第1のくさび、ならびに第2の開口および関連する第2のくさびは、周壁の円周方向において均等に分散されることが好ましい。その結果、良好な力分布を有する均衡の取れた挟持デバイスが得られる。しかし、非常に多数のくさびおよび関連する開口は、各開口がハウジングの強度を低下させるという事実により、好ましくない場合がある。関連する開口を伴う3つの第1のくさびおよび3つの第2のくさびが、ハウジングの十分な強度をなおも維持しながら、適切な水準の力分布を有する均衡の取れた挟持デバイスを提供する。第1のくさびおよび第2のくさびは、有利には、周壁の円周方向に見たときに交互に配置され、ここで、周壁の円周方向に見たときに第1のくさびのそれぞれの後に第2のくさびのうちの1つが続き、周壁の円周方向に見たときに第2のくさびのそれぞれの後に第1のくさびのうちの1つが続く。
【0028】
本発明による挟持デバイスのさらなる有利な特徴が、以下に続く説明から明らかになるであろう。
【0029】
添付の図面を参照しながら、例として挙げられる本発明の実施形態の詳細な説明が以下に続く。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態による挟持デバイス、および工具ホルダの平面図である。
【
図2】工具ホルダが挟持デバイスから分離された、
図1の挟持デバイスおよび工具ホルダの部分的に破断された斜視図である。
【
図3a】挟持デバイスの引張棒が前進解放位置において示されており、シリンダハウジングが第1の端位置において示されている、
図1の挟持デバイスおよび工具ホルダの長手方向断面図である。
【
図3b】引張棒が後退係止位置において示されており、シリンダハウジングが第2の端位置において示されている、
図3aに対応する長手方向断面図である。
【
図3c】引張棒が後退係止位置において示されており、シリンダハウジングが中間軸方向位置において示されている、
図3aに対応する長手方向断面図である。
【
図4】
図1の挟持デバイスに含まれる部品の部分的に破断された斜視図である。
【
図5】工具ホルダが挟持状態にある、工具ホルダおよび
図4に示された挟持デバイスの部品の長手方向断面図である。
【
図6】工具ホルダが非挟持状態にある、
図5に対応する長手方向断面図である。
【
図7】工具ホルダおよび
図4に示された挟持デバイスの部品の分解組立図である。
【
図8】工具ホルダおよび
図4に示された挟持デバイスの部品の別方向からの分解組立図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態の詳細な説明
本発明の一実施形態による挟持デバイス1が、
図1~
図8に示されている。挟持デバイス1は、工具ホルダ80(図面では非常に概略的に示されている)を挟持デバイスにおける回転スピンドル2に解放可能に挟持し、かつ、工具ホルダ80に固定された切削工具(図示せず)による被加工物の機械加工を可能にするように、構成される。
【0032】
スピンドル2は、例えば円錐ころ軸受または任意の他の適切なタイプのころ軸受の形態をした転がり軸受4により、挟持デバイス1のハウジング3に回転可能に取り付けられる。スピンドル2は、前方端部2a、後方端部2b、および、前方端部2aと交わりかつ前方端部2aから後方に延在するボア5を有する。したがって、ボア5は、スピンドルの前方端部2aに入口開口部を有する。スピンドル2は、スピンドルが駆動機構により回転駆動されることを可能にするために、スピンドルの後方端部2bにおける接続ピン6を介して、例えば工作機械の工具タレット内の駆動機構といった工作機械の駆動機構に接続可能である。
【0033】
工具ホルダ80上の取付けシャンク81を受け入れるための取付け部分7(
図2および
図4参照)が、ボア5の前方端部に設けられる。この取付けシャンク81は、本明細書では工具ホルダシャンクと呼ばれる。
【0034】
引張棒8が、前進解放位置(
図3aおよび
図6参照)と後退係止位置(
図3b、
図3c、および
図5参照)との間でボア5の長手軸Lに沿ってボア5内で相反的に移動可能であるように、ボア5の内側に摺動可能に取り付けられる。引張棒8は、ボア5の入口開口部に面する前方端部、および反対側の後方端部を有する。ヘッド部分9およびネック部分10が、引張棒8の前方端部に設けられる。ヘッド部分9は、引張棒の長手方向に見たときにネック部分10の前方に位置し、ヘッド部分9は、ヘッド部分9上の後方に面する傾斜表面11を介してネック部分10に接続されている。密閉リング12が、引張棒8とボア5の内側表面との間に配置される。示された例では、この密閉リング12は、引張棒8の外側側面上の溝内に受け入れられる。
【0035】
工具ホルダシャンク81は、スピンドル2の前方端部2aにおける入口開口部を介してボア5の取付け部分7内に挿入可能である。引張棒のヘッド部分9は、工具ホルダシャンク81における係合ボア82内に受け入れられ、工具ホルダシャンクの管状壁83が、ヘッド部分9とボア5の内側表面との間の空間内に受け入れられる。示された実施形態では、ボア5の取付け部分7は、円錐形に成形され、かつ、同様に成形された工具ホルダシャンク81を受け入れるように適合されたある程度「三角形の」または多角形の非円形断面形状を有する。円錐形状は、工具ホルダシャンク81とスピンドル2との間の径方向および軸方向における遊びのない接続を確実にし、一方で、非円形断面は、スピンドル2に対する工具ホルダシャンク81の回転不能な固定を確実にする。しかし、ボア5の取付け部分7はまた、他のタイプの工具ホルダシャンクを受け入れるための任意の他の適切な形状を有することができる。
【0036】
セグメントの形態をした係合部材20が、引張棒8の前方端部において引張棒8の周りに配置される。前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動の影響下において、係合部材20は、第1の位置(
図3aおよび
図6参照)から第2の位置(
図3b、
図3c、および
図5参照)へ移動可能であり、第1の位置では、係合部材20は、工具ホルダシャンク81がボア5の取付け部分を出入りすることを可能にし、第2の位置では、係合部材20は、工具ホルダシャンク81内の係合ボア82における係合溝84と係止係合することにより、工具ホルダシャンク81をスピンドル2に固着させておく。
【0037】
示された実施形態では、係合部材20は、引張棒8のネック部分10の周りに配置され、かつ、保持リング21(
図6参照)および弾性Oリング22によりネック部分の周りの所定の位置に保持され、保持リング21および弾性Oリング22は、ボア5内に配置され、かつ、ネック部分10を取り囲む。各係合部材20は、保持リング21における内側溝内に係合される、外方に面するフランジ部分23を有する。Oリング22は、各係合部材20の後方端部における外方に面する溝内に受け入れられる。圧縮ばね24、スラストリング25、およびストッパリング26もまた、ボア5内に配置され、引張棒8を取り囲むように構成される。圧縮ばね24は、引張棒8上の肩とスラストリング25との間に取り付けられ、また、圧縮ばね24は、スラストリング25、保持リング21、および係合部材20を前方に付勢するように構成される。ボア5の入口開口部に向かう保持リング21の前方移動は、ボア5の内側表面における溝内に取り付けられるストッパリング26によって制限される。
【0038】
各係合部材20は、外方に向けられた係合フランジ27をその前方端部に備え、係合フランジ27は、係合部材20が上述の第2の位置にあるときに工具ホルダシャンク81における係合溝84と係合するように構成される。
図3aおよび
図6に示されるように、引張棒8が前進解放位置にあるときに、係合部材20の前方端部は、引張棒8のヘッド部分9の後側に位置し、係合フランジ27は、工具ホルダシャンク81における係合溝84との係合から外れている。引張棒8がボア5の長手軸Lに沿ってボア5内で軸方向後方に移動されると、引張棒のヘッド部分9上の傾斜表面11は、係合部材20の前方端部と接触することになり、ここで、係合部材20の前方端部は、係合部材上の係合フランジ27が工具ホルダシャンク81における係合溝84と係合するように、この傾斜表面11上を摺動し、かつ、外方へ押され、その結果、工具ホルダシャンク81は、引張棒8によって引っ張られて、ボア5の取付け部分内でスピンドル2の内側表面としっかり接触する。
【0039】
挟持デバイス1は、作動部材13をさらに備え、この作動部材13は、スピンドル2と同心であり、長手軸Lに沿ってスピンドル2に対して軸方向に移動可能であるように、スピンドルに摺動可能に取り付けられる。作動部材13は、スピンドル2に回転不能に取り付けられ、つまり、スピンドル2に対して回転することを防止され、したがって、スピンドル2と一緒に回転するように構成される。運動伝達機構30が、スピンドル2に取り付けられ、かつ、スピンドル2に対する第1の軸方向D1における作動部材13の軸方向移動を前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動に変換するように構成される。示された実施形態では、この第1の軸方向D1は、スピンドル2の前方端部2aに向かう方向である。したがって、この場合、前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動は、スピンドル2に沿った前方への作動部材13の軸方向移動によってもたらされる。しかし、代案として、作動部材13および運動伝達機構30は、前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動がスピンドル2に沿った後方への作動部材13の軸方向移動によってもたらされるような態様で協働するように配置されてもよい。
【0040】
さらに、挟持デバイス1は、作動部材13をスピンドル2に対して軸方向に移動させるための液圧アクチュエータ17を備える。液圧アクチュエータ17は、ハウジング3内に配置され、かつ、シリンダハウジング60およびピストン部材70を備える。シリンダハウジング60は、スピンドル2の一部を取り囲むように構成される。シリンダハウジング60は、第1の端位置(
図3a参照)と第2の端位置(
図3b参照)との間でハウジング3およびスピンドル2に対して軸方向に移動可能であるようにハウジング3の内側の空間内に摺動可能に取り付けられ、第1の端位置では、シリンダハウジング60は、第1の軸方向D1におけるスピンドル2に対するシリンダハウジング60の移動を制限するスピンドル2上の第1の肩61aに当接し、第2の位置では、シリンダハウジング60は、反対の第2の軸方向D2におけるスピンドル2に対するシリンダハウジング60の移動を制限するスピンドル2上の第2の肩61bに当接する。
図3cに示されるように、シリンダハウジング60は、前述の第1の端位置と第2の端位置との間の中間軸方向位置を取っているときにスピンドル2と接触しないように構成されることが好ましい。
【0041】
示された実施形態では、内部突起62が、シリンダハウジング60の内側側面上に設けられ、シリンダハウジング60は、第1の端位置ではこの内部突起62を介してスピンドル2上の第1の肩61aに当接するように構成され、かつ、第2の端位置ではこの内部突起62を介してスピンドル2上の第2の肩61bに当接するように構成される。したがって、この場合、内部突起62は、それを通じてシリンダハウジング60が前述の端位置においてスピンドル上のそれぞれの肩61a、61bに当接する当接部材として機能するように構成される。内部突起62は、スピンドル2上の第1の肩61aと第2の肩61bとの間の間隙内に遊びを有して受け入れられ、それにより、シリンダハウジングが第1の端位置と第2の端位置との間の中間軸方向位置を取っているときにスピンドル2と接触しないことを可能にする。示された例では、内部突起62は、シリンダハウジング60に設けられた環状溝内に取り付けられるロックリングの形態を有するが、代案として、シリンダハウジングの一体部品として形成されてもよい。示された実施形態では、スピンドル上の第1の肩61aおよび第2の肩61bは、スピンドル2の外側側面上に設けられた環状溝における互いに向かい合った表面によって形成される。しかし、スピンドル上の第1の肩61aおよび第2の肩61b、ならびにシリンダハウジング上の関連する当接部材62はまた、任意の他の適切な態様で設計され得る。
【0042】
また、ピストン部材70は、スピンドル2の一部を取り囲むように構成される。ピストン部材70は、ピストン部材70が第1の軸方向D1において作動部材13に引く力または押す力を及ぼすことにより前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動をもたらすことを可能にするために、スピンドル2に対して軸方向に液圧で移動可能であるようにシリンダハウジング60に摺動可能に取り付けられる。示された実施形態では、ピストン部材70は、軸方向に向けられた引く力を作動部材13に及ぼすことにより作動部材13を第1の軸方向D1に移動させるように構成される。代案として、ピストン部材70は、軸方向に向けられた押す力を作動部材13に及ぼすことにより作動部材13を第1の軸方向D1に移動させるように構成され得る。ピストン部材70は、シリンダハウジング60内の空間に摺動可能に受け入れられる環状ピストンヘッド71を備え、第1の液圧チャンバ63aが、ピストンヘッド71の第1の側においてこの空間内に形成される。この第1の液圧チャンバ63a内に液圧流体を供給することにより、シリンダハウジング60は第2の端位置へ移動可能であり、ピストン部材70は第1の軸方向D1に移動可能である。
【0043】
示された実施形態では、シリンダハウジング60は、シリンダハウジング内の前述の空間を径方向外方において制限する第1の円筒形壁64と、シリンダハウジング内の前述の空間を径方向内方において制限する反対側の第2の円筒形壁65とを備える。示された例では、シリンダハウジング60は、ねじ式継手66によりまたは任意の他の適切な態様で互いに固定され得る第1のシリンダハウジング部品60aおよび第2のシリンダハウジング部品60b(
図6参照)によって形成され、第1の円筒形壁64は、第1のシリンダハウジング部品60aの一部を形成し、第2の円筒形壁65は、第2のシリンダハウジング部品60bの一部を形成する。密閉リング72a、72bが、ピストンヘッド71の両側に配置され、第1の密閉リング72aが、第1の円筒形壁64と密閉接触するように、ピストンヘッドの外方に面する表面における溝内に取り付けられ、第2の密閉リング72bが、第2の円筒形壁65と密閉接触するように、ピストンヘッドの内方に面する表面における溝内に取り付けられる。当然ながら、シリンダハウジング60は、任意の他の適切な態様で設計されてもよい。
【0044】
示された実施形態では、第2の液圧チャンバ63bが、ピストンヘッド71の反対側の第2の側においてシリンダハウジング60内の前述の空間内に形成され、シリンダハウジング60は、ピストン部材70が第2の軸方向D2において作動部材13に引く力または押す力を及ぼすことを可能にするために、この第2の液圧チャンバ63b内に液圧流体を供給することにより、シリンダハウジング60は第1の端位置へ移動可能であり、ピストン部材70は第2の軸方向D2に移動可能である。示された実施形態では、ピストン部材70は、軸方向に向けられた押す力を作動部材13に及ぼすことにより作動部材13を第2の軸方向D2に移動させるように構成される。代案として、ピストン部材70は、軸方向に向けられた引く力を作動部材13に及ぼすことにより作動部材13を第2の軸方向D2に移動させるように構成され得る。
【0045】
示された実施形態では、ピストン部材70は、ピストンヘッド71に固定されたスリーブ形状のピストンステム73を備え、ピストン部材70は、ピストンステム73を通じて作動部材13に上述の引く力または押す力を及ぼすように構成される。ピストンステム73は、作動部材13と同心でありかつスピンドル2の周りに延在することが好ましい。ピストンステム73は、第1の液圧チャンバ63aを径方向内方に区切り、一方で、第2の液圧チャンバ63bは、上述の第2の円筒形壁65により径方向内方に区切られる。示された例では、第2の円筒形壁65は、ピストンステム73の内側表面と作動部材13の外側表面との間に設けられた間隙内へ延在する。
【0046】
ピストンステム73は、作動部材13の外側側面上に設けられた環状外部突起15およびロックリング16に作用することにより上述の力を作動部材13に及ぼすように構成されてもよく、外部突起15およびロックリング16は、作動部材13の軸方向において離隔される。示された実施形態では、環状内部突起74が、ピストンステム73の内側側面上に設けられる。ピストンステム73上の内部突起74は、外部突起15とロックリング16との間に形成された間隙内に遊びを有して受け入れられる。この場合、ピストン部材70が作動部材を第1の軸方向D1に移動させるときに、内部突起74および外部突起15を介して軸方向の力がピストン部材70から作動部材13に伝達され、ピストン部材70が作動部材を第2の軸方向D2に移動させるときに、外部突起74およびロックリング16を介して軸方向の力がピストン部材70から作動部材13に伝達される。また当然ながら、ピストン部材70、およびピストン部材と作動部材13との間の接触面は、任意の他の適切な態様で設計され得る。
【0047】
作動部材13は、スピンドル2と一緒にシリンダハウジング60およびピストン部材70に対して回転可能であり、一方で、シリンダハウジング60およびピストン部材70は、スピンドル2がハウジング3に対して回転されるときにハウジング3内で動かないままであるように構成される。
【0048】
シリンダハウジング60およびピストン部材70は、作動部材13およびスピンドル2と同心であることが好ましいが、スピンドル2の中心軸に平行にしかしその中心軸に対してある程度偏心して配置されるそれぞれの中心軸を有するシリンダハウジング60およびピストン部材70を使用することも、可能であるはずである。挟持デバイス1の長手方向においてスペースを節約するために、シリンダハウジング60およびピストン部材70は、有利には作動部材13と少なくとも部分的に重なるように配置される。
【0049】
作動部材13は、引張棒8が作動部材13および運動伝達機構30の影響下で強制的に後退係止位置に着かされたときにスピンドル2上で自己係止軸方向位置を取り、それにより作動部材13が引張棒8を後退係止位置に保つように構成されることが、好ましい。その結果、ピストン部材70は、スピンドル2が静止しており引張棒8が後退係止位置から前進解放位置へ移動されてから後退係止位置に戻されなければならない工具変更動作に関して、作動部材13に力を及ぼすことだけを必要とする。自己係止軸方向位置において、作動部材13と作動部材13に接触する運動伝達機構30および/またはスピンドル2の部分との間の摩擦力が、作動部材が第2の軸方向D2において軸方向に変位されることを防止する。
【0050】
機械加工動作中に作動部材13はスピンドル2と一緒に高速度で回転するがピストン部材70およびシリンダハウジング60は動かないままであるという事実により、機械加工動作中の作動部材13とピストン部材70との間の摩擦力およびスピンドル2とシリンダハウジング60との間の摩擦力を回避するかまたは少なくともそのような摩擦力を可能な限り低く保つことが、重要である。示された実施形態では、ピストン部材70と作動部材13との間の接触面における摩擦力は、作動部材およびピストン部材の上述の協働する部分15、16、74によって形成される連結部において作動部材とピストン部材との間に径方向および軸方向における僅かな遊びを有することによって回避される。同様に、シリンダハウジング60とスピンドル2との間の接触面における摩擦力は、シリンダハウジングおよびスピンドルの上述の協働する部分62、61a、61bによって形成される連結部においてシリンダハウジングとスピンドルとの間に径方向および軸方向における僅かな遊びを有することによって回避される。
【0051】
挟持デバイス1は、有利には、シリンダハウジング60に作用するばね懸架式の戻し機構90を備え、
- シリンダハウジング60は、戻し機構90のばね力の作用に逆らって上述の中間軸方向位置から第1の端位置へ移動可能であり、かつ、このばね力の作用下で第1の端位置から中間軸方向位置へ移動可能であり、
- シリンダハウジング60は、戻し機構90のばね力の作用に逆らって中間軸方向位置から第2の端位置へ移動可能であり、かつ、このばね力の作用下で第2の端位置から中間軸方向位置へ移動可能である。
【0052】
示された実施形態では、戻し機構90は、シリンダハウジング60の円周方向において分散された2つ以上の球91を備え、これらの球は、シリンダハウジングの外側側面上の環状溝92内に受け入れられる。溝92は、溝92における互いに向かい合った側壁が球を溝内の中央位置に向かって案内するように、球91の形状に適合された断面形状を有する。各球91は、挟持デバイス1のハウジング3におけるそれぞれの開口93(
図3a参照)を貫通し、この開口93は、ハウジングにおける関連する空洞94に開いている。ばねユニット95が、この空洞94内に収容され、球91は、このばねユニット95に寄り掛り、ばねユニット95は、球を環状溝92内へ径方向内方に付勢するために球91に作用するように構成される。示された例では、各ばねユニット95は、皿ばねの積重ねによって形成された圧縮ばね要素を備える。ばね懸架式の戻し機構90はまた、任意の他の適切な態様で設計され得る。
【0053】
示された実施形態では、作動部材13は、スリーブの形態を有する。この場合、作動部材13は、スピンドル2の周壁14の周りに配置され、かつ、スピンドルに対して軸方向に移動可能であるようにこの周壁に摺動可能に取り付けられる。
【0054】
運動伝達機構30は、多くの異なる態様で設計され得る。運動伝達機構30は、例えば、スピンドル2に対する第1の軸方向D1における作動部材13の軸方向移動を前進解放位置から後退係止位置への引張棒8の移動に伝達するための1つまたは複数の第1のくさび40と、スピンドル2に対する第2の軸方向D2における作動部材13の軸方向移動を後退係止位置から前進解放位置への引張棒8の移動に伝達するための1つまたは複数の第2のくさび50と、を備え得る。
【0055】
示された実施形態では、運動伝達機構30は、周壁14の円周方向において離隔された3つの第1のくさび40を備える。各第1のくさび40は、周壁14を径方向に貫通するそれぞれの第1の開口45内に摺動可能に受け入れられる。第1のくさび40は、関連する第1の開口45内でそれらが径方向内方に押されたときに引張棒8を後退係止位置に向かって連帯して押すように構成される。
【0056】
各第1のくさび40は、スピンドル2の周壁14から外方に面する第1の圧力受け表面41を備え、作動部材13は、第1のくさび上の第1の圧力受け表面41に接触するために内方に面する第1の圧力印加表面31を、その内側側面上に備える。各第1の圧力印加表面31は、第1の軸方向D1に見たときに増大する長手軸Lまでの径方向距離を有する。第1の圧力印加表面31は、作動部材13が第1の軸方向D1に移動されるときに、第1のくさび上の第1の圧力受け表面41を圧迫することにより第1のくさび40を第1の開口45内で径方向内方に押すように構成される。第1の圧力印加表面31および第1の圧力受け表面41は、引張棒8が作動部材13および第1のくさび40の影響下で強制的に後退係止位置に着かされたときに第1のくさび40が作動部材13を周壁14上の自己係止軸方向位置に保つような角度α(
図5参照)により、長手軸Lに対して傾けられることが好ましい。
【0057】
各第1のくさび40はまた、くさび表面48を備え、くさび表面48は、スピンドル2の後方端部2bに面し、かつ、ハウジングの前方端部2aに面している引張棒8上の第1の摺動表面18と接触する。第1のくさび40が作動部材13により第1の開口45内で径方向内方に押されると、各第1のくさび40のくさび表面48は、摺動して引張棒上の対応する第1の摺動表面18を圧迫し、それにより、引張棒8を強制的に後退係止位置に向かって移動させることになる。
【0058】
示された実施形態では、挟持デバイス1は、周壁14の円周方向において離隔された3つの第2のくさび50を備える。各第2のくさび50は、周壁14を径方向に貫通するそれぞれの第2の開口55内に摺動可能に受け入れられる。第2のくさび50は、関連する第2の開口55内でそれらが径方向内方に押されたときに引張棒8を前進解放位置に向かって連帯して押すように構成される。
【0059】
各第2のくさび50は、スピンドル2の周壁14から外方に面する第2の圧力受け表面52を備え、作動部材13は、第2のくさび上の第2の圧力受け表面52に接触するために内方に面する第2の圧力印加表面32を、その内側側面上に備える。各第2の圧力印加表面32は、第2の軸方向D2に見たときに増大する長手軸Lまでの径方向距離を有する。第2の圧力印加表面32は、作動部材13が第2の軸方向D2に移動されるときに、第2のくさび上の第2の圧力受け表面52を圧迫することにより第2のくさび50を第2の開口55内で径方向内方に押すように構成される。
【0060】
各第2のくさび50はまた、くさび表面59を備え、くさび表面59は、スピンドル2の前方端部2aに面し、かつ、ハウジングの後方端部2bに面している引張棒8上の第2の摺動表面19と接触する。第2のくさび50が作動部材13により第2の開口55内で径方向内方に押されると、各第2のくさび50のくさび表面59は、摺動して引張棒上の対応する第2の摺動表面19を圧迫し、それにより、引張棒8を強制的に前進係止位置に向かって移動させることになる。
【0061】
各第1のくさび40はまた、スピンドル2の周壁14から外方に面する第3の圧力受け表面43(
図6参照)を備えることができ、作動部材13は、各第1のくさび上の第3の圧力受け表面43に接触するために内方に面する第3の圧力印加表面33を、その内側側面上に備える。各第3の圧力印加表面33は、第1の軸方向D1に見たときに増大する長手軸Lまでの径方向距離を有する。第3の圧力印加表面33および第3の圧力受け表面43は、上述の角度αよりも大きな角度β(
図6参照)により、長手軸Lに対して傾けられる。第1および第3の圧力印加表面31、33、ならびに第1および第3の圧力受け表面41、43は、作動部材13上および各第1のくさび40上にそれぞれ連続的に配置され、その結果、第1の軸方向D1における作動部材13の移動時に、第3の圧力印加表面33は、最初の第1の移動段階中に摺動して関連する第3の圧力受け表面43を圧迫するように構成され、そこで、第1の圧力印加表面31は、後続の第2の移動段階中に摺動して関連する第1の圧力受け表面41を圧迫するように構成される。その結果、引張棒8は、より大きな角度βの影響下で、挟持の初期段階中に第1の軸方向D1に急速に移動され得る。この初期挟持段階は、多くの力を必要としない。しかし、挟持の最終段階中、引張棒8を短い距離だけ変位させるために、大きな力が必要とされる。実際の挟持が起こるとき、つまり、係合部材20が上述の第1の位置を取るときに、引張棒8は、引張棒8の軸方向移動が作動部材13の軸方向移動と比較して小さくなり、それにより「パワーブースト」とも呼ばれる力増幅効果がもたらされるように、より小さな角度αの影響下で第1の軸方向D1に移動される。角度βは、適切には10°から75°の間であり、好ましくは35°から65°の間であり、これは、引張棒8の効率的な初期軸方向移動を提供する。引張棒8の初期軸方向移動のための急な角度β、および実際の挟持のための小さな角度αを使用することにより、作動部材13(したがって、挟持デバイス1全体)は、なおも自己係止挟持機構にかなりの力増幅効果を提供しながら、軸方向において比較的短く作られ得る。
【0062】
第1および第2のくさび40、50は、スピンドル2の周壁14における関連する第1および第2の開口45、55内に回転不能に受け入れられ、つまり、各くさびは、関連する開口内で回転することを防止される。
【0063】
図6に示されるように、工具ホルダ80がスピンドル2に挟持されるべきときに、工具ホルダシャンク81は、スピンドル2が静止位置に保たれ、引張棒8が前進解放位置に位置決めされた状態で、ボア5の取付け部分7内に挿入される。その結果、引張棒のヘッド部分9は、工具ホルダシャンク81における係合ボア82内に受け入れられ、工具ホルダシャンク81における係合溝84は、係合部材20の係合フランジ27の外側側面上に位置決めされる。その後すぐに、
図3bに示されるようにシリンダハウジング60を第2の軸方向D2に短い距離を移動させてスピンドル2上の第2の肩61bと係合させ、ピストン部材70を第1の軸方向D1に移動させ、それにより第1の軸方向D1における作動部材13の対応する軸方向移動を達成するために、液圧油が第1の液圧チャンバ63a内に供給される。作動部材13のこの軸方向移動の第1の段階中、作動部材13上の第3の圧力印加表面33は、摺動して第1のくさび40上の第3の圧力受け表面43を圧迫する。その結果、第1のくさび40は、径方向内方に押され、引張棒8は、後退係止位置に向かって軸方向に変位される。第3の圧力印加表面33および第3の圧力受け表面43の比較的急な傾斜βにより、第1のくさび40は、最初にかなり速く内方に移動することになり、それにより、引張棒8の比較的急速な変位がもたらされる。比較的急な角度βは、引張棒8の初期変位が多くの力を必要としないので、有利である。第1および第3の圧力印加表面31、33、ならびに第1および第3の圧力受け表面41、43は、第3の圧力印加表面33が第3の圧力受け表面43を通過し第1の圧力印加表面31が第1の圧力受け表面41に到達するような距離を作動部材13が移動されたときに、つまりこれらのそれぞれの表面の間を移行しているときに、引張棒8がボア5内でその最終後退位置にほとんど到達しているように、配置される。したがって、大きな力が有益である最終挟持段階に対して、第1の圧力印加表面31および第1の圧力受け表面41が有効である。この段階では、作動部材13の比較的大きな移動が、第1のくさび40の非常に小さな径方向変位、および、引張棒8のさらに小さな軸方向変位をもたらし、それが結果的に、引張棒8が工具ホルダシャンク81を大きな力で引っ張ってスピンドル2としっかりと係合させることを可能にする、力増幅効果を提供する。さらに、第1の圧力印加表面31および第1の圧力受け表面41の小さな傾斜αは、自己係止効果を提供し、かつ、任意の追加的な係止手段を必要とすることなしに挟持デバイスが挟持状態のままでいることを確実にする。その結果、引張棒8が後退係止位置に到達したときに、第1の液圧チャンバ63a内の液圧が解放され得る。第1の液圧チャンバ63a内の液圧が解放されると、戻し機構90は、シリンダハウジング60を第1の軸方向D1に短い距離を自動的に移動させて、シリンダハウジング60を
図3cに示された中間軸方向位置に戻し、これは、シリンダハウジングがスピンドル2との接触から外されることを意味する。後退係止位置に向かう引張棒8の移動中、引張棒8上の第2の摺動表面19は、第2のくさび50上のくさび表面59を圧迫し、それにより、第2のくさび50を径方向外側に押す。
【0064】
工具変更動作が行われるべきとき、および、工具ホルダ80がスピンドル2から解放されるべきときに、スピンドル2の回転は停止され、また、
図3aに示されるようにシリンダハウジング60を第1の軸方向D1に短い距離を移動させてスピンドル2上の第1の肩61aと係合させ、ピストン部材70を第2の軸方向D2に移動させ、それにより第2の軸方向D2における作動部材13の対応する軸方向移動を達成するために、第2の液圧チャンバ63b内に液圧油が供給される。作動部材13が第2の軸方向D2における十分な力にさらされると、作動部材13上の第1の圧力印加表面31と第1のくさび40上の第1の圧力受け表面41との間の自己係止摩擦係合が解放され、そこで、作動部材13は、第2の軸方向D2においてスピンドル2に対して移動可能になる。作動部材13がこの方向に移動されるときに、作動部材13上の第2の圧力印加表面32は、摺動して、第2のくさび50上の第2の圧力受け表面52を圧迫する。その結果、第2のくさび50は、径方向内方に押され、引張棒8は、前進解放位置に向かって軸方向に変位される。引張棒8が前進解放位置に向かって移動されるときに、引張棒8のヘッド部分9の外側端部は、工具ホルダシャンク81における係合ボア82内の表面85に当たり、それにより、工具ホルダシャンク81をスピンドル2から解放する。前進解放位置に向かう引張棒8の移動中、引張棒8上の第1の摺動表面18は、第1のくさび40上のくさび表面48に押し付けられ、それにより、第1のくさび40を径方向外方に押す。
【0065】
当然ながら、本発明は、決して上記の実施形態に限定されるものではない。反対に、添付の特許請求の範囲において定められるような本発明の基本的理念から逸脱することなしに、本発明の修正に対する多くの可能性が、当業者には明らかになるであろう。
【国際調査報告】