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特表2024-522877NADH:quinone酸化還元酵素の発現が調節された組換え微生物、並びにそれを用いたO-ホスホセリン、システイン及びその誘導体の生産方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】NADH:quinone酸化還元酵素の発現が調節された組換え微生物、並びにそれを用いたO-ホスホセリン、システイン及びその誘導体の生産方法。
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240614BHJP
   C12P 13/06 20060101ALI20240614BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20240614BHJP
   C12N 9/04 20060101ALN20240614BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P13/06 Z
C12N9/88
C12N9/04 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579425
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 KR2022008745
(87)【国際公開番号】W WO2022270857
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0081785
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】チョン、フィ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヘ ミン
(72)【発明者】
【氏名】シム、ヒ-ジン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジン ナム
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE63
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD30
4B064DA16
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065BB02
4B065BD22
4B065CA60
(57)【要約】
本出願は、NADH:quinone酸化還元酵素の発現が調節された組換え微生物、並びにそれを用いたO-ホスホセリン、システイン及びシステインの誘導体の生産方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化され、O-ホスホセリン生産能を有するエシェリキア属組換え微生物。
【請求項2】
前記NADH:quinone酸化還元酵素の活性強化は、nuoオペロンの発現増加である、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記NADH:quinone酸化還元酵素の活性強化は、前記NADH:quinone酸化還元酵素をコードする遺伝子の上流に、活性が強化された遺伝子発現調節配列を含ませることである、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記NADH:quinone酸化還元酵素をコードする遺伝子の上流は、nuoA遺伝子の上流である、請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
前記微生物は、さらにホスホセリンホスファターゼ(SerB)の活性が弱化されたものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
前記微生物は、さらにO-ホスホセリン排出タンパク質(YhhS)の活性が強化されたものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)である、請求項1に記載の微生物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の微生物を培地で培養するステップを含む、O-ホスホセリンの生産方法。
【請求項9】
前記方法は、前記培養による培地又は微生物からO-ホスホセリンを回収するステップをさらに含む、請求項8に記載のO-ホスホセリンの生産方法。
【請求項10】
a)NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化されたO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養してO-ホスホセリン又はそれを含む培地を生産するステップと、
b)O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(OPSS)又はそれを発現する微生物の存在下で、a)ステップで生産したO-ホスホセリン又はそれを含む培地を硫化物と反応させるステップとを含む、システイン又はその誘導体の生産方法。
【請求項11】
前記硫化物は、NaS、NaSH、(NHS、HS及びNaからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10に記載のシステイン又はその誘導体の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、NADH:quinone酸化還元酵素の発現が調節された組換え微生物、並びにそれを用いたO-ホスホセリン、システイン及びシステインの誘導体の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-システインは、あらゆる生物体の硫黄代謝において重要なアミノ酸であり、毛髪のケラチンなどの生体内タンパク質、グルタチオン、ビオチン、メチオニン及びその他硫黄を含有する代謝産物の合成に用いられるだけでなく、コエンザイムA生合成の前駆物質として用いられる。
【0003】
微生物を用いてL-システインを生産する方法として、1)微生物を用いてD,L-ATC(D,L-2-aminothiazoline-4-carboxylic acid)を生物学的に変換する方法、2)大腸菌を用いてL-システインを生産する直接発酵法(特許文献1,非特許文献1)、3)微生物を用いてO-ホスホセリン(O-phosphoserine, 以下「OPS」)を発酵生産し、その後O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase, 以下「OPSS」)の触媒作用下で硫化物と反応させてL-システインに変換する方法(特許文献2)が公知である。
【0004】
ここで、前記3)の方法によりシステインを高収率で生産するためには、前駆体であるOPSを過剰量生産する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第0885962号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/0190081号明細書
【特許文献3】米国特許第7662943号明細書
【特許文献4】韓国登録特許第1381048号公報
【特許文献5】米国特許第9127324号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2020/0048619号明細書
【特許文献7】米国特許第10323262号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2017/0247727号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wada M and Takagi H , Appl. Microbiol. Biochem., 73:48-54, 2006
【非特許文献2】www.biocyc.org
【非特許文献3】Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【非特許文献4】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【非特許文献5】http://www.ncbi.nlm.nih.gov
【非特許文献6】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献7】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology
【非特許文献8】Ahmed Zahoor, Computational and structural biotechnology journal, vol 3, 2012 October
【非特許文献9】Wendisch V F et al., Curr Opin Microbiol. 2006 Jun;9(3):268-74
【非特許文献10】Peters-Wendisch P et al., Appl Environ Microbiol. 2005 Nov;71(ll):7 139-44.
【非特許文献11】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【非特許文献12】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【非特許文献13】Nakashima N et al., Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793
【非特許文献14】Weintraub, H. et al., Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986
【非特許文献15】Mino K and Ishikawa K, FEBSletters, 551:133-138, 2003
【非特許文献16】Bums K E et al. J. Am. Chem. Soc, 127: 11602-11603, 2005
【非特許文献17】Appl. Microbiol.Biotechnol. (1999) 52:541-545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は、NADH:quinone酸化還元酵素の発現が調節された組換え微生物、並びにそれを用いたO-ホスホセリン、システイン及びシステインの誘導体の生産方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化され、O-ホスホセリン生産能を有するエシェリキア属組換え微生物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本出願は、本出願のO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養するステップを含む、O-ホスホセリンの生産方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本出願は、a)NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化されたO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養してO-ホスホセリン又はそれを含む培地を生産するステップと、b)O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase, OPSS)又はそれを発現する微生物の存在下で、前記a)ステップで生産したO-ホスホセリン又はそれを含む培地を硫化物と反応させるステップとを含む、システイン又はその誘導体の生産方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本出願のNADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化され、OPSを生産する微生物は、OPSを高効率で生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。さらに、本明細書全体にわたって多くの論文及び特許文献が参照されており、その引用が示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容はその全体が本明細書に参照として組み込まれており、それにより本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【0013】
本出願の一態様は、NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化され、O-ホスホセリンを生産する微生物を提供する。
【0014】
本出願における「O-ホスホセリン(O-phosphoserine, 以下「OPS」)」とは、セリンのリン酸(phosphoric acid)エステルであり、様々なタンパク質の構成要素である。前記OPSは、L-システインの前駆体であり、O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(OPS sulfhydrylase, OPSS)の触媒作用下で硫化物と反応してシステインに変換されるが、これに限定されるものではない(特許文献2)。
【0015】
本出願における「NADH:quinone酸化還元酵素(NADH:quinone oxidoreductase, 以下「Nuo」)」とは、微生物の電子伝達系においてNADHを酸化して細胞内膜のquinoneを還元させる酵素を意味する。この酵素タンパク質をNADHデヒドロゲナーゼ-1(NADH dehydrogenase-1: NDH-1)ともいう。このタンパク質をコードする遺伝子は、例えばnuoABCEFGHIJKLMN遺伝子クラスターであるが、これに限定されるものではない。前記nuoABCEFGHIJKLMN遺伝子クラスターは、nuoオペロンを構成し、前記オペロンの上流のプロモーターとリボソーム結合部位のポリヌクレオチドにより発現を調節することができる。本出願において、「nuoABCEFGHIJKLMN遺伝子」は、「NADH:quinone酸化還元酵素をコードする遺伝子」、「nuoABCEFGHIJKLMN遺伝子」、「nuoオペロン」及び「nuo遺伝子」と混用される。
【0016】
本出願における「オペロン」とは、1つの発現調節配列、具体的には1つのプロモーターにより発現が調節される遺伝子群を含むDNAの機能的単位を意味する。オペロンにより転写されたmRNAは、1つのmRNA分子が1つ以上のタンパク質をコードするポリシストロニック(polycistronic)mRNAであってもよく、1つのmRNA分子が1つのタンパク質をコードするモノシストロニック(monocistronic)mRNAであってもよい。
【0017】
Nuoは、13個のサブユニット(subunit)タンパク質の複合体であり(NuoA,NuoB,NuoC,NuoE,NuoF,NuoG,NuoH,NuoI,NuoJ,NuoK,NuoL,NuoM,NuoN)、各サブユニットタンパク質の翻訳は、2種類のオペロンであるnuoABCEFGHIJKLとnuoMNを鋳型とする。前記nuoオペロンの構造は、EcoCyc(非特許文献2)において確認することができる(登録番号:EG12082)。前記nuoオペロンは、構造遺伝子(Structure Gene)及び発現調節領域(regulatory region)を含むことが知られている。前記nuoオペロンの「発現調節領域」とは、nuoオペロンを構成する構造遺伝子の上流に存在し、構造遺伝子の発現を調節することのできる部位を意味する。nuoオペロンの発現調節領域は、構造遺伝子を除くプロモーター(nuoAプロモーター及び/又はnuoMプロモーター)と、オペレーターとを含むものであってもよく、具体的にはプロモーターを含むものであってもよい。
【0018】
前記nuoオペロンは、配列番号26~配列番号38で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性(homology)又は同一性(identity)を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものであってもよい。具体的には、前記nuoオペロンは、配列番号26~38のアミノ酸配列、又はそれらと相同性もしくは同一性を有し、それらに相当する機能を有するアミノ酸配列をコードする構造遺伝子配列と、前記構造遺伝子配列の発現を調節する発現調節領域とを含むものであってもよい。配列番号26~38の配列は、公知のデータベースであるNCBI Genbankにおいてその配列を確認することができる。
【0019】
具体的には、前記nuoオペロンは、配列番号1の塩基配列、及び/又は配列番号1と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上の相同性(homology)もしくは同一性(identity)を有する塩基配列であってもよい。また、そのような相同性又は同一性を有し、前記nuoオペロンに相当する機能を有する塩基配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加された塩基配列も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0020】
本出願における「相同性(homology)」及び「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が関連する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0021】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上とハイブリダイズする。そのハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0022】
前記ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列の相同性又は同一性は、例えば文献によるアルゴリズムBLAST[参照:非特許文献3]やPearsonによるFASTA(参照:非特許文献4)を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXというプログラムが開発されている(参照:非特許文献5)。また、任意のアミノ酸又はポリヌクレオチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法で決定される(例えば、非特許文献6、7)。
【0023】
本出願の微生物は、OPSを生産できるものであれば、その種類が特に限定されるものではなく、原核細胞及び真核細胞のいずれであってもよく、具体的には原核細胞である。前記原核細胞としては、例えばエシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Seratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物菌株が挙げられ、具体的にはエシェリキア属微生物であり、より具体的には大腸菌(Escherichia coli)であるが、これらに限定されるものではない。例えば、エシェリキア属微生物においては、L-セリンの生合成経路の酵素であるSerA、SerC及びSerBにより、OPS及びL-セリンを生産することができる(非特許文献8,9,10)。
【0024】
本出願における「O-ホスホセリンを生産する微生物」とは、自然にO-ホスホセリン生産能を有する微生物、又はO-ホスホセリン生産能のない親株にO-ホスホセリン生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、前記微生物は、自然に又は人為的に遺伝的改変が行われてNuo活性が強化され、O-ホスホセリンを生産する微生物であってもよい。本出願の目的上、前記O-ホスホセリンを生産する微生物は、本出願で開示される方法によりNuo活性が強化され、O-ホスホセリンを生産する微生物であればいかなるものでもよい。本出願において、前記「O-ホスホセリンを生産する微生物」は、「O-ホスホセリン生産微生物」、「O-ホスホセリン生産能を有する微生物」と混用される。
【0025】
一実施例において、本出願のO-ホスホセリンを生産する微生物は、前記Nuoの活性が強化され、目的とするO-ホスホセリン生産能が向上し、遺伝的に改変された微生物又は組換え微生物であるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本出願におけるタンパク質の「活性強化」とは、タンパク質の活性を内在性活性に比べて向上させることを意味する。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定タンパク質の活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。タンパク質の活性が内在性活性に比べて「向上」するとは、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定タンパク質の活性に比べて向上することを意味する。一例として、前記親株は、エシェリキア・コリ(ATCC27325)であってもよい。他の例として、前記親株は、OPS生産能を向上させる改変が行われた菌株であってもよく、例えばCA07-0012(KCCM11212P;特許文献2)又はCA07-4821であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0027】
前述した「活性の向上」は、外来タンパク質の導入により達成してもよく、内在性タンパク質の活性強化により達成してもよいが、具体的には内在性タンパク質の活性強化により達成する。前記タンパク質の活性が強化されたか否かは、当該タンパク質の活性の程度、発現量、又は当該タンパク質から生産される産物の量の増加により確認することができる。
【0028】
前記活性強化には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができ、標的タンパク質の活性を改変前の微生物より強化できるものであればいかなるものでもよい。具体的には、分子生物学における通常の方法であって、当該技術分野における通常の知識を有する者に周知の遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を用いたものであるが、これらに限定されるものではない(例えば、非特許文献11、12など)。
【0029】
本出願において、前記活性強化の対象となるタンパク質、すなわち標的タンパク質は、Nuoであるが、nuoオペロンによりコードされ、NADHを消費するか、NADHを消費してProton motive forceを形成するタンパク質であればいかなるものでもよい。
【0030】
本出願のNuo活性の強化には、Nuoタンパク質複合体を構成するサブユニットタンパク質の少なくとも1つの活性を強化することが含まれる。
【0031】
具体的には、本出願のタンパク質活性の強化は、1)タンパク質をコードする遺伝子の細胞内コピー数を増加させること、2)タンパク質をコードする染色体上の遺伝子発現調節配列を改変すること、3)タンパク質をコードする遺伝子転写産物の開始コドンもしくは5’UTR領域の塩基配列を改変すること、4)タンパク質活性が強化されるようにアミノ酸配列を改変すること、5)タンパク質活性が強化されるように前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を改変すること(例えば、活性が強化されるように改変されたタンパク質をコードするように前記タンパク質をコードする遺伝子配列を改変すること)、6)タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチド、もしくは前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを導入すること、7)タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化すること、8)タンパク質の三次構造を分析し、露出部分を選択して改変すること、もしくは化学的に修飾すること、又は9)前記1)~8)から選択される2つ以上の組み合わせにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
より具体的には、前記1)タンパク質をコードする遺伝子の細胞内コピー数を増加させることは、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば当該タンパク質をコードする遺伝子が作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターを宿主細胞に導入することにより行われる。あるいは、前記遺伝子が作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体に前記遺伝子を挿入することのできるベクターを宿主細胞に導入することにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的タンパク質を発現させることができるように、発現調節配列に作動可能に連結された前記標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むDNA産物を意味する。前記発現調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製又は機能することができ、ゲノム自体に組み込まれる。
【0034】
本出願に用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pSK系、pSKH系、pET系などを用いることができる。具体的には、pCL、pSK、pSKH130、pDZ、pACYC177、pACYC184、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0035】
前記ポリヌクレオチドの染色体への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本出願における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを宿主細胞に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。前記形質転換する方法は、核酸を細胞に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオン性リポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列又は発現調節領域と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されたものを意味する。作動可能な連結は当該技術分野で公知の遺伝子組換え技術を用いて行うことができ、部位特異的DNA切断及び連結は当該技術分野の切断及び連結酵素などを用いて行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記2)タンパク質をコードする染色体上の遺伝子発現調節配列を改変することは、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より高い活性を有する核酸配列に置換するか、前記核酸配列を挿入することにより行われてもよい。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。具体的には、前記方法は、本来のプロモーターの後に強力な異種プロモーターを挿入することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0039】
公知の強力なプロモーターの例としては、CJ1~CJ7プロモーター(特許文献3)、lacプロモーター、Trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター及びrmfプロモーターが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、内在性活性に比べて強力なプロモーターに置換するものであればいかなるものでもよい。
【0040】
前記3)タンパク質をコードする遺伝子転写産物の開始コドンもしくは5’UTR領域の塩基配列を改変することは、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記タンパク質の内在性開始コドンを前記内在性開始コドンに比べてタンパク質の発現率が高い他の開始コドンに置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0041】
前記4)及び5)のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列を改変することは、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、ポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を発生させるか、より高い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行われてもよい。具体的には、前記置換は、相同組換えにより前記遺伝子を染色体に挿入することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0042】
ここで、用いられるベクターは、染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択するためのもの、すなわち導入する遺伝子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面タンパク質の発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられるが、これらに限定されるものではない。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0043】
前記6)タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドを導入することは、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記タンパク質と同一/類似の活性を示すタンパク質をコードする外来ポリヌクレオチド、又はそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより行われてもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記タンパク質と同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列はいかなるものでもよい。また、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、導入した前記外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化して宿主細胞に導入してもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前述したように導入したポリヌクレオチドが発現することにより、タンパク質が産生されてその活性が向上する。
【0044】
前記7)タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化することは、宿主細胞内で転写又は翻訳が増加するように、内在ポリヌクレオチドのコドンを最適化するか、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化することにより行われてもよい。
【0045】
前記8)タンパク質の三次構造を分析し、露出部分を選択して改変すること、もしくは化学的に修飾することは、例えば分析しようとするポリペプチドの配列情報を既知のタンパク質の配列情報が保存されているデータベースと比較し、配列の類似性の程度に応じて鋳型タンパク質の候補を決定し、それを基に構造を確認し、改変又は化学的に修飾する露出部分を選択して改変又は修飾することにより行われてもよい。
【0046】
一実施例において、前記タンパク質活性の強化は、前記1)~2)の少なくとも1つであってもよい。
【0047】
前述した実施例のいずれかにおいて、本出願のNADH:quinone酸化還元酵素の活性強化は、nuoオペロンの発現増加により行われてもよい。前述した実施例のいずれかにおいて、前記NADH:quinone酸化還元酵素の活性強化は、それをコードする遺伝子の上流に、活性が強化された遺伝子発現調節配列を含ませることにより行われてもよい。具体的には、前記NADH:quinone酸化還元酵素をコードする遺伝子の上流は、nuoA遺伝子の上流であってもよい。一実施例において、NADH:quinone酸化還元酵素の活性強化は、Nuoタンパク質複合体をコードするnuoオペロンに存在する1つの発現調節配列を改変し、オペロンに存在する1つ以上の構造遺伝子、例えば2つ以上、3つ以上又は全ての構造遺伝子配列の発現を強化することにより行われてもよい。具体的には、前記発現調節配列の改変は、nuoオペロンの内在性プロモーターとnuoA遺伝子間に、活性が強化された遺伝子発現調節配列をさらに挿入することにより行われ、例えば前記遺伝子発現調節配列はプロモーターであるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
このようなタンパク質活性の強化は、対応するタンパク質の活性又は濃度が野生型や改変前の微生物菌株で発現したタンパク質の活性又は濃度に比べて向上するものであるか、当該タンパク質から生産される産物の量が増加するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本出願における「改変前の菌株」又は「改変前の微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、天然菌株自体、又は自然要因もしくは人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する前の菌株を意味する。本出願において、前記形質変化は、Nuoの活性強化であってもよい。前記「改変前の菌株」又は「改変前の微生物」は、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」、「非改変微生物」又は「基準微生物」と混用される。
【0050】
本出願の微生物は、さらにOPS生産能及び/又は細胞外への排出能力を強化する改変が行われたものであってもよく、OPS分解能及び/又は流入能力を強化する改変が行われたものであってもよい。
【0051】
OPS生産能及び/又は細胞外への排出能力を強化する改変や、OPS分解能及び/又は流入能力を強化する改変の例として、ホスホセリンホスファターゼ(SerB)の活性弱化、ホスホセリン排出タンパク質(YhhS)の活性強化、又はそれらの改変の組み合わせが挙げられるが、上記例に限定されるものではない。本出願におけるポリペプチドの「弱化」は、内在性活性に比べて活性が低下することや、活性がなくなることが全て含まれる概念である。前記弱化は、不活性化(inactivation)、欠乏(deficiency)、下方調節(down-regulation)、減少(decrease)、低下(reduce)、減衰(attenuation)などと混用される。
【0052】
前記弱化には、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異などによりポリペプチド自体の活性が本来微生物が有するポリペプチドの活性に比べて減少又は除去されること、それをコードするポリヌクレオチドの遺伝子の発現阻害やポリペプチドへの翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的なポリペプチド活性の程度及び/又は濃度(発現量)が天然菌株に比べて低下すること、前記ポリヌクレオチドの発現が全くないこと、及びポリヌクレオチドが発現したとしてもポリペプチドの活性がないことの少なくとも1つが含まれる。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前の親株、野生型又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。ポリペプチドの活性が内在性活性に比べて「不活性化」、「欠乏」、「減少」、「下方調節」、「低下」、「減衰」するとは、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性に比べて低下することを意味する。
【0053】
このようなポリペプチドの活性の弱化は、これらに限定されるものではなく、当該分野で周知の様々な方法を適用することにより達成することができる(例えば、非特許文献12、13など)。
【0054】
具体的には、本出願のポリペプチドの弱化は、1)ポリペプチドをコードする遺伝子の全部又は一部を欠失させること、2)ポリペプチドをコードする遺伝子の発現が減少するように発現調節領域(又は発現調節配列)を改変すること、3)ポリペプチドの活性が欠失又は弱化されるように前記ポリペプチドを構成するアミノ酸配列を改変すること(例えば、アミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸を欠失/置換/付加すること)、4)ポリペプチドの活性が欠失又は弱化されるように前記ポリペプチドをコードする遺伝子配列を改変すること(例えば、ポリペプチドの活性が欠失又は弱化されるように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子の核酸塩基配列の1つ以上の核酸塩基を欠失/置換/付加すること)、5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドンもしくは5’UTR領域をコードする塩基配列を改変すること、6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子転写産物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入すること、7)リボソーム(ribosome)の付着を不可能にする2次構造物が形成されるようにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加すること、8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加すること(Reverse transcription engineering, RTE)、又は9)前記1)~8)から選択される2つ以上の組み合わせにより行われるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0055】
例えば、前記1)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の一部又は全部を欠失させることは、染色体内の内在性標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド全体を欠失させること、一部のヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチド又はマーカー遺伝子に置換することにより行われてもよい。
【0056】
また、前記2)発現調節領域(又は発現調節配列)を改変することは、欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節領域(又は発現調節配列)上の変異を発生させるか、より低い活性を有する配列に置換することにより行われてもよい。前記発現調節領域には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
さらに、前記5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドンもしくは5’UTR領域をコードする塩基配列を改変することは、例えば、内在性開始コドンに比べてポリペプチド発現率が低い他の開始コドンをコードする塩基配列に置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0058】
さらに、前記3)及び4)のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列を改変することは、ポリペプチドの活性が弱化されるように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列又は前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より低い活性を有するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列、又は活性がなくなるように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列に置換することにより行われるが、これらに限定されるものではない。例えば、ポリヌクレオチド配列に変異を導入して終止コドンを形成することにより、遺伝子の発現を阻害又は弱化させることができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
前記6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子転写産物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入することは、例えば、非特許文献14のように行われてもよい。
【0060】
前記7)リボソーム(ribosome)の付着を不可能にする2次構造物が形成されるようにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加することは、mRNA翻訳を不可能にするか、速度を低下させることにより行われてもよい。
【0061】
前記8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加すること(Reverse transcription engineering, RTE)は、前記ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物に相補的なアンチセンスヌクレオチドを作成して活性を弱化させることにより行われてもよい。
【0062】
本出願のSerBは、OPSをL-セリン(L-serine)に変換する活性を有するので、前記SerBの活性が弱化されるように変異した微生物は、OPSを蓄積するという特徴を有し、OPSの生産に有用である。本出願のSerBは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、前記アミノ酸配列を含むタンパク質であるか、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であるか、前記アミノ酸配列から実質的に構成されるタンパク質であるが、これらに限定されるものではない。また、本出願のSerBは、SerBの活性を示すものであれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列と相同性又は同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよく、前記アミノ酸配列を含むものであってもよい。また、本出願のSerBは、配列番号2で表されるアミノ酸配列と相同性又は同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上であるアミノ酸配列からなるものであってもよく、前記アミノ酸配列から実質的に構成されるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、前記SerBをコードするポリヌクレオチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列3を有するものであってもよく、前記塩基配列を含むものであってもよい。さらに、前記SerBをコードするポリヌクレオチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるものであってもよく、前記塩基配列から実質的に構成されるものであってもよい。本出願のSerBをコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退により、又は前記SerBタンパク質を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、SerBタンパク質のアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。本出願のSerBをコードするポリヌクレオチドは、配列番号3の塩基配列と相同性又は同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上、及び100%未満である塩基配列を有するものであってもよく、前記塩基配列を含むものであってもよい。また、本出願のSerBをコードするポリヌクレオチドは、配列番号3の塩基配列と相同性又は同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上、及び100%未満である塩基配列からなるものであってもよく、前記塩基配列から実質的に構成されるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0063】
本出願のYhhSは、OPSを排出する活性を有するので、前記YhhS活性が強化されるように変異した微生物は、OPSを排出するという特徴を有し、OPSの生産に有用である。本出願のYhhSは、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、前記アミノ酸配列を含むタンパク質であるか、又は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であるか、前記アミノ酸配列から実質的に構成されるタンパク質であるが、これらに限定されるものではない。また、本出願のYhhSは、YhhSの活性を示すものであれば、配列番号4で表されるアミノ酸配列と相同性又は同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよく、前記アミノ酸配列を含むものであってもよい。さらに、本出願のYhhSは、配列番号4で表されるアミノ酸配列と相同性又は同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上であるアミノ酸配列からなるものであってもよく、前記アミノ酸配列から実質的に構成されるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、前記YhhSをコードするポリヌクレオチドは、配列番号4で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものであってもよく、前記塩基配列を含むものであってもよい。さらに、前記YhhSをコードするポリヌクレオチドは、配列番号4で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるものであってもよく、前記塩基配列から実質的に構成されるものであってもよい。本出願のYhhSをコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退により、又は前記YhhSタンパク質を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、YhhSタンパク質のアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。本出願のYhhSをコードするポリヌクレオチドは、配列番号5の塩基配列と相同性又は同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上、及び100%未満である塩基配列を有するものであってもよく、前記塩基配列を含むものであってもよい。また、本出願のYhhSをコードするポリヌクレオチドは、配列番号5の塩基配列と相同性又は同一性が少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上、及び100%未満である塩基配列からなるものであってもよく、前記塩基配列から実質的に構成されるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0064】
一実施例において、OPS生産能及び/又は細胞外への排出能力を強化する改変や、OPS分解能及び/又は流入能力を強化する改変が行われた微生物は、CA07-0012(KCCM11212P;特許文献2)又はCA07-4821であるが、これらに限定されるものではない。このようなOPS生産微生物に関しては、前述したもの以外に、特許文献2、4などに開示されているものが本出願の参考資料として用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本出願の他の態様は、NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化されたOPS生産微生物を培地で培養するステップを含む、OPSの生産方法を提供する。
【0066】
前記微生物については前述した通りである。
【0067】
本出願における「培養」とは、前記微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
前記微生物の培養は、培地にグリシン又はセリンがさらに含まれてもよい。グリシンは、精製されたグリシン、グリシンを含むイースト抽出物、トリプトンの形態で供給され、培養液に含まれる濃度は、通常は0.1~10g/L、具体的には0.5~3g/Lである。また、セリンは、精製されたセリン、セリンを含有するイースト抽出物、トリプトンなどの形態で供給され、培養液に含まれる濃度は、通常は0.1~5g/L、具体的には0.1~1g/Lである。
【0069】
前記培地に含まれる炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
前記培地に含まれる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆粕、尿素などの有機窒素源、及び硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源が挙げられる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
前記培地に含まれるリン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、及びそれらに相当するナトリウム含有塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
また、前記培地は、硫酸マグネシウム、硫酸鉄などの金属塩を含有してもよく、その他、アミノ酸、ビタミン、好適な前駆体などを含有してもよい。これらの培地又は前駆体は、培養物に回分式又は連続式で添加することができるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化学物を培養物に好適な方法で添加することにより、培養物のpHを調整することができる。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培養物の好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよい。培養物の温度は、通常は25℃~40℃、具体的には30℃~35℃である。培養物の培養期間は、所望の有用物質の生産量が得られるまで続けられ、具体的には10~100時間である。しかし、これらに限定されるものではない。
【0074】
本出願は、本出願の方法で前記培養するステップの前に、培地を準備するステップをさらに含むが、これに限定されるものではない。
【0075】
前記方法は、培養に用いた培地又は微生物からOPSを回収するステップをさらに含んでもよい。前記回収するステップは、前記培養するステップの後にさらに含むものであってもよい。
【0076】
本出願のOPSを回収する方法は、培養方法に応じて、当該分野で公知の好適な方法を用いて培養液から目的とするOPSを回収(collect)するものであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とするOPSを回収することができる。
【0077】
また、前記回収ステップは、精製工程を含んでもよく、当該分野で公知の好適な方法を用いて行うことができる。よって、前述したように回収されるOPSは、精製された形態であってもよく、OPSを含有する微生物発酵液であってもよい。また、前記培養ステップの前後や、前記回収ステップの前後に、当該分野で公知の好適な方法を追加することにより、OPSの回収を効率的に行うことができる。
【0078】
本出願のさらに他の態様は、a)NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化されたOPS生産微生物を培地で培養してOPS又はそれを含む培地を生産するステップと、b)O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfliydrylase, OPSS)又はそれを発現する微生物の存在下で、前記a)ステップで生産したOPS又はそれを含む培地を硫化物と反応させるステップとを含む、システイン又はその誘導体の生産方法を提供する。
【0079】
前記a)ステップ及びb)ステップは、必ずしも連続的なものや、順番に行われるものに限定されるものではなく、それらのステップ間に時間的な間隔がなくてもよく、同時に行われてもよく、数秒間、数分間、数時間、数日間の間隔をおいて行われてもよい。
【0080】
具体的には、Nuoの活性が強化されたOPS生産微生物を培地で培養してOPS又はそれを含む培地を生産するステップと、O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfliydrylase, OPSS)又はそれを発現する微生物の存在下で、前記ステップで生産したOPS又はそれを含む培地を硫化物と反応させるステップとを含む、システイン又はその誘導体の生産方法である。前記NADH:quinone酸化還元酵素の活性強化、及びO-ホスホセリンを生産する微生物については前述した通りである。
【0081】
本出願における「誘導体」とは、ある化合物の一部を化学的に変化させることにより得られる類似の化合物であって、概して化合物中の水素原子又は特定原子団が他の原子又は原子団に置換された化合物を意味する。
【0082】
本出願における「システイン誘導体」とは、システインの水素原子又は特定原子団が他の原子又は原子団に置換された化合物を意味する。一例として、システインのアミノ基(-NH2)の窒素原子又はチオール基(-SH)の硫黄原子に他の原子又は原子団が結合された形態が挙げられ、例えばNAC(N-acetylcysteine)、SCMC(S-Carboxymetylcysteine)、BOC-CYS(ME)-OH、(R)-S-(2-Amino-2-carboxyethyl)-L-homocysteine、(R)-2-Amino-3-sulfopropionic acid、D-2-Amino-4-(ethylthio)butyric acid、3-sulfino-L-alanine、Fmoc-Cys(Boc-methyl)-OH、Seleno-L-cystine、S-(2-Thiazolyl)-L-cysteine、S-(2-Thienyl)-L-cysteine、S-(4-Tolyl)-L-cysteineなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
本出願の方法によりシステインを生産するものであれば、システイン誘導体への変換は、当該技術分野で周知の方法で容易に様々なシステイン誘導体に変換するものであってもよい。
【0084】
具体的には、前記システイン誘導体の生産方法は、前記b)ステップで生成したシステインをシステイン誘導体に変換するステップをさらに含むものであり、例えばシステインをアセチル化剤(acetylation agent)と反応させてNAC(N-acetylcysteine)を合成するか、又はシステインを塩基性条件でハロ酢酸(haloacetic acid)と反応させてSCMC(S-Carboxymetylcysteine)を合成するが、これらに限定されるものではない。
【0085】
前記システイン誘導体は、主に製薬原料として、鎮咳剤、咳止め剤、気管支炎、気管支喘息、咽喉炎などの治療剤に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
本出願における「O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase, OPSS)」とは、OPSにチオール基(thiol group, SH基)を供与して前記OPSをシステインに変換する反応を触媒する酵素を意味する。前記酵素は、アエロピュルム・ペルニクス(Aeropymm pernix)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)、トリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)(非特許文献15,16)から見出されたものである。また、前記OPSSには、野生型OPSSタンパク質だけでなく、前記OPSSをコードするポリヌクレオチド配列の一部の配列が欠失、置換又は付加された配列であって、野生型OPSSタンパク質の生物学的活性と同等又はそれ以上の活性を示す変異体タンパク質も含まれ、特許文献2及び5に開示されているOPSSタンパク質及びその変異体タンパク質も全て含まれる。
【0087】
前記硫化物は、当該技術分野で通常用いられる固体だけでなく、pH、圧力、溶解度の差により液体又は気体の形態で供給されてもよく、スルフィド(sulfide, S2-)、チオスルフェート(thiosulfate, S 2-)などの形態でチオール基(thiol group, SH基)に変換することのできる硫化物であればいかなるものでもよい。具体的には、チオール基をOPSに供与するNaS、NaSH、HS、(NHS、NaSH及びNaが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記反応は、1つのOPS官能基に1つのチオール基を供与して1つのシステイン又はシステイン誘導体を作製する反応であり、前記反応における硫化物の添加量は、OPSのモル濃度の0.1~3倍であり、具体的には1~2倍であるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本出願のさらに他の態様は、NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化されるようにエシェリキア属微生物を改変する過程を含む、O-ホスホセリン生産微生物の製造方法を提供する。
【0089】
また、本出願は、NADH:quinone酸化還元酵素の活性が強化された微生物における、O-ホスホセリン、システイン又はその誘導体の生産用途を提供することを目的とする。
【0090】
NADH:quinone酸化還元酵素、その活性強化、微生物などについては前述した通りである。
【実施例
【0091】
以下、実施例を挙げて本出願をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例に限定されるものではない。これは、本出願の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【実施例1】
【0092】
Nuo発現調節領域が変異した菌株のOPS生産能の評価
先行研究により、OPS生産ホスト菌株における遺伝子nuoA、rmf、idiの平均転写量はそれぞれ8986、32205、631であることが知られている。各培養区間における具体的な数値を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
rmf転写量の平均値は、nuoAの3.6倍のレベルであり、idi転写量の平均値は、nuoAの0.07倍のレベルであることが確認された。これは、nuoAのプロモーターに比べて、rmf遺伝子のプロモーターは強いプロモーターであり、idi遺伝子のプロモーターは弱いプロモーターであることを示すものである。
【0095】
よって、OPS生産微生物中のnuoオペロン(配列番号1)に活性が異なるrmfプロモーターとidiプロモーターを挿入することにより、NADH:quinone酸化還元酵素の発現を調節し、微生物のOPS生産能を比較することにした。
【0096】
1-1:Nuo発現調節領域を強化するためのプラスミドの作製
E.coli ATCC27325の染色体DNAを鋳型とし、配列番号14と配列番号15の塩基配列を有するプライマー対を用いて、nuo遺伝子の野生型プロモーターの上流(Upstream)領域の遺伝子断片を得て、配列番号18と配列番号19の塩基配列を有するプライマー対を用いて、前記プロモーターの下流(Downstream)領域の遺伝子断片を得た。また、E.coliATCC27325の染色体DNAを鋳型とし、配列番号16と配列番号17の塩基配列を有するプライマー対を用いて、rmf遺伝子のプロモーター部位を得た。
【0097】
前記断片を得るために、ポリメラーゼとしてSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用いたPCRを行った。PCRの条件は、95℃で2分間の変性後、95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0098】
EcoRV制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpSKH130(配列番号39,特許文献6)と共に、上記過程で得られたnuoプロモーターの上流断片及び下流断片並びにrmfプロモーター断片をインフュージョンクローニングキット(in-fusion cloning kit, Clontech Laboratories, Inc.)でクローニングすることにより組換えプラスミドを得た。これをpSKH130_Prmf-nuoAと命名した。
【0099】
1-2:Nuo発現調節領域を弱化するためのプラスミドの作製
E.coli ATCC27325の染色体DNAを鋳型とし、配列番号14と配列番号20の塩基配列を有するプライマー対を用いて、nuo遺伝子の野生型プロモーターの上流(Upstream)領域の遺伝子断片を得て、配列番号23と配列番号19の塩基配列を有するプライマー対を用いて、前記プロモーターの下流(Downstream)領域の遺伝子断片を得た。また、E.coliATCC27325の染色体DNAを鋳型とし、配列番号21と配列番号22の塩基配列を有するプライマー対を用いて、idi遺伝子のプロモーター部位を得た。
【0100】
実施例1-1と同じPCR条件でPCRを行って前記断片を得た。前記断片を用いて、実施例1-1と同様にクローニングを行うことにより組換えプラスミドを得た。これをpSKH130_Pidi-nuoAと命名した。
【0101】
実施例1-1と実施例1-2で用いたプライマー配列を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
1-3:Nuo発現調節領域変異菌株の作製
実施例1-1で作製したpSKH130_Prmf-nuoAにエレクトロポレーション(非特許文献17)を行ってOPS生産能を有するCA07-0012(KCCM11212P,特許文献2)に形質転換し、その後2次交差過程を経てnuo遺伝子の野生型プロモーター塩基配列の末端にrmf遺伝子のプロモーター塩基配列が挿入された菌株CA07-4826を得た。
【0104】
具体的には、pSKH130ベクターがPIタンパク質(pir遺伝子)に依存性を有するR6Kレプリコン(replicon)、SacB(Levansucrase)遺伝子及びカナマイシン(kanamycin)耐性遺伝子を含むので、1次交差においてR6K及びカナマイシンを用いて所望の菌株を確保し、その後スクロース(sucrose)を含む培地から抗生剤を除去して菌株を作製した。
【0105】
CA07-4826は、配列番号24と配列番号25のプライマー対を用いたPCR及びゲノムシーケンシングにより、rmfプロモーター塩基配列が挿入されたことが確認された。
【0106】
同様に、実施例1-2で作製したpSKH130_Pidi-nuoAにエレクトロポレーション(非特許文献17)を行って形質転換し、その後2次交差過程を経てnuo遺伝子の野生型プロモーター塩基配列の末端にidi遺伝子のプロモーター塩基配列が挿入された菌株CA07-4827を得た。配列番号24と配列番号25のプライマー対を用いたPCR及びゲノムシーケンシングにより、菌株CA07-4827にidiプロモーター塩基配列が挿入されたことが確認された。ここで用いたプライマー配列を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
1-4:力価培地を用いたnuoオペロン強化及び弱化菌株のOPS生産能の比較
実施例1-3で作製した2種の菌株CA07-4826、CA07-4827と対照群CA07-0012のO-ホスホセリン(O-phosphoserine, 以下「OPS」)生産能を評価するために、次の培地(表4)を用いて評価を行った。
【0109】
【表4】
【0110】
具体的には、培養は、各菌株をLB固体培地に塗抹し、その後33℃の培養器で一晩培養するものとした。LB固体培地で一晩培養した菌株を表3の力価培地25mLに接種し、次いでそれを温度33℃、200rpmで培養器にて48時間培養した。その結果生産されたOPSの濃度を表5に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
rmfプロモーターによりnuoオペロンが強化されたCA07-4826は、親株に比べて約12.8%向上したOPS生産能を示し、idiプロモーターによりnuoオペロンが弱化されたCA07-4827は、親株に比べて約79.5%低下したOPS生産能を示す。
【実施例2】
【0113】
OPS生産能が向上した菌株中のnuoオペロン強化によるOPS生産能の評価
OPS排出能が強化された菌株において、Nuoオペロンを強化すると、さらにOPS生産能が向上するか否かを確認することを目的とした。そのために、OPS排出能を有するタンパク質YhhS(配列番号4,特許文献7)が強化された菌株においてnuoオペロンをさらに強化し、そのOPS生産能を評価した。
【0114】
2-1:OPS生産菌株中のYhhSを強化するためのプラスミドの作製
E.coli ATCC27325の染色体DNAを鋳型とし、配列番号6と配列番号7の塩基配列を有するプライマー対を用いて、yhhS遺伝子の野生型プロモーターの上流(Upstream)領域の遺伝子断片を得て、配列番号8と配列番号9の塩基配列を有するプライマー対を用いて、yhhS遺伝子の野生型プロモーターの下流(Downstream)領域の遺伝子断片を得た。また、pCL_Ptrc-gfp(特許文献8)を鋳型とし、配列番号8と配列番号9プライマー対を用いてtrcプロモーター(Ptrc)を得た。ここで用いたプライマー配列を表6に示す。
【0115】
【表6】
【0116】
前記断片を得るために、ポリメラーゼとしてSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用いた。PCR増幅の条件は、95℃で2分間の変性後、95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0117】
EcoRV制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpSKH130と共に、上記過程で得られたyhhSプロモーターの上流断片及び下流断片並びにtrcプロモーター断片をインフュージョンクローニングキット(in-fusion cloning kit, Clontech Laboratories, Inc.)でクローニングすることにより組換えプラスミドを得た。これをpSKH130_Ptrc-yhhSと命名した。
【0118】
2-2:YhhS強化菌株の作製
実施例2-1で作製したpSKH130_Ptrc-yhhSにエレクトロポレーション(非特許文献17)を行ってCA07-0012に形質転換し、その後2次交差過程を経てyhhS遺伝子の野生型プロモーター塩基配列の末端にtrcプロモーター塩基配列が挿入された菌株CA07-4821を得た。配列番号12と配列番号13のプライマー対(表7)を用いたPCR及びゲノムシーケンシングにより、菌株CA07-4821にtrcプロモーター塩基配列が挿入されたことが確認された。
【0119】
【表7】
【0120】
2-3:力価培地を用いたYhhS強化菌株のOPS生産能の評価
実施例2-2で作製した菌株CA07-4821とその親株であるCA07-0012のOPS生産能を評価するために、培地(表4)を用いて実施例1-4と同様に評価を行った。
【0121】
その結果、CA07-4821において、CA07-0012に比べて約26.7%向上したOPS生産能を有することが確認された。これを表8に示す。
【0122】
【表8】
【0123】
2-4:YhhS及びnuoオペロンが強化された菌株の作製
実施例1-1で作製したpSKH130_Prmf-nuoAにエレクトロポレーション(非特許文献17)を行って実施例2-3で作製したCA07-4821に形質転換し、その後2次交差過程を経てnuo遺伝子の野生型プロモーター塩基配列の末端にrmf遺伝子のプロモーター塩基配列が挿入された菌株CA07-4828を得た。
【0124】
菌株CA07-4828は、配列番号24と配列番号25のプライマー対を用いたPCR及びゲノムシーケンシングにより、rmfプロモーター塩基配列が挿入されたことが確認された。
【0125】
2-5:力価培地を用いたYhhS及びnuoオペロンが強化された菌株のOPS生産能の評価
CA07-4828のOPS生産能を評価するために、CA07-4821を対照群として実施例1-4と同様に評価を行った。その結果を表9に示す。
【0126】
【表9】
【0127】
YhhS及びnuoオペロンが同時に強化されたCA07-4828において、YhhSのみ強化されたCA07-4821に比べて約2.4%向上したOPS生産能を示した。よって、OPS生産能が強化された菌株においても、nuoオペロン強化がOPS生産能をさらに増加させることが確認された。
【0128】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
2024522877000001.app
【国際調査報告】