(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20240614BHJP
A61P 5/04 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240614BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P5/04
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579569
(86)(22)【出願日】2022-06-25
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 IB2022055910
(87)【国際公開番号】W WO2022269572
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】202121028519
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523483924
【氏名又は名称】エクストロヴィス・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ・モハン・チラカラ
(72)【発明者】
【氏名】ナガマレスワラ・ラオ・ビーラカ
(72)【発明者】
【氏名】ラメシュ・マントリ
(72)【発明者】
【氏名】ハヌマンタ・ラオ・カンマ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーノシュ・ヴァーチ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076BB16
4C076CC30
4C076DD37
4C076DD38D
4C076DD41Z
4C076DD43Z
4C076DD51
4C076DD67D
4C076EE23
4C076FF14
4C076FF15
4C076FF36
4C076FF63
4C076GG45
4C076GG46
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA09
4C084BA17
4C084BA23
4C084BA32
4C084DB10
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA03
(57)【要約】
本発明は、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩を含み、すぐに利用可能であり、投与前に再構成を必要としない、安定性を有する非経口の組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)約0.1mg/mlから約0.5mg/mlのセトロレリックス塩基又はその薬学的に許容可能な塩
ii)安定剤としてグリシン、
iii)溶液のpHを約3から約5.5の範囲内に調節するのに十分な量の酸性化剤
iv)等張剤、及び
v)任意で共溶媒
を含む、安定性を有する、非経口投与用の、すぐに利用可能な薬学的組成物であって、
25℃及び相対湿度60%での6ヶ月間の保存後、前記溶液が、セトロレリックス塩基の質量の1%w/w以下のL-Ala-セトロレリックス(式II)不純物を含有する、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項2】
セトロレリックス塩基の酸性化剤に対する質量比が約0.01:1から約1:1の範囲内である、請求項1に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項3】
等張剤が、約250mOsmolから約500mOsmolの浸透圧濃度を提供するのに十分な量で存在する、請求項1に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項4】
等張剤が、マンニトール、スクロース、グリセリン、トレハロース、ソルビトール、グリセロール及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項5】
グリシンの量が、組成物の約1mg/mlから約10mg/mlの範囲内である、請求項1に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項6】
酸性化剤が、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項7】
共溶媒が、プロピレングリコール、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコール及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項8】
皮下投与される、請求項1に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項9】
2から8℃で保存した場合、少なくとも24ヶ月の貯蔵寿命を有する、請求項1に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【請求項10】
セトロレリックス酢酸塩を0.25mg/ml、酢酸を3mg/ml、グリシンを2.5mg/ml、プロピレングリコールを10mg/ml、グリセロールを5mg/ml含み、pHが約3から約5.5である、請求項9に記載の、すぐに利用可能な薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セトロレリックス酢酸塩は、商標名Cetrotide(登録商標)として、アメリカ食品医薬品局(USFDA)により2000年に認可された。Cetrotide(登録商標)は、セトロレリックス酢酸塩を含有する凍結乾燥された粉末として供され、それぞれセトロレリックス塩基0.25mg及び3.0mgに等しい。主な賦形剤は、マンニトールからなる。酢酸及び注射用の水は製造プロセス中で使用される。上記粉末は、皮下注射の前に1ml又は3mlの注射用の水を用いて再構成され、プレフィルドシリンジで提供される。
【背景技術】
【0002】
セトロレリックス酢酸塩は、末端酸アミド基を有する合成デカペプチドである。セトロレリックスは、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)拮抗作用を有する。セトロレリックスは、脳下垂体細胞上の膜受容体への結合において天然GnRHと競合することで、黄体形成ホルモン(LH)及び卵胞刺激ホルモン(FSH)の放出を制御する。セトロレリックスは、調節卵巣刺激法を受ける女性の早期LHサージの抑制に必要とされる。セトロレリックス酢酸塩は、1位、2位、3位、6位、及び10位がアミノ酸で置換されている天然型GnRHの類縁物質である。
【0003】
分子式はアセチル-D-3-(2'ナフチル)-アラニン-D-4-クロロフェニルアラニン-D-3-(3'-ピリジル)アラニン-L-セリン-L-チロシン-D-シトルリン-L-ロイシン-L-アルギニン-L-プロリン-D-アラニン-アミドであり、無水遊離塩基として算出される分子量は1431.06である。セトロレリックスの構造式は、下記のとおりである。
【0004】
【0005】
Cetrotide(登録商標)EPAR科学的議論によれば、セトロレリックス酢酸塩は熱による反応活性が高く、水溶液中で不安定である。溶液中のセトロレリックスはまた、凝集及びゲル化する傾向にある。これが、Cetrotide(登録商標)が投与直前に再構成される凍結乾燥された組成物として製剤化される主な理由である。
【0006】
EP0611572B1は、発明者らがデカペプチドの水溶液が不安定であることを発見したことから、セトロレリックスの凍結乾燥された製剤を説明している。EP0611572B1は、セトロレリックスの、すぐに利用可能な(RTU)組成物を開示も教示もしていない。
【0007】
US7393834B2は、男性不妊症及び女性不妊症を処置するための、凍結乾燥されたセトロレリックスの使用を対象とする。セトロレリックスのRTU液体注射物に光を投じていない。
【0008】
インド特許出願第201821041976号は、乳酸、プロピオン酸、アスパラギン酸及びそれらの混合物等の安定剤を有する、セトロレリックスの注射可能な水性製剤を開示している。溶液のpHは、pH2.5からpH4.5に調節されている。インド特許出願第201821041976号は更に、スクロース及びベータ-シクロデキストリンナトリウムのスルホブチルエーテルの、張度調節剤としての使用を開示している。
【0009】
US 20130303464A1は、界面活性剤を含まないが酢酸を用いており、好ましいpHが2.8から3.5である、すぐに利用可能なセトロレリックス注射物を開示している。出願人は、濾過中にゲル層形成が観察されず、また、凝集物が製剤中、又は安定性試験中に観察されなかったことを報告している。
【0010】
US 7214662は、グルコン酸又はその誘導体及び界面活性剤を用いたセトロレリックスの注射可能な水溶液を提案しており、凝集物が形成される傾向が低いことを報告している。
【0011】
RU 2002134463は、セトロレリックス、又は、酢酸、グルコン酸、グルクロン酸、乳酸、クエン酸、アスコルビン酸、安息香酸又はリン酸等の酸を含む、それらの可溶形態又は分散形態の塩形態等のペプチドの非経口投与用の投与形態をクレームしている。RU 2002134463は、セトロレリックスの安定性を有するRTU溶液を明示的に教示してない。
【0012】
WO2020/254952A1は、氷酢酸、シクロデキストリン及び界面活性剤を含む、セトロレリックスの、安定性を有する、すぐに利用可能な製剤に関する。
【0013】
US20210121517A1は、セトロレリックス、乳酸、浸透剤及び注射用の水を含む、すぐに利用可能な無菌性の非経口投与形態をクレームしている。US20210121517A1は、注射物がプレフィルドシリンジ又はオートインジェクターとして提供され得ることを記述している。上記出願は、セトロレリックス(塩基)と有機酸とを0.47:1から19.23:1の範囲の質量比で含む、安定性を有するセトロレリックス水溶液をクレームしている。上記製剤はpH範囲が3から5で安定性を有する。出願人はセトロレリックスの注射可能な溶液中の各種不純物を同定した。しかし、乳酸の使用が注射箇所において炎症及び灼熱感を引き起こし、患者の不快感に繋がることが知られている。
【0014】
セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩、安定剤としてアミノ酸及び他の薬学的に許容可能な賦形剤を含む、安定性を有する、すぐに利用可能な液体の薬学的組成物。
【0015】
凝集を解消し、より長い貯蔵寿命を可能とするため、最初に認可された製品Cetrotide(登録商標)は、再構成のための凍結乾燥された粉末として供給されている。しかし、凍結乾燥された製品は、下記:
・製品取り扱い及び加工時間の増加
・再構成のための無菌希釈剤の必要性
・再構成された製品は短期間安定性を有するため、凍結乾燥された製剤の再構成は不都合である
・コストが高く、複雑な機器類の要求
・最終製剤が高価である
等の欠点もいくつか有する。
【0016】
不妊治療における処置等の長期間処置における使用のため、自己注射可能な投与形態は、処置に対する継続性及び遵守に貢献する。凍結乾燥された製品は自己投与には煩雑であり、再構成及び投与のため、ほぼ常に、訓練された健康管理の専門家を要する。そのような場合において、すぐに利用可能な(RTU)注射可能な溶液は、常に自己投与にはより良い選択である。また、装置及び機械類がより安価であるために、減少した加工処理時間、製造プロセスが簡潔である、並びに製造コストが比較的低い等の製造の観点で、液体注射物に別の利点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】EP0611572B1
【特許文献2】US7393834B2
【特許文献3】インド特許出願第201821041976号
【特許文献4】US 20130303464A1
【特許文献5】US 7214662
【特許文献6】RU 2002134463
【特許文献7】WO2020/254952A1
【特許文献8】US20210121517A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
各種酸及び安定剤で製剤化されたセトロレリックス溶液は、安定性を有する場合もあるが、より高い濃度の酸の使用、及び乳酸等のいくつかの酸の使用は、許容限度を示す。このように、代わりとなるセトロレリックスの製剤を開発する必要がある。本発明はこの需要に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、投与前に再構成を必要としない、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩の、非経口投与用の、すぐに利用可能な、安定性した、水性組成物に関する。
【0020】
本発明の1つの態様は、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩、安定剤としてアミノ酸、及び他の薬学的に許容可能な賦形剤を含む、安定性を有する、すぐに利用可能な液体の薬学的組成物を提供することである。
【0021】
本発明の別の態様は、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩、安定剤としてアミノ酸、等張剤、任意で共溶媒及び他の薬学的に許容可能な賦形剤を含む、安定性を有する、すぐに利用可能な液体の組成物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
いくつかの実施形態において、本発明は、更に1つ又は複数の共溶媒を含む。「共溶媒」は、水の質量よりも少なく、セトロレリックス及び/又はその薬学的に許容可能な塩の可溶化を補助する質量で液体の薬学的組成物に加えることで、本発明のすぐに利用可能な組成物の安定性を高める溶媒である。本発明の液体の薬学的組成物における使用に好適な共溶媒としては、これらに限定されないが、プロピレングリコール、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコール及びそれらの混合物が挙げられる。
【0023】
本発明の更に別の態様は、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩、安定剤として1つ又は複数のアミノ酸、酸性化剤として酢酸、等張剤及び他の薬学的に許容可能な賦形剤を含み、セトロレリックス(塩基)と酢酸との質量比が0.08:1である、安定性を有する、すぐに利用可能な液体の組成物を提供することである。
【0024】
本発明の別の態様は、2から8℃で保存した場合に、その貯蔵寿命の終点において、組成物のpHが約3から約5.5であり、合計不純物が(セトロレリックス塩基の質量で)3%w/w以下となるように、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩、安定剤として1つ又は複数のアミノ酸、酸性化剤として酢酸を含む、すぐに利用可能な液体の組成物を提供することである。
【0025】
本発明の別の態様において、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩、安定剤として1つ又は複数のアミノ酸、酸性化剤として酒石酸、等張剤及び他の薬学的に許容可能な賦形剤を含み、セトロレリックス(塩基)と酒石酸との質量比が0.25:1である、安定性を有する、すぐに利用可能な液体の組成物が提供される。
【0026】
本発明の別の態様は、2から8℃で保存した場合に、その貯蔵寿命の終点において、組成物のpHが約3から約5.5であり、合計不純物が(セトロレリックス塩基の質量で)3%w/w以下となるように、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩、安定剤として1つ又は複数のアミノ酸、酸性化剤として酒石酸を含む、すぐに利用可能な液体の組成物を提供することである。
【0027】
1つの態様において、本発明は、
i)セトロレリックス塩基又はその薬学的に許容可能な塩、
ii)安定剤、
iii)溶液のpHを約3から約5.5の範囲内に調節するのに十分な量の酸性化剤
iv)等張剤、及び
v)任意で共溶媒を含む、安定性を有する、非経口投与用の、すぐに利用可能な薬学的組成物であって、
25℃及び相対湿度60%での6ヶ月間の保存後、上記溶液は、セトロレリックス塩基の質量の1%w/w以下のL-Ala-セトロレリックス不純物を含有する、すぐに利用可能な薬学的組成物を提供する。
【0028】
本発明の別の態様において、
i)約0.1mgから約0.5mg/mlのセトロレリックス塩基又はその薬学的に許容可能な塩
ii)安定剤としてグリシン、
iii)溶液のpHを約3から約5.5の範囲内に調節するのに十分な量の酸性化剤
iv)等張剤、及び
v)任意で共溶媒を含む、安定性を有する、非経口投与用の、すぐに利用可能な薬学的組成物であって、
25℃及び相対湿度60%での6ヶ月間の保存後、上記溶液は、セトロレリックス塩基の質量の1%w/w以下のL-Ala-セトロレリックス不純物を含有する、すぐに利用可能な薬学的組成物が提供される。
【0029】
1つの実施形態において、本発明は、
i)セトロレリックス塩基又はその薬学的に許容可能な塩、
ii)安定剤、
iii)溶液のpHを約3から約5.5の範囲内に調節するのに十分な量の酸性化剤
iv)等張剤、及び
v)任意で共溶媒を含む、安定性を有する、非経口投与用の、すぐに利用可能な薬学的組成物であって、
25℃及び相対湿度60%での6ヶ月間の保存後、上記溶液は、セトロレリックス塩基の質量の3%w/w以下の合計不純物を含有する、すぐに利用可能な薬学的組成物を提供する。
【0030】
本発明の更に別の態様において、
i)約0.1mgから約0.5mg/mlのセトロレリックス塩基又はその薬学的に許容可能な塩
ii)安定剤としてグリシン、
iii)溶液のpHを約3から約5.5の範囲内に調節するのに十分な量の酸性化剤
iv)等張剤、及び
v)任意で共溶媒を含む、安定性を有する、非経口投与用の、すぐに利用可能な薬学的組成物であって、
25℃及び相対湿度60%での6ヶ月間の保存後、上記溶液は、セトロレリックス塩基の質量の3%w/w以下の合計不純物を含有する、すぐに利用可能な薬学的組成物が提供される。
【0031】
セトロレリックス酢酸塩は熱による反応活性が高いために高圧蒸気殺菌法により殺菌することが難しく、このため無菌濾過による殺菌を必要とする。しかし、セトロレリックスは水溶液中では不安定であり、凝集し、ゲル化する傾向にある。したがって、ゲルの形成により粘度が増加するため、濾過による殺菌は煩雑となり得る。このように、無菌での加工が容易であり、ゲル又は凝集物を形成することなく濾過することが可能である、低粘度の製剤を開発する必要がある。
【0032】
本発明によれば、上記薬学的組成物は、安定剤として1つ又は複数のアミノ酸を含む。アミノ酸の安定剤は、ペプチド分子との間の相互作用を低減することにより、凝集速度を遅くする。更に、アミノ酸の安定剤は、ペプチドの可溶化を助ける。アミノ酸の安定剤は、グリシン、メチオニン、ヒスチジン及びそれらの混合物を含む群から選択される。好ましいアミノ酸の安定剤はグリシンである。使用されるグリシンの量は、上記組成物の約1mg/mlから約10mg/mlの範囲内であってもよい。
【0033】
組織への損傷を防ぐため、注射可能な組成物は、ヒトの血漿と等張であるべきである。本発明によれば、上記薬学的組成物は、更にマンニトール、スクロース、グリセリン、トレハロース、ソルビトール、グリセロール等、及びそれらの混合物を含む群から選択される等張剤を含む。等張剤は、約10mg/mlから約40mg/mlの範囲の濃度で使用してもよい。本発明の組成物の浸透圧濃度は、約250mOsmolから約500mOsmolの範囲内で調節されてもよい。好ましい等張剤は、マンニトール及びグリセロールから選択される。上記等張剤はまた、優先的排除理論(preferential exclusion theory)を通じてタンパク質及びペプチドのコロイド安定性の維持を助ける。等張剤はまた、このように、本発明の組成物の凝集及びゲルの形成傾向を低減する。
【0034】
本発明のセトロレリックス組成物の場合、組成物のpHは、薬剤を溶液中に維持させるのに重要な役割を果たす。本発明によれば、約3から約5.5の範囲内のpHを有する組成物を準備するために、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸及びそれらの混合物を含む群から選択される酸性化剤を用いてもよい。好ましい実施形態において、セトロレリックス塩基の酸性化剤に対する質量比は、約0.01:1から約1:1の範囲内であってもよい。
【0035】
本発明によれば、セトロレリックス塩基は、組成物の約0.1mgから約0.5mg/mlの範囲の量で前記組成物中に存在する。
【0036】
本発明によれば、前記非経口の組成物に加えることができる他の薬学的賦形剤は、キレート剤、還元剤、酸化防止剤、緩衝剤、及び保存料等のうちの1つ又は複数を含む。
【0037】
本発明の、安定性を有し、無菌性である、すぐに利用可能なセトロレリックス組成物は、バイアル、プレフィルドシリンジ(PFS)又はオートインジェクター用のカートリッジ内に包装してもよい。バイアル、プレフィルドシリンジ及びカートリッジの構成の材料は、本発明のセトロレリックス組成物の安定性及び無菌性がその貯蔵寿命を通して損われることのないようなものである。バイアル、プレフィルドシリンジ及びカートリッジの構成の材料は、ガラス、プラスチック又はポリマー材料から選択される材料で作られるものであってもよい。好ましい実施形態において、構成の材料は、ガラス、例えばUSPタイプIのシリコンガラス又は非発熱性ガラスである。他の実施形態において、構成の材料は、ガラスでないプラスチック又はシクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリオレフィン、スチレン-ポリオレフィン系ポリマー及びブロックコポリマー、及びポリカーボネート等から選択されるポリマー材料である。
【0038】
本発明のすぐに利用可能なセトロレリックス組成物は、PFS又はオートインジェクターと共に使用するためのカートリッジで提供される場合、自己投与に好適である、又は、別の者により患者に容易に投与され得る。本発明のすぐに利用可能な組成物は、早期卵胞期から中期卵胞期の間に、1日1回(0.25mg用量)又は1回(3mg用量)のいずれかで皮下投与されてもよい。組成物は、下腹部領域、好ましくは下腹部周りであるが、へそから少なくとも1インチ離れた位置に皮下注射される。したがって、本発明は、自己投与による対象への組成物の皮下送達のための使い捨てのPFS又はオートインジェクターデバイス内の、セトロレリックス又はその薬学的に許容される塩のすぐに利用可能な組成物を提供する。
【0039】
用語「貯蔵寿命」は、効能及び/又は性能プロファイルを失うことなく、薬学的組成物が保存され得る時間量を指す。本発明のいくつかの実施形態において、貯蔵寿命は、効能及び/又は性能の2%、5%、8%又は10%を失うことなく、薬学的組成物が保存され得る時間量を指す。本明細書中で提供される安定性を有する組成物は、貯蔵寿命が少なくとも12、24又は36ヶ月となるように設計されている。
【0040】
本発明のすぐに利用可能な組成物は、2から8℃で保存した場合、上記組成物で実施された加速された安定性の検討により実証されたとおり、少なくとも約24ヶ月の貯蔵寿命を示す。下記に示される実施例において分かるとおり、本発明のすぐに利用可能なセトロレリックス組成物は、25℃及び相対湿度60%で保存された場合、6ヶ月間の保存の終点において、合計不純物が3%w/w以下である。更に、上記組成物は、25℃及び相対湿度60%での6ヶ月間の保存の終点において、式IIのL-Ala-セトロレリックス不純物を1%w/w以下で含有する。このデータは、推定された場合、少なくとも24ヶ月の貯蔵寿命を示す。上記組成物の実際の時間安定性データは、2から8℃における6ヶ月間の保存の終点において0.1%w/w未満のL-Alaセトロレリックス不純物及び<0.5%w/wの合計不純物が発見された安定性を有する組成物も示唆している。
【0041】
セトロレリックス酢酸塩の原薬は、プロセス不純物としてEndo(3)-D-Palセトロレリックス(式I)を含有することが知られている。通常、もし選択された担体が正しくない場合、この不純物は、最終投与形態又は医薬品、すなわち最終組成物中で、時間と共に増加することが分かっている。本発明は、選択された担体又は賦形剤が、保存に際しEndo(3)-D-Palセトロレリックス不純物が時間と共に増加せず、25℃及び相対湿度60%での6ヶ月間の保存の終点において0.5%w/w未満にとどまることが判明しているものである、すぐに利用可能なセトロレリックス組成物を提供する。
【0042】
本発明は更に、セトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩の、すぐに利用可能な薬学的組成物の調製方法を提供する。
【0043】
定義
他に定義されない限り、本明細書中で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野における当業者により通常理解されるものと同一の意味を有する。本明細書中の本発明の説明で用いられる専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明の限定を意図するものではない。
【0044】
文脈上他に示唆のない限り、本明細書中に記載される発明の各種特徴は、任意の組み合わせで使用することができることが特に意図される。
【0045】
更に、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書中で説明された任意の特徴又は特徴の組み合わせが除外又は省略されることがあることも考慮される。
【0046】
全ての公報、特許出願、特許、及び本明細書中で言及されている他の参照は、それらの全体において、あらゆる目的のために本明細書中に参照により組み込まれる。
【0047】
本明細書中で用いられているとおり、「1つの(a)」「1つの(an)」又は「その(the)」は、1つ又は1つを超える数を意味し得る。
【0048】
また、本明細書中で使用されているとおり、「及び/又は(and/or)」は、関連する列挙された項目のうちの1つ又は複数のいずれか及び全ての可能な組み合わせ、並びに代替の(「又は(or)」)と訳出される場合の組み合わせの欠如を指し、また、包含する。
【0049】
本明細書中で使用されているとおり、用語「約(about)」は、本明細書中で用いられる、例えば本発明の化合物又は薬剤の量、用量、時間、温度等の測定可能な値を参照する場合、特定量の±10%の偏差を包含することを意味する。
【0050】
「すぐに利用可能な(ready-to-use)」は、セトロレリックス組成物との関連で用いられる場合は、溶解した形態、又は可溶化された形態であるセトロレリックス又はその薬学的に許容可能な塩を含む組成物を指し、希釈剤を用いて更に希釈することなくそのまま使用することができる。用語「組成物(composition)」及び「溶液(solution)」は区別せずに用いられることがある。
【0051】
本明細書中で使用されている用語「非経口の(parenteral)」は、皮下ルート又は筋肉内ルートによる投与を指す。
【0052】
本明細書中で使用されているとおり、そして特に指定のない限り、用語「安定性を有する(stable)」は、組成物の物理的及び化学的な安定性を指す。
【0053】
本発明は、下記実施例を参照して更に説明されるが、それは説明を目的とするのみであり、いかなる手段によっても本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0054】
【0055】
バッチに必要量の酢酸を製造容器に移す。必要量のセトロレリックスを正確に計量し、製造容器に加える。透明な溶液が得られるまで上記混合物を撹拌する。上記製造容器に、上記バッチに必要な注射用の水の必要量の80%を加え、混合物を撹拌して均一な溶液を得る。上記溶液に必要量のグリシンを加え、透明になるまで撹拌する。必要量のマンニトールを加えて撹拌する。注射用の水の残りの量を用いて最終的に容量を100%にする。上記溶液を0.2μフィルターを通して濾過し、上記溶液をバイアル若しくはPFS又はオートインジェクター用のカートリッジ内に充填する。
【実施例2】
【0056】
【0057】
上記の実施例1のプロセスと同様のプロセスにより組成物が得られる。
【実施例3】
【0058】
実施例2の組成物を安定性試験に供し、結果を下記に示す。
【0059】
【0060】
既知の不純物の構造は、下記のとおりである。
【0061】
【0062】
製造中及びその後の保存中にセトロレリックス製剤の凝集は観察されなかった。
【実施例4】
【0063】
【0064】
バッチ用の注射用の水の約15%を製造容器内に投入し、それに正確に計量した酢酸を加えた。透明な溶液が得られるまで上記混合物を撹拌した。その後、量が正確に計量されたプロピレングリコールを上記容器に加えて撹拌し、透明な溶液を得た。その後、セトロレリックス酢酸塩を上記容器に加えて撹拌し、均一な溶液を得た。必要量のグリセロールを撹拌しながら上記混合物に加え、続いてグリシンを加えた。最終的に、注射用の水の残りの量を用いて容量を100%にした。このようにして得られた溶液を0.2μフィルターを通して濾過し、PFS内に充填した。
【実施例5】
【0065】
実施例4の組成物で安定性試験に供し、結果を下記に示す。
【0066】
【0067】
この加速された安定性試験の結果は、上記組成物の貯蔵寿命が少なくとも24ヶ月であることを示唆している。
【実施例6】
【0068】
【0069】
上記の実施例4のプロセスと同様のプロセスにより組成物を得た。
【実施例7】
【0070】
実施例6の組成物で安定性試験に供し、その結果を下記に示す。
【0071】
【0072】
この加速された安定性試験の結果は、上記組成物の貯蔵寿命が少なくとも24ヶ月であることを示唆している。
【国際調査報告】