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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】直接経口抗凝固薬溶出医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/12 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
A61B17/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579604
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 US2022036544
(87)【国際公開番号】W WO2023283440
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】63/220,013
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】カンガス、スティーブン エル.
(72)【発明者】
【氏名】コペスキー、エドワード
(72)【発明者】
【氏名】チェン、イェン-レーン
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160DD55
4C160DD65
4C160MM36
(57)【要約】
患者の心耳口を横切って恒久的に配置するためのデバイスは、収縮された送達構成及び心耳の内壁に恒久的に係合するための半径方向に拡大された部分を画定する拡張された展開構成を有する支持構造と、支持構造に取り付けられた膜であって、支持構造が拡張された展開構成にあるときに心耳口を横切って延在するように構成された膜と、支持構造及び膜のうちの少なくとも一方の上に配置されたポリマーコーティングとを含む。ポリマーコーティングは、ポリマー中に分散された直接経口抗凝固薬(DOAC)を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心耳口を横切って恒久的に配置するためのデバイスであって、
収縮された送達構成及び心耳の内壁に恒久的に係合するための半径方向に拡大された部分を画定する拡張された展開構成を有する支持構造と、
前記支持構造に取り付けられた膜であって、前記支持構造が前記拡張された展開構成にあるときに心耳口を横切って延在するように構成された前記膜と、
前記支持構造及び前記膜のうちの少なくとも一方の上に配置されたポリマーコーティングであって、ポリマー中に分散された直接経口抗凝固薬(DOAC)を含む前記ポリマーコーティングと
を含むデバイス。
【請求項2】
前記DOACは、アピキサバン、リバーロキサバン、又はエドキサバンである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ポリマーコーティングは前記膜上に配置されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記DOACは、60/40から90/10重量/重量のポリマー対DOACの比で前記ポリマーコーティング中に存在する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記DOACは前記ポリマーコーティング中に10~10,000μgの量で存在する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項6】
前記ポリマーコーティングは、膜表面積1mm当たり100~50,000ngDOACのコーティング密度で前記DOACを含む、請求項3に記載のデバイス。
【請求項7】
前記ポリマーはポリ(フッ化ビニブデン)-co-ヘキサフルオロプロピレンであり、前記ポリマーコーティングは約10~20μmの厚さを有する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項8】
前記ポリマーコーティングは前記支持構造上に直接配置される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記DOACは100~300μgの量で存在する、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ポリマーコーティングは、前記膜上に積層された厚さ1~10μmのフィルムである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記フィルムは100~450μgのDOACを含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記フィルムは複数の細孔を含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
前記複数の細孔は20~150μmである、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記フィルムは、前記DOACを含むベース層と、調節化合物を含むトップ層とを含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項15】
患者の左心耳口を横切って恒久的に配置するための拡張可能なデバイスを製造する方法であって、
収縮された送達構成と、左心耳の内壁に恒久的に係合するサイズの半径方向に拡大された部分を画定する拡張された展開構成とを有する拡張可能な支持構造を形成すること、
前記支持構造の少なくとも近位端上に膜を取り付けること、及び
ポリマー中に分散された直接経口抗凝固薬を含むポリマーコーティングを前記支持構造及び前記膜の少なくとも一方に適用すること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療デバイスに関し、より具体的には、デバイス関連の血栓症を予防するための医療デバイスの抗凝固薬コーティング、及びそのような医療デバイスの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用途のために多種多様な医療デバイスが開発されている。これらの中には、例えば、非弁膜症性心房細動の治療に利用される医療デバイスがある。これらの医療デバイスは、左心耳(LAA)を隔離するために使用され得る。埋め込み型医療デバイスは、血栓が心臓から体循環に流出するのを阻止するために、LAAに挿入することができる。時間の経過とともに、LAAの口に広がる埋め込まれた医療デバイスの露出した表面構造は組織で覆われるようになる。既知の医療デバイス及び方法には、それぞれ一定の長所と短所がある。代替医療デバイス、ならびに医療デバイスを製造及び使用するための代替方法を提供する必要性が継続的に存在する。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、医療デバイスの設計、材料、製造方法、及び使用法の代替案を提供する。例示的な医療デバイスは、収縮された送達構成及び心耳の内壁に恒久的に係合するための半径方向に拡大された部分を画定する拡張された展開構成を有する支持構造と、支持構造に取り付けられた膜であって、支持構造が拡張された展開構成にあるときに心耳口を横切って延在するように構成された膜と、支持構造及び膜のうちの少なくとも一方の上に配置されたポリマーコーティングとを含む。ポリマーコーティングは、ポリマー中に分散された直接経口抗凝固薬(DOAC)を含む。
【0004】
上記の実施形態に代えて、又はそれに加えて、前記DOACは、アピキサバン、リバーロキサバン、又はエドキサバンである。
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記ポリマーコーティングは前記膜上に配置される。
【0005】
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記DOACは、60/40から90/10重量/重量のポリマー対DOACの比で前記ポリマーコーティング中に存在する。
【0006】
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記DOACは前記ポリマーコーティング中に10~10,000μgの量で存在する。
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記ポリマーコーティングは、膜表面積1mm当たり100~50,000ngDOACのコーティング密度で前記DOACを含む。
【0007】
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記ポリマーはポリ(フッ化ビニブデン)-co-ヘキサフルオロプロピレンであり、前記ポリマーコーティングは約10~20μmの厚さを有する。
【0008】
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記ポリマーコーティングは前記支持構造上に直接配置される。
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記ポリマーコーティングは20μmの厚さを有する。
【0009】
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記DOACは100~300μgの量で存在する。
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記ポリマーコーティングは前記支持構造の近位端に配置される。
【0010】
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記ポリマーコーティングは、前記膜に積層された厚さ1~10μmのフィルムである。
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記フィルムは100~450μgの前記DOACを含有する。
【0011】
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記フィルムは複数の細孔を含む。
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記複数の細孔は20~150μmである。
【0012】
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記フィルムは前記膜の心房面上に配置される。
上記の実施形態のいずれかに代えて、又はそれに加えて、前記フィルムは、前記DOACを含むベース層と、調節化合物を含むトップ層とを含む。
【0013】
患者の左心耳口を横切って恒久的に配置するためのデバイスの別の例は、送達のための第1の収縮形状と、左心耳の内壁に係合するように構成された第2の拡張形状とを有する自己拡張型支持構造であって、前記第2の拡張形状にあるときに左心耳口を横切って延びる心房面を画定する複数の支柱を含む、前記支持構造と、前記心房面上に配置され、前記支持構造の側面の少なくとも一部に沿って延び、前記第2の拡張形状において心耳口を横切って延びるように構成された膜と、前記支持構造及び前記膜の一方又は両方の上に配置されたポリマー薬物コーティングとを含み、前記ポリマー薬物コーティングは、ポリマー中に分散された直接経口抗凝固薬(DOAC)を含む。
【0014】
上記の実施形態に代えて、又はそれに加えて、前記ポリマー薬物コーティングは、前記膜上に直接積層された厚さ1~10μmのフィルムである。
患者の左心耳口を横切って恒久的に配置するための拡張可能なデバイスを製造する例示的な方法は、収縮された送達構成と、左心耳の内壁に恒久的に係合するサイズの半径方向に拡大された部分を画定する拡張された展開構成とを有する拡張可能な支持構造を形成すること、前記支持構造の少なくとも近位端上に膜を取り付けること、及びポリマー中に分散された直接経口抗凝固薬を含むポリマーコーティングを前記支持構造及び前記膜の少なくとも一方に適用することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態、態様、及び/又は例の上記の概要は、本開示の各実施形態又はすべての実装を説明することを意図したものではない。以下の図面及び詳細な説明は、これらの実施形態をより具体的に例示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本開示は、添付の図面と併せて、以下の様々な実施形態の詳細な説明を考慮することにより、より完全に理解することができる。
図1】本開示による例示的な医療デバイスの一部を示す。
図2】膜を備える図1に示される医療デバイスを示す。
図3】患者の左心耳の部分断面図内に展開された、図2に示される医療デバイスの例である。
図4A】膜上にポリマー薄フィルムが配置された例示的な医療デバイスの部分断面図である。
図4B】膜と支持構造との間にポリマー薄フィルムが配置された別の例示的な医療デバイスの部分断面図である。
図5】ポリマー及び様々な直接抗凝固薬でコーティングされた膜上に形成された様々な時点の血栓を示す。
図6図5からの血栓重量を示すグラフである。
図7】レーザ切断された厚さ25μmのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムの上面図である。
図8】スプレーコーティングされたPETフィルムからの経時的な薬物放出を示すグラフである。
図9図9A~9Dは、血液暴露後の対照デバイス及びスプレーコーティングされたデバイスを示す。
図10図10A及び10Bは、血液暴露前後の部分的にマスキングされたスプレーコーティングされたデバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の態様は、様々な修正及び代替形態に従うことができるが、その具体像は、例として図面に示されており、詳細に説明される。しかしながら、本開示の態様を記載された特定の実施形態に限定する意図ではないことを理解されたい。逆に、本開示の趣旨及び範囲内にあるすべての修正、等価物、及び代替物を包含することが意図されている。
【0018】
詳細な説明
以下に定義される用語については、特許請求の範囲又は本明細書の他の場所で異なる定義が与えられない限り、これらの定義が適用されるものとする。
【0019】
本明細書では、明示的に示されているかどうかにかかわらず、すべての数値は「約」という用語によって修飾されているものとみなされる。数値の文脈における「約」という用語は、全般的に、当業者が記載された値と同等である(例えば、同じ機能又は結果を有する)と考えるであろう数値の範囲を指す。多くの場合、「約」という用語には、最も近い有効数字に四捨五入された数値が含まれ得る。「約」という用語の他の使用法(例えば、数値以外の文脈における)は、別段の指定がない限り、本明細書の文脈から理解され、本明細書の文脈と一致するように、通常の慣例的な定義を有するとみなされ得る。
【0020】
上限・下限による数値範囲の記載には、上限・下限を含む、その範囲内のすべての数値が含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5が含まれる)。様々な構成要素、特徴及び/又は仕様に関するいくつかの適切な寸法、範囲、及び/又は値が開示されているが、当業者であれば、本開示に触発されて、所望の寸法、範囲、及び/又は値が明示的に開示されているものから逸脱する場合があることを理解するであろう。
【0021】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つ」、「その」、及び「前記」には、内容が明らかにそうでないことを示していない限り、複数の指示対象が含まれる。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される「又は」という用語は、内容が明らかにそうでないことを示していない限り、総じて「及び/又は」を含む意味で使用される。理解を容易にするために、本開示の特定の特徴は、複数であるか又は開示される実施形態内で繰り返される場合でも、単数形で説明される場合があることに留意されたい。特徴の各例は、明示的に反対の記載がない限り、単一の開示を含む、及び/又は単一の開示によって包含される場合がある。簡略化及び明確化の目的で、本開示のすべての要素が必ずしも各図に示されたり、以下で詳細に説明されたりするわけではない。しかしながら、明確に反対の記載がない限り、以下の説明は複数ある構成要素のいずれか及び/又はすべてに等しく適用され得ることが理解されるであろう。さらに、明確にするために、一部の要素又は特徴のすべての例が各図に示されているわけではない場合がある。
【0022】
「近位」、「遠位」、「前進」、「後退」、それらの変形などの相対的な用語は、通常、デバイスのユーザ/操作者/マニピュレータに対する様々な要素の位置決め、方向、及び/又は操作に関して考慮される。ここで、「近位」及び「後退」は、ユーザに近い、又はユーザに向かっていくことを示す又は指すものであり、「遠位」及び「前進」は、ユーザから遠い、又はユーザから離れていくことを示す又は指すものである。場合によっては、「近位」及び「遠位」という用語は、本開示の理解を容易にするために任意に割り当てられることがあり、そのような例は当業者には容易に明らかであろう。「上流」、「下流」、「流入」、及び「流出」などの他の相対的な用語は、体管腔、血管などの管腔内、又はデバイス内の流体の流れの方向を指す。
【0023】
「範囲」という用語は、記載又は特定された寸法の最大の測定値を意味すると理解され得、ただし、その範囲又は寸法の前に「最小」が付けられているか、又は「最小」として識別されている場合、これは、記載又は特定された寸法の最小測定値を意味すると理解され得る。例えば、「外側範囲」は最大外側寸法を意味すると理解され、「半径方向範囲」は最大半径方向寸法を意味すると理解され、「長手方向範囲」は最大長手方向寸法を意味すると理解され得る。「範囲」の各例は異なる場合があり(例えば、軸方向、長手方向、横方向、半径方向、円周方向など)、個々の用法の文脈から当業者には明らかであろう。通常、「範囲」は、意図された使用法に従って測定された可能な最大の寸法と考えられ、一方、「最小範囲」は、意図された使用法に従って測定された可能な最小の寸法と考えられる。場合によっては、「範囲」は、通常、平面及び/又は断面内で直角に測定され得るが、特定の文脈から明らかなように、角度方向、半径方向、円周方向(例えば、円弧に沿って)などの(ただしこれらに限定されない)異なる方法で測定される場合もある。
【0024】
「モノリシック」及び「単一」という用語は、通常、単一の構造又は基本ユニット/要素から作られる、又はそれからなる要素を指すものとする。モノリシック及び/又は単一要素には、複数の個別の要素を組み立てて又は結合して作られた構造及び/又は特徴は含まれないものとする。
【0025】
本明細書における「一実施形態」、「いくつかの実施形態」、「他の実施形態」などへの言及は、説明される実施形態が特定の特徴、構造、又は特性を含み得ることを示すが、すべての実施形態が必ずしもその特定の特徴、構造、又は特性を含む必要はないことに留意されたい。さらに、このような語句は、必ずしも同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、又は特性がある実施形態に関連して説明されている場合、明確に反対の記載がない限り、その特定の特徴、構造、又は特性を他の実施形態に関連して有効にすることは、明示的に記載されているか否かに関わらず、当業者の知識の範囲内である。すなわち、以下に説明する様々な個々の要素は、特定の組み合わせで明示的に示されていなくても、当業者には理解され得るように、他の追加の実施形態を形成するために、又は説明される実施形態を補足及び/又は充実させるために、互いに組み合わせることができるか、又は配置可能であると考えられる。
【0026】
明確にする目的で、本明細書及び/又は特許請求の範囲全体にわたって、記載及び/又は請求される様々な特徴を命名及び/又は区別するために、特定の識別用の数値命名法(例えば、第1、第2、第3、第4など)が使用される場合がある。数値命名法は限定を意図するものではなく、単なる例示であることを理解されたい。いくつかの実施形態では、簡潔さと明確さのために、以前に使用された数値命名法の変更及び逸脱が行われる場合がある。つまり、「第1の」要素として識別された特徴は、後に「第2」の要素、「第3の」要素などと称されたり、完全に省略されたり、及び/又は異なる特徴が「第1の」要素と呼ばれたりする場合がある。各例における意味及び/又は名称は、当業者には明らかであろう。
【0027】
以下の説明は、図面を参照して読まれるべきであるが、図面は必ずしも縮尺通りではなく、異なる図面における同様の要素には同じ番号が付けられている。詳細な説明及び図面は、例示を目的とするものであり、本開示を限定するものではない。当業者は、説明及び/又は図示された様々な要素が、本開示の範囲から逸脱することなく様々な組み合わせ及び構成で配置され得ることを認識するであろう。詳細な説明及び図面は、本開示の例示的な実施形態を示している。しかしながら、明瞭さと理解を容易にするために、各図面にはすべての特徴及び/又は要素が示されていない場合があるが、別段の指定がない限り、そうした特徴及び/又は要素は存在すると理解され得る。
【0028】
非弁膜症性心房細動(a-fib)は、左心耳(LAA)を通る血流が減少することで、血栓形成に適した低血流状態になるため、患者の脳卒中のリスクを高める状態である。この状態の結果、a-fibの患者は生涯にわたって経口抗凝固療法を必要とし得る。経口抗凝固薬は全身治療であり、患者、特に出血リスクの高い患者に特有のリスクをもたらす可能性がある。LAA内での血栓形成の発生を減らし、血栓がLAA内から血流に入るのを防ぐために、LAAを心臓及び/又は循環系から遮断する医療デバイスが開発され、それによって、左心耳から血流に入る血栓溶解物質による脳卒中やその他の塞栓性虚血事象のリスクを低減している。
【0029】
LAA閉鎖デバイスを装着している患者には、埋め込み後約45日間経口抗凝固薬(OAC)を服用し、その後少なくとも6か月間抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を行うことが推奨されることがよくある。LAA閉鎖デバイス埋め込み後のOAC療法は、デバイス上で組織が成長する埋め込み後の最初の6週間におけるデバイス関連血栓症(DRT)のリスクを確実に低くすることを目的としている。OAC療法はDRTのリスクを軽減するのに非常に効果的であるが、全身治療であるため、一部の患者では、脳出血、胃腸出血、転倒などの鈍的外傷による内出血などの深刻な全身性の悪影響を引き起こす可能性がある。出血のリスクが高い患者の場合、LAA閉鎖デバイスの埋め込み後はOACの服用を避けることが望ましい。また、LAA閉鎖デバイスの埋め込み後にOACを服用する患者側の不遵守の問題も考えられる。患者の約3~4%は、OACの中止後、埋め込み後45日から1年の間にデバイス関連の血栓を発症する。DRTを発症した患者は、DRTが解消するまでOACに戻らなければならない。
【0030】
出願人らは、(a)デバイス埋め込み後の全身OAC療法の必要性を排除し、(b)長期的にDRTのリスクを低減し続ける閉鎖デバイスを開発した。この閉鎖デバイスは、従来の全身OAC療法を採用し、代わりに直接経口抗凝固薬(DOAC)を使用し、それらを必要とされるデバイスの表面にのみ提供するため、全身OAC療法の潜在的な副作用を軽減するという利点がある。これは、LAA閉鎖デバイスの1つ以上の部分に配置されたポリマーコーティングにDOACを組み込むことによって達成され得る。閉鎖デバイスは支持構造及び膜を含むことができ、ポリマーコーティングが支持構造及び膜の一方又は両方の上に配置され得る。
【0031】
凝固カスケードの様々な補因子を阻害し、深刻な全身悪影響の一因となる可能性があるヘパリンやワルファリンなどの従来の抗凝固薬とは異なり、直接経口抗凝固薬(DOAC)として知られる抗凝固薬のカテゴリーは、特定の凝固因子に直接結合する。DOACの例には、第Xa因子に直接結合するアピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、ベトリキサバン、及びアルガトロバン、及び第IIa因子に直接結合するダビガトランが挙げられる。LAA閉鎖デバイスは、デバイスの表面でこれらのDOACを局所的に放出する方法を提供する。
【0032】
図1は、例示的なLAA閉鎖デバイスの一部又はインプラント100の斜視図を示す。インプラント100は、近位カラー112から遠位カラー114まで延びる自己拡張型支持構造110を含み得る。いくつかの実施形態では、支持構造110は、格子を形成する複数の支柱111を含み得る。近位カラー112及び支柱111を含む支持構造110は、モノリシックであってもよく、又は複数の部品から形成されてもよい。支持構造110の近位端116は、LAA内に埋め込まれたときに左心房に面し、支持構造の心房面と呼ばれることがある。いくつかの実施形態では、支柱の近位端部及び遠位端部は、それぞれ近位カラー及び/又は遠位カラーに直接取り付けられ得る。いくつかの実施形態では、支持構造110は、展開後にインプラント100を左心耳の側壁に固定し、それによってLAAに対するインプラント100の近位方向への移動を阻止するために設けられる複数のアンカー150を含み得る。図示の実施形態では、複数のアンカー150のそれぞれは、支柱節点接合部156から遠位方向に延びる。しかしながら、複数のアンカー150の他の代替位置及び配置も可能であることが理解されるであろう。支持構造110は、収縮された送達形状又は構成と、図1に示すように、拡張された展開形状又は構成を有する。この図では、支持構造110は、心耳の内壁に恒久的に係合する半径方向に拡大された部分を画定している。支持構造110が拡張構成にあるとき、心房面はLAAの口を完全に横切って延びるように構成される。
【0033】
図2は、支持構造110の少なくとも一部の上に配置された膜130を備える図1に示す例示的なインプラント100を示す。いくつかの実施形態では、複数のアンカー150のうちの少なくともいくつかは、膜130を通って突出する。いくつかの実施形態では、膜130は、例えば、各アンカー150を膜130に、例えば細孔又は開口部に通すことによって、各アンカー150のところで支持構造110に取り付けられ得る。他の実施形態では、膜130は、限定するものではないが、接着剤、縫合糸又は糸、溶接又ははんだ付け、又はそれらの組み合わせなどの他の適切な取り付け手段によって支持構造110に取り付けられ得る。いくつかの実施形態では、膜130は、血液及び/又は水などの他の流体に対して透過性であっても不透過性であってもよい。いくつかの実施形態では、膜130は、高分子膜、金属又は高分子メッシュ、多孔質フィルタ状材料、又は他の適切な構造を含み得る。膜130は、支持構造110の近位端116又は心房面を完全に覆うように広がっていてもよい。いくつかの例では、膜130は、図2に示されるように、支持構造110の側面118の少なくとも一部に沿って広がることもできる。このようにして、膜130は、支持構造110が拡張された展開構成にあるとき、LAAの口を横切って延びるように構成される。いくつかの実施形態では、膜130は、LAAで形成された血栓(すなわち、凝血塊など)が膜130を通過してLAAから血流に入るのを防ぐ。いくつかの実施形態では、膜130は埋め込み後に内皮形成を促進し、それによって患者の循環系からLAAを効果的に除去する。
【0034】
図3は、例示的な左心耳50内に配置された展開位置にあるインプラント100の部分断面図を示す。図3からわかるように、支持構造110は、展開位置で左心耳50の側壁54の外形及び/又は表面形状に追従して実質的に適合し、かつ/又は密封係合することができる。インプラント100は、その最大のサイズ、範囲、又は形状において、展開位置で完全に拘束されていない位置まで拡張することができる。
【0035】
上述のLAA閉鎖インプラント100は、DOAC含有ポリマーコーティングを組み込むことができる多くの異なるLAAインプラントのうちの1つにすぎない。以下の例は、米国特許第6,652,556号、米国特許第6,689,150号、米国特許第6,949,113号、米国特許第7,727,189号、米国特許第9,913,652号、及び米国特許第11,241,237号に記載されているようなLAA閉鎖デバイスを参照している。これらの開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
ポリマーコーティングは、ポリ(フッ化ビニリデン)-co-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)などの血液適合性ポリマー、及び直接経口抗凝固薬(DOAC)などの抗凝固薬を含み得る。結果として生じる薬物コーティングは、膜130及び/又は支持構造110に適用されることで、持続的な局所放出のための薬物貯留部として機能することができる。インプラントのサイズが比較的大きいため、薬物リザーバーを組み込むことが可能となることで、DOAC及びその他の薬物を長期間(1年)放出して、DRT及びその他の心疾患状態を局所的に治療することができる。
【0037】
一実施形態では、PVDF-HFPなどのポリマーコーティング及び1つ以上のDOACが、ポリマーを溶解するのに適した溶媒に溶解される。この溶液は浸漬コーティング又はスプレープロセスによって膜130に直接適用され得る。スプレーコーティングは、ポリマーコーティングを膜130の片面のみに配置することができ、コーティングされていない側が支持構造110に取り付けられ得る。スプレーコーティングは、膜が支持構造に取り付けられる前に膜に行ってもよいし、膜が支持構造に取り付けられた後に行ってもよい。ポリマーコーティングは、膜上で100~50,000ng薬物/mmのコーティング密度を達成するために適用され得る。いくつかの例では、ポリマーコーティングは、膜上で10,000ng薬物/mmのコーティング密度を達成するために適用され得る。ポリマー対薬物の比は、例えば、50/50~90/10(重量/重量)であり得る。いくつかの例には、60/40、70/30、又は80/20(重量/重量)のポリマー対薬物の比が含まれる。膜上の平均コーティング厚さは約10~30μmであり得る。一例では、24mmデバイスのコーティングされた膜に含まれる薬物の量は、約10~20,000μgであり得る。
【0038】
別の例では、薬物含有ポリマーコーティングは、支持構造110上に直接配置され得る。支持構造110はニチノールであってもよい。いくつかの例では、支持構造110の近位端116のみがPVDF-HFPとDOACの混合物でコンフォーマルコーティングされてもよい。他の例では、ポリマーコーティングは、支持構造110の近位端116と、側面118の少なくとも一部とに配置され得る。あるいは、支持構造110全体をポリマーコーティングで覆ってもよい。ポリマーコーティングが支持構造110上に直接配置される場合、膜130をコーティングする場合と比較して、著しく厚いコーティングが達成可能である。膜コーティングの厚さは、デバイスの装填及び展開中の膜の折り畳み及び展開の影響により制限される。膜のコーティングが厚くなると、ひび割れや剥がれが生じたり、折り畳みや展開のプロセスが妨げられる場合がある。支持構造110の直接コーティングによって、最大30μmの厚さ及び100~300μgの抗凝固薬含有量のポリマーコーティングが達成可能である。支持構造110上の著しく厚いコーティングは、膜130をコーティングする場合と比較して、より長い薬物放出時間をもたらし得る。いくつかの例では、薬物を含むベースコートを適用し、デバイスを乾燥させ、次いで薬物を含まないトップコートを適用することによって、より遅い薬物放出を達成することができる。他の例では、コーティングプロセス中にデバイスをマスキングすることによって、薬物コーティングをデバイスのマスキングされていない選択領域又は範囲に適用することができる。これにより、特定の所望の範囲にのみ薬物を適用することが可能になる。
【0039】
いくつかの例では、膜130と支持構造110の両方がポリマー及びDOACコーティングでコーティングされ得る。これにより、支持構造のみ又は膜のみをコーティングする場合と比較して、送達される薬物の量が増加し得る。
【0040】
さらなる例では、DOACを含むPVDF-HFPの薄層が薄フィルム160に形成され、膜130上に直接積層される。
このフィルムは、ポリエチレンテレフタラート(PET)であってもよい膜130に比べて非常に薄くてもよい。例えば、ポリマー及びDOACの薄フィルム160は、厚さ120μmの膜130と比較して、1~10μmの厚さを有し得る。ポリマーフィルムは、膜130に対して非常に柔軟で追従性があり、デバイスの装填又は展開に悪影響を及ぼさない。薄フィルム160は、膜130上にポリマー及びDOACを直接浸漬又はスプレーコーティングするよりも、10~100倍の厚さであるなど、著しく厚くてもよい。いくつかの例では、フィルムは複数の層で形成されてもよい。より厚いフィルム又は多層フィルムは、より多くの薬物を保持できるため、薬物放出の持続時間を長くすることができる。例えば、薄フィルムは、約100~450μgの抗凝固薬を含むことができる。いくつかの例では、薄フィルム160は、図4Aに示されるように、膜130の心房面上に配置され得る。他の例では、図4Bに示すように、薄フィルム160を膜130と支持構造110との間に挟むことができる。
【0041】
薄フィルム160は、血液がデバイスを急激に通過できるように多孔質にすることもできる。細孔は、フィルム製造プロセス中、又はフィルムを形成した後に、レーザ切断又は高温アニーリングなどの他のプロセスなどによって形成することができる。細孔は、膜130の細孔と一致するように、直径約20μm~150μmであってもよい。
【0042】
いくつかの例では、薄フィルム160は、異なる複数の層を含み得る。例えば、薄フィルム160は、ポリマー及び抗凝固薬のベース層と、調節化合物を含むトップ層とを含み得る。
【0043】
いくつかの例では、インプラント100を製造する方法は、(1)収縮された送達構成と、左心耳の内壁に恒久的に係合するサイズの半径方向に拡大された部分を画定する拡張された展開構成とを有する拡張可能な支持構造110を形成する工程;(2)支持構造110の少なくとも近位端116の上に膜130を取り付ける工程;及び(3)ポリマー中に分散されたDOACを含むポリマーコーティングを支持構造110及び膜130の少なくとも一方に適用する工程を含み得る。ポリマーコーティングは、膜130に直接、支持構造110に直接、膜130と支持構造110の両方に直接適用することができ、あるいはポリマーコーティングを薄フィルム160に形成して、その後膜130に積層することができる。
【0044】
いくつかの例では、拡張可能な支持構造を形成する方法は、(a)長尺管状部材の内部を延びる管腔及び環状リング部材を有する前記長尺管状部材を得る工程;(b)管状部材をレーザ切断することで、近位カラー112と、自由遠位端を有する複数の支柱111と、複数の支柱間に点在する複数のアンカー150とを単一のモノリシック構造として形成する工程;(c)複数の支柱111をほぼ菱形のワイヤ部分の格子となるように形成する工程;及び(d)支柱111の複数の自由遠位端を遠位カラー114に固定的に取り付ける工程を含み得る。支持構造110の少なくとも近位端116の上に膜130を取り付ける工程は、複数のアンカー150が膜130を貫通して延びるように、近位端116の上に、及び側面118の少なくとも一部に沿って膜130を取り付ける工程を含み得る。
【0045】
実施例1:膜上に直接配置されたコーティング
PVDF-HFP及びDOACの溶液を80/20のアセトン/DMSO(重量/重量)で調製した。PVDF-HFP対薬物の比は90/10(重量/重量)であり、溶液固形分は0.7%であった。評価したDOAC薬は、アピキサバン(Eliquis(登録商標))、リバーロキサバン(ザレルト(登録商標))及びエドキサバン(Savaysa(登録商標))であった。直径15mmのポリエチレンテレフタラート(PET)繊維ディスクを、5mm/秒の浸漬速度でポリマー/薬物溶液に浸漬コーティングした。コーティングされたディスクを125℃のコンベクションオーブンで30分間乾燥させた。薬物被覆ディスク及びPVDF-HFPのみの対照ディスクを、プロタミンを使用して活性化凝固時間(ACT)を約190秒に調整したヘパリン添加ウシ血液の入ったカップに入れた。カップを37℃のオービタルシェーカーインキュベーターに置き、様々な時点でディスクを取り出して画像化した。画像を図5に示す。次いで、ディスクを乾燥させ、重量を測定して凝血塊重量を決定した。凝血塊重量を図6に示す。図5に見られるように、3つの薬物はすべて、PVDF-HFPでコーティングされた対照と比較して血栓(凝血塊)が著しく少ないことを示し、これらの薬物がファブリック上での急性血栓の形成を防ぐのに非常に効果的であることを示している。図6に提供される凝血塊重量から、DOAC処理されたファブリック上に形成された血栓の量が最小であったことが確認される。
【0046】
実施例2:レーザ切断PETフィルム上に配置されたコーティング
図7に示すように、厚さ25μmのPETフィルムをレーザ切断して、100μmの間隔をあけた150μmの穴を形成した。PVDF/リバーロキサバンの溶液(70/30(wt/wt)、48/52(wt/wt)アセトン/DMF中総固形分4%)でPETフィルム上にスプレーコーティングし、コーティング薬物用量密度が6.3μg薬物/mmとなるようにした。コーティングされたフィルムの1つのサンプルを、薬物放出を遅らせる薬物放出バリア層として機能するように、厚さ1.5μmのPVDFフィルムでオーバーラミネートした。薬物放出を、37℃のPBS/tween(登録商標)20中、様々な時点でインキュベートした後に測定した。図8を参照されたい。積層バリア層なしでは、すべての薬物が約2週間で放出される。積層バリア層を追加すると、薬物の放出期間が優に1か月超まで延長される。
【0047】
実施例3:スプレーコーティングによってデバイスに直接配置されたコーティング
PVDF-HFP及びDOACの薬物/ポリマー溶液を80/20のアセトン/DMSO(重量/重量)で調製した。PVDF-HFP対薬物の比は60/40(重量/重量)であり、溶液固形分は2%であった。評価したDOAC薬はリバーロキサバン(ザレルト(登録商標))であった。直径24mmのウォッチマンデバイスを流速10ml/時間のポリマー/薬物溶液でスプレーコーティングすることで、ベースコートを適用した。デバイスを125℃のコンベクションオーブンで30分間乾燥させ、次いで流速10ml/時間のトップコート溶液(100%アセトン中2%PVDF-HFP)でスプレーコーティングした。総ベースコート重量は38.8mgであり、トップコート重量は18.7mgであった。次いで、スプレーコーティングされたデバイスを、37℃のPBS/Tween(登録商標)溶液に11日間入れることで、生体内での薬物溶出をシミュレートした。次いで、デバイスをDI水ですすぎ、乾燥させた。PVDF-HFPのみでコーティングした対照デバイスにも、同じインキュベーション及びリンスプロトコルを適用した。DOAC溶出デバイスと対照デバイスを、37℃のオービタルシェーカーインキュベーター上のウシ血液(ACT=210)の同じ容器に15分間入れ、これら2つのデバイスの血栓形成性を評価した。図9Aは対照デバイスの上面を示し、図9Bはそのデバイスの拡大図であって、顕著な血栓形成を示している。図9C及び9Dは、DOAC溶出デバイスの上部及び拡大図を示しており、コーティングは、対照デバイスよりもデバイスの近位面上での血栓形成を大幅に抑制した。
【0048】
実施例4:スプレーコーティングによってマスキングされたデバイスに直接配置されたコーティング
PVDF-HFP及びDOACの溶液を40/60のアセトン/DMF(重量/重量)で調製した。PVDF-HFP対薬物の比は70/30(重量/重量)であり、溶液固形分は4%であった。評価したDOAC薬はアピキサバンであった。直径24mmのウォッチマンデバイスを、スプレーコーティングの前にテフロン(登録商標)テープを使用してデバイスの背面とデバイスの外側でマスキングし、デバイスの近位面(マスキングされていない領域)のみが薬物/ポリマーコーティングでコーティングされるようにした。図10Aを参照されたい。次いで、マスキングされたデバイスを流速20ml/時間のポリマー/薬物溶液でスプレーコーティングすることで、ベースコートを適用した。コーティングのないマスキングされた領域と比較した、マスキングされていない領域の拡大図は、デバイス上のコーティングを示している。デバイスを125℃のコンベクションオーブンで30分間乾燥させ、次いで流速10ml/時間のトップコート溶液(100%アセトン中2%PVDF-HFP)でスプレーコーティングした。総ベースコート重量は26.6mgであり、トップコート重量は10.5mgであった。次いで、スプレーコーティングされたデバイスを、37℃のPBS/Tween(登録商標)溶液に7日間入れることで、生体内での薬物溶出をシミュレートした。次いで、デバイスをDI水ですすぎ、乾燥させた。DOAC溶出デバイスを、37℃のオービタルシェーカーインキュベーター上のウシ血液(ACT=210)に15分間入れ、部分的にコーティングされたデバイスの血栓形成性を評価した。図10Bに見られるように、DOAC溶出デバイスは、薬物/ポリマーコーティングが適用されたデバイスの近位面でのみ血栓形成を抑制したが、デバイスの遠位部分では血栓形成が見られた。
【0049】
DOACをLAAインプラント上に直接提供することにより、全身的な経口抗凝固療法を必要とせずに、閉鎖デバイスの埋め込み後に望ましい局所的な血栓予防が提供される。
上記の実施形態は、左心耳に挿入されるものとして示され説明されているが、このデバイス及び方法は右心耳にも使用可能であることが理解されよう。
【0050】
いくつかの実施形態では、支持構造110の複数の支柱111及び/又は複数のアンカー150は、金属材料、金属合金、セラミック材料、硬質又は高性能ポリマー、金属-ポリマー複合材料、それらの組み合わせなどから形成されるか、又はそれらを含むことができる。いくつかの適切な材料の例には、金属材料及び/又は合金、例えば、ステンレス鋼(例えば、303、304v、又は316Lステンレス鋼)、ニッケル-チタン合金(例えば、超弾性又は線形弾性ニチノールなどのニチノール)、ニッケル-クロム合金、ニッケル-クロム-鉄合金、コバルト合金、ニッケル、チタン、白金、あるいは、高性能ポリマーなどのポリマー材料、又は他の適切な材料などが含まれ得る。ニチノールという言葉は、この材料の形状記憶挙動を最初に確認した米国海軍兵器研究所(NOL)の研究者グループによって造られた。ニチノールという言葉は、ニッケル(Ni)の化学記号、チタン(Ti)の化学記号、及び海軍兵器研究所(NOL)を表す頭字語を含む頭字語である。
【0051】
いくつかの実施形態では、支持構造110の複数の支柱111及び/又は複数のアンカー150は、放射線不透過性材料と混合され、それをドープされ、それでコーティングされ、又はその他の方法でそれを含んでもよい。放射線不透過性材料は、医療処置中に蛍光透視スクリーン又はX線などの他の画像技術上に比較的明るい画像を生成できる材料であると理解されている。この比較的明るい画像は、デバイスのユーザがその位置を特定するのに役立つ。適切な放射線不透過性材料としては、次炭酸ビスマス、ヨウ素、金、白金、パラジウム、タンタル、タングステン又はタングステン合金などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
いくつかの実施形態では、膜130は、ポリマー材料、金属材料又は金属合金材料、金属-ポリマー複合材料、それらの組み合わせなどから形成され得るか、又はそれらを含み得る。いくつかの実施形態では、膜130は、ダクロン(登録商標)などのポリエチレンテレフタラート(PET)、又は延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)で形成されることが好ましい。適切なポリマーの他の例としては、ポリウレタン、DSM Engineering Plasticsから入手可能なアーニテル(登録商標)などのポリエーテルエステル、DuPontから入手可能なハイトレル(登録商標)などのポリエステル、REXELL(商標)などの直鎖状低密度ポリエチレン、Bayerから入手可能なDURETHAN(登録商標)又はElf Atochemから入手可能なCRISTAMID(商標)などのポリアミド、エラストマーポリアミド、ブロックポリアミド/エーテル、商品名ペバックス(登録商標)で入手可能なPEBAなどのポリエーテルブロックアミド、シリコーン、ポリエチレン、マーレックス高密度ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、及びポリエーテルイミド(PEI)、液晶ポリマー(LCP)単独、又は他の材料とブレンドされたものが挙げられる。
【0053】
上記の議論は患者の血管系内で使用する医療デバイス及び方法に焦点を当てていたが、本開示に従う医療デバイス又は方法の他の実施形態は、患者の解剖学的構造の他の部分で使用するために適応及び構成することができることを理解されたい。例えば、本開示に従うデバイス及び方法は、消化管又は胃腸管での使用に適合させることができる。同様に、経皮的展開に関して本明細書に記載される装置及び/又は医療デバイスは、必要に応じて他の種類の外科手術に使用されてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、医療デバイスは、開胸手術などの非経皮手術で展開され得る。
【0054】
本開示は多くの点で例示にすぎないことを理解されたい。本開示の範囲を超えることなく、細部、特に形状、サイズ、及び工程の並び順に関して変更を加えることができる。これには、適切な範囲で、ある例示的な実施形態の特徴のいずれかを他の実施形態で使用することを含み得る。当然ながら、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲が表現する文言で定義される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
【図
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】