(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】膵臓細胞を受容するマトリックスと改良型人工膵臓デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240614BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240614BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240614BHJP
A61L 27/48 20060101ALI20240614BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240614BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240614BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240614BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240614BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 A
C12N5/071
A61L27/48
A61L27/38 100
A61L27/20
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/56
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579810
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 EP2022067873
(87)【国際公開番号】W WO2023275134
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】323002277
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ グルノーブル アルプ
(71)【出願人】
【識別番号】518263900
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ウニヴェルシテール・グルノーブル・アルプ
(71)【出願人】
【識別番号】509265302
【氏名又は名称】アンスティテュ・ポリテクニック・ドゥ・グルノーブル
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アブデルカデール・ゼブダ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・サンカン
(72)【発明者】
【氏名】アワーティフ・ベン・タハール
(72)【発明者】
【氏名】エミリー・タッブス
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-イヴ・ベンアモウ
(72)【発明者】
【氏名】サンドリーヌ・ラブランシュ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG06
4B029GB02
4B029GB04
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BC41
4B065CA44
4C081AB11
4C081AB31
4C081BA12
4C081CA051
4C081CA101
4C081CA231
4C081CD091
4C081CD34
4C081DB03
4C081DC13
(57)【要約】
本発明は、半透性壁(10)と、膵臓細胞(13)を含む第1のキャビティ(1200)セット(120)、および、膵臓細胞を含まない第2のキャビティ(1210)セット(121)を備えた多孔質体(12)とを含む、膵臓細胞を受容するためのマトリックス(1)に関する。第1のキャビティセット(120)および第2のキャビティセット(121)は、互いに流体的に接続されていない。細胞のないまま残されたキャビティ(1210)は、マトリックス(1)内の栄養素およびガスの拡散経路を形成し、マトリックス内に栄養素およびガスの貯蔵ゾーンを形成する。マトリックス(1)は、膵臓細胞(13)における栄養素およびガスの枯渇を制限し、好ましくは回避する。その結果、それらの死亡率は減少し、インスリンのより良い投与が可能になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・膵臓細胞(13)を含む少なくとも1つのキャビティ(1200)を含む第1のセット(120)と、
・膵臓細胞を欠く少なくとも1つのキャビティ(1210)を含む第2のセット(121)と、
を備えた、膵臓細胞を受容するためのマトリックス(1)であって、
第1のキャビティセット(120)および第2のキャビティセット(121)は、多孔質体(12)の壁を通る液体の拡散以外には互いに流体的に接続されていない、マトリックス(1)において、
内容積(11)を少なくとも部分的に画定する半透性壁(10)と、
前記内容積(11)内に配置された多孔質体(12)であって、第1のセット(120)および第2のセット(121)を備えている多孔質体(12)と、
を含んでなることを特徴とする、マトリックス(1)。
【請求項2】
前記第1のセット(120)および/または前記第2のセット(121)は、いくつかのキャビティ(1200)(1210)を備えている、請求項1に記載のマトリックス(1)。
【請求項3】
第1の方向(A)に従って取った第1のセット(120)の2つの連続するキャビティ(1200)ごとに、第2のセット(121)のキャビティ(1210)が、前記第1のセット(120)の2つの連続するキャビティ(1200)の間に配置されている、請求項1または2に記載のマトリックス(1)。
【請求項4】
第2の方向(B)に従って取った第1のセット(120)の2つの連続するキャビティ(1200)ごとに、第2のセット(121)のキャビティ(1210)が、前記第1のセット(120)の2つの連続するキャビティ(1200)の間に配置されている、請求項3に記載のマトリックス(1)。
【請求項5】
前記第2のセット(121)の少なくとも1つのキャビティ(1210)と、前記第1のセット(121)のキャビティ(1200)の中心から前記第2のセット(121)の少なくとも1つのキャビティ(1210)の中心まで取得された、前記第1のセット(120)の少なくとも1つの直接隣接するキャビティ(1200)との間の距離(D1)は、0.5mmから3cmの間である、請求項1~4のいずれか一項に記載のマトリックス(1)。
【請求項6】
前記第1のセット(120)は、相互接続され、注入チャネル(14)に流体接続された複数のキャビティ(1200)を備えている、請求項1~5のいずれか一項に記載のマトリックス(1)。
【請求項7】
前記第2のセット(121)は、複数の相互接続されたキャビティ(1210)を備えている、請求項1~6のいずれか一項に記載のマトリックス(1)。
【請求項8】
前記第1のセット(120)の各キャビティ(1200)は、膵臓細胞(13)または膵臓細胞の膵島(13)のサイズより実質的に大きい最小寸法(D1200)を有する横断面を有している、請求項1~7のいずれか一項に記載のマトリックス(1)。
【請求項9】
前記第1セット(120)および前記第2セット(121)のキャビティ(1200、1210)は、主延長方向に従って互いに平行に、前記多孔質体(12)の長さ(L12)の実質的に70%以上、好ましくは、実質的に80%以上の長さ(L1200、L1210)にわたって延在している、請求項1~8のいずれか一項に記載のマトリックス(1)。
【請求項10】
前記多孔質体(12)は、キトサン、ポリアクリルアミド、ポリ(p-フェニル-p-フタルアミド)、アラミドナのファイバー、ポリビニルアルコールから作られている、請求項1~9のいずれか一項に記載のマトリックス(1)。
【請求項11】
壁(10)は、実質的に5.8kDaから8kDaまでの間のカットオフ閾値を有している、請求項1~10のいずれか一項に記載のマトリックス(1)。
【請求項12】
人体または動物の体内に移植されることを意図し、請求項1~11のいずれか一項に記載の膵臓細胞(13)を受容するためのマトリックス(1)を備えている、人工膵臓デバイス(2)。
【請求項13】
前記マトリックス(1)の周囲および/または内部に液体の流れを生成するように構成された流体モジュール(20)をさらに備えている、請求項12に記載のデバイス(2)。
【請求項14】
前記流体モジュール(20)は、例えばマトリックスの壁に形成された電気活性ポリマーからなるマトリックスのコーティング(200)を備え、前記コーティングは前記マトリックス(1)を変形させることができる、請求項13に記載のデバイス(2)。
【請求項15】
前記流体モジュール(20)は第2のキャビティ(1210)セット(121)に流体接続され、前記第2のセット(121)は好ましくは複数の相互接続されたキャビティ(1210)を備えている、請求項13または14に記載のデバイス(2)。
【請求項16】
前記流体モジュール(20)は、タンク(201)およびポンプ(202)を備え、前記ポンプ(202)は、前記タンク(201)から前記第2のセット(121)のキャビティ(1210)の内部への液体の流れを誘導するように構成されている、請求項15に記載のデバイス(2)。
【請求項17】
前記タンク(201)は、膵臓細胞(13)のための栄養素および抗炎症化合物のうちの少なくとも1つを含む、請求項16に記載のデバイス(2)。
【請求項18】
前記流体モジュール(20)は、デバイスの外側の液体から前記第2のセット(121)のキャビティ(1210)の内側への液体の流れを誘導するように構成されたポンプ(202)を備えている、請求項15に記載のデバイス(2)。
【請求項19】
前記流体モジュール(20)は、前記流体モジュール(20)による流れの形成の少なくとも1つのパラメータを調節するように構成された調節器(203)を備えている、請求項13~18のいずれか一項に記載のデバイス(2)。
【請求項20】
少なくとも1つのアノード(21)および少なくとも1つのカソード(22)、電気エネルギー源(23)をさらに備え、前記アノード(21)および前記カソード(22)は前記電気エネルギー源(23)に電気的に接続され、その結果、体液の存在下では、体液の電気分解によって、前記カソード(22)で二水素を生成し、前記アノード(21)で二酸素を生成するように閉回路が形成され、前記カソード(22)および前記アノード(21)のうちの少なくとも一方は、前記マトリックス(1)の壁(10)によって少なくとも部分的に画定される前記内容積(11)内に配置されている、請求項12~19のいずれか一項に記載のデバイス(2)。
【請求項21】
前記カソード(22)および前記アノード(21)のうちの少なくとも一方は、前記マトリックス(1)の多孔質体(12)内に配置されている、請求項20に記載のデバイス(2)。
【請求項22】
前記カソード(22)および前記アノード(21)のうちの少なくとも一方は、前記マトリックス(1)の多孔質体(12)上に、好ましくは直接配置されている、請求項20または21に記載のデバイス(2)。
【請求項23】
膵臓細胞移植用マトリックスの播種方法(1)であって、
請求項1から11のいずれか一項に記載の受容マトリックス(1)を形成することができるマトリックスを提供するステップであって、少なくとも前記多孔質体は、
膵臓細胞(13)を含むことを意図した第1のキャビティ(1200)セット(120)と、
膵臓細胞を欠いた第2のキャビティ(1210)セット(121)と、
を備え、
第1のキャビティセット(120)と第2のキャビティセット(121)とが互いに流体接続されていない、ステップと、
膵臓細胞による前記マトリックスの前記第1のキャビティセットを播種するステップと、
を含んでなる、膵臓細胞移植用マトリックスの播種方法(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植可能な人工膵臓デバイスの分野に関する。その特に有利な用途は、糖尿病、特に1型糖尿病の治療のためのインスリンの生産である。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は世界中に広がっている病気であり、子供も大人も罹患し、生涯にわたる重度治療が必要である。2016年には、フランス人口の8%がこの病気に罹患した。世界規模で見ると、糖尿病患者の数は4億2,200万人と推定されている。
【0003】
糖尿病患者は、低血糖(BGLが異常に低い)または高血糖(BGLが異常に高い)の場合に治療を受けるために、血糖値(一般にBGLと略称され、血糖とも呼ばれる)を常に監視する必要がある。
【0004】
これらの重要な血糖値を予測することで、多くの合併症を回避できる。実際、糖尿病は、血糖の大幅な増加または減少の場合、心臓、腎臓、網膜、または神経系の障害を引き起こし得る。さらに、これらの合併症の治療費が糖尿病の治療に関連する支出の大部分を占めることに注意する必要がある。
【0005】
したがって、健康と経済の観点から、糖尿病患者の血糖を正常レベルに維持する手段を見つけることが重要である。現在、患者が血糖を確認する方法が存在する。これらのうち、BGLは、ストリップ上に印刷された酵素電極を使用する電気化学デバイスによって散発的に測定でき、血液一滴から血糖を定量化できる。これらのデバイスは一般にポイントオブケアデバイスと呼ばれ、糖尿病患者が自分の血糖を独立して監視できるようになる。しかしながら、患者は血糖値をチェックするために、1日に数回自分の体を刺し、糖尿病による合併症を避ける必要がある。この監視は患者にとって制限的なものであり、頻繁に刺される体の部位の感度の低下につながることがよくある。
【0006】
或いは、膵島移植は、1型糖尿病、特に血糖の検査やモニタリングが困難で合併症を引き起こす糖尿病患者に対する治療法として提案されている。
【0007】
同種膵島移植とも呼ばれるこの膵島移植を実施するために、医師は一般に、死亡した臓器提供者の膵臓からの健康なβ膵臓細胞を含む膵島を採取する。次に医師は、血液を肝臓に運ぶ静脈を介して健康な膵島細胞を患者に注射する。これらの膵島は患者の肝臓に固定されると、インスリンを生成し始め、患者の体内にインスリンを放出する。インスリンの使用を中止するには、多くの場合、移植された膵島細胞を数回注射する必要がある。
【0008】
しかしながら、外植後、移植された膵島の周囲の血管新生には一定の時間が必要であり、その間に多くの膵島が酸素不足により分解されてしまう。膵島の死亡率は、移植された膵島数の約30%~40%と推定されている。さらに、移植された膵島の拒絶反応を避けるために、患者に全身的な免疫抑制を実施する必要がある。
【0009】
酸素不足に関連するこれらの問題を制限するために、いくつかのアプローチが提案されている。特定のアプローチには、低酸素ストレスや免疫反応から膵島を保護するための分子治療および薬理学的治療が含まれる。しかしながら、これらの治療法は依然として患者にとって煩雑であり、有効性も限られている。
【0010】
他の解決策には、膵島をポリマーマトリックスにカプセル化し、体の内部環境から膵島を隔離することが含まれる。したがって、膵島は免疫系の攻撃から保護される。一方では、膵島をマイクロカプセル化するアプローチがある。しかしながら、そのサイズのため、マイクロカプセルは、膵島を再生するために回復することが困難であり、したがって長期にわたってインスリンの送達を確実にすることが困難である。
【0011】
一方、膵島をマクロカプセル化するアプローチもある。これらのアプローチには一般に、バルク硬化されたポリマーと膵島を混合することが含まれる。しかしながら、そのサイズにより、マクロカプセル内の栄養素と酸素の拡散は、特にマクロカプセルの中心部では制限される。さらに、表面の生物付着によりマクロカプセルが断熱され、栄養素と酸素の拡散がさらに制限される。膵島の死亡率は依然として高すぎるため、インスリンを十分に送達することができない。
【0012】
さらに、人工膵臓タイプのデバイスも知られている。米国特許第5,425,764号(特許文献1)は、ランゲルハンス膵島を含むチャンバと、ランゲルハンス膵島に供給するための入口チャネルおよび出口チャネルを備えたチャンバと、発泡体で満たされ、チャンバを分離する半透膜を備えた開放血管新生チャンバとを備えた移植可能な人工膵臓を開示している。この文献は、チャンバ内で膵島を炎症因子などから保護することにより、膵島の耐用年数を改善するという問題を解決しようとしている。しかしながら、チャンバ付近の血管新生は、酸素の供給を目的としているにもかかわらず、炎症反応や生物付着の出現に関与する分子ももたらす。米国特許出願公開第2018/0263238号(特許文献2)には、第1の膜と第2の膜によって形成され、互いに溶接されてチャネルを形成する層を含む、インスリンを産生する細胞をカプセル化するためのデバイスも記載されている。特定のチャネルは膵島を受容し、特定のチャネルは膵島を欠いて、栄養素を膵島に運ぶことを可能にする流体輸送チャネルを形成する。このデバイスは、膵島に栄養素を運ぶという問題を解決しようとしているが、栄養素は膵島を含むチャネルに隣接するチャネルに運ばれるが、血管新生に自発的に開かれている外部環境に拡散するという点で良好な効果を得ることができない。したがって、膵島への栄養素の供給は最初にこの媒体を通過し、他のチャネルに含まれる膵島に向かって再び拡散できる栄養素の量が枯渇する。
【0013】
したがって、本発明の1つの目的は、既存の解決策と比べて改善されたインスリンの送達を可能にする解決策を提案することである。
【0014】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の説明および添付の図面を検討すれば明らかになるであろう。他の利点が組み込まれ得ることが理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,425,764号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0263238号明細書
【発明の概要】
【0016】
この目標を達成するために、一実施形態によれば、膵臓細胞を受容するためのマトリックスが提供され、
-内部容積を少なくとも部分的に画定する半透性の壁と、
-内部容積内に配置された、好ましくは少なくとも1つのポリマーから作られた多孔質体であって、
膵臓細胞を含む第1のキャビティセットと、
膵臓細胞を欠いた第2のキャビティセットと、
を含み、第1のキャビティセットと第2のキャビティセットとが互いに流体的に接続されていない、多孔質体と、
を含んでなる。
【0017】
多孔質体のキャビティ内での膵臓細胞の配置は、バルク硬化したポリマーマトリックス中に細胞が配置されるマクロカプセル化の溶液とは対照的に、多孔質体内の細胞の分布を制御することを可能にする。したがって、細胞を含む各キャビティへの栄養素およびガスの拡散を改善することができる。細胞のないまま残されたキャビティは、さらに、マトリックス内に栄養素およびガスが拡散するための経路を形成し、マトリックス内に1つまたは複数の栄養素およびガス貯蔵ゾーンを形成する。相乗効果により、マトリックスは膵臓細胞内の栄養素とガスの枯渇を制限し、好ましくはそれを回避する。したがって、それらの死亡率は減少し、インスリンのより良い投与が可能になる。
【0018】
本発明の第2の態様は、人体または動物の体内に移植することを意図し、第1の態様による膵臓細胞を受容するためのマトリックスを含む人工膵臓デバイスに関する。
【0019】
本発明の第3の態様は、膵臓細胞を受容するためのマトリックスを準備する方法であって、
第1の態様による受容マトリックスを形成できるマトリックスを提供するステップと、
膵臓細胞による前記マトリックスの第1のキャビティセットの播種するステップと、
を含む。
【0020】
受容マトリックスを形成することができるマトリックスは、
-膵臓細胞を含むことを目的とした第1のキャビティセットであって、より具体的には膵臓細胞を含まない、第1のキャビティセットと、
-膵臓細胞を欠いた第2のきゃキャビティセットと、
を含み、第1のキャビティセットと第2のキャビティセットとは互いに流体接続されておらず、膵臓細胞を欠いている、少なくとも多孔質体を含む。
【0021】
半透壁は、例えば、膵臓細胞の播種後に追加され得る。受容マトリックスを形成することができるマトリックスは、膵臓細胞を含まない、第1の態様による受容マトリックスであり得る。より具体的には、第1のキャビティセットには膵臓細胞が存在しなくてもよい。
【0022】
本発明の第3の態様は、第2の態様による人工膵臓デバイスを人体または動物の体内に移植することを含む、インスリン送達方法に関する。
【0023】
別の態様によれば、本発明は、膵臓細胞を受容することができる受容マトリックスに関する、
-内部容積を少なくとも部分的に画定する半透性の壁と、
-内部容積内に配置された、好ましくは少なくとも1つのポリマーから作られた多孔質体であって、
膵臓細胞を受容することを目的とした第1のキャビティセットと、
膵臓細胞を受容することを目的としていない第2のキャビティセットと、
を含み、第1のキャビティセットと第2のキャビティセットとが互いに流体的に接続されていない、多孔質体と、
を含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の目標、目的、並びに特徴および利点は、添付の図面によって示される後者の実施形態の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【0025】
【
図1】2つの例示的な実施形態によるマトリックスの横断面を示す。
【
図2】2つの例示的な実施形態によるマトリックスの横断面を示す。
【
図3】3つの例示的な実施形態によるマトリックスを含むデバイスの縦断面を示す。
【
図4】3つの例示的な実施形態によるマトリックスを含むデバイスの縦断面を示す。
【
図5】3つの例示的な実施形態によるマトリックスを含むデバイスの縦断面を示す。
【
図6A】3つの例示的な実施形態による、
図5に示される流体モジュールを備えるデバイスの詳細を示す。
【
図6B】3つの例示的な実施形態による、
図5に示される流体モジュールを備えるデバイスの詳細を示す。
【
図6C】3つの例示的な実施形態による、
図5に示される流体モジュールを備えるデバイスの詳細を示す。
【
図7】流体モジュールの別の例示的な実施形態によるマトリックスを備えるデバイスの横断面を示す。
【
図8】例示的な実施形態による、体液の電気分解のためのマトリックスおよび電極を備えるデバイスの横断面を示す。
【
図9A】別の例示的な実施形態による、体液の電気分解のためのマトリックスおよび電極を含むデバイスの2つの図を示す。
【
図9B】別の例示的な実施形態による、体液の電気分解のためのマトリックスおよび電極を含むデバイスの2つの図を示す。
【0026】
図面は例として示されたものであり、本発明を限定するものではない。これらは、本発明の理解を容易にすることを目的とした原理の概略を構成するものであり、必ずしも実用的な規模のものではない。特に、相対的な寸法は現実を表すものではない。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態の詳細な検討に入る前に、オプションに関連して、または代替的に使用できるオプションの特徴を以下に述べる。
【0028】
一例によれば、第1のキャビティセットは少なくとも1つのキャビティ、好ましくはいくつかのキャビティを備えている。これらのキャビティは、相互接続することも、同等の方法で互いに流体接続することも、接続しないこともあり得る。
【0029】
一例によれば、第2のキャビティセットは少なくとも1つのキャビティ、好ましくはいくつかのキャビティを備える。これらのキャビティは、相互接続することも、同等の方法で互いに流体接続することも、接続しないこともできる。
【0030】
一例によれば、第1の方向に従ってとられた第1のセットの2つの連続するキャビティについて、好ましくは、第1の方向に従ってとられた第1のセットの2つの連続するキャビティについて、第2のセットのキャビティは、第1のセットの2つの連続するキャビティの間に配置される。したがって、細胞を含むキャビティは、第1の方向に従って細胞のないキャビティと交互になり、マトリックス内に貯蔵ゾーンを分布させる。第1の方向は、第1のセットの連続キャビティの主延在方向に対して垂直であることが好ましい。
【0031】
一例によれば、第2の方向に従ってとられた第1のセットの2つの連続するキャビティについて、好ましくは、第2の方向に従ってとられた第1のセットの2つの連続するキャビティについて、第2のセットのキャビティは、第1のセットの2つの連続するキャビティの間に配置される。したがって、細胞を含むキャビティは、2つの方向に従って、細胞を含まないキャビティと交互になる。したがって、細胞を含むキャビティは、貯蔵ゾーンによって囲まれ得る。したがって、これらの貯蔵ゾーンの分布はさらに改善され、細胞の栄養素やガスへのアクセスが容易になる。第2の方向は、第1のセットの連続キャビティの主延在方向に対して垂直であることが好ましい。好ましくは、第1の方向は第2の方向に対して実質的に垂直である。
【0032】
一例によれば、第2のセットの少なくとも1つのキャビティと第1のセットの少なくとも1つの直接隣接するキャビティ、好ましくは第1のセットの各直接隣接するキャビティとの間の距離D1は、第1のセットのキャビティの中心から取得され、第2のセットの少なくとも1つのキャビティの中心までの距離は、実質的に0.5mm(10-3m)以上、好ましくは1.5mm以上である。距離D1は実質的に3cm(10-2m)以下であり得る。距離D1は、実質的に0.5mmから3cmの間にされ得る。
【0033】
一例によれば、第2のセットの各キャビティと第1のセットの少なくとも1つの直接隣接するキャビティ、好ましくは第1のセットの各直接隣接するキャビティとの間の距離D1は、第1のセットのキャビティの中心から第1のセットのキャビティまでの距離であり、第2セットの少なくとも1つのキャビティの中心は、実質的に0.5mm(10-3m)以上、好ましくは1.5mm以上である。距離D1は実質的に3cm(10-2m)以下とされ得る。距離D1は、実質的に0.5mmから3cmの間とされ得る。
【0034】
一例によれば、第1のセットは、相互接続され、互いに流体接続された複数のキャビティを備える。一例によれば、第1のセットは、相互接続され、好ましくは注入チャネルに流体的に接続された複数のキャビティを備える。第1のセットのキャビティは、例えば、注入チャネルに流体的に、好ましくは直接的に接続されることによって相互接続される。細胞の再生を可能にすることで、インスリンの送達が長期にわたって改善される。
【0035】
一例によれば、第2のセットは、複数の相互接続されたキャビティを備える。一例によれば、第2のセットは、相互接続され、互いに流体接続された複数のキャビティを備える。
【0036】
一例によれば、第1のセットの各キャビティは、膵臓細胞または膵臓細胞の膵島のサイズより実質的に大きい最小寸法、例えばその直径を有する横断面を有する。第1セットのキャビティの相互接続と相乗的に、細胞は第1セットのキャビティ内を自由に循環し、マトリックスの細胞の更新が促進される。
【0037】
一例によれば、第1のセットのキャビティは、主延在方向に、例えば互いに平行に延在する。
【0038】
一例によれば、第2のセットのキャビティは、主延在方向に、例えば互いに平行に延在する。
【0039】
一例によれば、第1のセットのキャビティと第2のセットのキャビティは、主延在方向に、例えば互いに平行に延在する。
【0040】
一例によれば、第1および第2のセットのキャビティは、その主延在方向に従って、同じ方向に沿った多孔質体の長さの実質的に70%以上、好ましくは実質的に80%以上の長さにわたって延在する。
【0041】
一例によれば、多孔質体は、キトサン、ポリアクリルアミド、ポリ(p-フェニル-p-フタルアミド)、アラミド・ナノファイバー、ポリビニルアルコールから作製される、或いは、それらから作製される。
【0042】
一例によれば、多孔質体は5.8kDaから8kDaの間のカットオフ閾値を有する。
【0043】
一例によれば、半透壁は、実質的に5.8kDaから8kDaの間のカットオフ閾値を有する。
【0044】
一例によれば、膵臓細胞は膵臓細胞島に含まれる。好ましくは、膵島はマイクロカプセル化される。
【0045】
一例によれば、デバイスは、マトリックスの周囲および/または内部に液体の流れを生成するように構成された流体モジュールをさらに備える。
【0046】
一例によれば、流体モジュールは、電気活性ポリマーから作製されたマトリックスのコーティングを備え、このコーティングは、マトリックスを変形させ得る。一例によれば、コーティングはマトリックスの壁に追加される。一例によれば、コーティングは、実質的に5.8kDa以上、例えば実質的に5.8kDaから8kDaの間のカットオフ閾値を有する。
【0047】
一例によれば、流体モジュールはポンプを備え、ポンプはマトリックスの周囲および/または内部に液体の流れを誘発するように構成されている。
【0048】
一例によれば、流体モジュールは第2のキャビティセット、好ましくは複数のキャビティを含む第2のセットに流体接続される。一例によれば、第2のセットのキャビティは、例えばチャネルによって相互接続される。
【0049】
一例によれば、流体モジュールはタンクおよびポンプを備え、ポンプはタンクから第2のセットのキャビティ内部への液体の流れを誘導するように構成されている。
【0050】
一例によれば、タンクは、膵臓細胞のための栄養素および抗炎症化合物のうちの少なくとも1つを含む。
【0051】
一例によれば、流体モジュールは、デバイスの外部の液体、例えば体液から第2のセットのキャビティ内部への液体の流れを誘導するように構成されたポンプを備える。
【0052】
一例によれば、流体モジュールは、流体モジュールによる流れの形成の少なくとも1つのパラメータを調節するように構成された調節器を備えている。
【0053】
一例によれば、デバイスは、少なくとも1つのアノードおよび少なくとも1つのカソード、並びに電気エネルギー源をさらに備える。アノードおよびカソードは電気エネルギー源に電気的に接続できるため、体液の存在下で閉電気回路が形成され、体液の電気分解によりカソードで二水素が、アノードで二酸素が生成される。したがって、膵臓細胞は、内部環境でのインスリンの放出を改善するために、電気分解による二酸素と二水素の生成によって保存される。
【0054】
一例によれば、デバイスは、液体形態の体液のみを電気分解するように構成されている。したがって、電気分解された体液はガス状部分を含まない。
【0055】
一例によれば、カソードおよびアノードのうちの少なくとも一方は、マトリックスの半透性壁によって少なくとも部分的に画定される内容積内に配置される。したがって、このデバイスは、電気分解用の2つの別個のデバイスまたは区画と、その間で電解ガスが輸送されるセルとを提供する既存の解決策と比べて簡素化されている。
【0056】
一例によれば、カソードおよびアノードのうちの少なくとも一方は、マトリックスの多孔質体内に配置される。一例によれば、カソードおよびアノードは、マトリックスの多孔質体内に配置される。
【0057】
一例によれば、カソードおよびアノードのうちの少なくとも一方は、マトリックスの多孔質体上に、好ましくは直接的に配置される。
【0058】
一例によれば、カソードおよびアノードは、マトリックスの本体の外側輪郭と接触して、好ましくは直接的に接触して配置される。
【0059】
残りの説明では、「上に」または「接触している」という用語は、必ずしも「直接上に」または「直接接触している」ことを意味するわけではない。したがって、部品または部材A1が部品または部材B1「上に」重なっていると示されている場合、これは、部品または部材A1、B1が必ずしも互いに直接接触していることを意味するものではない。これらの部品または部材A1、B1は、直接接触することも、1つまたは複数の他の部品を介して互いに重なり合うこともできる。
【0060】
以下の詳細な説明では、「長手(縦)方向」、「横方向」、「上」、「下」、「内側」、「外側」などの用語が使用される。これらの用語は、受容マトリックスおよび/または人工膵臓デバイスの通常の使用位置に関連して相対的に解釈されなければならない。例えば、「内側」の概念は、マトリックスおよび/またはデバイスの内側に面する面または要素に対応する。「外側」の概念は、マトリックスおよび/またはデバイスの外側に面する面または要素に対応する。例えば、キャビティは主延在方向に従って延在し、「長手(縦)方向」とはこの方向に平行を意味し、「横方向」とはこの方向に垂直であることを意味する。
【0061】
「AがBに流体的に接続されている」という表現は、「AはBと流体的に接続されている」と同義であり、必ずしもAとBとの間に部材が存在しないことを意味するわけではない。したがって、これらの表現は2つの要素間の流体接続を意味し、この接続は直接的であってもなくてもよい。これは、流体的に接続された第1の要素と第2の要素との間に、1つまたは複数のダクトまたはキャビティまたはチャネル、任意選択で追加の部材を介する流体の経路があり、この経路は多孔質体の材料を通る流体の単純な拡散とは異なり、この経路は他の要素を含んでも含まなくてもよい。
【0062】
これに対し、「直接流体接続」という用語は、2つの要素間の直接流体接続を意味する。これは、流体的に直接接続された第1の要素と第2の要素との間に、ダクト/キャビティ/チャネルまたは複数のダクト/キャビティ/チャネル以外の他の要素が存在しないことを意味する。
【0063】
パラメータが所定の値に「実質的に等しい/より大きい/より小さい」とは、このパラメータが所定の値と、プラスまたはマイナス10%、或いは、プラスまたはマイナス5%に等しい/大きい/小さいことを意味する。
【0064】
ある材料から「作られた」要素は、この材料と任意に他の材料を含む要素を意味する。ある材料「から作られる」とは、その材料が他の可能な材料と比較して大部分を形成するという事実を意味する。
【0065】
要素または材料の多孔率(気孔率)とは、要素または材料の見かけの体積に対して、それを形成する材料が占有していない体積を意味する。この体積比率は、要素または材料の周囲の環境、空、気体、または液体(水など)によって占められる場合がある。本発明の文脈において、材料の多孔率は、第1のセットのキャビティおよび第2のセットのキャビティでは異なる方法で意味される。
【0066】
膜、物体または部材の「カットオフ閾値」は、種(species)の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、さらにより好ましくは100%が分子量カットオフ以上の分子量または寸法を有する分子量カットオフまたは寸法閾値、或いは、寸法の閾値が膜、本体、または部材によってブロックされていることを意味する。
【0067】
次に、膵臓細胞を受容するためのマトリックス1およびそれを含む移植可能な人工膵臓デバイス2を、いくつかの例示的な実施形態に従って説明する。
【0068】
人工膵臓デバイス2は、インスリンを送達するために人体または動物の体に埋め込まれることを意図している。このために、デバイス2は、膵臓細胞を受容するためのマトリックス1を備えている。マトリックス1は、
図1および
図2に示されるように、内容積11を少なくとも部分的に画定する半透性壁10を備えている。多孔質体12は、内容積11内に配置される。多孔質体12は、インスリンを送達するために膵臓細胞13を受容するように構成される。膵臓細胞13は、単離されるか、膵島の形態でグループ化され得る。膵島は、少なくとも1つの膵臓細胞、好ましくは複数の膵臓細胞を含む。以下、非限定的な方法で、マトリックス1は膵島13を受容すると考えられ、膵島とも呼ばれる。膵臓細胞13は、例えばランゲルハンスβ細胞である。膵臓細胞13は、膵臓細胞になることを意図した幹細胞、または幹細胞に由来する膵臓細胞であり得る。
【0069】
膵島13を受容するために、多孔質体12は、キャビティ1200の第1のセット120と、キャビティ1210の第2のセット121とを備えている。このため、多孔質体12は、第1のキャビティ1200のセット120と第2のキャビティ1210のセット121を画定する壁とを備えている。有利には、壁は多孔質体とキャビティとの間の界面によって形成される。壁は追加の材料の層によって形成されないことが好ましい。キャビティセットとは、少なくとも1つのキャビティを含むキャビティグループを意味する。以下、非限定的に、各セット120、121が複数のキャビティ1200、1210を備えていると考えられる。第1のセット120のキャビティ1200は膵島13を含むが、第2のセット121のキャビティ1210は膵島を含まない。キャビティ1200およびキャビティ1210は、互いに流体的に接続されておらず、すなわち、2つの別個の流体アセンブリを形成している。同様に、キャビティ1200は、多孔質体12の壁を通って、有利には多孔質体の内部に液体が拡散することを除いて、キャビティ1210と流体連通しない。キャビティ1210は、マトリックス1内の栄養素およびガスの拡散のための経路を形成し、したがって、キャビティ1200内に含まれる膵島13の供給を容易にするための栄養素およびガスの貯蔵ゾーンを形成する。
【0070】
例えば、
図1および
図2に示されるように、マトリックス1の横断面において、多孔質体12は、例えばメッシュの形態でキャビティのネットワークを形成することができる。一例によれば、キャビティ1200、1210は、キャビティ1210が膵島13を含むキャビティ1200間に貯蔵ゾーンを形成するように交互する。例えば、
図1に示されるように、第1の方向Aに従って、キャビティ1210は、第1のセットの2つの連続するキャビティ1200の間、好ましくは第1のセットのそれぞれ連続するキャビティ1200の対の間に配置され得る。連続とは、第1のセット120のキャビティ1200のみを考慮した場合に、互いに直接続くことを意味する。したがって、貯蔵ゾーンは、膵島13を受容するキャビティ1200の間で、第1の方向Aに従って多孔質体12内に分布する。
図12の横断面図は、少なくとも1つのキャビティ1210の列と交互になる少なくとも1つのキャビティ1200の列を備え得る。
【0071】
例えば、
図2に示されるように、キャビティ1210は、第1のセットの2つの連続するキャビティ1200の間、好ましくは第1のセットのそれぞれ連続するキャビティ1200の対の間に、第2の方向Bに従って配置され得る。ここでも、連続とは、第1のセット120のキャビティ1200のみを考慮した場合に、互いに直接続くことを意味する。したがって、貯蔵ゾーンは、第1の方向Aおよび第2の方向Bに従って多孔質体12内に分布され、貯蔵ゾーンの分布、したがって、キャビティ1200に含まれる膵島13への栄養素およびガスの拡散がさらに改善される。多孔質体12は、その横断面において、これら2つの方向に従って交互のキャビティ1200とキャビティ1210とを備え得る。第1の方向Aおよび/または第2の方向B、好ましくはその両方によれば、第1のセット120のキャビティ1200は、第2のセット121の直接隣接するキャビティ1210によってのみ囲まれ得、キャビティ1210の場合はその逆であり得る。
【0072】
一例によれば、第1の方向Aおよび第2の方向Bは実質的に垂直である。第1の方向Aおよび第2の方向Bは、キャビティ1200、1210の主延在方向に対して直交し得る。第1の方向Aおよび第2の方向Bは、マトリックス1の横断面の平面に平行であり得、好ましくは、マトリックス1の横断面の平面に含まれ得る。
【0073】
キャビティ1200、1210の間の距離は、貯蔵ゾーンと多孔質体12内の膵島13を受容するキャビティ1200との良好な分布を可能にするようにさらに構成され得る。このため、キャビティ1210と少なくとも1つの直接隣接するキャビティ1200との間、好ましくはそれぞれ直接隣接するキャビティ1200の間の、例えば第1の方向Aおよび/または第2の方向Bによる距離D1は、実質的に0.5mm以上であり得る。この距離により、キャビティ1210からキャビティ1200への膵島13への栄養素の供給を改善することができる。さらに、この距離により、マトリックスの良好な機械的強度が可能になる。距離D1は、キャビティ1210の中心から他のキャビティ1210の中心までの距離である。一例によれば、キャビティ1200とキャビティ1210は互いに等距離にある。距離D1は、例えば、マトリックス1の横断面の平面内で得られる。
【0074】
一例によれば、キャビティ1210と少なくとも1つの直接隣接するキャビティ1200との間の距離D1は、例えば第1の方向Aおよび/または第2の方向Bに従って、好ましくはそれぞれ直接隣接するキャビティ1200は、実質的に3cm以下、好ましくは2cm以下である。したがって、同じ数のキャビティに対してマトリックス1に関連する体積を減らすことができ、よって、デバイス2が埋め込まれた患者に起こり得る不快感を軽減することができる。
【0075】
次に、第1のセット120のキャビティ1200について説明する。一例によれば、それぞれのキャビティ1200は、膵島13のサイズと実質的に等しいかまたは実質的に大きい最小寸法D1200を有する横断面を有する。一例によれば、それぞれのキャビティ1200は、少なくとも1つの膵島13のサイズと実質的に等しいかまたは実質的に大きい最小寸法D1200を有する横断面を有する。同様に、キャビティ1200の横断面は、その最小寸法D1200が膵島13のサイズより実質的に大きいか等しい形状を画定する。したがって、細胞はキャビティ1200によって拘束および固定されず、膵島13の供給が容易になる。キャビティ1200の横断面は、より具体的には、その主延在方向に対して実質的に垂直に取られる。
【0076】
一例によれば、キャビティ1200は円形の横断面を有し、寸法D1200は横断面の直径に対応する。キャビティ1200は、他の任意の形状、例えば、長方形、正方形、または楕円体の横断面を有し得る。
【0077】
例えば、ヒトの場合、膵島13は、例えば、平均130μmのサイズの直径を有し、マウスなどの小動物では、膵島13は、例えば直径が平均50μmのサイズである。一例によれば、D1200は、100μm以上、好ましくは150μm、好ましくは200μm、好ましくは300μm、より好ましくは400μm以上である。D1200は、実質的に5mm以下にされ得る。したがって、同じ数のキャビティに対してマトリックスに関連する体積を減らすことができ、患者に起こり得る不快感を軽減することができる。
【0078】
第1のセット120のキャビティ1200は、互いに流体的に接続されていなくてもよい。好ましくは、第1のセット120のキャビティ1200は相互に接続され、すなわち互いに流体接続される。第1のセット1200のキャビティ1200は、第1のセット120の各キャビティ1200間で膵島の循環を可能にするように相互接続され得る。したがって、キャビティの寸法D1200と相乗的に、膵島13は、第1のセット120のキャビティ1200間を自由に循環し得る。このようにして、膵島13の良好な分布を得ることができる。例えば、
図3に示されるように、キャビティ1200は、好ましくは注入チャネル14に流体的に、直接的に接続され得る。したがって、膵島13は、多孔質マトリックス1の除去または交換を必要とせず、したがって手術を必要とせず、単純な吸引および注入チャネル14への新しい膵島の注入によって更新され得る。したがって、マトリックス1を含むデバイス2は、埋め込まれ、長期間にわたってインスリンを送達することができる。その結果、インスリンの送達が長期的に改善される。一例によれば、注入チャネル14は、それぞれのキャビティ1200の端部に流体接続するように、好ましくは直接接続するように構成される。一例によれば、注入チャネル14は、キャビティ1200の主延在方向に対して実質的に垂直に延在する。
【0079】
一例によれば、注入チャネル14は、注入チャンバ140に流体的に、好ましくは直接的に接続される。したがって、膵島は、注入チャンバ140からキャビティ1200内に注入され得る。好ましくは、注入チャンバ140は、患者の身体の外側から注入チャンバ140による膵島13の再充填を可能にするために、装填端部が患者の身体の外側に配置されるように構成される。
【0080】
例えば
図3に示されるように、キャビティ1200は、主方向に従って互いに平行に延在し得る。キャビティ1210は、主方向に従って互いに平行に延在し得る。したがって、多孔質体の構造は、上述したキャビティ1200、1210の交互配置と両立しながら簡素化される。これらのキャビティは、この方向に従って、多孔質体12の長さL12の実質的に70%以上、好ましくは実質的に80%以上の長さL1200および/またはL1210にわたって延在し得る。したがって、膵島13および/または貯蔵ゾーンの分布は、多孔質体12の長さL12にわたって許容される。
【0081】
例えば、
図1および
図2によって示されるように、それぞれのキャビティ1210は、キャビティ1200の寸法D1200と実質的に等しい最小寸法D1210を有する横断面を有し得る。D1210がD1200より小さいか大きい可能性があることに注意されたい。一例によれば、キャビティ1210は円形の横断面を有し、寸法D1210は横断面の直径に対応する。キャビティ1210は、他の任意の形状、例えば、長方形、正方形、または楕円体の横断面を有し得る。
【0082】
第2のセット121のキャビティ1210は、互いに流体的に接続されていなくてもよい。好ましくは、第2のセット121のキャビティ1210は相互に接続され、すなわち互いに流体接続される。したがって、キャビティ1210は、多孔質体12内での栄養素およびガスの均一な分布を促進する、栄養素およびガスの拡散のための相互接続された経路を形成する。例えば、
図5に示されるように、キャビティ1210は、チャネル15に流体的に、好ましくは直接的に接続され得る。一例によれば、チャネル15は、それぞれのキャビティ1210の端部に、好ましくは直接的に流体的に接続するように構成される。一例によれば、チャネル15は、キャビティ1210の主延在方向に対して実質的に垂直に延在する。チャネル15および注入チャネル14は、キャビティ1200、1210の主延在方向に従って、多孔質体12の反対側に互いに配置され得る。
【0083】
多孔質体12は、栄養素およびガス、並びに膵島によって産生されるインスリンを通過させ、膵島13を遮断し得る材料から、またはその材料で作製され得る。このため、材料は、好ましくはインスリンの分子量、すなわち約5.8kDa(1Daは国際単位系の1g/molに等しい)以上のカットオフ閾値を有し得る。膵島13を遮断するために、多孔質体12の材料は、好ましくは膵島のサイズ、例えば平均直径と実質的に等しいかそれよりも小さいカットオフ閾値を有し得る。一例によれば、多孔質体の材料は、実質的に100μm以下、好ましくは50μm未満のカットオフ閾値を有し得る。同様に、多孔質体12の材料は、栄養素およびガス、並びに膵島によって産生されるインスリンの通過を可能にし、膵島13を遮断し得る多孔率を有し得る。多孔率は、インスリンのサイズと少なくとも等しいサイズを有する分子の通過を許可するように構成され得る。栄養素およびガスは5.8kDa未満のモルまたは分子量を有するため、多孔質体12の材料を通過することが許容される。多孔率は、膵島のサイズと少なくとも等しいサイズを有する要素の通過を阻止するように構成され得る。多孔質体12のカットオフ閾値に関して上述した値の範囲は、多孔質体12の多孔率に適用され得る。
【0084】
有利には、多孔質体12は、炎症因子の通過を制限するか、さらには阻止するように構成されたカットオフ閾値を有する。有利には、多孔質体12は、前記多孔質体の血管新生(vascularization)を制限するか、さらには防止するように構成されたカットオフ閾値を有する。
【0085】
一例によれば、多孔質体12は、3Dプリント可能な材料から作製される。一例によれば、多孔質体は、好ましくは生体適合性かつ非生分解性の天然または合成ポリマーから作られる。材料は、生理学的条件下で非生分解性になるようにゲネピンで架橋されたキトサン、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリ(p-フェニル-p-フタルアミド)、アラミドナのファイバー、ポリビニルアルコール(PVA)から選択され得る。
【0086】
半透壁10は、栄養素およびガス、並びに膵島によって産生されるインスリンを通過させ、免疫系の分子、例えばサイトカインを遮断し得る材料から作製され得る。このため、壁10は、実質的に5.8kDaと8kDaの間のカットオフ閾値を有し得る。5.8kDaと8kDaの間のカットオフ閾値を介して、外壁は、体の内部環境と膵島13を囲む多孔質体12との間の体液の流通を可能にする。したがって、膵島に必要な栄養素は内部環境から膵島に到達し、膵島13によって生成されるインスリンは血糖の調節のためにこの環境に放出され得る。免疫系の分子、特にサイトカインのマトリックス1への通過は、壁11によってブロックされる。したがって、膵島は免疫系の反応から保護される。したがって、患者の全身性免疫抑制は制限され、好ましくは回避され得る。有利には、半透性壁10は、多孔質体の血管新生を低減するか、さらには防止するように構成される。マトリックス1および/またはデバイス2は、半透性壁10が患者の身体と直接接触するように構成され得る。
【0087】
一例によれば、半透壁10は、好ましくは生体適合性かつ非生分解性の天然または合成ポリマーから作られる。好ましくは、半透性壁10は、抗生物付着特性を有するポリマーから作られる。一例によれば、壁はヒドロゲルから作製されるか、またはヒドロゲルから作製される。代替または補足的な例によれば、壁10は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、コポリマー(エチレンビニルアルコール)(EVOH)、臭化ヘキサジメトリン(一般的にはポリブレンという商品名で知られている)およびカルボキシメチルセルロースのうちの少なくとも1つのポリマーから作られるか、またはそれらから作られる。したがって、壁は優れた生体適合性を有しており、生物付着(biofouling)現象を制限する。
【0088】
上述したように、半透壁10は、内容積11を少なくとも部分的に画定する。実際、例えば
図1および
図2に示されるように、半透壁10は内容積11を完全に画定し得る。或いは、半透壁10は部分的にのみ画定し得る。例えば
図3から
図5に示されるように、内容積11を画定する。内容積11は、半透壁10と、マトリックス1またはデバイス2の別の要素、例えば後でより詳細に説明する流体モジュール20とによって画定され得る。膵島13が占める体積は、2.5mL~5mL(10~3L)であり得る。膵島によって占められる容積は、内容積11の実質的に25%から50%の間を占め得る。内容積11は、総容積が実質的に約20mL以下、好ましくは優先順に19mL、18mL、17mL、16mL、15mL、14mL、13mL、12mL、11mL、10mL、9mL、8mL、7mL、6mL、5mLとなるような総容積を表す寸法を有し得る。
【0089】
マトリックス1は、内容積11に血管新生が存在しないように構成されることが好ましい。マトリックス1、より具体的には多孔質体12は、任意の形状、特に平行六面体、円筒形、またはディスクの形状を有し得る。多孔質体12は一体であっても、そうでなくてもよい。多孔質体12は、例えば、多孔質繊維および中空繊維の集合体によって形成され、繊維の壁がキャビティ1200、1210を画定し得る。
【0090】
一例によれば、多孔質体12に含まれる膵臓細胞13の数は、患者の体重に対して10,000~50,000,000細胞/kgである。したがって、膵臓細胞の数は患者のインスリンの必要量に適応する。多孔質体12に含まれる膵島13の数は、患者の体重に対して実質的に10,000膵島/kgに等しくなり得る。一例によれば、典型的な患者の平均体重70kgを考慮すると、多孔質体12に含まれる膵臓細胞13の数は、70kgの典型的な患者の場合、700,000~3500,000細胞/kg、すなわち約700,000個の膵島である。
【0091】
上述したように、膵臓細胞13は、膵臓細胞の膵島に含まれ得る。好ましくは、膵島はマイクロカプセル化される。したがって、追加の保護バリアが細胞の周囲に配置され、細胞の生存率が向上する。膵島はマトリックス中に含まれるため、溶液に対してマイクロカプセル化膵島の回収が促進され、患者の身体内にマイクロカプセル化された膵島が拡散する。
【0092】
次に、
図2から
図9Bを参照して人工膵臓デバイス2について説明する。デバイスは、マトリックス1の周囲および/または内部に液体の流れを生成するように構成された流体モジュール20を備え得る。したがって、生物付着は、マトリックスの表面および/またはマトリックスの内部から外部への液体の流れによって制限される。さらに、マトリックス1内の液体の流れにより、多孔質体12内の栄養素およびガスの拡散がさらに改善される。
【0093】
一例によれば、流体モジュール20は、マトリックス1に圧力を加えて、散発的に、例えば特定の周波数でマトリックス1を変形させるように構成され得る。したがって、マトリックス1の収縮は、マトリックス1の表面に流体剪断(fluidic shearing)を誘発し、生物付着を制限する。このために、流体モジュールはマトリックス1のコーティング200を備え得る。コーティング200は、マトリックス1を部分的にのみ覆うことができる。コーティング200は、マトリックス1を全体的に覆うことができる。コーティング200は、例えば
図2に示されるように壁10の外側にあることによって、または壁10と多孔質体12との間に配置されることによって、半透性壁10に追加され得る。代替例によれば、コーティング200は、マトリックス1の半透性壁10によって形成され得る。一例によれば、コーティングは、インスリンと栄養素とを通過させ、サイトカインなどの免疫系の分子を遮断するために、実質的に5.8kDa以上、例えば実質的に5.8kDaと8kDaの間のカットオフ閾値を有する。
【0094】
コーティング200は、エネルギー源(
図2には示されていない)に接続された電気活性ポリマーから作製され得るか、または電気活性ポリマーから作製され得る。電気活性ポリマーは、例えば、コポリマー(エチレン-酢酸ビニル)(EVAc)、ポリエチレン(PE)、ポリアニリン(PAni)、例えばニグラニリン(NA)およびロイコエメラルジン(LM)から選択され得る。しかしながら、この解決策ではせん断力が発生し、患者の周囲の臓器に影響を与える可能性がある。マトリックス1の誘発された収縮の振幅は、この影響を最小限に抑えるように選択され得る。
【0095】
代替または補足的な例によれば、流体モジュール20は、例えば
図3に示されるように、マトリックス1の周囲、より具体的にはマトリックス1の表面に液体の流れを誘発するように構成され得る。このために、流体モジュール20は、液体を吸い上げ、例えばマトリックス1の表面に開口するダクト204によってマトリックス1の表面に吸引された液体を注入するように構成されたポンプ202を備え得る。
【0096】
代替または相補的な例によれば、流体モジュール20は、第2のキャビティセット121に流体接続され、第2のセット121は、少なくとも1つの、好ましくは複数のキャビティ1210を備え得る。例えば、
図4に示されるように、流体モジュール20は、好ましくは直接的に、1つまたは複数のキャビティ1210に流体接続され得る。例えば
図4に示されるように、キャビティ1210は相互接続され得ない。キャビティ1210は相互接続され得る。例えば、
図5、
図6Aから
図6Cに示されるように、流体モジュール20は、キャビティ1210を接続するチャネル15に、好ましくは直接、流体的に接続され得る。流体モジュール20は、キャビティ1210内に液体の流れを誘導するように構成され得る。このため、流体モジュール20は、液体を吸い込み、吸引した液体をキャビティ1210内に、例えばキャビティ1210のそれぞれに個別に、またはチャネル15を介して、例えば、それぞれのキャビティ1210またはチャネル15に開口する1つまたは複数のダクト204によって、注入するように構成されたポンプ202を備え得る。例えば、
図6Cに示されるように、ポンプ202はチャネル15内に配置され得る。
【0097】
代替または補足的な例によれば、流体モジュール20は、例えば
図7に示されるように、キャビティ1210の主延在方向を横切る流れを生成するように構成され得る。流れは、多孔質体12の材料を通って伝播し得る。
【0098】
流体モジュール20は、デバイス2の外部の体液を吸い込むように構成され得る。好ましくは、流体モジュール20は、例えば、
図3、
図4、
図6Bに示されるように、好ましくは、流体モジュール20は、デバイス2、例えば流体モジュール20、より具体的にはポンプ202を汚し得る体液の分子を遮断するように構成された膜205を備えている。このため、膜205は、20~300Daのカットオフ閾値を有し得る。膜は、PVA、EVOH、またはキトサンから作製され、またはPVA、EVOHまたはキトサンで作製され得る。
【0099】
流体モジュール20は、タンク201から来る液体を吸い上げ、タンク201からキャビティ1210内および/またはマトリックス1の表面への液体の流れを引き起こすように構成され得る。
図3に示す流体モジュール20はタンク201を備えることができ、ポンプ202はタンク201からマトリックス1の表面への液体の流れを誘導するように構成され得ることに留意されたい。例えば
図6Aに示されるように、ポンプ202は、キャビティ1210が相互接続されているか否かに関わらず、タンク201からキャビティ1210への液体の流れを誘導するように構成され得る。
【0100】
一例によれば、タンク201は、膵島13の栄養素および抗炎症化合物(anti-inflammatory compound)のうちの少なくとも1つを含む。流体モジュール20は、タンク201に含まれる栄養素が多孔質体12、より具体的にはキャビティ1210に注入されて、貯蔵ゾーンを提供し、膵島13の供給を促進するように構成され得る。抗炎症化合物は、デバイス2における局所的な抗炎症治療を可能にする。流体モジュール20は、タンク201に含まれる抗炎症化合物がマトリックス1の表面に注入されるように構成され得る。これにより、全身治療に関して抗炎症化合物の量をさらに制限することが可能になる。
【0101】
一例によれば、タンク201は、例えば注射によって再充電可能に構成される。タンク201は、例えば、注入チャンバに接続され、或いは、タンク内に行われる注入を介して再充電可能にされ得る。このようにして、タンク201の内容物が更新され得る。
【0102】
いくつかのタイプのポンプ202が可能である。非限定的な例として、ポンプは音響ポンプ、または機械ポンプ、例えばプロペラまたは機械バルブであり得る。ポンプ202は、例えば、表面でのせん断力を増加させるため、および/または膵島13に供給する栄養素およびガスの拡散をより良くするために、液体の乱流を生成するように構成され得る。ポンプ202は、液体の交互の流れを生成する、すなわち、第1の構成に従って第1の方向に液体を注入し、第2の構成に従って第1の方向と反対の方向に液体を注入するように構成され得る。これは、膜205上に蓄積してポンプ202による液体の吸引を妨げ得る分子を除去するために、膜205を使用する場合に特に有利である。
【0103】
流体モジュール20は、流体モジュール20による流れの形成の少なくとも1つのパラメータを調整するように構成された調整器203をさらに備え得る。したがって、調整器203は、必要に応じて、流体モジュール20によって形成される流れ、例えば流体の速度および/または流体モジュール20の作動段階を調整することを可能にする。調整器203は、例えば、流体モジュール20による流れの生成段階と流れの非生成段階との間で、流体モジュール20、特にポンプ202を断続的に作動させるように構成され得る。調整器203は、例えば、流体モジュール20によって生成される流れの速度、例えばポンプ202の速度を調整して、形成される液体の流れの強度を変化させるように構成され得る。これは、デバイス2の埋め込み後の時間に応じて流れを調節するのに特に有利である。通常、埋め込み後の最初の数週間は、液体の流れがより激しくなり、および/またはより頻繁に生成され、その後は遅くなり、或いは、その頻度が減少され得る。
【0104】
流体モジュール20、より具体的にはポンプ202、および必要に応じて調整器203は、電気エネルギー源24によって電力が供給され得る。一例として考えられるエネルギー源24については後述する。
【0105】
デバイス2は、電極、少なくとも1つのアノード21および少なくとも1つのカソード22、並びに電気エネルギー源23を備え得る。アノード21およびカソード22は電気エネルギー源23に電気的に接続され得、その結果、デバイス2内またはその環境に含まれる液体、例えば体液の水の電気分解が誘発される。カソード2では二水素が、アノード21では二酸素が生成され得る。
【0106】
このようにして膵島の酸素化が行われ、水素の抗炎症特性と相まって、免疫反応、特に移植後の炎症反応を軽減することができる。水素は、マトリックス1の半透壁を通過することによって内部環境に放出され、デバイス2の周囲で発生し得る炎症反応を制限する。人工膵臓デバイス2は、単純な構造を維持しながら、電気分解デバイスと人工膵臓の機能を活用することを可能にする。
【0107】
好ましくは、カソード22およびアノード21のうちの少なくとも一方が内容積11内に配置され、好ましくは両方の電極21、22が内容積11内に配置される。電気分解とインスリンの生成は両方ともマトリックスの内容積内で行われるため、溶液に関してデバイスが簡素化され、電気分解用の2つの異なるデバイスまたは区画と、その間で電気分解ガスが輸送されるセルが提供される。デバイス2はまた、よりコンパクトであり、したがって、患者に対する侵襲性が低い。
【0108】
一例によれば、カソード22および/またはアノード21は、マトリックス1の多孔質体12内、例えばキャビティ1200、1210の間に配置される。より具体的には、カソード22および/またはアノード21は、多孔質体12の材料中に配置され得る。カソードおよび/またはアノード21は、例えば
図8に示されるように、キャビティ1200、1210を画定する多孔質体12の壁に配置され得る。したがって、電気分解ガスの生成は、膵島13を収容するキャビティ1200の近くで行われる。
【0109】
カソード22および/またはアノード21は、代替的にまたは追加的に、マトリックス1の多孔質体12上に、好ましくは直接的に配置され得る。カソード22および/またはアノード21は、例えば
図9A、9Bに示されるように、多孔質体12の外形上に、好ましくは直接上に配置され得る。カソード22および/またはアノード21は固体支持体25上に配置され得る。多孔質体12に対する電極の相対的な配置に応じて、特定のガス、特に酸素の膵島または周囲環境への送達、特に水素の送達が促進され得る。
【0110】
電極21、22は、デバイス2の動作を可能にするように互いに離れている。電極間の距離は、水の電気分解の電流値によって規定される。実際、例えばカソードでは、陽子の還元によって空乏層が形成され、その厚さは還元電流の値に依存する。いずれの場合も、電極間の距離は空乏層の厚さよりも大きいことが好ましい。一般に、それらを分離する距離は、約0.1mmから約1cmの間、特に約0.2から約7mmの間、好ましくは約0.5から約5mmの間とされ得る。この分離距離は、平行に配置された2つのバルク(3D)電極間、または2つの平行な支持体によって支持された2次元(2D)の2つの電極間に適用でき、或いはこれは、同じ支持体上に配置された2つの2D電極間の分離距離であってもよい。
【0111】
電極は2D形状を有し得る。これらの2D電極は、1つまたは2つの支持体上に電極の材料を堆積することによって製造され得る。支持体が非導電性であれば、単一の支持体が両方の電極に使用され得る。支持体(support)としては、グラファイト、プラチナまたは金の微細シート、「ガス拡散層」と呼ばれるガスの拡散を可能にする微細シート、紙、ガラス、シリコンのシートを挙げることができる。堆積には、物理堆積(例えば、物理蒸着、陰極蒸着、リソグラフィー、プラズマ堆積のPVD)、電気化学、印刷、スプレー、または機械的圧縮、化学堆積(例えば、化学蒸着、ゾルゲルのCVD)が含まれる。
【0112】
電極は3D形状を有し得る。これらは、従来通り、好ましくは圧縮、ステレオリソグラフィー、または3D印刷によって形成され得る。
【0113】
電極の組成は、それぞれの機能に合わせて調整される。それらは同じ材料であっても、2つの異なる材料であってもよい。それらは炭素から作られてもよいし、炭素で作られてもよい。好ましくは、炭素材料の種類は、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭またはダイヤモンドから選択される。電極の材料には、特に白金、鉄、または金がドープされ得る。電極は、白金、金、インジウムスズ酸化物(一般にITOと略す)、イリジウムまたはドープダイヤモンドから作製され得、特に少なくともアノードは金で作製するか、金でドープされ得る。電極は、特に電極がスタッド、バー、またはシートの形態である場合、皮膚と接触することが意図される面101に垂直な方向に従って、実質的に100μm~2mmの厚さを有し得る。
【0114】
電極は、特に金属、例えば金やプラチナで作られている場合、例えば長さ数センチメートル、幅数ミリメートル、厚さ数十ミクロンまたは数百ミクロンのブレード、または裸線(3D形状のカテゴリー)であってもよい。
【0115】
さらに、電極は、各電極を囲む半透膜(図示せず)、例えばポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、キトサン、PVAタイプによってそれぞれカプセル化され得る。アノード21および/またはカソード22を取り囲む半透膜は、Nafion(登録商標)の名でよく知られているスルホン化テトラフルオロエチレンから作られたフルオロポリマーで作られ、好ましくは、それから作られ得る。この半透膜は、50Da未満のカットオフ閾値を有し、電極21、22を取り囲むことができる。膜は、体液の成分、例えば膵島に必須の栄養素の電極への通過を防ぐように構成される。導電性イオン、水の分子、および生成されたガスのみがこの膜を通って循環し、電極ごとに二酸素と二水素を生成できる。したがって、電極における体液の成分の電気化学反応は制限され、好ましくは防止される。さらに、電極表面でのこれらの成分の吸着現象が防止され、寄生反応の可能性が回避される。したがって、膵島13は、それらに有害な可能性があるこれらの反応生成物から保護される。
【0116】
次に、デバイス2に電力を供給するエネルギー源23、24について説明する。これらのソースは別個の場合もあれば、同じ場合もある。以下、非限定的に、エネルギー源23、24は同じである、すなわち、1つのエネルギー源が電力供給を必要とする様々な要素に電力を供給すると想定される。エネルギー源23、24はデバイスに組み込まれ得る。或いは、エネルギー源23、24はデバイス2から離れていて、電気接続によってデバイス2に接続され得る。電気エネルギー源は一般に、このタイプのデバイスのかなりの体積を占めるため、遠隔に置くことにより、デバイス2の埋め込み部位とは異なる場所に埋め込まれ得るので、患者に生じる不快感を最小限に抑えることができる。エネルギー源は患者の身体の外部にあるように構成され得る。
【0117】
非限定的な手段で、エネルギー源は、
-電池、好ましくは高エネルギー密度を有する電池、例えばリチウム電池、
-圧電効果などを利用して機械エネルギーを回収するデバイス、
-グルコース、炭水化物、脂質、タンパク質のような、通常人間や動物の体内に自然に存在する化学種を消費することで電気を生成できるバイオバッテリー、
-太陽エネルギーを回収するためのデバイス、例えば、太陽光発電モジュールやグレッツェルセル(Gratzel cell)、
-熱エネルギーを回収するデバイス、例えばゼーベック(Seebeck effect)効果を利用した熱電モジュール、
であり得る。
【0118】
エネルギー源は、Cl-イオンからのCl2の形成を避けるために、実質的に1.4V以下の電圧を生成できることが好ましい。
【0119】
デバイス2はさらに、実質的に1.4V以下の電解槽に電力を供給するための電圧を得ることができる分圧器を備え得る。これは、電極21、22に接続されたエネルギー源23が1.4Vを超える電圧を生成する場合に特に有用である。デバイス2は、いくつかの対のカソード22およびアノード21を備え得る。エネルギー源23は、各対に固有であるか、または共有され得る。
【0120】
次に、マトリックス1の製造方法を一例に基づいて説明する。この方法は、例えば3D印刷による多孔質体12の製造を含み得る。この方法は、多孔質体12内に膵臓細胞13を播種することを含み得る。播種の後または播種前に、製造方法は、半透壁10による多孔質体12のカプセル化を含み得る。この方法は、膵臓細胞を含まないマトリックス1を提供することを含み、例えば、注入チャネル14を介して膵臓細胞13のマトリックスに播種することを含み得る。
【0121】
次に、インスリンを送達する方法について説明する。この方法は、人工膵臓デバイス2の少なくとも一部、より具体的には少なくともマトリックス1を人体または動物の体内に移植することを含み得る。これは、特に、移植部位およびデバイスの寸法に適合した手術によって実行され得る。好ましくは、移植手術は四肢または腹部で行われる。
【0122】
本発明の意味において、動物とは、特に、ウシなどの大型動物、馬などのスポーツ動物、イヌおよびネコなどのペット、並びに、ラット、マウスおよびサルなどの実験動物を意味することができる。
【0123】
この方法は、特に電気エネルギー源が遠隔にある場合、流体モジュールおよび/または少なくとも1つのアノードおよび少なくとも1つのカソードと電気エネルギー源との電気接続を含み得る。この方法はまた、この目的のために設けられた手段によって電気回路の開閉を制御することを目的とし得る。
【0124】
一例によれば、この方法は、例えばマトリックスの注入チャネルへの細胞の注入による膵臓細胞の再充填を含む。一例によれば、この方法は、再充填の前に膵臓細胞の吸引を含む。
【0125】
一例によれば、この方法は、例えば注入による流体モジュールのタンクの再充填を含む。
【0126】
この方法は、流体モジュールの作動を制御することを目的とし得る。一例によれば、この方法は、流体モジュールによる流れの形成の少なくとも1つのパラメータを調整器によって調整することを含む。一例によれば、この方法は、調整器によるデバイスの流体モジュールの作動、好ましくは停止を含む。一例によれば、この方法は、デバイスの流体モジュールによって形成される液体の流れの速度の調整器による修正を含む。
【0127】
上述した説明を考慮すれば、本発明が解決策、特に膵臓細胞を受容するためのマトリックスと、既存の解決策と比べてインスリンの送達の改善を可能にする人工膵臓デバイスを提案することが明らかである。
【0128】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の対象となるすべての実施形態におよぶものである。本発明は上記実施例に限定されるものではない。例えば、本発明の文脈を逸脱することなく、上述した特徴を組み合わせることによって、他の多くの代替実施形態が可能である。さらに、本発明の一態様に関して説明した特徴は、本発明の別の態様と組み合わせることができる。例えば、方法は、マトリックスおよび/またはデバイスの機能の実装から生じるステップを含むことができ、またその逆も同様である。
【符号の説明】
【0129】
1 膵臓細胞を受容するためのマトリックス
10 半透壁
11 内部ボリューム
12 多孔質体
120 第1のキャビティセット
1200 キャビティ
121 第2のキャビティセット
1210 キャビティ
13 膵臓細胞
14 インジェクションチャンネル
140 インジェクションチャンバ
15 流体チャネル
2 人工膵臓デバイス
20 流体モジュール
200 電気活性コーティング
201 タンク
202 ポンプ
203 調節器
204 ダクト
205 半透膜
21 アノード
22 カソード
23 電気エネルギー源
24 電気エネルギー源
25 剛性サポート
【国際調査報告】