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特表2024-522903空間バーコード分類及びシーケンシングのためのUNIT-DNA組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】空間バーコード分類及びシーケンシングのためのUNIT-DNA組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20240614BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240614BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20240614BHJP
【FI】
C12N15/10 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579848
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2022068213
(87)【国際公開番号】W WO2023275334
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21183154.0
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ロートマン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ボズィオ
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ピナード
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ペルボス
(72)【発明者】
【氏名】ザンドラ ハルプフェルト
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ベアンハート ヴァール
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
(57)【要約】
本発明は、バーコードヌクレオチド配列を有する第1の鎖及び第2の鎖を含むポリヌクレオチド分子を提供するための方法であって、第1の鎖が、5’末端で少なくとも1つのユニバーサル塩基のオーバーハングを提供し、少なくとも1つのヌクレオチドを有するポリヌクレオチドの第2の鎖の対応する凹んだ3’末端がブロッキング基を提供することを特徴とし、ブロッキング基が、光の照射によって組み込まれたヌクレオチドから除去される、前記方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーコードヌクレオチド配列を有する第1の鎖及び第2の鎖を含むポリヌクレオチドを提供するための方法であって、第1の鎖が、5’末端で少なくとも1つのユニバーサル塩基のオーバーハングを備え、少なくとも1つのヌクレオチドを有するポリヌクレオチドの第2の鎖の対応する凹んだ3’末端がブロッキング基を備え、ブロッキング基が、光照射によって組み込まれたヌクレオチドから除去されることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記ブロッキング基が、切断試薬を提供することによる光照射によって組み込まれたヌクレオチドから除去され、切断試薬が、光を切断試薬の前駆体に照射することによって提供されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヌクレオチドが、光照射によって組み込まれたヌクレオチドから除去される光切断可能なブロッキング基を備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の鎖が、その3’末端にブロッキング基をさらに備えることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の鎖のオーバーハングが、その5’末端に第1のオリゴヌクレオチドを備えることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のオリゴヌクレオチドを、第1の鎖の3’末端に直接又はオリゴヌクレオチド架橋を介して連結させ、それにより環を形成することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のオリゴヌクレオチドを、対応するヌクレオチドとハイブリダイズさせ、それにより平滑末端及び少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置にギャップを有するポリヌクレオチド鎖を得ることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のオリゴヌクレオチドを、対応するヌクレオチドとハイブリダイズさせ、それによって平滑末端及び少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置にギャップを有するポリヌクレオチドを得るが、平滑末端を、直接又はオリゴヌクレオチド架橋を介して互いに連結させることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のオリゴヌクレオチドを、対応するヌクレオチドとハイブリダイズさせ、それによって平滑末端及び少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置にギャップを有するポリヌクレオチドを得るが、第1のオリゴヌクレオチドを、第1の鎖の3’末端に直接又はオリゴヌクレオチド架橋を介して連結させ、それにより環を形成し、かつハイブリダイズした対応するヌクレオチドの3’末端が切断不可能なブロッキング基を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のオリゴヌクレオチドは、対応するヌクレオチドとハイブリダイズし、それによって平滑末端及び少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置にギャップを有するポリヌクレオチド鎖を得るが、ハイブリダイズした対応するヌクレオチドの3’末端を、直接又はオリゴヌクレオチド架橋を介して第2鎖の5’末端に連結させ、それにより環を形成し、かつ第1鎖の3’末端が切断不可能なブロッキング基を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
以下のステップ:a)オリゴdTプライミングによるmRNAの逆転写によって第1の鎖を合成し、捕捉した標的配列に付加した3’末端のCヌクレオチドをもたらし、続いてb)3’末端の対応するGヌクレオチドによる鋳型スイッチングオリゴのハイブリダイゼーションにより鋳型スイッチしたcDNAをもたらし、これをc)対応する第1の鎖のヌクレオチドにハイブリダイズして、少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置に遊離3’OH及びギャップを生じるステップにより、前記ポリヌクレオチド鎖を、m-RNA鎖の鋳型スイッチングによって提供することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
以下のステップ:a)標的配列を有する環状ssDNAを、パドロックプローブハイブリダイゼーション(ギャップフィルパドロックプローブのためのギャップフィル反応を含む)及びライゲーションにより捕捉し、b)環状ssDNAへのオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションにより、dsDNA制限を可能にして、線状ssDNAを得て、これをc)対応する第1の鎖のヌクレオチドにハイブリダイズして、少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置に遊離3’OH及びギャップを生じるステップにより、前記DNA鎖を、環状ssDNA鋳型をもたらすパドロックワークフローによって提供することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
以下のステップ:a)DNAを断片化し、アダプターを連結し、b)遺伝子特異的プライマー(PCRハンドル付き)及び汎用プライマーでのPCRによって連結した標的配列を濃縮して、直鎖状ssDNAを得て、これをC)対応する第1鎖ヌクレオチドにハイブリダイズして、少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置に遊離3’OH及びギャップを生じるステップにより、前記DNA鎖を、標的DNA増幅によって提供することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空間シーケンシング(spatial sequencing)の技術に関する。本発明の目的は、組織領域における又は組織内の個々の細胞におけるmRNAの分布を決定することである。
【0002】
空間シーケンシングは、組織内で細胞のmRNA内容物の直接シーケンシングを可能にする方法の総称である。これらの方法は、一方で一種の高度に多重化された蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)アッセイにおいて細胞のmRNA発現プロフィールを分析するために役立つ。
【0003】
一方、in situシーケンシングは、特定のmRNA又はcDNA配列の事前定義した部分のコピーを取り込むことができる特定のmRNA結合プローブを使用して、mRNA配列情報を読み取ることもできる(「Gap-fill padlock probes」、Keら、Nature Methods 2013,doi:10.1038/nmeth.2563)。最近では、in situゲノムシーケンシング(IGS)アプローチも発表された(In situ genome sequencing resolves DNA sequence and structure in intact biological samples”、A.C.Payneら、Science 10.1126/science.aay3446(2020))。全てのin situシーケンシング法は、シグナル増幅ステップを必要とし、これはほとんどの場合、ヘアピンライゲーションによるmRNAもしくはcDNA結合プローブ又はgDNAインサートの環状化及びその後のローリングサークル増幅(RCA)によって実施され、プローブ及び/又は標的配列の複数のコピーを含むDNA分子、いわゆるナノボール、ロロニー(Rolony)又はローリングサークル増幅産物(RCP)を作成する。これらはnm又はμmスケールのサイズを有する大きな分子であるため、1つの細胞内で形成できるロロニーの数はこの細胞のサイズによって厳密に制限される。
【0004】
さらに、細胞内のロロニーの密度が高すぎる場合、シーケンシング手順の光学的検出ステップ中の単一mRNAシグナルの識別が大幅に損なわれる。これはこの技術の大きな欠点であるため、これを回避するために、種々の技術、例えば、より小さなロロニーの設計又は組織ヒドロゲル複合体の生成及び除去(Aspら、BioEssays 2020、DOI:10.1002/bies.201900221)、又は拡張シーケンシングと呼ばれる細胞標的を拡張すること(Alonら、Science 371、eaax2656(2021))が開発されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法は依然としてin situシーケンシングの固有の空間的制限を完全には回避できない。他のアプローチは、in situでのシグナル増幅を回避する:in situ捕捉は、バーコードプライマーのスポットでコーティングした表面上への組織からのmRNA分子の移動に依存しており、配列決定したmRNAが抽出された特定の組織領域へのex situで得られた配列情報のバックトラッキングを可能にする。それにもかかわらず、比較的大きいサイズのバーコード化した捕捉スポットにより、RNA捕捉効率が制限され、解像度が低い(単一細胞分析ができない)ため、この方法にも限界がある(Aspら、BioEssays 2020、D01:10.1002/bies.201900221)。
【0006】
発明の要約
本発明は、光学的方法を使用して、ポリヌクレオチド、好ましくはDNA配列にバーコードを挿入する方法に関する。このコードを使用して、コーディングを実行した位置を取得できる。ここでの目的は、in situで測定可能なmRNA配列の数及び発現ダイナミクスに関する既存のin situシーケンシング法の限界を大幅に克服することである。光学的コーディングは、1μmの範囲の分解能、及び典型的なサイズの組織切片においてそれぞれの細胞が独自のコードを受信するために十分であるコードの可変性を有しうる。提供したコーディング及びデコーディングのワークフローを図1に示す。
【0007】
本明細書において開示した基本原理は、ユニバーサル鋳型依存的DNA合成(universal template directed DNA synthesis)による核酸の空間バーコーディングに基づく。前記方法は、この後UNIT-DNA(UNIversal emplate DNA)という。
【0008】
したがって、本発明の目的は、バーコードヌクレオチド配列を有する第1の鎖及び第2の鎖を含むポリヌクレオチドを提供するための方法であって、第1の鎖が、5’末端で少なくとも1つのユニバーサル塩基のオーバーハングを提供し、少なくとも1つのヌクレオチドを有するポリヌクレオチドの第2の鎖の対応する凹んだ3’末端がブロッキング基を提供することを特徴とし、ブロッキング基が、光の照射によって組み込まれたヌクレオチドから除去される、前記方法である。
【0009】
ブロッキング基の除去は、ブロッキング基に適切な光切断可能な単位を提供するか、又は光照射により活性化されるかもしくはそれらの活性型で提供される切断試薬を添加することによって達成されてよい。
【0010】
前記方法の第1の変法において、ブロッキング基は、切断試薬を提供することによる光照射によって組み込まれたヌクレオチドから除去され、ここで切断試薬は、切断試薬の前駆体に光を照射することによって提供される。
【0011】
前記方法の第2の変法において、ヌクレオチドには、光照射によって組み込まれたヌクレオチドから除去される光切断可能なブロッキング基が提供される。かかる試薬は公知であり、例えば光の照射により活性切断試薬「Cy5」に切断される「Cy5-TECP」である。
【0012】
以下において、「ポリヌクレオチド」という用語は、二本鎖核酸、例えばDNA、RNA、DNA-RNA、c-DNA、ssDNA及び類似のもの、例えばPNA又はLNAをいう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、試料調製、組織染色及びイメージング(透過、蛍光)、分節化又はクラスター分析、並びに構造化照明及び単一細胞シーケンシングのためのマスクの計算を含む、本発明の一般的なワークフローを示す。
図2図2は、少なくとも1つのユニバーサル塩基を有する少なくとも1つの5’オーバーハングを有する二本鎖ポリヌクレオチド分子の一般的な構造を示す。
図3図3は、本発明のバーコーディングの基本手順を示す。
図4】光による3つの細胞の構造化照明。
図5図5は、A~Hで示した本発明の実施形態を示す。
図6図6は、鋳型スイッチオリゴヌクレオチド(TSO)と実施形態Hとの組み合わせを示す。
図7図7は、シーケンシングのために直接使用したタグ付け分子によるin vitroシーケンシングでの本発明の実施形態Hの一般的なワークフローを示す。
図8図8は、環状ssDNAとUNIT-DNAの実施形態Hとの組み合わせを示す。
図9図9は、標的DNA増幅とUNIT-DNAの実施形態Hとの組み合わせを示す。
【0014】
詳細な説明
提供されるUNIT-DNAワークフローは、実施形態Aによるコーディングワークフローについての図1に示されている。試料調製、組織染色及びイメージング(透過、蛍光)の後に、分節化又はクラスター分析、及び構造化照明のためのマスクの計算が続く。UNIT-DNAでの図1のデコードワークフローについて、構造化照明及びヌクレオチドの周期的取り込みによって誘導される、細胞の空間バーコーディングが組織切片に提供される(細胞放出前のコード化したUNIT-DNAの組織の固定は示されていない)。単一細胞シーケンシングのための組織切片からの細胞の放出及び細胞のカプセル化。
【0015】
UNIT-DNAでの実施形態Hによる図7に示したデコードワークフローについて、構造化照明及びヌクレオチドの周期的取り込みによって誘導される標的分子の空間バーコーディングが組織切片に提供される。標的mRNAについて得られた配列及び空間バーコードは、画像に注釈を付ける。生物情報学の分析及び、結果と最初の試料源との関係がワークフローを完了させる。
【0016】
UNIT-DNAの方法は、少なくとも1つの5’オーバーハングを有するバーコードヌクレオチド配列を有する第1の鎖及び第2の鎖を含む二本鎖DNA分子を提供することからなり、5’オーバーハングは少なくとも1つのユニバーサル塩基を含み、凹んだ3’末端は遊離3’-OHを有する。
【0017】
図2は、9bpの二本鎖核酸(N)及び6つのユニバーサル塩基(B)5’オーバーハングについての本発明の方法によって得られた組成物の例を示す。二本鎖核酸についてのbpの数、又は一本鎖5’オーバーハングについてのユニバーサル塩基の数は、長さで変動する。
【0018】
「ユニバーサル塩基」という用語は、全ての天然ヌクレオチドに結合できるヌクレオチドをいう。かかるユニバーサル塩基の設計は、全ての天然塩基と対になる性質により、主に縮重プライマー又はプローブの一部として文献に記載されている(例えば、Loakesによる、Nucleic Acid Research、2001、Vol.29、No.122437-2447)。
【0019】
本発明の方法によって得られたUNIT-DNA組成物は、図2に示されており、かつ少なくとも1つの5’オーバーハングを有する二本鎖核酸からなり、ここで5’オーバーハングは、少なくとも1つのユニバーサル塩基を含み、かつ凹んだ3’末端は遊離3’-OHを有する。ここでは一例として、9bpの二本鎖核酸及び5つのユニバーサル塩基5’オーバーハングについてのUNIT-DNA組成物が示されている。Nは天然の塩基(G又はC又はT又はA)を表し、Bはユニバーサル塩基を表す。
【0020】
図3は、UNIT-DNA法によるコーディングの基本原理を示す。ポリメラーゼ(図示せず)の支持で、第2の鎖の凹んだ遊離3’-OHに、提供したヌクレオチド(G)を組み込む。それにより、第2の鎖の凹んだ3’-OHを伸長させ、第1のヌクレオチドによってコードする。第1の鎖の5’オーバーハングがユニバーサル鋳型依存性DNA合成を支持するユニバーサル塩基を含む限り、提供したヌクレオチドはいずれも組成物と対合する。凹んだ3’-OHは、ヌクレオチドの3’末端がブロックされているため、1ヌクレオチドだけ伸長する。次のステップとして、ブロックした3’-OHを切断試薬によってブロック解除し、次のコーディングサイクルの発生を可能にする。
【0021】
後で切断試薬によってブロックが解除される、任意に蛍光標識した3’-OHでブロックしたヌクレオチドの組み込みは、Sequencing by Synthesis(Chenら、Genomics,Proteomics&Bioinformatics、Volume 11、Issue 1、February 2013、Pages 34-40)からも公知である。合成によるシーケンシングとは反対に、UNIT-DNAプロセスはDNAコードを読み取るためではなくDNAコードを書き込むために使用される。
【0022】
空間ポリヌクレオチドバーコードを書き込むために、図1によって既に概念的に導入したコーディングワークフローの一部として構造化照明を使用してよい。光(例えばUV光)による個々の細胞の構造化照明がどのようにして空間的に切断試薬(例えばTCEP)を化学的に放出するのかを図4に詳しく示す。Cy5-TCEP複合体にUV光を照射した後にTCEPを放出する化学反応は、以前に記載されている(Vaughanら、J Am Chem Soc.、2013 Jan 30、135(4)、1197-1200)。
【0023】
要約すると、UNIT-DNA法によって書き込まれる空間コードの配列は、提供されるヌクレオチドの順序及び光による切断試薬の空間活性化に依存する。UNIT-DNAによって書き込むことができる空間コードの合計数は、ヌクレオチドの組み込みを可能にする5’オーバーハング内のユニバーサル塩基の数に依存する(例えば10個のユニバーサル塩基は、~100万のコード(410)に変換される)。コーディング原理の空間分解能は、照明のために使用される光の分解能(UVBについて~300nm)及び放出された切断試薬の局所反応速度に依存し、したがって、細胞(~10μm)又は細胞内(~lμm)の解像度レベルを容易に達せられる。
【0024】
コーディングが完了した後に、全ての細胞(又は核及び細胞小器官)を組織試料から単離してよく、単一細胞のシーケンシングを受ける。原則として、前記方法は同時に検査する細胞の数に制限はない。同時に個別に検査される細胞の数は、固有の空間バーコードを提供する5’オーバーハング内のユニバーサル塩基の数に依存する。実際の制限は、最終的にはシーケンサーの容量及びスループットのみである。
【0025】
UNIT-DNA空間バーコーディングの実施形態
空間バーコーディングのための本発明の方法の実施形態は、図5に要約されており、実施形態A~Hと呼ばれる。点線の四角により視覚化されているように、UNIT-DNA法のコアとなる機能要素が維持されている。追加の機能を3’末端及び5’末端の修飾によって導入し、空間バーコーディングのためのコアUNIT-DNA組成物とさらなる核酸操作ワークフローが組み合わせる。
【0026】
実施形態を以下でより詳細に記載する。
【0027】
図6は、単一細胞シーケンシングワークフロー(Picelliら、Nat Methods 2013 Nov;10(ll):1096-8.doi:10.1038/nmeth.2639.Epub 2013 Sep 22))内の鋳型スイッチオリゴヌクレオチドプロセスの一部として使用されるUNIT-DNAの実施形態H(図5)の例を示す。UNIT-DNAによる空間DNAバーコードの生成後に、得られた核酸を、エラー修正のための固有分子識別子(UMI)を使用したシーケンシングによってさらに分析できる。
【0028】
図6において示したTSOは細胞識別子を含まないことに注意する。UNIT-DNA組成物は、構造化照明の解像度を細胞解像度レベルと一致するように選択する場合に、細胞識別子として機能する空間バーコードを提供する。
【0029】
図7は、実施形態HにおけるUNIT-DNA誘導体の使用のためのコーディング及びデコーディングのワークフローを更新する図である。コーディング後に、シーケンシングライブラリーを調製し、空間バーコード及び標的核酸を配列決定する。空間バーコードが物理的に標的核酸に結合されているため、標的配列の空間情報は、in vitroシーケンシングによってもたらされ、結果と最初の試料源との関係を提供する。
【0030】
標的核酸の空間バーコーディングのためのUNIT-DNA組成物Hを、環状化ssDNAを導くパドロックワークフロー内(図8を参照)又は標的DNAワークフロー内(図9を参照)で使用することもできる。コーディング後に、得られた核酸は、空間バーコード及び結合させた標的核酸を決定するためにシーケンシングを受ける。
【0031】
分子ワークフローに応じて、異なるUNIT-DNAの実施形態を使用して、空間コーディングをシーケンシング及びデコーディングワークフローと組み合わせてよい。図5に示したUNIT-DNAの実施形態を、多峰性の標的化RNA及びDNAワークフロー又は固体支持体ワークフロー(図示せず)にも使用してよい。
【0032】
UNIT-DNAプロセスを、それぞれのサイクルで他の空間的に構造化された光のパターンで組織試料を処理することによって、組織試料の構造化照明によって引き起こされる周期的プロセス内で実施してよい。「構造化照明」及び「空間的に構造化された光のパターン」は、試料の一部又は選択した領域のみを照明することをいう。
【0033】
図4は、光(雷の記号で示される)による3つの細胞の構造化照明を示し、照明された細胞内で切断試薬TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)が放出される。Cy5-TECP複合体は、光誘起切断試薬放出のための基質として使用される。
【0034】
さらに、図1において、組織ドナー001から組織切片002(任意に染色)がどのように得られ、そして画像化100を受け、分節化又はクラスター分析、すなわち本発明の方法によってさらに調査されるべき試料の部分の選択が可能になるかを示す。かかる分節化/クラスター化/選択は、構造化照明及び/又は空間的に構造化された光のパターンのためのマスクの計算を可能にする。
【0035】
本発明の方法のさらに下流では、構造化照明及び/又は光の空間的に構造化されたパターンについて得られた情報は、UNIT-DNAコード生成のための光処理(102)中に利用され、これは、後のシーケンシング(104)のために細胞mRNA及び単一細胞インデックス試薬(202)と一緒にカプセル化される、コード化されたUNIT-DNAをもたらす。構造化照明の助けにより、空間バーコードを備えた試料106の選択した領域/細胞のみが、次世代シーケンシング(104)及び配列解析(106)によって空間的にデコードされる。
【0036】
シーケンシング
本発明の方法における1つのステップは、シーケンシング(104)によって読み出されるUNIT-DNAプローブ上でコードしたヌクレオチドの配列を決定することを目的とする。シーケンシングのための1つの方法は、sequencing by synthesis(合成によるシーケンシング/SBS)である。読み取りシグナルを増加させるために、UNIT-DNAプローブ配列の増幅を実施できる。クローン増幅の1つの方法は、コード化したUNIT-DNAプローブのローリングサークル増幅(RCA)であり、これはロロニーのシーケンシングプロセスを開始する前に実施する。
【0037】
本発明の変法において、UNIT-DNAコードの配列を標的遺伝子の配列とは別に読み取ってよい。これは、シーケンシング手順を2つの異なるシーケンシングプライマーでの2つの実行に分割することにより実現できる。
【0038】
本発明の実施形態
UNIT-DNA法の8つの実施形態(A~H)を図5に示す。UNIT-DNA組成物のコア要素は、全ての実施形態に対して維持される(点線の四角により示す)。UNIT-DNAの5’末端及び3’末端に追加した追加要素は以下である。
【0039】
(A)オーバーハング内でブロックした3’末端を有する第2の5’オーバーハング。実施形態A及びBにおいて、第1の鎖は、その3’末端にブロッキング基をさらに備える。
【0040】
(B)二本鎖の5’末端を二本鎖の3’末端に結合する。
【0041】
(C)5’ユニバーサル塩基オーバーハングの5’末端を、天然の塩基によって拡張する。実施形態Cにおいて、第1の鎖のオーバーハングは、5’末端で第1のオリゴヌクレオチドを備える。
【0042】
(D)天然の塩基によって伸長した5’ユニバーサル塩基オーバーハングの5’末端を、二本鎖の3’末端に結合する。実施形態Dにおいて、第1のオリゴヌクレオチドを、第1の鎖の3’末端に直接又はオリゴヌクレオチド架橋を介して連結させ、それにより環を形成する。オリゴヌクレオチド架橋は、5~100ヌクレオチドの長さを有してよい。
【0043】
(E)天然の塩基によって拡張した5’ユニバーサル塩基オーバーハングの5’末端は、天然塩基の二本鎖を形成している。実施形態Eにおいて、第1のオリゴヌクレオチドを、対応するヌクレオチドとハイブリダイズさせ、それにより平滑末端及び少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置にギャップを有するポリヌクレオチドを得る。
【0044】
(F)天然の塩基の二本鎖を形成する天然の塩基によって伸長した5’ユニバーサル塩基オーバーハングの5’末端を、隣接する二本鎖の3’末端と結合する。
【0045】
実施形態Fにおいて、第1のオリゴヌクレオチドを、対応するヌクレオチドとハイブリダイズさせ、それによって平滑末端及び少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置にギャップを有するポリヌクレオチドを得るが、ここでは平滑末端を、直接又はオリゴヌクレオチド架橋を介して互いに連結させる。オリゴヌクレオチド架橋は、5~100ヌクレオチドの長さを有してよい。
【0046】
(G)ブロックした3’末端を有する天然の塩基の二本鎖を形成するが一方で5’末端は二本鎖の反対側の3’末端と結合して円を形成している天然の塩基によって伸長させた5’ユニバーサル塩基オーバーハングの5’末端。実施形態Gにおいて、第1のオリゴヌクレオチドを、対応するヌクレオチドとハイブリダイズさせ、それによって平滑末端及び少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置にギャップを有するポリヌクレオチドを得るが、ここでは第1のオリゴヌクレオチドを、第1の鎖の3’末端に直接又はオリゴヌクレオチド架橋を介して連結させ、それにより環を形成し、ハイブリダイズした対応するヌクレオチドの3’末端は切断不可能なブロッキング基を含む。オリゴヌクレオチド架橋は、5~100ヌクレオチドの長さを有してよい。
【0047】
(H)二本鎖の5’末端を、反対側の二本鎖の3’末端に結合させて、二本鎖の3’末端をブロックしたパドロックのような構造を形成する。実施形態Gにおいて、第1のオリゴヌクレオチドは、対応するヌクレオチドとハイブリダイズし、それによって平滑末端及び少なくとも1つのユニバーサル塩基の位置にギャップを有するポリヌクレオチドを得るが、ここでは、ハイブリダイズした対応するヌクレオチドの3’末端を、直接又はオリゴヌクレオチド架橋を介して第2鎖の5’末端に連結させ、それにより環を形成し、第1鎖の3’末端は切断不可能なブロッキング基を含む。オリゴヌクレオチド架橋は、5~100ヌクレオチドの長さを有してよい。
【0048】
実施形態Hを、図6に示した第1の変法で実施してよい。ここで、本発明のUNIT-DNA法は、鋳型スイッチオリゴヌクレオチド(TSO)プロセスと組み合わせる。
【0049】
図6に示した変法は、(A)mRNAをオリゴdTプライマーによって(in situで)逆転写させ、3’末端にトリプルCを有するcDNAを生成することを含む。(B)5’PCRハンドル(Nとして示す)、固有分子識別子(UMI)及び3’末端のトリプルGを有するTSO。(C)cDNA(Aから)とTSO(Bから)とのin situ鋳型スイッチングの結果、両端にPCRハンドルを有する捕捉cDNAを生じる(感度を高めるための任意のin situ PCR増幅は示していない)。(D)ユニバーサル塩基を含むオリゴヌクレオチドとPCRハンドルとのハイブリダイゼーションが、UNIT-DNA誘導体Hをもたらす(点線の四角で示す)。
【0050】
実施形態Hのさらなる変法を図8に示す。ここで本発明のUNIT-DNA法を環状ssDNAと組み合わせる。
【0051】
図8に示す変法は、(A)環状ssDNA(捕捉した標的配列、固有分子識別子(UMI)及びPCRハンドル(Nとして示す)を含む)を含む。UMIを増幅前に追加し、NGSワークフロー内でしばしば使用して、増幅によって生じるエラー及び定量的バイアスを低減させる。環状ssDNAを、Chenら(Nucleic Acids Research、2018、Vol.46、No.4e22)によって記載されているようなPadlock法(ギャップなし)、Padlock法(ギャップ)又はDirect法(FISSEQ)によってin situで生成してよい。(B)オリゴハイブリダイゼーションにより二本鎖を生成し、(B)で示すように制限エンドヌクレアーゼ消化を可能にし、線状ssDNA(C)を生成する(感度を高めるための任意のin situ PCR増幅は示していない)。(D)ユニバーサル塩基を含むオリゴヌクレオチドとPCRハンドルとのハイブリダイゼーションが、UNIT-DNA誘導体Hをもたらす(点線の四角で示す)。
【0052】
実施形態Hのさらなる変法を図9に示す。ここでは、本発明のUNIT-DNA法を、例えば、QIAseq Targeted DNA Panel Handbook03/2021において開示されているQIAGENによる標的DNAワークフローによって、標的DNA増幅と組み合わせる。図2を、空間(B)のためにUNIT-DNA誘導体Hと組み合わせるように変更した。アダプターは、固有分子識別子(UMI)及びPCRハンドル(N)を含む。(C) 濃縮のため、連結させた標的配列は、遺伝子特異的プライマー(PCRハンドルを有するGSP)及び汎用プライマー(Nとして表示)によるin situでの標的PCRを数サイクル受ける。(D)ユニバーサル塩基を含むオリゴヌクレオチドとPCRハンドルとのハイブリダイゼーションは、UNIT-DNA誘導体Hをもたらす(点線の四角で示す)。
【0053】
図1及び図7の用語解説
001 組織ドナー
002 染色した組織切片
003 細胞
004 細胞核
005 細胞質内のmRNA
006 mRNA(UNIT-DNA組成物に結合)
100 画像化
101 分節化又はクラスター分析、構造化照明のマスクの計算
102 UNIT-DNAコード生成のための光処理
103 単一細胞のカプセル化
104 シーケンシング
105 環状バーコーディング
106 配列解析
200 コーディング前のUNIT-DNA組成物
201 コーディング後のUNIT-DNA組成物
202 単一細胞インデックス試薬
203 UNIT-DNA組成物H
204 空間バーコードを有する線形化鋳型スイッチcDNA
205 cDNA由来のシーケンシングライブラリー
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】