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特表2024-522931非毒素タンパク質が除去されたクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法
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  • 特表-非毒素タンパク質が除去されたクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-21
(54)【発明の名称】非毒素タンパク質が除去されたクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/16 20060101AFI20240614BHJP
   C07K 14/33 20060101ALN20240614BHJP
【FI】
C07K1/16
C07K14/33
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500101
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 KR2022009828
(87)【国際公開番号】W WO2023282653
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】10-2021-0089883
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523466329
【氏名又は名称】ファルマ リサーチ バイオ シーオー・,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】PHARMA RESEARCH BIO CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バク,スン グル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒュン グン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョン ハン
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA11
4H045DA83
4H045EA20
4H045FA71
4H045GA01
4H045GA06
4H045GA21
4H045HA06
4H045HA07
(57)【要約】
本発明は、非毒素タンパク質が除去されたクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液から分離したクロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)毒素タンパク質を含む溶液を、
(a)疎水性相互作用カラムにローディングし、前記毒素を捕集して不純物を通過させるステップと、
(b)前記(a)ステップで捕集した毒素を分離し、前記毒素を含む溶離液を得るステップと、
(c)前記(b)ステップで得た溶離液に含まれる毒素タンパク質から非複合体形態の神経毒素タンパク質を得るステップと、
(d)第3級アミンを含む樹脂を充填した陰イオン交換樹脂カラムに、前記(c)ステップで得た非複合体形態の神経毒素タンパク質を含む溶液をローディングするステップと、
(e)前記(d)ステップで捕集した非複合体形態の神経毒素タンパク質を分離するステップとを含む、非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項2】
前記陰イオン交換樹脂カラムは、DEAEセファロースHP又はDEAEセファロースファストフロー(Fast Flow)カラムである、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項3】
前記(a)ステップの前に、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)菌株を培養するステップを含む、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項4】
前記菌株の培養液を酸沈殿させるステップをさらに含む、請求項3に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項5】
前記酸沈殿は、pH3.0~pH4.0になるように酸(acid)を添加する過程を含む、請求項4に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項6】
前記酸沈殿させた溶液を濾過するステップをさらに含む、請求項4に記載のクロストリジウム・ボツリヌス毒素複合体タンパク質の精製方法。
【請求項7】
前記疎水性相互作用カラムは、ブチルセファロースHP(butyl sepharose high performance)、ブチルセファロースファストフロー(Butyl sepharose Fast Flow)、フェニルセファロースHP(Phenyl sepharose high performance)及びフェニルセファロースファストフロー(Phenyl sepharose Fast Flow)カラムからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項8】
前記(a)ステップは、pH4~pH8、及び電気伝導度(conductivity)170~220mS/cmの条件で行われるものである、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項9】
前記(a)ステップのカラム緩衝液はリン酸緩衝液である、請求項1に記載のクロストリジウム・ボツリヌス毒素複合体タンパク質の精製方法。
【請求項10】
前記(b)ステップのカラム緩衝液はリン酸緩衝液である、請求項1に記載のクロストリジウム・ボツリヌス毒素複合体タンパク質の精製方法。
【請求項11】
前記(b)ステップは、濃度勾配(concentration gradient)を用いるものである、請求項1に記載のクロストリジウム・ボツリヌス毒素複合体タンパク質の精製方法。
【請求項12】
前記(b)ステップと(c)ステップの間に、(b)ステップで得た溶離液を酸沈殿させるステップをさらに含む、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項13】
前記酸沈殿ステップは、溶離液に硫酸アンモニウムを最終飽和度が30~50%になるように添加する過程を含む、請求項12に記載のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項14】
前記(c)ステップは、クロストリジウム・ボツリヌス毒素タンパク質を非毒素タンパク質と純粋な神経毒素タンパク質に解離するものである、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項15】
前記(c)ステップは、UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)、pH滴定(pH titration)、透析(dialysis)及び沈殿(precipitation)からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項16】
前記(c)ステップは、リン酸ナトリウム緩衝液を用いて3回透析するものである、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項17】
前記(e)ステップのカラム緩衝液はリン酸緩衝液である、請求項1に記載のクロストリジウム・ボツリヌス毒素複合体タンパク質の精製方法。
【請求項18】
前記(e)ステップは、濃度勾配(concentration gradient)を用いるものである、請求項1に記載のクロストリジウム・ボツリヌス毒素複合体タンパク質の精製方法。
【請求項19】
前記方法で精製したクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質は純度98%以上である、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項20】
前記方法は、神経毒素タンパク質を含む溶液を陽イオン交換樹脂カラムにローディングするステップを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【請求項21】
前記非複合体形態の神経毒素タンパク質は、50kD~150kDの分子量を有するものである、請求項1に記載の非複合体形態のクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非毒素タンパク質が除去されたクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌストキシンは、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)などのバクテリアにより産生される神経毒素タンパク質の一種であり、シナプス前神経末端に非可逆的に付着して神経接合部におけるアセチルコリンの分泌を抑制することにより筋肉の収縮を阻害し、二次的に筋肉の弛緩効果を発揮する作用を有する。このような機能により、ボツリヌストキシンは、1989年に米国FDAに承認されて以降、治療又は美容目的で用いられている(特許文献1、2など)。
【0003】
治療目的では、斜視(strabismus)、斜頸(torticollis)、顔面痙攣(blepharospasm)などの神経筋肉疾患に、美容目的では、シワ、表情ジワ除去及びエラ張り治療、多汗症(hyperhidrosis)又は片頭痛(migraine)治療に注射剤として用いられている。副作用としては、嚥下障害(dysphagia)、声の変化(voice change)、口腔乾燥(dry mouth)、目のかすみ(blurred vision)などの事例が報告されているが、いまだボツリヌストキシンによる直接の死亡事故はないので、適宜用いれば非常に安全な薬品であると評価されている。
【0004】
特に、ボツリヌストキシンから非毒素(non-toxic)タンパク質を除いた純粋な神経毒素タンパク質は繰り返し投与が必要な適応症にも有用であるので、安定して生物学的に活性を示すボツリヌス神経毒素タンパク質を分離するための改善された精製方法が求められている現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2010-0107475号公報
【特許文献2】韓国公開特許第10-2008-0049152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、安定して生物学的に活性を示すボツリヌス神経毒素タンパク質を分離するための改善された精製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非毒素タンパク質が除去されたクロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の精製方法を用いることにより、経済的かつ効率的に高純度のボツリヌス神経毒素タンパク質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】精製した150kDのボツリヌス神経毒素のSDS-PAGE、すなわちドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(sodium dodecylsulfate polyacrylamide gel electrophoresis)の結果を示す図である。
図2】精製した150kDのボツリヌス神経毒素のHPLC、すなわちサイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography: SEC-HPLC)の結果を示す図である。
図3】陰イオンクロマトグラフィーを行うステップにおいて、第3級アミンを含むDEAEカラム、又は第4級アンモニウムを含むQカラムを用いる場合に、得られた試料の純度を電気泳動により確認した結果を示す図である(HC: Heavy chain, LC: Light chain)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0011】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0012】
本発明の一態様は、クロストリジウム・ボツリヌス神経毒素タンパク質の精製方法である。
【0013】
具体的には、前記精製方法は、培養液から分離したクロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)毒素タンパク質を含む溶液を、(a)疎水性相互作用カラムにローディングし、前記毒素を捕集して不純物を通過させるステップと、(b)前記(a)ステップで捕集した毒素を分離し、前記毒素を含む溶離液を得るステップと、(c)前記(b)ステップで得た溶離液に含まれる毒素タンパク質から非複合体形態の神経毒素タンパク質を得るステップと、(d)第3級アミンを含む樹脂を充填した陰イオン交換樹脂カラムに、前記(c)ステップで得た非複合体形態の神経毒素タンパク質を含む溶液をローディングするステップと、(e)前記(d)ステップで捕集した非複合体形態の神経毒素タンパク質を分離するステップとを含んでもよい。
【0014】
本発明において、「(a)、(b)、(c)、(d)…」などのステップ間に時間的な間隔がなくてもよく、同時に行われてもよく、数秒間、数分間、数時間などの任意の間隔をおいて行われてもよい。
【0015】
本発明における「クロストリジウム・ボツリヌス毒素」とは、「ボツリヌストキシン(Botulinum toxin)」ともいい、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)由来タンパク質の一種であり、シナプス前神経末端に非可逆的に付着して神経接合部におけるアセチルコリンの分泌を抑制することにより筋肉の収縮を阻害し、二次的に筋肉の弛緩効果を発揮する作用を有するタンパク質を意味する。
【0016】
ボツリヌストキシンタンパク質は、血清学的特徴によりAからGまでの7種のタイプに分けられる。ボツリヌストキシンA型は、人間に対して最も致命的な周知の天然物質であり、血清型A以外にも、一般に免疫学的に異なる6種のボツリヌストキシン、すなわちボツリヌストキシン血清型B、C、D、E、F及びGが周知である。異なる血清型は、型特異的抗体による中和により識別され、それらが引き起こす麻痺の重症度、及びそれらが最も影響を及ぼす動物種は異なる。
【0017】
ボツリヌストキシンタンパク質分子の分子量は、周知のボツリヌストキシン血清型の7種全てにおいて約150kDである。一方、クロストリジウム系バクテリアにより、ボツリヌストキシンは、関連する非毒素タンパク質と共に150kDのボツリヌストキシンタンパク質分子を含む複合体として放出される。よって、ボツリヌストキシンタイプA複合体は、クロストリジウム系バクテリアにより、900kD、500kD及び300kD型として生成される。ボツリヌストキシンタイプB及びCは500kDの複合体として、ボツリヌストキシンタイプDは300kD及び500kDの複合体として生成される。ボツリヌストキシンタイプE及びFは約300kDの複合体として生成される。これらの複合体(すなわち、分子量が約150kDより大きいもの)は、非毒性ヘマグルチニンタンパク質、並びに非毒素及び非毒性非ヘマグルチニンタンパク質を含むものと考えられる。
【0018】
ボツリヌストキシンタンパク質には、約150kDの純粋な神経毒素成分と共に、非毒素タンパク質を含む高分子量の複合体の形態が含まれる。よって、複合体化した形態は、ボツリヌス神経毒素タンパク質、並びに少なくとも1つの非毒素ヘマグルチニンタンパク質及び/又は少なくとも1つの非毒素非ヘマグルチニンタンパク質を含むものであってもよい。具体的には、ボツリヌストキシン複合体タンパク質は、ボツリヌス神経毒素(BoNT; Botulinum neurotoxin)、非毒性非ヘマグルチニン(NTNHA; nontoxic nonhemagglutinin)及びヘマグルチニン(HA)タンパク質の複合体であってもよい。前記複合体の分子量は、約150kDより大きくてもよい。例えば、ボツリヌストキシンA型の複合体化形態は、約900kD、約500kD又は約300kDの分子量を有してもよい。
【0019】
一実施例において、本発明のボツリヌストキシンは、A型毒素であってもよい。
【0020】
本発明のボツリヌス神経毒素(BoNT)タンパク質は、特に断らない限り、非毒性非ヘマグルチニン、ヘマグルチニンなどの任意の組み合わせの非毒素タンパク質との組み合わせではないボツリヌス神経毒素タンパク質を示すものである。これは、「非複合体形態のボツリヌス神経毒素タンパク質」、「純粋な神経毒素タンパク質」又は「非毒素タンパク質が除去された(reduced)ボツリヌス神経毒素タンパク質」ともいう。
【0021】
一実施例において、本発明のボツリヌス神経毒素タンパク質は、約50kD~150kDの分子量を有するタンパク質であってもよい。具体的には、本発明のボツリヌス神経毒素タンパク質には、ジスルフィド結合により約50kDの軽鎖(LC, Light Chain)に結合した約100kDの重鎖(HC, Heavy Chain)の形態や、神経毒素成分の約150kDの単鎖前駆体タンパク質の形態が全て含まれる。
【0022】
本発明における「約(about)」とは、約という用語の後に続く正確な数値のみでなく、ほとんどその数値であるか、又はその数値に近い範囲をも含むものである。その数値が用いられた文脈を考慮すると、言及された具体的な数値と近いか、ほとんどその数値であるかを決定することができる。一例として、「約」は、所定の数値の-10%~+10%の範囲を示すものである。他の例として、「約」は、所定の数値の-5%~+5%の範囲を示すものである。しかし、これらに限定されるものではない。
【0023】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明のクロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)毒素タンパク質は、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)の培養液から得たものであってもよい。具体的には、前記タンパク質は、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)の培養液から分離したものであってもよい。
【0024】
よって、本発明の精製方法において、精製のためのクロマトグラフィーステップの前に、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)を培養するステップをさらに含んでもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
前述した培養ステップにおいて、クロストリジウム・ボツリヌム菌株の培養は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行われる。具体的には、クロストリジウム・ボツリヌム菌株は、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物などを含有する通常の培地中で嫌気性条件下にて温度、pHなどを調節して培養される。
【0026】
例えば、培養は、嫌気条件にて約25℃~40℃、具体的には27℃~40℃で行われるが、これらに限定されるものではない。培養期間は、毒素タンパク質の所望の生成量が得られるまで続けられ、具体的には約12~150時間であるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明のクロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)毒素タンパク質を含む溶液は、クロマトグラフィーステップの前に沈殿処理したものであってもよい。
【0028】
一実施例において、前記沈殿は酸(acid)沈殿であるが、これに限定されるものではない。例えば、前記酸沈殿は、pH3.0~pH4.0、具体的にはpH3.3~3.5、より具体的にはpH3.4~3.5になるように酸(acid)を添加する過程を含んでもよい。前記酸沈殿には、当該技術分野で公知の酸性溶液、例えば硫酸や塩酸などが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明のクロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)毒素複合体タンパク質を含む溶液は、疎水性クロマトグラフィーステップの前に濾過処理したものであってもよい。具体的には、前記溶液は、酸沈殿後に濾過処理したものであってもよい。
【0030】
前述した濾過(filtration)ステップは、従来の公知の微細濾過、限外濾過、精密濾過、深層濾過などの工程で行われてもよく、濾過ステップにおいて不純物が除去されてもよい。
【0031】
一実施例において、前記濾過処理に用いる装置は、約0.1μm~0.3μm、具体的には約0.2μmの空隙サイズを有するフィルターを含むものである。しかし、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の精製方法において、クロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)毒素タンパク質を含む溶液を、(a)疎水性相互作用カラムにローディングし、前記毒素を捕集して不純物を通過させるステップと、(b)前記(a)ステップで捕集した毒素を分離し、前記毒素を含む溶離液を得るステップは、クロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)毒素タンパク質を含む溶液を用いて疎水性相互作用クロマトグラフィー(Hydrophobic interaction chromatography)を行うステップともいうが、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明における「クロマトグラフィー」とは、混合物の成分が異なる速度で媒質を通過するように混合物に媒質を通過させ、混合物の成分を分離する任意のプロセスを意味する。
【0034】
本発明のクロマトグラフィーには、カラムクロマトグラフィー、平面(planar)クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が含まれる。本発明の精製工程の各ステップにおいて、クロマトグラフィー工程又は装置の一例を開示しているが、これらは前述した全てのタイプのクロマトグラフィーに適用することができる。
【0035】
本発明における「疎水性クロマトグラフィー」又は「疎水性相互作用クロマトグラフィー」とは、非極性固定相との疎水性相互反応の相対強度に基づいて分子を分離する方法を意味する。疎水性クロマトグラフィーは、塩濃度が高いほど非極性固定相から分離する物質の相互作用が強くなり、緩衝液のイオン強度又は塩濃度が低いほど相互作用が弱くなる原理を用いる。よって、塩濃度の下降勾配を用いる場合、疎水性が小さい物質であるほど先に溶出し、疎水性が大きい物質であるほど後に溶出する。
【0036】
一実施例において、本発明の精製方法の(a)ステップにおける疎水性相互作用カラムとしては、エーテル(ether)、イソプロピル(isopropyl)、ブチル(butyl)、オクチル(octyl)、フェニル(phenyl)などのリガンドを有するカラムを用いてもよい。例えば、本発明の精製方法の(a)ステップにおける疎水性相互作用カラムは、ブチルセファロース又はフェニルセファロースカラムであってもよい。具体的には、前記疎水性相互作用カラムは、フェニルセファロースカラムであってもよい。より具体的には、前記疎水性相互作用カラムは、ブチルセファロースHP(butyl sepharose high performance)、ブチルセファロースファストフロー(Butyl sepharose Fast Flow)、フェニルセファロースHP(Phenyl sepharose high performance)及びフェニルセファロースファストフロー(Phenyl sepharose Fast Flow)カラムからなる群から選択されるものであるが、これらに限定されるものではなく、疎水性相互作用カラムに属するものであればいかなるものを用いてもよい。
【0037】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明の精製方法の(a)ステップの前に、緩衝液を用いてカラムを平衡化するステップをさらに含んでもよい。
【0038】
本発明における平衡化(equilibration)とは、精製するタンパク質をカラムに注入する前に、環境の変化によるタンパク質の凝集や、活性の消失を防止するために、緩衝液でカラムを安定化するステップを意味する。
【0039】
前記(a)ステップの前の平衡化ステップにおいて、緩衝液を流す流速、温度、時間、電気伝導度などの条件は、適宜調節されるようにしてもよい。
【0040】
例えば、前記緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液又は酢酸緩衝液を用いてもよい。一例として、前記カラム緩衝液は、リン酸緩衝液であってもよく、例えばリン酸ナトリウムであってもよい。一例として、カラム緩衝液の濃度は、5mM~100mM、例えば25mM~75mM、又は40mM~60mMに調節されてもよい。
【0041】
例えば、前記流速は、約1.0ml/分~20.0ml/分である。例えば、前記電気伝導度は、約170~220mS/cmである。しかし、これらに限定されるものではない。
【0042】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明の精製方法の(a)ステップは、pH4~pH8の条件下で行われるが、これに限定されるものではない。
【0043】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明の精製方法の(a)ステップは、電気伝導度約170~220mS/cmの条件下で行われるが、これに限定されるものではない。
【0044】
前記(a)及び/又は(b)ステップにおいて、溶液を流す流速、温度、時間などの条件は、適宜調節されるようにしてもよい。
【0045】
例えば、カラム緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液又は酢酸緩衝液を用いてもよい。一例として、前記カラム緩衝液はリン酸緩衝液であってもよく、例えばリン酸ナトリウムであってもよい。一例として、カラム緩衝液の濃度は、5mM~100mM、例えば25mM~75mM、又は40mM~60mMに調節される。例えば、移動相の流速は、約1.0ml/分~20.0ml/分である。しかし、これらに限定されるものではない。
【0046】
前述した実施例のいずれかにおいて、前記(b)ステップにおける、毒素タンパク質を含む溶離液を得るステップには、好適な溶出溶媒が用いられるようにしてもよい。
【0047】
前記(b)ステップには、濃度勾配(concentration gradient)を用いてもよい。例えば、段階的な塩勾配(stepwise salt gradient)又は連続的な塩勾配(continuous salt gradient)により、毒素複合体タンパク質を溶出させてもよい。
【0048】
前記(b)ステップは、イオン強度を低下させるか、pHを上昇させる過程を含んでもよい。溶離ステップにおいては、例えば逆塩勾配を開始して塩濃度を低下させることにより、固定相に吸着していたタンパク質の疎水性部分が移動相により脱着するようにしてもよい。具体的には、前記溶離ステップにおいて、緩衝剤の低下する濃度勾配(下降勾配,descending gradient)を用いてもよい。例えば、約5.0M~約0.0M、約4.0~約0.0M、約3.5M~約0.0M、約3.0M~約0.0Mの濃度範囲を有する濃度勾配の緩衝剤を用いてもよい。前記緩衝剤としては、例えば硫酸ナトリウム(NaSO)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、酢酸アンモニウム(NHOAc)などを用い、具体的には、前記溶離ステップにおいて塩化ナトリウム(NaCl)の濃度勾配を用いるが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野で公知の範囲から適宜選択して用いることができる。
【0049】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明の精製方法の(b)ステップで得た溶離液は、沈殿処理したものであってもよい。例えば、前記沈殿は酸沈殿であるが、これに限定されるものではない。
【0050】
前記酸沈殿は、酸(acid)を添加する過程を含んでもよい。具体的には、前記酸沈殿は、溶離液に硫酸アンモニウムを添加するものであってもよい。より具体的には、前記酸沈殿は、溶離液に硫酸アンモニウムを最終飽和度が30~50%になるように添加するものであってもよい。例えば、前記飽和度における硫酸アンモニウムの濃度は、約19.6g/100ml~31.3g/100mlであるが、これに限定されるものではない。
【0051】
前記沈殿処理した溶離液は、さらなる精製工程を経てもよく、例えば濾過及び/又は遠心分離などの工程を経てもよい。得られた沈殿物は、さらなる精製工程のために再溶解されてもよい。一例として、前記沈殿物は、pH5.0~7.0の溶液を用いて溶解され、例えば約40~60mMの濃度のリン酸ナトリウム緩衝液を用いるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
本発明の精製方法において、(c)前記(b)ステップで得た溶離液に含まれる毒素タンパク質から非複合体形態の神経毒素タンパク質を得るステップは、クロストリジウム・ボツリヌス毒素タンパク質を非毒素タンパク質と純粋な神経毒素タンパク質に解離するものであってもよい。
【0053】
前記(c)ステップは、純粋な神経毒素タンパク質と非毒素タンパク質を分離するための任意の通常のタンパク質分離方法で行うことができる。
【0054】
一実施例において、前記(c)ステップには、UFダイアフィルトレーション(UF diafiltration)、pH滴定(pH titration)、透析(dialysis)、沈殿(precipitation)、赤血球処理、深層濾過(depth filtration, DF)、精密濾過(microfiltration, MF)、限外濾過(ultrafiltration, UF)、滅菌濾過(sterile filtration)、画分(fraction)、HPLC及び/又は遠心分離などや、他のタンパク質からタンパク質を抽出する方法を用いるが、純粋な神経毒素タンパク質を得る方法であればいかなるものを用いてもよい。
【0055】
前述した実施例のいずれかにおいて、前記(c)ステップには、透析(dialysis)を用いてもよい。前記透析は、(b)ステップで得た溶離液を透過膜(membrane)に入れ、好適な温度及び/又はpH条件で緩衝液を用いて行ってもよい。前記透析の回数は、適宜調節され、例えば3回行うが、これに限定されるものではない。
【0056】
例えば、前記温度は、約0℃~10℃、具体的には約2℃~8℃であってもよい。例えば、前記透析は、pH6~10の緩衝液で行ってもよい。例えば、前記緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液又は酢酸緩衝液を用いてもよく、具体的にはリン酸ナトリウムを用いてもよい。前記緩衝液の濃度は、適宜調整され、例えば約10mM~70mMである。しかし、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明の精製方法において、(d)陰イオン交換樹脂カラムに、前記(c)ステップで得た非複合体形態の神経毒素タンパク質を含む溶液をローディングするステップと、(e)前記(d)ステップで捕集した非複合体形態の神経毒素タンパク質を分離するステップは、非複合体形態の神経毒素タンパク質を含む溶液を用いて陰イオン交換クロマトグラフィー(anion-exchange chromatography)を行うステップともいうが、これに限定されるものではない。
【0058】
本発明における「陰イオン交換クロマトグラフィー(anion-exchange chromatography)」とは、陽性に荷電した支持体に陰性に荷電した(又は酸性)分子を結合させることにより、分子をこれらの電荷に応じて分離する技法であり、分子の同族体(酸性、塩基性及び中性)はこの技法により容易に分離することができる。
【0059】
本発明の精製方法において、(d)ステップの陰イオン交換クロマトグラフィーに用いられる樹脂は、第2級又は第3級アミンを官能基(functional group)として含む弱陰イオン交換樹脂であってもよい。
【0060】
一実施例において、前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いられる樹脂は、第3級アミン(Tertiary amine)を含む樹脂であってもよい。具体的には、前記樹脂は、DEAE(DiEthylAminoEthyl)を含む樹脂であるが、これに限定されるものではない。前述した実施例のいずれかにおいて、本発明の陰イオン交換樹脂カラムは、DEAEセファロースHP(DEAE Sepharose high performance)又はDEAEセファロースファストフロー(DEAE Sepharose Fast Flow)カラムであるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明の精製方法の(d)ステップの前に、緩衝液を用いて陰イオン交換樹脂を平衡化するステップをさらに含んでもよい。
【0062】
前記(d)ステップの前の平衡化ステップにおいて、緩衝液を流す流速、温度、時間、電気伝導度などの条件は、適宜調節されるようにしてもよい。
【0063】
例えば、カラム緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液又は酢酸緩衝液を用いてもよい。具体的には、前記カラム緩衝液は、リン酸緩衝液であってもよく、例えばリン酸ナトリウムであってもよい。一例として、カラム緩衝液の濃度は、5mM~100mM、例えば5mM~35mM、又は10mM~30mMに調節されてもよい。
【0064】
例えば、前記流速は、0.1ml/分~20.0ml/分である。例えば、前記電気伝導度は、約0.1~10mS/cmである。しかし、これらに限定されるものではない。
【0065】
前記(d)及び/又は(e)ステップにおいて、溶液を流す流速、温度、時間、電気伝導度などの条件は、適宜調節されるようにしてもよい。
【0066】
例えば、前記緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液又は酢酸緩衝液を用いてもよい。例えば、前記カラム緩衝液は、リン酸緩衝液であってもよく、例えばリン酸ナトリウムであってもよい。例えば、カラム緩衝液の濃度は、5mM~100mM、例えば5mM~35mM、又は10mM~30mMに調節されてもよい。
【0067】
例えば、前記流速は、約0.1ml/分~20ml/分である。例えば、前記電気伝導度は、約0.1~10mS/cmである。しかし、これらに限定されるものではない。
【0068】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明の精製方法の(d)ステップは、pH4~pH10の条件下で行われるが、これに限定されるものではない。
【0069】
前述した実施例のいずれかにおいて、前記(e)ステップは、好適な溶出溶媒を用いてイオン強度又はpHを変化させる過程を含んでもよい。
【0070】
前記(e)ステップには、濃度勾配(concentration gradient)を用いてもよい。例えば、段階的な塩勾配(stepwise salt gradient)又は連続的な塩勾配(continuous salt gradient)により溶出させてもよい。具体的には、前記溶離ステップにおいて、緩衝液の上昇する濃度勾配(上昇勾配,ascending gradient)を用いて、カラムに結合されていたタンパク質を溶離してもよい。例えば、約0.0M~3.0M、約0.0M~2.0M、約0.0M~1.0Mの範囲を有する濃度勾配の緩衝剤を用いてもよい。一実施例において、前記溶離ステップに用いる緩衝液としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、リン酸ナトリウム(sodium phosphate)、リン酸カリウム(potassium phosphate)、トリス(Tris)などを用いてもよい。具体的には、前記溶離ステップにおいて塩化ナトリウム(NaCl)の濃度勾配を用いるが、これに限定されるものではなく、当該技術分野で公知の範囲から適宜選択して用いることができる。
【0071】
前述した実施例のいずれかにおいて、本発明の精製方法は、神経毒素タンパク質を含む溶液を陽イオン交換樹脂カラムにローディングするステップを必須構成として含まないものである。しかし、これに限定されるものではない。
【0072】
本発明の精製方法により分離した神経毒素タンパク質は、純度が高い。具体的には、約90%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約97.5%以上又は約98%以上の純度を有するが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0073】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例及び実験例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0074】
実施例1(ボツリヌム菌の培養及び毒素の分離)
-80℃で保管していたクロストリジウム・ボツリヌム(clostridium botulinum)を解凍し、種培養液に入れて37℃の嫌気条件で24時間培養し、菌数を増加させた。その菌数が増加した培養液を本培養液に入れて35℃の嫌気条件下で92~100時間追加培養し、その後pH3.4になるように酸沈殿によるウイルス不活化を行った。沈殿終了後に、緩衝液でボツリヌストキシンを溶出し、その後滅菌した0.2μmフィルターを用いて外部と接触させないように濾過した。
【0075】
実施例2(ボツリヌストキシンの精製)
2-1.疎水性相互作用クロマトグラフィー
Phenyl Sepharose疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂を充填したカラムに、実施例1のボツリヌムA型毒素を含む濾液をローディングした。前記ローディングの前に、平衡/溶出緩衝液(50mMリン酸ナトリウム,3M塩化ナトリウム,pH6.0)を流速5ml/分、電気伝導度188mS/cmの条件で流して平衡化/洗浄を行った。
【0076】
実施例1のボツリヌムA型毒素を含む濾液をPhenyl Sepharoseカラムにローディングし、その後流速5ml/分、電気伝導度188mS/cmの条件で50mMリン酸ナトリウム、pH6.0の緩衝剤により低下する塩の段階的変化(3.0M-0.0Mの塩化ナトリウム濃度勾配)を用いて、カラムからボツリヌストキシンを溶離した。
【0077】
2-2.硫酸アンモニウムの沈殿及び純粋な神経毒素の解離
実施例2-1の方法で収集した溶離液に硫酸アンモニウムを最終飽和度が40%(24.3g/100ml)になるように添加して沈殿させ、その後遠心分離して沈殿物を得た。この過程においても、毒素タンパク質は無菌容器の内部表面に接触しており、外部との接触はなかった。前記沈殿物を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に溶解し、その後非毒素タンパク質と純粋な神経毒素タンパク質の解離のために、前述したように溶解した溶液を透過膜(membrane)に入れ、2~8℃の条件で20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.9)中で透析した。透析は計3回行った。
【0078】
2-3.陰イオン交換樹脂クロマトグラフィー
実施例2-2で得た透析液を遠心分離して上清を分離し、DEAE Sepharoseカラムを接続したFPLC(高速タンパク質液体クロマトグラフィー,Fast Protein Liquid Chromatography)に分離した上清を注入した。比較例として、DEAE Sepharoseカラムに代えてQ columnを用いて陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーを行った。
【0079】
具体的な実験方法は次の通りである。前記上清を注入する前に、DEAE Sepharose樹脂を充填したカラムにリン酸ナトリウム緩衝液(20mM,pH7.9)を流して平衡化し、前記毒素を含むリン酸ナトリウム緩衝液(20mM,pH7.9)をカラムに流した。平衡化した後に、前記上清を注入するステップを行い、神経毒素が陰イオン交換カラム物質に結合する間、フロースルー(flow through, FT)液を滅菌した容器に収集した。その後、洗浄ステップを行い、ここで、洗浄緩衝剤(pH7.9の20mMリン酸ナトリウム)が陰イオン交換カラムを通過するようにした。次のステップは溶離ステップであり、20mMリン酸ナトリウム、pH7.9の緩衝剤で洗浄し、次いで上昇する塩の段階的変化(0.0M-1.0M塩化ナトリウム勾配)を用いて、カラムからボツリヌストキシンを溶離した。陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーは、電気伝導度3mS/cm、流速3ml/分の条件で行った。
【0080】
実施例3(精製した毒素の純度分析)
非毒素タンパク質を除去した純粋な神経毒素を精製するために、疎水性相互作用クロマトグラフィーと後続の陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーによる精製工程で得た試料に対して、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(sodium dodecylsulfate polyacrylamide gel electrophoresis: SDS-PAGE, 図1)及びサイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography: SEC-HPLC, 図2)に基づいて純度を分析した。電気泳動は4~20%ポリアクリルアミドゲルを用いて行い、電気泳動後にクマシーブルーで染色した。SEC-HPLCの移動相としては、pH6.0の250mM NaClを含む50mMリン酸ナトリウム溶液を用い、HPLCカラムを接続して実施例2で得たボツリヌムA型神経毒素タンパク質20μgをローディング(loading)し、0.4mL/minで60分間流した。
【0081】
その結果、純粋な神経毒素成分以外には不純物タンパク質バンドが観察されず、98kD(重鎖(Heavy chain))及び52kD(軽鎖(Light chain))の純粋な神経毒素成分のみ観察された(図1)。また、ボツリヌス神経毒素の純度は99.86%であることが確認された(図2)。
【0082】
一方、陰イオンクロマトグラフィーステップにおいてDEAEカラム又はQ Sepharoseカラムを用いて得られた試料を電気泳動で純度を分析した結果(図3)、第4級アンモニウム塩を含むQカラムを用いた場合は、純粋な神経毒素成分以外に、不純物タンパク質バンドが多数観察された。
【0083】
よって、第4級アンモニウム塩を含むQカラムを用いるより、第3級アミンを含むDEAEカラムを用いる方が、神経毒素タンパク質をより高純度に精製できることが確認された。
【0084】
これらの結果は、疎水性相互作用クロマトグラフィーと、DEAEカラムを含む陰イオン交換クロマトグラフィーの2ステップを行うと、不純物がほとんど除去された神経毒素タンパク質を高純度に精製できることを示唆するものである。
【0085】
よって、前記精製方法を用いると、ボツリヌストキシンタイプAの非毒素タンパク質が除去された純粋な神経毒素部分(約150kD)のみが高純度で得られる。これは、本明細書に記載した方法及びシステムを用いることにより、高い効能及び純度で非毒素タンパク質が除去された純粋な神経毒素を高効率で製造できることを示すものである。
【0086】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
【国際調査報告】