(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-24
(54)【発明の名称】急性骨髄性白血病の治療のためのWNT5Aペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 14/47 20060101AFI20240617BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20240617BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240617BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240617BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240617BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240617BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240617BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20240617BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240617BHJP
A61K 31/497 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
A61K38/08
A61K38/10
A61P35/02
A61K45/00
A61K31/7068
A61K31/704
A61K31/407
A61K39/395 T
A61K31/497
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574195
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2022061843
(87)【国際公開番号】W WO2022253506
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520144543
【氏名又は名称】ウントレサーチ・エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】サード、サラ・テレジーニャ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルシ、フェルナンダ・マルコーニ
(72)【発明者】
【氏名】ブエノ、マウラ・リマ・ペレイラ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA23
4C084BA31
4C084CA59
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC752
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC48
4C086CB22
4C086EA10
4C086EA17
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB27
4C086ZC75
4H045AA10
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
それを必要とする対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するためのWNT5Aペプチド又はその誘導体。さらに、WNT5Aペプチド又はその誘導体は、それを必要とする対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するための、少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するためのWNT5Aペプチド又はその誘導体であって、前記WNT5Aペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するWNT5Aタンパク質に由来し、アミノ酸配列X
ADGX
BEL(式中、X
Aはメチオニン(M)又はノルロイシンであり、X
Bはシステイン(C)又はアラニン(A)である)(配列番号2)又はそのホルミル化誘導体を含む、WNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項2】
前記対象から得た血液試料及び/又は骨髄試料が、健康な対象と比較して、MAPK及び/又はPI3K経路がアップレギュレートされている、請求項1に記載のWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項3】
前記対象から得た血液試料及び/又は骨髄試料が、健康な対象と比較して、p-ERK及び/又はp-AKTのレベルが高い、請求項1又は2に記載のWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項4】
前記ペプチドの全長が、50アミノ酸以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項5】
前記WNT5Aペプチドが、
MDGCEL(配列番号3)、
GMDGCEL(配列番号4)、
EGMDGCEL(配列番号5)、
SEGMDGCEL(配列番号6)、
TSEGMDGCEL(配列番号7)、
KTSEGMDGCEL(配列番号8)、
NKTSEGMDGCEL(配列番号9)、
CNKTSEGMDGCEL(配列番号10)、
LCNKTSEGMDGCEL(配列番号11)、
RLCNKTSEGMDGCEL(配列番号12)、
GRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号13)、
QGRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号14)、
TQGRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号15)、
GTQGRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号16)、及び
LGTQGRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号17)、又はそのホルミル化誘導体からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項6】
前記WNT5Aペプチドが、MDGCEL(配列番号3)又はそのホルミル化誘導体である、請求項1~5のいずれか一項に記載のWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項7】
前記WNT5Aペプチド又はその誘導体が、前記対象に投与され:
a)急性骨髄性白血病と診断された直後に、前記WNT5Aペプチド又はその誘導体の有効量を投与することを含み、場合によっては、投与は、週に少なくとも3回、2週間以上繰り返す、請求項1~6のいずれか一項に記載のWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項8】
前記WNT5Aペプチド又はその誘導体が、前記対象に投与され:
a)急性骨髄性白血病と診断された直後に、前記WNT5Aペプチド又はその誘導体の有効量を投与することを含み、投与は、毎日、2週間以上繰り返す、請求項1~6のいずれか一項に記載のWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項9】
必要とする対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するための、少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせたWNT5Aペプチド又はその誘導体であって、前記WNT5Aペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するWNT5Aタンパク質に由来し、アミノ酸配列X
ADGX
BEL(式中、X
Aはメチオニン(M)又はノルロイシンであり、X
Bはシステイン(C)又はアラニン(A)である)(配列番号2)又はそのホルミル化誘導体を含み、前記ペプチド及び前記腫瘍抑制化学療法薬は、組み合わせられているか、若しくは別々であり、及び/又は、同時に、若しくは逐次的に投与される、WNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項10】
前記対象から得た血液試料及び/又は骨髄試料が、健康な対象と比較して、MAPK及び/又はPI3K経路がアップレギュレートされている、請求項9に記載の少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせたWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項11】
前記対象から得た血液試料及び/又は骨髄試料が、健康な対象と比較して、p-ERK及び/又はp-AKTのレベルが高い、請求項9又は10に記載の少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせたWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項12】
前記少なくとも1つの化学療法薬が、シタラビン、ダウノルビシン、イダルビシン、ミドスタウリン、ゲムツズマブオゾガミシン、ギルテリチニブ及びその組合せから選択される、請求項9~11のいずれか一項に記載の少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせたWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項13】
前記ペプチドの全長が、50アミノ酸以下である、請求項9~12のいずれか一項に記載の少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせたWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【請求項14】
前記WNT5Aペプチドが、MDGCEL(配列番号3)又はそのホルミル化誘導体である、請求項9~13のいずれか一項に記載の少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせたWNT5Aペプチド又はその誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するためのWNT5Aペプチド又はその誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
急性骨髄性白血病(AML)は、血液及び骨髄のがんである。AMLは、原始造血幹細胞(HPC)又は前駆細胞に由来するクローン増殖によって特徴付けられる障害である。骨髄性細胞の異常分化は、高レベルの未熟悪性細胞並びにより少ない分化した赤血球、血小板及び白血球をもたらす。時には、AML細胞は、体内のどこでも発症しうる骨髄性肉腫又は緑色腫と呼ばれる固形腫瘍を形成しうる。AMLは、一般に、骨髄不全に起因する徴候を急激に出現し、無治療のままでは数週間又は数か月間以内に死に至る場合もある。疾患は全ての年齢で起こる。
【0003】
急性骨髄性白血病は、急性骨髄白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性顆粒球性白血病及び急性非リンパ球性白血病としても公知である。
【0004】
ほとんどの型のAMLに対する主な治療は、集中的な、多くの場合多剤化学療法であり、時には標的療法薬物を併用する。幹細胞移植又は輸血を更に行ってもよい。AMLの治療を経験している患者は、多くの場合、重大な副作用を経験し、AMLを治療する研究の重要な部分は、治療による副作用を緩和することである。したがって、患者においてAMLを治療するための毒性の低い治療法を開発する必要性が残っている。
【0005】
この背景から、副作用がより少なく、患者による忍容性が高い治療用薬剤を投与することを含む、急性骨髄性白血病の治療に使用するための改善された療法を提供することが本発明の目的である。再発性急性骨髄性白血病の患者の治療を改善することが、本発明のさらなる目的である。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の第1の側面は、それを必要とする対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するためのWNT5Aペプチド又はその誘導体に関し、WNT5Aペプチドは、XADGXBEL(配列番号2)又はそのホルミル化誘導体を含み、XAはメチオニン(M)又はノルロイシンであり、XBはシステイン(C)又はアラニン(A)である。
【0007】
当業者は、急性骨髄性白血病を診断する方法を知っている。患者におけるAMLの診断は、一般、血液又は骨髄の形態学的検査に基づく情報の総合的な評価及びフローサイトメトリーによる血液又は骨髄の評価に基づいて行われる。
【0008】
細胞外シグナルキナーゼ(ERK)とも称されるマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路及びホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)-タンパク質キナーゼB(AKT)シグナル伝達経路は、いずれも複数の細胞事象、例えば細胞生存、増殖、分化、運動及びアポトーシスに関与し、白血病の病因に関係している。PI3K及びMAPK経路の異常な活性化が、AMLの患者において報告されている。PI3K及びMAPK経路の異常な活性化は、シグナル伝達経路に関係するタンパク質のリン酸化レベルに基づいて判断できる。そのような2つのタンパク質はERKタンパク質及びAKTタンパク質であり、リン酸化されたタンパク質であるp-ERK及びp-AKTと共にフローサイトメトリー及びウエスタンブロッティングを使用してそれぞれ定量的及び半定量的に測定できる。MAPK及びPI3Kシグナル伝達経路に関係する成分の有効な標的化は、例えばMAPK及びPI3Kシグナル伝達カスケードの有効な下方調節により、AML治療に影響を及ぼす可能性があると仮定される。
【0009】
本発明の一態様によると、それを必要とする対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するためのWNT5Aペプチド又はその誘導体が提供され、WNT5Aペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するWNT5Aタンパク質に由来し、アミノ酸配列XADGXBEL(配列番号2)又はそのホルミル化誘導体を含み、XAはメチオニン(M)又はノルロイシンであり、XBはシステイン(C)又はアラニン(A)であり、前記対象から得た血液試料及び/又は骨髄試料は、健康な対象と比較して、MAPK及び/又はPI3K経路がアップレギュレートされている。
【0010】
一態様において、前記対象から得た血液試料及び/又は骨髄試料は、健康な対象と比較して、p-ERK及び/又はp-AKTのレベルが高い。
【0011】
発明者らは、WNT5Aタンパク質のホルミル化ヘキサペプチド断片であるFoxy-5が、AML細胞においてAKT及びERKタンパク質のリン酸化を減少させるのに有効であり、したがってFoxy-5が、AMLの患者においてPI3K及びMAPKシグナル伝達経路を下方調節することを驚くべきことに見いだした。
【0012】
本発明では、AML患者は、血液試料及び/又は骨髄試料が、健康な対象と比較して、MAPK及び/又はPI3K経路がアップレギュレートされている。アップレギュレートされたMAPK及び/又はPI3K経路は、PI3K及びMAPKシグナル伝達経路の異常な活性化の尺度となる。異常な活性化は、例えば、PI3K及びMAPK経路に関係するタンパク質のリン酸化、すなわち活性化の増大として観察される。当業者は、PI3K及びMAPK経路に関係するタンパク質のリン酸化を測定する方法を知っているが、そのような2つの方法は、フローサイトメトリー又は半定量的なウエスタンブロットである。
【0013】
AML細胞が、高濃度の活性酸素種(ROS)を産生して、成長及び遊走(走化性)を持続し、それにより白血病細胞を拡散させることも公知である。発明者らは、Foxy-5、すなわちWNT5Aタンパク質のホルミル化ヘキサペプチド断片が、AMLと診断された患者のAML細胞においてROS産生を効果的に減少させることを見いだした。
【0014】
薬物は大規模に生産されなければならないので、全長WNT5Aタンパク質は、薬物候補としていくつかの短所を示す。大きなタンパク質であるWNT5Aタンパク質は、正しい一次アミノ酸配列及び翻訳後修飾を生成するためだけに複雑で長い合成を必要とし、加えてWNT5Aは、体内での分布を限定する可能性があるヘパラン硫酸結合ドメインを有する。したがって、WNT5Aの効果を模倣するより小さなペプチドが、より好ましい。
【0015】
一態様において、WNT5Aペプチド又はその誘導体の全長は、50アミノ酸以下である。
【0016】
アミノ酸配列XDGXELを含むWNT5Aペプチドは、WNT5A模倣効果も含む。配列XDGXEL(配列番号2)を含むさまざまな長さのペプチドは、例えば液相又は固相ペプチド合成による合成によって製造してもよい。ペプチドの長さはさまざまで、20アミノ酸又はより短い、より好ましくは10アミノ酸又はより短い。最も好ましくは、ペプチドは、6アミノ酸からなるヘキサペプチドである。一態様において、アミノ酸配列は、XDGXELであり、1位のXは、M又はノルロイシンであり、4位のXは、C又はAである。有利には、本発明によるWNT5Aペプチドは:
MDGCEL(配列番号3)、
GMDGCEL(配列番号4)、
EGMDGCEL(配列番号5)、
SEGMDGCEL(配列番号6)、
TSEGMDGCEL(配列番号7)、
KTSEGMDGCEL(配列番号8)、
NKTSEGMDGCEL(配列番号9)、
CNKTSEGMDGCEL(配列番号10)、
LCNKTSEGMDGCEL(配列番号11)、
RLCNKTSEGMDGCEL(配列番号12)、
GRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号13)、
QGRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号14)、
TQGRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号15)、
GTQGRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号16)、及び
LGTQGRLCNKTSEGMDGCEL(配列番号17)
からなる群から選択されるペプチドである。
【0017】
好ましい態様において、WNT5Aペプチドは、MDGCEL(配列番号3)である。より好ましい態様において、1位のメチオニンは、ホルミル化メチオニン(N-ホルミルメチオニン)として誘導体化される。このホルミル化ヘキサペプチドは、Foxy-5と示される。1アミノ酸の修飾/誘導体化(ホルミル化)が、ペプチドの効果を改善し、より有効でin vivoでの分解に対して抵抗性にする。
【0018】
更に別の態様において、本発明によるペプチドは、それを必要とする対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するためのものであることが企図され:急性骨髄性白血病と診断された直後に、ペプチドの有効量を投与することを含み、場合によっては、投与は、週に少なくとも3回、2週間以上繰り返す。あるいは、別の態様において、本発明によるペプチドは、それを必要とする対象において急性骨髄性白血病の治療に使用するためのものであり:急性骨髄性白血病と診断された直後に、ペプチドの有効量を投与することを含み、場合によっては、投与は、毎日、2週間以上繰り返す。前記ペプチドによる急性骨髄性白血病の治療の期間は、4、6、8、12週間若しくは1、2若しくは3か月間まで、又はこれらよりも長くてもよい。
【0019】
前記ペプチドは、化学療法薬による治療期間中に投与してもよい。Foxy-5は、化学療法の細胞傷害性効果を損なわない。化学療法薬は一般に非常に有毒であり、腫瘍細胞を標的化するのに加えて、健康な細胞も壊す。毒性のため、化学療法薬は、正常細胞に対する有害効果がどのような正の効果にも上回るので、がん細胞又は造血幹細胞の全てを壊す又は除去するのに十分長い間又は十分高い投薬量で投与しなくてもよい。
【0020】
一態様において、少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせた本発明によるペプチドを、対象に投与してもよく、前記対象から得た血液試料及び/又は骨髄試料は、健康な対象と比較して、MAPK及び/又はPI3K経路がアップレギュレートされている。別の態様において、少なくとも1つの化学療法薬又は輸血と組み合わせた本発明によるペプチドを、対象に投与してもよく、前記対象から得た血液試料及び/又は骨髄試料は、健康な対象と比較して、p-ERK及び/又はp-AKTのレベルが高い。
【0021】
化学療法薬による治療後に前記ペプチドを投与する優位性は、ペプチドが、健康な細胞に対して非毒性であると同時に、造血幹細胞が抵抗性である化学療法を用いた治療後に残存している造血幹細胞を排除する又は数を減らすことである。
【0022】
化学療法薬及び本発明によるペプチドの投与は、同時であってもよく、又はペプチドが、化学療法が開始されるまで若しくは化学療法治療の結果の後に、骨髄移植の前、途中及び後に投与してもよいことも企図される。
【0023】
したがって、そのような組合せ治療は、副作用を増大させることなくがん治療を改善できる。
【0024】
組合せ投与は、治療が進行中である期間を短縮できるので、患者の服薬順守に有益である。
【0025】
ペプチドは高コストなので、逐次投与、すなわち化学療法薬の前又は後にペプチドを投与することが、経済的な観点からより効率的になる。
【0026】
一態様において、少なくとも1つの化学療法薬は、シタラビン、ダウノルビシン、イダルビシン、ミドスタウリン、ゲムツズマブオゾガミシン、ギルテリチニブ及びその組合せから選択される。好ましい態様において、化学療法薬は、配列番号3に示すアミノ酸配列を有するWNT5Aペプチドのホルミル化誘導体と組み合わせて投与される。
【0027】
適切な化学療法薬の選択は、患者、診断、疾患の増悪によって決まる。
【0028】
本発明は、態様の非限定的な例により、及び図面を参照してより詳細に以下に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、急性骨髄白血病患者の骨髄から単離した単核細胞におけるWNT5A遺伝子の発現を示す。WNT5A遺伝子の発現は、良好な及び中程度の細胞遺伝学的リスクを有するAML患者における発現と比較した場合、有害な細胞遺伝学的リスクを有するAML患者の骨髄から単離された単核細胞において減っている。Ohsuデータベース(Nature, 2018)を使用して遺伝子発現を分析し、診断時にAMLである患者371名を含めた(Gao et al., 2013;Cerami et al., 2012)。統計分析:Anova;
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図2】
図2は、Foxy-5処置が、白血病細胞の活性酸素種(ROS)の産生を減少させることを示す。ROSの産生は、(A)U937細胞、(B)HL60細胞、(C)KG1a細胞、及び(D)K562細胞の処置後に測定した。白血病細胞は、Foxy-5(50μM及び100μM)又はビヒクルで72時間処置した。次いで、ROS産生は、DFCHA(2’,7’-ジクロロフルオレセイン二酢酸)による染色を使用してフローサイトメトリーによって検出された(蛍光強度の平均-MFI)。Foxy-5による処置は、単独培養の白血病細胞においてROSの産生を減少させた。結果を、二組の実験の平均±標準偏差として示し、少なくとも3つの独立した実験の代表例である。統計分析:t-スチューデント;
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図3】
図3は、白血病細胞成長を減少させるFoxy-5処置の効果を示す。(A)U937、(B)HL60、(C)KG1a及び(D)K562細胞を、Foxy-5(100μM)又はビヒクルで72時間処置した。次いで、細胞数を、単独培養における細胞の手作業での計数、又は2次元培養(HS-5間葉系間質細胞の存在)のImage Jソフトウェア分析で求めた。Foxy-5による処置は、ビヒクル処置細胞と比較した場合、白血病細胞の成長を減少させた。結果を、倍率変化として示し、少なくとも3つの独立した実験の代表例である。統計分析:t-スチューデント;
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図4】
図4は、Foxy-5による白血病細胞の処置が細胞周期の進行に影響を及ぼすことを示す。(A)U937、(B)HL60、(C)KG1a及び(D)K562細胞を、Foxy-5(50μM及び100μM)又はビヒクルで72時間処置した。その後、細胞周期の時期を、RNAse及びヨウ化プロピジウム緩衝液を使用してフローサイトメトリーによって検討した。Foxy-5処置は、主に2次元培養系において、ビヒクル処置細胞と比較した場合、細胞周期G0/G1期の白血病細胞を増大させた。結果を割合(%)として示し、少なくとも3つの独立した実験の代表例である。統計分析:t-スチューデント;
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図5】
図5は、Foxy-5による処置後のタンパク質発現分析(ウエスタンブロット)を示す。(A)U937及び(B)K562白血病細胞を、Foxy-5(50μM又は100μM)又はビヒクルで72時間処置した。次いで、全抽出物を得、ウエスタンブロット分析を行った。Foxy-5処置がAKT及びERK1/2レベルのリン酸化を減少させたことは、生存に関連するPI3K及びMAPK経路の下方調節を示唆した。結果を、二組の実験の平均±標準偏差として示し、少なくとも3つの独立した実験の代表例である。
【
図6】
図6は、Foxy-5処置が、細胞走化性を低下させ、白血病細胞のアクチン重合を減少させることを示す。Foxy-5(100μM)又はビヒクルで処置した、(A)U937、(B)HL60、(C)THP-1及び(D)K562細胞における走化性アッセイ。白血病細胞株を、Foxy-5(100μM)又はビヒクルで72時間処置し、トランスウェルチャンバー内でCXCL12又はウシ胎児血清含有培地(陽性対照)若しくはウシアルブミン培地(陰性対照)に向けて遊走させた。24時間後、下部チャンバー膜上の遊走した細胞を、フローサイトメトリーによって計数した。Foxy-5処置は、CXCL12に向かう白血病細胞の走化性を減少させることができた。 Foxy-5(100μM)又はビヒクルで処置した(A)U937、(B)HL60、(C)THP-1及び(D)K562細胞におけるアクチン重合アッセイも、
図6に示す。白血病細胞株を、Foxy-5(100μM)又はビヒクルで72時間処置し、CXCL12で30秒間又は120秒間刺激した。細胞内Fアクチン含有量を、ファロイジン染色を使用してフローサイトメトリーによって測定した(蛍光強度の平均-MFI)。データは、CXCL12による刺激後のFアクチン含有量の倍増を示す。結果を、倍率変化として示し、少なくとも3つの独立した実験の代表例である。統計分析:t-スチューデント;
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図7】
図7は、Foxy-5による処置が、白血病細胞における自己消化を減少させることを示す。白血病(A)U937、(B)HL60、(C)KG1a及び(D)K562細胞を、Foxy-5(50μM及び100μM)又はビヒクルで72時間処置した。次いで、自己消化を、アクリジンオレンジ染色によって測定し、フローサイトメトリーによって検出した(蛍光強度の平均-MFI)。Foxy-5処置は、2次元培養系において白血病細胞の自己消化を減少させた。結果を、二組の実験の平均±標準偏差として示し、少なくとも3つの独立した実験の代表例である。統計分析:t-スチューデント;
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図8】
図8は、Foxy-5による処置が、異種移植白血病モデルマウスにおいて腫瘍成長を減少させることを示す。(A)Foxy-5対ビヒクルで処置したマウスの腫瘍体積(mm
3);(B)Foxy-5対ビヒクルで処置したマウスの摘出した腫瘍体積(mm
3);(C)Foxy-5対ビヒクルで処置したマウスの腫瘍重量(g);及び(D)Foxy-5又はビヒクルで処置した異種移植マウスの体重(g)。U937細胞を、NOD/SCIDマウスの横腹に皮下移植した。少なくとも3匹のマウスが各群に含まれた。U937腫瘍を含むNOD/SCIDマウスを、2日に1回、9日間の間Foxy-5(40μg/μL)で処置した又はしなかった。腫瘍体積を、次の式:腫瘍体積(mm
3)1/4(長さ×幅
2)/2、に従って2日間ごとに求めた。結果を、平均±標準偏差として示す。統計分析:対応ありスチューデントT検定;
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
Wnt(Wingless関連統合部位)タンパク質ファミリーは、胚発生、例えば体軸パターン形成、細胞増殖及び遊走に役割を果たす高度に保存されているタンパク質を含有する。Wntシグナル伝達経路は、古典的又は非古典的のいずれかであり、これらは、細胞において古典的シグナル伝達による遺伝子転写及び増殖の増大の調節又は異なる非古典的シグナル伝達経路の活性化によるいくつかの非増殖機能の調節を主に誘発する。Wntタンパク質は、成人の骨髄、皮膚及び腸における組織再生に更に関係する。Wntシグナル伝達経路における遺伝的変異は、乳がん、前立腺がん、神経膠芽腫、2型糖尿病及び他の疾患を引き起こす場合がある。
【0031】
古典的なWnt経路は、βカテニンを活性化し、正常な幹細胞の自己複製の調節に不可欠であり、古典的なWntシグナル伝達の破壊は、腫瘍形成に関わっている。対照的に、非古典的Wntシグナル伝達は、βカテニンシグナル伝達の増大がないことを特徴とし、胚パターン形成、原腸形成及び器官形成におけるその役割について研究されてきた。さらに、非古典的Wntは、古典的シグナル伝達と拮抗することが提唱されている。WNT5Aは、非古典的Wntリガンドの一例である。WNT5Aは、急性骨髄性白血病(AML)、大腸がん、乳がん及び前立腺がん並びに卵巣がんにおいて腫瘍抑制性である。Borcherding et al., Paracrine WNT5A signalling inhibits expansion of tumour-initiating cells, Cancer Research 75:1972-1982, 2015による研究において、WNT5Aホモ接合性モデルマウスにおけるWNT5Aの過剰発現が、乳CSC数の減少と相関することが示されたことは、WNT5Aのヘテロ接合性欠失が、乳がん患者のより短い生存と相関することを示唆している。興味深いことに、原発性悪性黒色腫におけるWNT5Aの高発現が、生存期間の短縮と相関するという事実によって示されるように、WNT5Aは、悪性黒色腫、胃がん及び他のいくつかのがん型において反対の効果を有する。
【0032】
WNT5Aは、体内で多くの正常細胞によって発現されるタンパク質である。WNT5Aは、細胞から分泌され、主にFrizzled受容体に関係する受容体複合体に結合し、活性化することによって同じ又は隣接する細胞でその作用を発揮する。WNT5Aタンパク質が、Frizzled5と呼ばれる受容体を活性化することは公知である。Frizzled5受容体の活性化により、細胞内部の一連のシグナル伝達事象が活性化され、最初の事象のうちの1つは、細胞内部のカルシウムの短時間での増大、いわゆるカルシウムシグナルの生成である。カルシウムシグナルは、細胞の機能、例えば接着及び遊走に変化をもたらす一連のその後のシグナル伝達事象を次々に誘発する。したがって、そのようなFrizzled受容体の活性化は、細胞内でシグナル伝達事象を引き起こし、その結果隣接する細胞への細胞の付着及び周囲の結合組織への接着が増大し、腫瘍細胞が、周辺構造、例えばリンパ節及び血管へ遊走する能力が低下する。例えば健康な乳上皮細胞においてWNT5Aは高発現され、細胞間及び周囲の基底膜への堅固な付着を確実にし、それにより細胞の遊走を制限する。
【0033】
WNT5Aの内在性発現がないがん組織においてWNT5Aシグナル伝達を再構成するために、WNT5A分子のアミノ酸配列に由来する低分子ペプチド、すなわち20アミノ酸以下のペプチドが開発され、次いで更に修飾された。そのようなペプチドの例は、Foxy-5であり、それは、WNT5Aと同じシグナル伝達事象及び機能的応答を誘発し、WNT5Aと比較して非常に単純な分子であり、全身的に投与してもなお腫瘍に達しうるという点で真のWNT5Aアゴニストである。したがって、本明細書では用語シグナル伝達特性とは、主にFrizzled受容体タンパク質(Fz)に対するWNT5A又はFoxy-5ペプチドの結合と、それに続く最終的にAML細胞のモジュレーションに至る細胞における細胞内シグナル伝達カスケードを意味する。
【0034】
本明細書では、用語AML細胞のモジュレーションとは、AML細胞の増殖及び/又は遊走に影響を及ぼすことと理解される。本発明において、増殖は、細胞成長と同じ意味で使用される。
【0035】
本明細書では、用語輸血とは、幹細胞移植及び/又は骨髄移植と理解される。輸血又は幹細胞移植の間、血液幹細胞は、適切なドナーからの新しく、健康な幹細胞で置きかえられることになる。
【0036】
AML細胞系統は、高濃度のROSを産生することが公知であり(Sillar et al., 2019)、そのROSは、低酸素環境の確立を可能にし、白血病細胞の成長及び遊走を誘導する決定経路を活性化し、この新生物の進行に寄与する(Perilloら, 2020)。ROS産生は、細胞成長、生存、遊走及び腫瘍の進行を持続するDNA損傷の誘導を刺激する能力によって腫瘍形成性であると考えられている(Liou & Storz, 2010)。WNT5A模倣化合物である本発明のFoxy-5又はWNT5Aペプチドは、白血病と診断された患者においてROS産生をモジュレートし、したがってFoxy-5を用いるこれら患者の治療は、ROS産生の減少を引き起こす。Foxy-5治療又は本発明のWNT5Aペプチドによる治療後のROS産生のより低い速度は、白血病誘発を防止するのに有用である。
【0037】
Foxy-5化合物による治療は、白血病細胞の増殖速度を減少させる。細胞成長は細胞周期と密接に相関しており、Foxy-5によるその調節及び処置は、G0/G1細胞周期停止を引き起こす。サイクリンD1は、G1期からS期への転換に必須の調節因子である。Foxy-5又は本発明のWNT5Aペプチドは、Foxy-5で処置された白血病細胞においてサイクリンD1のタンパク質レベルを減少させる。PI3K及びMAPK経路の活性は、血液悪性腫瘍において一般に過剰発現され、ROS産生及び細胞成長の活性化と直接相関する(Braiacu et al., 2019;Sanches et al., 2019)。Foxy-5は、Foxy-5処置後のAKT及びERKタンパク質のリン酸化レベルも減少させ、したがってPI3K及びMAPK経路を下方調節する。
【0038】
Foxy-5又は本発明のWNT5Aペプチドは、白血病細胞のCXCL12誘導走化性を防止できる。
【0039】
Foxy-5又は本発明のWNT5Aペプチドは、ROS産生の誘導によって白血病細胞の成長を持続するのに必要なプロセスである自己消化プロセスを防止できる。このようにして、Foxy-5又は本発明のWNT5Aペプチドによる治療は、骨髄ニッチにおける自己消化の減少を引き起こし、したがって白血病の成長及び維持を破綻させる。
【0040】
Foxy-5又は本発明のWNT5Aペプチドは、この化合物が、ROS産生、並びに細胞成長、PI3K及びMAPK経路の活性化、走化性及び自己消化を下方調節するので、AMLの進行に関連する生物学的プロセスにおける重要なモジュレート因子である。
【0041】
Foxy-5又は本発明のWNT5Aペプチドは、U937異種移植モデルマウスにおいてin vivoで腫瘍成長を減少させる。これは、AML患者細胞に対するFoxy-5の抗増殖性及び抗白血病活性を更に示す。したがって、Foxy-5又は本発明のWNT5Aペプチドは、急性骨髄白血病の治療のための有望な治療用化合物である。
【実施例】
【0042】
AML患者におけるWNT5A mRNAの発現と臨床への影響を調査し、急性骨髄白血病(AML)患者の細胞に対するWNT5A模倣化合物であるFoxy-5の効果をin vitro(白血病細胞株)及びin vivo(異種移植モデルマウス)で分析する。
【0043】
以下に、実施例1~9で使用した方法を最初に示し、続いて結果を示す。
【0044】
方法
試薬
Foxy-5(WNT Research)を、NaHCO3(無菌ろ過した14g/L)に溶解して終濃度を50mMとし、次いで培地で希釈して終濃度を1μMにした。ホルボール 12-ミリスタート 13-アセタート(PMA;Sigma)をDMSOで希釈して、100ng/μLのストック溶液を調製した。組換えヒトSDF-1α(CXCL12、PeproTech)を生理食塩緩衝液で希釈して、100ng/μLのストック溶液を調製した。
【0045】
細胞培養
ヒト骨髄性白血病細胞株(HL60、K562、KG1a、THP1及びU937)及びHS-5間葉系間質細胞系統のパネルを、10%ウシ胎児血清(Gibco)、グルタミン(2mM;Sigma)、ペニシリン(100μg/mL;Sigma)、ストレプトマイシン(100μg/mL;Sigma)及びアムホテリシンB(0.25μg/mL;Gibco)を含有するロズウェルパーク記念研究所培地1640(RPMI;Sigma)中で培養した。細胞を、37℃、5%CO2の加湿雰囲気中に維持し、指数増殖に達したら実験を行った。アッセイのために、細胞を24ウェルプレートに播種し、Foxy-5で72時間処置し、又は処置しなかった。
【0046】
活性酸素種(ROS)産生
Foxy又はビヒクルで処置した細胞を採集し、細胞内ROS生成を、DCFDA(25mmol/L;Sigma)による染色後にフローサイトメトリーで測定した。FACScaliburフローサイトメーター(BD)で細胞を取得し、FlowJoソフトウェアを使用して分析した。
【0047】
自己消化アッセイ
Foxy又はビヒクルで処置した細胞を採集し、酸小胞を、アクリジンオレンジ(0.01mg/mL;Sigma)による染色後にフローサイトメトリーで測定した。FACScaliburフローサイトメーター(BD)で細胞を取得し、FlowJoソフトウェア4を使用して分析した。
【0048】
細胞成長アッセイ
Foxy又はビヒクルで処置した細胞を採集し、細胞数を、単独培養においては手作業で計数し、2次元培養においてはImage Jソフトウェア分析を用いる顕微鏡検査で求めた。
【0049】
細胞死/アポトーシスアッセイ
Foxy又はビヒクルで処置した細胞を試験し、細胞死をアネキシンV及びPIアッセイによって測定した。簡潔に説明すると、細胞を処置した後、洗浄し、ヨウ化プロピジウム(1μg/mL;Sigma)及びAPCアネキシンV(1μg/mL;BD)で標識した。室温、遮光下で15分間のインキュベーション後に、FACScaliburフローサイトメーター(BD)で細胞を、各試料について10000イベント取得した。FlowJoソフトウェアを使用して分析した。
【0050】
細胞分化アッセイ
PMA(200nM)の有無における、Foxy-5又はビヒクルで、細胞を処置した。72時間後、付着細胞をPBSで洗浄し、その形態構造をZeiss Axioskope2プラス顕微鏡(Carl Zeiss AG)を使用して検査した。プログラムImageJを使用して、分化を評価した。
【0051】
細胞周期アッセイ
Foxy又はビヒクルで処置した細胞を採集し、70%エタノール中で少なくとも24時間固定した。DNAを、ヨウ化プロピジウム(20μg/mL;Sigma)及びRNase A(10μg/mL;Sigma)を含有する緩衝液で染色した。細胞蛍光を、FACScaliburフローサイトメーター(BD)で検出した。細胞周期の各時期にある細胞の割合を、DNA分布に基づき、Modifit(Verify Software House Inc)によって分析した。
【0052】
ウエスタンブロッティング
等量のタンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、ニトロセルロース膜(Millipore)上に転写した。ECLプラス(GE-Healthcare)を使用して化学発光基質で検出した。P70S6Kに対するモノクローナル抗体(sc-8418)、並びにアクチン(sc-1616)、AKT1/2/3(sc-8312)、BAX(sc-493)、BCL-XL(sc-8392)、GAPDH(sc-32,233)、p-AKT1/2/3(sc-33,437)及びp-P70S6K(sc-7984)に対するポリクローナル抗体を、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。ERK1/2([pT185/Y187];44-680G)及びERK1/2(44-654G)を、Invitrogenから購入した。UN-SCAN-IT密度計ソフトウェアを使用して定量的なブロットを行った。
【0053】
走化性アッセイ
Foxy-5で前処置した(72時間刺激)、又はしなかった白血病細胞株を、走化性のためのトランスウェルに基づくアッセイ(直径6.5mm、細孔サイズ8μm;Corning)において走化性について試験した。ポリカーボネート膜を、ポリ-L-リジン(1mg/mL)と37℃で1時間インキュベートし、続いて生理食塩緩衝液で洗浄した。簡潔に説明すると、細胞を採集し、ウシ血清アルブミン(0.1%BSA;Sigma)を有する培地で洗浄し、トランスウェルの上部チャンバー内に密度5×105細胞で播種した。下部チャンバーを、0.5%BSAを有する培地(陰性対照)、10%FBSを有する培地(陽性対照)及びCXCL12(100ng/mL;Peprotech)を含む0.5%BSAを有する培地5で満たした(Melo et al., 2014)。37℃で6時間又は24時間のインキュベーション後、下部チャンバー内に遊走した細胞を採集し、遠心分離し、生理食塩緩衝液中に再懸濁し、計数した。遊走した細胞の数を、投入量、すなわち、並列するウェルにおいて下部区画に直接適用した細胞数の割合(%)として表した。細胞の遊走を、3つ組の100%±標準偏差(SD)に標準化した(Favaro et al., 2013)。
【0054】
アクチン重合アッセイ
F-アクチン重合を、AlexaFluor 633標識ファロイジン(A22284、Invitrogen)を使用して、CXCL12刺激の前後に、処置した白血病細胞株において分析した。細胞を、無血清培地中のCXCL12(300ng/mL;Peprotech)により37℃で30秒間及び120秒間刺激した。反応を、パラホルムアルデヒド3容積(3.7%)を室温で10分間添加することによって停止させ、次いで洗浄し、氷上で透過化処置した。細胞を、633ファロイジン(2mg/mL)で染色した。フローサイトメトリーデータを、FACSフローサイトメーター(BD)を使用して分析し、続いてFlowJoソフトウェアで分析した。得られたF-アクチン含有量を、対照細胞の基礎レベルから、刺激した各細胞の平均蛍光強度(MFI)値と非刺激細胞のMFIの間の比を算出して標準化し、倍率変化として表した。
【0055】
異種移植モデルマウス
異種移植モデルマウスでは、濃度40μg/μLのFoxy-5を使用した。ブラジルのカンピーナス大学、Animal Facility Centreで、特定病原体未感染条件下で飼育されたThe Jackson Laboratoryの8週齢雌NOD/SCID(NOD.CB17Prkdcscid/JUnib)マウスを、使用前に体重を合わせた。マウスを、イソフルラン(4%)で麻酔し、U937細胞(5000000細胞/マウス)を皮下注入によってマウス背面に接種した。腫瘍が、100mm3に達したら、処置を開始した。Foxy-5を、2日に1回腹腔内注射によって投与した。対照群は、等量のビヒクル溶液を投与した。腫瘍体積を、2日ごとに測定し、式:腫瘍体積(mm3)1/4(長さ×幅2)/2で求めた。9日後にマウスを屠殺し、腫瘍を摘出し、腫瘍寸法[腫瘍体積(mm3)及び腫瘍重量(g)]を求めた。
【0056】
統計分析
統計分析は、GraphPad Prism5ソフトウェアを使用して行った。データを、中央値[最小値~最大値]として表した。比較のために、Anova検定又はスチューデントt検定を使用した。P<.05の値を、統計的に有意であると見なした。全ての実験を、独立して少なくとも3回反復した。
【0057】
実施例1 急性骨髄白血病患者の単核細胞におけるWNT5A遺伝子発現
最初に、診断時にAMLである患者371名の骨髄から単離した単核細胞におけるWNT5A遺伝子の発現を、Ohsuデータベース(Nature, 2018)を使用して検討した。有害な細胞遺伝学的リスクのあるAML患者の試料94個、良好な細胞遺伝学的リスクのAML患者の試料94個、及び中程度の細胞遺伝学的リスクのAML患者の試料147個で遺伝子発現を分析した。WNT5A遺伝子の発現は、良好な細胞遺伝学的リスク(平均:1.1494、範囲:0.0077~3.7010)及び中程度の細胞遺伝学的リスク(平均:1.262、範囲:0.0319~8.6930)のAML患者における発現と比較した場合、有害な細胞遺伝学的リスクのある患者から単離した骨髄単核細胞において減少していた(平均:1.144、範囲:0.0093~5.5150)(P<0.05)(
図1)。
【0058】
Ohsuデータベース(Nature, 2018)を使用して、有害な細胞遺伝学的リスクのあるAML患者の骨髄から単離した単核細胞におけるWNT5A遺伝子発現が、良好な及び中程度の細胞遺伝学的リスクのAML患者と比較した場合に、有意に低下していることが検証され、このことは、WNT5A発現とAML予後の間の相関を示している可能性がある。
【0059】
実施例2 WNT5A模倣化合物であるFoxy-5による生物学的効果
白血病病態生理学及び疾患の増悪に対するWNT5Aの役割を検討するために、WNT Research社が合成したWNT5Aタンパク質模倣化合物であるFoxy-5を使用した。Foxy-5の効果を、単独培養、及び不死化した間葉系間質系統であるHS-5を用いる2次元培養において、骨髄性白血病細胞株であるU937、HL60、KG1a、THP-1及びK562で分析した。5つの骨髄性白血病細胞株のうち、4つは急性骨髄白血病(U937、KG1a/CD34+、HL60、及びTHP-1)に、1つは慢性骨髄白血病/赤白血病(K562)に由来するものであった。
【0060】
Wnt5aタンパク質の下方調節は、AMLを含めた広範ながんにおいて上昇することが示されているROS生成を媒介するので、Foxy-5が、白血病細胞においてROS産生をモジュレートできるかどうか単独培養アッセイにおいて最初に調査した。白血病細胞株を、用量50μM及び100μMのFoxy-5又はビヒクルで72時間処置し、DCFHA色素で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。結果は、ROS産生(平均蛍光強度[MFI])の有意な減少を示した:それぞれ、U937細胞、7.32(4.80~8.67)及び7.09(4.70~8.40)対13.70(9.00~16.23)、HL60細胞、17.45(16.40~19.30)及び10.32(10.10~10.80)対19.50(19.24~20.74)、KG1a細胞、36.30(35.80~36.80)及び29.72(28.10~31.33)対42.03(40.55~43.50)、並びにK562細胞、83.90(75.80~88.40)及び68.75(64.40~72.75)対84.65(79.50~89.80)(P<0.05)(
図2)。
【0061】
加えて、骨髄性白血病細胞を、単層の間葉系間質細胞(HS5)上に播種し、用量50μM及び100μMのFoxy-5化合物又はビヒクルで72時間処置した。これら2次元培養でも、ROS産生(MFI)の有意な低下が観察された:それぞれ、U937細胞、20.90(19.90~22.63)及び23.50(21.70~23.80)対23.20(22.00~23.80)、HL60細胞、28.52(26.37~30.00)及び28.50(25.03~30.30)対33.50(30.97~35.20)、KG1a細胞、75.03(75.03~77.70)及び69.00(68.00~72.00)対87.00(85.80~87.20)並びにK562細胞、126.00(125.000~128.20)及び98.25(98.25~104.00)対129.80(125.00~129.80)(P<0.05)(
図2)。
【0062】
単独培養及び2次元培養アッセイに基づいて、Foxy-5が、白血病細胞においてROS産生を減少させるのに有効であることが結論された。
【0063】
実施例3 Foxy-5による処置は、白血病細胞成長を減少させる
次に、増殖プロセスはROSによってモジュレートされるので、増殖速度を測定した。細胞をFoxy-5(100μM)又はビヒクル(DMSO)で72時間処置し、次いで細胞成長を、単独培養では細胞を手作業で計数することによって、又は2次元培養のImage Jソフトウェア分析によって分析した。単独培養系において、Foxy-5(100μM)による処置は、ビヒクル処置細胞と比較した場合、U937細胞(1/1.75に減少)、HL60細胞(1/1.22に減少)、KG1a細胞(1/1.37に減少)及びK562細胞(1/3.12に減少)の細胞成長を有意に減少させた(P<0.001)(
図3)。類似の結果が、白血病細胞とHS-5間葉系間質細胞を使用する2次元培養系において得られた。Foxy-5は、ビヒクル処置細胞と比較した場合、U937細胞(1/1.72に減少)、HL60細胞(1/1.56に減少)、KG1a細胞(1/2.63に減少)及びK562細胞(1/1.79に減少)の細胞成長を有意に減少させた(P<0.001)(
図3)。
【0064】
単独培養及び2次元培養アッセイに基づいて、Foxy-5が、白血病細胞の細胞増殖を減少させるのに有効であることが結論された。
【0065】
実施例4 Foxy-5処置は、白血病細胞の細胞周期のG0/G1期における停止を誘導する
Foxy-5処置後に白血病の増殖の減少を観察したので、細胞周期の時期も分析した。白血病細胞株を、用量50μM及び100μMのFoxy-5又はビヒクルで72時間処置し、RNAse及びヨウ化プロピジウムを含有するパイパー緩衝液で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0066】
単独培養では、結果は、U937細胞:平均55.07%(54.52~55.62%)及び平均56.64%(56.17~57.10%)対平均51.66%(51.41~51.70%、HL60細胞:平均51.57%(51.56~51.58%)及び平均53.02%(53.01~53.03%)対平均47.31%(47.30~47.32%)、KG1a細胞:平均69.95%(69.69~70.20%)及び平均73.79%(72.32~75.26%)対平均65.02%(64.19~65.85%)、K562細胞:平均59.00%(59.00~59.62%)及び平均83.51%(83.50~83.52%)対平均59.40%(58.81~59.50%)で、有意なG0/G1細胞周期停止が明らかとなった(P<0.001)(
図4)。
【0067】
同様に、骨髄性白血病細胞を、HS5間葉系間質細胞と共培養し、用量50及び100μMのFoxy-5又はビヒクルで72時間処置した場合も、フローサイトメトリー分析は、U937細胞:平均77.37%(77.37~81.75%)及び平均91.52%(90.93~93.92%)対平均74.88%(72.23~77.52%)、HL60細胞:平均53.47%(53.47~54.00%)及び平均70.68%(66.33~75.03%)対平均47.31%(47.30~47.32%)、KG1a細胞:平均78.58%(78.23~79.37%)及び平均76.53%(75.05~87.38%)対平均72.72%(72.38~74.45%)、K562細胞:平均65.32%(60.30~63.32%)及び平均83.52%(83.50~83.52%)対平均59.12%(59.12~59.18%)のように、共培養したHS-5細胞における有意なG0/G1細胞周期停止を明らかにした(P<0.001)(
図4)。
【0068】
したがって、Foxy-5化合物による白血病細胞の処置は、G0/G1細胞停止を誘導し、細胞がS期に入ることを防ぎ、このことが細胞増殖の減少と関連している可能性がある。
【0069】
実施例5 Foxy-5処置は、MAPK及びPI3Kシグナル伝達経路を下方調節する
これまでの結果に基づいて、PI3K及びMAPK経路のタンパク質の活性を、ウエスタンブロットにおいて調査した。簡潔に説明すると、U937及びK562細胞を播種し、Foxy-5(50μM又は100μM)又はビヒクルで72時間処置した。次いで、等量のタンパク質を、全抽出物に使用し、続いて還元条件下で12%SDSポリアクリルアミドゲルによって電気泳動し、ニトロセルロース膜に転写し、TBS-0.1%Tween(登録商標)中の10%スキムミルクで1時間ブロッキングし、適切な一次及び二次抗体を用いて染色した。膜を、ECLプラス(GE-Healthcare)を使用して化学発光で可視化した。タンパク質バンドの光学強度の定量分析を、Un-Scan-It Gel 6.1(Silk Scientific Inc.)で決定した。
【0070】
タンパク質発現分析により、ビヒクル処置細胞と比較して、Foxy-5で処置したU937及びK562細胞においてAKT及びERKのリン酸化レベルがより低いことが実証され、したがって、生存に関連するPI3K及びMAPK経路の下方調節が示唆された(
図5)。
【0071】
加えて、ビヒクル処置細胞と比較して、Foxy-5で処置したU937及びK562細胞においてサイクリンD1のみタンパク質レベルの減少が観察された。G1期からS期への転換に必須の調節因子であるサイクリンD1タンパク質レベルの減衰、その結果の、細胞周期の進行の減衰は、Foxy-5処置後の細胞周期停止の結果を補強する(
図5)。
【0072】
結論として、Foxy-5は、MAPK及びPI3Kシグナル伝達経路を下方調節するのに有効である。
【0073】
実施例6 Foxy-5は、CXCL12刺激に対する走化性応答性及びアクチン重合を減少させる
WNT5Aの回復が、白血病細胞のCXCL12誘導走化性をモジュレーションできる可能性があるか調査した。白血病細胞を、Foxy-5(100μM)又はビヒクルで72時間前処置し、次いで、CXCL12(100ng/mL)刺激の有無でのトランスウェルに基づく遊走アッセイを24時間行った。KG1a細胞はSDF-1受容体(CXCR-4)を発現しないので、SDF-1は、KG1a細胞の遊走を誘導しなかった。CD34陰性細胞で遊走アッセイを実行したが、CXCR-4陽性白血病細胞株THP-1では実行しなかった。Foxy-5処置は、ビヒクルと比較してCXCL12誘導走化性の減少をもたらした:U937細胞では平均40.35%(33.30~45.80%)対平均56.00%(48.70~67.80%);HL60細胞では平均4.31%(2.81~5.82%)対平均7.51%(7.45~7.57%);K562細胞では平均1.52%(1.10~2.04%)対平均2.77%(2.41~3.53%)、THP1細胞では平均11.17%(10.68~11.65%)対平均56.67%(50.00~63.33%)(P<.01)(
図6)。
【0074】
したがって、フローサイトメトリー分析を実行して、Foxy-5処置が、アクチン重合を破綻させうるかどうかを検討した。白血病細胞株を、Foxy-5(100μM)又はビヒクルで72時間処置し、CXCL12(300ng/mL)で30秒間又は120秒間刺激し、フローサイトメトリーによってアクチン重合を検出するために抗ファロイジン抗体で染色した。全ての白血病細胞株において、ビヒクル処置細胞のCXCL12刺激(30秒間)は、Foxy刺激した細胞と比較して、球状アクチンのF-アクチンへのより顕著な転換を誘導した:U937細胞(4.38及び3.03倍の増大)、HL60細胞(2.34及び1.14倍の増大)、K562細胞(1.80及び1.37倍の増大)及びTHP1細胞(4.60及び3.56倍の増大)。特に、ビヒクル処置細胞は、CXCL12刺激の120秒後でも、Foxy刺激した細胞と比較して同量のF-アクチンを維持した:U937細胞(1.52及び1.26倍)、HL60細胞(1.50及び1.07倍の増大)、K562細胞(1.53及び1.31倍の増大)及びTHP1細胞(1.91及び1.59倍)(
図6)。したがって、30秒間のCXCL12誘導後の無処置細胞と比較した場合、Foxy-5処置後にアクチン重合の有意な減少が示された(P<.001)。
【0075】
結論として、Foxy-5は、白血病細胞におけるアクチン重合及び走化性を減少させるのに有効である。
【0076】
実施例7 Foxy-5による処置は、白血病細胞における自己消化を減少させる
自己消化は、ROS産生の誘導によって白血病細胞の成長を持続するのに必要なので、Foxy-5又はビヒクル処置後にフローサイトメトリーによって酸性顆粒形成のレベルを測定した。2次元培養において、50μM及び100μMのFoxy-5化合物又はビヒクルによる72時間の処置は、U937細胞[平均9.40(7.68~11.00)及び平均6.30(4.80~8.31)対平均9.84(7.40~10.60)]、HL60細胞[平均10.04(7.20~11.93)及び平均6.60(5.42~6.69)対平均10.30(8.32~10.40)]、KG1a細胞[平均27.30(27.20~29.83)及び平均21.55(19.05~22.40)対平均29.40(29.30~33.85)]、及びK562細胞[平均21.32(20.46~22.28)及び平均19.80(19.70~20.40)対平均22.20(21.30~23.20)]において自己消化をそれぞれ減少させた(全てP<0.05)(
図7)。
【0077】
したがって、Foxy-5治療後の骨髄ニッチにおける自己消化の減少は、白血病の成長及び維持の破綻を引き起こす。
【0078】
実施例8 Foxy-5処置は細胞分化を損なう
PMA試薬は、ROSの生成によるAML細胞分化の代表的な誘導物質である。U937白血病細胞系統は、PMAによる処置後の分化した単球及び/又はマクロファージのモデルに相当するので、U937分化を誘導するPMAに対するFoxy-5処置の効果を検討した。PMAによる72時間の処置後、細胞を顕微鏡で検査し、形態構造を検出した。ビヒクルで処置し、PMAで刺激した細胞の大多数は、マクロファージに分化し、プレートに付着した。Foxy-5によるU937細胞の処置は、ビヒクルで処置したPMA刺激細胞と比較した場合、PMA媒介分化を減少させた。
【0079】
Foxy-5で処置したU937細胞は、PMA誘導性分化に対する応答性が低いと結論された。
【0080】
実施例9 Foxy-5は、U937異種移植モデルマウスにおいて腫瘍成長を減少させる
本研究の目的は、異種移植モデルマウスをin vivoで使用して、急性骨髄白血病(AML)患者細胞に対するWNT5A模倣化合物であるFoxy-5の効果を調査することであった。
【0081】
Foxy-5が、U937細胞株を含めた白血病細胞の増殖速度を減少させることが、in vitroで示されてきた。in vivoでのFoxyの役割を検討するために、U937白血病細胞がNOD/SCIDマウスの横腹に接種した異種移植モデルマウスを開発した。腫瘍の生着及び成長後、Foxy-5を、2日に1回腹腔内注射によって投与した。Foxy-5で処置した異種移植されたNOD/SCIDマウスは、ビヒクルで処置した対照群(中央値:1053mm
3、範囲:1006~1172mm
3)と比較して、腫瘍体積の有意な低下(中央値:469mm
3、範囲:411~859mm
3)を示した、
図8を参照。40μg/μLのFoxy-5によるマウス処置は、9日目に対照群と比較した場合、U937異種移植片の腫瘍成長を55.46%阻害し(
図8A及び
図8Bを参照)、腫瘍重量を45.51%阻害した(
図8Cを参照)。異種移植マウスの体重は、9日後に処置群間で有意な変動がなかった、
図8Dを参照。
【0082】
結論として、U937異種移植モデルマウスを使用するin vivo研究に基づくと、Foxy-5による処置が、ビヒクルで処置した対照群と比較して腫瘍体積の減少をもたらすことが示され、したがって、AML患者細胞に対するFoxy-5の抗増殖性及び抗白血病活性が示された。したがって、Foxy-5は、急性骨髄白血病の治療のための有望な治療用化合物である。
【0083】
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【配列表】
【国際調査報告】